既存防犯カメラで来店客の店内行動を解析可能なエッジAI端末を提供する「AWL」が20億円調達

エッジAIカメラで来店客の店内行動を安価に解析する北海道大学発スタートアップ「AWL」が20億円調達

実店舗での客や従業員の動きを分析し、生産性の向上と業務の効率化に寄与するエッジAIソリューションを提供するAWL(アウル)は6月2日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による総額20億円の資金調達を発表した。引受先は、楽天キャピタル(楽天グループCVC)をリード投資家に、i-Lab4号投資事業有限責任組合、サツドラホールディングス、中国電力。累計調達額は26億6000万円となった。

AWLのエッジAIカメラソリューションは、画像処理端末「AWLBOX」を中心に構成されている。エッジAIとは、クラウドサーバーではなく端末の近くでAI処理を行うシステムのこと。AWLBOXの場合であれば、大容量になりがちな店舗内の撮影映像データをクライド側に送る必要がなく、クラウド側には個人を特定しない形で年齢・性別などの匿名化データのみが保存される。またこれにより、来店客のプライバシーを守ると同時に、個人情報を不用意に設置企業側社内に置くことがなくなる。AWLBOXは、来店客の属性分析、売り場や商品棚への立ち寄り、商品接触などの店内行動、さらに従業員の業務や働き方を可視化して分析することで、生産性と効率性の向上に役立てることができる。

AWLBOXは、店舗にすでに設置されている防犯カメラなどを利用して画像処理を行えるので、カメラを新設する必要がほとんどない。対応するカメラは2021年5月末時点で1万500種類。同社によれば「類似サービスと比較して1/10程度の費用感での導入が可能」だという。

現在、「数百店、数千店舗を展開するチェーンストア数社」も導入を検討しているとのこと。また、宿泊施設、交通機関、工場、建設現場といったさまざまな空間でのAI解析による可視化サービスも本格的に着手している。

AWLは、2016年に設立された(当時の社名はエーアイ・トウキョウ・ラボ)、北海道大学発のスタートアップ企業。世界17カ国から映像解析、機械学習、SaaSビジネスなどに優れた人材を集め、その多様性と技術力でAIの社会実装を目指している。今回調達した資金は、AWLBOXシステムと、小規模店舗向けのAWL Lite(ライト)の新機能開発、映像解析および機械学習技術に関する研究体制の拡充強化に使われる。また、事業拡大に向けた人材採用、大規模導入に対応するオペレーション・サポート体制の強化、映像解析技術を応用した新規事業開発も進めてゆくという。

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カテゴリー:IoT
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IoTやAIを活用した保育支援サービス「ルクミー」を手がけるユニファが40億円のシリーズD調達

IoTやAIを活用した保育支援サービス「ルクミー」を手がけるユニファが40億円のシリーズD調達

IoTやAIを活用した保育支援デバイスの開発およびサービスを提供するユニファは6月2日、シリーズDラウンドにおいて、第三者割当増資による総額40億円の資金調達を発表した。引受先は、Minerva Growth Partners、海外資産運用会社(非公開)、MPower Partners、第一生命保険、Salesforce Ventures、DIMENSION、創発の莟ファンド、GLIN Impact Capital、博報堂DYベンチャーズ。今回の資金調達は、未上場株式・上場株式の双方を投資対象とするクロスオーバーの海外機関投資家やESG・インパクト投資家などを中心としたラウンドという。

また調達した資金は、IoTやAIを活用した保育支援サービス「ルクミー」シリーズや新規事業に関わるプロダクト開発費用、さらなる顧客施設拡大に向けた営業・マーケティング費用、優秀な人材の獲得費用、M&Aなどに使用する予定。事業基盤・経営基盤を強化することで、中長期的な成長を加速させる。

ユニファは、日本におけるジェンダーギャップや保育士不足といった社会課題に対して、AIやIoTといったテクノロジーを活用することでの業務負担の削減、保育者の時間と心のゆとりの確保し、子ども達との関わりに保育者が集中し、保育の質の向上を確保できる環境作りを支援しているという。

ルクミーの導入数は累計で2021年4月現在で1万件を超えており、またユニファの全サービスを導入した「スマート保育園」のモデル園では、月に60%以上の業務時間を削減した施設もあるそうだ。さらに、埼玉県や福岡市など自治体と連携し、保育業務におけるICT活用がもたらす効果についての実証実験も行っている。

ユニファのテクノロジーを活用したサービス提供により、安心・安全な保育施設の環境作りや質の高い乳幼児の発達支援、そして仕事と子育てを両立できる持続可能な社会の実現や、女性活躍のさらなる推進を支援するとしている。「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というモットーの実現に向けた、同社の今後の動きが注目される。

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病気と老化をハックする長寿テックGero AIが健康状態の変化を定量化するモバイルAPIを発表

スマートフォンやウェアラブルデバイスのセンサーデータにより、個人の「生物学的年齢」やストレスへの耐性を実用レベルで予測することができると語るのは、Gero AI(ジェロ・エーアイ)だ。

この長寿技術のスタートアップは、そのミッションを「Gero AIで複雑な病気と老化をハックする」という簡潔な目標に集約しており、モバイルユーザーの身体的活動を追跡する歩数計センサーデータのパターン認識に基づいた「デジタルバイオマーカー」を用いて、罹患リスクを予測するAIモデルを開発した。

単に「歩数」を計測しただけでは、個人の健康状態を予測するのに十分な差異を識別できない、というのが同社の主張だ。同社のAIは、大量の生体データを用いて学習し、罹患リスクに結びつくパターンを見つけ出す。また、生物学的ストレスからの回復の早さも測定するが、これも寿命に関連するバイオマーカーの1つだ。つまり、ストレスからの回復が早ければ早いほど、その人の全体的な健康状態が良くなるということだ。

査読付き生物医学誌Aging(エージング)に掲載されたGero AIの研究論文では、ディープニューラルネットワークを学習させてモバイル機器のセンサーデータから罹患リスクを予測する方法を説明している。そして、その生物学的年齢加速モデルが血液検査の結果に基づくモデルと同等であることを実証した。

また、2021年5月末にNature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)誌に掲載される予定の別の論文では、デバイスを用いた生物学的回復力の測定について詳しく説明している。

シンガポールを拠点とするこのスタートアップは、ロシアに研究のルーツを持ち、理論物理学のバックグラウンドを持つロシア人科学者によって2015年に設立された。そして、これまでに2回のシードラウンドで合計500万ドル(約5億4000万円)を調達している。

共同設立者のPeter Fedichev(ピーター・フェディチェフ)によると、出資者はバイオテック分野とAI分野の両方から参加しているという。投資家には、ベラルーシを拠点としAIに特化したアーリーステージファンド、Bulba Ventures(バルバベンチャーズ)のパートナーであるYury Melnichek(ユリー・メルニチェク)が含まれている。製薬分野では、ロシアの医薬品開発企業であるValenta(バレンタ)に関連する(匿名の)個人投資家数名からの支援を受けている(バレンタ自体は出資していない)。

フェディチェフ氏は理論物理学者で、博士号を取得し、10年ほど学術研究の世界に身を置いた後、バイオテックの世界に入り、創薬のために分子モデリングや機械学習に取り組んだ。そしてそこで老化の問題に興味を持ち、会社を設立することにした。

同社では、長寿に関するマウスや線虫を用いた生物学的研究に加え、モバイルデバイスで取得したセンサーデータを使って人間の生物学的年齢やストレスからの回復力を予測する、AIモデルの開発にも力を入れている。

「健康は、もちろん1つの数字だけで表せるものではない」とフェディチェフ氏は率直にいう。そして「そのことに幻想を抱くべきではない。しかし、人間の健康を1つの数字に集約するのであれば、多くの人にとって、生物学的年齢が最適な数字となる。自分のライフスタイルがどれだけ不健康であるのか、本質的に知ることができる。実年齢に比べて生物学的年齢が高ければ高いほど、慢性疾患や季節性の感染症にかかる可能性が高くなり、またそういった季節性の疾患から合併症を併発する可能性も高くなる」と語る。

Gero AIは最近、GeroSenseという(今のところ有料の)APIを公開した。このAPIは、健康やフィットネス関係のアプリを対象としており、AIモデリングを適用して、ユーザーに生物学的年齢とストレス耐性(ストレス状態から各個人の基準値への回復率)の個別評価を提供できる。

初期のパートナーは、長寿に注力する別の企業、AgelessRx(エイジレス・アールエックス)とHumanity(ヒューマニティ)だ。そして、このモデルをフィットネスアプリに広く搭載し、長期的な活動データをGero AIに安定的に送信してAIの予測能力をさらに高め、製薬会社との協業によりアンチエイジング薬の開発を進めるという広範な研究ミッションをサポートすることを意図している。

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フィットネスプロバイダーがAPIを導入するメリットは、楽しい上に価値のある機能をユーザーに提供できることだ。個人の健康状態を測定することで、ポジティブな(あるいはネガティブな)生物学的変化を把握することができ、利用しているフィットネスサービスの価値を定量化することが可能になる。

「ジムなどを含めた、あらゆるヘルス&ウェルネスプロバイダーは、自分のアプリに、例えば【略】ジムのすべてのクラス、ジムのすべてのシステムを、さまざまなタイプのユーザーに合った価値に応じてランク付けすることができる」とフェディチェフ氏は説明する。

「マウスではなく、人間の老化の仕組みを理解するために、このような機能を開発した。開発後は、遺伝子を見つけるための高度な遺伝子研究に使用し、見つけた遺伝子は研究室でテストしている。しかし、ウェアラブルデバイスから得られる継続的な信号から老化を測定するこのテクノロジーは、それだけでも優れた手法だ。だからこそ、このGero AIセンスプロジェクトを発表した」と続ける。

「老化とは、機能的能力が徐々に低下していくことであり、望ましいことではないが、ジムに行けば改善できる可能性がある。しかし、問題はこの回復力を失っていくこと、つまり、(生物学的な)ストレスを受けたときに、できるだけ早く通常の状態に戻ることができないということだ。そのため、回復力をフィードバックしている。この回復力が失われ始めると、頑健さを維持できなくなり、20代と同じレベルのストレスを受けたときに、ノックアウトされてしまうことになる。

この回復力の低下は、病気になる前の段階でも、近いうちに病気にかかる可能性があることを教えてくれるので、老化の重要な表現型の1つだと考えている。

社内では老化がすべてだ。当社は、老化の測定と介入に全力で取り組んでいる」とフェディチェフ氏は語り、「長寿と健康のためのオペレーティングシステムのようなものを作りたいと考えている」と付け加える。

Gero AIは「トップクラス」の保険会社と2件の試行的運用からも収益を得ている。フェディチェフ氏によると、この試行は、現段階では基本的にビジネスモデルの実証として行なっているとのことだ。また、Pepsi Co(ペプシコ)とも試行の初期段階にあるという。

さらに同氏は、健康転帰の分野で保険会社と連携することとElon Musk(イーロン・マスク)氏がセンサーを搭載したTesla(テスラ)の所有者に対して、その検知した運転状況に基づき保険商品を提供することとの関連性を説明する。両社はどちらもセンサーデータを利用しているためだ。(「イーロン・マスクが自動車に対して行おうとしていることを、当社は人間に対して行おうとしている」と、同氏はいう」)。

しかし、近い将来の計画は、さらに資金を調達し、APIの提供を無料に切り替えてデータ収集の機会を大幅に拡大することだ。

話を少し広げると、Googleが出資するCalico(キャリコ)が「死の克服」というムーンショットミッションを掲げて設立されてから、約10年が経過した。それ以来、小さいながらも成長を続ける「長寿」分野ではスタートアップが誕生し、(まず第1に)人間の寿命を延ばすための研究を行っている。(死を終わらせることは、明らかに、ムーンショットの中のムーンショットだ)。

もちろん死は避けられるものではないが、死神の襲来から逃れるための薬や治療法を見つけるビジネスはペースを上げ続けており、投資家からの資金も集まってきている。

研究データのオープン化や、健康状態把握のためのデジタルデバイスやサービスの普及により、健康や生物学的なデータがますます充実し、入手しやすくなっていることに加え、予測医療や創薬などに急速に展開されている機械学習の将来性も相まって、この傾向は加速している。

また、最近では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、健康やウェルネス、そして特に死亡率に関心が集まっていることから、長寿への関心の高まりも見られる。

しかし、そうは言っても、複雑で多分野にまたがるビジネスであることに変わりはない。これらのバイオテックでのムーンショットを狙う企業の中には、病気の診断や創薬を推進するためにバイオエンジニアリングや遺伝子編集に焦点を当てた企業もある。

また、Gero AIのように、AIやビッグデータ解析を利用して、生物学的な老化を深く理解し進行を妨げようとしている企業も数多くある。そういった企業では、物理学、数学、生物学の専門家を集めてバイオマーカーを探し、老化にともなう病気や機能低下に対処するための研究を進めている。

最近の例としてはAIスタートアップのDeep Longevity(ディープ・ロンジェビティ)が、2020年の夏にAI創薬企業Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)からスピンアウトしステルスモードから姿を現した。同社は、AIによる「サービスとしての長寿」システムを謳い、個人の生物学的年齢を「従来の方法よりも大幅に正確に」予測できるとしている(また、科学者らが「老化に関連する疾患を引き起こす生物学的な原因」を解明するのに役立つと期待している)。

