急増するライブコマース市場の全体図、2018年版カオスマップが登場

企業ECのHTMLに数行のコードを書き加えるだけでライブコマースの機能を追加できるクラウド型ライブコマースサービス「TAGsAPI」。同サービスを提供するMoffly(モフリ)は、「ライブコマース・サービス カオスマップ」の2018年版を公開した。

同社はここ数年で急増するライブコマースサービスを、SaaS型、越境EC型、ECモール型、SNS型など全11種類に分類。「2018年はECモール型とキュレーション型以外に、越境EC型、SaaS型などのサービスが増加した」とコメントしている。また、ライブコマースの運営を支援する“黒子”サービスも増えており、今後も新たな企業による参入や領域自体の成長が見込まれるとしている。

ライブコマースアプリ「PinQul」がクローズへ

配信者が視聴者とリアルタイムにコミュニケーションをしながら商品を売買する「ライブコマース」。新しいコマースの形として中国で普及し、日本でも昨年に入って続々と新たなサービスが生まれ、注目を集めてきた。

これまでTechCrunchでもいくつかのサービスを紹介してきたけれど、そのひとつでもある「PinQul」がクローズすることになったようだ。同サービスを運営するFlatt代表取締役CEOの井手康貴氏が8月16日に公開した自身のブログ記事で、背景なども含めてサービスのクローズを発表した。

井手氏はブログ内で「僕個人の目指すところとして日本を変えるために10年で1000億円、20年で1兆円規模の会社にならねばいけないというのは意識していました」とした上で、もともとPinQulではアパレルの委託販売を行うライブコマースのプラットフォームを作ろうとしていたこと、最適化を進めた結果、自社ブランドを自社在庫で売るアパレル屋になってしまったことに言及している。

既存の日本アパレル企業の多くがユーザーに向けてではなくバイヤーに向けた商売になっており、半分は在庫が残る前提での価格設定、同じOEMをつかって同じような商品を各ブランドが作り、売れ残りが生まれてはセールで売る、そういった現状に対して、KOLによるD2Cブランドは一定の解を示すことはできたし今後も増えていく流れなのではないかと思っています。 ただ、これだとアッパーとしては10年で300億くらいの会社を作るのが精一杯かなと感じました。(井手氏のブログより引用)

同社CCOの豊田恵二郎氏によると「数字としては悪くなく、(5月リリースの)Web版を出してからは当初の想定以上のMAUにもなっていた」とのことで、伸ばせる余地もあったという。

ただ最終的には事業の規模感(アッパー)が見えてしまったこと、そしてそれが自分たちが当初目指していた形ではないこともあり、サービスクローズを検討。シリーズAの調達を進める中で、株主とも相談し7月末に方針を決定した。

現時点で具体的な時期は言及されていないが、クローズは9月が目安になる模様。次の事業に関しても「(現時点では)完全に白紙」であるものの、また新たなプロダクトでチャレンジをしていくという。

なおPinQulの正式リリースは2017年の10月。運営元のFlattは2017年5月創業で、これまで11人の個人投資家から資金調達をしている。

ライブコマース「PinQul」が7人の投資家から2700万円調達、“接触数”を増やすべくメディア性の強化へ

ライブコマースプラットフォーム「PinQul(ピンクル)」を提供するFlattは4月17日、7人の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により総額2700万円を調達したことを明らかにした。

今回のラウンドに参加したのは、Fablic代表取締役CEOの堀井翔太氏、メルペイ代表取締役の青柳直樹氏、個人投資家の三木寛文氏を含む7人。Flattでは2017年5月にもヘイ代表取締役社長の佐藤裕介氏やペロリ創業者の中川綾太郎氏らから数百万円を調達。同社に出資する個人投資家は合計で11人になったという。

今回調達した資金を元に取り扱い商材の拡大、インフルエンサーの起用、流通の最適化に加え、関連サービスの新規開発やWeb版の開発を進める。

Flattの創業メンバー。左からCCOの豊田恵二郎氏、代表取締役CEO の井手康貴氏、COOの綾部翔太氏、エンジニアリングマネージャー の町田公佑氏

ユーザーとの接触数を増やすための“メディア性”がキモ

冒頭でも触れたとおり、PinQulはインフルエンサーがライブ配信をしながらお気に入りの商品を販売できる、ライブコマースプラットフォームだ。ライブコマースは中国で一足早く普及し、2017年の1年間で日本でも一気に広がった。2018年に入ってもKDDIとエブリーが共同で事業開発に取り組むと発表するなど、すでに複数の企業が新規で参入。引き続き注目を集める市場になりそうだ。

PinQulの正式リリースは2017年の10月。コアなファンを抱える「マイクロインフルエンサー」を地道に開拓し、限られた配信者のみがライブ配信をできる仕組みとして運営してきた。11月中旬からはプライベートブランド「P.Q. by PinQul」を提供、2018年2月にはTOKYO BASEが手がける新ブランドのライブ販売を実施。合わせてPinQulを活用したい企業のサポートや、配信者の公募も始めている。

Flattの代表取締役CEOを務める井手康貴氏によると、プロダクトリリースからの約半年間は最低限の仮説検証のため、さまざまなことに取り組む期間だったという。今回の資金調達はその結果をもとに一層アクセルを踏むためのものだといえそうだ。

「ライブコマースについて良い点も悪い点も明確に見えてきた。悪かった点は改善しつつ、今後は取り扱い商材の拡大やインフルエンサーの起用を継続しながら関連サービスの新規開発にも取り組み、事業の拡大を目指していく」(井手氏)

井手氏の話では今後のPinQulで特に重要テーマとなるのが「接触数、視聴数を増やすための場所の確立」だ。配信ごとのCVR(購入率)やPBの売り上げが順調な一方で、ライブ配信だけではユーザーとの接点が限られる。今後スケールさせていく上では、いかにユーザーと接触する機会を増やし、PinQulへ誘導できるかがキモになる。

「最初はアーカイブ動画をコンテンツとして残しておくことで接触数を増やせるのではないかと考えていたが、実際はあまり上手く機能しなかった。今は別の手段でメディア性をもたせることを考えている。具体的には常に見ていて楽しいコンテンツをアプリ内もしくは外部のプラットフォームとして育て、相性のいいものをライブで扱うといったスキームだ」(井手氏)

