中古建機の販売プラットフォーム「ALLSTOCKER」のSORABITOが3.6億円を調達

中古建機販売プラットフォーム「ALLSTOCKER」を運営するSORABITOは5月10日、Spiral Ventures Japanマーケットエンタープライズちばぎんキャピタルらを引受先とした第三者割当増資により、総額3.6億円を調達したことを明らかにした。

ALLSTOCKERはオンライン上で建設機械や重機、運搬車両を売買できるプラットフォームだ。初期から日本国内だけでなく東南アジアを中心にグローバルで活用され、現時点では150を超える国と地域からのアクセスがあるという。サービスの正式リリースは2015年11月。建機の買取販売などに携わっていた経験のある青木隆幸氏(SORABITO代表取締役)が立ち上げたもので、このあたりの背景などは以前TechCrunchでも詳しく紹介している。

現在はマーケットプレイス形式の「ALLSTOCKERマーケット」とオークション形式の「ALLSTOCKERオークション」を運営。軸となるALLSTOCKERマーケットでは建機を売りたいユーザーと買いたいユーザーをオンライン上でマッチングし、現在は月間で100台規模の取引数になっているという。

青木氏は以前にも日本の中古建機は品質が高く、海外で人気があるという話をしていたが、このニーズはさらに高まっているそう。そのためここ1,2年はより使いやすく、安全な取引ができるようにプロダクトやオペレーション面の改良を進めるとともに、出品数を拡大する取り組みに力を入れてきた。

直近では伊藤忠建機との提携のほか、今回の調達先でもあるマーケットエンタープライズとも中古建機・重機の買取・販売で事業提携を締結している。

「海外での成約も増え、継続的な顧客もつくようになってきた。アジアを中心とした中古建機の流通プラットフォームとして、まずは欲しいと思った建機がきちんと手に入るような環境を作っていく。並行して海外での営業も進めながら(国内外で中古建機の需要と供給をつなぐ)架け橋のような存在を目指す」(青木氏)

SORABITOでは調達した資金を通じて運営体制を強化するとともにサービスの充実を図る方針。今回リード投資家となったSpiral Venturesはアジアでも精力的に投資をしているVCで、今後は投資家のサポートも受けながらさらなる海外展開を進めるという。

なお同社は2016年5月にGMO VenturePartners、グリーベンチャーズ、JA三井リース、オプトベンチャーズ、SMBC ベンチャーキャピタル、個人投資家の小泉文明氏や高野秀敏氏らから5億円を調達。2015年11月にもGMO VenturePartnersらから約1億円を調達している。

副業人材と企業をつなぐシューマツワーカーが4000万円調達、登録ユーザーは1300人

副業したい人材と企業をつなげる「シューマツワーカー」を運営するシューマツワーカーは5月10日、KLab Venture Partnersサイバーエージェント・ベンチャーズ、および大冨智弘氏ら複数の個人投資家から4000万円を調達したと発表した。今回の資金調達は、J-KISS型新株予約権方式によるものだ。

シューマツワーカーはエンジニアやデザイナー、マーケッターなどの「副業社員」を、人材を求める企業に紹介するというエージェント型のサービスだ。現在までの登録ユーザーは1300人で、これまでに約80社への紹介実績があるという。利用企業として紹介してもらった企業群を見る限り、現在のところスタートアップ企業による利用が多いようだ。

シューマツワーカー代表取締役の松村幸弥氏は、エンジニア人材の採用コストがあがり、スタートアップが良いエンジニアを雇いづらいくなったという背景があると説明する。そういった理由から、パラレルワーカーとしてエンジニアを雇いたいという企業側のニーズが高いのだという。加えて最近では人事や広報の人材に対する企業からの引き合いも多くなったようだ。

「“副業社員”という言葉を流行らせたい。副業というものがもっと身近になるような社会になってほしい」(松村氏)

シューマツワーカーは2016年9月の設立。今回の資金調達は同社にとってシードラウンドという位置づけとなる。ちなみに、TechCrunch Japanで以前紹介した副業系サービスのカオスマップはシューマツワーカーが作成したものだ。

AI人材プラットフォーム目指す「Aidemy」が9200万円を調達、教育サービスを皮切りに法人向けの新事業も

アイデミーのメンバー。前列中央が代表取締役CEOの石川聡彦氏

AIプログラミング学習サービス「Aidemy」を提供するアイデミーは5月10日、UTEC(東京大学エッジキャピタル)および9名の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により、総額約9200万円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドに参加した個人投資家は、千葉功太郎氏、安藤祐輔氏、ユーザーローカル代表取締役の伊藤将雄氏、ウルシステムズ代表取締役の漆原茂氏、キープレイヤーズ代表取締役の高野秀敏氏、popIn代表取締役の程涛氏ら。アイデミーでは調達した資金を元に組織体制を強化し、B2B事業の拡大や学習コンテンツの拡充、2018年8月に予定している海外展開の準備を進めていく方針だ。

なお同社は2017年の6月にSkyland Venturesとファクトリアル代表取締役社長の金田喜人氏から、同年11月にUTEC、ペロリ創業者の中川綾太郎氏、クラウドワークス取締役副社長COOの成田修造氏から累計で約1700万円を調達している。

現役エンジニアも使うAIプログラミング学習サービス

Aidemyはディープラーニングや自然言語処理など、AI関連の技術を学べるプログラミング学習サービスだ。実践重視で実際にコードを書きながら学んでいくスタイルを採っていて、学習は全てブラウザ上で完結。特別な環境を用意することなくすぐに始められる。

プログラミング学習サービスと言えば、プログラミング未経験者や初学者のユーザーが多いイメージがあるかもしれない。そんな中でAidemyの特徴は現役のエンジニアが多く使っているということ。エンジニアと言ってもIT、機械、ケミカルと幅広いポジションのユーザーがいるそうだが、ほとんどが日常業務にAIを活用したいという目的で参加しているそうだ。

この辺りは先日TechCrunchでも紹介した通りで、2017年12月のリリースから約100日で1万ユーザーを突破。現在は16のコースを提供していて、ブロックチェーンなどAI以外の先端テクノロジーを学べる講座も始めた。

2018年4月からは有料プランをスタート。現在は新規コンテンツの開発と並行して6月にリリース予定の法人向けサービス「Aidemy Business」や、8月に公開を予定する海外版の準備を進めている。

キャリア支援やシステム開発支援など法人向け事業も強化

ここからはアイデミーの今後の展望についてもう少し紹介したい。先に言ってしまうと、アイデミーが目指しているのは「AIプログラミングサービスを入り口としたAI人材プラットフォーム」(石川氏)だ。

もし「プログラミング学習サービス」を軸に事業を広げていくのであれば、対応するジャンルやコースを増やしたり、最近増えている小・中学生向けのサービスなど、セグメントごとにサービスを提供することも考えられる。ただアイデミーの場合はそうではなく、「AI人材、AI技術」を軸にキャリア支援やシステム開発支援といった法人向けの事業を含め、事業を拡大していく方針だ。

「(個人向けの)プログラミング学習サービスは引き続き力を入れるが、それだけでは自分たちが目指す事業規模には届かないと考えているので、今後はB2B事業に本腰を入れていく。まずはすでに6社への導入が決まっているAidemy Businessを皮切りに、AIエンジニアの紹介事業や企業のAI開発を支援する事業にも取り組む。長期的にはエンジニア向けのPaaS(Platform as a Service)も提供していきたい」(石川氏)

人材紹介事業については2018年夏頃、開発支援事業については2018年末頃を目処に開始する計画。PaaSの提供に関しては2019年以降の予定で具体的な中身は今からつめるそうだが、AIアプリケーションのデプロイを簡単にするツールを想定しているという。

「イメージとしてはAIに特化したHerokuのようなツール。今後コンピュータサイエンスや機械学習の専門家ではない人も、AIの開発に携わるようになっていく。(アプリケーションを公開するまでの)敷居を下げることで様々な分野におけるAIの開発をサポートしていきたい」(石川氏)

石川氏によると、今は個人向けのプログラミング学習サービスがきっかけとなってAidemy Businessを導入したいという問い合わせに繋がったり、B2Bの営業が進めやすくなったりと良い循環が生まれてきているそう。アイデミーでは今後も月に2コース、年間30コンテンツの作成を目指すほか、VTuberを起用した動画教材など新たなコンテンツ開発にも力を入れつつ、そこを入り口にさらなる事業拡大を目指す。

学習管理サービス「Studyplus」が5億円調達、大型リニューアルでユーザーの裾野広げる

学習管理サービスを提供するスタディプラスは5月9日、Spiral Ventures JapanDBJキャピタル、およびmixiグループのアイ・マーキュリーキャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額約5億円を調達したと発表した(実施は4月26日)。今回のラウンドを含む同社の累計調達金額は約9億2000万円となる。

スタディプラスが提供する学習管理サービス「Studyplus」は、ユーザーが日々の学習状況を記録したり、同じ進路を志望する学生らとのコミュニケーションを図ることができるサービスだ。主に学生をターゲットとしているが、実際にはそれに限らず、社会人などの利用もあるという。

