スマート家電が見聞きした情報を政府に開示するかどうかメーカーに聞いてみた

10年前には、ほぼすべての家電製品がインターネットにつながることなど想像もつかなかった。今では、スマートではない家電製品のほうが大変に貴重になっている。だが、スマート家電は、普段、私たちが考えてもいない新しいデータを大量に吸い上げているのだ。

暖房の温度調節器は部屋の温度を知っている。スマートカメラとセンサーは、家の中で誰かが歩き回われば、それに気づく。スマートアシスタントは、我々が何を求めているかを知っている。スマート・インターホンは、誰が来て誰が出て行ったかを知っている。クラウドのお陰で、そうしたデータはどこからともなくやって来る。スマートフォンを使えば、ペットの様子を見たり、ロボット掃除機が仕事をしているかを確かめることが可能だ。

スマート家電のメーカーは、そうしたデータを蓄積したり利用したりできる。そこで、犯罪解決のためにそれを利用できないかと、警察や政府機関は考え始めている。

スマート家電が、我々を監視するために使われているかどうか、などという質問にはメーカーが答えるはずがない。

何年もの間、技術系企業は透明性に関するレポートを発表してきた。彼らは、ユーザーのデータを提出するよう政府から要求されたり依頼された回数を、半定期的に公開している。最初は2010年のGoogleだった。その他の企業も、ユーザーをスパイするよう政府から協力を求められているとのエドワード・スノーデンの暴露騒動に押されて追従するようになった。盗聴国民の通話記録を提供して政府に加担してきた電話会社ですら、信頼を取り戻そうとその件数を公表するようになっている。

スマート家電が普及し始めると、警察も、これまで持ち合わせていなかったデータの新しい入手方法に期待するようになった。警察は、殺人事件の解決のために、Amazonから提供されたEchoのデータを検証した。Fitbitのデータは、養女を殺した容疑で90歳の男性を起訴する手助けとなった。最近では、Nestが監視映像の提出を強要され、これがギャングのメンバーに窃盗事件の有罪答弁をさせることにつながっている。

しかし、大手スマート家電メーカーの中で、データ提供の要請の件数を公表したのはGoogleの傘下であるNestただ一社だ。

あまり知られていないNestの透明性レポートだが、先週、Forbesは、多くのことは示されていないと指摘した。2015年半ばから、500件分のユーザー情報を約300回提出したという内容に留まっている。またNestによれば、テロやスパイなど国家の安全保障に関連する秘密の依頼は、今日まで受けていないという。Nestの透明性レポートは、地方や政府からの合法的なデータの要求案件を開示したApple、Google、Microsoftの詳細な報告書と比較すると、かなり曖昧だ。

Forbesは「スマートホームは監視ホームだ」と書いているが、その規模はどれほどなのだろう。

我々は、市場でよく知られているスマート家電メーカー数社に、透明性レポートを発表するか、またはスマート家電のデータを提出するよう要求された数を公表するかを聞いてみた。

その返事は、ほとんどが泣きたくなるような内容だった。

最大手4社の返事

Amazonは、Echoのデータの提出要請の数を公表するかという質問には答えなかった。去年、データ提供のニュースに関連して広報担当者に質問した際も、Echoのデータに関する報告は行うが、そうした数字は公表しないと話していた。

Facebookは、透明性レポートには「Portalに関連するすべての要求」が含まれると話している。Portalは、Facebookが先日発売を開始したカメラとマイクを搭載したディスプレイ装置だ。新製品ではあるが、広報担当者は、このハードウエアに関するデータ提出要請の件数を公表するかについては答えなかった。

Googleは、Nestの透明性レポートについては話したが、Google自身のハードウエア、とくにGoogle Home製品に関連するレポートの開示については答えていない。

Appleは、HomePodなどのスマートホームに関する数字の公表は必要ないという立場だ。なぜなら、報告するような事例がないからだそうだ。Appleによれば、HomePodへのユーザーからの命令にはランダム・アイデンティファイアが割り当てられるため、個人の特定は不可能だという。

最大手以外の重要なスマート家電メーカーの場合

スマートロックのメーカーAugustは、「透明性レポートは作成していないが、外国諜報活動偵察法に基づく国家安全保障に関する書簡も、ユーザーのコンテンツまたは非コンテンツの情報の提出を求められたこともありません」と言っている。しかし、召喚状、令状、裁判所の命令の件数については答えていない。「Augustは、あらゆる法律に準拠しており、裁判所からの命令や令状があったときは、応じる前に、かならずその内容を吟味しています」と広報担当者は話していた。

ルンバのメーカーiRobotは、「政府から顧客データの提出を求められたことはありません」と話しているが、透明性レポートを将来公表する予定はあるかとの質問には答えなかった。

Netgearのスマートホーム部門であったArloと、Signify(旧Philips Lighting)は、透明性レポートは作成していないとのこと。Arloは将来についてはコメントせず、Signifyは作成の予定はないと話している。

スマートなドアホンやセキュリティー製品のメーカーRingは、なぜ透明性レポートを作成しないのかという我々の質問には答えなかったが、「市民に適正な利益をもたらす合法的で法的義務が伴う要請がなければ、ユーザー情報は提供しません」と話している。さらにRingは、「当然のことながら、利用範囲が広すぎたり不適切な要求は受け入れません」とのことだ。さらに尋ねると、将来的には透明性レポートを公表する計画はあると答えたが、いつとは言わなかった。

どちらもスマートホームのセキュリティー製品を製造販売しているHoneywellCanaryの広報担当者は、こちらが指定した期限までには返事をくれなかった。

スマートセンサー、トラッカー、インターネットに接続できるテレビなどの家電製品を製造販売しているSamsungは、コメントの依頼に応じなかった。

スマートスイッチとスマートセンサーのメーカーEcobeeだけは、「2018年末に」最初の透明性レポートを公表する計画があると話してくれた。「2018年以前、Ecobeeは政府機関から、いかなるデータの提供の依頼または要請も受けたことがありません」と広報担当者は強調していた。

ともかく、家の中の家電製品が、自分たちのためではなく、政府を助けるためにあると考えるとゾッとする。

スマート家電はますます便利になるが、それが収集するデータがどれだけ広範囲に及ぶものか、さらに使っていないときもデータを集めているということを理解している人は少ない。スマートテレビにスパイ用のカメラが付いていなかったとしても、我々がいつどんな番組を見ているかは把握している。それを使って警察は、性犯罪者を有罪にできる可能性がある。殺人容疑者が家庭用警報装置のリモコンキーのボタンを押したというデータだけで、殺人罪が確定してしまうかも知れない。

2年前、元米国国家情報長官James Clapperはこう話していた。政府は、スマート家電を諜報機関が調査を行うための新しい拠り所として視野に入れていると。インターネットに接続された家電製品の普及が進めば、それは普通のことになってしまう。情報通信アドバイザリー企業Gartnerは、2020年までに200億台以上の製品がインターネットに接続されると予測している。

インターネットに接続された居間のカメラや温度調節器を通して、政府が我々の行動をスパイする可能性は低いだろうが、不可能だと考えるのはお人好し過ぎる。

スマート家電のメーカーは、それをユーザーに知らせようとはしていない。少なくとも、大半のメーカーは。

‘Five Eyes’ governments call on tech giants to build encryption backdoors — or else


アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのいわゆる「ファイブアイ」国家同盟は、大手技術系企業に対して、ユーザーの暗号化されたデータの解読を可能にする「バックドア」を作るよう秘密裏に要請していた(本文は英語)

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(翻訳:金井哲夫)

コードが写真の未来を創る

カメラの中には何があるだろう? レンズ、シャッター、感光面、そしてますます高度になるアルゴリズムのセットだ。物理的なコンポーネントは少しずつ改善されているが、Google、Samsung、そしてAppleは、完全にコードから生み出される精巧な改善に投資を増やし、そして披露している。計算写真学(Computational photography)だけが、今では唯一の実際の戦場なのだ。

このシフトが起きた理由はとても簡単だ。少なくともカメラの動作原理が全く変わってしまうことなしには、カメラが現在のものよりも遥かに良くなることはないからだ。スマートフォンメーカーたちは写真でどのように行き詰まり、それしてそれをどのように乗り越えることを強いられたのだろうか。

バケツが足りない

デジタルカメラの中によく見ることができるイメージセンサ

スマートフォンカメラの中のセンサーは本当に素晴らしいものだ。Sony、OmniVision、Samsung、その他のメーカーたちによって成し遂げられた、小さくても感度がよく多才なチップの設計と製造は、真に驚嘆に値する。デジタル写真の進化をその初期から見守っているカメラマンにとって、この顕微鏡でなければ見ることのできない小さなセンサーが提供する品質のレベルは驚愕以外の何物でもない。

しかし、こうしたセンサーにはムーアの法則は存在しない。むしろ、ムーアの法則が現在10ナノメートル以下のレベルで量子論的限界に達しているように、カメラセンサーは遥かに早く物理的な限界に達していた。センサーに当たる光を、バケツの集団に落ちる雨として考えてみよう。より大きなバケツを並べることはできるが、その場合は並べられる数が少なくなる。逆により小さいバケツを並べることもできるが、その場合は個々のバケツは十分な雨を集めることができない。バケツの形を正方形にしたりジグザグに配置したりといったあらゆる工夫を行うこともできるが、最終的には雨粒がとても多ければ、いくらバケツの並びを工夫してもそれを捕え切ることはできない。

もちろんセンサーはますます良くなっているが、そのペースは消費者たちに毎年新しい電話を買わせるほど速くはない(性能が3%良くなっただけのカメラを売ることを想像して欲しい)。しかし電話機メーカーたちはしばしば同じあるいは類似のカメラ構造を採用しているために、そうした改善(例えば最近起きたバックサイドイルミネーションセンサーへの移行など)は全員に共有されている。ということで、センサーだけで他社に先行することはできない。

関連記事:新しいiPhoneの「フォーカスピクセル」を見る【英語】

おそらくレンズを改良できるのでは?それは難しい。レンズは、特に小型のものは、これ以上改良することが難しいあるレベルの洗練度と完成度に達している。スマートフォンのカメラ筐体の内部のスペースが、限られているという言い方は相当控え目な表現だ。そこにはもう1平方ミクロンの余裕もないのだから。どれだけの光が通り抜け、どれほどの歪みが少なくなるかに関してはわずかに改善の余地があるかもしれないが、こうした問題は、ぼぼ最適化され尽くした古い問題なのだ。

より多くの光を集める唯一の方法は、レンズのサイズを大きくすることだ。そのためには、A:ボディから外側に突き出す、B:内部の重要な部品を置換する、またはC:電話機を厚くする、といった方法がある。Appleが受け入れると考えられるオプションはどれだろうか?

振り返ってみると、Apple(およびSamsung、Huaweiなど)は、「上記のいずれでもない」という選択肢Dを選ぶしか無かった。もしより多くの光を受けることができないならば、受け取った光そのものを使って、何とかしなければならないというだけだ。

すべての写真が計算では?

計算写真学(computational photography)の最も広い定義には、まさにあらゆるデジタルイメージングが含まれる。フィルムとは異なり、最も基本的なデジタルカメラでさえ、センサに当たる光を使用可能な画像に変えるための計算が必要だ。そしてカメラメーカー毎にこの計算をする方法は大きく異なっている。このため異なるJPEG処理方法や、RAWフォーマット、そしてカラーサイエンスが生み出されている。

長い間、処理能力の不足もあって、この基本層のさらに上にはほとんど関心が寄せられていなかった。とはいえ確かに、各種のフィルターはあったし、カメラ内で素早くコントラストとカラーを調整する手段はあった。しかし、結局のところ、これらは単にある程度自動化されたパラメータ調整に他ならなかった。

最初に登場した真の計算写真学的機能は、間違いなく、オートフォーカスのための物体識別ならびに追跡機能だった。顔と目の追跡により、複雑な照明やポーズの中で人間を簡単に捕らえることができるようになり、オブジェクトトラッキングによって、フレームを横切って移動する対象に対してシステムがオートフォーカスを行ってくれるために、スポーツやアクション撮影が容易になった。

これらは、画像を改善したり次のステップにわたすために、画像からメタデータを抽出して、それを積極的に利用する初期の例だった。

デジタル一眼レフ(DSLR)カメラでは、オートフォーカスの精度と柔軟性は目立つ機能なので、こうした初期の利用例は理にかなっていた。しかしいくつかのギミックを除けば、こうした「真面目な」カメラたちは一般的に、計算を極めて素朴なやり方で使っていた。より高速のイメージセンサーが意味することは、より速いイメージの転送の必要性であり、カラーと細部の保存などのために余分なサイクルが必要とされるということだ。DSLRはライブビデオや拡張現実には使用されていなかった。そしてかなり最近まで、スマートフォンカメラにも同じことが当てはまっていた。それは今日私たちが知っている多目的メディアツールというよりも、対象を狙って写真を撮影するものだったのだ。

従来のイメージングの限界

様々な場所で行われる実験や、時折生まれる変わり種にもかかわらず、スマートフォンのカメラはほとんど同じままだ。それは数ミリメートルの厚みに収まらなければならず、そのことで可能な光学的手法は限られることになる。センサーのサイズも同様に制限されている。DSLRは23mm×23mmのAPS-Cセンサーを使用することができる(面積は345mm2)。一方iPhone XSはおそらく現在市場にあるもののうちで、最大かつ最新のものだが、その大きさは7mm×5.8mm程度で、その面積は40.6mm2だ。

大雑把に言えば、そのカメラは「通常の」カメラよりも遥かに少ない光量を集めるだけだ。にもかかわらず、ほぼ同じ忠実度や色で場面を再現することを期待されている。ピクセル数もほぼ同じだ。一見これは解決不可能のような問題に見える。

従来的な意味での改善も役に立つ。例えば光学的および電子的なブレ防止によって、ぶれることなしに長時間の露光が可能になり、より多くの光を集めることが可能になる。しかしこれらのデバイスはそれでもなお、無理難題を実現することを迫られているのだ。

幸運にも、既に述べたように、皆は同じボートの中にいる。基本的な制限があるため、AppleやSamsungがカメラを再発明したり、競争相手よりも先行できるクレイジーなレンズ構造を考え出すことはできない。彼らは皆、同じ​​基本基盤を与えられてきたのだ。

したがって、すべての競争は、これらの企業がその基盤の上に構築するもので構成されている。

ストリームとしての画像

計算写真学における重要な知見は、デジタルカメラのセンサーから来る画像はスナップショットではなく、より一般的に考えられているということだ。従来のカメラでは、シャッターが開閉し、感光媒体をほんの一瞬だけ露光させる。これはデジタルカメラがやっていることではなく、あるいは少なくとも彼らができることではない。

カメラのセンサーには絶えず光が当たっている。前の比喩に戻るなら、雨が絶え間なく一面のバケツの上に降り注いている状態だ、だがもし写真を撮影しないなら、これらのバケツは皆底なしで、だれもその内容をチェックしない。それでも雨は降り続けている。

画像を取得するために、カメラシステムは、雨滴の計数を開始する時点を決め、センサに当たる雨滴を数える。そして計数を終了する時点を決める。従来の写真撮影用途では、これによりシャッタースピードをほぼ任意に短くすることができるが、これは小型センサーではあまり役に立たない。

なぜ、常時記録していないのだろうか?それは理論的には可能だが、それはバッテリを使い果たし多量の熱を発生させてしまうだろう。幸運なことに、ここ数年画像処理チップは、カメラアプリケーションが動作している間、そのストリームの一定の連続部分、例えば最後の60フレームを制限付き解像度でキャプチャできるほど効率的になっている。確かに、それは多少バッテリーを消費するが、それだけの価値がある。

そのストリームにアクセスすることで、カメラはあらゆる種類のことを行うことができる。コンテキスト(状況)を追加するのだ。

ここで言うコンテキストは多くのことを意味する。例えば照明や被写体までの距離などの写真要素だったり、動き、対象、そして意図だったりもする。

コンテキストの簡単な例は、一般にHDR(高ダイナミックレンジ)画像と呼ばれるものだ。この手法では、異なる露光量で連続して撮影された複数の画像を使用して、1回の露出では露出不足または露出過多となった筈の、画像の領域をより正確に撮影する。この場合のコンテキストとは、それらがどの領域であるか、そして画像をインテリジェントに結合する方法を理解するということだ。

これは、非常に古い写真技術である「露出ブラケット」で達成することができるが、もし画像ストリームが常に複数の露出範囲を生成するように設定されているならば、何の予告もなく簡単に実現できる。それはまさに、GoogleとAppleが現在行っていることなのだ。

もちろん、より複雑な「ポートレートモード」や、人工的な背景ブラーやボケなどが、ますます一般的になってきている。ここでのコンテキストは、単に顔までの距離だけではなく、画像のどの部分が特定の物理的オブジェクトを構成しているのかということや、そのオブジェクトの正確な輪郭を理解することだ。これは、ストリーム内のモーション、複数のカメラによるステレオ分離、および人間の形状を識別して輪郭を描くように訓練された機械学習モデルから導き出すことができる。

これらの技術は、第一に必要なイメージがまずストリームからキャプチャされている(イメージセンサーとRAMスピードの進化のおかげ)ことと、第二に企業たちが、そうした計算を行う高度に効率的なアルゴリズムを開発し、膨大なデータと計算時間を使って訓練したことによって、ようやく可能となったものだ。

しかし、これらの技術について重要なことは、単にそれらを行うことができるということだけではなく、ある企業は他の企業よりもそれを優れた方法で行うことができるということだ。またこの品質の全ては、注がれたソフトウェアエンジニアリング作業と、芸術的監修の賜物である。

関連記事:スマートフォンの写真の人工的ぼけの上手下手を点数で評価するDxOMark

DxOMarkはいくつかの初期の人工的なボケシステムの比較を行った。しかし、結果はやや不満足なものだった。それはどちらがより良く見えたかというよりも、効果をうまく適用できたかそれとも失敗したかという評価になった。計算写真学は、機能が単に動作するというだけで人びとを印象付けることができる位、まだまだ始まったばかりなのだ。後ろ足で立ち上がって歩いている犬を見たときのように、私たちは単にそれが起きたということだけで驚いている。

しかし、Appleはボケ問題に対して、馬鹿げた過剰エンジニアリングだと指摘する人がいるほど力を入れている。単にその効果を再現する方法を学ぶだけではなく、自由に使える計算パワーを用いてそれを生み出す光学現象の仮想的な物理モデルをも作り出した。これは、単に跳ねるボールのアニメーションを作ることと、現実的な重力と弾性体物理をシミュレートすることとの違いに似ている。

なぜそこまでやるのだろうか?Appleは他社にも知られているものは何かを知っているので、計算能力の限界を心配するのは馬鹿げている。ガウスぼかしのようなショートカットを採用している場合、光学現象がどのくらいうまく再現できるかには限界がある。もし光子のレベルでそれをシミュレートしたならば、上手く再現できるレベルに限界はない

同様に、5枚、10枚、または100枚の画像を1枚のHDR画像に合成するという考え方は馬鹿げたもののように思えるが、写真撮影では情報が多い方が、ほとんどの場合優れているというのが真実だ。これらの計算アクロバットのコストがごくわずかで、結果が明白に違う場合に、デバイスにこうした計算をさせない理由はない。数年後には、それらも普通のことのように見えるようになるだろう。

もし結果がより良い製品であれば、計算パワーとエンジニアリング能力は上手く使われたということだ。ちょうどLeicaやCanonが、たとえば2000ドルのズームレンズのような、安定した光学システムから、なんとかわずかでも性能向上を引き出すために数百万ドルを費やすように、Appleその他の企業は価値を生み出せる場所にお金を使うのだ、ただしガラスではなくシリコンに対して。

ダブルビジョン

私が説明してきた計算写真学の物語と矛盾するように見える1つの傾向は、複数のカメラを含むシステムの出現である。

この手法は、センサに光をあまり加えようとはしない。それは極めて複雑で光学的には高価になり、おそらくはうまくいかないだろう。しかし、長さ方向に少しスペースを空けることができれば(奥行き方向ではない、これは実用的ではないとわかっている)、完全に独立したカメラを最初のものの側に置き、最初のカメラによるものと非常に似た写真を撮ることができる。

色のついた一連のiPhoneのラインが、どのように見えるかのモックアップ

もしここでやりたいことが、単にウェインズ・ワールド(米国の喜劇映画の名前)を感知できないスケールで再現すること(カメラ1、カメラ2、….、カメラ1、カメラ2、 …と切り替える)だとしたら、必要なのはこれだけだ。しかし、ほんの僅かの距離だけ離れたイメージを同時に撮影したい者は普通はいない。