Flattでは最近PinQulのAndroid版をリリースし、現在はWeb版の開発にも取り組んでいる。同時にサイトの設計も商品情報をベースとした「ECっぽい感じのUI」に変えていく予定。あくまでも軸はコマースの部分におきつつもメディア性を加え、その中で最適なライブの見せ方を模索していくという。

企業との取り組みを強化しキャッシュポイントを作る

またキャッシュポイントを作るという観点では、今後法人との取り組みも一層強化する方針。キーワードになりそうなのはリアル店舗とPBだ。

「日本のEC化率はまだまだ今後伸びる余地がある中で、リアルも含めた購買行動の設計を考えている。ポップアップショップにライブコマースとインフルエンサーを絡めた取り組みなど、具体的に話を進めている段階だ」

「扱う商品としては既存の商品よりもPBに注力していく。たとえばYouTuberなど影響力のあるインフルエンサーとPBの相性がいいことはわかっている。今後は『PBの請負人』のような形で、インフルエンサーがオリジナルの商品を作って売りたいと思った際に選ばれるポジションもとっていきたい」(井手氏)

最近資金調達をした「ShopShops」のように、配信者がブランドの店舗でライブコマースを行うというプロダクトも海外では登場し始めている。これはあくまで例にすぎないが、リアル店舗×ライブコマースという切り口はまだまだ発展の余地がありそうだ。

今回井手氏の話の中で、Flattとして将来的にはコマース領域以外でも複数の事業を展開し、多角化を図っていきたいという話もあった。とはいえまずはEコマースに注力し「10年以内にEコマースで最大のプラットフォームになる」ことを目指していくという。

「DELISH KITCHEN」提供のエブリーがKDDIと資本業務提携、30億円調達でライブコマース提供へ

レシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」などを提供するエブリーは3月12日、KDDIと資本業務提携を締結したことを発表。同日、第三者割当増資により発行する株式をKDDIが約30億円で取得し、今後エブリーがKDDIの持分法適用関連会社となる予定だ。両社は2018年7月を目途に共同でライブコマース事業を提供していく。

エブリーは2015年9月の創業。これまでに、2016年6月に約6.6億円、2017年3月に約27億円、2017年12月に約20.6億円を調達している。

エブリーではDELISH KITCHENに加え、女性向けライフスタイル動画メディア「KALOS」、ママ&ファミリー動画メディア「MAMADAYS」、ニュース動画メディア「TIMELINE」の4サービスを、FacebookやInstagram、YouTubeなどのプラットフォームを通じた分散型メディアとして提供。月間延べ4400万人以上に配信しているという。

今回の資本業務提携により、エブリーとKDDIは、ライブ配信動画の出演者にリアルタイムで質問やコメントをしながら買い物ができる、ライブコマース事業を提供していく。ライブコマースはKDDIグループが運営するショッピングモール「Wowma!」などにも展開する予定だ。

また、エブリーが持つ動画コンテンツとKDDIグループが持つユーザー基盤をはじめとしたアセットとの連携により、EC事業の企画・開発を進めるなど、国内EC事業の強化に両社で取り組んでいくという。

ライブコマースはECの有力なチャネルとなるか、PinQulとTOKYO BASEがPB商品の共同販売へ

2017年は国内ライブコマースの“黎明期”と言える1年だった。多くのサービスが立ち上がり、「ライブコマース」という概念が一気に拡大。TechCrunch Japanでも11月に開催したTechCrunch Tokyo 2017でパネルディスカッションのテーマに取り上げ、関連するニュースも度々紹介してきた。

2018年は他の業界がそうであるように、各企業の優劣がはっきりしてくるのではないだろうか。昨年の秋には先駆者ともいえる「Live Shop!」運営のCandeeがプライベートブランドを始めるなど、新たな取り組みもみられた。存在感を増す事業者がでてくる一方で、撤退を決めるところもでてきそうだ。

PinQul(ピンクル)」を提供するFlattもこのライブコマース市場で事業を展開する1社。昨年10月にアプリをリリースし、11月からはプライベートブランド「P.Q. by PinQul」を始めた。

そんなFlattが次に取り組むのは、自社商品を販売したい事業者とタッグを組むことによるPinQulの本格的な拡大だ。

同社は2月16日、PinQulにてTOKYO BASEの新ブランド「SOCIAL WEAR」のライブ販売を実施することを明らかにした。ライブを行うのはInstagramのフォロワーが22万人を超える「にょみ。」さん。自身がプロデュースした洋服を2回の放送で販売する予定。1回目の配信は本日21時からだ。

Flattでは今後アパレル商材に限らず、自社商品を販売したい事業者や個人の募集を進めるという。

従来のメディアとは異なるライブコマースの可能性

今回ライブコマースに取り組むTOKYO BASEのSOCIAL WEARはかなりエッジの効いたブランドだ。

コンセプトは、日本生産がシュリンクしていく中「日本のファッション製造業を活性化させ、強い日本産業を取り戻す」こと。日本製にこだわり、生産は受注ベース。実店舗を持たずEコマースに特化したブランドで、60%の原価率を誇る。

これまではZOZOTOWNでのみ販売をしていたが、新たなチャネルとしてPinQulが候補にあがった。ライブコマースの特徴はテキストや画像に比べて、リッチでインタラクティブなコミュニケーションが可能になること。SOCIAL WEAR自体がユニークなストーリーを持つブランドということもあり、TOKYO BASEとしてもライブコマースとは相性がいいと踏んだようだ。

特に今回ライブ配信をするにょみ。さんが売るのは自らプロデュースした洋服。PinQulではすでに自身で手がけた商品を販売した配信者が複数人いて、約30分で1万1800円のセットアップが40着以上売れたという事例もある。FlattのCCOを務める豊田恵二郎氏も「語るべきストーリーがあるものほど向いている」と話す。

人とものを増やし、本格的に規模拡大を狙うフェーズへ

Flattではこれまで、ライブ配信を行うキー・オピニオン・リーダー(KOL)についても、扱う商品についてもかなり限定していた。

代表取締役CEOの井手康貴氏や豊田氏も以前から「実際に売れるか」を重視していると話していて、単にSNSのフォロワー数が多いだけの「インフルエンサー」ではなく、ファンからの信頼があり実際にものを売ることができるKOLを直接キャスティングしてきた。商品についても、あくまで「自分の気に入ったものを紹介してマネタイズできる仕組み」を目指して、むやみに広げることはなかった。

