サイバーセキュリティ上の脅威に晒されている医療業界

【編集部注】著者のRobert Ackerman Jr.は、アーリーステージのサイバーセキュリティ企業を対象とするベンチャーファームAllegis Capitalの創業者兼ディレクターである。また元政府関係のテクノロジーイノベーターやサイバーセキュリティプロフェッショナルを雇用するサイバースタートアップたち向けの、スタートアップ「スタジオ」であるDataTribeの創業者でもある。

情け容赦のないサイバーアタックが、あらゆる産業の企業をひどく苦しめ、そのダメージの修復に巨額の支出を強いている。そして混乱の中で失われるものが、他の産業に比べて大きな ―― しばしばとりわけ大きな ―― ものになる産業もある。ほとんど常に、怪しげな勢力からの注目を集めている企業被害者が、米国第2位の産業である医療業界だ。ハッカーによる業務妨害が、時間や、お金、そして操業停止につながるだけでなく、人命をも危機に晒すのだ。

医療業界自身も部分的な責任を負っている。患者へのケアの質を最大限に引き出すという素晴らしいお題目の下では、狭まった視野がそれ以外の要素への考慮を浅いものとしてしまう。特にサイバーセキュリティは後回しになる傾向がある。

総じて医療機関は、他の業界と比べると、サイバーセキュリティに対して半分程度の費用しか費やしていない。こうした理由や、盗まれた患者履歴のブラックマーケットでの異常な高値などから、沢山のハッカー集団が引き付けられ、病院は終わることのないサイバー戦場と化している。大手セキュリティ企業であるFortiGuard Labsは、2017年には1医療機関が1日あたり平均3万2000件の侵入攻撃を受けたと発表している。これは他の産業における平均値である1組織あたり1万4300件を上回るものだ。

明らかに致命的な攻撃もある。たとえば、メリーランド州を拠点とする巨大な医療グループであるMedStar Healthは、ランサムウェア攻撃によって厳しい機能不全に追い込まれた。特に人命が脅威に晒されたことで、全国ニュースの見出しとして取り上げられてしまった。よく知られたセキュリティ上の脆弱性を使った攻撃を受け、MedStar Healthは電子メールと膨大な履歴データベースへのアクセスを遮断されただけでなく、数日間にわたってがん患者に対する放射線治療を行うことができなくなった。

このようなトラブルは、多くの場合医師または他の医療従事者が攻撃者から送られたメールの開封を促され、その中のリンクや添付ファイルをクリックすることによって始まるのが典型的なケースだ。クリックによってマルウェアがPCにダウンロードされるこうした攻撃は「フィッシング」攻撃と呼ばれる。攻撃者はこのダウンロードされたソフトウェアを使用して、医療機関の財務、経営および医療情報システムにアクセスする。

攻撃者はまた、病院内ネットワークを使用して、人工呼吸器、X線およびMRI装置、医療用レーザー、さらには電動車椅子に至る、さまざまな接続された医療機械および機器に手を広げることができる。

ネットワークに接続されている医療機器は、ハッカーに乗っ取られて悪用される危険性がある。

病院やその他の医療提供者は、より良いサーバーセキュリティの習慣を身に付けなければならない。

脅威を複雑にしているのが、広く普及しているにもかかわらず脆弱な Internet of Medical Things(IoMT:医療機器のインターネット)機器たちだ。こうした機器は複数のサプライヤーの部品とソフトウェアを、あまりセキュリティに注意を払うこと無く統合している。個別の患者でさえも標的にされることがある。数年前、元米国副大統領のディック・チェイニーの医師たちは、攻撃者がこのような装置をハックして患者を殺す可能性があるという懸念について触れたレポートが出されたために、彼のペースメーカーのネットワーク機能を無効にした。

それは対処しなければならない差し迫った状況だ。病院やその他の医療提供者は、より良いサーバーセキュリティの習慣を身に付けなければならない。まず手始めに医療機関は、ソフトウェアへのパッチ適用と更新プロセスに対する、迅速性と徹底性を改善しなければならない。可能な限り組織は、ソーシャルメディア攻撃やその他の攻撃に備えために、組織的なサイバー意識向上の訓練を行うだけでなく、脅威情報と自動化を活用する必要もある。

IoMT機器が増えるにつれて、より入念なネットワークのセグメンテーションとインスペクションが必要となる。セグメント化された戦略をとることで、組織はネットワークの様々なポイントにおける、ユーザーやアプリケーション、そしてデータフローを制御するための検査基準や方針を策定することができるようになり、セキュリティ上の脅威をより素早く検出し隔離することが可能になる。そして、ネットワークの可視性の面では、医療機関はクラウドを含むネットワーク全体に対しての、より深い洞察を必要としている。

同時に、病院やその他の医療機関は、患者の記録の保護により留意しなければならない。紙による記録から電子化された電子健康記録(EHR:Electronic Health Record)への移行以来、一般的に記録は医師によって更新されたあと、他の病院の専門家に送られるようになった。ここでの問題は、病院という組織は、金融情報がロックされ共有されることがない銀行のような組織ではないということだ。こうした暗号化されていない情報は、利益を虎視眈々と狙うハッカーの攻撃に対して脆弱だ。

これに対する解決策として使われることが多いのが準同型暗号(homomorphic encryption)である。これは暗号化したままのデータ操作を可能とする興味深い技術であり、最も価値のある医療情報を保護できる素晴らしい可能性を秘めている。特にこの技術は、しばしばサイバー泥棒たちの標的になる、機密性の高い医療記録と個人識別情報(PII:personally identifiable information)を安全に保護することができる。

データが豊富に含まれるヘルスケア記録が、ブラックマーケットではクレジットカードの10倍以上の価値を持つというのは事実だが、この技術を用いることで最も攻撃的な「データ狙い」のハッカーを撃退することができる。

だがこうした改善は、十分な金銭的投資や労力の投入なしには成し遂げられない。病院が日々のケアの品質に、これ以上ないほどに焦点を当てていることは称賛に値するものの、彼らも時代が変わっている事に気付き、自分たちのミッションをより広い視野で眺めなければならない。そうしたことに追いついていないために、病院は多くの場合、止むことのないランサムウェア攻撃に対して支払いを行い、システムがダウンしている間に起きる可能性のある健康に対する脅威を最小化しようとする。

病院たちが変化への道を追求する上で直面する障害の中には、医療分野で激化しているM&A活動もある。異なる医療技術を含むIT統合への挑戦は、新しく併合された組織間での情報共有の必要性と同時に、新たな脆弱性を生み出してしまう。

医療機関の評判と信頼は、脅威の真の影響度への理解と、それらを防ぐための十分な対策をとることにかかっている。ヘルスケア業界には、セキュリティに関する能力を向上させること以外の選択肢はない。まさに私たちの生命が懸かっているのだ。

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(翻訳:sako)

ブランドワールド:中央集権化するエンターテイメント

私はハリウッドの興行収入を眺めることが好きだ。なぜならそれらは文化的トレンドに関する確度の高い統計的ビューを提供してくれるからだ。たとえば読者は、今月初めて、週末に米国で上映されたトップ10のうち8本が続編だったことを知っているだろうか?あるいは、2018年の前半にリリースされた映画は400本を数えるものの、総売上の40%近くがそのうちのたったの4本からもたらされていて、しかもそれらは皆スーパーヒーローものの続編だったことは知っているだろうか?

こんなことになるとは想定されていなかった。10年前には、ビジュアルストーリーテリングは大衆化されると考えられていた:新しいカメラ、新しい編集システム、安価なストリーミング、そしてBitTorrentが組み合わされて、高価な時代遅れのインフラストラクチャをもつハリウッドを凌駕すると考えられていたのだ。世界に広がる天才的な独立系映画制作者たちが、こうした新世代のツールを使い、徐々にハリウッドのスタジオやプロデューサーたちを、ビジュアルで物語性の高い文化の担い手として置き換えて行くと思われていた。

ああ、しかし。そんなことにはならなかったのだ。その代わりに、エンターテイメントの独裁帝国に、YouTube、Amazon、そしてNetflixといった、いくつかの新しい門番が加わっただけだ。新しい映画監督の時代を迎えることも、独自の動きやストーリーを取り入れることもなく、エンターテイメント業界は全く反対方向の振る舞いで巨大な成功を収めた。続編に倍賭けし、ブランドとフランチャイズを、法人ライセンス、製作委員会方式、プロデューサー主導のブランドエンターテイメントなどの巨大な世界へと広げてきた。それらはしばしば、映画、テレビ、書籍、ビデオゲーム、そしてテーマパークなどへ横断的に関わっている。マーベル・シネマティック・ユニバース(テレビ化されたものも含む)、DCエクステンデッド・ユニバース、スター・ウォーズ、スター・トレック、ハリー・ポッター、そしてジュラッシック・ワールド。

こうしたものは、それ自体は悪いことではない。私自身もそうしたもののファンだ。しかしこう問いかけることには意味はあるだろう:なぜ私たちはかつて予見されていたような、多くの優れた映画監督たちの、中央に縛られない広がりを目にするようにならなかったのだろう?そして、こうしたブランドワールド(ある世界観を中心に構成された世界)の圧勝が、長期的にポップカルチャーの草の根と次世代に与える影響はどのようなものだろうか?

最初の問いかけには2つの答えがある:コストと時間だ。映画やテレビの撮影や編集は以前よりもずっと容易になったが、セット、場所、俳優、そして脚本などは、どれも高価で簡単なものではない。優れたアマチュアの作品でも、プロフェッショナルの作品にはまだ遠く及ばない。そして確かに、TwitchやYouTubeのような興味深い新しいストーリーテリングの手段は存在しているものの、そのコンテンツが物語性のあるフィクションであることは滅多にない。そして暗黙的に(時には明示的に)何が人気があるものかを決めているゲートキーパーたちであるTwitchやYouTubeを通して、配信も収益化も行われている状態だ。

しかし、より重要なのは、生産手段を大衆化しても需要は増加しないということだ。テレビ番組の数を10倍に増やしても、(アクセスすることはもちろん可能だが)テレビを見る人が視聴に使える時間が、10倍に増える訳ではない。かつて、アクセス可能なマーケットが十分に大きく成長すれば、ニッチな聴衆から沢山のお金を稼ぐことができるという「ロングテール」理論が流行した。これは本質的には、聴衆の需要は「シンテール」ではなくて「ファットテール」(すなわち平均値からかけ離れた事象が、正規分布から予想される確率よりも頻繁に発生する)だという数学的な主張だった。

しかし、実際にはエンターテインメントに対する需要は、とてもシンテール(お馴染みのものに集中する)だったようだ。私たちの持つオプションが、増えれば増えるほど、すでに自分たちが知っている世界で、すでに知っているキャラクターがさらに求められているようにみえる。これは理にかなってはいる。新しい世界と新しいキャストに取り組むには多くの労力が必要だが、それが労力に値するものになるのかどうかには保証がないからだ。しかし結果として、ブランドワールドは徐々に広大なオープン世界のビデオゲームのように感じられるようになってきた。「メインストーリー」に付随した、サイドストーリー(ローグ・ワンやアントマン&ワスプなど)さえ生み出され、無限に新しいダウンロード可能コンテンツが生み出されているように見える。

私はまた、多くのチャプターに分かれ、多くのキャラクターで構成されている世界は、かつてよりもはるかに実現可能になっているのだろうと想像している。何故なら私たちはそうしたものたちに、より緊密にコネクトされているからだ。例えばインフィニティ・ウォー(アベンジャーズ)以前のマーベル映画を見逃しただろうか?まあ、その場合はいくつかの有名で重要なシーンを、映画全体をレンタルして観ることなしに、YouTube上で15分もあればチェックすることができる。あるテレビ番組の最新エピソードを見逃したりはしていないだろうか、またはただ単にその番組の結論を知りたくはないだろうか?十分な文化的反響があれば、VultureAVClub(どちらも米国のテレビや映画の話題が集まるサイト)が、おそらくCliff’s Notes(様々なテーマを簡単にパンフレット形式でまとめた情報サイト)として使えるような要点を投稿してくれることだろう。その気になればいつでも、映画館に飛び込んだり、真剣なビデオの一気見などの方法で、好きなブランドワールドに足を踏み入れることができる。

その他の興味深い疑問は:ブランドワールドの優位性が高まることが、次世代の作家、監督、プロデューサーたちにとって、どのような意味を持つのかということだ。明らかにプロデューサーたちは、これまでのように、作品を続編につなげて、続編をフランチャイズ化(世界観を基に様々な商業展開を行う)しようとしている。だが彼らはいまや新しいゴールを手に入れた。フランチャイズ化をブランドワールドの究極の目標にしようとしているのだ(ゲーム・オブ・スローンズ、ハンガー・ゲーム、ウェストワールドはその明らかな候補だが、それぞれは独自のハードルに直面している)。

明らかに作家と監督は、成功する可能性が最も高いものを創造したいと思うインセンティブを与えられる。だからといって、独立した1回限りの作品が排除されてしまうというわけではない。私たちはホラー分野(数々の名監督を輩出している)が、毎年「ゲット・アウト」や「クワイエット・プレイス」のような驚くべきヒットを生み出してきたことを知っている。しかし、それはクリエイターたちが物語と同時に世界設定にも焦点を当てることを意味し、ファン・フィクション(二次創作など)を多く生み出しやすくするだろう。結局、ブランドワールド内で書かれるものは、単にお金が払われるファン・フィクションなのだ(中国の急成長する市場でうまくいくかもしれないストーリーへの、インセンティブが与えられるクリエイターたちもいるだろう。だがその話はまた別の記事で)。

これもまた、何も本質的に悪いことはない。だが私が少し心配しているのは、ブランドワールドの数が増えるにつれて、需要が細り始めてしまう位に、エンターテイメントへの需要はシンテールなのではないかということだ。また1つのブランドワールドが大きくなり過ぎてしまうと、必ずしも成功し続けれられるとは限らないということは明らかだ(エイジ・オブ・ウルトロン(アベンジャーズ)、バットマンvsスーパーマン、失敗したスター・トレック映画、そしてソロ(スター・ウォーズ)などを思い浮かべてみよう)。ゲット・アウトのような、少々毛色の違うヒットは、受け入れ可能な程度に全体的な打率が高いので、資金を集めることができる。だが、もしブランドワールドが大衆のマインドシェアを取って、オリジナルな作品の打率がその制作費に届かないようになってしまったら、私たちはますますオリジナル作品を目にする機会を失ってしまうだろう。

そんなことが起きるだろうか?私にはわからない。しかしそうなっているかどうかを知るための良い方法は、数年後に週末興行収入を眺めて、トップ10のうち9つまでが続編かどうかをチェックすることだ。数字を見よう。それらは滅多に裏切ることはない。

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(翻訳:sako)

「未来の仕事」に備えて――終身雇用の終わりと教育、法制度のあり方

【編集部注】本稿はJim HimesとAlastair Fitzpayneによる共著。Himesは下院議員(コネチカット第4区選出)で、New Democrat Coalitionの議長。Fitzpayneはアスペン研究所Future of Work Initiativeのエグゼクティブ・ディレクター。

今年アメリカの大学を卒業する200万人もの若者の多くは、彼らの両親や祖父母が理解できないようなキャリアを進むことになるだろう。安定した職業やひとつの企業でキャリアをまっとうするような時代はもう終わったのだ。

ハーバード大学エクステンションスクールの学長を務めるHunt Lambertによれば、最近大学を卒業した人たちは、社会人生活の中で3つの異なるキャリアを渡り歩き、約30もの仕事に就く可能性があるのだという。さらに多くは個人事業主、もしくはフリーランスとして仕事に携わることになるため、健康保険や退職金、トレーニングといった重要な福利厚生を期待できない。

すでにテクノロジーや人工知能が仕事の中身だけでなく、業界全体を変えつつあると感じている労働者もいる。eコマースは小売業を変容させ、ビッグデータと自動化は製造業を変えつつあるだけでなく、近い将来、自動運転車がモビリティを変え、ドローンが小売業にさらなる変革をもたらす可能性さえある。最近発行されたレポートの中でMcKinsey Global Instituteは、2030年までにおよそ60%の職業で少なくとも業務の3分の1が自動化されると予測している。機械が徐々に「人間の」仕事をこなせるようになれば、労働者は以前とは違う仕事を担当するか、新たな仕事を求めて別の業界に移らなければならなくなる。

これこそが法制度を見直さなければならない理由だ。仕事の性質が変わり続けるなか、もはや私たちは労働者の保護・育成のために時代遅れのシステムや教育機関に頼ってはいられないのだ。そしてすべてのアメリカ国民が変化し続ける経済環境のなか成功をおさめるために、私たちは今考え、行動を起こさなければならない。最近New Democrat Coalition(NDC)は、未来の仕事というテーマに特化したEconomic Opportunity Agendaを発表した。この中でNDCは、労働者のスキルと求人のギャップを埋め、雇用者と被雇用者の関係を再考し、そして労働者と起業家を支援するというビジョンを謳っている。

仕事とキャリアが変化を続ける一方で、アメリカは未だに20世紀の世界のために19世紀に作られた教育・トレーニングシステムに頼り切っている。私たちの親の世代であれば、高等もしくは中等教育を修了していれば、安定した職と収入を期待できた。しかし今日の世界では、4年制の大学を卒業しても充実したキャリアを手に入れるために必要なスキルを身に付けることができないのだ。

テクノロジーやアメリカ経済の急速な変化に対応するためには、政府、雇用者、そして被雇用者が一丸となって、キャリアの進展に応じて労働者が新しいスキルを身に付けられるような、スキル習得に特化した柔軟な生涯学習システムを作っていかなければならない。さらに従来の教育システムとオンライン教育プログラムを一新し、より多くの人が教育にアクセスできるような政策が施行されなければならない。そうすれば、労働者はキャリアを確保できるだけでなく、テクニカルな教育を受けられ、自身のスキルを育めるようになり、同じ職業でよりレベルの高い仕事についたり、転職したりできるだろう。

しかしアップデートしなければならないのは、教育やトレーニングのシステムだけではない。雇用者、被雇用者、政府からなる20世紀の社会契約は、強固な中産階級を作り上げ、アメリカ経済が世界一になる基礎を築いた。しかし雇用者・被雇用者の関係をめぐる法制度は次第に過去の遺物となりつつある。

例えば失業保険は労働者を守るための社会保険システムの柱として1935年に生まれた。しかしこれはフルタイムの労働者のために設計された制度であるため、1950年代は約50%だった受給率は、2010年以降、30%未満に落ち込んでいる。つまり、従来の「被雇用者」という枠におさまらない、およそ1500万人もの労働者には、雇用者・被雇用者という関係が前提の20世紀に生まれた法制度が当てはまらないのだ。

だからといって、失業保険のような重要な社会保障制度の対象を少数の「ラッキーな」人たちだけに絞る道理はない。このような便益は、たとえキャリアが変わったとしても継続できなければいけないはずだ。

仕事の変化によって、労働力やテクノロジーに関する課題が生まれ、停滞を続ける賃金や起業件数がさらにそれを深刻化させている。経済を成長させるためには、バランスのとれた法制度を整備し、労働者の交渉力を高めつつ、雇用者が彼らのスキルを伸ばし、優秀な労働者を保持できるようにしなければならないのだ。

現状の法制度を「21世紀版」にアップデートするような革新的な政策、そして現状打破に前向きな雇用者――このふたつが揃えば、アメリカの労働者は変化の早い経済で成功するためのツールを手に入れられるだろう。

Image Credits: nonchai

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(翻訳:Atsushi Yukutake

宇宙技術の進歩に追いつけない宇宙法が、イノベーションを殺そうとしている

【編集部注】著者のLyon Brad Kingは、Orbion Space Technologyの共同創業者であり、ミシガン工科大学の宇宙システムRon and Elaine Starr教授、ならびに機械工学-工学機械科ディレクタである。

「ディスラプション」(Disruption)という言葉は、テクノロジーの世界で特に優れた開発や製品を表現するために(過剰に)使われている用語だ。とはいえ、この言葉の本来の意味は、そのカジュアルな意味とは正反対である:ディスラプションというのは「イベント、アクティビティ、あるいはプロセスを妨害する障害や問題」のことなのだ。現在宇宙技術が経験しているのは、この両者の意味のディスラプションである。

信頼できる見積もりによれば、今後5〜7年以内に、地球の住人たちは、これまでのこの惑星の歴史の中で打ち上げられてきたものよりも、さらに多数の衛星を宇宙空間に打ち上げることだろう。これは、最も良い意味でのディスラプションだ。しかしながらそこには深刻な問題が横たわっている。その興奮を粉砕し、星への歩みを遅らせるような真のリスクに、私たちは直面しているのだ。政府の検討事項の中では宇宙政策の優先度は高くない。このため、この不幸な規制不毛状況によって、現在最もイノベーティブな企業たちの計画が、古臭く時代遅れの規則や規制で悪い意味でディスラプトされようとしているのだ。

画像:Bryce Durbin/TechCrunch

既存の宇宙政策

既存の宇宙政策についての状況を知らない人のために説明すると、広く受け入れられている国際協定である“Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space including the Moon and Other Celestial Bodies”(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)は、1966年〜1967年に草案が作られ、協議され、そして署名されたものだ。一般にThe Outer Space Treaty(宇宙条約)と呼ばれているこの協定は、各国がその国から発せられる、あらゆる宇宙関連の活動に対して責任を持つことを規定している。その活動が、市民によるもの、企業によるもの、あるいは政府自身のものであるかは問われない。各国は、自国発のすべての宇宙物体を完全に管轄し、管理もしなくてはならない。

この協定に署名が行われた時点では、企業が宇宙空間で何かをしようとすることを予測できた者はいなかったということは指摘しておく価値があるだろう。ましてや企業が自分たちで衛星を打ち上げるなどということは想像することもできなかったのだ。

許可…そしてFCC

このような経緯から、米国政府が、私たちの国を起点とする宇宙活動と宇宙物体に対して責任を持っていることになるのはお分かりだろうか?このことが意味するのは、打ち上げられる全ての人物と全ての物体について知り、追跡しなければならないということだ。もちろんこれは簡単な仕事ではない。大気圏と宇宙の間に横たわるカーマンラインを、衛星が横切ろうとするときに、強制的な衛星検査を行うことは不可能だ。では、どうやってそれらを追跡するのだろう?打ち上げ前にそれらに対する許可を行うのだ。そして私たちはここで「許可」という言葉を使ったが、この言葉の大まかな意味は「政府の官僚的巨大泥沼」というものだ。

現在のシステムでは、FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)から許可を得ることになる。だがこれは奇妙な話だ。「人工衛星」について考えたときに、適切な専門機関としてFCCがまず心の中に浮かぶだろうか。ここでの理屈はこのようなものだ。もし何らかの物体を宇宙に打ち上げることを計画しているのなら、もちろんそれと何らかの通信をすることを計画している筈だ…命令を送信したり、あるいはデータを受信したり…そしてそれにはある無線の周波数の利用が必要で、それを調整しているのがFCCなのだ。ともあれFCCに連絡すれば、「車検」を実施してくれて、許可証を衛星のお尻に貼り付けてくれるというわけだ。

問題は、FCCが現在、衛星に関連するすべてのもののゲートキーパーになり、無線周波数とは関係のない多くの検査項目にまで手を広げていることだ。例えば、FCCは、すべての許可申請者に対して、衛星が地球の大気に再突入するときに、負傷または損害を引き起こさないことを証明することを要求する。そうした計算に、複数の疑わしい前提や曖昧な数学が含まれていたとしても不思議はないだろう。そしておそらくは他の機関(NASAとか?)の方が、こうしたことを上手くチェックできるのではないだろうか。

多くの検査項目の中でも特に、FCCは打ち上げ許可申請者に対して、衛星が宇宙で常に監視下に置かれて他の衛星との衝突の可能性を予見できるように、「追跡可能」であることを証明することを要求する。これこそが、人工衛星製造業者であるSwarm Technologiesがその小さいSpaceBee衛星を、IoT世界のディスラプトを狙って申請を出した際に、FCCから妨害(ディスラプト)された理由なのだ(この2つのディスラプトの違いがおわかりだろうか?)。 それらの衛星はこれまで軌道に乗せられたいかなるものよりも小さい(うらやましいほどのイノベーションだ!)、だがそれ故にFCCはそれらが衛星の追跡に使われる通常のレーダーでは見ることができないと結論付けたのだ。許可は下りなかった。これは混乱を招いている、なぜならより小さな衛星が、これまでも同じ機関によって打ち上げ許可が行われてきたからだ。

スタートアップの行く末

論理的な道筋は、FCCにへつらいながら合法的な許可を懇願することである。これは、巨大な航空宇宙企業が、衛星を10年かけて開発していた過去に行われていたことだ。しかし数ヶ月のうちに小さな衛星を開発するディスラプティブなスタートアップの身になって考えて欲しい。ベンチャーキャピタルからの資金をゼロに向かって一定の勢いで食いつぶしながら、自分自身の宇宙における技術が、次の大金を生み出すことを実証しなければならないのだ。FCCの受付で番号をとって順番を待ち続けていたとしたら、おそらくその結果は、許可証が破産した会社の住所に届くことになることが多いだろう。

