新型コロナウイルスのパンデミックが現状に挑戦し、私たちが通常の生活だと思っていたものを完全に変えた。だがこれにより、様々な方法で世界に適応・参加する新しい機会が生まれた。最初のトレンドの1つは、現金が受け入れられなくなったことだ。
最初は大したことがないように見えたキャッシュレス取引への移行により、私の顧客体験はシームレスになった。財布を持たずに過ごすようになってから、なぜ現金を持っていたのだろうと思うようにさえなった。
キャッシュレスライフはかなり長い間アジア諸国で広く採用されてきた。だが、新型コロナがパンデミックになるまで、米国全体で広く採用されることはなかった。キャッシュレス取引の便利さは理に適っているが、この便利さが商取引の他の側面を犠牲にしないことを私は願っている。
キャッシュレス取引への移行により、私の顧客体験はシームレスになった。
キャッシュレス支出に関する問題として真っ先に思い浮かぶのが、利用しづらい点、手数料、軽率な支出だ。真のキャッシュレス社会を実現するために、考慮すべき5つのポイントを挙げる。
1.現在、決済処理業者は優越的な地位を有し、顧客に手数料を課している
キャッシュレス取引のために、私たちはお気に入りのバリスタ、小さな会社、独立したブランドとの最後の直接的な本物のつながりを手放した。私がクレジットカードや電話を取り出して支払うとき、私と売り手の双方が支払う手数料のことは頭にない。かつては手数料などかからなかった取引を成立させるためにそうした手数料を払っている。売り手との直接的なつながりを失ったことで決済処理業者は優越的な地位を獲得し、最大3%の不当な料金を要求することを可能にした。
バーチャルな支払いでは、私の現金は基本的に私の電話の中にあり、バリスタは私の目の前にいるが、その取引は現金取引のようには運ばない。売り手は私との取引で手数料を支払う必要がある。コーヒーショップの現金売上が新型コロナ前の20%だとすると、今ではその20%になってしまった売上に対して手数料を支払う必要がある。悲しいことに、売り手は時間が経つとともに価格を引き上げるようになる。過去の経験からいえば、キャッシュレス取引を採用すると、結果として顧客に手数料が転嫁される。
一律の値上げを通じて、電子的でシームレス、そしてかつてないほど安全な取引を実現するためのコストをいつも顧客が負担し、売り手を救済している。さらに顧客は、あらかじめ決められた設定でデジタルでチップを渡すように「強制」される。情緒的な社会契約としてのチップの意味をすべて消し去ってしまった。このニューノーマルは、以前は顧客が現金3ドルで買っていたコーヒーに、デジタルトランザクションでは4ドルを支払うことを意味する。
2. プラットフォームは取引手数料をなくすために新しいモデルを採用しなければならない
ソフトウェアとインテリジェントプラットフォームが幅広く利用され、サービスのコストが常に削減されているのに、なぜそのコスト削減がデジタル金融取引にまだ反映されていないのか。顧客はキャッシュレス取引が現金取引と同じように機能するよう要求すべきだ。
手数料モデルを継続するとしても、定期的に利用し、忠実で、検証済みの顧客がクレジットのコストに加えて取引に多額のコストを常に(直接的または間接的に)支払うのはなぜか。取引が定期的か新規かによって区別されるべきで、それに応じた適切な料金があるはずだ。
3. 支出に意識的になるよう促すプロダクトエクスペリエンスにすべき
デジタルカードやクレジットカードで支払うと、他人のお金で支払ったように感じられる。これは危険性のある感覚だ。ユーザーはお金がすぐに出ていくのを見ることがない。コーヒーの通常価格が3ドルだとする。そのコーヒーを現金で買うこととカードやデジタルウォレットで支払うこととは非常に異なる経験だ。
ポケットにある現金に限りがあるとき、支出という物理的行為(および場合によっては精神的苦痛)にともなう金銭感覚は異なったものになり、クレジットカードやデビットカードから支出する目に見えないお金とは違い、価値が高くなる。多くの点で、私たちが現金で支払うときに感じる静かな痛みが、無意識のうちに私たちの支出についての意識を高めてきた。