また、同社は2016年より、「Studyplus for School」と名付けた塾・予備校向けのサービスを展開。Studyplusと同じく生徒が学習の進捗状況を記録できるほか、講師が生徒たちの進捗を管理するためのダッシュボードも併せて提供している。Studyplusは広告収入を基盤にした無料サービスだが、Studyplus for Schoolは1生徒(アカウント)あたり750円で提供されている。

現在、Studyplusの累計アカウント数は300万件。Studyplus for Schoolは、代々木ゼミナールなど約200校の予備校を通し数千人の学生に利用されているという。スタディプラス代表取締役の廣瀬高志氏によれば、「現在の売上の大半は(Studyplusからの)広告収入」だという。

同社は今回の資金調達を期に、これまではいわゆる“優等生タイプ”の学生にしか利用されていなかったStudyplusを大幅にリニューアルし、よりユーザーの裾野を広げることを目指すという。それと並行して、Studyplus for School事業の体制強化も図る。

2500社が使うスマートロック入退室管理「Akerun」のフォトシンスが10億円調達、IoT×SaaSモデルで拡大

後付型スマートロックを活用した入退室管理システム「Akerun」を提供するフォトシンス。同社は5月8日、グロービス・キャピタル・パートナーズ大和企業投資、既存株主であるYJキャピタル、個人投資家を引受先とする第三者割当増資と、新生銀行、日本政策金融公庫、オリックスからの融資等により総額10億円を調達したことを明らかにした。

フォトシンスは2015年9月にもジャフコ、YJキャピタル、ガイアックス、ベータカタリストから4.5億円を調達するなどしていて、累計の調達額は15億円になるという。

2016年から始めた法人向けプロダクトが導入社数2500社を突破

フォトシンスが現在注力しているのは、後付型のスマートロック「Akerun Pro」を軸にした法人向けの入退室管理システムだ。同社では2014年9月の設立後、最初のプロダクトとして2015年4月に家庭用のスマートロックを発売。実際にサービスを提供してみると法人からの需要が多かったため、2016年7月に法人向けの「Akerun Pro」を発表した。それから2年弱が経過した現在は導入社数が2500社を突破しているという。

スマートロックの導入はドアの鍵のつまみ(サムターン)に粘着テープを使ってデバイスを貼り付けるだけ。NFCリーダーをつければスマホからだけでなく、SuicaやPASMOといったICカードからも鍵の開け閉めができるようになる。

合わせてWeb管理画面「Akerun Manager」を通じて鍵の権限設定のほか、各メンバーの入退室履歴を管理可能。フォトシンス代表取締役社長の河瀬航大氏によると、この「入退室管理」機能のニーズが増えているのだという。

背景にあるのは2017年6月施工の個人情報保護法の改正により、個人情報を取り扱う全事業所の入退室管理が義務化されたこと。そして働き方改革や労働基準監督署の活性化により、正確な労働時間を把握したいというニーズが増えたことがある。

「Akerunではクラウド上でいつ、だれが、どこに出入りしたかを把握できる。そのためコワーキングスペースで働いていることがわかれば出社とみなすなど、働き方改革の実現に向けて入退室管理のデータを活用したいという声が増えてきた。またこれらのデータを勤怠管理システムと連動させて、勤怠管理までAkerunでやってしまいたいという要望も多い」(河瀬氏)

1番売れているのは社員数が10~300名ほどの中小企業で、業種は個人情報を多く扱う人材紹介業や金融業、士業への導入が伸びているそう。最近は複数の拠点を持つ大企業やコワーキングスペースなどでも活用が進んでいる。

たとえば地方に支社を構える企業の場合、本社オフィスに比べると地方拠点ではセキュリティ対策や勤怠管理の徹底が進んでいない場合もある。そのような時にAkerunを使うことで、セキュリティを強化するとともに鍵とそれに紐づくデータをクラウド化。複数拠点の情報を一元管理するといった使われ方をしているそうだ。

IoT×SaaSモデルが顧客に響いた

ここで少しビジネスモデルの話をしてみたい。入退室管理システムとして提供しているAkerunは、デバイスを販売するのではなくレンタルという形をとっている。月額1.5万円、1台から利用できるため、デバイスの購入費用や初期費用がかからず、気軽に試しやすいのが利点。商品のアップデートがあった際や故障時には交換もできる。

海外ではHESaaS(Hardware Enabled SaaS)のような言葉で表現されることもある、ハードウェアとSaaSを絡めたビジネスモデルだ。

河瀬氏の話ではこのビジネスモデルが中小企業を中心にささっていて、導入企業数が増加した要因のひとつにもなったそうだ。

「入退室管理システムでは価格がボトルネックになっていた。気軽に試すこともできず、(法改正によって入退室管理が義務化されたのに)適切なソリューションがなく悩んでいる企業も少なからずある。月額1.5万円であればカジュアルに試すことができ、大掛かりな初期投資も必要ない」(河瀬氏)

これはAkerunが後付型で、ドアや壁の工事が必要ないという性質ももちろん大きい。ただスマートロックについてはセキュリティ面の不安などから導入を懸念する企業もあるからこそ、料金体系も含めて試しに使ってもらえるようなサービス設計がキモになる。

Akrunの場合も当初は同じような不安を抱える顧客もいるが、実際に導入してみると反応が良いケースも多く、現状は解約もほとんどないそう。だからこそ最初のハードルを下げるという観点でSaaS型のビジネスモデルがハマったようだ。

現在は「想定以上の問い合わせがある」(河瀬氏)とのことで、今回調達した資金を基に人材採用と販売促進を強化していく方針。合わせて導入が増えている大手企業に向けた管理システムの強化や、勤怠管理システムとの連携などプロダクトの改良も進めていく。

今の正社員50名体制から2年後には100名規模まで増やす計画で、2020年に1万社への導入を目指すという。

デバイスひとつで法人車両をコネクテッドカーに、車両管理サービス提供のフレクトが5億円調達

リアルタイム車両管理サービス「Cariot(キャリオット)」を提供するフレクトは5月7日、Draper NexusSalesforce Venturesを引受先とする第三者割当増資により5億円を調達したことを明らかにした。

Cariotは営業車など法人が所有する車両をコネクテッドカーに変えるサービスだ。車両にデバイスを差し込むことで、速度や走行距離、GPSセンサーを用いて取得する位置情報など車両に関する多様なデータをインターネット経由で取得。それらの情報を活用することで、コンプライアンス強化や安全性向上、コスト削減・業務効率化をサポートする。

たとえば車両やドライバーの情報を一元管理することで車検や免許の期限切れを把握したり、長時間労働や車両の不正利用を発見する。急加速や速度超過など危険運転を察知し事故削減につなげる。車両の稼働率から不要な車両を把握、運転日報の自動化などにより車両を保有することによるコストや業務負担を減らす、といったような使い方ができる。Cariotに近しいサービスとしては、以前TechCrunchでも紹介したスマートドライブの「DriveOps」などが挙げられるだろう。

Cariotのユーザーは車両数や管理者数に応じた月額の利用料と、車載デバイスの料金(デバイスは複数のタイプから選択可能)を支払う仕組み。月額利用料は車両1台ごとに2980円、管理者1名ごとに2000円だ。同サービスは2016年4月の提供開始から利用社数を増やし、現時点では国内外含め約60社以上に導入されているという。

2005年設立のフレクトはSalesforceを中心としたソフトウェア開発、コンサルティング事業、IoTサービスの導入支援など複数の事業を展開しているが、今回調達した資金はCariotの事業成長に投じる方針。分析レポートサービスの開発のほか、各種機能強化やサポート体制の強化を通じてプロダクトを改良し、次世代テレマティクス、フリートマネジメント分野におけるB2B車両管理ソフトウェアとしてNo.1の地位確立を目指す。

AI問診・病名予測アプリ開発のUbieが関西電力CVCから3億円を資金調達

AIによる問診ソリューションや病気予測アプリを開発するヘルステックのスタートアップ、Ubieは5月7日、J-KISS型新株予約権により関電ベンチャーマネジメントから資金調達を実施したことを発表した。金額は公開されていないが、登記情報などから3億円を調達したものと見られる。今回の調達は、2017年9月に行われたD4Vを引受先とした6000万円のシードラウンドに続くものとなる。

Ubieの設立は2017年5月。共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏とエンジニアの久保恒太氏が立ち上げた。久保氏は東京大学在学中の2013年に病名予測アルゴリズムの研究を開始。現在Ubieでは、医療機関向け「AI問診Ubie」と一般ユーザー向け「Dr.Ubie」という、共通のアルゴリズムで動く2つのプロダクトを提供している。

AI問診Ubieは、現役医師が監修した問診ツールだ。自然言語処理技術と質問選定アルゴリズムを利用して、紙の問診票と医師の問診に代わり、AIで患者の回答に応じた最適な問診を自動で行い、カルテのテンプレートも自動で生成。医師の事務にかける時間と患者の待ち時間を削減する。2017年8月にベータ版、同年12月に製品版がリリースされ、50件近い医療機関に提供されている。今月からは日立総合病院での運用が始まり、今夏には宮崎大との多施設での共同研究開始が予定されている。