これらの2台のカメラは、独立して(広角とズームのように)動作するか、または1つは他のものを増強するために使用されて、複数の入力を持つ単一のシステムを形成する。

1つのカメラからデータを取り出し、それを使って別のカメラのデータを強化することは、想像できると思うが、非常に計算集約的な行為である。同じレンズやセンサーで撮影されていないため、はるかに複雑であることを除けば、複数の露出を行ったHDR問題のようなものではある。最適化することはできるが、それで簡単にはならない。

したがって、第2のカメラを追加することは、実際に物理的手段によって画像化システムを改善する方法ではあるが、最新の計算写真学によって改善できる可能性があるというだけの話だ。そして、より良い写真をもたらすのはその計算画像の品質である。そうでなければ失敗する。16個のセンサーとレンズを備えたLightカメラは、確立された計算写真学の技術を使ってより大きな画像を生み出そうとしながらも、優れた画像を生成することができなかった、野心的な試みの1例である。

光とコード

写真の未来は計算に依存している、光学ではない。これは、パラダイムの大規模な変化であり、カメラを製造または使用するすべての企業が現在取り組んでいるものだ。これにより、既存のDSLRカメラ(ミラーレスシステムに急速に移行している)、電話機、組み込み機器、そして光がキャプチャされて画像に変換されるあらゆる場所に影響が及ぶことになる。

このことは、私たちがこの先耳にするカメラは、ピクセル数や、ISOの範囲、F値などに関する限りは、昨年のものとほぼ同じであることを意味することになるかもしれない。それで問題はない。いくつかの例外を除いて、これらは合理的なレベルで期待できる範囲では既に十分良いものになっているのだ:ガラスはこれ以上きれいにならないし、私たちの視覚もこれ以上精細にはならない。光が私たちのデバイスや眼球を通り過ぎる方法はあまり変わらないだろう。

しかし、それらのデバイスが、光を扱う方法は、驚くべき速度で変化している。これは、冗談のように聞こえる機能や、疑似科学のハッタリや、バッテリーの速い消耗を招くことになるだろう。だがそれも問題ない。私たちがカメラの他の部品に対して前世紀に様々な実験を行って、様々な完成レベルを達成したように、私たちは新しい、品質や私たちが撮影するイメージに、非常に重要な影響を持つ非物理的な「部品」に挑戦するのだ。

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(翻訳:sako)

いつになったら我々は地球工学しか方法はないと認めるのだろう

1883年、クラカタウ火山の噴火で、火山灰と火山性ガスが成層圏にまで立ち上った。それにより雲の反射率が高まり、その年、地球全体の気温がおよそ摂氏1度低下した。2018年、人間の活動により地球の気温は摂氏1度上昇したと国連が発表した。今すぐ思い切った手を打たなければ、破滅的な結果につながるという。

最適な解決策が私たちの顔を睨みつけている。言うまでもなく、二酸化炭素排出量の削減だ。しかし残念なことに、この最適の解決策は政治的な支持を得られず、しかも莫大な費用がかかる。10年前、McKinseyの見積もりでは、二酸化炭素排出量を抑えるだけで1兆ドル(現在の相場で約112兆円)かかるという。しかもインドに限った話だ。それでも、何もしないよりは安いものだろう。Natureの見積もりでは、人的被害額を含まず20兆ドル(約2241兆円)だが、これだけの額になると、政治的判断はできなくなってしまう。

アナリストたちは……これは人間の性であり、変えることができないため、手っ取り早く、ちゃちな技巧的修正に走ったと結論付けた。
ニール・スティーブンソン『スノウ・クラッシュ』より

別の選択肢もある。本来の問題は、二酸化炭素濃度ではなく、気温の上昇だ。海の酸性化などその他の弊害はあるものの、二酸化炭素よりは気温の問題のほうが大きい。じつは我々は、二酸化炭素を減らさなくても地球の気温を下げる方法を、すでに知っていたのだ。あまりにも単純で、笑ってしまいそうになるが、雲の反射率を少し高めるというものだ。そうすれば、雲が太陽光を反射して気温が下がる。クラカタウなどの火山は、つねにそれをやっている。

インドネシアのタンボラ火山が1815年に噴火し、二酸化硫黄を成層圏に撒き散らした。ニューイングランドの農家はその寒い夏のことを記録している。畑には7月に霜が下りたという。1991年に噴火したフィリピンのピナツボ火山は、その後数年間、地球の気温を摂氏0.5度下げた。噴出した硫黄エアロゾルは二酸化硫黄となり、その量は4年ごとにピナツボ火山がひとつ作れるほどだった。エアロゾル計画は経費も少なくて済む。これまでの気候変動の緩和に関する分析を、完全にひっくり返すほど安価だ。

では、それは良いアイデアなのだろうか? おそらく違う。二酸化硫黄となると、絶対に違う。それは酸性雨となって戻ってくる。だがそんなことは、この解決策の年間10億ドル(1120億円)以下という(比較的)安い費用のことを思えばなんでもない。ひとつの国でも、いやもしかしたら個人でも実現可能だ(Jeff BezosがBlue Originに毎年使っている額よりも少ない)。その典型例が、海抜が低く人口密度が高いバングラデッシュだ。ある時点で、気候変動のために支払う金額よりも、独力で二酸化硫黄を使って世界を冷やすほうが安くなる。彼らはなぜ、その方法を選ばないのだろう?

もっと優れた地球工学的な方法がある。海水を使えば、少々費用は高くなるが、海にかかる雲を明るくすることができ、同じ効果を発揮させることが可能だ。だが一般的に、地球工学というものは、考え方として正しいのか? これも、おそらく間違っている。人工雲の提案者は、地球の気温を簡単に「正常値」に戻せると言っているが、気候モデルを盾に取る懐疑派は、そんなに単純な話ではないと反論する。大気のシステムはカオスであり、成果は局部に集中し、地域によって変化し、破壊的な結果をもたらすという。

(鉄肥沃化を利用してプランクトンを大量発生させ、大気中の二酸化炭素を吸い取るという方法も提案されたが、海洋生態系を地球規模で乱すことは避けられない。創発現象が引き起こされる程度なら、まだいいほうだろう)

まったく何もしないよりは、人工雲のほうがましだと妥協する人は多い。そうすれば、(激しく手を振りながら)バイオテクノロジーでなんかしらの二酸化炭素吸収源を作るまでの25年間かそこらは持つだろう。ただし、人工雲をひとたび発生させると、もう止めるこはできない。なぜなら、もし止めたなら、避けられていた地球温暖化が、ものすごい勢いで戻ってくるからだ。「10年で摂氏4度や、現在よりも20パーセント早く」といった数字が飛び交うようになる。大混乱になることは、言うまでもない。もし地球工学を始めてしまったなら、止めてはいけなのだ。

それでも、知的で思慮深い人たちですら、もう選択の余地はなく不可避であると話している。Matt OckoMatt Bruenigその他のMattではない人たちだ。この問題についてDave LevitanがGizmodeに書いた素晴らしいコラムを、ぜひ読んで欲しい。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告には、2030年までに世界の気温は摂氏1.5度上昇する可能性があると書かれている。このレベルを超えて世界が大災害に飲み込まれないようにするには「社会のあらゆる側面で、早急で広範囲にわたる前例のない変革が求められる」としている。これまで私たちが見てきたことを思うと、人類は何もしてこなかったかのように聞こえないだろうか? Mark Zuckerbergの仮想対談から言葉を拝借するのは気が引けるが、気候変動を止めようと思っていたなら、止められていたはずだ。

彼の言うとおりだ。何もしないという選択肢はない。少なくとも、バングラデッシュのような国には迷っている時間はない。種として正しいことをするというのも、適切な選択肢には思えない。となると、あの忌まわしいハッキングしか残されなくなる。残念だ。世界のエンジニアを代表して謝りたい。だが、上司から選択肢を奪われるのは、よくあることだ。

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(翻訳:金井哲夫)

資金調達の新たなる「普通」

TechCrunchがスタートアップのことを書き始めたころ、地球規模の大志を持ったスモールビジネスというスタートアップの概念は、幻想のようなものだった。Twitterのような副業が、ヒーローや悪役の代弁者になり得るのだろうか? YouTubeのような動画投稿サイトが、どうしてメディア業界を破壊できるのだろうか? ブログ(完全に消耗しきった元弁護士が寝室で書いたような文章)が、起業、成長、売却のプロセスの考え方を根本的にひっくり返すことなど、どうしてできようか?

しかし、それは現実となった。2005年から2010年までの数年間で、世界は変わった。TechCrunchは野心的な読み物となった。無数の起業を夢見る者たちが、パーテションで囲まれた会社の席に座り、パソコンの画面をスクロールさせながら、笑ってしまうほど多額の小切手をベンチャー投資家が自分のフリースのポケットにねじ込んでくれる順番を待っている。2007年、スタートアップ設立を目指す2人のオランダ人と話したことを、今でもはっきり憶えている。彼らは、それまで続けてきた科学的な研究に基づく素晴らしいアイデアを聞かせてくれた。そして、率直にこう相談された。仕事を辞めるべきだろうかと。その3年前だったなら、馬鹿なことを考えるなと言っただろう。学術分野の楽な仕事を捨てて一発を狙う? 絶対に反対だ。

しかし、彼らと話したその午後は、スタートアップ革命から2年が経ち、資金調達はTechCrunchに投稿するのと同じぐらい簡単になっていた時期だ。一発は狙うべきものと考えられていた。

現在、私たちは新しい「普通」に直面している。この数年間の努力いよって進歩してきたものは、ひっくり返されようとしている。2014年、ベンチャー投資家がリスクを嫌って金を出し惜しみするようになり、エンジェル投資やシード投資が鈍化し、巨大なB2Bソリューションを超えようとするスタートアップの成長は失速した。そして、Creamery、会議、「情熱」、Allbirdsの退屈な文化も同様に失速した。私がセントルイスからスコピエまで、世界を旅して回ったとき、どの都市でも、TechCrunch風ではない次の起業家精神に移行しようとしていることを感じた。どの都市にも独自のカンファレンスがあり、メイソンジャーに入った小麦スムージーと、共同創設者たちが感情をエモーションハックできる快適な部屋で満ちていた。講演者たちは「キミならやれる!」か「それは間違ってる!」のいずれかの言葉を連発し、ピッチオフとハッカソンが葛のように世界中にはびこっていた。

しかし、こうした夢想家を支援するベンチャー投資家の現金は減り続けている。起業家のようなライフスタイルを実行するのは簡単だが、起業家としての生活を送るのはずっと難しい。4年前、私の友人は仕事を辞めたが、今は年金で暮らしている。その他の知人も、スタートアップから手を引いて、暖かく快適なデスクワークの勤め人に収まっている。バラは散ってしまった。

その同時期、私はICO(今はSTOだが)の市場の爆発的な成長を観察してきた。わずかな年月で巨大な富が再分配され、一部の勇敢な連中が大金持ちになり、彼らのスタートアップは自己資金で賄えるようになった。暗号通貨の平等主義のおかげで、ザグレブの15歳の子どもからも、モスクワのマフィアの帳簿係からも、2006年にシリコンバレーの投資家が集まっていたスタンドヒル・ロードと同じぐらい、簡単に金が手に入る。間違いなく、この新しい市場はリスクに満ちている。投資家は、その投資家がスペインに移住して姿をくらませたとしたら頼りになるものを失うが、それが今は普通だ。新しいスタートアップの方法論だ。ベンチャー投資家は価値を高めると大声で叫ぶが、彼らにはできない。価値を高めるのは金だ。そして金はICO市場から出てくる。

私は、ICO市場の企業を理解しようと頑張ってきたが、それはじつに困難であることがわかった。まずは、もしあなたが、ICOで資金調達をした、またはブロックチェーンをベースとしたというスタートアップの創設者なら、この入力フォームを使って私に自分たちのことを教えて欲しい。その中からいくつかを選んで、私は数カ月かけて記事にする。その後で、2005年に透明性が元で起きた火事の教訓をお教えしたいと思う。

第一に、以前にも書いたが、ICOの広報は最悪だ。数カ月前に私が書いた記事から引用したい。

残念なことだが、みなさんの広報担当者は無能だ。私が話を聞いたすべての広報担当者は、暗号通貨のことを何も知らなかった。この業界にはたくさんの企業があり、どこのことか明言は避けるが、もし知りたいなら、john@biggs.ccまでメールで質問して欲しい。その名前を教えよう。私が会ったあらゆる広報担当者は、内部のコミュニケーション責任者も含めて、最低だった。まったく新しい業界なので、かならずしも彼らの責任とは言えないが、それでも無能な人間が多い。

ありがたいことに、状況は好転している。ICOは本質的にクラウドセールだ。クラウドセールに人々の関心を集めることは、これまでほぼ不可能だった。Kickstarterが注目を集めるようになったのは、多くの人が出荷までこぎつけて成功してからだ。今これを書いている時点では、成果を出したICOは、まだほどんどない。つまりこの記事は、あなたがICOを行うかどうかという話ではない。頭のいい人たちが、巨大な難問の解決のために集まりつつあるという話だ。彼らが大勢のオタクやギャングから8000万ドル(約90億円)を調達したことは、この際、重要性としては二の次、三の次だ。もちろん、期限に間に合わなかったために彼らがストックホルムの地下牢で発見されたとなれば別だが。

第二に、コミュニケーションが鍵だ。私はトップ100のICO企業に話を聞いたが、彼らは、いじめが発覚した大学の社交クラブ以上に秘密主義だった。資金を調達し、そのことについて何かを話せばRedditでコインの悪口を書かれ、価格に影響すると彼らは考えているからだ。今こそ、その残念な輪から抜け出して決断するときだ。今後は、価格には噂や中傷に対する抵抗力を持たせるべきだと。

ICO業界のそのどちらの問題も、これまでに解決されている。一時はひどい広報をしていたスタートアップも、TechCrunchの創始者Michael Arringtonが話を聞き出せるのは、取り引きを見送って恨みを抱える人たちだけだったという状況もだ。この手の記事は、業界の発足初期のころで、怒れる投資家とクビにされた元従業員の憂さ晴らしには有効だった。しかし今では、スタートアップの広報はビジネスサイクルの一部に受け入れられている。ウォール・ストリート・ジャーナルでも、新しい資金調達法の情報を読むことができる。ゆくゆくは、同紙はICOを、IPOと同じように扱うことになるだろう。ブロックチェーン企業は、もう一段階、本気でステップアップする必要がある。

もうひとつある。世界とのコミュニケーションは、ICOで資金調達した人たちが思っているよりずっと重要だ。株主の関係は業界で確立されているが、トークンの所有者の関係も、すぐにそうなるだろう。しかし今の時点では、トークンのコミュニケーションの相手は、Telegramルームの不愉快な書き込みの削除を業務とする一人の人間に限られている。私が訪れたほぼすべてのサイトには、たとえばsupport@dingocoin.ioのようなメールアドレスがひとつだけ掲載されていて、それはZendeskの顧客管理システムにつながっている。そしてそこへ送ったメールは、ブラックホールに消える。もし、小口のエンジェル投資家が投資を持ちかけようとして連絡が取れなかったとしたら、信用は丸潰れだ。

頭のいい人たちの小さなグループが、資金調達のものすごい方法を無から生み出すという考えは、とても魅力的だ。今は新しい資金調達の時代の黎明期だ。すべてのファンドを一時的に停止すべきだ。多くの人がこの流行に乗って、まったくワケのわからない言葉を吐きまくる起業家に、律儀に会いに行っている。なぜなら、2005年にはスタートアップというものを誰も理解できなかったため、あらゆるものに成功する可能性があったからだ。今は暗号通貨を理解できる人間がいないため、あらゆるものに成功する可能性がある。すべての起業家の最大の興味は、スープをすすり、実績を上げて、驚異の自己啓発本『ゼロ・トゥ・ワン スタートアップ立ち上げのハード・シングス・ハンドブック』を閉じることだ。私たちは前に進む以外に道はない。今こそ出発のときだ。

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(翻訳:金井哲夫)

インターネット権利法案は私たちの道義的義務の一部に過ぎない

[著者:David Gorodyansky]
プライバシーアプリHotspot ShieldのメーカーAnchorFreeの共同創設者。

米連邦下院議員Ro Khannaが提案しているインターネットの権利法(Internet Bill of Rights)案は、インターネットの個人の権利擁護を積極的に推進する。これは、アメリカならびに世界の現在の法律に欠けている決定的な要素を示すガイドラインであり、すべての党派に伝わるよう一括化されている。悪魔は細部に潜んでいるというのが夜の常だ。Khanna議員のインターネット権利法案には、まだかなり主観的な部分が残っている。

しかし、ひとつ無視してはならないこととして、我々個人は、この公共財、つまりインターネットにおいて権利を持つばかりでなく、道義的義務も負っているという点だ。ウェブは私たちの生活に、良い意味で多大な影響を与えた。私たちには、それをこのまま育ててゆく共同責任がある。

この法案に書かれている権利の一部に、市民が、インターネットに集められた自分たちの情報を自分で管理できる権利を持つこと、そしてその情報に基づいて差別されるべきでないとすることがあるが、それは誰もが同意するだろう。インターネット接続業者が通信をブロックしたり、速度を絞ったり、料金に応じて利用者を優遇するなどして、世界の情報にアクセスする権利を奪ってはいけないという点にも、誰もが賛同するだろう。さらに、透明でわかりやすい料金体系で、適正価格のプロバイダー複数に自由にアクセスできる権利も、万人の希望だ思う。

これらすべては、Khanna議員の法案に盛り込まれている。私はそのすべてを全面的に支持する。

FacebookやGoogleなどの大企業の最近の動向を見るにつけ、デジタル時代に相応しい法律がぜひとも必要だと感じる。技術の進歩は非常に早く、法規制が追いついてゆけない。そこで、利用者を保護するためには、劇的な改善が必要となる。

しかし、よく理解しておくべきは、企業も政府も個人も、みな繁栄のために同じインターネットに依存しているということだ。どの団体にも、それぞれに独自の権利や責任があるが、重点を置くべきは、責任のほうだ。

ゴミを例にとって考えてみよう。道端にゴミを捨てることを法律で禁じている地域は多い。しかし、そうした法律とは別に、私たちには、自分たちが住む環境や世界を守らなければならないという道義的な義務も存在する。大抵、人々はその義務を果たしている。なぜなら、それは正しいことであり、住む場所を美しく保という社会的な空気があるからだ。罰金を取られるのが嫌だからではない。

同じように、インターネットについても考えてみよう。

個人も企業も政府も、高い意識を持ち、インターネットに対する責任を明確に描く必要がある。この3つのグループは、どれもこの責任を完全に果たさなければならない。それは法律や罰則のためではなく、それが最大の利益をもたらすからだ。

個人の場合、自分が描ける最高の夢をも超える力をインターネットが与えてくれた。そして、次々と思わぬ方法を使って私たちを結びつけようとしてくれている。企業にとってインターネットは、従来の方法では到達し得なかった広大にして儲けの大きな市場への足がかりをもたらしてくれる。政府にすれば、インターネットによって、よりよいサービスを市民に届けることが可能になり、国境を挟んで、または国境の外に新しいビジネスを創設し、これまでにはあり得なかった水準の税収がもたらされるようになった。

すべての人が、本当の意味であらゆる人が、安全でオープンなインターネットの恩恵を受けてきた。これからも受け続けるだろう。そこに気がついた私たちの社会は、責任を果たさない人たちに強い圧力を掛けるようになってきた。

世界の住民である私たちは、今日あるインターネットの発展に貢献してくれた人たちに、大いに感謝すべきだ。もし、目先のことしか考えられない政府が、国境の中にインターネットを閉じ込めようとしたら、そんなことは許すべきではない。それは私たちを傷つけるだけではない。政府そのものが、貿易の減少から税収を失い、国民からの信頼も失ってしまう。政府は、短期的な考え方に囚われるあまり、長期的な利益を見失うことが少なくない。そのような国では、厳重な規制によってインターネットの情報にアクセスできない人たちが20億人もいる。

もし、インターネット接続業者が、インターネットで提供される情報を好きなように管理できるようになってしまったら、これも許すべきではない。そんなことをすれば、結局はその業者は収益を失うことになる。貧弱で多様性のないインターネットのサービスを提供したところで、そんなものを利用したいと思う人はいない。業者は信頼を失い、顧客は離れていってしまう。

インターネットがなくなれば、私たちの世界は急停止してしまう。オープンなインターネットに制限をかければ、それがなんであれ、人類の進歩と発展を減速させることになる。そうした制限を課する輩は、私たちとともに廃れてゆく。

そのために私たちには、インターネットが本来の目的を維持できるようにする道義的な責任を負っている。もちろん、1989年の時点では、ワールドワイドウェブ(WWW)が世界にどんなインパクトを与えるかなど、誰も予測できなかった。Sir Tim Berners-Lee本人ですら、わからなかっただろう。だが簡単に言えばそれは、「誰がどこにいようとも」人とつながれるものであり、膨大な情報を利用できるものであり、生活をより良くするための力を個人に与えてくれるものだ。

それは、オープンで無料のインターネットだからこそ可能なことだ。

今後5年間で、ガレージの電動シャッターや冷蔵庫や暖房の温度調節器やマットレスまで、無数のデバイスがIoTによって接続されるようになる。さらに、発展途上市場に住む50億人の利用者がインターネットに参加してくる。このふたつの大きな変化は、信じられないほど素晴らしい好機を生み出すであろうが、同時に、私たちの個人情報の悪用も増加し、インターネットユーザーである私たちは、ますます脆弱になってゆく恐れがある。

今こそ、アメリカのみならず世界中の国々で、インターネットの保護を適切に提供するときであり、それがKhanna議員のような人たちに論議を進めさせる推進力となる。このインターネット権利法案が、超党派の法案となり、本当の変化が起きることを祈るばかりだ。

結果はどうあれ、私たちは自分たちの道義的責任の遂行を怠ってはいけない。個人も、大企業も、政府もみな同じだ。オープンなインターネットを守るために、私たちみんなでそれを背負うことが必要だ。もしかしてインターネットは、現代社会でもっとも意味深くインパクトのある発明品だからだ。

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(翻訳:金井哲夫)

Facebookよ、本気なのか?