その考えを突き進めたひとつの結果が配信者によるプライベートブランドであり、実際にCVRも10%〜20%と「商品が売れる」仕組みができ始めているという。

その反面、今のやりかただけでは同社が目指す規模までは大きくならないという話もあった。そこで次なる一手として始めるのが、TOKYO BASEのように自社商品を販売したいと考える事業者との協業だ。

「これまでクオリティコントロールをものすごく大事にしてきて、実際CVR的にもいい数値がでている。今後もPBには力を入れていくが、それだけでは難しいのでB向け(事業者)にも拡大しないといけない。直近は配信者のハードルを下がるために裏側のシステムや体験の改善に全振りしてきて、ようやく拡大に向けた準備が整ってきた状況だ」(井手氏)

現時点でもすでに複数の企業からPinQulで商品を販売したいという問い合わせがきているそう。「ライフスタイル」などある程度の基準は設けつつも、アパレル業界以外の企業にもPinQulの提供を進める方針だ。共同でプライベートブランド商品を開発したり、熱量のある社員が販売をしたりといった可能性もあるという。同様にライブ配信者についても公募を開始し、放送数の拡大も目指す。

「今後企業がどのライブコマース(プラットフォーム)がいいかを比較するようになっていく。結局のところ『売れるかどうか』が見られているので、CVRを下げないという部分は徹底した上で規模を広げていきたい。特にファッション領域のKOLは自分たちがしっかりと巻き込み、ものについても『PinQulなら売れる』という状況を作っていきたい」(井手氏)

「猛烈に売れるインフルエンサーは100人もいない」3人の先駆者が語る、国内ライブコマースの現状と展望

写真左から左からメルカリ執行役員の伊豫健夫氏、Candee代表取締役副社長CCOの新井拓郎氏、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏

2017年の流行語大賞にはWeb関連の言葉としてAIスピーカーやユーチューバー、インスタ映えといったキーワードがノミネートされた。仮にもう少し範囲を絞り、国内のスタートアップ界隈限定で流行語を決めるとすると、「ライブコマース」は少なくともノミネートはされるのではないだろうか。

スマートフォンでライブ配信をしながら、その最中にモノを売るライブコマース、は中国で先行して注目を集め今年に入って日本でも話題となった。

11月16日・17日に開催されたTechCrunch Tokyo 2017でも、ライブコマースに取り組む3社によるパネルディスカッションを開催。TechCrunch Japan副編集長の岩本有平がモデレーターを務める中、メルカリ執行役員の伊豫健夫氏、Candee代表取締役副社長CCOの新井拓郎氏、BASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏がそれぞれの戦略や今後の展望を語った。

3社がライブコマースを始めた理由と狙い

3社の中でライブコマース用の独立したプラットフォーム「Live Shop!」を提供しているのがCandee、既存のプロダクトにライブコマース機能を組み込む形で提供しているのがメルカリ(メルカリチャンネル)とBASE(BASEライブ)だ。

国内でもいち早くライブコマース市場に参入したCandeeは6月に「ライブ配信× コマース× インタラクティブ」をテーマとしたLive Shop!をリリース。インフルエンサーやモデルが自身のチャンネルを解説し、ライブ配信を行う。

同社は「ソーシャルビデオ革命を起こすこと」を目標に掲げていて、スマホファーストかつソーシャル性とインタラクティブ性を兼ね備えるライブストリーミングに注目。この領域では女性向けのプラットフォームが少ないことから、ファッションなどの分野にまずは集中する形でスタートしている。新井氏によるとライブコマースにしたのは、広告以外のマネタイズ手段を作る目的もあったという。

メルカリの場合はライブフリマ機能という形で7月にメルカリチャンネルをリリース。直接的なきっかけは中国の上海で実際にライブコマースを目にしたこと。「C2Cの売買がリアルタイムで進む様子を見て驚いた。これを自分たちがやらなければ誰がやるのかという話で盛り上がりリリースに至った」(伊豫氏)

当初はインフルエンサーや芸能人が中心で始まり、8月から個人ユーザーにも解放。農家の人が野菜を売ったり、家族が古着を売ったりなど幅広い領域で利用が進み、1日800名ほどが配信を行うほどに成長している(11月のTechCrunch Tokyo開催時点)。

BASEもメルカリ同様にライブコマース機能を9月にリリース。BASEでは自分のブランドや商品を作る店舗が多く、商品のブランディングが課題のひとつ。商品ページのテキスト情報だけでは十分に伝わらない魅力を届ける手段として、ライブ機能を始めた。11月時点で1日あたりの配信数は100本弱、売れる商品だと1時間の配信で売り上げが100万円弱になっている。

メルカリやBASEで共通していたのは、商品の背景にあるストーリーを伝える手段としてライブ配信に注目していること。視聴者とのコミュニケーションも含めて、商品の魅力を深ぼって紹介できるのがライブならではの利点だという。

積極的にライブ参加する視聴者ほど、購入率が高い

参入の背景はそれぞれ違えど、やはり気になるのは実際に売れているのか、手応えを感じているのかどうかということ。その点について新井氏は「ぶっちゃけ日本でも売れるのか?またどうやったら売れるのか?ビジネスモデルの検証を最初にやった」という。

具体的にはユーザーボリュームは追いかけず、商品が売れるかどうかのコンバージョンやどのような演者の評判がいいのかを分析した。「結果として見えてきたのが、ライブに参加するほど購入率があがるということ」(新井氏)

Live Shop!ではライブ中にハートやコメントをした場合にライブ参加としてカウント。実際に商品を購入した人は、その他の人に比べて2倍のライブ参加率だったそうだ。それがわかったため、次のフェーズでは「どうやればライブに参加してもらえるか」に着目して映像の作り方や機能面の研究をしているという。

売れる人と売れない人の二分化が進む

メルカリチャンネルの場合はLive Shop!とはある意味真逆。伊豫氏いわく「インフルエンサーじゃない一般の人が配信しても売れるのか?」ということを検証してきた。

「売れる人と売れない人の差が広がり、二分化が進んでいる状態。売れる人はメルカリの中でインフルエンサーとなってフォロワーがつき、ずっと売れ続ける。1番の成功例はテレビでも紹介された農家の方。収入が20~30倍になり『人生が変わった』という声もいただいている」(伊豫氏)

