サムスン電子が消費者家電とモバイル部門を統合、新共同CEO・CFOを発表

Samsung Electronics(サムスン電子)は、モバイル(IM)とコンシューマーエレクトロニクス(CE)事業部門を統合し、現地時間12月7日から3つの主要部門のリーダーを入れ替えると発表した。こうした大規模な経営陣刷新は2017年以来となる。

CE部門のビジュアルディスプレイ事業を統括していたJong-Hee (JH) Han(ハン・ジョンヒ、韓宗熙)氏は、副会長兼共同CEOに昇格し、新たに統合されたモバイル・家電部門(SET部門)を率いる。同氏は、引き続きビジュアルディスプレイ事業の責任者を務める。

過去15年間、世界のテレビ販売で同社がトップの座を獲得する上で重要な役割を果たしたハン氏は「SET部門の異なる事業部間のシナジーを強化し、新事業・新技術の推進に貢献すると期待される」とサムスンは述べている。

また、サムスン・エレクトロ・メカニクスのCEOであるKehyun Kyung(キョン・ゲヒョン、慶桂顕)氏は、サムスン電子の共同CEOに就任し、半導体と部品部門にまたがるデバイスソリューション(DS)部門を率いることになった。

テック巨人である同社は本発表で、新しいリーダーシップが「今後の成長の新たな局面をリードし、事業競争力を強化する」ことに貢献すると述べている。

モバイルとコンシューマーエレクトロニクスの2つの主要部門の統合は、構造を簡素化し、半導体事業により集中するための動きと見られている。

今回の大規模な再編の発表は、同社の副社長であり事実上のリーダーであったJay Y. Lee(イ・ジェヨン、李在鎔)氏が8月に仮釈放されてから約4カ月後に行われた。

サムスンは11月、テキサス州テイラーに170億ドル(約1兆9300億円)規模の米国半導体工場を建設する計画を発表し、今後3年間で半導体、AI、ロボット、バイオファーマなどを含む2050億ドル(約23兆2900億円)規模の投資を行う計画を打ち出した。

また、副会長でDS部門長であったKinam Kim(キム・ギナム、金奇南)氏は、Samsung Advanced Institute of Technology(SAIT、サムスン総合技術院)の会長に就任した。さらに同社は、今回の事業再編の一環として、DS部門に所属していたHark Kyu Park(パク・ハッキュ、朴学圭)氏を新CFOに任命した。

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】創業者は自らのアイデアを自分から切り離す必要がある

ファウンダーはみんな、自分の会社が自分たちなしで繁栄することを願っているが、その意識に基づいて行動することの覚悟は、昨今の市場で交わされる最もぎこちない会話の1つである。結局のところ、ファウンダーへの賛美(および彼らをロックスターのように扱うマスコミの変わらぬ習慣)には一定の正当性がある。ビジョンを持つ人たちは、本質的に興味深い人間であり、人が他人の家に寝泊まりしたり小鳥がさえずるようなアプリで日々生の意見を公表したりすることに賭けるほど狂気に満ちている。

この緊張感、ファウンダーをスタートアップ成功の導き手として位置づけると同時に、あらゆるビジネスにとって長命の鍵は継続にあるとことを認識させる社会の緊張感こそ、最近、Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が発信した数行からなるTwitter(ツイッター)退職のツイートが私の目を引いた理由だ。

「企業が『ファウンダー主導』であることの重要性についてはさまざまな意見があります」とドーシー氏は書いた。「結局それは著しく制限的で、『単一障害点』であると私は信じています。この会社が創業時のことや創業者から離れられるように、私は懸命に取り組んできました」とドーシー氏は付け加え、「企業は自立して、ファウンダーの影響や指示を受けないことが極めて重要」で彼が信じていることを付け加えた。

ドーシー氏は、私がそれ以来ファウンダーや投資家に話し続けている話から会話を始めた。アイデアをファウンダーのアイデンティティから切り離し、会社が本質的に創設者とつながっていると感じないようにすることが、会社にとって健全である。ただし帰属についての真剣な会話が必要だ。

2021年11月、私はファウンダーと創業チームメンバー、アドバイザー、投資家、エンジェル投資家、および初期従業員の間の当事者意識とインセンティブの違いを明確化することの重要性について書いた。今週は、支配構造が時間とともに変化すること、そしてファウンダーの肩書がある日「無担当副社長」になるかもしれないと理解することが、なぜ重要なのかについて話す必要がある。

雑草時代を忘れる

「ある時点で、ファウンダーは『無』担当副社長(VP of nothing)になります」とFloodgate(フラッドゲート)のパートナーであるIris Choi(アイリス・チョイ)氏がTechCrunch Equityポッドキャストの最新回で述べた。「最初はプロダクト責任者でありエンジニアのトップであり、一般社員であるともに、未解決問題を収拾し、隙間を埋める人物でもあります」。

アイデンティティクライシスは企業が成長ステージに入ったときに始まる。そしてファウンダーは、徹夜組を引っ張る向こう意気の強いエンジニアから、有能な人材の採用と「列車が間違いなく定刻に発車」することに責任をもつビジョナリーへと変わっていく。

「ある程度、ファウンダーの地位を雑草より高める必要があります」とチョイ氏はいう。

Fractional(フラクショナル)の共同ファウンダーStella Han(ステラ・ハン)氏は、最近Y Combinator(Yコンビネーター)を卒業し、シードラウンドで数百万ドル(数億円)を調達した。彼女のビジネスは、他人や友人がオーナーシップを手に入れやすくすることがすべてで、それは社内でそれを実行する方法について、共同ファウンダーとよく話し合わなければならないことも意味していた。

「共同ファウンダーになると、非常にアクティブにプロダクト業務を実行しますが、リーダーたる幹部は、他の人々に権限を与えて手綱を握り、行動を起こして会社を成長させるのが仕事です」と彼女は語る。「オーケストラの指揮者が必要な時、重要なのはそのビジョンとそのマジックを伝え、チーム一丸となって経験を作り上げ、聴衆と消費者に届けることです」。

会社のスケールが大きくなるにつれて、有能なファウンダーを中心にスマートな幹部チームを作り始めることに問題はないが、そのアイデアを考えた人物に向かって、そろそろ別のCEOに席を譲る時期がきたというのは逆説的だ。言い換えれば、まだ身を引く準備が出来ていない時何をするのかだ。

結局それはインセンティブアラインメントに行き着く、とハン氏は考える。

「エゴは人間の大きな部分であり、おそらくそれが、自分にとって正しいと思えるけれど会社全体にとってはそうではない行動を起こしてしまう理由でしょう」と彼女は話し、ファウンダー(および既存あるい新しく入ってくる幹部全員)は「全員が合わせるべき、より総合的で大局的なインセンティブが何であるか」を見つけ出す必要がある、と付け加えた。

そして、ファウンダーは「重要な場面で苦境に陥ったとき、自らの身を遠ざけて全体にとって最良のことをする」必要があるとハン氏は語った。

会社の中で権力の分散化をやりやすくするためには、投資家が小切手を書くやり方にも大きな変化が必要だ。現在は、アイデアを持っていて、そのアイデアによる功績を認められることが、起業家にとってベンチャーキャピタリストに売り込む最も効果的な手段だ。そのインセンティブに代わるものは何か?

デューディリジェンスをひとひねりする

「あらゆる会社が、スターチームを集めて次のPayPal Mafia(ペイパル・マフィア)になるエコシステムを作るスターファウンダーを欲しがっています」とHum Capital(ハム・キャピタル)のCEO・共同ファウンダーであるBlair Silverberg(ブレア・シルバーバーグ)氏はいう。「このビジョンを達成した会社はほとんどありません。その理由は、新しいビジネスを始めたりそこに参加した時、チームが何をするか、起こした行動がビジネスにどんな結果をもたらすのか、自分たちが生んだ勝利の所有権を関わった個人がどう受け取れるのか、それらが明確になっていないからです」。

シルバーバーグ氏は、Web3.0の約束をいくつか説明した。そこではプロセスを形式化することで、ビジネスの各部分を誰が所有し、誰が実行するかを透明に見通せるようにすることが求められている。しかし起業家たちは、変化が起きるためには、それが主流派になるまで待つ必要はないと考えている。

「すぐれた実績をもつヘッジファンドマネージャーのコンセプトは、ビジネス運営の世界でも十分考慮に値します」と彼はいう。「もし同じような実績が存在する世界を作れたなら、ビジネスだけでなく人々のレベルでも、社会の資産を適材適所に使うことができます」。そして、2021年11月に書いたように、アイデア経済においては、勝利したビジネス戦略を誰かが思いついたかの証拠が重要になる(法的にも財務的にも)。

ただし、Zoomでの売り込みの中で。成功する会社(個人ではなく)に賭けたいアーリーステージ投資家は、共同ファウンダーの雇用する能力、考えを変える能力、そして立ち去るべき時期が来たことを理解する能力を推進する必要がある。

アーリーステージフィンテックファンドであるVentureSouq(ベンチャー・ソウク)のゼネラルパートナーSonia Gokhale(ソニア・ゴケイル)氏は、自分が投資する際にも、1人のファウンダーではなく、共同ファウンダーの会社を探す、なぜなら予定外の事態が起きた時のリスクを分散できるだけでなく、1人が他方を埋め合わせられるのはよいことだからだと語った。

「当社の創業チームの多くは、2人のファウンダーがうまくやっていけるかどうかに焦点を合わせたデュー・ディリジェンスに時間をかけています。相性はどうか?シナジーはあるか?直感を受けるか?」と彼女はいう。「そして、少しでも不安を感じたら、それは赤信号です」。

企業が自立することは不可欠だというドーシー氏の意見は、あらゆるファウンダーがいつか会社を去らなくてはならない、という意味とは限らない。むしろ、Sounding Board(サウンディング・ボード)のChristine Tao(クリスティン・タオ)氏が指摘していたように「優れたリーダー」の自覚だけでよいのかもしれない。

「CEOもただの人間です。そして私たちのアイデンティティの多くが会社に没頭しているとしても、私たちは完璧ではありません」と彼女はいう。「企業は進化し、変化していくるので、違うリーダーシップが必要になることもあります」。

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

市場の懸念、嫌悪、魅力的な企業向けギフト

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

親愛なるみなさん、今回は3つのテーマを取り上げる。1つ目は懸念、つまり市場の懸念だ。2つ目は嫌悪、ある特定の企業ニュースに対する私の直感的な反応だ。そして最後に企業ギフト、魅力的なスタートアップ戦争へ飛び込む。では始めよう!

懸念

電子署名企業のDocuSign(ドキュサイン)は、先週金曜日に株価が40%以上下落して、大きな打撃を受けた。これは、詐欺やその他の企業の不正事例を除けば、私が今まで見た中で最悪の業績報告後の株価変動だ。

何が起きたのだろう?DocuSignは、直近の四半期(2022年度第3四半期)には収益予想を上回っていた。しかし、同社の請求額(将来の収益を表す)は、予想を大幅に下回った。同社のCEOであるDan Springer(ダン・スプリンガー)氏は、投資家向けの手紙の中で次のように述べている。

成長が6四半期の間加速した後、お客様はかつての正常な購入パターンに戻り、その結果、請求額は前年比で28%増加しました。

スプリンガー氏は、市場が過剰反応していると考えており、来週DocuSign株を購入する予定だ。市場は、DocuSignがより普通の成長へ回帰したと思われるものを、あまりにも重視しているのだろうか?

そうでないかもしれない。これが起きてから、私は仲間たち(その中には仕事の場で私の正気を保ってくれる友人のロン・ミラー記者もいる)と、私たちが見ている現象はウォール街の焦りなのか、それとも別のものなのかを語ってきた。私は後者(別のもの)に傾いている。

Yahoo Financeのデータによれば、DocuSignは大幅な下落の後でも約270億ドル(約3兆円)の価値がある。あるいは、現在のランレートの約12.4倍だ。将来の収益の減速について強いヒントを示す公開テクノロジー企業に対して、椅子から立ち上がってそれは低すぎるというのは誰なのだろうか?

実際そういう人は多い、しかしそれは一般にSaaSの勢いが長い間非常に強かったためなのだ。それほど昔の話ではない。DocuSignが請求額の成長が28%だと公表したあとで、ランレートの12.4倍という評価額は、それほど良くはないとしてもまずまずの数字だ。以前の成長状態に戻るのは許されない話なのだろか?

懸念。それが、ソフトウェア会社の間で複数の収縮が見られる場合に、私が味わうことを予想する感覚だ。非公開市場における非常に多くの賭けは、公開企業の評価額が高いままであるという期待に頼ってきた。しかし、先週のような一般的なハイテク株にとって最悪な数字が出現すると、ハイテク業界に対する風潮は、100%のリスク偏重から、よりバランスの取れたものへとついにシフトする可能性がある。

嫌悪

Better.com(ベタードットコム)は、SPACデビューで7億5000万ドル(約846億円)を手に入れ、事業のために十分な資金を得た。そして、従業員の一部を解雇した。あるオンラインコールでCEOは、解雇されるスタッフは15%だと述べた。一方Better自身は、その数は実際には9%だと主張している。CEOがメモを読みながら、レイオフを通知するためにそのオンラインコールを行っているというなら、その数字の食い違いは問題だ。彼が決定を下したのなら、数字を間違えたりするだろうか?

