Genuine Startupsが世界的デザインコンサルのIDEOとタッグ、新VC「D4V」を設立

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

左からトム・ケリー氏、高野真氏、谷家衛氏

MOVIDA JAPANの投資部門を引き継ぐかたちで2014年にスタートしたベンチャーキャピタルのGenuine Startups。MOVIDA時代からスタートアップ投資を担当していた伊藤健吾氏に加え、元ピムコジャパン取締役社長でアトミックスメディア代表取締役CEO・フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏、あすかアセットマネジメント取締役会長の谷家衛氏の3人体制で投資を進めていた同社が、世界的なデザインコンサルティング会社であるIDEOと組み、新たなベンチャーキャピタルを設立することを発表した。

Genuine StartupsとIDEOで設立するのは「D4V(Design for Venturesの略)合同会社」。出資比率はGenuine Startupsが60%に対して、IDEOが40%となる。会長にはIDEO共同創業者のトム・ケリー氏が、CEOには高野真氏が、COOには伊藤健吾氏がそれぞれ就任。ファンディングパートナーは前述の3人に加えて谷家衛氏、IDEOディレクターの計5人。これに加えて、ソニー元CEOの出井伸之氏、ハリウッド俳優でプロデューサーのマシ・オカ氏がエグゼクティブアドバイザーとなる。

D4Vでは2017年3月をめどに日本の事業会社や金融機関をLPとした50億円規模のファンドを組成する予定。最終的には米国など海外LPを含むファンドの組成も視野に入れる。なおGenuine Startupsが組成していた2号ファンドは、D4Vの新ファンドに移管することになる。

投資対象とするは、国内・海外の両方の市場にインパクトを与えるアーリーステージのスタートアップ。これまでスタートアップ投資に関わってきた伊藤氏に加え、金融系のバックグラウンドを持つ高野氏や谷家氏が中心となって大企業とスタートアップの橋渡しを支援。また一方では、IDEOがデザイン思考やベンチャーデザインに関する知見を提供するという。

「4つのエレメント(ここではGenuineの3人のパートナーとIDEOを指す)は全て違いを持っている。スタートアップ投資のネットワークがあるのが伊藤。谷家さんエンジェル投資家としていくつかの事例を成功しており、アントレプレナーの間では『ビッグブラザー』的な存在。私は2年前にForbes(日本版のフォーブスジャパン)を立ち上げるまでは金融畑で、そのコネクションがある。これにIDEOが入ることでグローバル展開、デザイン思考といったものが実現できる」(高野氏)

だが、バズワードになっている「デザイン思考」をスタートアップに無理矢理持ち込もうとしたプロジェクトではないのだそう。「本質は色んなバックグラウンドの人が一緒に作っていくこと。人が共感するサービスやビジネスを作る。IDEOにはそういった経験がある」(野々村氏)

では、世界的なデザインコンサルであるIDEOがどうして彼らと組み、日本のスタートアップの支援に乗り出すのか?トム・ケリー氏は次のように語る。

「日本といえば——多少の変化はあるにしても——『大企業が成功している国』と思っていた。だが、(スタートアップ向けイベントの)Slush Asiaに参加してその考え方は大きく変わった。大企業で働く人たちだけでなく、起業する、起業を継続するという人が集まっていた。もしかしたらスタートアップに投資する完璧なタイミングが整っているのではないかと考えるようになった。そうと思っているところでD4Vの提案を頂いた。IDEOは世界で9カ所にオフィスを構えてコンサルサービスを提供してきた。私たちのビジネスも多様化していかなければならないと考えていた時期だった」

またケリー氏は、創業期のアップル社を例に日本の状況を語る。

「日本はジョブズ(スティーブ・ジョブズ)がHP(Hewlett Packard)で働いていたウォズ(スティーブ・ウォズニアック)に出会った状況に近い。ジョブズについては知られているが、アップルを世界に羽ばたくまで育て上げたのはウォズのテクノロジーの知識。日本の大企業にはウォズが埋もれているが、それを開放していかないと行けない。堅牢なベンチャーが育つ環境作りを促進したい」