その一方で全く売れない事例もたくさんあるそう。ライブ配信で商品の魅力を説明することは簡単なことではない。多くの場合はスペックを語るくらいしかできず、この点が今後伸ばしていく上でのポイントだという。

売れるユーザーと売れないユーザーの二分化現象はBASEでも同様だ。鶴岡氏は「本当に好きでその商品を作っている・売っている人と、お金儲けが先行している人で結果が大きく変わってくる」と話す。

「ユーザーからの質問に対する回答ひとつですぐにわかる。たとえばある漆職人の方の場合は『どこの漆なんですか?』という質問に対して、日本の漆の状況や特殊な作りなど永遠と語り続けるほど。好奇心があってものづくりが好きな人のライブは、インフルエンサーかどうかに限らず盛り上がる傾向にある」(鶴岡氏)

このようなチャンネルは固定のファンがつき「人で売れる」ようになるというのは、3社とも共通しているとのこと。商品を売り始めた瞬間に商品が売れて「バグが起きたのかと思った」(新井氏)こともあるそうだ。

少なくとも現段階においては、“誰が発信しているのか”ということが重要なポイントになっているのは間違いない。ただ新井氏が「猛烈に売れる人は、100人もいないのではないか」と話すように、ライブコマースで物を売ることのできる人数には限りがある。

「現時点でのマーケットサイズは小さいが、マーケットポテンシャルは大きい。人の育成や発掘にも力を入れていく」(新井氏)

ライブ配信を重ねていくうちにスキルをあげ、売り上げを伸ばしていく人は各社にいるそう。伊豫氏は「1日目と2日目の配信で結果は全然違う。配信者が育つのは間違いない」とメルカリチャンネルの事例を紹介。鶴岡氏も「最初は恥ずかしくて顔を出さない人が多いが(慣れていくにしたがって)徐々にみんな顔出しをするようになる」と話す。

ライブコマースの本質は「コミュニティ」にあり

3人は今後国内のライブコマース市場がどのようになっていくと考えているのだろうか。パネルディスカッションの最後にそれぞれが見解を述べた。

「地方のショップオーナーが『今お客さんがいないので1時間だけライブECします』とライブ配信をして商品を売っていたことに未来を感じた。これが来年なのか10年後なのかは別として、今後スタンダードになっていくと思う。ポテンシャルは十分にある」(鶴岡氏)

「中国の事例含め、(2時間で約3億円売れたケースなど)最大瞬間風速にスポットライトが当たっているが、実際にはコミュニティビジネスに近い。永続性、継続性を持ってファンとのコミュニティを育てていくことが重要。その上でスモールサイズのコミュニティをたくさん作るのか、ミドルサイズを狙っていくのか。自分たちはミドルとある程度大きなコミュニティを作りながらブランドを育てていく」(新井氏)

「重要なのは『在庫』と『人』。(この2つをつなぐ)スムーズな仕組みが作れれば日本でもポテンシャルはある。ライブコマースによって物と人の組み合わせのバラエティが豊かになり、新しい流通や市場が生まれている。インターネットとコミュニティの掛け合わせがライブコマースだと考えていて、メルカリでも可能性を狭めずにこの市場を捉えていきたい」(伊豫氏)

セッションが終了してまだ約1ヶ月ほどだが、その間にも大きな動きがあった。Candeeではセッション中に少し話のあった、ライブコマースとD2C(Direct to Consumer)を掛け合わせたプライベートブランドを11月16日に発表。新たな商品展開に取り組み始めるとともに、12月には24.5億円の資金調達を実施した。

メルカリも12月より伊藤久右衛門やインプローブスといった一部の法人にメルカリチャンネルの提供を開始。C2Cという枠組みを取り払って、コンテンツの拡充に向けて動き出している。

30分で40着以上売れることも――ライブコマース「PinQul」がプライベートブランドを開始

2017年に入り日本国内でも一気に知名度が上がったライブコマース。「TechCrunch Tokyo 2017」でもライブコマースに関するセッションを行ったが、やはり注目度は高かった。

10月のサービスローンチ時に紹介した東大発ベンチャーFlattも、この領域で事業展開をするスタートアップのひとつ。同社は12月19日、運営するライブコマースアプリ「PinQul(ピンクル)」にて、プライベートブランド「P.Q. by PinQul」の展開を開始したことを明らかにした。

TechCrunch Japanでは「Live Shop!」を提供するCandeeがプライベートブランド「TRUNC 88(トランクエイティーエイト)」を始めるという発表をつい先日紹介したばかり。ただPinQulは一足早く11月中旬からプライベートブランドの提供を開始。12月中旬までの約1ヶ月で、すでに数百万円の売り上げになっているという。

約30分で1万1800円のセットアップを43着販売

PinQulはインフルエンサーがお気に入りのファッションアイテムを紹介するライブコマースアプリ。主に20~30分間のライブ配信を通じて、商品の紹介やユーザー間のコミュニケーション、商品の売買までを行う。誰でも商品を売れるオープンなプラットフォームではなく、PinQulの運営が配信者を選ぶ。

プライベートブランドの構想はサービスローンチ前に取材した時から話がでていたが、ODMメーカーと組んでインフルエンサーが商品をデザイン、販売できるというもの。ただし個々のインフルエンサーが独自のブランドを持つわけではなく、デザインしたアイテムを「P.Q.」ブランドの元で販売する形をとる。

11月中旬より提供を開始し、12月中旬時点で3人の配信者がアクセサリーやセットアップといったオリジナルアイテムを計6回販売。売り上げは数百万円になっている。FlattのCCOを務める豊田恵二郎氏によると高単価の商品も売れているそうで、実施した回数はまだ多くないものの手応えを感じているという。

「代表的な例としては1万1800円のセットアップが1度の配信で43着売れた。ライブコマースは従来のテキストや画像、動画と比べて伝えられる情報が多い。ユーザーとのコミュニケーションやユーザー間のコメントなどリッチな体験を通じて商品を販売することで、購入率や購入単価をあげられるという当初の仮説が検証できてきている」(豊田氏)