とにかく、ここに労働者の多くを解雇しないですむ方法のレッスンがある。

(このバージョンが取り消された場合に備えて、ビデオのコピーを保存している)。

忘れてはならないこと。職場は自分の家庭ではないということ。労働者としてのあなたは、会社が利用して利益を引き出したい資産に過ぎないのだ!

企業向けギフト

時計を2020年初頭に戻そう。その年の2月、パンデミックが発生する直前に、私はSendoso(センドソー)の4000万ドル(約45億1000万円)のシリーズBを取り上げた。同社は企業ギフトの分野を扱う企業で、それ以降1億ドル(約112億8000万円)のシリーズC調達を行っている

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これとは別に、私が知っている投資家が、Sendosoと同じ市場の別のプレイヤーであるPostal.io(または単にPostal)を私に紹介した。この2つの企業は、現在および潜在的な顧客市場におけるギフトでシェアを競い合っている。つまり巨大な市場なのだ。

通常版のExchangeをよく読む読者は、最近この話題に触れていなかったのではないかと思っているかもしれない。実は取り上げている!9月には、Disruptの直前に、Postalとその進捗状況をお知らせした。

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しかし、私はそれ以降、PostalとSendosoからいくつかの成長指標を抽出して、この分野の継続的なカバレッジに追加したいと思った。なぜこれを気にかけるのか?なぜならこの分野は、OKRソフトウェアや即時食料品配達市場に似ているため、追跡する価値のある興味深いスタートアップクラスターがある。

たとえばSendosoとPostalは、Alyce(アリス)やReachdesk(リーチデスク)と競合する。オンラインからオフラインへの市場チャネルに対して、多くのスタートアップ活動が集まっている。そして、市場は複数のプレイヤーが同時に成長できるくらい十分に大きいのだ。たとえばSendosoは、Coresight(コアサイト)を引用して「米国の企業向けギフト市場は2021年末までに2420億ドル(約27兆3000億円)に達すると予測されている」とThe Exchangeに語った。

Postalはメトリクスで最も突出していて、過去5四半期連続で70%のサブスクリプション収益の伸びが見られたことを公表している。また顧客数が35から286に増加したため、GMV(流通取引総額)の規模は2020年第3四半期から2021年第3四半期にかけて3765%に増加した。それが理由で、同社は9月に資金を調達することに成功できたと私たちは考えている。

Sendosoの最近のパフォーマンスに関しての数字は、より控えめ目なものだった。スタートアップは2019年に330%成長したことを思い出して欲しい。しかしその最近の結果に関しては数字を公開するつもりはないようだ。その代わりに、Sendosoによれば、現在900の顧客(詳細にいうならそれらの企業の中にさらに2万件超えのアカウント)を持ち「北米、ヨーロッパ、アジアの倉庫から165か国以上で300万以上の出荷を行った」という。

AlyceならびにReachdeskからは、この記事の公開に間に合うようには新しい数字を得ることができなかった。もし彼らに数字を共有して貰えた場合は来週お知らせする。

また、OKRスタートアップ市場のように、より大きなテーマにはバリエーションが付きものだ。企業向けギフトの場合、Postalはよりデジタルなサービスを構築し、商品会社と購入者を結び付けている。一方、Sendosoは、独自の物理的なアイテム集約場所を含む実世界でのフットプリントが大きくなっている。私たちは、ビジネスケースがリアルタイムで競い合うのが大好きだ。

ただし、激しい競争が起きると、すべての関係者が無傷のままとはいかないということは忘れないように。OKR市場を見ると、Koan(コウアン)は次の資金調達のマイルストーンに到達できず、Microsoft(マイクロソフト)はスタートアップ企業の1つをすくい上げた。即時食料品配達市場では、1520がちょうど破綻したところだ。SendosoやPostalが現金を使い果たす危機にさらされているわけではないが、もしその市場の中で統合の動きが出てきたとしたら興味深いだろう。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

ソフトバンクにさらなる悪いニュースが、クラウレ最高執行責任者と給与をめぐる争いの報道

今に始まったことではないが、今週のソフトバンクはひどく、最悪で、良くもない、非常に悪い週を送っている。実際、同社は、大胆な賭け、社内のいざこざ、険悪なビジネス関係、あるいは瀬戸際から何度も立ち直る能力など、極端なことで知られているが、いくつかの新しい動きは、克服することが不可能ではないにしても、特に難しいと思われる。

その最たるものが、米連邦取引委員会(FTC)が米国時間12月2日に起こした、チップメーカーNVIDIA(エヌビディア)による、チップ技術のライセンス供与を行う英国企業Arm(アーム)の買収を阻止するための訴訟だ。FTCはこの買収によってNVIDIAがコンピュータ技術を過度に支配することを懸念している。

FTC競争局の局長Holly Vedova(ホリー・ベドバ)氏は、訴訟に関する声明の中で「明日の技術は、今日の競争的で最先端のチップ市場を維持することにかかっています」と述べている。「この提案された取引は、チップ市場におけるArmのインセンティブを歪め、合併会社がNVIDIAのライバルを不当に弱体化させることになります」と説明している。

ソフトバンクにとっての問題は何か。この取引が頓挫すれば、ソフトバンクにとっては数百億ドルの損失となるかもしれない。同社は、2016年7月に現在創業21年のArmを320億ドル(約3兆6200億円)で買収した後、400億ドル(約4兆5120億円)の現金と株式の取引でNVIDIAに売却した。これは思うほど良い取引ではない。NVIDIAの株価は急速に上昇し続けており、Bloombergが12月3日に指摘したように、その400億ドルの取引はその後、740億ドル(約8兆3475億円)の取引に膨れ上がっている。

ソフトバンクにとってはまったくの災難ではないかもしれない。この取引は、発表されたときから規制当局の精査を受けることが予想されていたので、ソフトバンクはすでにこの非常にありそうな可能性を織り込んでいたかもしれない。また、NVIDIAはFTCの訴訟に異議を唱えるとしている(ただし、FTCに勝てる見込みはなさそうだ)。それに、チップ関連のものはいま、すべて需要がある。

しかし、Armが他の買い手にとってどのような価値を持つかははっきりしない。一方、ソフトバンクがこの会社の株式を公開することを決めた場合、その価値はNVIDIAが支払った金額の半分近くになる可能性があるとBloombergは推定している。これは、フィラデルフィア証券取引所半導体インデックスのメンバーが現在享受している平均的な時価総額対売上高比率の9.9倍に基づいている。

その一方で、ソフトバンクは報酬をめぐって重要な幹部を失う危機に直面している。12月3日午後に掲載されたニューヨーク・タイムズの記事によると、ソフトバンク創業者兼CEOである孫正義氏の右腕だと広く信じられているソフトバンクの最高執行責任者Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)氏は、報酬をめぐって会社との長期戦に巻き込まれているという。

実際、タイムズ紙の取材に応じた4人の関係者によると、クラウレ氏は今後数年間で報酬20億ドル(約2256億円)という要求が通らなければ、ソフトバンクを辞める覚悟だ。ソフトバンクは、その代わりにせいぜい数千万ドル(数十億円)程度の報酬を考えているようだ。

さらなる詳細を求められたソフトバンクの広報担当者は、次のような声明を送ってきた。「ソフトバンクとマルセロ・クラウレ氏は、当社でのクラウレ氏の役割と報酬について積極的に話し合っています。マルセロはソフトバンクの重要な幹部であり、2017年の入社以来、多くの重要な取り組みをサポートしてきました。ソフトバンクはこの件についてこれ以上コメントするつもりはありません」。

ソフトバンクにとっては大きな損失となりそうだ。クラウレ氏は同社のために多くの役割を担っている。例えばAdam Neumann(アダム・ニューマン)氏を追い出した後のWeWorkの暫定CEOを務め、現CEOのSandeep Mathrani(サンディープ・マトラニ)氏の採用にも貢献した。クラウレ氏はまた、多様性に焦点を当てたSoftBank Opportunity FundとSoftBank Latin America Fundという2つの組織のトップでもある。これらの組織は、最近のソフトバンクの大型投資のほとんどを担っている(TechCrunchは9月のDisruptでクラウレ氏にソフトバンクの積極的な中南米戦略について話を聞いた)。

同氏はまた、ソフトバンクから離脱する多くの人の中で最も注目される人物の1人だ。今月初め、Bloombergは、ソフトバンクの報酬に対する「風変わりな」アプローチ(同規模のライバル企業よりもはるかに少ない報酬)が、2020年3月以降の7人のマネージングパートナーの辞任につながったと指摘し、唯一のシニアマネージングパートナーであるDeep Nishar(ディープ・二シャール)氏は先週、General Catalystにマネージングディレクターとして入社することを発表した。

ソフトバンクは悪化の事態から立ち直ってきたが、現在は特に脆弱なようだ。先週、孫氏はソフトバンクグループが中国政府のハイテク産業の取り締まりで500億ドル(約5兆6400億円)超の損失を出したことを明らかにし、同社の株価は大幅に下落している。この2つの新たな、そして非常に公然とした動きによって、同社に対する投資家の信頼を高めることはより困難になりそうだ。

画像クレジット:Riccardo Savi / Stringer

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

男性のポルノ断ちもサポート、あらゆるデジタル依存症を克服するツールを英Remojoが開発

男性のセクシャルヘルスをテーマにしたスタートアップが数年前から活発な動きを見せている。初期のテックビジネスには、勃起不全などの健康問題を治療するための医薬品への(より簡単な)アクセスを提供することを目的とするものや(例えばRoman)、抜け毛を減らしたり性欲を高めたりすることを謳ったホルモン検査やオーダーメイドのビタミン剤を提供するものもあった(Manualなど)。時間の経過とともにより広範な遠隔医療が提供されるようになり(Ro)、そして最近では、男性のメンタルヘルスにも関心が向けられるようになった。

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この展開を長い間待ち望んでいた人も少なくないのではないだろうか。

ここ英国は今、起業活動におけるちょっとしたホットスポットとなっているようだ。例えば9月の記事では英国を拠点とするMojoのシードラウンドを紹介した。同社は男性の性的ウェルビーイングのためのサブスクリプションサービスを提供しており、勃起不全の解決策として錠剤ではなくセラピーを提案している。

また、男性専用ではないが、英国のPaired(ペアード)はアプリを通したカップルセラピーを提供している。

さて、今回はMojoと同じ年(2019年)に設立され、男性の性的幸福とセルフケアに対するホリスティックなアプローチを提供している英国拠点のサブスクリプションサービスをご紹介したい。似たような名前が付けられたRemojoは、性の健康に関する悩みを抱える男性をサポートするための技術ツールやアプリ内プログラムを提供しているが、まず同社が最初に着目したのは「ポルノの放棄」である。

Remojoのウェブサイトを見てみると、ポルノをやめることで時間の節約や注意力の向上を期待できるだけでなく、個人的な人間関係が改善され、さらには勃起不全などの健康問題が解決する可能性があるなどさまざまなメリットが説明されている。同社には急成長中の男性のセクシャル・ウェルビーイング分野と一致するところがかなりあるようだ。

価格の違い(RemojoのサブスクリプションプランはMojoよりも安い)を除けば、まず最初の違いはどう男性に関心を持たせるかというところである。

勃起不全に悩む男性よりもポルノを消費する男性の方が多いのは当然だろう。しかし、Remojoのターゲットは、ポルノを見ていて、かつポルノをやめたいと思っている男性だ。しかし単独創業者であるJack Jenkins(ジャック・ジェンキンス)氏は、このサブスクリプションサービスがポルノ依存症男性のためだけのものではないと強調している。

むしろ同氏によると、単純な自己啓発を目的とする人(自分の内側をよりコントロールできるようになりたいと感じている人)から、ポルノ消費の習慣が日々の生活(や人間関係)の妨げになっていると感じている人の他、宗教的信念を持っていて、たとえめったにポルノを使用しないとしてもポルノを使用することに恥じらいを感じており、求められる精神的基準に沿って生活できるようにするための助けを求めている人まで、さまざまな理由でポルノ消費をやめたいと思っている人に対応できるよう設計されているという。

ジェンキンス氏によると、Remojoの主要ユーザーには、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンズー教徒がおり、宗教的理想を実現するための支援を求めている人々が多い。彼らが置かれている環境では通常話すことがタブーとなっている問題について取り組むため、偏見のないサポートコミュニティを求めている場合もあるという。

Remojoによると、同社のサブスクリプションプログラム(1カ月4.99ドル、約580円。3カ月間または1年間のプランに申し込むとそれ以下になる)には毎月約5万人が登録しており、世界中(少なくともインターネットへのアクセスが容易な場所)からユーザーが集まっているというから、ポルノの消費が非常に普遍的な問題であるということがよくわかる。

現在、Remojoにとって最大の市場は米国、英国、ブラジル、インド。アプリ内のコンテンツは英語のため、英語圏の他の市場でも成長しているとジェンキンス氏は説明する。同社の典型的なユーザーは16~35歳の男性で「いつでもポルノにアクセスできる環境で育った」デジタルネイティブだといえる。

このような支持を受け、当然のことながら投資家も放ってはおかない。

ジェンキンス氏によると、同社は過去12カ月間に160万ポンド(約2億5000万円)のプレシード資金を、元Techstars Berlin(テックスターズ・ベルリン)のマネージングディレクターでAngel Invest(エンジェル・インべスト)CEOのJens Lapinski(ジェンズ・ラピンスキ)氏、同じくTechstars BerlinおよびAngel InvestのJag Singh(ジャグ・シン)氏をはじめとする多数の事業家エンジェルの他、銀行・金融業界のエンジェルや(匿名の)創業者などから調達したという。

