Bilibiliコンテンツモデレーター過労死疑惑で中国テック業界の長時間労働文化の議論が再燃

中国で先週、オンラインコンテンツのモデレーターが急死したことで、インターネット時代に生まれた職業の労苦に焦点が当たっている。

中国の動画配信サイト「Bilibili(ビリビリ、哔哩哔哩)」でコンテンツを監視していた25歳の男性が、春節(旧正月)中の2月5日に突然亡くなった。この件に詳しい人物から情報を得たというWeibo(ウェイボー、微博)ユーザーの投稿によると、春節の連休中、午前9時から午後9時までの12時間シフトで働いた後のことだったとされている。

この投稿は数時間のうちに何万回も閲覧され、中国のテック業界に蔓延する長時間労働文化に対して、ネット上で新たな抗議の波を引き起こした。

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2009年のサービス開始以来、Bilibiliはサブカルチャーのためのニッチな安息地から、2021年9月時点で月間アクティブユーザー数(MAU)2億7千万人を誇る人気動画共有サイトへと変貌を遂げた。

コミュニティが拡大しているということは、それだけ審査すべき動画が増えているということでもある。中国の広大なネット検閲体制の背後には、WeChat(ウィーチャット、微信)、TikTok(ティックトック)、Weiboなどのコンテンツプラットフォームに雇用されている大勢のモデレーターが存在する。これらのモデレーターは、しばしばコンピュータの前で長時間作業し「違法・有害な」ユーザーの投稿にフラグを立てて削除する。その過酷な労働条件から、インターネット時代の「生産ライン」とも呼ばれている。また、工場での仕事と同様に、一日中コンテンツをパージする作業は、労働者の健康を損なうことにつながる。

過労死疑惑に対してBilibiliは、従業員が亡くなる前の1週間、彼は1日8時間、週5日という標準的な労働時間で働いており、同社は法律に基づいて休日出勤した彼の給与を3倍にしていたと主張している。

「彼が担当していたコンテンツセキュリティモデレーションの仕事は、24時間体制の特別な業務です。他の公共サービスと同様に、コンテンツセキュリティは旧正月であっても止めることはできません」と同社は声明で述べた。

もちろん、このような説明では激昂した世論を鎮めることはできない。「悲劇を繰り返さない」ために、Bilibiliは、コンテンツ監査チームの健康状態を「積極的に改善する」と述べている。そのために、2022年中に1000人のモデレーターを追加して「平均的な仕事量を減らす」とともに、同部門のスタッフに「強化された健康チェック」を導入する予定だという。

Bilibili従業員の死について最初に投稿したWeiboユーザーは、動画配信大手である同社の弁護士から手紙を受け取ったと投稿している。スクリーンネームを「Wang Luobei」とするこのユーザーは、Weiboで500万人近いフォロワーを抱えている。Bilibiliは、この弁護士の手紙についてのTechCrunchの問い合わせには応じていない。

画像クレジット:Gao Yuwen / VCG / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

大切な人の遺灰をダイヤモンドに、オースティンのEternevaが約11億円調達

愛する人を失うというのは、人生の中でも最も辛い体験の1つだろう。

誰かの死を追悼するというと、葬儀の計画や、棺や墓石の選定などが一般的な行動である。そしてこれらは通常、葬儀屋の助けを借りて行われることが多い。

オースティンを拠点とするEterneva(エターネヴァ)は、終末期分野では珍しいダイレクト・トゥ・コンシューマー・ブランドを構築している企業だ。創業4年目となる同社は、火葬された人やペットの灰や髪の毛からダイヤモンドを製造している。非常に珍しい事業ではあるが、死後も大切な人の一部を身近に置いておきたいという人々の共感を得ているようだ。

CEO兼共同創業者のAdelle Archer(アデル・アーチャー)氏によると、Eternevaは創業以来売上高が3桁の成長を遂げており、2020年には収益が2倍以上になったこともあるという。そして2021年7月下旬、Tiger Management(タイガー・マネジメント)が主導し、Goodwater Capital(グッドウォーター・キャピタル)、Capstar Ventures(キャスパー・ベンチャーズ)、NextCoast Ventures(ネクストコースト・ベンチャーズ)、およびダラスの億万長者であるMark Cuban(マーク・キューバン)氏が参加した「超過応募」となった1000万ドル(約11億円)のシリーズA資金調達ラウンドを発表した。ちなみにTiger Managementは、Julian Robertson(ジュリアン・ロバートソン)氏のヘッジファンドかつファミリーオフィスであり、Tiger Global Managementの大元である。

「非常に競争の激しいラウンドでした」とアーチャー氏はTechCrunchに語っている。「3つのタームシートを受け取り、オールスターの投資グループを編成することができました」。この投資グループには、Capstar(キャップスター)のマネージングディレクターであり、Eternevaの取締役にも就任したKathryn Cavanaugh(キャサリン・カバノフ)氏Softbank(ソフトバンク)で1000億ドル(約11兆円)規模のVision Fundを統括する女性トップパートナーのLydia Jett(リディア・ジェット)氏、Upfront Capital(アップフロント・キャピタル)のマネージングパートナーであり、VCファンドでマネージングパートナーになった初の女性の1人であり、女優のNatalie Portman(ナタリー・ポートマン)氏とともにAngel City(エンジェル・シティ)を共同設立したKara Nortman(カラ・ノートマン)氏が含まれている。