デザインコンサルティングファームとして知られるIDEOだが、クライアントとしてスタートアップを支援してきただけでなく、実はスタートアップとの協業プログラムを展開するほか、スピンアウトを前提とした新規事業を社内で立ち上げるなどしてきている。例えばIDEOと組んで生まれた「PillPack」は毎日飲む薬を1回分ごとに個装して提供することで、飲み忘れを防げるというプロダクトだ。また「Omada Health」はIDEO社内で立ち上がったプロジェクトで、糖尿病予防プログラムなどを提供している。

元ピムコジャパン社長の高野真氏がGenuine Startups共同代表に——大企業との“橋渡し”を強化

左からGenuine Startupsの伊藤健吾氏と高野真氏

シードアクセラレーターのMOVIDA JAPANからスタートアップ投資の機能をスピンアウトして生まれたGenuine Startups。現在2号ファンドの組成中であるこのベンチャーキャピタルに元ピムコジャパン取締役社長で、アトミックスメディア代表取締役CEO、フォーブスジャパン発行人兼編集長の高野真氏が共同代表参画した。同氏はすでにGenuine Startupsの株式の4割を取得しているという。

MOVIDA JAPANは創業期のスタートアップに対して、育成プログラムと数百万円規模のシード投資を行っていた。これはMOVIDAの代表であった孫泰蔵氏やMOVIDAから独立したGenuine Startups代表の伊藤健吾氏が、シリコンバレーのようにスタートアップが数多く生まれ、そのほとんどが死に、残った中から優れたプロダクトが生まれるという「多産多死」モデルの構築を提唱するところからスタートした。

伊藤氏はMOVIDAから始まった投資活動や、周辺環境の変化によって「起業への世の中の見方は心理的なハードルは下がったのではないか」と振り返る。そして次の課題は「成功件数を増やすこと」だと語る。実際にMOVIDA、Genuineからは多くのスタートアップが生まれ、次のシリーズでの資金調達を成功するケースもある一方、まだIPOなど大きなイグジットが発表されていない状況で次の課題解決を掲げるのに違和感がないわけではないが、実際起業に対するハードルは心理的な側面だけでなく、資金、インフラなどさまざまな面で下がったのではないだろうか。

そうは言ってもスマートフォンアプリを作れば当たるという時代ではない。伊藤氏は「アプリのゴールドラッシュは終わった。インフラは早くなり、端末は優秀になった。クラウドで大量のデータも活用できるようになった。今後は既存のインダストリのプレーヤーと組んでいくことがトレンドになるし、買収にも繋がっていく。2号ファンドではその領域で投資をやっていきたい」と説明する。2号ファンドでは、食・農業、環境・エネルギー、金融、物流、教育、エンタープライズといった領域に投資していくのだという。

そこで課題となるのが既存のプレーヤーとの“橋渡し”だ。「大企業とスタートアップの連携」なんて言葉はこの数年いろんなところで聞いたし、大企業がスタートアップのサービスを導入するといった「お付き合い」程度の話はあっても、協業や買収といった規模感での連携はそうそう生まれてこない。そこで、もともと大企業や政界との親交が深く、個人でもスタートアップへの投資(Origamiやエニタイムズなどが同氏からの調達を発表している)を行う高野氏を共同代表に迎えたという。

「エスタブリッシュ層とのつながりを考えるとベテランの人と組みたいと考えていた。6月末に高野さんと出会い、8月末には共同代表になってもらった」(伊藤氏)。「政策的にもベンチャーは重要。Forbesでもそれを後押ししたいと思っていた。(孫)泰蔵さんとも、ベンチャーだけではなく大企業を巻き込んでいかないといけないと話していた。伊藤君は専門性やコネクションを持っており、僕は(エスタブリッシュ層)のバックボーンを持っている。サイロ型ではなく、広がりのあるビジネスを作っていく」(高野氏)

では具体的にはどういったことをやっていくのか? 2号ファンドでは今後、シード期のスタートアップに対して2000万〜3000万円程度の出資を行うほか、大企業が課題などを公開し、それに対して最適だというスタートアップが手を挙げるというようなビジネスマッチングも検討中だという。2号ファンドでは20億円規模のファンドを組成を目指す。

ところでForbesという雑誌の代表を務める高野氏が投資に携わることで、自らの手がけるメディアの内容にバイアスがかかったりしないのだろうか? これに対して高野氏は「(Forbesでは)提灯記事はいくらお金をくれてもやらない。なぜそんなことができるか? それは編集長がCEOだから。ビジネスのためにオーナーの顔を見る必要はない」と回答している。