ジェンキンス氏によると、同社は現在シリーズAの調達を進めており、500万ポンド(約7億7000万円)から600万ポンド(約9億2000万円)を目標に「1月までに」ラウンドを終える予定だという(おそらくシードをスキップして、Aに直行するだろうと同氏は話している)。

Remojoのウェブサイトには、ポルノをやめるための「90 day reboot」というものがあるが、これは同社で最も人気のある契約プランだという。

同社の技術が本当に有効ならば、3カ月ごとにユーザーが大きく入れ替わることになるだろう。しかしオンラインポルノには粘着性があり、簡単にアクセスできるため、再発の危険性が高く、ブロッカーツールが役立つ可能性が高いとジェンキンス氏は主張する。そのため男性にポルノをやめさせるというミッションが成功することによっておき得る、収入の激減を心配することはなさそうだ。

同社はより広範で継続的な、実用性と魅力を兼ね備えたコースもアプリ内で提供しており、ポルノの消費に関連している(あるいは悪影響を受けている)可能性のある男性の性的健康と幸福におけるさまざまな側面をサポートしている(ただし、やめたら改善が続くとは限らない)。

当初、自ら資金を調達して事業を立ち上げたジェンキンス氏。創成期にはユーザーがスマートフォン上でコンテンツをカスタムブロックして、ポルノソースへのアクセスを遮断できるMVPを発表した。

現在同ソフトウェアは、Android、iOS、Windows、macOSに対応しており、クロスデバイスで利用が可能だ。オンラインポルノへのアクセスに文字通りバリアを設ける単純なアダルトコンテンツブロッカーだけでなく、前述の行動変容コース、CBTテクニック、幅広いサポートコミュニティなど多くの機能が盛り込まれている。

今後はAIを用いてポルノコンテンツの識別を行い、ソフトウェアのブロック/フィルタリング機能を強化しようとジェンキンス氏は計画しており、コンピュータービジョンとオーディオを使用してポルノ視聴を進行中に検知し、ソフトウェアがリアルタイムに介入できるようなモデルの開発に取り組んでいる。

現在は、カスタムメイドのブロック機能とサポートリソースがミックスされたアプリになっている。

「いくつかの要素を組み合わせたハイブリッドになっています。習慣形成や習慣破壊に関する研究を行い、その分野で得られた知見や原理を利用しています。アプリ内コンテンツディレクターであるNoah Church(ノア・チャーチ)は、ポルノ依存症から抜け出すためのコーチングを7年間にわたって行ってきました。彼はYouTubeチャンネルを持っており、長年そこで講座やコーチングを行っています」とジェンキンス氏はTechCrunchに語っている。

「弊社のアプリの基礎構造の1つは『選択モデル』です。これは、英国のポルノ・セックス依存症研究の第1人者であるPaula Hall(ポーラ・ホール)博士が開発した回復モデルです」。

Remojoはプログラムから得られるユーザーの実用的な洞察、他のユーザーによる匿名のサポートコミュニティへのアクセス、ユーザーが進展を確認したり、コミットメントやアカウンタビリティを維持したりするためのツール(アカウンタビリティ・パートナーやインストールPINプロテクションなど)も行動変容のミックスに組み込んでいる。

ユーザーを完璧に「Reboot(再起動)」させてしまうことからこのプログラムは開始する。つまりポルノの消費を持続的に控える期間である(ここでRemojoのブロックツールとアカウンタビリティー機能が重要な役割を果たす)。マインドフルネス、運動、(ポルノとは無縁の)趣味への参加など、ポルノを放棄したことで空いた穴を埋めるための、代替習慣を身につけるための時間を確保させることがここでの狙いである。

ジェンキンス氏によると、マインドセットや思考パターンを変えること、そして男性の自己啓発が主な目的であるため、コースの内容には、習慣の変更、依存症の回復、性機能障害の克服(Mojoとの重複)などの関連分野が含まれているという。

今後は、デートに関してやパートナーとの関係・性生活の改善など、より幅広い分野をカバーするコースの他、特定の宗教的信条に合わせたアドバイスを提供するコースなども予定している。

「また、より困難な状況にある人には、心の穴を埋めるためにポルノのようなものを必要としないよう、より充実した生活を送れるようにするための支援をしています」。

ポルノ利用者の中には、利用に関連するより深い心理的問題を抱えている人もいるかもしれないが(幼少期の虐待など)、ポルノの消費自体には「便利な存在」だということ以上の深い意味はないのではないかとジェンキンス氏は主張している。つまり、消費を心理学的に分析することは必ずしも必要ではないという考えである。

そのため同アプリは人を判断することを避け、男性が自分の時間と注意力をコントロールできるようにサポートすることに重点を置いている。そしてそのついでに、注意を散漫させるポルノ業界を批判している。

「ポルノの使用は、必ずしも深い心理的問題によって引き起こされるものではありません。ただ非常に刺激的で、非常に強迫的な物質であり、人々の基本的な進化の欲求を利用して乗っ取ってしまうものなのです。そのため人々はただそこにあるから、そしてとても魅力的だからという理由で、純粋にポルノを見てしまうのです」と同氏は話す。

「これは世界中で共通した問題です。世界中の35歳以下の男性なら、宗教への信仰深さを問わずほとんどの人が直面しています。非常に大きな問題のため、すべてを一括りにすることはできません」と、オンラインポルノの魔力について説明する。「1日に3時間から7時間も見てしまうような深刻な依存症の人もいれば、イスラム教徒で月に1度しか見ないにもかかわらず、イスラム教では許容されていないため彼にとっては大問題です。それが自尊心に影響を与え、神との関係を絶ってしまうようなことさえあります」。

「非常に広い範囲にわたった問題であるため一般化するのはとても困難です。ユーザーの人生がいかに変化したかについて、さまざまな話やコメント、評価を聞くことが私やチームにとっての最大の喜びです」。

より広い観点から見てみると、オンラインでのポルノ視聴は、英国政府も10年以上前から関心を寄せている問題である。ネット上の不適切なコンテンツに簡単にアクセスできてしまうことで、子どもたちに悪影響が及ぶのではないかという懸念から、閣僚たちは現在大規模なオンライン安全法を施行している。

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同様に、幼い頃から無限のポルノにさらされている男性は、後にさまざまな性的ウェルビーイングの問題を抱えることになると同社は考えている(月に5万人の男性がユーザーになるというのだから、あながち間違いではないのだろう)。

英国政府が以前、アダルトサイトへのアクセスに年齢認証を義務付けようとしたことがあったのだが、セキュリティやプライバシーへの懸念、年齢チェックを課したり規制したりすることの実現性をめぐる反発を受け、2019年に挫折した。

自分専用のポルノブロッカーとポルノ断ちのサポートコミュニティ(有料)によって男性が自らポルノをやめることができれば、話はずっと簡単だ。

ジェンキンス氏は自身がポルノをやめようと決心した際、アプリを使った支援ツールを思いついた。特にポルノへの依存があったわけではないが「より良い生活と自身を生きるための、より意識的な選択」として決意したのである。

辞めるためのサポートを探していた際、あるサブレディットで100万人以上のユーザーが同じようなサポートを求めていたことを知り、同氏はそこからこの問題の大きさとビジネスチャンスの可能性を感じ始めた。

「ポルノを完全に自分の生活から遮断するため、スマホやパソコンのコンテンツをブロックしたり、フィルタリングしたりできるガードレールのようなものを探したのですが、あまりいいものがありませんでした」と同氏は振り返る。「私は起業家精神があるため、この問題をもっと掘り下げようと思ったのです。同じようなことをしたいと思っている人や、このように感じている人は私だけではないはずだと思い、Reddit(レディット)でポルノ断ちやポルノ中毒について、あるいはポルノに関する問題や生活への影響について積極的に話している人たちにDMで連絡を取り始めました」。

「彼らにインタビューを始めたところ、Redditでどれだけ多くの人がこの話をしているかに驚かされました。約130万人もの人々が、ポルノをやめることに特化したサブレディットに参加しているのです。彼らはとても熱心に私に話をしてくれましたし、彼らがどれほど強く解決策を求めているのかを知りました」。

「最初のユーザーディスカバリーを行った後、すぐに(2019年12月に)作業を開始しました。私がこれまでに持っていたどんなに良いアイデアでも、これほどのレベルの同意を得られたことはありませんでした」。

「最初はブロッキングが目標でしたが、次第に人々が直面している問題を理解するようになりました。実際に人々の行動を変える手助けをするにはどうしたらいいのか、また習慣や中毒を断ち切るには、行動や考え方を変えるべきなのではないかということが理解できるようになりました。つまりブロッキングだけでは不十分なのです」。

勃起不全の治療をきっかけに、男性に対してより幅広い治療(ポルノ依存症のサポートを含む)を提供したいと考えているMojoと同様に、Remojoもまた、そのツールをより広範囲へと広げたいと考えている。ポルノ用に開発しているアプリベースのフレームワークを、オンラインギャンブルやソーシャルメディア、コンピュータゲームの依存症など「誰も本気で取り組んでいない、現代的な行動的デジタル依存症や強迫観念」にも適用できるようにしたいとジェンキンス氏は意気込んでいる。

「弊社のフレームワークを使って、ギャンブルや衝動的なゲームプレイをやめたり、ソーシャルメディアを減らしたりするための支援をしていきたいと思っています。これらは別々のブランドになりますが、同じ技術、同じフレームワークを使って人々をより良い習慣に導いたり、完全にそれらを断ったりすることができるでしょう。枠組みはまったく変えずアプリ内のコースを変えるだけです。アプリ内のコースを変更するだけで、その他のシステムに関しては、習慣や行動に変化をもたらしたり、デジタル依存症を克服したりするために何が有効かという点ではまったく同じです」。

つまりひょっとすると、Remojoはそのうち女性をターゲットとしたプロダクトを作る可能性もあるということだ。

(それにしても「ポルノをやめる」と「Facebookをやめる」が同列に語られるというのは、ソーシャルメディアに対する考え方がいかにネガティブなものになっているのかを物語っている)

同社のもう1つの開発計画には、独自のカスタムOSの開発がある。本質的にミニマルなOSで、自分の注意を引こうとするデジタル界のあれこれを、ユーザー自身がコントロールできるようにするためのものである。

「アンドロイドのスマホやデスクトップ機器向けにカスタムOSを構築したい」と語る同氏は、近日中に予定されているシリーズAの資金の一部を使ってその作業を開始し、最終的には「デジタルミニマリスト向けに、デジタルウェルネスコントロールをすべてOSに組み込んだ携帯電話を発売する」ことを目標としているという。しかしそれはまだ先の話になりそうだ。

シリーズAにより資金が潤沢になると予想される今後1年間の計画として、メッセージ性を高めていくことも重要だ。

ポルノ消費に関するより多くの人々の考え方を変えるために「世界的な会話を始めていきたい」とジェンキンス氏はいう。ポルノをやめるという考えが、お酒を飲まないとかタバコを吸わないという考え方と同じように「ありきたり」でごく普通なことになるように働きかけていきたいと同氏は考えている。

「まずシリーズAで実現したいのは、このテーマに対するタブーをなくすことです。お酒を飲まない、タバコを吸わない、肉を食べない、といったことと同じように、普通に広く受け入れられるようにしたいと考えています。このライフスタイルの選択を、メインストリームの話題や選択肢として受け入れられるようにするのです」。

画像クレジット:Remojo

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

話題の金属有機構造体(MOF)とは何か?使い勝手良すぎるからこその問題と素材ベンチャーの壁

今、注目を集める素材がある。京都大学高等研究院特別教授の北川進氏が発表したPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)あるいはMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)と呼ばれるものだ。京都大学系スタートアップのAtomisは、MOFを中心技術に据え、その開発・活用を進めている。同社CEOの浅利大介氏が、MOFで何ができるのか。なぜ注目されているのか。何が課題なのか。理系科目が苦手な人にもわかるように説明する。

MOFとは何か?