こうした見通しに直面すれば、野心的で大胆なスタートアップたちが、限界を押しのけて、許可なしで運用した場合の罰則がどれほど厳しいものかを試してみたくなる誘惑に駆られることは疑いがない(そして実際、その手段がSwarmチームによって実行されたようだ)。現時点では、その行く末がどうなるかは誰にもわからない。最悪の場合、挑戦したスタートアップのビジネス全体を破壊してしまうだろう。だがいつまでかかるかわからないFCCの再審査プロセスのことを思えば、いずれにせよ破産は免れそうにない。

だが興味深い別の選択肢が存在している:企業はその衛星を別の国に輸出し、その国での宇宙許可プロセスを申請するという方法だ。だが言うまでもなく、米国企業が技術をオフショアにしようとする際に直面する連邦規制は、私たちが喜んで取り組みたいものではない。ああそれに、衛星を輸出するための法律はそれはもう面倒くさいもので、それに比べたら打ち上げ許可申請などは国立公園の入場チケットを買う程度の手間だ。

Made in Spaceによって開発されたロボットシステムArchinautは、衛星、宇宙船、あるいはその他の大型機器を、ゼロ重力下で製造、組み立て、そして修理することができる。

新しい宇宙時代のために壊れたシステムを直す

どのように壊れたシステムを直せばよいだろうか?すぐに国際条約を改正できるとは思えないので、宇宙条約によって定められた内容に規定され続けることを想定することが安全だろう。可能性のある政府による対応の1つは、既存の政策や法律の適用をより厳格にすることであり、違反者には手厳しい罰則が科されるというものだ。だがこうすることで予想される事態は:エキサイティングで新しいアイデアに取り組むスタートアップたちは窮地に追い込まれ、旧来の宇宙巨大産業たちは影響を受けないという結末だ。反対に、政府は厳格な姿勢とは反対を向き、単に軽い罰則を与えるだけで済ませることもできる。だがこのやり方はより多くの危険で極端な規制違反を招くことになり、責任ある宇宙関係者たちにとってただ危険なものへと結びつく可能性がある。

宇宙条約があるために、米国は常に、米国内から打ち上げられる全ての衛星を監視し追跡することが求めらる。FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)によって提案されているコンセプトもある、これは各衛星に無線ビーコンの搭載を必須とするもので、海上の船舶のように自分自身を識別情報を発信させる。これまでのところ、こうしたことはただ議論されているだけで、実行されているものは何もない。そうしている間にも、新しい宇宙違反者たちは、規制の壁を押し続け、旧来の企業たちは礼儀をしらない若造たちの無礼に激怒することになる。混乱を鎮めるための唯一の解は、新しい探求者たちに、自己組織化と自己警察の機能を任せてしまうことなのかもしれない。

いずれにしても、私たちは地球周回衛星だけにとどまることのない、宇宙政策と規制に対する先見的なアプローチを取ることが、強く求められている。もしこの先政府が、広範な商業活動に拡大可能な、包括的宇宙政策の必要性を無視し続けていた場合には、法的に致命的な、市民、商業、あるいは国際的な紛争が宇宙で起きるのは時間の問題だ。

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(翻訳:sako)

Boxが語るイノベーションへのアプローチ

毎日使っているソフトウェアとサービスが、どのように作られているのかを真剣に考える人はとても少ない。ただアクセスしたいときにそこにあり、ほとんどの場合うまく働いてくれると思っているだけだ。しかし会社というものは、ただ闇雲に出現したり拡大しているわけではない。イノベーションを続けるためにはきちんとしたプロセスと方法が必要だ、もしそうでなければ長続きはしないだろう。

Boxは、2005年の創業以来成長を続け、その年間収益は5億ドルを超えるまでになった。成長の過程で同社は、その中心を消費者むけのものから、企業のコンテンツマネジメントへとシフトした。そしてオンラインとファイル共有が主力サービスだったプラットフォームを拡張し、さまざまなコンテンツサービスをクラウドの中で提供するものとなっている。

私はつい最近、プロダクトならびに戦略責任者のJeetu Patelと話をする機会をもった。Patelの仕事の大きな部分を占めているのは、同社の開発チームを維持すること、そしてBoxプラットフォームを強化し、新しい顧客を引きつけ、収益を増加させる新しい機能に集中することだ。

基本的な考え方

問題を解決しようとする前に、まずその問題に取り組む適切な人びとのグループが必要となる。Patelによれば、チームを構築のためには、製品とチームの開発の指針となるいくつかの主要原則がある。それは、イノベーティブなソリューションを生み出し、資金と人員という意味でのリソースをどこに投入すべきかに集中させてくれる、ルールと行動基準から始まる。

図表:Box

イノベーションに関して言えば、市場の変化する要件に対応できるようにチームを構成しなければならず、今日のテクノロジー業界ではアジャイル(敏捷)であることが、これまで以上に重要だ。「チームに邪魔が入らず、十分なスピードと自律性が与えられるような、正しい構造を得るためには、イノベーションエンジンをチーム、モチベーション、人材採用の視点から構築しなければなりません」とPatelは説明する。

そして、顧客と市場を十分に把握する必要がある。そのためには、市場の要求を絶えず調査し、その要求に応えるためのプロダクトと機能の構築を目指さなければならないし、それらの賞味期限にも気を配らなければならない。

顧客から始めよう

Patelによれば、つまるところ、同社はそのプロダクトの不備な点を埋めていくことで顧客の役に立ちたいのだと言う。企業理念の観点の中心から眺めるとき、それは顧客から始まる。ひょっとすると、それは顧客への迎合を意味しているように聞こえるかもしれないが、ゴールを心の中にしっかり持てば、それが全体プロセスのための指標として働いてくれると彼は語る。

「私たちは心に持つ中核理念を元に、企業の中で働くひとたちの全てが、顧客の問題を起点に逆算して働くように仕向けなければなりません。しかし、その戦いの90%を占めるのは、解くべき正しい問題を選び出すことです」と彼は言う。

難しい問題を解決しよう

Petelは、解くべき問題の品質がプロジェクトの成果物の品質に直接比例すると強く信じている。その一部は、実際の顧客の苦労を解決することだが、エンジニアたちに挑戦することでもある。簡単な問題なら、ほとんどの場合には首尾よく解決することができる。しかし、その場合には最高のエンジニアリングの才能をもつ人たちを集める必要はない。

「もし多くの使命と目的を伴う真に難しい問題を考えていれば、本当に最高のチームを引きつけることができるのです」と彼は言う。

これは多くの価値を追加できる問題を探すことを意味する「あなたが時間を費やすために選ぶ問題は、現在市場に存在するものに対して10倍もの価値を独自に提供できるものでなければなりません」とPatelは説明する。もしそのレベルに達していないなら、顧客を動かす動機を与えることはできず、従って追求する価値のないものだと彼は信じている。

小さなチームを作れ

大きな問題を特定することができたら、その問題への取り組みを始めるためのチームを作る必要がある。Patelはチームを管理可能な大きさに保つことを推奨する、そして彼はAmazonの「2枚のピザチーム」アプローチの信奉者である…つまり2枚のピザでまかなえる8人から10人ほどのチームということだ。チームが大きくなりすぎると、調整が難しくなり、革新ではなく計画に時間が浪費されすぎるようになる。

「はっきり定義された程よい大きさのミッションを持つこと、そうしたミッションを遂行するための(小さな)チームを持つこと、そしてそうしたチームが敏捷性を保てるように大きくなりすぎないようにすること。そうしたことがプロダクトを開発する上でとても大切なコア運用原則です」とPatelは言う。

会社規模が拡大するに従って、それはさらに重要になる。そのための鍵は、成長するに従って、少数の大きなチームではなく、多数の小さなチームで構成されるような組織にしておくということだ。そのようにすれば、チームミッションをより正確に特定できる。

Box製品の開発

Patelは、Boxで新製品を最終的に構築する際には、4つの重要な領域を見ている。まず第一に、それはエンタープライズグレードでなければならない、すなわち安全で信頼性が高く、スケーラブルでフォールトトレラントといった特性が必要なのだ。

もちろんそれが第一だが、コンテンツマネジメント市場で、これまでBoxを特別なものにしてきたのは、その使いやすさだ。彼はそれこそが、ソフトウェア主導のビジネスプロセスから、多くの障害を可能な限り取り除くものだと考えている。

次に、企業内のプロセスをインテリジェントにしようとすることで、コンテンツの目的を理解することになる。Patelによればそうした検討には、より良い検索 、コンテンツのより良い表出、そして、企業内のワークフローを通じてそのコンテンツを移動させる自動トリガーイベントなどが含まれると言う。

最終的には、それがワークフローの中にどのように収まるかを見ることになる。なぜならコンテンツは、企業内の空洞の中にただ置かれているわけではないからだ。それは一般的に明確な目的を持ち、コンテンツ管理システムは各コンテンツを目的のためのより広いコンテキストの中に、容易に統合できなければならない。

2回測定せよ

これらの小規模なチームにミッションを設定したら、素早く作業を進めることができるようにルールとメトリクスを確立する必要があるが、さらに彼らが会社にとって価値のあるプロジェクトに取り組んでいることを判別するために、守らなければならないマイルストーンも定義しなければならない。悪いプロジェクトにさらに金を注ぎ込みたくはない。

PatelとBoxの場合は、チームが成功しつつあるのか、それとも失敗しつつあるのかを示すメトリクスが、常に存在している。こう聞くとシンプルなものに思えるが、マネジメントの観点からミッションとゴールを定義し、それを定常的に追跡するためには、多大な労力が必要とされる。

彼はそこには3つの要素があると言う:「考慮することは3つあります、作るものに対するプランは何か、作るものに対する戦略は何か、そして私たちそれぞれの協調レベルはどの程度なのかです。こうしたことが実際、作るものが成功するか失敗するかに大きく関わってくるのです」。

結局のところ、これは反復的なプロセスである。そのプロセスは企業が成長し発展するにつれて進化を続け、それぞれのプロジェクトや各チームから学んでいく。「私たちは常にプロセスを見て、調整が必要なものは何だ?と問い続けています」とPatelは語った。

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(翻訳:sako)

画像:Michael Short/Bloomberg/Getty Images

公共向けアルゴリズムには慎重な配慮が必要だ

【編集部注】著者のBrian Brackeenは、顔認識ソフトウェアを開発するKairosのCEOである。

最近MIT Technology Reviewに掲載された記事で、記事の著者Virginia Eubanksが自身の著書である”Automating Inequality”(不平等の自動化)について論じている。その中で彼女は、貧困層が不平等を増加させる新技術のテスト場にされていると主張している。なかでも、アルゴリズムがソーシャルサービスの受給資格を判断するアルゴリズムに使用されると、人びとがサービスを受けにくくなり、一方では侵害的な個人情報提供を強制される点が強調されている。

私は、法執行機関による顔認識の公的使用に関する危険性について、多くのことを語ってきたが、それでもこの記事には目を開かされた。アルゴリズムデータに基く決定によって、本当にサポートサービスが必要な人たちに対する支援が拒絶もしくは削減されてしまうという、不平等で生命を脅かす実情が存在している。

私たちは、住宅ローン、クレジットカード申請、自動車ローンなどの、私たちの生活について恣意的な決定を下す企業にはある程度慣れている。とはいえそうした決定は、決定のための直接的な要因にほぼ基いている、クレジットスコアや、雇用状況、そして収入などだ。これに対してソーシャルサービスに対するアルゴリズム的決定の場合には、受給者に課せられる強制的なPII(個人特定情報)の共有と組合せられた、徹底的な調査の形のバイアスが存在している。

Eubanksは、例としてAllegheny Family Screening Tool(AFST:アレゲーニー家族スクリーニングツール)を利用する、Pittsburgh County Office of Children, Youth and Families(ピッツバーグ郡、青少年、および家族のためのオフィス)を挙げている。このツールは統計的モデルを用いて幼児虐待やネグレクトのリスクを評価するものだ。このツールを使用すると、貧困家庭の割合が不均衡に増えることになる。なぜならツールのアルゴリズムに供給されるデータは、公立学校、地方住宅機関、失業サービス、少年保護観察サービス、そして郡警察などから得られることが多いためだ。基本的に、ここに集まるデータはこうしたサービスを利用したりやりとりのある事の多い、低収入の市民たちから得られるものが多くなる。反対に、私立学校、子守サービス、プライベートな精神衛生および薬物治療サービスといった、民間サービスからのデータは入手できない。

AFSTのような決定ツールは、貧困を虐待の危険性の兆候としてみなすが、それはあからさまな階級差別である。そしてそれはデータの非人道的取り扱いの結果なのだ。法執行機関や政府監視におけるAIの無責任な使用は、生存を脅かす真の危険性を秘めている。

Taylor Owenは、2015年に発表した“The Violence of Algorithms”(アルゴリズムの暴力)という記事の中で、彼自身が情報分析ソフトウェア会社のPalantirで目撃したものを報告し2つの主要な点を指摘した。1つはこうしたシステムは、ほぼ人間によって書かれ、人間によってタグつけされ入力されたデータに基いているということ、そしてその結果「人間の偏見とエラーで溢れたものになってしまう」ことだ。そして2つめに彼は、こうしたシステムが徐々に暴力に用いられるようになっていることを示唆している。

「私たちが構築しているのは、世界の巨大なリアルタイム3次元表現です。私たちの永久的な記録…しかし、こうしたデータの意味はどこから来たのでしょうか?」と彼は問いかけ、AIとデータセットに固有の問題を明示した。

履歴データは意味のあるコンテキスト与えられた場合にのみ有用なものとなるが、多くのデータセットには与えられていない。ローンやクレジットカードのような金融データを扱おうとしているときには、前述のように判断は数字に基いている。これらのプロセス中に誤りやミスがあることは間違いないが、クレジットの信用に値しないという判断が下されたとしても、警察がそれを摘発に行ったりはしないだろう。

しかし、逮捕データを判断時の主要なファクターとして利用する、法逸脱予想システムの場合は、警察の関与を招きやすくするだけでなく ―― そうすることが意図されているのだ。

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少数民族を対象にした、当時は完全に合法だった近代の歴史的政策を思い起こせば、ジム・クロウ法(南部の州で制定されていた人種差別法の総称)がすぐに心に浮かぶ。そして、公民権法が1964年に成立したにもかかわらず、1967年になるまでは先の法律たちは憲法違反であるとは裁定されなかったことも忘れないようにしよう。

この文脈からはっきりわかることは、憲法上黒人が完全なアメリカ人だとみなされるようになってから、まだたったの51年間しか経っていないということだ。現在のアルゴリズムバイアスは、それが意図的であれ固有のものであれ、貧困層と少数民族をさらに犯罪へと追いやり疎外するシステムを生み出してしまう。

明らかに、社会として私たちが担う責任をめぐる倫理的課題が存在している。私たちの総力を上げて、政府が人びとを殺し易くする手助けをすることを避けなければならない。もちろん、この責任を最も重く背負うのは実際にアルゴリズムを訓練する人びとではあるが ―― 微妙なニュアンスも良心も解すことのできないシステムを、明らかに情報の権限を持つ位置に置くべきではない。

Eubanksはその著書の中で、アルゴリズムを使い仕事をする人たちのために、ヒポクラテスの誓いに近いものを示唆して居る ―― 害意を持つこと無く、偏見を避け、システムが冷酷で厳しい抑圧者とならぬように。

この目的に向かって、Algorithmic Justice Leagueの創設者でありリーダーでもあるMITのJoy Buolamwiniは、顔の分析技術を責任を持って使用することを誓約した。

この誓約には、人間の生命と尊厳に対する価値を示し、致命的な自律的武器の開発に従事することを拒否し、そして個人に対する不当な追跡を行うための顔分析製品ならびにサービスを法執行機関に配備させない、といったコミットメントが含まれている。

この誓約は自主規制のための重要な第一歩であり、私は顔認識利用に関するより大きな草の根規制プロセスの始まりだと思っている。

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(翻訳:sako)

スマートスピーカーたちが示す2つの異なる道

Sonos OneとAmazon Echo ―― 2つのスマートスピーカーたちに対する実に面白い探求のなかで、BoltVCのBen Einsteinは、伝統的なスピーカーメーカーとインフラ巨大企業、それぞれのフラッグシップモデルにみられる興味深い違いを発見した。

その投稿は全部を読む価値があるが、要約するなら以下のようなものになるだろう:従来型のスピーカーメーカーのSonosは優れたスピーカーをデザインし、その最新のハードウェアを手直しすることでAlexaやGoogle Assistantのようなスマートホーム機能を入れようとしている。Einsteinによれば、The Sonos Oneは、なによりもまずスピーカーであり、スマートハードウェアとしての機能は二の次だということだ。

「ちょっと掘り下げてみれば、ほぼ全てに対して従来どおりのデザインと製造プロセスを見てとることができる。たとえばその一例だが、スピーカーグリルは、平らなシート状の鋼板であり、それが打ち抜かれ、湾曲した四角形に丸められ、溶接され、継ぎ目は平滑に仕上げられ、最後に黒く粉体塗装されている。この部品の見栄えは大したものだが、特にイノベーションがあるというわけではない」と彼は書いている。

一方Amazon Echoは、もしエンジニアが無限の予算を与えられ、人びとが話しかけることができるような何かを作れ、と言われたときに生み出されるようなものに見える。デザイン上の決定は奇妙で興味深いものであり、最終的には家庭内会話マシンである性格のほうがスピーカーであるという性格を上回っている。さらにそれは製造にとてもお金がかかる代物だ。

つやつやしたスピーカーグリルを外してみると、衝撃的な秘密があらわになる。これは押出成形をしたあと、回転させながらドリルで穴を明けたプラスチックチューブなのだ。家電製品を分解し続けてきた私の長い経験に照らしても、こんなやりかたで作られた大量生産プラスチック部品を見たことはない。生産タイムラインに対する概算をしてみたが、おそらく部品をある軸上で回転させ、それに対して複数のヘッドを持ったドリルで穴を開けているのだと思う。各穴を1つずつCNCドリルで開けていては、とても長い時間がかかってしまうからだ。もしこのような部品がどのように作られているのかに詳しい人がいるなら、是非教えて欲しい。何はともあれ:これもまた驚くほど高価な部品だ。

スマートスピーカーを15年間生産してきたSonosは、家電メーカーとしての名声は高い。一方Amazonは、そのデバイスを家庭の居間に入り込み、販売を行うための手段の1つとみなしているので、自前のハードウェアを作らずライセンスを行うだけでも十分なのである。したがって、この2つを比較するのは少々不公平ではある。Einsteinの見立てによれば、その従来どおりの製造技術に依存するSonosの将来性は明るいものではない。一方Amazonはその製品を実現するためには金を惜しむことがないのだ。だがSonosは驚くほど上手く協調して働くスピーカーを作っている。彼らはこれを15年にわたって続けてきた。もし彼らの製品を(私がそうしたように)、競合相手たちのオーディオ愛好ではない「ダム」スマートスピーカーたちと比べてみれば、UI、UXそしてサウンド品質すべてにおいて、Sonosがほとんどのものをはるかに凌いでいることがわかるだろう。

一方Amazonは、Amazonとのコミュニケーションを行わせるためのものを作っている。これが大きな違いだ。

とはいえ、EinsteinはSonosには明らかな欠点があると彼は考えている。Sonosは、AmazonとGoogle(そしてHomePodが何らかの先触れならAppleも)が先行する、スマート技術を追いかける立場だからだ。とはいえ、スマート機能を追加した優秀なコネクテッドスピーカーを作ることは、ホームシアターのあらゆる側面をカバーしたスピーカー製品のエコシステム全体を構築しなければならないことに比べれば、それなりの価値はある。

逆からみれば、Amazon、 Apple、そしてGoogleは、Sonosがリードしているオーディオ品質を追いかけている。この先、私たちの部屋のあちこちで、小さな丸いスピーカーたちが貧弱な音でSpotifyを流すようになっても、私たちは気にしないかもしれないが、良いウーファーセットもまた良いものである。この良い音へのノスタルジックな愛が、低解像度メディアを視聴するこの世代の傾向を生き抜くことができるかどうかは賭けであるが、Amazonはその賭けは勝ち目がないと思っているのだ。

いずれにせよSonosは強く魅力的な会社である。KickstarterとAmazonによってもたらされた家電業界の大規模破壊を行き残ったスタートアップであり、私がこれまでに利用した中でも最高の中級スピーカーを生み出しているのだ。Amazonは素晴らしく、ほぼ異次元と言っても良い製品を作っているが、それは容易にコピーすることが可能で、Amazon Echoの部品よりも少ないコストでホッケーパックに詰め込んでしまうこともできることを考えれば、Amazon自身の目標がスピーカー作りそのものではないことは明らかだ。

今後のSonosのIPOが成功するかどうかは、AmazonとGoogleとの付き合い方に、ある程度左右される。そして残りは製品自身の品質と、Sonosユーザーたちの献身に頼ることになるだろう。そうした善意は、大手インフラストラクチャプレイヤーたちとの契約ほどの価値は無いかもしれない。だが、人気は高いがともすれば押し付けがましい製品群で迫るAmazonやGoogleに比べて、Sonosの志は遥かに高い。GoogleとAmazonが侵入を狙う家の中に、Sonosは既に住んでいる。そこがSonosの勝てる点だ。

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(翻訳:sako)

靴のスタートアップたちの足取りは軽い

ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」に登場した、靴を愛する主人公キャリー・ブラッドショーが、フットウェア(履物)のベンチャーキャピタリストでなかったことは喜ぶべきことだ。このテレビの登場人物が愛した、価格も高く、きわめて歩きにくい、ハイヒールという代物は、現在の靴スタートアップの世界ではもっとも資金を集めにくいコンセプトだからだ。

フットウェアの世界に少しでも触れてみると分かるが、ベンチャー投資家たちが重きを置いているのは快適さである。

少なくとも、それが最近の資金調達事情が示すものだ。Crunchbaseのデータ分析によれば、過去1年半の間に投資家たちは、靴関連のスタートアップに約1億7000万ドルをつぎ込んでいる。その大部分が、人びとが実際に歩くために使いたいと思うフットウェアの、売り手やデザイナーたちに向かっている。

多くの資金を集める企業のスタイルは様々だ。中古スニーカーの取引市場からハイエンドデザイナー、そして幼児用のプレイシューズまであらゆるものが揃っている。スタートアップたちはまた、あまり使われていない素材を使った実験も行っている。使用済みペットボトルや、メリノーウールやその他の材料を、品の良い履物へと仕上げるのだ。

以下では、スタートアップたちが市場に入り込むために、マーケットトレンドをどのように活用しているのかを見ていこう。

成長するマーケット

最近のフットウェア業界の資金調達活動は、業界におけるいくつかの前向きな展開の結果であることに留意すべきだ。

まず何よりも、これは巨大で成長している業界だ。最近のある報告によれば、世界のフットウェアマーケットは2017年に2460億ドルに達し、年間成長率は約4.5%となっている。

第2に、株式市場が強い。世界で最も評価額の高いフットウェア会社ナイキの株式は、過去9ヶ月間に50%以上値上がりし、時価総額は1300億ドルに達している。アディダスを含む、より小さいライバルたちの株式も好調だった。

第3に、男性たちがフットウェアに費やす金額が増えている。彼らは長い間、靴購入に関しては消極的なジェンダーであると分類されてきたが、男性たちはより多くの金をフットウェアにつぎ込むようになり、女性との支出ギャップは埋まりつつある。

スニーカーの隆盛

男性ならびに女性の両者が、スニーカーへより多くのお金を使うようになっていて、ベンチャーキャピタリストたちの注目を集めている。スニーカーやスニーカー関連のビジネスは、よりカジュアルでスポーティなスタイルを求める消費者が増える中、フットウェアスタートアップ資金の大半を占めている。

そのイノベーションの大部分は、高価で高性能な靴の販売とデザインに由来する。例えば、最近の数ヶ月で最大のフットウェア中心のラウンドは、GOATを対象にしたものだ。GOATはレアでハイエンドな靴に特化した、オンラインスニーカー市場の運営業者である。創業3年目を迎えたロサンゼルスを拠点とする同社は、この2月にシリーズCで6000万ドルを調達した。

最近資金調達を行った他のスニーカー企業には、オークションスタイルをとるGOATの競合相手のStockX、ストリートウェアの小売業者Stadium Goods、そして子供向けの高性能運動靴を作るSuper Heroicなどがある。

スニーカーの資金調達のスパイクが、業界の成長傾向のど真ん中に出現している。前述したように、その多くは男性によってドライブされている。しかし、アナリストの指摘する、また別の強気なスニーカートレンドの1つは、女性の購買習慣の変化だ。おそらく、痛みを伴わずに数ブロック以上を歩きたいという希望から、私たちはハイヒールをやめて、より多くのスニーカーを買うようになっているのだ。

スタイリッシュで環境にやさしく

より快適なフットウェアへの需要は、より多くのスニーカー販売につながっているだけではない。ベンチャー投資家は、他の快適な靴のスタートアップ、中でも特に環境にやさしいオプションを持つ企業にも、潜在的な可能性を見出している。

この領域に属するのがAllbirdsだ。メリノーウールによるカジュアルなスタイルの靴を作るこの企業は、これまでに2700万ドル以上を調達している。その一方で、リサイクルされたペットボトルから靴を作り出し、それを約125ドルで販売するRothy’sは、700万ドルを調達した。

スリッパもまた、資金の集まる場所だ。昨年の秋に行われたBirdiesに対する200万ドルのシードラウンドがその証拠である。この企業は、家の中はスリッパで歩き回りたいが、ダサいスリッパはごめんだ、という人たちのためのフットウェアメーカーである。

そして前述したように、最近はハイヒールにフォーカスしたスタートアップが多くの資金を調達しているようには見えない。しかし、様々な高さのヒールを提供するデザイナーたちは、それでもまだ大きなラウンドを獲得できているようだ。このカテゴリに含まれる企業の例がTamara Mellonだ、この創業2年のブランドは、フラットからスパイクヒールまでの全範囲をカバーするシューズデザインポートフォリオへ拡大するために、4000万ドル以上を調達した。

しかし、それで儲かるのだろうか?