Gero AIは、包括的には同じ目標に向かっているが別のアプローチを取っている。つまり、人々が日常的に持ち歩いている(あるいは身につけている)モバイルデバイスに搭載された活動センサーが生成するデータに注目し、生物学的研究のための代用信号として活用する。

その利点は、自分の健康状態を把握するために、定期的に(侵襲による)血液検査を受ける必要がないことだ。その代わりに、人々のパーソナルデバイスを使って、生物学的研究のための代用信号を、受動的に大規模かつ低コストで生成することができる。つまり、Gero AIの「デジタルバイオマーカー」によって、個人の健康状態の予測に使うデータを民主的に取得できるようになる。

Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のような億万長者は、死の一歩手前でいられるよう、特注の医療モニタリングや医療介入に大金を払う余裕があるが、そのようなハイエンドのサービスは、一般の人々の手が届くはずもない。

Gero AIのデジタルバイオマーカーが同社の主張に沿うものであれば、少なくとも何百万人もの人々をより健康的なライフスタイルへと導くことができるだろう。そして同時に、長寿の研究開発のための豊富なデータを得ることができ、人間の寿命を延ばすことができる薬の開発の助けにもなる(そのような延命薬剤がいくらかかるかはまったく別の話だが)。

保険業界も当然関心を示しており、このようなツールを使って契約者に健康的なライフスタイルを促すことで、保険金の支払いコストを削減できる可能性がある。

健康増進に意欲的な人にとって、現在の問題は、どのようなライフスタイルの変化や医療介入が自分の生物学的特性に最も適しているのかを正確に知ることが非常に困難なことだとフェディチェフ氏はいう。

例えば、ファスティングは生物学的老化の防止に役立つという研究結果がある。しかし、同氏はこのアプローチがすべての人に有効であるとは限らないと指摘する。同じことが、一般的に健康に良いとされている行動(運動や特定の食品を食べたり避けたりすることなど)にも言えるだろう。

また、そういった経験則も、個人の特定の生物学的性質に応じて、さまざまな差異があるかもしれない。さらに、科学的な研究には、どうしても資金面での制約がある。(そのため、研究の対象では、女性よりも男性、中高年よりも若年層といったように、特定のグループに焦点が当てられ、他のグループが除外される傾向がある)。

そのような理由から、フェディチェフ氏は、基本的に個人の費用負担なしで健康に関する知識のギャップに対処できるように、評価基準を作成することに大きな価値があると考えている。

Gero AIは、研究パートナーの1つである英国のバイオバンクの長期間にわたるデータを用いて、同社のモデルによる生物学的年齢と回復力の測定値を検証した。しかし、もちろん、より多くのデータを取り込むことで、さらにモデルを進化させたいと考えている。

「技術的には、当社が行なっていることとそれ程違うものではない。ただ、UKバイオバンクのような取り組みがあるからこそ、今、当社ができることがある。政府の資金と業界のスポンサーの資金に加え、おそらく人類史上初めて、何十万人もの人々の電子医療記録、遺伝学、ウェアラブルデバイスが揃った状況になり、それが可能になった。技術的なものだけでなく、(英国のバイオバンクのような)『社会技術』と呼ばれるものも含めて、いくつかの開発が収束した結果だ」と同氏はTechCrunchに語る。

「想像してみて欲しい。すべての食事、すべてのトレーニング、すべての瞑想……ライフスタイルを実際に最適化するために、(それぞれの人にとって)どのようなことが効果的で、どのようなことが効果的でないのかを理解できることを。あるいは、すでに動物で寿命を延ばすことが証明されている実験的な薬が有効かもしれないし、何か違うことができるかもしれない」。

「100万件の追跡データ(100万人の半年分のデータ)が集まれば、それを遺伝学と組み合わせて、老化を解決できるだろう」と、起業家らしく語り「この計画の挑戦的なスケジュールでは、年末までにその100万件の追跡データを手に入れたいと考えている」と続ける。

フィットネスや健康のアプリは、データを必要とする長寿研究者にとってパートナーのターゲットとなることは明らかだが、お互いに関心を引く関係になることも想像に難くない。一方はユーザーを提供し、もう一方は高度なテクノロジーとハードサイエンスに裏付けられた信頼性のオーラをもたらすことができる。

「当社は、これらの(アプリ)が多くのユーザーを獲得することを期待している。そして、まず楽しい機能として、ユーザーのためにユーザー自身を分析できるだろう。しかし、その裏では、人間の老化に関する最高のモデルを構築する必要がある」とフェディチェフ氏は続ける。そして、さまざまなフィットネスや健康増進法の効果をスコアリングすることが、ウェルネスと健康の「次のフロンティア」になると予測している(あるいは、より簡潔に言えば「ウェルネスと健康は、デジタルで定量的なものにならなければならない」ということだ)。

「当社が行なっていることは、物理学者を人間のデータの分析に参加させることだ。最近では、多くのバイオバンクがあり、人間の老化プロセスを数年単位で表示するデバイスからのものを含め、多くのシグナルを入手している。つまり、天気予報や金融市場の予測のような、動的なシステムだ」と同氏は述べる。

「治療方法は特許を取得できないので自分たちのものにはならないが、パーソナライゼーション、つまり治療法を各個人に合わせてカスタマイズしてくれるAIは自分たちのものになるかもしれない」。

スタートアップの視点からは明確だ。長い目で見れば、パーソナライゼーションは、ここにある。

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カテゴリー:バイオテック
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画像クレジット:Gero AI

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

人間が操り理解できる大型AIの条件を探るOpenAIメンバーが創設したAI研究機関「Anthropic」

AIが物珍しい見世物のような研究プロジェクトの域を脱して、GPT-3のような業界の原動力になるほどの巨大な範型がいくつか登場してくるにともない、この分野にも進化が必要になってきた。そう考える元Open AIの研究担当副社長Dario Amodei(ダリオ・アモディ)氏は、数カ月前に彼自身の企業を立ち上げた。Anthropicと名づけたその企業は、彼の妹のDaniela(ダニエラ)氏が創業者で、人間による操作と理解が可能、そして堅牢な大規模AIシステムの開発を目指している。

アモディ氏らが取り組む目下の問題は、そうした極めて強力なAIシステムが、よく理解されないまま使われていることだ。彼らが関わったGPT-3も、驚くほど多彩な言語システムで、ほぼどのような話題に関するどのような文体のテキストでも、本物そっくりに作り出す。

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シェイクスピアやアレクサンダー・ポープの作例を見せて、韻を踏む二行連句を作らせてみよう。AIはどうやってそれを作るのか?AIは何をどう「考えて」いるのか?もっと悲しくてあまりロマンチックでない詩を作らせるには、どのノブとダイヤルをどれだけ回せばよいのか?言葉遣いや使用する語彙を一定方向に制限するには、何をどうすればよいのか?確かに、人間が値を変えることができるパラメータは随所に用意されているだろう。でも実際には、この極めて本物っぽい言葉のソーセージがどのように作られているのか、誰もよく知らない。

AIがいつ詩を作れるようになるかはどうでもよいとしても、それが百貨店で怪しい行動をウォッチしたり、これから判決を言い渡そうとしている裁判官のために判例を見つける仕事ならどうか。今日の一般的なルールでは、システムが強力になればなるほど、その行動を説明するのは困難になる。しかしそれは、あまり良い傾向ではない。

同社の自社紹介文にはこう書かれている。「今日の大規模な汎用システムには有意義な利点もありますが、予測不可能で信頼性を欠き、不透明なこともあります。弊社の目標は、こういった問題に関して進歩を作り出すことです。当面の間、主にこの目標に向かう研究に力を入れますが、将来的には、私たちの仕事が商用的価値と公共的価値を作り出す多くの機会があると予見しています」。

2021年は、AIの安全性を研究する@AnthropicAIで仕事をしてきたことを発表できてうれしい。安全性の研究とMLモデルのスケーリングを、社会的影響も考えながら組み合わせることに関して、私たちを助けたいという方は、弊社の求人ページanthropic.com/#careersをチェックしてください。

同社の目標は、今日の効率と処理能力が優先されるAIの開発に、安全性の原則を統合することのようだ。どんな産業でも、何かが最初から一体化されている方が、後から端っこにネジで取り付けるよりも簡単だ。今、存在する巨大なAIシステムを分解して理解しようとする試みは、構造の細部が最初からわかっているものを構築することと比べて、仕事量が膨大になるだろう。Anthropicは、後者を選んだようだ。

CEOのダリオ・アモディ氏は、同社とその1億2400万ドル(約136億2000万円)の資金調達を発表する短いポストで次のように述べている。「Anthropicの目標は、今よりも有能で汎用的で信頼性の高いAIシステムを開発し、それらを人びとのために展開していくための基礎研究の高度化していくことにある」。

その資金調達は、読者も予想したかもしれないが、投資家たちの顔ぶれが豪華だ。ラウンドをリードしたのはSkypeの共同創業者Jaan Tallinn(ジャン・タリン)氏、他にはInfotechのJames McClave(ジェームズ・マクレーブ)氏、FacebookやAsanaの共同創業者Dustin Moskovitz(ダスティン・モスコビッツ)氏、Googleの元CEOであるEric Schmidt(エリック・シュミット)氏、そしてCenter for Emerging Risk Researchなどの団体となる。

同社は公益法人であり、同社サイトの限られた情報によればその事業プランは、大型AIシステムの操作性と理解性の向上のための基礎研究となる。2021年中には、ミッションとチームが具体化し、初期的な成果が出るかもしれないため、より詳しい情報が得られるだろう。

ちなみに同社の社名は「anthropocentric(人間中心の)」に隣接したもので、人間の経験や存在との関連性を意味している。おそらく「anthropic principle(人間原理)」に由来するもので、宇宙に知的生命体が存在するのは、人間が存在するからだという考え方だ。適切な条件の下で知性が必然的に生まれるのであれば、企業はその条件を設定するだけでいい。

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画像クレジット:DKosig/Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ピクシブとPFNがAIによるマンガ自動着色サービス「Petalica Paint for Manga」を法人向け試験提供

ピクシブとPFNがAIによるマンガ自動着色サービス「Petalica Paint for Manga」を法人向け試験提供

ピクシブPreferred Networks(PFN)は5月28日、AI技術によるマンガの自動着色サービス「Petalica Paint for Manga」(ペタリカ・ペイント・フォー・マンガ)を法人向けに試験提供すると発表した。

ピクシブとPFNは2019年11月よりイラスト自動着色分野で業務提携し、AI技術の1つである深層学習(ディープラーニング)を用いた線画自動着色サービス「Petalica Paint」の共同運営を行ってきた。AI技術によるマンガの自動着色サービス「Petalica Paint for Manga」は、Petalica Paintの新モデルとして開発されたものだ。将来的には、正式版リリースを経た後、培った技術を生かして個人ユーザー向けの提供も目指しているという。

Petalica Paint for Mangaでは、色のついたキャラクター画像を参考に、自動でモノクロ原稿上のキャラクターの着色が行える。また「カラーヒント機能」を使うことで、自動着色の結果に細かく調整を加えることも可能だ。

自動着色後に「髪・服・肌・目・背景」などの要素をレイヤー分けし、Adobe Photoshop画像(PSD)形式データとして書き出しを行う機能も採用。下塗りに自動着色を導入し、仕上げに各クリエィティブの制作・編集ソフトでハイライトや影を入れるなどの処理も行える。

ピクシブ内での比較によると、手作業での着色と比べて50%以上の作業時間短縮ができるという。作業品質の均一化も促進できるため、クリエイターは作品の品質を上げる作業に集中して取り組めるようになるとしている。

現在、海外の新たなマンガ文化ではカラーマンガがスタンダードであり、デジタル化とともに、カラーリング市況が活発化しているという。日本のマンガ産業においても、国際化と海外展開が本格化しているものの、カラーリング作業に求められる専門スキルの高さ、費用などが課題となっているそうだ。

Petalica Paint for Mangaの導入により、作品の魅力向上や海外展開を含む新たなユーザー層の開拓を進める事業者は、カラーマンガの制作時間やコストを削減し、制作者が高付加価値業務に注力する時間を増やせるとしている。

Petalica Paintは、PFNが開発し、2017年1月に提供を開始したオンライン線画自動着色サービス。白黒で描かれた線画ファイルをアップロードするだけで、深層学習の技術を使って完全自動着色または色指定の自動着色が行える。ピクシブのお絵描きコミュニケーションアプリ「pixiv Sketch」(ピクシブスケッチ)に導入されており、国内外のユーザーに利用されている。

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テクノロジーと災害対応の未来2「データとAI」

データが10年以上も次世代の石油として評価されてきたきた経緯については、さまざまなメディアで取り上げられており、特定の分野ではまさにデータが重要な要素となっている。今やほとんどの民間企業で、マーケティング、物流、金融、製造、意思決定などのあらゆるレベルでデータが欠かせない(これが間違っているなら、私は履歴書を書いてすぐにでも転職した方がよい)。

データを使用することにより、多くの被災者が苦しめられるような災害に対する対応を根本から変えられる可能性があるが、この10年間に発生した緊急時対応にデータがほとんど活用されていないと聞くと、少し驚くかもしれない。災害対応機関と民間の組織は長年にわたり、災害対応用として入力するデータの範囲を広げ、処理するデータの量を増やしてきたが、結果はあまり芳しくなく、データを活用するには程遠い。

