スマホ証券One Tap BUYがみずほ銀行と連携ーー銀行口座に預金があれば株取引ができる

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どの証券会社でも、株式を注文するためには、ユーザーは指定の証券口座に入金する必要がある。けれど、そのためだけにATMや銀行に行って、預金口座から証券口座に送金する時間を取れない人も多いだろう。また、証券口座に送金しても、着金が反映されるまでには時間がかかる。金曜日の夜に送金して、週明けまで着金が反映されないのでは、株を買いたいと思った時に購入することは難しくなる。

証券取引アプリのOne Tap BUYはこの送金作業を簡略化するため、みずほ銀行が提供する「アドバンストデビット」機能と連携し、新しく「銀行においたまま買付」サービスを提供することを本日発表した。その名が示す通り、銀行口座から証券口座に資金を移さずとも、株の買い付けができるサービスだ。

みずほ銀行の預金口座を持つOne tap BUYのユーザーは、スマホから「銀行においたまま買付」への申し込み手続きを行うことができる。手続き完了後、One Tap BUYで株式を購入する時に「入金連携」でみずほ銀行の口座を指定すると、One Tap BUYのシステムが預金残高を確認し、買付金額以上の金額が入っていれば、買付を行う仕組みだ。

screen 「One Tap BUYは、日本で株式投資を身近にしたいという思いで創業しました」とOne Tap BUYの取締役マーケティング部長三好美佐子氏は説明する。それを実現するため、創業時はまず株式の注文の部分を簡単にするサービス開発に注力してきたと話す。昨年開催されたTechCrunch Japan 2015では、スタートアップバトルに出場し、銘柄と金額を指定して3タップだけで株式取引ができるシンプルなアプリUIを披露した。今年の6月に正式ローンチしたOne Tap BUYのアプリは、6万6300以上のダウンロードを達成している。

ただ、ユーザーの中には口座開設はするものの、入金に至らない人もいたと三好氏は話す。そういったユーザーにヒアリングを行い、入金のハードルを下げる施策を検討した結果、今回の「銀行においたまま買付」の開発につながったそうだ。「銀行においたまま買付」を利用するには、1回の取引につき108円を課金する予定だが、2017年3月末までは無料で提供する予定だ。

ミューロンの新アプリ「CALNA」は、コンビニ・外食ダイエットを人工知能でサポートする

ダイエットと言えば専任のトレーナーがついて、毎日の運動量から食事までを管理するというものから、コンビニでおでんを食べるなんてものまでさまざま。だが肝心なのはそれを継続すること。毎日しっかり献立を立てて健康的な食事をとるというのはそんなに簡単なわけではない。meuron(ミューロン)が10月4日にリリースした「CALNA(カルナ)」は、そんなダイエットの課題を人工知能で解決してくれるという。

ユーザーは自身の身長や体重を入力したのち、ダイエットプログラムを選択(現状は体重の2%原料を目指す無料プログラムのみ提供)。さらにアンケートによる診断を行うと、人工知能がユーザーに最適なメニューを毎食提案してくれる。提案されたメニューを食べられない場合は、どれ位のカロリーを摂取するのであればいいかといった情報も表示される。

現在、大手コンビニ(ローソン、ナチュラルローソン、ファミリーマート、セブンイレブン、サークルKサンクス)の商品、飲食チェーン店(大戸屋、ロイヤルホスト、スープストック、エクセルシオール)のメニューをデータベース化。その中から最適なものを組み合わせて700万通りの献立を提供する。

また、提案されるメニューを食べていくことでどれだけダイエット効果があるかという体重予測のデータも提供。さらに人工知能とのチャットを通じて、ダイエットプランの相談や改善などもできるとしている。なおこの体重予測データは、ミューロンがすでに提供中のオンライントレーナーサービスで実際に得たモノをベースにしており、精度も高いという。

ミューロンは2014年10月の設立。代表取締役の金澤俊昌氏は、ヘッドハンターを経てBEENOSに入社。同社でおもに人材面から起業家の支援をしてきたが、その中でCALNAの原型となるプロダクトを開発。BEENOSをスピンアウトしてミューロンを立ち上げるに至った。ミューロンはこれまでにANRI、ベンチャーユナイテッド、BEANOS、BEENEXTおよびエンジェル投資家2人から、合計約1億1800万円の資金を調達している。

「ヘッドハンターをやっていた頃から、『誰がやっても成果を出す』という仕組み作りに興味があった。ハイパフォーマーがやっていることをいかにオペレーションに落とすか。そんなことを考えている中で、ダイエット支援のサービスが盛り上がってきた。だがこれらのサービスはトレーナーに体の管理をしてもらえるのはいいが、月額5万円、10万円とかかる。これをアルゴリズム化して提供できないか考えた」(金澤氏)

「またダイエット始めると、サラダチキンやキャベツといったものだけ食べてしまいがち。ダイエット中でももっと色んなを食べられるのに、それを工夫していくこと自体に負担がかかる。商品データを持ち、システム側でロジックを組んであげれば、自分だけでは発想しないような組み合わせのメニューもできる」(金澤氏)

ミューロンでは今後は有料プログラムをはじめとしたサブスクリプション型の課金サービスや、サプリやレシピの提供などでのマネタイズを検討している。

ミューロンのメンバーら。後列中央が代表取締役の金澤俊昌氏

meuronのメンバーら。後列中央が代表取締役の金澤俊昌氏

セカイカメラ、Telepathyの井口氏が帰ってきた―5秒の声サービス「Baby」を米国でローンチ

2008年のセカイカメラ、2013年のTelepathy One―。大きなビジョンと話題性で、これまで何度か大きな注目を集めてきた起業家の井口尊仁氏が、新プロダクトを引っさげて帰ってきた。いや、正確には帰ってきてはいない。米国サンフランシスコを拠点に、北米市場を狙った音声系アプリ「Baby」を今日(米国時間10月3日19時)ローンチしたのだ。

ローンチ直前に東京に戻っていた井口氏にTechCrunch Japanで話を聞いたのでお伝えしたい。

Babyはスマホに向かって5秒間の声を吹き込み、見ず知らずの人と繋がり、会話が楽しめるアプリだ。吹き込んだ声は、画面上で愛嬌のある風船型のキャラとなり、これが「パレード」と名付けたパブリックなタイムラインにプカプカと漂うようになる。

ユーザーは次々と流れてくる風船から聞こえてくる「声」を聞き、ちょっとコミュニケーションしてみたいなと思ったら右へスワイプ。スルーしたければ左へスワイプ、とTinderのように次々にスワイプする。Tinder同様に誰かとマッチすればプライベートメッセージが始まる。

パレードに流れてくるのは、Tinder同様に位置情報でソートした「同じ町の人」の声だ。近隣の人であれば、使っている言葉や話題が同じと期待できるからだ。井口氏自身の説明によれば、Babyを現実世界に存在するものに無理やりこじつけると「バー」なのだ、という。以下が画面と全体を紹介する動画だ。

女性が女性と安心してしゃべれる場を

プライベートメッセージも5秒の音声のみだ。5秒の音声の断片を次々と交換する形でコミュニケーションが進む。「Babyはリアルに会わなくてもおしゃべりができる、声と声の出会いなんです」と井口氏はいう。というとTinderの声版、出会い系サービスに思えるが、そうではないという。

Babyでは自分の性別と、コミュニケーションしたい相手の性別が選べる。当初男女の対話がメインと考えていたものの、ヒアリングとユーザーテストを重ねるうちに「女性が女性としゃべりたいというニーズがすごくある」ことに気づいたという。「女の子と安全にしゃべりたい、という女性は多い。安全なら男がいてもオッケーというんです。だからまず最初に女の子が女の子としゃべれる環境を作りたい」(井口氏)。

当初ラブリーなトーンだったアプリのCIは赤から青に変更し、男女の出合いを思わせる表現も全て消した。

今さら声なの、と思う人もいるだろう。声を選んだ背景には日米文化の違いもあるという。

「アメリカでの学生ヒアリングで分かるのは、見ず知らずの人と仲良くするのに慣れていること、おしゃべりが大好きなことです。アメリカの若い子は相変わらず電話をしているんですよ」

井口氏の見立てでは、いまアメリカの若者はTinderとかHappnのようなランダムな出会いサービスに飽きている。Down To Lunchなどもそうだが、アプリのゴールが「会うこと」だとデートが成立しないと満足度が低い。「だから会うことをゴールにしないほうがいいと思っていて、むしろ会わないほうが理想だと思っています。しゃべること自体が楽しくて、声だけでずっと繋がっている状態があるんじゃないかと思っています」(井口氏)

なぜしゃべりたいのか、ということについては、「みんな孤独なんですよ。大学に入って寮で新生活を始めたりして」ということだそうだ。都市部の日本の大学生でも似た状況がありそうだが、基本的に人が移動し続ける社会、アメリカっぽい話ではある。

井口氏に言われるまま、ちょっとだけぼくも5秒の音声を吹き込んでみたのだけど、これは結構短い。何を言うとかと考えてる間にぷつっと切れる。ただ、これは意図的な設計で、5秒というのが良いのだという。

「3秒、5秒、8秒で試しました。3秒は短いし、8秒は冗長なんです。就職面談やコンサートの冒頭なんかがそうですが、実は人間というのは表現の最初の6秒だけ見聞きすれば、それで良いかどうか分かる。心理学ではThin-slicingというのですが、そういう知見にもとづいています」(井口氏)

1つの音声メッセージを5秒に限定するというのは、Twitterの140文字制限と似た話なのかもしれない。この辺は蓋を開けてみないと分からないところがあって、井口氏自身も「まだこの先、5秒の尺を変えるかもしれないし、連続投稿を許すかもしれないし、VoIPによる連続通話を実装するかもしれない」と話している。ニーズ模索フェーズであるため、今回のローンチは「ソフトローンチ」と位置付けているそうだ。

最終的に声のコンピューティングを作りたい

Babyは蓋を開けてみないと何がでてくるか分からないタイプのサービスだろう。

井口氏自身も「ユースケースが見えないし、なんでこれが流行るのかという論理的な説明が付かない。ヒットして何百万人がコアユーザーになってくれると、なんか良いんじゃないってなるだけ。プラットフォームサービスって、そういうものですよね」と話している。

なんだか独自文化が生まれてくる予感もする。それもそのはず、日本人であれば「ダイヤルQ2」を知っている世代にはピンと来るだろうし、実はアメリカには「パーティーライン」という似たサービスがかつて存在していたそうだ。ある年齢以上のアメリカ人にBabyのコンセプトを説明すると、みんな目を細めて「懐かしい」というんだとか。

とはいえ、それはインターネット以前の話。いまさら音声なのかという疑問はある。しかし、いま現在シリコンバレーでは声系サービスに対して、がぜん注目が集まっている。コンピューターと人間のインターフェイスは、文字ベースのCUIに始まり、2次元のGUIに進化し、続いてタッチで置き換わり、次は音声だという見方をする人が業界では増えている。音声は人間にとって自然だし、操作対象が複雑で膨大になるにつれてGUIのようにキレイに対象を階層的に整理できなくなっているからだ。パソコンユーザーなら誰でもメニューの中を迷子になった経験はあるだろう。

音声が「次のUI」として注目されている一方で、井口氏に言わせると今の音声系サービスには決定的に欠けているものがある。「SiriにしろCortanaにしても欠けてるのは、しゃべりたい、と思わせるもの」(井口氏)。結局、今のところどんな話題にも対応できるAIは存在しないので話す理由がない。買い物をするためのAmazon Echoはどうやら合理性がありそうだとシリコンバレーの人々は考え始めている。しかし、買い物のように明確な理由もなくコンピューターに向かって話を続けることはない。

一方、もし活発な声コミュニケーションがBabyで生まれると、ちょうどTwitterがリアルタイムの世界のつぶやきを獲得できた(マネタイズはまだ苦労しているが)ように、Babyは誰より早く声のビッグデータを取れるのではないか。それが井口氏の狙いだそうだ。「最終的に声のコンピューティングを作りたいんですよ。ARやVRにはインターフェースとして音が向いてますし、ながら、のときにも音が向く。AppleがAirPodsを出したことで『ヒアラブル』が注目されて、いまシリコンバレーでは『次は声だよね』という認識ができつつある」

「5秒の声の雑談→音声コンピューティング」はつながるか?