MOFとは、多孔性材料の1つだ。多孔性材料とは、多数の小さな穴の空いている材料。液体や気体から、触媒や物質を除去・分離する際に広く使われる。

多孔性配位高分子(PCP/MOF)とは(画像提クレジット:Atomis)

人間が紀元前から活用している多孔性材料には、現在も水の浄化や脱臭など、多様な用途で使われている活性炭がある。18世紀にゼオライトという多孔性材料が発見され、20世紀から活用されるようになり、石油産業で必要不可欠となった。

多孔性材料の歴史(画像クレジット:Atomis)

「活性炭もゼオライトも、歴史ある多孔性材料ですが、その需要は現在でも伸び続けています」と浅利氏は話す。

1997年になると、京都大学高等研究院の北川進特別教授がPCPを発表する。これは、金属イオンと有機物を三次元的に組み合わせて作る素材で、ジャングルジムのような構造を持つ。

浅利氏は「北川先生の研究のポイントは、『これだけ穴がたくさん空いた構造物には、いろいろおもしろい用途が考えられる』ということです。そのため、この新しい素材をPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)という名前で発表しています。一方で、同じ素材の研究をしているカリフォルニア大学バークレー校のオマール・ヤギー教授は、『この構造そのものが興味深い』という点を強調しています。そのため、同じものをMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)という名前で発表しています」という(つまりPCPもMOFも同じ構造物のことだ)。

MOFの特徴1:自由に設計できる

浅利氏によると、MOFの特徴は主に3つある。その1つが「自由に設計可能」な点だ。

「MOFは有機物同士を金属イオンでつなぎ合わせた構造物です。つなぎ目にあたる無機物の種類を変えることで、穴の形や大きさ、数を自由自在に設計・デザインすることができます」と浅利氏。

画像クレジット:Atomis

この自由度の高さは、どう画期的で、これまでの多孔性材料と何が違うだろうか。

「これまでの多孔性材料では、穴の形状や大きさ、数を人間の意のままに操作できませんでした。活性炭であれば、どの種類の木を使うのか、どうやって焼くのかなどの工夫を行うことで穴の形や大きさ、数を希望のものに近づけることが限界でした。しかし、MOFの場合、それらをきっちり人間の希望に合わせて設計できるのです。さらに、これまでの多孔性材料は、無機化合物でした。無機化合物は元素で素材が決まり、単一の無機物でしか組み立てることができず、構造も自動的に決まってしまいます。MOFはさまざまな有機物を金属イオンで結合するものなので、素材の特性も構造も自由自在なのです」と浅利氏は答える。

さらに、MOFは、構造の結合部ではない柱の部分に特徴を加えることもでき「CO2が付着やすい穴を作る」といったことも可能だという。このような構造物を作れば、空気中のCO2を回収することに活用できる。また、柱の部分を水と親和性の良いものにすれば、大気中から水を吸収するものを作ることができる。

MOFの特徴2:機能の多様性、MOFの特徴3:柔軟な多孔性

このように、MOFではサイズ、穴の大きさ、穴の特徴、形状などを自由自在に操れるため、その機能も幅広く考えることができる。これが2つ目の特徴だ。物質の分離、貯蔵、隔離、配列、触媒としての利用など、可能性は広がるばかりだ。

「当社も実際、食品、医薬品、電機、半導体、環境、電池、自動車、建材、宇宙開発などの企業からお声がけいただくことが多いです」と浅利氏。

そして3つ目の特徴が「柔軟な多孔性」だ。

「これまでの多孔性材料は、柔軟性に欠ける硬いものばかりでした。卵の殻をイメージするとわかりやすいかもしれません。そのため、使っているうちに潰れてしまうこともありましたし、穴を活用するにしても、物質が穴を出入りするような物しか作れませんでした。ですが、MOFは柔軟に結合しています。そのため、押せば穴が潰れるものの、放せば穴が元通りになるような、スポンジのような柔軟性が実現しています。

MOF関連企業は世界に23社

MOFは注目を集める素材だが、扱っている企業は多くはない。

「私の把握している範囲では、これまでに24社のMOF企業が誕生しました。ですが、MOFの実用化例はまだ少ない状況です。製品化にまでこぎつけられたのは米国のNuMat Technologies、英国のMOF Technologies、そして日本の当社のみです」と浅利氏は語る。

世界のMOF関連企業(画像クレジット:Atomis)

浅利氏によると、10年ほど前であればMOFを1kg生産するのには数百~数千万円かかったという。その後研究が進み、大企業でも活用を検討できる水準にまでコストが下がり、実用化への期待が高まっている。MOFはCO2回収に関して定評があり、特に最近では環境の側面からの期待が大きいという。

とはいえ、これらの企業が激しく競争しているかというと、そうでもないと浅利氏は見ている。

「これらの企業の中には、大学の研究者が研究費を得るために起業したものも含まれています。そうした企業はMOFのビジネス化や実用化を追求していません。実際にMOFでビジネスをしようとしているのはこの中でも一部です」と浅利氏は説明した。

素材ベンチャーの壁

浅利氏は「当社はMOFを扱う素材ベンチャーです。そして素材ベンチャーには特有のビジネスの壁があります」と話す。

素材ベンチャーは新しい素材を開発し、大手企業に売り込みに行く。必然的に新素材は既存の素材と競争することになる。大手企業からすれば、既存の素材でビジネスが回っているため、あえて積極的に新素材を検討するモチベーションは生まれにくく「試してはみるけれど、既存の素材より劣るところがあれば、新素材を活用しない」という流れになりやすい。

また、素材ベンチャーは新素材を作るところに集中するあまり、素材の用途を提案するところまで手が回らないことも多い。その結果「こんな素材を作りました。活用方法は各社で考えてください」というビジネスモデルになりがちだという。

浅利氏は「これではビジネスが安定しにくいのです。いうなれば素材ベンチャーの壁ですね」と説明する。

そのため、Atomisでは新素材を開発する「マテリアル事業」と、独自に新素材を用いた用途開発を行う「環境・エネルギー事業」の2本柱で素材ベンチャーの壁を打破しようとしている。

「マテリアル事業だけで投資家にアピールしても、結局『誰がその素材を使うのですか?』と切り返されます。『我々が、こうやってこの素材を使います』という答えが環境・エネルギー事業なのです。投資を受けるには、素材の用途まで視野に入れることが重要です」と浅利氏。

「量産」も壁

とはいえ、壁はこれだけではない。「誰が素材を生産するのか」も大きな問題だ。

浅利氏によると、製造業の企業で新素材の活用に熱心なところは少なくなく、企業から大学の研究所に声がかかることはよくあるという。

「ここで問題になるのが、一度に生産できる量です。例えばMOFは、大学の研究所で一度に生産できるのは、数mg〜1g程度です。しかし、素材の生産コストを計算するには、最低限一度に数キログラム程度の生産量が必要です。そこで、誰かが量産体制を構築しなければいけません。ユーザー企業の選択肢は2つあります。自社で量産方法を編み出すか、諦めるかです」と浅利氏。

ここで諦めるユーザー企業もあるが、量産を検討する企業もある。ただし、最終的に量産に漕ぎ着ける企業は多くはない。そこでAtomisは量産体制構築もサポートする。だが、量産そのものは行わない。

浅利氏は「素材ベンチャーは、自社の素材を使ってもらって初めてビジネスが成り立ちます。だからこそ、素材の製法を外に出したがらない。その結果、大量生産まで行おうと考えてしまいがちです。しかし、大量生産には一定の規模の生産設備、品質管理体制、品質管理のための多数の人材、規制対応など、幅広いリソースが必要になります。そしてこのリソースこそ、多くのベンチャー企業が持ち合わせていないものです。一方でユーザー企業は大企業が多い。大企業にとって品質と信頼は重要なものです。そんな大企業が、ベンチャー企業が大量生産した素材を使用できるのか。実際は難しい。そこで、当社は量産体制構築のサポートまでを行い、ライセンスを与えることで大企業に量産を任せることにしています」と話す。

MOFの使い方

ここまでMOFとは何か、素材ベンチャーはどんな課題を抱えているのかを見てきた。では、MOFは実際にどのように使われているのだろうか。

次世代高圧ガスCubiTan(画像クレジット:Atomis)

Atomisでは、MOFを使って次世代高圧ガス容器CubiTanを開発した。従来の高圧ガス容器は直径25cmの底に高さ150cm、重さ50kgで、ここ100年ほどイノベーションが起きておらず、同様の容器が使い続けられてきた。CubiTanはMOFの穴にガスを整列して並べることで効率的にガスを収納している。その結果、27cm×27cm×34cmのほぼ立方体型の容器となっている。さらに重さは8kg。軽量化にも成功した。さらに、CubiTanでは、IoTを活用してガスがどこにどれだけあるのかを把握することができ、遠隔管理できる。CubiTanは今後本格ビジネス化予定だ。

MOFはガスなど気体の分離・収納に活用できる素材として注目されているが、用途はそれだけではない。

「これまで気体を整列させられる素材がなかったので、気体を操作するためのソリューションとしてのMOFの側面が目立ちますが、気体でなくてもMOFは使えます。MOFの穴や枠の大きさは自由自在に変えることができるので、その穴や枠に収まるものであれば基本的になんでもその中に入れたり、通したりできます」と浅利氏。

例えば、特定の物質をのMOF枠の中に整列させてからMOFの枠を焼いてしまえば、その物質を自由に整形できる。MOFは一種の型としても活用できるのだ。

浅利氏は「ナノレベル、オングストロームレベルでものを並べられるので、例えばこれまでにない半導体を作ることも可能です」という。

「使い勝手良すぎ」問題

このように使い勝手の良いMOFだが、それゆえの課題もある。MOFは多様な物質をつなぎ合わせることができるため、いくらでも新しいものを作ることができる。これまでに発表されたMOFは10万種類ほどある。

「多くの場合、新素材といえば用途が限られているため、生産性を高めるための試行錯誤がすぐに始まり、深まっていきます。ですが、MOFはさまざまな構造を作れるため、多様なMOFの開発が進んだ一方で、開発したMOFの実用化や生産性を高める試行錯誤がそれほど進みませんでした」と浅利氏は説明する。

また、生産コストを下げる場合、限られた種類のMOFを多く生産すると単価が下がり、コストも下がる。しかし、MOFそのものの種類が増えてしまっては、需要もさまざまなMOFに分散してしまい、コストを下げにくくなる。

また、MOFは柱となる有機配位子というものを変えることで種類や特性を変えていくことができるが「有機配位子を変える」というプロセスにもお金がかかる。

浅利氏は「オーダーメードがMOFの強みですが、それゆえにコストが下がりにくいのです。MOFが競う相手は活性炭やゼオライトなどの既存の多孔性材料です。MOFの価格はこれまで1kgで100~1000万円程度でしたが、活性炭は1kgで数百円程度です。MOFのコストが1kgあたり1万円程度まで落とせれば社会実装が進むでしょう」と話す。

MOFの現実的なコストの下げ方

コストが下がりにくいMOFだが、下げるための道筋はあるのだろうか。

「戦略は主に2つです。1つは『少量のMOFを使えば性能が上がる』例を作っていくことです。例えば、フッ素樹脂コーティングでは少しMOFを添加することで耐久性が大幅に向上します。少量のMOFでも効果が示せるような使い方であれば高額なMOFを使っても十分ペイできます。もう1つは『圧倒的に高付加価値のMOFを開発する』ことです。例えば、エネルギー業界などで水素の需要が高まっています。水素だけを吸着するMOFを開発できれば、競合する素材は今のところないので、圧倒的な需要を得られる可能性があります。また、CO2をメタノールに変えて回収できるMOFを開発できれば、大きな需要を見込めます。メタノールはプラスチックも作れますし、燃料にもなるからです。このアプローチで需要を掴むことができれば、生産コストも下げていくことができるでしょう」と浅利氏は考えている。

実際、Atomisでは、上記の水素を吸着するMOFと、CO2をメタノールに変換するMOFを開発中だという。

MOFの実用化、活用拡大には、量産体制の構築、生産コストの低減、使用用途の提案など、多くの壁がある。しかし、エネルギーや環境分野を始め、多数の分野での活用が期待される、今後が楽しみな注目素材だ。

B2B請求・回収・支払を自動化するAnchorが約17億円のシード資金を獲得

企業は滞納された支払いの督促に膨大な時間を費やし、その結果、本来の業務に支障をきたしたり、キャッシュフロー問題を引き起こしたりしている。

支払いの回収にかかる時間の浪費やその他の課題は、主に手作業による請求サイクルやプロセスに依存していることに起因している。これらのプロセスは、手間と時間がかかり、ミスや不正が発生しやすい。イスラエルに研究開発センターを持つ米国のスタートアップAnchor(アンカー)は、こうした問題を解決しようとしている。

2021年設立されたAnchorは、請求書の発行や送金の作業を自動化することで、請求・回収・支払の問題を解決し、企業が顧客に支払いを促すために費やす貴重な時間を節約することを目指している。Anchorのクラウドベースのシステムは、サービスプロバイダーの請求・支払いプロセスをエンド・ツー・エンドで自動化し、支払い遅延の問題を解消する。

Anchorは米国時間12月1日、1500万ドル(約17億円)のシード資金を獲得し、チームの拡大、より多くのクライアントとの提携、マーケティング活動の開始など、成長を加速させる計画を発表した。

「今日は、既存のB2B決済プロセスを時代遅れにし、現代社会における請求、回収、支払いのあり方を再定義する、次の決済革命の始まりです。我々にとって、ベンダーとクライアントの信頼関係を強化し、請求書の不正や人為的ミスをなくすソリューションを開発することが重要でした」とAnchorの共同創業者でCEOのRom Lakritz(ロム・ラクリッツ)氏は話す。

「そうすることで、サービスプロバイダーとあらゆる規模の企業との間で、自律的に支払いが行われるようになります。数年以内に、Anchorがビジネスの基盤となり、ビジネスのやり方の金字塔となることを目指しています」とも語る。

Anchorは、米国の自律型課金システムのスタートアップで、イスラエルに研究開発センターを持つ

今回の資金調達ラウンドは、Rapydの新しいベンチャーキャピタル部門であるRapyd Ventures、そしてMonday.comやRiskifiedなど複数の企業に投資を行っているベンチャーキャピタルのEntrée Capital、イスラエルを拠点とし、Rapydを含む30社以上のポートフォリオを持つベンチャーキャピタルのTal Venturesが共同でリードした。

RapydのCEO、Arik Shtilman(アリク・シュティルマン)氏は「Anchorは投資したい企業であるとすぐにわかりました」と話す。「Anchorは、決済の未来を見据え、B2Bの決済と請求のための最新のフレームワークを構築しており、すべてのビジネスに必要なものになるはずです」。

Anchorのプラットフォームは「ライブオンライン契約」を通じて企業と顧客を結びつける一方で、自己完結型のエンド・ツー・エンドの請求・支払いソリューションは、ベンダーと顧客の契約をカバーし、請求書の発行、支払い、仲裁のステップを管理する。

同社のシステムは、クライアントの支払い情報やサービスプロバイダーの技術と統合することができ、サービスが提供されたり、請求書の支払い期限が来たりすると、契約に基づいて請求書が自動的に作成され、送付される。

Entrée Capitalの共同創業者でマネージング・パートナーのAvi Eyal(アビ・イヤル)氏は「B2B決済の分野は、各業種がある程度の専門性を必要とするため、非常に細分化されています」と話す。

「Anchorは、このようなユニークなチャンスを見つけ、同社のソリューションを何千ものサービス業に展開することで、業界の主要プレイヤーになると確信しています」とイヤル氏は述べた。

キャッシュフローの問題は、特に世界中の中小企業にとって、成長の最大の妨げとなっている。しかし、米国では中小企業が経済活動の44%を占めているように、ほとんどの経済の屋台骨であるこれらの中小企業がキャッシュフロー問題に直面する主な理由は、支払いの遅延だ。

MelioとYouGovの調査によると、米国ではほとんどの企業が支払い遅延を経験していて、インタビューを受けた企業のうち25社が支払い期日を最大30日過ぎても待たされると回答しており、事業を継続することが困難になっている。

だが、これらの問題はテクノロジーを活用することで解消することができる。

「ベンダーへの支払いを大変なプロセスにしている請求・回収の問題は、人間の要素に起因しています」とイヤル氏は指摘する。

「SpotifyやAmazonのアカウントから機械で生成された請求書を信用するように、もし人々がサービスプロバイダーから受け取る請求書を信用することができれば、請求と支払いはもはや苦痛なプロセスではなくなり、年間120兆ドル(約1京3550兆円)超と推定される市場で、容易に現金が流れるようになるでしょう」。

画像クレジット:Anchor. Anchor founders.