Facebook はビデオカメラを作っている。同社はそれを家庭に設置して、きょろきょろと落ち着きがないながらも瞬きは一切しない目玉で周囲を見回し、いくつもの耳を持つパネルに向かってユーザーが、愛する家族や友人への個人的な見解を話して欲しいと考えている。

その名はPortal。キッチンのカウンターの上やリビングルームや、友人や家族とおしゃべりをしたい場所ならどこにでも置くことができる。Portalは対象人物が動いても常に画面に収まるように追跡をして、気楽なビデオチャットが続けられるようにしてくれる。背景の雑音もカットされるので、会話がクリアーに聞こえる。気の利いた道具だが、目からウロコというほどではない。それでも便利そうではある。あなたの知っている人は、みなFacebookに登録している。または登録していたか。いずれにせよ、そうなると話が違ってくる。

いつも間が悪いFacebook

多くのユーザーがFacebookの利用を限定または縮小したいと考えている今、Facebookは家庭にその居場所を求めている。Portalは音声で起動するため、つねにキーワード(この場合はHey Portal)に聞き耳を立てている。Amazon Alexaの音声コマンドにも対応する。問題は、Alexaがつねに聞き耳を立てている機能上の性質と、隣の部屋の会話の断片まで聞き取ってしまうという悪い癖のために、すでにかなりの数のユーザーが「気味が悪い」と感じていることだ。Facebookは世界最大のソーシャルグラフを持っているのだろうが、2018年にはFacebbokの利用を抑えようとしている。増やそうとは思っていない。

FacebookはF8でPortalを発表する予定だったのだが、Cambridge Analyticaを始めとする数々のスキャンダルが持ち上がったために中止したという。大量のデータ流出事故の直後にこの製品をリリースしたことから、今出さなければ、これ以上この製品を持ちこたえることができなくなり、葬り去るよりほかになく、暗雲から抜け出すチャンスをしばらく失うことになるからだと読み取れる。FacebookのPortalは、ユーザーが毎日歩き回りながら、互いにつながれるというFacebookの新しい道を切り開くものだ。しかし、当初の出荷予定日から数カ月が経過したが、依然として最悪に間の悪い状態は続いている。

(本文は英語)

この8年間、Facebookは折あるごとに、自分たちはハードウエア企業ではなく今後もそうなるつもりは一切ないと主張してきた。
私は、5年前、あの謎多きメンローパークの記者会見で前から2列めに座っていたときのことを憶えている。記者たちは、ついに伝説のFacebook Phoneが登場するとささやきあっていた。しかし、Mark Zuckerbergが紹介したのはGraph Searchだった。2003年と比べて、市場のタイミングが改善されたかどうか、はっきと述べるのは難しい。プライバシー擁護の問題で、Facebookは警告を受けてきた。それでも、ユーザーはあまり深く考えることなく、日常的にFacebookに出入りしている。Facebook中毒を断ち切った友人は、いまだに異例な存在だ。容赦なく社会的行動に影響を与えるソーシャルメディアの分析が、日常の気楽な会話の話題になることはない。それを話し合っているのは、幻滅した技術系記者だけだ。

Facebookを信じる(か否か)

Onion紙の大見出しを飾るこのタイミングはともかく、Facebookもどうやら自覚しているようで、Portalは「プライバシーとセキュリティーを重視して作られている」と話している。さらに、いくつかの約束も明言している。

「Facebookは、みなさんのPortalによるビデオ通話を聞いたり、見たり、記録したりはしません。Portalでの会話は、あなたとあなたの相手の外に出ることはありません。また、Portalの会話は暗号化されます。そのため、あなたの会話は常に安全が保たれます」

「セキュリティーを高めるために、AI技術を利用したSmart CameraとSmart Soundは、Facebookのサーバーではなく、Portal本体の中で実行されます。Portalのカメラは顔認証を行いません。あなたが誰であるかを特定しません」

「音声で利用する他の機器と同じく、Portalは、あなたがHey Portalと言ったあとの声による命令のみをFacebookのサーバーに送ります。Portalの音声履歴は、Facebook Activity Logでいつでも消去可能です」

まともに見えるが、普通の内容だ。どの製品も、最初に動向を伺っておいて、後になって広告の蛇口を全開にしてきたFacebookのことなので、いつこれが変わるとも知れない。たとえば、Portalのカメラは顔を識別しないが、Facebookには強力な顔認証エンジンがあり、主要製品の境界線が曖昧であることでも知られている。こうした性質は、監視役がいなくなることで、さらに悪い方向に進む恐れがある。

Facebookの信頼は、標準レベルに達していない。このところ失墜した信頼を取り戻すためには、かなりのレベルでのユーザーの信頼を築かなければならない。非現実的な信頼レベルだ。そこで、新たな生きる道へと舵を切ったわけだ。

ハードウエアは難しい。Facebookはハードウエアのメーカーではないし、同社が扱っているOculusが、唯一、製造、マーケティング、そしてセキュリティーという難題に挑戦したソーシャル・アプリ以外の製品、つまりハードウエアだ。2012年、Zuckerbergは、Facebookにとってハードウエアは「いつだって間違った戦略」だと宣言した。その2年後、FacebookはOculusを買収したが、それは、初期のモバイルブームが去った後、船を失った将来のためのプラットフォームを確保しておくのが目的だった。Facebookがハードウエア企業になりたがっているサインではない。

念のため:Facebookの存在理由は、ユーザーから個人情報を抽出することにある。そのため、ビデオチャット、メッセージ、キッチンに馴染む全展望監視システムといった個人生活に密着した製品は、ユーザーのプライバシーと真逆の方向性のビジネスモデルを持つ企業に依存するのがいちばんだ。そうした企業はFacebookだけではない(Googleもだ)が、ユーザーを惑わして過度な信頼を持たせるに値するものとして、Facebookの製品は決して特別ではない。

意識調査

現在、消費者である私たちの力は限られている。Facebook、Apple、Amazon、Google、Microsoftといった一握りの巨大な技術系企業は、表面上は便利な製品を作っている。私たちは、それがどれほど便利か、その便利さと引き換えに、どれだけのプライバシーを提供できるかを決断するようになっている。これは駆け引きだ。嫌な駆け引きだ。

消費者として、それには受け入れるだけの価値がある。いちばん信用ならない企業はどこだろうか。その理由は?

もし、Facebookが、その主力製品(つまりFacebookそのもの)にたしかなセキュリティーを施すことができないとなれば、まったく異質な製品、つまり物理的な製品への実験的な進出も信頼性を失う。22億3000万人のユーザーを抱えるソフトウエア・プラットフォームのセキュリティーを確保することは、非常に難しい。そこへハードウエアを加えれば、今のその心配を複雑化させるだけだ。

安全な選択を行うために、セキュリティーの一部始終を知る必要はない。信用が力になる。自分の感覚を信じることだ。その製品が簡単なテストに合格しなかったなら、その気持を信じて、使うのを止めよう。その前に、キッチンのカウンターに置かないようにしよう。

もし、安全にウェブサイトにログインしたり、ストーリーをシェアできるという信頼感をFacebookが与えてくれないならば、つねにカウンターの上に置かれ、極めて機密性の高いデータを収集できる能力を持つスピーカーを、Facebookが我が家に持ち込むことを許せるはずがない。長くなったが、早い話が、止めておけ、ということだ。信頼すべきではない。もう、みなさんはお気づきだろうが。

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(翻訳:金井哲夫)

今、ブラジルのヘルステック分野が熱い

[著者:Manoel Lemos]
シリコンバレーのベンチャー企業Redpointのブラジル専門部門Redpoint eventuresの業務執行社員。

大勢の人が絡む大きな問題に取り組むことは、起業家と投資家の両方にとって絶好のチャンスとなる。たとえば近年のブラジルでは、フィンテックによる金融改革や、新しいオンデマンドのビジネスモデルに投資が集中しているが、ヘルステック関連のスタートアップも、ブラジルで爆発的な増加を見せている。全国民のうちの数千万人が、根深い不平等問題によって医療サービスが受けられず、深刻なまでに低水準な医療の質、重い負担、あらゆる面での非効率といった問題に苦しめられている。起業家の皿は、市場に届けたいヘルステックの改革案で山盛りの状態だ。

Liga Venturesの最近の調査では、現在ブラジルには健康に特化したスタートアップが250社位上あり、民間医療に年間420億ドル(約4707億円)以上を消費する世界で7番目に大きな健康市場になっているという。ただし、そのうち180億ドル(約2017億円)が効率の悪さのために浪費され、この5年間でブラジルの医療関連コストが倍に跳ね上がっているため(累積インフレ率38パーセント)、ブラジルの医療は崩壊寸前にある。ヘルステック系スタートアップは、サンパウロ南部のビラオリンピアに拠点を置く世界最大級の起業家ハブCUBOItaúでも、トップ5の業界に入っている。

昨年、中南米の民間投資を支援する非営利団体LAVCAが発表した「中南米の技術ブレークアウトの年」によると、中南米において、ヘルステックは2番目に急成長している技術分野になっている。2016年と比較して、ヘルステックの取り引きは250パーセントにまで拡大した。ブラジルに診療所を建設して安価に最高の医療を提供することを目的としたネットワークDr. Consultaへの5000万ドル(約56億円)の投資は、2017年のベンチャーキャピタルによる投資の中でも最大のものだった。

医療分野は、患者、仲介業者、診療所、代理店、サプライヤーの間で、人と仕事と製品を結びつけなければならない複雑な市場だ。そこで、技術革新を武器に、ブラジルでもっとも大きなインパクトを与え、この市場に新しいビジネスモデルをもたらす主要なカテゴリーと企業を紹介しよう。

オンデマンドの医療

公的医療機関が利用できるのは、ブラジルの人口(約1億5000万人)のうち、およそ75パーセントに限られている。しかし、そうした医療機関は運営管理が不十分で非効率だ。1回の診療や検査のために、患者が数週間から数カ月待たされることも少なくない。そこに技術力を背景にしたスタートアップが登場し、より広く、より高齢の人々にも、効率的に医療を受けやすくする機会を提供し始めた。

たとえば、低価格な診療所チェーンDr. Consaltaの施設は、この3年間で1軒から51軒にまで増えた。今では、100万人以上の患者から得た国内最大の医療データセットを持つと主張するまでになった。他の民間診療所では、診察料が少なくとも90ドル(約1万円)はするが、Dr.Consaltaは25ドルだ。同様のオンデマンド医療を提供する診療所として、ClínicaSimDr. Sem Filas、 DocwayGlobalMed.などがある。

テレヘルスとモバイル健康アプリ

医療上の助言、診断、モニタリングをより便利にするテレヘルス・サービスがブラジルで拡大している。たとえば、Brasil Telemedicinaは、医療検査、医師の診察、遠隔モニタリング、心理カウセリングなど、さまざまなサービスを24時間提供している。

患者のケアを改善するためのB2Bテレヘルス・サービスには、1日24時間年中無休で放射線画像解析を行うTelelaudo、心臓の健康状態のモニター、陰圧閉鎖療法、乳児の呼吸と健康状態のモニターのための特殊な機器を提供するVentrixなどがある。また、サンパウロに拠点を置くスタートアップNEO MEDは、心電図と脳波図の医学報告が簡単に素早く作成でき、それぞれの場所で柔軟に収入を増やしたいと考える診療所、研究所、病院、医師の協力を促すプラットフォームを開設した。

フィンテックのような急成長分野を
もうひとつ作れる重要な材料が
この国にはふんだんにある。

ブラジルでは、糖尿病と高血圧といった疾患の発生率の高さインターネットユーザーの多さから、モバイル健康アプリの人気が高まっている。たとえば、Dieta e Saude(栄養と健康)というアプリは、160万人以上のユーザーに、よりよい栄養食品を選ぶよう助言し、それを習慣づける動機を与えている。ブラジルで設立され、現在はサンフランシスコに拠点を移したYouperは、社会的不安の解消を手助けする情緒的健康のためのバーチャル・アシスタントだ。ユーザーの思考パターンを再構成して、心をより健康な状態にしてくれる。

AIとデータ解析

他の業界と同様、またブラジルに限らず、AIとデータ解析は、患者の診断のスピードアップから医療コストの管理に至るまで、医療を変革しつつある。

その中のイノベーターのひとつにGestoがある。データベースに蓄積した450万件以上の患者の情報を機械学習でふるいにかけ、有用な情報を引き出して、患者の治療を最適化すると同時にコストを管理し、企業にとって最適な保険プランの選択を助けてくれる。集中治療室の管理を専門とするブラジル最大手のIntensicareは、AIを利用して診断のための時間を短縮し、患者の滞在時間と死亡率の低減を目指している。レシフェに本拠地を置くスタートアップEpitrackは、クラウドソースのデータ、AI、予測分析を使って疫学をコンピューター化し、伝染病の大流行と戦っている。

電子カルテ

昨年、ブラジル政府は、国内4万2000箇所以上の公営診療所で扱う患者のカルテを近代化するプロジェクトを、2018年までに完了させると発表した。世界銀行によると、カルテの電子化によって、連邦政府の経費は68億ドル(約7630億円)削減できるという。昨年末の時点で、ブラジル人(2億800万人)のうち3000万人しか電子カルテを持っておらず、ブラジルの家族向け診療所の3分の2近くが、患者の電子カルテを作成する手段を持っていなかった。

SaaS電子カルテのプラットフォームであるiClinicは、医療の近代化に大きな影響を与えたブラジルでもトップクラスのスタートアップだ。医療の専門家によるカルテの分類を電子的に支援し、すべてのデータをクラウドに保管し、あらゆるデバイスで読み出せるようにする。iClinicは非常に使いやすいシステムであるため、医療の効率化、コストの削減、治療の質の向上が期待できる。現在、ブラジルの各地で利用されているが、ブラジル以外の20カ国以上にも利用者が広がっている。

処方箋のデジタル化

ブラジルでのデジタル化の遅れによるもうひとつの大きな問題として、70パーセント近くの処方箋に記述ミスの恐れがあるという点を世界保健機関(WHO)が指摘いている。そのためブラジルでは、投薬ミスの関連で年間数千人が死亡している。精査することで、かなりの人数が救えるはずだ。アメリカでは、すでに77パーセント以上の処方箋がデジタル化されている。

この生死の問題に対処するために、ブラジルの電子処方箋管理の中心的存在としてMemedが登場した。現在、ブラジルのすべての医療分野の5万5000人以上の医師がこれを利用し、アレルギーと薬物相互作用の照合を行っている。これにより、服薬コンプライアンスが容易になり、医療効果も高まる。同社は、ブラジルでもっとも充実した、信頼性の高い、最新の薬物データベースを開発している。

ブラジルのヘルステック関連のスタートアップは注視すべき分野として急成長しているのは確かだが、ヘルステック革新が解決に着手したこの国の問題は、まだまだ氷山の一角に過ぎない。フィンテックのような急成長分野をもうひとつ作れる重要な材料が、この国にはふんだんにある。ブラジルにおけるヘルステックは、今後長きにわたり、それを信じる起業家と投資家にとって、確実にホットな分野となる。

備考:Redpoint eventuresはMemedに投資しています。  

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(翻訳:金井哲夫)

大変残念だが、心配することを止めてブロックチェーンを愛することを学ばなければならないだろう

変なタイトルだ。皆さんには謝りたい。分かっている。「ブロックチェーン」と耳にすると、皆さんはすぐに「胡散臭い成金手法」だとか「魔法のイカサマインターネットマネーのバブル」だとか、「はた迷惑な自由至上主義者」だと思うことだろう。そしてブロックチェーン信奉者の1人が、なぜそれが重要なのか、なぜ新しい財閥を形成すること以上に世界を変えるのかを説明しようとしても、「いやいや、単にデータベースを使えば良いだけじゃ?」と考えることだろう。無理もない。

そう考えても間違いではない。少なくとも先進諸国では、既に銀行やクレジットカードによって扱われているものの中で、Bitcoinの方がよりよく安全に処理されるというものは多くはない。その他の大部分の暗号通貨は、(基本的に世界カジノの賭博行為に使われるものや、真に秘密で匿名こと以外はBitcoin同様であるものを除けば)基本的に規制を受けない世界的な株式市場の中の、ペニー株(投機性の高い安価で不安定な株)に過ぎないのだ。それらは技術的には素晴らしいものだが、全体概念の一般的な運用に対して、より高い信頼性を提供するものではない。

Ethereumはもっと興味深い。その「世界コンピューター」概念は受け容れるのに苦労するような代物だ。それは世界中に分散する何千ものノードに分散する許可不要の仮想マシン上で、コードを実行しデータを保存するという概念である。だが前述した株式市場やカジノに加えて、ときどきCryptoFadに使われる以外には殆ど使われることはない。そしてもし人びとがそれを本当に使いたいと思ったとしても、スケールしないために使うことはできないだろう。

全て(現在は)正しい。そして私が、ブロックチェーンが世界を支配すると言おうとしているのではないということは急いで強調させて欲しい。私は、ブロックチェーンは新しいインターネットではなく、新しいLinuxである(一部の専門家が使うもの)という立場をとっている。私は利便性や使いやすさからではなく、技術と政治的思惑によって、数パーセント以上の人たちが直接使うようになると考えるのは、楽観的な予想だと考えている。

しかし私は、代替物の存在がとても重要だと考えている。なぜなら主流のインターネット、すなわち 旧来のインターネットと特に旧来のソーシャルメディアは2つの罪によって汚染されているからだ。

1つは広告主導のメディアであるということである。これはそれ自身が不気味な存在だ。ユーザー追跡、ブラウザのフィンガープリンティング、広告リターゲティング、OutbrainやTaboolaなどのクリックベイトファーム、モバイルブラウザをクラッシュさせたり実際に見たいコンテンツの邪魔をする広告、そしてテレビコマーシャルが控え目なものに思えてくるような、自動再生広告などを私たちにもたらしている。しかし、それはソーシャルメディアにとって破滅的なものだ。なぜならそれはより多くの関わりを求めさせるからだ。そのことによって怒りやフェイクニュース、そして相手が誰であろうとも「あちら側」を敵とみなす行為がより激しくなる ―― そうした行為はより深い関わりへと繋がり、詰まるところより多くの広告収入へとつながるからだ。ソーシャルメディアの経営幹部が何を言おうとも、ビジネスモデルが広告によって動かされている限り、より多くの金、より高い利益、目標達成、そしてボーナスを獲得しようとするブラックホールが、彼らを引きずっていくことを止めることはできない。