アーチャー氏と共同創業者のGarrett Ozar(ギャレット・オザー)氏は、BigCommerce(ビッグコマース)でともに働いた後、2017年の第1四半期にEternevaを立ち上げた。同社設立の背景にあるストーリーはアーチャー氏にとって非常に個人的なものだ。同氏の親しい友人であり、ビジネスメンターでもあったTracey Kaufman(トレーシー・カウフマン)氏が膵臓がんと診断され、47歳の若さでこの世を去った。近親者のいないカウフマン氏は、火葬された遺灰を叔母と親友、そしてアーチャー氏に残していったのだ。

「私たちはさまざまな選択肢を検討し始めましたが、見つけたウェブサイトはどれも精彩を欠き、パッとしないものばかりでした」とアーチャー氏は振り返る。「トレーシーはとてもすばらしい人でした。すばらしい人を失ったときには、その人を称えて追悼するためのもっと良い選択肢が必要だと感じました」。

当時、人工的なダイヤモンドを開発するスタートアップに取り組んでいたアーチャー氏。ダイヤモンドの研究を行う科学者と食事をしながら恩師の死について話していた時、その科学者が「知っていると思うけど、灰には炭素が含まれているからトレーシーの遺灰から炭素を取り出してダイヤモンドを作ればいいんだよ」と言ったのだ。

この言葉にアーチャー氏は度肝を抜かれた。

「これは必ずやらなければいけないと感じました。トレーシーは輝きに満ちた人だったので、ぴったりだと思いましたし、常に彼女の一部を身に着けることができるのです」。

Eternevaの共同設立者であるギャレット・オザー氏とアデル・アーチャー氏(画像クレジット:Eterneva)

これが同社が作った初のダイヤモンドだ。自身の製品の顧客となる機会を得たことが、その後の顧客体験を構築するために大いに役立ったとアーチャー氏は考えている。この事業こそ悲しむ人々に向けて「輝きと癒しをもたらし、愛する人を称える美しい方法」だと感じ、同氏はすぐにこのアイデアにコミットするようになった。

創業以来、Eternevaはこれまでに1000人以上の顧客のために約1500個のダイヤモンドを製作。無色はもちろん、ブラック、イエロー、ブルー、オレンジ、グリーンなど、ほぼすべての色に対応している。同社のダイヤモンドは2999ドルから(約33万円)で、サイズや色によって値段が上がっていくシステムだ。同社の事業の約40%をペットが占めている。

「私たちはこの分野において、他とはまったく逆の考え方を体現していると思います。多くの事業は終末期のプランニングやロジスティクスを解決しようと取り組んでいますが、私たちは人々が前進するのを支援し、人生を祝福するためのプラットフォームを構築することを目的としています」。

アーチャー氏によるとダイヤモンドの制作過程は複雑で、7〜9カ月の期間を要するという。ビデオや写真で各段階のプロセスをその都度共有することで、顧客に制作過程も体験してもらうというのが同社の考えだ。

「私たちは、顧客の悲しみが癒えるプロセスの段階とともにあるのだと感じています。初めは大きな孤独を抱えていますが、完成する頃には心のあり方が変化しています」。

新たな資本活用計画の1つは、制作過程においてより多くの人に直接参加してもらえるようにすることだ。例えば機械加工を始めたり、宝石デザイナーに大切な人の話をして、その人の人生を表すような細やかなディテールをあしらったカスタムデザインを考えたりできるようにするというものである。

またこの資金を利用して、企業との提携による葬儀社チャネルプログラムの全国展開や、オースティンにおける需要に対応するための運営とキャパシティの拡大を計画している。

同社は、より多くの人々が「従来の葬式を望まなくなっている」という事実に着目している。

「人々はカスタム性と意味合いを求めています。将来的にはさまざまなサービスや製品を提供するプラットフォームへと進化していきたいと考えています」。

同社はブランドの認知度も高めていきたいと考えており、最近では同社のダイヤモンドに関する十数本のTikTok動画が話題になったとアーチャー氏は話している。

シリーズA以前にEternevaは、エンジェル投資家や機関投資家から合計670万ドル(約7億4000万円)を調達している。そのシードラウンドは、2020年にオースティンを拠点とするSpringdale Ventures(スプリングデール・ベンチャーズ)が主導した300万ドル(約3億3000万円)だ。マーク・キューバン氏が最初に同社の投資家になったのは、アーチャー氏とオザー氏がリアリティ番組の「Shark Tank(シャーク・タンク)」に出演したときのこと。キューバン氏は60万ドル(約6600万円)の投資と引き換えに、同社の9%の株式を取得したのだ。同社が詐欺であるという主張があったにもかかわらず、キューバン氏はその背後にある科学を支持し、最新のラウンドにも資金を投入している。

Eternevaのダイヤモンドは「大切な人との繋がりを維持するための、ユニークで社会的に責任のある方法」だとキューバン氏は TechCrunchへのメール中で語っている。

