男性のポルノ断ちもサポート、あらゆるデジタル依存症を克服するツールを英Remojoが開発

男性のセクシャルヘルスをテーマにしたスタートアップが数年前から活発な動きを見せている。初期のテックビジネスには、勃起不全などの健康問題を治療するための医薬品への(より簡単な)アクセスを提供することを目的とするものや(例えばRoman)、抜け毛を減らしたり性欲を高めたりすることを謳ったホルモン検査やオーダーメイドのビタミン剤を提供するものもあった(Manualなど)。時間の経過とともにより広範な遠隔医療が提供されるようになり(Ro)、そして最近では、男性のメンタルヘルスにも関心が向けられるようになった。

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この展開を長い間待ち望んでいた人も少なくないのではないだろうか。

ここ英国は今、起業活動におけるちょっとしたホットスポットとなっているようだ。例えば9月の記事では英国を拠点とするMojoのシードラウンドを紹介した。同社は男性の性的ウェルビーイングのためのサブスクリプションサービスを提供しており、勃起不全の解決策として錠剤ではなくセラピーを提案している。

また、男性専用ではないが、英国のPaired(ペアード)はアプリを通したカップルセラピーを提供している。

さて、今回はMojoと同じ年(2019年)に設立され、男性の性的幸福とセルフケアに対するホリスティックなアプローチを提供している英国拠点のサブスクリプションサービスをご紹介したい。似たような名前が付けられたRemojoは、性の健康に関する悩みを抱える男性をサポートするための技術ツールやアプリ内プログラムを提供しているが、まず同社が最初に着目したのは「ポルノの放棄」である。

Remojoのウェブサイトを見てみると、ポルノをやめることで時間の節約や注意力の向上を期待できるだけでなく、個人的な人間関係が改善され、さらには勃起不全などの健康問題が解決する可能性があるなどさまざまなメリットが説明されている。同社には急成長中の男性のセクシャル・ウェルビーイング分野と一致するところがかなりあるようだ。

価格の違い(RemojoのサブスクリプションプランはMojoよりも安い)を除けば、まず最初の違いはどう男性に関心を持たせるかというところである。

勃起不全に悩む男性よりもポルノを消費する男性の方が多いのは当然だろう。しかし、Remojoのターゲットは、ポルノを見ていて、かつポルノをやめたいと思っている男性だ。しかし単独創業者であるJack Jenkins(ジャック・ジェンキンス)氏は、このサブスクリプションサービスがポルノ依存症男性のためだけのものではないと強調している。

むしろ同氏によると、単純な自己啓発を目的とする人(自分の内側をよりコントロールできるようになりたいと感じている人)から、ポルノ消費の習慣が日々の生活(や人間関係)の妨げになっていると感じている人の他、宗教的信念を持っていて、たとえめったにポルノを使用しないとしてもポルノを使用することに恥じらいを感じており、求められる精神的基準に沿って生活できるようにするための助けを求めている人まで、さまざまな理由でポルノ消費をやめたいと思っている人に対応できるよう設計されているという。

ジェンキンス氏によると、Remojoの主要ユーザーには、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンズー教徒がおり、宗教的理想を実現するための支援を求めている人々が多い。彼らが置かれている環境では通常話すことがタブーとなっている問題について取り組むため、偏見のないサポートコミュニティを求めている場合もあるという。

Remojoによると、同社のサブスクリプションプログラム(1カ月4.99ドル、約580円。3カ月間または1年間のプランに申し込むとそれ以下になる)には毎月約5万人が登録しており、世界中(少なくともインターネットへのアクセスが容易な場所)からユーザーが集まっているというから、ポルノの消費が非常に普遍的な問題であるということがよくわかる。

現在、Remojoにとって最大の市場は米国、英国、ブラジル、インド。アプリ内のコンテンツは英語のため、英語圏の他の市場でも成長しているとジェンキンス氏は説明する。同社の典型的なユーザーは16~35歳の男性で「いつでもポルノにアクセスできる環境で育った」デジタルネイティブだといえる。

このような支持を受け、当然のことながら投資家も放ってはおかない。

ジェンキンス氏によると、同社は過去12カ月間に160万ポンド(約2億5000万円)のプレシード資金を、元Techstars Berlin(テックスターズ・ベルリン)のマネージングディレクターでAngel Invest(エンジェル・インべスト)CEOのJens Lapinski(ジェンズ・ラピンスキ)氏、同じくTechstars BerlinおよびAngel InvestのJag Singh(ジャグ・シン)氏をはじめとする多数の事業家エンジェルの他、銀行・金融業界のエンジェルや(匿名の)創業者などから調達したという。