最近の事例をみる限り、靴のスタートアップでよいエグジットを行うことは可能のようだ。だがもちろん、倒産したり停滞することもあり得る。

近年みられた顕著な倒産劇は、バンクーバーを拠点としていたShoes.comだ。昨年閉鎖されたこのオンライン靴小売業者は、残念な販売実績のために倒産に追い込まれたのだ。

現代の消費者たちが望むようなものを、提供できないことに気付いたものたちもいる。ごく最近では、これまでに2500万ドル以上を調達した、女性向けオーダーメイドシューズのスタートアップShoes of Preyが、事業継続のためにつなぎの資金調達を行った。数年前には、有名人たちの支援を受け、6000万ドル以上を調達した靴サブスクリプションサービスのShoeDazzleが、急激な値下がりと共に売却された。

一方3Dプリンティングとスキャニング技術の開発者たちは、M&Aのペースをさらに高めている。この 4月にはナイキは、3Dフットスキャンに特化したシードレベルスタートアップのInvertexを買収した。また昨年、治療用フットウェアでのリーディングカンパニーであるAetrex Worldwideは、3Dプリントによるカスタム医療装具と靴の中敷きのメーカーであるSols(ベンチャー資金を受けている)を買収した。

確かに、キャリー・ブラッドショーがカスタム医療装具に大金を払うエピソードを想像するのは難しい。しかしスタートアップ資金調達における、エグジット駆動の世界では、マノロ・ブラニク(高級シューズブランド)が退場し、スニーカーと中敷きが持ち上げられることは明らかなようだ。

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(翻訳:sako)

Image Credits: Li-Anne Dias

2018年が女性にとっての転換点になるかもしれないことを示唆する、50人の創業者とVCたち(その2)

火曜日に私たちは、素晴らしい2018年を迎えた25人の女性創業者とVCを取り上げた。本記事はその続編だ。今年の前半に、称賛に値する業績を成し遂げたさらなる25人をご紹介する。このリストは注目すべき興味深い企業やベンチャーファームでの、女性の増加にスポットライトを当てることが目的なので、(自覚はあるものの)どうしても長いものになってしまう。もし2018年に一定のマイルストーンを達成し、これから注目され女性リーダーとして取り上げられるべき他の女性をご存知なら、所属組織の情報と共に、twitterや元記事のコメント欄で情報を寄せて欲しい。

Shan-Lyn Ma:Zolaの創業者兼CEO

Shan-Lyn Maは、彼女自身が創業したウェディングレジストリスタートアップZolaに大きな野望を抱いていて、投資家たちも明らかに彼女の直感を信頼している。私たちにもその理由は理解できる。eコマース企業であるGilt GroupeならびにChloe + Isabelの元幹部であるMaは、もともと伝統的なレジストリープロセスを再発明しようという目論見でZolaを立ち上げた。だが今は、Maはそれにとどまらず、最終的には若いカップルが必要とするものすべてにアプローチする機会を狙っている。例えばケータリングからフードプロセッサ、果ては(おそらく)家のローンに至るまで。(訳注:ウェディングレジストリとは、カップルが結婚する際に、「ほしい物リスト」を公開し、友人たちや親戚たちにその中から贈り物を選んでプレゼントして貰う習慣である)。

それは順調に進んでおり、これまでに婚約したカップルたちを、600のブランドと6万の製品に結びつけた。先月ZolaはシリーズDで1億ドルの資金調達を行ったが、その資金によってその技術はより効率的になり、より広がることになる。「現在は、成長のために投資していますが、私たちが目指しているゴールは、ウェディングの全プロセスに関わる企業の皆さまのビジネスをサポートする巨大企業になることです。絶対に」と彼女は私達に語る。

Heather Mirjahangir Fernandez:Solvの共同創業者兼CEO

スタンフォードMBAであるHeather Mirjahangir Fernandezは、9年にわたりTruliaで、商品広告、マーケティング、そして販売戦略をリードしてきた。Truliaは不動産業者のためのツールを開発したりサブスクリプションサービスを販売している会社だ。しかし、TruliaがZillowに買収されたとき、Fernandezは自身が創業者になるための準備は十分に整っていると決心し、ヘルスケアスタートアップのSolvを共同創業した。この会社はForbesによれば「透明な価格設定と簡単な予約手段を業界に持ち込むことで、OpenTableがレストランに行っていることと同じことを、緊急ケアに対して行おうとしている」というものだ。(訳注:Solvは住所と自覚症状を入力することで、近隣の適切と思われる病院をリストアップする、予約もそのまま行うことできる)。

「現在ヘルスケアの世界には動きが見られますが、それが起きているのはコンビニエントケアというカテゴリです」とCEOのFernandezは語る。投資家たちは、Solvはそのプロダクトを使った緊急ケアのための予約に、特に強みを持っていると考えていて、この5月に調達が行われた1680万ドルを含み、既に2100万ドルが投資されている。

Amanda JohnsonとKJ Miller:Mented Cosmeticsの共同創業者たち

Amanda JohnsonとKJ Millerは、ハーバード・ビジネススクールのクラスメートとして出会った。現在彼らはMentedの創業者である。有色人種の女性(women of color:比較的政治的色合いの強い「有色人種の女性」を表す表現)たちのための化粧品会社であり、そのメッセージとプロダクト(有色人種の肌の色に似合うリップスティックなど)は強い主張を行っている。Millerが昨年の秋にForbesに語ったように、「女の子たちは友達を投稿にタグ付けしてきたけれど…有色人種の女性たちが後回しにされることは普通のことでした。優先されることは少ないのです」。

同社は確かに投資家たちの関心の的となっているようだ。昨年100万ドルのシード資金を調達したあと、先月にはまた別の300万ドルの資金調達を行った。その資金を使ってJohnsonとMillerはMentedのプロダクトのラインナップを拡大しようとしている。現在のラインナップは、リップグロス、アイシャドウ、ネイルポリッシュ、そしてMentedの名前を広めることを助けるアクセサリーなどだ。

Jen RubioとSteph Korey:Awayの共同創業者たち

Jen RubioとSteph Koreyは眼鏡販売業者であるWarby Parkerで働いていた時に出会った。そのとき彼らは、うっかりするとバラバラになりそうなほどひどい旅行カバンと、普通に給料を得ているミレニアル世代にとってさえ高すぎる旅行用スーツケースの間にある、市場の隙間に気が付いた。

彼らのソリューションが「ファーストクラスのスーツケースをエコノミークラスの価格で」提供するAwayだ。中間マージンをとるサードパーティを廃し、直接消費者に売ることでそれが可能になるとRubioとKoreyは言う。価格からは想像できないような優れた側面も持っている:Awayのポリカーボネートバッグは100もの部品で構成されているが、その中にはハンドルの下に装着されるリチウムイオン電池も含まれている。これは預け入れの際に航空会社の規則に従うために旅行者自身が簡単に取り外すことができる。こうしたことも投資家が好感を感じている点だ。まさに先週、初期からの投資家であるForerunner Ventures、Global Founders Capital、そしてComcast Venturesらの主導により、5000万ドルの新規資金調達が行われた。Awayの調達額は現在、合計8100万ドルに達した。

Lea von Bidder:Avaの共同創業者兼CEO

Lea von Bidderは、自分が起業家になりたいことに気が付いていた。その訓練を受けるために、彼女は、浙江大学、パデュー大学、EMLYON経営大学院で起業に関わる学位を取得し、さらにP&Gのマーケティングならびに、パリのEstrin & Co.の戦略コンサルティングを通して彼女の経営スキルを磨いた。

この全てがAvaへとつながった。Avaは別名妊活のためのFitbitと呼ばれるメディカル技術スタートアップだ。そのトラッキングブレスレットは9つの生理的パラメータをモニターして、呼吸数、心拍数、そして体温などからユーザーの妊娠しやすい期間を検出する支援を行う。

数多い他の排卵トラッカーたちとの競争にもかかわらず、投資家たちはAvaには何かがあると考えて、先月の終わりにはシリーズBで3000万ドルを投資した。Avaの新しい調達資金の大部分は、初期の投資家からのもので、著名な欧州のVCファームであるbtovとSVCもラウンドに参加した。

Afton VecheryとCarly Leahy:Modern Fertilityの共同創業者たち

サンフランシスコを拠点とするスタートアップのModern Fertilityは、女性に対して生殖に対する知識を人生の早い段階で教育したいと考えている。そうすることによって、女性たちが受け身ではなく「能動的に」なれるようにするのだ。こう語るのは共同創業者兼CEOのAfton Vecheryである。彼女は遺伝子検査会社23andMeの元プロダクトマネージャーであり、その前はヘルスケアに焦点を当てた未公開株式投資会社のアナリストだった。その2つの仕事を通してVecheryは、顧客に対して自身の体の情報を与える会社の数が増えていることに気が付いた。特に23andMeで、その情報を手頃な価格で提供することの大切さに気がつくこともできた。実際、自分自身の生殖機能に関する健康状態をより良く把握するために、生殖内分泌専門医の実施する1500ドルのテストに大金を払ったあと、Vecheryと友人と、創造的戦略家の共同創業者であるCarly Leahyは、大富豪でなくても注文できる類似のテストの開発に着手した。

彼らが開発したプロダクト ―― 家庭で指先を針で刺すことで行う199ドルのホルモンテスト ―― は、投資家たちの支援を受けてこれから伸びようとしている。テストが初めて顧客に提供された5月の末、Modern Fertilityは、MaveronとUnion Square Venturesが共同で主導したラウンドでの600万ドルの調達も発表した。

Sarah Smith:Bain Capital Venturesのパートナー

Sarah Smithは、QAサイトであるQuoraで広告販売と運用担当副社長を約5年務める前は、Facebookでおよそ5年にわたって、さまざまな役割を果たしていた。運用の専門知識を得る一方で、かつては音楽を専攻したこともあるSmithは、ベンチャーキャピタルの世界に参入したいという希望も抱いていた。その取組の一環にはVillage Globalの支援が挙げられる。これは起業家と投資家たちのネットワーク上でスカウトを行う若いベンチャーファームだ。Reid HoffmanやBill Gatesのようなビッグネームたちからも支援を受けている。Smithはまた、3年の間Graph Venturesのパートナーとして働いた。これは創立7年のアーリーステージ投資グループであり、彼女はそこで20の取引を扱った、その中には前回の記事で取り上げたWinnieも含まれている。Smithは最近、Forbesに次のように語っている「キャリアの次のステップを考えた時、ベンチャーキャピタルが複数の企業と仕事をする最良の方法だと思えたのです」。

最終的にSmithは、仕事を行う最善の場所をBain Capital Venturesと定めた。同ファームは5月の末にSmithを初の女性投資パートナーとして採用した。このファームが創立17年であることを考えると、大きな出来事だ。Smithにとっては、この機会は単に、BCVに考え方を変えさせ、(望むらくは)より多くの女性創業者たちを引きつけるようにする手助けをするだけのものではない。彼女自身にとってもスタートアップに対してより巨額の資金提供をするチャンスが与えられるのだ、現在BCVは6億ドルのファンドから投資を行っている(そしてまた別の大きな投資案件がそれほど遠くない未来に行われる可能性が高い)。

Preethi Kasireddy:TruStoryの創業者兼CEO

ICO(initial coin offerings)への投資は地雷原を行くようなものだ。これは、技術的な背景が全くない人だけに当てはまる話ではなく、技術に精通しながらも多くのプロジェクトのホワイトペーパーを理解することに苦労している多くの投資家たちにも当てはまる。そこでロスアンゼルスを拠点とするTruStoryの登場だ。人びとがブログ、ホワイトペーパー、ウェブサイト、そしてソーシャルメディアなどで行っているオンラインの主張を、調査し検証するユーザーのためのプラットホームだ。この若い会社の目的は「デジタルと分散の世界に確実性を取り戻す」ことだ。

少なくとも開発ができればそれは実現される筈だ。現時点で投資家たちは、TruStoryの創業者であるPreethi Kasireddyの才能に全面的に賭けている。ゴールドマン・サックスでバンキングアナリストの職を得る前は、彼女はUSCの大学院で産業ならびにシステムズエンジニアリングを学んでいた。またゴールドマン・サックスの後はAndreessen Horowitzの取引グループで仕事を行っていた。第3の仕事として、暗号通貨取引のCoinbaseで働いたことで、彼女はソフトウェアエンジニアリングを身につけた。このことで彼女は、Coinbaseの仲介プラットフォームとEthereumの統合に必要なフロントエンドインターフェイスとAPIのアーキテクチャ設計と実装を行うことができた。Kasireddyの物事を成し遂げる力を考えれば、Coinbaseの共同創業者であるFred Ehrsamを含む投資家たちが、TruStoryに今年300万ドルの投資を行ったことは不思議ではない。

Nicky Goulimis:Nova Creditの共同創業者兼COO

米国とカナダには5000万人以上の移民がいて、世界には2億4000万人以上の移民がいる。実際、移民は世界で最も急速に成長している人口集団(デモグラフィック)の1つであり、先進国の人口増の80%以上を占めることになると予測されている。しかし彼らが米国に、学生として、あるいは仕事のために到着した時点では、基本的には信用記録は皆無である。サンフランシスコに拠点創立3年のスタートアップNova Creditはこの問題に取り組む企業だ。すなわち貸し手、不動産管理者、その他の企業に、世界中の移民消費者を獲得するための、リアルタイムの国際信用調査報告を提供するのである。

同社の創業者のNicky Goulimisは、ギリシャ人として生まれイギリスで育った。会社のアイデアが浮かんだのはスタンフォードの大学院に通っているときで、彼女はすぐに自分の直面している問題に気が付いた。その中には、米国の信用記録なしにアパートを借りること(数ヶ月分の家賃の前払いをせざるを得なかった)、クレジットカードを取得すること(きわめて限度額の低いカードから始めざるを得ず、それを支払うことで、漸次限度額が高くなっていく)といったものも含まれていたが、何年もの間米国に移り住もうとする国際人全てにとって、問題となっていたのである。実際、彼女の2人の共同創業者の、Misha Esipov(両親がロシアから米国に移住)とLoek Janssen(オランダからスタンフォード大学へ留学)も、同じことを経験したのだ。

良いニュースは、投資家たちがこの問題への取組にチャンスが有るとみなしたことだ。今年の初めには、General CatalystとIndex Venturesが主導して、Nova Creditのための1600万ドルのシリーズAラウンドを行った。First Round CapitalとNyca、そしてY Combinatorも参加した。

Casey Lynch:Cortexymeの共同創業者兼CEO

サウスサンフランシスコを拠点とする設立5年のCortexymeはアルツハイマー病の治療薬を開発している。先月の末にシリーズBで7600万ドルの調達を行った。ラウンドに参加したのはSequoia Capital、Vulcan Capital、そしてAlphabetの子会社Verily Life Sciencesである。

同社のCEOはどのような人物なのか?Casey Lynchは、UCSFとスタンフォード大学でアルツハイマーの研究をしたバックグラウンドをもつ連続起業家である。彼女の最大の懸念は、私たちの身体はこれまで以上に長生きをするようになったのに、脳がしっかり働く期間は長くならないままだということだ。彼女はそれに対しても何かしようとしているのだ。具体的には、Cortexymeは、毒性のある細菌性タンパク質が、脳細胞を消化する酵素を分泌させニューロンが崩壊すると考えている。その目的を達成するために、Lynchの会社は何十人ものアルツハイマー患者の脳を観察して、そのタンパク質が問題と単に相関しているだけではなく、実際に問題を起こしていることを確認した。これらのタンパク質を取り除くために、Cortexymeが開発している狭域抗生物質がうまく働くかどうかはまだはっきりしていないが、明らかに投資家たち ―― 例えばPeter Thielがアンカー投資家として名を連ねる、初期投資家のBreakout Venturesなど ―― は、それが上手く行くと考えている。

Stephanie AlsbrookとGeorgine Muntz:defi SOLUTIONSの共同創業者たち

シリコンバレー界の人々はStephanie AlsbrooksあるいはGeorgine Muntzを知らないが、その5歳になるテキサス州に本社を置くdefi SOLUTIONSは、確かにBain Capital Venturesの注意を引きつけたに違いない。同ファームは先の1月、同社に対して5500万ドルの投資を行った。

何が魅力なのだろうか?まず、AlsbrooksとMuntzは、2人合わせると過去14年間を自動車金融の世界で過ごしてきた。この経験は彼らを自動車ローン業界に向けたSaaS(software-as-a-service)ビジネスを運営する上で、有利なポジションを与えている。それはまた巨大な業界だ。2016年には、米国における自動車ローン残高合計は1兆2000億ドルに達している。

Bainはまた、defiは借り手に対してはるかに大きな管理と設定の権限を与え、それによって借り手がローン全体のライフサイクルを、高価で時代遅れなプロフェッショナルサービス抜きに管理できるようにするのだと強調した。それは特に顧客が苦痛だと思う点に関して洞察を欠くと思われている世界では、重要なことである。

Alexandra Zatarain:Eightの共同創業者兼CMO

Alexandra Zatarainはサンディエゴで生まれ、ニューヨークに移住し広報活動に携わる前は、ほとんどの家族が住むメキシコのティファナで育った。もし彼女の父親が、末期がんに襲われ、多くのがん患者を苦しめる強さの喪失と体温低下に悩まなければ、彼女はまだPRを続けていたかもしれない。このことが、4400マイル(7081キロ)離れた父親を心配するZatarainに、彼を遠隔でモニタできるだけでなく同時により快適にできるようなプロダクトはどのようなものだろうかと考えさせた。

そこで登場したのがEightである。Zatarainが3人の共同創業者たちと4年前に設立したオンラインマットレス会社であり、そのベッドはユーザーの睡眠をトラックし、ベッドの両側に理想的な温度を設定し、「スマートアラーム」をセットすることも可能だ。既に699ドルから1299ドルの価格の3つのモデルのマットレスを販売しているスタートアップは、確かに投資家たちにとって安心できる対象だ。今年の初めにEightは、Khosla Venturesに主導されたシリーズBで1400万ドルの資金を調達した。Y CombinatorとYunqi Partnersもラウンドには参加している。同社は現在、総額で2700万ドルを調達している。

Marcela SaponeとJessica Beck:Hello Alfredの共同創業者たち

もともとMarcela SaponeとJessica Beckは、一度に1つのto-doアイテムを片付ける、雑用請負スタートアップを始めるつもりはなかった。ハーバードビジネススクールで会った2人は、自分たちの洗濯と食料品の買い物を支援するためにCraigslistの助けを借りてコストを分けあっているうちに、知り合いたちの注目を集めるようになったことで、そのアイデアをより深く掘り下げてみることにしたのだ。「それはちょっとした偶然の賜物でした」とSaponeは以前Business Insiderに語った。「私たちは自分たちのためにプロダクトを作ったのです、そして時間が経つにつれて、私たちのアパートにすむ人たちが『ねえ私も仲間に入れるかな?』と言ってくるようになったのです」。

時は経ち、創業4年を迎えたニューヨークを拠点とする彼らの会社Hello Alfredは、現在増えつつある訓練された家庭ヘルパーに頼っている。同社のヘルパーたちは週に1度のペースで顧客のあらゆる雑用を引き受け、会社は毎月のサブスクリプションフィーを顧客に請求している。これは投資家にとって安心材料となる。実際、ちょうど数週間前にHello Alfredは、不動産開発者のDivco WestとInvescoが率いる4000万ドルの新規資金調達を行った。Spark CapitalとNew Enterprise Associatesもそれに参加した。同社は現在、合計5200万ドル以上を調達している。

Alex FriedmanとJordana Kier:LOLAの共同創業者たち

2015年に設立されたLOLAの創業者であるAlex FriedmanとJordana Kierが、会社を設立した理由は、業界大手のTampaxとPlaytexに100%有機的な女性向け製品で挑戦できるチャンスがあると考えたからだ。Kierが数週間前にTechCrunchに語ったことによれば「私たちがLOLAを創業した理由は、シンプルで明らかなアイデアによるものです。女性として私たちは自分たちの生殖機能にかかわる健康に関して妥協する必要はないからです」。Kierは続けた。「ほとんどの女性たちと同様に、私たちも10代から同じ女性用ケア製品を使用していました。しかし、私たちが何年にもわたって使い続けてきたものも含むブランドたちが、その製品に何が含まれているのかを、正確に開示する必要がないということを知ったとき、そのことが私たちに疑問を抱かせました:私たちのタンポンには何が入っているの?」

同社が堅調な成長を続けているところを見ると、それはKierとFriedmanだけによって問いかけられたスマートな質問だったようだ。消費者たちへ直接届けるサブスクリプションアプローチも投資家にアピールしている。彼らはオーガニックコットンのみで作られ、香料や染料を含まないタンポン、パッド、そしてライナーを出荷している。今月初めにAlliance Consumer Growthが率いるシリーズBで、同社は2400万ドルを調達した。ラウンドにはSpark Capital、Lerer Hippeau、そしてBrand Foundry Venturesも参加している。同社は現在、3500万ドルを上回る額を調達している。

Alyssa Ravasio:Hipcampの創業者者兼CEO

Alyssa Ravasioはいつでもアウトドアを愛してきた。最近のForbesのプロフィールによれば、州立ならびに国立のキャンプ場に関して、キャンパーが知りたい全ての事(例えば近くにある面白そうなサーフィン可能な場所とかも含む)が掲載されたサイトを作りたいというアイデアを得て、彼女は開発者向けブートキャンプに参加した。それ以上の洞察がさらに得られた。それは私有地のオーナーたちを提携することによって、キャンパーたちに混雑したキャンプ場では味わえない種類の体験をするチャンスを提供するというものだ。

サンフランシスコを拠点とする設立5年の5Hipcampはこうして誕生した。旅行者がキャンプ体験を検索し予約するためのサイトを運営している。先月にはBenchmarkが率いるシリーズAで950万ドルを調達した。それは同社にとって、大きな出来事であり、より新しいニューヨーク発のライバルTentrrと戦う弾薬を与えることになる。Tentrrは今年の初めにシリーズAで800万ドルを調達し、この夏にも西部へと進出する予定である。

Ruzwana Bashir:Peekの創業者兼CEO

パキスタンからの移民の両親の元で、英国に生まれたRuzwana Bashirは、いつでも探検家だったのだと言う。それはオックスフォード大学で学んでいるときでも、ゴールドマン・サックスやブラックストーンのような投資銀行や未公開株式投資会社で働いているときでも、そして起業家になる前にGilt GroupeとArt.syでスタートアップの世界に飛び込んだ時でも同じだった。

なぜ起業に踏み切ったのだろう?イスタンブールでの友人の誕生パーティの計画に、20時間を費やしたBashirはその後、ユーザーが旅行で何ができるか、そしてどの業者を使うべきかの選択を、ワンストップで助けてくれる場所があればどんなに便利だろうと考えるようになった。

そこで始まったのがサンフランシスコを拠点とする創立6年目のPeekである。Bashirの表現{/1)を借りれば、それは「1000億ドルのアクティビティマーケットのためのOpenTable」ということになる。現在アメリカ、メキシコ、そしてヨーロッパの無数の都市で1万の体験を提供していると同社は言う。そのビジョンは投資家の琴線にも触れた。ちょうど2週間前、同社はCathay Innovationが率いるシリーズBで2300万ドルを調達した。このラウンドには多数の個人投資家が参加している。同社は現在、総額で4000万ドルを調達している。

