FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

LHCにて初観測したニュートリノ反応候補のうちの2例。左側の図は左から、右側の図は画面に垂直な方向からビームが来ている。各線分は反応で生じた粒子の飛跡を表す

九州大学基幹教育院の有賀智子助教らによるFASER(フェイザー)国際共同実験グループは、11月26日、スイスのCERN(セルン。欧州原子核研究機構)において、世界最大、最高エネルギーの大型ハドロン衝突型加速器LHC(Large Hadron Collider)を使用した研究で、ニュートリノ反応候補の観測に成功したことを発表した

このグループは、2018年、LHCのビーム軸上に小型のニュートリノ検出器を設置し、データを取得した。ニュートリノは、LHCでの陽子同士の衝突で生じるさまざまな粒子の崩壊から生じる。だが、衝突の反応として生じた素粒子ミューオンの飛跡は約2000万本も観測されるのに対して、ニュートリノの反応は10事例程度ときわめて少ない。そこで、「膨大な背景事象を処理するために高飛跡密度での飛跡再構成アルゴリズムなどの技術開発」を行い、ニュートリノ反応候補の探索を行った。さらに「粒子の角度情報などの幾何学的パラメーターを用いた多変数解析」による背景事象(余分な要素)の分別を行うことで、ニュートリノ反応候補の検出を初めて実現した。
FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測
FASER国際共同実験グループは、有賀智子助教の他、千葉大学大学院理学研究院・ベルン大学AEC-LHEPの有賀昭貴准教授、九州大学先端素粒子物理研究センターの音野瑛俊助教、高エネルギー加速器研究機構(KEK)素粒子原子核研究所の田窪洋介研究機関講師、名古屋大学大学院理学研究科・素粒子宇宙起源研究所の中野敏行講師、同大学未来材料・システム研究所の中村光廣教授、六條宏紀特任助教、佐藤修特任講師、稲田知大博士研究員らで構成されている。

FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

FASER国際共同実験グループのメンバー(一部)

同グループは、これまで未開拓であった高エネルギー領域でのニュートリノ研究がLHCで可能になることを見出し、同研究を立ち上げた。現在の加速器で生成できる最高エネルギーのニュートリノを研究し、未知の高エネルギー領域において3種類の素粒子(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)に素粒子標準理論を超えた物理の影響があるかを検証することを目指している。FASER国際共同実験グループ、CERNの衝突型加速器LHCにてニュートリノ反応候補を初めて観測

また2022~2024年に本格的な実験を予定しており、LHC陽子陽子衝突に起因する未知粒子探索および高エネルギーニュートリノ測定を実施するという。

北半球最大のニュートリノ観測器「Baikal-GVD」第1段階が完成、バイカル湖に光モジュール沈めチェレンコフ放射を記録

北半球最大のニュートリノ観測器「Baikal-GVD」第1段階が完成、バイカル湖に光モジュール沈めチェレンコフ放射を記録

Alexei Kushnirenko via Getty Images

ロシアの科学者らが、2015年から建設が続けられてきたバイカルニュートリノ望遠鏡(Baikal deep underwater neutrino telescope:BDUNTまたはBaikal-Gigaton Volume Detector:Baikal-GVD)の最初のフェーズとなるGVD-Iを完成させました。

その名のとおりニュートリノ観測用に作られたこの設備は透明な球型をした多数の光モジュール(OM)で構成されます。OMは288個を1セットとして8セットのクラスターを作り、それらすべてをバイカル湖の岸から約4km、深さ750~1300mに沈めて、宇宙から飛来したニュートリノが透明度が高く非常に深いバイカル湖の水中を通過する際に発生するミューオンからのチェレンコフ放射を記録します。

ロシアの研究機関ドゥブナ合同原子核研究所のドミトリー・ナウモフ氏は、氷の張ったバイカル湖に開けた小さな長方形の穴からOMを沈めながら「0.5立方kmのニュートリノ望遠鏡が私たちの足の真下にあります」と説明しました。

北半球最大のニュートリノ観測器「Baikal-GVD」第1段階が完成、バイカル湖に光モジュール沈めチェレンコフ放射を記録

Alexei Kushnirenko via Getty Images

ロシア、ドイツ、ポーランド、スロバキア、チェコ共和国の共同プロジェクトであるBaikal-GVDは、北半球最大のニュートリノ検出器であり、ナウモフ氏によれば今後もOMの設置を続けていく計画とのこと。数年後には1立方kmにまで設置範囲を拡大して観測できるように拡張されます。

ニュートリノの観測と研究は、宇宙の生い立ちと時間とともどのように変化してきたかを解明するために重要な情報をもたらすと考えられています。今回のOMの設置に際し、ロシア科学・高等教育大臣ヴァレリー・ファルコフ氏は「宇宙をより深く理解し、銀河がどのようにして生まれ成長してきたのか、その歴史を明らかにするのにわれわれの研究者たちが貢献してくれることを期待する」とコメントしました。

ちなみにニュートリノ観測といえば、Baikal-GVDと同様の仕組みを持ち、南極の氷に埋められた観測施設「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」が3月11日、ニュートリノの反物質が起こすとされる反応を観測したと発表しています。これは2016年12月に観測されたもので、反ニュートリノが氷の電子と衝突して「Wボソン」と呼ばれる素粒子が生成された兆候を発見したとのこと。この反応は1960年に提唱された「グラショー共鳴」と呼ばれるもので、これまで一度も観測されていなかった現象だとされています。

(Source:Phys.org。via:ScienceAlertEngadget日本版より転載)

カテゴリー:宇宙
タグ:チェレンコフ放射(用語)ニュートリノ(用語)ロシア(国・地域)