「同社にはまだまだ成長の余地があり、前途有望です。それが今回の投資の理由です」。

愛する人の髪の毛や遺灰からダイヤモンドを作るというのは「とても個人的な思い入れが強い行為」だと同氏はいう。

「Eternavaは非常に感情的で困難な時間を、他の誰にも真似できないような信頼できる方法で、人々が人生を歩み続ける手助けをしているのです」とキューバン氏は付け加えている。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Eternevaダイヤモンド資金調達

画像クレジット:Eterneva

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

病気と老化をハックする長寿テックGero AIが健康状態の変化を定量化するモバイルAPIを発表

スマートフォンやウェアラブルデバイスのセンサーデータにより、個人の「生物学的年齢」やストレスへの耐性を実用レベルで予測することができると語るのは、Gero AI(ジェロ・エーアイ)だ。

この長寿技術のスタートアップは、そのミッションを「Gero AIで複雑な病気と老化をハックする」という簡潔な目標に集約しており、モバイルユーザーの身体的活動を追跡する歩数計センサーデータのパターン認識に基づいた「デジタルバイオマーカー」を用いて、罹患リスクを予測するAIモデルを開発した。

単に「歩数」を計測しただけでは、個人の健康状態を予測するのに十分な差異を識別できない、というのが同社の主張だ。同社のAIは、大量の生体データを用いて学習し、罹患リスクに結びつくパターンを見つけ出す。また、生物学的ストレスからの回復の早さも測定するが、これも寿命に関連するバイオマーカーの1つだ。つまり、ストレスからの回復が早ければ早いほど、その人の全体的な健康状態が良くなるということだ。

査読付き生物医学誌Aging(エージング)に掲載されたGero AIの研究論文では、ディープニューラルネットワークを学習させてモバイル機器のセンサーデータから罹患リスクを予測する方法を説明している。そして、その生物学的年齢加速モデルが血液検査の結果に基づくモデルと同等であることを実証した。

また、2021年5月末にNature Communications(ネイチャーコミュニケーションズ)誌に掲載される予定の別の論文では、デバイスを用いた生物学的回復力の測定について詳しく説明している。

シンガポールを拠点とするこのスタートアップは、ロシアに研究のルーツを持ち、理論物理学のバックグラウンドを持つロシア人科学者によって2015年に設立された。そして、これまでに2回のシードラウンドで合計500万ドル(約5億4000万円)を調達している。

共同設立者のPeter Fedichev(ピーター・フェディチェフ)によると、出資者はバイオテック分野とAI分野の両方から参加しているという。投資家には、ベラルーシを拠点としAIに特化したアーリーステージファンド、Bulba Ventures(バルバベンチャーズ)のパートナーであるYury Melnichek(ユリー・メルニチェク)が含まれている。製薬分野では、ロシアの医薬品開発企業であるValenta(バレンタ)に関連する(匿名の)個人投資家数名からの支援を受けている(バレンタ自体は出資していない)。

フェディチェフ氏は理論物理学者で、博士号を取得し、10年ほど学術研究の世界に身を置いた後、バイオテックの世界に入り、創薬のために分子モデリングや機械学習に取り組んだ。そしてそこで老化の問題に興味を持ち、会社を設立することにした。

同社では、長寿に関するマウスや線虫を用いた生物学的研究に加え、モバイルデバイスで取得したセンサーデータを使って人間の生物学的年齢やストレスからの回復力を予測する、AIモデルの開発にも力を入れている。

「健康は、もちろん1つの数字だけで表せるものではない」とフェディチェフ氏は率直にいう。そして「そのことに幻想を抱くべきではない。しかし、人間の健康を1つの数字に集約するのであれば、多くの人にとって、生物学的年齢が最適な数字となる。自分のライフスタイルがどれだけ不健康であるのか、本質的に知ることができる。実年齢に比べて生物学的年齢が高ければ高いほど、慢性疾患や季節性の感染症にかかる可能性が高くなり、またそういった季節性の疾患から合併症を併発する可能性も高くなる」と語る。

Gero AIは最近、GeroSenseという(今のところ有料の)APIを公開した。このAPIは、健康やフィットネス関係のアプリを対象としており、AIモデリングを適用して、ユーザーに生物学的年齢とストレス耐性(ストレス状態から各個人の基準値への回復率)の個別評価を提供できる。

初期のパートナーは、長寿に注力する別の企業、AgelessRx(エイジレス・アールエックス)とHumanity(ヒューマニティ)だ。そして、このモデルをフィットネスアプリに広く搭載し、長期的な活動データをGero AIに安定的に送信してAIの予測能力をさらに高め、製薬会社との協業によりアンチエイジング薬の開発を進めるという広範な研究ミッションをサポートすることを意図している。

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フィットネスプロバイダーがAPIを導入するメリットは、楽しい上に価値のある機能をユーザーに提供できることだ。個人の健康状態を測定することで、ポジティブな(あるいはネガティブな)生物学的変化を把握することができ、利用しているフィットネスサービスの価値を定量化することが可能になる。

「ジムなどを含めた、あらゆるヘルス&ウェルネスプロバイダーは、自分のアプリに、例えば【略】ジムのすべてのクラス、ジムのすべてのシステムを、さまざまなタイプのユーザーに合った価値に応じてランク付けすることができる」とフェディチェフ氏は説明する。