5秒の声の雑談がブレークするかどうかは未知数だが、確かに恒常的に断片的センテンスとしての声が流れる「場」を作ることができれば、声を取り入れたコンピューティングの未来を先取りする何かが生まれてくるのかもしれない。先日TechCrunchでも「snackable audio」と呼ぶべき短いオーディオコンテンツの可能性を指摘する記事を掲載しているが、Babyにエンゲージメントが生まれれば、そこにコンテンツや広告を結びつけることはできそうだし、さらに音声・言語解析によってECを繋ぎ込む未来がひらける可能性もあるのかもしれない。

ただ、Babyの実際の取り組みに比べると、そうした「声のコンピューティング」の目標は遠大にも思える。これまで井口氏の取り組みは、やたらと大きなビジョンや先進的なモックアップを喧伝して、それを実現できずに終わってきた経緯があるので、なおさらだ。

2008年に話題となったセカイカメラのデモ動画は、あまりうまくない英語でも日本人が堂々とアメリカでコンセプトをぶち上げて喝采を浴びた、という意味で「伝説」だ。気概だけでいえばニューヨークの五番街に乗り込んで、ヘタな英語でウォークマンをアメリカ人に売り込んだソニー創業者の盛田昭夫に通じるものがあったと思う。一方で、喝采を浴びた中でも、デモ動画を見た審査員の何人か(例えばティム・オライリー氏)が手厳しく批判していたのも事実だ。セカイカメラがどう実現できるのかの見通しについて説明が何もない、という批判だった。

セカイカメラはARブームを先取りしたようなコンセプトをぶち上げたプロダクトだったが、2008年というのはスマホも非力だったし、ARは早すぎた。これを「時代を先取りしていた」ということもできるし、「実現不可能であることを実現可能であるかのように吹聴した」と見ることもできるだろう。セカイカメラ開発の頓知ドットは最終的に約15億円の資金を調達して、そのコンセプトの「一部」を実現したアプリでは大手企業との業務提携なども行うなど一時はファンも少なくなかった。しかし、一言でまとめると「結局セカイカメラは実現しなかった」と言わざるを得ない。

Telepathy Oneについても同様だ。やはり5億円の資金を米国VCから調達していたものの、「本当にこんなコンセプトが現実のプロダクトとして実現できるのか?」と懐疑的に見る人は多かった。デモ動画はイカしていたが、やはり「時代の先」を行きすぎていたのかもしれない。井口氏の退任騒動から半年後にテレパシージャパンから出てきたのは、半端ないコレジャナイ感いっぱいのバーチカル向けメガネデバイス、Telepathy Jumpなのだった。Telepathy JumpはB向けで市場はあるだろうが、どうみても聴診器。井口氏が見せてくれたスリークで未来っぽいグラス型ウェアラブルとは似ても似つかないものだった。

日本の起業家はもっと世界を目指せ

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井口尊仁氏

井口氏が語る、哲学的思索すら入り交じるコンピューティングの未来の話はいつも刺激的で面白い。セカイカメラはAR、Telepathy Oneはグラス型ウェアラブル、そして今回は音声コンピューティング。こうした刺激的な「未来話」の一部でも現実のものにしていける、その足がかりがBabyでつかめるだろうか。

前二回の取り組みと異なるのは、いきなり現実的なプロダクトが出ていること。それから当初ターゲットとする若い女性層、とくにサンフランシスコの大学生を対象としてヒアリングを繰り返してプロダクトのパラメーターや打ち出しアングルを変えながら地に足の着いたの作り込みをしているのも、だいぶ違う印象を受ける。

井口氏自身によれば、前二回は、アメリカを主戦場にしきれなかったこと、アメリカ型組織を作って戦うには調達額が小さすぎたことなどの反省もあるという。あまり多くを語らない井口氏だが、テレパシーの退任騒動は「退任」どころではない苦い経験となっているようだ。

今回チームは日本人を中心に構成し、当初ターゲットを北米市場としている。Snapchatが3年遅れで日本市場で徐々に広まりを見せていることから、「もしBabyがアメリカで流行したとして、それが日本市場に入るのには3年くらいかかるとと思ってる」(井口氏)という。

なぜアメリカにこだわるのか。

「セカイカメラのとき、投資家から想定売上が大きすぎると言われて自分で自分にブレーキをかけていた部分がある。遠慮があったんだと思います。デカイ話を抑えていた。でも、日本の起業家はもっとホラを吹かないとダメですよ。日本で講演やメンタリングを依頼されると、いつもdisってばかりいますね。だって、任天堂にしろ、ホンダにしろやれたわけじゃないですか。ソニーやホンダのようなパイオニアがいない国だってあるわけですよね。日本は世界制覇できる実力がある。それなのに日本でチマチマやってるのに違和感を覚えます」

Babyを開発・運営するDOKI DOKIは、すでにSkyland Ventures、サイバーエージェント・ベンチャーズのほかエンジェル投資家らから5000万円の資金を調達していて、2016年内に1億円程度のシード資金調達のクローズを予定しているという。

Genuine Startupsが世界的デザインコンサルのIDEOとタッグ、新VC「D4V」を設立

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

MOVIDA JAPANの投資部門を引き継ぐかたちで2014年にスタートしたベンチャーキャピタルのGenuine Startups。MOVIDA時代からスタートアップ投資を担当していた伊藤健吾氏に加え、元ピムコジャパン取締役社長でアトミックスメディア代表取締役CEO・フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏、あすかアセットマネジメント取締役会長の谷家衛氏の3人体制で投資を進めていた同社が、世界的なデザインコンサルティング会社であるIDEOと組み、新たなベンチャーキャピタルを設立することを発表した。

Genuine StartupsとIDEOで設立するのは「D4V(Design for Venturesの略)合同会社」。出資比率はGenuine Startupsが60%に対して、IDEOが40%となる。会長にはIDEO共同創業者のトム・ケリー氏が、CEOには高野真氏が、COOには伊藤健吾氏がそれぞれ就任。ファンディングパートナーは前述の3人に加えて谷家衛氏、IDEOディレクターの計5人。これに加えて、ソニー元CEOの出井伸之氏、ハリウッド俳優でプロデューサーのマシ・オカ氏がエグゼクティブアドバイザーとなる。

D4Vでは2017年3月をめどに日本の事業会社や金融機関をLPとした50億円規模のファンドを組成する予定。最終的には米国など海外LPを含むファンドの組成も視野に入れる。なおGenuine Startupsが組成していた2号ファンドは、D4Vの新ファンドに移管することになる。

投資対象とするは、国内・海外の両方の市場にインパクトを与えるアーリーステージのスタートアップ。これまでスタートアップ投資に関わってきた伊藤氏に加え、金融系のバックグラウンドを持つ高野氏や谷家氏が中心となって大企業とスタートアップの橋渡しを支援。また一方では、IDEOがデザイン思考やベンチャーデザインに関する知見を提供するという。

「4つのエレメント(ここではGenuineの3人のパートナーとIDEOを指す)は全て違いを持っている。スタートアップ投資のネットワークがあるのが伊藤。谷家さんエンジェル投資家としていくつかの事例を成功しており、アントレプレナーの間では『ビッグブラザー』的な存在。私は2年前にForbes(日本版のフォーブスジャパン)を立ち上げるまでは金融畑で、そのコネクションがある。これにIDEOが入ることでグローバル展開、デザイン思考といったものが実現できる」(高野氏)

だが、バズワードになっている「デザイン思考」をスタートアップに無理矢理持ち込もうとしたプロジェクトではないのだそう。「本質は色んなバックグラウンドの人が一緒に作っていくこと。人が共感するサービスやビジネスを作る。IDEOにはそういった経験がある」(野々村氏)

では、世界的なデザインコンサルであるIDEOがどうして彼らと組み、日本のスタートアップの支援に乗り出すのか?トム・ケリー氏は次のように語る。

「日本といえば——多少の変化はあるにしても——『大企業が成功している国』と思っていた。だが、(スタートアップ向けイベントの)Slush Asiaに参加してその考え方は大きく変わった。大企業で働く人たちだけでなく、起業する、起業を継続するという人が集まっていた。もしかしたらスタートアップに投資する完璧なタイミングが整っているのではないかと考えるようになった。そうと思っているところでD4Vの提案を頂いた。IDEOは世界で9カ所にオフィスを構えてコンサルサービスを提供してきた。私たちのビジネスも多様化していかなければならないと考えていた時期だった」

またケリー氏は、創業期のアップル社を例に日本の状況を語る。

「日本はジョブズ(スティーブ・ジョブズ)がHP(Hewlett Packard)で働いていたウォズ(スティーブ・ウォズニアック)に出会った状況に近い。ジョブズについては知られているが、アップルを世界に羽ばたくまで育て上げたのはウォズのテクノロジーの知識。日本の大企業にはウォズが埋もれているが、それを開放していかないと行けない。堅牢なベンチャーが育つ環境作りを促進したい」

デザインコンサルティングファームとして知られるIDEOだが、クライアントとしてスタートアップを支援してきただけでなく、実はスタートアップとの協業プログラムを展開するほか、スピンアウトを前提とした新規事業を社内で立ち上げるなどしてきている。例えばIDEOと組んで生まれた「PillPack」は毎日飲む薬を1回分ごとに個装して提供することで、飲み忘れを防げるというプロダクトだ。また「Omada Health」はIDEO社内で立ち上がったプロジェクトで、糖尿病予防プログラムなどを提供している。

「STORES.jp」提供のブラケットがスタートトゥデイからMBO、創業者の光本氏は会長に

創業者で取締役会長となる光本勇介氏(左)と代表取締役兼CEOの塚原文奈氏(右)

創業者で取締役会長となる光本勇介氏(左)と代表取締役兼CEOの塚原文奈氏(右)

オンラインストア作成サービスの「STORES.jp」を主軸にサービスを開発するブラケット。同社は10月3日、マネジメント・バイアウト(MBO:経営陣が、事業の継続を前提として自社などの株式を取得する取引)を実施してスタートトゥデイから全株式を取得したことを明らかにした。

またこれと合わせて、代表取締役の交代も実施した。創業者で代表取締役兼CEOだった光本勇介氏が取締役会長になり、取締役を務めていた塚原文奈氏が新たに代表取締役兼CEOに就任する。塚原氏は2012年にブラケット参画後、光本氏とともにSTORES.jpの成長に寄与してきた人物だ。今後光本氏は新規事業を担当。塚原氏がSTORES.jpを中心とした既存事業を率いる。

ブラケットは2008年10月の設立。まだ「シェアリングエコノミー」なんて言葉が出てくる前にカーシェアリングサービス「CaFoRe」をスタート、靴のカスタマイズEC「Shoes of Prey」の日本版を展開するなどしてきた。2012年9月には現在の主力事業であるSTORES.jpをローンチ。その後2013年7月にはファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイが株式交換による完全子会社化を実施した。なおブラケットはスタートトゥデイによる子会社化まで、外部資本を入れることなく事業を育ててきた。

MBOの金額は非公開だが、これは今後スタートトゥデイの開示で明らかになるだろう。株式は今後100%ブラケットの経営陣が保有する。スタートトゥデイによる子会社化は現金ではなく株式交換で行われており、同社の株価は当時の約3倍。当時の株価ベースでは約6億円での買収だったが、ブラケット側は単純計算すれば当時の3倍の金額を得たことになっているはずだ。

STORES.jpのユーザー数はスタートトゥデイ傘下で大きく成長。間もなく80万人に到達するところだという。また金額は非公開ながら流通額も右肩上がりの成長を見せ、営業利益ベースでは2015年10月以降は単月黒字を実現している。「これまでは投資を続けて来たが、いよいよ利益を回収できるフェーズになってきた。するかしないかは全く別の話にはなるが、ビジネス的なゴールとしては上場を狙える過程にも入っている状況」(光本氏)

STORES.jpのユーザー数、流通額、売上・利益の推移

STORES.jpのユーザー数、流通額、売上・利益の推移

スタートトゥデイとの協業ビジネスも手がけていたが、STORES.jpの成長スピートがより加速する中で、「スタートトゥデイは上場企業。悪いことではないが、決断には時間が必要になるケースもある。それであれば一度離れて、ベンチャー的なスピードで判断ができるのがいい」(光本氏)という結論に至った。スタートトゥデイ側もブラケットの判断に共感。円満なかたちでのMBOとなったそうだ。

では今後STORES.jpはどのような展開を進めるのか。光本、塚原両氏は、STORES.jpのユーザーベースをハブに、各種のサービスを提供していく構想を語る。

「今まではストアオーナーが集まってきて、1人1人の売上が立つようになってきた。この(約80万人という)パイを元に収益を出せる仕組み、規模感を生かせる施策をやっていく」(塚原氏)

「やっとまとまった流通額も集まってきた。来店数も結構なもので、毎日何かしらが売れている。するとSTORES.jpの店舗にお金が貯まり、モノが動く。そういったところに1つ1つ関われることがある。それは物流や決済、広告、金融、そういう領域だ。Squareも決済サービスだったが、加盟店ごとの数字が見えるので融資サービスも開始した。だがそれは加盟店が集まっているからこそ。STORES.jpをハブにして事業展開をしていける」(光本氏)

もう少し詳しく聞いたところ、そう遠くない時期に何かしらのかたちで決済サービスの提供を検討しているようだった。STORES.jpの競合サービスを提供するBASEも決済サービス「PAY.JP」を立ち上げているが、同様のサービスが提供されることになるのだろうか(STORES.jpでもすでにID決済サービスは提供済みだ)。ただし「(ブラケット社自体が)PayPalみたいなものを目指すわけではない」(光本氏)とのことなので、外部の決済サービスと組み、STORES.jpのユーザーベースを活用したサービスを提供していくことも考えられる。

スキル学習のマーケットプレイス「ストリートアカデミー」が総額1.5億円を調達、地方展開と“学びの楽しさ提供”を強化

Street Academy

個人が自分の持つスキルを講座として販売できるマーケットプレイス「ストリートアカデミー」を運営するストリートアカデミーは9月30日、モバイル・インターネットキャピタル、Genuine Startups、第一勧業信用組合、フューチャーベンチャーキャピタルの4社が運営する投資ファンド、およびマイナビの合計5社を引受先とする総額1.5億円の第三者割当増資の実施を発表した。

サービスの成長までは「紆余曲折あった」

ストリートアカデミーは2012年8月に運営を開始。個人が持つスキルを学びたいニーズとマッチさせ、教室やワークショップが開催できるサービスだ。オンラインではなく、リアルに対面で講座が開かれるのが特徴で、2016年9月現在、登録生徒数が9万人、登録講師数は8000人を数える。順調に成長を遂げているように見えるが、ストリートアカデミー代表取締役社長の藤本崇氏によれば「紆余曲折あって、ここまで伸びるのには時間がかかった」という。

