細胞培養で作られた研究室育ちの豚バラとベーコンをHigher Steaksが初公開

細胞培養肉ビジネスにおいて、何が商品化の号令となるかという問いに、新興培養肉企業であるHigher Steaks(ハイヤー・ステーキス)が出した答えは、最初の製品サンプルをなんとか作り上げることだった。同社の場合それは、研究室で細胞を培養して作られたベーコンのスライスと豚バラ肉だ。

英国のケンブリッジで自己資金による運営を続けるHigher Steaksは、このサンプルを示したことで、数多ある巨額投資を受けたずっと大きな企業と台頭に張り合える地位に一気に躍り出た。

「商品化までには、まだまだやるべきことが数多くあります」とHigher Steaksの最高責任者であるBenjamina Bollag(ベンジャミナ・ボーラグ)氏は話す。「しかし、培養細胞を50パーセント使用した豚バラ製品と、研究室で細胞素材から培養した肉70パーセントを含むベーコン製品を提示できたことは、この業界に大きな意味をもたらしたはずです」。

Higher Steaksのベーコンと豚バラ肉の残りの材料は、植物由来のタンパク質と脂肪とデンプンを混ぜ合わせたもので、これが細胞素材のつなぎになっている。商品化までの第一段階に漕ぎ着けるために、Higher Steaksは、匿名のシェフの専門知識を借りて、培養肉を本物の豚バラ肉とベーコンの味に近づける調合法を編み出した。

Higher Steaksの研究開発責任者ラス・ヘレン・ファラム氏(左)と、最高責任者のベンジャミナ・ボーラグ氏(右)。画像クレジット:Higher Steaks

現段階では、この試験品はHigher Steaksが将来何をするかというより、今何ができるかを示すためのものだとボーラグ氏はいう。

「これが将来の足場材料になります」とボーラグ氏。「これは私たちの肉に何ができるのか、私たちが今何をしているのかをはっきりと示すものです。将来、それが私たちの足場材料となります」。

Tantti Laboratories(タンティ・ラボラトリーズ、台湾創新材料会社)、Matrix Meats(メイトリックス・ミーツ)、 Prellis Biologics(プレリス・バイオロジックス)など数多くの企業が、同様にバイオ素材を使ったナノスケールの足場材料を開発している。それは、筋肉の繊維組織に相当する培養構造体の骨組として利用できる。

Higher Steaks、Memphis Meats(メンフィス・ミーツ)、Aleph Farms(アレフ・ファームズ)、Meatable(ミータブル)、Integriculture(インテグリカルチャー)、Mosa Meat(モサ・ミート)、Supermeat(スーパーミート)といった企業は、その製品を商業展開するにあたりTantiiやMatrixなどの企業の力を借りる必要があるのだが、動物の細胞を育てるために必要な細胞培養のコストを下げるためには、その他にThermo Fisher(サーモ・フィッシャー)、Future Fields(フューチャー・フィールズ)、Merck(メルク)といった企業の技術にも頼らざるを得ない。

2014年以降、世界全体で30社あまりの細胞ベースの食肉スタートアップが起業し、1兆4000億ドル(約150兆円)規模の市場の一角を狙っている。

その一方で、2019年にはアフリカ豚熱ウイルスの流行により中国では全飼育数の40パーセントにあたる豚が失われたとされ、供給量が減少しているにも関わらず、豚肉の需要は高まり続けている。

「私たちの使命は、消費者が味を我慢することなく、健康的で持続可能な肉を供給することにあります」とボーラグ氏は語っている。「世界初の培養豚バラ肉とベーコンの製造は、世界中で供給不足になっている豚肉の需要に、新技術で対応が可能であることの証明になります」。

巨額の資本金を有する企業と競合することを想定してHigher Steaksは、現在、その技術の商品化を手助けしてくれる業界内のパートナーを探している。

競争力を高めるためにHigher Steaksは先日、PredictImmune(プレディクトインミューン)の元最高技術責任者であるJames Clark(ジェイムズ・クラーク)博士を招いた。