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(文:Annie Njanja、翻訳:Nariko Mizoguchi

ブレット・テイラー氏がSalesforceの共同CEOに昇格

Marc Benioff(マーク・ベニオフ)氏はJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏と同じように取締役会会長に就任し第一線から退く準備ができているのではないかという憶測が以前からあった。そして噂では、Bret Taylor(ブレット・テイラー)氏が昇進するのではないかと言われていたが、ベニオフ氏はまだその準備ができていなかったようだ。テイラー氏は米国時間11月30日、Salesforce(セールスフォース)の共同CEOに昇格した。

社長兼最高執行責任者(COO)だったテイラー氏は、ベニオフ氏の直属ではなく、副会長兼共同CEOとしてベニオフ氏と一緒に働くことになった。2019年に157億ドル(約1兆7810億円)で買収したTableau(タブロー)や、2020年末にテイラー氏が陣頭指揮を執って277億ドル(約3兆1420億円)で買収したSlack(スラック)のような大型買収により近年大きく事業を拡大してきたSalesforceにとって、今回のテイラー氏の昇格は今後の運営に適した方法だとベニオフ氏は考えている。

カバーすべき領域はたくさんあり、1人ですべてを担うのはおそらく困難な仕事なのだろう。「私たちは新しい世界にいて、Salesforceは顧客にとってかつてないほど重要で戦略的な存在になっています。ブレットと私は、信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、すべての人への平等という共通の価値観を大切にしながら、ともにSalesforceを次の章へと導いていきます」とベニオフ氏は(当たり障りのない)声明を発表した。

さすがのテイラー氏も、ベニオフ氏と並んで食物連鎖の頂点に立つ機会を得たことに感謝しているようだ。「22年前に彼が共同設立した会社を率いるために、彼とパートナーを組むことは非常に名誉なことです。Salesforceの社員、開拓者、顧客、そして会社と世界をより良い場所にするためにサポートしてくださるすべての関係者に感謝しています」とテイラー氏は声明で述べた。

Salesforceが共同CEOの手法を取るのは、今回が初めてではない。以前、Keith Block(キース・ブロック)氏が2018年からその役割を担い、2020年に退任した。

初期のソーシャルネットワークであるFriendFeed(フレンドフィード)でCEOを務めていたこともあるテイラー氏は、2009年から2012年までFacebook(フェイスブック)でCTOを務めていた。同氏は、Salesforceが2016年にQuip(クイップ)を7億5000万ドル(約850億円)で買収した際にSalesforceに加わった。そして他の長年の幹部を飛び越して、すぐに昇進した。2019年には社長兼COOに昇進し、今日までベニオフ氏のすぐ下に付けていた。

11月30日にTwitter(ツイッター)の独立取締役会長にも就任したテイラー氏にとっては、なかなかの1週間のようだ。

画像クレジット:Salesforce

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

米国でのサイバーウィークのオンライン支出は1.4%減の3.8兆円、早めに始まったセールが影響

米国の消費者がサプライチェーン不足を意識して早い時期に買い物したため、ホリデーショッピングシーズンの幕開けとなる、感謝祭からサイバーマンデーにかけてのサイバーウィークでは、eコマースの売上がわずかに減少した可能性がある。2020年のサイバーウィークの米消費者の消費額は344億ドル(約3兆8910億円)で、前年比20.7%増だった。しかし、AdobeのDigital Economy Indexのデータによると、2021年のオンライン消費は同1.4%減の339億ドル(約3兆8350億円)だった。

Adobeの分析は、米国のeコマースサイトへの1兆回を超える訪問データから得られたもので、18の製品カテゴリーにまたがる1億個の個別SKUを網羅しており、ホリデーショッピングの傾向を包括的に把握することができる。

分析で、ブラックフライデーから売上が減少していることが明らかになった。2021年のブラックフライデーのオンライン売上高は89億ドル(約1兆60億円)で、過去最高だった2020年の90億3000万ドル(約1兆210億円)から1.3%減少し、史上初の前年割れとなった。サイバーマンデーの売上高も前年比1.4%減の107億ドル(約1兆2100億円)で、2020年の108億ドル(約1兆2210億円)に1億ドル(約110億円)及ばなかった。一方、サンクスギビングデーのオンライン売上高は51億ドル(約5770億円)で横ばいだった。

これらの減少額は比較的小さいものだが、ホリデーショッピングの売上高が年々増加するという通常の傾向に逆行している。2020年の報道によると、パンデミックの影響で数年加速したとされるこの業界にとって、これはパンデミックの長期にわたる影響(現在ではサプライチェーンの不足も含む)が、消費者の心理にどのように作用したかを示す顕著な例となっている。Adobeによると、2021年は品不足を心配して、消費者がより早く買い物をした可能性があるという。

これを裏づけるデータがあるようだ。11月(11月1日〜11月29日)の消費者の消費額は1098億ドル(約12兆4155億円)で、2020年に比べて11.9%の大幅増となった。11月のうち22日がオンラインでの消費額が30億ドル(約3390億円)を超えたことを意味する、とAdobeは指摘している。これは新記録で、2020年に同じマイルストーンを達成したのがわずか9日だった。さらに、消費者は10月も買い物をした可能性があると同社は指摘している。

Adobe Digital InsightsのディレクターTaylor Schreiner(テイラー・シュライナー)氏は、サイバーウィークの調査結果について次のように述べている。「10月に早いセールがあり、消費者はサイバーマンデーやブラックフライデーといった大きな買い物デーをずっと待っていませんでした。サプライチェーンの問題や商品の在庫状況に対する懸念の高まりがさらに拍車をかけました。10月と11月のeコマース支出が分散され、オンラインショッピングの記録を更新するシーズンになりそうです」。

言い換えれば、2021年の売上は必ずしも全体的に減少するわけではなく、以前ほど集中しないということだ。実際、パンデミックの影響でオンラインショッピングが習慣化され、消費者は例年のようにブラックフライデーやサイバーマンデーの大規模なセールを待つのではなく、通常の活動と並行してホリデーシーズンの買い物をするようになったのかもしれない。

今回の減少にもかかわらず、年末商戦のピーク時には、例年とほぼ同じような状況が見られた。サイバーマンデーの買い物客は、おもちゃ(売上は2021年9月のシーズン前水準の約11倍)、ギフトカード(7倍)、書籍(7倍)、ビデオゲーム(6倍)、ベビー・幼児用品(6倍)など通常のカテゴリーで、2021年9月の売上と比較してより多く購入した。また、電子レンジや小型キッチン用品などの電化製品の売上もそれぞれ9.6倍、7.1倍となり、このカテゴリーの増加率は5.6倍となった。

加えて、2021年はスマートフォンによる売上も増加しており、例えばサイバーマンデーのスマートフォンによる売上は前年比8.4%増だった。しかし、これは実際には軌道修正を意味している。パンデミック前は、スマートフォンでの売上がオンライン売上の50%超を占めると予想されていた。しかし現在、自宅で仕事をしている消費者は、以前ほどスマホから買い物をする必要がないのだろう、とAdobeは指摘している。

買い物のパターンは異なるようだが、ホリデーシーズン全体では新記録を更新するとAdobeは見込んでいる。11月1日から12月31日までの期間、消費支出額は前年同期比10%増の2070億ドル(約23兆4000億円)に達すると同社は予測している。

画像クレジット:John Lamb / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

LHCにて初観測したニュートリノ反応候補のうちの2例。左側の図は左から、右側の図は画面に垂直な方向からビームが来ている。各線分は反応で生じた粒子の飛跡を表す

九州大学基幹教育院の有賀智子助教らによるFASER(フェイザー)国際共同実験グループは、11月26日、スイスのCERN(セルン。欧州原子核研究機構)において、世界最大、最高エネルギーの大型ハドロン衝突型加速器LHC(Large Hadron Collider)を使用した研究で、ニュートリノ反応候補の観測に成功したことを発表した

このグループは、2018年、LHCのビーム軸上に小型のニュートリノ検出器を設置し、データを取得した。ニュートリノは、LHCでの陽子同士の衝突で生じるさまざまな粒子の崩壊から生じる。だが、衝突の反応として生じた素粒子ミューオンの飛跡は約2000万本も観測されるのに対して、ニュートリノの反応は10事例程度ときわめて少ない。そこで、「膨大な背景事象を処理するために高飛跡密度での飛跡再構成アルゴリズムなどの技術開発」を行い、ニュートリノ反応候補の探索を行った。さらに「粒子の角度情報などの幾何学的パラメーターを用いた多変数解析」による背景事象(余分な要素)の分別を行うことで、ニュートリノ反応候補の検出を初めて実現した。
FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測
FASER国際共同実験グループは、有賀智子助教の他、千葉大学大学院理学研究院・ベルン大学AEC-LHEPの有賀昭貴准教授、九州大学先端素粒子物理研究センターの音野瑛俊助教、高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所の田窪洋介研究機関講師、名古屋大学大学院理学研究科・素粒子宇宙起源研究所の中野敏行講師、同大学未来材料・システム研究所の中村光廣教授、六條宏紀特任助教、佐藤修特任講師、稲田知大博士研究員らで構成されている。

FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

FASER国際共同実験グループのメンバー(一部)

同グループは、これまで未開拓であった高エネルギー領域でのニュートリノ研究がLHCで可能になることを見出し、同研究を立ち上げた。現在の加速器で生成できる最高エネルギーのニュートリノを研究し、未知の高エネルギー領域において3種類の素粒子(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)に素粒子標準理論を超えた物理の影響があるかを検証することを目指している。FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

また2022~2024年に本格的な実験を予定しており、LHC陽子陽子衝突に起因する未知粒子探索および高エネルギーニュートリノ測定を実施するという。

商用核融合エネルギーの実現に向けてHelion Energyが約2410億円を確保

クリーンエネルギー企業のHelion Energy(ヘリオン・エナジー)は、核融合によるゼロカーボン電力が豊富にある新時代の創造にコミットしている。同社は米国時間11月5日、5億ドル(約570億円)のシリーズEを完了し、さらに17億ドル(約1936億円)のコミットメントを特定のマイルストーンに結びつけたことを発表した。

このラウンドは、OpenAI(オープンAI)のCEOでY Combinator(Yコンビネーター)の元プレジデントSam Altman(サム・アルトマン)氏がリードした。既存の投資家としては、Facebook(フェイスブック)の共同創業者Dustin Moskovitz(ダスティン・モスコビッツ)氏、Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のMithril Capital(ミスリル・キャピタル)、そして著名なサステナブルテック投資家であるCapricorn Investment Group(カプリコーン・インベストメント・グループ)などが名を連ねる。今回の資金調達には、Helionが主要な業績目標を達成するために必要な追加の17億ドルが含まれている。ラウンドリーダーのアルトマン氏は、2015年から投資家兼取締役会長として同社に関わってきた。

約60年前に制御された熱核融合反応が初めて達成されて以来、核融合エネルギーはクリーンエネルギー愛好家の熱い夢であり続けてきた。このテクノロジーは、ごくわずかなリスクで、稼働中の放射能量がはるかに少なく、放射性廃棄物が非常に微量であるという、現行世代の核分裂発電機に対するあらゆる利点を約束している。ただ、1つ難点がある。核融合プロセスはこれまでのところ、その反応を制御し続けるために消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生成することは難しいのが現状である。

Helionは企業として、科学実験としての核融合ではなく、より重要な問題に焦点を当ててきた。このテクノロジーは、商業規模で、そして工業規模で、電力を生成できるだろうかという問いである。