「オンラインで講師と生徒をマッチングさせているにもかかわらず、ローカルで講座を開催する、というスタイルは制約が多く、ハードルは高い。同様のサービスを提供していた他社はみんなやめてしまった。ストリートアカデミーでも、講師となるユーザーに成功体験をなかなか提供できなかったが、この1年、ようやく『人が人を呼ぶ』状況になり、成功体験もできてきた。地方開拓が進んで、福岡、大阪などで実態として盛り上がりも見えてきて、最近になって、地方への進出を実感するようになった」(藤本氏)

最近のサービス伸展の理由について、藤本氏はこう分析する。「平均単価はスタート当初の2000円から5000円半ばへと、ずっと順調に上昇傾向で推移していることから、講座のクオリティの高さがうかがえる。実際、現役のプロや士業の方が開催している講座も多い。そうした下地があるところに、先生の数が数千の単位を超えてきたことで、インパクトが出てきた。以前は土日開催が多く、どうしても東京中心となっていた講座の時間と場所が、講師の増加により広がったことで、学びの選択肢が増えている。つまりコンテンツとしての講座の密度が売上に結びついていると考えている」

ストリートアカデミーは、2015年12月にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が主催するT-Venture Programで最優秀賞を受賞しており、それを機に各地のT-SITE店舗や蔦屋書店などでコラボ講座を開催している。これまでに、東京・二子玉川の蔦屋家電ではビジネスパーソン向けのプレゼン講座、湘南T-SITEでは親子向けアナウンサー講座、福岡・天神のTSUTAYA BOOK STORE TENJINでは起業に関するセミナー、と地域ごとの特性に合わせた公式講座を実施してきた。藤本氏は「こうした場所でアンテナショップ的に講座を開催することで、各地域で“自由で気軽な学び”に触れてもらい、全国展開につなげたい」と語る。

今後は「地方開拓」と「学びを楽しくすること」が課題

今回の資金調達について、藤本氏は「これまで『先生を集めて、いかにおもしろく教えることができるか』に注力したことで、コンテンツとなる講座は集まった。今後、成長のギアをさらに加速するためには『生徒にいかに学ぶことをおもしろく感じてもらうか』が重点となるので、そこを強化していく」と話す。

現状のストリートアカデミーで生徒側ができるのは、自分が身につけたいスキルの講座を探して見つけることだけだ。一人あたりの受講回数は平均2回にとどまっているが、「1回あたり3000円から5000円の講座なら、もっといろいろなものにトライしたい、と思ってもらえなければ」と藤本氏は言う。

このため、ストリートアカデミーではプロダクト開発とブランディングを兼ねた“学びのキュレーション”プロジェクトを開始。8000ある講座のうちから何を選ぶか、「ビジネススキル」や「セルフメンテナンス」などのテーマを設定し、目的別に4つの講座を組み合わせてストーリーを提示するようにした。今後は提案した講座をパッケージ化して、まとめて申し込みができるようにするほか、ゆくゆくはユーザー自身がセミナーをセレクトして提案できるようなシステムにしたいという。「我々がコンテンツを一生懸命引っ張っていっても、どうしても限界がある。ユーザーがユーザーを呼ぶ、という状況になることがサービスの成長につながる」(藤本氏)学びのキュレーションプロジェクト

さらに藤本氏は「受講を継続して楽しんでもらうためには、『スキルが身に付いたことで仕事につながった』『イキイキした生活を送れるようになった』といった満足感や自己肯定感の提供が必要だ。具体的には、スキルアップの進捗を可視化することや、メダルや何らかの認定表示をすることで達成感を持ってもらうような(ゲーミフィケーション的な)仕組みを考えている」とも話した。

スキルの可視化については、増資の引受先の1社、マイナビとの連携による求職市場への展開も検討しているという。「Lynda.comを買収したLinkedInの例もあるが、学んでいることをもっとアピールできればよいと思う。Excelでもプレゼンテーションでも身につけたスキルを見える化することで、意識の高さを表現できれば就職活動にも役立つはず」(藤本氏)

加えてストリートアカデミーでは、地方の開拓にも力を入れていく。調達先投資ファンド運営の1社である第一勧業信用組合は、四谷に本店があり、東京を営業エリアとする信組だが、全国信組連合のパイプを通じて各地との結びつきが強く、東京進出を考える地方の顧客とも連携を進める取り組みを行っている。「ローカルの商店街や商工会議所などが提供できるスキルやスペースの情報をはじめ、彼らの視野が加わることで地方開拓が進むことを期待している」(藤本氏)

「地方開拓」と「学びを楽しくするためのサービス強化」の先の目標について藤本氏は「スマホが浸透し、GDPの成長が著しい東南アジアへの展開を目指したい」という。「スマホアプリからの予約は国内でも伸びていて、モバイルの可能性に手応えを感じている。一方、東南アジアではパソコンの普及率は低く、公共の教育機関も充実していない状況。そこでオンラインで完結するセミナーでは浸透しない。“知の流動化”を起こすためには、モバイルを活用した上で『近くにいる人に聞きに行ける』仕組みが提供できる我々に強みがある」(藤本氏)

「学びの場を地域別に地道に広げていくのは一見遠回りに見えて、実は近道なのではないかと感じている。学ぶきっかけや刺激、気づきをもたらす場に必要なのは、複数の人がリアルな対面をする状況。やる気を起こし、壁を乗り越えて、能動的にスキルを身につけるには、実際に行って教えてもらうのが手っ取り早い。ウェブ上でマッチングさせながらリアルな人のつながりを生み出すのは本当に大変で、面倒ではあるけれども、競合はいない」(藤本氏)

予約台帳サービス運営のトレタが12億円の資金調達、「予約ツール」から「経営プラットフォーム」へ

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飲食店向け予約・顧客台帳サービス「トレタ」を手がけるトレタは9月30日、Eight Roads Ventures Japan(旧:Fidelity Growth Partners Japan)、NTTドコモ・ベンチャーズのドコモ・イノベーションファンド投資事業組合、三井住友海上キャピタルのMSIVC2012V投資事業有限責任組合、既存株主であるフェムトグロースキャピタル投資事業有限責任組合、WiLのWiL Fund I, L.P.、iSGSインベストメントワークス、米セールスフォース・ドットコムの投資部門であるセールスフォース ベンチャーズの7社(リードはEight Roads)を引受先とした総額12億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。またこの調達にあわせて、Eight Roads日本代表のデービッド・ミルスタイン氏が社外取締役に就任する。

トレタは2013年7月の設立。同年12月にサービスを提供開始しており、2016年9月時点での登録店舗数は7000以上。累計予約件数は約1400万件で、累計で約6500万人分の予約が登録されている。業界シェアは38%で、2年連続でシェアナンバーワンとなっているという(2016年9月、シード・プランニング調べ)。

同社では今回調達した資金をもとに、開発体制の増強や営業・サポート・マーケティング体制を拡充を実施。「予約ツール」から「経営プラットフォーム」への進化を実現するとしている。トレタの言う「経営プラットフォーム」とは果たしてどういうものか? トレタ代表取締役の中村仁氏はまず、飲食店の集客の課題について次のように語った。

「今まで飲食店の集客と言えば、『(グルメ系メディアなどの)サイトに情報を出して終わり』だった。しかし成熟した、もしくは縮小しはじめたマーケットにおいては、新規の顧客を取ることだけでなく、常連をいかに作るかが大事になる。新規顧客を増やすだけの施策はサステナブルではない。リピーターを増やす、そのリピーターの来店頻度を上げていくということをトータルでやらないといけない。そのポジションを取り行かなければならない」

食の好みもこれまで以上に細分化されてきており、例えば焼肉屋でも赤身肉に強い店と脂の乗った肉に強い店がでてきた。そうなると、ぐるなびのような総合的なグルメ系メディアだけでは顧客のニーズを満たせなくなってきたという。そこで求められるのはさまざまなメディアを繋いで、店舗ごとに最適なメディアを選んで送客(来店予約)できる仕組みだ。そして来店した顧客の情報を蓄積して2回目以降の来店でのサービスに生かす仕組み、さらにはリピーターに対してマーケティングを行うような仕組みも求められる。トレタの言う経営プラットフォームとは、この集客からリピーター化、さらにはCRMまでを一括で実現するサービス基盤のことだ。

この経営プラットフォームの実現に向けて、トレタではすでに「トレタメディアコネクト」(グルメサイト(現在14サイト)と連携し、各グルメサイト上でトレタの顧客情報と予約情報を閲覧できる機能)、「トレタPOSコネクト」(POSレジとトレタのデータを連携し、オーダー履歴の収集・参照ができる機能)などを提供。今後はさらにCRMツールとの連携や解析機能、満席時に空席情報をサジェストするような機能を備える新たなウェブ予約サービスなどを提供していくとしている。

Parrot、まるでXウイングのようなドローン「Swing」を10月に国内発売——物を掴めるミニドローンも

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フランスのドローンメーカーParrot(パロット)は、ユニークな新型ドローンを10月に国内発売する。まるでスターウォーズに登場する「Xウイング」のような翼の固定翼型機「Swing」と、変形型機「Mambo」の2モデル。価格はそれぞれ税別1万7000円、1万5000円となっている。

Parrotはフランスに拠点を置く有力ドローンメーカーだ。車載のインフォテイメントシステムやヘッドホンといった製品も手がけるが、2010年に初めてドローンを発売して以降、今では売り上げの約65%を家庭用・業務用のドローンが占めている。

垂直離着陸できる固定翼ドローンParrot Swing

Parrot Swingは、まるで映画・スターウォーズに登場する戦闘機「Xウイング」のような外観が特徴のドローンだ。このユニークな形状により、固定翼機でありながら垂直に離陸することができる。これを詳しく説明すると、離着陸時には固定翼についた4つのプロペラが空を向く”クアッドコプターモード”となり、垂直に離陸する。ここから”水平飛行モード”への切り替えは驚くほどシームレス。水平飛行モードでは最高時速29キロで高速に飛行できる。重量は73gで、最大飛行可能時間は8分間。

垂直離陸やホバリングも可能な固定翼ドローン Parrot Swift

Parrot Swingは固定翼ながら垂直離陸やホバリングが可能

通常のクアッドコプターと同じようにホバリング飛行が可能

通常のクアッドコプターと同じようにホバリング飛行が可能

水平飛行時の最高時速は29キロに達する。

キャノン砲を備えるミニドローン Parrot Mambo

一方のParrot Mamboは、63gと軽量なミニドローン。一見すると何の変哲もないが、遊び心をくすぐる機能を搭載している。それが「グラバー」と「キャノン」だ。

グラバーは、ものを掴むことができる機能で、紙を運んだり、角砂糖をつまんでカップに落としたりできる。キャノンはターゲットを特定し狙いを定め、おもちゃの弾を発射できる機能。ドローンで射的あそびを楽しめるというわけだ。このキャノンとグラバーは、アクセサリーとして本体に同梱。本体にはアタッチメントを介して装着する。

ものを掴んで運ぶことができる機能「グラバー」

ものを掴んで運ぶことができる機能「グラバー」

ドローンで射的あそびが楽しめる。弾は2mm、弾倉容量は6発

ドローンで射的あそびが楽しめる「キャノン」。弾は2mm、弾倉容量は6発

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グラバー、キャノンはレゴ風のアタッチメントを介して本体に装着できる

SwingとManboの共通仕様としては、3軸の加速度センサーを搭載。またスピード測定用に垂直カメラを搭載し、これを使ってスナップ写真を撮影できる。高度の測定には超音波を用いるが、高度が高い場合には気圧センサーも使う。

Bluetooth LEコントローラーも同梱。通信範囲は最大で60m

スマホを装着して使うBluetooth LEコントローラーも同梱。通信範囲は最大で60m

Parrotのクリス・ロバーツ氏

Parrotでアジア太平洋地域 バイス・プレジデント兼マネージング・ディレクターを担当するクリス・ロバーツ氏

Parrotのクリス・ロバーツ氏は、この新型ドローンについて「遊び心が満載なので、とにかく楽しんで欲しい」とコメント。またドローン市場の将来性については「6年前にこんな市場はなかった。この伸びを見れば成長ぶりがわかると思う」と自信を示した。

ユナイテッド、コンプレックス系メディア「ハゲラボ」など運営のゴローを8.1億円で子会社化

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オンラインプログラミング講座事業を手掛けるキラメックス、iOSアプリの課金プラットフォーム事業を手掛けるSmarpriseと、スタートアップを立て続けに子会社化してきたユナイテッドがまた新たなスタートアップを自社のポートフォリオに加えたようだ。

ユナイテッドは9月29日、スマートフォン向けのアドテク事業やコンテンツ事業を展開するゴローを子会社することを取締役会で決議したと発表した。ユナイテッドはゴローの株式3527株(所有割合は60%、ゴロー代表の花房弘也氏が所有する残り40%の株式は議決権のない種類株に転換するため、議決権ベースではユナイテッドが100%になる)を取得する。取得額は8億1067万円。なおゴローはこれまでサイバーエージェントおよびEast Venturesからの資金を調達している。両者の株式はユナイテッドが譲受する60%の株式に含まれる(所有割合はサイバーエージェントが18.7%、イーストベンチャーズが13.1%)。

ゴローの設立は2014年1月。当初は複数ファッションECサイトを一括で閲覧し購入できるアプリ「melo」を提供していたが、その後ピボット。現在は薄毛対策・治療に特化したメディア「ハゲラボ」などを運営している。

ユナイテッドはゴローの子会社化に関するリリースの中で、「収益性の高い個人の悩み解決型のニッチなウェブメディアを複数手掛け、足元順調に事業を拡大しております。今後、当社グループの持つ人材などの経営資源をゴローに積極的に投入し、既存メディアを継続的に拡大するとともに、新規メディアも積極的に立ち上げ、その成長スピードを上げてまいります」としている。