実際に販売されているオリジナルアイテム。左のグレーのセットアップが43着売れた製品だ

売れる人の特徴は「ライブ慣れ」したフォロワーがいること

PinQulの正式ローンチから約2ヶ月半。豊田氏に直近の進捗について聞いてみると、「プライトベートブランドで予想以上の売り上げを記録したことが1番大きな変化」としつつ、合わせて売れる人の傾向がわかってきたという。

「実際に2ヶ月やってみて、人による差がものすごく大きいとあらためて感じた。たとえばフォロワー数のような単純な指標はあてにならない。影響が大きいのはライブ慣れしているかどうかということ。具体的には(配信者の)フォロワーがライブ慣れしているかが、商品の売れ行きに影響する」(豊田氏)

ライブが盛り上がることでより商品が売れるようになり、そのためには視聴するフォロワーのコメントが不可欠。ところがライブ慣れしていないフォロワーばかりだと肝心のコメントがつかないため、配信を頑張ってもなかなか売れないということもあるそうだ。たとえばセットアップを43着販売したインフルエンサーは、普段からインスタグラムでライブ配信をするなど自身もフォロワーもある程度ライブ慣れしているという。

とはいえ回数を重ねるごとにライブ慣れして成果があがることも多く、上述したインフルエンサーも1回目よりも2回目の方が販売数が増えたそうだ。

フォロワーが強力な売り子になることも

また視聴者であるフォロワーが売り上げに影響する例として興味深かったのが、1回目の配信で商品を購入したユーザーが「コアなファン」となり、2回目の配信で売り子のような存在を果たしたという話だ。

豊田氏によると「前回の放送でフォロワーになった人が、2回目の放送で他のユーザーに対して自発的におすすめのサイズなどアドバイスのコメントを行っていた」という。リアルタイムでのユーザー間コミュニケーションによって商品の売れ行きが変わるというのも、ライブコマースならではだろう。

ライブコマース領域に特化してサービスを運営する中で、Flattにはこのような双方向コミュニケーションに関する知見も蓄積されてきた。直近では配信者やコンテンツの数を増やしながらも、知見を共有することで配信者の育成にも力を入れていく方針だという。

なお10月のサービスローンチ時に、同社がフリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏や、ペロリ元代表取締役の中川綾太郎氏を含む個人投資家から資金調達を実施したことにも触れた。個人名や金額などは非公開ではあるが、現在までで個人投資家の数もさらに増えているということだ。

「Live Shop!」提供のCandeeが総額24.5億円を調達、ライブコマース事業の横展開を視野に

若い女性向けのライブコマースアプリ「Live Shop!」を手がけているCandeeは本日、総額24.5億円の第三者割当増資を実施した。リードインベスターはEight Roads Ventures Japanが務め、既存株主であるYJキャピタル、NTT ドコモ・ベンチャーズ、オプトベンチャーズ、グリー、大一商会、みずほキャピタルも調達ラウンドに参加。また、同時にEight Roads Ventures Japanの深澤優壽氏がCandeeの社外取締役に就任したことを発表した。

Live Shop!」は、モデルやインスタグラマーなどのインフルエンサーが出演する1時間程度の番組をライブ配信するアプリだ。ユーザーは番組を見ながらインタラクティブにハートのスタンプを送ったり、コメントを残したりできることに加え、番組で紹介される商品を購入することができる。

Candee20176月に「Live Shop!」をリリースし、現在週に10本ほどのライブ配信を行なっている。Candeeではこれまでに9800本以上のライブ配信、1300以上のモバイル動画を制作したという。

サービスリリース以降、「検証をしっかりやってきた」と取締役副社長CCOを務める新井拓郎氏は話す。ライブコマースは一足先に中国で盛り上がっているものの、本当に日本のユーザーもライブ配信を見て物を買うのか。検証を進めた結果、ユーザーのライブ配信におけるエンゲージメントを高めることで、商品の購入率も高まることが分かり、ライブコマース事業に手応えを感じていると新井氏は言う。

「ライブ配信中にハートのボタンを押したり、コメントしたりするユーザーの参加率を見ています。このユーザーの参加率を高めていくと、購入率も高まることが分かりました」。

Candeeの掲げるソーシャルビデオプラットフォーム構想

Candeeは、現在提供している「Live Shop!」を他にも音楽、ニュース、スポーツといった分野に横展開する「ソーシャルビデオプラットフォーム構想」を描いている。「視聴者のエンゲージメントを作って、ユーザーにアクションしてもらうことは、どの領域でも活用できる部分であると考えています」と新井氏は説明する。具体的な時期はまだ決めていないものの、次はスポーツ分野でのサービス展開を検討しているという。トライアル段階ではあるが、CandeeはすでにNTT ドコモと「Live Shop!」の番組内でスポーツ関連の配信企画を進めている。

今回の資金調達は「ソーシャルビデオプラットフォームの構想に向けてアクセルを踏むため」であり、事業拡大と人材採用に充てる予定とCandeeは説明している。

メルカリが法人向けビジネス開始、ライブコマース機能「メルカリチャンネル」を11社に提供へ

メルカリはフリマアプリ「メルカリ」の一部機能を法人企業向けにも開放していくことを明らかにした。対象になるのはライブ配信形式で商品の販売や購入ができるライブコマース機能「メルカリチャンネル」。12月1日より伊藤久右衛門やインプローブスなど食品やアパレル領域を中心に11社が参画する。

メルカリチャンネルは7月6日にリリースされた機能で、視聴者と販売者が相互にコミュニケーションがとれること、写真や文章だけでは伝わらない商品のイメージをライブ配信形式で紹介できることが特徴。主婦が空いた時間に子供服を販売したり、ハンドメイド作家が作品を作りながら販売したりといった形で利用が増え、急速に成長しているという。

今回から法人企業にも提供することで、法人ならではの商品やものづくりの過程など新たな切り口のコンテンツを拡充させていく狙い。法人企業はメルカリチャンネルを通じて全国のメルカリユーザーにアプローチできるチャンスとなる。

初期費用や月額利用料は無料で、販売手数料が10%。メルカリでは「食品メーカーが商品を使って実際に調理している様子をライブ配信したり、アパレルメーカーが衣服を着用した様子やコーディネートの方法を見せながら販売したり等の活用」を見込む。

先日開催したTechCrunch Tokyo 2017でもライブコマースに関するセッションを開催したが、この領域はここ数ヶ月だけでもかなり動きが激しくなっている。9月にはBASEが店舗向けにライブコマース機能をリリース。11月にはヤフーが「Yahoo!ショッピング」の法人出店者向けに「Yahoo!ショッピング LIVE」を始めている。今後法人向けのライブコマースも活発になっていきそうだ。