「私はずっと以前から、科学と食糧生産のミックスである培養肉に強い興味を抱いていました。2013年に私はMark Post(マーク・ポスト)氏が開発した25万ポンド(約3400万円)という世界初の培養肉でハンバーガーを調理するBBCのテレビ番組を見ました」とクラーク氏。「私は2020年の初め、Higher Steaksから声を掛けられ、何よりもその科学技術と、同社の創設者ベンジャミナ・ボーラグ氏の情熱とエネルギーに魅了されて入社したくなりました。Higher Steaksには、培養肉分野に改革を引き起こす技術があると私は確信しています。私は今のキャリアステージに達して、挑戦を求めていたのです」。

培養肉製造工程をスケールアップする目的でHigher Steaksに採用されたクラーク氏は、バイオテクノロジーと製薬分野のアーリーステージや上場企業で製品開発を指揮してきた経歴を持つ。

「ジェイムズ・クラーク博士がチームに加わったことで、Higher Steaksは大変な優位性を得ました」と、研究開発責任者のRuth Helen Faram(ラス・ヘレン・ファラム)博士は話す。「培養豚バラ肉もベーコンも、これまで一度も実際に提供されたことがありません。ウシ血清を使わない豚の培養筋肉を70パーセント含むプロトタイプの開発に世界で初めて成功したのがHigher Steaksです」。

だが、Higher Steaksの豚バラ肉やベーコンが店の棚に並んだりレストランで食べられるようになるのは、まだ先のことなので期待し過ぎないようにとボーラグ氏は釘を刺す。「今はまだ値段が1キログラムあたり数千ポンドという段階です」。

同社は2020年の末に、大規模な試食イベントを計画している。

画像クレジット:cookbookman Flickr under a CC BY 2.0 license

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(翻訳:金井哲夫)

独自デバイス活用し「尿検査で高精度のがん診断」実現へ、日本発のIcariaが資金調達

Icariaのメンバー。左から岸田和真氏、市川裕樹氏、代表取締役CEOの小野瀬隆一氏、共同創業者で技術顧問も務める安井隆雄氏

1年間で約37万人ーー。2017年にがんが原因で死亡した日本人の数だ(厚生労働省が発表している平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況より)。がんは日本人の死因の第1位であり、同年には実に全死亡者の約3.6人に1人がこの病気によって亡くなった。

がんは発見が遅れることが生存率の低下にも繋がるため、いかに早い段階で発見できるかが重要。近年はテクノロジーを活用して従来とは異なるアプローチから「がんの早期発見」を実現しようとしている、バイオテック系の企業が国内外で登場している。

今回紹介するIcariaもその1社。同社は尿検査を通じて早期のがん診断を目指す、日本発のスタートアップだ。独自のデバイスを用いて尿から「miRNA(マイクロRNA)」と呼ばれる物質を抽出。miRNAはがん患者と非がん患者で発現しているものが異なるため、得られたmiRNAを網羅的に解析することで対象者が肺がんにかかっていないかどうかを診断できる仕組みを開発中だ。

そのIcariaは2月13日、ベンチャーキャピタルのANRIとJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)を引受先とした第三者割当増資にNEDOからの助成金を合わせ、総額で数億円前半の資金調達を実施したことを明らかにした。

ナノワイヤ×尿中miRNA×機械学習で高精度な肺がん検査実現へ

Icariaが開発するがん診断サービスの仕組みを理解する上では「ナノワイヤ」「尿中miRNA」「機械学習」という3つのキーワードを押さえておく必要がある。

ストレートに表現すると「ナノワイヤを活用した独自デバイスによって、尿中miRNAを効率よく抽出し、がん患者特有のmiRNAプロファイルを機械学習で網羅的に分析する」仕組みなのだそう。とはいえ、これでは流石に書いてる僕自身でさえよくわからないので少し補足していきたい。

まず軸になるのが遺伝子発現をコントロールする役割を担うmiRNAという物質だ。近年このmiRNAの異常が、がんを始めとした様々な疾患に関係することがわかり、研究者たちの間でも注目されているのだという。実際Icariaでもがんの診断時にこのmiRNAをバイオマーカー(指標)としている。