Lisa Shields:Hyperwalletの創業者

6月中旬にPayPalは、創業18年のベイエリアを拠点とする企業Hyperwalletに対して、現金で4億ドルを支払うことを発表した。Hyperwalletは個人や零細企業がその販売するプロダクトやサービスに対する支払いを受け取る支援を行う企業だ。利用している企業には空室レンタルプラットフォームのHomeAwayや、スキンケアマーケティング企業のRodan&Fieldsなども含まれている。その魅力は何だろう?実はHyperwalletは現金ネットワーク、カードスキーム、そしてモバイルマネーサービスを、世界中のドメスティックなACH(自動小口決済システム)ネットワークと相互接続し、同社が「破壊的価格」と特徴付け、きわめて使いやすい大量の支払いを可能にしたものだ。

もしこの企業のことを目立たない企業だと思っているのなら、創業者であり元CEOのLisa Shieldsのことも、真の起業家であるにもかかわらずさらに目立たない人物にみえるだろう。もともとはバンクーバーでHyperwalletを創業した、MITで訓練を受けたエンジニアのShieldsは、昨年FI.SPANという名の2つ目の会社を創業した。これは銀行が新しいビジネスバンキング製品を素早く普及させることを可能にするAPIマネジメントプラットフォームだ。とはいえ、ステージを切り替える前に彼女は、EY in 2015においてEntrepreneur of the Year(今年の起業家)として表彰されている。そのとき彼女は「大変名誉なことで恐縮しています、もちろん大変驚いています」と語っている。

Cindy Mi:VIPKidの創業者兼CEO

Cindy Miは世界規模の教育マーケットプレイスの構築を、そのオンライン教育企業であるVIPKidの設立と同時に開始した。この企業は中国の生徒を北米の教師とマッチングするサービスを提供する。その理由を彼女は次のように述べている。彼女は15歳のときに小さな子供たちに英語を教え始めた。その時既に彼女が感じていたことは、世界が徐々につながっていく未来に向かって、こうした子供たちが力を得る手助けをしているということだった。

その努力を拡大するという彼女の夢は、Miに、教師たちに、そして生徒たちに、確かに良い効果をもたらしている。VIPKidによれば、同社は既に3万人以上の北米の教師たちと、20万人以上の中国人を中心とした生徒たちを、1対1の英語セッションでマッチングしており、教師たちには追加の収入と、都合の良い時間に教えるという柔軟性を与えている。このプラットフォームはまた、親たちに対して、身近な場所では得られないような教育を子供たちに与える機会を与える。VIPKidについて言えば、昨年の収益は7億6000万ドルだったと言われている。これは2016年に獲得した金額の倍以上だ。こうしたことから、6月にMiの会社が30億ドルという巨額の評価額の下に、新たに5億ドルを調達したことには不思議はない。

Carmen Chang:New Enterprise Associatesのゼネラルパートナー兼アジア地区責任者

Carmen Changは中国のスタートアップ事情の裏表を誰よりもよく知っている。以前はWilson Sonsini Goodrich & Rosatiの会社法ならびに有価証券法の専門家として、中国国内での業務を率いていたが、重量級ベンチャーキャピタルであるNew Enterprise Associates(NEA)によって引き抜かれ、それ以降5年にわたって同社の中国国内での業務を率いている。
もしNEAの5月末の発表の中に驚きがあるとすれば、その筆頭はChangが同社のゼネラルパートナーに昇進したことだろう。NEAの39年の歴史の中で、その最も重責の地位に初めて女性が就いたのだ。だがスタンフォード大学で法学を修め、10の会社の取締役会にベンチャーファームの代表として加わっているChangが、まだその地位に就いていなかったとは。

[原文へ]
(翻訳:sako)

2018年が女性にとっての転換点になるかもしれないことを示唆する、50人の創業者とVCたち(その1)

この数年間というもの、私たちは年末になると女性の創業者ならびに投資家たちのプロフィールをまとめてきた。彼らが巨額の資金を調達し、そうでなくても注目すべきマイルストーンを達成したからだ。

だが今年は12月を待つことはしない。私たちが目撃している進展にとても興奮しているからだ。女性の率いるスタートアップたちが、シード資金を得たり、シリーズAやそれ以降の調達を毎週のように行っている。一方トップベンチャーファームたちは、女性をもっとも重要なランクに登用しようとしている。女性のVCたちは手を携えて女性起業家に資金提供を行い、また独自のファンドを立ち上げる女性たちもいる。

このリストが包括的なものとはほど遠いと思う読者もいるだろう、その意見には素直に同意する。しかし私たちは、最後の1人まで余さずに取り込もうと時間を果てしなく使うよりは、注目に値する幾人かの女性たちの成果を祝う方が望ましいと考える。

この記事では、今年これまでに活躍してきた25人の創業者と投資家たちを取り上げる。続編のリストも近日中に登場するのでお楽しみに。

Brynn Putnam:Mirrorの創業者兼CEO

Harvardを卒業したBrynn Putnamは、かつてプロのバレエダンサーだったが、この先連続起業家としてより有名になるかもしれない。2008年にモントリオールのバレエ団で最後のパフォーマンスをしてから2年後、PutnamはニューヨークにブティックフィットネススタジオであるRefine Methodを立ち上げた。これは高度なインターバルワークアウトを目指したものだ。それは後にニューヨークで3つのスタジオとして広がり、ケリー・リパやイヴァナ・トランプといった有名人たちを引きつけた。

現在、Putnamはその資金を用いてMirrorという名の新たなビジネスを立ち上げようとしている、ジム利用者にさらに熱心に運動に励んでもらうことが目的だ。自宅に置かれた鏡のように見えるデバイスを使うものだが、それを通してユーザーはピラティスのようなフィットネスクラスの、インストラクターやクラスメートたちを見ることができる。Mirrorはまだ購入することはできないが、投資は既に行われていて、今年の始めの時点で同社は、あらゆる場所のフィットネス愛好家に対してその製品を届けることができるように、1300万ドルの資金調達を行った。

Ritu Narayan:Zūmの共同創業者兼CEO

Ritu Narayanは、YahooやeBayといった筋金入りのテック起業でプロダクトマネジメントを指揮したが、最終的にその最大の挑戦となったのは、彼女が働いている間に子どもたちを必要な場所に確実に送り届けるにはどうすれば良いかという問題だった。彼女は困っているのは自分だけではないことを知っていた。米国には18歳未満の子供がおよそ7300万人いて、その多くが毎日忙しい必死の両親たちに車で送り迎えされている。

そこでZūmの出番だ。創業3年半の同社は、5歳以上の子どもたちに対して、信頼できる送迎と保育を約束する。Zūmが子どもたちのためのUberの先駆けというわけではない。実際、競合相手のShuddleは1200万ドル以上の資金を使った挙げ句に2016年には閉鎖した。だがNarayanの会社は、どうやら上手く運営できているようだ。今年の初めに、ZūmはシリーズB調達で1900万ドルを調達したが、その中には数字を厳しく見ることで有名なSequoia Capitalも、初期からの投資家として参加している。

現在の同社の調達額は2680万ドルに達している。

Daniela Perdomo:goTennaの共同創業者兼CEO

ハリケーンサンディーが2012年秋にニューヨーク市周辺の電力を遮断したとき、 Daniela Perdomoと彼女の兄弟Jorgeは、Wi-Fiや携帯電話の電波がなくても、人びとが通話したりテキストメッセージを送り合うことのできるネットワークの必要性を痛感した。現在ではその会社はgoTennaという名で運営されている。初期の製品はラジオの周波数を用い、さらにBluetoothを経由してスマートフォン間でメッセージを送ることを可能にしていたが、最近のバージョンではそれに加えてデバイス間の一種のメッシュネットワークの構成を可能にしている。

これまで同社は10万台以上のデバイスを販売している。VCからの調達額は約1700万ドルに達している。この5月にはSamurai Walletと提携してAndroidアプリを提供する。このアプリを使えば、この夏以降インターネット接続なしでビットコインの支払いを行うことができる。この動きは、特に災害地域において、一部の顧客には重要なものとなるかもしれない。

Chloe Alpert:Medinas HealthのCEO兼共同創業者

Medinas Healthの創業者であるChloe Alpertによれば、数百億ドル分に達する余剰医療用品が毎年廃棄されているという。同社はカリフォリニア州バークレーを拠点とするスタートアップだが、在庫データとマッチングソフトウェアを用いて、大規模な病院が余剰機器を小さな診療所や療養施設に売ることを支援する。

Alpertは、Medinasが迅速で信頼性のあるシステムを構築し、医療機器の分解、搬出搬入、再組み立てを行うことのできるサードパーティと協業することによって、売り手と買い手の双方のコストの節約を実現することができると考えている。

投資家たちは、彼女の余剰マーケットにはチャンスがあると信じている。設立10ヶ月の彼女の会社は、Sound Ventures、Rough Draft Ventures、Precursor Ventures、そしてTrammell Venturesなどから、今年初めに100万ドルの資金調達を行った。

Phaedra Ellis-Lamkins:Promiseの共同創業者

Phaedra Ellis-Lamkinsは、シングルマザーによって育てられた。組合の仕事のおかげで福祉の手を離れることができるようになるまでは、母親は2人の娘たちに時折フードスタンプで食事を与えていた。しかし、その成長過程での経験はずっと残る影響を与えた。実際に大学を卒業した後、Ellis-Lamkinsは、低賃金家庭のケアを支援する組合で働いた。26歳になるまでは、彼女はサンノゼに拠点が置かれたSouth Bay労働協議会の責任者だった。

Ellis-Lamkinsの仕事は、恵まれない家庭がただ繁栄するようにするというものに留まらない。彼女の最新のプロジェクトは、政府と連携しながら、彼女の会社Promiseで働くという条件の下に、監獄から囚人を釈放するというものだ。大きな構想としては:Promiseは刑事司法制度で逮捕された人びとに支援を提供し、保釈金を支払うことができないために勾留され続けるのではなく、訴訟が解決されるまで仕事や家族に戻ることができるようにするというものだ。保釈金が払えないというシナリオがあまりにも多いということに、VCたちも同意する。その目的に向けて、今年の初めには、First Round Capital、Jay-Z’s Roc Nation、8VCそしてKapor Capitalを含む何社かが、Promiseに300万ドルを提供した。

Jesse Genet:Lumiの創業者兼CEO

2014年にJesse Genetは、”Shark Tank”の投資家パネルメンバーたちに、彼女の会社の株式の5%に対して25万ドルの小切手を切らせようとした(”Shark Tank”はアメリカのTV番組で、居並ぶ投資家”Shark”たちを前にビジネスプレゼンテーションを行い、投資を引き出すことが目的)。そのときにはオンラインで写真印刷キットを売っていた。そのときのGenetは、資金を調達することができなかったが、彼女は諦めず、彼女の会社Lumiを、多くの消費者を直接相手にするトップeコマース企業向けの、美しいパッケージのデザインと供給を行う会社へと方向転換した。また今年はじめには、Spark Capitalが主導し、Forerunner Venturesや初期投資を行ったHomebrewが参加した資金調達で、900万ドルを手に入れた。

これはひと仕事ではあったが、Geneはそうなることを予見していたようだ。2015年にはBusiness Insiderに対して以下のように語っている。「ひとつ大切なことは、自分のビジネスを急がないことです…たとえ大金は稼いでいないとしても、会社を日々運営し、フィードバックと経験を得ることは、なにものにも替えがたいものなのです」。

Sarah Guo: Greylock Partnersのゼネラルパートナー

Sarah Guoは必ずしもベンチャーキャピタリストになるつもりはなかった。そして明らかに彼女は、自身が国内で最も古いベンチャーファームの1つのシニア投資家になるとも想像していなかった。しかし、Guoはこの両者を兼ねることになった。先月昇進した結果、創業53年を誇るGreylock Partnersゼネラルパートナーになったのだ。プリンシパルとして同ファームに加わってから5年が経っていた。

Guoにとってこの任命は、これまでスタートアップの世界で過ごしてきた人生を総括するものである。Greylockに加わる前は、彼女はGoldman Sachsのアナリストとして働いていた。そこでは、銀行の関わるB2B企業の多くをカバーし、Twitter、Netflix、Zynga、Nvidiaといった一般顧客に対するアドバイスも行っていた。

ペンシルバニア大学の卒業生(学士号とMBAの両方)であるGuoは、ケーブルテレビやモバイルサービスプロバイダー向けのソフトウェア中心のネットワーキングプラットフォームを開発している創業15年のテック企業Casa Systems社でも以前働いていた(その会社は彼女の両親によって創業されたものだ)。

Charlotte Fudge,:CentralReachの創業者兼CEO

CentralReachは、研究と実践の両方に焦点を当てながら、発達障害セクター向けの訓練管理ソフトウェアを開発している。世間で話題になるような種類の会社ではないが、フロリダ州ポンパノビーチを拠点とするこの創業5年の会社は、強力なファームであるInsight Venture Partnersの注意を引きつけることになんとか成功した。Insightは、今年の初めに同社に対して資金を投入した(金額は未公開)。その一部を使ってCentralReachは既に、行動変化分析ソフトウェアを開発するスタートアップのChartlyticsを買収した

CentralReachを創業しCEOを務める看護師のCharlotte Fudgeにとって、開発はエキサイティングなものでなければならない。彼女は、自閉症や関連する障害を持つ人々に焦点を当てたキャリアを過ごしてきた。投資家による十分な資金の支援を得ることで、彼女の会社はより多くの人びとに届くことになるだろう。

Emily Weiss:Glossierの創業者兼CEO

Emily Weissは、「ミレニアル世代のエスティローダー」と呼ばれている。 彼女がそこにたどり着くのに、それほど時間はかからなかった。実際3年と少し前の時点ではまだ、Weissはとても人気のあったブログInto the Glossを監修していたが、Forerunner VenturesのKirsten Greenとの出会いが、Weissを新しい方向へと振り向かせた。これまでのブランドが売られていた価格に比べて遥かに安い美容製品を販売し、あらゆる面で値下げを行ったのだ。

顧客たちは同社に対して熱狂し、そのInstagramは120万人のフォロワーを数える。投資家たちもこの会社の虜だ。2月にGlossierはシリーズCの資金調達で5200万ドルを調達したが、申込みが殺到して話題になった。同社は現在、総額で8600万ドルを調達している。

Anne Boden:Starling Bankの創業者兼CEO

パワフルな女性は銀行にもいるし、テクノロジー業界にもいる。Anne Bodenは、両方の世界にまたがる、数は少ないが増えつつあるパワフルな女性の1人だ。そして彼女の影響力は毎月拡大しているように見える。彼女はAllied Irish Banksの前COOであり、それ以前はRBSとABN AMROで最高経営責任者を務めた。現在BodenはStarling Bankの創業者兼CEOである。これはスマートフォンに特化した貸付を行うデジタル専門企業であり、英国でのライセンスは2016年に取得していて、ヨーロッパの大部分へと拡大する野望を持っている。

確かに、ライバルの銀行であるRevolutが米国に注目する中で、既にヘッジファンドマネージャーのHarald McPikeから4800万ポンドを調達したと言われているStarlingは、さらに8000万ポンドの新しい資本を得るために、おそらく英国外も視野にいれながら投資家を探している。同社はまた国際的な支払い能力を提供するために昨年パートナーとなっていた、フィンテックユニコーンのTransferWiseとの提携を、静かに解消している。先月TechCrunchにBodenが語ったように、Starlingは「自分でやることによって、より良いユーザーエクスペリエンスを提供できる」ことがわかったのだという。

Shruti Merchant:HubHausの共同創業者兼CEO

Shruti Merchantが、40マイル離れたサンフランシスコに引っ越すために、カリフォルニア州コンコードにあるメディカルスクールのプログラムからドロップアウトしたとき、彼女はまだ誰とも知り合いではなかった。彼女とその他の6人はCraigslist上でお互いを知り、共同で大きな家を借りて…そして彼らは素晴らしい友人になった。Merchantは既に起業を考えていたが、この体験は彼女にこうした共同生活を管理させるという大きなアイデアを考えさせることになった。そこで彼女はそれを実現するためにHubHausを共同創業した。

これまでのところは、まずまずのようだ。HubHausは大型住宅を借り入れ、ベッドルームをサブリースする。その過程で住居コミュニティを作り出す。いまやロスアンジェルスとサンフランシスコで、数十のプロパティを管理している。またSocial Capitalが今年の初めに主導したシリーズAで、1000万ドルを調達した。

Kathy Hannun:Dandelionの共同創業者兼CEO

大学を卒業して、ほぼそのまますぐにKathy HannunはAlphabetのXグループの評価チームに加わった。このチームは会社による、次の「ムーンショット」(きわめて困難な目標)を考え出すことが使命だ。最終的に、彼女と何人かの同僚たちは、単独で追求しないのはあまりにも勿体無いチャンスに出会った。その結果生まれたのがDandelion Energyだ。同社によれば「地熱暖房と空調をとても効率的にして、それだけでもとがとれる」ものということだ。

投資家たちはDandelionへの投資をためらっていない。New Enterprise AssociatesやBoxGroupなどが、この創業1年のブルックリンの会社に今年初めに450万ドルを提供した。これにより総調達額は650万ドルに達した。新ラウンドが終わった翌日、Hannunは赤ん坊を出産した

Ran Ma:Sirenの共同創業者兼CEO

Ran Maはノースウェスタン大学の生物医学エンジニアとして何年かを過ごし、その前は、ジョン・ホプキンス病院の研究助手として腎臓病関連の仕事をしていた。そうした役割の中で、Maは多くのことを学んだが、その中には腎臓病が最大40%の糖尿病患者に影響を与え、その糖尿病がおよそ4億人の人びとを苦しめていることなども含まれていた。その多くの患者が潰瘍や壊疽による痛みを感じることができず、そのことによって足の切断などを招いているのだ。

コペンハーゲンとサンフランシスコに本拠を置く設立3年のSirenを彼女に始めさせたのは、そうした種類の統計だった。同社は着用者を助ける繊維製品を製造している。まずは洗濯機と乾燥機に入れても大丈夫なソックスが提供されているが、これは着用者の足の温度を計測することができて、接続したアプリを通して着用者に何が起きているかを知らせる(例えばヒートスポットは、急速に広がる感染症を示している可能性がある)。もちろん投資家たちは、糖尿病患者たちが衰弱してしまう前に、潜在的な傷を発見する手助けをする、というアプローチを気に入っている。彼らは、今年の初めに同社に対して340万ドルの資金を提供した。そうした投資家たちには、DCM、Khosla Ventures、そしてFounders Fundなどが含まれている。

Nicki Ramsay:CardUpの創業者兼CEO

アメリカンエキスプレスで約8年を過ごし様々な役割を果たしたところで、Nicki Ramsayはまだ満たされていない需要があることに気が付いた。具体的に言えば、AmExの顧客はクレジットカードを使用して、特に賃貸料や税金などを払うことができないということだ。彼女のソリューションがCardUpだ。ユーザーが自分のクレジットカードを用いて定期的な支払いをできるようにする会社である。Citi、Visa、MasterCard、その他のカードから、家賃、車のローン、保険、もし小規模ビジネスオーナーなら従業員の給与に至るまでの支払いに利用することができる。支払いを行うことで報酬も手にすることができる(家賃を払って同時に7万マイルの飛行機のマイルが貰える時に、単に家賃だけを払う人はいないだろう)。

投資家たちは明らかに、ユーザーたちにそのクレジットカードを、ファイナンスツールとして利用させるインセンティブを与えるアイデアを気に入っている。3月には、Sequoia IndiaとシードステージベンチャーファームのSeedPlusが、シンガポールに本拠を置くCardUpに、170万ドルのシード資金を提供した。資金はスタッフの拡充と、小規模から中規模の企業が増えているマーケットそのものに対して用いられる。

Gwyneth Paltrow:Goopの創業者兼CEO

Goopは、10年前に女優のグウィネス・パルトローによって創業された健康関連のニュースレターならびにeコマース企業である。同社は非科学的な医療情報(膣内を蒸気で蒸すと健康に良いとか、ブラジャーをすると発がんの危険性が高まるとか)でしばしば非難を受けてきた。おそらく最も有名なのは、性的エネルギーを育むために、フォロワーたちに対して膣内に入れるための卵型のヒスイを売り込んだことである。

大多数の人たちにとっては笑いの種だが、最後に笑うのはパルトローかもしれない。3月に彼女の従業員150人の会社は、シリーズCの資金調達で5000万ドルを調達した。新旧の投資家たちが出資し、その中にはNew Enterprise Associates、Lightspeed Venture Partners、そしてFidelityなどが含まれている。Groopはこの資金を国際的な拡大に使う予定だが、体験型販売、「イメージイベント」、そして従来どおりのマーケティングなどが予定されている。

Naomi HirabayashiとMarah Lidey:Shineの共同創業者たち

Naomi HirabayashiとMarah Lideyが、ニューヨークの非営利団体で一緒に働いていたときに、彼らはお互いや親しい友人たちとの間に個人的な支援システムを構築していた。彼らは似たようなことを、他の人たちにも広げたいと考えている。すでに多くのセルフケアアプリが存在していたが、有色人種の女性としての彼らの経験に対応してくれるようなものはなかった。Hirabayashiは今年の初めにTechCrunchに以下のように語っている「私たちは市場に欠けているものに気が付いています、なぜなら心身健康企業(well-being companies)の目は私たちに届かなかいからです、彼らは私たちに語りかけません。彼らは私たちのような人たちを見ることはないのです。彼らがコンテンツを共有するやりかたは、私たちが人生の中の異なる心身健康課題について語るやりかたにはそぐわない気がしました」。

彼らが生み出した製品はShineとなった。これはユーザーたちに、一日を過ごすための、自信、日々の幸せ、そしてメンタルヘルスならびにプロダクティビティに関係した、実践的なヒントを、テキストに添えて毎日送るスタートアップだ。投資家たちもShineに対して、気分の良さを感じているようだ。シード資金を調達してから2年が経ち、同社はこの4月に初期の投資家であるComcast Venturesが主導するシリーズAの資金調達で500万ドルを調達した。他にも多くの団体が投資に参加したが、その中にはニューヨークタイムズも含まれている。

Ankiti Bose:Zilingoの共同創業者兼CEO

Ankiti Boseはアジアのスタートアップシーンでは見ることが少ない女性創業者だが、そんな事実は彼女の会社のスピードを緩めさせたりしない。それどころか、東南アジアのバザーへの訪問体験を、オンラインで再現するeコマーススタートアップであるZilingoは、この4月に5400万ドルの資金を調達し、総調達額は8200万ドルになった。

投資家たちはなぜそんなに熱心なのだろうか?Boseのバックグラウンドは確実に役立っているだろう。彼女はムンバイのMcKinseyのアナリストとして働いたあと、バンガロールのSequoia Capitalの投資アナリストとして働いていた。しかし、彼女が追いかけている市場もまた有望なのだ。独立した商人たちに対して、オンラインストアの店頭を提供することで、Zilingoは2025年までに880億ドル規模になると期待されている市場の中で、Amazonのような企業たちと互角に競い合っている。

Aditi Avasthi:Embibeの創業者兼CEO

5年前Aditi Avasthiは、彼女がシカゴ大学で経済学について学んだことと、その後Barclaysで2年間学んだことを、母国であるインドの学生たちを助けるために活かすことを決心した。その結果生まれたのがEmbibeである。インドのバンガロールを拠点とするこのオンラインコーチングスタートアップは、単なるアクセスを行わせるだけではなく、成績が伸びない場合には、学生がオンラインで行うこと全てに対して討論的アプローチをとり、彼らが最も助けを必要とする時と場所で彼らに手を差し伸べようとする。基本的なアイデアは、同時にはより少数の教師を使いながら、より正確なフィードバックを提供することだ。

Avasthiはそれについて良く知っていたに違いない。今年の初め、インドの複合企業Relianceは、同社に対して事業(その一部はEmbibeの初期の投資家たちからのものだ)の73%と引き換えに、1億8000万ドルを支払った。初期投資者たちであるKalaari CapitalやLightboxにとって、これは大いなる成功だった。彼らがこれまでEmbibeに提供していたのはわずか400万ドルだったのだ。もちろん、創始者としてのAvasthiにとっても悪い結果ではない。

Katie Haun:Andreessen Horowitzのゼネラルパートナー

今週初め、創立9年のAndreessen Horowitz(a16z)は、初めての女性ゼネラルパートナーとして、Katie Haunの名前を発表した。その名は過去数年間ベイエリアでは静かに知られるようになってきていた。Andreessenの新しい3億ドルの暗号通貨ファンドを、ゼネラルパートナーのChris Dixonと共に率いるHaunは大人物である。このためa16zが彼女をしっかりと捕まえたことには驚きはない。

