AI特化型インキュベーターのディープコアが60億円ファンドを設立へ、LPには親会社のソフトバンクも

写真左より、ディープコア代表取締役の仁木勝雅氏と、新ファンドの第1号案件となったVAAK代表取締役の田中遼氏

AI特化型インキュベーターであるディープコアは5月31日、シード・アーリー期のスタートアップ投資を目的としたファンド「DEEPCORE TOKYO」を設立したと発表した。同社が目標とするファンド規模は総額60億円だ。

設立時にも紹介したディープコアは、主にディープラーニングを中心とするAI領域でビジネスを行うスタートアップを対象としたインキュベーターだ。同社は2018年夏に東京の本郷にコワーキングスペース「KERNEL HONGO」をオープンする予定となっている。

ディープコアが今回立ち上げたファンドは、シードラウンドやシリーズAラウンドでの投資を目的としたもので、今年12月のファイナルクローズまでに約60億円の出資金を集めることを目指しているという。現時点で、LPにはディープコアの親会社であるソフトバンクグループのほか、ソフトバンク、ヤフーが参加することが決定している。

ディープラーニングを活用するスタートアップがまず必要とするのは、計算資源を整えるためのまとまった資金だ。ディープコアはその資金を直接スタートアップに供給するとともに、ソフトバンクグループが出資するNVIDIAの計算資源と技術コンサルティングを提供するとしている。これは、ディープラーニングを活用してビジネスを立ち上げたい起業家にとって大きなメリットとなるだろう。

ファンド運営を担当する渡邊拓氏は、「当社の調べでは、ディープラーニングを活用したビジネスを行う日本のスタートアップは、米国と比べて10分の1程度の数しかない。コワーキングスペースの運営から出資まで一貫して行うことで、その数を増やしていくことが目的だ」と語る。

ところで、ディープコアはソフトバンク子会社であるものの、彼らはその事実を積極的にアピールはしていない。その理由として、同社CFOの雨宮かすみ氏は「ディープコアのミッションは、ソフトバンクグループとシナジーを生み出すスタートアップを発掘することではなく、日本におけるAIスタートアップのエコシステムを活性化すること」だと語り、“ソフトバンクグループ色”を前面に出さずによりオープンな支援を行なっていくためだと説明する。

ディープコアによれば、同社はすでに防犯カメラの映像解析を手がけるVAAK(約5000万円)と、名称非公開のスタートアップ1社への出資を実施済みだ。同社は今後も1社あたり数千万円程度の出資を続け、最終的には100社近くのAIスタートアップに出資を行っていくという。

防犯カメラの映像を活用した「万引き防止AI」開発のVAAKが5000万円を調達

防犯カメラ解析AIを万引き防止に活用する「VAAK EYE」。同サービスを提供するVAAKは4月20日、目社名非公開のVC1社から5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

VAAKは機械学習で防犯カメラの映像を解析するスタートアップ。このシステムを万引き防止という目的に合わせてサービス化したのがVAAK EYEだ。

同サービスでは防犯カメラの映像を解析し、万引き犯特有の不審行動を検知する。不審行動はリアルタイムに通知するほか、不審人物が次にいつ来店するのか再来店時刻を予測できる機能を搭載。これにより従業員や万引きGメンが万引きを事前に防ぐことも可能になる。

VAAK代表取締役の田中遼氏によると「防犯カメラの映像から人の詳細行動を認識する解析技術が強みで、これにより不審行動の検出制度が高くなる」という。とはいえ現在は実証実験に着手し始め、3月にベータ版を公開したところ。大手企業含め複数の実証実験が決まっているほか、正規の顧客もすでにあるそうで、今月末から活用を本格化し精度の検証やブラッシュアップを行っていく。

その結果も踏まえつつ、6月ごろに正式版を公開する予定だ。

近しいサービスはいくつかあるが、専用のネットワークカメラが必要になるケースも多い。VAAK EYEの場合は既存の防犯カメラの映像をそのまま活用できるため、導入のハードルやコストを抑えられる点も特徴だ。

まずは万引き防止サービスとしてSaaSモデルで提供しつつ、今後は防犯カメラの解析結果を店舗のマーケティングや「Amazon Go」のようなレジなし決済にも展開できるように、機能開発を進めていくという。

VAAKは2017年11月の設立。代表の田中氏は学生時代から起業経験があり今回が3社目になる。「社会貢献性とスケーラビリティの高い事業」という観点で領域を検討したのち、行動解析に軸を定めVAAKを創業した。