サブスク型個人会計ソフトのCopilotは打倒Mint

10年以上前にIntuit(インテュイット)がMint(ミント)を買収した時、モバイルは今とは違う場所にあった。フィンテックも同様だ。一方、個人用会計アプリ分野にも大きな進歩は見られていない。Mintは統合問題と厄介なデータ分別間違いでつまづいた。多くの人にとって、ベストな代替手段はスプレッドシートを立ち上げることだった。

Copilot(コパイロット)は元Google社員が作った新しい個人向け会計アプリで、そのスリムなデザインと使いやすさで人気を呼びそうだ。サブスクリプション方式のiOSアプリで、ユーザーは個人の財務データを入力し、取引のカテゴリーを追加したり、予算を立てたりすることができる。過去数ヶ月は招待のみだったが、米国時間1月19日に一般公開された。

創業者のAndrés Ugarte(アンドレス・ウガルテ)氏はTechCrunchの取材に答えて、Googleに8年間務めた(最近では実験プロダクト部門Area 120)後、Mintの買収以降パーソナル会計分野の進歩が遅いのを見て、この取組みを始めたと語った。

「過去8年間パーソナル財務アプリを使おうとしてきたが、結局諦めた」とウガルテ氏は言う。「なんとか独自のカテゴリーを追加したりデータを修正ししたりて、すべての項目が正しく分類されるようにして使えるアプリにしたかった。しかし、アプリは同じ誤りを繰り返すだけで賢いとは感じられず、いつもがっかりしていた」。

私はCopilotをこの数時間いじってみて、これまでのところ気に入っている。デザインは他社と比べて親しみやすく、何よりの強みは、思い通りに自動分類されなかった項目のカテゴリーを簡単に変更できることだ。複数のアカウント間のやり取りを記録したり、1回限りの特別な買い物を予算から除外することもできる。こうした機能を提供しているアプリはほかにもあるが、Copilotは、特定の取引先の項目すべてをあるカテゴリーに分類するか、予算から完全に除外するかを選んでマークすることができるので、アプリはユーザーの行動を学習できる。

ある意味で、Copilotのキラー機能は、Plaidがいかによく出来ているかを示すものでもある。Copilotは、このVisaが買収した財務サービスAPIのスタートアップに強く依存しており、私にはなぜこのスタートアップが成功しているのかがよくわかる。他のサービスとのわかりやすい連携は、Copilotのスムーズな導入プロセスとあいまって、アプリのよく考えられたデザインをすぐにユーザーが感じられる。

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Copilotには限界もある。主な理由は現在チームにふたりしかいないことで、デスクトップとAndroid版を期待している人は少し待つことになる。月額2.99ドルのサブスクリプション料金にためらうを感じる人もいるかもしれないが、自分の財務情報を全部アクセスできる無料アプリを避けるべき理由はいくつもある。Copilotはユーザーの財務情報を売ったり第三者に渡すことはない。

ウガルテ氏は持っていたGoogle株を売ることで、ほぼ自己資金でここまでやってきたが、つい最近25万ドル(約2750万円)のエンジェルラウンドを済ませ、さらに追加の資金調達を考えている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Visaが5800億円でPlaid買収、最終的な評価額は倍に

Visa(ビザ)は米国時間1月13日、金融サービスAPIスタートアップであるPlaid(プレイド)を53億ドル(約5800億円)で買収すると発表した。

Plaidは金融サービスAPIを開発している。Stripe(ストライプ)が支払いのために提供しているサービスと似ているが、こちらのサービスは支払いを容易にする代わりに、開発者が銀行やその他の金融情報をより簡単に共有できるようにする。Visaのような会社にとっては意味のあるサービスだ。

このスタートアップは、銀行業務だけでなくより広範な金融サービスと投資に移行するために、2年前にQuovoを買収している。もともとのアイデアは、金融サービスプロバイダーたちに対して、より包括的なプラットフォームを提供することだった。創業者たちは、その買収時にブログ記事に以下のように書いている。「これまで様々な金融アプリケーション群が、Plaidを主に当座預金口座と普通預金口座とのやり取りに使用してきました。Quovoを買収することにより、私たちはより幅広いクラスの資産に対して機能を拡張することになります」。

買収は規制当局の承認待ちで、今後3〜6ヵ月で完了する予定だ。

買収価格

今回のPlaidの出口価格は、これまで合計で3億1000万ドル(約341億円)を投じてきた投資家たちにとって大勝利となるものだった。これまでのラウンドで最も重要だったのは、2018年後半に行われた2億5000万ドル(約275億円)の投入だった。IndexKleinerがそのラウンドを主導し、Plaidを26億5000万ドル(約2920億円)、すなわち今回の最終買収価格の50%だと評価していた(この比率が偶然だとは思えない)。

後に明らかになったが、そのときにはMastercardとVisaもラウンドに参加していた。TechCrunchは2019年に、2つのペイメントの巨人たちが「ラウンドに静かに参加した」と報告している。

これらの投資が、Visaに十分な情報取得権を与えられるほど十分な金額だったのかは、はっきりしない。だがクレジットカードの巨人である両社は、投資を行う前に比べて、Plaidが何をしていたかについてより多くの情報を得ている。ともあれ、Plaidは未公開会社として上手くやっているのだと推測することはできる。なにしろ自らのコアビジネスと競合させないために、あるいは主要な競合他社から遠ざけるために買収する場合を除いて、ある企業に対して数十億ドルにも及ぶ評価額のさらに倍額を支払う者はいないからだ。

今回のPlaidは、その両方かもしれない。

Twilioとの比較

Plaidはしばしば、縁の下の力持ちとして活動し、他のプレーヤーのビジネスを支援するAPI提供企業であるTwilioと比較される。アーリーステージにいるNoyoは、ヘルスケア情報と保険のためのAPIで同様のことを行っている。前述のとおり、Stripeは似ているサービスを提供しているが、彼らがカバーするのはペイメントだ。こうしたモデルは、公開会社として急騰したTwilioにとって有利だ。Plaidの巨大なエグジットは、この種のスタートアップにさらなる輝きを与えることだろう。

ただし、Twilioとは異なり、Plaidはまだプライベートな状態で購入されたため、その数字を詳細に見ることができなかった。利益率の高い収益が、この先伸びて行くと予想される。それは公開、未公開を問わず、すべての企業が切望していることだ。

しかしながらVisaは、この取引に対してさらに何かを求めている可能性がある。つまり、現在Visaが事業を展開している世界を再発明しようとする成長率の高い非公開企業たちの視点を、同社は手に入れたということだ。Plaidの買収は、Visaの危機に対する保険であり、またどの企業を買収すれば良いかを知る方法でもある。

しかし現段階においては、この買収はPlaidの株主(や従業員)たちにとっての勝利だ。

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(翻訳:sako)

ユーザーを「人」として分析する顧客体験プラットフォーム「KARTE」のプレイドが27億円を資金調達

写真左:プレイド代表取締役社長 倉橋健太氏 右:同代表取締役兼CTO 柴山直樹氏

ユーザーを「データ」でなく「人」として分析し、それぞれの人に合った体験を提供するためのプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を運営するプレイド。同社は4月19日、既存株主のフェムトパートナーズEight Roads Ventures Japan(旧Fidelity Growth Partners Japan)と、新たに出資に参加する三井物産三井住友海上キャピタルSMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と、みずほ銀行などからの借入れにより、総額約27億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

プレイドではこれまで、2014年7月にフェムトグロースキャピタルなどから約1.5億円を調達、2015年8月にはFidelity Growth Partners Japanとフェムトグロースキャピタルから約5億円を調達している。今回の資金調達により、累計調達総額は約34億円になった。