他の多くの業績の中でも特に目立つのは、Haunは米国司法省の連邦検察官として10年以上を過ごし、SECやFBI、そして財務省と一緒に、詐欺、サイバー犯罪、法人向けコンプライアンスに焦点を当てた活動をしていたことだ。Haunのバイオグラフィによれば、彼女はまた司法省の初のデジタル資産コーディネーターであり、Mt. Goxハッキングの調査や、オンラインドラッグ市場のSilk Roadの調査と閉鎖に携わったタスクフォースの指揮も執った。Haunはスタンフォードビジネススクールの講師でもあり、a16zが早期に投資を行ったデジタル交換所であるCoinbaseのボードメンバーである。

Sara MauskopfとAnne Halsall:Winnieの共同創業者たち

Sara MauskopfとAnne Halsallはプロダクトの作り方を知っている。Mauskopfは過去10年間、Twitter、Postmates、YouTube、そしてGoogleのプロダクトに関わり、HalsallはPostmates、Quora、そしてGoogleでほとんど同じことをしていた。2人が一緒にWinnieを作ることになったのに不思議はない。このモバイルアプリは親たちに、近隣の子供向けの場所に関する情報を提供する。家族向けのどのような施設がその場所にはあるのかといった情報だ。そして最近は親たちが質問したり議論に参できるオンラインコミュニティも提供されている。投資家たちは注目し、同社に対して2年前に225万ドルを投資している。

投資家たちは興味を失うどころか、いまでは100万人以上のユーザーを抱えているという2歳半のアプリは、Reach Capitalの主導により、今週新たに400万ドルのシード資金を調達した。Winnieの調達額は現在650万ドルに達している。

Falon Fatemi:Nodeの創業者

Falon Fatemiは、かつて19歳でGoogleの最少年従業員になったことを誇りにしていた。しかし、検索の巨人で4年間、YouTubeでさらに2年を過ごした後、FatemiはNodeを設立して、自分の足跡を残すことにした。現在創業4年目の彼女のスタートアップをずっと成長させていくつもりだ。

この4月には、同社は新たに500万ドルの資金をRecruit Strategic PartnersとJeffrey Katzenberg’s WndrCoから得たばかりだ。同社はAI駆動の検索ツールを開発しており、ユーザーが自身のプロフェッショナルネットワーク上で、その時点で最も仕事を頼むのに適切な人物が誰かを、理由と共に教えてくれる。このラウンドにより、Nodeの総調達資金は2100万ドルになった。

Renee Wang:Castboxの創業者兼CEO

Renee Wangは中国で生まれ、北京郊外の農村の田園地帯の寄宿学校に通っていたと伝えられている。そこで彼女は、自分でもコードの勉強をする傍ら、友人たちに対しても個別指導を行っていた。実際、北京大学で2つの専攻を修めて卒業したあと、WangはGoogleに入社し、東京オフィスで4年以上働いていた。彼女がポッドキャストのコンテンツに対する沢山の検索が行われる様子に気が付いたのは、検索の巨人の運営の内側から見たことによる。そして彼女はこの領域に、これから作るアプリが支配的な地位を占める余地があると考えたのだ。

そして作られたのがCastboxだ。このアプリは自然言語処理と機械学習技法を用いて、そのユニークな機能を実現している、例えばパーソナライズされたレコメンデーションや、オーディオ内検索機能などだ。このアプリは、ユーザーの事前の聴取行動に基づいて、次に聞くべきものを提案することもでき、そのオーディオ内検索機能は、実際にポッドキャスト内のオーディオコンテンツを文字にして、索引付けし、検索可能にする。これほど多くのことが行われる中で、投資家たちが耳を傾けていることも不思議ではない。4月には、彼らはシリーズBの資金調達ラウンドで1350万ドルを、Castboxに提供した。合計で、それは2950万ドルを調達している。

Laura Deming:Longevity Fundのパートナー

写真:Maarten de Boer/Getty Images

24歳のLaura Demingは、彼女のベンチャーキャピタルの多くの同僚たちよりも若い。だが彼女はそうしたことは気にせず真剣に取り組んでいる、それは別に不思議な事ではない。ニュージーランド出身者の彼女は、家庭で教育を受け、成長の過程で老化の生物学に情熱を感じるようになった。実際、以前彼女はまだ10代の若者だったときに、老化の遺伝学を研究する有名な分子生物学者のCynthia Kenyonの研究室で働いていた。14歳までに、DemingはMITの学生となり、16歳までには大学を退学し、ピーター・ティールのThiel Fellowshipプログラム(2年間)に参加していた。このプログラムは「新しいものを作りたい」若者に10万ドルを提供するというものである。

もの作りを彼女はやりとげた。昨年Demingは、2番目のベンチャーキャピタルファンドを、2200万ドルで設立した。また今年の初めにはDemingは、著名な投資家であるMarc Andreessen、アーリーステージベンチャーファームのFelicis Ventures、その他無名の投資家たちの後援を受けて、アクセラレータープログラムも設立した。ここでのアイデアは、スタートアップの支援、特に立ち上がりの遅いスタートアップに焦点を当てて、4ヶ月以内に「価値が感染し始める段階」に到達させる支援を行うというものだ。それがプログラムの適用期間である。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: Daniel Grizelj / Getty Images

成長を続けるスタートアップたちが、第2拠点を検討しているのはこれらの都市だ

【編集部注】著者のJoanna GlasnerCrunchBaseの記者である。

過去9ヶ月というもの、米国の市長たちは、大々的に第2拠点を探すAmazon.comのご機嫌をとるために、お互いの足を引っ張り合ってきた。

とはいえ、似たようなストーリーがもっと静かにスタートアップの世界では進行しているのだ。最も評価額の高いベンチャー企業の多くが、高コストの本社を飛び出して、より小さな都市に第2拠点を設置しようとしている。

彼らはどこに向かうのだろうか?中でもナッシュビルはかなり人気のある土地だ。フェニックスも同様である。ポートランドとローリーにも動きがみられる。また多くの企業では、多数のリモートワークの提供も行われている、これは特筆すべきスキルを持ちながらも移住をしたくない候補者を探すためだ。

これらは米国のユニコーンによる地理的雇用実績に対して、Crunchbase Newsが行った分析から得られた知見の一部だ。そうした企業の多くが、サンフランシスコのベイエリア、ボストン、そしてニューヨークのような高コストの場所に拠点を置いていたので、私たちはそれらがより小さくコストの安い都市にオフィスを設置しようとするパターンがあるのかどうかに注目した(調査法の詳細については、後にある調査方法のセクションを参照して欲しい)。

ホットスポットのいくつかを見てみよう。

テネシー州ナッシュビル

驚きの発見の1つが、スタートアップの第2拠点探しの中で、ナッシュビルが突出していたことだ。

少なくとも4つのユニコーンがナッシュビルのオフィスを拡大し、さらに3つがテネシーの他の都市やその周辺で事業を拡大しているのだ。テネシーを愛するスタートアップのいくつかを以下に示す:

私たちがユニコーンたちによるナッシュビルの人気を、驚くべきものとして表現した理由は、この都市がハイテクスタートアップやベンチャーキャピタルの主要な拠点として知られていなかったからだ。ともあれ、第2拠点として現実的で望ましい場所となるための、多くの属性があるということなのだ。

ナッシュビルの魅力には、その高い生活の質、人口と経済の成長、穏やかな気候、そして多くのライブミュージックなどが含まれる。ナッシュビルの不動産市場は過去数年間高騰しているものの、それでも住宅価格と生活費はまだシリコンバレーやニューヨークよりはるかに低いものである。そして労働者のための追加の特典がある:テネシー州には給与所得税がないのだ。

フェニックス

フェニックスは、特に西海岸の企業が、大人数を必要とする顧客サービスやその他の業務のために、低コストのハブを求める際に、スタートアップたちによって選ばれる、また別の人気の選択肢である。

下の表では、砂漠の都市に大人数を集める5つのユニコーンが示されている。

手頃な価格、容易な拡張性、大きな雇用可能人口は、フェニックスの魅力を構成する大きな要素のように見える。住居費や生活費は、大きな沿岸部の都市よりもずっと安い。そして、拡張できる余地が十分にある。

新しいオフィス開設について書かれたある記事は、低い転職率もフェニックスエリアの魅力的な属性として挙げているが、確かに興味深い指摘である。サンフランシスコやニューヨークのようなスタートアップの拠点では、転職は日常茶飯事である、特に必要とされるスキルセットを持つ人びとにその傾向は顕著だ。成長する企業たちは、おそらく在職期間を数ヶ月単位ではなく数年単位で考えるような人たちを探したいと思っているだろう。

これらだけが候補地ではない

ナッシュビルとフェニックスだけが、第2拠点を構えようとするユニコーンたちのホットスポットというわけではない。他の多くの都市でも、スタートアップの活動が拡大している。

ノースカロライナ州を見てみよう。そのリサーチトライアングル地域には、多くのSTEM(科学・技術・工学・数学)関連の卒業生が居ることで知られている。よって他の地域に本社を置くハイテク企業が、さらにここに拠点を置きたい気になっても不思議ではない。そのような企業の1つがサイバーセキュリティのユニコーンであるTaniumである、同社はこの地域で多くの技術的な求人を行っている。もう1つは、ソフトウェアコンテナ化技術の開発を行うDockerだ。同社はノースカロライナ州ローリーで求人を行っている。

オーランドのメトロエリアは、最近50億ドルの評価額をつけた、手数料無料の株式ならびに暗号通貨取引プラットフォームであるRobinhoodのおかげで、注目を集めた。シリコンバレーに本拠を置く同社は、オーランド郊外のレイク・メアリーで、HRとコンプライアンスの仕事を含む、かなりの数の求人を行っている。

一方、ポートランドは、また別の暗号通貨関連ユニコーンであり、デジタル通貨取引プラットフォームを提供するCoinbaseを引き寄せたばかりだ。サンフランシスコに本社を置く同社は最近、このオレゴン州の都市にオフィスを開設し、現在は採用を行っている最中だ。

画面のある場所ならばどこでも

しかし、急速に成長する多くのスタートアップでは、職を得るために特定の場所にいる必要はない。多くのユニコーンは、ローカルに埋めることが難しい特殊な技術的な役割を含む、リモートポジションを沢山用意している。

開発者たちがプロジェクトをリモートで共同作業できるようにするツールを開発しているGitHubは、それ自身が作っているものを応用することに対して、特に優れた仕事をしている。このサンフランシスコを拠点とする企業は、多くのエンジニアリング職をリモートワーカーに対して開いており、また同社の他の部門もある程度リモート職を提供している。

その他の、ある程度のリモート職を募集している企業には、シリコンバレーに拠点を置くサイバーセキュリティプロバイダーであるCrowdStrike、エンタープライズソフトウェア開発を行うApttus、そしてDockerなどが含まれている。

すべての企業が行っているわけではない

もちろん、すべてのユニコーンが大規模な第2拠点オフィスを開こうとしているわけではない。多くは、従業員を本拠地の近くに抱えることを好み、従業員たちをシックな職場環境や贅沢な特典で魅了しようとしている。他の企業の中には、拡大する際には戦略的に高コストの場所を選ぼうとするものもいる。

それでも、こうした第2拠点現象は、少数の地域があまりにもベンチャーキャピタルパイを奪っているという苦情に対する、部分的な解決を提供するものかもしれない。いまだにユニコーンたちは少数の都市にひしめいてはいるものの、少なくとも彼らは翼を広げて、他の場所でも多くの雇用を提供しようとしている。

調査方法

この分析のために、私たちは北米の他の都市に第2拠点オフィスを持つ、米国のユニコーンを調査した。私たちは、米国を拠点とする125社のリストから始めて、そのウェブサイトに掲載された求人情報をその場所に着目して調査した。

地元のマーケットに対応するための求人情報は除外した。たとえば、シカゴの顧客に販売するために、シカゴ在住の営業担当者を探しているサンフランシスコの会社は数えなかった。その代わりに、コアオペレーションを扱うチームメンバーの募集、たとえばエンジニアリング、財務、そして全社的なカスタマーサポートなどに着目した。北米以外の第2拠点オフィスも除外している。

さらに私たちは、特により低コストの地域に拡大しようとしている企業を探した。それでも多くの場合には、ニューヨークやシリコンバレーなどの他の高コストの場所に、戦略的にスタッフを追加する企業が見られた。

最後のメモはテキサス州オースティンに対するものだ。私たちは他の場所を拠点としているユニコーンたちのいくつかが、オースティンで求人を行っていることを知った。とはいえ、上記のセクションではオースチンは取り上げなかった。なぜならオースチンはシリコンバレーよりも低コストではあるものの、それ自身は既に、大規模で成熟したテクノロジーとスタートアップハブとしての特徴を持っているからだ。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: Li-Anne DIas

アルゴリズムは私たちの思考をハッキングしているのか?

【編集部注】著者のAdriana Stanは、W magazineの広報担当ディレクターであり、メディア、文化、テクノロジーに関する著作も行っている。彼女はまた、Interesting People in Interesting Times(興味深い時代の興味深い人びと)イベントシリーズとポッドキャストの共同創業者だ。またもうひとりの著者Mihai Botarelは、RXM Creativeの共同創業者であり、社会とテクノロジーに関する著作を行っている。

Facebookは私たちの情報へのアクセス方法を決めTwitterは世論を左右しTinderはデートの意思決定に影響を与える。私たちの選択作業を助けるために、私たち自身が開発したアルゴリズムが、現在の私たちの生活のすべての側面を積極的に動かしているのだ。

しかし、ニュースを探す方法から、周囲の人びととつながる方法に至るまで、すべてのことに対してアルゴリズムへの依存を深めるようになるにつれて、私たちは自分自身の振る舞い方を自動化しているのではないだろうか?人間の思考はアルゴリズムのプロセスを模倣し始めているのだろうか?そして、ケンブリッジ・アナリティックによる大失敗は、アルゴリズムが私たちの集団的思考に入り込んできたときに、何がやって来るのか、そして何が起きるのかに関する警告なのだろうか?

このようになることは想定されていなかった。製品、人物、そして常に溢れる驚くべき量の情報からの選択作業に圧倒された私たちは、取り巻く世界をより良く、より早く、より簡単に生きていくために、プログラムを行ってきたのだ。明確なパラメータと一連の単純なルールを使用することで、アルゴリズムは複雑な問題を理解することを助ける。彼らは私たちのデジタルコンパニオンであり、 あらゆる局面で生じる現実的な課題を解決し、意思決定の方法を最適化してくれる。近所で最高のレストランは何処だろう?Googleがそれを知っている。目的地にはどう行けば良いのか?Apple Mapが役に立つ。最新のトランプスキャンダルは何だろう?Facebookを読めば分かるかもしれないし、分からないかもしれない。

私たちのあらゆる必要性と欲望を予測できるように、コードとアルゴリズムが、私たちの好きなもの、嫌いなもの、嗜好などに関して、よく知っているなんて、素敵なことではないだろうか?このおかげで、私たちは見ているものに対して考え込んで時間を浪費する必要はないのだ:ただ自分の意見を強化するのに最適な記事を読み、個人的な基準に見合う人物とデートを行い、お馴染みのお楽しみの中に我を忘れることができる。私たちはいつでも自由であると想像して欲しい、本当に大切なことに集中することができるのだ:注意深いデジタルペルソナを調整し、自分自身のアイデンティをInstagramに投影する。

私たちの思考が機械によって決定されると最初に述べたのはカール・マルクスだった。この考えはEllen Ullmanによる1997年の本”Close to the Machine“の中で言及されているものだが、今日私たちが取り組んでいる問題の多くを予測していいる。インターネットの発明から始まり、私たちの生活を楽にするために開発してきたアルゴリズムは、最終的には私たちの振る舞い方をプログラミングするようになってしまった。

写真提供:Shutterstock/Lightspring

以下で、3つのアルゴリズムプロセスと、それらが人間の思考に侵入して私たちの行動をハイジャックするやり方を紹介して行く。

1. 製品比較:オンラインショッピングからデートまで

Amazonのアルゴリズムを使えば、製品をブラウズして比較し、後で選ぶために保存し、最終的に購入することができる。しかし、電子商取引の体験を向上させるためのツールとして始まったそれは、いまや当初のものを遥かに超えたものとなっている。私たちはこのアルゴリズムを内面化し、それを私たちの生活における他の領域にも適用している ―― 例えば人間関係など。

現代のデートは、オンラインショッピングによく似ている。ソーシャルプラットフォームやアプリによって支えられ、私たちは無限の選択肢をブラウズし、その特徴を比較して、自分の欲望を満たし詳細な個人の嗜好に完全に適合するものを選択する。あるいは、電子商取引の世界やデジタルデートの世界に浸透する選択肢の幻想を彷徨い(さまよい)、永遠に判断を先延ばしにして「後で見る」に保存し続けることもできる。

オンラインでは、世界は無限の製品供給源となり、今や人間に関しても同じことになりつつあるのだ。「ウェブではこれまでにないほどの種類の商品やサービスにアクセスすることが可能です、そこから最も気に入ったものを選択することができるのです」とUllmanはLife in Codeの中で説明している。「選択することで幸せがやって来るという考え方がある。空っぽで、幻で、惨めさを連れてくる選択に満たされた海だ」。

私たちは皆、自分のニーズは完全にユニークなものであると考えることが好きだ。そして自分の欲望に完璧にマッチするものを見出すという約束がもたらす、誘惑と喜びの感覚は確かに存在する。

ショッピングや出会いを問わず、私たちは常に検索、評価、比較するようにプログラムされている。アルゴリズムによって駆動され、より大きな意味で、ウェブデザインとコードによって、私たちは常により多くの選択肢を探している。Ullmanの言葉を借りれば「あなたは特別だ、あなたのニーズはユニークだ、そしてアルゴリズムはあなたのユニークなニーズと欲望に完全に合致するものを見つけるのに役立つ」という考えを、ウェブは強化しているのだ。

一言で言えば、私たちの生活の方法が、インターネットに向き合う方法を真似ているのだ。アルゴリズムは簡便な手段だ、厄介な人間生活…絡み合った人間関係と可能なマッチングに対して2つのうちのどちらかを行わせてくれるからだ:そのことに対処する明快でアルゴリズミックなフレームワークの適用、もしくはアルゴリズム自身に選択そのものも任せてしまうやり方。私たちは、自分自身の言葉でテクノロジーを使うのではなく、アルゴリズムに適応し付き合うことを強制されている。

このことは、もともとは単純なデジタル行動から始まった、また別の実世界現象へとつながる:製品と経験の格付けだ。

2. 人間の数値化:評価とレビュー

他の善意のアルゴリズムと同様に、これはあなただけを念頭に置いて、あなただけのために設計されている。あなたのフィードバックを利用することで、あなたのニーズに的確に応えることができ、あなたのためだけにターゲットを絞ったお勧めを提供し、これまでに好んでいたものをより多く提示することで、何も考えずに消費を続けることができる。

Uberの乗車から、Postmateの配送、Handyの清掃まで、およそ全ての実生活でのやりとりが、1から5のスケールでデジタルにスコアリングされる。

社会として、これほどまでに、私たちがどのように認知され、どのように行動し、他の人々の期待との差異を気にする時代はかつてなかった。私たちは突如、Airbnbホストのデザイン趣味や清潔さのような主観的なものを、定量化することができるようになった。そして、それを私たちが差し迫って行う感覚は信じられないほどだ。Uberを降りるか降りないかのうちに、神経的に5つ星を付け、パッセンジャーレーティングを上げるために多額のチップをはずむといった具合。そうすれば、見返りに素早くレビューを受けられる!そして至福の喜びで満たされるという流れだ。

おそらく、あなたはそのことをディストピアであるBlack Mirrorのシナリオめいていると考えるかもしれないし、(風刺の効いたコメディ番組である)Portlandiaのいちエピソードのようなものだと感じるかもしれない。しかし、私たちはデジタルスコアが私たちの生活の中のすべての意味を同時に置き換えて動かす世界から、さほど遠く離れているわけではないのだ。

私たちは他の人との交流の方法を自動化してきた。私たちは、無限の自己改善のサイクルの中で、そうした相互作用を絶えず測定しては最適化しているのだ。それはアルゴリズムから始まったものの、いまや後天的な習性となっている。

Jaron Lainierが”Close to the Machine”の前書きに書いたように「私たちは自分たちのアイデアを使ってプログラムを作成したが、そのプログラムを使った暮らしを続けるうちに…(中略)…それらを自然に埋め込まれた事実だと受け容れるようになった」のだ。

なぜなら、技術は抽象的でしばしば捕らえどころのない、望ましい性質を定量化できるからだ。アルゴリズムを通して、信頼はレーティングとレビューに、人気は「いいね!」に、社会的認知度はフォロワーに変換されていく。アルゴリズムは、ある意味ボードリヤールの予見した世界を生み出したのだ、そこではそれぞれのレーティングが対象としている実際の物を完全に置き換えてしまう。そしてそこでは、デジタルレビューの方が実際の実体験よりも、よりリアルで確かに有意義なもののような気がしてしまうのだ。

実生活の複雑さと混乱に向き合って、アルゴリズムは私たちがそれを単純化する手助けをする。社会的なやりとりから厄介事を取り除き、同様に様々な意見や実生活におけるフィードバックからもたらされる不安も無くして、全てをレーティングボックスのなかにきちんと収めるのだ。

しかし、私たちが自分の思考の一部として、プログラミング言語、コード、そしてアルゴリズムを取り入れていくとき、人間の本性と人工知能は一体化して行くのだろうか?これまでの私たちは、AIを私たちの力があまり及ばない外的な力と考えてきた。もしAIの最も直接的な脅威が、ロボットが世界を支配するということよりも、テクノロジーが私たちの意識と主観に埋め込まれてしまうことだとしたらどうだろう?

スマートフォンが私たちの身体の感覚の延長となったように、アルゴリズムは私たちの思考の延長に成りつつあるのだ(マーシャル・マクルーハンが生きていたら、おそらくそう言うだろう)。しかし、それらが私たちを人間たらしめる性質を置き換えて行くとき、私たちは何をするのだろうか?

そして、Lainierが問いかけるように「コンピューターが人間の言語を、どんどん仲介するようになるにつれて、言語そのものは変わり始めるのだろうか?」。

画像:antoniokhr/iStock

3. 言語の自動化:キーワードとバズワード

Googleはキーワードに基づいて検索結果をインデックス化する。SEOは特定の戦術に基づいて、ウェブサイトを検索結果のトップに浮上させる。これを達成するために、アルゴリズムに取り組み、どうすれば上手くいくのかを探り、Googleの目にとまるようなキーワードをウェブサイトにまぶすのだ。

しかし、Googleのアルゴリズムとよく似て、私たちの心は、情報をキーワード、繰り返し、および素早いヒントに基づいて優先付けている。

それはテクノロジーに関して構築した戦略として始まったが、いまや見出しを書く方法から、ツイートで「エンゲージメント」を生み出すやり方、そしてビジネスや日々の生活の中で自分自身を表現する方法に至るまで、私たちが行うことすべてに浸透を始めている。

メディアの世界とスタートアップシーンの両方を支配する、バズワードの流行を考えて欲しい。そこに出現するいくつかのトップスタートアップを素早く眺めてみれば、人びとの注意 ―― そして投資家の資金 ―― を引きつけるための最善な方法は、「AI」「暗号」あるいは「ブロックチェーン」といういう言葉を会社の売り文句に加えることだということがわかる。

企業は、キーワードを通して世界に発信していることに基いて、評価されている。プレゼンテーションの場がより多くのバズワードで埋められるほど、煙に巻かれた投資家がそこに投資をしてくれる可能性が高まる。同様に、バズワードを含む見出しの方がクリックされる可能性が遥かに高いので、バズワードの方が実際の内容よりも勝るようになりはじめる。(派手な見出しでクリックを誘う手段である)クリックベイトはそれを示す1つの例だ。

私たちはどこに向かうのだろう?

技術は私たちにあからさまなパターンを与えている。例えば、オンラインショッピングは溢れる選択肢の中を進んでいくための簡単な方法を提供している。よって私たちは改めて考える必要はない ―― 私たちはただ、アルゴリズムが最善のやり方を知っていると仮定して操作しているだけだ。私たちはそれらがどのように働いているのかを本当に理解しているわけではない。コードは隠蔽されているので、私たちはそれを見ることはできず、アルゴリズムはただ結果とソリューションを魔法のように提示するだけだ。UllmanはLife in Codeで次のように警告している「私たちのために、複雑さが隠されて扱われることを許容するのなら、最低限私たちが何を手放しているのかに注意を払うべきです。私たちは用意された部品の利用者になるという危険性を犯しています…(中略)…私たちが本質的に理解していないメカニズムを、相手にしているのです。全てが期待通りに働いている限りは、こうした『無知』も許容されるでしょう。しかし、何かが壊れたり、間違ったり、根本的な変化を必要とするときには、私たち自身の創造物を前にして、為す術もなく立ち尽くす以外に何ができるのでしょう?」。

トランプ時代の、フェイクニュース、誤報、ソーシャルメディアのターゲティングの始まりだ。

画像提供:Intellectual Take Out

さて、そうだとしたら、批判的思考を奨励し、プログラミングにもっと関心を寄せ、旧き良き時代の論争と異議をどのように取り戻せば良いのだろうか?意見の相違を醸成し、繁栄させ、私たち自身の見解に挑戦させるようにするために、私たちは何ができるのだろうか?