Dr.Ubieはセルフメディケーションを目的とした、一般ユーザー向けの病気予測アプリ。ユーザーの年齢や性別に合わせて質問を出し、症状から考えられる病名を予測する。現状ではAndroid版がリリースされている。

Ubieでは資金調達にともない、エンジニアを中心とした採用を強化。主力事業であるAI問診Ubieの機能拡充・事業拡大に加えて、Dr.Ubieのマルチチャネル化や海外展開も含めた開発・マーケティングにも力を入れていくという。

Xiaomiが正式に香港市場にIPO申請、公開価格は推定100億ドルか

かねてより噂のあったXiaomiのIPO(株式公開)だが、この中国の巨大スマホメーカーはようやく正式に香港証券取引所にIPOを申請した

申請書類のドラフト初版には上場に伴う財務諸表といった詳細は記載していないものの、地元メディアSouth China Morning Postは「設立8年のこの会社は公開価格100億ドル、時価総額にして1000億ドルを狙っている」と報じている。これは、今年最大のIPOとなるばかりでなく、アリババが2014年にニューヨーク証券取引所に上場した時以来の規模となる。時価総額に基づくと、Xiaomiは上場により中国で3番目に大きなテック企業となる。

Xiaomiは同業他社と異なり、少ない利ざやでスマートフォンやスマートデバイスを販売し、その代わりサービスや利用料などで利益を出している。スマホ販売にとどまらず、自ら小売やオンライン支払い、ストリーミングなどの事業を展開している。CEOのLei Jun氏が言うところの「トライアスロン」戦略では、ハードウェア部門で5%という最大の純利益を達成して以来、さらに成長するためにサービス部門に最も注力している。

Xiaomiは上場申請書類に、中国では1億9000万人超がXiaomi独自開発のMIUIバージョンAndroid携帯を使用している、としたためている。これは、MIUIデバイスが何台出回ってしるのかを知る良い洞察だ。一方で、Xiaomiはこれまでスマートウォッチやフィットネス用バンド、スマート体重計など接続デバイスを1億台以上販売している。Xiaomiは、同社のユーザーが1日に4.5時間スマホを利用し、顧客140万人が5台以上の接続デバイスを使用している、と述べている。

分析会社IDCによると、Xiaomiはスマホ出荷台数で見ると世界第4位で、販売台数がこのところ低迷している中国マーケットで健闘している数少ない企業の一つだ。

Xiaomiの財政状況はまったく驚くべきものだ。

2017年には1146億人民元(約180億ドル)の売上を記録した。2016年の684億人民元、2015年の668億人民元から大幅なアップだ。

一方でXiaomiは2017年に投資家への優先株式発行(540億人民元)で439億人民元(約69億ドル)の損失を計上したが、成長路線はゆるぎない。営業利益は122億人民元(19億2000万ドル)と、前年の3倍超となっている。

売り上げの70%がスマホで、20%超がスマートデバイス、残りがサービス関連となっている。

中国というと、多くの人が収入を上げるマーケットととらえている向きがあるが、Xiaomiは中国マーケット頼りではなくなってきつつある。2017年の売上では中国マーケットが72%を占めたが、2015年は94%、2016年は87%だった。Xiaomiにとって、いま中国以外で最も成功しているマーケットはなんといってもインドだ。シェアでいえば、Xiaomiはインドでナンバーワン、他のエリアではまだ不安定な状況だ。

興味深いことに、Xiaomiはこれまで米国スマホ市場への進出について言及したことがない。しかしながら、IPOで得る資金の30%は東南アジや欧州、ロシア、そして“その他地域”での市場開拓にあてるとしている。近年、Xiaomiは世界74カ国で販売していて、そこにはアクセサリーなどスマホ関連商品を販売している米国も含まれている。

IPOで調達する資金の別の30%は研究開発や製品開発にあて、またさらに別の30%はモノのインターネットやスマート製品エコシステムに、そして残り10%は運転資金にあてる。

Xiaomiは、同社の主要投資家がどれくらいの割合で株式を保有しているのか正確な数字は明らかにしていないが、CEOのLei Jun氏が最大の株式保有者の一人だとされている。Jun氏が同社株式の75%超を保有しているとのレポートもあり、今回のIPOによりJun氏は中国で最も裕福な中国人の一人となりそうだ。

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(翻訳:Mizoguchi)

Soft Robotics、事業拡大のために2000万ドルを調達

今週Soft Roboticsは、Scale Venture Partners、Calibrate Ventures、Honeywell Ventures、そしてTekfen Venturesならびに、既存の投資家であるロボット大手のABBから2000万ドルの資金調達を行ったことを発表した。今回の調達は2015年後半に行われた500万ドルのシリーズAに続くものである。

投資家たちの関心はかなり明確だ。ものを拾い上げて置くことは、現時点における工業ロボット技術の必須課題であり、同社のソフトな空気充填式の手が、この課題に対して斬新なアプローチを提供している。同社のロボットグリッパーを構成するゴム素材は、より柔軟な構造を可能とするため、最小の事前プログラムと組み込み視認システムで、様々な物体を拾い上げることを可能とする。

これまでに、Soft社は主に食品産業を中心に導入が進んでいる。青果物やピザ生地などのデリケートな製品を扱う工場が対象だ。またPeeps(マシュマロキャンディ)を生産するJust Born Quality Confectionsによっても採用された。

Soft Roboticsによれば、新しいラウンドは、同社を食品ならびに飲料カテゴリーへとさらに発展させ、小売ならびに物流業界にもより大きな存在感を示すことを助けるということだ。HoneywellとYamahaの投資部門の関与は、それらの会社自身の倉庫部門からの関心を表しているのかもしれない。適切な空気圧が加えられることで、システムはより固い物体を拾い上げるために十分な強度を発揮する。

倉庫での作業効率は、Amazonのような企業からの要請によって、近年ますます厳し基準が求められるようになっている、このことは、多くのロボット企業を、ベルトコンベヤーへの商品の上げ下ろしなどの、高速で繰り返しの多い作業への取り組みへと向かわせた。先月下旬、Soft社は、箱から商品を取り出し、整頓して、小売注文を揃えることのできる、人間による監視がほとんど不要なAI駆動倉庫システムを発表した。

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(翻訳:sako)

子供向けの習い事を月額定額で体験できる「スクルー」が2500万円を調達

子供向けの習い事を月額定額で体験できるプラットフォーム「スクルー」。同サービスを展開するスクルーは4月27日、ベンチャーキャピタルのPE&HRとゲーム開発やサウンド制作を手がけるネイロから2500万円を調達したことを明らかにした。

スクルーは音楽やスポーツ、伝統芸能、プログラミングなどさまざまな習い事を体験できる機会を提供することで、子供が夢中になれる物事や自分に合った教室を見つけやすくするサービスだ。

子供の習い事に関しては親の好みや経験も影響し「必ずしも子供に合ったものが選択されているとは言えない状況がある」というのがスクルーの考え。他にも習い事にまつわる課題として「近くで教室が見つからない」「入会の判断が難しい」といったことが存在する。

これらを解決するために、スクルーでは無料でマップから近くの教室を探せる機能や、パートナー教室が提供するレッスンを月々定額で少しずつ体験受講できる「スクループレミアムサービス」を提供している。

検索できるのは都内にある約1.2万件の教室。約900校のパートナー校については、プレミアムサービスに登録すればそのまま体験レッスンに申し込める。各教室が通常提供している体験レッスンとは異なり、入会前に複数回レッスンを受講可能。子供と教室の相性を判断しやすくなるのが特徴だ。現在は受講できるレッスンの数ごとに、3つのプランを提供している。

スクルー代表取締役の犬塚亮氏によると、今後は1回の受講で完結するワークショップや子供向けの体験施設など、週末のレジャーニーズに応えるアクティビティにまで対象カテゴリーを拡大する方針。また習い事を継続するかの見極めがしやすくなるように、オリジナルの1ヶ月体験プログラムも設計していくという。

「たとえば陶芸教室など、定期的に通う習い事とは少し違った子供向けの体験教室も多い。このような子供にあらたなインスピレーションを与えられるアクティビティをどんどん提供していきたい。また今までのスクルーは自分に合った習い事が見つかれば、そこでサービスの利用も終わるという側面があった。今後は『今週末、どんな体験をしよう』と親子がレジャー体験を探すシーンでも使えるようにしていく」(犬塚氏)

なおスクルーは2016年6月の設立。TC Tokyo 2017スタートアップバトルに登壇した20社のうちの1社だ。

月額料金を払ってまで参加するコアファンが盛り上げるコミュニティ、「fanicon」が3億円調達

THECOOのメンバー。前列中央が代表取締役の平良真人氏

会員制ファンコミュニティアプリ「fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOO(ザクー)は4月25日、YJキャピタル日本ベンチャーキャピタルみずほキャピタル吉田正樹事務所、日本政策金融公庫から約3億円を調達したと発表した。

2017年12月のサービスリリース時にも紹介したfaniconは、YouTuberや声優などのインフルエンサーたちが自身のファンと交流するためのサービスだ。THECOOが「アイコン」と呼ぶインフルエンサーは、同サービスを利用して自身の近況を投稿したり、ライブ配信やファンとの1対1のチャット機能を利用してコミュニティを盛り上げていく。