ただ同社代表取締役CEOの小野瀬隆一氏によると、人間のマイクロRNAは2000種類以上も見つかっているとされているように種類が豊富で多機能なのだそう。そのため1つのmiRNAを分析して「がんかどうか」を判断するのは難しく、個人差もあって高精度の検査は実現できない。

それならば「より多くのmiRNAを集めて網羅的に解析してしまおう」というのがIcariaのコンセプト。同社のコアテクノロジーもまさにこのmiRNAを高効率で抽出できる酸化亜鉛ナノワイヤデバイスにある。

より正確には、まずナノワイヤデバイスを通じて尿中に含まれるエクソソームという小胞体を捕捉。このエクソソームはmiRNAを内包しているので、そこからmiRNAを取り出すような流れだ

このデバイスは、共同創業者で技術顧問も務める安井隆雄氏(名古屋大学大学院工学研究科の准教授も務める)の研究をベースとしたものだ。使っている素材自体は特殊なものではないが、ナノワイヤを“生やす”(生成する)工程に特徴があるそう。特殊な生やし方をすることで、捕捉できるmiRNAの数も大きく変わるという。

実際のところ、従来の方法では尿から検出できるmiRNA数は約200〜300種類。一方のIcariaのデバイスならその数は数倍の約1300種類だ。Icariaのサービスではそのように検出されたmiRNAをプロファイル化し機械学習によって解析することで、診断結果を算出する。

同社では肺がん患者と健常者それぞれ数百個の尿検体から肺がん診断アルゴリズムを生成。もちろんまだ数は限られているものの、小野瀬氏の話では今の所かなり高い“正答率”を叩き出しているようだ。特に肺がん患者の半分近くはステージI、Ⅱに該当し「現時点では、従来難しかった肺がんの早期発見が高い精度でできている」(小野瀬氏)という。

国内外で注目浴びる「リキッドバイオプシー」

バイオテックやヘルステック界隈に関心がある人は「リキッドバイオプシー」という言葉をご存知だろう。日本語では「液体生検」などと訳されていたりもするが、従来の生検方法ではなく血液や尿などの体液を用いてがんなどの疫病を診断するテクノロジーのことだ。

この領域ではビルゲイツやジェフベゾスらからこれまでに10億ドル以上も調達しているGRAILが特に有名。血液検査を通じてcfDNA(セルフリーDNA)を解析することでがんの早期発見の実現を目指す同社には、日本の電通ベンチャーズも出資している。

そのほか海外ではソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが出資するGuardant Health、国内ではディー・エヌ・エーとPreferred Networksの合弁企業であるPFDeNA、広島大学発スタートアップのミルテルなどがある。

それぞれアプローチは異なるが、リキッドバイオプシーが注目されている理由として「早期発見が可能になりうること」に加えて「診断を受ける患者側の負担が少ないこと」もあげられる。少量の血液や尿を採取するだけで正確にがんの診断ができるのであれば、それに越したことはない。

もちろんこれらのテクノロジーが今以上に普及していくためには、大前提として高い診断精度が求められる。小野瀬氏も「リキッドバイオプシーにおいてはバイオマーカーを正確に、高効率で抽出することが不可欠。機械学習が発達しても、正確なデータが取得できないと診断は難しい」と話す。

Icariaは独自のデバイスを通じて「競合より多くのmiRNAを抽出、解析できる仕組み」を構築することで、精度面においても優位に立つことが目標。現在もデバイスの性能検証やコストダウンも見据えた改良に取り組んでいる。

ゆくゆくは1回の尿検査で多様ながん種を発見できるサービス目指す

Icariaは代表の小野瀬氏が三菱商事を経て2018年5月に立ち上げたスタートアップ。当初は「セカンドオピニオンを遠隔で取得できるような事業」を考えていたそうだが、今回株主となったANRIを通じてがんの課題を解決する大学のシーズ(安井氏が研究していた技術)の話を聞き、最終的には意気投合して現在の事業モデルに決めた。

創業からはまだ9ヶ月ほどで現在はPoC(概念実証)前の研究開発フェーズ。今後はデバイスだけでなくアルゴリズムの精度検証や、まだまだ未知数なmiRNAの生物学的な妥当性検証などに力を入れる計画だ。