もう1つは、メトカーフの法則や、その他の勝者総取り効果からもわかるように、単純な事実として、もし本当の最初から意識的に設計しない限り、技術というものは中央集権的になってしまう傾向があるということだ。このことによって、Facebookのバグが5000万人の人びとのアカウントを危機に晒し、多くの場合にはTinderやSpotify、その他のサードパーティのアカウントも道連れにしたことは、必然的に起こり得る状況だったのだ。なにしろFacebookはインターネットの中央集権的アイデンティティパワーとなるまでに成長していたのだから。こうした被害者の人たちは何ができただろう?どんな代替手段に切り替えることができるのだろう?もし彼らが非常に動揺し、強く決意したなら、もしかしたら別のものに切り替えられるかもしれない…他の、同じように中央集権化され、同様に広告で支えられているアイデンティティ提供業者に。だが切り替えても、それを信頼してはならない。

だからこそ、誰かの許可を得ることが不要である分散型の、広告で運営されておらず、中央集権的な大手企業が支配していない代替案が存在することが重要なのだ。そして、読者はきっとこんな話は聞きたくないと思うが、ブロックチェーンを何らかの手段、形式、方法として含むことのない、新しいファイナンスモデルを伴った分散型ネットワークを想像することは極めて困難になりつつある。これは私たち皆が、秘密鍵でいっぱいの 「ウォレット」を保持して、携帯電話やラップトップ上でブロックチェーンノードを実行しなければならないということを意味しているわけではない。最も興味深い分散化の動き(特にBlockstackなど)の中には、ブロックチェーンを非常に巧妙に用いているために、その存在に気が付くことが難しいものもある。それでも、内部ではブロックチェーンは必要不可欠なものなのだ。

だから、脊髄反射的な嫌悪感はぜひ乗り越えて欲しい。操作された市場や、狂気のカジノのさらに先を見て欲しいのだ。真に新しいアイデア(特にそのアイデアがお金に関係している場合)を最初に受け入れて擁護する少数派たちが、いびつにイカれた奴らである傾向が高いことは事実だ。だからといってアイデアそのものがイカれたものであるということではないのだ。人工的な金や、即席成金化計画よりも面白いことがここにはある。そして私は決してそれが主流になることはないと考えているものの、あらゆる大騒動(sturm und drang)とバカバカしい詐欺の向こうに、純粋に技術的、政治的、金融的、そして社会的に興味深い、代替ムーブメントが生まれつつあるのだと信じている。注意深く観察し、もう一度考えてみよう。

(訳注:この記事の原題は”I’m very sorry, but you’re going to have to learn to love the blockchain.”というものである。このタイトルが昔の映画”Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb”(邦題:博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか)のもじりであることは、冒頭の写真(映画のシーン)からも明らかである)

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(翻訳:sako)

自動化によって仕事が失われても人は技術を学べる

[共同著者:Brooks Rainwater]
National League of Citiesの都市ソリューションと応用研究センター・ディレクター。

[共同著者:Camille Moore]
都市ソリューション・センター元フェロー。現在は教育基金Congressional Black Caucus Foundationのエネルギー・フェロー。

 

これは、ごく一般的な光景だ。あるトラック運転手がハイウエイを降りて、給油と食事のためにトラックを停める。彼女はカウンターの脇に立っているウェイターにハンバーバーとポテトを注文し、隣の店で持ち帰り用のコーヒーを買う。

しかしあと数年で、この日常的な、なんでもないやり取りは過去のものになる。トラック運転手も、ウェイターも、店員も、次第に機械に置き換えられるからだ。

計算方法は変化しても、数字は嘘をつかない。最終的には、大勢の人たちが機械に職を追われることになる。オックスフォード大学マッキンゼー・グローバル、経済協力開発機構(OECD)のどの予測を採用しようとも、9〜47パーセントのアメリカ人労働者は、今後10年以内に自動化によって職を失うと見て間違いはない。最悪の予測では、100万人単位の労働者が職を失うことになっている。

人の働き方は変化する。人には、自分たちの仕事を変革し進化させる生まれつきの能力があり、その歴史の中で、車輪、蒸気機関、人工知能とさまざまな発明を行っては劇的な進化や影響を仕事にもたらしてきた。なので、まだ生まれていない未来の仕事はたくさんあるのだが、これまでの流れを見れば、機械や職場のテクノロジーは労働者の過酷な肉体労働を肩代わりして、我々に、もっとものを考えたり、管理したりする余裕を与えてくれるはずだ。

我々全員が、より統合された職場に移行するようになれば、誰が機械を動かしているのかを知っておくことが非常に重要になる。実用的で戦略的な方針を持つことで、勤勉なアメリカの家族や街を明るい未来へ導くことができる。

National League of Cities(全米都市連盟)による「私たちの未来の仕事に関する評価」と題した最新の調査では、米労働統計局のデータを分析した結果、2030年までに、もっとも成長の早い業種では、時間管理、積極的傾聴、調整と判断、意識決定といった高度なソフトスキルが要求されるようになることがわかった。しかし最終的には、いかなる業界においても、どの仕事も作業も自動化の影響を受けることになる。しかも、そこに現れるであろう新しい仕事がどんなものであるかは、いまだ予測がつかない。そのような、予期された広範に及ぶ混乱に対処するための、もっとも効率的で、すでにその効果が実証済みの手段として、昔から伝わるインキュベーター(保育器)がある。つまり、我らアメリカの街だ。

才能の天然の発生地である街は
変化やアイデアが見出され
集中し、ふるいにかけられて
より広い社会に広がってゆく場所として
機能している

この報告書では、自動化や地元の経済の変化に直面しても持続性のある、よりよい仕事への論理的なキャリアパスを推奨している。たとえば、看護師や訪問ヘルパーなど、人間的な感性が重視される仕事は需要が伸びて成長を続ける。一方、レジ係(自動化の影響を真っ先に受けると思われるグループ)は、営業担当に転向できる。建設ロボットSemi-Automated Mason(SAM100)のような技術は、労働者を単純な手作業から解放して、監督や、技能を活かした雇用への道を開く。

アメリカの街は、それぞれの独自の未来を構築するために、独自の特性を活かす必要に、今まで以上に迫られている。地方の経済の力は、そこに住んでいる人の才能の力と比例する。そこにどんな才能があるのかを、よく理解することで、街のリーダーは独自のポジションに身を置き、才能のパイプラインを構築し、そこに、近い将来に求められる確かな技能を持つ人々を適切に配置することが、是が非でも必要となる。

私たちの調査では、ボストン、リッチモンド、ミネアポリスの3つの都市が、利用しやすく、平等で、持続可能な方法を用いて未来の職業に備えるという仕事を、特別に効率的なやり方で行っていることがわかった。

ボストンでは、労働人口の38パーセントが自動化の影響を受けやすいと予測されている。つまり、自動化によるリスクが低いということだ。この低さの理由は、成人向けの識字教育プログラム、弟子入りの制度、地元の成長産業のための需要に的を絞った資格制度を導入して、行政が、戦略的、段階的に労働者をサポートしているところにある。

リッチモンドは長い間、経済、政治、商業の力が交差する拠点として活躍してきた。自動化の影響を受けるのは労働人口の41パーセントと予測されているが、ここも自動化による失職のリスクは小さいほうだ。リッチモンドは、面接、シャドーイング、求めに応じた技能など、ビジネスに欠かせない技術を教えるPluggedIn VAといった教育プログラムを実施して、先手を打っている。

ミネアポリスはアメリカ中西部第二の経済センターだ。大学教育が充実しているため、求めに応じた職種に専門的な技術を持つ人間をつなげることができる。とくに、Hennepin Pathwaysは、地元の持続可能な職種に、それに見合う技術をすでに備えた人材を紹介するプログラムが実績を上げている。

才能の天然の発生地である街は、変化やアイデアが見出され、集中し、ふるいにかけられて、より広い社会に広がってゆく場所として機能している。都市部には個人の集塊を有し、あらゆる職業、文化、信念の人たちが密集する街には、国を生産的に前進させるダイナミズムがある。

未来の私たちは、非常に伝統的な空間、つまり職場において、新しいレベルの個性化と柔軟性を求められる。テクノロジーは強迫的で、侵略的で、誤動作もあるが、私たちが前進するための最大の利点は、立ち直る力にある。

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(翻訳:金井哲夫)

iPhone SEは後にも先にもアップルの最高傑作だった

2018年のiPhoneの発表会で、私が唯一期待していたのは、新しいiPhone SEだった。それを提示しなかったアップルは、密かにSEを引退させてしまったようだ。それに関して、私は永遠にアップルを恨むこととなった。なぜなら、SEはアップルの最高傑作だったからだ。

もしあなたが、2015年にデビューしたSEを見送った多くの人たちの中の一人だったとしても、それは理解できる。iPhone6sは最新で最高性能で、もちろん、アップルがご親切にも6の新デザインのあらゆる場所に盛り込んだ問題の一部を解決した機種だった。しかし私には、SEが最高にピッタリ来ていた。

私は、4からのiPhoneのデザインを大変に気に入っていた。発表前にバーに置き忘れられてGizmodeにリークされてしまった事件で、記憶している人も多いだろう。あれは残念だった。なぜなら、今ではアップルはすべての機種で豪華な発表会を開いているが、あの機種だけが、それに相応しい製品だったからだ。

4は、完全に新しい工業デザインの美を確立していた。一目でそれとわかり、非常に実用的だった。オリジナルのiPhoneのステンレス製の背面と、ジェリビーンのような3Gも3GSにあった滑らかで丸いエッジも消えた(初代iPhoneはおそらくアップルが作った2番目に優れた機種だった)。

柔らかい曲線はカチッとした線と妥協のない形状に置き換わった。周囲を金属のベルトが取り囲み、ほんのわずかな段差でガラスの面と接している。それが、画面とベゼルを覆う黒いガラス面との境界を明確にして、どの角度から見ても光沢のある輪郭が浮かび上がるようになっている。

カメラはフラットになり、ホームボタン(お懐かしい)も、本体に埋め込まれる形で、少しだけ凹んだほぼフラットな形になり、本体の両面は完全に平らになった。それに対して、サイドボタンはしっかりと出っ張っている。音量ボタンは、よく目立つ丸い形となり、ミュートスイッチは、簡単に見つけられるが、誤って切り替えてしまう心配がない。電源ボタンは、人差指で楽に操作できる位置にある。これらの機能は、使い勝手の良さをダイレクトに示している。物事を、より簡単に、よりよく、より扱いやすくしながら、ひとつのオブジェクトとしての魅力的で一貫性のあるデザインに仕上がっている。

iPhone 4と比較すると、サムスンの「iPhoneキラー」と呼ばれる新しいGalaxy Sを含む他のすべてのスマートフォンは、プラスティックを多様した安っぽさが目立ち、デザインに一貫性がなく、よくてウォークマン程度の感じだ。私は、単なるアップルファンとして話しているのではない。その当時、私はiPhoneユーザーではなかったのだ。大好きだったG1を、今でも使っていたかも知れない。それは美女と野獣の物語だ。

5のデザインには、その縦長の画面に違和感を持ちつつも、なんとか使い続けることができたほど強力だった。そしてその世代から、裏面の残念な傾向、つまり割れやすいという問題が軽減された。

しかし、ツートーンのグレーのiPhone 5sには、基本的にもう改良の余地がなかった。その4年後、アップルは、そろそろ変化を加える時期だと感じたのだろう。ところが残念なことに、アップルが行なったのは、あらゆる個性を排除することだった。追加されたのは、画面の面積だけだ。

6は、私にとっては、単に醜い機種だった。当時のAndroidのスマートフォンを思わせる、どうしようもない退屈なものだ。Androidよりは少し高性能というだけで、あとは同じだ。6sも同様に醜かった。そして7から8にかけては、デザインに個性として残っていた部分まで削り落とされてしまった。実用性のためにとカメラの出っ張りがどんどん大きくなるという先祖返りが起こり、ヘッドホンジャックも消えてしまった。Xは、少なくとも、ちょっとだけ個性的だ。

最近の話に戻るならば、それは6sの後の、アップルがSEを発表したときのことだ。SEは「スペシャル・エディション」の意味であり、Macintosh SEへのオマージュでもあった。しかし皮肉なことに、その最初のSEは「システム・エクスパンション」(システム拡張)という意味だったのだが、新しいほうのSEはその逆だ。基本的に、iPhone 6sを5sのボディーに詰め込み、カメラとタッチIDセンサーとプロセッサーを改良したものだ。たぶんこれは、デザインが大きく変更されて、びっくりするほど大きくなった最新機種への乗り換えを躊躇している人たちへの救済措置だ。

初期のアップル製品を買ったことがなく、斬新さよりも使いやすさを求める人たちを改宗させるには時間がかかる。アップルのそうした事情は理解できる。だから、その難しい乗り換えを、少しだけ楽にする方法を与えたというわけだ。

SEは、懐古趣味的な、新しいものが嫌いな人たちだけでなく、小さなスマートフォンが欲しかった人にもアピールした。私の手は、とくに大きくも小さくもないが、このポケットに入れやすいサイズは気に入った。また、新しいものに安定したデザインを取り込んだことでは、多くの点で好感を持った。

傷つかないようにカメラをフラットにしたか? マル。普通に押せるホームボタンか? マル。フラットで左右対称のデザインか? マル。握りやすいエッジがあるか? マル。専用ケースが大量に存在するか? マル。私は長い間、これを使ってこなかったが、SEは最高の機種だ。

その当時、iPhone SEは、アップル製品の中でも大変にコンパクトで見栄えのよいものだった。機能面でも、ほとんど妥協がなかった。ひとつだけ注文をつけるなら、サイズだ。ただ、それは好みの問題だったが(今でもそうだ)。

それは、アップルがデザインした最高の作品だった。それまでに開発されたなかで最高の技術が詰め込まれていた。それまでに作られた中で、最高のスマートフォンだった。

敢えて言うあら、それ以降も含めて、あれは最高のスマートフォンだった。6以来、アップルは、ユーザーの気を引こうと、漂い、さまよっているように私には見える。それは、ずっと昔の2010年に、iPhone 4のデザインとグラフィック性能で人を惹きつけたのと同じ方法だ。アップルは、最先端になるまでデザインに磨きをかけた。しかし、また一歩先にジャンプするだろうというみんなの期待をとは裏腹に、アップルはジャンプせず、爪先立ちになってしまった。金のガチョウを動揺させたくなかったのだろう。

SEは、超えられないデザインの背中に乗って、勝利の最終ラップをアップルに走らせた機種だったと私は思う。認めたくない気持ちはわかる。この長い年月の間、1000ドルもする旗艦機種ではなく、10年近く前に作られた機種を欲しがる人はいなかった。その旗艦に関してと、どうしても言っておきたいのは、外観のデザインに妥協があるだけでなく(できるなら私はノッチ付きのスマートフォンは持ちたくない)、タッチIDや3.5ミリのヘッドホンジャックなど、多くの人が愛用している実用的な機能において時代を逆行している点だ。他の機種でも、この「ユーザー・アンフレンドリー」な対応がなされている。

だから、私はアップルに失望したけれども、意外には思わなかった。結局、私はもう何年も失望し続けているのだ。それでも私は、SEを持ち続けている。使える限り、使っていこうと考えている。なぜなら、これはアップルの最高傑作だからだ。そして、今でも最高のスマートフォンだからだ。

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(翻訳:金井哲夫)

ハーレー・ダビッドソン、シリコンバレーに研究開発センターを開設してEV生産を支援

【編集部注:本稿のライターはJake Bright】
Harley-Davidson、アメリカを象徴する内燃機関モーターサイクルメーカーが、2輪EVに本格参入する。

ミルウォーキー拠点のオートバイメーカーは、電気化をめざしシリコンバレーにやってくる。Harleyは、2018年末までにベイエリアにR&D部門を開設し、同社の電動車開発の決意を後押しする。

「真の理由は人材」とHarley-Davidsonのグループ・チーファンジア、Vnace StraderがTechCrunchに語った。「われわれは電動車とそれを支えるシステムを理解することに真の熱意をもつ人たちを求めている。そんな起業家精神と機敏と機知に富んだカルチャーは、ここシリコンバレーで見つけられる可能性が高い」

Straderは、来年発売予定の同社初の電動二輪車について、その機能の一部を紹介した。具体的には、世界的に有名なHarleyのエンジン音だ——かつて同社は商標登録を試みたこともある。Straderによると、同社のEVは独特の特徴あるサウンドを擁すると言う、「そして音に関して偽物は一切ない。すべては車両から発生する音だ」

本誌が今年2月に報じたように、同社は2019年8月までにEVを作ると発表して、モーターサイクル界を震撼させた——同社のコンセプト車、Project LiveWireの生産モデルだ。

Harley-Davidsonは6月にも、CEO Matthew LevatichがEVラインアップの拡大を発表、軽量モーターサイクルのほか、スクーターと自転車の可能性にも言及した。

こうしたゴールを達成するために、シリコンバレーの事業所では、「電動車の研究開発を行い、バッテリー、パワーエレクトロニクスとEマシンの設計、開発、高度な生産技術などに注力する」

Harleyのシリコンバレー進出は、モーターサイクル業界の電動化へのシフトの中で重要な転機と言える。スタートアップ3社—— Alta MotorsEnergicaZero Motorcycles——が米国での宣伝、販売を強化している。各社とも一人でも多くのガソリン車ライダーに電動バイクを体験させ、若者や女性をモーターサイクルに引きつけようとしている。米国市場は長年縮小を続けている。

Harley-Davidsonは2019年の電動車生産目標時期を発表したあとすぐに、Altaへの資本参加(金額非公開)と共同開発を決定した。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

裕福な観光客を哀れむバーニングマンの本当の価値

私が、バーニングマンでいちばん面白いと感じる点は、ポスト希少性社会の叩き台になっているところだ。ただ、膨大な費用と資源を必要とし、非常に過酷で不便な場所で行われる実験というのも皮肉な話だ。そこまで行かなければ、世界の金銭的または希少性の階級構造から抜け出すことはできないというわけだ。

もちろん、それだけではない。世界最大級の、もっともクレイジーでもっとも壮大なパーティーであり、巨大なエレクトロニック・ダンス・ミュージックのフェスティバルであり、圧倒的な野外アートギャラリーであり(はかなく、同時に永遠で、美術館のキュレーターも足を運び、コレクションに加える作品を物色する)、実験的コミュニティーであり、世俗的異教徒の儀式であり、幻覚剤の「セットとセッティング」であり、友人との再会、または共に過ごす休日、などなど。これをヒッピーのイベントだと、からかい半分に誤解している人は多い。火炎放射器とギターの比率は100対1で、「安全第三」や「バーニングマンは常に死と隣り合わせであるべき」といった言葉がモットーになっている。またときには、大変に奇妙なことだが、シリコンバレーの休日のハッカソンの延長だと誤解している人もいる。

その最後の誤解は教訓的だ。今年のイベントリストには、いわゆる「ベンチャー投資家および起業家ネットワーキング・イベントとピッチセッション」というものがあった。私は参加しなかったが、親しい友人が参加して教えてくれたところによると、「あれは究極のポーの法則イベントだったよ。……それがジョークだとわかったとき、大勢の人間が本当にがっくりしていた」とのことだった。どうやら、現状の外の世界の社会的階級構造にはあまり反発する様子がないようだ。むしろ興味深いのは、それを真横から見ていることだ。人によっては、理解が難しいところだ。

たしかに、このStanford Newsの素晴らしい記事が伝えているように、バーニングマンはシリコンバレーに大きな影響を与えている。驚くべきテクノロジーがそこで見られるのは事実だ。壮麗な600機ものドローンが群をなして飛んだり、6メートルの高さのテスラコイルが2基並んでいたり、ロボットが勢揃いしていたり。しかし、その作者たちは、自分たちのコミュニティーに作品を見せたいだけであって、不浄な金儲けを企んでいるわけではない。

勘違いしないで欲しいのは、この砂漠の実験的コミュニティーにも、独自の階級構造があり、独自の社会資本があり、そこにたかろうとする者もあり、独自の不文律が大量にあり、大変に人気の(みんなの誇りになっている)独自のロゴもある。しかし少なくとも、みんなで働く、みんなで建てる(テント一張でもいい)、みんなが砂埃と戦って、そして負けて、みんなで物や行動を、受け取るのではなく寄付して社会資本を増やす、そしてみんなが、火を吐く巨大なアートカーの上に乗ったり、バスでやってきて寝る場所がない人たちに狭いテントの寝場所を分け与えたりする同等の参加者となり、近くにいる知らない人を助けたり、協力し合ったり、またはみんなが楽しめるアート作品や技術プロジェクトを作ったりする、という理想はある。

外の世界の階級社会に直交すること、つまり奪うのではなく与える競争は、その他の実験的コミュニティーの中でも、ポスト希少性社会の実質的な叩き台としては魅力的だ。だからこそ、そこに来てコミュニティーにまったく参加しようとしない人は、ひどく軽蔑され、嫌われ、侮蔑される。