今回メルカリチャンネルに参画するのは以下の11社。利用状況を見ながら参画企業を拡大していく方針だ。

  • 伊藤久右衛門(抹茶スイーツ・宇治茶)
  • インプローブス(メンズアパレル)
  • 携帯市場(中古スマホ・スマホアクセサリー)
  • コージィコーポレーション(子供服)
  • ズーティー(レディースアパレル)
  • ネオグラフィック(レディースアパレル)
  • 日本株式会社(飲料品、ドルチェグスト等)
  • ピービーアイ(メンズアパレル、レディースアパレル)
  • ポケットマルシェ(野菜、魚介類)
  • マイティー(レディースアパレル)
  • 夢展望(レディースアパレル)

ライブコマース×D2Cで新たな商品展開へ、「Live Shop!」運営のCandeeがブライベートブランド立ち上げ

ライブコマースアプリ「Live Shop!」を提供するCandeeは11月16日、ライブコマースとD2C(Direct to Consumer)を掛け合わせた新たな商品展開として、同社初のプライベートブランド「TRUNK 88(トランクエイティーエイト)」を立ち上げることを明らかにした。

同ブランドでは約23万人のフォロワーを抱える、インスタグラマーの佐野真依子氏をクリエイティブディレクターに起用。アクセサリーやバッグ、シューズ、ライフスタイル雑貨などのアイテムを中心に扱う予定だ。

Candeeは2015年の設立以降、これまでにライブ配信9800本以上、モバイル動画1300本以上の企画から制作、配信までを手がけてきた。同社はソーシャルビデオプラットフォーム上でさまざまなカテゴリの動画コンテンツを提供することを目指し、その第一弾として6月にLive Shop!をリリースしている(立ち上げの背景や構想についてはLive Shop!リリース時に詳しく紹介している)。

Live Shop!の開始から約5ヶ月が経ち、今回新たにブライベートブランドを立ち上げる背景には、ライブコマースとD2Cに高い親和性があるからだという。

Live Shop!はインフルエンサーが着用しているファッションやおすすめのアイテムを、ライブ配信形式で紹介するアプリ。ユーザーはコメントやアンケートなどを通して出演者とインタラクティブなコミュニケーションを楽しみながら、リアルタイムで商品を購入できる。

この「ユーザー属性や傾向、ニーズを直接リアルタイムに収集できる」というライブコマースの特徴は、「自社で企画した商品を小ロットかつ適正価格で製造し、直接ユーザーへ販売できる」D2Cのモデルと相性が良いというのがCandeeの考えだ。

ライブコマースとD2Cの強みを掛け合わせることで、データを元にした商品製造を短期間で行い、商品投入のサイクルやロット数をコントロールできる。Candeeではマーケットインの商品展開により、さらなる販売力の強化、利益拡大を目指す。

なおTRUNK 88は12月19〜21日にLive Shop!および受注会で先行発売を実施し、2018年1月中旬からLive Shop!や公式ECサイトにて正式に販売開始する計画だ。

「ユーザーと近い世代の方がいいものを作れる」東大発・Flattがライブコマースアプリ「PinQul」公開

「参入企業は増えてきているものの、ライブコマースに特化してやっているところはまだ多くない。僕たちはライブコマースのプラットフォームを作っていきたい」——そう話すのは、現役東大生が中心となって起業したFlatt代表取締役CEOの井手康貴氏と、COOの豊田恵二郎氏だ。同社は10月5日、ファッションアイテムを対象としたライブコマースアプリ「PinQul」をリリースした。

“ライブ配信”を通じた新たな購買体験として注目を集める、ライブコマース。2017年に入ってから日本でも次々と立ち上がり、Techcrunchでもほぼ毎月ライブコマースに関連するニュースを紹介してきた。

直近ではGUが参入したり、俳優の山田孝之氏がライブコマース事業を手がける会社を立ち上げたりと大きな動きもあったものの、まだサービスが本格化するには至っていない。メルカリやBASEの参入も注目を集めたが、あくまでメインサービスの販売チャネルの1つという印象が強く、現時点では圧倒的なサービスがあるわけではない。

今回Flattはアプリのリリースに合わせて、第三者割当増資による資金調達を行ったことを明かしている。引受先はフリークアウト・ホールディングス代表取締役社長の佐藤裕介氏、ペロリ元代表取締役の中川綾太郎氏を含む複数名の個人投資家。金額は数百万規模だという。

Flattにとって外部からの資金調達は今回が初めてで、これを機にライブコマースプラットフォームを拡大する方針だ。

本当に気に入ったものだけを紹介する、ライブコマースアプリ

PinQulは女子高生や女子大生など若い女性をターゲットに、インフルエンサーがお気に入りのファッションアイテムを紹介するライブコマースアプリだ。

誰でも自由に配信できるC2C型ではなく、PinQulの運営によって選ばれたインフルエンサーが配信を行う。方向性としてはCandeeのLive Shop!に少し近いが「番組の作り方が異なる」という。

「(Live Shop!は)コンテンツが重視されていて、1時間前後のテレビ番組を見ているような感覚。しっかりとした企画があって、その一部で商品が紹介される。PinQulではよりコマース軸に振り切って、その時に売りたい服を20~30分で紹介するというものが多い。基本的には商品の紹介とそれに対するコミュニケーションで成り立っている」(豊田氏)

PinQulで取り扱う商材は「配信者の所有するアイテム(フリマ形式)」「既存のブランド品」「インフルエンサー自信がデザインしたアイテム」の大きく3つ。敷居を低くする意味でも最初はフリマ形式をメインにするが、徐々に残りの2つを増やすようにシフトしていくそうだ。

ブランド品については「merry jenny」「EMODA」などを展開するMARK STYLER傘下のブランドの取り扱いがすでに決定済み。今後も取り扱い商品を拡大しながら、従来のECよりも店舗に近い形での購入体験や、ファッションショーの生配信とコマースの掛け合わせなど新たな取り組みを検討する。

また既存の製品だけでなく、Flattが提携するODMメーカーと組んでインフルエンサー自身がデザインした商品を販売できるような仕組みも整える。この背景には既存のインフルエンサーマーケティングに対する課題感があるという。