プロダクトのローンチは2020年頃の予定。最初はリスクチェックという立て付けで、人間ドッグなどの検査シーンに診断サービスを提供していきたいという。

「最初は肺がんからスタートするが、ここできちんと精度を証明できれば他がん種や糖尿病など他疾患の検査へ横展開もできる。同じように、がんになる前の状態から“がんを予測する”超早期の発見など縦方向へ深化させていくことにも取り組みたい。ゆくゆくは簡単な検査を1回受けるだけで、様々ながん種を発見できるサービスの実現を目指す」(小野瀬氏)

東京の2018 TechCrunch Battlefieldは蠅で食糧危機を解決するMuscaが優勝

TechCrunchは今、日本の首都にいる。私たちは、スタートアップのコンペBattlefieldで東京の優秀な起業家たちが競うピッチに耳を傾けた。そして決勝に残った20社がジャッジたちの前で最後のプレゼンテーションを行い、TechCrunch Tokyo 2018の勝者が決まった。

優勝はMuscaだ!

このスタートアップはありふれた生物であるイエバエを、世界の食糧危機のソリューションとして利用する。彼らの技術は、従来の方法よりもずっと迅速に高品質な有機肥料と家畜の飼料を作り、飢餓を根絶できる。同社の秘密兵器はある特定種の蠅で、同社によるとそれはより強靭で実効性も良い。その蠅の幼虫が動物の排泄物の分解と乾燥を促進し、それを高規格な肥料として利用するとともに、幼虫は鳥や魚の飼料になる。その過程はちょうど1週間だが、ほかの方法なら2〜3か月はかかる。

Muscaは最初のプレゼンテーションでわれわれの専門家ジャッジたちに強い印象を与え、して二度目のプレゼンテーションで、Job RainbowKuraseruAeronextPol、そしてEco-Porkらとともに決勝のステージに立った。

Muscaは、100万円の優勝賞金と、日本の最高の若きスタートアップであることを自慢できる権利を獲得した。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

書評:Bad Blood――地道な調査報道が暴いたシリコンバレー最大の嘘

シリコンバレーでは毎年千の単位でスタートアップが生まれている。その中で全国で名前を知られた会社になるというのはそれだけで大変なことだ。

指から一滴の血を絞り出すだけで多数の病気が検査できると主張したTheranosはそうした稀有なスタートアップとなり、続いて真っ逆さまに転落した。

Wall Street Journalの記者、ジョン・カレイルーの忍耐強く勇気ある調査報道が起業家、ファウンダーのエリザベス・ホームズとそのスタートアップの実態を暴露した。これによりバイオテクノロジーの新星は、嘘で塗り固められた急上昇の後、あっというまに空中分解した。Theranosはシリコンバレーの歴史上前例のない大規模な詐欺だった。

Bad Bloodは調査報道報道の金字塔だ。Theranosが崩壊し、弁護士たちという盾を失ったことはこの本に大いに役立った。WSJの記事ではカレイルーが匿名にせざるを得なかった多数の取材源が実名で登場することができた。これにより、過去の多数の記事を総合し、完全なストーリーとすることが可能になった。

しかしこの本は決してスリル満点でもなければショッキングな暴露でもない。地道でストレートなジャーナリズムだった。

ひとつにはカレイルーのいかにもWSJ的な「事実を伝える」という態度と文体にあるだろう。登場人物の動機や心理の考察はごくたまに挟まれるだけだ。もちろんこのスタイルはWSJを毎日読む読者には適切だろうが、一冊の本の長さになるとややカリスマ性を欠くともいえる。

エリザベス・ホームズとナンバー2だったラメシュ・”サニー”・バルワニが連邦検事により起訴されたのだから、公判でさらに事実が明らかになってから本にすべきだったという意見もある。しかし私はそうは考えない。というのも詐欺の手口自体は比較的単純なだったからだ。