「マウスではなく、人間の老化の仕組みを理解するために、このような機能を開発した。開発後は、遺伝子を見つけるための高度な遺伝子研究に使用し、見つけた遺伝子は研究室でテストしている。しかし、ウェアラブルデバイスから得られる継続的な信号から老化を測定するこのテクノロジーは、それだけでも優れた手法だ。だからこそ、このGero AIセンスプロジェクトを発表した」と続ける。

「老化とは、機能的能力が徐々に低下していくことであり、望ましいことではないが、ジムに行けば改善できる可能性がある。しかし、問題はこの回復力を失っていくこと、つまり、(生物学的な)ストレスを受けたときに、できるだけ早く通常の状態に戻ることができないということだ。そのため、回復力をフィードバックしている。この回復力が失われ始めると、頑健さを維持できなくなり、20代と同じレベルのストレスを受けたときに、ノックアウトされてしまうことになる。

この回復力の低下は、病気になる前の段階でも、近いうちに病気にかかる可能性があることを教えてくれるので、老化の重要な表現型の1つだと考えている。

社内では老化がすべてだ。当社は、老化の測定と介入に全力で取り組んでいる」とフェディチェフ氏は語り、「長寿と健康のためのオペレーティングシステムのようなものを作りたいと考えている」と付け加える。

Gero AIは「トップクラス」の保険会社と2件の試行的運用からも収益を得ている。フェディチェフ氏によると、この試行は、現段階では基本的にビジネスモデルの実証として行なっているとのことだ。また、Pepsi Co(ペプシコ)とも試行の初期段階にあるという。

さらに同氏は、健康転帰の分野で保険会社と連携することとElon Musk(イーロン・マスク)氏がセンサーを搭載したTesla(テスラ)の所有者に対して、その検知した運転状況に基づき保険商品を提供することとの関連性を説明する。両社はどちらもセンサーデータを利用しているためだ。(「イーロン・マスクが自動車に対して行おうとしていることを、当社は人間に対して行おうとしている」と、同氏はいう」)。

しかし、近い将来の計画は、さらに資金を調達し、APIの提供を無料に切り替えてデータ収集の機会を大幅に拡大することだ。

話を少し広げると、Googleが出資するCalico(キャリコ)が「死の克服」というムーンショットミッションを掲げて設立されてから、約10年が経過した。それ以来、小さいながらも成長を続ける「長寿」分野ではスタートアップが誕生し、(まず第1に)人間の寿命を延ばすための研究を行っている。(死を終わらせることは、明らかに、ムーンショットの中のムーンショットだ)。

もちろん死は避けられるものではないが、死神の襲来から逃れるための薬や治療法を見つけるビジネスはペースを上げ続けており、投資家からの資金も集まってきている。

研究データのオープン化や、健康状態把握のためのデジタルデバイスやサービスの普及により、健康や生物学的なデータがますます充実し、入手しやすくなっていることに加え、予測医療や創薬などに急速に展開されている機械学習の将来性も相まって、この傾向は加速している。

また、最近では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、健康やウェルネス、そして特に死亡率に関心が集まっていることから、長寿への関心の高まりも見られる。

しかし、そうは言っても、複雑で多分野にまたがるビジネスであることに変わりはない。これらのバイオテックでのムーンショットを狙う企業の中には、病気の診断や創薬を推進するためにバイオエンジニアリングや遺伝子編集に焦点を当てた企業もある。

また、Gero AIのように、AIやビッグデータ解析を利用して、生物学的な老化を深く理解し進行を妨げようとしている企業も数多くある。そういった企業では、物理学、数学、生物学の専門家を集めてバイオマーカーを探し、老化にともなう病気や機能低下に対処するための研究を進めている。

最近の例としてはAIスタートアップのDeep Longevity(ディープ・ロンジェビティ)が、2020年の夏にAI創薬企業Insilico Medicine(インシリコ・メディシン)からスピンアウトしステルスモードから姿を現した。同社は、AIによる「サービスとしての長寿」システムを謳い、個人の生物学的年齢を「従来の方法よりも大幅に正確に」予測できるとしている(また、科学者らが「老化に関連する疾患を引き起こす生物学的な原因」を解明するのに役立つと期待している)。

Gero AIは、包括的には同じ目標に向かっているが別のアプローチを取っている。つまり、人々が日常的に持ち歩いている(あるいは身につけている)モバイルデバイスに搭載された活動センサーが生成するデータに注目し、生物学的研究のための代用信号として活用する。

その利点は、自分の健康状態を把握するために、定期的に(侵襲による)血液検査を受ける必要がないことだ。その代わりに、人々のパーソナルデバイスを使って、生物学的研究のための代用信号を、受動的に大規模かつ低コストで生成することができる。つまり、Gero AIの「デジタルバイオマーカー」によって、個人の健康状態の予測に使うデータを民主的に取得できるようになる。

Peter Thiel(ピーター・ティール)氏のような億万長者は、死の一歩手前でいられるよう、特注の医療モニタリングや医療介入に大金を払う余裕があるが、そのようなハイエンドのサービスは、一般の人々の手が届くはずもない。

Gero AIのデジタルバイオマーカーが同社の主張に沿うものであれば、少なくとも何百万人もの人々をより健康的なライフスタイルへと導くことができるだろう。そして同時に、長寿の研究開発のための豊富なデータを得ることができ、人間の寿命を延ばすことができる薬の開発の助けにもなる(そのような延命薬剤がいくらかかるかはまったく別の話だが)。