「熱やエネルギー、あるいはその他のことを論じている核融合領域のプロジェクトもありますが、Helionは発電に焦点を当てています。私たちは低コストで迅速にそれを取り出すことはできるのでしょうか。核融合による産業規模の電力を実現することは可能なのでしょうか」とHelionの共同創業者でCEOのDavid Kirtley(デビッド・カートリー)氏は問いかけるように話す。「私たちは輸送用コンテナほどの大きさで、産業規模の電力を供給できるシステムを構築しています。例えば、およそ50メガワットの電力です」。

重水素とヘリウム3は加熱後、磁石で加速され、圧縮されて誘導電流として捕捉される(アニメーションはHelion Energy提供)

2021年6月、Helionは民間の核融合企業として初めて、核融合プラズマを摂氏1億度まで加熱することを確認した結果を発表した。これは、核融合から商用電力への道を歩む上で重要なマイルストーンだ。その後すぐにHelionは、同社が「Polaris(ポラリス)」と呼ぶ第7世代の核融合発電機の製造プロセスの開始に向け、工場の建設に着手したことを明らかにした。

TechCrunchは、2014年の同社の150万ドル(約1億7000万円)というラウンドを知って驚いたことを記憶している。そのとき同社は、3年以内に核融合のネット発電を立ち上げ、稼働させることができると語っていた。それから7年が経過し、Helionはいくつかの問題に直面しながらも、その過程で焦点も見出したようだ。

「エネルギーの科学的マイルストーンにフォーカスするのではなく、より具体的に電力へ焦点を当てるために、方向性を少し変えることにしました。電力、そして電力の抽出という側面で、いくつかのテクノロジーを証明する必要があったのです。また、そうした技術的マイルストーンに到達するために必要な資金も必要でした」とカートリー氏は振り返る。「残念ながらそれには期待していたよりも少し時間がかかりました」。

人々にエネルギーを与えようと待機するHelionチーム(画像クレジット:Helion Energy)

投資ラウンドの一環として、サム・アルトマン氏は取締役会長からHelionの執行会長にステップアップし、同社の商業的方向性へのインプットを含む、より高度な活動を行うことになる。

「最初の資金調達ラウンドはMithril Capitalが主導し、Y Combinatorもその一部を占めていました。そこで私たちはサム(・アルトマン氏)に紹介されました。同氏はそれ以来、私たちの資金調達に関わってくれています。同氏は物理学を真に理解しているアンバサダーで、これは実にすばらしいことです。私たちは同氏が投資をリードすることに興味を持ってくれたことを本当にうれしく思っています。整合性が異なり、テクノロジーについてあまり深く理解していない外部の投資家を連れてくる必要はなかったのです」とカートリー氏は説明する。「同氏は成功を見て、その意味するところを理解してくれました。私たちは同氏を投資家としてだけではなく、より積極的な関与者として迎えることを楽しみにしています。これは私たちがタイムラインを加速できることを意味します。資金調達もその一部であり、テクノロジーもその一部です。最終的に私たちは培ってきたものを世界に送り出す必要があり、サムはそれを支援してくれるでしょう」。

「これまで目にした中で最も有望な核融合へのアプローチを行うHelionに投資できることをうれしく思います」とアルトマン氏は語る。「他の核融合の取り組みに費やされたものに比べてごくわずかな資金、そしてスタートアップの文化を持つこのチームには、ネット電力への明確な道筋があります。Helionが成功すれば、気候災害を回避し、人々の生活の質を向上させることができるでしょう」。

HelionのCEOは、最初の顧客はデータセンターになるのではないかと推測している。そこには他の潜在顧客に対するいくつかの優位性が存在する。データセンターは電力を大量に消費しており、多くの場合、バックアップ発電機を受け入れるための電力インフラストラクチャがすでに整備されている。また、人口密集地から少し離れている傾向がある。

「こうした施設はディーゼル発電機の予備電源を備えており、数メガワットの電力を供給します。これは、電力網の問題に対処するのに必要な時間だけデータセンターを稼働し続けるようにするものです」とカートリー氏は語りながらも、同社は単に予備のディーゼル発電機を置き換えるだけではなく、もっと野心的であることを示唆している。低コストで電力の可用性が高いということは、同社がデータセンター全体にデフォルト電源として電力供給を開始できることを意味する。「50メガワット規模であり、電力コストをキロワット時あたり1セントまで削減できることに大きな期待を寄せています。データセンターの動作を完全に変えることができ、気候変動への対応を本格的に始めることができます。私たちの焦点は、低コストでカーボンフリーの電力を作ることに置かれています」。

発電方法に物理的な制限があるため、同社の現世代の技術はTesla Powerwall(テスラ・パワーウォール)やソーラーパネルに取って代わることはできないだろう。発電機のサイズは輸送用コンテナとほぼ同じである。しかし、50メガワットの発電機は約4万世帯に電力を供給することができ、その電力量で、このテクノロジーは分散型電力網に非常に興味深いオポチュニティをもたらす可能性がある。

Helionの発電ソリューションにおける興味深いイノベーションの1つは、発電の中間段階として水と蒸気を使用しないことだ。

「キャリアの最初の頃、私は核融合の方法に注目し続けていました。そして、プラズマを含めて、すべてが電気的である美しいエネルギーがあるのだ、と確信しながら、それから何ができるだろうか、水を沸かして、古くて低効率な資本集約的プロセスを使うのだろうか、という思いがめぐりました」とカートリー氏は説明する。同社は水を使うのではなく、誘導エネルギーを使うことにした。「この時代を完全に乗り切ることができるだろうか、ガソリンエンジンを使わない代わりに最初からいきなり電気自動車を走らせるようなことができるだろうか。こうした問いへの取り組みに私たちは力を注いできました」。

同社は、2024年までに核融合炉の稼働に必要な量よりも多くの電力を発電できるようにすることを目指しており、現時点での目標は商業規模での発電であるとCEOは指摘している。

「当社の2024年のデータは、現時点では科学上の重要な証明ではありません。目標は、商業的に設置された発電を追求することにあります。巨大な市場が存在しており、これを一刻も早く世界に広めたいと考えています」とカートリー氏は最後に語っている。

「できる限り早く電力に到達するように注力することで、気候変動と二酸化炭素を排出しない発電について話す自然な会話の一部として、核融合を期待できるようになるでしょう。私たちはこの資金を確保できたことに大きな興奮を覚えています。そして調達してきた総合資金により、私たちはそこにたどり着くことができるはずです」。

画像クレジット:Helion Energy

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

日本の精神を体現した持続可能で高品質な製品やブランドの成長と海外進出を支援するForest

COOの西澤正文氏、CEOの湯原 伸悟、投資家のMichael Takahashi(マイケル・タカハシ)氏(画像クレジット:Forest)

日本は、古来より伝統的な美術工芸品の発祥の地だ。熟練したの職人技、細部に至る細心の注意、デザインと機能のバランスがあいまって、陶磁器、伝統的織物、和紙、木工、ガラス、弁当箱など日本独特のさまざまな製品を生み出してきた。

こうした職人技は世代を超えて受け継がれ、現代の日本に生きている。しかし、販売に成功するためのスキルとツールを持たない職人たちは、目まぐるしく変わる21世紀のビジネス環境から置き去りにされている。

近年、安い量産品から個人のニーズやライフスタイルに合う多様化した製品へとシフトする消費者需要に答えるために、数多くのeコマース起業家が独自の製品やブランドを立ち上げ始めた。

日本のeコマースアグリゲーターであるForest(フォレスト)は、日本の精神を生かした持続可能で高品質な製品とブランドを見出し、テクノロジーの力を使って、その成長と国際市場への参入を支援することを目指している。

米国時間11月24日、Forestは9億円のシードラウンドをThe University of Tokyo Edge Capital Partners(UTEC、東京大学エッジキャピタルパートナーズ)およびNordstar Partners(ノードスター・パートナーズ)のリードで完了したことを発表した。

同社は新たな資金を用いて、起業家たちによって注意深く育まれ、集められてきた日本の300以上のeコマースブランドを買収する計画だ。Forestは、デジタルマーケティング戦略を大規模に適用することで、データ分析を通じて販売を最適化し、在庫計画を強化するとともに、eコマースの国境を超えた拡大を支援する。

現在Forestは最初の買収案件をまとめているところだ。今後も、売上100万ドル(約1億2000万円)から500万ドル(約5億8000万円)のブランドを探し続け、2022年には売上1000万ドル(約11億5000万ね)以上の企業を買収する目標だと、ForestのCEO湯原伸悟氏がTechCrunchに話した。

同社はさらに、2000~3000万ドル(約23億1000万〜34億6000万円)のエクイティおよびデットプロバイダーからの資金調達を2022年前半に行う予定だと湯原氏はいう。

Forestは、Amazon(アマゾン)、Rakuten(楽天)、ZOZOTOWN、Yahoo Japan(ヤフー・ジャパン)、Shopify(ショッピファイ)などのマーケットプレイスに着目している。

関連記事:アジア太平洋のAmazonマーケットプレイスのブランド統合を狙うRainforestが39.4億円調達

2021年7月に湯原氏とCOOの西澤正文が共同設立したForestは、国際市場ではRainforest(レインフォレスト)、Una Brands(ウナ・ブランズ)、Thrasio(スラシオ)などのeコマースアグリゲーターと競合する。Forestは、初めての日本市場に特化したアグリゲーターだと主張する。同社は当初日本市場に焦点を合わせていることから、RainforestやThrasioを純粋なライバルとは見ていない、と湯原氏はいう。

Thrasioは3月に、Amazon Japanなどのeコマースプラットフォームで販売されている日本のブランドや製品を買収するために、日本支社を立ち上げた

日本の2020年のeコマース市場規模は1650億ドル(約19兆円)になると日本の経済産業省の報告書は推計している。

「Forestへの投資は当社のITセクターへのシードラウンド投資の中で最大規模です。かつて私は家族経営のアパレル事業を経営し、中小企業の苦悩と限界を実体験してきました。Forestならこうした問題を解決し、テクノロジーの力を通じてそれらの企業の可能性を引き出すことができると固く信じています」とUTECのパートナー、坂本教晃取締役が語った。「この魅力的な市場機会に挑戦する経験豊富の創業者たちと仕事をすることは楽しみであり、リードインベスターの1社として参加できることを光栄に思います」。

「Forestという、日本のニッチなブランドを買収してスケーリングする大きなチャンスを利用する優位な位置にいる企業に投資できることを大変喜んでいます」とNordstarのマネージングパートナー、Ole Ruch(オレ・ルッチ)氏はいう。

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(文:Kate Park、翻訳:Nob Takahashi / facebook

元マイクロソフト執行副社長のハリー・シャム氏が率いる研究機関「IDEA」が深圳に誕生

IDEA(The International Digital Economy Academy、国際デジタル経済アカデミー)」は、2020年、香港との国境の川を挟んだ深圳の地の超近代的なオフィスビルの中にひっそりとオープンした。

香港とは地理的に離れているが、厳密には香港と深圳にまたがる「深圳-香港・革新技術協力区」という特別なエリアに位置する研究機関だ。名前を見れば一目瞭然だ。これは、深圳と香港の政府が、北京の支援と有利な政策を受けて、科学技術の研究を共同で行うためのものだ。

IDEAは、サッカー場540面分に相当する3.89km²の特区内に設立された組織の1つで、Harry Shum(ハリー・シャム)氏の発案によるものだ。著名なコンピューター科学者であるこの人物は、2013年から2019年までMicrosoft(マイクロソフト)の執行副社長を務めた他、Microsoftの米国外で最大の研究部門であるMicrosoftリサーチアジアを共同で設立した。

Microsoftの元同僚であるKai-Fu Lee(カイフー・リー)と同様に、シャム氏はAIの研究面とビジネス面の両方で活躍していた。現在、IDEAにいる彼のチームは「社会的ニーズに基づいて破壊的な革新技術を開発し、デジタル経済の発展からより多くの人々が恩恵を受けられるような形で社会に還元すること」を目指している。IDEAのリサーチディレクターには、Yutao Xie(ユタオ・シー)氏やJiaping Wang(ジェイピン・ワン)氏など、Microsoftのベテランが名を連ねている。

中国のインターネット企業に対する徹底的な規制強化は、北京がテック企業を敵視しているという見出しにつながっている。しかし、政府の意図はもっと微妙なものだ。金融市場のリスクやゲーム中毒、ギグワーカーの搾取などを助長してきた、社会や経済にとって有害とみなされるビッグテックを対象にしているのだ。

その一方で、中国は基礎研究を促進し、西洋技術への依存度を下げるという目標に固執している。Huawei(ファーウェイ)、DJI、Tencent(テンセント)などの巨大企業の本拠地である深圳では、政府が世界レベルの科学者らを採用している。ハリー・シャム氏と彼のチームは、その中でも最も新しい研究者の1人だ。

IDEAは、確かに話題性のある名前(そしてすばらしい頭字語)だ。習近平国家主席の演説では、テクノロジーが経済の原動力になるという意味で「デジタル経済」という言葉が出てくることがよくある。習近平国家主席は10月「デジタル経済は近年、世界経済を再構築し、世界の競争環境を一変させる重要な力となっている」と述べた。「インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーは、経済・社会の発展のあらゆる分野にますます組み込まれています」。

IDEAは、AIが金融、製造、医療などの産業をどのように変革できるかを検討している。今週、中国の大手クオンツトレーダーであるUbiquant(九坤投資)と提携し「金融取引市場のリスクモニタリングと回避 」や「ハイパフォーマンスコンピューティングシステムの基本的なインフラ」に関する研究を行う共同ラボを設立することを発表した。

IDEAは、近年、深圳に誕生した数多くの研究機関の1つにすぎない。政府の支援を受けて香港中文大学の深圳キャンパスに設立された「深圳データ経済研究所」もまた、中国のデジタル経済の発展のために活動しているグループだ。

画像クレジット:LIAO XUN / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Akihito Mizukoshi)

リドリー・スコット監督が実写TVシリーズ版「ブレードランナー」制作を公表、全10話を予定

リドリー・スコット監督が実写TVシリーズ版「ブレードランナー」制作を公表、全10話を予定

Warner Bros.