事件の核心にあるのは投資家も消費者も重大な判断をするにあたって過去の経験や評判を頼りにしがちだという点だ。またTheranosは小さな雪玉が転がっていくうちに大雪崩を引き起こす現象の例でもある。引退した有名なベンチャーキャピタリストがシード資金を提供した。その実績がTheranosを有名にし、他の投資家を呼び込んだ。10年の間にTheranosの取締役会には現国防長官のジェームズ・マティスやヘンリー・キッシンジャーを始め大勢の有名人が集まった。

その中にはNews Corporationを通じてWall Street Journalの所有者でもあったルパート・マードックがいた。この大富豪は1億2500万ドルをTheranosに投資していたことが本の最後で明かされる。マードックはシリコンバレーのあるディナーでホームズにに会った。

ディナーの席上でホームズはマードックのテーブルにやって来て自己紹介し、少しおしゃべりした。 ホームズはマードックに強い印象を与えた。後日マードックは(投資家の)ユリ・ミルナーに話したところ、ホームズを大いに称賛したので印象はさらに強められた。

しかし他の有力ベンチャーキャピタル会社とは異なり、マードックはなんのデューディリジェンス(適正な調査)をしないまま多額の投資を決めた。84歳になるマードックはデータより直感に頼って行動するほうであり、これまではそれでうまく行っていた。

マードックは電話を一回かけただけで1億2500万ドルを投資した。普通の人間には息をのむような額でもMurdochにとってははした金だったようだ。報道によればマードックの資産は170億ドルだという

マードックにとって経験則に従って行動したことは資産の1%以下の損失だった。しかも損金処理によって税金が安くなったはずだ。つまり誤った投資をしたといってさしたる痛手を受けたわけではない。

このあたりがこの本の弱点かもしれない。2008年の金融危機では抵当証券の破綻によって普通の人々が何百万人も家を失ったのに対し、Theranosの詐欺で被害を受けたのは大富豪ばかりだった。

しかしちょっとした手間が愚かな投資を防止できた可能性はある。たとえばLinkedInを少し検索するだけでTheranosでは人員の出入りが異常に激しいことがわかったはずだ。これは企業文化と経営陣になにか根本的な問題があることを示す可能性が高い。質問する気さえあれば答えは手近なところにいくらでも転がっていた。

血液検査を受けた消費者の被害を跡づけるのは投資家、社員の場合以上に難しい。Theranosの詐欺が深刻な被害を及ぼしたのはこうした血液検査を受けた人々のはずだ。Edisonと呼ばれたTheranos独自の機械による検査結果はきわめて信頼性が低く、ときにはあからさまな捏造さえ行われた。カレイルーの著書では
Theranosの検査が死亡率を上昇させたというはっきりした証拠は示されていない。【略】

Bad Bloodは〔映画キリング・フィールドと〕似ている。地味で、スリルを盛り上げようとはしない。しかしそこが優れている点だ。この本はわれわれのシリコンバレーに対するステロタイプにいわば針を刺して血を一滴絞り取る。シリコンバレーの投資家やファウンダーは優れた人々であり愚行とは無縁だという通念だ。もちろんそんなことはない。Theranosはそれを思い出させるためのかっこうのキーワードとなるだろう。

画像: Michael Loccisano / Getty Images

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滑川海彦@Facebook Google+

Y Combinatorデモデー2日目からピックアップ10チーム

Y Combinatorのデモデー2日目には59チームのスタートアップが登壇した。アプリ内課金を処理するサービス、現実の対象を写した写真からアニ文字を作成するサービス、余剰医療機器の再販売プラットフォーム、それに、なんと大腸菌からまったく新しい生命形態を合成するスタートアップもあった。イノベーションはたしかに起きている。

以下、投資家の反応も加味し、TechCrunchが独自の視点からピックアップした10チームを紹介する。

こちらはデモデー1の全チーム紹介TechCrunchが選んだ1日目のトップ10だ。

64-x

バイオエンジアリングの一流のエキスパート( ハーバード大学Wyss InstituteのGeorge Church、Pamela Silver、Jeffrey Wayを含む) によって創立された64-xは通常の生命体が生存できないような過酷な環境でも機能する新しい生命形態を含め、最新のバイオエンジニアリングを利用した各種のプロダクトを準備している。CEOのAlexis Rovner自身、Wyss Instituteのポスドクのフェローであり、COOのRyan Gallagherは元ボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントだった。チームはWyss Instituteのテクノロジーをビジネス化することを狙っている。

注目の理由:天才ぞろいのチームは新しい生命形態を創出するかもしれない。

CB Therapeutics

大麻の合法的利用研究とテストを行うSteep HillラボのディレクターだったSher Buttが創立したスタートアップはカンナビノイド(大麻の有効成分)が鎮痛やてんかん発作の抑制など慢性的症状に対して奇跡的効果があるとしてその薬用化を目指している。しかし植物由来のカンナビノイドは品質が一定せず、効果も不安定なため、Buttらはカンナビノイドの工業的合成により品質を安定させると同時に、コストを押さえようとしている。成功すれば収量は24倍、価格は10分の1以下に下がるという。世界的医薬品メーカーのNovartisで医薬品の商用化の経験を積んだButtら共同創業者はこうしたプロジェクトを推進するために理想的なチームだろう。

注目の理由:天然のもっとも効果的な鎮痛剤とされるカンナビノイドを新しいテクノロジーで工業的に大量に合成しようとするのはすばらしいアイディアだ。

RevenueCat

RevenueCat founders

RevenueCatはデベロッパーのアプリ内課金を助けようとしている。デベロッパーはこのチームが提供するAPIを利用してiOSとAndroidでアプリ内サブスクリプションを処理できる。つまり、デベロッパーはそれぞれのプラットフォームの細部やアップデートによる変更を気にする必要がなくなる。

またこのAPIによりデベロッパーはアプリ内サブスクリプションに関する情報を一箇所にまとめて管理できる。 誕生してから9ヶ月のスタートアップは現在、月額35万ドルの売上があるという。これ以外にも何かに取り組んでいるようだがそれが何かまだ明らかにされていない。

RevenueCat hereの記事.

注目の理由:アプリを開発したらすぐリリースする。収入はRevenueCatが管理してくれる。と、これはなかなか説得力があるビジネスモデルに思える。

Ajaib

インドネシアはあらゆる面で過渡期にある国だ。投資に十分な資産を持つ階級が急増しているが、既存の資産管理システムのハードルは高すぎてシャットアウトされている。この状況に対応しようとするのがAjaibだ。このスタートアップは中国で人気のオンライン支払サービス、Ant Financialの資産管理版を目指すという大きな野心を抱いている。 実際、中国は最近までインドネシアと状況がよく似ていた。4年前にAnt Financialがスタートして状況が大きく変化し、急増中の中産階級がオンラインで資産管理を行うことができるようになった。Antはすでに4億人のユーザーを抱えている。

中国と比較すればインドネシアは小さいが、2億6100万の人口がある。管理した資産から1.4%の手数料を徴収するだけでも可能性は巨大だ。

注目の理由:インドネシアの貯蓄は3700億ドルある。Ajaibの資産管理システムがターゲットとする国内マーケットは非常に大きい。

Grin

電動キックスクーターのブームはラテンアメリカにも広がっている。メキシコシティーを本拠とするGrinもその一つだ。共同創業者のSergio Romoらは.(Axiosの記事にもあるとおり)、アメリカでBirdのeスクーター共有事業に投資しようとして機会を逃した。そこでラテンアメリカをカバーするeスクーター事業を立ち上げたという。Sinai Ventures、Liquid2 Ventures、500 Startups、Monashees、Base10 Partnersらが投資している。

注目の理由:eスクーターは2018年を代表するホットな分野だ。 アメリカではBird、Limeの急成長を受けてUbe、Lyftrまで参入中だ。しかしまだ勝者は決まっていない。

Emojer

写真から動く絵文字を作成できるようにするのがEmojerの目的だ。写真を撮ると絵文字になって踊り出すというのはスマートフォンのカメラの面白い使い方だろう。Emojerのソフトは深層学習アルゴリズムによって人体のパーツを認識し、ユーザーは簡単な操作で撮った写真をアバターの動きに変換することができる。Photoshopの複雑なインターフェイスの操作もアニメーションに関する深い知識も不要だ。アバターの仕組みはクリスマのたびに口コミで人気が出るアプリ、Elf Yourselfに似ている。このアプリは友達の写真から顔をコピーして踊る妖精に貼り付けることができる。 Emojerのファウンダーは機械学習とコンピューター・ビジョンの分野で博士号を持っている。