保険業界も当然関心を示しており、このようなツールを使って契約者に健康的なライフスタイルを促すことで、保険金の支払いコストを削減できる可能性がある。

健康増進に意欲的な人にとって、現在の問題は、どのようなライフスタイルの変化や医療介入が自分の生物学的特性に最も適しているのかを正確に知ることが非常に困難なことだとフェディチェフ氏はいう。

例えば、ファスティングは生物学的老化の防止に役立つという研究結果がある。しかし、同氏はこのアプローチがすべての人に有効であるとは限らないと指摘する。同じことが、一般的に健康に良いとされている行動(運動や特定の食品を食べたり避けたりすることなど)にも言えるだろう。

また、そういった経験則も、個人の特定の生物学的性質に応じて、さまざまな差異があるかもしれない。さらに、科学的な研究には、どうしても資金面での制約がある。(そのため、研究の対象では、女性よりも男性、中高年よりも若年層といったように、特定のグループに焦点が当てられ、他のグループが除外される傾向がある)。

そのような理由から、フェディチェフ氏は、基本的に個人の費用負担なしで健康に関する知識のギャップに対処できるように、評価基準を作成することに大きな価値があると考えている。

Gero AIは、研究パートナーの1つである英国のバイオバンクの長期間にわたるデータを用いて、同社のモデルによる生物学的年齢と回復力の測定値を検証した。しかし、もちろん、より多くのデータを取り込むことで、さらにモデルを進化させたいと考えている。

「技術的には、当社が行なっていることとそれ程違うものではない。ただ、UKバイオバンクのような取り組みがあるからこそ、今、当社ができることがある。政府の資金と業界のスポンサーの資金に加え、おそらく人類史上初めて、何十万人もの人々の電子医療記録、遺伝学、ウェアラブルデバイスが揃った状況になり、それが可能になった。技術的なものだけでなく、(英国のバイオバンクのような)『社会技術』と呼ばれるものも含めて、いくつかの開発が収束した結果だ」と同氏はTechCrunchに語る。

「想像してみて欲しい。すべての食事、すべてのトレーニング、すべての瞑想……ライフスタイルを実際に最適化するために、(それぞれの人にとって)どのようなことが効果的で、どのようなことが効果的でないのかを理解できることを。あるいは、すでに動物で寿命を延ばすことが証明されている実験的な薬が有効かもしれないし、何か違うことができるかもしれない」。

「100万件の追跡データ(100万人の半年分のデータ)が集まれば、それを遺伝学と組み合わせて、老化を解決できるだろう」と、起業家らしく語り「この計画の挑戦的なスケジュールでは、年末までにその100万件の追跡データを手に入れたいと考えている」と続ける。

フィットネスや健康のアプリは、データを必要とする長寿研究者にとってパートナーのターゲットとなることは明らかだが、お互いに関心を引く関係になることも想像に難くない。一方はユーザーを提供し、もう一方は高度なテクノロジーとハードサイエンスに裏付けられた信頼性のオーラをもたらすことができる。

「当社は、これらの(アプリ)が多くのユーザーを獲得することを期待している。そして、まず楽しい機能として、ユーザーのためにユーザー自身を分析できるだろう。しかし、その裏では、人間の老化に関する最高のモデルを構築する必要がある」とフェディチェフ氏は続ける。そして、さまざまなフィットネスや健康増進法の効果をスコアリングすることが、ウェルネスと健康の「次のフロンティア」になると予測している(あるいは、より簡潔に言えば「ウェルネスと健康は、デジタルで定量的なものにならなければならない」ということだ)。

「当社が行なっていることは、物理学者を人間のデータの分析に参加させることだ。最近では、多くのバイオバンクがあり、人間の老化プロセスを数年単位で表示するデバイスからのものを含め、多くのシグナルを入手している。つまり、天気予報や金融市場の予測のような、動的なシステムだ」と同氏は述べる。

「治療方法は特許を取得できないので自分たちのものにはならないが、パーソナライゼーション、つまり治療法を各個人に合わせてカスタマイズしてくれるAIは自分たちのものになるかもしれない」。

スタートアップの視点からは明確だ。長い目で見れば、パーソナライゼーションは、ここにある。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Gero AI健康長寿人工知能APIアプリウェアラブルデバイスムーンショット

画像クレジット:Gero AI

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【コラム】もしものときにNFTや暗号資産を失わないようにする方法

本稿の著者Erin Bury(エリン・ベリー)氏は、トロントに拠点を置く総合的なオンライン不動産計画サービスWillfulのCEOで共同創業者。

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消費者が富を築く場合、その内容はたいてい、現金、投資、不動産、自動車、宝飾品、美術品をはじめとする「有形の」資産である。しかし、最近は新たなタイプの資産も増えている。暗号資産(仮想通貨)や、最近注目され始めたNFTなどの「デジタル資産」だ。

我々は今、史上最も大規模な「富の移転」を経験している。今後数十年で、16兆ドル(約1745兆円)に相当する資産の所有権が移転すると予測されているのだ。物理的な資産であれば、緊急時や死亡時にその所有権を比較的容易に移転できるが、デジタル資産の場合はそうはいかない。