実は最近、こういったニッチでコンプレックスに関わるような領域のメディアが成長しているという話を聞く機会が増えている。ディー・エヌ・エーが提供する「WELQ」やドウゲンザッカーバーグが提供する「NICOLY」なんかもそうだろう。怪しいアフィリエイト目的のサイトが乱立していたような領域に対して、これまでとは異なるアプローチをする新興メディアが続々生まれているということだろうか(ただし中には情報の不正確さなどをブログやソーシャルメディア上で指摘されているケースもあるようだが)。

Spotifyの遅すぎる日本ローンチ、先行サービスに追いつくことができるか

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音楽ストリーミングサービスSpotifyがついに日本でも利用できるようになる。本日、スポティファイジャパンは記者会見を行い、SpotifyのファウンダーでCEOのダニエル・エク氏はSpotifyの日本ローンチを発表した。Spotifyのウェブサイトではサービスの受付を開始し、徐々にユーザーを受け入れていくという。

改めて紹介すると、Spotifyは2006年にスウェーデンで創業し、2008年10月より音楽配信サービスを展開している。現在60カ国で展開し、アクティブユーザーは全世界で1億人以上のユーザーだ。その内有料会員は4000万人以上という。日本でも数年前からローンチ間近と伝えられながら、なかなか実現せず、ようやく本日の正式ローンチに至った。

SpotifyのファウンダーでCEOのダニエル・エク氏

会見に登壇したエク氏は「日本にはとてもユニークな文化があります。世界中のアーティストと日本をつなぎ、そして日本のアーティストを世界中の聴衆とつなげられることを嬉しく思います」とSpotifyのローンチについてコメントした。

Spotifyの日本版のサービスでは国内、海外の楽曲合わせて4000万以上の楽曲を提供する。Spotifyはモバイル、タブレット、パソコンのいずれからでも利用できるが、今回新たにPlayStation®4(またはPlayStation®3)からも楽曲を視聴できるようになった。

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Spotifyのデモの様子。多種多様なプレイリストが並ぶ

Spotifyの最大の特徴は、ユーザーにぴったりの楽曲を提案する機能が充実している点だ。ジャンルごとに多様なプレイリストを用意していて、利用可能なプレイリストは20億本以上あるという。日本では、「Best of J-ROCK」や「トウキョウ・スーパー・ヒッツ」など、日本の音楽業界に精通するエキスパートが選んだプレイリストも用意している。もちろん、ユーザーは自分で好みの曲を集めたプレイリストを作成することができ、友人と簡単にLINEやSNSでプレイリストを共有することが可能だ。

Spotifyの人気機能は、ユーザーの視聴履歴に基づいてパーソナライズされる2つのプレイリスト「Discover Weekly」と「Release Radar」だ。Discover Weeklyはユーザーの好みの楽曲をキュレートするプレイリストで、毎週月曜日に更新される。4000万人以上がこのプレイリストを視聴しているとSpotifyは言う。一方のRelease Radarは、毎週金曜日に更新され、ユーザーの好みに合う新リリースの楽曲をキュレートする。

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日本版のSpotifyでは世界に先駆け、歌詞機能を展開するとSpotifyは言う。日本ではカラオケが人気で、歌詞を見ながら楽曲を楽しむ文化がある。Spotifyはそういったユーザーのニーズに合わせて歌詞機能を開発したという。この他にもランニング時にユーザーの走っているペースに合わせて楽曲が聴ける機能やゲーム音楽も充実している。

気になる料金体系だがSpotifyは、無料プラン「Spotify Free」と月額980円(税込)の有料プラン「Spotify Premium」を用意している。無料プランは広告モデルだが、最新のトップチャートやプレイリストの視聴などSpotifyの基本的な機能を利用することができる。

Spotify Premiumには広告はなく、楽曲をダウンロードする機能でネット環境のないところでも音楽を楽しめたり、高音質(320kbps)の楽曲を聴いたりできるのが特徴だ。また、「Spotify Connect」を使用することで車内での視聴も可能になる。Spotify Premiumは30日間無料で試すことができる。

また、今回の会見では、アマゾンジャパンでバイスプレジデント、Kindle事業本部統括事業本部長を務めた玉木一郎氏が2016年10月1日付で、スポティファイジャパンの代表取締役に就任することを発表している。

日本でSpotifyをローンチするのに4年の準備期間がかかったとSpotifyは話していた。だが、その準備期間の間に、複数の国内プレイヤーとグローバルに展開する音楽ストリーミングサービスが日本でローンチを果たしている。国内プレイヤーには、サイバーエージェントとエイベックス・デジタルとの共同出資による音楽配信サービス「AWA(アワ)」やコミュニケーションアプリ「LINE」が展開する「LINE MUSIC」が筆頭にあがる。日本でサービスを展開する世界的なプレイヤーには、Apple MusicGoogle Play Musicがある。AppleとGoogleに関しては、iOSとAndroidのプラットフォームを生かしたサービス展開ができるという大きな強みがある。国内で展開する音楽配信サービスのダウンロード数/会員数及び料金プランについて、TechCrunch Japan編集部で以下のようにまとめたので、参考にしてほしい。

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日本でローンチ済みの主要な音楽配信サービスの比較表

先行ローンチすることが、どのくらい音楽配信サービスにとって重要な要素となるかはまだ定かではない。だが、今使っているサービスを気に入って、プレイリストなどをカスタマイズしているユーザーは、新たに別のサービスに登録して、またゼロから自分好みの曲を集めたりするのを手間に感じるということは十分に考えられる。

Spotifyの日本参入は1年近く遅れを取っている上、比較すると価格もさほど他のサービスと変わらない。有料会員数でSpotifyは世界のトップを走るものの、Spotifyが今後他の先行サービスとの遅れをどのように取り戻せるかに注目したい。

タクシーの次は出前——フードデリバリーの「UberEATS」、150店舗超のレストランと組んで東京でサービス開始

会見の様子。右から3人目がUber Japan執行役員社長の髙橋正巳氏

会見の様子。右から3人目がUber Japan執行役員社長の髙橋正巳氏

このひと月ほど、僕のFacebook上には「Uberでお仕事をしませんか?」なんて広告が回っていたのでそろそろスタートするのではないかと思っていたが、CtoC・シェアリングエコノミーモデルの配車サービスなどを展開するUber、その日本法人であるUber Japanが9月28日、フードデリバリーサービスの「UberEATS」の提供を開始すると発表した。注文の受付は9月29日11時から。

UberEATSはUberが提供するフードデリバリーサービス。ユーザーとレストランを結ぶのは、Uber同様、事前登録したパートナー配達員だ。これまで世界7カ国33都市でサービスを展開。今回スタートする東京(当初は渋谷区および港区:渋谷・恵比寿、青山・赤坂、六本木・麻布、順次対象エリアを拡大する予定)が34都市めとなる(世界8カ国め)。

専用のスマートフォンアプリを立ち上げて新規登録(もしくはUberアカウントでログイン)すれば、すぐにサービスを利用できる。ユーザーはログイン後にアプリ上で配達したい位置、デリバリーして欲しいレストランと食事を選ぶだけ。

注文は即座にレストランの専用アプリに通知されるので、レストランは混雑状況や調理時間を考慮して配達予定時間をユーザーに通知。これに合わせて同時に最適なロケーションにいる配達員に配達リクエストが届くため、配達員は調理が終わる頃にレストランに行き、そのままユーザーに食事を配達する。支払いはUber同様にあらかじめ登録したクレジットカードで行うため、現金を用意する必要もない。

UberEATSのしくみ

UberEATSのしくみ

なおローンチ時点での東京の配達員は1000人以上が登録。またユーザーにかかる配達料は当初無料としている。Uber側は店舗の売り上げの一部を徴収(店舗ごとに条件を設定しており、詳細は非公開としている)しており、配達員にはさらにその一部を支払う(こちらも詳細非公開)としている。

Uber Japan執行役員社長の髙橋正巳氏は出前、宅配といった文化自体が日本では決して新しい者ではないとする一方、「従来は何かしらの制約があった」と語る。出前を受け付けている飲食店に電話し、その中出前可能なメニューから選ばなければいけないということだ。UberEATSではさまざまなレストランのメニューをオーダーできることから、制約のない、食を起点にしたさまざまなライフスタイルを提案できると語った。例えばピクニック先に人気レストランのメニューをそのまま持ってくるなんてこともできるということだ。加えて高橋氏はまたレストラン店舗、パートナー配達員、ユーザーそれぞれのメリットについて次のように説明した。

店舗のメリット
初期投資なしにデリバリーを開始できる(提携レストランの6割が初めてデリバリーに参入。タブレットの貸与も)
固定費を変えずに売上を向上できる
新規顧客の獲得が可能

パートナー配達員のメリット
一般的なパート、アルバイトとは異なり決まったシフトがない
勤務場所の指定がない
支払いは週単位に行う
サポートも用意

ユーザーのメリット
店舗と同じ価格で商品を受け取ることができる(価格は店舗と同様に設定する必要がある)
配達状況や配達予定時間もアプリで確認できる
クレジットカードを登録すれば現金のやり取りが必要ない
アプリは世界で共通なので、訪日外国人や海外旅行中で注文できう
トラブルへのサポートも用意

Uberは2014年3月に日本でのUberBLACK(いわゆるハイヤーの配車サービス)からサービスを開始。その後もエリアを限定してライドシェアなどのサービスを試験提供してきたが規制の壁もあり中止せざるを得ない状況だった。一方でデリバリーといえば最近ではLINEが撤退し、スタートアップなどが苦戦している領域。海外で先行してサービスを展開するUberの勝算はいかほどのものだろうか。

  1. UberEATSの配達用バッグ

    UberEATSの配達用バッグ。ほかにもリュックタイプのものもある
  2. 発表会ではハンバーガーやパスタ、まぜそばなどが用意されていた

    発表会ではハンバーガーやパスタ、まぜそばなどが用意されていた
  3. Uberが提供するランチボックス

    Uberが提供するランチボックス。店舗は自前の容器も使用できる

日産、行列に並ぶのが楽になる自動運転チェアの貸与先募集中―ProPilotテクノロジーに新しい応用

日産のProPILOTは主として自動運転機能を実現するために開発されたテクノロジーだが、 この新しいプロジェクトでは椅子の自動運転のために用いられている。いや、間違いではない。人間が座る、あの椅子だ。

ProPilotチェアは電動で自ら動く。その際、あらかじめ定められた運転経路に従い、他のProPilotチェアから一定の間隔をあけて追随する。映画、ウォーリーに出てくる椅子ほど万能ではないが、(われわれのMegan Rose Dickey記者が類似に気付いた)、行列に並ぶという古来からの習慣に伴う苦痛を大いに軽減してくれそうだ。

この椅子は 最新のiPhoneの販売であれ、人気レストランのテーブルであれ、何かを待つことを助けるためにデザインされている。この椅子の話を聞いたときどうせマーケティングのための人寄せだと思ったので、現実に使われると知ってたいへん驚いた。

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日産では今日から12月27日まで、このシステムの利用を希望する日本のレストランを募集している。システムは並んでいる客を座らせ、テーブルが空くのに応じて自動的に前方に移動させる。応募者の中から日産にテスト先として選ばれたレストランには来年このシステムが設置される。またProPilotチェアは横浜市の日産グローバル本社で10月2日まで一般公開中だ。システムは6脚の椅子からなり、実際の行列をシミュレートした動作をデモする。

このプロジェクトは全体として、なんというか、多少ばかばかしい気がしないでもない。だからといって無視するのは間違いだろう。日産も、トヨタを含む他の自動車メーカーも移動の自動化を非常に広い範囲で実現しようと努力中だ。これには自動車の自動化だけでなく、高齢者にとっては重要な問題である敷地内、家庭内での移動も含まれる。私としては家の仕事用デスクからゲーム機を置いたコーナーまでこの椅子で自動的に運んでもらえると非常にありがたい。

〔日本版〕日産ProPILOTのウェブサイトで設置店舗を募集中。Twitterからでも応募できるという。なお記事トップのビデオは再生時に標準で音声オン。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

電気代をビットコインで支払う「coincheckでんき」はビットコイン経済圏の突破口になれるか?