「(インフルエンサーマーケティングの中には)ある意味『信用を切り売り』しているような事例も多い。ブランドから言われた商品を自分のSNSで紹介しても、今のユーザーはそういう動きには敏感で反応が薄かったり、コメント欄が荒れたりするなど評判が良くない。PinQulではあくまで自分の気に入ったものを紹介してマネタイズできる仕組みを目指していて、その究極が自分で作ったアイテムを売ることだと考えている」(井手氏)

「ユーザーと同世代」という強みを活かす

Flattの設立は2017年5月。エンジニアとしてFiNCやメルカリに在籍していた代表の井手氏を始め、東大生を中心にPinQulのユーザーと同年代の若いメンバーが集まる。

PinQulの構想は井手氏がメンバーの1人と中国を訪れた際に、ライブコマースが実際に流行していることを体感したことから。セキュリティ分野のサービスと迷ったそうだが、市場の盛り上がりやメルカリに関わったことでコンシューマー向けのサービスに興味を持ったこと、そしてユーザーと同年代であることもありこの領域を選んだ。

確かに若い世代のインフルエンサーに対する熱心度や、既存のインフルエンサーマーケティングに対する反応は同年代だからこそより実感できる部分はありそうだ。実際サービス設計の面ではもちろん、配信者となるインフルエンサーを開拓する際も、自分たちのまわりにターゲット層の女性が多いことはすごく大きいという。

たとえばインフルエンサーについては、同世代の女性がフォローしている「マイクロインフルエンサー」を見つけ、自分たちからアプローチをしているそう。事務所に所属していなかったり、一般的な知名度はなくても影響力を持つ女性を集めコミュニティを作っているという。

PinQulの正式なリリースは本日だが、1ヶ月程前からベータ版を運用。10個の商品が0.3秒で売り切れる(正確にはカートに追加され、その後全商品が決済された)こともあり、規模はまだ小さいがニーズは感じているそうだ。

これから他のサービスが参入することも十分考えられる領域なだけに、PinQulがどこまでプラットフォームを拡大できるのか、今後に注目だ。

ECプラットフォームのBASEがライブコマースに参入——店舗登録者ならアプリで即配信可能

日本でも続々とサービスが始まっているライブコマース。Candeeが6月にライブコマースアプリ「Live Shop!」の提供を開始、7月にはメルカリがライブフリマ機能「メルカリチャンネル」をリリースしたが、今度はネットショップ作成サービスとショッピングアプリを提供するBASEが、ライブコマースへの参入を発表した。

BASEが9月20日から提供を開始する「BASEライブ」は、ショップ作成サービスに登録する店舗が商品や店をライブ配信で紹介できる機能だ。店舗をフォローする顧客との間で、リアルタイムで双方向のコミュニケーションを取ることもできる。

BASEライブの利用料は無料。1配信につき15分、毎日19時から約3時間の間を配信時間としている(配信時間は順次拡大予定とのこと)。視聴する側は、ショッピングアプリ「BASE」の最新版で、フォローしている店舗のライブ配信を見ることができる。ライブ配信を見ながら商品を買うことや、ハートやコメントによるリアクションも可能だ。

配信する店舗側は、配信専用アプリ「BASEライブ 配信アプリ」(現在はiOS版のみ)をダウンロードすれば、ライブ配信が可能になる。BASEでは、タレントやインフルエンサーが、自らの公式ショップで配信を行うことも予定しているというが、店舗自身でアプリを使ってライブ配信する手段が最初から用意されている。Live Shop!やメルカリチャンネルでは今のところ、一部のユーザーやインフルエンサーのみに配信機能が提供されているのと対照的だ。

BASEでは、ネットショップ作成サービスをこれまでに40万店舗が利用。またショッピングアプリの方は、300万ユーザーが利用するという。アプリでは、これまでにもブログ機能やプッシュ機能、店舗のフォロー機能など、集客や販促をサポートする情報発信の機能が提供されてきたが、今回のBASEライブの提供により、商品紹介ページの説明文や画像だけでは伝えきれなかった店舗・商品の魅力を、ライブ配信ならではの距離感でファンに情報配信できる、としている。

メルカリがライブコマースに参入――まずは芸能人やタレントが登場、順次対象ユーザーを拡大予定

日本でもライブコマースのサービスが登場しているが、フリマアプリのメルカリもライブコマースの可能性に注目しているようだ。本日、メルカリは動画をライブストリーミングしながら視聴者とコミュケーションを取り、商品を売買できるライブフリマ機能をリリースした。

このライブフリマ機能は、メルカリのアプリの「メルカリチャンネル」タブからアクセスできる。ライブ配信が始まったら、視聴者はコメントを残したり、配信者が紹介する商品を購入したりすることが可能だ。

ただ、いくら機能があっても、いきなり個人がライブ配信を始めるのはハードルが高いだろう。メルカリは、まずは芸能人やタレントにライブフリマ機能を提供し、ユーザーにライブコマースとはどのようなものか体験してもらいたい考えのようだ。

メルカリは本日より芸能人やタレントによるライブフリマ配信を予定している。配信スケジュールによると今日から7月31日までの夜9時から10時の間、複数のタレントが登場して商品を販売するという。ライブ配信する予定のタレントは田村淳、道端アンジェリカ、藤森慎吾、横澤夏子、ジャングルポケット、パンサーなどが含まれている。

現状ではライブ配信機能を利用できるのは一部のユーザーに限られているが、今後対象ユーザーを広げていくとメルカリはプレスリリースで説明している。

国内ではCandeeが6月7日より、ライブコマースアプリ「Live Shop!」を提供している。また、Candeeはクルーズの運営するファストファッションの通販サイト「SHOPLIST.com by CROOZ」と協力し、ライブコマースチャンネル「SHOPLIST Live」の配信を行なっている。他にも、DeNAが提供するライブフリマアプリ「Laffy(ラッフィー)などがある。

Candeeがライブコマースに参入、インフルエンサーが商品を紹介する「Live Shop!」

 