4. アクセシビリティと利用をすべての人に拡張しなければならない
キャッシュレス社会の考え方は、これまでのところ、銀行口座のない人々や銀行サービスの利用が少ない人々を広く包摂するものではなかった。新しいモデルを支えるには、サービスの行き届いていない層がソフトウェアを利用できるようにする必要がある。ユーザーが食料品店に足を運び、レジ係に100ドルを渡して、バーチャルウォレットにお金をアップロードできるようにしなければならない。
また、友人がバーチャルウォレットに100ドルを送金できるようにする必要がある。キャッシュレス社会が機能するためには、バーチャル決済が容易かつ確実に機能し、現金と同じようにあらゆる場所で受け入れられなければならない。
5. オープンウォレットへの道
フードデリバリーアプリで15ドルの食べ物を注文し、結局合計で25ドルを超えてしまった経験はないだろうか。配送料金、チップ、税金に加え、配送アプリはクレジットカード会社や決済会社が請求する手数料を相殺するため、さらに料金を上乗せした価格を設定している。そうした追加料金を回避するため、LyftやUberなどのアプリはACH送金による独自のデジタルウォレットの導入し始めた。
悲しいことに、こういったウォレットが広く採用されるまで、消費者がメリットを享受する可能性は低い。消費者は特定のアプリでしか使えないウォレットをもう1つほしいとは思わないため、普及していない。
今後の方法
消費者に真の力を与えるには、GoogleとAppleの両方がオープンAPI支払いシステムを使用してデジタルウォレットを開発し続け、すべてのアプリが無料で安全にやり取りできるようにする必要がある。そうすればGoogleとAppleのウォレットは変貌し、クレジットカードのゲートウェイになるだけでなく、銀行口座のない人々や銀行サービスの利用が少ない人々に対し、より良いサービスが提供される。
対面で現金を補充できるオープンウォレットが利用可能になれば、銀行口座を持たない人々や銀行サービスの利用が少ない人々をさらにサポートすることになる。バーチャルウォレットにある現金を、アプリ、ウェブサイト、または実店舗で手数料を支払うことなく使えるはずだ。また、銀行口座からウォレットに現金をチャージしたり、給与の一部を電話の中のウォレットに直接入金したりできるはずだ。売り手もGoogleとAppleに手数料を払わなくて済むため、ウォレットからの支払いから恩恵を受けられる。
代わりにモバイルウォレットの作り手は、ユーザーと売り手の発見と紹介に注力する新しいビジネスモデルを導入し、売り手への紹介に対して課金することができる。
それほど遠くない将来、新しいAppleまたはGoogleの電話を入手すると、そこにはウォレットが入っていて、あらゆるアプリや実店舗での支払い、またピア・ツー・ピアの送金に手数料無料で使えるようになる。デジタルウォレット内のクレジットカード、またはむしろクレジットラインは、Affirmのような融資サービスを利用するようになる。そうなれば、携帯電話のウォレットを使用するだけで、ガムのパックから高級時計、さらにはクルマまで何でも購入できる。
ゴールドマンサックスとマスターカードだけがクレジット分野のプレイヤーであってはならない。単純な取引に適用されている時代遅れの料金モデルを変革するために、デジタルウォレットの分野でイノベーションが必要とされている。
【Japan編集部】 本記事ライターのWisam Dakka(ウィサム・ダッカ)氏は、AIを利用した自動検索、パーソナライズされた洞察、最新のピアツーピア共有、そして取引と購入履歴に基づくリワードをユーザーに提供するソーシャル金融アプリケーションであるMeemoの共同創業者。
画像クレジット:simonlong/ Getty Images
[原文へ]
(翻訳:Mizoguchi)