リドリー・スコット監督が、SF作品『ブレードランナー』の実写TVシリーズの制作に取り組んでいることを明かしました。すでにパイロットのあらすじを書き上げており、シリーズは全10話になるだろうとのこと。

1982年に公開された映画『ブレードランナー』は劇場での興行的には失敗作に分類されるものの、そのサイバーパンクな世界観などがカルト的な人気を得て再評価され、いまやSF映画の代表作のひとつとされています。2017年には続編となる『ブレードランナー2049』が公開され、今月にはCrunchyrollとAdult Swimで神山健治氏と荒牧伸志氏が共同監督としてタッグを組み制作されたCGアニメ作品『ブレードランナー:ブラックロータス』が配信・放送を開始しています。

リドリー・スコット監督が述べた実写TVシリーズはまだ制作のごく初期段階であるため、キャストなどについてはまだ情報がありません。また脚本や監督を誰が担当するのか、シリーズの時間軸的にどの時点を舞台とするのかなども明かされませんでした。ただ、現在作品の権利を持つアルコン・エンターテインメントは『ブレードランナー』のシリーズ全体で時間軸的な整合性を保つため、作品のつながりをきちんと管理する方針を打ち出しています。そのため、実写TVシリーズも『ブラックロータス』と同様、ほかと被らない時代を舞台としつつ、互いの作品に絡む要素も登場するようになると思われます。

ちなみにスコット監督は現在『エイリアン』のTVスピンオフ作品に関してもパイロットを執筆中で、こちらも8~10話ほどの構成になるとされています。

(Source:VarietyEngadget日本版より転載)

アマゾンのマーケットプレイスを使ったインドのマリファナ密輸事件で州警察が同社幹部を起訴

インドのマディヤ・プラデーシュ州の警察は現地時間11月20日、マリファナの密輸にeコマースマーケットプレイスが利用された疑いがある事件で、Amazon Indiaの上級幹部を起訴したと発表した。

警察は、何人の幹部を起訴したか明らかにしなかったが、捜査の中で事実関係が判明したため、同国の麻薬法に基づいてAmazon Indiaの幹部を被告人としたと述べた。

マディヤ・プラデーシュ州の警察は先週、20kgのマリファナを所持していた男2人を逮捕し、男たちはAmazon Indiaのウェブサイトを利用してマリファナを密輸していたと発表した。

Amazonは先週、当局の捜査に協力していると述べていた。しかし同州の内務大臣は今週、アマゾンは捜査に協力していないと話した。

Amazon Indiaの広報担当者はTechCrunchに対し「当社はコンプライアンスに関して高いハードルを設けており、契約上、当社の販売者はamazon.inで商品を販売する際、適用されるすべての法律を遵守することが求められます。当社は、インドでの販売が法律で禁止されている商品の掲載と販売を許可していません」と述べた。

「しかし、販売者がそのような商品を出品した場合、仲介者として当社は法律に基づき必要な措置を講じます。今回の問題は当社に通知され、現在調査中です。進行中の調査において、捜査当局および法執行機関への全面的な協力と支援を約束し、適用される法律を完全に遵守することを誓います」。

Amazonにとって、インドは重要な海外市場だ。同社はインドでの事業に65億ドル(約7410億円)超を投資してきた。同社は現在、インドで独占禁止法の調査を受けており、また、インド最大の小売チェーンであるFuture RetailとReliance Retailが関係する数十億ドル(数千億円)規模の取引でも争っている最中だ。

画像クレジット:NOAH SEELAM / AFP / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

スターバックスがアマゾンのJust Walk Out技術を採用したレジなし店第1号をNYにオープン

Starbucks(スターバックス)がAmazon(アマゾン)と提携して、ニューヨークにレジなし店舗をオープンする。場所は59番街のParkとLexington Avenuesの間だ。その店舗では、スターバックスの注文アプリとAmazonのJust Walk Out技術を組み合わせて使用する。その店舗は、カフェとAmazon Goストアの折衷のようだ。後者は、このeコマース大手のレジなし技術を初体験する場所だった。

客はその店舗のラウンジに、Amazon Shoppingアプリの「In-Store Code」使って入店し、クレジットカードや端末上のAmazon Oneで登録した掌紋をスキャンする。入店するとそこは小さなAmazon Goのマーケットで、特別に選ばれた両社の商品が並んでいる。商品を手に取るとそれらはユーザーのバーチャルカートに入り、AmazonのJust Walk Out技術を使ってる店舗ならどこでも、出ると料金が確定する。

Amazonは、ここ1年半ほどの間、このレジなし技術の利用範囲を広げてきた。空港の売店と提携して支払いなし体験を実装したり、6月にはグロサリーストアFresh Marketの全店にこの技術を提供したWhole Foodsの一部の店にもこの技術を採用し、さらに最近では英国のスーパーマーケットチェーンSainsbury’sにも技術をライセンス提供している。今回のスターバックスとの提携も、Just Walk Outをどこでも使えるようにするための努力の一環だ。

スターバックスとAmazonの共同店は、ここを含めて2022年までに3店舗オープンする予定だ。第2の店舗は、ニューヨーク40番街のTimes Buildingを計画している。レジなしを体験してみたい人は、最初の場所である59番街へ行くべし。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のMariella Moon氏はEngadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Starbucks

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(文:Mariella Moon、翻訳:Hiroshi Iwatani)

工場製の壁、床、屋根パネルを現場で組み立てるモジュラーホームビルダーCoverが約68億円調達、テスラの様式にならう

現在、モジュラーホームの設計に取り組むスタートアップが数多く存在する。中でも興味深いのは、ロサンゼルスに拠点を置く創業7年のCover(カバー)だ。同社によると、壁、床、屋根のパネルをすべて工場で製造した後、標準的なトラックで輸送し、現場でクレーンを使わずに組み立てるという。

建物の骨組みには軽量のスチール、天井にはアルミを使っている。パネルがゴムの複合材でできているのは、創業者でCEOのAlexis Xavier Rivas(アレクシス・シャビエル・リバス)氏が説明するように「乾式壁材の設計は製造や輸送に適したものではなく、とても脆い」ためである。

明らかに、これらの建物をどのように設計するかについて多くの考察がなされてきたようだ。例えば、同社ではすべての給排水衛生設備と電気配線を天井に設置しており、オーナーは新しい配線や配管を設置する際、天井を開けるだけで済む。

奇妙に聞こえるかもしれないが、同じ目的を達成するために、壁に一連の穴を開け、それらを補修して塗り直すことに比べると、それほど違和感はない(また、現在不足している配管工や電気工のような職人の助けも必要ない)。

他の使用素材としては、床や外装に使われている天然の木や木の複合材がある一方、堅牢な表面のカウンタートップや浴室の床には多孔性がない。これは衛生的であることを意味しており、世界的なパンデミックからの回復に伴い、住宅オーナーにとってますます重要な要素となっている。

Coverに関して言えば、その主要な焦点、そして将来性として、迅速な組み立てとカスタマイズの両方があることを考えると、材料の組み合わせ方は当然、一層重要性を帯びてくる。

リバス氏が語るプロセスの仕組みは、顧客が同社と協働して設計を作り上げる、というものだ。現時点では、その設計は1200平方フィート(約111.5平方メートル)以下の平屋建てユニットに限られているものの、エネルギーの浪費を最小限にするために窓をどこに配置すべきかなど、さまざまな要素が考慮されている(またリバス氏は、Coverが作る窓はLEED認定を受けており、住宅は気密性が高く、エネルギー効率が大幅に向上していると指摘する)。

Coverは合意された設計を事前に設定されている価格で採用し、パーツのエンジニアリングに着手する。価格には許可手数料、都市に支払う手数料、基礎工事費用、そして家自体の費用が含まれている。例えば400平方フィート(約37.2平方メートル)のスタジオ(ワンルーム)で20万ドル(約2280万円)、600平方フィート(約55.7平方メートル)のワンベッドルームユニットで25万(約2850万円)ドル、1200平方フィートの寝室が3つある住居で最大50万ドル(約5690万円)という設定だ。

いささか驚くべきことに、基礎工事が完了すれば30日間以内の建設と設置が可能でなり、同社が当初顧客に約束する120日という期間より短縮されるという。

また、必要な許可が得られない場合は100%の返金保証を提供する他、構造に関する生涯保証と、それ以外については1年間の保証を設けている。

これらの建物は「腐食することはありません」とリバス氏。「シロアリに食べられることもないでしょう」。一方、顧客が新しいエアフィルターを必要としている場合は「私たちが交換します」。

トロントで育ったリバス氏は、大学で建築学を学んだ後、Coverを設立する前に短期間、複数の建築会社を渡り歩いた。SpaceX(スペースX)とTesla(テスラ)のエンジニアをこのミッションに引き寄せることができたことを誇りに思っているリバス氏は、今週初めに交わした会話の中のさまざまな場面で、Coverのプロセスをこの自動車メーカーのプロセスになぞらえた。

類似点を見出しているのは同氏だけではないようだ。Coverは2021年10月下旬に、Gigafund(ギガファンド)が主導するシリーズBラウンドで6000万ドル(約68億円)を調達したことを発表した。Gigafundは、SpaceXに大きく賭けた2人の元Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)投資家によって設立された投資会社だ。

今回のラウンドには、Valor Equity Partners(バロー・エクイティ・パートナーズ)とFounders Fundが参加しており、どちらもSpaceXとTeslaの初期投資家でもある。他にも、General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、Lennar(レナー)、Fifty Years(フィフティ・イヤーズ)、AngelList(エンジェルリスト)の共同創業者Naval Ravikant(ナバル・ラヴィカント)氏、Lowercase Capital(ローワーケース・キャピタル)の創業者Chris Sacca(クリス・サッカ)氏、Marathon Asset Management(マラソン・アセット・マネジメント)のCEOであるBruce Richards(ブルース・リチャーズ)氏、Dropbox(ドロップボックス)の共同創業者Arash Ferdowsi(アラシュ・ファダウシ)氏など、著名な投資家が多数名を連ねている。

確かに、全国的な住宅と建設の不足を考えると、Coverが建設しているものへの需要は少なくない。実際、Coverのセールスチームについて尋ねられたリバス氏は、非常に多くのインバウンド関心があり、現在「1人の時間の3分の1がセールスに費やされている」と述べている。

人々がどのようなものを注文しているかについて、リバス氏は同社の顧客の傾向を次のように語っている。引っ越してくる家族(年老いた親や大学から戻ってくる子ども)を受け入れるため、自宅とは別にホームオフィスを作るため、あるいは賃貸収入を増やす方法を確立するため、という目的が多くを占めるという。

さらに、これまでに建設した約20軒の裏庭つき住宅に加えて、現在総額7500万ドル(約86億円)を調達している同社は、大規模な複数階建て住宅と複数世帯向け住宅の建設を始める意向を強く抱いている。

現在稼働している2万5000平方フィート(約2322.6平方メートル)の倉庫から、10万平方フィート(約9290平方メートル)の工場に移転することで、さらに多くのパネルを生産できるようになるとリバス氏は話す(そこに6000万ドルの一部が注ぎ込まれている)。

実際、すべてが計画どおりに進めば、近いうちに既存の顧客でも、すでに購入した家をCoverアプリを使って容易に拡張できるようになるという。同氏の話を聞くと、それは簡単なことのようだ。

「アプリを起動して、追加したい部屋をクリックし、予約して、オンラインで支払いをすれば、2〜3日でリノベーションが完了します」。

これはElon Musk(イーロン・マスク)氏がその名を馳せる、一種の開幕戦のようなものだ。さて、Coverがうまくやり遂げるかどうか、注目してみたい。

画像クレジット:Cover

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

工場製の壁、床、屋根パネルを現場で組み立てるモジュラーホームビルダーCoverが約68億円調達、テスラの様式にならう

現在、モジュラーホームの設計に取り組むスタートアップが数多く存在する。中でも興味深いのは、ロサンゼルスに拠点を置く創業7年のCover(カバー)だ。同社によると、壁、床、屋根のパネルをすべて工場で製造した後、標準的なトラックで輸送し、現場でクレーンを使わずに組み立てるという。

建物の骨組みには軽量のスチール、天井にはアルミを使っている。パネルがゴムの複合材でできているのは、創業者でCEOのAlexis Xavier Rivas(アレクシス・シャビエル・リバス)氏が説明するように「乾式壁材の設計は製造や輸送に適したものではなく、とても脆い」ためである。

明らかに、これらの建物をどのように設計するかについて多くの考察がなされてきたようだ。例えば、同社ではすべての給排水衛生設備と電気配線を天井に設置しており、オーナーは新しい配線や配管を設置する際、天井を開けるだけで済む。