今回の調達に先駆けてプレイドは、4月17日にKARTEのブランドリニューアルと機能拡張を発表している。“ウェブ接客からCX(Custmer eXperience:顧客体験)プラットフォームへ”とうたったその内容は、プレイド代表取締役社長の倉橋健太氏にTechCrunchが3月に取材したときの話をほぼ踏襲したものだ。まずはその新しい機能について見ていこう。

数値でなく人から発想することでマーケティングを楽しく

プレイドでは、2015年3月にウェブ接客ツールとしてKARTEをリリースして以来、2016年3月にユーザーへのメッセージチャネルをLINEやSMSなどに広げる連携ツール「KARTE Talk」、2017年12月にはサイト間や実店舗でのユーザー行動も横断的に見ることができる「KARTE CX CONNECT」、2018年3月にはアプリユーザーを対象にした解析・メッセージングツール「KARTE for App」を提供してきた。

プレイド Customer Success Directorの清水博之氏は、これまでのサービス展開については「ユーザーとのコミュニケーションを求める市場に対して、ユーザーへの『アクション』部分の機能を強化してきたもの」と述べている。

「KARTEは接客ツールとして始まった当初から『人軸』でユーザーを見ること、つまりユーザーを“知る”ことと、ユーザーに“合わせる”ことの双方をコンセプトとしている。ただしこれまでは、“知る”ことは大事だと思いながらも、ニーズとして強かった“合わせる”ことのほうに、より応えてきた」(清水氏)

リリース以来、KARTEの導入企業・サイト数は純増を続け、3年間の累計解析ユーザーは22億人、導入企業の約半数であるECの年間売上解析金額は5480億円に上るという。利用企業の規模も大きくなり、認知度も上がった今、顧客企業からは「どういう人が買っているのか、結局わからない」との声が増えてきたと清水氏は言う。

「ユーザーに“合わせる”、アクションを提供するツールでは、CVRがいくつとか、メールを何通送ったとか、(評価が)数字やデータの話になることが多い。そこではユーザー一人ひとりがどういう動きをし、どういう環境にあるのかはわからない。また大きな組織でデータを分析しようとすると、各部署に散在しているデータを集め、必要なものだけ抽出して解析して……と分析のためのスキルが必要でコストもかかる。そこでこれからのKARTEは“知る”ことに重心を移し、誰でもユーザーを『人』として知ることができ、誰でもユーザーにアプローチできるように機能を拡張した」(清水氏)

マーケターなどいわゆる「分析屋」だけでなく、経営層やカスタマーサポート部門といった社内の誰もがユーザーを直感的に理解できるよう、進化させるというKARTE。今回発表された新機能は5つある。

既存のマーケティング環境(左上)に対して、KARTEの5つの新機能がカバーするエリアをプロットした図。

1. ライブ(仮称、ベータ版)

今夏の正式リリースに向けて開発が進められている「ライブ」は、ユーザー一人ひとりの行動を動画で見ることができる機能だ。サイトやアプリリニューアルの際に行うユーザビリティテストにも似たこの機能では、スクロール、タップやクリック、テキストの選択(ハイライト)といったユーザーの実際の動きを見ることができる。

「データにすると抜け落ちてしまう行動そのものを見ることで、新たな発見ができる。同時に(クリックなどの)イベントも計測しており、ユーザーの属性と動きを見比べることも可能だ。あるテキストを選択したユーザーがどういう属性かを見て、その人に刺さる言葉を考えるといったこともできる」(清水氏)

実店舗なら「買わない人」がどういう人で、どのように滞留して帰っていったか、ということも把握しやすいが、これまでの定量データでは、ウェブやアプリでアクションを起こさずに離脱した人の動きを見ることは難しかった。ライブ機能ではその把握もやりやすくなる。「数字じゃないところにヒントがある」と清水氏は話している。

2. スコア(ベータ版)

一人ひとりのユーザーの感情や状態をリアルタイムに数値化・可視化する機能が「スコア」だ。ユーザーが購入しそうか冷やかしなのか、よいユーザー体験を得ているかそうでないのか、といった度合いを見ることができる。

またECサイトならアパレル、コスメ、グルメといった商品カテゴリにより、ユーザー背景や動きは違ってくるが、それぞれのユーザー行動(イベント)をもとにルールを作成してポイントを付けることが可能。モチベーションの高いユーザーだけを絞り込んで表示する、といったこともできるので、コミュニケーションを取りたい人や観察したい人を見つけるのもやりやすくなる、と清水氏は言う。

3. ストーリー

スコアはあるユーザーのその瞬間の状態を把握するための機能だが、「ストーリー」はユーザーのこれまでの行動や状態を、時系列のグラフで表示することができる機能だ。スコアや行動量の変化を追っていって急に上下したところがあれば、グラフ上をクリックして、より詳しい行動を確認したり、ライブ機能で実際の動きを見たりすることができる。

「ライブ、スコア、ストーリーの3つの機能は、一人ひとりのユーザーを徹底的に可視化して、理解するためものだ」と清水氏は説明する。

4. ボード

残る2つの機能、「ボード」と「レポート」は定量データからユーザーにアプローチする機能だ。ボードはユーザーの属性や行動の統計値をグラフ、チャート、ファネルを使って見ることができる機能。見た目はGoogle Analyticsライクだが、グラフやファネル上でより詳しく見たいユーザー群があれば、クリックするだけで表示する内容を切り替えることが可能。ユーザー単位の情報にもたどり着ける。

「定量データから相関や特徴を読み解くことと、一人ひとりのユーザーに絞り込んだ理解とを、面倒な抽出やクエリなどの操作を挟まず、より直感的な操作でできるようにした」と清水氏は説明する。

5. レポート

レポートは5つの機能の中では「一番引いた視点」でユーザー情報を提供するもの。「事業サイドではやはりどうしても数字で情報が見たいときがあるので」全体像を把握するための機能も備えていると清水氏は言う。

ただしレポートでもボードと同様、情報から個々のユーザーにたどり着くことが可能。また逆に個々のユーザーの情報からレポートにたどり着き、そのユーザーが全体でどの位置に当たるのかを確認することもできるという。

清水氏はこれらの新機能により「ユーザー体験づくりが変わるはず」と言い、「数字とにらめっこして体験をつくる場合、どうしても数字から仮説を立てて、施策をやって、検証して、また分析をして……となる。『この人はなんでこういう行動をするんだろう』と人から発想すれば、マーケティングが楽しくなるのでは」と語っていた。

マーケティングのほか「先を示す」取り組みにも投資

プレイド代表取締役社長の倉橋氏は「新機能追加でも『データではなく、人としてユーザーを見る』という方向性は変わらない」として、お披露目されたばかりのコンセプトムービーを紹介してくれた。

そして導入企業も増える中で、より「顧客を知る」ニーズが顕在化してきたと倉橋氏は話す。今回の資金調達では「マーケティングも含めた投資で、成長に向けここでアクセルを踏む」と語っている。

プレイドの事業収益は2017年3月に単月黒字化を達成。「T2D3」*以上の成長を続けているという。
*“Triple, Triple, Double, Double, Double”の略。サービス開始から3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と年々売上が成長すること。SaaSスタートアップの成長指標として使われる。

「これまでの投資は、ユーザーを“知る”、“合わせる”と言ってきたことを実際のプロダクトで実現するために機能拡充を進めることと、ビジネスオペレーションの磨き上げに充ててきたが、マーケティング活動によらず、オーガニックに成長することができた」(倉橋氏)