しかし、モノのインターネット(IoT)の普及により、このような現状も変わりつつある。災害の最前線で作業する危機管理マネージャーは、回復、対応、復興のサイクルにわたって必要なデータを入手し、的確な判断を下せるようになってきている。ドローンからの航空撮影、災害想定状況の可視化、AI誘発型の災害のシミュレーションなど、最前線で活用されている技術は最高レベルに達していない。これは、2020年代の災害対応における変革の幕開けに過ぎない。

膨大な量の災害データをついに入手

緊急時対応は、先の見えない不安と刻々と迫る時間との戦いである。山火事やハリケーンの現場では、数秒ですべてが変わる場合がある。注意を怠れば一瞬で事態が急変することさえある。避難者を輸送するはずの安全な道路に山火事が広がって突然通れなくなることや、避難チームが再編成を繰り返して広範囲に広がり過ぎること、また予想外の状況が急に発生することで、救助活動が立ち行かなくなってしまうといったことがよくある。情報を完全に掌握していたオペレーションセンターに、突如として地上検証データがまったく入らなくなってしまうこともある。

残念ながら、災害前や災害発生時に未処理データを取得することが極めて難しいことさえある。ビジネスの世界でこれまでに発生したデータ革命を振り返ってみると、初期の成功があったのは、企業が常にデータに大きく依存しながら、自社の活動を進めていたという事実によるところが大きい。今もそうだが重要なのはデジタル化である。つまり、放置されている未処理データをパソコンで解析可能な形式に変換するために、業務を書類からパソコンに移行することだった。ビジネスの世界でこれまでの10年間は、いわばバージョン1からバージョン2へのアップグレード期間だったといえる。

緊急対応管理について考えてみると、多くの対応機関がバージョン0からバージョンアップしていない。洪水を例にとると、洪水の発生源と水の流れをどのように把握するのか。つい最近まで、洪水の発生場所と水の流れに関する総合的なデータすら存在していなかった。山火事の場合は、世界中に点在する樹木の場所や可燃性に関するデータセットが管理されていなかった。電線や携帯電話の基地局といったインフラ設備でさえ、デジタル世界との接点がまったくないことが多かった。そのため、ユーザーがそうした設備を判別できなければ、そうした設備があっても、設備側からユーザーを認識することもできなかった。

洪水モデルは、災害防止計画と災害対応の最先端だ(画像クレジット:CHANDAN KHANNA/AFP/Getty Images)

モデルやシミュレーション、予測、分析には、未処理データが不可欠である。災害対応の分野には、これまで詳細なデータは存在しなかった。

モノのインターネット(IoT)がかなり浸透してきた今では、ありとあらゆるモノがインターネットに接続されるようになり、米国や世界中の至るところにIoTセンサーが設置されている。温度、気圧、水位、湿度、大気汚染、電力、その他のセンサーが広範に配備され、データウェアハウスに定常的に送信されるデータが分析されている。

例として米国西部の山火事を挙げよう。連邦政府と州の消防庁が火災の発生場所を把握できないというのは、そんなに昔の話ではない。消防には「100年の歴史があるが、その伝統が技術進歩に妨げられることはない」と、米国農務省林野部で10年間消防局長を務め、現在はCornea(コルネア)の最高消防責任者であるTom Harbour(トム・ハーバー)氏はいう。

彼のいうことは正しい。消火活動というのは理屈抜きの活動なのだ。消防隊員には炎が見える。炎の熱風を自分の肌で感じることさえある。広大な土地が広がり、帯状に都市が点在しているような米国西部では、データは役に立たなかった。衛星で大火災を発見することはできるが、茂みでくすぶっている小火を地理空間情報局から確認することはまず不可能だ。だが、小さい火事を発見できなくても、カリフォルニア一帯には煙が充満していることがある。では、このような貴重な情報を、地上の消防隊員はどのように処理すればよいのだろうか。

これまで10年にわたってIoTセンサーの成功が謳われてきたが、ここへきてようやく障害となっていた多くの問題が解決されつつある。回復力のあるコミュニティについて調査しているRAND Corporation(ランド・コーポレーション)の社会科学者Aaron Clark-Ginsberg(アーロン・クラークギンズバーグ)氏は「非常に安価で使いやすい」大気質センサーを使うと、大気汚染に関する詳細な情報(山火事の重要な徴候など)を入手できるため、このセンサーがいたるところに設置されていると説明する。同氏は、最近のテクノロジーの可能性を示すものとして、センサーの製造だけでなく、人気のある消費者向け大気質マップも作成しているPurple Air(パープルエアー)を挙げた。

災害時にデータを扱う際には、マップが重要なツールとなる。大半の災害防止計画チームや災害対応チームは地理空間情報システム(GIS)をベースに活動しているが、この分野で随一のマップ制作量を誇っているのが非公開企業のEsri(エスリ)だ。同社の公安ソリューション担当部長Ryan Lanclos(ライアン・ランクロス)氏は、水位センサーの数が増えたことにより、特定の災害に対する対応が劇的に変化したという。「洪水センサーは常に稼働状態にあります」と同氏はいう。「連邦政府が作成している全米洪水予報モデル」により、研究者はGIS分析を使用して、洪水が各コミュニティに及ぼす影響をかつてないほど正確に予測できるようになったと指摘する。

デジタルマップとGISシステムは災害防止計画と災害対応にますます不可欠な存在となっているが、印刷版のマップも依然として好まれている(画像クレジット:Paul Kitagaki Jr. — Pool/Getty Images)

Verizon(ベライゾン)(Verizon MediaはTechCrunchの親会社であるため、ベライゾンは当社の最終的な所有会社)の公安戦略および危機対応担当ディレクターCory Davis(コリー・デイビス)氏によると、このようなセンサーのおかげで、同社の作業員がインフラを管理するために行う作業が変わってきたという。「送電線にセンサーを設置した電力会社を想像してみてください。センサーがあれば、障害が発生した場所にすぐに駆け付け、問題を解決して、復旧させることができます」。

同氏はセンサーのバッテリー寿命が延びたことで、この分野で使用されているセンサーがこの数年で大きく進歩したという。超低電力のワイヤレスチップやバッテリー性能、エネルギー管理システムが絶えず改善されているおかげで、荒れ地に設置したセンサーをメンテナンスしなくても、非常に長い期間使用できるようになった。「バッテリー寿命が10年というデバイスもある」と同氏はいう。これは重要だ。最前線の送電網にセンサーを接続することなどできないからだ。

同じ考え方がT-Mobile(ティー・モバイル)にも当てはまる。防災計画に関して、電話会社の全米技術サービスオペレーション戦略上級ディレクターJay Naillon(ジェイ・ナイロン)氏は次のように話す。「価値が向上し続けているタイプのデータとして、高潮データがあります。このデータのおかげで、設備が正常に稼働していることを容易に確認できます」。高潮データは洪水センサーから送信されるため、全米の防災計画策定者に警報をリアルテイムに送ることができる。

災害関連のセンサーやその他のデータストリームの採用を進めるためには、電話会社の関心やビジネス面での関心を惹くことが必要不可欠だった。洪水や山火事のデータを必要とするエンドユーザーは政府ではあるが、このようなデータの可視性に関心があるのは政府だけではない。Columbia(コロンビア)大学の地球研究所国立防災センターのプロジェクト統括責任者Jonathan Sury(ジョナサン・シュリー)氏は「こうした情報を必要としているのはほとんどの場合、民間企業です」と話す。「気候変動などの新しいタイプのリスクが、企業の収益に影響を与えるようになっています」と同氏はいい、センサーデータに対するビジネス面での関心が、債権格付けや保険の引受などの分野で高まっていると指摘する。

センサーはどこにでも設置できるわけではないが、緊急対応管理者がこれまで確認できなかったような、現場のあいまいな状況を見通すのに役立ってきた。

最後に、世界中の至るところで利用されるようになったモバイル機器には、膨大なデータセットが存在する。例えばFacebook(フェイスブック)のData for Good(データ・フォー・グッド)プロジェクトでは、接続に関するデータレイヤーを利用できる。ある場所から接続していたユーザーが別の場所で接続したら、移動したと推測できる。フェイスブックや電話会社が提供するこのようなデータを使うことで、緊急対応計画を策定するスタッフは、人の移動をリアルタイムに把握することができる。

氾濫するデータとAIの可能性

データが乏しかった過去と比べると今は情報が溢れているが、世界中の都市で発生している洪水のように、データの氾濫に対応する時期が近づいている。データウェアハウスやビジネスインテリジェンスツールなどのITスタックによって、過剰なまでのビッグデータが収集されている。

災害データが簡単に処理できさえすればよいのだが、現実はそう簡単ではない。民間企業や公的機関、非営利団体などさまざまな組織が災害関連データを保持しているため、データを相互に運用する面で大きな障害がある。分散しているデータを統合して知見を得られたとしても、最前線で対応するスタッフが現場で意思決定に役立てられるようにまとめるのは困難だ。そのため、防災計画以外の用途でAIを売り込むのは今でも難しい。ベライゾンのデイビス氏は次のように話す。「過剰なまでのデータをどのように活用すればよいのかという点に関して、多くの都市や政府機関が苦慮しています」。

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残念ながら、あらゆるレベルでの標準化が課題だ。世界的にみると標準化が徐々に進んではいるものの、各国間の相互運用性はほとんど実現されていない。緊急電話対応プラットフォームCarbyne(カーバイン)の創業者兼CEOのAmir Elichai(アミール・エリチャイ)氏は「テクノロジーと標準化の両面で、国ごとに大きな隔たりがあります」と語り、ある国のプロトコルを別の国で使用するには、まったく別のものに作り直す必要があることが多いと指摘する。

ヘルスケア災害対応組織Project HOPE(プロジェクト・ホープ)の緊急対応準備担当ディレクターTom Cotter(トム・コッター)氏は、国際的な環境では、対応するスタッフ同士でコミュニケーションを確立することさえ難しいと話す。「ある国では複数のプラットフォームを使用できるのに対し、別の国では使用が許可されていないということがあり、状況は常に変化しています。基本的には、テクノロジーコミュニケーションプラットフォームを国ごとに別々に用意している状態です」。

連邦政府の緊急管理部門のある上級担当者は、テクノロジーの調達契約ではデータの互換性がますます重要になっていることを認め、政府は自前のソフトウェアを使用するのではなく、市販の製品を購入する必要性を認識していると話す。こうしたメッセージはエスリなどの企業にも届いている。ランクロス氏は「当社の中核となる使命はオープンであることです。作成したデータを一般公開して共有するか、オープンな基準に基づいてセキュリティ保護したうえで共有するというのが当社の考え方です」。

相互運用性が欠如しているというのはマイナス面がいくつもあるが、皮肉なことにイノベーションの際にはプラスに作用することがある。エリチャイ氏は「標準化されていないということは利点になります。従来の標準に合わせる必要がなくなるからです」と指摘する。標準化されていない状況では、最新のデータワークフローを前提とした、質の高いプロトコルを構築できることもある。

相互運用性が確保されたとしても、その後にはデータ選別の問題が控えている。災害関連データには危険も潜んでいる。センサーから発信されるデータストリームは検証したうえで別のデータセットと照合できるが、一般市民から発信される情報量が激増してきているため、初動対応するスタッフや一般向けに公開する前に安全性を精査する必要がある。

一般ユーザーがかつてないほどスマホにアクセスできるようになっているため、緊急対応計画を策定するスタッフが、アップロードされたデータを選別して検証し、使える状態にする必要がある(画像クレジット:TONY KARUMBA/AFP/Getty Images)

災害コミュニケーションプラットフォームPerimeter(ペリメーター)のCEO兼共同創業者Bailey Farren(ベイリー・ファレン)氏は「正確な最新情報を持っているのが一般市民である場合もあります。そうした貴重な情報を、初動対応するスタッフが作業を始める前に市民が政府担当者に伝えてくれればよいのですが」と話す。問題は、無益な情報や悪意のある情報から質の高い情報を選別する方法だ。自然災害の対応要員として有志の退役軍人チームを構成する非営利団体Team Rubico(チーム・ルビコン)のCIO Raj Kamachee(ラージ・カマチー)氏は、データの検証が必要不可欠であると述べ、同氏が2017年にチーム・ルビコンに参加して以来、組織で構築するインフラの重要な要素にデータの検証があると考えている。「当社のユーザーが増えているため、フィードバックのデータ量も増えています。結果として、セルフサービス型の非常にコラボレーション的なアプローチが形成されています」。

量と質が確保されれば、AIモデルを活用すべきだろうか。答えは、イエスでもありノーでもある。

コロンビア大学のシュリー氏は、一部で話題になっているような過剰な期待をAIにすべきではないと考えている。「注意が必要な点ですが、機械学習やビッグデータ関連のアプリケーションで何でもできるわけではありません。こうしたアプリケーションでさまざまな情報を大量に処理できますが、AIが具体的な解決策を教えてくれるわけではありません」と同氏はいう。「初動対応するスタッフはすでに大量の情報を処理しており」、それ以上のガイダンスを必ずしも必要としているわけでない。

災害分野では、防災計画や復旧にAIを利用することが増えている。シュリー氏は、防災計画プロセスでデータとAIを組み合わせた1つの例として、復旧計画プラットフォームOneConcern(ワン・コンサーン)を挙げる。また、さまざまなデータシグナルをいくつかのスカラー値にまとめて、緊急対応計画を策定するスタッフが危機管理計画を最適化できるようにする、CDC(米国疾病管理予防センター)の社会的脆弱性指標とFEMA(連邦危機管理庁)のリスクツールも挙げた。