私たちが、テクノロジーが生み出す気を散らす泡の中で行動するとき、そしてソーシャルメディアフィードが、自分と同様の考えを持つ人で構成されているとき、社会が変わることは期待できるのだろうか?起きることと言えば、アルゴリズムが私たちに促すように、結局行動してしまうことだ。これを打ち破るには現状に疑問を呈し、事実を分析して、自分自身の結論に達することが必要だ。しかし、そうしたことに割ける時間を持つものはいない。こうして私たちはFacebookマシンの歯車と化し、プロパガンダの影響を受け、おめでたいことに働いているアルゴリズムを意識することもない ―― そしてそれは私たちの思考プロセスの中に組み込まれているのだ。

自分自身の意志決定に対するプログラマーやアーキテクトではなく、アルゴリズムのユーザーとしての私たちは、自分自身の知性を人工的なものにしてしまう。Douglas Rushkoffが言っているようにこれは「プログラムするのかそれともプログラミングされるのか」の問題なのだ。もしケンブリッジ・アナリティカの事件と2016年の米国選挙から学んだものがあるとすれば、世論をリバース・エンジニアリングにかけて、結果に影響を与え、そしてデータ、ターゲット、そしてボットが誤った合意の感覚に導く世界を作り出すことは、驚くほど簡単だということだ。

さらに厄介なのは、私たちがとても信頼しているアルゴリズム ―― 私たちの生活に深く織り込まれ、私たちの最も個人的な選択に影響を与えている ―― は、私たちの思考プロセスへの浸透をやめない。それどころか、ますます大きく重要なものとなっている。もし私たちが、アルゴリズムのユーザーではなく、プログラマーとしての役割を取り戻さなければ、最終的にはアルゴリズムが私たちの社会の未来の形を作り上げていくことになるだろう。

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(翻訳:sako)

IoT会話と、文脈から意を汲み取るということ

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(日本語版注:本稿を執筆したJim Hunterは、Greenwave Systemsのチーフサイエンティスト兼エヴァンゲリストだ)

数年前、テクノロジーとコミュニケーションをとる方法について書いた。当時、身の回りにあったアプリや電話、車、半自動のコーヒーメーカーといった便利なツールを使うときに体験するちょっとした不都合が、何かしら革新的なものの登場でなくなるだろうというのは明らかだった。そうした接続機器を使うのに、たくさんタイプやスワイプしたり、アプリで管理したりする必要があったからだ。

その革新的なものというのは、ある程度、現実のものとなったといえる。

音声でのやり取りがそれだ。いまスマホの音声アシスタント、家や車と接続するスマートスピーカーを使うとき、音声操作が大きな役割を果たしている。この音声操作技術の進歩は現在進行形だ。それはすごいことではある。しかし、やり取りは会話と呼べるものではない。

というのも、この音声操作のほとんどは、友達や同僚との実のある会話のようなものではなく、むしろ4歳の子に「言われた通りにしなさい」と命令するのに近いからだ。

ツールを使うにあたっての不都合を最小限に抑え、そして音声でテクノロジーを最大限利用できるようにするためには何かが必要だ。それは、「文脈から意を汲み取る」ということだと私は考えている。

文脈から意を汲み取るというのは、会話の中で何を意図しているのかを考えることになる。誰が、何を、どこで、いつ、といったシンプルな質問に答えるのはそう難しいことではないし、IoTは私たちの暮らしに関するあらゆる情報を取り入れるようになっている。私は以前、アメリカの心理学者マズローの欲求段階説のチャートに倣って、IoTデバイスに必要とされることをピラミッド式に描いたことがある。テクノロジーが分析手法を用い、ロジックや予測することを学習し、そしてより複雑なことをできるようになるというものだ。AmazonのAlexa、AppleのHomePodなどで使われている音声操作や自然言語処理の技術は、まさしくIoTデバイスに必要とされることの実現例だ。リアルタイムに情報を収集し、複雑な機能でもって処理するという、予知解析や機械学習を取り込んでいる。

それでもまだ、AlexaやHomePodとのやり取りは会話とは呼べない。役には立っているが、コミュニケーションとしてはまだ初期段階にあり、成長の余地はある。

というのも「どのように」「なぜ」といった掘り下げた質問が、会話の中で重要な意味を持つからだ。真の双方向会話を実現するには、そうした質問に対する答えを複数用意するだけでなく、学習し記憶しなければならない。Googleはそうした手法をいくつかのオンライン検索に取り込んでいる。しかし、自然な会話を実現するためにはまだたくさんの課題がある。

文脈から意を汲む能力の開発、それが接続機器の最終目標

人の会話の多くは要約されている。会話の量がどれだけあろうが、やりとりに分解することができる。名詞や固有名詞を代名詞に置き換えるのがいい例だ。「Daveの休暇について尋ねたところ、Janeは“私が彼を空港に送って行って見送る”と言った」。こうした文章は序の口で、簡略してはダメ、となったら会話はすごく不自然なものになる。毎回、きちんとした名称を使うとなったらやりづらく、スムーズではない。

会話というのをシンプルに定義づけると、それは感情やアイデアのカジュアルなやりとりということになる。それは人々がコミュニケーションをとるために自然に行う。くだけた会話というのは、文脈的な要素が大きく、また凝縮していて包括的なものだ。物語を語るような要素も含まれる。会話はあちこちに飛ぶし、時間軸も動く。新しいことについて情報交換するとき、過去に共有したことをベースに話すこともある。推測を伴うこともあれば、厳密に会話に執着しなくてもいいこともある。こうした会話手法は、IoTに仕込まれたものとは全く正反対のものだ。機械によるコミュニケーションというのは、コードに基づいている。それは二分法であり、供給源に制約があり、杓子定規だ。情報はあるが、文脈というものに乏しい。あまりにもカチッとし過ぎていて、物語を語るにはほど遠い。

IoTを活用するときに私たちが感じる違和感は、こうしたアプローチの違いによるものだ。デバイスを操作するときに新しいアプリをダウンロードし、起動の言葉を設定する。そして別のデバイスのために違う言葉を設定し、アップデートを繰り返す。そんな調子だから、買って2週間後にはデバイスは引き出しへとお蔵入り、ということになるのだ。人が望むようなやりとりではないのだ。

不気味さプライバシー問題はさて置き、私たちの身の回りの情報を絶えず収集するデバイスに関していうと、人間が好む会話ができるよう文脈を読む技術を獲得しつつある。目指すところは、人がいつでも違和感なくデバイスを使えるようになることだ。

今後取り組むべき課題は、マシーンに人間のような会話能力を持たせることだろう。会話が自然なものとなるよう、文脈や推測、そして形式ばらないよう吹き込まなければならない。こうした取り組みをすでに始めているのが国防高等研究計画局であり、AmazonGoogleでもある。実際のところ、テクノロジーを開発するにあたって、もっとも注力されるのはインターフェースの使いにくさをいかに少なくするかという点だ。そうした意味でいうと、会話の質を高めるというのは、使いやすさに直結する。

IoT、拡張現実、アシスタント知能(AIという言葉を私はAssistive Intelligence ととらえている)、さらにはモバイル機器ディスプレイでの小型化や拡張、電気まわりの改善といったものも、全ては質の改善を追求した結果といえる。それらテクノロジーにより、文脈を読み取る、究極的には自然な会話をする機能を開発することができると考えられる。これを活用すれば私たちの暮らしは会話にあふれたものとなる。そして、ひとたびテクノロジーと有意義な会話を経験すれば、夢中になること間違いなしだろう。

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(翻訳:Mizoguchi)

消費者を取り戻すために、大ブランドは研究開発とイノベーションに投資すべきだ

または:もし私がケロッグのCEOならどうすべきか

【編集部注】著者のRyan Caldbeckは、消費財企業および小売企業のための投資市場であるCircleUpの、創業者兼最高経営責任者である。

消費財の世界は変化している。消費者の嗜好はますます細分化されており、既存の大企業たちは新興のブランドたちからシェアを奪われ続けている。こうした既存の企業たちは、対応策への苦慮を重ねている。CPG(消費者向けパッケージ商品:消費財)の世界には、賢い人間が溢れているが、最大規模のブランドの多くが、ここ数年その売上の停滞もしくは減少を経験している。

消費財企業たちは、売上の増加またはコスト削減のいずれかの手段によって、利益を増やし株主価値を提供することができるが、こうした企業たちが試みてきた潮目の切り替えは、いずれも上手く行っていない。革新を行おうとするとき、彼らが行うことといえば、消費者が本当に欲している新しい商品を提供するのではなく、既存製品に対するちょっとした変更に留まるだけなのだ(例えばポテトチップの脂質を減らすとか)。

あるいは、消費者たちに既存の製品を購入すべきだと説得するために、広告に何十億ドルも費やしているのだ。そして売上を増やすことができない場合には、貴重なビジネスチームをリストラして支出を削減したり、他の消費財メーカーを買収してコストを減らそうとする(クラフト-ハインツのケースなど)。こうした戦略は、しかし、大規模消費財企業たちを長期的な成功へとは導かない。そこで以下では、成功へ導くかもしれない、いくつかの提言を行う。

なお、さらに深く掘り下げる前に、お断りしておくが、私は全ての答を知っているわけではない(それどころかそのほとんどを知っているわけではない)。私は従業員65人を抱えるスタートアップのCEOであり、3万人の従業員を抱える大企業を経営しているわけではない。私がここで共有したいと思っている知見は、消費財企業に対して投資を行い、そうした企業たちの成長を助けてきた10年以上の経験から集められたものである。しかしそれらの知見は、あくまでも外部から中を眺めて得られたものである。

以下の記事の中では「ケロッグ」を、ペプシコ、エスティー・ローダー、ネスレ、クラフト-ハインツ、もしくは無数の有名ブランドたちに適宜置き換えながら読んで欲しい。それでもお話する内容は役に立つはずだ。これは、単に1つの会社だけでなく、実質的に全ての既存消費財企業に当て嵌まるダイナミックな知見なのだ。

違いを生み出すために、私なら何をするか

ケロッグのCEOとしての初日に私がやることは、鏡を真剣に覗き込みながら、どのケロッグブランドが、いまでも市場価値があり成長の余地があるのかを、自分に厳しく問いかけることだろう。最近私は大手CPG企業の元副社長と議論をする機会があった。彼によれば、大きなCPG企業が罪深いのは、もし新しいニュースを吹き込むことができれば、何でも市場価値を保ったままでいられると考えている点だということだった。私も同意する。私たちは稼ぎ頭のブランドやプロダクトを持っているものの、それらが徐々に死にかけていることも、私はCEOとして率直に認めよう。

決心することは苦しいが、将来のために踏み出すべきステップは、死につつあるレガシーな稼ぎ頭を売却して、手に入れた現金をイノベーションに対して投資することだろう。今週私はフォーチュン100に載る消費財企業の20年選手であるベテラン社員と、また別の議論をする機会を持った。彼は「10年後にはもう、うちの会社は存在しないと思います。解体してしまうでしょう」と言った。レガシーブランドの売却の話を出すと、多くの消費財企業の幹部たちは話をそらそうとする。しかしそれは行う必要のある話なのだ。瀕死の稼ぎ頭を切り捨てることは、船を救うためには、最も困難な(しかしおそらく最も重要な)ステップである。

既存のブランドのどれを剥ぎ取るかを決めたなら、私の次のステップは、自分たちの会社がコストカットに力を注ぐことを止め、真にビジネスを成長させるためのイノベーションの文化に投資を行うことを、広く発表することだ。これにより短期的には株価が下落する可能性はあるが、このことが会社にとっては中長期的には大いに役立つのだ。

端的に言うならば、私たちは永遠にコストカットを行いながら生きながらえることはできないということだ。私たちは成長する必要がある。自分たちのイノベーションの文化は、様々なやりかたで育ち広がっていく。以下に挙げたものは、逐次的な実行リストではなく、むしろ並行して追求すべき活動の一覧である。

1)研究開発:自分たちがコスト削減ではなく、成長とイノベーションに注力するのだということを、ウォールストリートに伝える。研究開発のプロセスとパイプラインを見直し、より大きな夢を描くのだ。2017年のケロッグの研究開発費は1億4800万ドル(総売上の1.1%)だった。最初耳にしたときには、これは多額であるように聞こえる。しかしGoogleと比べてみよう。Googleは同じ期間に166億ドル(総売上の15%)を研究開発に使っているのである。こうした面に対する、テック企業と消費財企業の資金の使い方の違いが、以下の図で対比されている。

年間総売上に対する研究開発費の割合

出典:Company 10-Ks for 2017

これらの企業の1つがFrosted Flakes(日本ではコーンフロスティという商品名)を同じやり方で60年以上も作り続けてきたことは間違いない(そのほとんどの期間面白おかしいテレビコマーシャルを伴って)。一方、その他の企業の1つは検索エンジンとしてスタートし、いまや携帯電話、地図、そして自動運転車を開発している。テック企業が、5年間同じプロダクトを販売することが、どれほど滑稽なことかを想像してみて欲しい。まして50年などは論外だ。ここで行うべき研究開発は、決して単に新しいフレーバーを考えたり、既存の製品を低脂肪化することに限られるものではない。

ある大規模CPG企業の熟練社員が最近私に語ってくれた ―― 「消費者はもう『より白い白』なんかには興味を持っていないんですよ」。消費者が本当に望んでいるものを知るための適応性のあるインフラを構築すること、そして得た情報を開発チームに対して、彼らが素早くかつ効果的に対応できるように伝えることが必要なのだ。製品そのものではなく、製品カテゴリーと消費者に焦点を当てる研究開発チームが必要なのだ。ペプシコは低脂肪のポテトチップスを考えるのではなく、スナックカテゴリ全体を再考する必要があるのだ。

なぜAB InBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ:酒類メーカー)が二日酔いにならないビールを開発することを考えることは「頭がおかしい」と言われ、イーロン・マスクが火星に人類を送り込もうと考えることは、「狂気の沙汰」とは言われないのだろうか?なぜCloroxが無毒で安全な漂白剤の代替製品に対して、10億ドルを投資することがお笑い草だと揶揄され、世界中のタクシーを置き換え輸送というものを再考しようとしているUberに、150億ドルを投資することを考えることは普通なのだろう?もちろん上のコメントは、大衆消費財企業のCEOたちを鼓舞するためのものであり、SpaceXやUberを貶めようとするものではない。

良い研究開発には、既に存在するかもしれない優れたアイデアを探すために、地面に耳を押し当てて聞くことも含まれる。例えばインドの歯磨き粉には、アメリカ人が考える歯磨き粉の概念に革命をもたらすものがあるかもしれないが、耳を傾けなければそうしたことを知ることはできない。こうした良い研究開発インフラがないときにどうなるかの例を、製薬業界に見ることができる。大手製薬会社は現在イノベーションのアウトソース化に対してコストを掛けざるを得なくなりつつある。もはや社内でそうした活動を抱えることができないからだ。CPG企業も大手製薬会社の運命を辿りつつあるのだ。

2)インキュベーション: 優れた消費財企業への投資とパートナーシップに加えて、社内にそうした相手を育てるための部門と専門家も用意する。最近ケロッグは、Conagra Brandsならびにシカゴ市と提携して、3400万ドル規模の食品インキュベーターへの投資を行った。このインキュベーターは約75社をサポートすることが期待されており、そのうちの80%がスナックカテゴリーの企業だ。これは間違いなく正しい方向への1歩だが、CEOとしての私は、より規模を広げ、そうした活動を社内でも行いたいと考えるだろう。多種多様なカテゴリーから年間100社以上の企業を育成し、消費者のためのY Combinatorを目指したい。これはウィンウィン関係を生み出す。優れた消費者企業の成長を支援し、それらの企業がわが社の専門知識とインフラを活用するのだ。

3)ベンチャーキャピタル: あまりにも多くのCPG企業が、5年以上経ったブランドだけに投資し、最終的には巨額の金額を拠出している。私なら、売上や既存の製品戦略にすぐに貢献すると考えられる企業だけでなく、10年後に興味深い結果を出す企業にも投資するという方向に考えを改める。ここでは長期的な視野が必要とされ、データが大きな役割を果たす。わがケロッグは、単に1ダースの人間をExpo Westにに送るだけで、イノベーションを探そうとするわけではない。Expoの販売ブースでのプレゼンでは分からない、相手の成長の可能性を見抜き、将来性のあるブランドを早期に見つけ出すことを助けてくれる、まだ共有化されていないデータとテクノロジーソリューションが必要なのである。ケロッグは1億ドル規模のベンチャー担当部門を持つという意味で、ベンチャー対応においては他のCPG企業よりも実際には先行している。しかしこれはまだ小さすぎる。

私ならまず、自分たちのベンチャー担当部門の管理する資産を5億ドルに増額する(総売上の4%以下である、それでも多くのCPG企業のベンチャー担当部門の運用残高の50倍の規模となる)、そして担当者たちに200から300の企業に対して投資を行うことを指示する。中心に据えるのは、この先2年から4年の売上が1000万ドル未満のアーリーステージ企業たちだ。もしそれが、頭のおかしいアイデアのように聞こえるならば、GoogleのGV(Googleのベンチャー担当部門)を見てインスピレーションを受けて欲しい。彼らは、さまざまな、時には予想外の角度からのイノベーションを促進するために、多様なポートフォリオを構築したのだ。テックVCたちが数百社のポートフォリオを持つことができるなら、私達にも可能だ。消費財企業のベンチャー担当部門そのものは、特に新しいアイデアではない。多くの大手CPG企業がベンチャー担当部門を立ち上げたが、こうした消費財企業VCは、500万から1000万ドルを、3社か4社に投資する程度の場合がほとんどである。そしてその後CEOは怖気づき、短期的なコスト削減の圧力に屈して、戦略を諦めるのだ。私たちはあえて長い目で見ていこう。

単なる資本を提供するだけでなく、私はこれらの企業の成功を助けるためのリソースとサポートを提供する仕組みも作り上げるだろう。私たちは、ケロッグ(ならびにパートナー企業)と投資対象の会社たちの間に、エクスターンシップ(企業間研修)のプログラムを用意するだろう。小規模な会社への転職を希望している、大手CPG企業のブランドマネージャー、マーケティング担当者、サプライチェーンの専門家などからのメールを、私が受け取らない週はほとんどない。このエクスターシッププログラムは、小規模なブランドにとっての資産となり、一方その競争力を保持するツールの役割も果たし、イノベーションををケロッグに持ち帰る結果にもつながる。

4)M&A:私はM&Aそのものに反対しているわけではない。私が反対するのは、株主にとっての長期的な価値を提供するという名の下に、単にコストカットを目的として行われるM&Aである。10年後には、多くの消費財企業の主要既存製品の売上は、現在よりも遥かに少なくなってしまうだろうと、私は考えている。こうした製品は1つや2つの新製品で置き換えられてしまうのではなく、数百、あるいは数千の製品で置き換えられてしまうのだ。これは消費者の断片化、あるいは過去に私たちが「消費者のパーソナライゼーション」と呼んできたものである。大手CPG企業は、こうしたプロダクトたちを(まだ早期のステージのうちに)買収するか、それらに負けるかのどちらかとなる。私なら、自分の会社には、そうしたブランドたちが大きくなって数百万(あるいは数十億)ドルの資金が買収のためには必要になる前に、早い段階でそれらを多く買収して欲しいと思う。さらに多くのブランドと連携し、彼らの成長の恩恵を受けるために必要な、インフラストラクチャにも投資する必要がある。様々なブランドたちが、ケロッグの敵になるのではなく、家族に加わるのだ。

5)パートナーシップおよびジョイントベンチャー:時おり、消費財企業の世界でのジョイントベンチャーやパートナーシップについて、耳にすることがあるが、実際にはとても稀な出来事である。それは何故だろう?おそらく多くの場合、大きな消費財企業たちは、他の企業とのパートナーシップを利益の分割(すなわち最終的な利益への悪い影響)ととらえているからだろうと、私は想像している。しかし、それは生産的な態度ではない。ほぼ全ての他の業界では、成功したパートナーシップの例を見ることができる。例えばWalmartの商品をGoogle Expressで提供するGoogleとWalmart提携や、自動運転車両にむけたChryslerとWaymoの提携といった、様々なステークホルダーとの提携は、最良のイノベーション生み出す手助けとなる。私はまた、業界自体の教育を助けるために、他の消費財企業と提携することには大きなチャンスがあると考えている。私たちは最高の消費財起業家と、最も秀逸なアイデアを集めた会議を開催することが可能だ。そしてその結果として誰もが利益を得ることになるだろう。

なぜこれが重要なのか

最高経営責任者(CEO)としての私の計画が有効に実施されれば、私たちは3つの強力な効果を見ることになるだろう。まず第1に、より多くの新興ブランドへの小規模な投資を行い、イノベーションの文化を構築することによって、ケロッグは消費財の世界における支配的プレーヤーになるだろう。もう顧客を奪われる心配をしなくても良いのだ。彼らは大改革を生み出しそれを活用する者になるだろう。第2に、このロードマップは、最良の製品が消費者の手に届くことを可能にして、誰もが幅広い種類の食品と、より健康的な選択肢を選ぶことができるようにする。そして最後に、このインフラストラクチャーを構築することにより、ケロッグは起業家たちの流通、ブランド、サプライチェーン、チームを支援することができるようになる。それらの企業が成長し成功することで、株主にとっての価値も高まることになる。消費財は特に非効率的な市場だが、ケロッグはそれを変革する上場企業となることができる。

まあ繰り返しになるが、こうした戦略を外から助言することは簡単だ。内部から外を眺めながら、こうしたことを実現していくことはずっと困難なことである。大規模消費財企業のCEOの多くは、おそらく長期的にその企業の役に立つ。大胆なアイデアを胸の中で温めていることだろう。彼らがそれを実行できないのは短期的な問題に取り組まなければならないからだ。即時のコスト削減を求める取締役会と、即座に株価を上げることを要求する市場が目の前の難敵である。

そのために、こうしたCEOたちはみな骨抜きにされ、タイタニック号の甲板で船が沈むまで椅子を並べ替えることしかできなくなるのだ。もし船を救うために、あまりにも多くのことに手を出すと、自分の地位も長続きしないということを彼らは恐れているのだ。ゲイツ、マスク、そしてベゾスは自由にビジョンを描き、企業をイノベーションの最先端に導いて行くことができる。それなのに、Cahillane(ケロッグのCEO)、Hees(クラフト-ハインツ)、そしてQuincey(コカ・コーラ)たちは、自分が置かれた箱の中で働かなければならない。大規模消費財企業たちがイノベーションを始め、創造性を発揮して、消費者たちが望むものに耳を傾けることを、私は切に願っているのだ。そしてそれぞれの企業の取締役会とウォールストリートが、そうしたものの長期的価値に気が付くことも。もし業界が進化しなければ、先のことは知る由もないが、Googleが朝食用シリアルをひっさげて参入してくるかもしれないのだから。

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(翻訳:sako)

Facebookはネガティブなメッセージに非対称の優位性を与えている


Facebookの批評家としてRoger McNameeほど適した人物はいない。Elevation Partnersのマネージイング・ディレクターでFacebookの初期の投資家でもあるMcNameeは、Mark Zuckerbergのメンターを務めただけでなく、彼にSheryl Sandbergを引き合わせた人物でもある。

このため、過去数年のFacebook、中でもCambridge Analytica 騒動に対する高まる世論の批判のなかでもMcNemeeの意見は決して軽視することはできてい。

McNameによると、Facebookは「人間の感情」に基づくテクノロジー企業を開拓した。Facebookがわれわれの「潜在的感情」をすべて知っていることから、第三者がこの国の民主主義と経済を根本から揺るがす事態が起きている。McNameeは、2016年の英国EU離脱の国民投票と、米国大統領選挙の両方でこれを目の当たりにし、Facebookはネガティブなメッセージに「非対称の優位性」を与えていると結論づけた。

McNameeは今もFacebookは修正可能だと信じている。しかしそのためには、ZuckerbergとSandbergのふたりが今起きていることに対して「正直」になり、民主主義を強化する「市民の義務」を認識する必要があると主張する。そして彼の言う「ダークサイド」を認めそれに直面するうえでは、テクノロジーも役割を担うことができるとMcNemeeは信じている。

もちろんMcNamee自身もそれを実践している。彼は元Googleの製品哲学担当者、Tristan Harrisと共にThe Center for Human Technologyを設立した。これはシリコンバレーの著名人たちによるアライアンスで、「テクノロジーを人間の最大利益に合わせて再編する」ことを目的としている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

郵政事業の窮状はアマゾンのせいではない。生き残るには刷新が必要だ

Photo courtesy of Flickr/André-Pierre du Plessis

(編集部注:本稿は、Oracleに買収されたAddThisの創業期エンジニアであるCyrus Radfar氏によって執筆されたものである)