倉橋氏は、ここで成長をゆるやかにせず「逆に成長角度を上げていきたい」と言い、「マーケティング投資が今回の調達の最大の目的」と述べている。

またマーケティング以外では、KARTEシリーズとして展開するアプリやKARTE CX CONNECT、KARTE Talkといったプロダクトをさらに良いものにすること、顧客企業のカスタマーサクセスにつながる体制強化のための採用活動や、EC以外のサービスへの普及なども進める考えだ。

非EC分野については、倉橋氏はこう言っている。「3年前は7割がECでの利用だったが、人材や不動産、金融など幅広い分野で利用されるようになり、現在はEC対非ECが50%ずつぐらい。KARTEが広い市場に受け入れられたサインだと思っている」

アパレル業界や不動産業界など、KARTEの導入率が高い業界も出てきている中で「プロダクトはシングルのまま、広く使っていただけるように戦略を強化していく」と倉橋氏は話す。

倉橋氏は海外への本格進出にも意欲を見せる。KARTEの多言語対応は、導入企業の中で日本から海外進出したり、海外の日本法人が利用したりしたことをきっかけに自然に始まったというが、倉橋氏は「今後は仕掛けて出て行く」と話している。

さらに昨年11月に公開された、サイトのユーザーが買い物する様子をVR空間で再現する「K∀RT3 GARDEN」(カルテガーデン)をはじめとした、研究開発への投資も加速する構えだ。

「コンセプトとしては『お客さまを大事に』『顧客視点が大事』といった当たり前のことしか言っていないKARTEだが、これをよりしっかり受け取っていただきたいとの思いから開発したのが、カルテガーデンだ。ユーザーを人として見られれば、感じ方や気づきが変わるということをもっと知ってもらいたい。そのために先を示す取り組みも進めていく」(倉橋氏)

また各サービスでの行動データの蓄積も進む中、R&Dによってデータをより意味のある形で、「人」化して本格的に提示していきたい、と倉橋氏は述べている。「新機能のライブやスコアでも、ゼロから見方を考えてもらうよりは、ある程度こちらから型を用意することで、顧客企業のナレッジのベースアップになれば。そういう意味でも、蓄積データで顧客を支援できれば、と考えている」(倉橋氏)

アプリ利用者をリアルタイムに解析して最適なメッセージが送れる「KARTE for App」提供開始

ウェブサイトの顧客行動を可視化する接客プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドは3月19日より、iOS、Androidのアプリ向けに「KARTE for App」の提供を開始する。

KARTEはサイトへの来訪者の行動をリアルタイムに解析し、「どういう人がどのようにサイトを利用しているのか」を可視化するサービス。可視化した個々のユーザーに対して、適切なタイミングでポップアップやチャットなどを使った適切なメッセージを発信することができる。2015年3月に正式ローンチして以来、約3年で累計22億人のユニークユーザーを解析してきた。

今回提供するKARTE for Appは、これまでウェブサイト向けに提供されてきたKARTEの機能を、iOS/Androidのネイティブアプリ向けにSDKとして提供するもの。アプリを利用するユーザー行動をリアルタイムに解析し、さまざまなタイミングでメッセージを配信することができる。

KARTE for Appの事業責任者で、プレイド プロジェクトリードの棚橋寛文氏によれば、「KARTEを利用する顧客からは、かなり前から『アプリでも同じことができないか』という相談があった」とのこと。

「ヒアリングしたところ、モバイル経由の利用が増える中で、アプリについてはマーケティングや運用がウェブに比べてまだうまくできておらず、課題とする企業が多いことが分かった。そうした顧客に、アプリについてもマーケティング支援を進めたい、ということで今回のリリースに至った」(棚橋氏)

KARTE for Appの機能は大きく分けて3つ。1つ目はアプリ内のユーザーをトラッキングして、行動をイベントベースでリアルタイムに解析できる機能。ダッシュボードやスコアなどで、ユーザーの行動やモチベーションの変化をつかむことができる。

2つ目は行動イベントやユーザー情報を自由に組み合わせてセグメントし、プッシュ通知やアプリ内メッセージを配信する機能。ユーザーの属性やタイミングに合わせて、いろいろな形でコミュニケーションを取ることができる。

3つ目は、ウェブサイトと相互にユーザー行動を解析し、コミュニケーションする機能。ウェブでKARTEを導入済みであれば、共通の管理画面でウェブとアプリ双方を横断的に解析できる。例えば夜、PCでウェブサイトを閲覧していたユーザーが、朝、通勤中にスマホアプリからアクセスしてきた場合に、プッシュ通知を送るなど、ワンストップでコミュニケーションを取ることも可能だ。

KARTE for Appは、KARTEの既存顧客を中心にクローズドベータ版が3月から提供されており、ZOZOTOWNクックパッドなどでの導入が既に決まっているという。棚橋氏は「業種・カテゴリーを問わず、アプリでのユーザー体験を良くしたい、という企業すべてを対象に導入を進めたい」と話している。

「“人”にひもづいたデータを“人”が分析しやすい形で提供」

プレイド代表取締役の倉橋健太氏は、楽天に2005年に入社し、約7年間在籍していた。その中で「ネットショップでも銀行などのサービスでもメディアであっても、ユーザーが行動したデータはたまる。それをより良いユーザー体験のために活用したい」と考えていた。しかし蓄積したデータを分析し、活用するためには相当の工数やリソースが必要で、「データ=資産」ではないのが実情だった。

そこで「担当者が誰でも簡単に、あるべき姿でデータを把握できるようにして、データを価値として還元したい。より世の中に流通させたい」との思いから、2011年に創業したのがプレイドだ。

倉橋氏は「人間は実は、数字でのデータ分析、計算は得意ではない。データを扱うには一定以上のリテラシーが要る。それを誰でも活用できるようにして、データの民主化に寄与したい」と話す。

昨年プレイドで開発された「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」は、「人間が不得意な方法ではなく、得意なやり方、普通の人のベーススペックでできる方法でデータを見えるようにする」取り組みだ。TechCrunchでも以前取り上げたが、このサービスでは通販サイトの訪問客の動きをVR空間上でリアルタイムに可視化し、実店舗で人が買い物をしているかのように見ることができる。

「“データ”ではなく“人”として見れば、人間にとっては分析の精度もスピードも上がる。そう考えて、R&Dの一環として、カルテガーデンをリリースした」と倉橋氏は述べている。

「市場で“ウェブ接客”という文脈で語られるときには、ポップアップやチャット、アンケートといったユーザーが目にするフロントのツールに焦点が当たりがち。だが、それ以外にも、マーケティングやカスタマーサポートなど多様な場面で支援することがあるはず。我々のサービスは人にひもづいた形で、人のオペレーションチェーンに組み込む方向にシフトしていく」(倉橋氏)

実は“ウェブ接客”という言葉はプレイドが発祥で、商標も登録してあるそうだ。だが、倉橋氏は「これからはKARTEを“ウェブ接客”ツールではなく、“CX(Customer eXperience:顧客体験)”プラットフォームとして打ち出していく」と言う。

「3年前のKARTEリリース時には、スタートアップとして現実解も出さなければいけない、ということで、ツールとして分かりやすい言葉で出した。でも当時から、長期的な目標として掲げてきた『データによって人の価値を最大化する』という考えではあったし、それは今でも変わっていない」(倉橋氏)

「データ活用は、行動する人やそれを読み解く人、すべての人々の活動の結晶。それがCXとなって反映される」と語る倉橋氏は、最近参加したオフラインのイベントなどで、CXが取り上げられ、浸透していることを再認識した、という。

「インターネットでビジネスを展開するときに、これまではグロースハック、物量のハックということが言われてきたが、そこからの揺り戻しが来ていると感じる。勝ち残るためには“個客”の視点が必要。“ウェブ接客”については市場を作ってきたという自負もあるし、ツールとしての改善はもちろん行っていくが、より、本当にやりたかったこととしてCXを改めて打ち出した。CXの視点でネットビジネス全般を良くしていきたい」(倉橋氏)