とはいえ、筆者が話を聞いたほとんどの専門家は、AIを使用することについて懐疑的だった。災害に関する販売サイクルについて取り上げたこのシリーズのパート1で少し説明したように、データツールは、人命がかかっているときは特に信頼性が重要で、最新の情報に更新されていなければならない。チーム・ルビコンのカマチー氏は、ツールを選択する際にはそのツールの秀でているポイントではなく、各ベンダーの実用性だけに注目するという。「当社はハイテク機能も追求しますが、ローテクも用意しています」と同氏は語り、災害対応で重要なのが、変化する状況に機敏に対応できることであることを強調する。

カーバインのエリチャイ氏は、同社の販売実績にも同様のパターンがあると認識している。同氏は「市場には新しいテクノロジーに対する意識の高さと、採用を躊躇する慎重さの両方がある」ことを指摘するが「あるレベルに達すればAIが有益となることは間違いない」と認める。

同じように、ティー・モバイルのナイロン氏も経営者の観点から、ティー・モバイルの災害計画に「AIを最大限に活用できるとは思えない」と語る。ティー・モバイルはAIを頭脳として使う代わりに、単純にデータと予測モデリングを使用して装置の配置を最適化している。高度な敵対的生成ネットワークなど必要ないというわけだ。

AIは計画策定以外でも、災害後の復旧、特に損害査定に活用されている。災害の収束後にはインフラと私有財産の査定を行って、保険金を請求し、コミュニティを前進させる必要がある。チーム・ルビコンのCOO兼社長Art delaCruz(アート・デラクルーズ)氏は、テクノロジーとAIの普及によって、損害査定の作業が大幅に軽減されたと指摘する。チーム・ルビコンでは、復旧作業の過程でコミュニティの再構築を支援することが多いため、損害の重大度判定が対応戦略を効果的に進めるうえで不可欠だ。

太陽の光で将来は明るくなるが、その光でやけどする可能性もある

AIはこのように、回復計画と災害復旧の分野でいくらかの利用価値があるものの、緊急対応の分野ではあまり役に立っていない。とはいえ、災害対応サイクル全体では有効な場面も増えてくるだろう。ドローンの将来性には大いに期待が寄せられているし、現場で使用されるケースも増えている。しかし、長期的に考えると、AIとデータが解決策とならず、新たな問題を引き起こすのではないかという懸念がある。

災害対応の現場でドローンを使用することは、明らかに価値があるように思える。救援隊員が立ち入ることが困難な現場でも、ドローンを導入したチームは空からの映像や情報を入手できる。バハマでの任務遂行中に主要道路が閉鎖されたため、現場のチームがドローンを使って生存者を見つけたと、チーム・ルビコンのカマチー氏は話す。ドローンから撮影された画像がAI処理され、生存者を特定し避難させるのに役立った。同氏は、ドローンとその潜在能力について「とにかくすばらしいツールだ」と話してくれた。

ドローンから航空写真を撮影することで、災害対応チームが入手できるリアルタイム情報の質は大幅に向上する。地上からは近づけない現場ではなおさらだ(画像クレジット:Mario Tama/Getty Images)

プロジェクト・ホープのコッター氏もやはり、データ処理を高速化することで的確に対応できるようになると話す。「災害地で人命を救うのは、結局のところスピードです。対応をリモートから管理できるケースも増えたため、多数の要員を現地に送らずに済みます」と同氏はいう。これは、人員が限られている場所で活動する対応チームにとって、とても重要である。

「捜索や救助、航空写真などに、ドローンのテクノロジーを活用する緊急管理機関が増えています」とベライゾンのデイビス氏はいい「現場に機材を導入することが先決」という考え方の作業員が多いと指摘し、次のように続ける。「AIの性能は向上する一方であり、初動対応するスタッフはより効果的、効率的かつ安全に対応できるようになっています」。

センサーやドローンから送信される大量のデータを迅速に処理して検証できるようになれば、災害対応の質は向上するだろう。大自然が気まぐれに起こす大災害が増えているが、そうした現状にも対応できるかもしれない。しかし問題がある。AIのアルゴリズムが将来、新たな問題の原因となることはないのだろうか。

ランドでは典型的な代替分析を提供しているが、ランドのクラークギンズバーグ氏は、これらのソリューションで問題が発生する可能性があると話し「テクノロジーが引き金となって災害が発生し、テクノロジーの世界が災害を悪化させます」と指摘する。これらのシステムは破綻する可能性がある。間違いを犯すかもしれない。そして何より不気味なのは、システムを細工して大混乱と破壊を拡大させる可能性があるということだ。

筆者が最近紹介した災害対応VCファンド兼慈善活動組織のRisk & Return(リスク&リターン)社の取締役会長で、9/11 Commission(米国同時多発テロ事件に関する調査委員会)の前共同議長、およびネブラスカ州知事と上院議員も務めたBob Kerrey(ボブ・ケリー)氏は、多くの対応現場でサイバーセキュリティが不確定要素となるケースが増えていると指摘する。「(調査委員会が業務を遂行していた)2004年当時は、ゼロデイなどという概念はありませんでした。もちろんゼロデイを取引する市場もありませんでしたが、今はその市場があります」。9/11の同時多発テロでは「テロリストたちは米国にやってきて、飛行機をハイジャックすることが必要でした。今はハイジャックしなくても米国を破壊することが可能です」と同氏はいい「ハッカーたちは、モスクワやテヘランや中国の仲間、もしかすると自宅に引きこもっている仲間と、家で座ったまま攻撃できます」と指摘する。

災害対応の分野でデータは注目を浴びているが、このような状況が原因で、これまで存在しなかった二次的な問題が引き起こされる可能性がある。与えられしものは奪われる。今は石油が湧き出ている井戸もいつか突然枯渇する。あるいは井戸に火が付くかもしれない。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

ブロッコリーの収穫期をドローン画像とAI解析で診断、スカイマティクスの葉色解析サービス「いろは」が生育診断提供開始

ドローンによるリモートセンシングサービスを提供しているスカイマティクスは5月26日、葉色解析サービス「いろは」にブロッコリーを対象とした解析機能を新たに実装し、提供を開始したと発表した。

これまでブロッコリーの生産現場では、生産者が農地を歩きながら花蕾の生育を確認し、収穫のタイミングを判断するという運用が行われてきた。しかし、農地が広ければ確認に時間を要し、また人の目による確認作業は体力的にも大きな負担となっていた。

そこで「いろは」において、生産者が収穫適期の見極めを正確かつ効率的に行える追加機能として「ブロッコリー花蕾診断」が開発・実装した。

同機能では、AIが画像内の10〜15cm程度の花蕾を認識し、サイズ別に集計を実施。そして集計結果を確認することで、撮影時点の農地においてどの規格のブロッコリーが何%存在するのかを把握可能となる。ユーザーはドローンで農地の画像を撮影して「いろは」にアップロードするだけで、たった数時間で花蕾サイズ分布データが入手できるという。

実はスカイマティクスは、ブロッコリー生産を手がけている大規模農業生産法人からの相談を受け、2019年よりドローン画像を用いたブロッコリーの花蕾抽出技術および花蕾のサイズ判定技術の開発に取り組んできたそうだ。以来同社が収集したブロッコリー画像データは数万点に上り、今日においても全国のブロッコリー畑においてデータ収集を継続、日々解析精度の向上に努めている。

スカイマティクスによると、今後ブロッコリーの生産現場においては一斉収穫を前提とした機械収穫体系の導入が進んでいくとされ、農地内の収穫適期の判断がより一層重要となるという。ドローン×画像解析技術により、ブロッコリー生産者の収穫適期の判断の支援を行うとしている。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:AI / 人工知能(用語)スカイマティクス(企業)ドローン(用語)農業 / アグリテック(用語)リモートセンシング(用語)日本(国・地域)

スマホ活用・画像解析AIによるイチゴの高精度生育解析の検証実験結果をキヤノンITSが報告

キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は5月26日、令和元年度から令和2年度にかけて実施したスマート農業技術の開発・実証プロジェクト「阿蘇イチゴスマート農業実証コンソーシアム」(農研機構九州沖縄農業研究センター)の検証実験結果を公開した。

今回の実証実験でキヤノンITSは、映像情報から現在までのイチゴの生育状況を数値化および未来の収穫量を予測する「イチゴ生育画像解析システム」と、遠隔業務支援サービス「VisualBrain」により、スマートフォンと画像情報を用いたイチゴの花数・果実熟度・葉面積の「生育特徴量計測技術」の実証実験を行った。生育特徴量計測技術は、イチゴの生育画像からAIが花の数や果実の⽣育ステージなどを自動判別し、生育状況の指標として定量化するものという。

実証実験では、九州沖縄農業研究センター内のイチゴ品種「恋みのり」「さがほのか」の生育状況をスマートフォンで一定期間にわたり撮影し、解析に適した高精細かつ定点の画像データを収集。そしてイチゴ生育画像解析システムを使った画像解析で得られたデータを「VisualBrain」を通じてクラウドシステムに蓄積し、遠隔から現地の映像や解析結果を閲覧できる環境を構築した。

そしてスマートフォンでの簡易な生育解析として実証したところ、2品種の花数・果実熟度・葉面積の生育特徴量の自動計測精度が90%以上を達成。これにより、スマートフォンのカメラ機能を使い初期費用を抑えた生育解析や、高精度な生育解析が可能だと確認している。

またキヤノンITSは、農林水産省委託事業「令和3年度スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」にも採択されており、次回のプロジェクト「阿蘇イチゴ輸出スマート農業実証コンソーシアム」(課題番号:21451798)ではイチゴ生育画像解析システムおよび「VisualBrain」を活用したスマートフォンによる生育計測から収量予測、農業熟練者による映像共有を活用した遠隔指導や農作物のリモート審査の実証実験を開始する予定だ。

キヤノンITSは、2015年よりカメラとAIを活用したスマート農業技術の研究開発に取り組んでおり、イチゴ栽培において、花や実の数、葉の大きさ・色などの生育情報をICT技術を用いて数値化するAIを開発したという。さらにこの情報に温度や湿度などの環境データを組み合わせることで、マルチモーダルな情報をもとにした収穫量予測AIの開発に取り組んでいるとした。

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タグ:AI / 人工知能(用語)キヤノンITソリューションズ(企業)食品(用語)農業 / アグリテック(用語)日本(国・地域)

【コラム】欧州のAIに必要なのは過剰な規制ではなく、戦略的なリーダーシップだ

編集部注:本稿の著者Mark Minevich(マーク・ミネビッチ)氏はGoing Global Venturesの社長であり、Boston Consulting Groupのアドバイザー、IPsoftのデジタルフェロー。また世界的なAIの専門家で、デジタルコグニティブストラテジスト、ベンチャーキャピタリストでもある。

ーーー

EU委員会は最近、緊急の必要性があるとして、AIを規制するための新たな厳格なルールを提案した。AI規制の世界的な競争が正式に始まる中、EUはAIの規制方法についての詳細な提案を発表している。AIの一部の使用を明確に禁止し「高リスク」とみなされる事柄を定義し、人々の権利や安全を脅かすAIの使用を禁止する計画だ。

欧州委員会のMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)副委員長が「人工知能に関しては、信頼はあったらいいなというものではなく、なくてはならないものです」と述べた心情には誰もが同意できるものだが、信頼を確保するための最も効果的かつ効率的な方法は規制なのだろうか。

委員会ではかなり深い見識が得られたが、私が最も同意できたことは、規制されたAIの目指すところは人間の幸福度を高めることであるべきだという主張だ。しかし、規制によってAIシステムの実験や開発を過度に制約するべきではない。

高リスクのAIシステムは、常に変更不可能な人間による監視・制御メカニズムを内蔵すべきである。人との対話やコンテンツの生成を目的としたAIシステムは、高リスクであるか否かに関わらず、特定の透明性の義務を負うべきである。また、公的にアクセス可能な場所に設置されるAIベースの遠隔生体認証システムは、EUまたは加盟国の法律によって認可されたものでなければならず、重大な犯罪やテロの防止、検知、調査の目的に資するものでなければならない。

AIと人類のパートナーシップ

欧州で制定された一連の法律と法的枠組みは、過去10年間にGDPR規制が生み出した効果と同様に、世界中のAI規制に大きな影響を与えることだろう。しかしこれらの法律は、EU全体の行き当たりばったりの規制方法から、単一で共通の分類への移行をサポートするものになるのだろうか?