トランプ大統領が最近、3回にわたってアマゾンをツイッターで攻撃した。それによりアマゾンの株価は大きく下げ、時価総額で40億ドルも失った。これはギリシャの経済を超える額だ。

トランプ大統領の批判はこうだ。アマゾンは巨額の益を出しながら、荷物を持たせている郵政公社におこぼれしかやっていない−。ツイッターを多用する大統領が展開する批判としては特段珍しいというものではない。しかし、どんな天候でも、どの時間帯でも確実に届けられるという、従来の手紙より信頼度の高い手段である電子メール、ひいてはテクノロジーがUSPS(アメリカ合衆国郵政公社)に与えた影響を検証するという点では有意義なものだろう。

郵政公社は本当に窮状にあるのか

郵政公社はアマゾンやその他の企業の荷物配達をわずかな額で請け負い、そのために毎年、何十億ドルもの赤字を出している。アマゾンは儲かる一方で、郵政公社の財政は苦しくなるばかり。まったく間抜けな話だ。どうしてこんなことが起こるのか。この稚拙な問いは、トランプ大統領が2017年12月にツイッターに投稿したものだ。この批判が何を意図しているのか明確ではなかったが、このツイートは郵政事業が本当に窮状にあるのか、もしそうだとしたらアマゾンは責められるべきなのかという論争を瞬く間に巻き起こした。

まず最初に言えるのは、郵便事業が毎年数十億ドルもの赤字を出している、というのは事実であるということ。正確に言えば、2017年は27億ドルの赤字だった。過去10年以上、郵便事業は赤字続きとなっている。また、郵政公社とアマゾンはなかなか興味深い関係にある。郵政公社と競合するUPSやFedEXがeコマースの巨人、アマゾンの荷物配達で1個につき7〜8ドル徴収しているのに対し、郵政公社はたったの2ドル。しかし、掘り下げると話はそう簡単ではない。

郵政公社とアマゾン

トランプ大統領に言わせると、郵政公社とアマゾンの関係は「まったく馬鹿げたもの」となる。しかし多くの人にとって、これは郵政事業の中では、抜け目ないビジネスの一部分にすぎないと映るはずだ。というのも、2017年、郵政公社にとってアマゾンは最大の顧客だった。郵政公社が第1種郵便を独占してそれなりの利益を出していたのはいまや昔。行政から独立した機関である郵政公社にとって、郵便事業で儲けを増やすためにアマゾンの配達を請け負うというのは賢明な策なのだ。しかも配達件数が激増する産業に郵政公社が接近するのは何も今回が初めてではない。過去を振り返ると、2010年にNetflixのDVD購読サービスだけで6億ドル、というのがある。もちろんNetflixのDVD配達サービスはすぐに廃れ、オンデマンドストリーミングに取って代わられた。そして今、アマゾンは自前での配達サービスを計画している。これこそが、大打撃になるかもしれないと郵政公社が備えるべきことなのだ。

電子メールと経済危機のダブルパンチ

技術の革新が進む中で郵政事業が最初に抱えた試練は、電子メールによるものだった。しかし、これは想定したよりも大打撃にならなかった。2002年にはほとんどの米国人が電子メールを使うようになっていたが、それでも郵政事業は2003年から2006年までの間、なんとか黒字だった。この時代、人々はまだ手紙を書き、挨拶カードを送り、何といっても請求書はすべて郵送されていた。

しかし2007年の世界経済危機は、郵政事業にとってもろに大打撃となった。おそらくこの影響はいまだにひきずっている。経済危機では何千もの事業所が苦境に陥り、その結果、経費削減の大鉈を振るい始めた。その矛先の一つが郵便だった。2000年には請求書のほぼ3分の2が郵便で届けられ、これによる郵便収益は15〜18億ドルだったと推測される。しかし2006年から2010年にかけて、郵政公社の取扱量は420億件減り、うち150億件は電子請求書に取って代わられた。

それにも増して、ソーシャルメディアの台頭が郵政公社をさらに厳しい状況に追いやった。2010年から2014年にかけてハガキの配達件数は4億3000万件減った。より多くの人がクリスマスのあいさつや誕生祝いカードを送るのにFacebookやInstagram、Snapchatを利用するようになり、郵便で送る人は激減した。当然のことながら、郵政公社にとってかつて大きな割合を占めていた郵便事業の収益は21世紀に入って少なくなっている。

政府のリスク回避の動きの中で

郵便事業の人たちは、新しいテクノロジーに脅かされるのを見ていただけで何も対策をとらなかった、と言うのは不当だろう。

郵政公社は最新のテクノロジーを扱う機関だ。例えば2014年に発表されたホワイトペーパーの中で、3Dプリントは業界に影響を及ぼしうるものであり、郵政事業はそれにより恩恵を受けることができるかもしれないと述べている。2015年のホワイトペーパーではIoTについても記述している。どちらの白書も、そうした最新テクノロジーが市民に深く浸透する前に先見の明でもって発行されている。

しかし残念なことに、そうした先見ある考え方は実行に移される前に潰されてしまった。国営企業に近いという郵政公社の位置づけは、第1種郵便を独占するという点では有利に働くが、それと引き換えに運営面では議会に左右される。どのような商品やサービスを展開するかや価格設定などは自分たちで決められるものの、他の連邦機関と異なり1982年以来、財政的な支援は受けていない。

2016年には、郵政公社は郵便事業でNetflixや他のビデオレンタル事業者との関係を最大限活用しようと試みたが、郵便規制委員会から待ったがかかった。2013年には土曜の郵便配達を取り止めようとした。これにより年間20億ドル経費削減できるはずだった。しかしこれもまた、議会により却下となった経費削減できるどころか、2016年には郵便切手を49セントから47セントに値下げする命を受け、このために年間20億ドルの負担増となった。

郵政公社と議会のこじれた関係に伴う問題は根深い。郵政公社の存在そのものについても疑問符がつきまとう。それは何かと言うと、郵政公社は270万人もの職員を抱えていて(参考までに、ウォルマートの2017年の従業員は220万人だった)、郵政公社はアメリカで最大の雇用主だ。また、FedEXやUPSが対応しないような僻地にも配達していて、つまり必要だから存在している。一方で、郵便事業は民営化すべきだという意見もあれば、郵便はすでに時代遅れで廃止すべきと主張する人もいる。

当然のことながら、郵便事業の当局は、今後どうすべきか見当がついていない。改革を進め、収益アップに取り組むのをサポートするという人もいれば、必要な改革ですら阻もうとする人もいる。

郵政公社のモットーである、雪や雨が降っていようがいまいが、暑かろうが夜の暗がりだろうが、定められた業務を素早くこなす、というのは正しい。消費者の行動が大きく変化する中での彼らの対応はまったく特筆すべきものだ。

彼らはアメリカ国民に対しサービスを行っているのであり、どうあるべきかを決めるのは彼らなのだ。しかしながら、議会のせいで、そしてフェアではないとしてアマゾンとの関係を断つことを余儀なくされた場合に郵政公社が収入を逃すことになるのは確実だろう。事は微妙で、複雑なのだ。郵政事業がなくなって損をするのはアマゾンだけではない。

世界がますますバーチャルコミュニケーションへと傾いている時代にあって、郵政公社がいかに奮闘するか、期待したいところだ。

[原文]

(翻訳: Nariko Mizoguchi)

ワイヤレス戦争を終わらせるための和平案

【編集部注:著者たちについて】Boris TekslerAppleの前元ライセンス担当責任者である。現在は特許ライセンス会社Conversant IPの最高経営責任者である。Joseph Siinoは、Yahooの元知的財産責任者であり、現在はVia Licensingの社長である 。そしてIra BlumbergLenovoのIP担当副社長である 。

私たち3人が、企業の特許戦争で同じ側に立って発言することなど、誰も想像することすらできなかっただろう。だがこの戦争を終わらせるための提言を1つの声としてお届けしたい。

私たちの1人は世界的スマートフォンメーカーの特許責任者である(そして特許ライセンスの濫用に対する有力な批評家でもある)、そして別の1人は以前Appleでラインセンシングの責任者を務め、現在は不実施主体(non-practicing entity:NPE)パテントライセンス会社の責任者を務めている。この会社は製品メーカーたちからの批判の対象になってきた。また第3の人物はライセンスプール企業の経営者であり、特許戦争の両側の企業たちを、その駆け引きや、透明性の欠如、そして訴訟好きな体質で批判してきた。

私たちがここに足並みを揃えたのは、特許所有者と製品メーカーたちが、無限の請求、反対請求、そして非生産的な訴訟に巻き込まれて身動きできなくなっていることを見たことが原因だ。こうした紛争から脱出する方法が見つからない限り、これまでのコストがかかり無駄だったスマートフォン戦争と同じ事態が、将来のワイヤレスコネクテッドカーの世界でも繰り返されることはほぼ間違いないだろう。

製品メーカーたちは、特許権者たちが法外なロイヤルティを要求するために、自分たちを法的に脅迫し、法的費用を使っていると非難している。一方、特許権者たちは、製品メーカーたちが、デバイスに通信やエンターテイメント機器としての価値をもたらしている無線、オーディオ、そしてビデオ機能などの特許に対する、公正な支払いを拒否していると言っている。

実際は、どちらの言い分にも真理が含まれているのだ。ここでの問題は、特許所有者と製品メーカーの両者が、特許ライセンスに対する透明性と公正基準の欠如のために、紛争両陣営がお互いを出し抜こうとする「囚人のジレンマ」に落ち込んでいることなのである。これは、耐えられないほど高額な訴訟となり、両当事者が否定的な結果に苦しむことを確実にするだけだ。

不動産業とは異なり、知的財産権(IP)のライセンスでは、資産の独立した評価(すなわち特許)や、価格の決定方法に関する透明性がほとんどあるいは全く存在していない。また、ほとんどの特許ライセンス契約は機密扱いであるため、類似の特許権に対して他の人が幾ら支払ったかについての情報あるいは比較材料も、ほとんどあるいは全く存在していない。また、買い手と売り手の間での、公正な交渉慣習について、広く受け入れられている基本的なルールも存在していない。

これは、公正、合理的、かつ非差別の条件(FRAND)でライセンス供与されるはずの、標準必須ワイヤレス特許に関して特に当てはまっている。しかし、手におえないほど多数のLTE(4G)セルラー特許群 ―― 実際に6万件以上である ―― が、いかなる独立した評価も受けずに「標準必須」(standards essential)と宣言されてきた中で、何が「公正、合理的」なものなのだろうか?

そう、ご想像の通り、それらの6万件以上の特許は、それぞれ独自の商業的利益を求めている企業たちによって、「標準必須」であると自己宣言されてきたのだ。目の前にあるのはゴールドラッシュである ―― ただし夥しい量の偽の金が、本物の金だとして差し出されているゴールドラッシュなのだ。

こうした状況を憂えて、特許権者と製品メーカー両サイドの、業界リーダーたちと協力している私たち3人が、ワイヤレス特許戦争を終わらせ、より生産的で訴訟の少ない特許ライセンス取引を行うための3つの和平案を提言することにしたのだ。

まず第1に、この手に負えない数の自己本位のワイヤレス特許群を、大部分の専門家たちが、真にスマートフォン端末メーカーにとって必須であると認める2000個以下の特許に絞り込むこと。重複した特許、期限切れの特許、主要経済市場では有効でない特許、そして基地局、インフラストラクチャ、その他の携帯機器メーカとは関係のないイノベーションの特許を除外することで、これを実現することができる。そして独立した、中立的な評価者が、各特許の携帯端末のためのLTE標準との関連性を認定する。

第2に、個別に主観的に決められた特許の価値に基くのではなく、1台の電話機の中のLTE特許総体の価値から客観的に算出された価格に基いて、ロイヤルティの基礎を決定すること。最近の裁判所判決は、平均販売価格が324ドルのスマートフォンの中でのLTE特許分は約20ドルであると評価したが、両者からより透明性の高い価格が提示されれば、市場そのものがLTE特許総体に対して合理的な価格を設定する可能性は高い。そうすればLTE特許全体に占める割合にほぼ比例する形で、ロイヤルティを特許所有者たちに支払うことができる。

そして第3に、価格フレームワークを公開し、全てのライセンシーに一貫した条件を提供するパテントプールなどの、集合的ライセンシングソリューションを積極的に採用することで、より透明性を確保すること。現在の特許ライセンスにおける「囚人のジレンマ」の力学を考えると、1人の特許権者が一方的にその価格戦略を開示して、潜在的ビジネスチャンスをふいにすることは期待できない。しかし、パテントプールなどの集合的なライセンシングアプローチは、誰に対しても透明性によって生じるリスクを低減してくれる。

IP業界紙のIntellectual Asset Managementが最近指摘したように「モバイルのような分野で、特許権者とライセンシーの間に横たわる、長期的かつ高価な紛争によって傷ついた業界の問題の幾つかを、ライセンスの集合的アプローチが解決するのに役立つだろうという意識が高まっている」のである。

私たちの「和平案」は、ワイヤレス特許ライセンシングにおける駆け引きに対する多くのインセンティブと機会を取り除くものである。そして最も重要なのは、将来のコネクテッドカー、自動運転車、IoT(Internet of Things)業界において、コストがかかっていたこれまでのスマートフォン戦争が繰り返されることを、特許権者や製品メーカーたちが避けられるようにするということだ。

いまや、業界における新たな再編の時期なのだ。これからの争いは製品メーカーと特許権者の間で行われるのではなく、特許を公正で透明に行うものと、そういうやり方を行わないものとの間で行われるものとなる。

[原文へ]
(翻訳:sako)

画像クレジット: Archives New Zealand / Flickr under a CC BY 2.0 license.

私たちのデジタルの未来は中国からやってくるモバイル技術を手本に徐々に変容していく

【編集部注】著者のMichael JaconiはButtonの共同創業者兼CEO。かつてはRakuten LoyaltyのCEOを務めていた。

インターネットの黎明期以来、業界の大物たちは、ユーザーたちがオンライン体験を始める入口である「ポータル」を奪い合って来た。要するに「ブラウジング」を開始する場所だ。ダイヤルアップ時代が到来したとき、America OnlineはCDを米国の全家庭に送り付けた。そのバトンはYahooに渡されてカテゴリー別リストとなり、やがて全世界の情報をインデックス化するGoogleの野望に飲み込まれた。「ポータル」を制することが全てだったのだ。

モバイル革命が世界中で拡大し続けるにつれて、ポータルを巡る戦いが激化している。しばらくの間、人びとはそれを制するのはハードウェアだと考えていたが、やがて本当に大切なのはソフトウェアであることが明らかになった。その後、論争はオペレーティングシステム(AndroidかiOSか)へと移行し、やがて人びとがほとんどの時間を費やすソーシャルならびにメッセージングアプリケーションへと移行した。個人的には、現在それはアプリとオペレーティングシステムの間のどこかに漂っていると考えている。とはいえ、インターフェイスレイヤは常に進化していくだろう。

ロケットの発射台と同様に、ポータルはそのあとに続くものがあるから重要なのである。その切望された場所を巡る戦いは、しばしば他の理由が並べ立てられていることも多いが、要するにコマースのためのポータルになるための戦いなのである。

Google哲学には、利用者をなるべく早く「Googleのページから立ち去らせる」というものが含まれている…このことによって利用者たちに利用習慣をつけてもらい、繰り返しポータルに戻ってきて貰おうということだ。まあ私の考えでは、本当の(しかしやや隠された)目標は、ユーザーに買いたいものを検索させ発見させることだ。

もちろん、Googleは世界の情報を集約する一方で「悪いことは行わない」(do no evil)のだが、その代償として売上を、Priceline、ExpediaAmazon、その他のデジタルエコノミーに渡してしまっている。

一方Facebookは、利用者の時間、注意、データを独占することでポータルとなった。この努力によって、四半期ごとに記録が破られる広告ビジネスが打ち立てられた。

GoogleとFacebookという2大独占企業が、2017年に新しく支払われた広告費の89パーセントを占めているのである。彼らの優位性は他に類をみない…今のところは。

だが現在、消費者の習慣の変化、広告主のコストの耐え難い上昇、米国のデジタル経済を支配している広告モデルへの普遍的な不満などから寄せられる市場の力によって、急速な変化が求められているのだ。そのすべてがモバイルによって加速されている。オンライン上でのユーザーにとっての手酷い経験はいまでも存在し、そのことが広告主にとっての効果を下げ不正行為を蔓延させている。過剰な広告から逃れようとする動きを、象徴的に示しているのが、広告ブロッカーの爆発的な普及である。「この壊れた業界の是正の必要性」を示すさらなる証拠は、Oracleが広告を追跡監視する企業の買収に8億5000万ドルを喜んで支払ったということだ(おそらく私が知る最も優れた起業家がこの会社を経営しているので、この事は驚くようなことでもないが)。

起業家の1人として、私の仕事は未来を予測することだ。これまでの経験を通して学んだことを熟考することで、私たちのデジタル未来についての、よりスマートな意思決定を導いてくれる真理があることが明らかになった。

小売業者、広告主、ブランド、マーケティング担当者たちは、日々スマートになっている。このことが意味することは、ユーザーたちのために彼らが頼るプラットフォーム、パートナー、そして場所を、彼らが日々「パフォーマンス中心」にしていくということなのだ。より多くの商取引を目指して。

宣伝のためにビューを買ったり、ボットやその類のものに対して支払いをする行為は、時間と共に廃れていくだろう。(私見だが)世界で最も強力な企業であるAmazonが、そのアソシエイトプログラム(自社開発によるパートナーシップとアフィリエイトプラットフォーム)に大きく依存していることは秘密でもなんでもない。実際このチャネルは小売業者にとってもっとも効率の良い有償獲得手段であり、実際Amazonアフィリエイトプログラムの成功が、パートナートラフィックの急増となり、AWSの開発に繋がったのだという噂もあるほどだ。

上海の外灘を見下ろす中国国旗(写真:Rolf Bruderer/Getty Images)

私たちのデジタル未来を考えるときには、視線を落とし、そして東を見よう。まずは視線を落として手元の電話を眺めて感心してみよう ―― これは今後10年にわたるあなたのデジタル世界へのポータルとして機能するだろう。そして私たちのそれへの依存度はますます大きくなっていく。この大きさのデバイスの爆発的な普及は、これまでの歴史におけるあらゆる技術潮流の速さを凌駕し続けている。

さあ、では東を見て、中国で起きることが、最後にはここ西洋でも起きることを確認しよう。中国市場はPC主導のデジタル革命をスキップして、スマートフォンを使ったデジタル時代に突入している。本当にスマートな投資家の中には、この命題に基く戦略を立てて、静かにその先見の明を通した報酬を受け取っている者たちもいる。

中国は歴史的に、模倣品と海賊版で溢れた市場だと思われて来たが、しかし時代は変わったのだ。ここ10年の間に、世界で最も大きく、そして最も革新的な企業のいくつかが中国から出現した。中国の起業家精神(最近それは、おそらく世界で最も偉大な投資家であるMichael Moritzによって賞賛された)、その革新のスピード、そして十分な人口に素早く拡大して到達できる能力によって、中国企業は多くの米国のライバル企業の時価総額を飛び越えてきた。

中国のデジタル経済の成長における最も興味深い要素は、それらが米国の市場よりも基本的に「純粋」であるということだ。私はその要因として、中国市場が本質的に「取引中心」であることを挙げたいと思う。Andreessen Horowitzが書いているように、(中国で最も価値のある会社であるWeChatは、すべてのユーザー行動の「ポータル」でありハブとなっている。彼らの収益の多様性は、”Google”や”Facebook”よりもはるかに”Amazon”的であり、ずっと純粋だ。彼らはプラットフォーム上での取引でお金を稼いでいて、広告は戦略上それほど重要ではない。

2年前、テクノロジー産業がWeChatを複製しようとする執念に駆られたことがあった。そして見当違いの何らかの理由によって、誰もが優れたメッセージボットを作る必要があると考えたのだ。

忘れてはならないことは、中国で創造されているビジネスの純粋さと強さに対する、私たちの執念だ。中国のデジタル経済を結び合わせ、無限にみえる成長を育んだ基本構造は、コマースとモバイルの不思議な組み合わせである。中国版ブラックフライデーであるシングルズデー(独身の日)には、Alibabaでの売上は250億ドルに達した。そのうち90%がモバイルだった。

これまで米国と中国の両方で学んだことは「消費者がお金を使うこと」が、最も永続性のある消費者ビジネスを作り出すということだ。(様々な先進技術や英雄的ステートメントは脇に置いておくとして)結局Googleとはショッピングエンジンを搭載した「ポータル」なのである。もし納得いかない場合には、彼らの収益がどこから来ているのかを見て欲しい。

Googleが最近発表したShopping Actionsの発表と、その「1トランザクション毎の支払いモデル」への移行の動きは、デジタルエコノミーの風景を永遠に変えてしまう可能性のある転換点を示している。

Googleによる、Apple、Facebook、そしてAmazonに対する多方面の戦いには、重み付けが施されている。Amazonは最も脅威的だ。そのビジネスは4者の中で最も永続性のあるものだ。そしてそのモデルは2つの点で青天井である。(1)人びとがオンラインで買い物をすると、その売上の中からAmazonが過剰な手数料を抜いていく、そして(2)企業がさらなるクラウド計算パワー(さらなるサーバー)を必要とすると、その売上の中からAmazonが過剰な手数料を抜いていくのだ(私の知る人たちは皆ここに挑戦しようとしている)。

そして傷口に塩を塗るように、Amazonはポータルという意味でもGoogleを脅かしている。商品検索の55%が今やAmazonを起点としているのだ。わずか1年前には、これは30%に過ぎなかった

消費者の行動がモバイルでは変化した(検索が減った)こと、そして永続性と成長の観点でAmazonと比べたときに、自身のモデルが劣っていることをGoogleは認識し、対応する必要に迫られたのだ。Googleは、無限の成長をサポートするモデルと、Amazonとその販売業者との関係に似た広告パートナーのために「ウィン・ウィン」の関係を構築できるモデルを必要としていたのである ―― つまり自分自身の検索トラフィックの独占を利用して、小売業者の負担を引き上げ続けるモデルではないものということだ。

Googleは、Google.com、Google Apps、そしてAndroidなどの、ポータルとしての地位が、長期的に勝ち抜くためには、取引の一部とならなければならないことに気付いている。モバイルユーザーは、広告を少なくしてより多くの機能を要求する(ルック&フィールとして中国で普通に見られるような体験を要求する)、何はともあれGoogleは視線を落とし東を見る必要がある。取引の一部となるために、そしてその一部を得るために。

このままでは、Googleと彼らが収益源として頼っている小売業者との利害が衝突する日が近付いていたのだ。ユーザー1人あたりの検索アクティビティはモバイルで減少し、ユーザー獲得コストは四半期毎に増加していたからだ。これまで多くの企業がAmazonとの競争に敗退してきた。もしGoogleが小売業者たちにとって、経済的に成功の見込める成長モデルを作り出すことができなければ、コマースの圧倒的巨人に立ち向かえる者はいなくなる、小売業者たちもGoogle自身も。

私が長い間信じてきたように、取引の一部となることは、すべての当事者にとって最も望ましいビジネスモデルである。小売業者が物を売った時に関係者に収益がもたらされる。そして最も大切なことは、お金の発生がユーザーが欲しいものを見つけたとき「だけ」に起きるということなのだ。

その意味でShopping Actionsは関係者全て(売り手、買い手、仲介者)を満足させるためのGoogleの最初の野心的なステップなのだ。

よくやった。サンダー(GoogleのCEO、サンダー・ピチャイのこと)。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: VCG

第三の時代を迎える「信用」について

【編集部注】著者のNik Milanovicはフィンテック推進派でPetalのCOOである。以前はFunding CircleとStanfordに在籍していた。

現在私たちの社会は、日々の生活を支える基本的なシステムの、大きな変化に目覚めつつある:それは信用(クレジット)システムの変化だ。一般的にはあまり知られていないことだが、信用基盤は文明そのものと足並みを揃えて存在してきたものだ。色々な意味で、信用システムは、常に人と人との間の基本的な関係 ―― すなわち「信頼」を、公的なものとして表現してきた。

信用の見え方、受け止められ方、そして使われ方は、この何千年もの間に劇的に変化してきたのだ。今日、過剰な技術と横溢するデータの黄金時代に支えられて、 信用さらに急激な変化を遂げている。しかし、その変化は、それぞれが独自の将来ビジョンを持っている、競合する勢力たちによって、多くの方向へと引っ張られている最中だ。

歴史の始まりにおいて、信用というものは、非常に個人的で主観的なものだった。これが何千年もの間続いていた。それが前世紀になって、奇跡が起きた。主に統計的モデリングを通して、信用というものが初めて「客観的」なものになったのだ。しかし、今日では、そのシステムに亀裂が見え始めており、私たちは今や新たな革命の入口に立っている。それが信用の「第三の時代」(Third Age)だ。