もちろん私は、あの悪名高い「ターンキー・キャンプ」のことを言っている。金持ちの(ときには大金持ち)の人たちが、お金を払って六角形のユルトを建てさせ、食事を用意させ、ガイドや学芸員を雇って見物してゆく。あの壮大な光景の傍観者となるためにだ。バーニングマンの参加者とは異質の存在だ。外の世界での高い階級をプラヤに持ち込み、我々の叩き台に、古い退屈な資本主義を感染させようとしている。

裕福な人たち、とくにシリコンバレーから来た人たちが、バーニングマンで大そう贅沢な時間を長々と過ごしていくのは事実だ。2001年、Googleの共同創設者ラリーとセルゲイがエリック・シュミットをGoogleのCEOに選んだ理由のひとつは、候補者のなかで、彼が唯一バーニングマンの参加経験を持つということだった。マーク・ザッカーバーグは、一度、ヘリコプターで飛んで来て、グリルチーズ・サンドウィッチを無料で配って午後を過ごしていったことがある。イーロン・マスクは、彼がバーニングマンで見たようなシリコンバレーの側面が描かれていないと、れテレビ番組『シリコンバレー』を批判した。それでも彼らは、自分で行動している。その体験が、パッケージとして販売されるようになった(とされている)のは、ここ数年のことだ。

それには、みんな非常に腹を立てている。思うに、その最大の理由は、恐れだ。資本主義は「ボーグ」と同じだ。接触したものすべてに感染して、仲間に組み入れてしまう。バーニングマンは、ただの大きな祭になってしまう。それが恐ろしい。実験的なコミュニティーでも、ましてやポスト希少性社会の叩き台でもなくなってしまう。

それなのになぜか私は、とても清潔で裕福な、ターンキー・キャンプから来た大勢の人たちと土曜日の夜を共に過ごすはめになった。短パン姿の老人たちや、染みひとつないピカピカの何千ドルもしそうなバーニングマン風衣装を着た若者たち、それに、「こっちを見ないで、私はセレブなんかじゃありません」的な特注の黄金の面をつけた女性もいた。彼らは昔ながらのツアー観光客のように振舞っていた。ただ違うのは、ガイドが掲げる彼らの目印は旗ではなく、持っているのは旗ではなく、先端に点滅するLEDのハートを付けた長さ3メートルの6ミリ径鉄筋だったことだ。

そして、最初に抱いた彼らへの怒りが収まったあと、私がいちばん強く感じたのは、彼らへの哀れみだった。私は、前述のバスキャンプの中の、砂だらけのみすぼらしい場所で一人でキャンプをしていた。だが、それが何よりもずっと面白く、楽しい時間だった。たしかに、私は(比較的)このイベントを多く経験したベテランだが、初めてだったとしても、そうしていただろうと思う。それに、ここに集まった7万人の人たちの中には、とても裕福で、ターンキー・キャンプに泊まれる人たちも大勢いるのだが、それでもあえて大変な苦労や実験に身を投じ、巨大な像を作ったり、複雑な機械を組み立てたり、比類なく立派なアート作品を創造したりしていた。それは、大きな喜びという報酬を期待しているからだ。あの嫌われ者の観光客たちにも、そこをわかって欲しかった。

だから、そんな観光客は気にしない。バーニングマンは資本主義のボーグと戦う強力なレジスタンスとして生き残ると、私は期待している。だからそこは、文化、コミュニティー、テクノロジーのための、そして近未来のための、面白い実証実験の場所なのだ(同時に、完全にいかれた人たちに埋め尽くされた完全にいかれたパーティーという側面も、またその顔のひとつ)。ターンキー・キャンプの観光客たちが改心することなど、私は期待していない。彼らはその階級にしがみついているからだ。それに対して私たちは、テクノロジーによって可能となる文化とコミュニティーの非常に面白い実験の時と生きている。そして、バーニングマンがそう見える、また現にそうであるように、馬鹿みたいに弾け過ぎたそうした実験が、真実の価値を持つと私は強く信じている。

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(翻訳:金井哲夫)

バッテリーの命が難民の命、スマホに依存する難民の実情

[著者:Ziad Reslan]

人間の寿命とバッテリーの寿命を同じに考える人は少ないと思うが、戦争や飢餓から逃れてきた大勢の難民たちにとっては、わずか1パーセントのバッテリー残量が、適時に適切な情報を与えてくれる生命線となる。それがなければ、生き残ることはできない。

現代のスマートフォンは、移住を余儀なくされた人たちの旅の必需品となっている。Google Mapを頼りに中央アジアの山岳地帯を歩いたり、WhatsAppで故郷の家族とつながったり、スマートフォンは難民のあり方を変えた。しかし、良いことばかりではない。

電子1個も無駄にできない

東ヨーロッパでは、ハンガリーから入国を拒否された難民たちが、セルビア側の国境沿いに建ち並ぶ廃ビルに身を寄せている。生活必需品はボランティアが運んでいるが、その中には、自動車のバッテリーを再利用したスマートフォン用の充電器も含まれている。

ハンガリー国境から2キロと離れていない廃ビルの中では、難民たちがひとつの自動車用バッテリーを取り囲み、スマートフォンに充電している。彼らはみな、スマートフォンのバッテリーの大切さをよく認識している。コンセントが使えない場所で充電を行うための、ポータブル充電器を欲しがる人も大勢いる。彼らは常に、どのアプリがいちばん電気を食うかを報告し合ったり、使っていないときはアプリを閉じるように声を掛け合ったりしている。

パキンスタンから逃れてこの建物で避難生活を送っているNashidは、この遠く離れた辺境の地でいちばん求められるのは、スマートホンに充電する方法だと話している。電気が自由に使えないため、バッテリーの充電はボランティアの訪問だけが頼りだ。次の訪問のときまでは、なんとかバッテリーを持たせるよう、さまざまな工夫を凝らしている。そのひとつに、夜寝るときと昼寝をするときは、かならず電源を切るというものがある。画面の明るさも最低に設定してある。空になったバッテリーを取り出して繰り返し振り続けると、数分間、スマートフォンが使えるようになるとも話していた。

東ヨーロッパから西ヨーロッパを目指して旅する難民たちにとって、ハンガリーとセルビアの国境が最後の壁になっている。ハンガリーに入れさえすれば、そこはEU26カ国が加盟するシェンゲン圏なので、国境検査を受けることなく、西ヨーロッパ内の目的地に楽々と行くことができる。しかし反面、ハンガリー国境では警備が厳しくなり、入国がかなり難しい状態になっている。多くの難民たちは、ようやく国境を通れるようになるまでの間、何十回も拒否され押し返されている。

Nashidは、この8カ月間、セルビアからハンガリーへの入国を試み続けている。妻と2人の子どもを含む家族をパキスタンに残し、彼はヨーロッパに旅立った。彼によれば、WhatsAppを使って家族と、そしてパリに住む従兄弟と連絡を取り合っているという。パリは彼の最終目的地だ。バッテリーの制限はあるものの、ただ待つだけの日々の中で、スマートフォンがよい気晴らしの道具にもなっていると彼は言う。1曲か2曲、こっそり歌を聞いたり、ウルドゥー語の動画をYouTubeで見たりしているそうだ。

ひとつの旅に無数のアプリ

この数年間、セルビアは西ヨーロッパに渡ろうと試みる難民たちの、主要な経由地点という役割を担ってきた。セルビアの首都ベルグラードにあるRefugee Aid Miksalište Center(ミクサリステ難民救済センター)は、NGOによって1日24時間開かれていて、移動中の難民が立ち寄ってサービスが受けらるようになっている。一歩中に入ると、ここでも電源タップの周りに人が集まり、スマートフォンに充電をしている。また、無料Wi-Fiの設備もあるので、故郷の友人や家族と、ソーシャルメディアやSkypeを使って連絡を取り合っている。

スマートフォンに充電するために、電源タップの周りに集まるセルビアの難民たち(写真:Ziad Reslan)

難民が集まるたびに、同じ光景が繰り返される。今、世界中には、強制的に国を追い出された人たちが7000万人近くおり、避難場所を求めて何千キロメートルも旅をしなければならない状態にある。その半数以上が、シリア、アフガニスタン、南スーダンのわずか3カ国から逃げて来た人たちだ。強制的に国を追い出された人たちの中でも、突出して多いのがシリア人だ。アレッポから西ヨーロッパへ向かう途中のセルビアとハンガリーの国境地帯までだけで、平均して2200キロメートル以上もの距離を移動しなければならない。

方向を知るために、言葉を学ぶために、ちょっとした気晴らしに、スマートフォンは、難民たちにとって、何カ月間にもおよぶ過酷な旅を生き抜くための必需品となっている。少なくとも、故郷に残してきた愛する人たちと話ができることが、心の支えになる。

2015年夏、残虐な内戦から逃れて100万人のシリア人難民がヨーロッパに押し寄せるという難民危機が頂点に達したころ、FacebookとWhatsAppのチャットグループがいくつも立ち上がり、難民たちの間で旅の進行状況、どの仲介者が信用できるか、交渉費用はどれほどか、といった情報がリアルタイムで交わされるようになった。GPSピンを使って、Google Map上で安全なルートが示された。地中海で難民を乗せた船が沈没した際には、彼らのスマートフォンから送られたGPS信号によって沿岸警備隊に救われたということもあった。

難民たちは、ドイツ語、フランス語、英語などの言語学習アプリをスマートフォンにダウンロードし、目的地の生活に馴染めるようにと、移動中に勉強している。ブルガリア語、セルビア語、ハンガリー語で書かれた道路標識は、Google翻訳で読んでる。旅で家族と生き別れてしまった難民たちには、スマートフォンが家族とつながる唯一の手段だ。

強制的に国を追い出された難民たちの通信接続性を重視したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、2016年にConnectivity for Refugees(難民のための接続性)イニシアチブを立ち上げた。これは、難民のためのインターネット接続の権利を支援するもので、難民へのデータ通信サービス提供の交渉、デバイスの購入援助、インターネット接続センターの設置、スマートフォンをフルに活用できるようにする訓練の提供などを行っている。開始から2年が経った今、UNHCRでは人員を増やし、先行して支援を行なっていた国々に加えて、ヨルダン、ギリシャ、チャド、マラウィ、タンザニア、ウガンダでも接続支援の計画を展開する予定だ。

難民の援助に力を入れるスタートアップもある。コロンビアで建築学を学ぶ2人の学生、Anna StorkとAndrea Sreshtaは、LuminAidを共同設立した。そこで彼らは、太陽電池で充電ができ、照明としても使える携帯電話用充電器PackLite Max 2-in-1を開発し、難民たちに無料で配っている。難民の収入の3分の1がインターネット接続のために費やされていると見積もったUNHCRは、難民たちが無料でデータ通信ができるよう、Phone Credit for Refugees(難民のための電話代クレジット)プログラムを開始した。そのほかにも、GeeCycleのように、世界中から中古のスマートフォンを回収して、紛争地帯から逃れてきた難民たちに配っている団体もある。

デマとの戦い

無料Wi-Fiや充電などのサービスを提供するRefugee Aid Miksališteの外では、セーブ・ザ・チルドレン・セルビアなどのNGOが活動している(写真:Ziad Reslan)

しかしスマートフォンは、難民の旅を良いものにするばかりではない。ソーシャルメディアの匿名の情報源に依存すれば、彼らの弱みに付け込んだ人身売買業者などの悪質な連中のもとに導かれてしまう恐れもある。親戚から入手した情報でさえ、結果的に間違っていたということもあり、悲惨な結果を招きかねない。

セーブ・ザ・チルドレン・セルビアの権利擁護マネージャーJelena Besedicは、アフガニスタンからバルカン諸国へ保護者なしに旅をする子どもが増えている原因に、デマがあると話している。セルビアで足止めを食っている、8歳ほどの幼い子どもたちの親は、子どもが無事に西ヨーロッパに入れたなら、親を呼び寄せる資格がもらえるという偽情報を信じていた。

難民の旅を楽にするという類のデマは、難民たちをどんどん危険な方向に導いてしまう。その結果は、目的地に到着したときに現実を知らされて絶望するだけだ。こうした偽情報に対処しようと、国際移住機関などの団体は、難民を送り出す国々に対して、西欧諸国へ旅立つことの危険性を周知させる情報キャンペーンを開始した。さらに、ハンガリーやイタリアのような国粋主義的な傾向を増している国々は、難民のスマートフォンに向けて、まずは自国に来ないように忠告するテキストメッセージを発信している。

難民が家族から感じる圧力は、ずっと以前からあっただろうが、スマートフォンを使うようになってからは、その圧力にひっきりなしに晒されることとなった。セルビアとハンガリーの国境地帯で足止めされているNashidは、パキスタンからフランスまでの約6500キロメートルにも及ぶ旅の途中で自分がどんな目に遭うかを知っていれば、決して出発しなかったと振り返っている。しかし、パキスタンにいた間も、パリの従兄弟から、とても簡単に入国できたこと、フランスには仕事がたくさんあることなどを伝えるメッセージが止むことなく送り続けられていた。そして、Nashidがパキスタンを出発すると、今度は妻と2人の子どもから、パリに着いたかどうかを絶え間なく尋ねられるようになった。そのため、故郷に帰るという考えを捨てざるを得なくなった。

この会話の最後に、Nashidは、WhatsAppで彼が知った噂の真偽を私に尋ねてきた。スマートフォンのバッテリーを100時間まで持たせることができる個人用のポータブル充電器があるというのは本当なのか? と。そんな充電器があれば、コンセントから何キロメートルも離れたこの場所で暮らす自分の人生が変わると、彼は語気を強めていた。

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(翻訳:金井哲夫)

医師が患者とグローバルな医療システムに求めるデジタル療法

[著者:Meri Beckwith]
Oxford Capitalの投資家であり、イギリスでシードおよびシリーズAのベンチャー投資を行っている。デジタル医療、交通と消費者ブランドの未来に力を入れている。

デジタル製品が、最終的に私たちの健康によいインパクトを与えているかどうかは、難しい問題だ。ほとんどのものが、スロットマシンと同じようにドーパミンを放出させるよう作られている。夢中になるように設計されたゲームにはまって少年期を無駄に過ごしてしまった人の話は、みんなも聞いているとおりだ。そしてWHO(世界保健機構)は、ビデオゲーム中毒は精神疾患であると認定するに至った。

しかし、こうした中毒を生むデジタル製品のパワーは、疾病や健康障害を招く習慣を変え、病気の治療を行う方向にも利用できる。このような新しいタイプの製品は、一般に「デジタル療法」と呼ばれるようになってきた。こうしたアプリやサービスは、根拠に基づく、または個人ごとの行動療法を提供し、糖尿病や孤独、またはその中間の状態まで、幅広い疾病や体調に対応できる。

従来式の治療法の開発は大変に困難であるため、同類の次なる超大型の処置法や治療法がデジタル療法の分野から現れ、それがどんどん増えている。低コスト、汎用性、開発の早さといった特徴のおかげで、デジタル治療は、病に苦しむ無数の人たちや経営に窮する医療システムに変革をもたらす可能性があるのだ。

私はイギリスに住み働いているので、この記事ではNHS(英国国民健康保険)を何度も引き合いに出すが、個別支払い方式であっても、価値に基づく医療(バリューベース・ヘルスケア)であっても、同じように恩恵は受けられる。

患者にとってのデジタル療法

幅広いスタートアップが登場することで、デジタル療法に力が与えられ、患者や医療機関が今日直面している大きな問題が解決に向かいことが期待できる。しかも、デジタル療法は有効であるという証拠も出ている。

食事や生活習慣によって生じる2型糖尿病は、英国内科医師会が「21世紀の災難」と呼んできた。それを裏付けるように、NHSは、2型糖尿病の治療のために年間1200万ポンド(約176億円)を支出している。これはNHSの予算の1割に相当する。しかし、多くの場合、生活習慣を変えるだけでも十分な予防効果があり、治療にも役立つ。OurPathは、まさにそれを行うためのデジタルプログラムを作成した。最近の調査によれば、参加者は平均7.5キログラムの減量に成功し、2型糖尿病患者の病状改善に十分な効果があったという。

もうひとつの先駆者であるQuitGeniusは、アプリ利用者の36パーセントに完全な禁煙を成功させた。自力で禁煙できた人は、喫煙者のわずか3パーセントに過ぎない。喫煙は、社会全体の健康にとって、また世界の医療システムにとって大きな重荷だ。イギリスだけでも、喫煙はあらゆる死亡原因の16パーセントを占めている。

 

4人に1人が
精神的に病んでいる今、
精神的な健康に
気を遣うことも
私たち全体の利益になる。

 

精神状態がよくない人には、デジタル心理療法の先駆者であるlesoがある。彼らは、認知行動療法などの通常の治療法では、メッセージングアプリなどを使ったデジタルな方法のほうが、人が行うよりも効果が高いと主張している。

しかし、4人に1人が精神的に病んでいる今、精神的な健康に気を遣うことも私たち全体の利益になる。新規参入のHelloSelfは、私たち全員が、最高の自分になれるよう支援してくれる。その方法は、まずセラピストとデジタルにつながり、AI人生コーチを構築して何が自分をいちばん幸せにするかを深く理解させ、精神的健康の改善のために何をすべきかを提案するというものだ。

他にも、Soma AnalyticsUnmindSilverCloudといった企業が、もっともストレスを感じる環境である職場での精神的な健康を支えてくれている。これらの企業が提供する製品は、3つの勝利をもたらした。従業員のストレスレベルを低減し、雇用主のためには生産性を向上し、公的医療機関の負担を減らしている。

デジタル療法は、過敏性腸症候群のような複雑な症状にも最適に対処できる。この症状に悩む人は8億人おり、その60パーセントが鬱や不安を感じている。これまでは、食事制限や抗うつ剤の投与など、不完全な対策しかとられてこなかった。Bold Healthなどの企業は、データに基づく個別の治療法を用いて結果を出そうとしている。また、催眠療法を過敏性腸症候群の治療法も先進的に導入している。

私たちの医療システムはデジタル療法を求めている

従来型の療法を市場に出すまでの費用は、飛躍的に高額になっている。詳しくはEroom’ Lawに書かれているが、端的に言えば、新薬の開発費用は1950年以来、9年ごとに倍になっている。長期にわたる検査と臨床試験を行っても、その薬が予想通りの結果をもたらすとは限らない。はっきり言って、まったく効かないこともあるのだ。

 

新薬を市場に出すためには
14年間の歳月と
25億ドルの経費がかかる。

 

さらに、医療システムは人口増加と経費削減の重圧にさらされている。もちろん、イギリスにおいてもこれは事実だ。

こうした事情に対して、デジタル療法は素晴らしいソリューションとなる。開発費は比較的安い。上に掲げた企業はみな、製品開発にかけた費用は500万ドル(約5億6000万円)以下だ。従来型医療の経費とは対照的だ。現在、新薬を市場に出すためには平均して14年間の歳月と25億ドル(約2800億円)の経費がかかる。

デジタルに供給する方式なら、治療効果や有効性のデータ収集、練り直し、微調整が容易になり、人よって治療法を変えることも可能になる。結果的にどれほど節約できるかを数値化することは難しいが、医療コンサルタントのIQVIAの新しい報告によると、5つの疾病分野に現在使用可能なデジタル療法を採用した場合、NHSは1億7000万ポンド(約250億円)の節約ができるという(糖尿病だけでも1億3100万ポンド、約192億円の節約になる)。

デジタル療法の企業は、基本的に病院で支払う医療費の自己負担がないイギリスにおいてさえ、現在は消費者に直接製品を販売することで成功している。だが、その有効性が証明されたことで、NHSは、デジタル療法をどのように購入するか、どのように処方箋を書くかを「学び」始めた。このほどNHSは、App Library(現在はベータ版)を開設した。ここで消費者に、信頼できるデジタル療法のアプリを紹介している。また、医師が最良のデジタル療法を探し、患者に処方し、追跡できるプラットフォームAppScriptも開設し、イギリス全土の総合診療医に向けて展開している。

もし、彼ら自身がデジタル療法を開発していたなら、長期にわたる健康に関する独自のデータ(患者とその健康の長期にわたる状態のデータ)が蓄積されているNHSのような国の健康保険システムは、莫大な利益を得られたはずだ。

消費者たちは、デジタル療法に目を向け始めた。それにより人生がすでに変化しつつあることにも気がつき始めている。その有効性が証明されてゆくなかで、医療システム、とくにイギリスのNHSは、この新しい治療法モードに思い切って舵を切ることを、私は期待する。