ジェンキンス氏によると、同社は現在シリーズAの調達を進めており、500万ポンド(約7億7000万円)から600万ポンド(約9億2000万円)を目標に「1月までに」ラウンドを終える予定だという(おそらくシードをスキップして、Aに直行するだろうと同氏は話している)。

Remojoのウェブサイトには、ポルノをやめるための「90 day reboot」というものがあるが、これは同社で最も人気のある契約プランだという。

同社の技術が本当に有効ならば、3カ月ごとにユーザーが大きく入れ替わることになるだろう。しかしオンラインポルノには粘着性があり、簡単にアクセスできるため、再発の危険性が高く、ブロッカーツールが役立つ可能性が高いとジェンキンス氏は主張する。そのため男性にポルノをやめさせるというミッションが成功することによっておき得る、収入の激減を心配することはなさそうだ。

同社はより広範で継続的な、実用性と魅力を兼ね備えたコースもアプリ内で提供しており、ポルノの消費に関連している(あるいは悪影響を受けている)可能性のある男性の性的健康と幸福におけるさまざまな側面をサポートしている(ただし、やめたら改善が続くとは限らない)。

当初、自ら資金を調達して事業を立ち上げたジェンキンス氏。創成期にはユーザーがスマートフォン上でコンテンツをカスタムブロックして、ポルノソースへのアクセスを遮断できるMVPを発表した。

現在同ソフトウェアは、Android、iOS、Windows、macOSに対応しており、クロスデバイスで利用が可能だ。オンラインポルノへのアクセスに文字通りバリアを設ける単純なアダルトコンテンツブロッカーだけでなく、前述の行動変容コース、CBTテクニック、幅広いサポートコミュニティなど多くの機能が盛り込まれている。

今後はAIを用いてポルノコンテンツの識別を行い、ソフトウェアのブロック/フィルタリング機能を強化しようとジェンキンス氏は計画しており、コンピュータービジョンとオーディオを使用してポルノ視聴を進行中に検知し、ソフトウェアがリアルタイムに介入できるようなモデルの開発に取り組んでいる。

現在は、カスタムメイドのブロック機能とサポートリソースがミックスされたアプリになっている。

「いくつかの要素を組み合わせたハイブリッドになっています。習慣形成や習慣破壊に関する研究を行い、その分野で得られた知見や原理を利用しています。アプリ内コンテンツディレクターであるNoah Church(ノア・チャーチ)は、ポルノ依存症から抜け出すためのコーチングを7年間にわたって行ってきました。彼はYouTubeチャンネルを持っており、長年そこで講座やコーチングを行っています」とジェンキンス氏はTechCrunchに語っている。

「弊社のアプリの基礎構造の1つは『選択モデル』です。これは、英国のポルノ・セックス依存症研究の第1人者であるPaula Hall(ポーラ・ホール)博士が開発した回復モデルです」。

Remojoはプログラムから得られるユーザーの実用的な洞察、他のユーザーによる匿名のサポートコミュニティへのアクセス、ユーザーが進展を確認したり、コミットメントやアカウンタビリティを維持したりするためのツール(アカウンタビリティ・パートナーやインストールPINプロテクションなど)も行動変容のミックスに組み込んでいる。

ユーザーを完璧に「Reboot(再起動)」させてしまうことからこのプログラムは開始する。つまりポルノの消費を持続的に控える期間である(ここでRemojoのブロックツールとアカウンタビリティー機能が重要な役割を果たす)。マインドフルネス、運動、(ポルノとは無縁の)趣味への参加など、ポルノを放棄したことで空いた穴を埋めるための、代替習慣を身につけるための時間を確保させることがここでの狙いである。

ジェンキンス氏によると、マインドセットや思考パターンを変えること、そして男性の自己啓発が主な目的であるため、コースの内容には、習慣の変更、依存症の回復、性機能障害の克服(Mojoとの重複)などの関連分野が含まれているという。

今後は、デートに関してやパートナーとの関係・性生活の改善など、より幅広い分野をカバーするコースの他、特定の宗教的信条に合わせたアドバイスを提供するコースなども予定している。