電気代をビットコインで支払えるようになる──このニュースは昨日(9月25日)にNHKを通して広く報道された。いったいどういう意味があるサービスなのか? 発表会で当事者の話を聞いてきた。

coincheck_2まず事実関係を確認しておきたい。レジュプレス三ッ輪産業は、2016年9月26日に新サービス「coincheckでんき」をこの11月初旬よりサービス開始すると正式に発表した(発表資料)。すでに予約受付サイトを開設している。電気料金が従来の大手電力会社より4〜6%安くなり、なおかつビットコインで支払えるようになる。電力自由化を背景とした電力小売りの新規参入を図る三ッ輪産業と、「ビットコイン経済圏」を作ろうとするレジュプレスの両者が協力した形となる。

「coincheckでんき」を使うには、プロパンガス事業を営む三ッ輪産業の子会社のENS(イーネットワークシステムズ)と契約する。なお、ENSは電力小売り業を素早く立ち上げるサービスである電力小売りプラットフォーム事業を手がける企業であり、電源を供給しているのは丸紅新電力となる。サービスエリアは今のところ関東、関西、中部エリアだが、今後は順次拡大する予定だ。

「coincheckでんき」では以下の2種類のプランを予定する。(1) 「ライトユーザー向けプラン」は従来の大手電力会社と同等の料金を日本円で支払い、その4〜6%相当額のビットコインがcoincheckウォレットに貯まっていくサービスだ。「ビットコインを日本円で買うのはいまひとつ抵抗がある層にも使ってもらいたい」(レジュプレスCOOの大塚雄介氏)。(2) 「へービーユーザー向けプラン」は電気料金をビットコインで支払うサービスだ。料金が従来の大手電力会社より実質4〜6%安くなる。「ビットコイン経済圏で生活したい」人向けのプランだ。なお、「4〜6%」と数字に幅があるのは、契約アンペア数により値引き幅に変動があるためだ。

ライトユーザー向けプランで貯まったビットコインは、例えばcoincheck paymentを採用しているバー、寿司屋、歯科医などの店舗や、オンラインサービス(例えばDMM.com)で使うことができる(関連記事)。電気料金の4〜6%という金額相当のビットコインが貯まれば、それなりに使いでがある金額になる。例えば、1年かけて貯めたビットコインで寿司を食いに行くユーザーが出てくるかもしれない。

一方、ヘビーユーザーの中には、電気料金をビットコインで支払えることは魅力を感じる人がいるだろう。人数はまだ多くないかもしれないが、「日本円など法定通貨ではなくビットコインで生活したい」と考える人々が存在するのだ。

もうひとつのユーザー層は外国人や海外居住者だ。ビットコインは外国人に優しい。ビットコイン決済は国境を簡単に乗り越えることができる。説明会では「海外在住で、なおかつ日本の電力を使いたい人にも使いやすいサービス」(三ッ輪産業 代表取締役社長の尾日向竹信氏)とのコメントもあった。ちなみに、レジュプレスは外国人が日本の不動産を購入するさいビットコイン決済を使えるサービスを手がけている(関連記事)。

coincheck_1 「coincheckでんき」で獲得できるユーザー数は、「最初の1年で1万人」が目標だ。この数字をどう評価するかは人それぞれだろうが、レジュプレスは今後は携帯電話料金など各種料金支払いにもビットコインを適用することを狙っている。同社の予約受付サイトにも「提携企業を募集中」と大きく記されている。つまり今回の取り組みは、公共性がある料金支払いへのビットコイン適用を進めていく上での最初の一歩という訳だ。同社の狙いがうまく当たれば、「coincheckでんき」はビットコインを活用したB2C向け決済サービスの適用範囲を広げる突破口として評価されるようになるだろう。

元楽天社員が起業してローンチしたのは、賢く賑やかなモバイルブラウザ「Smooz」

2016年2月設立の日本発スタートアップ企業、アスツールが今日モバイルブラウザ「Smooz」(スムーズ)をローンチした。iOSアプリとしてダウンロードできる。Smoozは能動的にウェブで情報収集する場面や、何か調べ物をしつつも横道にそれて情報の海をサーフィンするような、かつて「ウェブサーフィン」と呼ばれた体験を支援するために開発されている。

以下の動画で、だいたい動作が分かる。

Smoozは新規のブラウザといってもレンダリング自体はWKWebView(iOS標準のコンポーネント)を使っているので、速度や対応機能などはMobile Safariと変わらないが、標準ブラウザに比べて以下の3つの利点を提供する。

タブ操作がいい感じ

1つはタブの使いやすさ。モバイル上でメジャーなMobile SafariやChromeは、複数のインスタンスを開いて切り替えること自体はできる。ただ、たくさんのタブを開いて切り替えながら閲覧する機能は弱い。Smoozでは、ページ内のリンクを長押し(もしくは3Dタッチ)することで、「バックグラウンドで新規タブを開いてリンク先ページを読み込む」ことができる。iOS標準のMobile Safariでも「リンクの長押し→新規タブで開く」というのがあるが、これはだいぶ異なる動作で、コンセプトが全く異なる。

Mobile Safariでは、新規タブに新しいページを読み込む場合、それが大げさなアニメーションとともに「前面」で開く。一方、Smoozでは新規タブをバックグラウンドで開く。つまり新規ページの読み込み時は、待つ必要がなく、いま閲覧しているページを読み続けることができる。

Mobile Safariのように前面でページロードが始まると、電波状況によってはそこで3〜10秒ぐらい待たされる。このとき真っ白なブラウザ画面を呆けたように眺めることになるのは、ぼくのようなせっかちにはツラい。

検索結果やインデックス的なページから、気になるページ(アイテム)を選択して、ポンポンと開いていくような遷移のスタイルは、ヘビーな情報収集をするときには便利だが、これまでモバイル向けブラウザでは、そういうスタイルはサポートされていなかった。PCなら右クリックだとか、Commandキーを押しながらリンクを開けば裏側のタブでページをロードすることができる(知らなかった人は自分の使っているブラウザで調べてみるといいかも)。

SmoozではGoogleの検索結果で表示されるリストの1つずつに「新規タブで開く」というボタンが追加で表示されている。これをタップすることで検索結果ページから遷移することなく、やはり対象ページを次々とバックグラウンドで開くことができる。今どきスマホは画面も広くて回線も速いので、こうしたPCのようなヘビーな利用形態ができるSmoozは、ちょっと新鮮に感じられる。

ぼくはiPhone上でも主にChromeを使っているが、Chromeはバックグラウンドで新規タブを開くことができる。ただ、「長押し→メニューから選択→(ユーザーに動作を明示するためのアニメーション)→背後のタブで読み込み」というChromeの動作に対して、Smoozは「長押し→黙って背後のタブで読み込み」という、よりストレートな動作になっていて、パカパカとタブ開ける軽快さがある。たくさんのタブを開いた後にページ自体を左右にスワイプすることでタブをヌルヌルと切り替えれるのも新鮮だ。タブは画面下部中央を上に向けてフリックすることで消すことができる。

store_smooz_iphone_02例えば、いまぼくはスポーツタイプの電動アシスト自転車の物色しているのだけどメーカーによる動力の違いを調べつつ、レビューやカタログ、ショップを漁るようなブラウジングの場合には10や20のタブを開いて行ったり来たりできるのがいい感じだ。あるいは週末の仙台観光では、伊達政宗の事跡を読み漁るのに、Smoozは結構よい感じだった。Wikipediaを中心に延々と読み続けてしまう癖のある人は同意してくれると思うが、ページが完全に遷移する(元ページへは戻るボタンを押さないといけない)スタイルだと、もともとのスタート地点や、起点としていたトピックから延々と離れていってしまって戻ってこれないということが起こるが、Smoozだともう少しツリー状の閲覧ができるように思う。

次の検索クエリを先読みして検索画面に提示

情報収集の効率化という意味では、コンテキストを考慮した、「ユーザーが次に検索したいだろう検索語を提示する」という機能も面白い。

何かある記事を読んでいるときに、画面下部中央にある虫眼鏡アイコンを押すと、そのページに含まれるユーザーが次に検索しそうな語句を抜き出して検索クエリの候補として提示してくれる。今のところページのテキストをスクレイプして形態素解析して抜き出したキーワードにランキングを付けているだけだが、それでも興味関心の赴くままに調べ物をするときには便利な機能だ。

store_smooz_iphone_03またしても仙台観光の例だと、「仙台 見どころ」として出てきた観光スポットごとに検索のツリーを広げるときに役立つ機能だ。今のところ提示される検索キーワードに調べ物と無関係の語句を拾ってくることもあって、まだもう一歩アルゴリズムの洗練が必要に思われるが、今後の精度向上次第では非常に有用な機能になりそうだ。

ソーシャルの反応も並べて表示

もう1つ、Smoozが面白いのは、はてなブックマークやTwitter上のコメントを各タブからワンタップで呼び出せるようになっていることだ。良くモデレートされたコメント欄でもない限り、見るのがウンザリするような荒れはてたクソリプの山になることもあるソーシャルのコメントだが、あるコンテンツに対して「みんながどう反応しているか」は気になるもの。

これまでPCのブラウザならプラグインを入れたり、ブックマークレットを使ってソーシャルの反応をみてきた人も多いだろう。中にはモバイルでもURLをTwitterクライアントの検索欄に苦労しながらコピペしていた人もいるかもしれない。そういう涙ぐましい努力なしに、ソーシャルの反応が一発で見られるのは良いと思う。Smoozでは自分でもコンテンツ(URL)に対してコメントやツイートができる。

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能動的な情報収集を、便利で楽しいものに

さて、しばらくSmoozを使ってみたぼくの感想は「モバイル系ブラウザは、長らく8割の人を満足させる世界観でやってきたのではないか」というものだ。いまや検索なんてしないという人は多いというし、そもそも「ブラウザ」が何かを知らないユーザーも増えているとも言う。ただ、例えば就活時にGoogle検索しないという情報収集力の低い学生なんて正直誰も採用したくないだろうと思う。能動的に情報収集をするユーザー層は常に一定層いるし、そういう利用シーン向けのツールとしてSmoozは興味深いと思う。

でも今さら新規ブラウザを出して受け入れられるだろうか? と問う人もいるだろう。Smoozを開発したアスツール創業者の加藤雄一CEOは次のように話す。

「10年間プリインストールブラウザが支配した時代がありましたが、そこにFirefoxやChromeが出てシェアを取ったことがありますよね。ブラウザは毎日使うものなので、より良いものがあれば乗り換えるというユーザーはいると思っています」。

30代半ばの加藤CEOが大学や高校に出向いて学生たちに調査したところ、「カメラアプリ、Twitter、LINE、Safari」の4つをスマホのメインに置いている人が多かったとか。ほかの3つは選んでるのに、Safariはそうではない。「えっ、Safari以外にあるんですか?」と驚く学生が多いのだという。

Smoozはソーシャルに流れてきたコンテンツをクリックし、またタイムラインに戻るだけという利用層や利用形態は狙っていない。自分で検索してブラウズする体験を良くすることを目指しているという。

「いまのウェブ体験は寂しい。検索してタップして終わり。でも今までのブラウジング体験にとらわれずに、ソーシャルなどを組み合わせて新しい体験を作っていけるはず。かつてウェブサーフィンってありましたよね。コンテンツ同士がつながっていて芋づる式にページを見ていく。何か1つ調べ始めたら3時間くらい見ちゃうような。今はそういうワクワクが足りていなくて、そこにニーズがある、というのが仮説です」(加藤CEO)

モバイル向けでは新規ブラウザは出ていない?

ブラウザ市場の過去と現状を振り返って、もう少しSmoozをコンテクストに置いてみよう。

かつてタブブラザというのは1990年代後半にOperaやFirefoxが切り開いたジャンルだ。それにInternet Explorerが追随して、PC上でタブブラウザが広く使われるようになった歴史がある。メジャーどころ以外にもDonut系と呼ばれる一群のブラウザアプリがPC上では人気を博して一大アプリ・ジャンルとなった時代もあった。これは主に日本でのことで2000年ごろの話だ。

それとは違う進化の傍流として「ソーシャル・ブラウザ」と呼ぶべき試みもシリコンバレーで起こった。2005年登場のFlockや、2010年に鳴り物入りで登場したRockMeltなどだ。特にRockMeltはNetscape共同創業者で、現在独立系VCとして成功しているマーク・アンドリーセン氏が支援していたこともあって大きな話題となったが、やがて忘れられていった。

2016年の現在は、PC向けブラウザの新機軸としてOpera創業者で元CEOのフォン・テッツナー氏が「Vivaldi」を、元Netscapeの社員でJavaScriptの生みの親のブレンダン・アイク氏が「Brave」を、それぞれ違った狙いで出したりしている。Vivaldiはパワーユーザーを意識した機能を盛り込んでいて、Braveは広告・コンテンツのあり方を問い直す仕組みを生み出そうとしていて、新ブラウザというよりネット全体のブラウザ体験を問い直すような試みだ。

というように、今も新ブラウザが出てきていないわけではない。モバイルブラウザでもDolphin BrowserAtomic Browserなど広告ブロックを始めとする「便利機能を詰め込んだアプリ」というニッチ市場は存在した。

1500万円のシード資金をSkyland Venturesなどから調達

2016年2月創業のアスツールは8月中にシードラウンドとして1億円のバリエーションで総額1500万円の資金を調達している。Skyland Venturesと個人のエンジェル投資家として中川綾太郎氏(ペロリ代表)、伊藤将雄氏(みんなの就活を生み出した人物で現在ユーザーローカル代表)らが出資している。

加藤氏は新卒でソニーに入り、4年目にソニー・エリクソンで北欧に出向。4年ほどスウェーデンの開発拠点、ルンドで過ごした国際派。退職前の楽天ではViberのプロダクトマネージャーをしていた。2年前に起業したときには、イスラエルと日本、エンジニアリングとビジネスの両方を繋ぐことができる人材として楽天に請われて、Viberの外部コンサルを続けながらSmoozの開発を始めたという。「起業とコンサルを並行したことで銀行口座の残高が減らず、精神的なキツさは軽減できたかもしれません」。

加藤氏は早稲田大学の文系学部卒だが、いまも1日の半分はプロダクションコードを書く起業家だ。高校時代にはHP 200LX(Blackberryの遠い先祖でHPの関数電卓の最終進化系端末のようなもの)を日本語化し、Palm Pilot(血縁関係のないiPhoneの先祖のようなもの)に夢中になるオタク少年だったという。Smoozは1年半ほど試作をしたり壊したりしながら、最終型となるものは2016年2月ごろから自ら作ってきたという。

今はフルタイムのメンバーが加藤氏を入れて2人。iOSや自然言語解析、サーバサイドの開発者を探しながらも、「草ベンチャー」として、ソニー時代の同期や、楽天時代のエンジニアが手伝ってくれていたりするそうだ。

「若者の起業はいいと思うんですよ。でも、ぼくなんて37歳と歳を食っているので(笑)、周囲の友人たちは、子どもがいて、結構給料ももらっていたりする。おいそれと誘えないんですよね。彼らには出勤前の朝のファミレスでペアプロしてもらったりしています」