一方のファンたちは、アプリ内に設けられたファン同士のグループチャットや、サイン入りTシャツなどの特典が当たる有料のスクラッチくじなどでアイコンを応援することが可能だ。

同サービスは月額課金が必要な会員制サービス。月額料金はアイコン自身が設定するが、500円程度の料金が一般的だ。“フリーミアム”という言葉が一般化するなか、わざわざ会員制という仕組みを採用した理由をTHECOO代表取締役の平良真人氏は以下のように語る。

「faniconはファンベースを広げるためのサービスではなく、コアなファンたちとのコミュニティを醸成するもの。月額料金を払ってでもコミュニティに参加するコアなファンを集めるサービスを作りたかった。その結果、いまではアイコンがテストマーケティングの手段としてfaniconを利用する例も出てきた」(平良氏)

コアなファンを集めることで、コミュニティ内の活気も高めることができたようだ。平良氏によれば、faniconユーザーの7〜8割が1週間のうちにサービス内で何らかのアクションを起こしている。また、半分以上のユーザーが月額課金だけではなく、従量課金をしてスクラッチくじを購入しているそうだ。現在、faniconに参加するアイコンの数は約210人。ユーザーの数は非公開だけれど、1コミュニティあたりのファン人数の平均は100人程度ということだから、単純に計算すると現在のユーザー数は約2万人というところだろうか。

THECOOはfaniconのほかにも、インフルエンサーマーケティングに特化したデータ事業、YouTuberなどが所属する事務所の運営も行っている。今のところ収益の基盤となっているのは事務所の運営事業だと言うが、THECOOは今回の資金調達によってfaniconをさらに強化。新たな収益の柱へと育てていく方針だ。

平良氏は今後の戦略について、「2017年12月のfaniconリリースで、(上の写真にある)三角形が完成し、インフルエンサー、広告主、ファンに関わるビジネスをTHECOOのサービスですべてカバーできるようになった。今回調達した資金は、イベント協賛などによるfaniconのプロモーションや、開発人員の強化に利用する」と語った。

また、従来のYouTuberや声優といった領域でのアイコンの発掘を進めつつ、スポーツ選手などの領域にもアイコンの幅を広げていくそうだ。

日本発の量子コンピュータ系スタートアップQunaSysが数千万円を調達、第一線の研究を実用化へ

従来のコンピュータと比べて、圧倒的な速度で計算ができるようになるかもしれない——そんな期待から、日本でも新聞やニュースメディアで取り上げられることが増えた「量子コンピュータ」。最近はスーパーコンピュータと比較して紹介されることも多い。

海外ではGoogleやIBM、Microsoftなど大手企業がこぞって開発に力を入れているほか、Rigetti Computing(以下Rigetti)など関連するスタートアップも数十社存在。ここ数年で研究開発も一気に進み、化学や製薬、金融、物流、機械学習などさまざまな分野での応用が期待されている。

ただ日本で量子コンピュータ関連の事業に取り組むスタートアップはまだほとんどないのが現状だ。今回紹介するQunaSys(キュナシス)は、数少ないそのうちの1社。同社は4月25日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円を調達したことを明らかにした。

量子化学コンピュータと量子機械学習の領域にフォーカスし、アプリケーションの開発を進めていく方針だという。

第一線の研究者がタッグ、社会への応用目指す

QunaSysのメンバー。前列中央がCEOの楊天任氏、前列右がCTOの御手洗光祐氏

QunaSysは量子コンピュータのソフトウェア(アプリケーション)を開発するスタートアップだ。

東京大学で機械学習を研究するCEOの楊天任氏と、大阪大学で量子アルゴリズムを研究するCTOの御手洗光祐氏が中心メンバー。そこに京都大学の藤井啓祐特任准教授、大阪大学の北川勝浩教授、根来誠助教授といったこの分野の専門家を顧問に迎え、2018年2月にスタートした。研究者が集まったチームだが、楊氏はクラウド会計のfreeeや自動運転システムを開発するZMPなどスタートアップでのインターン経験もある。

QunaSysが取り組む量子コンピュータとは、量子力学のルールを用いて計算するコンピュータのことだ。コンピュータでは「0」と「1」というデジタル信号を用いて処理を行う。一般的なコンピュータではこの「0」か「 1」どちらか一方の状態をとるビットを使っているのだけど、量子コンピュータで使う量子ビット(qubit)では「0」と「1」を重ね合わせた状態で計算できる。

この性質により、たとえば10個の量子ビットがあれば2の10乗、1024通りの重ね合わせ状態を保持することができるようになるという。つまり何か問題を解く際に、たくさんの可能性を重ね合わせた中からもっともらしい答えを高確率で、かつ高速で求められる可能性を秘めているのだ。

「(理論上では)300量子ビット規模のコンピュータを準備できれば、2の300乗と宇宙上の全ての原子の数より多い場合の可能性を一気にテストできることになる。量子コンピュータが注目されているのは、量子ビットのサイズが増大すれば計算能力も指数的に増大するからだ。ゆくゆくは現在の暗号・認証を破るほどの計算パワーを持つ可能性もある」(楊氏)

近年は原子のサイズに制約があるため、いわゆる「ムーアの法則」が限界に近づき、現在のコンピュータの性能向上が頭打ちになるとも言われている。量子コンピュータはその制約を受けずに発展できうるため、期待値も高い。

製薬や材料開発、機械学習分野で量子コンピュータを活用

QunaSysでは現時点で具体的なプロダクトを提供しているわけではないが、すでに述べた通り「量子化学シミュレーション」と「量子機械学習」にフォーカスをしてアプリケーションを開発していくという。

量子化学シミュレーションは「製薬や材料開発」などの分野において量子コンピュータを活用するというもの。たとえば創薬の現場では量子コンピュータによる化学反応のシミュレーションで、薬の候補となるサンプルを絞り込むことができる。これにより実験するサンプル自体を減らせるため、創薬のスピードが速くなるだけでなく、大幅なコストの削減にも繋がる。

もうひとつの量子機械学習は機械学習における量子コンピュータの応用だ。この分野では大量のデータをどのように処理していくのかがひとつの課題。扱うデータが増えるほど、そこにはコストや時間も必要になる。この対応策として量子コンピュータが期待されているわけだ。

これについてはCTOの御手洗氏らが、量子コンピュータと従来のコンピュータを組み合せた理論を考案。この研究などを元に量子機械学習の可能性を探索していくという。

ただ機械学習の分野においては、既存のGPUなどの性能も高く「量子コンピュータがアドバンテージを持つのは少なくとも数年先の話になるのではないか」(楊氏)という話もあった。そのため実用化という点では量子化学シミュレーションが先になりそうだ。

海外ではGoogleやRigettiらが量子化学計算を量子コンピュータ上で行うライブラリ「OpenFermion」の提供も始めている。このような流れもある中で、量子コンピュータをどのように企業の課題解決に活用していくのか。QunaSysでは主に製薬や化学系の大企業向けにサービスを提供していく予定だ。

「これから数年後には従来のコンピュータでは解けなかったような問題を解決できるようになるかもしれない。そのタイミングで大企業が量子コンピュータを活用できるように、下準備を進めていく。企業にとってアドバンテージとなるようなツールの提供や、活用サポートを行っていく」(楊氏)

また並行して、量子情報分野に精通した人材の育成にも力を入れる。たとえば今後より多くの人材が必要とされるAIの領域では「Aidemy」のような特化型の学習サービスが登場。東京大学の松尾教授がオンライン上でコンテンツを無償提供しているような事例などもでてきている。

「実用的な量子コンピュータが完成すれば、AI領域以上に人材が不足することが考えられる」(楊氏)ため、QunaSysでは10名程度の勉強会からスタートし、ゆくゆくは誰でも受講できるオンラインコースも整備していく方針。量子関連の情報を発信するメディア「Qmedia」もすでに立ち上げている。

進歩が著しい業界、海外では関連スタートアップも増加

TechCrunch読者の中にはカナダのスタートアップD-Wave Systemsをきっかけに量子コンピュータに関心を持った人もいるかもしれない。NASAやGoogleらが同社のハードウェアを導入するなど、さまざまなメディアで取り上げられてきた。海外企業のみならずリクルート(広告配信)デンソー(交通)野村ホールディングス(資産運用)といった日本企業との共同研究や実証実験にも取り組んでいる。

量子コンピュータは量子アニーリング方式と、量子ゲート方式に分かれるとされ、D-Waveが開発するのは量子アニーリング方式のマシン。それぞれ特徴は異なるが、アニーリング方式は特定の用途で力を発揮するものとして登場した一方、ゲート方式はあらゆる目的で使えるという意味で「汎用量子コンピュータ」とも言われる。

汎用量子コンピュータの領域ではGoogleが72量子ビットのプロセッサーを発表。そのほかIBMが16量子ビットのデバイスを誰でも使えるようにクラウドで公開しているほか、Y Combinatorの卒業生でAndreessen Horowitzなども出資するRigettiは19量子ビットのマシンで機械学習のデモンストレーションを行っている。