私は、中国や米国が躍進する一方で、EUのAI開発はこの規制により廃れてしまうと考えている。人工知能のユースケースやイノベーションが制限され、EUは世界的に技術的に劣位に置かれることになるだろう。米国では、企業の収益性と効率性を最大化するためにAIが最適化されている。中国では、政府が権力を維持して国民を最大限支配するために、AIが最適化されている。EUの過剰な規制環境は、EUのさまざまな機関での規制が矛盾し始めると、完全なカオスに陥るだろう。

EUの企業家精神への悪影響

EUが米国や中国にAI競争で負けているのは、EUにおけるAIへの投資不足が大きな要因だ。現在、EUの居住者数は約4億4600万人、米国の居住者数は約3億3100万人だが、EUの2020年のAIへの投資額は20億ドル(約2178億8100万円)だったのに対し、米国の投資額は236億ドル(2兆5710万円)だった。

もしEUが積極的な規制と資金不足を推し進めれば、EUはAI規制において世界的なリーダーシップを享受することにはなるが、多くのヨーロッパの起業家が、よりAIに優しい国でスタートアップ企業を立ち上げるようになってもおかしくない。

イノベーションや起業家に優しいEUを実現するためには、AIのパイオニアが先導する共同ネットワークを作る必要がある。

一方、他の国々は、EUが厳格な規制を推し進めていることを利用して、イノベーションを促進し、世界のテクノロジーの未来をよりしっかりと作り出すだろう。最近の世界銀行の報告書によると、2019年にデータコンプライアンスに関する調査を開始したのは、北米ではわずか12%だったのに対し、EUでは38%だったという。企業にとってこれほどまでに厳しく厄介な負担を強いる政策では、イノベーターや起業家たちが世界でよりビジネスに適した地域に移動し始めても不思議ではない。

規制は降格を招く

今回の規制案では、違反した場合、最大2000万ユーロ(約26億6100万円)、またはAIプロバイダーの年間総売上高の最大4%の罰金が科せられることになっている。これまでのEUの法律とその後のデジタルイノベーションの欠如を考慮すると、この規制案はEU圏におけるデジタルイノベーションと導入の慢性的な停滞を引き起こすだろう。

つまり、これらの規制が法制化されれば、EUはパイオニアになるどころか、ラガードになってしまうのではないだろうか。AIの真の可能性を明らかにする「本当の」ユースケースはまだ登場していない。リスクの高いユースケースに対する大規模な官僚主義は、起業家精神やボトムアップのイノベーションの努力を削ぐことになるだろう。歴史的に見てもEUは不況に向かっている傾向にあり、今はイノベーションを阻害する時ではない。

グローバルAIに人間の顔を持たせ、その価値を示すべき

AIが広く受け入れられるためには、AIが人々の問題や課題の解決に役立つということを示す人間の顔が必要だ。私たちは、事実に基づいた魅力的なストーリーを強調し、その背後にいる実在の人物を見せなければならない。国民全体がAIの可能性を受け入れるためには、自分たちと同じような人がAIの良さの恩恵を受けている姿を目にする必要があるのだ。

AIの資金調達とは、何よりもまずスタートアップ企業の資金調達のことを指す。スタートアップ企業は、破壊的技術の発見や開発と、一般の人々による日常的な使用の橋渡しをする。欧州ではすでにかなりの計画が立っているが、これを加速させなければならない。

欧州のベンチャーキャピタルは、米国のモデルに比べて遅れている。急成長しているスタートアップ企業は、ほとんどが米国やアジアの投資家に依存している。そのためには、機関投資家側の投資制限の緩和など、投資文化を再考し、ダイナミックな投資環境を賢明に推進する必要がある。

今、私たちは「ムーンショット」の時代に生きている。起業家や科学者がこれまで以上に前進することができる時代だ。次の経済で競争するためには、イノベーションを10倍にすることを目標とした新しいイノベーションに挑戦する必要がある。

このレベルに到達するためには、段階的な最適化は役に立たない。大きなイノベーション、つまりムーンショットに焦点を当てる必要がある。リスクを取ることが許容され、大規模でリスクのあるアイデアを実行することが普通になるべきだ。

イノベーションと起業家に優しいEUを作るためには、AIの先駆者たちが先導する協力的なネットワークを作らなければならない。起業家やデータサイエンスのリーダーたちは、長期的な視点で世界を良くするためのAI for good(社会貢献のためのAI)に注力し、規制緩和を提唱しなければならない。そのためには、主要な研究機関、企業、公共部門、市民社会からの参加者で構成される「社会貢献のためのAI」に関するグローバルなAIパイオニア協議会を設立し、ベストプラクティスについての共通理解を深める必要がある。

AIはもはや、企業システムや社会インフラを最適化するためのツールではなく、その可能性は、気候変動や制御不能なパンデミックなど、人類が直面するさまざまな危機を解決するための広範囲なものとなっている。世界中のすべての超大国において責任あるAI、そして「社会貢献のためのAI」の導入ができれば、これらの危機を解決することができる。

EUが世界の中でイノベーションを阻害し、起業家精神をくじく地域になるわけにはいかない。EUは、過剰な規制ではなく「社会貢献のためのAI」に基づいたAIの戦略的リーダーシップに移行しなければならない。過剰な規制の道は、停滞の深みにつながる。EUの未来をどうしたいかを決めるのは、EU自身にかかっている。

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(文:Mark Minevich、翻訳:Dragonfly)

韓国のRiiidはソフトバンクの支援を受けてAIベースの学習プラットフォームをグローバルに拡大する

「AIが教育の世界を食べている」。ソウルを拠点とするRiiidの共同創業者でCEOのYJ Jang(YJ・チャン)氏は、自分のLinkedInのプロフィールにそう書いている。米国時間5月24日、AIを利用して学生のテスト対策学習などをパーソナライズするRiiidが、AIが教育を食べるプロセスのプレイヤーとして地位を確立するための大型資金調達を発表した。

Riiidは、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2のみから資金を調達する1億7500万ドル(約190億2000万円)のエクイティラウンドを完了した。

EdTechが好調な中での今回の資金調達となった。2020年にコロナ禍で学習がリモートに移行し、より良いツールを開発して教育市場に提供するチャンスが注目されたことを受けて、この分野の多くのスタートアップが多額の資金を調達してチャンスに挑戦している。Riiidは調達した資金で海外へ進出し、製品を拡充する計画だ。

Riiidは評価額を明らかにしていないが、このラウンドはこれまでで最大の規模で、同社のこれまでの調達金額の合計は2億5000万ドル(約271億7500万円)となった。これはEdTechの世界ではかなり大きい金額だ。

Riiidは主にSantaというTOEIC L&R対策アプリで有名になった。このアプリはこれまでに韓国と日本で250万人以上の学生に利用されている。英語のネイティブ話者でない場合、英語が使われている大学を志望する際にTOEICのスコアを求められることがよくある。

Riiidは他社との協力でTOEIC以外の試験対策にも乗り出している。Kaplanとの協力による韓国の学生向けのGMAT対策、教育サービスを各国に合わせて調整し提供するConnecME Educationとの協力によるエジプト、UAE、トルコ、サウジアラビア、ヨルダン向けACT対策、ラテンアメリカの大学受験生向けAIベースツールの開発などだ。ACT対策の開発の前には、ACTのCEOだったMarten Roorda(マーテン・ローダ)氏がRiiidの国際部門であるRiiid Labsに「エグゼクティブ・イン・レジデンス」として加わるとRiiidが発表していたため、ACT対策アプリを他のマーケットにも拡大するかもしれない。

同社は大学入試対策に加え、職業訓練アプリも開発している。不動産業者試験対策のSanta Realtorや保険代理店試験対策ツールを韓国で展開している。

EdTechがビジネスとして成長して全体の信頼性が高まり、対面での学習が一時的に中断したことによって生じたギャップを緊急に埋める必要がある中で、Riiidは成長してきた。AIをプラスアルファの要素として導入するのは、珍しいことではない。多くの企業が、1つで全員に対応する画一的なモデルにコンピュータビジョンや自然言語処理、機械学習の進化を取り入れて、エクスペリエンスをパーソナライズしている。ここで注目されるのは、Riiidが知的財産を考慮した研究開発を多く手がけてきたことだ。同社によれば、国内外で103件の特許を出願し、そのうち27件は取得済みだという。

RiiidのCEOであるチャン氏は発表の中で「Riiidは教育をAIで変革し、教育機会を真に民主化することを目指しています。今回の資金調達は我々が業界の新しいエコシステムをつくるジャーニーの始まりで、我々はグローバルなパートナーシップでこのミッションを実現していきます」と述べた。

ソフトバンクにとってはEdTech企業への大型投資の1つだ。他にはKahootに2億1500万ドル(約233億7000万円)を投資し、インドのUnacademyやブラジルのDescomplicaにも投資している。Riiidによれば、このラウンドはソフトバンクにとって教育アプリ用AI分野に特化した初の投資だったという。

SoftBank Investment AdvisersのマネージングパートナーであるGreg Moon(グレッグ・ムーン)氏は「Riiidは画一的なアプローチからパーソナライズされた指導へという教育におけるパラダイムシフトを牽引しています。AIと機械学習を活用したRiiidのプラットフォームは、教育関連企業、学校、学生にパーソナライズされたプランとツールを提供し、学習機会を最適化します。我々はYJやRiiidのチームと協力し、世界中で質の高い教育を民主化する目標を支援できることを喜んでいます」と述べている。

カテゴリー:EdTech
タグ:Riiid韓国ソフトバンク・ビジョン・ファンド資金調達AI

画像クレジット:Ivan Pantic / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Kaori Koyama)

グーグルが手話認識技術を開発、日本財団らが手話とろう者への理解促進を目指した手話学習オンラインゲームをベータ公開


公益事業をサポートする社会貢献財団「日本財団」は5月24日、香港中文大学関西学院大学Googleの協力を得て、手話学習オンラインゲーム「手話タウン」のベータ版を公開した。

手話タウンでは、PCカメラの前で手話を表現することで、手話が公用語の架空の町「手話タウン」を旅しながらアイテムを集めていく。学習した手話で正しく表現できているかを、AI技術を使って確認できるというわけだ。

手話学習者であれば、手話が単なる手の動きだけでなく、顔の表情、頷き、上半身を使った身振りなどを交えたものであるということを認識しているが、これまでの手話認識モデルは手の形と動きのみにフォーカスした認識技術にとどまっていた。

また、PCに搭載しているカメラは一般的に2D(平面)認識しかできず、奥行きのある立体的な手話の動作を認識するには専用カメラや認識を容易にする手袋といった特別な設備が必要だったため、広く普及させるのが困難であった。

しかし、今回の手話タウンプロジェクトでは、2Dしか認識できない一般的なカメラでも立体的な手話の動きを、上半身、頭、顔、口も含めて認識できる機械学習モデルを開発。日本と香港で手話を日常的に使用しているろう者の手話映像データを収集し、学習させることで、手話学習者が正しく手話を表現できているかの判断を可能にした。

今回、香港中文大学はプロジェクト全体の日本財団との共同統括、手話言語学における学術的見地からの監修、手話データの収集、ろう者に関する知見の提供を、関西学院大学は日本手話の学習データ収集とろう者に関する知見の提供、Googleはプロジェクトのコンセプト立案、AIによる手話認識技術の研究開発をするといった役割を担う。日本財団は、手話・ろう者についての知見の提供ならびに開発に必要な資金の提供を行っている。

誰もがスマホを持ち歩いていることから、ろう者に対しても「その場で入力したテキストを見せれば良いのではないか」と、健常者は考えるかもしれないが、生まれつき耳が聴こえない場合、文字を音として認識できず、理解が難しい場合が多い(「ろう児はどのように文字習得をするか」)。

その点、手話であれば、日常的に使っているため、一瞬で理解できる。そのことからも、2006年には国連障害者権利条約で「手話は言語である」と明記され、国内でも2011年には障害者基本法で手話の言語性が認められたが、手話とろう者への理解は未だ十分に浸透していない。

とはいえ、コロナ禍でひんぱんに行われる政府会見で手話通訳者を見る機会が増えたことから、手話への関心は高まりつつある。今回の手話タウンプロジェクトは、これを好機ととらえ手話やろう者への理解促進を図る目的で開発された。

手話タウンでは、言語を英語、日本語、中国が(繁体字)から、手話言語を日本手話と香港手話から選択可能。9月23日の手話言語の国際デーに正式公開を目指し、公式サイトにおいてフィードバックを募集している。

なお、基盤となっている手話認識技術はTensorFlowを活用し3つの機械学習モデル(PoseNet、Facemesh、ハンドトラッキング)を組み合わせており、ソースコードはオープンソースとして公開している。これにより、世界中の開発者や研究者が他の手話でも同様の認識技術を容易に開発することを可能にしているそうだ。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:アクセシビリティ(用語)オープンソース / Open Source(用語)関西学院大学(組織)Google / グーグル(企業)手話(用語)TensorFlow日本財団(団体)香港中文大学(組織)日本(国・地域)

AIアシスタント「Pyrenee Drive」で交通事故撲滅を目指すPyreneeが2億円を調達

AIアシスタント「Pyrenee Drive」で交通事故撲滅を目指すPyreneeが2億円を調達

自動車の運転をより安全で快適にする車載機器「Pyrenee Drive」(ピレニードライブ)の開発を続けているPyrenee(ピレニー)は5月25日、総額2億円の資金調達を発表した。引受先は、フューチャーベンチャーキャピタル、菊池製作所、井伸之氏(クオンタムリープ代表取締役会長)、複数のベンチャーキャピタル、事業会社、個人投資家。

Pyrenee Driveは、交通事故の最大原因とされるドライバーのヒューマンエラーを回避するための装置。搭載されたAIが、道路状況の確認と危険予知を行い、事故の可能性を感知すると、音声と画面表示で即座にドライバーに警告する。オンライン型ドライブレコーダーも搭載するほか、後付け機器なのでどんな車にも装着できる。ナビゲーションなどの機能も、オンラインアップデートで追加してゆくとのこと。発売は2022年中を目指している。

AIアシスタント「Pyrenee Drive」で交通事故撲滅を目指すPyreneeが2億円を調達

開発中のPyrenee Driveと画面イメージ

今回調達した資金は、Pyrenee DriveのAIを活用した事故回避機能の強化と、発売に向けたハードウェアの量産設計に使われる予定。今後も調達を続けてゆくという。