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(翻訳:金井哲夫)

Duo Securityが高度に組織化されたツイッターのボットネットを発見

インターネットのセキュリティー関連商品とサービスを提供するDuo Securityの研究チームは、ツイッターで暗躍し暗号通貨の詐欺を働く高度なボットネットの存在を突き止めた。

このボットネットは、ツイッターのアカウントを自動的に識別する方法を開発し公開するための、さらにはボットやその活動について研究を掘り下げるための、大規模な研究プロジェクトの中で発見された。

研究チームは、Twitter APIと標準的なデータエンリッチ化技術を用いて、5億件以上のつぶやきを含む、一般のツイッター・アカウント8800万件分の大きなデータセットを作成した(ただし、研究のために焦点を当てたのは、アカウントごとの最後の200件のつぶやきだとのこと)。

そして彼らは、古典的な機械学習の手法を使って、ボット分類システムをトレーニングし、その後、十分な試行を重ねたさまざまなデータ科学技術を用いて、発見したボットネットの構造のマッピングと解析を行った。

他の研究者がバトンを引き継いで、研究を発展させられるよう、この研究資料とデータ収集システムはオープンソース化されている。たとえて言うなら、いいIDと悪いIDを自動的に見分ける研究などだ。

彼らが開発した分類システムの対象は、自動化と人の介在とを意図的に混合してボットであることを発見されにくくするハイブリット・アカウントではなく、純粋なボットだ。

この研究では、感情は問題にされていない。むしろ、ツイッター・アカウントがボットなのか人なのかという核心的な問題にフォーカスされている。

データセットには、たとえばカスタマーサービスのための、自動処理と人の対応との両方で運用されるツイッター・アカウントのような「サイボーグ」ハイブリッドが、わずかに混入している可能性は高いと彼らは話している。しかしそれでも、政治的な偽情報を排除するための国の施策で使われているような、さらにわかりづらいボットと人のハイブリッド・アカウントの特定には、とくに力を入れていなかった。

この研究によって、ボットネットの構造に関して、いくつか面白い分析結果が示された。論文によれば、彼らが発見した、少なくとも1万5000(「もっとずっと多いはず」)のボットで構成される暗号通貨詐欺ボットネットに関するケーススタディーも含まれているが、そのボットネットは、悪意ある「プレゼント」広告を使って、何も知らないユーザーから金を吸い上げようと試みるという。

「試みる」というのは正しい時制だ。なぜなら、ボットネットの発見をツイッター社に報告したにも関わらず、それはいまだにツイッター上で活動をしているからだ。合法的なツイッター・アカウントを装って報道機関を捲き込み(下の写真)、また、ずっと小さなスケールでは、認証されたアカウントを乗っ取っている。

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さらに彼らは、ツイッターのサイドバーにある「おすすめユーザー」で、他のスパムボットが推薦されているのことも発見している。これは痛い。

ツイッターの広報担当者は、プラットフォーム上でのボットやボットネットによる被害と現状認識に関する私たちの質問には答えようとしていない。そのため、こうした暗号通貨詐欺ボットネットをいまだに完全に駆除できない理由は、明らかになっていない。しかし、この研究に対する声明で、ツイッター社は、この種の自動化されたスパムは、同社のスパム対策によって自動的に検知され、隠されるようになっていると主張している(Duo Securityの研究者がTwitter APIを通じてアクセスが許されたデータには、それは反映されていない)。

ツイッター社はこう話している。

私たちは、こうした形の操作を認識しており、それらのアカウントが詐欺の目的でユーザーに関わろうとすることを予防するための、数々の検知システムを積極的に導入しています。スパムやある種の自動化システムは、ツイッターの規則に反します。多くの場合、スパム的なコンテンツは、自動検知によってツイッターには表示されないようになっています。しかし、ツイッターの検索や会話のエリアから、スパム的なコンテンツが非表示にされたとしても、APIを通したときの有効性には影響しません。つまり、ツイッター上では見えなくなっていても、APIを使えばスパムは見えてしまいます。スパム関連のアカウントは、ツイッター・アカウントの5パーセント以下に過ぎません。

ツイッター社の広報担当者はまた、すべてのボットや自動化システムが悪ではないと(当然ながら)強調している。彼女が示した最近の同社のブログ記事には、そのことが繰り返し語られていた。そこでは、たとえばPentametronのような一部のボットは「愉快で楽しい体験」をもたらすと紹介している。Pentametronは、たまたま弱強五歩格の形式に書かれた韻を踏むつぶやきの組みを見つけ出して詩を作るという、古くからある自動システムだ。

普通の神経の持ち主なら、シェークスピアが愛した韻文のオマージュを作る自動システムを悪く思うことはないだろう。しかし同時に、普通の神経の持ち主なのに、ツイッター上で続けられる暗号通貨詐欺という害悪を悪く思っていないのか……。

ひとつだけ、はっきりしている。「ボットか否か」という質問に答えるという難しい仕事は重要であり、オンライン詐欺の武器化を考えると、これからますます大切になるということだ。これは非常に政治色が強く、必要不可欠な戦いになる可能性があるため、あらゆるアカウントに「ボット度」を示す必要が出てくるかも知れない(これを行うかどうかについては、ツイッター社の広報担当者は答えてくれなかった)。

ツイッターの自動化システムを特定する方法や技術の研究はすでに行われていても、Duo Securityの研究チームは、それを支援するデータが周囲にないことに不満を感じると言う。しかし、それが彼らに研究を続けさせる推進力にもなっている。

「不完全なケースもありました」とデータ科学者のOlabode Aniseは話す。「彼らが使用したと主張しているデータを、どこで入手したかを明らかにできないのです。彼らはおそらく、結論からスタートしたのでしょう。結論から入る研究は少なくありません。私たちは、この研究を自分たちのものにして引き継いで欲しいと考えています。だから、私たちの手法やツールをオープンソースにしているのです。そうすれば、みんな一から始めることができる。まずはデータを集め、モデルをトレーニングして、それからツイッター上のボットを局所的に発見できるようになるのです」

「私たちは特別なことも、大発明もしたわけではありません」と彼は言う。「私たちは、公的なツイッター・アカウントに関連する最大クラスのデータセットを作り上げたという確信があったので、飛び抜けて大規模な研究ができたのです」

Aniseによると、彼らの分類モデルのトレーニングには、サザンカリフォルニア大学の研究室から提供された2016件のデータと、彼らが作った公的なつぶやきのデータセットを探っている間に発見した暗号通貨詐欺ボットネットのデータの一部も、使われているという(なぜなら、彼によるとこのボットネットは「折り紙付きの自動化システム」だからだ。暗号通貨詐欺も、良いことをしたわけだ)。

分類モデルの精度に関して、ツイッター上にどれだけのボットが存在するかを示すデータが常に足りない部分が「難点」だとAniseは言う。

ツイッター社は知ってると想像する(あるいは期待する)人もいるだろう。少なくとも見積もることはできるのではないか。しかし、どちらにせよ、ツイッター社はその情報を公開していない。つまり、公的なつぶやきデータに対して、「ボットか否か」モデルの精度を確かめることは、研究者にとって困難だということだ。そのため彼らは、ラベリングしたボットアカウントによる(小さな)データセットを使った分類モデルの照合に頼らざるを得ない。それゆえ、その精度がどれほどの精度でわかるかは、ボット発見とはまた別の問題となる。

Aniseは、「他のタイプのアカウントを正確に特定する」場合、彼らの最良のモデルは、照合による検査で98パーセント止まりだったと話してる(つまり、8800万件の完全なデータセットを使用した検査ではないので「そのアカウントがボットなのか違うのかを、誰でも簡単にわかる方法というものがないのです」と彼は言う)。

それでも研究チームは、「現実的なデータ科学技術」と彼らが名付けた方法を使った彼らのやり方が、いつか実を結び、ツイッターのボットを検知する効果的な分類モデルが実現すると、自信を持っているようだ。

「基本的に私たちが示したものは、実際これが私たちの本当の目的だったのですが、誰でもチュートリアルを見て、そのとおりにやれば機械学習を使ってボットを確実に特定できる、シンプルな機械学習の手法があるというです」と彼は言う。

もうひとつ、小さな問題がある。モデルがトレーニングに使っているボットが、ツイッター上にあるすべての自動化システムではないということだ。それが精度にも影響すると彼は認めている(「自分が作ったモデルの性能は、自分が持っているデータの内容を超えることができない」というやつだ。ここでまた、最良のツイッターのデータを持っている人は、みなツイッター社にいるという問題に突き当たる)。

彼らの論文に記されている暗号通貨詐欺ボットのケーススタディーは、注目を集めるためだけのものではない。それには、他の研究者たちが、彼らが説明するツールと技術を使って、最初のボットを見つけ出すところから、元をたどって正体を暴き、ボットネット全体を消滅させるところまで研究を発展させられるようにする狙いがあった。

そこで彼らは、ツイッターのボットネット探しのための「ハウツー」ガイドを製作した。

彼らが研究のためにソーシャル・ネットワーク・マッピングを使用して分析した暗号通貨詐欺ボットネットは、論文では「ユニークな三段の階層構造」を持つと記されている。

「これまで発見されたツイッターのボットネットは、大抵がフラットな構造をしており、各ボットは、ボットネットの中で同じ仕事をしていました。それらはみな、特定のタイプのつぶやきを広めるか、特定のタイプのスパムをばら撒きます。通常、仕事を分担したり、部署に分かれたボットネットは希です」とセキュリティー・エンジニア主任のJordan Wrightは説明している。

「このボットネットは、誰をフォローしたか、誰がフォローしているかを知るために、別のボットとのソーシャル・コネクションのマッピングを始めると、ボットはある特定の方法でつながり、ひとつのクラスターはまた別の方法でつながっているという、非常に明確な構造を示すのです」

「これは、ボットを組織化させてゆく戦略を、ボットの持ち主がどのように変更しているかを知るために重要なことです」

彼らはまた、そのボットネットから発せられるつぶやきのスパムが、互いにボットネットの中で拡散されて、全体的な暗号通貨詐欺が増幅される仕組みになっていることも発見した。Wrightによると、これは「人工膨張」のプロセスだと説明している。そしてこれは、ボットネットの持ち主が、「いいね」をしたり、後に詐欺スパムをつぶやくという単独の機能を持つ新しいボットを作るときに役立つとのことだ。

「目的は、それらに人工的な人気を与えることです。もし私が被害者で、ツイッターをスクロールして見ていたとします。そしてそのボットのつぶやきに出会ったとき、リツイートやいいねの数の多さから、これは合法的なアカウントだと判断してしまうといういう仕組みです」と彼は言う。

「いいね同士のつながりや、私たちが集めたソーシャル・ネットワークをマッピングしてみると、そこに現れるのは多層構造のボットネットです。非常に独創的で、非常に洗練されていて、非常に組織的です。各ボットには、より大きな目的の達成を支えるための、たったひとつだけの仕事が与えられています。それがこのボットネットのユニークな点です」

ツイッターは、このところ大量の変更を行っている。プラットフォーム上での、より高い信ぴょう性や権威をボットに持たせるためにスパム犯が仕掛ける不正な活動を閉め出すためだ。

しかし、ツイッター社には、まだまだやるべきことがあることは確かだ。

「それが洗練されていると思うのには、非常に現実的な理由があります」と、チームがケーススタディーで紹介した暗号通貨詐欺ボットネットについて、Wrightは話す。「それは動いているからです。時間を追うごとに進化し、構造を変化させています。その構造には階層があり、組織化されています」

 

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(翻訳:金井哲夫)

フェイスブックを超える大きなデジタルドリーム「オープンブック」

大手ソーシャル系技術企業は、自身の強力なプラットフォームが持つ特性と、的確な舵取りと価値の創出に失敗したこと(自ら設定したと主張する規定にすら準拠できていないことが明らかになっている)の結果の両方によって生じたと反社会的な魔物と格闘を続けているが、それでも、よりよい方法があると夢見ている人たちがいる。人の怒りを食べて成長する広告技術の巨人、フェイスブックやツイッターを超えるソーシャルネットワークだ。

もちろん、「よりよい」ソーシャルネットワークを作る試みは数多くあったが、そのほとんどは沈没している。成功や利用度には差があるものの、今でも使われているものもある(スナップチャット、エロー、マストドンの3つは元気だ)。だが当然ながら、ザッカーバーグの王座を強奪できる者はいない。

その原因は、そもそもフェイスブックがイスンタグラムとワッツアップを買収したことにある。フェイスブックはまた同様に、自分たちよりも小さな成功の芽を持つライバル企業を買収して潰している(tbh)。そうやって、ネットワークのパワーと、そこから流れ出るリソースを独占することで、フェイスブックはソーシャルの宇宙に君臨している。それでも、もっと良いものを想像する人々の気持ちは止められない。友だちが作れて、社会に大きな影響を与えることができる、倫理的に優れ、使いやすいプラットフォームだ。

そんな、二面性のある社会的使命を持った最新の夢想家を紹介しよう。オープンブック(Openbook)だ。

彼らの理想(今はそれだけなのだが、自己資金で立ち上げた小さなグループと、宣言と、プロトタイプと、間もなく終了するキックスターター・キャンペーンと、そしてそう、希望に満ちた大志がある)は、ソーシャルネットワークを再考して、複雑で不気味なものではなく、より親しみやすく、カスタマイズができるオープンソースのプラットフォームを作ることだ。

営利目的のプラットフォームとしてプライバシーを守るという彼らのビジョンは、常に利用者を監視する広告やトラッカーは使わず、公正な料金設定(そしてプラットフォーム上で通用するデジタル通貨)によるビジネスモデルに立脚している。

彼らの中核にある考え方は、とくに新しいものではない。しかし、巨大プラットフォームによる大量にして目に余るデータの不正利用にさらされていると、その考え方が理にかなっていると思えるようになる。そのため、おそらくここではタイミングがもっとも重要なエレメントになる。フェイスブックは、度重なる舵取りの失敗、知覚評価の低下、さらに退陣する幹部役員のなかの少なくとも一人が、人を操作することに長け倫理に無関心であることから営業哲学が攻撃されるなど、これまでにない厳しい調査にさらされ、利用者数の伸び悩み知覚価値の低下を招いている。

より良い方向を目指すオープンブックのビジョンは、Joel Hernández(ジョエル・ヘルナンデス)が描いたものだ。彼は2年間ほど夢想を続けている。他のプロジェクトの傍らでアイデアのブレインストーミングを行い、周囲の似た考えを持つ仲間と協力して、彼は新しいソーシャルネットワークの宣言をまとめた。その第一の誓いは、正直な関与だ。

「それから、データスキャンダルが起きて、繰り返されるようになりました。彼らはチャンスを与えてくれたのです。既存のソーシャルネットワークは、天から与えられたものでも、不変のものでもありません。変えたり、改良したり、置き換えることができるのです」と彼はTechCrunchに話してくれた。

Hernándezによるとそれは、ちょっと皮肉なことに、昼食時に近くに座っていた人たちの会話を聞いたことから始まった。彼らは、ソーシャルネットワークの悪い点を並べ立てていたのだ。「気持ち悪い広告、ひっきりなしに現れるメッセージや通知、ニュースフィードに何度も表示される同じコンテンツ」……これに推されて、彼は宣言文を書いた紙を掴み取り、新しいプラットフォームを実際に作ろうと(というか、作るための金策をしようと)決意した。

現在、この記事を執筆している時点では、オープンブックのキックスターター・キャンペーンのクラウドファンディングは残り数日となったが、集まっているのは(控えめな)目標額の11万5000ドル(約1270万円)の3分の1程度だ。支援者は1000人をわずかに超える程度しかいない。この資金集めは、ちょっと厳しいように見える。

オープンブックのチームには、暗号文の神と呼ばれ、メール暗号化ソフトPGPの生みの親として知られるPhil Zimmermann(フィル・ジマーマン)も加わっている。開始当初はアドバイザーとして参加していたが、今は「最高暗号化責任者」と呼ばれている。そのときが来れば、プラットフォームのために彼がそれを開発することになるからだ。

Hernándezは、オランダの電気通信会社KPNが内部的に使うためのセキュリティーとプライバシー保護用のツールをZimmermannと一緒に開発していたことがある。そこで彼はZimmermannをコーヒーに誘い出して、彼のアイデアに対する感想を聞いたのだ。

「私がオープンブックという名前のウェブサイトを開いた途端、これまで見たことがないくらいに彼の顔が輝いたのです」とHernándezは話す。「じつは、彼はフェイスブックを使おうと考えていました。家族と遠く離れて暮らしていたので、フェイスブックが家族とつながるための唯一の手段だったのです。しかし、フェイスブックを使うということは、自分のプライバシーをすべて捧げるということでもあるため、彼が人生をかけてきた戦いで負けを認めることになります。だから、彼はフェイスブックを使いませんでした。そして、実際の代替手段の可能性に賭けることにしたのです」

キックスターターの彼らのキャンペーンページに掲載された動画では、Zimmermannが、営利目的のソーシャルプラットフォームの現状について彼が感じている悪い点を解説している。「1世紀前は、コカコーラにコカインが含まれていて、私たちはそれを子どもに飲ませていました」とZimmermannは動画の中で訴えている。「1世紀前の私たちの行動はクレイジーです。これから数年先には、今のソーシャルネットワークを振り返って、私たちが自分自身に何をしていたのか、そしてソーシャルネットワークで互いに傷つけ合っていたこと気づくときが来るでしょう」

「今あるソーシャルネットワークの収益モデルに代わるものが、私たちには必要です」と彼は続ける。「深層機械学習のニューラルネットを使って私たちの行動を監視し、私たちをより深く深く関わらせようとするやり方を見ると、彼らがすでに、ユーザーの関わりをさらに深めるものは、激しい憤り以外にないと、知っているかのようです。そこが問題なのです」

「こうした憤りが、私たちの文化の政治的な対立を深め、民主主義制度を攻撃する風潮を生み出します。それは選挙の土台を崩し、人々の怒りを増長して分裂を拡大させます。さらに、収益モデル、つまり私たちの個人情報を利用する商売で、我々のプライバシーが破壊されます。だから、これに代わるものが必要なのです」

Hernándezはこの4月、TechCrunchの情報提供メールに投稿してくれた。ケンブリッジ・アナリティカとフェイスブックのスキャンダルが明るみに出た直後だ。彼はこう書いていた。「私たちは、プライバシーとセキュリティーを第一に考えたオープンソースのソーシャルネットワークを作っています」と。

もちろん、それまでにも似たような宣伝文句は、ほうぼうから聞かされていた。それでも、フェイスブックは数十億という数の利用者を集め続けていた。巨大なデータと倫理のスキャンダルにかき回された今も、利用者が大挙してフェイスブックから離れることは考えにくい。本当にパワフルな「ソーシャルネットワーク」ロックイン効果だ。

規制は、フェイスブックにとって大きな脅威になるだろうが、規制を増やせば、その独占的な地位を固定化することになるだけだと反対する人もいる。

オープンブックの挑戦的なアイデアは、ザッカーバーグを引き剥がすための製品改革を敢行することにある。Hernándezが呼ぶところの「自分で自分を支えられる機能を構築すること」だ。

「私たちは、プライバシーの問題だけで、今のソーシャルネットワークから多くのユーザーを引きつけることは不可能だと、率直に認めています」と彼は言う。「だから私たちは、もっとカスタマイズができて、楽しくて、全体的なソーシャル体験ができるものを作ろうとしているのです。私たちは既存のソーシャルネットワークの道を辿ろうとは思っていません」

この夢のためであったとしても、データの可搬性は重要な材料だ。独占的なネットワークから人々を乗り換えさせるには、すべての持ち物とすべての友だちをそこに残してくるよう言わなければならない。つまり、「できる限りスムーズに移行ができるようにする」ことが、もうひとつのプロジェクトの焦点となる。

Hernándezは、データ移行のためのツールを開発していると話している。既存のソーシャルネットワークのアーカイブを解析し、「そこに自分が持っているものを開示し、何をオープンブックに移行するかが選べる」ようにできるというものだ。

こうした努力は、欧州での新しい規制が助力になっている。個人情報の可搬性を強化するよう管理者に求める規制だ。「それがこのプロジェクトを可能にしたとは言わないけど……、以前の他の試みにはなかった特別なチャンスに恵まれました」とHernándezはEUのGDPR(一般データ保護規制)について話していた。