ハードウェアだけでなくソフトウェアを開発するスタートアップも増えてきている状況で、富士通とも協業する1QBitやNASAなどとパートナーシップを組むQC Wareなどがその一例。QynaSysもこの汎用量子コンピュータに特化したソフトウェア開発企業という位置付けだ。

近年進歩が著しい業界ではあるが、社会に大きなインパクトをもたらすのはこれからだろう。実用化に向けてはクリアすべき課題もある。たとえば「量子誤り訂正技術」の実現もそのひとつ。楊氏によると、現在各社が開発を進める量子コンピュータには誤り訂正という機能がなく「エラーが発生するノイジーなデバイス」なのだそうだ。

QunaSysでは顧問の藤井教授が誤り訂正の理論を複数発表していることもあり、その実用化や性能評価、アドバイザリー等も行っていく方針だ。第一線の研究者が複数人メンバーにいるのがQunasysの特徴。「今後はハードウェアを作る会社との提携をしながら、実用的なアプリケーションを作っていく」(楊氏)という。

スタートアップと投資家のコミュニケーションを効率化する「FUND BOARD」のケップルが3000万円を調達

スタートアップと投資家のためのファイナンスプラットフォーム「FUND BOARD」を運営するケップルは4月25日、複数の個人投資家を引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

同社に出資したのはベクトルやオークファンなどで社外取締役を務める西木隆氏、ベインキャピタルの日本オフィス立ち上げに携わった末包昌司氏、医療法人やPEファンドなどの役員や顧問を務める提橋由幾氏を含む4名。金額は約3000万円で、累計の調達額は5000万円ほどになるという。

ケップルでは2018年6月に投資家ユーザー向けのサービスを正式にリリースする予定。それに向けて本日より事前登録の受付を開始した。

FUND BOARDはスタートアップと投資家のコミュニケーションを効率化することを目的としたサービスだ。双方間での資料や情報共有、情報管理における負担削減を軸に複数の機能を開発。2017年7月にベータ版を公開した。

スタートアップ向けにはオンライン上での資本政策の作成、株主情報やストックプションの管理といった機能を提供。投資家向けには投資先情報の一元管理、ミーティングメモの作成、投資先への一括資料依頼や提出状況の確認機能を提供している。

ケップルの代表取締役を務める神先孝裕氏はあずさ監査法人の出身。2013年にKepple会計事務所を立ち上げ、主に税務やファイナンス業務の面でスタートアップの支援をしてきた。FUND BOARDも神崎氏自身がスタートアップと日々やりとりする中で感じた、コミュニケーション面の課題を解決するために生まれたものだ。

ベータ版はこれまでに約150社が導入。そのうち100社ほどがスタートアップ、残りの50社が投資家だという(50社中10〜20社がVC、その他が事業会社や個人投資家)。

「反響はあったものの、全体的にはあまり継続されなかったというのが正直なところだ。これは主にUI/UXの点で使い勝手に課題があったためだと考えている。一方で複数拠点を持つVCが投資先の情報管理やレポート共有の目的で頻繁に使ってくれているケースもあった。ニーズのある機能をベースにしつつ、デザインなどをアップデートしたうえで正式にリリースする」(神先氏)

まずは6月を目処に投資家向けのサービスを公開する予定。コンセプト自体はベータ版から大きく変わらず、投資家のポートフォリオ管理を楽にすることだ。

特にVCでは数名で数十社の投資先とやりとりをするケースが多い。通常はスプレッドシートやエクセル、ファイルストレージ、メールやチャットといった複数のツールを使い分けながらコミュニケーションや情報管理を行っていくことになる。

「目指しているのは投資家が複数のツールをまたぐ必要がなく、FUND BOARDにアクセスすれば欲しい情報が全てまとまっているという状態。バーティカルなEightのような形で起業家の名刺を読み込めばシステム上に情報が登録され、「投資済み」「投資検討中」といったステータスごとに管理できるデータベースを作れるようにする。そこに各企業に紐付く形でファイルやメモがアップロードされていく仕組みを考えている」(神先氏)

決算書類を作る際など、投資先へ一括で資料提供依頼ができる機能もアップデート。投資先のスタートアップがFUND BOARDを使っていなくても一時的なユーザーとして扱い、送られてきたメールにあるリンクから1クリックで資料の提供ができるようになる。

「チャットやメールでやりとりをしていると、様々な場所にファイルが分散して確認漏れが生じる原因になる上に、ダウンロードしたファイルを再度ストレージにアップロードする手間も生じる。この負担を極力なくしていきたい」(神先氏)

正式リリース後はVCについては人数ベース、個人投資家については投資先の社数ベースで課金をする方針。夏頃を目処にスタートアップ向けのサービスもリリースする予定のほか、チャット機能や条件合意をスムーズにする機能の提供も検討していくという。

「海外ではスタートアップがオンライン上で資本政策を作れるサービスをいくつかあるが、スタートアップと投資家間のコミュニケーションにフォーカスしたものはない。FUND BOARDでも資本政策はサポートするが、まずは日々の情報共有を効率化することで、双方がより本質的な仕事に時間を使えるようにしたい」(神先氏)

投資家を含むケップルのメンバー。後列の右から3人目が代表取締役を務める神先孝裕氏

人手のかかる来客対応を自動化する「ACALL」が1億円を調達、きっかけは自社の課題解決から

来客対応を自動化するRPA(Robotic Process Automation)サービス「ACALL」を提供するACALL。同社は4月24日、ジェネシア・ベンチャーズみずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資により約1億円を調達したことを明らかにした。

今回の調達を受けて、IoT連携のためのAPI開発やコワーキングスペース向けのサービス開発などプロダクトの改良や、事業基盤の強化を図るという。

一連の来客業務を効率化、生産性の向上とおもてなしをサポート

ACALLはiPadを活用した受付業務の効率化を始め、オフィスなどの来客対応時に生じる一連のオペレーションを自動化するサービスだ。アポイントの作成から会議室の予約、リマインドメールの送信、当日の入館手続き、そして商談終了後の退館手続きやサンクスメールの送信といった各業務にかかる負担を削減する。

個々の機能については後述するが、大きな特徴は「来客プロセス」に焦点を当てて必要な機能をまるっと提供していること。そしてそれらの機能を自社の用途に合わせて柔軟に組み合わせ、独自のプロセスを設計できることだ。

「当日のビルの入館手続き、オフィスでの受付対応、お茶出しなど一連のプロセスには最大で4〜5名の手がかかってしまうようなケースもある。それらを自動化・効率化することで最終的には担当者1名でも対応できるようになるといいよね、という思いで開発している」(ACALL代表取締役の⻑沼⻫寿氏)

2016年の7月に正式リリースし、2018年3月末時点で上場企業からスタートアップまで約630社に導入済み。業種や規模はさまざまだが「来客受付を効率化したいスタートアップや中小企業」「入館ゲートや自動ドアとの連携から始まり、一連の業務をスマート化したい大企業」「ゲストの来訪管理といった頻繁に発生するオペレーションをシステム化したい共有スペースのオーナー」という3つのニーズが多いという。

たとえばACALLとiPadを活用した受付業務の流れをみてほしい。まず来客対応をする側(ホスト)がACALLの管理画面、もしくはGoogleカレンダーなどのスケジューラーと自動連携してアポイントを作成するところがスタートだ。これによって来客側(ゲスト)にアポイント情報が届くとともに会議室が自動で予約される。

ゲストに送られてきた情報にはアポイントコードとQRコードが含まれているので、当日は受付にあるiPadにコードを入力するかQRコードをかざせばホストに直接通知が届く。ChatWorkやSlack、SMSなど複数の外部アプリと連携できるため、来客の通知は普段使用しているアプリで受け取れる。ゲストを不安にさせないように「すぐ参ります」などホストからの応答をiPad上に表示することも可能だ。

また入館ゲートや自動ドアとのIoT連携を通じた入館手続きのスマート化にも対応。受付のiPadから手続きをすると入館証や入館シールが印刷される機能を搭載していて、これを使えばゲストがわざわざ入館用紙を記載する必要もない。

APIで複数サービスと連携、細かいカスタマイズにも対応

ACALLの特徴は来客プロセスを柔軟に設計できる点だと紹介した。たとえば受付対応についても相手によって必要となるアクションや表示されるメッセージなどを事前にカスタマイズし、自動化することができる。

「メニューからオンオフを操作するだけで必要な機能の組み替えを自由にできることを重要視している。またすでに(スケジューラーやチャットアプリなど)業務用のツールを複数使用している企業も多い。API連携を通じて極力面倒な作業が発生せず、すでに使っているアプリやIoT機器と一緒に使いやすい設計を意識した」(長沼氏)

この考え方は同種のサービスとの違いにも繋がるかもしれない。たとえば受付業務に特化したサービスでは過去にTechCrunchでも紹介した「RECEPTIONIST」などが存在する。同様に会議室の予約など個々の機能ごとでは似たようなサービスがあるものの、「来客プロセスという一連の流れを最適化しようとしているところはほとんどない」というのが長沼氏の考えだ。