Pyreneeは、人間の相棒となる製品を開発、販売するメーカーとして2016年創業。Pyrenee Driveは第1弾製品にあたり、2022年中の発売を目指して開発している。

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タグ:AI / 人工知能(用語)コンピュータービジョン(用語)資金調達(用語)Pyrenee(企業)日本(国・地域)

サプライチェーンの温室効果ガス排出量計測・管理をAIで自動化するEmitwiseがシード約3.5億円を追加調達

AIプラットフォームで企業とそのサプライチェーンからの温室効果ガス排出量を測定できるとするスタートアップのEmitwiseは、シードラウンドに320万ドル(約3億5000万円)を追加し、これで同社が調達したシード資金の総額は660万ドル(約7億2000万円)となった。320万ドルの追加調達はArcTern Venturesが主導した。また、Schroders(シュローダー)のCEOであるPeter Harrison(ピーター・ハリソン)氏、テトラパックのファミリー後継者Magnus Rausing(マグナス・ラウシング)氏、そしてUber(ウーバー)の共同創業者Ryan Graves(ライアン・グレイブス)氏の投資会社であるSaltwaterなどのエンジェル投資家も参加した。その他の投資家には、True Ventures、Social Impact Capital、Lightbird Venturesなどが含まれている。

同社はこのプラットフォームにより、サプライチェーン全体のカーボンアカウンティング(炭素会計)の自動化、排出ホットスポットの特定、ERPシステムとの統合、CDP、GHG、TCFDなどの監査・開示システムへの準拠を実現するとしている。

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Emitwiseの共同創業者兼CEOであるMauro Cozzi(マウロ・コッツィ)氏は、次のように述べている。「きたるCOP26気候サミットで各国首脳が気候変動への取り組みを強化する中、企業や投資家の間では、『炭素イコール コストとリスク』という確信がかつてないほど高まっています。ネットゼロに合致したモデルは、利益・効率性・耐性を代弁するものであり、当社は企業が変革により大きな経済的利益を実現できるよう支援することを約束します」。

ArcTern VenturesのMarc Faucher(マーク・フォーシェ)氏は次のように述べた。「企業は顧客、投資家、そして規制当局から正確な環境データを開示するように迫られています。Emitwiseは、効果的な緩和策やインセンティブを導入する上で重要となる、サプライチェーンのカーボンを明確に把握できるようにします。ArcTern Venturesでは、Emitwiseのソフトウェアプラットフォームは、世界共通のカーボンフットプリント報告の新しい基準となるゲームチェンジャーだと信じています」。

EmitwiseはWatershedsやPlan Aなどを含むこの分野の他のスタートアップとある程度競合しており、これらの企業も最近資金調達を行った。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:温室効果ガス人工知能Emitwise資金調達カーボンアカウンティング二酸化炭素

画像クレジット:Emitwise team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

生徒の習熟度に合わせ難易度を調整するAI学習システム「Monoxer」を中国語教室「waysChinese」が本格導入

5月24日、生徒の習熟度に合わせて学習内容をリアルタイムで調整するAI学習プラットフォームMonoxer(モノグサ)の開発提供を行うモノグサは、同プラットフォームをウェイズリンクスが運営する中国語教室wayChinese(ウェイチャイニーズ)に6月より本格導入すると発表した。

Monoxerでは、先生が教えたい内容を登録するだけで、定着度を高めるための問題が自動作成される。生徒がアプリでその問題に取り組む間、各自の習熟度や忘却度に応じてリアルタイムで問題の出題頻度や難易度が調整されるため、ひとりひとりのレベルに合った学習が行える。同時に、語学学習では見えにくいとされている習熟度が可視化されるので、リモートでもきめ細かい指導が可能。

wayChineseは、使える中国語習得をモットーに、「最適な中国語学習方法をデザインする伴走型中国語教室」として、中国語「を」学ぶのではなく、中国語「で」学ぶ方針を掲げている。同校では、総合トレーニングコースですでにMonoxerを採用しており、「レッスンをただこなすだけの教室と違い、しっかりと定着させるためのサポートとしてプロ講師とAIのハイブリッド教育システムを備えた、全国初の中国語教室」を標榜している。

具体的には、授業後の復習にMonoxerを活用し、「画像と適切な会話表現を一致させる問題や中国語のディクテーション形式の問題」を出して学習内容の定着度を高めると同時に、講師は各生徒の学習度合いや弱点を把握して授業に反映させている。生徒からは「以前よりも中国語が定着しやすくなった」と評判だという。また、Monoxerを導入してから20代を中心に新規の問い合わせが増えたとのこと。

6月からは、総合トレーニング以外のコースへも順次導入を進めてゆく。

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カテゴリー:EdTech
タグ:AI / 人工知能(用語)ウェイズリンクス(企業)wayChinese(サービス)語学学習(用語)モノグサ(企業)Monoxer(製品・サービス)日本(国・地域)

ビジネスパーソン向け無料AI講座「AI For Everyone」が開講から約2週間で受講登録者数5000人を突破

ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指す日本ディープラーニング協会(JDLA)は5月20日、新講座「AI For Everyone(すべての人のためのAIリテラシー講座)」の受講登録者数が開講から約2週間で5000人を突破したと発表した。

AI For Everyoneは、すべてのビジネスパーソンに向けた、AI・ディープラーニングについて「知る」ための無料(受講のみの場合)エントリー講座だ。AIの基礎を学びたい、所属組織をAIを使いこなせる組織へと変革させたいなど、幅広い層が受講できる内容となっている。

その内容は、DeepLearning.AIが提供し全世界で60万人以上の受講者を誇る人気コース「AI for Everyone」(オリジナルは英語)に、JDLAが制作し東京大学大学院工学系研究科 松尾豊教授が講師をつとめる日本向けコンテンツを加えた特別版となる。講座は約5時間のビデオ方式だ。詳細なシラバスはこちらを参照いただきたい。

講座は、世界最大級のオンライン講座プラットフォーム「Coursera」(コーセラ)にて実施される。受講は無料だが、Coursera発行の受講修了証取得コース(ビデオ講座後に確認テストを実施)の場合には別途Courseraへの49ドル(約5400円)の支払いが必要となる。また、団体受講申込のフォーマットも現在準備中だ。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Coursera(企業・サービス)AI / 人工知能(用語)日本ディープラーニング協会(用語)日本(国・地域)

PornhubがAIで4Kカラー化した1890〜1940年代のアダルト映像ライブラリー「Remastured」公開

PornhubがAIで4Kカラー化した1890〜1940年代のアダルト映像ライブラリー「Remastured」公開大手アダルト動画サイトのPornhubが1890年代のものを含むビンテージポルノ映像を、AIを使って4Kカラー映像にリマスターしたライブラリー「The Remastured」を公開しました。AIを使って古い映像を高解像度化したりカラー化する技術はいまや珍しくはありません。大戦時に従軍カメラマンが撮影した兵士たちの映像から、ろくにガードレールもないモナコの市街地コースを疾走するシートベルトもない葉巻型F1マシンのレース映像までさまざまなビンテージフィルムが、あたかもつい最近の映像のように再現されています。

ところが、ことポルノに関してはこのようなAIリマスターは行われていませんでした。その理由は、映像を高解像度化およびカラー化する人工知能はポルノ映像で鍛えられることがないから。Pornhubはサイトにアップロードされたアダルト動画から約10万本を使い、裸で組んず解れつする男女の上や下の凹や凸やアスタリスク、その周辺に繁茂するススワタリなどの微妙な色合いのバリエーションをAIに叩き込みました 。さらに4Kへの高解像度化とフレーム補間を適用し、不鮮明さとちぎこちなさを補っています。

VHSとベータの戦いで例えられる話のように、人々は新しい映像メディアが現れれば、それを用いてポルノを製作してきました。Pornhubは、これらの映像を保存するだけでなく現代化することが重要だと考え、1896年から1940年代にわたる20本のビンテージ素材を修復。過ぎ去りし時代の古風な営みを楽しめるようにすることに「非常に興奮」しているとのこと。

修復された映像の1本、1896年の「The Kiss」は、初めて男女が接吻する様子を収めた映像とされます。かのトーマス・エジソンも関わりがある会社が配給したものの、Pornhubによると当時の人々は「衝撃的かつわいせつ」だと非難したのだそう。これらの映像は歴史的な面でも貴重なものです。当時は今ほどオープンな時代ではなかったものの、人類が種を保存しようとする本能はいつの時代も変わりません。

ただPornhubが公開したライブラリーを進めていくと、1920年代にはもう三つ巴で喜々として互いの核心をズビズバする紳士淑女を捉えた、思わず手で目を覆いつつ指の隙間から凝視してしまいそうになる映像も登場します。

なお、いくらAIを鍛えたからと言って修復された映像のカラー化が現実そのままだという保証はありません。それは10万本のいかがわしい映像で頭が一杯になったAIが「きっとこんなかんじ」と想像して「色」を着けたものだと言うのが正しいでしょう。

ちなみにPornhubが公開したこのライブラリーの映像はいずれもAIによる「修復」済みですが、日本の法に合わせた「修正」はされていませんのでご注意を。

(Source:Pornhub(Twitter)Engadget日本版より転載)

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:AI / 人工知能(用語)Pornhub(企業・サービス)

コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍で押し進められたDXの中、AIに期待される今後の役割とは

アフロ

編集部注:この原稿は、MIN SUN(ミン・スン)氏による寄稿である。同氏は、AppierのチーフAIサイエンティストを務めている。Appierは、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するためのAIプラットフォームを提供している。

2020年、新型コロナウイルスの存在が確認されて以来、その猛威は世界中に広がり、2021年になった今でも終息のめどが立っていない。

新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の健康に対する意識はもちろんのこと、社会のあり方そのものに対しても大きな影響を与え、ミクロレベルからマクロレベルにいたるまであらゆるものごとが変革を余儀なくされたことに疑いの余地はない。

特に、営利企業において新型コロナウイルスの影響は甚大で、これまで遅々として進まなかったデジタルトランスフォーメーション(DX)が事業規模の大小を問わず急速に押し進められている。

この状況下、にわかに注目を集めているのが業務の自動化や省力化を得意とするAI技術の活用だ。

これまで、AIという技術に対する疑心や懸念をもっていたために活用に消極的だった企業においても、AIソフトウェアパッケージの導入やシステム開発が加速している。

新型コロナウイルスの流行が5年分のDXを1年で押し進めた

新型コロナウイルスの流行拡大により、企業内で最も大きく変わったことといえば、従業員の働き方だろう。新型コロナウイルスの流行以前は「仕事をする」ことは「オフィスにおもむく」ということに直結していた。しかし、コロナ禍で避けるべき3つの密と呼ばれる密閉、密集、密接の全条件に当てはまってしまうケースがあり、多くの企業が従業員を健康維持のため、出社制限を設けざるを得なかった。

このことにより、在宅勤務が急激に増加したわけだが、すべての業務をいきなりリモートで実施するのは当然難しい。そのため、自粛期間の合計が1年を超えてくる中でオフィスへの出社を要する業務においてもDXに取り組む企業が増加している。

バックオフィス業務における契約対応業務を例にあげると、これまでは紙媒体に押印し、それを送付するという流れが一般的だったのに対し、コロナ禍でDXが進められたことにより、契約書類がデータで渡されるようになり、押印もデジタル環境で実施した上で、契約書類の返送もオンライン上で完結させるケースが増加している。

ただ、このような業務のデジタル化に必要な技術やサービスの多くは、コロナ禍で生まれたものではなく、以前から存在していたが導入が先送りされていたものだ。つまり、企業における大規模なDXを推進したのはCEOでもCTOでもなく、新型コロナウイルスということになる。

コロナ禍で価値を発揮するAI

現在社会で起こっているDXは一過性のものではなく、さらなる推進に向け多くの企業が取り組んでいる。その中でもAIは、どのような価値を発揮しているのだろうか。

AIは様々な分野で活躍しており、その中でも特に医療分野では大きな価値をもたらしている。

医療分野におけるAI活用に関するひとつ目の事例は創薬の迅速化だ。従来、新薬が臨床試験に至るまでには4~5年以上の研究期間が必要だといわれてきた。だが、イギリスのオックスフォードを拠点とするAIスタートアップのExscientiaはAIを用いて新薬に用いる化合物を設計し、12カ月という短い期間で新薬の臨床試験にこぎつけた。また、通常の創薬では莫大な投資コストが発生することが多々あるが、AIの活用がその圧縮にもつながっている。

また、このような創薬ノウハウは新型コロナウイルスに効果的な薬品の特定にも用いられているという。したがって、過去に開発された薬品から新型コロナウイルスの予防や治療に効果的なものを特定する作業にはAIが少なからず貢献しているということになる。

AIを医療分野に活用する事例はもちろんこれだけではない。中国や台湾、韓国などでは、新型コロナウイルスへの感染予防に向け、AIを用いた陽性者のマッピングなども行われているという。

AIに期待される今後の役割とは

コロナ禍においても、AIが一定の価値を生んでいるが、AIがより大きな価値をもたらすのはこれからだろう。というのも、AIには学習のためのトレーニングデータが必要なため、中長期的な問題解決に適しているからだ。新型コロナウイルスの感染拡大が終息したとしても、いずれ人類は新たな感染症の流行に見舞われる。その際には、AIはより大きな価値をもたらすことは間違いない。