「また、より困難な状況にある人には、心の穴を埋めるためにポルノのようなものを必要としないよう、より充実した生活を送れるようにするための支援をしています」。

ポルノ利用者の中には、利用に関連するより深い心理的問題を抱えている人もいるかもしれないが(幼少期の虐待など)、ポルノの消費自体には「便利な存在」だということ以上の深い意味はないのではないかとジェンキンス氏は主張している。つまり、消費を心理学的に分析することは必ずしも必要ではないという考えである。

そのため同アプリは人を判断することを避け、男性が自分の時間と注意力をコントロールできるようにサポートすることに重点を置いている。そしてそのついでに、注意を散漫させるポルノ業界を批判している。

「ポルノの使用は、必ずしも深い心理的問題によって引き起こされるものではありません。ただ非常に刺激的で、非常に強迫的な物質であり、人々の基本的な進化の欲求を利用して乗っ取ってしまうものなのです。そのため人々はただそこにあるから、そしてとても魅力的だからという理由で、純粋にポルノを見てしまうのです」と同氏は話す。

「これは世界中で共通した問題です。世界中の35歳以下の男性なら、宗教への信仰深さを問わずほとんどの人が直面しています。非常に大きな問題のため、すべてを一括りにすることはできません」と、オンラインポルノの魔力について説明する。「1日に3時間から7時間も見てしまうような深刻な依存症の人もいれば、イスラム教徒で月に1度しか見ないにもかかわらず、イスラム教では許容されていないため彼にとっては大問題です。それが自尊心に影響を与え、神との関係を絶ってしまうようなことさえあります」。

「非常に広い範囲にわたった問題であるため一般化するのはとても困難です。ユーザーの人生がいかに変化したかについて、さまざまな話やコメント、評価を聞くことが私やチームにとっての最大の喜びです」。

より広い観点から見てみると、オンラインでのポルノ視聴は、英国政府も10年以上前から関心を寄せている問題である。ネット上の不適切なコンテンツに簡単にアクセスできてしまうことで、子どもたちに悪影響が及ぶのではないかという懸念から、閣僚たちは現在大規模なオンライン安全法を施行している。

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同様に、幼い頃から無限のポルノにさらされている男性は、後にさまざまな性的ウェルビーイングの問題を抱えることになると同社は考えている(月に5万人の男性がユーザーになるというのだから、あながち間違いではないのだろう)。

英国政府が以前、アダルトサイトへのアクセスに年齢認証を義務付けようとしたことがあったのだが、セキュリティやプライバシーへの懸念、年齢チェックを課したり規制したりすることの実現性をめぐる反発を受け、2019年に挫折した。

自分専用のポルノブロッカーとポルノ断ちのサポートコミュニティ(有料)によって男性が自らポルノをやめることができれば、話はずっと簡単だ。

ジェンキンス氏は自身がポルノをやめようと決心した際、アプリを使った支援ツールを思いついた。特にポルノへの依存があったわけではないが「より良い生活と自身を生きるための、より意識的な選択」として決意したのである。

辞めるためのサポートを探していた際、あるサブレディットで100万人以上のユーザーが同じようなサポートを求めていたことを知り、同氏はそこからこの問題の大きさとビジネスチャンスの可能性を感じ始めた。

「ポルノを完全に自分の生活から遮断するため、スマホやパソコンのコンテンツをブロックしたり、フィルタリングしたりできるガードレールのようなものを探したのですが、あまりいいものがありませんでした」と同氏は振り返る。「私は起業家精神があるため、この問題をもっと掘り下げようと思ったのです。同じようなことをしたいと思っている人や、このように感じている人は私だけではないはずだと思い、Reddit(レディット)でポルノ断ちやポルノ中毒について、あるいはポルノに関する問題や生活への影響について積極的に話している人たちにDMで連絡を取り始めました」。

「彼らにインタビューを始めたところ、Redditでどれだけ多くの人がこの話をしているかに驚かされました。約130万人もの人々が、ポルノをやめることに特化したサブレディットに参加しているのです。彼らはとても熱心に私に話をしてくれましたし、彼らがどれほど強く解決策を求めているのかを知りました」。

「最初のユーザーディスカバリーを行った後、すぐに(2019年12月に)作業を開始しました。私がこれまでに持っていたどんなに良いアイデアでも、これほどのレベルの同意を得られたことはありませんでした」。

「最初はブロッキングが目標でしたが、次第に人々が直面している問題を理解するようになりました。実際に人々の行動を変える手助けをするにはどうしたらいいのか、また習慣や中毒を断ち切るには、行動や考え方を変えるべきなのではないかということが理解できるようになりました。つまりブロッキングだけでは不十分なのです」。