「(各機能に特化したプロダクトはあるが)個別で導入すると管理画面だらけになってしまい、担当者が大変だと思った。それらを統合してプロセスレベルで効率化、自動化できることがACALLの価値だ」(長沼氏)

現在は登録できるホスト数や機能数に応じて5つのオフィスプランを用意しているほか、コワーキングスペース向けのプランも提供。今後は大企業やビル会社向けに入館ゲート、自動ドアなどとのIoT連携を強化するためのAPI開発、コワーキングスペース向けプランの改良を行っていく予定だという。

またACALLの根幹となる独自システム「OMOTENASHIエンジン」を海外にも展開していく。2018年後半より既存顧客の海外支店への導入から段階的に実施し、その後はアジア圏を中心に提供する計画。2019年末を目処に国内外2万社への導入を目指す。

ゆくゆくは「商談」の質をあげるサービスへ

もともとACALLは自社の課題を解決するために生まれたプロダクトだ。長沼氏によると「コーディングをしている時に来客対応があると手が止まってしまうし、対応後に再び頭を切り替えるのにも時間がかかるのが課題だった」そう。そこで当初はiPadにRaspberry Pi(ラズペリーパイ)をつけて、来客時にiPadが光るというシンプルな仕様からスタートし、少しずつ改良を加えていった。

すると試しに使ってみた周囲からも評判が良かったため事業化を決定。会社名も2017年12月にACALLへと変更し、さらに加速させるべく今回の調達に至ったという。

まずは来客対応のオペレーション効率化に取り組むが「ゆくゆくは商談そのもののクオリティ向上にむけて機能を拡充していく計画」(長沼氏)。現時点でも商談を活性化する機能として、会議室に設置したiPadに残り時間や当日のアジェンダが表示される「ファシリテーション機能」を搭載。6月を目処にアイスブレーク機能や議事録の作成共有機能も実装していく予定だ。また将来的には来客以外のシーンでも活用できるようにしていきたいという。

ACALLは代表の長沼氏が日本IBMを経て2010年に設立したスタートアップ。これまで複数の企業向けSaaS事業を手がけたのち、2015年にACALLの原型となるプロダクトを開発。2016年7月に正式版をリリースした。

ARで“インテリアを試着”——リビングスタイルが3.4億円調達、150万点の3Dデータ活かしたARコマースも

インテリア関連のサービスを展開するリビングスタイルは4月23日、DGインキュベーション、DG Daiwa Venturesが運営するDG Labファンドカカクコムアコード・ベンチャーズから3.4億円を調達したことを明らかにした。

同社は2007年の設立。2016年7月にも三井不動産のCVCとアコード・ベンチャーズから2億円を調達しており、今回はそれに続くラウンドとなる。調達した資金を元に組織体制を強化するほか、調達先であるVCやカカクコムとの連携を進め、インテリアの新しい購買体験の開発にも取り組むという。

リビングスタイルはインテリア商品の3Dデータを活用したサービスを複数展開しているスタートアップだ。

もともと取り組んでいたのは、インテリア業界向けの「インテリア 3Dシミュレーター」。同サービスではPCやタブレットから顧客の部屋の間取りを作成し、販売している商品を実際に配置してシミュレーションができる。

無印良品やFrancfranc、大塚家具など30以上のブランドがすでに導入。店頭での接客やオンラインストアに活用されている。導入時の初期費用と月額の利用料に加え、新商品の3Dモデルを取り込む際に都度料金が発生する仕組みだ。

「家具のデータベースを作りたいという思いから始まった事業。今では150万点を超えるインテリア商品の3Dデータが蓄積されている。前回の資金調達以降はこのデータを活用した個人向けのサービスにも力を入れてきた」(リビングスタイル代表取締役の井上俊宏氏)

それがいわば“インテリアの試着”サービスといえるARアプリ「RoomCo AR」だ。

RoomCo ARは家具を置きたい場所にスマホをかざすだけで、アプリから選んだ商品を空間上に実物サイズで配置できるアプリ。サイズ感を確かめるだけでなく、ほかの家具との色合いや全体のレイアウトを購入前に試せることが特徴だ。

井上氏によると当初は自社データベース上にある商品を対象にスタートしたが、実際にリリースしてみると仏壇や楽器など家具メーカー以外からも反響があったそうだ。

実際に現在RoomCo ARでは「お仏壇のはせがわ」や「ヤマハ」がラインナップに加わり、アプリから配置シミュレーションが可能。もちろん無印良品や大塚家具の商品を含め、ソファやテーブル、カテーン、ベッドなど様々な家具を試すこともできる。

また3Dデータを活用したインテリアコーディネートの情報メディア「RoomCo NAVI」も展開。6畳のリビング、8畳1LDKなど間取りごとにコーディネート事例を紹介し、気に入ったものは購入できるという流れだ。

現在はARアプリやメディアからメーカーのECサイトへ送客する仕組み。特にメディアが育ってきているようで「B向けだけでなくC向けの事業でも収益をあげられる体制を作っいきたい」(井上氏)という。

今後リビングスタイルでは調達先と連携しながらサービスを強化していく方針。DG Labとはシミュレーターの機能拡充やAR関連技術の研究を進める。またカカクコムとは両社が持つ商品データベースとAR技術を活用した「ARコマース」のチャレンジも検討していくという。

「(ARを活用したレイアウトのシミュレーションやコマースに関しては)たとえば家電のように、家具以外の商材も可能性がある。この領域は『価格.com』を一度チェックしてから商品を購入するユーザーも多く、ここと手を組めるのは大きい。両社のデータベースを使って、一緒にARコマースのチャレンジをしていきたい」(井上氏)

Web上の情報を活用したAI与信管理サービス「アラームボックス」が1億円を調達

インターネット上の情報を活用したAI与信管理サービス「アラームボックス」を提供するアラームボックスは4月20日、ナントCVC(ベンチャーラボインベストメントと南都銀行が共同で設立)、GMOペイメントゲートウェイ、西武しんきんキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、池田泉州キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、総額1億円を調達したことを明らかにした。

南都銀行とは事業提携契約も締結し、関西圏の地域企業へアラームボックスの提供を進めていくという。アラームボックスは2016年6月の創業。2017年2月にみずほキャピタル、KLab Venture Partners、デジタルハリウッドらから、同年8月にも日本ベンチャーキャピタルらから資金調達を実施している。

アラームボックスはSNSや口コミサイト、ブログやニュースメディアなどオンライン上にあるデータを活用した与信管理サービスだ。取引先を登録しておけば、リスクや状況の変化を自動で収集・通知する。たとえばネガティブな口コミ、評価ランクの急降下、行政処分といった出来事を自分に変わって収集し、知らせてくれるというわけだ。

2017年2月のリリースから約1年が経ち、現在約700社が導入。半数以上は東京以外の地域の企業であり、3分の2以上が年商10億円未満の中小企業だという。

「新規の取引をする際に与信調査をすることはあっても、取引先のモニタリング(継続調査)までは手が回っていない中小企業も多い。そのような課題に対して、待っているだけでいろいろな情報が集まってくるサービスとして始めた。この1年間で想定していたニーズがあると確認できたので、事業を加速させるべく資金調達を実施した」(アラームボックス代表取締役の武田浩和氏)

リリース時は機械学習やAIを実装できていなかったため、信用リスクを判断するための独自アルゴリズムをベースに、知見のあるプロが人力で判定をしていた。現在はWeb上でクローリングした情報の5割ほどは機械学習で処理できるようになっていて、残りの5割をプロが審査している状況だ。「今後は9割をAIでカバーできるようにしたい」(武田氏)という。この1年で精度も向上し、継続率は98%だそうだ。

料金は登録者数が1社までの無料プランをはじめ、登録者数ごとに複数のプランを提供している。

2018年1月にはセールスフォースが提供する「AppExchange」でアラームボックスの提供を開始。Salesforce上の取引先データと連携することで、取引先のアラーム情報をリアルタイムで確認できるようになった。

武田氏の話では今回調達した資金をもとに組織体制の強化やプロダクトの改良を進めつつ、今後も外部サービスや各地の銀行との連携を積極的に進める方針。

たとえばクラウド会計ソフトやクラウド請求書など企業の与信情報を持つサービスとAPI連携することで、より使い勝手のいいサービスを目指すという。また地方の中小企業から問い合わせが多いこともあり、地方銀行との事業連携を推進。積極的に中小企業へのアプローチしていく。

 

防犯カメラの映像を活用した「万引き防止AI」開発のVAAKが5000万円を調達

防犯カメラ解析AIを万引き防止に活用する「VAAK EYE」。同サービスを提供するVAAKは4月20日、目社名非公開のVC1社から5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

VAAKは機械学習で防犯カメラの映像を解析するスタートアップ。このシステムを万引き防止という目的に合わせてサービス化したのがVAAK EYEだ。

同サービスでは防犯カメラの映像を解析し、万引き犯特有の不審行動を検知する。不審行動はリアルタイムに通知するほか、不審人物が次にいつ来店するのか再来店時刻を予測できる機能を搭載。これにより従業員や万引きGメンが万引きを事前に防ぐことも可能になる。