私たちは急激な飛躍を行おうとしている。昨年には信用イノベーションにおけるカンブリア爆発が目撃され、信用の将来の可能性について、数多くの可能性が明らかにされた。先行する2つの時代とは異なり、未来の信用は、個人的、予測的、自己修正的、そして普遍的なものとなる。

第一の時代:信頼の証としての信用(クレジット)

現代の人類学者たちは、初期の農業社会を、物品や労役を直接交換する、洗練されていない物々交換の世界として描いている。この図式の中には、信用システムが入り込む余地はない。相手が欲しい手持ちのものを、自分が欲しい相手の持ち物と交換するだけのことだ。しかし、歴史家のDavid Graeberがその優れた信用の語源の研究“Debt: The First 5,000 Years”(債務;その最初の5000年)の中で指摘しているように、こうした初期の文明の説明は確かなものではない。

物々交換システムには、「偶然の欲求の一致」として知られる、1つの重大な欠陥がある。もし私が養鶏家で、靴職人から靴を手に入れたいと思っているとする。すると物々交換では、こちらの鶏を欲しいと思っている靴職人を探さなければならない。もし自分の街で鶏を欲しがっている靴職人を見つけることができなかった場合には、第三者を巻き込んで、靴職人が欲しがっているものを探し、全員の欲求が満たされるまで取引を繰り返すことになる。

現在私たちは、この問題に対する簡単な解決策を持っている。それがお金だ。従来はあまりそのようにみなされては来なかったのだが、お金も実は信用の一形態なのである。お金の抜本的な革新性は、すべての取引に第三者(すなわち政府)を介在させたことだった。農夫は靴職人の欲しがっているものを何も持っていないときには、靴職人に対してドルで支払う。このドルは、靴職人が後に欲しいものを買う機会を保証してくれるものだ。これが可能なのは、人びとが1ドルの価値が変わらないと信頼しているからで、その信頼は政府がそれぞれのドルの価値を保証してくれるところから生まれている。あなたが支払いとしてお金を受け取るとき、あなたは受け取ったお金が、後日同じ価値で償還されるという政府の主張を信用していることになる。

最初の1万年間、信用は有用だった…しかし不完全なものだった。

人びとはお金のこの機能を当然なこととして受け入れているが、しかしそれは現代においてさえ、どこでも通用する話ではない。例えばジンバブエの三段階価格現象(three-tier pricing phenomenon)の例を考えて欲しい。政府は米ドルとの交換レートが1対1に固定されたボンド通貨(bond note)を発行した、しかし店舗は実際の米ドルをボンド通貨よりも割り引いて受け取った(つまり米ドルで購入した方がボンド通貨で購入するよりも安くなる)。これはジンバブエの市民たちが、政府に信用を全く与えていないことを示す具体例だ(これはまた、同国内のビットコイン価格の不可思議な不一致につながった)。

お金は、非常に多くの理由から、素晴らしい金融的手段である。それは交換の媒体である。それは価値を保存する。それはとても分けやすい。それは多くのものに対して交換可能である。それは普遍的に欲されている。それは流動的である。しかし、ごく初期の社会には現代のお金に似たものがなかったので、代わりに信用が利用されていた(文明の発達に沿った支払いの歴史に関してはここを参照)。

人間の経済があるところには、いつでも信用が存在していた。考古学者たちによって発見された最も初期の書き物のいくつかは、債務の記録である(歴史家John Lanchesterは、“When Bitcoin Grows Up”(Bitcoinが成長するとき)という素晴らしい記事の中で、信用の歴史について述べている)。しかし信用には多くの課題あった:信頼していない他人や外国人に、どのように信用を与えれば良いのだろうか?あなたが信頼している人であっても、彼らが返済してくれることをどうすれば保証できるのだろうか?ローンに対して請求する利息はどれくらいが正当なのだろうか?

初期のころの債務制度では、こうした事に対処するために、借り手が奴隷になったり、娘を差し出したりといった形でルール化し保証しようとしていた。こうした条件は借金を人為的に制限することとなった、すなわち、人類の歴史の大部分において、経済はあまり成長しなかった。その規模が信用の不足で制限されてきたからである。

というわけで、最初の1万年ほどは、信用は有用だった…ただし不完全に。

第二の時代:アルゴリズムとしての信用

全ては1956年に変わった。その年、あるエンジニアと統計家が、サンフランシスコのアパートで小さなテクノロジー企業を立ち上げた。同社は創業者たちにちなみFair, Isaac and Co.と命名され、やがてFICOとして知られるようになった。

Mara Hvistendahlが書くように「FICO以前には、信用調査機関は、対象とする人物の調査を、大家、近所の人たち、地元の店舗などで聴き込んだゴシップに、部分的に頼っていた。対象者の人種は不利な材料になり得たが、身なりのみすぼらしさ、モラルの低さ、そして『男のくせに態度が女っぽい』といったものも同様に不利な材料となった」のだ。またTime誌によれば、貸し手は次のようなルールを採用していた「ユダヤ人と大きな取引をする際には、相手を問わず必ず慎重な扱いをすべきだ」。「FairとIsaacが提唱した、アルゴリズムによる信用スコアリングは、こうした不公平な現実に対する公平で科学的な手法だった」。

FICOがいかに革命的であったかは、どれほど強調してもし過ぎることはない。多変量の信用スコアリングが登場する前は、銀行家は隣接する2軒の住宅の抵当額を決定する際に、両者を区別することができなかった。統計的な引受への動き(米国ではそのルーツは1800年代の早い時期の遡ることができる)は、雪だるまのように膨らみ、類似のアルゴリズムに基く信用システムを世界中に発生させた。信用とは結局リスクに関連するものだが、上記のようなシステムが20世紀半ばに開発されるまでは、リスクベースの価格設定はほぼ行われていなかった。

有名なのは、Capital One創業者のRichard Fairbankが、「情報に基く戦略」(information-based strategy)であるIBSを創業したことだ。彼は次のように述べている「まず第一に、リスクベースのビジネスの中で、誰もが同じ限度額のクレジットカードを所有している事実は奇妙である。[…]第二に、クレジットカードは非常に豊富な情報を扱うビジネスである、なぜなら情報革命に従い、外部から顧客に関する膨大なデータを収集することができるからだ」。

今では、アルゴリズムによる信用はあらゆる場所に存在している。米国の90%から95%の金融組織がFICOを利用している。昨年だけでも、FICOはロシア、中国、そしてインドにおける新しい信用スコアを提供し始めた。これは公共料金の請求書や、携帯電話の支払いといった新しいデータソースを活用したものだ。世界中の銀行は現在、あらゆる種類の信用について、リスクベースの価格設定を実施している。

新しい信用の世界はどのように見えるだろう?

何千ものスタートアップが、統計的モデリングと同じ概念を適用する新しい手法を模索している。たとえば 、香港のWeLabとドイツのKreditechは、ローンを処理するために最大2万点もの代替データを利用している(WeLabは4年間で280億ドル分のクレジットを提供している)。ケニアのmPesaBranchはモバイルデータを使用して途上国での信用を提供し、 Lendableはそれを心理データを使用して提供し、Koraはそれをブロックチェーン上で提供する。Funding CircleLending ClubLufaxなどの若いピアツーピア貸付スタートアップは、アルゴリズムによる引受手法を使って1000億ドル以上のローンを創出した 。

だが、この世界的な信用基盤に重大な欠点が無いわけではない。それをアメリカ人たちが認識したのが、2017年9月7日にクレジットビューローEquifaxが発表した、ハッキングによる1億4600万人分の消費者情報の漏洩である。

大規模な漏洩による後遺症は信用に関する激しい議論を巻き起こし、私たちに現行の信用システムのあり方を再評価することを強いることとなった。そして遂には第二時代の先を見据える会社たちを触発することとなった。ホワイトハウスのサイバーセキュリティ部門の権威であるRob Joyceは、社会保障番号(SSN:Social Security Numbers)を廃止する時期が来ていると主張している。現在はそれが信用スコアと密接に結びついてしまっており、個人情報が盗難にあってからでもそれを変えることができないからだ。

現在私たちは、自分自身のデータによって絡め取られている。私たちは、盗まれる可能性のある、安全ではないSSNやPINに頼らざるを得ないために、脆弱になっている。私たちは、その情報がどのように利用されるかに対しての選択はできない(1000億以上のFICOスコアが販売されている)。

FICOは、所得や支払いなどの関連要因も考慮しておらず、場合によっては単に芳しくない支払い履歴や、支払期日への遅れだけを反映していることがある。さらに、ある人のスコアの50パーセントは、その人の信用履歴(クレジット利用歴)に依存しているのだ。このことは信用を最も活用しなければならない若い借り手に対して、本質的に不利に作用するシステムとなってしまう。

最後に、Frank PasqualeがBlack Box Societyに書いているように、信用スコアリングは不透明である。これは、異なるグループにそれぞれ異なる影響を与える。アルゴリズムは誤って人間の偏見を取り込み、ローンをマイノリティに対してより高コストなものにする信用を積み上げようとすると、しばしば良くわからないルールに従うことを求められることがある。例えば誰かの信用に対して「ピギーバッキング」を行い報酬を支払ことなどだ、これは経済的不公平を恒久化させる仕組みとなる(ピギーバッキングとは他者のクレジットカードアカウントに、承認を受けて登録を行うこと。元のカード所有者のクレジット利用履歴が新たに登録した者の履歴としても利用できるようになる。このためクレジット履歴を持たない人が素早くクレジット履歴を得る手段として利用される)。

おそらくEquifaxに対するハッキングは良いことだったのだ。なぜならそれは、現行の履歴統計モデル、不透明なアルゴリズム、そして安全性の低い識別子に依存している信用システムが、完璧からは程遠いものであることを、大声で警告することになったからだ。ハッカーたちは本当は変装したロビンフッドで、時代遅れのスコアリングシステムに捕らわれている私たちを解放してくれたのではないだろうか?

現在の信用制度の弱点を乗り越えるべきときが来ている。そして今日の技術はその第一歩を踏み出しつつあるのだ。

第三の時代:解放としての信用

新しい信用の世界はどのようなものだろう?

昨年には、現在の信用システムを前進させるために、新しいアイデアのカンブリア爆発が起きた。今の段階では、どのシステムが勝つかを述べることは時期尚早だが、現在示されているものたちは真に驚異的なものばかりだ。信用システムは、革新による急激な飛躍の瀬戸際にある。このことにより金融包摂(financial inclusion:これまで金融に縁のなかった貧困層や中小企業などにも金融的恩恵を与えるようにすること)の世界が再編されることだろう。それは条件反射的で刹那的なものではなく、より個人的で予測的なものになるだろう。

未来の信用の最も革命的な側面の1つは、それが徐々に現金と似たようなものになるだろうということだ(反対に現金も信用に似たようなものになる)。消費者たちは信用(クレジット)を要求する必要はない。それは事前に様々な要素、例えば行動、年齢、資産、そして必要性などに基いて自動的に割り当てられることになるだろう。固定的な支払い金に分割されるのではなく、流動性の高いものになる。そして徐々に日常化されるにつれて、多くの場合そのコストは無償に近付くだろう。

消費者たちは全ての購入に対して、その裏側で自動的に決まる支払い方法の1つを使うことになる。決定の際には、現金もしくはクレジットのいずれかの支払い方法が、効率性と低手数料に対する最適化によって選択される。Venmo、クレジットカード、小切手、PayPalそして現金のすべてが、1つの支払手段として統合されているところを想像してみて欲しい。

人びとはもはや、別々のクレジットカード、学生ローン、住宅ローンといった、複数のクレジットラインを持つことはなくなる。人びとは、自身の持つことができる保証された「クレジットプラン」を持ち、全てが1つのマスター識別子あるいはプロファイルに関連付けられる。

ドル紙幣やプラスチックカードのような物理的な道具は、段階的に廃止され、博物館の中でのみ見ることができるようになる。購入に際して必要なものは、指紋などのバイオメトリック識別子となる。価格は限りなく分割することが可能になり、場合によっては小数点以下のセントに最適化される。これまで見えていた異なる種類の紙幣などは、目に見える所からは消えていく。

将来的には、人びとは行った仕事に対する「信用」(クレジット)が2週間毎に付与されるのを待つのではなく、報酬をリアルタイムで受け取るようになる(Walmartは現在これを実験している)。産業としてのペイデイローンは消滅する。WISH Financeは、キャッシュフローベースの融資引受のための、Ethereumベースのブロックチェーンを構築している。これを消費者に適用するのは簡単だ:通常の給与と支払いに基づいてリアルタイムに信用を取得すれば良い。

もちろん、信用の将来について話をする場合、ブロックチェーンについて話をしなければならない。

次のフェーズでは、個人を中心に信用は回転して行く。私たちはゲートキーパーたちの世界に住んでいる:現在信用調査機関などの中央データ集計業者は、信用の仲介者として行動している。しかし彼らの優位性は、徐々に個別に許諾されるデータによって侵食されていくことだろう(この概念は、自己管理されるアイデンティティ(self-sovereign identity)という名前で知られている)。これは、クロスボーダーの仕事とグローバル化が進む傾向に一致している:細分化が進む世界では、個人が核となる単位であり、自分の情報を第三者に依存せずに持ち歩く必要が出てくる。これによって、データにアクセスするために支払われている年間150億ドルに及ぶ手数料が削減され、情報は単一障害点を排除しつつ、より安全にすることが可能になる。

FICOのような、1つの万能スコアは分解されることになる。信用とは関係性のシステムである:私たちの信用が示しているものは、より広いネットワークに対する自分自身の立場なのだ。しかし、人びとは平均値で表現されるべきではない。機械学習を使用して、現在FICOの構成に寄与している要素と重みを分解することで、信用はもっと多変量のものになる(私が勤務するPetalはこれを使ってクレジットカードの大衆化を目指している)。

例えば350から850の範囲といった、1つの信用ベンチマークを、年齢に関係なく適用することにはあまり意味がない。よってこれからの消費者たちは共通の属性のある集団(cohort)と比べられることになるだろう。調査会社のExperianによれば、人びとは若いほど低い信用スコアを与えられている。とはいえ、青年期とは、信用を構築し、将来に備えてお金を貯めるために、もっとも借り入れを行わなければならないときである、

信用は文脈に依存したものになる。利用可能な最大信用枠は、給与や支払いなどの常に変化する要因に基づいて変動する。またそれは、個々の購入に対して固有のものでもある:購入しようとしている資産の価値と種類に基いて、異なるレベルの信用コストが算出されることになる。例えば、新生児用のベビーベッドを購入するための信用枠のコストは、ラスベガスへの旅行を購入するための信用枠のコストよりも安いかもしれない。Sweetbridgeが行っているように、固定資産は自動的に担保として用いることができるようになる(Koraの創業者が指摘しているのは、問題は貧困層が富を持っていないことではなく、その資産が活用できない状態であるということだ)。

信用は、心理学的かつ予測的なものである。あなたの過去の振る舞いを遡って見るだけでは十分ではない。あなたが移動したり、購入したり、活発に行動することで、信用力が動的に変化するのだ。それは特定のニーズに対して(あなたがそのニーズがあることを認識する前に既に)動的に割り当てられる(プリンタを買ったらインクが必要になるようなものだ)。

もちろん、信用の将来について話をする場合、ブロックチェーンについて話をしなければならない。初期段階では3つの用途に用いられる:

  • 細分化:Stellarのようなサービスを使えば、信用を細分化して、支払いを受け取ることは遥かに安く行うことができるようになるだろう。銀行が自身の口座に対して取引を確認することによる遅れも存在しない。

  • 引受:様々なデータソース、例えば信用調査機関、電話請求書、成績証明書、そしてFacebookなどからのデータが、普遍的なプロファイルに集約される(例えば uPortBloomが構築しているようなもの)。前述したように、これらは自己管理の対象であり、与信側が借り手の引受を行うことは遥かに簡単になる。

  • 契約の執行:スマート契約は自己執行を行い、債務の支払いを自動的に徴収し、もし信用が破綻しそうなときには再調整を行い、もし顧客の借金を統合したり年利を下げることができる場合には借換を行う。普遍的なIDと契約は、人びとが信用と共に「メキシコに逃亡」することを防ぐことになるだろう。

将来的には信用(および資本)は、人びとに対して予測AIに基いて自動的に割り当てられることになる。より良いリスクコストに対する価格設定によって、消費者が借りることのできる利率は限りなく0%に近付いて行くだろう。過去数年の連邦金利は約1%だった。1980年にはそれは18%だったのだ!機械学習と、Bainが言う所の「金が溢れる世界 」(A world awash in money)の組み合わせを使って、大規模な投資家たちが薄いリターンを探し回っていることで、利率は下がり続けている。

より高いレベルでは、Dharmaのようなブロックチェーンプロトコルが、最も効率的な方法で資本を割り当てる信用経済のための、スマートコントラクトを実現する。信用はアクティブな投資管理者の貸し借りに依存することはなくなる:現在コントラクトに結びついていないすべての資本は、信用供与を含む、リスク調整後の最高収益を継続的に探し続けるように、プログラムされるようになる。

信用供与者は、大規模なネットワーク効果を経験することになる。この「ネットワーク効果」とは、より多くのユーザーが参加するにつれて、ネットワークがユーザーにとってより価値のあるものとなる状況を表している。これはこれまでは信用には適用されていなかった:他の人があなたと同じクレジットカードを持っているからといって、あなたは何らかの利益を得ることはない。しかし、将来的にはそれが可能になるだろう。クレジットネットワーク内のデータポイントが増えるほど、より良い引受が提供され、より公平な価格設定が行われ、データの好循環が生み出されるだろう。ユーザーエクスペリエンスと価格設定は、結果として大いに満足できるものとなる。英国のOpen Bankingような動きはこの傾向を加速させるだろう。

Tom Noyesはこれをデータの民主化(The Democratization of Data)と呼んでいる。より狭くて局所的なデータの世界では(私たちの80から90%の行動は局所的なものだ)、分散したデータギャップの橋渡しを行うことで信用システムへの参加率は100%に近付いて行くだろう(現在は米国人の約71%だけがクレジットカードを所有している)。

そして、これらはより実現可能で、日常的なアイデアのほんの一部に過ぎない。Daniel Jeffriesのような未来学者は、様々な振る舞いを奨励する機能が組み込まれた通貨を思い描いている。例えば貯蓄と支払いの両方を行えたり、金融包摂を広めるための普遍的ベーシックインカムトークンなどだ。Bloomのようなプラットフォーム上では、現在100のアプリケーションが構築されつつあり、プロトコルレベルで信用が再考されている最中だ。これらのシステムは、将来が完全に実力主義になるのか、あるいは人びとは本質的にデータ無しに信頼を創造できるのかといった、第一原理問題(first-principles questions)に取り組んでいる。

私たちは第三時代の入口に立っている。信用の未来がどのようになるのかを正確に語ることは難しいが、私たちが立っている場所からは、それが信用の歴史から最大にかけ離れるものとなることはわかる。そして私たちは現在その第一歩を踏み出したばかりだということも。

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(翻訳:sako)

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ソフトウェアテストの刷新があなたのビジネスを変え、そして世界を変える

【編集部注】著者のTodd PierceはBill&Melinda Gates財団の元チーフデジタルオフィサーであり、Salesforce.comの運営とモビリティの元担当副社長である。

ソフトウェアは「世界を食らう」ものではない。世界に栄養を与え、世界を癒し、世界を教育し、私たちの抱える最も困難な問題の解決へと最も優れた人びとの心を集める役割を果す。少くとも私が、Bill & Melinda Gates Foundation、Genentech、そしてRock Healthという組織の中でデジタルトランスフォーメーションを率いていた際に目撃したのはそういう役割だ。

私は、より健康で平等な世界を創造するために、イノベーションを拡大していくことに情熱を燃やしている。ほぼグローバルなモバイルコネクティビティによる力の集約、開発生産性の信じられないほどの進歩、そしてデジタル時代に慈善を持ち込もうとする組織の台頭によって、この星はソフトウェアによって真に良い場所へ向かうことができる準備が整った。

どのように?まず2025年までに、地上の95%がモバイルプラットフォームで接続される。世界で最も貧しい人びとも、これまでにないアクセスが可能になることに、私は魅了されている。そのことでインフラストラクチャが貧弱で、情報へのアクセスが難しい場所でも、問題を解決できる素晴らしい機会が生み出される。

たとえば、私は最近インドのビハール(Bihar)でのプロジェクトで働いていた。そこは、おそらくこれまでの私の生涯の中で、最も医療インフラが整っていない場所だった。そこでは毎年数百万人もの赤ん坊が生まれているが、産科の数は50未満である。だが需要を満たすだけの十分な数の医療専門家を訓練して、ビハールに連れて行くことはできない。しかし、モバイルヘルスの取り組みにより、私たちは妊婦とその家族を遠隔で支援することができる。このことで出産による母親の死亡を減らし、生まれてくる赤ん坊の健康状態を向上させることができるのだ。

残念なことに、最も有望なITプロジェクトであっても、常に望ましい結果が得られるわけではない。私が知っているCIOたちは皆、大規模で重要なプロジェクトたちが、大幅な遅れを引き起こしたり、あるいはキャンセルされてしまうような困難をしばしば経験してきている。それは開発の終盤に至って、もはや小手先で手直しのできないような基本的な問題が発覚するからだ。

業界を問わず、このことで組織は、より革新的で敏捷な競争相手に遅れをとるリスクが高まる。必然的にCIOの評判と地位は危険に晒されることになる。そして多くの業界で、そのことは真に人びとの人生を変えてしまう。展開の遅延が、コミュニティの経済的機会に影響することは珍しくない。そして、救命救急医療とサービスへのアクセスを提供する私の業界では、それは本当に生死を分かつ問題になるのだ。

多くの人びとは、ソフトウェアテストのようなありふれたものが、イノベーションを拡大し加速する私たちの能力に対して、多大な影響を与えていると聞くと驚く。しかし、それは事実なのだ:開発者の生産性は2000年以来、既に目覚ましい勢いで向上している。しかしテストはほとんど進化していないのだ。ほとんどの組織は、今でも手動テストやスクリプトベースのテストに集中している…それがスピードとリスクの面で望ましい結果を提供していないにもかかわらず。「同じことを何度何度も繰り返しているのに、違った結果が得られることを期待する」これはアインシュタインが述べた狂気の定義だ。

この星はソフトウェアによって真に良い場所へ向かうことができる準備が整った。

イノベーションの効果を最大にするには、テストをより速く、より良く、より安く行う必要がある。私の職業人生のなかで、いつも次の言葉がジョークとして語られてきた「速い、良い、安い ―― 選べるのは2つだけ」。しかし、私たちがテストの刷新に心を向ければ、これらのトレードオフは最早必要ないことがわかる。実際、ソフトウェアのテストをより良くかつ速くしていくことで、それは自然に安くなるのだ。

ソフトウェアのテストをより良くするには、高度な自動化が重要だ。私はこれを「プレシジョンテスト」(precision testing:精密テスト)と呼んでいる。例えばプレシジョンメディシン(精密医療)は、患者の特定の状態に関わる深い遺伝的理解を利用して、最適な治療法を選択する。これと同様に、プレシジョンテストは、テストされるアプリケーションを深く理解し、その理解を使用して最適な方法でテストを行うのだ。

ソフトウェアのテストを高速化するには、テストを非専門家にも開放し、劇的に簡素化する必要がある。革新のスピードが増すにつれ、 コードを書かないあるいは少ししか書かないテストや、自動テストのような、テスト自動化アプローチをとることなしに、私たちが追いついていくことは不可能だ。

ソフトウェアのテストを安くするには、それに伴う労力と再作業の量を減らす必要がある。組織のアプリケーション開発予算のおよそ40%がテストに費やされている。ソフトウェアのテストを速く行うことができれば、その自然な副作用としてコストは減少する。

これらのすべてが、いまでは私たちの手の届く所にある。私たちは変革に向けて踏み出ださなければならない。技術革新の真の可能性を達成するための準備は、整っているのだ。私たちは挑戦に立ち向かうのか、それとも機会が通り過ぎて行くことをただ見ているだけなのか?

最後にこの言葉をお贈りしよう。もし1マイルの道を切り拓けば、1マイル進むことができる。これは手動テストやスクリプトベースのテストのようなものだ。作った分だけ進むことができるだけだ…そして程なくそれは重荷となり、新たな価値を付け加えず絶え間ない注意を要するものと成るだろう。しかし、プレシジョンテスト、スクリプトレステスト、そしてより効率的なテスト手法に移行すれば ―― テストを本当にデジタルトランスフォーメーションのための触媒とし、技術イノベーションの真価を実現できる準備が整ったならば ―― あなたは滑走路を手に入れることができる。そのためのささやかな投資を行うことで、あなたはやがてどこへでも自由に行くことができるようになるのだ。

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(翻訳:sako)

Image Credits: maciek905