カナダのオンライン遺書作成サービスWillful(ウィルフル)から委託されてAngus Reid(アンガス・リード研究所)が実施した最新の調査によると、自分のパスワードとアカウントに関する全情報を自分以外の誰かに伝えてある消費者はわずか4人に1人だったという。この調査結果を考えると「消費者はデジタル資産を相続させる準備ができるのだろうか、何十億ドル(何千億円)にも相当する暗号資産が誰にも受け継がれずにデジタルの世界に取り残されることになるのだろうか」と疑問に思わずにはいられない。

物理的な資産であれば、緊急時や死亡時にその所有権を比較的容易に移転できるが、デジタル資産の場合はそうはいかない。

2021年のニュースはデジタル資産に関する話題でもちきりだ。暗号資産は目新しいものではないが、その価値が急騰したり、Elon Musk(イーロン・マスク)氏などの億万長者が暗号資産を支持する発言をしたり、米大手銀行Morgan Stanley(モルガン・スタンレー)をはじめとする従来型の金融機関がBitcoin(ビットコイン)の取引を取り扱うようになったりしたことで、2020年あたりから暗号資産への注目度が高まっている。何らかの形態の暗号資産を所有している場合、それにアクセスするには64桁のパスコードで構成されるプライベートキーを使うしかない。このプライベートキーがわからなければ、暗号資産にアクセスすることはできない。

ビットコインを購入した後にハードドライブを破棄したりプライベートキーを紛失したりしなければ、今頃は大金持ちになっていたのに、という体験談は数多くある。有名なのは、暗号資産取引所Quadriga(クアドリガ)を創設したGerald Cotten(ゲラルド・コットン)氏の例だ。コットン氏が2018年に急死した当時、同氏は顧客から預かった2億5000万ドル(約272億7000万円)以上の暗号資産を運用していたが、プライベートキーを知っているのが死亡した本人だけだったため、それらの暗号資産資産が実質的に凍結されてしまったのだ。

暗号資産と同じくブロックチェーンによってホストされるNFT(非代替性トークン)という形態のデジタル資産についても、最近、さまざまなニュースを見聞きする。中でも度肝を抜かれたのは、Beeple(ビープル)というアーティストのNFT作品が老舗オークションハウスChristie’s(クリスティーズ)に出品され6900万ドル(約75億円)で落札されたというニュースだ。他にも、トロントでNFTのバーチャル住宅が60万ドル(約6600万円)以上で売れたとか、昔流行ったNBA選手のトレーディングカード遊びのような感覚でNBA選手のプレー中の写真や動画を取引できるプラットフォームの取引高が2億ドル(約219億円)を超えたというニュースもあった。最近注目され始めたこのNFTという資産形態は、デジタル資産に、有形資産と同じか、場合によっては有形資産よりも高い価値が付される可能性があることを証明している。そして、暗号資産と同じように、NFT資産にアクセスする場合にもプライベートキーが必要のようだ。

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生前に遺言書が作成されていれば、故人の資産はその遺言に基づいて分配されるし、遺言書が作成されていない場合は法定相続割合に基づいて分配される。遺言書には、誰がどの資産を相続するか、という概要が記されていることはあっても、最新の資産目録や、パスワード、アクセスキーなどの情報が記載されていることはほとんどない。遺族または遺言執行人が故人のアカウント情報を知らないために引き取り手がおらず、銀行で眠っている資産は何百億ドル(何兆円)にものぼる

銀行口座であれば、遺言執行人が金融機関に連絡し、遺言書の写しや死亡証明書の提出等の必要な手続きを行えば、故人の口座の有無を確認したり、口座内の資産を動かしたりすることは可能だ。しかし、デジタル資産の場合はそう簡単ではない。遺族が銀行に連絡して、故人がNFT資産を所有していたかを問い合わせることはできない。NFTや暗号資産の全体目録のようなものは存在しないし、すべてを統括している中央管理組織もない。そもそも、意図的に分散化されている仕組みなのだ。これは、プライバシー保護の点では理想的なのだが、故人が価値あるデジタル資産を所有していたかどうかを知りたい遺族にとっては少し厄介な仕組みだ。

さらに言えば、故人がデジタル資産を持っていたかどうかを確認するだけでは不十分だ。その資産にアクセスする方法も知る必要がある。Angus Reid Forum(アンガス・リード・フォーラム)がWillfulの委託を受けて実施した最近の調査によると、35歳以下の消費者のうち家族や恋人にアカウント情報を伝えている人の割合は19%で、他の年齢層よりも低かった(ちなみに、55歳以上の消費者のうち家族や恋人にアカウント情報を伝えている人の割合は32%だった)。これは当然のことだ。年齢が若ければ、自分が死ぬことや死亡後の財産分与について考えることは少ないだろう。しかし、テクノロジーを使い慣れている若い世代こそ、その身に何かあった場合に、残された資産のせいで家族を困らせてしまう可能性がある。

では、デジタル資産を守るために消費者は何をすべきなのだろうか。第1に、1Password(ワンパスワード)などのパスワード管理ツールを使用することだ。このようなツールを使えば、アカウントに関するあらゆる情報、ログイン情報、デジタル資産用のプライベートキー、その他の重要な情報すべてをまとめておくことができ、管理者アクセス用パスワード1つを遺言執行人に伝えるか、自分の遺言書に記すだけで済む。