VAAK代表取締役の田中遼氏によると「防犯カメラの映像から人の詳細行動を認識する解析技術が強みで、これにより不審行動の検出制度が高くなる」という。とはいえ現在は実証実験に着手し始め、3月にベータ版を公開したところ。大手企業含め複数の実証実験が決まっているほか、正規の顧客もすでにあるそうで、今月末から活用を本格化し精度の検証やブラッシュアップを行っていく。

その結果も踏まえつつ、6月ごろに正式版を公開する予定だ。

近しいサービスはいくつかあるが、専用のネットワークカメラが必要になるケースも多い。VAAK EYEの場合は既存の防犯カメラの映像をそのまま活用できるため、導入のハードルやコストを抑えられる点も特徴だ。

まずは万引き防止サービスとしてSaaSモデルで提供しつつ、今後は防犯カメラの解析結果を店舗のマーケティングや「Amazon Go」のようなレジなし決済にも展開できるように、機能開発を進めていくという。

VAAKは2017年11月の設立。代表の田中氏は学生時代から起業経験があり今回が3社目になる。「社会貢献性とスケーラビリティの高い事業」という観点で領域を検討したのち、行動解析に軸を定めVAAKを創業した。

ユーザーを「人」として分析する顧客体験プラットフォーム「KARTE」のプレイドが27億円を資金調達

写真左:プレイド代表取締役社長 倉橋健太氏 右:同代表取締役兼CTO 柴山直樹氏

ユーザーを「データ」でなく「人」として分析し、それぞれの人に合った体験を提供するためのプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を運営するプレイド。同社は4月19日、既存株主のフェムトパートナーズEight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)と、新たに出資に参加する三井物産三井住友海上キャピタルSMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行などからの借入れにより、総額約27億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

プレイドではこれまで、2014年7月にフェムトグロースキャピタルなどから約1.5億円を調達、2015年8月にはFidelity Growth Partners Japanとフェムトグロースキャピタルから約5億円を調達している。今回の資金調達により、累計調達総額は約34億円になった。

今回の調達に先駆けてプレイドは、4月17日にKARTEのブランドリニューアルと機能拡張を発表している。“ウェブ接客からCX(Custmer eXperience:顧客体験)プラットフォームへ”とうたったその内容は、プレイド代表取締役社長の倉橋健太氏にTechCrunchが3月に取材したときの話をほぼ踏襲したものだ。まずはその新しい機能について見ていこう。

数値でなく人から発想することでマーケティングを楽しく

プレイドでは、2015年3月にウェブ接客ツールとしてKARTEをリリースして以来、2016年3月にユーザーへのメッセージチャネルをLINEやSMSなどに広げる連携ツール「KARTE Talk」、2017年12月にはサイト間や実店舗でのユーザー行動も横断的に見ることができる「KARTE CX CONNECT」、2018年3月にはアプリユーザーを対象にした解析・メッセージングツール「KARTE for App」を提供してきた。

プレイド Customer Success Directorの清水博之氏は、これまでのサービス展開については「ユーザーとのコミュニケーションを求める市場に対して、ユーザーへの『アクション』部分の機能を強化してきたもの」と述べている。

「KARTEは接客ツールとして始まった当初から『人軸』でユーザーを見ること、つまりユーザーを“知る”ことと、ユーザーに“合わせる”ことの双方をコンセプトとしている。ただしこれまでは、“知る”ことは大事だと思いながらも、ニーズとして強かった“合わせる”ことのほうに、より応えてきた」(清水氏)

リリース以来、KARTEの導入企業・サイト数は純増を続け、3年間の累計解析ユーザーは22億人、導入企業の約半数であるECの年間売上解析金額は5480億円に上るという。利用企業の規模も大きくなり、認知度も上がった今、顧客企業からは「どういう人が買っているのか、結局わからない」との声が増えてきたと清水氏は言う。

「ユーザーに“合わせる”、アクションを提供するツールでは、CVRがいくつとか、メールを何通送ったとか、(評価が)数字やデータの話になることが多い。そこではユーザー一人ひとりがどういう動きをし、どういう環境にあるのかはわからない。また大きな組織でデータを分析しようとすると、各部署に散在しているデータを集め、必要なものだけ抽出して解析して……と分析のためのスキルが必要でコストもかかる。そこでこれからのKARTEは“知る”ことに重心を移し、誰でもユーザーを『人』として知ることができ、誰でもユーザーにアプローチできるように機能を拡張した」(清水氏)

マーケターなどいわゆる「分析屋」だけでなく、経営層やカスタマーサポート部門といった社内の誰もがユーザーを直感的に理解できるよう、進化させるというKARTE。今回発表された新機能は5つある。

既存のマーケティング環境(左上)に対して、KARTEの5つの新機能がカバーするエリアをプロットした図。

1. ライブ(仮称、ベータ版)

今夏の正式リリースに向けて開発が進められている「ライブ」は、ユーザー一人ひとりの行動を動画で見ることができる機能だ。サイトやアプリリニューアルの際に行うユーザビリティテストにも似たこの機能では、スクロール、タップやクリック、テキストの選択(ハイライト)といったユーザーの実際の動きを見ることができる。

「データにすると抜け落ちてしまう行動そのものを見ることで、新たな発見ができる。同時に(クリックなどの)イベントも計測しており、ユーザーの属性と動きを見比べることも可能だ。あるテキストを選択したユーザーがどういう属性かを見て、その人に刺さる言葉を考えるといったこともできる」(清水氏)

実店舗なら「買わない人」がどういう人で、どのように滞留して帰っていったか、ということも把握しやすいが、これまでの定量データでは、ウェブやアプリでアクションを起こさずに離脱した人の動きを見ることは難しかった。ライブ機能ではその把握もやりやすくなる。「数字じゃないところにヒントがある」と清水氏は話している。

2. スコア(ベータ版)

一人ひとりのユーザーの感情や状態をリアルタイムに数値化・可視化する機能が「スコア」だ。ユーザーが購入しそうか冷やかしなのか、よいユーザー体験を得ているかそうでないのか、といった度合いを見ることができる。

またECサイトならアパレル、コスメ、グルメといった商品カテゴリにより、ユーザー背景や動きは違ってくるが、それぞれのユーザー行動(イベント)をもとにルールを作成してポイントを付けることが可能。モチベーションの高いユーザーだけを絞り込んで表示する、といったこともできるので、コミュニケーションを取りたい人や観察したい人を見つけるのもやりやすくなる、と清水氏は言う。

3. ストーリー

スコアはあるユーザーのその瞬間の状態を把握するための機能だが、「ストーリー」はユーザーのこれまでの行動や状態を、時系列のグラフで表示することができる機能だ。スコアや行動量の変化を追っていって急に上下したところがあれば、グラフ上をクリックして、より詳しい行動を確認したり、ライブ機能で実際の動きを見たりすることができる。

「ライブ、スコア、ストーリーの3つの機能は、一人ひとりのユーザーを徹底的に可視化して、理解するためものだ」と清水氏は説明する。

4. ボード

残る2つの機能、「ボード」と「レポート」は定量データからユーザーにアプローチする機能だ。ボードはユーザーの属性や行動の統計値をグラフ、チャート、ファネルを使って見ることができる機能。見た目はGoogle Analyticsライクだが、グラフやファネル上でより詳しく見たいユーザー群があれば、クリックするだけで表示する内容を切り替えることが可能。ユーザー単位の情報にもたどり着ける。

「定量データから相関や特徴を読み解くことと、一人ひとりのユーザーに絞り込んだ理解とを、面倒な抽出やクエリなどの操作を挟まず、より直感的な操作でできるようにした」と清水氏は説明する。

5. レポート

レポートは5つの機能の中では「一番引いた視点」でユーザー情報を提供するもの。「事業サイドではやはりどうしても数字で情報が見たいときがあるので」全体像を把握するための機能も備えていると清水氏は言う。

ただしレポートでもボードと同様、情報から個々のユーザーにたどり着くことが可能。また逆に個々のユーザーの情報からレポートにたどり着き、そのユーザーが全体でどの位置に当たるのかを確認することもできるという。

清水氏はこれらの新機能により「ユーザー体験づくりが変わるはず」と言い、「数字とにらめっこして体験をつくる場合、どうしても数字から仮説を立てて、施策をやって、検証して、また分析をして……となる。『この人はなんでこういう行動をするんだろう』と人から発想すれば、マーケティングが楽しくなるのでは」と語っていた。

マーケティングのほか「先を示す」取り組みにも投資

プレイド代表取締役社長の倉橋氏は「新機能追加でも『データではなく、人としてユーザーを見る』という方向性は変わらない」として、お披露目されたばかりのコンセプトムービーを紹介してくれた。

そして導入企業も増える中で、より「顧客を知る」ニーズが顕在化してきたと倉橋氏は話す。今回の資金調達では「マーケティングも含めた投資で、成長に向けここでアクセルを踏む」と語っている。

プレイドの事業収益は2017年3月に単月黒字化を達成。「T2D3」*以上の成長を続けているという。
*“Triple, Triple, Double, Double, Double”の略。サービス開始から3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と年々売上が成長すること。SaaSスタートアップの成長指標として使われる。