倉橋氏はまた「KARTE for Appは、KARTEの今年の攻めの1つ目のトリガー」と話している。「今まではオフラインイベントへの出展を除けば広告なども行わず、顧客企業から他社への紹介など、オーガニックな集客だけで来た。顧客も増え、オペレーションも整い、ニーズも顕在化したことから、今年は攻めに転ずる。ここから年内にかけて、いくつか大きめのサービスリリースも準備している。2018年を飛躍の年として、全力でアグレッシブに行くつもりだ」(倉橋氏)

「能力は誤差」スタートアップが見るべき人の資質、妥協しない採用とは——TC School #12

TechCrunch Japanでは2017年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドや働き方、人材戦略といった人材領域をテーマとした講演やパネルディスカッションを展開してきた(過去のイベント一覧)。HR Techシリーズ第4弾として2017年12月7日に開催された「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、パネルディスカッションの模様をお届けする(キーノート講演のレポートはこちら)。

パネルディスカッションの登壇者はプレイド代表取締役の倉橋健太氏、dely代表取締役の堀江裕介氏、ジラフ代表取締役の麻生輝明氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4人。創業者、あるいはHRサービスの提供者の立場から、それぞれが体験した「スタートアップ採用のリアル」について話を聞いた。モデレーターはTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が務めた。

始めに各社から、自己紹介も兼ねて事業の内容や現在の体制について簡単に説明してもらった。

まずは倉橋氏が2011年に設立したプレイドの紹介から。プレイドは従業員数約70人。ユーザーを「知る・合わせる」をコンセプトに、ウェブサイトの訪問者のリアルタイムな解析とアクションを可能にするカスタマーアナリティクスサービス「KARTE」を提供している。倉橋氏は楽天に2005年に入社、2011年まで約7年間在籍し、Webディレクション、マーケティングなどさまざまな領域を担当してきた。その倉橋氏が独立し、KARTEをリリースしたのはなぜか。

プレイド代表取締役 倉橋健太氏

ウェブサイトでは、ユーザーがいて、何らかのプロダクトやサービスを提供した結果、パフォーマンスが生まれる。倉橋氏は「残念ながら、インターネットのビジネスでは、ユーザーはトラフィック、サービスはサイトと捉えられていて、パフォーマンスから考える傾向が強い。この方法では『いかに高転換なサイトに人をたくさん流し込むか』ということだけ重視され、いろいろなところで疲弊してきているし、運営していても面白くない、ということになる」と述べる。

「昨日新規ユーザーが100人来た、と言っても、その100人は誰なのか。そういうことをしっかり可視化しながら、プロダクトやユーザー体験を良くしていきましょう、ということで、KARTEを提供している」(倉橋氏)

人の可視化が重要、と話す倉橋氏は、イベントの前の週にリリースしたKARTEの新サービス「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」を動画で紹介。これまでは、平面の管理画面で人を可視化していたところを、オンラインに来ているユーザーの行動をリアルタイムにVR空間で描画する試みだ(TechCrunch Japanの記事でも詳しく紹介している)。

カルテガーデンでは、人が商品を「手に取って」見ているところや売場を歩き回っている様子を、VRで見ることができる。「データを数字として見ることが多くの人は苦手なので、難しい。それを“人”として見ると、身近に感じて一気に簡単になる。(分かりにくい)データや数字はマーケティングから退けていきたいとの思いから、事業をやっている」と倉橋氏は話す。

続いて堀江氏から、delyの設立から今までの歩みについて紹介してもらった。堀江氏がdelyを立ち上げたのは2014年。2014年から2016年までは、現在とは違うサービスを提供していたがうまくいかず、2016年にピボットして、レシピ動画の「kurashiru」を作った。

dely代表取締役 堀江裕介氏

delyの従業員数は、現在130人ぐらい。うち社員は内定者を含めて60人だ。「昨年は十数人だったので、一気に増えた」と堀江氏は言う。「直近の四半期では50人採用した。このスピードで採用していると、相当失敗もしている。いい採用だけでなく、悪い採用もしているし、どういう採用チャネルがあるのか、どういった採用ハック方法があるのか、いろいろ試しているので、今日は参考にしてもらえると思う」(堀江氏)

正社員の採用チャネルは「基本的にリファラルとWantedlyで、7割近くを占める」そうだ。今のところまだ、エージェントと媒体を利用した採用は、それぞれ約10%で「社員の満足度が高いときには、やっぱりリファラルでの採用がガンガン効く」と堀江氏は話している。「Wantedlyの運用も、今は人事担当を1人つけて、がんばっている。あと、SNS経由については、僕が毎日どんどん発信しているので、これがかなり効いているかな、と思っている」(堀江氏)

ジラフ代表取締役 麻生輝明氏

次に紹介があったのは、ジラフの麻生氏だ。ジラフは2014年の創業。麻生氏が大学在学中に、買取価格の比較サイト「ヒカカク!」を始めたのが創業事業だ。その後、別のサービスもリリースしているが、会社として大きく人を増やし、組織も拡大するきっかけとなったのは、2017年3月にポケラボを売却したシリアルアントレプレナー・佐々木俊介氏が参画し、同時にポケラボのリードエンジニアだった岡本浩治氏がCTOとして参画したことだ、と麻生氏は言う。

「そこからビジネス側、開発側で人を一気に拡大し、だいたい8カ月ぐらいで2.5倍ぐらいの規模になった」と麻生氏は話している。現在は従業員全体で60人ぐらい、社員が30人ぐらいだという。

直近では、2017年10月に「スマホのマーケット」をリリース11月には資金調達も行ったジラフ。資金調達については「組織面が強化されていることも評価された」と麻生氏は言う。今後、スマホ即金買取サービスの「スママDASH」の公開も予定しているとのことだった(イベント後の12月21日、ジラフはTwitter経由の匿名質問サービス「Peing(ペイング)質問箱」を買収、さらに2018年1月15日にはスママDASHをリリースしている)。

エン・ジャパン執行役員 寺田輝之氏

エン・ジャパンの寺田氏は今回、スタートアップへ人材サービスを提供する側としての登壇だが、寺田氏自身もエン・ジャパンがスタートアップだった頃に入社している。現在はエン・ジャパンの執行役員を務める寺田氏の持論は「スタートアップは、成功するまではプロダクトづくりに専念しろ」というもの。自身がかつて直面した採用の課題に対して、先回りして解決できれば、ということで提供しているのが、クラウド採用ツールの「engage(エンゲージ)」だ。

engageでは「採用からエンゲージメントを意識してほしい」ということで、基本的に無料でサービスを提供。2016年8月のローンチから1年3カ月で5万7000社に導入され、「HRアワード 2017」では優秀賞も受賞した。

engageで提供する主要サービスのひとつが、スマホ対応の採用HP作成。寺田氏は「媒体やWantedlyで企業からの採用メッセージを発信することは絶対やった方がいい。その上で、メッセージを見た人は必ず企業のホームページも見に来る。これはエージェントを使っても一緒。そこで、事業内容やサービス内容に加えて、採用のページも充実させておくことで、面談や面接で会う前の魅力付けをすることが必要だ」と採用HPを用意することの意義について説明する。

「採用ページを個別に用意するのは結構コストがかかる。だったら僕たちの方で作ってしまって、ばらまいてしまおうと。さらに『エンジニアやデザイナーはプロダクトに集中すべき』という考えから、応募者管理のためのCMSや、ノンエンジニアがページを更新できるような機能も入れている」(寺田氏)