「退職前の楽天時代、Viberの本社があるイスラエルに行かないかという話がありしました。正直迷いましたが、一度行ったら2、3年は腰を据えてがんばりたいし、その頃には給料ももっと上がるだろうし、何かを失うことへの恐れが生まれてきてしまうのではないかと思いました。そうなったらもう一生起業なんてできないと思ったんです」

まずは国内市場でプロダクト・マーケットフィットを模索する。続いて、本当はSmoozのようなアプリに出すのにiOSよりも適しているAndroid向けにもアプリを出す。海外展開のときには、北米市場を狙いと考えているそうだ。

労務管理クラウド「SmartHR」に社労士向け機能、公認アドバイザー制度も開始

SmartHR for Adviser

KUFU(クフ)は9月26日、労務管理クラウド「SmartHR」に社労士向け機能を搭載した「SmartHR for Adviser」の提供を開始した。またこれと同時に、「SmartHR公認アドバイザー制度」を開始した。

「社労士とともにサービスを伸ばす」というメッセージ

SmartHRは、労務関連の書類自動作成、オンラインでの役所への申請、人事情報、マイナンバーの収集・管理やWeb給与明細などの機能を備えたクラウド型の労務管理ソフトウェア。これまで中小企業を中心にサービスを展開してきたが、SmartHR for Adviserの開始により、社労士向けの機能も拡充。社労士が顧問契約している中堅から大手の企業にも利用を拡大していく構えだ。

スタート時点では、社労士が顧問先の複数の企業を1アカウントで閲覧・管理できる機能が提供される。また、これまで役所へのオンライン申請時には、企業に特定の社労士を紹介してその電子証明書を利用していたが、これを一般の社労士にも解放。自身が所有している電子証明書を使って、顧問先企業の社会保険・雇用保険の手続きをSmartHR上から電子申請することが可能となった。

今後は、顧問先企業の離職率を経時変化や世間動向との比較で確認できたり、制度が変わりやすい助成金の受給要件に合致しているかどうかなど、タイムリーに情報を把握できる機能などを拡充していくという。

「SmartHRは、社労士の仕事を奪うのではないかと考えられているが、我々はリリース当初から一緒にうまくやりたいと思っていた」とKUFU代表取締役の宮田昇始氏は話す。「例えば、クラウド会計ソフトのfreeeが登場した時には、『税理士の仕事がなくなる』という見方があったが、今や税理士がfreeeを利用して企業にも紹介している。うまくやれているサービスは専門家と競業しないと考えていた。実際、SmartHRも初めは中小企業をターゲットにサービスを展開してきたが、すでに社労士を顧問に持つ中堅以上の企業での併用も多くなってきた。さらに、社労士が顧問先企業にSmartHR導入を勧めるケースも増えている」(宮田氏)

今回のSmartHR for Adviser提供は「社労士といっしょにサービスを伸ばしたい」というKUFUからの正式なメッセージでもある、と宮田氏は言う。「多くの社労士は顧問先を月次で訪問していて、少ない情報と短いコミュニケーションの中で、スタンダードな提案しかできないのが現状。我々のサービスを使ってもらうことで、個々の顧問先企業に寄り添った、よりよい提案ができるように支援していきたい」(宮田氏)

またKUFUでは、SmartHR for Adviserと同時に「SmartHR公認アドバイザー制度」開始も発表した。SmartHRの導入企業からは「SmartHRが使いこなせて労務相談もできる社労士を紹介してほしい」との要望が多く、中には上場直前といった規模の会社でも「社労士を紹介して」との声があるのだという。これまでも個別では紹介してきたということだが、制度化によって、SmartHRへの理解が深い社労士を公式に育成・紹介していく形をとる。

制度開始にあたり、KUFUでは社労士向けの無料セミナーを随時開催し、参加した社労士をSmartHR公認アドバイザーとして認定していく。企業への社労士の紹介料は無料。社労士側も紹介料、加入料金、月額料金などの費用は不要だ。

労務管理をDisruptするサービスを

KUFUでは先日、従業員5名以下の小規模企業向けにSmartHRの¥0プランを発表したばかりだ。このときにも「大企業向け機能の強化も同時に進めることで、収益増を図る」としていたが、今回の社労士向け機能の解放も、エンタープライズ企業向けサービス強化の一環だと宮田氏は言う。

「¥0プランは、社労士顧問契約など結べない小さな企業にも、とにかく使ってもらいたいということで間口を広げた。そうして会社が成長していく中で、社労士に労務環境をチェックしてもらったり、相談する場面が増えてきたときに、公認アドバイザーと手を組んで共に歩んでもらい、ゆくゆくは大きな成長を遂げてもらえれば、我々のサービスも有償で使ってもらえることになる」(宮田氏)

大企業の場合、雇用形態のバリエーションが多く、手続きはより煩雑で、労務担当者が一人ではないことも多い。こうした大企業特有の環境に合わせて、雇用形態別の書類出し分けや、担当者の権限が設定できる機能、組織に合わせて従業員データベースをカスタマイズできるような機能も追加を準備しているそうだ。また2016年5月に公開したAPIを利用した、社内システムや各社のクラウドサービスとの連携もどんどん進める、という。「2016年10月には、さらに大企業にうれしい機能を提供する予定だ」(宮田氏)

2016年初めのインタビューでは「2016年内に3000社、2017年内には2万社の導入を目指す」としていた宮田氏に、その道程を聞いたところ「2016年5月の時点で1000社、現時点で2000社を超える登録を獲得しており、2016年内の目標は4000社に上方修正した。さらに少し先になるが、2019年末には20万社の登録を目指す」と答えてくれた。今月、サンフランシスコで開催されたTechCrunch Disrupt SFに絡めて、宮田氏はこう話す。「Disrupt(破壊)という言葉が気に入って。¥0プランにしてもfor Adviserにしても、とにかく門戸を開いて、多くの企業に使ってもらって広げていく中で、企業、社労士、KUFUの三者が喜べる形にしていきたい。Disruptしたいですね」

動画配信サービスで見たい映画を横断検索、ベルリン発のJustWatchが日本でもローンチ

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ここ数年でHuluやNetflixを始め、動画ストリーミングサービスが一気に普及した。視聴できるコンテンツは増えたが、見たいものがどこで見られるか分からないと思ったことはないだろうか。特に海外ドラマなど、1つのストリーミングサービスで、全シーズンを配信していないことも多い。どのシーズンをどの配信サービスで見られるか、全てのストリーミングサービスを横断的に検索できたら便利だろう。今回紹介するJustWatchはそのニーズを満たすサービスだ。ベルリン発のJustWatchは、現在17カ国でサービスを展開し、本日日本でもサービスをローンしたことを発表した。

JustWatchの特徴は、検索項目が充実している点だ。各動画配信サービスで公開している作品を公開年、ジャンル、評価などを指定して検索することができる。

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例えば、この画像では、検索ボタンで「NetflixとHuluで提供している映画で、アクションとドラマのジャンル」を指定して検索している。もちろん見たい映画が決まっているのなら、検索ボックスに映画のタイトル入力して探すことも可能だ。

現在、日本版JustWatchはNetflix、Hulu、dTV、U-NEXT、GYAO!、Amazonビデオ、Apple iTunes、Microsoft Store、Google Play、MUBIで提供しているコンテンツが検索対象だ。

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見たい作品の詳細結果には、その作品を配信しているサービスの一覧が表示される。各サービスのアイコンをクリックすると、そのサービスの視聴ページに飛べる仕組みだ。「視聴リストに追加」のボタンをクリックして、見たい作品を保存しておくこともできる。

特に見たい作品が決まっていない場合は、ページ上部にある項目から人気作品の一覧をチェックしたり、各サービスで最近公開された作品を「新作」のページからブラウズすることができる。

少し気になったのは、検索ボックスから検索できるのは映画名と番組名のみという点だ。私の場合、映画のタイトルを正確に覚えていないことも多い。検索ボックスから例えば、キーワードや監督名でも検索できればもっと便利かもしれない。またUIに関しては、時折ぎこちない日本語訳がある。ただ、総じて使い方は分りやすく、見たい映画を見つけたらすぐに動画配信サービスに飛んで、視聴を開始できるのは便利に感じた。

JustWatchは2014年10月にベルリンで創業している。JustWatchのCEO、David Croyé氏は映画やテレビ番組を見たいと思った時、各動画サービスの情報や劇場で上映中の映画の情報をばらばらに存在していることに気がついたのが創業のきっかけになったとTechCrunch Japanに話す。「JustWatchのミッションは、世界中の映画ファンと彼らの求めるコンテンツをつなげること」とCroyé氏は説明する。

JustWatchはウェブ版、iOSAndroidアプリを提供している。JustWatchは無料で利用でき、現在のユーザー数は1500万人ほどとCroyé氏は言う。JustWatchはユーザーには課金せず、映画配信企業向けに独自のアドテクツールを提供することでマネタイズしているという。JustWatchにはユーザーの映画の好みや購入行動といった情報が多く集まっているとCroyé氏は説明する。それを元に、主にYouTubeやFacebook上で、最適なユーザーに対し、最適なタイミングで映画の予告を配信する広告テクノロジーを開発しているのだそうだ。クライアントにはソニー・ピクチャーズ、パラマウント、ユニバーサル、フォックスなどを抱え、今月初めて黒字化を達成したという。

現在、JustWatchは30名のチームで運営している。最近、新しくロサンゼルスオフィスを立ち上げたばかりで、数ヶ月内にさらに人材採用を進め、50名体制まで拡大する予定とCroyé氏は話す。今後、ユーザーフィードバックを見て、検索対象のサービスの追加や機能開発を進めたいとCroyé氏は言う。

文字コンテンツ読み上げ・フォロー型のクラウド放送局「Voicy」がローンチ

今さらネットでラジオなの? という人がいるかもしれない。逆に、やっぱりいま音声系サービスが来そうだよね、という人もいるかもしれない。2016年2月設立のVoicyが今日ベータ版としてiOS版をローンチしたクラウド放送局アプリ「Voicy」は「みんなで作る放送局」とでもいうべきアプリだ。

利用者はコンテンツ(記事)の読み手である「パーソナリティ」と、その聞き手である「リスナー」に分けられる。パーソナリティはチャンネルを開設して個性を活かした音声コンテンツを発信でき、リスナーはパーソナリティをフォローする。コンテンツは大手メディアや雑誌などから提供を受けるモデルだ。いまは立ち上げ期ではあるものの、Voicyを創業した緒方憲太郎CEOは「活字メディアを放送にしていく」という説明が旧来のメディア関係者に響いていて、すでに毎日新聞やスポニチなどがコンテンツ提供をしている。

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「2次元だった活字メディアを、クラウドの発信者の力で放送網に乗せます。活字メディア+声の表現者+フィードバックするリスナーという、みんなで作る放送局になります。今まで放送局が1社で全部やってたネタ収集、編集、企画、放送、アンケートまでをいろんなプレイヤーで分担してやります」(緒方CEO)

ジャンルは経済、社会、グルメ、エンタメなどの幅広くする。当初パーソナリティは40アカウントでスタート。最初のうちは申し込みと審査が必要で1週間に5〜10人ペースで増やしていく。パーソナリティとなるのはアナウンサーや声優志望者など「声のプロ」やセミプロだけでなく、全くの未経験者や特定ジャンルに熱意を持った人なども入れていくという。例えば、すでに元乗馬の選手をしていた人が競馬を語るチャンネルがある。

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コンテンツは「プレイリスト」という単位で配信される。プレイリストには記事などを読み上げる音声コンテンツが複数入っている。コンテンツの平均の長さというのは今のところない。1つの記事を15秒から30秒で読み、テンポ良く次々とその日のニュースダイジェストもあれば、もっと長いものを10分〜20分で読んで1つのプレイリストとする人もいるという。

ここまで読んだ読者は、誰が、何の目的で、どういうタイミングで聞くのか想像が付かないのではないだろうか。ぼくは想像が付かなかったし、今も正直よく分からない。

これまで限定ユーザーでサービス運用をしてきた緒方氏によれば、視聴時間帯は主に3つあるそうだ。朝すぐの支度や通勤時間帯。それから帰宅後の時間。そして「思った以上に寝る前に聞いている」(緒方CEO)のだそう。ながら視聴よりも、むしろプッシュ通知が来たらテーブルにスマホを置いて座って聞いている人が多いという。

一般ニュースや業界ニュース、趣味の情報をスマホ上で文字で読む人は多いと思う。Voicyでは読み手の個性やちょっとした意見に魅力が感じられる視聴スタイルを実現する。「活字は知性にしか訴えて来なかった。でも声ならハートに訴えられる」(緒方CEO)。電波と違って双方向なので、リスナーはパーソナリティに対してコメントを送ることもできる。

Voicyのパーソナリティとなる人のうちアナウンサー志向の人であっても「キレイにしゃべる」ことを良しとするキャスター的な人と「個性的にしゃべる」パーソナリティ的な人がいて、人によってその比率が異なる、ということらしい。リスナーのほうも総合ニュースを聞きながら、ゆるいノリのものも同時に聞きたい人もいれば、朝はテキパキ系を好む、という人もいるそうだ。

なぜ今さら音声なのか?