動画ストリーミングの新しいかたちとして注目を集めるライブコマース(動画コマース)。中国の動画配信プラットフォームでは、すでに個人が自撮りの動画を配信し、視聴者からデジタルギフトを受け取ったり、商品を販売したりなんてことが進んでいるようだ。例えば淘宝(タオバオ)上では、1回の生放送で視聴者数が数千人、年間売上二桁億円、なんていうライブコマースの事例もあるようだ。そんな動画コマースの波が日本にもやってきた。モバイル向け動画の制作などをてがけるCandeeは6月7日、ライブコマースアプリ「Live Shop!」の正式提供を開始した。

Live Shop!は、「ライブ配信× コマース× インタラクティブ」をうたうライブコマースアプリ。「ゆうこす」こと菅本裕子さんをはじめとしたインフルエンサーやモデルが、それぞれ自身のチャンネルを開設。定期的にライブ配信を行う。ユーザーはライブ配信中にコメントやスタンプを送ってリアルタイムのコミュニケーションを行ったり、配信者が紹介するファッションアイテムなどをリアルタイムに購入したりできる。

Candeeは2015年の設立。LINEの動画配信アプリ「LINE LIVE」内の番組をはじめとして、これまで1300本以上(ライブ配信は500本以上)の動画の制作、配信を手がけてきた。2016年12月にはYJキャピタルやTBSイノベーションパートナーズ、gumiを引受先とした総額12億円の資金調達を実施。さらに2017年5月には、ライブ配信に特化した映像制作会社のアポロ・プロダクションを完全子会社化するなどしている。

「これまでのクライアントワークでは、圧倒的なスピードで動画制作のトライアンドエラーを繰り返すことで、コンテンツ制作のノウハウを内部で持つようになった。ネット全盛の時代でも、プロのコンテンツが勝つ。マーケットについてはソーシャルゲームも参考にした。1人でなく、誰かと楽しむという流れは、動画にもやってくる。ソーシャルなビデオプラットフォームを作っていく」——Candee代表取締役副社長COOの新井拓郎氏は新サービスについてこう語る。

前述の通り、同社はLINE LIVEの人気番組「さしめし」をはじめとして、数多くのライブ配信動画を制作してきた。キャスティングやコンテンツの制作力に加えて、ソーシャルな動画プラットフォーム運営、自社での商品在庫の管理まで、ワンストップで実現することが、同社の強みになると語る(ディー・エヌ・エーがノンプロモーションで展開する「ラッフィー」などもあるが、こちらはあくまで動画プラットフォームのみの提供となっている)。Live Shop!は2月頃に企画を立ち上げ、4月にはテストローンチ(App Storeでのアプリ公開)。そして今回の正式公開に至った。

Candee執行役員の椙原誠氏(左)とCandee代表取締役副社長COOの新井拓郎氏

Candee執行役員の椙原誠氏(左)とCandee代表取締役副社長COOの新井拓郎氏

ライブコマースはコミュニティに近い

番組を担当するのはCandeeがキャスティングしたインフルエンサーが中心。商品はいわゆる“プチプラ”、つまり低価格帯のファッションアイテムやメイクグッズが中心となる。プラットフォームの一般開放は予定しないが、今後はモデルやインフルエンサーのほか、アパレルブランドなどの参加を呼びかけていく。「映像活用したコンテンツはあるが、マネタイズできるプラットフォームは少ない。それができれば、プラットフォームに入ってくる人も増えてくる」(新井氏)

動画自体はアーカイブされるのでいつでも視聴できるが、商品購入に関してはライブ配信中に限定する。これは出演者とのインタラクティブなコミュニケーション、ライブの価値にこだわるためだという。出演者はインフルエンサーなどが中心。すでにそれなりの規模のファンがいることもあり、コミュニケーションの延長線上での購買が多いという。配信は長くて1時間程度。メイクのハウツーやファッションの紹介、料理に挑戦するなど、さまざまな企画を準備している。

「ユーザーからの質問にも出演者が回答するので、視聴者に納得感を持ってもらえる。番組の尺が30分から1時間ていどなので、衝動買いできるような単価の安い商品が売れている。通常のECであれば能動的に動かないと商品を購入できないが、ライブコマースだと、『憧れの○○さん(モデルやインフルエンサー)が紹介している』という、これまでとは違う切り口での販売ができる」(Candee執行役員の椙原誠氏)

僕もプレローンチ時の動画を見たのだが、出演者がファンの質問に回答しつつ商品を紹介し、「購入した」というコメントにお礼をする、というのがリアルタイムに行われるというのは、ファンにとっては嬉しいものになると感じた。新井氏は「コミュニティサービスに近い。ある種ファンになって、結果商品を買う、というもの。ライブの物販に近いかも知れない。ライブTシャツを買うのに素材はこだわらない。出てくる人の距離感で商品を購入している」と語る。

Candeeでは、今夏をめどに、月間60〜80点程度の商品の販売を目指す。すでにアンケート機能や抽選販売機能を導入しているが、今後はオークションやクイズといった機能も追加していく。また現在支払い手段はクレジットカードに限定されているが、Apple Payや後払いなど手段も拡大していく。さらにイベント企画、タレントマネジメントなどをてがけるアソビシステムとも提携。今後同社所属のタレントらも動画に出演する予定だ。

國光氏が語るソーシャルビデオプラットフォーム構想

6月7日、イベント「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」内で、gumi代表取締役であり、Candee取締役会長の國光宏尚氏がこのLive Shop!についてプレゼンテーションを行っている。國光氏は新井氏、椙原氏同様に、「ソーシャルゲームが流行した理由はみんなでやって楽しいから。動画も一緒にみんなで見る方が楽しいはず」と説明した上で、(1)スマートフォンファースト、(2)ソーシャル、(3)インタラクティブ——という要素を持った動画による「ソーシャルビデオ革命」が起こると語った。Candeeではソーシャルビデオのプラットフォームを作り、今後さまざまなカテゴリの動画コンテンツを提供する計画だが、Live Shop!でチャレンジするEC領域はその第1弾という扱いだ。

また國光氏は2020年以降のメディアについて語った。2020年にはモバイル通信はより高速な5Gとなり、動画はより精細な4K・8Kとなっていく。だがテレビに関してはチューナーを変えない限り現状の4K・8Kの品質を得ることができない。スマホの方が明らかにテレビより画像が良くなる。いったん上(の品質)を見ると、ユーザーはもう戻れない——そんな背景もあって、2020年以降、「いよいよ通信が放送を飲み込む」(國光氏)とした。

gumi代表取締役であり、Candee取締役会長の國光宏尚氏