また、エン転職会員や提携するindeedなどを対象にした、採用のマーケティング支援もengageで実施。さらに性格・価値観テストと知的能力が測定できる「タレントアナリティクス」も月に3人分まで無料で提供している。

「スタートアップ採用あるあるとして、候補者のスキルは分かるが、カルチャーフィット、その人たちがどういう性格や価値観を持っているのかが、なかなか分からない、というのがある。特に創業初期の段階で、それが合わない人たちを入れてしまうと、結構苦労する。だから、カルチャーフィットの部分もしっかり見ていこう、というのがタレントアナリティクスのサービスだ」(寺田氏)

もうひとつ、寺田氏が紹介したサービスが、退職予測をアラートする「HR OnBoard」。入社して何年も経てば退職理由もいろいろ出てくるものだが、入社後1年以内に退職する人については傾向があると寺田氏は言う。エン・ジャパンでは3000社以上の企業の状況を分析した結果をもとに、「HR OnBoard」をリリースした。

「多いのは『思っていたのと違う』というギャップ、直属の上司とのリレーションのズレ、そして業務量が多すぎる、または少なすぎるというズレ。これらをずっと分析して『このタイミングで社員からこういう回答が出るときは、退職の危険性が非常に高い』『こういう回答なら大丈夫』というパターンを出し、ビッグデータからアルゴリズムを作って提供している」(寺田氏)

何もないところから日常的にコミュニケーションを取って、採用した人が退職しないようにフォローするのはなかなか難しいものだが、アラートが出て「このまま行けば辞められてしまう」となれば、一生懸命止めることができる。そのためのツールとして用意した、と寺田氏は説明する。

「私自身の経験も含めて、スタートアップでこれから起こりうるトラブルは絶対あるはず。そこに先回りできるツールを提供していく。さらにこうしたツールはこれまで、結構なコストを投入しなければ導入できなかったが、SaaSとして提供することで民主化した。ミスマッチのない、エンゲージメントの高い対応が実現できるように、ということで提供しているので、良ければ使ってみてほしい」(寺田氏)

「最初の5人」採用はやはり知人・リファラルが中心

各社紹介の後、話題は「創業して最初の5人はどうやって集めたか」へ移った。

ジラフの麻生氏が1人目の社員を入れたのは、創業1年ぐらいのタイミング。それまでは全業務の統括をひとりでやっていたという。「No.2が欲しい、ということで探していたが、そこにハードルがあった。COOを務められるNo.2人材は、起業しようという気力がある人でなければいけない。けれども、そういう気力のある人は、代表をやりたいわけで、ちょうど良い感じの人がなかなか見つからなかった。結果的に、VCから紹介してもらった人と会ったところ、その日に入社を決めてくれた」(麻生氏)

次に入社したのはエンジニア2人で、1人は業務委託で手伝ってくれていたメガベンチャー出身者。もう1人は「4月1日に会ったら、東大を卒業したところだけど就職が決まっていない、というちょっと変わった子で、その日のうちに採用を決めた」のだそうだ。

その後、現在は執行役員 兼 営業部長を務める人を採用。「彼は大手商社の出身で転職してきてくれたのだが、元々、大学時代にインターンが同じだったのが縁。最初の5人については、いずれも紹介や縁で入社してもらっている」(麻生氏)

delyの堀江氏は、サービスをピボットして実質2回の創業を経験しているが、1回目のサービスがうまくいかなかった際には、20人ぐらい一気に辞めたという。「唯一残っている最初からのメンバーは、現CTOの大竹(大竹雅登氏。TechCrunch Tokyo 2017でCTOオブ・ザ・イヤーにも選ばれた)。自分は『プライベートの友だちは絶対に誘わない』と決めていた。またエンジニアの友人もいないので、Facebookのプロフィールに『エンジニア』と書いてある人に片っ端から連絡を取った。100人ぐらいに声をかけたのだが、一番最初に引っかかってしまった(笑)のが彼だ」(堀江氏)

その後、第2創業期のメンバー集めでは「一度チームが崩壊してしまったので、チームメイキングができる人間が欲しいと考えた」という堀江氏。「大学時代に一度、VCのピッチの場で会った人が、起業をやめて大手消費財メーカーに就職したと聞いていた。彼に久しぶりに連絡をしたところ、話して3日後に辞表を出して、2分の1の給料で入社してくれることになった」と次のメンバー入社のいきさつを話してくれた。

「彼も大竹も一度起業を目指した起業家で、その後のメンバーも10人ぐらいまでは元起業家。タフなメンバーが今でも活躍している」と言う堀江氏に、元起業家を口説くときの方法を聞いた。「『自分で事業をやるより、俺とやった方が勉強できるだろう?』という謎の雰囲気を出す(笑)。本当は何も教えることなどなくて、自分が教えてもらってばかりですが」(堀江氏)

プレイドの倉橋氏は、ビジネスマンを7年弱経験してからの起業だ。楽天を辞め、初めはコンシューマー向けのアプリ提供やECコンサルを行っていた。最初のメンバーは役員4人。すべて知人、リファラルでの採用だった。

「取りあえずやりたいことをやるために会社を作ったが、会社ってそんなにうまくいくわけがない。他の仕事を持ちながら4人が集まったということもあり、サービスをローンチした後、初動は良かったが、なかなか伸ばすことができなかった」(倉橋氏)

そのため1年目に一度切り替えよう、ということでメンバーもリセット。同じ会社を器として使いながら、今のCTOと楽天時代の同期の紹介で知り合い、現在に至っているという。

「だから僕も2回創業があって、1年目はウォーミングアップだったと捉えている。その後、役員以外の社員が入りはじめてから20人弱ぐらいまでは、全員リファラル採用を行ってきた」(倉橋氏)

「スキル」よりは「学習能力」「フィットネス」を重視

では「最初の5人」のフェーズを終え、そこから拡大していくときに、各社はどういう基準・指標で人を採用していったのだろうか。

従業員70人、うち社員として60人を抱えるプレイドの倉橋氏は、社員の採用チャネルについて「まだリファラルが半分強。残りの半分のうちの半分がWantedly経由で、もう半分がエージェント」と概観を説明。「つまり信頼できる人を確実に誘っていく、ということをやってきた。社会人経験があることから、人を介して人につながる、ということはやりやすかった」と話している。

倉橋氏は「役割ごとの人数を(採用)計画に落とし込むということは、これまでほとんどやってきていない」と言う。「僕らの事業はまだまだ、これから立ち上がるフェーズだと思っている。だから人材を(初めから)見極めて採るという市場感ではなく、いい人をできる限り採る、それだけでやってきた。エンジニアかビジネスか、ぐらいの区分はあるが(細かい)役割を決めて採用するということは、いまだにほとんどしていない」(倉橋氏)

人材のフィット感を確かめる方法として「全員にアルバイトか契約社員で入社してもらい、3カ月見る」ということもやってきた、という倉橋氏。「中には9カ月ぐらいアルバイトしてから社員になった人もいる。そこで妥協しなかったことが、今の(企業)文化構築につながったと考えている」とのことだ。

採用基準については倉橋氏はこう語る。「新しい価値観を提供していくときに、一番重要なのは学習だ。個々人として、組織として、またプロダクトとして学習していく、という中では個人の役割なんて簡単に変わる。だから変化への許容度が高い人をいかに採るか、ということを優先してきている」(倉橋氏)