この方法を使えば、自分の身に何かがあった場合に、家族や遺言執行人が自分のアカウントに簡単にアクセスできる。しかし同時に、家族や遺言執行人にリスクを負わせる場合もある、とDirective Communication Systems(DCS、ディレクティブ・コミュニケーション・システムズ)の創業者Lee Poskanzer(リー・ポスカンザー)氏は指摘する。多くのウェブサイトやアプリではパスワードの共有が利用規約の中で明示的に禁止されており、一部の国や地域のプライバシー保護法ではアカウント所有者へのなりすましが禁止されているためだ(米国では「蓄積通信法」と「電子通信プライバシー法」がそれに相当する)。いうまでもないことだが、二要素認証を求められるアカウントが増えており、遺言執行人が故人のスマホにアクセスできなければ、二要素認証に必要な情報を確認するのは困難だろう。

DCSは、死亡時のデジタル資産移転をサポートするプラットフォームだ。しかも、そのためにDCSにパスワードを提出する必要はない、とポスカンザー氏はいう。DCSは遺産管理者と協力して、Google(グーグル)やソーシャルメディアなどのコンテンツプロバイダーに必要書類(死亡証明書、お悔やみ欄の記事、身分証明書など)を提出する。必要書類の内容はコンテンツプロバイダーによって異なるが、それを提出すると、コンテンツプロバイダーからDCSに対し、対象アカウントのコンテンツのデータダンプがクラウド経由で提供される。

第2に、デジタルウォレットやデジタル取引所を使ってデジタル資産を保管することを検討できる。家族がそのウォレットや取引所にアクセスにできれば(この場合でもプライベートキーは必要だが)、ウォレットまたは取引所が独自に定めている死亡手続きを実行できるかもしれない。

例えば、Coinbase(コインベース)は、アカウント所有者が死亡した場合に個人のデジタル資産を遺言執行人または遺族に払い戻すための手順を明確に定めている。万一の場合に備えて、プライベートキーを物理的な紙に書き、それを貸金庫や耐火金庫などの安全な場所に保管して、自分の死亡時に遺言執行人がその保管場所にアクセスできるようにしておくこともできる。

第3に、最新の資産目録を作成し、遺言執行人や家族の中でも特に親しい人物がその目録を見られるようにしておくことだ。この目録には、物理的な資産とデジタル資産の両方を記載し、年に一度か、あるいは新たな資産を取得したときや金融機関を変更したときなどに、定期的に見直して更新する必要がある。最後に、遺言書を作成して自分の資産をどのように分配したいかを明確に記し、デジタル資産の分配方法についても具体的な指示を書いておくことだ。

遺言書の作成は、種類を問わずあらゆる資産を守るため、あるいは未成年者の後見人などの重要な指名を行うためのベストプラクティスであるだけでなく、アカウント内の資産を遺族に引き渡してもらうためにも必要なステップだ(例えば、コインベースでは、故人のアカウント内の資産を遺産管理者に引き渡してもらうには、遺言書の写しを提出しなければならない)。

莫大な富が次の世代へと移転されていくにつれて、銀行、フィンテック企業、暗号資産取引所、ソーシャルメディアプラットフォームをはじめとするコンテンツプロバイダーは、死亡手続きを明確に定めるようになり、デジタル資産の有無を生前に誰かに伝えることや、遺族がそのような資産にアクセスすることは今よりも容易になっていくだろう。そうなるまでは、本記事で紹介した方法を実行することによって、自分が希望する人物や組織に遺産を確実に分配し、自分のデジタル資産が行き場を失ってデジタル煉獄に閉じ込められるのを防ぐことができる。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFT暗号資産コラムWillful遺言終活デジタル遺産資産管理

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(文:Erin Bury、翻訳:Dragonfly)

死別の悲しみに暮れる家族のためのデジタルアシスタント「Empathy」が14億円調達

死は、人生において絶対に避けられない出来事であると同時に、非常に複雑で厄介な問題でもある。感情的あるいは宗教的な複雑で不安な気持ちに圧倒されるなか、多くの遺族はお金や、対処すべきさまざまな問題にも悩まされる。米国時間4月6日、Empathy(エンパシー)というスタートアップが、そうした課題に正面から取り組み、遺族の心の傷を部分的に肩代わりすることを目指して、ステルスモードから姿を現した。同社は、AIベースのプラットフォームを使い、亡くなった家族に関連して行うべき作業や手続きの取りまとめを行ってくれる(したがって、遺族による大変な事務手続きを間接的に支援できる)。

「遺族は、亡くした家族に関連するさまざまな作業に平均500時間を費やしています」と、Yonatan Bergman(ヨナタン・バーグマン)氏と同社を共同創設したCEOのRon Gura(ロン・グラ)氏は話す。「遺族を励ますためのネイティブアプリのかたちでデジタルコンパニオンを提供します」と同氏は述べ、Empathyを「家族を亡くしたばかりの遺族のためのGPS」だと説明した。