勃起不全の治療をきっかけに、男性に対してより幅広い治療(ポルノ依存症のサポートを含む)を提供したいと考えているMojoと同様に、Remojoもまた、そのツールをより広範囲へと広げたいと考えている。ポルノ用に開発しているアプリベースのフレームワークを、オンラインギャンブルやソーシャルメディア、コンピュータゲームの依存症など「誰も本気で取り組んでいない、現代的な行動的デジタル依存症や強迫観念」にも適用できるようにしたいとジェンキンス氏は意気込んでいる。

「弊社のフレームワークを使って、ギャンブルや衝動的なゲームプレイをやめたり、ソーシャルメディアを減らしたりするための支援をしていきたいと思っています。これらは別々のブランドになりますが、同じ技術、同じフレームワークを使って人々をより良い習慣に導いたり、完全にそれらを断ったりすることができるでしょう。枠組みはまったく変えずアプリ内のコースを変えるだけです。アプリ内のコースを変更するだけで、その他のシステムに関しては、習慣や行動に変化をもたらしたり、デジタル依存症を克服したりするために何が有効かという点ではまったく同じです」。

つまりひょっとすると、Remojoはそのうち女性をターゲットとしたプロダクトを作る可能性もあるということだ。

(それにしても「ポルノをやめる」と「Facebookをやめる」が同列に語られるというのは、ソーシャルメディアに対する考え方がいかにネガティブなものになっているのかを物語っている)

同社のもう1つの開発計画には、独自のカスタムOSの開発がある。本質的にミニマルなOSで、自分の注意を引こうとするデジタル界のあれこれを、ユーザー自身がコントロールできるようにするためのものである。

「アンドロイドのスマホやデスクトップ機器向けにカスタムOSを構築したい」と語る同氏は、近日中に予定されているシリーズAの資金の一部を使ってその作業を開始し、最終的には「デジタルミニマリスト向けに、デジタルウェルネスコントロールをすべてOSに組み込んだ携帯電話を発売する」ことを目標としているという。しかしそれはまだ先の話になりそうだ。

シリーズAにより資金が潤沢になると予想される今後1年間の計画として、メッセージ性を高めていくことも重要だ。

ポルノ消費に関するより多くの人々の考え方を変えるために「世界的な会話を始めていきたい」とジェンキンス氏はいう。ポルノをやめるという考えが、お酒を飲まないとかタバコを吸わないという考え方と同じように「ありきたり」でごく普通なことになるように働きかけていきたいと同氏は考えている。

「まずシリーズAで実現したいのは、このテーマに対するタブーをなくすことです。お酒を飲まない、タバコを吸わない、肉を食べない、といったことと同じように、普通に広く受け入れられるようにしたいと考えています。このライフスタイルの選択を、メインストリームの話題や選択肢として受け入れられるようにするのです」。

画像クレジット:Remojo

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【コラム】プライド月間の6月を終えて、テック業界のステレオタイプな男性的文化との戦い

「ゲーム」と呼んでいるものを始めたのは4歳のときだった。学校でコスプレの時間があり、衣装箱に駆け寄った私の肩を先生が掴んだ。先生は私の顔を見てこう言った。「これは女の子の衣装。男の子の衣装はあっちだよ」。

私は何が悪いのかわからず困惑した。ただ「ああ、世の中にはルールがあるんだな」と思ったのを覚えている。その瞬間から、私は多くの人が参加しているゲームのルールに従うようになった。学校や職場、社会全体で何が許容され、どのように振る舞うべきかを規律する、不文律のゲームだ。

私はこのゲームに従い、自分の「ゲイらしさ」を抑えてきた。20代でカミングアウトした後でさえも。仕事を始めたばかりの時は特にそうだった。初めて参加する会議やビジネスの取引があるたびに、どの部分が「OK」で、どの部分が人を遠ざけるのか、線引きはどこなのかを常に先読みしていた。

そういう意味では、私が拠り所とするテック業界に蔓延しているステレオタイプの男性的な「ブログラマー」文化は、私にとって大きな驚きではない。誰もが自分の核となるアイデンティティを隠そうとして、集団の型に合うように必死でエッジを削っていれば、少数派の声がかき消されるのは必然だ。この図式から得られる結果はこうだ……大きな変革を起こす者が集うはずの、イノベーションの艦隊であるはずのシリコンバレーは委縮していく。