人の良し悪しの判断については「社内でも、CTOなどと話しているのは『能力は誤差だ』ということ」と言う倉橋氏。「そもそも新しいことをやっているのだから、その人の経験が100%ダイレクトに生きる、なんていうことは、まずない。経験や成功体験を疑える人にまず来て欲しい、というのが前提だ。だから『人間として好きかどうか、人間性が信頼できるか、真面目か』といったところを見ているのと、自分の言葉として事業に共感してくれているかどうか、能力よりも『一緒にやりたいかどうか』といった“人”っぽいところを基準に見ている」(倉橋氏)

採用チャネルの3割がリファラル、というdelyの堀江氏は「採用の基準は超簡単」と面白い視点を紹介してくれた。「会ったときに『この人とサシで飲みに行く約束をした1時間前に、イヤにならないか』ということを見ている。カルチャーフィットする人なら、気軽に飲みに誘える。定性的ではあるけれども、採用してからの感覚ともだいたい合っている」と堀江氏は言う。

「能力に関して言うと、見てはいるが、入社してから半年も経てば、そのジャンルに対する知見などは周りと変わらなくなってくる。だから過去の経験よりは、学習意欲の高さや学習スピードの速さを重視している」(堀江氏)

ここで寺田氏が「Googleでは『エアポートテスト』、つまり採用基準として『次に乗る飛行機が飛ばなくなり、空港の近くのホテルで泊まらなければならなくなったときに、一緒に泊まって会話ができるか』というテストを、科学的に行っている」と紹介。堀江氏に「イヤになるかならないか」を判断するときには、何を見ているのか尋ねた。

堀江氏は「うさんくさくない人かどうか」が基準だと話す。「前年比1500%達成!といった経歴を書く人がいるが、そもそも前年の運用期間が少ない、とか、話を盛っちゃう人はうさんくさいので、飲みに行きたくなくなる。自分の失敗や弱みまで含めて語れるような人は、僕はいいな、と思っている。カルチャーフィットというのは、ある意味、自分の彼女に対して『性格も良くて料理もできて、謙虚で』といった全部の条件を求めているようなものだけど、別に『会社に合わせろ』ということではなくて、何か間違ったときに素直に認められるような能力というのを、僕らは見ている」(堀江氏)

ジラフの麻生氏は、スタートアップとしての「採用のフェーズが変わってきた」という実感があるようだ。「創業から1年半ぐらいまでは、精神論的だが(基準が)『頑張れる人』みたいな感じだった。起業家プラス5〜6人、というときには、その温度感を一緒に持ってやれる人かどうか、というところを見ていた」と言う麻生氏。

「そこから規模が大きくなるにつれて、不器用な人というか『必殺技は持っているんだけど、今いる会社では上司から好かれない』とか、ちょっと変わった人が入ってくるようになってきた。ジラフではそういう人が多いので、みんなお互いに認めあっている、という環境になってきた」(麻生氏)

フェーズが変わったタイミング、きっかけについては「資金調達をして、大きめのオフィスに移転して、人をどんどん採用していくという中で、業務を回すために『頑張れない人』、定時に来て定時で普通に帰る、という人を入れていく時期は来る。今はそういう時期だな、と思っている」と麻生氏は言う。

また、倉橋氏や堀江氏と共通する点として「ポテンシャルがある人、過去の経験にとらわれず、会社が求めていることの説明を素直に受け止めてもらえて、うまくいかなくてもすぐに違う挑戦ができる、試行錯誤できる人を採用するようにしている」と麻生氏は言い、「そういう人は若い人に多い。今は20代の人を採用させてもらっている」と話している。

「ただ、20代は能力差が結構あって。すごく優秀な人を1人採るのと『普通に仕事ができます』という人を2人採るのでは、優秀な人を1人採った方がいい。そういう人は他の人も連れてこられるし、正の循環が回るというイメージがある。そこの質をどう担保するのか、ということも同時に意識はしている」(麻生氏)

リファラル採用、それぞれの「巻き込み方」「口説き方」

続いては、リファラル採用について。それぞれ、知り合いをどう巻き込むのか、成功している事例を各社に聞いた。

堀江氏は「自分事として考えること」が大切だという。「経営者は自分事として考えないことが多いけれど、もし自分が社員だったとして、この会社に本気で親友を誘えるか、と考えると、それは『この会社が好きかどうか』にかかっている。あとは、業績・社風的に信頼できるかどうか。僕らは、業績を上げることはもちろんだが、サービスの魅力を上げることなどで、まずは社員に好きになってもらうように頑張ることが大事」(堀江氏)

好きになってもらったその後は、社員の中で紹介を頑張った人を積極的に表彰し、Slackなど全社員の見えるところで称賛する文化を作ったことで、リファラル採用が加速した、と堀江氏は説明する。

「僕は学生起業家だったので、(自分の周りには)まだそれほど人材がいない。社員経由のリファラル採用のほうが最終的には増えてくると思う。また、1人の知り合いよりも100人の知り合いを探した方が圧倒的によいので、自分の紹介での採用もあるが、社員の紹介もかなりある」(堀江氏)

麻生氏は、基本的には自分がつかまえてきた人材が多い、と言う。「僕の場合は、採用したい人は2年かけて追いかける、ということをやっていた。3カ月おき、半年おきに飲みに行ったり、ごはんを食べたりして、定期的に会う。これはDeNA(創業者)の南場さんが『SHOWROOM』プロデューサーの前田さん(現在はSHOWROOM代表取締役社長の前田裕二氏)を採用するときに数年かかった、という話を聞いたのだが、それを真に受けてやっている感じだ」(麻生氏)

実際に2年かけて採用したエンジニアや、半年以上かけて口説いて入社した人事責任者が、現在ジラフでは働いているそうだ。

面談からどう踏み込ませるかについては、社員に会わせることが強い武器として機能している、と麻生氏は説明する。「うちは現場に自信があるので、口説いた上で『じゃあ、実際働く人に会いに来てみなよ』と来てもらい、社員に会わせるとだいたい一緒に働きたいと思ってもらえる」(麻生氏)

またジラフでは比較的早い段階で、CxO経験者を採用している。その手法について麻生氏はこう話している。「優秀な人ほどキャリアアップを真剣に考える。スタートアップに挑戦したいが、考えた結果、不安が大きくなることも。そういう方に対しては、今のキャリアから次のキャリアに進むときに『ステップアップしてるよね』という状態をちゃんと作るために、ポストや部署を用意する。その代わり、『そのポストで、これ以上の人は採れない』というギリギリの一番いい人を採用する、ということは毎回やっている。そこは妥協しているつもりはない」(麻生氏)

スタートアップでは「今後それよりいい人を採れなくなる」ということを恐れて、ポストを用意しない起業家も多いが、麻生氏は「僕はちゃんとポストを用意し、ストックオプションなども提示して、僕らの会社に普通なら来ないような人を取り込む、ということを連続的に繰り返している」と言う。

倉橋氏はリファラル採用について「仕組み化するのが難しい」と述べている。「社員が少ないときは一通り候補に当たり終わると、どうしよう、みたいな話になるので、あまり効率的な仕組みではない。ただ、僕らの場合は社員の平均年齢がだいたい30〜32歳ぐらい。そこで『日本酒を飲みまくる会』など、お酒の力を借りて、ガードが弱くなったところで仲良くなるようにしている(笑)。月に1〜2回、外の人を気軽に呼んでこられるような場を用意する、これだけはちょっとした仕組みとしてやっている」(倉橋氏)

もうひとつリファラルに効くテクニックとして、倉橋氏は「今のフェーズまでは、現実的な話を社内でもあまりしない、というのを貫いてきた」と言う。「夢のある話の方が、みんな楽しそうに話すので、外にも伝播しやすい。いざその話が外に伝わって新しい仲間が増えたときにも、はじめに夢で共感している場合、現実化するところでも人はなかなかぶれない。だから入社した後も安定しやすい」(倉橋氏)