なぜ今さら音声なのか? 動画ではダメなのか? この点について聞くと緒方CEOは、何点か理由を挙げた。

1つはコスト構造上有利だから。音声なら「20分のコンテンツが25分で作れる」(緒方CEO)が、動画はなかなかそうはいかない。そして文字コンテンツを持っている出版社や、企画や編集ができる人材というのは多い。「コンテンツを作って編成をする人や取材ができる人をレバッジできる気がしています。どういう番組構成がいいのか、それをみんなで探っていく」(緒方CEO)。

ネタと発信者(読み上げるパーソナリティ)を分けているので、コラボ企画もやりやすく、テレビ局の新人アナウンサーやアナウンサー学校のエースをスポーツチャンネルでマネタイズするなどできるのでは、という。サービス開始当初こそ「リスナーがいるのが嬉しいという人たちを集めたい」としているものの、「プレイヤーがCMを取れる、営業ツールになるものを提供したい」という。法人チャンネル提供も考えているという。

もう1つ、動画より音声がいいという理由は「感性に伝わるものが一番いい」からだそうだ。「声というのは大きすぎても小さすぎても不快。映像では、そういうのはあまりない。それだけ心に刺さるのが声なんです」。

声って今さら? これから?

クラウド分業放送局というのは新しいアイデアだが、音声系サービスのVoicyをみて「今さら音声?」と思った人は多いだろう。逆に「そうだよね、声が来そうだよね」という人もいるかもしれない。

今さら、という人は日本国内の音声系サービスに動向に詳しい人もいるだろう。2007年にカヤックで生まれて2014年にサイバーエージェントに事業譲渡された「こえ部」は2016年9月末のサービス終了を発表しているし、同じくサイバーエージェントの「ラジ生?」も8月末と、立て続けにサービスを閉じる。動画系サービスが伸びる一方で、音声系サービスはオーディオブックも含めて日本国内では立ち上がっていると言える状況にない。ただ、「こえ部もラジ生もネタがなかった」からサービスが伸びなかったのではないか」というのが緒方CEOの見立てだ。

国内で声系サービスが伸びない一方で、米国ではいま「音声(会話)こそ次のインターフェイス」として、がぜん注目を集めている。先日のTechCrunch Disrupt SFでデビューした「Pundit」は音声版Twitterというべきサービスだし、2016年2月にローンチした「Anchor」はVoicyに少し似ている。Anchorはホストとなる人に対して参加者が随時乱入して声でコメントができるポッドキャストの進化版という感じのサービスだ。

音声認識の精度が95%から99%となって遅延も実用レベルになった。だから今後コンピューターへの入力インターフェースとしては音声こそが最も効率的だと指摘したのはKPCBパートナーの著名VC、メアリー・ミーカー氏だ。

ミーカー氏が指摘したのは入力やGUIに変わる操作手段としての音声だが、今後人々がデバイスに向かってしゃべることが増えるのだとしたら、2016年が声系サービスの立ち上げに適している可能性もあるだろう。なにより、AppleがワイヤレスのiPhone向けイヤホン「AirPods」を出したことで、オーディオコンテンツに追い風が吹くという期待感もある。

もう1度。なぜ声を選んだのか?

Voicyは現在、フルコミットのエンジニアが1人いて、それ以外に8人が手伝う「草ベンチャー」だ。草ベンチャーとはビズリーチ創業者の南壮一郎氏の造語だが、就業時間後や土日に仲間が集って実験的なプロダクトや事業を作っていくような活動を指している。Voicyのチームにはテレビ局や広告代理店関係者が入っている。

「バーンレートゼロでリリースまで漕ぎ着けた」と、ちょっとスゴいことを言っている緒方CEOだが、体制は整えつつある。すでに確定金額ベースで数千万円規模のシード資金の調達をしつつあって、アプリのローンチと前後して渋谷に新たにオフィスを構えたそう。

緒方CEOは会計士としてキャリアをスタートして、起業前は、監査法人トーマツの社内ベンチャーであるトーマツベンチャーサポートに2年間所属。これまでスタートアップ企業、数百社を支援してきたという。「顧問として入っていた企業だけで資金調達額は30億円を超えています。今年の調達額だけでも6億円」というスタートアップ起業家を支援する側にいた人物だ。会計士ではあるものの、実際には「会計士業務はやっていませんでした。主に社長の相談役で、ビジネスモデルの相談から、嫁が逃げたという相談までやっていました(笑)」という。

「ミイラ取りがミイラになった感がある」と起業の背景を語る緒方CEO。ただ、大量の事業アイデアとダメ出し、事業計画とオペレーションの実際を見てきた36歳という目のこえた立場を考えると、なぜ2016年時点でVCウケの悪そうなアイデアでの起業を選んだのかは、ちょっと腑に落ちないところもある。実際「こんなにも否定されるものか」というほどVoicyのアイデアに対して否定的な意見や、頼んでもいない思い付きにすぎない「アドバイス」をもらっていて、支援側と起業家の立場の違いを身にしみて感じているそうだ。

それでも緒方CEOがこだわっているのは、「誰もやっていないサービスを出すこと」だそう。「何か既存のものを安くするというのではなくて、大きな付加価値を生む企業をやりたいんです」。もし声のメディアプラットフォームに可能性があるのだとしたら当たれば大きいのかもしれない。もし声系コンテンツサービスにはやっぱり市場がなかったとなれば、たぶんゼロ。ホームランか三振か。バッターボックスに立つなり「大振り」することにしか興味がない、と言い切る緒方CEOのチャレンジを見守りたいと思う。

電通ベンチャーズ、スポーツ観戦向けVR動画配信を手がける米LiveLikeに出資

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電通傘下のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドである電通ベンチャーズ。主に海外、新事業領域への出資をしている彼らが9月21日、VRによるスポーツ観戦を実現する米LiveLikeへの出資を発表した。出資額は非公開だが、数千万円程度と見られる。

LiveLikeは2015年2月に立ち上がった米ニューヨーク発のスタートアップ。同社は、スポーツ観戦に特化したライブVR動画配信プラットフォームを開発している。このプラットフォームを利用すれば、ワイドカメラ1台で競技場を撮影してVR動画の配信が可能。VR撮影専用の設備を用意せずともよいという。

ユーザーは専用アプリ(iOS、Android、Gear VR対応)を通じて、配信されている360度動画の視聴が可能。Facebook経由でユーザーを招待すれば同じVR空間を共有できるため、実際に友人と一緒にスポーツ観戦をしているのと同じような体験ができるという。観戦中の競技に関する情報やショップ機能なども提供していく。現在はFox SportsやサッカーチームのManchester City FCなどとコンテンツ面で提携している。

CarTechのこれから—テック企業と自動車メーカー、それぞれの思惑

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編集部注:執筆者の許直人氏は、自動車の個人間売買やサブスクリプションサービスなどの事業を展開するIDOM(旧:ガリバーインターナショナル)の新規事業開発室に所属。次世代ビジネスに向けた調査を行うほか、人々の“動き”を作るサービスの立ち上げを目指す「動け日本人LAB(うごラボ)」を主催。定期的にイベントを開催している。本稿では国内外での自動車×ITの領域である「CarTech」の動向について語ってもらった。

最後のIT革命といわれる自動車産業

Google Car、Tesla、Uber、そして人工知能のToyota Research Institute——この1年、テック系メディアで自動車関連のニュースを聞かない日はないと言っても過言ではないだろう。

この我々の生活を大きく変えてきた情報通信革命の、最後にして最大のインパクトを持つともいわれているのが自動車産業だ。自動運転に代表される移動手段の革命は私たちのライフスタイルを変え、時間の使い方を変え、都市のあり方やまちづくりまでを変えていくはずだ。

ただ、自動車業界はその高い参入障壁や情報の秘匿性ゆえに、どこか他人事に感じてしまうかもしれない。自動車メーカーが研究所で開発したものが、自動車屋に並ぶ、一般の生活者はそれを待つだけなのだ、と。

ある意味ではそれは間違っていないが、テック系のビジネスに携わるものならこの変革に伴うビジネスチャンスについて手をこまねいている場合ではない。世界各国の自動車産業とテクノロジーの裏側で何が起こっており、我が国ではどんなビジネスチャンスがあるのか。この数カ月で起きたCarTech関連のニュースを振り返りながら、その背景や業界の思惑に迫ってみたい。

Google Carの今とこれから

読者のみなさんが自動運転と聞いてまっさきに思い浮かぶのはGoogle Carではないだろうか。

Washington Postの記事によれば、カリフォルニアでのGoogleの公道実証実験における走行距離はすでに40万マイルを超え、他社を圧倒している。さらに、それに加え 毎日480万kmを仮想空間でドライブし、アルゴリズムを強化しているという。

豊富な資金と技術力。上記のデータだけを見ても、自動運転に関してはGoogleが圧倒的に強いと思ってしまうが、一方で最近になって不協和音も聞かれている。2015年にはGoogle で自動運転に携わる主要エンジニアと Google Map のトップらがスピンアウト、自動運転トラックの新会社「Otto」を立ち上げた例もあるし、8月には、Googleの自動運転車プロジェクトで長年CTOを務めたクリス・アームソンが退任したニュースが注目を集めた。

ではGoogleの自動運転はうまくいっていないのか? CarTech業界の事情に詳しいモータージャーナリストの桃田健史氏に聞いた話では、決してそういうことではないのだという。同氏は、これらの動きについて、Googleの自動運転が技術検証からサービスのフェーズに移ったシグナルであると見ている。

Googleはかねてより莫大な資金を自動運転に投じてきたが、2016年に入ってから現場のチームにはそれをどうやって回収するかのプラン立案とその遂行を求めるようになったという。エンジニアの中には拙速な商業化を嫌う向きもあったようだが、ホールディングス目線でみれば事業フェーズにフィットしないCTOは必要ないということなのだろう。

各国政府の思惑

Googleのこのような動きを後押しするのが、世界で最も自動運転に積極的と言われる米政府だ。今年のはじめには米国政府が今後10年間で自動運転技術に40億ドルを投資するという報道があったことからも、その本気度が伺える。Googleはロビー活動にも非常に熱心であり、政府とのつながりも強い。彼らが自動運転のグローバルなデファクトスタンダードになることは、国益にかなう。

一方の日本は、欧州と連合していく流れのようだ。国連の場で制度作りを進めながら、そこに米国を巻き込もうと画策している。自動車関連のイベントに参加すると痛烈に感じるが、ドイツを中心とした欧州の Google、 Apple への対抗意識は強烈であり、それによって各国が一枚岩になっている印象を受ける。

ただし、元々独自路線を貫いてきたアメリカはこの数カ月さらに加速しているようで、デファクトスタンダードはどちらに転がるか現時点では全くわからない。米国では先日Teslaの事故があったが、これによって自動運転化の流れがとどまるどころか、「現実の問題」として認識され、規制やレギュレーション化が加速したと言われている。

だが、米国以上に注目したいのは中国だ。国が方針を決めれば、特定企業の優越や排除、それ以上のことまでやるといった噂まで聞くが、実際のところ彼らは世界最大のマーケットを抱えているわけだ。数年以内には恐らく電気自動車の分野でもトップの規模になるだろう。

自動運転の分野でも、BAT (バイドゥ:Baidu、アリババ:Alibaba、テンセント: Tencentの頭文字) をはじめとした企業が非常に積極的に動いている。2019年までに自律走行車を実用化、2021年までには大量生産を行うとしているバイドゥは、先日もGPU最大手のNVIDIAとの提携を発表し、ディープラーニングを活用した自動運転ソフトウェア開発を加速させている。

ライドシェアは巨人同士の戦いに

ライドシェアの領域では、8月に中国国内で最大手のDidi Chuxingが、Uber の中国事業である Uber China を買収し話題になった。Didiにはソフトバンクの他に、Alibaba、Tencent が出資しており、一方のUber にはBaidoが出資している。買収前、グローバルで見るとUber 対 Didi、Grab(東南アジア)、Lyft(米国)、Ola(インド) 連合という構図があったのだが、ここへ来て一気に大同団結といった様相を呈してきた。

この背景にあると言われているのが、Googleのライドシェア参入だ。Google と Uber は2013年から資本提携による協業ビジネスを進めてきたが、8月にAlphabet 幹部のデイビッド・デュラモンド氏が Uber 社外取締役を辞任している。Googleは「Google マップ」という地図サービスのデファクトスタンダードたるサービスも持っている。同社はハードウェア・ソフトウェア・サービス全ての面からが自動運転ビジネスを現実のものとするため、着実な布石を打ってきていると言えるのではないか。

自動車メーカー、「危機意識は浸透しているが…」

一方、日本国内の動きはどうだろうか。桃田氏は次のように語る。

「危機感は感じていると思います。現に、私が本を出したあと(編集注:桃田氏は2014年に「アップル、グーグルが自動車産業を乗っ取る日」という書籍を出版している)全ての自動車メーカーから呼びだされました。今後どうなるのか意見を聞かせて欲しい、と。あの頃はまだ Apple CarPlay と Android Auto (AppleとGoogleが開発を進めるOSの自動車向けディストリビューション)くらいだったのでぼんやりとしたものではありましたが、最近では自動車メーカーだけでなくディーラーまで、役員レベルでは危機意識は浸透していると思います」

「ですが、現場から自動運転をサービス化しようという声が上がらない。結果、会社全体として、いつ何がどのように起こるかという共通の認識、ビジョンが作れない。『和』を持って働く文化ですから、一部の人間の思いや危機感だけではなかなか組織を動かせないという部分もあるのかもしれません」

海外では BMW や Ford のような業界2番手、3番手の企業は積極的にライドシェアやロボットカー、アフターマーケットなど、サービス領域での事業化に取り組んでいる。フォルクスワーゲンなどは、新規サービスについてはグループであるAudiを表に出しているようだ。一方で日本を見ると、業界2番手3番手がリスクを取って下克上を目指すというよりは、「最大手がやるならそれにならう」という文化。まずはトップであるトヨタがサービス事業を積極的に進めないと、国内では何も起こらないだろう。