たとえば、感染症の予防においては電子医療記録をデータとして用いることで感染時の重症化リスクを予測できるようになる。また、新型コロナウイルスの感染経路を記録しておくことで、どのような場所で、誰を、どのように検査すれば感染症拡大の防止に役立つかを分析することも可能だ。

なお、上記の電子医療記録と地理空間に関するデータを組み合わせることで、検査、隔離、その他リソースの割当に関する優先順位の策定を支援するという構想は将来的な期待が高まっている。

さらに、ウイルスの遺伝子配列を分析し、変異をモニタリングすることにより、製薬会社による医薬品開発のターゲット明確化やウイルスの拡散速度予測、変異体の有害性の特定など、これまでは専門家が時間をかけて実施していた一連の取り組みの迅速化も期待されている。検査においても、現状ではPCR検査による感染の判断が主流だが、早期にウイルスの特性を明らかにできれば、CTスキャンデータなどを基に感染判断ができるようになる可能性はある。

今回の新型コロナウイルスの感染拡大は突発的だったため、AIが価値を発揮することが間に合わなかったケースも見受けられるが、私達が今直面している問題が、将来的なAI活用の礎として生かされるはずだ。

もちろん、技術を活かすも殺すも結局は人によるところが大きいため、将来的に期待されているAI活用が机上の空論で終わる可能性もある。

だが、政府や企業が主体となり、将来的な感染症に備えた仕組みを整え、人々がコロナ禍で得た教訓をしっかりと学習しパンデミックに備えることができれば、感染症拡大による社会的なリスクは大きく減少することだろう。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:医療(用語)AI / 人工知能(用語)新型コロナウイルス(用語)創薬(用語)

ディープフェイクのビジネス活用、技術の悪用防止をめぐる戦い

ディープフェイクのビジネス活用と悪用防止をめぐる戦い

アフロ

編集部注:この原稿は、MIN SUN(ミン・スン)氏による寄稿である。同氏は、AppierのチーフAIサイエンティストを務めている。Appierは、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するためのAIプラットフォームを提供している。

顔認識技術を用いて動画内の人物の顔に、画像データの人物の顔を当て込むディープフェイクという技術がある。近年、注目度が高まっている技術のひとつだが、ディープフェイクと聞いてどのようなイメージが湧いてくるだろうか?

おそらく多くの人がネガティブなイメージを思い浮かべるだろう。著名人の顔をアダルトコンテンツにはめ込んだ動画や政治家が問題発言をしている動画が拡散、流通した事件はまだ記憶に新しい。

技術の悪用がメディアに大々的に取り沙汰され、悪評を得てしまったディープフェイクだが、この技術はどんな目的で開発されたのだろうか。

本寄稿では、ディープフェイクの誕生から社会に広まっていく過程、ビジネスにおいて期待されている活用策について、ディープラーニング技術の社会実装を目指す研究者としての立場から考察していく。

ディープフェイクとは?

「ディープフェイク」という単語自体は、ディープラーニングを活用したフェイク画像あるいは動画のことを指し、2017年にRedditに複数のフェイク動画を投稿したユーザーのID「deepfakes」に由来する。この辺りの経緯は、プレプリント含め様々な論文を保存・公開しているarXivにある「Deepfakes Generation and Detection: State-of-the-art, open challenges, countermeasures, and way forward」が詳しい。

近年、大きな注目を集めているディープフェイクだが、実は約20年前に開発された「Synthesis Human Technology」(人物画像合成技術)が技術の根幹を成しており、これら技術そのものは映画業界を中心に以前から盛んに活用されていた。

たとえば、2009年に公開された映画「アバター」は、俳優の表情や体全体の動作を捉え、CGキャラクターを重ねる形で制作されている。しかし、この作業は専用の機材が必要なため、莫大な制作費が発生してしまうという難点があった。

この難点の解決につながるきっかけとなったのが、2012年だ。2012年の画像分類コンテストにおいて、「AlexNet」が活用しているディープラーニング(深層学習)が注目を浴び、第三次AIブームへの期待値が高まり始めた(総務省 平成28年版 情報通信白書「人工知能(AI)研究の歴史」)。そして2015年前後にはAIの社会実装に向けた様々なコンセプトが起草された。

2015年、ワシントン大学のSteve Seitz(スティーブ・セイツ)教授らによって、高価な機材を使うスタジオで撮影を行わずとも表情を重ね合わせられるようになる技術が開発された。

さらに、2016年にはミュンヘン工科大学のMatthias Niessner(マティアス・ニースナー)教授が発表した「Face2Face: Real-time Face Capture and Reenactment of RGB Videos」で技術はさらに進歩をとげ、ノートPCのカメラを使用して3Dの顔をリアルタイムで操作できるようになった。

これらの技術進歩の過程を経て、2017年、「GAN」(敵対的生成ネットワーク。Generative Adversarial Networks)と呼ばれる画像生成技術と上記の技術などを組み合わせた「ディープフェイク」および関連オープンソースソフトウェアが登場するに至った。

これらディープフェイク関連ソフトウェアの登場により、PCにインストールし、動画と画像データを集めるだけでフェイク動画を生成できるようになった。ディープラーニングに関する深い知見を持たずとも利用できるソフトウェアということも相まり、一般人によりフェイク動画が数多く生成されていった。

当初はいたずら感覚で政治家や芸能人が普通であればしないような動きや発言をするフェイク動画が作られていたのだが、活用は悪意ある方向に少しずつエスカレートし、フェイク動画の流通がメディアで大々的に取り上げられ、逮捕者が出るまでに至ってしまったのだ。

ビジネスにおけるディープフェイク活用

ディープフェイクが意図しない形で悪用されているという事実がある一方、ビジネスにおける前向きな活用も進められている。

エンターテインメント領域では、映画制作への活用はもとより、スマートフォンアプリのような個人が利用するサービスとしてもディープフェイクの技術は盛んに活用されている。たとえば、Snapが提供するSnapChatのFace Swap機能では、2人以上が写真に写っている場合、顔をスワップすることが可能だ。また、自身の顔のパーツを有名人のものとスワップすることもできる。

広告分野では、スタントマンの動作にGANで生成した架空の顔を重ね合わせ、仮想モデルのCMを作る取り組みなどが進んでいる。これにより、有名人を起用するコストを抑えることができる。また、仮想モデルは現実には存在しないため、スキャンダルや不祥事によるブランドイメージの毀損リスクを排除することにもつながる。

こうしたビジネス活用の例から分かる通り、ディープフェイクは悪評が先行しているだけで、必ずしも悪い技術ではないということだ。

悪意に対するカウンター

ただ、ディープフェイクを用いた有益なビジネスが生まれているからといってこれまでに根付いてしまった悪評が自然消滅するわけではない。

そのため、近年ではディープフェイクの悪用を検知するための取り組みが産学を中心に進められている。

アカデミックの世界では、ディープフェイクを検知する技術が確立されつつある。2019年ICCV(International Conference of Computer Vision)というコンピュータービジョン領域の国際会議では、90%以上の精度でディープフェイクの動画を検知する技術の開発に成功したとの発表があった(「FaceForensics++: Learning to Detect Manipulated Facial Images」)。

そして、現代における情報拡散の中心であるソーシャルメディアを運営する企業でもディープフェイクの悪用を防止するための検証が動き出している。ソーシャルメディアの代表格であるFacebook(フェイスブック)では、AIを用いてディープフェイクを検知するプロジェクト「Deepfake Detection Challenge」(DFDC)が立ち上がっており、ディープフェイクの検知にAIが有効だという報告も上がっている。このプロジェクトの最終的な結果によっては、フェイスブック上で拡散されている動画がフェイクの可能性があるときに「この動画はフェイクかもしれない」というようなメッセージをユーザーに自動で発信できるようになる。

余談となるが、産学でディープフェイクの検知に関する成果が上がりつつある一方、テキストベースのフェイクニュースに効果的な技術はまだ確立されていない。ディープフェイクには、コンピューターにより検知できる特徴的なシグナルがある。しかし、テキストベースのフェイクニュースの場合、膨大なデータソースから情報を収集し、内容の真偽を総合的に判断しなければならないため、AIによる自動検知が難しいというわけだ。

ディープフェイクの検知技術は年々向上している。しかし、100%の精度で偽物を見破れるわけではない。テキストや画像などの情報媒体も含め、社会に生きる全員が意識的に情報の真偽を判断するためのリテラシーを身に着けていくことが悪意ある情報を駆逐する近道なのかもしれない。

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カテゴリー:人工知能・AI
タグ:AI / 人工知能(用語)ディープフェイク(用語)ディープラーニング / 深層学習(用語)

欧州がリスクベースのAI規制を提案、AIに対する信頼と理解の醸成を目指す

欧州連合(EU)の欧州委員会が、域内市場のリスクの高い人工知能(AI)の利用に関するリスクベースの規制案を公表した。

この案には、中国式の社会信用評価システム、身体的・精神的被害を引き起こす可能性のあるAI対応の行動操作手法など、人々の安全やEU市民の基本的権利にとって危険性の高さが懸念される一部のユースケースを禁止することも含まれている。法執行機関による公共の場での生体認証監視の利用にも制限があるが、非常に広範な免除を設けている。

今回の提案では、AI使用の大部分は(禁止どころか)いかなる規制も受けていない。しかし、いわゆる「高リスク」用途のサブセットについては「ex ante(事前)」および「ex post(事後)」の市場投入という特定の規制要件の対象となる。

また、チャットボットやディープフェイクなど、一部のAIユースケースには透明性も求められている。こうしたケースでは、人工的な操作を行っていることをユーザーに通知することで、潜在的なリスクを軽減できるというのが欧州委員会の見解だ。

この法案は、EUを拠点とする企業や個人だけでなく、EUにAI製品やサービスを販売するすべての企業に適用することを想定しており、EUのデータ保護制度と同様に域外適用となる。

EUの立法者にとって最も重要な目標は、AI利用に対する国民の信頼を醸成し、AI技術の普及を促進することだ。欧州の価値観に沿った「卓越したエコシステム」を開発したいと、欧州委員会の高官は述べている。

「安全で信頼できる人間中心の人工知能の開発およびその利用において、欧州を世界クラスに高めることを目指します」と、欧州委員会のEVP(執行副委員長)であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は記者会見で提案の採択について語った

「一方で、私たちの規制は、AIの特定の用途に関連する人的リスクおよび社会的リスクに対処するものです。これは信頼を生み出すためです。また、私たちの調整案は、投資とイノベーションを促進するために加盟国が取るべき必要な措置を概説しています。卓越性を確保するためです。これはすべて、欧州全域におけるAIの浸透を強化することを約束するものです」。

この提案では、AI利用の「高リスク」カテゴリー、つまり明確な安全上のリスクをともなうもの、EUの基本的権利(無差別の権利など)に影響を与える恐れのあるものに、義務的な要件が課されている。

最高レベルの使用規制対象となる高リスクAIユースケースの例は、同規制の附属書3に記載されている。欧州委員会は、AIのユースケースの開発とリスクの進化が続く中で、同規制は委任された法令によって拡充する強い権限を持つことになると述べている。

現在までに挙げられている高リスク例は、次のカテゴリーに分類される。

  • 自然人の生体認証およびカテゴリー化
  • クリティカルなインフラストラクチャの管理と運用
  • 教育および職業訓練
  • 雇用、労働者管理、および自営業へのアクセス
  • 必要不可欠な民間サービスおよび公共サービスならびに便益へのアクセスと享受
  • 法執行機関; 移民、亡命、国境統制の管理; 司法および民主的プロセスの運営

AIの軍事利用に関しては、規制は域内市場に特化しているため、適用範囲から除外されている。

リスクの高い用途を有するメーカーは、製品を市場に投入する前に遵守すべき一連の事前義務を負う。これには、AIを訓練するために使用されるデータセットの品質に関するものや、システムの設計だけでなく使用に関する人間による監視のレベル、さらには市販後調査の形式による継続的な事後要件が含まれる。

その他の要件には、コンプライアンスのチェックを可能にし、関連情報をユーザーに提供するためにAIシステムの記録を作成する必要性が含まれる。AIシステムの堅牢性、正確性、セキュリティも規制の対象となる。

欧州委員会の関係者らは、AIの用途の大部分がこの高度に規制されたカテゴリーの範囲外になると示唆している。こうした「低リスク」AIシステムのメーカーは、使用に際して(法的拘束力のない)行動規範の採用を奨励されるだけだ。

特定のAIユースケースの禁止に関する規則に違反した場合の罰則は、世界の年間売上高の最大6%または3000万ユーロ(約39億4000万円)のいずれか大きい方に設定されている。リスクの高い用途に関連する規則違反は4%または2000万ユーロ(約26億3000万円)まで拡大することができる。

執行には各EU加盟国の複数の機関が関与する。提案では、製品安全機関やデータ保護機関などの既存(関連)機関による監視が想定されている。

このことは、各国の機関がAI規則の取り締まりにおいて直面するであろう付加的な作業と技術的な複雑性、そして特定の加盟国において執行上のボトルネックがどのように回避されるかという点を考慮すると、各国の機関に十分なリソースを提供することに当面の課題を提起することになるだろう。(顕著なことに、EU一般データ保護規則[GDPR]も加盟国レベルで監督されており、一律に厳格な施行がなされていないという問題が生じている)。