こうして、とにかく夢を社内全員で語るようにしている、というプレイドで、倉橋氏が「ここまで来たか!」と思ったエピソードがあるそうだ。「採用候補者に『みんなものすごいレベルで夢を語りますね。これって事前に準備しているんですか?』と質問された。それほど、気持ち悪いぐらいに、それぞれの口から夢が出てくる。そういう会社って強くなれるんじゃないかな、と信じている部分はある」(倉橋氏)

ここで寺田氏から「メンバーと一緒に採用にチームとして取り組んで動き、ありがたかったこと、うれしかったことは?」と質問があった。

麻生氏は「僕の場合は学生起業ということもあり、中途採用のときに『スタートアップに転職するのはいいですよ』と僕の口から言うと、ポジショントーク感が強くなる。それを大手企業から転職してきた人に説明してもらうと、説得力が変わる、ということはある。また、口説きに行く、というやり方は一般の従業員では難しいケースが多いが、僕以外でもCFOなど、目的意識が強い人間が説得して『逃さず採りに行く』という採用ができる人がいるのは、すごく助かっている」と言う。

また倉橋氏は、人事採用の責任者から日々聞いていた苦しみとして「求人票を作れない」という話を紹介。「要は『こういうことができる人が欲しい』という求人を一切出してきていないわけで、エージェントも困るだろうし、人事採用担当もこのギャップを埋めるのは大変だったと思う。けれども、会社の成長も含めて、時間をかけながら、採用責任者がエージェントとコミュニケーションをしっかり取ってきてくれたおかげで、『変だけど、めっちゃいい会社があります』という感じで紹介してもらえるようになった。難しかった部分ではあるが、突破できると逆に強みになるのではないか、という気が最近ではしている」(倉橋氏)

採用失敗エピソード、やっておけば良かったことは?

この後は、会場からの質問で「一番の採用失敗エピソード」を各社に教えてもらった。

麻生氏は「経験者を採りたい時期に中途採用をしたが、あまり一緒に頑張ろう、という気持ちでやってもらえなかった事例があった」ことを紹介。「今では明確な採用失敗というのは起こらなくなってきた。社内で選考フローも作り始め、『こういう項目を見ましょう』というのも体系化されてきている。あとは、必ずどんな人でも僕が面接に1回は入るようにし、自分で見て『この人なら』という人だけを採るようにしている」(麻生氏)

堀江氏からは、採用の失敗ではないが初期メンバーとそれ以外のメンバーとのギャップについての悩みが打ち明けられた。「最初の10人がものすごくファイタータイプというか、タフな人間が多かった。となると後半に入ってくる100人目、120人目とかが、それを見てビックリしてしまう。そういうわけで、あらかじめ『めっちゃ働いている人もいれば、18時に帰ってる人もいるよ』とある程度、現実とのすりあわせが僕らにも必要なのかな、とは思っている」(堀江氏)

倉橋氏も失敗ではないが、やっておけば良かったこととして、採用すべき人材の順序・時期について述べた。「僕のようなビジネス系、マーケティングやディレクション系人材の採用は、スタートアップでも比較的困らないケースが多いと思う。だが、難しいのがエンジニアやデザイナーの採用。特に僕たちのようなB2Bのプロダクトの場合、デザイナーが一番難しい。うちはエンジニアについては初期から良い人材がいて助かっているけれども、デザイナーとして中核になる人間を、社員数5人10人のフェーズで1人でも採れていたら、立ち上がりはもう少し早かったのではないか、という気はする」(倉橋氏)

最後に、寺田氏からの「採用PRとして、こういうことを発信すべき、また注意すべきという点は?」との問いにも各社に答えてもらった。

堀江氏は、四半期に50人を採用したときの話として「僕自身が一番、社内だけでなく社外にも夢を語りまくっていた」と話す。「社長の思い、ビジョンを元々知った状態で面接に来てもらう、ということをとにかく心がけている。採用の確度も高まるし、社長自身が発信することは大事だ」(堀江氏)

麻生氏からは「僕らはストレッチして、優秀な人を採っていくようにしている。けれども優秀な人ほど、いろいろなことがすぐにできてしまい『褒められるのが当たり前』という環境になって、仕事が面白くなくなっていくことが多い」と“良い人材”を採用することに対しての注意点を述べた。

「僕らの環境では『いろいろなところで褒められてきた人たちが真剣にやらないといけない』という状況にするようにしている。30歳になろうという人たちが、真剣にキャッチアップしていく、という環境を作っていこうと思っているし、そこに挑戦的な気持ちで参加できる人に来て欲しい」(麻生氏)

倉橋氏は「採用広報、PRは正しく伝えることだと思う」と言う。「採用広報、PRを考え始めると、伝え方を間違えそうになるというか、自分たちらしくない伝え方や、いいところを探そうとして、そんなに大した話ではないのに外に出そうとしてしまうなど、自分たち自身が迷い始めることがいろいろある。でも、プロダクトも採用も、自分たちの努力以上のものは外には伝わらない。だから良く思われたいんだとしたら、本当に努力するしかないかな、と思っている」(倉橋氏)

ウェブ接客ツールに新構想、サイト間やO2Oでの顧客体験を可視化する「KARTE CX CONNECT」発表

ウェブ接客ツール「KARTE」を提供するプレイドは12月4日、KARTEをベースに、サイト間や実店舗などで分断されていた顧客の行動を横断的に可視化して、最適な顧客体験(Customer eXperience:CX)の設計・展開を可能にする「KARTE CX CONNECT」の提供開始を発表した。

KARTEは、サイト来訪者の特徴や行動をリアルタイムに解析して可視化し、ポップアップでの提案やチャット、SNSメッセージなどで個々の顧客に合わせたコミュニケーションを設計・提供することができる、ウェブ接客のためのプラットフォーム。2015年3月にサービスを開始し、2年後の2017年2月末時点で導入社数が1430社、年間のEC分野での解析売上金額は5000億円を超えているという。

あくまでサイト来訪者に対する接客に閉じていたKARTE。だが今回発表したKARTE CX CONNECTでは、KARTEを導入するメディアと広告主サイト、ブランドサイトと購入サイト、サイトと実店舗など、ドメイン間やオンライン・オフラインで分断されていた顧客の体験を統合して可視化。サイト(ドメイン)やオンライン・オフラインをまたいで、個々の顧客に合わせたコミュニケーションを設計することを目指すとしている。エンジニアによる開発や、マーケティングツール間の複雑な連携は不要で、KARTEのみで顧客の可視化と、それに合わせたアクション(接客)が可能だ。例えるならば、これまでプライベートDMPのように、自社サイトに閉じて、顧客の行動解析や接客を行っていたKARTEだが、このKARTE CX CONNECTで連携すれば、同じ顧客が連携するサイト間でどういった行動をしたか、またそれに対して接客を行うか、ということが分かるようになる。

例えば不動産サイトの場合、不動産ポータルサイトと仲介サイトやブランド・販売サイト、顧客とのタッチポイントとなるショールームのそれぞれにKARTE CX CONNECTを導入することで、マンションの購入を検討する顧客の行動の流れを一気通貫で把握することができる。

最終的にはオフラインで購入が行われることの多い、住宅や金融サービスなどでも、実店舗をつなげた営業支援が可能。オンラインから送客した顧客に対して、実店舗でも興味や関心に合わせた商談やコミュニケーションが実現できるという。

KARTE CX CONNECTは、メディアサイトではAll Aboutでの採用が同日発表されたほか、大手銀行、生命保険、保険相談サービス、住宅仲介サービスなどでの導入が決定しているそうだ。