プライド月間と先日行われた祭典は、ブログラマー覇権主義に対する解毒剤になる。虹を象徴とするプライドは、自由であり、真実であり、何にも縛られないすべての者の豊穣の角(豊かさの象徴)である。プライド月間が終わりに近づいた今、私の最大の希望は、プライド月間だけが持つ偏見のないエネルギーで、さらに意義のある変化を引き起こすことである。

まず自分のチームのために行動する

私はプライドとそれにともなう意義深い行動を心から愛しているが、一部のブランドが形だけの行動をしていることは否めない。企業がマーケティングのためにレインボーフラッグを利用し、必ずしも自分たちの身近なところで具体的な変化を起こさないという「パフォーマティブ・アクティビズム(流行に合わせて表面だけのアクティビズムを行うこと)」が増加している。口先ではプライドを支持しながら、裏では反トランスジェンダー法案を推進する政治家を支援する企業も増えている。

もしあなたが職場の多様性に真剣に取り組むリーダーであれば、まず自分のチームを支援できるように内部に目を向けよう。従業員が、性別、人種、性的指向、さらには服や音楽の趣味といった付随的な属性に関係なく、十分に満足していられる文化を作るにはどうすればいいだろうか。

2019年に行われたイェール大学公衆衛生大学院の調査によると、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルを自認している人のうち、推定83%が日々の生活で自分の性的指向をすべての他人、またはほとんどの他人に秘密にしているという。

この抑圧は職場ではさらにひどくなる。テック業界では特に顕著で、無数の差別的行動が日常茶飯事となっている。職場向けの匿名チャットアプリ「Blind」の調査によると、LGBTQの技術系社員の約40%が、職場で同性愛者差別やハラスメントを目撃したことがあると回答している。

多様性に関する年次報告書によると、大手テック企業では、他の業界に比べて女性や過小評価グループ(ある集団において、全世界における人口比よりも小さな割合しかもたないグループ)の雇用が非常に少ないこともわかっている。#SiliconValleySoWhiteというハッシュタグで共有されている何千何万もの個人的な体験談にもあるように、この業界では日常的に、文化的に少数派のグループに属する人を「ダイバーシティ採用」と称して、給与や昇進などあらゆる面で差別を行っている。さらに、Bloomberg Technologyのキャスターであり、著書「Brotopia」でシリコンバレーの男性優位主義の文化を暴いたEmily Chang(エミリー・チャン)は、この業界は女性を疎外するように仕組まれていると話す。

これらの問題は簡単に解決できるものではないが、私は「自分らしさ」がその解決に重要な役割を果たすと信じている。私の「ゲーム」を終了するときが来たのだ。人からの評価を気にせず、自分の好きなように仕事ができることを知ったとき、私はその自由をとても甘美なものに感じた。何年にもわたって、自分でもよく理解せずに、絶え間ないループの中で疲弊しながら自分を偽ってきた後、私はCEOになり、私は自分がなりたいと思っていた人物になることができた。カリフォルニアのテック業界に精通し、出世すればするほど、私は私であることに自信を持てるようになった。

しかし、自分の会社を所有しなければ、自分自身を完全に表現することはできないと思う必要はない。調査によると、自分を表現しないことによる代償は、個人の自由だけでは済まないことがわかっている。近年では多様性に関する意味のある対話が行われるようになったとはいえ、私たちが働く世界は圧倒的に画一的(一面的)だ。自分の本来の姿を明らかにすることができない、あるいはしようとしない人々であふれている。

他者の理解と「弱さの共有」の力

技術系のリーダーである私たちが、本腰を入れて自分らしさの表現の問題を掘り下げることができなければ、私たちの業界に蔓延している「ブログラマー」文化を排除することは不可能だ。

「ブログラマー」文化が蔓延した環境では、誰もが恐怖、疲労、不安を抱くだけではなく、収益にも影響が生じる。幸福感を持つ従業員は生産性が高く、多様性のある経営陣を擁する企業では、収益性、創造性、問題解決能力が高いという事実は、研究で明らかになっている。仕事中に本来の自分でいられるという自由は、成功と達成感につながる。

それでは、技術系のCEOや経営陣は、どうすればこれを実現できるだろうか?私は、二面的なアプローチが必要だと考える。まず、自分らしさの表現に向けた取り組みを、ポリシーとして制定する。リーダーはチームに、従業員が自分らしさを最大限に発揮して仕事を行えるようにするという責任を持たせる。つまり、従業員全員に、組織内のすべての声を聞くという責任を与えるのだ。