「それがネットワーク・ユーザーの大量移動に大きな役割を果たすかどうか、私たちには確かなことは言えませんが、無視するにはあまりにも惜しいチャンスです」

製品の前面に展開されるアイデアは豊富にあると、彼は話している。長いリストを広げるように教えてくれたものには、まず手始めに「チャットのための話題ルーレット、インターネットの課題も新しいコンテンツとして捉え、ウィジェット、プロフィールアバター、ARチャットルームなど」がある。

「馬鹿らしく思えるものもあるでしょうが、これはソーシャルネットワークに何ができるかを見極めるときに、現状を打破することが狙いなのです」と彼は付け加えた。

これまでの、フェイスブックに変わる「倫理的」なネットワーク構築の取り組みが報われなかったのはなぜかと聞くと、みなが製品よりも技術に焦点を置いていたからだと彼は答えた。

「今でもそれ(失敗の原因)が支配的です」と彼は示唆する。「舞台裏では、非常に革新的なソーシャルネットワークの方式を提供する製品が現れますが、彼らは、すでにソーシャルネットワークが実現している基本的な仕事をするための、まったく新しい技術の開発にすべての力を注ぎます。数年後に判明するのは、既存のソーシャルネットワークの機能にはまだまだ遠く及ばない彼らの姿です。彼らの中核的な支持者たちは、似たような展望を示す別の取り組みに乗り換えています。そしてこれを、いつまでも繰り返す」

彼はまた、破壊的な力を持つ取り組みが消えてしまうのは、既存のプラットフォームの問題点を解決することだけに集中しすぎて、他に何も生み出せなかった結果だと推測している。

言い換えれば、人々はそれ自身が大変に面白いサービスを作るのではなく、ただ「フェイスブックではないもの」を作ろうとしていたわけだ(しかし最近では、スナップが、フェイスブックのお膝元で独自の場所を切り開くという改革を成し遂げたことを、みなさんもご存知だろう。それを見たフェイスブックがスナップの製品を真似て、スナップの創造的な市場機会を潰しにかかったにも関わらずだ)。

「これは、ソーシャルネットワークの取り組みだけでなく、プライバシーを大切にした製品にも言えます」とHernándezは主張する。「そうしたアプローチが抱える問題は、解決した問題、または解決すると宣言した問題が、多くの場合、世間にとって主流の問題ではないということです。たとえば、プライバシーがそうです」

「その問題を意識している人にとっては、そうした製品はオーケーでしょう。しかし、結局のところ、それは市場のほんの数パーセントに過ぎません。この問題に対してそれらの製品が提供する解決策は、往々にして、人々にその問題を啓蒙することに止まります。それでは時間がかかりすぎます。とくに、プライバシーやセキュリティーの問題を理解させるのは、そう簡単ではありません。それを理解するためには、技術を使いこなすよりも、ずっと高度な知性が必要になります。それに、陰謀説論者の領域に入って実例を挙げなければ、説明が困難です」

そうして生まれたオープンブックの方針は、新しいソーシャルネトワークの機能や機会を人々に楽しんでもらうことで、そしてちょっとしたおまけとして、プライバシーが侵害されず、連鎖的に人の怒りの感情に火をつけるアルゴリズムも使わないことで、世の中を揺さぶろうというものとなった。

デジタル通貨に依存するビジネスモデルも、また別の課題だ。人々に受け入れてもらえれるかは、わからない。有料であることが、すなわち障害となる。

まずは、プラットフォームのデジタル通貨コンポーネントは、ユーザー同士の不用品の売り買いに使われると、Hernándezは言っている。その先には、開発者のコミュニティーが持続可能な収入を得られるようにしたいという展望が広がっている。すでに確立されている通貨のメカニズムのおかげで、ユーザーが料金を支払ってコンテツにアクセスしたり、(TIPSを使って)応援したりできる。

つまり、オープンブックの開発者たちが、ソーシャルネットワーク効果を使い、プラットフォームから発生する直接的な支払いの形で利益が得られるという考えだ(ユーチューブのクリエイターなど、広告料金にだけ依存する形とは違う)。ただしそれは、ユーザーがクリティカルマスに達した場合だ。当然、実に厳しい賭けとなる。

「既存のソリューションよりも経費が低く、素晴らしいコンテンツ制作ツール、素晴らしい管理機能と概要表示があり、コンテンツの表示方法が細かく設定でき、収入も安定して、予測が立てやすい。たとえば、毎月ではなく、5カ月に一度といった固定的な支払い方法を選んだ人には報償があるとか」と、現在のクリエイターのためのプラットフォームと差別化を図るためのアイデアを、Hernándezは並べ立てた。

「そんなプラットフォームが完成して、人々がその目的のためにTIPSを使うようになると(デジタルトークンの怪しい使い方ではなく)、能力が拡大を始めます」と彼は言う(彼はまた、計画の一部としてデジタル通貨利用に関するその他の可能性についてMedium誌に重要な記事を書いている)。

この初期のプロトタイプの、まだ実際に資金が得られていない段階では、彼らはこの分野での確実な技術的決断を下していない。誤って反倫理的な技術を埋め込んでしまうのも怖い。

「デジタル通貨に関しては、私たちはその環境への影響と、ブロックチェーンのスケーラビリティーに大きな不安を抱えています」と彼は言う。それは、オープンブックの宣言に明記されたグリーンな目標と矛盾することになり、収益の30パーセントを「還元」プロジェクトとして、環境や持続可能性への取り組み、また教育にも役立てるという計画を、絵空事にしてしまう。

「私たちは分散化した通貨を求めていますが、じっくり調査するまでは早急に決めるつもりはありません。今はIOTAの白書を研究しているところです」と彼は言う。

彼らまた、プラットフォームの分散化も目指している。少なく部分的には分散化させたい考えだ。しかしそれは、製品の優先順位を決める戦略的決断においては、第一の焦点ではない。なので、彼らは(他の)暗号通貨コミュニティーからファンを引き抜こうとは考えていない。もっとも、ターゲットを絞ったユーザーベースのほうがずっと主流なので、それは大きな問題にはならない。

「最初は、中央集権的に構築します。そうすることで、舞台裏を支える新技術を考え出す代わりに、ユーザー・エクスペリエンスと機能性の高い製品の開発に集中できます」と彼は言う。「将来は、特別な角度から、別のもののための分散化を目指します。アプリケーションに関することで言えば、回復機能とデータ所有権です」

「私たちが注目しているプロジェクトで、私たちのビジョンに共通するものがあると感じているものに、Tim Berners LeeのMIT Solidプロジェクトがあります。アプリケーションと、そこで使われるデータを切り離すというものです」と彼は話す。

それが夢なのだ。この夢は素晴らしくて正しいように思える。課題は、独占的なプラットフォームの権力によって競争の機会が失われ、別のデジタルな現実の可能性を信じられる人がいなくなったこの荒廃した市場で、十分な資金と幅広い支援を獲得することだ。これを「信念の価値」と呼ぶ。

4月上旬、Hernándezはオープンブックのオンライン・プライバシーに関する説明と、技術コミュニティーから意見を聞くための簡単なウェブサイトへのリンクを公開した。反応は、予想どおり悲観的なものだった。「返事の90パーセントは批判と、気持ちが折れるような言葉で占められていました。夢を見ていろとか、絶対に実現しないとか、他にやることはないのか、とかね」と彼は話す。

(米議会の公聴会で、独占していると思うかと尋ねられたザッカーバーグは、「自分ではそんなつもりはない!」とはぐらかした)

それでも、Hernándezは諦めていない。プロトタイプを作り、キックスターターで資金を募っている。ここまで辿り着いた。そしてもっともっと作ろうと思っている。しかし、より良い、より公正なソーシャルネットワークが実現可能だと信じる人を必要な数だけ集めることは、何よりも厳しい挑戦だ。

しかしまだ、Hernándezは夢を止めようとはしない。プロトタイプを作り、キックスターターで資金を集めている。ここまで辿り着いた。もっともっと作りたいと彼は考えている。しかし、より良い、より公正なソーシャルネットワークの実現が可能だと信じる人たちを十分な数だけ集めることは、これまでになく大変な挑戦となる。

「私たちはオープンブックを実現させると約束しています」と彼は言う。「私たちの予備の計画では、補助金やインパクト投資なども考えています。しかし、最初のバージョンでキックスターターを成功させることが一番です。キックスターターで集まった資金には、イノベーションのための絶対的な自由があります。紐付きではありませんから」

オープンブックのクラウドファンディングの詳しい説明は、ここで見られる

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(翻訳:金井哲夫)

メッセージアプリだけで成功した高級品専門店Threadsが22億円の投資金を獲得

eコマースの市場と聞いてまず思い浮かべるのが、ウェブサイト上に作られた店舗やアプリだろう。しかし今、そのどちらも持たずに、また今後持つ予定もなく、多額の現金を集めて、商品の販売活動を行なっているスタートアップがある。彼らが使っているのは、その成長の原動力でもあるプラットフォーム、「メッセージアプリ」だ。

ロンドンを拠点とするThreadsは、おもに裕福なミレニアム世代の女性を対象にした、その人に合った高級ファッションを厳選して薦めるサービスに、2000万ドル(約22億円)の資金を調達した。彼らは、ウィーチャットワッツアプスナップチャットインスタグラム、アップルのアイメッセージといったサービスを主要な販売窓口として使い、AIではない、人間によるショッピング・アシスタントのチームに顧客対応をさせている。

「私たちは、とくに意識して、顧客のためのウェブサイトを作りませんでした。同様に、アプリも作りませんでした」とCEOのSophie Hillはインタビューに応えて話している。「Threadsの背景にあるのは、キュレーションと利便性です。顧客中心のビジネスなので、顧客が望む場所、そして顧客が望む方法で取り引きが行えるチャットで構成されています。チャットの使い方は、2010年当時から変わっているかも知れませんが」(2010年に同社は創設されている)「そこが私たちの企業努力の結果です。私たちとビジネスの両方にとって便利なように、私たちは新しい物を作るのではなく、チャットを使って顧客サービスを行う方法に磨きをかけたのです」

同社は、新しい資金を投入する予定だと言う。出資者は、ファッションとミレニアル世代に特化して投資を行うC Venturesと、Matchesfashionなどのファッション関連業者にも投資を行なっているHighland Europeだ。この資金を使って、同社はさらに多くのスタイリストとエンジニアを雇い、事業がよりスムーズに進行するよう技術を構築し、事業全体を拡大したいと考えている。また、すでにいる90名の社員に加えて、クリエイティブ系やその他のスタッフも増強することにしている。しかし、この投資以前でも、Threadsは目覚ましい成長を続けてきた。

顧客は100以上の国に広がり、その70パーセントは35歳以下。とくに成長が早い地域はアジアだ。Threadsによると、一人の顧客の一回の取り引き(買い物かごひとつ分)の額は、平均3000ドル(約33万円)と高額だ。高額な商品と、それを求める顧客とを結びつけるビジネスに成功したことで、デザイナーや、ディオール、フェンディ、ショパールの他、250の高級ブランドとのつながりを強め、ブランドを代表する目玉商品の提供を得られるようになった。商品が売れると、Threadsはそのメーカーから手数料を受け取る形になっている。

創設者でCEOのSophie HillがTopshopの親会社Arcadiaで、大学(社会学を専攻)を出てすぐに働き始めたとき、Threadsの構想が具体化した。

時は2010年。メッセージアプリはまだ登場せず、今私たちが毎日使っているような機能が生まれるずっと前、インスタグラムも「ストーリー」も存在していなかったころ、Hillは、彼女がターゲットになると期待した人たちの意見を聞いて回る作業を始めた。するとその人たちは、携帯電話のメッセージング・クライアントを使ったチャットに熱中していることがわかった。

ウエストは、比較的使いやすかったが、Hillは、ウィーチャットが間もなくもたらすであろうものを見通していた。その当時、ウィーチャットは、かなり進んだ中国製のアプリで、すでに彼女がターゲットとする人たちが使っていたこともあり、そこにビジネスの構築に必要なものが十分に備わっていると確信できた。

Threadsのコストベースは、eコマースのスタートアップとしては異例なほどの低予算だった。

サイトもアプリもないので、開発チームはThreadsの特徴でもある販売方法、つまり、その人に合わせたコンシェルジュ式のサービスの改善に注力することができた。それは、顧客のために、より効率的に商品を追跡する技術の構築(ある地点でこれが実質的なチャットボットの形になるかも知れないと、Hillは話している)と、Threadsの顧客のために、特別な商品を探し出す助けとなる、より高性能な検索エンジンの構築を意味する。

Threadsの資金の使い方で、一般的なeコマース企業と大きく違っている分野には、もうひとつ、顧客獲得がある。Hillによれば、マーケティングにかけられる予算がほどんどなかった(「マーケティングを引っ張ってくれる人もいなかった」とのこと)。その代わりに、Threadsは、ユーザー間の口コミで成長し、その後は、インスタグラムなどのソーシャルメディア・プラットフォームの独自のコンテンツを介して、顧客の興味を惹くようになった。

一方、Threadsが平均的なeコマース企業よりも、数段多くの予算をつぎ込んでいると思われる部分に、顧客と製品とを結びつける方法がある。

このチャットを基本とするショッピングサービスは、たとえチャットから始まった関係であったとしても五つ星クラスの上質な対応を期待する顧客のために、広い世界を忙しく飛び回ることが大切だとHillは話している。そのため、Threadsは、街から街へとデザイナーに足を運ばせて、顧客に現物を見せたり、相手がどこにいようとも商品を手渡しするというサービスに定評がある。さらに顧客が、買い物やその他の用事で街を訪れたときに、実際に実店舗のブティックを開いて待つという対応も行なっている。

「これは顧客の要望と、高級品をどのように買いたいかという望みを満たすものです」と彼女は話す。

そこには、基本的にユーザーに仕える人のグループによって成り立つビジネスか、それを行うために技術を開発したビジネスかの違いがある。正直、とてもアナログな感じを受ける。しかし、Hillとその投資家たちは、Threadsの未来にはスケーラビリティーがあると確信している。技術はあくまでも、その成長を支えるものに過ぎない(最初にこのスタートアップが形になるときの助けになったのと同じことだ)。

「ウェブサイトやアプリがないからと言って、直接販売の道がないわけではありません」とHillは言う。「私たちは、それぞれの顧客に合わせたエクスペリエンスを提供するために技術を使うのです。技術と人の応対とを組み合わせて使うことで、高級品業界での究極のサービスが生まれます。私たちはこれを、個人のエクスペリエンスをより豊かなものにするための補完財だと考えています」

「技術は急速に進歩しています。私たちは、AIと、それをどのように統合すべきかを研究しようと考えています」と彼女は言う。「AIの応対と人の応対の間の、どのあたりで顧客は満足するのかが、それによってわかります。顧客がどのように反応するかを見るのは、私たちの役目です」

人間的な触れ合いを大切するところから立ち上がり、そこに高級ブティック型の利益幅を混合させたこの事業だが、その根幹には大人気の技術(メッセージング)があり、さらにその効率を高める、より多くの技術を導入する余地もある。それが、投資家たちの注目を集める要となっている。

「Threadsの顧客となる人たちは、こういう取り引きを好むのです」と、Highland Europeの共同出資者Tony Zappalaは話している。「Threadsも、その顧客も、どちらもどんどん対話を深めています。今のウェブサイトでは、実現がとても難しいことです」

Hillは何も語っていないが、Threadsの次なる目標は、ファッションやジュエリー以外にも、商品のカテゴリーを増やすことにあるはずだ。現在、市場の両面で、顧客に対してより身近なサービスを提供するために、オフィスを増やす予定がある。まずは、ニューヨークと香港がそのリストの載っている。

 

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(翻訳:金井哲夫)

「サービスとしてのロボット工学」で新ビジネスモデルを開拓するinVia Robotics

inVia Poboticsの面々は、ロボットを大量に販売するための、新しいビジネスモデルを構築する目指して会社を立ち上げたつもりではなかったのだが、それはまさに、彼らが今、行っていることなのかも知れない。

サザンカリフォルニア大学のロボット工学プログラムを卒業したLior Elazary、Dan Parks、Randolph Voorhiesの三人は、即座に人の注目を集められるアイデアを模索していた。

「私たちの目標は、すぐにでも経済的な意味を生み出せるものを立ち上げて、運用することにありました」と、同社の最高技術責任者Voorhiesはインタビューに答えて言っていた。

鍵となったのは、彼らが見てきた過去のロボットメーカーの失敗から教訓を学ぶことだった。

iRobotは早くから成功していたが、人と一緒に仕事を行う一般消費者向け、または協働ロボットは、大きな市場からの興味を惹くまでに至っていない。

 

 

ロボット工学業界のリーダーたちによって設立された伝説の企業Willow Garageは、Voorhiesとその仲間たちが卒業するころに事業を停止してしまった。有名なロボット研究企業のひとつ、Boston Dynamicsは、同じころグーグルに買収された。この検索エンジンの大手企業は、6カ月の間に浮かれ騒ぐように8つのロボット工学企業を買収している。

「その最中に、その様子を見ていた私たちは、おい、失敗したロボット工学企業がこんなにあるぞ! と話していました。そして、どうしてこんなことになるのかを、自分たちに問いかけました」とVoorhiesは振り返る。「私たちが見てきたハードウエア企業の多くは、こんな計画でやっていました。ステップ1:すごくクールなロボットを作る。ステップ3:アプリのエコシステムが発展して、人々がたくさんのアプリを制作するようになり、ロボットがめちゃくちゃ売れる。しかし、ステップ2をどうやるか。それは誰も知りませんでした。つまり、ロボットの商品化です」

そこで3人の共同創設者たちは、いち早く市場に打って出るためのアイデアを探した。

そして得られた考えは、高い移動で品物を運べるロボットの開発だった。「私たちは、移動式の6自由度のアームを開発しました」とVoorhies。

しかし、アームの製造は複雑で、部品代は高く、ロボットが使われる環境によっては、その順調な稼働を妨げる要素の種類が多すぎた。結局、彼らは、ロボット工学は、整備された特定の環境でこそ、大成功が叶うのだと気がついた。

「環境はあまりにも予測不能で、それに対応するには、やるべき仕事が手に負えないほど膨大になることが、すぐにわかりました」と彼は言う。

Parksがそこで、協働ロボットがもっとも楽に働ける、整備された環境を分析して、ホワイトペーパーを作成した。それを見れば、そうした環境は倉庫以外にないことが明らかだった。

 

 

2012年3月、アマゾンも同じ結論に達し、Kiva Systems7億7500万ドル(約850億円)で買収し、Kivaのロボット軍団を、世界中のアマゾンの倉庫と配送センターに展開した。

「Danは、Loiと私のためにホワイトペーパーをまとめてくれました」とVoorhiesは言う。「そして大きく見えてきたのは、eコマースの物流です。床はたいていがコンクリート張りで、傾斜もほどんどなく、そこで主に人が行っている作業は、品物を棚から下ろして、別の場所に置くというものです」

アイデアが固まると、技術者のVoorhiesとParks、そしてすでに2つの企業を経てきた筋金入りの起業家であるElazaryの三人は、プロトタイプの製作に取り掛かることにした。

アマゾン以外の倉庫や配送施設のほどんどは、品物の保管と回収を自動的に行う自動倉庫システムを利用していると、Voohriesは言う。その自動化システムとは、外観も機能も巨大な自動販売機のようなものだ。しかし彼によると、こうしたシステムには多額の埋没費用が掛かっていて、柔軟性も適応性も低いという。

しかも、これらの古いシステムは、ランダム・アクセス・パターンや、eコマースを成功に導くための、主に出荷と梱包からなる複合的な命令に対応するようには作られていない。

ところが、埋没費用があるために、倉庫はモデルの変更に積極的にはなれない。そこで、Voorhiesたちが考え出した革新的なアイデアは、流通業者が埋没費用を気にせずに済む方法だった。

「私たちは先行投資をしたくなかったのです。ロボットを設置するだけでなく、それを作る企業を立ち上げる場合でもです」とVoorhiesは話す。「自分たちの力でできることをしたかった。それを有機的に成長させて、一刻も早く勝利を収めたかったのです。そこで私たちは自動倉庫システムに目をつけ、その作業を行う移動型ロボットを作ろうじゃないか、という話になりました」

当初、彼らは、いろいろなロボット開発方法を試した。最初にあったのは、いくつもの異なる品物を運べるロボットと、回収を専門に行うロボットだった。

同社が最終的に決めた形状は、テーブルを上下に動かすシザーリフトを備えた移動式の円盤型の装置だ。テーブルの一端には前後に伸び縮するアームがあり、アームの先端には吸引ポンプが取り付けられている。このポンプで品物の箱を吸着してテーブルに載せ、梱包担当者のところまで運ぶ。

「最初は、品物を個別に積むことを考えていました。しかし、実際に倉庫の人たちの話を聞くうちに、どんな品物も、とにかく特定の箱に入れているということがわかってきました」とVoorhies。「それならもっと楽をしよう。その箱さえ掴めればいいんだからね、と」

この最初のロボットを自力で作ったことで、inViaは、そのビジョンを実現するための2900万ドル(約32億ドル)の資金調達を行った。最近では7月に、2000万ドル(約22億ドル)の投資ラウンドを成立させている。

「eコマース業界の成長が、その要求に応えるための倉庫の自動化をいう需要を、どんどん生み出しています。そうした自動化の需要を満たせるのは、作業の流れに応じて規模を調整できるよう、AIを採り入れた柔軟なロボットです。inVia Roboticsへの投資は、AIがサプライチェーン業界において重要な役割を果たすという我々の信念の現れです」と語るのは、Point72 VenturesのAI投資部門共同責任者のDaniel Gwakだ。Point72 Venturesは、ヘッジファンドで名を馳せた投資家スティーブ・コーエンが設立したアーリーステージの投資会社だ。

配送や物流を行う企業の苦しい現状を考えれば、ロボット工学や自動化技術がきわめて重要な戦略的投資の対象になることや、ベンチャー投資が市場に流れ込んでくることは理解できる。この2カ月間だけで、倉庫や店舗の自動化を目的としたロボットメーカーは、7000万ドル(約77億ドル)に近い新規の資金供給を受けている。これには、フランスのスタートアップExotec Solutionsがつい最近獲得した1770万ドル(約19億円)や、食料品店向けのロボットを開発するBossa Novaの2900万ドル(約32億円)の投資ラウンドも含まれる。

また、Willow GarageやLocus Roboticsの血統を受け継ぐFetch Roboticsなどの倉庫に焦点を絞ったロボットメーカーは、物流サービス会社Quiet Logisticsとつながっている。

「ロボット工学への投資は、当然な流れとして、過去数年に比較して驚くほど伸びています」と、市場調査会社IDCのCommercial Service Robotics(商業サービス・ロボット)研究部長John Santageteは声明の中で述べている。「投資が伸びているのは、その技術を受け入れた市場の作用です。その技術分野は、市場の要求に見合うまでに成長したのです。そしてその将来の展望には、柔軟な自動化技術が含まれているに違いありません。今日の倉庫では、消費者の要求に追いつくために、品物はより速く、より効率的に移動しなければなりません。自動化された移動型ロボットは、スピードと効率性と柔軟性のある自動化を、費用対効果の高い形で実現します」

inViaは、ロボットを販売するだけでは十分ではないと気がついた。倉庫が、inViaのロボットによって実現できる経費節約の可能性を確実なものにするためには、ソフトウエアのプレイブックのページを開く必要がある。道具を売るのではなく、ロボットが行う作業を、サービスという形で提供するのだ。

「お客様は、ロボットの価格はいくらかと聞きますが、それは見当違いです」とVoorhiesは言う。「そいういうことを、考えずに済むようにしたいのです」

inViaと物流企業との間で交わされる契約は、行った作業ごとの単位となっている。Voorhiesはこう説明している。「注文ラインはひとつ(の最小管理単位)です。数に関係なく注文できます。……私たちは、ロボットが品物を取って人のところまで運ぶごとに料金をもらいます。作業を高速化して、使用するロボットの台数が減れば、それだけ私たちは儲かるのです」

大きな違いはないように聞こえるかも知れないが、倉庫ではこうした効率化が重要になると、Voorhiesは言う。「ある人が、35個のパレットを載せられるカートを倉庫の中で押しているとしましょう。私たちがやれば、その人はじっと立っていればよいのです。使えるカートも1台だけではありません。35どころか、一度に70の注文に応えることが可能です」と彼は話す。

楽天物流では、すでにinViaのロボット導入により利益を上げていると、楽天スーパーロジスティクスCEOのMichael Manzioneは話している。

「発送センターで実際に(ロボットが)使われ出したのは、ごく最近です」とManzioneはインタビューに応えて話している。「2月の下旬にこの製品を初めて見て、3月下旬には稼働していました」

Manzioneにとって大きなセールスポイントは、先行投資の必要もなく、ロボットが即座にスケール調整できることだった。「年末休暇のシーズンの計画では、収益が上がる予定です」とManzioneは言う。「去年は人員を2倍に増やしましたが、今年は増やすつもりがありません」

Voorhiesが指摘しているが、倉庫環境で作業員のチームが効率的に働けるように訓練するのは、容易ではない。

「問題は、新らしい人間を入れにくいという点です。倉庫では、本当に真面目な専門家チームが頑張っていて、フォークリフトで品物を運ぶことに喜びを感じています。シフトの中で汗を流して得られるものに、とても満足しているのです」Voorhiesは言う。「そうした専門家チームにも対処できないほど処理量を増やす必要が出てきたとしても、その仕事が熟せる人間を探すのは困難です」

この記事は、inViaの最高責任者Lior Elazaryの名前の綴りを修正して更新しています。

  1. inVia

  2. inVia-at-Hollar

  3. inVia-Robotics_1

  4. inVia-Robotics_1

  5. inVia-Robotics_2

  6. inVia-Robotics_3

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(翻訳:金井哲夫)

過去1年間に調達したベンチャー資金総額、出身校別ランキング

大学のランキングといえば、それが資本豊富なファウンダーの数であれ、調達資金総額であれ、ベンチャーキャピタリストの出身校であれ、リストの上位には常に同じ名前が並ぶ。唯一のサプライズ要素は、ハーバードとスタンフォードのどちらがトップにいるかくらいだ。

この2校がトップに来ないような大学・スタートアップ関連のランキングを作ることは可能だが、今日はやらない。今回注目したのは出身ファウンダーが調達したベンチャー資金総額の多い大学のランキングだ*1

それ以外はどの大学がランク入りしたのか?

幸いリストには2校以外の名前もあった。この調査では、卒業生が過去ほぼ1年の間にベンチャー資金を最も多く集めた大学トップ15に注目した。

以前本誌の記事で、卒業生の中に100万ドル以上調達したスタートアップのファウンダーがいる人数で大学をランク付けしたことがある。本稿はその追跡調査となるが、ほとんどの名前は同じで、順序が少し変わっただけだった。

下の表をご覧いただきたい。学校名、2017年8月1日以降に調達したベンチャー資金総額、および調達額の多い企業名が書かれている。

調査方法

この調査結果では、大学と系列ビジネススクールを合算している。このため、ハーバードやペンシルベニア大学(ウォートン・スクールの母体)など有名ビジネススクールを傘下に持つ大学の調達総額が大きく跳ね上がっている。

また、何人かのファウンダーはランキングにある複数の大学で学位を取得している。該当する起業家は大学毎に1回ずつ数えた。

(*1)調査対象はシードからレイトステージまでの2017年8月1日以降に発表されたベンチャー資金調達ラウンド。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

分散チームがオフィス内駆引きのルールを書き換える

【編集部注】著者のJohn Chenはデジタルメディアならびにインターネットマーケティングのコンサルタントであり、現在はDiggy Internetのクリエイティブディレクター兼アカウントマネージャーである。

私たちが理想的な自宅をデザインしようとしているときには、ドアも壁もない大部屋に何千人もの仲間がひしめいている状況を想定したりはしない。しかし、私たちが1日の大部分を過ごす現代の職場に対して、企業のオフィス設計者たちは、壁を取り除きより多くの人びとを同じ物理空間に集めることが、従来の階層的なオフィス内駆引き(office politics)の摩擦を取り除きつつ、より良い協業を育むのだと主張している。

しかしそもそも全くオフィスがない場合にどうなるのだろう?

これは、Basecamp創業者兼CEOであるJason Friedと、Automattic (WordPressの開発元)の創設者兼CEOMatt Mullenwegの両氏にとって、現実そのものだ。彼らのチームは6つの大陸と多くのタイムゾーンで100%分散したチームを運営している。FriedとMullenwegは、Zapier、Github、Bufferなどを含む、少なくとも十数社がその例に倣う(ならう)影響を受けた動きの始祖たちだ。どちらも自身で本を書いていたり、そのトピックについて触れられた本が出版されたりしている。

だが、こうしたリモートチームを雇う方法、解雇するする方法、調整する方法、動機づけする方法、および維持する方法に関するすべての議論の中に、奇妙なまでに欠けているのは、オフィスが全くないときにはオフィス内の駆引きがどのように変化するかという点に関することだ。その点を明らかにしようと、私はこれらの企業に訪れ経験を尋ねた:リモートワークはオフィス内権力闘争を、促進したのか、緩和したのか、あるいは変化させたのか?スタートアップたちはオフィス内駆引きと戦うためにどのような戦術を使っているのか、そしていずれのものが効果的なのか?

「ちょっと頭を冷やさないか?」

オフィス内駆引きは、簡単な例で最もよく説明される。目標、メトリクス、タイムラインを持つプロジェクトがあるとしよう。次にそれをどのように実施するのか、誰がそれに対して作業を行うのか、そして誰の業績となるのか、という決定を誰が行うのかという課題が生じる。これを決定するプロセスは、ややこしい人間的作業だ。私たちは皆、これらの決定が価値ベースで、データ駆動で、客観的であると信じたいと思っているが、現実はまるで異なっている。膨大な研究が示すように、それらは認識、経験、特権という人間の偏見を伴ってやってくる。

オフィス内駆引きとは、目標を達成したり意思決定に影響を及ぼすことを狙って、そうした偏見と認識を形作るための、内部的に行われる駆け引きとポジショニングだ。インセンティブが一致すれば、これらの目標は会社と同じ方向を向くことになる。もしそうならなければ、機能不全に陥る。

おそらく、これはあまりにもダーウィン的であるように響くと思うが、人間が意思決定を行う組織の一員である際には、自然で避けることのできない結果なのだ。あなたには仕事があり、協働作業者たちのマネジメントがあり、そしてあなたの仕事に対する上司の認識がある。

従業員ハンドブックには、オフィス内駆引きをどのように扱えば良いかを教えてくれるセクションはない。これらは、文書化されていない暗黙的で非公式の規則なのだ。こうした規則の中には、上司のスタイルに合わせようと、着るものを変えることも含むかもしれない(もし疑うならFacebookで、何人がナイキ・フリーを持っているかを尋ねてみると良いだろう)。あるいは、毎週ハッピーアワー(金曜の夕方などに行われるオフィスで行われる軽食パーティ)に行く時間をとるのは、自分がそうしたいからではなく、出世するためには、そうする必要があると言われたからだ。

職場の文化に関する私の好きなエピソードの1つが、Sarah Cooperの「ミーティングでデキる奴に見せる10のヒント 」だ。

  • 皆に「ちょっと頭を冷やさないか」と呼びかけ「私たちが本当に解きたい問題とは何だろうか?」と尋ねる。
  • うなずきながらノートを取っているように見せる
  • 「大事な電話」に出るために席を外す
  • 席から立ち上がって、ホワイトボード上にベン図を描く

Sarah CooperのThe Cooper Reviewより

認識を形成したり影響を与えたりするために、物理的な職場で使用されるこれらの合図や信号は、リモートワークプレイスには通用しない。このことは、オフィスがないというレンズを通すことによって、オフィス内駆引きがどのように異なるものになるのかを研究するための、貴重なチャンスを提供する。

利害のない友人たち

従業員たちにとって、同僚は家族のようなものであるという比喩は、ある意味において真実だ。彼らは私たちが決して選んだわけではないルームメイトなのだ。一緒に働くことを学ぶことは十分難しいことだが、物理的なオフィス環境ではそれに加えて、一緒に生活するという課題も学ばなければならない。これとは対照的にリモートワークプレイスでは、AutomatticのMullenwegが信じているように、同じ場所を共有することによって生じる「共存の煩わしさ」を軽減し、隣人が「大きな声で電話する、神経にさわる音楽を聞く、あるいは臭いのキツイ食べ物を食べる」ということを気にするのではなく、従業員たちにお互いにどのように働くのが最適かという点に集中させることができる。

さらにリモートワークプレイスは、仕事そのものとは関係のない暗黙の期待や規範の暴力から私たちを解放してくれる。投資銀行では、誰もが知っているように、アナリストたちはマネージングディレクターが来る前に出社し、帰ったあとに退社している。これは一所懸命に働いていることをアピールするためだ。

BasecampのFriedは、それを「在席刑務所」(presence prison)と呼んでいる。そこでは物理的そして仮想的を問わず、同僚たちがどこにいるのかを、そして何をしているのかを常時気にかける必要性があるのだ。そして彼はそうした風潮に反旗を翻した。彼はBasecampの製品から(在席/非在席を示す)緑色のドットを取り除くことさえしている。「一般的なルールとして、Basecampの誰もが、他の誰がいつどこにいるのか本当に知ることはありません。彼らは働いているの?さあね。彼らは休憩しているの?さあね。彼らはランチに行ってるの?しらないね。彼らは子供を学校に迎えに行っているのかな?さあね。どうでもいいことだよ」。

このやり方には信頼できる基盤がある。ハーバードビジネススクールによる、工場労働者に対する調査によれば、労働者たちの生産性は、管理者が見守っていなかったときに10%から15%向上したのだ。この生産性向上は、管理職の監視のもと予め決められたやり方に従わされた対照群と比較すると、管理者に報告する前に、様々なアプローチを実験するための裁量の自由を労働者に与えたことが、有利に働いていたのだ。

リモートワークプレイスでも同様の現象が起こるが、これは偶然の一致だ。リモートワークプレイスでは「一所懸命働いている」かどうかは物理的には観察できないため、それは社内で説明、文書化、測定、そして共有される必要がある。文化的規範は、偶然に任されたり、恐怖や圧力によって左右されることなく、各個人に(その仕事がどのように「見られるか」ではなく)仕事自体に焦点を当てた自律性を与えるべきなのだ。

最後に、物理的な職場は有意義な友情とコミュニティの源になることができるが、ウォートンビジネススクールによる最近の研究は、職場の友情の背後にある複雑性を解きほぐし始めている。それは義務、相互主義、献身からの緊張に満ちたものになる可能性があるのだ。競合が発生した場合は、会社にとって最良のものと、その人やグループとの関係に最適なものの間で、選択を行う必要がある。例えば、あなたは親友であるSallyの、元カレだった同僚のBobを社内で助けることはしない、何故ならそのとき彼は嫌な奴だったからである。あるいはJimがやることならなんでも喜んで手助けしたい、なぜなら彼はあなたの子供のサッカーチームのコーチであり、今回の昇進を請け合ってくれているからだ。

リモートワークプレイスでは、地域を共有していないので、子供同士が同じ学校に行くことはなく、どの同僚を夕食に招待すれば良いかを気にする必要はない。あなたの物理的な個人的コミュニティと職場のコミュニティは重複していない。つまり、あなた(とあなたの会社)は、無意識のうちに有害な職場関係の危険性の多くを避けているのだ。

その一方で、これらと同じ関係が、従業員の関わりや全体の幸福にとって重要なものになり得る。このことは、Buffer2018年版リモートワーク状況レポートでも示されている。この調査は世界中の1900人のリモートワーカーを対象に行われたものだ。そこでは、コラボレーションとコミュニケーションの問題に並んで、孤独がリモートワーカーにとって最も大きな悩みであることが示されている。

Bufferによるグラフ(リモートワーク状況2018)

ということで、自宅オフィスでは、自分を自分の上司のように感じることができ、オフィス内駆引きを避けることができるものの、究極的には、孤独であることの方がズボンを穿いて仕事に行くことよりも難しいことなのかもしれない。

リモートワークプレイスの利点と欠点

物理的なオフィスでは働き手同士がお互いに衝突する可能性がある。(写真クレジットUpperCut/Getty Images)

組織にとって、遠隔チームと物理チームの最大の違いは、組織の文化、規範、および習慣の、永続性と可搬性を確立するための「ライティング」(書かれたもの)への依存度の高さだ。文章は会話とは違う。何故ならそれは簡潔さ、熟慮、そして構造を強いるからだ。そしてこれが駆引きがリモートチームに対してどのように作用するかに影響する。

書くことは、ミーティングの力学を変える。毎週金曜日にZapierの社員は、(1)今週私がやると宣言したこととその結果、(2)発生したその他の問題、(3)来週私が行うことを、社内掲示板に書き込む。全員が会議の最初の10分間は、全員の更新情報を黙って読んで過ごす。

リモートチームがこのようなやり方を採用するのは必要に迫られてのことだが、テーブルを囲む全員から「話を聞き」、声の大きな者あるいは年長者に会議を支配させることがないという補助的な利点も得られるこのやり方を、物理的な職場を持つ企業も採用することができる(実際ZapierのCEOのWade Fosterはこのやり方をAmazonから借用したのだ)。しかし行動を変えるためには規律とリーダーシップが必要とされる。特にこれまで慣れ親しんで来たように、ただ参加するだけのことがとても楽な場合には。

ライティングは情報共有と透明性の政治を変える。Basecampには、大人数を集める全体会議やタウンホール会議は存在しない。すべての更新、決定、およびその後の議論は、随時全社に公表される。多くの企業にとって、これはかなり大胆なやり方だ。なにしろこれは、消すことのできない遠い過去に下した疑問の多い決定に対して、全ての友人たちから反応が返ってくるFacebookのウォールのようなものだからだ。しかし、この優れている点は、今や豊かで恒久的な組織の知識を支える、文字で書かれた決定と議論が存在し、社内の誰でもそれにアクセスできるということだ。主要な決定を文書として残すことは、情報へのアクセスを駆引きとは無縁なものにする。

リモートワークプレイスに課題がないと言うわけではない。コミュニケーションは書くことを介して非同期に行うことができるが、リーダーシップはそうはできない。駆引きを伴わない文化(あるいはどのような文化でも)を維持するためには、何が言われているかだけでなく、何が行われ、どのように行われているのかを、繰り返しリアルタイムでフィードバックする必要がある。リーダーたちは、どのように発言し、行動し、意思決定を行うかを、実例として示しながら先導するのだ。これはリモート状況では、遥かに困難な課題だ。

WordPressのあるデザイナーは、リモートチームを先導する際の対人的な課題について指摘している。「私が指示やフィードバック、デザインについての批判的な指摘を行うときに、いつでもチームメンバーの表情を見ながら行うことができるわけではありません。彼らがどのように感じているかは分からないのです。ある人が気分の悪い日や気分の悪い週を過ごしているかどうかを事前に知ることは、とても困難なことです」。

ZapierのFosterもまた、対人力学におけるこうした困難を良く認識している。実際彼は、リモートチームをどのように運営するべきかについての200ページにわたるマニフェストを書いている。そこでは丸々1つのセクションを費やして、初めてお互いに会う方法についてチームメイトに教えている。例えば「私たちは常に新しい状況における脅威を探すことを求められているので…電話やビデオ通話は15分以内に終わらせるよう努力して下さい」あるいは「相手の話を遮らずに聞きましょう、また自分自身の話を共有しましょう」。そして「簡潔でオープンエンドの質問をしましょう」といったことだ。新しい友人を作ることに関して、小学校の頃のやり方を思い出したい人たちにとって、Wade Fosterはリモートワーカーたちにとってのデール・カーネギーと言えるだろう。。

オフィスへ行くべきか、それともオフィスに行かざるべきか

Basecamp、Automattic、そしてZapierのような企業から学べることは、よりお互いに接近することがオフィス内駆引きへの緩和剤ではなく、もちろん健康で生産的な文化に対する迅速な解決でもないということだ。

健全な文化を維持するには、熟慮されたプロセスと計画が必要である。リモートチームは、物理的なワークスペースを通じて共有された豊かなコンテキストを想定することができないため、これらのプロセスのデザインと維持をするために、より熱心に努力する必要がある。

その結果より健康的で、より政治的ではない文化のための、沢山の新しいアイデアが生まれる。それは人びとを集めるとき、そして人びとに(在席刑務所を終わらせて)自分自身の時間を与えるとき、あるいは話すとき、そして読んだり書いたりするとき(会議の民主化)に、より深く考える文化だ。リモートチームたちはバグを機能に昇華させることに、多大な成功を収めてきたようだ。いまだにオフィスの壁や扉を取り去ることを検討している企業たちにとって、オフィスレスが生み出したものに注意を向けるべきときが来たようだ。

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(翻訳:sako)

写真クレジット: sekulicn / Getty Images