プレイド代表取締役の倉橋健太氏は、KARTE CX CONNECTの提供により「KARTE=ウェブ接客=ポップアップツールではなく、KARTE=CXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)へと進化していく布石になると考えている」と述べている。

通販サイトの訪問客をVR空間上で可視化、ウェブ接客のプレイドが「カルテガーデン」を公開

「VR元年」と言われた2016年に続き、2017年もVR市場拡大の勢いは増していて、2017年第3四半期にはVRヘッドセットの出荷台数が初めて100万台を超えた。そんな中、通販サイトへの訪問客の動きをVR空間上でリアルタイムに可視化するサービスが現れた。

ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供するプレイドは11月29日、ファッションアイテム卸・小売のパルの協力を得て、パルが提供する通販サイト「PAL CLOSET」をVR空間上でお店として出現させ、買い物中のユーザーの動きが見える「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」を開発したことを明らかにした。

カルテガーデンは、買い手にとってのVRショップではなく、売り手にとっての売場把握のためのツールだ。カルテガーデンでは、サイト来訪者の属性や商品ページを閲覧する様子などを、“人型”のオブジェクトが仮想の“売場”を回遊しているかのようにVRで表示し、ユーザー行動を直感的にとらえることが可能。各ユーザーにフォーカスを絞ると、それぞれの過去の行動履歴なども個別に見ることができる。

プレイドではカルテガーデン開発について、ウェブ接客プラットフォームのKARTEで目指してきた「インターネット上の顧客を知る」「顧客に合わせて接客する」というコンセプトを、テクノロジーを用いて表現することにチャレンジした、と説明している。

カルテガーデンは2018年1月末まで、ブレイド本社で予約制で体験できる。企業・学生を対象とした体験の申し込みフォームにはここからアクセスできる。

ウェブ接客ツール「KARTE」提供のプレイド、5億円の資金調達—キャンペーンの売上7割増の事例も

プレイド代表取締役社⻑の倉橋健太氏

プレイド代表取締役社⻑の倉橋健太氏

ウェブ接客ツール「KARTE(カルテ)」を提供するプレイドは8月3日、Fidelity Growth Partners Japanおよび既存株主のフェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合を引受先とする第三者割当増資を実施し、合計5億円の資金調達を実施した。また今回の調達にあわせて、Fidelity Growth Partners Japanのデービッド・ミルスタイン氏が同社の社外取締役に就任する。

2014年9月にクローズドベータ版を公開し、2015年3月に一般にサービスを公開したKARTEは、リアルタイムにECサイトの来訪者を分析し、その状況にあわせてメッセージを配信したり、クーポンを発行したりという「接客」をすることでコンバージョンを促すツールだ。

導入費用は月額5000円から。接客数に応じて料金が発生する従量制課金制となっている。ユニークユーザー(UU)10万人以上の場合は定額のエンタープライズプランも用意する。ネットショップ作成サービスのカラーミーショップなどはワンクリックで導入ができるなど、外部サービスとの連携も積極的に進めている。

導入企業はアパレル・コスメ・家電といった各種ECサイトをはじめ、ホテルや人材紹介、不動産、英会話などに拡大。処理するページビューは月間10億以上。また累計UUは2億人以上で、一般公開した2015年3月以降、前月比40%増の成長を続けているという。「想像以上に著名なECサイトに使って頂けている。ECサイトは結局これまで来訪者がちゃんと見えないままサービスを提供してきた。ユーザーの行動や心理状況までをリアルタイムで見られるツールはほかにないと思っている」(プレイド代表取締役社長の倉橋健太氏)

 

その具体的な実績はというと——例えばアパレルECのベイクルーズでは、購入金額の合計が一定額を超えるとノベルティをプレゼントするキャンペーンを実施していたのだそう。その際、カート内の商品の合計金額が下回る場合にのみ「あと少しの金額を購入すれば貴重なノベルティがもらえる」という旨のバナーを表示した。これによって昨年比でキャンペーンの売上が69%も増加するという結果が出たそうだ。

ベイクルーズの事例

ベイクルーズの事例

 

またコスメECのコスメ・コムでは、共通の特徴を持った商品に興味を持った来訪者に対して、より詳細な情報をまとめた比較コンテンツに誘導して情報提供(接客)を行ったという。その結果、接客を実行した来訪者は接客されていない来訪者と比較して、購入率がPCで約6%、スマートフォンで約25%向上したという。

プレイドでは、今回調達した資金をもとに、エンジニアを中心とした人員を強化。サポート体制についても拡充する。「サービスの稼働率を上げるためにはサーポートとコンサルの両方が大事。顧客の分からないことを解決するだけでなく、次はさらに何ができるかを知ってもらうためのチームを強化したい」(倉橋氏)。また今夏をめどに、さらに大きな機能も提供することを検討中だという。さらに今後はグローバル展開を見据えた準備も進めるとしている。

ECサイトの接客ツールを開発するプレイド、フェムトから1.5億円を調達

ECサイトの「集客」と聞くと、SEOに広告にメルマガに…といくつも思いつくかも知れないが、その集客したユーザーの「接客」を実現しようとしているスタートアップがプレイドだ。同社は7月2日、フェムト・グロースキャピタルなどを割当先とする第三者割当増資を実施して、1億5000万円を調達したと発表した。あわせて、フェムト・グロースキャピタルのゼネラルパートナーである磯崎哲也氏が社外取締役に就任した。

プレイドが開発を進める「KARTE(カルテ)」は、サイトに数行のJavaScriptコードを埋め込むことで、訪問者の特徴や行動をリアルタイムに追跡できるサービス。

例えばGoogleアナリティクスのリアルタイムレポート機能では、サイトの来訪者について、ページビュー(PV)やユニークユーザー(UU)といった数字までは分かるのだが、ECサイトとして必要な属性が取れるわけではない。KARTEでは、そのユーザー1人1人に対してIDを振り、会員か非会員か、これまでの購入額はいくらか、コンバージョンはどれくらいか、どんなカテゴリを見るのか、といった属性までをリアルタイムに解析できる。ただし、会員情報と紐付ける場合は、別途カスタマイズが必要になる。

さらに、あらかじめ設定したユーザー属性やユーザーの行動にあわせて、即座に広告を表示したり、割引のオファーをしたりといった、まさに「接客」のような施策を自動で行える。「サイト上に商品をどのように掲載するか、広告やパーツをどう変えるだけでもコンバージョンは変わる。でも従来のシステムでそういった施策をするのは、長ければ数カ月の作業になる。KARTEではそんな施策をすぐに実現できる」(プレイド代表取締役の倉橋健太氏)。現在はクローズドベータ版として一部のサイトに限定してサービスを提供しているが、コンバージョンが3倍になったサイトもあるそうだ。

ところでサイトのコンバージョン改善と聞くと、いわゆる「グロースハック」を思い浮かべるのだけれども、倉橋氏は、「グロースハックはサイトの全体最適の施策だが、KARTEで実現するのは(ユーザー個人個人に対する)個別最適のための施策」と説明する。

実際にデモも見たし、機能もすばらしいと思ったのだけど、気になったのは使いこなすのにはそれなりに高いリテラシーが求められそうなことだ。これについてはもちろんプレイドでも意識しているそうで、現在業種にあわせて施策をテンプレート化しているほか、正式リリース時には機能を限定して提供するといったことも考えているそうだ。正式リリースは10月頃を目指しているとのこと。

ちなみに倉橋氏は楽天で楽天市場の事業に携わっていた人物。2011年にプレイドを設立し、当初は「foodstoQ」というグルメアプリを手がけていたがピボット。KARTEの開発に着手した。プレイドでは現在、EC関連の情報を提供するブログメディア「Shopping Tribe」も運営している。