同社はイスラエルのスタートアップなのだが、VCs General CatalystとAlephが共同で主導した投資ラウンドで1300万ドル(約14億円)を調達し、まずは米国市場でローンチする。

米国では、平均して年間約300万人が亡くなっている。この数は、このところの新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で跳ね上がった。遅かれ早かれ誰もが遭遇する、ある意味最も自然で予測のつきやすい問題ではあるが、その準備を整えている人は少ない。その理由は、恐れであったり、宗教上の問題であったり、単にそうした不吉なことは考えたくないという感情によるものであったりする。皮肉なことにこの問題は、自身のためのものであれ、人に代わって提供するものであれ、それに対処すべく構築されたサービスが逆に激しく忌み嫌われるという事実によって、あまり改善されていない。

しかしスタートアップ企業にとってこれは、まさに教科書どおりの好機を意味する。

「数年間、私はこの話に取り憑かれてきました」とグラ氏はいう。同氏はバーマン氏とともにThe Gift Project(ザ・ギフト・プロジェクト)で働いていたが、この会社があるソーシャルギフトのスタートアップに買収された後は、イスラエルのeBay(イーベイ)に移った。「死は、イノベーションがまだ及んでいない最後の消費者セクターです。その原因は、技術的な問題でも、規制による障壁の問題でもありません。それは、私たちに内在する楽観主義と、死や死ぬことという避けられない事実を語りたがらない人類の本質によるものと思われます。そのため、今日では多くのセクターが取り組んでいるトランスフォーメーションに取り残された、暗黙のセクターでもあるのです」。

さらに、死は人々の心を大きく挫くため、それを商売とする企業は嫌われるという理由もあると私は推測する。

そこに手を貸そうというのがEmpathyのアプローチだ。そうした考え方の周囲に、できる限り透明なビジネスを構築しようとしている。同社は、最初の30日間は無料でサービスを提供する。それ以降は65ドル(約7100円)の料金を1度払えばずっと使えるようになる。5カ月、5年(もっと長くても)と長期に利用しても料金が上がることはない。

個人的な事情に関する詳細事項をいくつか書き込むと、人の死去にともなうさまざまな手続きや作業をステップ・バイ・ステップでガイドしてくれる。

これには、人々への告知の方法(および告知)、葬儀やその他の儀式の手配、必要な書類の入手、遺書の対応、故人の身元の保証、遺品整理、遺言検認の手配、福祉手当や銀行口座や請求書やその他の資産や税金に関連する決済、また必要ならば遺族のカウンセリングの手配など、まず早急にやらなければならないことも含まれる。多くの人は、気持ちが動転しているばかりでなく、このような手続きを行った経験を持たないため、すでに感情の位置エネルギーによるローラーコースターに乗っている人間がこれだけのことを熟すには、非現実的なカーブを描く学習曲線に立ち向かわなければならない。

Empathyの考え方は、一部にはユーザー自身で対処しなければならないものもあるが、プラットフォームが「デジタルアシスタント」の役割を果たして、次にするべきことを促し、それを乗り切るためのガイダンスを提供するというものだ。他の業者を紹介したり、他のサービスを宣伝したりすることはなく、今後そうする予定もない。プラットフォームにもたらされる個人データは、やるべきことを済ませるための作業の外では、一切使われないとグラ氏は話している。

Empathyは、この分野に興味を持ち、この分野に挑戦して少しずつ成長を見せているスタートアップの一団の中では、先発ではなく後発となる。同社の他には、自分で遺書を書きたい人を支援する英国のFarewill(フェアウィル)、死とその準備に関する話し合いを促すLantern(ランタン)、遺産計画のスタートアップTrust & Will(トラスト・アンド・ウィル)などがある。競争は起きるだろうが、少なくとも現段階では、これらのテクノロジーが、人生で最も難しいこの分野で役に立つことを示すものとなるだろう。

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「終末期業界は、他のあらゆる業界ではすでに起きているデジタルトランスフォーメーションが、未だに手をつけていない大きなセクターです」と、General Catalystの共同創設者で業務執行取締役のJoel Cutler(ジョエル・カトラー)氏は声明で述べている。「Empathyは、死別にともなう悲しみと複雑な事務処理の両面に対処する点がユニークです。このテクノロジーとエクスペリエンスは、すべての家族に恩恵をもたらすと私たちは確信します」。

「Empathyのスタッフは、消費者向けソフトウェアでの幅広い経験を駆使して、死にともなう膨大な負荷の対処方法を大幅に改善しています」と、Alephのパートナーであり共同創設者のMichael Eisenberg(マイケル・アイゼンバーグ)氏はいう。「悲しみに暮れる遺族に、数々の作業や事務手続きに対処する余裕などありません。金融テクノロジーと同情心を組み合わせることで、Empathyは、思いやりを柱とした近親者のための製品を構築しました」。

長期的には、このプロセスの別の面にもEmpathyで挑戦したいとグラ氏は話す。それは例えば愛する人が亡くなる前に物事を整えておくサービスだ。さらには、同様に事後に膨大な処理作業を残す離婚など、その他の問題にも同氏は目を向けている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Empathy資金調達DXイスラエルお葬式遺言資産管理終活プラットフォーム

画像クレジット:Dilettantiquity Flickr under a CC BY-SA 2.0 icense

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:金井哲夫)