GumGum(ガムガム)では、STRIDE(Seeking Talent Representation Inclusion Diversity & Equity:包括性、多様性、平等性を持つ自己表現の追求)評議会を設置している。評議会のメンバーは、社内のすべての部門、拠点、職責から構成されていて、日々の業務の一環(有給)として、社内の多様性と包括性を向上させるための具体的な提案を行っている。

職場における自分らしさの表現を可能にするには、無意識の偏見に関するトレーニングも不可欠だ。私がキラキラしたショートパンツとクロップトップを着て街を歩いていたら、周りの人は好意的かどうかにかかわらず、私の選んだ服装に何らかの反応を示すだろう。このような潜在的な判断を意識することは、偏見を抑制するための第一歩であり、職場での意思決定に偏見がどのように影響するのかを理解することにつながる。

第二に、ビジネスの真正性を追求するのはCEOや上級管理職の役割であり、彼らが模範となる能力を持つことだ。今日のキャンセルカルチャー(ボイコットの形式の1つ。ある人物を仲間や仕事上の仲間から追放すること)によって、リーダーたちは、自分たちの行動を律し、プロとしてミスのないようにすることに過敏になっているように思われる。

もちろん、時と場所に応じたプロフェッショナリズムは必要だが、私は常に、CEOとして可能な限りオープンであることを心がけている。自分の個性のあらゆる要素、他人にジャッジされ、好ましくないと思われるような要素にも光を当てるのだ。私がかつてアイデンティティを隠そうとして苦慮していたが故の決断である。かつて私が抱えていた、ゲイであることの恐怖は、今では本当の自分を見せるための起爆剤となっている。私は、私の周りの人にも同じことをしてもらいたいと考えている。

ある種の人たちだけが活躍できるテック企業のブロカルチャーを醸成したいと思う人はいないだろう。しかし、それを口にするだけでは十分ではない。まずは、人と違っていてもいい、どのような違いがあってもいい、ということを表すことから始める必要がある。例えば私は派手なファッションが好きなので、Zoomのミーティングに空色の帽子をかぶって出席することを躊躇わない。これがCEOとしての私の表現方法だ。

このような姿を見せることに恐怖心があるなら、恐怖をオープンにすることも重要だと思う。私たちはCEOとして、自分の弱さ、アイデンティティへの苦悩、隠しておきたい自分の秘密の部分を共有すべきだ。失敗を認めることも同様だ。CEOもただの人間であり、自分らしさの表現を目指すのであれば、その人間性も晒すべきだ。

「自分の弱さを批判されることなく話を聞いてもらえる」という土壌を作ることも必要だ。面接や新しいプロジェクトに取り組む際、私が社員に尋ねるお気に入りの質問に「何に対して恐怖を感じているか?」という質問がある。

恐怖心は誰にでもある。この質問に対する答えで、その人の傷つきやすい部分に触れることができる。その人は、失敗したり、間違った決断をしたり、何かの拍子に問題を引き起こしたりすることを恐れているかもしれない。そのような感情に触れることは、自分らしさを完全に表現することを認める良い方法である。

テック企業の転換点

プライド月間は、受容と存在の自由をめぐる幅広いストーリーの一部である。この価値観を十分に実践せずに、周りがやっているからといってレインボーフラッグを掲げる企業は、偽善的であるだけでなく、自らを損なっている。プライドは収益の機会ではないし、たとえそうであったとしても、中身のないメッセージを発信するだけのブランドはチャンスを逃がしている。

体よく飾られたLGBTQ+プライドの下には、プライド運動が支持する価値観を緊急に必要としているたくさんの職場環境がある。その価値観を日々の仕事で実現していくことは、並大抵のことではない。しかし、職場での「あるべき姿」から脱却できるようにすることは、(遅きに失した)変化のための重要な出発点となる。

私は、本当の自分を隠すことは恥ずべきことだと考え、他の人がそのような経験をしないように努力している。私は今、若い頃には考えられなかったほど自分らしく仕事をしていて、その小さな行動が、同僚たちにも影響を与えている。際限ない駆け引きを止め、本当の仕事を始めることができるとすれば、それはビジネスにおける自分らしさの在り方をともに探究し始めたときだけだ。

編集部注:本稿の著者Phil Schraeder(フィル・シュレーダー)氏はコンテクストインテリジェンスに特化したグローバルテクノロジー&メディア企業であるGumGumのCEO。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラム差別セクシャリティLGBTQ+シリコンバレー

画像クレジット:Anna Efetova / Getty Images

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(文:Phil Schraeder、翻訳:Dragonfly)