奇妙に聞こえるかもしれないが、同じ目的を達成するために、壁に一連の穴を開け、それらを補修して塗り直すことに比べると、それほど違和感はない(また、現在不足している配管工や電気工のような職人の助けも必要ない)。

他の使用素材としては、床や外装に使われている天然の木や木の複合材がある一方、堅牢な表面のカウンタートップや浴室の床には多孔性がない。これは衛生的であることを意味しており、世界的なパンデミックからの回復に伴い、住宅オーナーにとってますます重要な要素となっている。

Coverに関して言えば、その主要な焦点、そして将来性として、迅速な組み立てとカスタマイズの両方があることを考えると、材料の組み合わせ方は当然、一層重要性を帯びてくる。

リバス氏が語るプロセスの仕組みは、顧客が同社と協働して設計を作り上げる、というものだ。現時点では、その設計は1200平方フィート(約111.5平方メートル)以下の平屋建てユニットに限られているものの、エネルギーの浪費を最小限にするために窓をどこに配置すべきかなど、さまざまな要素が考慮されている(またリバス氏は、Coverが作る窓はLEED認定を受けており、住宅は気密性が高く、エネルギー効率が大幅に向上していると指摘する)。

Coverは合意された設計を事前に設定されている価格で採用し、パーツのエンジニアリングに着手する。価格には許可手数料、都市に支払う手数料、基礎工事費用、そして家自体の費用が含まれている。例えば400平方フィート(約37.2平方メートル)のスタジオ(ワンルーム)で20万ドル(約2280万円)、600平方フィート(約55.7平方メートル)のワンベッドルームユニットで25万(約2850万円)ドル、1200平方フィートの寝室が3つある住居で最大50万ドル(約5690万円)という設定だ。

いささか驚くべきことに、基礎工事が完了すれば30日間以内の建設と設置が可能でなり、同社が当初顧客に約束する120日という期間より短縮されるという。

また、必要な許可が得られない場合は100%の返金保証を提供する他、構造に関する生涯保証と、それ以外については1年間の保証を設けている。

これらの建物は「腐食することはありません」とリバス氏。「シロアリに食べられることもないでしょう」。一方、顧客が新しいエアフィルターを必要としている場合は「私たちが交換します」。

トロントで育ったリバス氏は、大学で建築学を学んだ後、Coverを設立する前に短期間、複数の建築会社を渡り歩いた。SpaceX(スペースX)とTesla(テスラ)のエンジニアをこのミッションに引き寄せることができたことを誇りに思っているリバス氏は、今週初めに交わした会話の中のさまざまな場面で、Coverのプロセスをこの自動車メーカーのプロセスになぞらえた。

類似点を見出しているのは同氏だけではないようだ。Coverは2021年10月下旬に、Gigafund(ギガファンド)が主導するシリーズBラウンドで6000万ドル(約68億円)を調達したことを発表した。Gigafundは、SpaceXに大きく賭けた2人の元Founders Fund(ファウンダーズ・ファンド)投資家によって設立された投資会社だ。

今回のラウンドには、Valor Equity Partners(バロー・エクイティ・パートナーズ)とFounders Fundが参加しており、どちらもSpaceXとTeslaの初期投資家でもある。他にも、General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、Lennar(レナー)、Fifty Years(フィフティ・イヤーズ)、AngelList(エンジェルリスト)の共同創業者Naval Ravikant(ナバル・ラヴィカント)氏、Lowercase Capital(ローワーケース・キャピタル)の創業者Chris Sacca(クリス・サッカ)氏、Marathon Asset Management(マラソン・アセット・マネジメント)のCEOであるBruce Richards(ブルース・リチャーズ)氏、Dropbox(ドロップボックス)の共同創業者Arash Ferdowsi(アラシュ・ファダウシ)氏など、著名な投資家が多数名を連ねている。

確かに、全国的な住宅と建設の不足を考えると、Coverが建設しているものへの需要は少なくない。実際、Coverのセールスチームについて尋ねられたリバス氏は、非常に多くのインバウンド関心があり、現在「1人の時間の3分の1がセールスに費やされている」と述べている。

人々がどのようなものを注文しているかについて、リバス氏は同社の顧客の傾向を次のように語っている。引っ越してくる家族(年老いた親や大学から戻ってくる子ども)を受け入れるため、自宅とは別にホームオフィスを作るため、あるいは賃貸収入を増やす方法を確立するため、という目的が多くを占めるという。

さらに、これまでに建設した約20軒の裏庭つき住宅に加えて、現在総額7500万ドル(約86億円)を調達している同社は、大規模な複数階建て住宅と複数世帯向け住宅の建設を始める意向を強く抱いている。

現在稼働している2万5000平方フィート(約2322.6平方メートル)の倉庫から、10万平方フィート(約9290平方メートル)の工場に移転することで、さらに多くのパネルを生産できるようになるとリバス氏は話す(そこに6000万ドルの一部が注ぎ込まれている)。

実際、すべてが計画どおりに進めば、近いうちに既存の顧客でも、すでに購入した家をCoverアプリを使って容易に拡張できるようになるという。同氏の話を聞くと、それは簡単なことのようだ。

「アプリを起動して、追加したい部屋をクリックし、予約して、オンラインで支払いをすれば、2〜3日でリノベーションが完了します」。

これはElon Musk(イーロン・マスク)氏がその名を馳せる、一種の開幕戦のようなものだ。さて、Coverがうまくやり遂げるかどうか、注目してみたい。

画像クレジット:Cover

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

30cm下の土壌を調査し、栄養素や微生物といった実際の畑の化学的特性把握を支援するEarthOptics

ここ数十年の間に、持続可能で効率的な農業は、巨大なトラクターの問題からビッグデータの問題へと変化してきた。スタートアップのEarthOptics(アースオプティクス)は、精密農業の次のフロンティアは土壌の奥深くにあると考えている。同社は、ハイテク画像処理技術を用いて、従来の技術よりも早く、より正確に、より安く、農地の物理的および化学的組成をマッピングできると謳い、そのソリューションを拡大するために1000万ドル(約11億円)を調達した。

EarthOpticsの創業者でありCEOのLars Dyrud(ラース・ダイルード)氏は「土壌をモニタリングするほとんどの方法は、50年間変わっていない」とTechCrunchに語る。そして「農業における精密データや最新のデータ手法の利用については、非常に多くの進歩があった。しかし、その多くは植物や季節的な作業に焦点を当てたもので、土壌に対する投資は比較的少なかった」と続ける。

植物が根を張る土壌をより詳しく調べるのは当然だろうと思うかもしれないが、単純な事実としてそれは難しいことだ。航空写真や衛星写真、IoT技術を組み込んだセンサーが水分や窒素などを検出し、農地の表面レベルでのデータは非常に豊富になった。しかし、1フィート(約30センチメートル)より深くなると簡単にはいかない。

同じ畑でも部分ごとに、作物の出来に大きな影響を与える土壌圧縮などの物理的特性や、溶解している栄養素や微生物叢などの化学的特性のレベルが大きく異なる場合がある。こういった違いを調べるための最善の方法は「非常に高価な棒を地面に突き刺すこと」だとダイルード氏はいう。それらのサンプルから得られるラボの結果によって、畑のどの部分を耕したり肥料を与えたりすべきかを判断する。

画像クレジット:EarthOptics

棒による調査は重要であり、農場では今も行っているが、数エーカー(数千平方メートル)ごとに土壌サンプルを採取することは、1万エーカー(約40平方キロメートル)もの土地を管理する場合では、大変な作業となってしまう。そのため、データが得られない多くの農場では、すべての畑を耕し肥料をまき、何のメリットもない、むしろ有害なプロセスに多額の費用を投じている(ダイルード氏は、米国では約10億ドル[約1100億円]もの費用をかけて不必要な耕作を行っていると推定している)。そしてこれは、地中に安全に封じ込められていた大量の炭素を放出してしまうことにもなる。

画像クレジット:EarthOptics

EarthOpticsは「高価な棒」に相当する部分を最小化することで、根本的により優れたデータ収集プロセスを目指している。同社は、地中探知レーダーと電磁誘導を利用した画像処理システムを構築し、土壌深部の組成地図を作成している。1つのサンプルから何エーカー(何千平方メートル)ものデータを推定する方法に比べ、より簡単で、より安く、より正確なものだ。

GroundOwl(グラウンド・オウル)とC-Mapper(シーマッパー、Cはcarbon[炭素]の頭文字)という同社の2つのツールでは、機械学習がその中核をなしている。同社のチームは、非接触データを通常よりはるかに低いレートで採取された従来の土壌サンプルと照合するモデルを学習させ、従来よりもはるかに高い精度で土壌の特性を正確に予測できるようになった。画像処理装置は、通常のトラクターやトラックに搭載可能で、数フィート(数十センチメートル)ごとに測定値を取得する。物理的なサンプリングは継続して行われるが、その頻度は数百回から数十回のレベルに低減した。

現在の方法では、何千エーカーも(何十平方キロメートル)の農地を50エーカー(約20万平方メートル)ごとに分割し、この区画にはもっと窒素が必要だとか、この区画は耕す必要があるとか、この区画にはあれこれの処理が必要だとかいったことを考える。EarthOpticsは、それをメートルの単位にまで細分化し、そのデータを、耕す深さを変えられるスマート耕運機のようなロボット化された農業機械に直接供給することができる。

画像クレジット:EarthOptics

畑に沿って走らせると、必要な深さだけ耕して進んでいく。もちろん、誰もが最新の農業機械を持っているわけではないため、データは、より一般的な地図として、耕したり他の作業を行ったりする時期など、ドライバーに一般的な指示を提供することもできる。

このアプローチが軌道に乗れば、コストダウンを目指す農家にとっては大きな節約になり、規模拡大を目指す農家にとっては、農地面積や耕作費用に対する生産性が向上することになる。そして最終的なゴールは、自動化やロボット化された農業を実現することでもある。この移行は、機器や運用方法を練り上げている初期段階ではあるが、いずれにしても必要となるのは優れたデータだ。

ダイルード氏は、EarthOpticsのセンサーシステムが、ロボット化されたトラクターや耕運機などの農業機械に搭載されることを期待しているが、同社の製品は、データと何万回もの現地調査での実測値を用いてトレーニングした機械学習モデルに他ならない、と述べている。

同社の1030万ドル(約11億3000万円)のシリーズAラウンドでは、Leaps by Bayer(リープス・バイ・バイエル、複合企業バイエルのインパクト投資部門)がリードし、S2G Ventures(S2Gベンチャーズ)、FHB Ventures(FHBベンチャーズ)、Middleland Capital(ミドルランド・キャピタル)のVTC Ventures(VTCベンチャーズ)、Route 66 Ventures(ルート66ベンチャーズ)が参加した。今回の資金調達では、既存の2つの製品の規模を拡大するとともに、明らかにすべての農場が関心を示すであろう次の製品、水分マッピングに着手する予定だ。

画像クレジット:EarthOptics

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

インターネット分野への投資が停止した中国で新興技術分野を開拓するTemasek

インターネット産業に対する中国の徹底的な締め付けにより、ゲームやeコマースなど、かつて人気を博した分野への投資家や新興企業の情熱が冷え込んでいる。しかし、投資家たちは中国でペースを緩めてはいない。2010年代の消費者向けインターネットブームは、Tencent(テンセント)やAlibaba(アリババ)のような巨大企業を生み出した。デジタル化がより伝統的な分野にも広がるにつれ「テック」業界全体でも新たな巨人の誕生が見込まれる。

例えば、Temasek(テマセク)のRohit Sipahimalani (ロヒット・シパヒマラニ)氏は、中国の医療テック、バイオテック、ヘルスケア、サステナビリティなどの分野に「膨大な機会」があると考えていると、日経アジアのインタビューに答えている。これらは「政府の政策に引き続き沿っている」分野だ。

実際、Temasekは最近、これらの分野でいくつかの中国のスタートアップに出資した。眼科・検眼機器サプライヤーのVision X、mRNAベースのワクチン・医薬品を提供するAbogen Biosciences、手術用ロボットを開発するEdge Medical Robotics、自律走行技術を提供するMomentaなどだ。

3月31日時点で、中国はシンガポール政府系企業の最大の投資先であり、3810億シンガポールドル(約32兆円)のポートフォリオの27%を占めている。

一方、Temasekは規制の見直しの中でインターネット関連企業への資本投下を停止している。

シパヒマラニ氏はインタビューの中で「今後数カ月のうちに規制が明確になり、それによって勝者と敗者がはっきりすると思いますが、我々はおそらくこの分野の規制が明確になるまで、資本投入を控えるでしょう」と述べている。

中国のテック産業の発展を形作る統一的な法律はない。この1年間、中国はIT分野を対象とした数多くの新しい規制を導入してきた。例えば、個人情報保護法はユーザーのプライバシーを保護することを目的としており、インターネットサービスがデータを収集する方法、ひいては収益に影響を与える。独占禁止法は、インターネット企業の自由な成長を抑制し、この分野に新しい風を吹き込もうとするものだ。一方で、オンライン教育の取り締まりは、国の所得格差の拡大に対処するための試みであるとの見方が多い。

業界関係者や投資家にとっての課題は、これらの新しい法律を分析するだけでなく、次の法律がいつ導入されるかを予測することだ。

シパヒマラニ氏は「中国では、実行される方法が少し無骨かつ迅速で、そのため多くの衝撃を与えてきました」と話した。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi