会社創設者の私は仕事と自尊心を取り違えていた

今はほぼ毎日がいい日だ。会社創設者や重役をクライアントに持ち、自分でスケジュールを決めて、好きな街に暮らしている。私は、重役向けコーチ兼アドバイザーとして、1億ドル(約110億円)以上の資金を調達した企業の創設者やCEOを相手に仕事をしている。どの企業も同じだろうが、私も、設立、計画、失敗を数多く経験して、今の地位を手にした。

懸命に働き苦労した体験を彼らに伝えるのが私に求められる役割であり、実際にそうしてきた。

しかし、失敗したときの気持ちや、とりわけ恥ずかしいという感情が一番に立ち、それが私の人生や仕事を左右していたことは、特に話す機会がなかった。どん底のとき、どれほど自分が無価値だと感じていたか。私は自傷行為の計画すら立てていた。

企業を立ち上げるためには、超人的なエネルギーが必要になる。だからこそ、起業物語が神話化されるのかも知れない。私の場合もそうだった。もし、一流ベンチャー投資家から資金を調達できたら、10億円の収益を上げられたら、会社を50億円以上で売却できたら、自分は大したものだと思える。ずっと憧れていた青年成功者になれる。そして、まず100万ドルを稼いだら、一気に10億ドル規模の企業を立ち上げる。

愛に価値を感じないことが、つまり本質的な価値観に欠けていたことが、私の意志決定の原動力になっていた。自分で設定した目標を達成できなかったことが、自分が無価値な人間だという感覚を強めていった。だが幸いなことに、やがて私は自意識に目覚め、達成できない目標を無闇に追いかけるのは不健全なことだと気がついた。

しかし、CEOの職を辞することで自分が崩壊してしまうとは、予想もしていなかった。どれほど心が折れてしまうかも、想像できなかった。

徹底した治療の結果、私が最初から間違った方向に進んでいたことを容易に理解できるようになった。もうほぼ完全に、恥は過去のものとなった。しかし長い間、恥は私のあゆる意志決定の燃料となっていて、それは決して枯渇することがなかった。いつだって恥は有り余るほどあった。ビジネスの世界では、それは私たちが想像するよりも、ずっと普通のことだ。私が会った起業家は、ほぼ全員が「違和感」を体験している。私たちは失敗を賛美するが、「自分はダメだ」という恥の感情に結びつくその痛みを、誇りに思えるだけの忍耐力を持たない。

私たちは、固い意志を持ち、自分を突き動かし、粘り強くあるべきだ。そのために、私が学んできたことをみなさんにお伝えしたいと思う。自分は無価値だと落ち込んでいる人は、他にも大勢いることを私は知った。幸せは、そして成功の喜びは、まだ手の届くところにある。

たまたま会社を立ち上げた

19歳のとき、私にはまだ、高等教育を変革するという野望を抱いていたわけではなかった。私はただの、不満を抱える大学1年生だった。Chronicle of Higher Educationのインタビューで、Jeff Young氏は私にこう聞いた。私がインターネットで立ち上げたばかりのUnCollegeで何をするつもりかと。

UnCollegeは、大学に対する欲求不満から生まれた、出来たてのウェブサイトだった。高等教育の現状維持の姿勢に疑問を持つ人たちのコミュニティを作ることが狙いだ。それが転換期だった。Young氏にそのサイトの今後を聞かれた私は、即座に自尊心とサイトの未来を結びつけた。結局、それがメジャーな雑誌からインタビューを受ける理由となったのだが。私は、UnCollegeを大きく育てなければならなかった。そうしなければ、私は敗者になる。それだけでは済まないかも知れない。承知のとおり、それは上場企業となったからだ。

そのときから、私は起業家として成功するために取るべき行動を頭の中に書き記すようになった。そのリストはどんどん長くなり、すべての項目に、例のあの注意事項が付随した。本を書かなければ無価値な人間になってしまう。起業して100万ドルを調達しなければ、無価値な人間になってしまう。世界のカンファレンスで演壇に立たなければ、無価値な人間になってしまう。

私は資金を集めた。会社を立ち上げた。100万ドルの収益を上げた。その度ごとに、チェックボックスにチェックマークを入れていった。でも幸せ感は増さなかった。もう満足を感じられない体になってしまったのかと、心配になってきた。「成功した」と実感できなかったのだ。とくに、インターネットや業界で広まった他人の成功を見たときは、なおさらだ。

もし「成功者」になれば、人に欠点を見られることがなく、最終的にはなんらかの価値のある人間になれると私は考えていた。だが、頭の中のリストにチェックマークを入れるごとに恥や不安感に飲み込まれる感じがしていた。そして、自分の価値を実感するためには、次の項目にもチェックマークを入れなければと追い立てられた。

まさに、泥沼にはまった感じだ。自尊心は内側から湧き出るものだと、まだそのときは気付いていなかった。

仕事と自尊心の取り違え

会社を立ち上げようと頑張ってきたのは、失敗が怖いからだとすぐに気がついた。今後10年の人生をかけて克服すべき問題点をじっくり考えたからではなかった。それでも、2013年9月、UnCollegeは最初の学生を迎えた。

その秋、自分は間違っているのではないかと疑うようになった。だが、ここまで事業を大きくすることを私に期待していた投資家たちに、そんな話は怖くてできなかった。私の生き残りの術は、微笑みながら、誰よりも物を知っているふうに振る舞うことだった。謙虚に助言を聞く勇気があればよかったのに。

人に助けを求めずに来た結果、最初に雇った2人の人間を手放すことになった。さらに2人、現金が底を突いたために一時解雇するはめになった。

第一期の学生は気の毒だった。適切な構造のカリキュラムを設計しなかったので、学生たちは不満を抱いた。彼らは自主学習のコミュニティは気に入ってくれたが、会社としては、コミュニティ以上の価値を提供することができなかった。学期が終了する2カ月前、学生たちは反乱を宣言して、プログラムの改善策の提示を求めてきた。

私は恐ろしくなり、逃げ出したくなった。しかし、すでに新学期の授業料を受け取ってしまっている。他に方法はないと、私は思い込んだ。そして、コーチング・プログラムを創設し、コーチを雇い、20の新しいワークショップを開設して、学生たちをインターンシップに送り込むための努力を開始した。私たちが創設したコーチング・モデルはうまくいった。その後2年間、それを改善しながら続けることができた。

2015年春、私は筆頭投資家を訪ねた。私の声は震えていた。彼は、私の恐れと不安を感じとっていたが、私はその日、彼にハッキリとこう伝えた。「もう限界です。自分が壊れてしまいます」。

そのとき私は、燃え尽き症候群になっていた。会社は大学の代替学校から予備校に変わっていた。役員会は承認してくれた。CEOを雇う時期だ。

CEOを雇った後、毎日会社に通おうという私の意欲はさらに低下した。ベッドから起き上がるのが難儀になっていた。ある朝、Four Seasonsの投資家と朝食をとった後、私は外へ出て砂浜に座り、泣きだした。目を上げると、以前私の学校で学んでいた学生が私に手を振っているのが見えた。すぐに涙を拭き、私は弱々しく微笑んだ。

私は、恥ずかしくて、弱くて、無力だと感じた。

仕事に自分のアイデンティティを見出すことは、できなかった。もうそれは終わらせるべきだと、自分でもわかっていた。でも、他に何がある?

私は自分の会社と、その新しいリーダーシップに期待を寄せたが、不安でもあった。空虚だった。いつ会社が止まって、いつ始まったのか、知らなかった。25歳の誕生会ディナーでは、何も喉を通らなかった。私は恥と恐れに飲み込まれていた。なんとか夕食を持ちこたえることができたが、家に帰るなり、私は泣き崩れた。

恥るのは癖

12月には、私は自分の会社のCEOを辞めた。6カ月後、私はベッドから起きられなくなった。

それから2カ月ほど、私は休養を取ることにした。まだ会社の役員会には属していたが、何も貢献できなかった。UnCollageの後の人生設計を考え始めたが、どこから手を付けてよいやら、わからなかった。自分ではまだ気がついてはいなかったが、私には個人的なプロセスを経る必要があった。生まれ育った家族とは別に、自分は何者で、何を信じているのかを見極めることだ。すでに25歳になっていた私は、そうした疑問をなんとか避けてきた。皮肉なことに、私の同僚はみな、大学でその疑問と対峙していた。

恥じることは、人を消耗させる。自分自身に関する疑問への答を先延ばしにするほど、恥は私を蝕んでゆく。何に気をつければよいのか? 選択は正しかったのか? この会社を立ち上げるときに払った犠牲には価値があったのか? 間違った道を歩んできてはいないか? 私が耐え抜いてきた苦痛は、どれも無駄だったのか? また幸せを感じられるようになるか? 私には自己がまったくないように思われてきた。

自分が有用な人間だと感じさせてくれる仕事を失い、私は毎日、サンフランシスコのドロレス公園で飲んだくれていた。不健康であることは承知していが、何年間も頑張ってきたご褒美だと自分に言い聞かせていた。まだ25歳なのに、人生に彩りが消えてしまった。かつて私に喜びをもたらしてくれた物事は、もう何ももたらしてくれない。笑うことも、痛みに耐えることもできなくなった。どれだけ承認される人物になったかという自分自信のくだらない確信も、もう効かない。このサイクルが続けば、それはますます強大になり、私は弱くなっていく。どんどん引きずり込まれていく。

10月のある月曜日、私はもう廃人同然になっていた。ひとり家にいて、何日間もベッドから出られず、食事もしていないことに気がついた。私は飛行機に乗ってミネアポリスに行くことになっていたのだが、自分にそうさせることができなかった。そこで父を呼んだ。父は、「うつ病かも知れない」と医師に伝えるよう進言してくれた。だがまだ怖くて電話を手に取ることができず、それを医師に告げられたのは数カ月後のことだった。治療が始まった。だが、快方に向かう前に、事態はさらに悪化した。

「会社が思うように行かないので悲しい」という以外に、自分の心の状態を言い表す言葉がなかった。私の頭に電球が灯ったのは、「不安を感じたのはいつ?」とセラピストに聞かれたときだった。思い出せたのは、現金が底を突いてからわずか数日後のことだ。

「感情を極端に大きく感じているだけだと思ったことは? たとえば、1から10までのレベルなのに、20ぐらいに感じているとか。日々の生活で不安を感じるのは、人間として当然です」。

それが扉を開いてくれた。会社を辞めるのが悲しかっただけではない。「成功」しなかったことを恥じていたのだ。ビジネスと結びけていた私のアイデンティティは、成功だけではない。自尊心もだ。心の奥底で、私はこう思い込んでいた。私はダメな人間だと。恥とは、私たちの自我のいちばん深いところに空いた穴だ。永久に存在するように見えるために、埋めることができない。それが自分の本質であるかのように感じられる。業績とは関係ない。

恥は、子どものころに、いろいろな感情から生まれてくる。私は、子どものころ吃音があった。声が悪くて言葉が伝わりにくかったので、それを隠していた。うまく発音できない言葉は、同義語に置き換えていた。そうしていたのは、自分の苗字をどもらずに言えないことへの強烈な羞恥心に対処できなかったからだ。そのうちに、強い恥の感情を麻痺させるために、無視することを憶えた。なんとか対処した。早い時期になんとか対処する方法を学んだので、恥と一緒に、他の感情も麻痺させられるようになった。

会社を立ち上げたころ、悲しみ、消耗、フラストレーション、当惑、不安、罪悪感などといった、「何かが間違っている」と私たちに告げるすべての感情は、表面には現れず、名前も付けられていなかった。そのため、長い目で見て成功した人でも、起業家なら日常茶飯事の、当たり前の、ごく自然な失敗をやらかした日は、家に帰るときに「間違っているのはお前だ」と自分に言い聞かせるしかなかった。

感情を無視することは、子どものころからの私のサバイバル術だった。始めのころに受けた批判から生じる疑いや不安を無視することで、会社の設立を押し通すことができた。しかしそれは、私のアキレス腱でもある。それが私のアイデンティティと自尊心を、自分の仕事に求めるよう仕向けたのだ。

CEOは、それをすべて、まとめて持ってると言われている。CEOは、誰の助けも借りずに先を見通せる、先見の明の持ち主だ。だからこそ私は、他人に助けを求める許可を自分に与えることができなかった。さらに会社を去るとき、私には自分の感情を表現する語彙も意識も欠如していた。ずっと昔、吃音を無視するための手段だった私の完璧主義は、助けと失敗を結びつけ、失敗と恥を結びつけた。

そんな月日を過ごした後も、私はまだ人に助けを求めることを許せなかった。

トラウマを手懐ける

ストレス、過重な負担、燃え尽き症候群。これらは私の感情にもっとも近い言葉だ。スタートアップ企業の間では、繰り返し経験するそれを示す決まり文句にもなっているが、それを押しのけて仕事を続けるのだという。しかし、これらは感情ではない。苦痛や恥といった感情を覆い隠すものだ。すなわちそれは、トラウマのことを指す。

トラウマと聞くと、自動車事故や自然災害や暴力を思い浮かべる人が多い。機能能力を完全に抑え込んでしまう事件だ。しかしトラウマは、現在まで引きずっている過去の経験のひとつに過ぎず、それが、ポジティブにもネガティブにも私たちの心を形作る。

コーチの仕事を通して、私は、可愛すぎる人、醜すぎる人、ゲイすぎる人、太りすぎている人、外国人的すぎる人、頭が悪すぎる人、頭が良すぎる人、暗すぎる人、明るすぎる人など、さまざまな起業家や重役に出会った。これらは、埋めることができず、常にそこにあると自分で信じ込んでいる恥の穴だ。彼らは決して敗者ではない。最大の成功を収めた人でもトラウマを抱えている。彼らはそれを鞭にして、自らを突き動かしているのだ。しかし、恥は振り切ることができない。いつかかならず追いつかれる。それを理解するまでに、私は長い年月を要した。そして、自分自身に温情を持つことが、生涯を通しての課題になった。

自分の自尊心を職業的な野望から切り離すための語彙を手に入れた私は、UnCollageを、誇り高い失敗と思えるようになった。次のプロジェクトに活かせる学びがあったことは言うまでもない。みなさんも、自分自身を愛することを学んで欲しい。そしてその結果として、大成功をもたらす会社を設立して欲しい。

【編集部注】
Dale Stephens
Thiel Fellowの初期メンバーであり、教育関係の企業を6年間経営していた。近年は会社重役向けコーチや、起業家や重役を企業の成長速度に合わせて成長できるよう手助けをしている。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

「火中の栗を拾う覚悟」脱社畜サロン新オーナーにStartPoint小原氏が参加、TIGALA正田氏と交代

StartPoint取締役社長 小原聖誉氏

読者の中には、Twitterなどでオンラインサロン「脱社畜サロン」について、見聞きしたことがある方も多いかもしれない。このサロンは、ブロガーのイケダハヤト氏と連続起業家でTIGALA代表取締役社長の正田圭氏が2018年11月に開設したものだ。2019年1月からは、ブロガー・作家のはあちゅう氏もオーナーとして加わっている。オーナーの3人だけでなく、個人投資家の古川健介(けんすう)氏やZOZOの田端信太郎氏ら著名人もサロンに参加していたこともあって話題になったのだが、1月半ばから会員数を大きく減らす事態となっていた。

サロンはクラウドファンディングのプラットフォーム、CAMPFIREの定額課金制プロジェクトとして参加者を募り、開設から約2カ月で約3000人の会員を集めていた。ところが1月に入り、正田氏のプロフィールについて疑義が持ち上がったことをきっかけにして、Twitter上でのやり取りから、ほかのオーナーや退会者も巻き込んだ、いわゆる“炎上”状態となったのだ。

正田氏は15歳で起業し、いくつかの会社を立ち上げて、現在はTIGALAでM&Aコンサルティングを中心とした事業を行っているという。疑義というのは主にこのM&A案件の規模に関するもの。正田氏がTwitterのプロフィールに「2〜3桁億円をメインとしたM&Aコンサル会社」と記載していたことに対して、誇大広告ではないか、とブログで指摘があり、サロンに参加していた会員がオーナー陣に質問したところ、会員が退会扱いとされたことから騒動が大きくなった(疑義については、後に正田氏が自身のブログで「3桁億円のM&A案件は実際に現在進行中のもの」として否定している)。

その後、正田氏は「サロンが急成長しているが故に、TIGALA社の本業とは大幅に異なったものになった」として、2月5日で脱社畜サロン運営から外れると発表。そして2月6日、正田氏に代わって、エンジェル投資家として創業支援を行うStartPoint取締役社長の小原聖誉氏がオーナーとして参加することを明らかにした。これにより、今後はイケダハヤト氏、はあちゅう氏、小原氏の3人体制でサロンは運営されることとなる。

「火中の栗を拾う覚悟」という小原氏から、サロン参画にあたってのいきさつや、今後の展開などについて話を聞いた。

サロンの潜在的な起業家のために運営参加を決断

小原氏は投資家として、正田氏のTIGALAへも2018年11月に出資している。このつながりが、小原氏の脱社畜サロン参画のきっかけになっている。参画について「(炎上もあり)正直最初はびびっていたが、僕のライフワークとは重なっている」と考え、決断したと小原氏は言う。

小原氏がスタートアップと関わり始めたのは、学生時代の1999年。創業メンバーとして2社のスタートアップに参画した後、2013年にスマートフォンゲームのマーケティング事業を行うAppBroadCastを創業した。2016年4月にはAppBroadCastをKDDIグループのmedibaへ売却して合流。2018年5月まで同社で新規事業開発に従事しながら、StartPointを立ち上げた。

StartPointと小原氏個人とを含め、現時点で15社のスタートアップへ出資を行っているが、現在は軸足をエンジェル投資から起業前支援へシフトしていると小原氏は話している。

「僕自身、起業前後で相談相手がいなかった。IVS(Infinity Ventures Summit:インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)などのスタートアップコミュニティにも入れていなかったので、事業や顧客とだけ向き合う日々だった」という小原氏。とはいえIVSなどのよく知られたコミュニティへ参加できるスタートアップの数は限られている。「これは起業家にとってよくないことなのではないか。起業したい人に広く、その差分を埋め、開放したい」と考えたことが、StartPoint創業の理由となった。

「一般的なVCは、起業家に新しい産業づくり、ユニコーンづくりを求めることが多いが、僕は自分で意思決定する人をつくりたいと思っている。限られた人ではなく、多くの人にうまくいってほしい。そのためのブースターの役割となりたい」(小原氏)

2018年末からは、起業家のためのスタートアップジム「WithStartUP」をサービスとしてスタート。1on1の面談とコミュニティで、「“起業版ライザップ”として、スポーツジムのように起業前を含む起業家を支援する」(小原氏)というものだそうだ。「起業に必要な情報のほか、心構えなどの部分でもサポートする。自分も起業するまでに15年かかったからこそ、同じ立場で支援できる」と小原氏はいう。

こうした小原氏の行う活動の延長線上に、脱社畜サロンがあった。「正田氏がサロンオーナーを辞めることで、起業家サイドのオーナーが減ってしまう。でもサロンには潜在的な起業家がいる。イケハヤ(イケダハヤト)さんやはあちゅうさんが、インフルエンサーやクリエイターとしてサロンを運営するなら、僕は起業サイドで運営に加わろうと思った」(小原氏)

「ASAYANの起業版」コンテンツ提供も検討

“炎上”騒ぎの渦中では、参加者、元参加者からサロンのコンテンツの質を問う発言も見られた。これについて小原氏は「コンテンツには価値の高いものもあるが、パッケージに課題があると感じた」と述べている。

もともと「ビジネス版の週刊少年ジャンプ」として構想されていたというサロン。「今月読めるコンテンツ」を期間限定で参加者に提供する「読みもの+テキストコミュニケーション」で構成することで、サロンとしては手が出しやすい、月額3000円の価格設定を実現しようとしていたようだ。コンテンツ量も、1000円の書籍3冊分、30万字を基準に保持しようとされていたという。

小原氏はオーナーとして加わるにあたって「ネーミングは“脱社畜”と過激だけれども、サロンそのもの、起業家づくりの応援は促進したい」と話す。そこでコンテンツの強化も検討しているそうだ。

「昔、ASAYANという番組(モーニング娘。などを輩出したタレントオーディションのバラエティ)があったが、起業家でそれをやるようなプログラムを考えている。サロン参加者で起業家を目指す人の中から、事業内容や本人の熱量が高い人を選抜して、スタートアップジムの強化版を一緒にやっていく。すべての人に支援をするのは難しいが、起業するところまでの成長の過程を公開してもいい、という人を選んで、コンテンツとして提供し、他の人にも擬似的に体験できるようにしたい」(小原氏)

「起業を無理に進めるわけではなく、独立独歩で決められることが大切」という小原氏。脱社畜サロンはそのためのプラットフォームだと考えているそうだ。

「先ほども言ったように、インフルエンサー、アーティストとして独立したい、という人にはイケハヤさん、はあちゅうさんがいる。僕は独立独歩の選択肢として、起業を目指す、という人に、丁寧に向き合っていく」(小原氏)

直近では、サロンのリブランディングに取り組むという小原氏。コンテンツは参加者と向き合っていく中で、チューニングしていく、という。

小原氏は、起業のコストを削減するサービスやソリューション、すなわち「起業テック」をいずれStartPointとして提供したいとして「そのためにも、より多くの起業を目指す人と会いたい」と話しており、火中の栗を拾う、というだけではなく、サロン参画は自身の目的にも沿ったものだと述べている。

「サロン運営で儲けたい、というよりは、(参画により)顕在的な起業家層、潜在的な起業家層も含めた人それぞれに、最適なソリューションを見つけたい」(小原氏)

StartPointでは、TIGALAが単独で運営していた起業家向けサロン「pedia salon」についても事業譲渡を受け、運営担当を開始するという。小原氏はこれらサロン運営を「ライフワークとして実行していきたい」と語っていた。

今、ブラジルのヘルステック分野が熱い

[著者:Manoel Lemos]
シリコンバレーのベンチャー企業Redpointのブラジル専門部門Redpoint eventuresの業務執行社員。

大勢の人が絡む大きな問題に取り組むことは、起業家と投資家の両方にとって絶好のチャンスとなる。たとえば近年のブラジルでは、フィンテックによる金融改革や、新しいオンデマンドのビジネスモデルに投資が集中しているが、ヘルステック関連のスタートアップも、ブラジルで爆発的な増加を見せている。全国民のうちの数千万人が、根深い不平等問題によって医療サービスが受けられず、深刻なまでに低水準な医療の質、重い負担、あらゆる面での非効率といった問題に苦しめられている。起業家の皿は、市場に届けたいヘルステックの改革案で山盛りの状態だ。

Liga Venturesの最近の調査では、現在ブラジルには健康に特化したスタートアップが250社位上あり、民間医療に年間420億ドル(約4707億円)以上を消費する世界で7番目に大きな健康市場になっているという。ただし、そのうち180億ドル(約2017億円)が効率の悪さのために浪費され、この5年間でブラジルの医療関連コストが倍に跳ね上がっているため(累積インフレ率38パーセント)、ブラジルの医療は崩壊寸前にある。ヘルステック系スタートアップは、サンパウロ南部のビラオリンピアに拠点を置く世界最大級の起業家ハブCUBOItaúでも、トップ5の業界に入っている。

昨年、中南米の民間投資を支援する非営利団体LAVCAが発表した「中南米の技術ブレークアウトの年」によると、中南米において、ヘルステックは2番目に急成長している技術分野になっている。2016年と比較して、ヘルステックの取り引きは250パーセントにまで拡大した。ブラジルに診療所を建設して安価に最高の医療を提供することを目的としたネットワークDr. Consultaへの5000万ドル(約56億円)の投資は、2017年のベンチャーキャピタルによる投資の中でも最大のものだった。

医療分野は、患者、仲介業者、診療所、代理店、サプライヤーの間で、人と仕事と製品を結びつけなければならない複雑な市場だ。そこで、技術革新を武器に、ブラジルでもっとも大きなインパクトを与え、この市場に新しいビジネスモデルをもたらす主要なカテゴリーと企業を紹介しよう。

オンデマンドの医療

公的医療機関が利用できるのは、ブラジルの人口(約1億5000万人)のうち、およそ75パーセントに限られている。しかし、そうした医療機関は運営管理が不十分で非効率だ。1回の診療や検査のために、患者が数週間から数カ月待たされることも少なくない。そこに技術力を背景にしたスタートアップが登場し、より広く、より高齢の人々にも、効率的に医療を受けやすくする機会を提供し始めた。

たとえば、低価格な診療所チェーンDr. Consaltaの施設は、この3年間で1軒から51軒にまで増えた。今では、100万人以上の患者から得た国内最大の医療データセットを持つと主張するまでになった。他の民間診療所では、診察料が少なくとも90ドル(約1万円)はするが、Dr.Consaltaは25ドルだ。同様のオンデマンド医療を提供する診療所として、ClínicaSimDr. Sem Filas、 DocwayGlobalMed.などがある。

テレヘルスとモバイル健康アプリ

医療上の助言、診断、モニタリングをより便利にするテレヘルス・サービスがブラジルで拡大している。たとえば、Brasil Telemedicinaは、医療検査、医師の診察、遠隔モニタリング、心理カウセリングなど、さまざまなサービスを24時間提供している。

患者のケアを改善するためのB2Bテレヘルス・サービスには、1日24時間年中無休で放射線画像解析を行うTelelaudo、心臓の健康状態のモニター、陰圧閉鎖療法、乳児の呼吸と健康状態のモニターのための特殊な機器を提供するVentrixなどがある。また、サンパウロに拠点を置くスタートアップNEO MEDは、心電図と脳波図の医学報告が簡単に素早く作成でき、それぞれの場所で柔軟に収入を増やしたいと考える診療所、研究所、病院、医師の協力を促すプラットフォームを開設した。

フィンテックのような急成長分野を
もうひとつ作れる重要な材料が
この国にはふんだんにある。

ブラジルでは、糖尿病と高血圧といった疾患の発生率の高さインターネットユーザーの多さから、モバイル健康アプリの人気が高まっている。たとえば、Dieta e Saude(栄養と健康)というアプリは、160万人以上のユーザーに、よりよい栄養食品を選ぶよう助言し、それを習慣づける動機を与えている。ブラジルで設立され、現在はサンフランシスコに拠点を移したYouperは、社会的不安の解消を手助けする情緒的健康のためのバーチャル・アシスタントだ。ユーザーの思考パターンを再構成して、心をより健康な状態にしてくれる。

AIとデータ解析

他の業界と同様、またブラジルに限らず、AIとデータ解析は、患者の診断のスピードアップから医療コストの管理に至るまで、医療を変革しつつある。

その中のイノベーターのひとつにGestoがある。データベースに蓄積した450万件以上の患者の情報を機械学習でふるいにかけ、有用な情報を引き出して、患者の治療を最適化すると同時にコストを管理し、企業にとって最適な保険プランの選択を助けてくれる。集中治療室の管理を専門とするブラジル最大手のIntensicareは、AIを利用して診断のための時間を短縮し、患者の滞在時間と死亡率の低減を目指している。レシフェに本拠地を置くスタートアップEpitrackは、クラウドソースのデータ、AI、予測分析を使って疫学をコンピューター化し、伝染病の大流行と戦っている。

電子カルテ

昨年、ブラジル政府は、国内4万2000箇所以上の公営診療所で扱う患者のカルテを近代化するプロジェクトを、2018年までに完了させると発表した。世界銀行によると、カルテの電子化によって、連邦政府の経費は68億ドル(約7630億円)削減できるという。昨年末の時点で、ブラジル人(2億800万人)のうち3000万人しか電子カルテを持っておらず、ブラジルの家族向け診療所の3分の2近くが、患者の電子カルテを作成する手段を持っていなかった。

SaaS電子カルテのプラットフォームであるiClinicは、医療の近代化に大きな影響を与えたブラジルでもトップクラスのスタートアップだ。医療の専門家によるカルテの分類を電子的に支援し、すべてのデータをクラウドに保管し、あらゆるデバイスで読み出せるようにする。iClinicは非常に使いやすいシステムであるため、医療の効率化、コストの削減、治療の質の向上が期待できる。現在、ブラジルの各地で利用されているが、ブラジル以外の20カ国以上にも利用者が広がっている。

処方箋のデジタル化

ブラジルでのデジタル化の遅れによるもうひとつの大きな問題として、70パーセント近くの処方箋に記述ミスの恐れがあるという点を世界保健機関(WHO)が指摘いている。そのためブラジルでは、投薬ミスの関連で年間数千人が死亡している。精査することで、かなりの人数が救えるはずだ。アメリカでは、すでに77パーセント以上の処方箋がデジタル化されている。

この生死の問題に対処するために、ブラジルの電子処方箋管理の中心的存在としてMemedが登場した。現在、ブラジルのすべての医療分野の5万5000人以上の医師がこれを利用し、アレルギーと薬物相互作用の照合を行っている。これにより、服薬コンプライアンスが容易になり、医療効果も高まる。同社は、ブラジルでもっとも充実した、信頼性の高い、最新の薬物データベースを開発している。

ブラジルのヘルステック関連のスタートアップは注視すべき分野として急成長しているのは確かだが、ヘルステック革新が解決に着手したこの国の問題は、まだまだ氷山の一角に過ぎない。フィンテックのような急成長分野をもうひとつ作れる重要な材料が、この国にはふんだんにある。ブラジルにおけるヘルステックは、今後長きにわたり、それを信じる起業家と投資家にとって、確実にホットな分野となる。

備考:Redpoint eventuresはMemedに投資しています。  

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(翻訳:金井哲夫)

資金調達に成功したスタートアップCEOの学歴事情

ファンドから投資を受けている会社のCEOになるのに学位は必要ではない。しかし、ハーバード大学やスタンフォード大学、その他スタートアップのトップを大勢輩出しているような大学12校のどこかを卒業していると、大いに有利になるだろう。

これが、我々が最近行なった卒業データ解析の結論だ。これは、過去100万ドル以上の資金調達を行なったスタートアップのCEOが、米国のどの大学で学んだのかというCrunchbase Newsの調査に基づいている。

1年前に実施した、ファンドから投資を受けたスタートアップの創業者たちの出身校についての調査で明らかになったことと、今回の調査でわかったことにさほど大差はない。しかし、いくつか目新しい点もあった。それは、主にこうした点だ。

創業者よりCEOを輩出するという点では、ハーバード大学の方がライバルのスタンフォード大学より優れている。この2つの大学は、CEO輩出ランキングではトップで、ほぼタイだ(創業者というくくりではスタンフォード大学の方が優っている)。

ビジネススクールの存在も大きい。MBAプログラムにチャレンジする人は減ってきている昨今だが、スタートアップのCEOの間では依然として人気がある。ハーバード大学やペンシルベニア大学など、リストに載っているCEOの半分以上がビジネススクールを卒業している。

大学で学ぶということは、それなりに影響を及ぼすことではあるが、しかしCEOになるのを必ずしも決定づけるものではない。全体から見ると少数だが、昨年おおよそ100万ドル以上の資金を調達した世界のスタートアップ800社超のCEOの出身校をみると、20校が大方を占めている。

以下に詳細を述べる。

CEOたちはどこの大学に行っているか

まず、学校ランキングをみてみよう。ここでは驚く事実はさほどない。CEOを輩出した大学としては、ハーバード大学とスタンフォード大学が群を抜いてトップで、過去100万ドルの資金を調達したスタートアップのCEOをそれぞれ150人近く出している。

そしてMIT、ペンシルベニア大学、コロンビア大学がトップ5に入る。続いて20位までは、アイビーリーグ(名門私立大学8校)や大規模な研究大学機関が占める。大学ごとのCEO数は下記のチャートにある。

スタートアップのCEOの間ではMBAが人気

確かに、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグはハーバード大学を中退している。スティーブ・ジョブズも1学期で学校を去っている。しかし、彼らはCEOとしては例外だろう。

ファンドから投資を受けている会社のトップの学歴はもう少し真面目なものだ。名の通った大学を卒業したり、トップランクのMBAを取得したり、というのが大方のコースだろう。

トップにくるようなビジネススクールに入れる学生は、そこの大学の学生数に比べてかなり少ない。にもかかわらず、CEOリストの中では不釣り合いにも大きなシェアを占めている。例えば、ペンシルベニア大学のビジネススクールであるウォートン校。ペンシルベニア大学を卒業したCEOのほとんどが同校出身だ。ハーバード大学にしても然り。ハーバード大学を卒業したCEOの半分以上が同校のビジネススクールを出ている。ノースウェスタン大学の経営大学院も同大学を卒業したCEOの半数近くを占める。

CEOの出身校は多彩

スタートアプのCEOの学歴は似ている部分が多い一方で、多様性もある。昨年5月以来100万ドルを調達したスタートアップのCEOは米国で3000人、そのほかの国で5000人いる。米国、そして米国以外の国どちらにおいても上記リストの学校を出ていない人が大半だ。

どうしてそんな計算になるのか、と思うのは不思議ではない。Crunchbaseに保存されているCEOの多く(おそらく3分の1以上)が大学を出ていない。この点を考慮してもなお、米国のCEOの半数以上がリストにある大学を出ているわけではない。米国以外の国のCEOでいえば、前述のリストにある大学を出ている人はかなり少ない。

こうした結果を鑑みて、卒業生に送るアドバイスはこうだ。資金調達を行えるようなスタートアップのCEOになりたいのなら、まずはスタートアップを立ち上げるのが確実、ということだ。学位は左右するかもしれない。しかし、決定づけほどのものではないのだ。

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(翻訳:Mizoguchi)

アメリカの労働力をハイテク指向に変える全国的教育訓練事業にGoogleが10億ドルを投入

労働の形が全世界的なレベルで急速に変わりつつある。労働が技術の影響で大きく変わったのはもちろんこれが初めてではないが、しかし今回は、オートメーションやロボット、AIなどの成長によって、これまでなかったような空前のペースで、従来的な仕事がなくなりつつある。そしてGoogleはほぼ確実に、この変化を推進している力の一つだ。

この検索巨人は、これまでも折りに触れて、このネガティブなインパクトを抑えたいという願いを表明してきた。そして今回は、言葉だけでなく、そのために10億ドルという大金を拠出することになった。今日ペンシルヴェニア州ピッツバーグで行われたイベントで、CEOのSundar Pichaiが、Grow with Googleと名付けた事業を発表した。これにより同社は向こう5年間、アメリカの労働者を教育訓練して起業を助けている非営利団体に、総額10億ドルの援助を行う。

そのイベントの場所が持つ意味は、ピッツバーグのここ数十年の成長を見てきた人なら、誰にでも分かるだろう。かつて鋼鉄の町(Steel City)と呼ばれたこの都市は、壊滅の瀬戸際から経済を蘇らせた理想的な範例として、何度も言及されてきた。ピッツバーグの場合、その主な推進力はテクノロジーだった。当地の名門校カーネギーメロン大学の支援によりピッツバーグは、ラストベルト(Rust Belt)の不況に沈むさびれた都市から、アメリカ有数のテクノロジーハブへと生まれ変わった。今ではピッツバーグの工場跡地で、ロボット工学や自動運転技術など、最先端のイノベーションが成長している。

Pichaiは、この町が彼自身にとっても特別の意味がある、と語った。彼は曰く、“24年前アメリカに来たとき、最初に見た都市がここだった。インターネットが本格的に活況を呈するまでは、ずっとここにいた。でも当時からすでに、ここは変わり始めていた。ハイテクの雇用が、急増していた”。

Grow with Googleイニシアチブの一環として10億ドルは、個人を対象とするインキュベータ/アクセラレータGoodwillへ行く。Google.orgからの一つの団体への寄付額としては、これまでで最大だ。この資金によりGoodwillは、アメリカの労働力をハイテク指向へ改造するための教育訓練事業Goodwill Digital Career Acceleratorを立ち上げる。また一方でGrow with Googleは、全国ツアーにより、各地の図書館や地域団体が主催するキャリア育成事業を支援していく。この部分の目標規模としては、5年間で100万時間/人ぶんのボランティア社員を投入する。

Pichaiはスピーチで述べた: “Googleでは、私たちのミッションは、情報が少数者ではなくみんなの役に立つようにすることです。ここピッツバーグでは、Googleの同じ情報に、小学生の子どもがカーネギーメロン大学の教授と同じようにアクセスできます。つまりインターネットは強力なイコライザー(平等化装置)であり、新しいアイデアを人びとが前進する力に換えます”。

このオンライントレーニング事業の詳細は、Grow with Googleのハブにある。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

23歳のバイオVCに投資戦略を聞く――老化防止ファンドのローラ・デミングは14歳でMITに入学した天才

ローラ・デミングはありきたりのベンチャーキャピタリストではない。いや、デミング自身がいろいろな意味でありきたりの人間ではない。

現在23歳のローラ・デミングはニュージーランド生まれて家庭で教育を受けた後、数学と科学、とくに老化を防止するテクノロジーに強い興味を抱くようにんった。デミングな11歳のときに老化防止の研究で著名な分子生物学者、Cynthia Kenyonにメールし、「家族とアメリカ旅行する機会にサンフランシスコの研究室を見学できないだろうか?」と尋ねた。Kenyonは見学を承諾しただけでなく、デミングの訪問の後、この研究室で働きたいという希望にもイェスと答えた。

ローラの希望をかなえるためデミング家はアメリカに引っ越した。結局家族もこの異例の決断を後悔してはいないだろう。ローラ・デミングは14歳の若さでMITに入学し、2年後、つまり16歳で大学をドロップアウトした。それはピーター・ティールのThiel Fellowshipプログラムに参加するためだった。さまざまな面で論議を巻き起こすベンチャー・キャピタリストのティールがその前年にスタートしたのは、大学をドロップアウトして「新しい事業を始める」20歳未満の若者に10万ドルの資金を供与するというプログラムだった。

「新しい事業」というのは始めてみてから何度も方向を変えることがある。しかしデミングの場合はそうではなかった。デミングの関心は徹底してアンチエイジングだった。デミングはいくつかのスタートアップの起業を経てベンチャーキャピタリストに転じ、老化防止の研究、開発を行うスタートアップを支援するLongevity Fundを設立した。このアーリーステージ・ファンドが2200万ドルに上る2回目の組成を完了したの機にTechCrunchではローラ・デミングにインタビューを試みた。

TC: あなたのキャリヤがカリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授への1通のメールで始まったというのは驚くべきことですね。

LD: [Cynthia Kenyon] はすばらしい人です。今まで会った人の中で最高。

TC: 彼女の研究室ではどんなことをしたのですか?

LD: 私たちは小さい透明な虫を実験に使いました。実験用のゼリーの上に置くと透けてみえるので何が起きているかわかるのです。遺伝子を操作するとその結果が分かります。寿命を延ばしたのか縮めてしまったのか? 栄養供給を減らすと虫の寿命が伸びました。その状態である遺伝子をノックアウトして取り除くとどうなるか? 私はまったくの初心者でしたが、一番寿命の長い虫を作り出そうとする熱意に燃えていました〔笑〕

TC: MITではどんなことを?

LD: 私は物理を専攻しましたが同時にいくつかのラボでの研究も続けていました。そのひとつがLenny Guarente [寿命延長の研究で知られる生物学者]のラボです。とてもおもしろかった。私は科学者になるつもりでしたが、ティール・プログラムのこと知っている院生がいて応募してみたらと勧めてくれました。そこで応募してみたのですが、最近ティール・プログラムのディレクターの一人と話す機会があって、彼は私が失敗するだろうと思っていたそうです。もちろん当時彼は熱心に手助けしてくれましたが。.私が最初のファンドの組成を完了したとき、彼は「ここまでやるとは思っていなかったよ」と言ってました。

TC: なぜでしょう?

LD: ひとつには、ほんの少し前まで、ほとんどのベンチャーキャピタリストは老化防止研究になにかビジネスチャンスがあると思っていなかったということがあります。アンチエイジングという分野は非常に若いテクノロジーなので普通のVCたちは何も知らなかったのでしょう。しかし私は小さいころからずっとこの分野に強い興味があり、研究を続けてきました。ビジネスチャンスについての見通しとは別に、知識は豊富でした。老化防止というのは[多くの有力バイオテック企業が]ガンの研究をするのと似たところがあります。ガンの研究に将来性があるならアンチエイジングにも同じくらい将来性があるはずだと私は考えました。

TC: 1号ファンドの額はどれほどでしか?

LD: 総額で400万ドルでしたが、私は大いに満足しました。実際私はティール・プログラムの10万ドルは十分な額だと思っていました。サンフランシスコに来てみると、この額で起業し2年間やっていくことは十分可能でした。私が資金集めを始めたのは17歳のときで、実際若すぎて法律的には契約にサインできる年齢に達していませんでした。それ以前にお金の管理をした経験もありませんでいた。しかし私は投資家にアンチエイジングを説明し、投資を決意させることができました。さいわい何人かの重要な投資家を確保でき、私がこれぞと考えた5社に投資することができました。

TC: その重要投資家の一人はピーター・ティール?

LD: 私たちはLP(リミッテッド・パートナー)の具体的な名前は公開しないことにしています。

TC: 「わたしたち」ということですが、あなたはこのLongevity Fundの唯一のゼネラル・パートナーでは?

LD: そのとおりです。しかしこのファンドを運営するには大勢の人々によるオフィス運営が欠かせません。Longevityという組織はさまざまな分野のトップクラスの人材の協力によって成り立っています。ですから私がゼネラル・パートナーであっても業務のすべてを取り仕切きれるわけではありません。

TC: そうしたアドバイザーはいくぶんかのファンドの持ち分も取得する?

LD: そういう場合もあります。ただ若い層、特に院生クラスではキャッシュによる報酬を受けることを選ぶ場合も多いですね。私たちはそれぞれの場合に応じてベストのインセンティブを提供できるよう努力しています。

TC: あなたファンドの投資企業の一つはUnity Biotechnologyですね。 老化を逆転させる治療法を研究しているスタートアップですが、この会社は今週1億5100万ドルのシリーズBラウンドを実施していますね?

LD: そのとおりです。ただしLongevityのポートフォリオ企業はすべて [少なくとも]シリーズAのラウンドで3000万ドルかそれ以上を調達しています。

TC: Giそうした投資額から判断すると、SPV〔特別目的事業体〕を組成したのは一部の投資先が大ブレークすると考えてのことですね?

LD: 私たちの選んだ投資先にLPがフォロー投資してくれることを期待してます。双方に利益があるようできるかぎり努力中です。Unityの場合、私たちは最初期から最大の投資をしてきました。ファウンダーのNed Davisが驚くべき人物であり、彼のアンチエイジングの研究は必ず実を結ぶと信じたからです。

TC: 今回クローズした2回目のファンドはどのように投資する計画ですか?

LD: 8社から10社に投資していくつもりです。

TC: 最近、投資家が老化防止分野に突如関心を抱き始めたようです。これはあなたのファンドの運営を難しくしませんか?

LD: いいえ、そういうことにはならないと思います。最初のファンドを組成したとき、わたしたちは投資契約を結ぶ前に候補のスタートアップを最大6ヶ月にわたって観察してきました。スタートアップが実際に資金調達を始める前から調べていたわけです。LPがわれわれのファンドに利点を見出したのはそこです。Longevityがスタートアップについて詳細に知っているため、LPは投資する際にデューディリジェンスを細々とやり直す必要がない。どんな会社に投資するのか予めわかっているというのは有利です。わたしたちは会社のあらゆる面について調べ、[この分野で]ベストの会社だという確信を持ってからポートフォリオに加えてきました。

その上でいえば、これまで困難だったのは有望なスタートアップに新規の投資家を引き込むことでした。つまりアンチエイジングは有望なビジネスとなるということを納得させるのが大変だったのです。しかし今やそういう困難はありません。これはたいへんうれしいことです。わたしたちはポートフォリオ企業に適切な投資家を探し出すことに専念できます。老化防止が有力な市場に育ってきたのは素晴らしいことだと思います。

TC: あなたはアンチエイジング関係のテクノロジーについて豊富な知識があると思いますが、 若者の血を飲んで精気を維持するというバンバイアものはHBOの『シリコンバレー』のよい題材になりそうですか?

LD: [笑] 科学的に興味がないことはありませんが、メディアはいささかバンバイア・テーマを取り上げ過ぎる気がします。5歳児の血を飲んで若返る怪物についての記事なら数多くクリックされるが、老化の過程に関与する多様な遺伝子的要素を一つずつ検討することはあまり関心を呼びそうにないとメディアとしては考えるのでしょう。

〔日本版〕ビデオはTEDで講演するローラ・デミング(19歳当時)。デミングの経歴についてはティール・フェローシップ参加者を詳しく紹介した20 under 20(アレクサンドラ・ウルフ著、滑川・高橋訳)に詳しい。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

デイブ・マクルーア、500 Startupsのゼネラル・パートナーも辞任

TechCrunchはデイブ・マクルーアが500 Startupsのゼネラル・パートナーを辞任したという情報を得た。リミッテッド・パートナーに送られた書簡によれば、共同ファウンダーのChristine Tsaiがマクルーアに辞任を求め、マクルーアもこれを受け入れたという。

われわれは500 Startupsに対しコメントを求め、マクルーアの辞任を確認した。マクルーアはすでに500の経営から離れている〔訳注〕。

リミッテッド・パートナーに送られた書簡によれば、Tsaiおよび経営陣は長期的な見地から500 Startupが成功を収めるためにはマクルーアが500グループのすべてののゼネラル・パートナーの職を含め同社から完全に離れることが最善であるという結論に達したという。500はアメリカだけでなく全世界に10を超える投資機関を持っている。

Tsaiはまた(当初報じられたものとは)別のセクハラが報告されたことについても調査を行い、「受け入れがたい行動であったという結論に達した」と述べている。。

Tsaiによれば、500はマクルーアに今後さらに同種の問題が発覚する可能性がないとはいえず、マクルーアを降板させことが必要だと考えた。しかしマクルーアは共同ファウンダー、ゼネラル・パートナーであり、そうするためには本人の同意が必要だった。マクルーアは辞任に同意した。

先週、マクルーアは500を襲った嵐の中心だった。 ニューヨークタイムズの記事でファウンダーのSarah Kunstに対してマクルーアが不適切な性的ほのめかしを行ったことが報じられた。マクルーアは500の運営中、女性に対して不適切な行動を取ったことが複数回あることを公開状で認め、謝罪した。昨夜、500 Startupsはオーストラリアの投資パートナー、LauchVicに対し、マクルーアのセクハラの苦情に対する社内調査を隠していたことについて謝罪した

社内調査が行われた時期、マクルーアの降板の経緯、また500との関係等についてはまだ不明な点がある。さらに取材中だ。

リミッテッド・パートナーに対するTsaiの書簡は下記のとおり。

〔日本版〕 原文はstepped down as CEOだが、500 Startup JapanによればCEOの職は新設されたものでマクルーアはもともとCEOではなかったという。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

500 Startupsのデイブ・マクルーア、セクハラでCEO辞任――ゼネラル・パートナーには残る

500 Startupsのファウンダーであり顔だった著名な投資家、デイブ・マクルーアが会社の運営から退くこととなった。500 Startupsは非常に有名でありかつ大きな成果を挙げてきたアクセラレーター・プログラムだ。マクルーア自身が500 Startupsのイメージそのものだった。マクルーアの離任は最初にNew York Timesで報じられた。

職業的あるはメンター、投資家として女性に接する際にセクハラないし不当な性的行動があったという疑惑による社内調査の結果、失脚した著名な投資家はマクルーアが初めてではない。

InformationがBinary Capitalの共同ファウンダー、Justin Caldbeckのセクハラ問題を報じて以後、 ベンチャーキャピタルのコミュニティーでは多くの女性起業家がハラスメント(場合によっては不適当な物理力の行使)を訴えるようになった。

Uberへの投資の成功などで知られる有力投資家のChris SaccaもNew York Timesの報道を契機に投資事業から離れた。Saccaは今日(米国時間7/1)Mediumに謝罪を掲載した。【略】

Saccaが投資から離れた後、Saccaの元パートナー、Matt MazzeoはBinary Captialに参加していたものの、Coldbeckと共にBinariy Captalから去った

一方、500 Startupsの新しいCEO、Christine Tsaは次のように声明を発表した。

最近、テクノロジー・コミュニティーに属する女性に対し共同ファウンダーのデイブ・マクルーアに不適切な性的言動があったことが判明した。マクルーアの言動は受け入れがたいものであり、500 Startupsの企業理念に反する。【略】

このため、われわれは数ヶ月前に500の経営体制を抜本的に改革する必要を認め、私がCEOに就任することとなった。この職務は経営チームを指揮すると同時に500の日常業務全般を監督する。

デイブ・マクルーアの役割はゼネラル・パートナーとして既存の投資家に対する義務を果たす範囲に留められる。またマクルーアは過去の不適切な行動を改めるべくカウンセリングを受ける。【略】

画像: Jared Goralnick/Flickr UNDER A CC by-ND 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

起業、失敗、そして新しい挑戦――私が起業から学んだこと

創造への欲求というのはなかなか消すことができない。私も人生を通してこの欲求を感じてきた。小学校時代の友人Rickとつくった漫画や曲、執筆した(そして執筆しようとした)本、これまでにつくり上げてきた数々のプロジェクトまで、その例を挙げると枚挙にいとまがない。今日の世界では、オンライン上で意義のあるものをつくるのはある意味簡単で、ある意味難しい。だからこそ私は、昨年あるスタートアップを畳んだ後に、Jaywalkというプロダクトを新しいチームと共に作ろうと決めた。

初めて設立したスタートアップからは多くのことを学ぶことができた。企業家精神そのものについても学べたし、会社設立から、資金調達、そして最終的に会社を畳むまでの浮き沈み(主に沈み)も経験できた。何かを夢見て、その夢が消えようとする中で生まれる特別なプレッシャーに押しつぶされ、ある友人との関係はねじ曲がり、また別の友人との関係は崩壊した。

起業は決して愉快なものではないのだ。

結局のところ、私は自分が特別だと思っていた。長い間スタートアップ業界について書いていたし、私自身は生意気でちょっと変わっていて、何か意味あるものをつくろうとしている人が経験しなければならない痛みについては何も知らなかった。もちろんシードラウンドやエンジェル投資家、開発やメディア露出など机上の知識は持ち合わせていたが、実際に起きることを身をもって経験していなかったのだ。今ではそうじゃないと思いたい。少なくともこれまでの経験から、未来についてもっと現実的に考えられるようにはなっただろう。

テックメディアは、スタートアップをまるで何かのパーティーかのように見せている。友だちとたむろして、少しだけコーディングして、そうすればお金が手に入るといった感じで。若い頃はラーメンを食べてヘビメタを聞いていれば生きていけたし、会社をひとつ潰しても無傷で次の目標に向かえる。アクション映画の中で、爆発するヘリコプターを背後に立ち去っていくヒーローのように。

しかし現実はもっと奥深い。まず、アメリカに住むスタートアップファウンダーの平均年齢(かつ年齢の中央値)は39歳だ。世界をまたにかける若いファウンダーの話を耳にすることが多い一方で、何年もの経験を持った、もっと年上のファウンダーの話を聞くことはめったにない。ある業界について熟知しているであろう彼らは、経験を活かしたアイディアでその業界を変えようとしているのだ。良いスタートアップというのは、従来のビジネスを文字通り”破壊(ディスラプト)”するわけではない。彼らは物事を改善し、そのような努力が集積した結果として既存のやり方が破壊されるのだ。

また、私は起業を経験したことで、以前よりも人を思いやれるようになった。それ以前の私は、世界中を駆け回って、仕事を辞めてやらなければいけないことをやり、できるだけ速く前進して改革していけと声高に叫んでいた。それも今は昔の話だ。今では副業やサイドプロジェクトの価値も理解しているし、事前の調査や計画の重要性についても知った。スタートアップが成功する確率がどれだけ低いかも分かったし、今では私なりのやり方で、来たる日が来るまで世界は冷たく無慈悲で自分のアイディアには興味がないということを(私のように)理解しつつある、遠く離れた地に住む新米ファウンダーの悲しみを和らげようとしている。数々の口論や失敗、気まずい沈黙の中、彼らを支えているのはいつか起きるであろうブレイクスルーへの期待なのだ。

さらに私は、VCの良さや危険性、自己資金でのスタートアップ運営に誇りを持っている人たちの気持ち、さらには小さな街で光る起業家精神の大切さについても学んだ。なぜ起業経験が将来の役に立つのかということも分かった。だからこそ私は、さまざまな場所を訪れてスタートアップのファウンダーと会うときには、いつもよりも親切に、そして否定的になるのではなく救いの手を差し伸べるように努めている。ようやく私も「親切であれ、誰もが厳しい戦いを強いられているのだ」という古い言葉の意味を理解したのだ。

幸運にも私の周りには賢い人たちがいる。最近立ち上げたJaywalkでは、私にとって初めてのスタートアップでも運命を共にした、大学時代からの友人Richと再びタッグを組むことになった。コロラド州ボールダーで行われているアクセラレータープログラムのBoomtown内で出会った強固なチームも加わり、現在私たちは開発・UXチームを構築しながら、近所を歩き回って新しいものを発見することの喜びを味わえるようなアプリを開発している。このアプリが私にとってとても大切な理由はいくつかある。その中でも分かりやすいのが、子どもを外に連れ出すときに、公園に行こうと言うよりも帰りにクッキーを買おうと言う方がずっと楽というものだ。私たちは、人々を携帯電話の世界から現実世界に呼び戻そうとしているのだ。

1年前くらいに、最初のスタートアップが失敗に終わった後どのように感じたか、というテーマで講演を行った。「This is fine」という講演のタイトルは、火の上がった喫茶店の中で座っている犬が描かれた漫画からとったもの。そして私は次の言葉に焦点を当てた。

「人生に火をともしなさい。そしてその火をあおいでくれる人を探しなさい」
ルーミー

当初私はこの言葉に困惑し、スピリチュアルなデタラメだと思っていた。スタートアップの失敗に困り果てていた私は、この言葉を警告のように捉え、「人生に火をつけ、燃え上がる様子を眺めておけ。この愚か者」という意味だと理解したのだ。しかも、私が実際にやっていたことと、この理解はマッチしていた。素晴らしいフルタイムの仕事を辞め、家族をリスクにさらし、愛を持って接していた人たちとの関係を壊し、まさに人生が燃え上がっていた私に、ルーミーはさらにその火を燃え上がらせろと言っている。燃え上がった私の人生をどうあおぐかで誰が敵かわかるだろう、と彼は言っているのだと私は考えていたのだ。

完全に間違っていた。

その後、このルーミーの言葉は全く別のことを意味していることに気がついた。私を成長させ、人生という冒険の可能性を最大限に引き出す手助けをしてくれるような仲間を見つけろ、というのが本当の意味だったのだ。自分の心にともされた火を大きくしてくれるような人。燃え尽きるのではなく、明るく燃え上がるのを手伝ってくれるような人だ。

そして私は、家族や友人、オンラインコミュニティーの中にそんな人がいることに気づいた。さらにはアクセラレーターで早くから私たちの可能性にかけてくれた人、そして一緒にプロダクトをつくっている仲間にもそんな人がいた。

私はこれまでの20年間、心理的に閉じこめられた状態で執筆活動を行ってきた。私にとって、何かをつくるというのは孤独な道のりだった。しかし私の火をあおいでくれる仲間が、屋根裏部屋のようなところに閉じこもった私を引っ張り出してくれ、ようやく私は誰かと何かをつくりはじめることができた。コンサートで複数の音楽家がひとつの演奏をつくりあげるような、この取り組みこそが人間を人間たらしめるものなのだ。私の仲間は、燃え尽きようとする私に追い打ちをかけるのではなく、闇に光をあてるために私の心の火を燃え上がらせてくれた。

何か新しいものをつくっている、ということを伝える内容としてはかなり長くなってしまったが、何かニュースがあればまたお知らせしたい。もしもあなたが何か必要であれば声をかけてほしい。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Appleのオリジナル番組は「マネーの虎」プラス「エスカレーターピッチ」―ジェシカ・アルバも審査員

2017-02-15-planet-of-the-apps

AppleはついにオリジナルTV番組のベールを外した。公開されたのはAppleとして初めてのリアリティー・ショー形式の帯番組の予告編だ。Planet of the Apps〔Appの惑星〕と名付けられたこの番組は、RecodeのCode Mediaカンファレンスで予告編が公開された。予告編から判断すると番組は起業家がベンチャーキャピタリスに事業計画を売り込むShark Tank〔アメリカ版「マネーの虎」〕のフォーマットのようだ。

ジェシカ・アルバ、グィネス・パルトロー、Will.i.am、ゲイリー・ヴェイナーチャックという4人のセレブが審査員を務める。売り込みの勝者に投資する大役を担うベンチャーキャピタルはLightspeed Ventureだ。

また予告編ではYelpやUberが起業家チームにアドバイスしていた。勝者が作成したアプリはApp Storeのホームページで大きく取り上げられる。

番組はApple Musicで公開される。Appleは全番組を一度に公開するのではなく、毎週1エピソードずつ公開する予定だ。

しかし予告編でいちばん面白かったのはエスカレーターピッチ(ママ)というセクションだ。起業家チームは開発しようとするアプリの内容を審査員に売り込むために60秒が与えられる。ご存知のように現実の世界ではこうした売り込みはエレベーターピッチと呼ばれる。エレベーターに乗り合わせたくらいの短時間で事業を売り込むからだ。

製作のPropagateというプロダクションはセットに文字通りエレベーターを作り込もうとしたのだろうが、テレビ番組のセットとするにはエレベーターには無理があった。そこで起業家はエレベーターの代りにエスカレーターに乗せられることになったようだ。エスカレーターピッチというのが現実にも流行るかもしれない。

エスカレーターはともかくとして、予告編を見るかぎりたいへん面白そうな番組だ。放映されるのが待ちきれない!

〔日本版〕「マネーの虎」のフォーマットは番組終了後もDrogon’s Denとして各国に輸出された。アメリカ版のShark Tankは好評でリアリティー番組部門でエミー賞を受賞した。ジェシカ・アルバはHonest CompanyのファウンダーとしてTechCrunchにも度々登場している。ビデオの45秒付近で起業家がエスカレータを模した通路を下りながら事業内容を説明するところが映る。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ベンチャー資金―使い方を誤ればスタートアップの麻薬になる

Long exposure of cars traffic at night

この記事はCrunch NetworkのメンバーのEric Paleyの執筆。PaleyはFounder Collectiveのマネージングディレクター。

この数年、巨額の金がスタートアップにつぎ込まれている。資金を集めるのが簡単でコストがかからないというのはもちろん有利だ。ファウンダーは単に多額の資金を得られるようになっただけでなく、以前だったら資金集めが不可能だった巨大なプロジェクトを立ち上げることができるし、中には実際ユニコーン〔会社評価額10億ドル以上〕の地位を得るものも出ている。

このトレンドの負の面については、「これはバブルだ」という議論が常に持ち出される。こうした警告は主として経済環境やビジネスのエコシステムのリスクに関するものだ。

しかしスタートアップのファウンダーが日々するリスクについての分析はめったに行われない。簡単にいえば、こういうことだ―より多くの資金はより多くのリスクを意味する。問題はそのリスクを誰が負うのかだ。物事がうまく行かなくなってきたときどのようなことが起きるのか? なるほど資金の出し手は大きなリスクを負う。しかしリスクを負うのはベンチャー・キャピタリストだけではない。

ベンチャー・キャピタルでファウンダーのリスクは増大する

短期的にみれば、ベンチャー資金はチームの給与をまかなうために使えるのでファウンダーが負う個人的リスクを減少させる。ファウンダーは開発資金を確保するためにクレジットカードで金を借り入りるなどの困難に直面せずにすむ。しかし、直感には反するかもしれないが、ベンチャー資金の調達は、次の2つの重要な部分においてリスクを増大させる。

エグジットが制限される

ベンチャー資金の調達はスタートアップのエグジット〔買収などによる投資の回収〕の柔軟性を奪うというコストをもたらす。またバーンレート〔収益化以前の資金消費率〕をアップさせる。実現可能性のあるスタートアップのエグジットは5000万ドル以下だろう。しかしこの程度ではベンチャー・キャピタリストにはほとんど利益にならない。ベンチャー・キャピタリストはたとえ実現性が低くてはるかに大型のエグジットを望むのが普通だ。

ベンチャー資金というのは動力工具のようなものだ。動力工具なしでは不可能が作業が数多くある―正しく使われれば非常な効果を発揮する。

巨額のベンチャーを資金を調達したことによって引き起こされた株式持分の希薄化に苦しむ起業家は非常に多い。巨額の資金調達は、実現性のあるエグジットの可能性を自ら放棄することを意味する。その代わりに、ほとんどありえないような低い確率でしか起きないスーパースター的スタートアップを作ることを狙わざるを得ない状態を作りだす。何十億ドルものベンチャー資金が数多くの起業家にまったく無駄に使われている。スタートアップに巨額の資金を導入しさえしなければ現実的なエグジットで大成功を収めたはずなのに、実現しない大型エグジットの幻を追わされた起業家は多い。.私のアドバイスはこうだ―実現するかどうかわからない夢のような将来のために現在手にしている価値を捨てるな。

バーンレートが危険なレベルに高まる

エグジットが制限されるだけでなく、ベンチャー資金の導入はバーンレートのアップをもたらすことが多い。 スタートアップのビジネスモデルが本当に正しいものであれば、バーンレートの増大は有効な投資の増大を意味する。ところが、スタートアップがそもそも有効なビジネスモデルを持っておらず、増大したバーンレートが正しいビジネスモデルを探すために使われることがあまりに多い。残念ながら正しいビジネスモデルは金をかけたから見つかるというものではない。そうなれば会社はすぐにバーンレートそのものを維持できなくなる。CEOは節約を考え始めるが、そのときはもう遅すぎる。すでにベンチャー・キャピタリストの夢は冷めており、熱狂を呼び戻す方法はない。

導入された資金はすべて持分を希薄化させるものだということを忘れてはならない。粗っぽく要約すると、スタートアップは資金調達後の会社評価額を2年で3倍にしなければならない。1ドル使うごとに2年以内に3倍にして取り返せるというか確信が得られないなら、そういう金を使うべきではない。というか最初からベンチャー資金を調達すべきではない。

繰り返すが、ベンチャー資金は動力工具だ。つまり使用には危険が伴う。しかし未経験な起業家はどんな夢でも常に叶えてくれる打ち出の小槌と考えがちだ。チェーンソーがなければできない作業は数多い。しかし間違った使いかをすれば腕を切り落とされることになる。

ベンチャー・キャピタリストには10億ドルのエグジットが必要―起業家はそうではない

10億ドルのエグジットはもちろん素晴らしい。しかし起業家は最初からそれを成功の基準にすべきではない。ユニコーンを探すのはベンチャー・キャピタル業界特有のビジネスモデルではあっても、スタートアップの成功はそういうもので測られるべきではない。

10億ドルのベンチャー資金の背後にあるビジネスの論理を簡単に説明しよう。

  • ベンチャー・キャピタリストが10億ドルのファンドを組成する。成功とみなされるためにはそれを3倍に増やさればならない。
  • ベンチャー・キャピタリストは30社に投資する。
  • ベンチャー・キャピタリストは10社についてブレーク・イーブン、10社について全額を失う。すると残りの10社は平均して3億ドルの利益をファンドにもたらす必要がある。。
  • ベンチャー・キャピタリストのスタートアップの持分は通常2割から3割だ(それより低いことも珍しくない)。このビジネスモデルでは、1社10億ドル以下のエグジットではベンチャー・キャピタリストにとって成功とはみなせないことになる〔10億ドルのエグジットならVCの利益は2-3億ドルとなる〕。

こういう仕組みがあるのでベンチャー・キャピタリストは10億ドルのエグジットを求める。10億ドルのエグジットがたびたび起きないことが事実であっても、大型ベンチャー・ファンドのビジネスモデルがそれを要求する。
単に10億ドルのレベルだけの問題ではない。ベンチャー・キャピタリストのビジネスモデルは2.5億ドルのエグジットについても同じことを要求する。

資金に洞察力はない―それは単なる金に過ぎない

おおざっぱに言って、スタートアップのエグジットは資金の元となったファンドの総額以上でなければベンチャー・キャピタリストにとって重要な意味があるとはみなされない。これはもちろん「尻尾が犬を振る」ような本末転倒だ。ベンチャー・キャピタリストはファウンダーに「ビッグを目指せ。でなければ止めろ」という非合理な行動をけしかけている。誰も表立って言わないが、「ビッグを目指せ。でなければ破滅だ」というのが裏の意味だ。

もしスタートアップが失敗したら―これは多くのスタートアップがたどる道だ―30社に投資しているベンチャー・キャピタリストはあとの29社に期待をつなぐことができる。しかし起業家には自分のスタートアップ以外に後がない。スタートアップを育てるために注ぎ込んだ努力と時間はまったくの無駄になる。つまりベンチャー資金の調達ラウンドでは、通常、資金の出し手より受け手の方がはるかに大きなリスクを負う。

もちろん一部のファウンダーにとってベンチャー資金は必須のものだ。しかし―フェラーリは確かに優れた車だが、普通の人間が家を抵当に入れてまで買う価値があるかは疑問だ。通勤やスーパーで買い物するためならトヨタ・プリウスを買うほうが賢明だろう。

エグジット額は見栄の数字

もしファウンダーの目標の一つに金を稼ぐことが入っているなら、エグジット額に気を取られるのは愚かだ。スタートアップを10億ドルで売却したにもかかわらず手元に残った利益は1億ドルで売ったときより少なかったということはしばしばある。

身近な例でいえば、Huffington Postは3億1400万ドルでAOLに売却され、ファウンダーのアリアナ・ハフィントンは1800万ドルを得たという。一方、TechCrunchのファウンダー、マイケル・アリントンは同じAOLにTechCrunchを3000万ドルで売却し、2400万ドルを得たと報じられた。ベンチャー・キャピタリストの立場からすればTechCrunchの売却は「大失敗」だ。ベンチャー・キャピタリストならマイケルに「そんな値段では売るな」と強く勧めただろう。ところがマイケル・アリントンはこの取引でアリアナ・ハフィントンより多額の利益をえている。

起業における練習効果

私がベンチャー・キャピタリストから何度も聞かされた議論は、ファウンダーはポーカーでいえばオールインで、全財産をつぎ込むのでなければスタートアップを成功させることはできないというものだ。これはもちろんナンセンスだ。スタートアップを10億ドルに育てるためにはまず1億ドルにしなければならない。起業家は一足飛びに10億ドルに到達できるわけではない。現金化のレベルに到達するまでにはさまざまな段階を踏まねばならない。次の1歩に集中していてもなおかつ、結局はスケールの大きいエンドゲームにたどりつくことはできる。

まだ実現してい将来のために現在を売り渡してはならない

これは本質的に重要な点だ。成功したとみなされるスタートアップを見てみるとよい。WayfairBraintreeShutterstockSurveyMonkeyPlenty of FishShopifyLyndaGitHubAtlassianMailChimpEpicCampaign MonitorMinecraftLootCrateUnityCarGurus and SimpliSafe等々。こうしたスタートアップはどれも最初から「10億ドルか死か」というような考え方と無縁だった。にもかかわらず、このリストには10億ドル以上の企業が多数含まれている。こうした企業はスタート当初はほとんど、あるいはまったくベンチャー資金を導入していない。プロダクトにニーズがあり、市場に適合していることが明らかになり、さらに需要な点だが、ファウンダーが企業を拡大するためにどのように資金を使ったらいいかわかるようになってからベンチャー資金を調達している。なかにはベンチャー資金に一切頼らなかったスタートアップもある。

上に挙げたようなスタートアップは最初の1日から資金の使い方が非常に効率的だった。こうしたスタートアップには上場したものもあるし、10億ドル以上の金額で大企業に買収された会社もある。私は外部資金に頼らない起業、いわゆるブートストラップを特に推奨するものではない。しかし資金を賢明に使って企業を育てたファウンダーのやり方には学ぶべき点が多々あるとはずだ。

賢いのは人間で、金ではない

私は10億ドル起業のファウンダーとなることを目指すこともできたかもしれないが、事実は起業した会社を喜んで1億ドルで売却した。スタートアップを10億ドルに育てることも1億ドルに育てることも同じくらいの確率で実現するという誤った思い込みをしている起業家が多すぎる。なるほど10億ドルでエグジットするというのはファウンダーの夢としてはすばらしい。しかし5億ドルのエグジットなら間違いなくホームランだし、1億ドルのエグジットは驚くべき成功だ。
5000万ドルのエグジットでも大勢の関係者の生活を一変させるようなインパクトがある。そもそも100万ドル程度の「はした金」の現金化でファウンダーには大きな影響がある。

要するに、エグジットの可能性を早まって売り渡してはならない。持分やオプションを売るのは、スタートアップの将来価値が現在よりはるかにアップするという確信が得られてからにすべきだ。いかに多額の資金を導入しても洞察力が増すわけではない。堅実なビジネスを宝くじの束などと交換してはならない。

会社をスケールさせる必要があるからといっても道理に合わない多額の資金を調達することはビッグ・ビジネスを作る道ではない。起業家は大きく考え、大きな夢を持つべきだ。ベンチャー・キャピタリストの助力を得ることはよい。だがベンチャー資金をステロイドのように使うのは致命的だ。「効率的なスタートアップ運営」をモットーにすべきだ。断っておくが、私は起業家は小さい会社を作るべきだかとか小さい問題だけを解決すべきだとか言っているわけではない。正しい理由があるならなんとしてもベンチャー資金を調達すべきだ。しかしベンチャー資金ラウンドの華やかな見かけのために将来を売り渡してはならない。ベンチャー資金はファウンダーの自由を奪い、不必要に高いバーンレートをもたらす可能性がある。

実は大部分のスタートアップにとってベンチャー資金の導入は正しい選択ではない。正しく使われればベンチャー資金はきわめて有効だ。しかし残念ながら、多くの起業家は正しい使い方をしていない。

画像:xijian/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

私たちがあなたの会社に投資しない11の理由

Close-Up Of Pencil Crossing On Checklist

【編集部注】著者のPhil Nadel氏はBarbara Corcoran Venture Partnersの共同創業者でディレクター。

ほとんどのVCと同じように、私たちは毎週しばしば数十件に及ぶ案件をレビューする。私たちは、私たちの一般的な投資基準(例えば業界、ステージ、モデル)に適合しないものを、素早く排除することができるフィルターを開発した。

この初期選考プロセスを生き残った案件は、更なる精査と適性評価の対象となる。このプロセスは様々な観点を含んでいる。財務諸表と収益予測;創業者、顧客、他の投資家との議論;その会社、製品、そして業界に関連するサードパーティ情報のレビューなどだ。このプロセスの様々な段階で、企業は更なる考慮から除外されていき、最後に、残されたレビュー対象の少ない割合の案件に対して、最終的な投資を行うのである。

ある会社に投資しないことを決定するとき、私たちは常に創業者たちに、不採用の決定の理由を説明するための時間を設けている。この記事の目的は、私たちが企業に投資しない決定をした主要な11の理由についてのレビューを提供し、これからの創業者の方々の資金の調達のチャンスを向上させることである。

透明性/率直さの欠如。 私たちは創業者が率直ではない場合には、直ちに興味を失う。ベンチャー投資は信頼関係に基づいているのだ;不透明であることは関係に対する不吉の始まりである。

占有性/防御性の欠如。 もし企業が、潜在的な競合相手に対抗するための独自性を占有していない場合、その成功はやがて没落に繋がる。

これが何を意味するのか?堀がなければ、会社の成功は簡単に模倣されてしまう。成功すればするほど、より多くの競合を引き寄せてしまうのだ。しかしもし、その会社が秘密のソースを持っていたなら ば ‐ 技術、プロセス、知識、関係、その他などが含まれる – 持続的な成長のオッズは遥かに高くなる。先発であることの利点は、初期の段階では有用だが、それは長期的には通常あまり助けにはならない(例えばMySpace)。

実績がありスケーラブルな有償マーケティングチャネルの欠如。 私たちは、当社の資本を収益成長の燃料として使うことができる企業に投資することを好む。もし対象企業がまだ、スケーラブルでコスト効率の高いマーケティングチャネルを見つけていない場合には、それらを見つけるための実験とテストに私たちの資金を燃料として使うことになりがちだ。

私たちは、実績あるチャネルを拡大するために私たちの投資を使用できるように、少なくとも既にそうした初期テストを十分に行っている企業に投資することを好む。有償顧客の獲得を心の底から理解していて、私たちの成長に関する質問に「グロースハッカーを雇いますから」と答えない創業者たちに、私たちは強く惹かれる。

自身の主要業績評価指標(KPI)を知らない。 私たちは創業者によるその企業自身のKPIに対する知識の深さと、会社の成功との間には、直接的な相関関係があることを発見した。

私たちは、創業者がその会社に全てを捧げていることを確認したい。

まず、創業者たちは彼らのビジネスに、どの指標が重要であるかの理解を示さなければならない。次に、彼らはそれらのメトリックスを適切に測定し、計算していることを示さなければならない。最後に、彼らは各KPIに影響を与えるにはどのレバーを引くべきか、ビジネスを成功させるためには、どのKPIを微調整する必要があるのかについて熟知していなければならない。

短い予算計画。 私たちが企業に投資する場合、少なくとも12ヶ月分の月次予算計画を持っていることを望んでいる。資金の調達には多くの時間と労力が費やされ、ビジネスの成長から創業者たちを遠ざけてしまう。私たちは、会社がすぐに別の資金調達ラウンドにとりかかる心配なしに、チームが成長に注力することを可能にする十分なリソースを持っていることを望んでいる。そしてまた、もし会社が12ヶ月分のKPIの改善と成長を示すことができれば、次の調達ラウンドは、はるかに容易になるだろう。

月次予算計画を計算するには、創業者は、現在の出金速度を知っている必要があり、そしてどのように調達した資金を利用していくのか、毎月末毎にどのくらいの現金を使っていくのかに関する、詳細な予測を立てなければならない。この計算は以下の仮定で行うことができる:(1)ゼロ収益、(2)ゼロ成長で、現在の収益が続く、または(3)これまでの傾向に基づく合理的な収益の成長が望める。

TAM(総市場規模)が小さすぎる。 私たちはしばしば、比較的小さなグループが直面している問題への、革新的で時に独創的な解決策を持っている企業をみかける。買収されることを目指す起業は、その収益可能性を買収者にとって意味のあるものにするために、十分に大きな市場にアプローチする必要がある。もしある企業が、同社のソリューションが対象としている市場の大きさが妥当であることを示すことができない場合(私たちの場合、それは通常年間10億ドルの市場である)、私たちは通常は見送ることにしている。

未発売または未出荷。 私たちは企業が製品を売り始めたときに、その評価の高まりに伴ってはるかに投資リスクが低くなることを知っている。言い換えれば、企業が売上のない状態を卒業して、顧客が喜んでお金を払う製品の製造と出荷に移行したら、その評価の高まり以上にリスクが減少するということだ。したがって私たちは、対象企業が最初の販売を行い製品が市場に受け容れられる初期の証拠を示した後に投資をすることは賢明だと考えている。

ビジョンがない。 私たちは、現在の会社を100倍のサイズにするための、明確な成長のビジョンを持っている創業者の企業に投資するのが好きだ。実際にその成長を成し遂げるためには、そのビジョンからの逸脱も必ず必要になるのだが、一方ビジョンを欠いていてはその達成ははるかに遠ざかってしまう。激しい嵐の中でも、北極星が創業者たちに道を示してくれるのだ。

競合相手をきちんと理解していない。 多くの企業は、しばしば私に「私たちには競合がありません」と言ってくる。一般にそれは信じがたいことなので、こう返答するようにしている「あなたが対象とする市場では、あなたが対応しようと考えている課題を現在はどのように解決しているのですか?それがあなたの競合相手ですよ」。

この初歩的な知識を超えて、創業者は競合他社がどの市場セグメントに取り組んでいるのか、そしてどのように売り込んでいるのかを睨みつつ、競合他社によって提供されているソリューションを徹底的に理解しておく必要がある。企業の潜在的な顧客は、その製品を他の利用可能なソリューションと比較する。そして頭の良い創業者たちはその製品を正しく位置付けるのだ。

こうした他のオプションについて精通していないこと、そして自らの製品を差別化できないことは、すなわち失敗のレシピである。

偏った創業者チーム。 製品は作られる必要があるし、また製品は売られる必要がある。これらのタスクは1人ではほとんど賄うことのできない、非常に異なるスキルを必要とする。私たちは、エンジニアリングと開発から販売とマーケティングまでの、様々な専門性をもつ創業者チームに会うのが好きだ。

会社の創立時からあらゆる専門性をしっかりと持つことは、偉大な製品を作ること、売れる製品を作ることを確実にする。もちろん、企業は欠けている部分の人材を雇用することができるが、その補った部分は企業のDNAの一部にはならない。加えて、雇用した働き手を管理する側の人間が、関連領域での経験を積んでいることが常に好ましい。

リスクを負っていない。 私たちは、創業者たちがその会社に全てを捧げていることを確認したい。最低でも、彼らはフルタイムでそのビジネスでに従事する必要がある。理想的には、彼らには同時に、自分のお金の比較的大きな部分を会社に投資していて欲しい。ポール・グレアムはかつて、創業者たちがそうすることによって「失敗を死ぬほど恥ずかしいと考えるようになり」、すぐに「倒れるまで戦うことを誓う」ようになるのだと書いた。全く同意する。

このリストは網羅的ではないが、なぜ私たちが(そして恐らく他の初期ステージ投資家たちが)案件を採用しなかったのかに関わる、ありがちな理由を示して、これからの創業者たちがそうした問題に確実にアプローチするための役立つチェックリストになることを期待している。ところで、もしあなたがこうしたことをもう全て正しくやっているというなら、是非話を聞かせて欲しい。

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(翻訳:Sako)

熊本発「シタテル」はアパレルの低価格・小ロット生産を実現する、全国の縫製工場と提携で

消費者の趣味が細分化する中、アパレル業に求められるのは多品種・少量生産。そんな時流に乗って、アパレルからじわりと熱視線を集めるサービスがある。オリジナル商品を作りたいアパレルブランドやデザイナーと、中小・零細の縫製工場とマッチングする「SITATERU(シタテル)」だ。

利用しているのは、個人デザイナーだけでなく、ビームスやユナイテッドアローズといった有名セレクトショップに商品を卸すブランド、パリコレに参加するハイブランドまで。会員登録数は前年比300%の約1800事業者と急増し、流通総額は5億円に上る。

中小・零細の繊維工場をネットワーク化

シタテルは全国120以上の縫製工場と提携し、これまで難しかった15〜100枚単位の発注を可能にした。アパレル事業者にとって小ロットの発注は単価が高くつくため、数百枚単位で発注するのが通例だった。

アパレル事業者は、電話かチャットで作りたい服を伝えると、目安の料金がわかる。生地が決まるとシタテル側でパターン(型紙)を作成。その後、サンプルを送ってもらい、問題がなければ本生産に移る流れだ。

アトリエは「マイ・アトリエ」という会員サイトを通じてシタテルとやりとりをする

アパレル事業者は「マイ・アトリエ」という会員サイトを通じてシタテルとやりとりをする

工場とのマッチングは独自アルゴリズムを使う。

データベース上には縫製レベル、対応可能アイテム、料金、リードタイム(発注から納品までの期間)、稼働状況といった情報があり、アパレル事業者の要望に応じて最適な工場をマッチングする。

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ここで気になるのが、縫製品質。メイドインジャパンの縫製技術は海外に比べると高いと言われるが、実際のところはどうなのだろう。この疑問についてシタテルの河野秀和社長はこう答える。

「総じて品質は高いが、工場ごとに差があるのも事実。そのため、工場に提出してもらうサンプルを元に、シタテルが5段階で評価している。これによって、縫製技術の難易度に応じた工場をマッチングできるようにした」

シタテル社内には、アパレル事業者の要望を聞くコンシュルジュや、デザインをCADでデータ化するパタンナーも在籍。すぐに稼働できる工場も把握していることから、通常3カ月かかるリードタイムを最短6日に短縮しているという。

シタテルのメンバー(右から2番目が河野社長)。お揃いのコートはもちろん、シタテルで作ったものだ。おしゃれ感が漂う

シタテルのメンバー(右から2番目が河野社長)。お揃いのコートはもちろん、シタテルで作ったものだ

工場の代わりに新規開拓

大手アパレルが海外に生産拠点を移したことで、国内の縫製工場は仕事が激減。特に営業力がない零細・中小の工場は新たな仕事の受注ができず、苦境にあえいでる。「国内の縫製工場は15年前の1万5000から、5000ほどに減ってしまった」と河野氏は言う。

「最近の円安傾向と中国の人件費高騰で、国内工場への回帰も進んだ。とはいえ、工場には繁忙期と閑散期があり、すべての工場が1年中稼働しているわけではない」

稼働していないなら小ロットでも受注すればいいと思うかもしれないが、工場側からすると効率が悪く、旨味のある仕事ではない。そこでシタテルは、工場が受注時に経由する卸売や企画会社を迂回することで、小ロット生産でも利益を確保できるようにした。

提携工場の中には、ふだんはレディース専門の縫製しかやっていなかったが、その技術をメンズ商品で生かすようなケースが少なくない。営業力のない工場にとってシタテルは、非稼働の時間を埋めるだけでなく、新規顧客を開拓してくれる存在ともいえる。

ディオールやコム・デ・ギャルソンといったハイブランド、有名セレクトショップに卸すブランドが発注する縫製工場とも提携する

ディオールやコム・デ・ギャルソンといったハイブランド、有名セレクトショップに卸すブランドが発注する縫製工場とも提携する

震災復興を後押しする熊本発スタートアップ

シタテルは2014年3月に創業した熊本県のスタートアップだ。

河野氏は熊本出身。前職は地元企業の相談に乗る経営コンサルタントだった。そこで気づいたのが、小ロットで商品を作りたいアパレル事業者が多いにもかかわらず、需要に応える工場がなかったこと。

この構造を変えようと、アパレルと縫製工場をつなぐ、現在のビジネスモデルにたどり着く。創業当初は地元の工場と提携し、全国から注文を受けては縫製を依頼。現在も熊本県内34の縫製工場と提携している。

4月の熊本地震直後は、県内で多くの提携工場が操業を停止したが、徐々に生産を再開。パリコレに参加する世界的な国産ブランド「アンリアレイジ」が県内の縫製工場に依頼するなど、復興を後押ししている。

アンリアレイジがシタテルで作ったコート。生地にはコード(!)が埋め込まれていて、ドットや市松模様、花柄やらが浮かび上がるそうだ。すごい

アンリアレイジがシタテルで作ったコート。生地にはコード(!)が埋め込まれていて、ドットや市松模様、花柄やらが浮かび上がるそうだ。すごい

シリーズA調達でアパレル・工場向けアプリ開発へ

6月17日にはオプトベンチャーズと三菱UFJキャピタルを引受先として、シリーズAとなる第三者割当増資を実施。金額は非公表だが、数億円程度と見られる。

調達した資金では、アパレルと工場が必要事項を入力する専用アプリの開発、双方がやりとりするクラウドプラットフォームの強化などにあてる。

シタテルは2014年10月にも、三菱UFJキャピタル、日本ベンチャーキャピタル、リブセンスから資金調達を実施。リブセンスとクックパッドがスタートアップを支援するプログラム「STARTUP50」の第一号のファンディング先でもある。

微生物からなんでも作り出すGinkgo Bioworksが1億ドルを調達、合成DNAの大量購入のため

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Ginkgo Bioworksはポストンに拠点を置くバイオテックのスタートアップで、微生物からありとあらゆる種類の香料や調味料を作り出している。この度Ginko Bioworksは6億ベースの製造されたDNAを入手するため1億ドルの資金をシリーズCのファンディングで獲得した。Ginkgoによるとこれは「これまで購入された合成DNAとして最大の規模」だという。

同社はその何百万ベースもの遺伝コードを使って新しい領域に乗り出そうと計画している。例えば、「汎用の化学薬品、工業用酵素、保健医療」などの市場だ。

新たな資金は全て現金で、これでGinkgoがY Combinatorでローンチしてから2年足らずで得た資金の合計は1億5千4百万ドルにもなる。これはY Combinator発のスタートアップの中でもトップ10に入る額だ。

この新しい形態のバイオテック、つまり薬品製造がらみではないバイオテックは、2014年になって、DNA合成コストの劇的な低下に伴い俄然ヒートアップしてきた。GinkgoはY Combinatorが投資した最初のバイオテックスタートアップの内の一つで、今なお競合相手がほとんどいない。数少ない競合相手の中には、西海岸で似たような業務を行うZymergenがあり、微生物のDNAを操作し消費者向け材料を大量生産することを目標に、今日までに4500万ドルの資金を調達した。

このラウンドの資金はYCのContinuity Fund、Senator Investment Group、Cascade Investment、Baillie Gifford、 Viking Global Investors、Allen & Company LLCより調達した。Viking GlobalはシリーズBのリードインベスターでもあった

Ginkgoは現在調味料、香水、食品産業のための商品を製造しているが、DARPAとも共同でプロバイオティックを製造しており、それはアメリカ兵が海外でお腹の調子を崩した時、整腸するためのものだ。しかし同社は昨年から他の産業分野への事業拡張を視野に入れ始めた。

Ginkgoは2015年の春に、1億ベースのDNAを購入し新しい製造分野に進出すると発表したが、それ以来その量を6億ベースに引き上げ、Twist BiosciencとGen9と業務提携し合成DNAの供給を受ける。Twistは少なくともその内の4億ベースを2017年の内に納入すると誓約している。

Ginkgoはさらに資金の一部をBioworks2を建てるのに使う予定だ。Bioworks2は7万平方フィートの広さを持つ新しい自動化された設備で、GinkgoでデザインされたDNAのプロトタイプをテストし新しい製品を創出する場所だ。その製品とは共同設立者のJason Kellyが言うところの「テックが見捨てたバーティカル製品」、例えば栄養や製薬業など。

「これらの産業はソフトウェアのように根本的に破壊的ではないのでとてつもなく大きなチャンスがあります」とKellyは言う。「生物をデザインすることがもっと上手く行き出せば、なんでも作れるようになります。そうすれば、これまでのテック産業が近づくことのできなかったセクターを崩せるのです」

Ginkgoは既にこれらの産業分野で多くの新しい製品を作っており、Kellyによれば、今回の資金は、Bioworks2が完成するのに伴い、Ginkgoがこれまでしてきたのと同様のことを今後も継続して行ってゆく上での助けとなるということだ。

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(翻訳:Tsubouchi)

韓国のホームクリーニングサービス「Miso」、Y Combinatorに参加

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韓国のホームクリーニングサービスのMisoはY Combinatorのサマークラスに受け入れられ、今後さらに野心的な成長目標を掲げる。同スタートアップの創業者は今週同キャピタルのアクセラレーター・プログラムに参加予定だ。

MisoはHaksu LeeとVictor Chingにより昨年ローンチされ、顧客はアプリとウェブサイトを通じて次の日の清掃を予約することができる。

Chingはソウルに拠点を置く食品配送のスタートアップであるYogiyoで商品部門の最高責任者を務めた。その後Yogiyoは2014年にDelivery Heroに買収された。ChingはYogiyoを去った後、食品配送で得たスキルを使って新しいことを始めようと考えた。

ChingとLeeによると、韓国のホームクリーニングの市場は50億ドルの規模で、韓国で共働きの家庭が増えているせいでその規模は成長し続けているという。同スタートアップは、プレシードの段階で50万ドルを調達したが、現在毎週10パーセントの歳入増を目標値に掲げている。

Misoは現在ソウルとその近郊都市の仁川、京畿道で利用可能であり、大体1万人の顧客がおり、そのうち700人は週に2回以上サービスを利用している。Misoには1000人の清掃員が登録されており約半数には月に2回以上の予約が入る。

Misoは、伝統的なクリーニング会社に変わるサービスとしてローンチした、ソウルを拠点にする幾つかのスタートアップの内の一つだが、その中には昨年シードラウンドで百万ドルを調達したWaHomeDaeri Jubuなどがある。

通常、清掃会社は会員に会費を求め、少なくとも1週間前以上に予約することを求めていた。また、清掃員はコールセンターまで報告することを義務付けていて、仕事が与えられるまで待つ必要があった。アプリのおかげで清掃員と顧客の両方にとって自由度が増した。

Misoはアプリのユーザーインターフェースとサービスの価格体系を可能な限り単純化することで、他のクリーニングのスタートアップとの差別化を図ろうとしている。同社は伝統的な複雑な料金体系に替わるものとして、現在たった二つのオプション、つまり4時間と8時間のセッション、しか提供していない。多くの既存の代理店においては複雑なアラカルトサービスが採用されており、しかもその料金は基本料金に上乗せして請求される。Misoの顧客も自分のニーズに合った作業を依頼することは出来るが、Misoの清掃員はできるだけ割り当てられた時間内でその要求に応えようとする。

「伝統的に、この業界では4時間と8時間のサービスが提供されてきたが、これまでは家の大きさによっては同じ時間でもより高い金額が請求されていました。私的には、それは納得できません。なぜなら、何れにしても4時間分のサービス料を払っているからです。価格体系の幾つかは、さながら小さいながらもエクセルのスプレッドシートのようです」とChingは言う。

「もし大量の洗濯をしたければ、違った価格表があり、冷蔵庫の清掃も然り。全ては追加料金なのです」Leeが付け加える。「既存の顧客にとってみれば大変煩わしい点であり、我々にとってみればまさにそこをシンプルにしたかったのです」

ビジネスの規模が大きくなるにつれ、Misoの創業者はもっと短い、2時間ほどのセッションを導入したいと考えている。これは小さいアパートに住んでいる人にアピールするだろう。また、当日予約も導入したい考えだ。他のオンデマンドのスタートアップ同様、Misoは成長計画と運営費を持続可能にすることのバランスをとりつつ、一方で契約清掃員が十分予約を貰いMisoのプラットフォームに残るよう取り計らわねばならない。ChingとLeeによると、清掃員は現在、Misoのコミッションを引いた後、大体韓国の最低賃金の60から100パーセントを稼いでいる。(現在、最低賃金は時給6030ウォンであり、それは5.18ドルに相当する。

清掃員はMisoを通じて仕事を受ける前に面接される。また、Uberの様に、同社の顧客は受けたサービスを満点を5つ星として評価する。清掃員の平均評価が高いほど、ますます仕事が舞い込んでくる。

「清掃員が十分仕事を得て、我々のプラットフォームに居ついてくれる、ということに関しては、我々は常に分析を欠かしません」とChingは言う。「その手法を完全にマスターしたとは言いませんが、どこまで行けば大丈夫で、また最初の1、2週間で清掃員がどれくらいのセッションをこなせば我々のサービスに居つくかという事に関しては、明らかにある種の臨界点があるのです」

「それこそが、テクノロジーが企業のイノベーションを手助けできる理由です」と、Leeが付け加えた。「我々は清掃員のスケジュールを予想し、とても効率的に仕事を割り当てることができます。そうすることが我々のプラットフォーム全体の役に立つのです」

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(翻訳:Tsubouchi)

Startup Step-By-Step 「闘い」

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編集部注:この記事はFreemitのCEOであり、TechCrunchの元ライターであるJohn Biggsにより執筆された。

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求める。(Every battle is won or lost before it is fought. )この、自己啓発セミナーでよく耳にする孫子の知恵は、意欲的な起業家の世代に対する禅の公案だ。だが、この言葉にはもう少し地味なバージョンもある。

「Every battle is won or lost before it is fought.」
活気に満ちた起業家の物語での重要な部分は、誰も口にしない部分だ。それは、起業家が誰にも相手にされず、カップラーメンをすする場面だ。世界がきらびやかに輝やく一方で、その起業家がVCに会うために各地を飛び回るという場面だ。敗北の物語は決して語られることはない。

これは、敗北の物語だ。

カルフォルニアで誕生

私が最初にFreemitに関する記事を執筆した当時、私たちの状況は今とは違っていた。私たちのチームは10名ほどで構成されていた。東ヨーロッパ出身の2人のプログラマー、コロラド出身のビックデータ専門家、若い弁護士、そしてユーザーエクスペリエンスが専門の若者、そして、共同創業者たちというメンバーだった。共同創業者は、私の大学時代からの友人であり技術家のRichard Svinkin、ラマーズ法のクラスで出会ったPaul、そして私の3人だ。私たちは、有望な企業を探していたエンジェル投資家から多少の資金を獲得し、Alchemist Acceleratorに参加することになった。Richardは数カ月のあいだシリコンバレーに滞在し、ピッチのやり方を学んだり、ビジネス拡大の方法論などを学ぶことになった。その一方で、残りのメンバーはVCと面接するために各地を転々とし、たくさんの成果を残すことになった。

私たちは送金アプリを製作しようとしていた。それは、ビットコイン・ベースのシステムにM.Night Shayamalan流のアレンジを加えたアプリケーションだ。ビットコインのシステムに存在する「不均衡性」が利益をあげるツールとして利用されており、私たちはそれに目を付けた。ある通貨でビットコインを購入し、それを別の通貨に換金する。すると、その時に適応される為替レートは、従来の金融機関が提供する為替レートに比べて有利になることが多い。私たちはこのビジネスモデルをテストし、構築し、そして拡大することにしたのだ。

スタートアップの生活

Alchemist Acceleratorから学んだことの1つに、スタートアップは仮想実験のマシーンであるという考え方がある。実験をし、数字が結果として現れ、そしてまた別の実験をする。成果を示すためには、それを見せるための何かが必要だ。2010年から2014年に限っては、この考え方は正しかった。VCたちがClinkleのようなバカげたアイデアに対して多額の金額をつぎ込んでいた時代だ。私たちが資金調達を試みた2016年は、ビットコイン系の投資が落ち込み、ユニコーンと呼ばれるIT系スタートアップに対して再評価が行われる時代だ。VCが探していたのは、人を惹きつける力を持ち、売り上げや利益をあげているスタートアップだった。私たちはそのすべてを持ち合わせていなかった。

唯一、私たちが持っていたのは夢だった。ビットコインの価格を最適化すれば、マーケットに打ち勝つことができ、この業界のメインプレイヤーたちにも勝てるという夢だ(このどちらとも、私たちは本気でそう思っていた)。そして、世界中に存在する従来の送金サービスや、非ブロックチェーンの送金サービスに比べて有利なレートでの送金を可能にできるという夢だ。しかし、投資家を納得させるためには、このビジネスモデルを支えるだけの流動性が、はたしてビットコインにあるのかどうかを示す必要があった。それから優秀なVCたちとの会話を経て、私たちはあることを痛感した。今後短期間でビットコインがもつ流動性が十分なレベルまで達する可能性は低く、このビジネスモデルで生き残ることは不可能だということだ。

しかし私たちは闘った。何度もVCのもとに足を運び、私たちのビジネスモデルを説明して回った。私たちは、ビットコイン市場の成熟度が私たちのビジネスモデルにいずれ追いつくことに賭けたのだ。このビジネスモデルを成立させるだけの取引量は存在するし、それがもつハイスピードな送金機能は魅力的であるはずだ。そして、私たちはビジネスのターゲットを送金者から旅行者に変更することも説明した。マドリードへの旅行中に友人にユーロを渡す必要があるとき、Freemitを使えば、数分でその友人に直接ユーロを送金することができる。ポーランドに旅行中、花屋ですてきな花を見つけ、それをおばあちゃんへプレゼントしたければ、Freemitを使って60ズロチを花屋に送金すればいい。Freemitは速く、無料で、シームレスなシステムだ。Freemitのインド企業パートナーを利用すれば、現地でルピーを引き出すことだってできる。これは素晴らしいアイデアだった。

私たちが失敗した理由は3つある。まず第一に、ビットコイン市場は私たちの夢を支えられるほど成熟していなかった。私たちのビジネスに必要なビットコインの量は多い。その量を実際に売り買いすれば、マーケットに多大な影響を与えてしまう。ボウリングのボールを湯船に投げ込むようなものだ。その影響は破滅的なものにもなりかねない。第二に、アメリカ人VCが私たちのビジネスモデルを理解することは難しい。彼らは裕福で、旅行中のお金のことなど気にしたことがないからだ。アメックスのプラチナムカードを持っている彼らが、私たちのサービスなど必要とするだろうか?最後に、私たちは規制によって羽交い絞めにされていた。当時、無許可で送金ビジネスを運営したとして逮捕されるものがいた。そのため、私たちは資金調達なしではサービスを開始することができず、サービスを開始することなしでは資金調達することもできなかったのだ。

「Every battle is won or lost before it is fought.」
その時、私たちの闘いは始まったばかりだった。しかし、私たちはその時すでに敗北していたのだ。

4月は最も過酷な月

私たちは約50社のVCに対してピッチをおこなった。そして、その答えはすべて同じものだった。たった一つの答えを除いて。前CFOの元同僚が、はみ出し者の寄せ集めともいえる私たちのチームに何かを見出してくれたのだ。私たちにとっては最後のチャンスだった。

Keith Teareが「Valley of Death」と呼んだ場所に、私たちは足を踏み入れた。エネルギーいっぱいで、資金があり、従業員も揃っているという時期を意味するインキュベーション。その後にくるステージに、私たちは立っていた。VCの元に足を運び、彼らが私たちのビジネスに投資するかどうか判断する。審判の時だ。結局、私たちが得た答えは「No」だった。

時間が経つにつれて、私たちはチームを編成し直すことを決めた。それまで半年間連れ添ってきたチームメンバーをすべて解雇し、プログラミングは私たち自身で行った。競合企業が私たちのビジョンに追いつき、RevolutやCircleといった企業が私たちのものと似たサービスをローンチした。彼らは、私たちのビジネスモデルが他の方法でも実現可能なことを示したが、同時にそれが持つ制約も浮き彫りにした。地理的、法的、そして経済的な制約だ。

私たちの技術リーダーもCFOもチームを離れた。友情に緊張が走り、ぐらついた。厳しい時期だった。起業家に必要な自信、パワー、積極的な姿勢がすべて吹き飛んだ。完全なる社会不適合者でもなければ、この状況は耐え難いものだろう。病気になった。体重が約10キロ増えた。腰痛とパニック発作に苦しめられた。スタートアップを創りあげることと、精神的な病のあいだには明確な関係が存在する。感受性の高い起業家が壁にぶち当たることを防ぐため、そのことについて話すのは意義のあることだろう。しかし、それはまた別の記事で述べることにする。

Ash RustHans Reisgies、Ravi Belani、Edith Harbaughから学んだ事がある。それは、ある仮説が間違いだったからといって、すべてが間違っているわけではないということだ。それは、間違った質問に答えようとしているだけに過ぎない。

Richardと私は毎日お互いの家で働き、色々な数値の組み合わせを試して最良の道を見つけようとしていた。ビットコインに頼らなくてもビジネスモデルを実現できる技術をもつ人物を新たに技術リーダーとしてチームに招いた。私とRichardは、ビットコインとブロックチェーンの世界が向かう先を知ろうとした。当初のビジネスモデルには多くの変更が加えられ、新しいアイデアが生まれた。

必要は発明の母である。新しい技術的なソリューションを試している途中、私たちはある重大な壁に突き当たった。そこで立ち止まったが、それは短い間だった。5月にメンバー同士で話し合いをしていたとき、議論は白熱し、チームはバラバラになる寸前だった。その時、Richardが動きを止め、彼独特のブルックリンのアイルランド訛りで、ある言葉を発した。起業家にとっては、最高の一言だ。

「ちょっと待ってくれ。いい手が浮かんだぞ。」

闘い、戦争

私たちはまだ完全にやられたわけではない。しかし、これはスタートアップの復活劇でもない。今のところは。この記事は、最初のアイデアを賞賛するものではなく、葬るためのものだ。未来は予測不能であるが、その未来は常に、私たちの会社のようなビジネスと関わりあいながら形成される。私たちのビジネスに起こったことや、現代のスタートアップのあり方について説明するのは意義のあることだ。

現代のスタートアップは以下のように機能する。データを一通り集めたあと、上手くいかない物事を素直に認めて、先に必要があるのだ。「上手くいかない」という言葉が意味するのは、あなたの力が足りないということだ。「上手くいかない」が意味するのは、もう一度チャレンジするということだ。

スタートアップの王道ともいえる、このプロセスを繰り返すことで、ある失敗のアイデアが成功のアイデアに結びつく可能性もある。1日1歩、3日で3歩、3歩進んで2歩下がる。それでも、歩き続けるのだ。


この記事は、「Startup Step-By-Step」の第三話である。残りの記事はここで読むことができる。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Twitter /Facebook

学生が(技術がなくても)アイデアを無料でアプリにできるアプリビルダーBizness Apps、すでに3万名50校が登録

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“協同ファウンダーになってくれる技術者いないかなぁ”

“今、このアイデアを形にしてくれる、CS出身者を探してるんだ”

2016年ともなると、世の中の全員が(彼らのお母さんすら)アプリのアイデアを持っている。今や大学では、アプリ作りがビアポンに代わって課外活動の主役だ。唯一の問題は、アイデアの数だけデベロッパーがいないこと。あなたが学食でナプキンにスケッチしたアイデアを、3%のマージンで完全なアプリにしてくれるCS専攻の友人もいない。

でも、学生が起業すること自体は(アプリでなくっても)すばらしい。起業体験は、教室では得られない貴重な学習体験だ。ビジネスとして軌道に乗れば経済にも貢献する。

そこで、技術のない人のためのDIYアプリ開発プラットホームBizness Appsは、.eduアカウントの学生に無料アクセスをを提供している。

このプラットホームは最初の数か月で約3万名の学生が登録し、同社は約50の大学の起業学科とパートナーして、その学生たちもユーザーにした。

このプラットホームにアクセスすると、何がどうなるのか? ユーザーが自分でアプリを作れるためのツールが提供されたり、あるいはBizness Appのホワイトレーベルソリューションを利用してアプリを地元の小企業に売ったりできる。どちらも、起業に結びつけることができる。

同社のツールは、一般ユーザーが使えば月額59ドルだ。ホワイトレーベルでアプリを作る場合の設計料は2000ドルだ。これらがすべてただとは、どういうこと?

それは主に、Bizness Appsが、ファウンダーが学生のときに創業されたからだ。協同ファウンダーのAndrew Gazdeckiによると、大学で企業を興したことによって人生が一変した。だから、“今の学生たちに同じ体験を提供できたら、自分も本当の達成感を得られるはずだ”。

もちろん、そうやって多くの学生がこのプラットホームを利用するようになれば、その口コミ効果は大きいだろう。でも、そんなことよりもGazdeckiの関心は、できるかぎり多くの学生に起業家になってもらうことにある。そして、誰もかれもがアプリづいている今の世の中では、学生たちにアプリビルダーへのアクセスを提供することが、彼の関心にいちばん叶うやり方なのだ。そのほかの業種よりも。

このプラットホームを、ネイティブアプリの作り方を本格的に勉強することと比較するのは酷だ。でも多くの学生にとっては、このプラットホームへの無料アクセスによって、今後の売り込みのための最小限のアプリは作れるから、投資家や本物のデベロッパーの関心を惹くには十分だ。

9月1日までに、.eduのメールアドレスでここに登録した学生は、いつまでも無料でアクセスできる。同社によると、締め切りがあるのは学生たちにできるだけ早くアプリ作りを始めてもらいたいため。もっと早く登録すれば、夏休みに何かを作って、秋にそれを大学に持ち込むこともできるだろう。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))