そんな自動車メーカーを尻目に、テック系企業はアグレッシブだ。2015年には、ディー・エヌ・エーが自動車産業への参入を表明し、C2Cカーシェアリングの「Anyca」やZMPとのジョイントベンチャーであるロボットタクシーなどを展開している。 2016年に入ってからは、ソフトバンクが自動運転を研究する “先進モビリティ” と立ち上げた「SBドライブ」を立ち上げた。トラックやバスといった、比較的ルートが固定された環境での自動運転を目指していく方向だという。同じ分野では、ロボットタクシーも千葉で自動運転バスの試験運用を始めている。

彼らは理想を追わず、「2020年までにやれることだけやる、やれるところまでやる」というスタンスを貫いている。2020年というのはオリンピックの年でもあるが、日本政府が日本再興戦略の中で自動走行を実用化すると言っているタイミングだ。実は国内でも、内閣府や国交省が主導する形でレギュレーション作りが着々と進めてられているのだ。

ただ一方で具体的な目標はない。現在は競争相手が少なく、先行者利益が大きい。注目されており人もお金も集まりやすい時期なので、小さな投資で大きく育つ芽のあるタイミングと見ているのだろう。

自動車メーカーとテック系企業、それぞれのアプローチ

もちろん、自動車メーカーも自動運転の実証実験には積極的だが、テック系企業との違いは「ハード起点」か「サービス起点」か。ということになる。

自動車メーカーは、自動ブレーキやクルーズコントロールのようなADAS (Advanced Driver Assistance System:事故の可能性を事前に検知し、回避するシステム) と呼ばれるドライブアシスト系の技術から漸進的に発展して自動運転に持っていきたいようだ。イノベーションのジレンマを指摘する向きもあるが、100年間続いた産業を引っ張ってきたメーカーとしての「誇り」もあるのだろう。

一方で、メーカーがサービスに入ってこないのは「無人運転は当面実現しない」という冷静な分析結果でもある。もちろん技術的な問題や法整備も含めた制度の問題もあるが、倫理的な問題も存在する。例えば、事故が避けられない状況になった際、自動運転ソフトウェアは乗客を犠牲にして事故を最小限にするのか、はたまた通行人をはねてでも乗客を守るのか、プログラミングに際してどのようなポリシーを取るかという選択が突きつけられる。人間が暗黙的に、瞬間的に行ってきた問題でも、事前の実装という意味ではどうすべきか。「トロッコ問題」などと言われるこういった問題にも、答えを出すのは非常に時間がかかるだろう。

CarTech、日本のビジネスチャンスはどこに?

このような環境の中、日本国内にビジネスチャンスは残されているのだろうか。

全体のトレンドとしては、自動運転の前に「所有から利用」、つまりシェアリングエコノミーの波が来ると言われている。現状、一部を除き規制されている国内ライドシェアの領域は、規制緩和と同時にどこがスタートを切るか。Uber X も当然押してくるだろうが、国内で高い普及率を誇る「全国タクシー」を擁する日本交通も見逃せないだろう。

交通の便が不自由な地方では、リクルートの「あいあい自動車」のような取り組みはニーズがあるだろう。ただし、タクシーや公共交通すら成り立たない過疎地域で、事業会社が単独でビジネスを成立させるのは非常に難しい。ここは市区町村レベルでバラバラに動いている地方行政が協調して問題に取り組む必要がある。

一方で、人口集積率の高い都市部ではシェアのビジネスが成立しやすい。ライドシェア、カーシェアだけでなく駐車場や運転手、交通に関わるあらゆるリソースに可能性がある。なんといっても、自家用車は稼働率5〜8%と言われる超遊休資産なのだ。いずれも、都市部で普及してから地方へ、という流れになるのではないだろうか。

土地やガソリンなど、資源の乏しい国で本当に価値のあるものは何なのかを見極め、共有し、そして逆に何を持たないのか。目利きと実行力が鍵になるだろう。

開発・デバッグ、数百デバイスへの反映も一発、HerokuのようなIoT PaaS「Isaax」が登場

PaaSやBaaSの便利さは、Web開発者なら誰でも知っているだろう。特にプロトタイピングのとき、自分でサーバーを立てたりデータベースの設定など準備が不要というのは開発のハードルを大いに下げてくれる。コードをクラウドに投げれば即プロダクトが動き出す。おっと表示が崩れてるのはバグだ、修正、修正っと、またコードを手元で修正してプッシュすれば、これまた即サービスに反映される。Salesforceに巨額買収されたHerokuのようなPaaSは実に素晴らしいものだ。

ではIoTのサービス開発はどうか。

PaaSやIaaSがあるさ、オッケー、オッケー。バックエンドはNode.jsでもRailsでもいいね? でも、デバイスの管理とか認証、ハートビートとかどうするんだっけ? ていうか、数十台とか数百台単位でデバイスが広まったときのソフトウェアのアップデートって、何を使えばいいんだっけ?

そんな課題を解決する日本のスタートアップ企業、XSHELLが今日、IoT向けのプラットフォームサービス「Isaax」(アイザックス)をベータ版として公開した。同時に、グローバル・ブレインISID(電通国際情報サービス)に対して第三者割当増資を実施したことを発表した。実際の投資タイミングは2015年末と2016年8月の2度に分かれているが、2社合わせて総額8000万円のシード投資ということになる。

ISIDは最近Fintech関連のイベントのFIBCや、大手町のFintech拠点であるFino Labなどスタートアップ企業への投資や協業で知っている読者も多いと思うが、純粋なエンジニアリング方面での投資はめずらしい。金融システムや電通グループ向けシステムのほか、自動車産業向けのシステムなども手がけていることから、ISIDとしてはIoT時代への布石という意味合いもあるようだ。

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左からグローバル・ブレインの熊倉次郎氏(パートナー)、XSHELL共同創業者でCEOの瀬戸山七海氏、同COOのベセディン・ドミトリ氏

開封から15分以内でSlack温度計を実装、その場で投資決定

XSHELLを創業したのは慶應SFCに通っていた現在25歳の瀬戸山七海氏だ。情報系の学部在学中に起業して、複数デバイスの協調動作を取り入れたパワードスーツの開発をしていた。3体のパワードスーツが協調動作すれば、非常に重たい物体を持ち上げるときに多地点測量して重心を推定するなど、これまでにない価値が生み出せるのでは、と考えたそうだ。実際には安定した低遅延無線ネットワークを前提にすることができないためにリアルタイム処理は難しく、このアイデアはうまくプロダクトに結びつかなかった。このときの経験からIsaaxのアイデアにたどり着いたという。

Isaaxの説明の前に面白いエピソードを1つ。今回の投資を担当するグローバル・ブレインのパートナーでベンチャーキャピタリストの熊倉次郎氏がTechCrunch Japanの取材に対して語った投資の意思決定に関してだ。

デジタル温度計で室温を測り、それをSlackでつぶやく―、そんな良くあるIoTの習作のような成果物を投資家たちの前でピッチする15分間で実装できたら投資しようじゃないか、となった。瀬戸山氏は未開封のIntel Edisonのパッケージを開けるところから始めて、実際にSlackへ温度を投げるコードを15分足らずで完成。IoT開発の速度を上げるというバリュープロポジションに対して、実践デモで説得したそうだ。「誰も投資に反対とは言えませんでしたね(笑)」(グローバル・ブレイン熊倉氏)と投資の意思決定が行われたという。

さすがに自分が慣れた開発環境なら、たいていのものは15分でプロトタイプを完成させるライブコーディングくらいできるだろうとも思うが、興味深い話ではある。

CLIのコマンド一発で複数デバイスにコードを反映

Isaxx(アイザックスと読む、もう1度念のため。この記事中4度めの登場だけど)は、Herokuに似ている。Go言語で書かれたコマンドラインツールがあって、そのサブコマンドを使うことで、まずベースとなるコードの雛形を生成し、その後デバイスとクラウドに対して必要なコードを一発で転送できる。

「フルスタックエンジニア」という、それが何を指していて実際に生存が確認されているのかも良く分からない謎の言葉が生まれて久しい。ハードウェアやシステムに近いプログラミングから、モバイル、フロントエンドなど、あらゆるプログラミング言語や技術トレンドに精通していて、サービス全体を1人で実装できるエンジニアのことだ。

XSHELL瀬戸山氏は、IoT分野でそんなスーパーハッカーはほぼ存在しないという。

「IoT実証実験のコストは60%がソフトウェア開発だと言われています。IoTの開発にはデータ処理や認証技術、センサー、WAN、セキュリティー、製造管理などの知識が必要です。IoT検定というのがあるのですが、全部で19項目の知識が必要です。Wantedlyの全てのスキルセットを持つ人を検索すると60万人の登録中19項目全てのスキルセットを持つ人はゼロです。IsaxxではJavaScript、Python、Ruby、PHP、Golang、C++のいずれかの言語の1つが使えれば、デバイスのアプリも含めて開発、デバッグ、ローンチ後のアップデートなどが可能です」

リリース直前のMac版IsaxxのCLIツールをTechCrunch Japan編集部でダウンロードしてみたところ、サブコマンドとして「app show/create/delete」、「device show/init/config」、「cloud cluster/project/device/login/logout/quick」などが利用可能となっていた。例えばデバイス初期化コマンドを発行すると、デバイスの種類を聞かれ、デバイス側に常駐させるデーモンのバイナリイメージをネットからダウンロードし、これがデバイスに転送されるという流れ。クラウド操作のサブコマンドとしては、さらに「cluster create/register/deregister/list/status/delete」などがある。

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IsaxxはMIPS系も含めてLinuxが稼働するモジュール、RaspberryPi、Intel Edison、Onion Omega、Pocket CHIPなどが使える。Arduinoに対応しないのかという質問に対して瀬戸山氏は「今は1980年代に似ています。当時オープンシステム、専用機、汎用機が戦っていました。IoTも同じで、5〜8ドルのLinuxが主流になっていくと見ています」と説明する。

ハードの世界にウェブアプリの世界を持ち込む

Isaxxでは1デバイスでの開発とデバッグという「開発フェーズ」から、複数台での「検証フェーズ」、数十台、数百台をセルラーネットワークで繋ぐ「事業フェーズ」まで対応する。コードの反映にかかる所要時間は開発や検証段階で1、2秒。数百台のデバイスにセルラー経由でアップデートをかけるとなると、さすがに3分程度かかるそうだが、それでもこれは従来の組み込み開発やM2Mの世界からしたら、大きな進歩かもしれない。例えば、従来カラオケボックスのリモコンのソフトウェアアップデートとなると、個体管理やアップデートの仕組みがシステム化されてこなかったため、数百人がかりによる属人的な職人芸となっていた現場もあるそうだ。

XSHELL瀬戸山CEOは「ハードウェアの世界にウェブアプリの世界観を持ち込む」のがIsaxxの狙いと話していて、「例えば既存サービスに対して変更を加えて、後から登場したデバイスと連携するようなことが可能になります」という。これまでIoTの実証実験で7人の開発者で6カ月(2400万円)ほどかかっていたものを、1人の開発者、2週間の開発期間(50万円)に短縮できるとしている。何より、ウェブ開発で使われるプログラミング言語であれば使える開発者は非常に多い、というわけだ。

JavaScriptだけできればIoTサービスのプロトタイピングが可能になる、という世界観は興味深い。ただ一方で、実際の製品レベルのサービスにしていくときに、各分野の知識なり専門家なりがなくていいのかと言えば、そんなわけにはいかないのではないか。北米市場の話だが、現在販売されているスマートロック16種のうち12種でセキュリティーが破られた、という話がある。「セキュリティーについてはプラットフォームが保証してくれています」と開発者が言うようなプロダクトは、ぼくなら使いたくはない。IoTで広く使われるプロトコル、MQTTのベストプラクティスを知らずに消費電力やトラフィックといったリソースの最適化ができるとも思えない。

もう1つ、すでにIoTと呼ぶべきデバイスやプロダクトを開発している人であれば、「Linuxモジュールが対象」という点に違和感を覚えるかもしれない。多くのIoT製品は、そもそもOSを搭載していないからだ。カラオケのリモコンのようにリッチなUIを扱う組み込みデバイスと呼ぶべきものが対象であればいいが、Linuxのフットプリントはそこまで小さくない。特にスマホを経由して使うタイプのIoTであれば、複雑な処理はiOS上で行うというのも現時点では現実的なアプローチだろう。そう考えると、Isaxxは、今後1年とか2年かけて実用性を検証するユースケースで、ある程度ノード側に処理をオフロードするタイプのアプリケーションから立ち上がる市場がターゲットになるのかもしれない。

XSHELLでは今回のIsaxxのプラットフォームサービスのほかにも「Rapid」と名付けた受託開発サービスも提供していく。これはPoC案件(Proof of Concept)を中心として、自分たちのサービスのドッグフーディングをする意味が強いのだとか。「顧客を巻き込むという意味もありますが、PaaSとしてやっていくためにはベストプラクティスを知ってないといけない」(瀬戸山CEO)。

IoT市場の予測として2020年に全世界で530億台のデバイスが稼働するという数字を総務省が発表している。XSHELLでは、このうち国内シェア0.8%(770万台)を獲得して1デバイスあたり月100円の課金となれば、年商100億円となるとソロバンを弾いている。「IoT、IoTと言われ始めて2、3年して、なぜ誰もIoTでブレークスルーできていないか? それはPoCの数が少ないから。開発コストが高くて稟議が通らないという事情もあるのではないか」と瀬戸山CEOは話す。ちょうどHerokuがそうだったように、「プロの事業会社から、趣味のホビィストまで、誰もが使えるIoTプラットフォームサービスを作りたい。そういうミッションもあります」という。