EU全体のデータベースセットも構築され、域内で実装される高リスクシステムの登録簿を作成する(これは欧州委員会によって管理される)。

欧州人工知能委員会(EAIB)と呼ばれる新しい組織も設立される予定で、GDPRの適用に関するガイダンスを提供する欧州データ保護委員会(European Data Protection Board)に準拠して、規制の一貫した適用をサポートする。

AIの特定の使用に関する規則と歩調を合わせて、本案には、EUの2018年度調整計画の2021年アップデートに基づく、EU加盟国によるAI開発への支援を調整するための措置が盛り込まれている。具体的には、スタートアップや中小企業がAIを駆使したイノベーションを開発・加速するのを支援するための規制用サンドボックスや共同出資による試験・実験施設の設置、中小企業や公的機関がこの分野で競争力を高めるのを支援する「ワンストップショップ」を目的とした欧州デジタルイノベーションハブのネットワークの設立、そして域内で成長するAIを支援するための目標を定めたEU資金提供の見通しなどである。

域内市場委員のThierry Breton(ティエリー・ブレトン)氏は、投資は本案の極めて重要な部分であると述べている。「デジタル・ヨーロッパとホライズン・ヨーロッパのプログラムの下で、年間10億ユーロ(約1300億円)を解放します。それに加えて、今後10年にわたって民間投資とEU全体で年間200億ユーロ(約2兆6300億円)の投資を生み出したいと考えています。これは私たちが『デジタルの10年』と呼んでいるものです」と同氏は今回の記者会見で語った。「私たちはまた、次世代EU[新型コロナウイルス復興基金]におけるデジタル投資の資金として1400億ユーロ(約18兆4000億円)を確保し、その一部をAIに投資したいと考えています」。

AIの規則を形成することは、2019年末に就任したUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)EU委員長にとって重要な優先事項だった。2018年の政策指針「EUのためのAI(Artificial Intelligence for Europe)」に続くホワイトペーパーが2020年発表されている。ベステアー氏は、今回の提案は3年間の取り組みの集大成だと述べた。

ブレトン氏は、企業がAIを適用するためのガイダンスを提供することで、法的な確実性と欧州における優位性がもたらされると提言している。

「信頼【略】望ましい人工知能の開発を可能にするためには、信頼が極めて重要だと考えます」と同氏はいう。「(AIの利用は)信頼でき、安全で、無差別である必要があります。それは間違いなく重要ですが、当然のことながら、その利用がどのように作用するかを正確に理解することも求められます」。

「必要なのは、指導を受けることです。特に新しいテクノロジーにおいては【略】私たちは『これはグリーン、これはダークグリーン、これはおそらく若干オレンジで、これは禁止されている』といったガイドラインを提供する最初の大陸になるでしょう。人工知能の利用を考えているなら、欧州に目を向けてください。何をすべきか、どのようにすべきか、よく理解しているパートナーを得ることができます。さらには、今後10年にわたり地球上で生み出される産業データの量が最も多い大陸に進出することにもなるのです」。

「だからこそこの地を訪れてください。人工知能はデータに関するものですから―私たちはガイドラインを提示します。それを行うためのツールとインフラも備えています」。

本提案の草案が先にリークされたが、これを受けて、公共の場での遠隔生体認証による監視を禁止するなど、計画を強化するよう欧州議会議員から要請があった。

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最終的な提案においては、遠隔生体認証監視を特にリスクの高いAI利用として位置づけており、法執行機関による公の場での利用は原則として禁止されている。

しかし、使用は完全に禁止されているわけではなく、法執行機関が有効な法的根拠と適切な監督の下で使用する場合など、例外的に利用が認められる可能性があることも示唆されている。

脆弱すぎると非難された保護措置

欧州委員会の提案に対する反応には、法執行機関による遠隔生体認証監視(顔認識技術など)の使用についての過度に広範な適用除外に対する批判の他、AIシステムによる差別のリスクに対処する規制措置が十分ではないという懸念が数多くみられた。

刑事司法NGOのFair Trialsは、刑事司法に関連した意義ある保護措置を規制に盛り込むには、抜本的な改善が必要だと指摘した。同NGOの法律・政策担当官であるGriff Ferris(グリフ・フェリス)氏は、声明の中で次のように述べている。「EUの提案は、刑事司法の結果における差別の固定化の防止、推定無罪の保護、そして刑事司法におけるAIの有意義な説明責任の確保という点で、抜本的な改革を必要としています」。

「同法案では、差別に対する保護措置の欠如に加えて、『公共の安全を守る』ための広範な適用除外において刑事司法に関連するわずかな保護措置が完全に損なわれています。この枠組みには、差別を防止し、公正な裁判を受ける権利を保護するための厳格な保護措置と制限が含まれていなければなりません。人々をプロファイリングし、犯罪の危険性を予測しようとするシステムの使用を制限する必要があります」。

欧州自由人権協会(Civil Liberties Union for Europe[Liberties])も、同NGOが主張するような、EU加盟国による不適切なAI利用に対する禁止措置の抜け穴を指摘している。

「犯罪を予測したり、国境管理下にある人々の情動状態をコンピューターに評価させたりするアルゴリズムの使用など、問題のある技術利用が容認されているケースは数多く存在します。いずれも重大な人権上のリスクをもたらし、EUの価値観を脅かすものです」と、上級権利擁護担当官のOrsolya Reich(オルソリヤ・ライヒ)氏は声明で懸念を表明した。「警察が顔認識技術を利用して、私たちの基本的な権利と自由を危険にさらすことについても憂慮しています」。

ドイツ海賊党の欧州議会議員Patrick Breyer(パトリック・ブレイヤー)氏は、この提案は「欧州の価値」を尊重するという主張の基準を満たしていないと警告した。同氏は、先のリーク草案に対して基本的権利の保護が不十分だと訴える書簡に先に署名した40名の議員のうちの1人だ。

「EUが倫理的要件と民主的価値に沿った人工知能の導入を実現する機会をしっかり捕捉しなれけばなりません。残念なことに、欧州委員会の提案は、顔認識システムやその他の大規模監視などによる、ジェンダーの公平性やあらゆるグループの平等な扱いを脅かす危険から私たちを守るものではありません」と、今回の正式な提案に対する声明の中でブレイヤー氏は語った。

「公共の場における生体認証や大規模監視、プロファイリング、行動予測の技術は、私たちの自由を損ない、開かれた社会を脅かすものです。欧州委員会の提案は、公共の場での自動顔認識の高リスクな利用をEU全域に広めることになるでしょう。多くの人々の意思とは相反します。提案されている手続き上の要件は、煙幕にすぎません。これらの技術によって特定のグループの人々を差別し、無数の個人を不当に差別することを容認することはできません」。

欧州のデジタル権利団体Edriも「差別的な監視技術」に関する提案の中にある「憂慮すべきギャップ」を強調した。「この規制は、AIから利益を得る企業の自己規制の範囲が広すぎることを許容しています。この規制の中心は、企業ではなく人であるべきです」と、EdriでAIの上級政策責任者を務めるSarah Chander(サラ・チャンダー)氏は声明で述べている。

Access Nowも初期の反応で同様の懸念を示しており、提案されている禁止条項は「あまりにも限定的」であり、法的枠組みは「社会の進歩と基本的権利を著しく損なう多数のAI利用の開発や配備を阻止するものではない」と指摘している。

一方でこうしたデジタル権利団体は、公的にアクセス可能な高リスクシステムのデータベースが構築されるなどの透明性措置については好意的であり、規制にはいくつかの禁止事項が含まれているという事実を認めている(ただし十分ではない、という考えである)。

消費者権利の統括団体であるBEUCもまた、この提案に対して即座に異議を唱え、委員会の提案は「AIの利用と問題の非常に限られた範囲」を規制することにフォーカスしており、消費者保護の点で脆弱だと非難した。

「欧州委員会は、消費者が日々の生活の中でAIを信頼できるようにすることにもっと注力すべきでした」とBEUCでディレクターを務めるMonique Goyens(モニーク・ゴヤンス) 氏は声明で述べている。「『高リスク』、『中リスク』、『低リスク』にかかわらず、人工知能を利用したあらゆる製品やサービスについて人々の信頼の醸成を図るべきでした。消費者が実行可能な権利を保持するとともに、何か問題が起きた場合の救済策や救済策へのアクセスを確保できるよう、EUはより多くの対策を講じるべきでした」。

機械に関する新しい規則も立法パッケージの一部であり、AIを利用した変更を考慮した安全規則が用意されている(欧州委員会はその中で、機械にAIを統合している企業に対し、この枠組みに準拠するための適合性評価を1度実施することのみを求めている)。

Airbnb、Apple、Facebook、Google、Microsoftなどの大手プラットフォーム企業が加盟する、テック業界のグループDot Europe(旧Edima)は、欧州委員会のAIに関する提案の公表を好意的に受け止めているが、本稿執筆時点ではまだ詳細なコメントを出していない。

スタートアップ権利擁護団体Allied For Startupsは、提案の詳細を検討する時間も必要だとしているが、同団体でEU政策監督官を務めるBenedikt Blomeyer(ベネディクト・ブロマイヤー)氏はスタートアップに負担をかける潜在的なリスクについて警鐘を鳴らしている。「私たちの最初の反応は、適切に行われなければ、スタートアップに課せられる規制上の負担を大幅に増加させる可能性があるということでした」と同氏はいう。「重要な問題は、欧州のスタートアップがAIの潜在的な利益を享受できるようにする一方で、本案の内容がAIがもたらす潜在的なリスクに比例するものかという点です」。

その他のテック系ロビー団体は、AIを包み込む特注のお役所仕事を期待して攻撃に出るのを待っていたわけではないだろうが、ワシントンとブリュッセルに拠点を置くテック政策シンクタンク(Center for Data Innovation)の言葉を借りれば、この規制は「歩き方を学ぶ前に、EUで生まれたばかりのAI産業を踏みにじる」ものだと主張している。

業界団体CCIA(Computer & Communications Industry Association)もまた「開発者やユーザーにとって不必要なお役所仕事」に対して即座に警戒感を示し、規制だけではEUをAIのリーダーにすることはできないと付け加えた。

本提案は、欧州議会、および欧州理事会経由の加盟国による草案に対する見解が必要となる、EUの共同立法プロセスの下での膨大な議論の始まりである。つまり、EUの機関がEU全体のAI規制の最終的な形について合意に達するまでに、大幅な変更が行われることになるだろう。

欧州委員会は、他のEU機関が直ちに関与することを期待し、このプロセスを早急に実施できることを望んでいると述べるにとどまり、法案が採択される時期については明言を避けた。とはいえ、この規制が承認され、施行されるまでには数年かかる可能性がある。

【更新】本レポートは、欧州委員会の提案への反応を加えて更新された。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EU人工知能チャットボットディープフェイク透明性GDPR欧州データ保護委員会生体認証顔認証

画像クレジット:DKosig / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

TRUST SMITHとADEKAが荷姿・ラベル位置・種類を問わずラベル内情報を自動認識するシステムの実証実験

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AI・数理アルゴリズム・ロボティクス領域の東京大学発スタートアップTRUST SMITHと、化学品事業・食品事業などを展開するADEKAは4月30日、「ラベル自動認識システム」の実証実験を開始したと発表した。早くとも年度内の完成を目指し、研究開発に努めるとしている。また「ラベル自動認識システム」にとどまらず、将来的には、アイテムごとに仕分け作業を行う原料受け入れラインの開発を目指す。

ラベル自動認識システムは、任意のアイテムをカメラで撮影することで、荷姿、ラベルの位置・種類を問わず、ラベル内の情報を自動で読み取るという技術。具体的には、OCR(文字認識)技術、画像認識技術を用いている。また「ダンボール・ドラム缶・紙袋など荷姿が異なる場合」「アイテムごとにラベルの位置が異なる場合」「ラベルの種類が様々である場合」などを対象としている。

同技術は今後、食品・医療品・化学品を取り取り扱うメーカーをはじめ、ラベルを利用するあらゆる現場において必要不可欠な技術になることが期待できると同時に、国内だけでなく海外での需要も見込んでいるという。

TRUST SMITHとADEKAが荷姿・ラベル位置・種類を問わずラベル内情報を自動認識するシステムの実証実験

現在、あらゆるメーカーにおいてロット番号・品質保証期限・賞味期限などを記載した「ラベル」は、頻繁に利用されている。

ADEKAにおいても、化学品事業では樹脂添加剤、情報・電子化学品、機能化学品、また食品事業では洋菓子店・スーパーなど向けのパンや菓子などで様々なラベルを採用している。これら取り扱いアイテムは、荷姿やラベルの位置・種類が多種多様であるためラベルを自動で読み取ることが難しく、人間が確認せざるをえないという。

ただ、属人的な作業にはミスがつきものであり、人為的な過誤による損失、作業効率の低下などの課題を抱えているそうだ。

この課題を解決すべく、OCR技術・画像認識技術に強みを持つTRUST SMITHと、食品の管理技術・トラッキングシステムに強みを持つADEKAは、ラベル自動認識システムの実証実験を開始したという。

同技術によって、食品・医療・化学をはじめ、ラベルを取り扱うあらゆる現場における労働力不足の解消・作業コストの軽減・ヒューマンエラー防止を目指すとしている。

TRUST SMITHは、AI・数理アルゴリズム・ロボティクス分野の最先端のテクノロジーを活用してイノベーションを創造する、東京大学発スタートアップ。ハード・ソフト問わず、様々な技術領域において自社製品の研究開発に取り組むとともに、オーダーメイドで企業の課題に合わせたソリューションの提供や研究の支援を行っている。

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