「これまでの投資は、ユーザーを“知る”、“合わせる”と言ってきたことを実際のプロダクトで実現するために機能拡充を進めることと、ビジネスオペレーションの磨き上げに充ててきたが、マーケティング活動によらず、オーガニックに成長することができた」(倉橋氏)

倉橋氏は、ここで成長をゆるやかにせず「逆に成長角度を上げていきたい」と言い、「マーケティング投資が今回の調達の最大の目的」と述べている。

またマーケティング以外では、KARTEシリーズとして展開するアプリやKARTE CX CONNECT、KARTE Talkといったプロダクトをさらに良いものにすること、顧客企業のカスタマーサクセスにつながる体制強化のための採用活動や、EC以外のサービスへの普及なども進める考えだ。

非EC分野については、倉橋氏はこう言っている。「3年前は7割がECでの利用だったが、人材や不動産、金融など幅広い分野で利用されるようになり、現在はEC対非ECが50%ずつぐらい。KARTEが広い市場に受け入れられたサインだと思っている」

アパレル業界や不動産業界など、KARTEの導入率が高い業界も出てきている中で「プロダクトはシングルのまま、広く使っていただけるように戦略を強化していく」と倉橋氏は話す。

倉橋氏は海外への本格進出にも意欲を見せる。KARTEの多言語対応は、導入企業の中で日本から海外進出したり、海外の日本法人が利用したりしたことをきっかけに自然に始まったというが、倉橋氏は「今後は仕掛けて出て行く」と話している。

さらに昨年11月に公開された、サイトのユーザーが買い物する様子をVR空間で再現する「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)をはじめとした、研究開発への投資も加速する構えだ。

「コンセプトとしては『お客さまを大事に』『顧客視点が大事』といった当たり前のことしか言っていないKARTEだが、これをよりしっかり受け取っていただきたいとの思いから開発したのが、カルテガーデンだ。ユーザーを人として見られれば、感じ方や気づきが変わるということをもっと知ってもらいたい。そのために先を示す取り組みも進めていく」(倉橋氏)

また各サービスでの行動データの蓄積も進む中、R&Dによってデータをより意味のある形で、「人」化して本格的に提示していきたい、と倉橋氏は述べている。「新機能のライブやスコアでも、ゼロから見方を考えてもらうよりは、ある程度こちらから型を用意することで、顧客企業のナレッジのベースアップになれば。そういう意味でも、蓄積データで顧客を支援できれば、と考えている」(倉橋氏)

BASEが丸井グループから資金調達、6月より渋谷マルイで常設店舗オープンへ

ネットショップ開設サービス「BASE」を提供するBASEは4月17日、丸井グループを引受先とした第三者割当増資による資金調達とともに、資本業務提携を実施したことを明らかにした。

調達額は非公開。なお今回の提携に伴い、2018年6月より渋谷マルイ1階にBASEの出店店舗なら誰でもレンタル可能な常設店舗をオープンする予定だという。

BASEでは2017年10月より丸井グループとの協業を開始。BASEへ出店する店舗に対し、丸井グループの展開する新宿マルイ本館、マルイファミリー溝口、有楽町マルイ、博多マルイにて、ポップアップショップによる実店舗での販売支援を実施してきた。

BASE担当者によると「ECとリアル店舗では売れる商品や売れ行きも異なり、特に初めて実店舗で販売するユーザーからは言い反響があった」という。これまでは期間限定のポップアップストアという形態で実店舗の運営を行っていたが、2018年6月より常設の店舗を渋谷マルイ1階にオープンする予定だ。

本件について同社では「将来的に多くの人々に受け入れられるブランドへと成長する可能性を秘めた店舗に対して、常設店舗での販売機会と販促ノウハウを提供し、各店舗の認知度向上や、新規顧客の獲得など、商機拡大を目指してまいります」としている。

また決済をはじめとするフィンテック面でも協業する方針。こちらについては具体的な話は今後進めていくということだが、「PAY ID」および「PAY.JP」を提供する100%子会社のPAYを絡めた話になりそうだ。

BASEは直近で2018年1月にグローバル・ブレインとマネーフォワードから15億円を調達。それ以前にも2014年5月にグローバル・ブレインから3億円を調達し、2016年1月にはメルカリから最大4.5億円の出資を含む資本業務提携を実施。2016年10月にもSBIインベストメント、SMBCベンチャーキャピタルなどから総額15億円の資金調達を行っている。

なお同社では本日、BASEのショップ開設数が2018年4月に50万店舗を突破したことも発表している。

 

ライブコマース「PinQul」が7人の投資家から2700万円調達、“接触数”を増やすべくメディア性の強化へ

ライブコマースプラットフォーム「PinQul(ピンクル)」を提供するFlattは4月17日、7人の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により総額2700万円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドに参加したのは、Fablic代表取締役CEOの堀井翔太氏、メルペイ代表取締役の青柳直樹氏、個人投資家の三木寛文氏を含む7人。Flattでは2017年5月にもヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やペロリ創業者の中川綾太郎氏らから数百万円を調達。同社に出資する個人投資家は合計で11人になったという。

今回調達した資金を元に取り扱い商材の拡大、インフルエンサーの起用、流通の最適化に加え、関連サービスの新規開発やWeb版の開発を進める。

Flattの創業メンバー。左からCCOの豊田恵二郎氏、代表取締役CEO の井手康貴氏、COOの綾部翔太氏、エンジニアリングマネージャー の町田公佑氏

ユーザーとの接触数を増やすための“メディア性”がキモ

冒頭でも触れたとおり、PinQulはインフルエンサーがライブ配信をしながらお気に入りの商品を販売できる、ライブコマースプラットフォームだ。ライブコマースは中国で一足早く普及し、2017年の1年間で日本でも一気に広がった。2018年に入ってもKDDIとエブリーが共同で事業開発に取り組むと発表するなど、すでに複数の企業が新規で参入。引き続き注目を集める市場になりそうだ。

PinQulの正式リリースは2017年の10月。コアなファンを抱える「マイクロインフルエンサー」を地道に開拓し、限られた配信者のみがライブ配信をできる仕組みとして運営してきた。11月中旬からはプライベートブランド「P.Q. by PinQul」を提供、2018年2月にはTOKYO BASEが手がける新ブランドのライブ販売を実施。合わせてPinQulを活用したい企業のサポートや、配信者の公募も始めている。

Flattの代表取締役CEOを務める井手康貴氏によると、プロダクトリリースからの約半年間は最低限の仮説検証のため、さまざまなことに取り組む期間だったという。今回の資金調達はその結果をもとに一層アクセルを踏むためのものだといえそうだ。

「ライブコマースについて良い点も悪い点も明確に見えてきた。悪かった点は改善しつつ、今後は取り扱い商材の拡大やインフルエンサーの起用を継続しながら関連サービスの新規開発にも取り組み、事業の拡大を目指していく」(井手氏)

井手氏の話では今後のPinQulで特に重要テーマとなるのが「接触数、視聴数を増やすための場所の確立」だ。配信ごとのCVR(購入率)やPBの売り上げが順調な一方で、ライブ配信だけではユーザーとの接点が限られる。今後スケールさせていく上では、いかにユーザーと接触する機会を増やし、PinQulへ誘導できるかがキモになる。

「最初はアーカイブ動画をコンテンツとして残しておくことで接触数を増やせるのではないかと考えていたが、実際はあまり上手く機能しなかった。今は別の手段でメディア性をもたせることを考えている。具体的には常に見ていて楽しいコンテンツをアプリ内もしくは外部のプラットフォームとして育て、相性のいいものをライブで扱うといったスキームだ」(井手氏)

Flattでは最近PinQulのAndroid版をリリースし、現在はWeb版の開発にも取り組んでいる。同時にサイトの設計も商品情報をベースとした「ECっぽい感じのUI」に変えていく予定。あくまでも軸はコマースの部分におきつつもメディア性を加え、その中で最適なライブの見せ方を模索していくという。

企業との取り組みを強化しキャッシュポイントを作る

またキャッシュポイントを作るという観点では、今後法人との取り組みも一層強化する方針。キーワードになりそうなのはリアル店舗とPBだ。

「日本のEC化率はまだまだ今後伸びる余地がある中で、リアルも含めた購買行動の設計を考えている。ポップアップショップにライブコマースとインフルエンサーを絡めた取り組みなど、具体的に話を進めている段階だ」

「扱う商品としては既存の商品よりもPBに注力していく。たとえばYouTuberなど影響力のあるインフルエンサーとPBの相性がいいことはわかっている。今後は『PBの請負人』のような形で、インフルエンサーがオリジナルの商品を作って売りたいと思った際に選ばれるポジションもとっていきたい」(井手氏)

最近資金調達をした「ShopShops」のように、配信者がブランドの店舗でライブコマースを行うというプロダクトも海外では登場し始めている。これはあくまで例にすぎないが、リアル店舗×ライブコマースという切り口はまだまだ発展の余地がありそうだ。

今回井手氏の話の中で、Flattとして将来的にはコマース領域以外でも複数の事業を展開し、多角化を図っていきたいという話もあった。とはいえまずはEコマースに注力し「10年以内にEコマースで最大のプラットフォームになる」ことを目指していくという。