注目の理由:EmojerのCEOは「人々がSnapを使うのはセクスティング(性的なメッセージや画像のやり取り)が大きな目的で、FacebookをHot Or Not(異性の写真を品定めする)に使う人間も多い」と語った。そういう「トロイの木馬」現象を考えるとEmojerは密かにセルフィーアニモジを流行らせるプラットフォームに化けるかもしれない。

Osh’s Affordable Pharmaceuticals

Osh’s Affordable Pharmaceuticalsは低価格の処方薬を提供することで医師と患者双方に利益をもたらすことを目的とする公益法人だ。同社では症例が少ないため探すのが困難だった医薬品の入手へのハードルを下げようとしている。3週間前に同社はウィルソン病に対する薬品を発表した。この症状に有効な薬品はこれまでブラジル、インド、カナダでは利用できなかった。また同社の新薬はコストを月3万ドルから120ドルへと劇的に下げた。Oshでは適用のある市場はトータルで170億ドルにもなると見積もっている。「ジェネリック医薬品の価格は決定的に重要だ。多くの患者が必要な医薬品を購入できないために死んでいる」とCEO、Alex Oshmyanskyは述べた。同社は解決策を提供できるかもしれない。

注目の理由:症例の少ない難病に対する有効な医薬品が入手できなかったか高価すぎた国々に低コストのジェネリック医薬品を提供するというのは単に優れたビジネスだというだけでなく世界を改善することができる。

Medinas Health

アメリカのヘルスケア・システムに存在する750億ドルもの頭痛のタネに解決策を与えるのがMedinas Healthの目標だ。同社は病院などの医療組織が使用ずみないし不要となった医療機器を再販売することを助ける。シード資金を提供したのはハリウッドスターでベンチャー投資家のアシュトン・カッチャー、Guy OsearyのSound Ventures、General CatalystのRough Draft Venturesファンドだ。 Medinas
Healthは資金不足に悩む地方のヘルスケアセンターの運営コストの引き下げにもなると期待している。

注目の理由:中古医療機器の流通はトータルでは750億ドルにもなる市場だというが、これまでビッグビジネスの目立たない片隅に追いやられていた。この分野をターゲットとして僻地の病院の運営を助けることができるならMedinasは応援すべきビジネスだろう。

And Comfort

大柄な女性のファッションの選択肢はNordstromやMacy’sのようなデパートでも限られている。ところがアメリカの女性の多数はこの「プラス・サイズ」のカテゴリーに入る。1億人のアメリカの女性が非常に少ない選択肢で我慢をしているという。And Comfortはこの状態を改革しようとしている。ハーバード大学でクラスメートだった2人の共同ファウンダーは、消費者直販のファッションブランドを立ち上げ、プラス・サイズの女性を悩ませているアイテムの供給不足という問題の解決を試みている。これにはスタイリッシュかつミニマリストなチュニックやエプロンドレスなどが含まれる。きわめて若いスタートアップだが、ブランドが販売を開始してから数週間ですでに2万5000ドルの売上があったという。

注目の理由:この直販のファッション・ブランドはこれまで無視されがちだった層に高品質でエレガントなアイテムを供給するという。これは有望だろう。

ShopWith

世界中のインフルエンサーの活動を一つのモバイル・アプリから見られるようにするのがShopWithの目標だ。ユーザーはバーチャル店舗に入り、通路に沿って並ぶファッション、コスメティックスなどのアイテムをショッピングすることができる。これらはお気に入りのブロガー、ユーチューバーなどのインフルエンサーが推薦しているアイテムだ。ユーザーはアプリから出ずにこインフルエンサーがフィーチャーしている商品を購入できる。ダウンロードは無料。

このサービスのビジネスモデルはテレビ通販のQVCにやや似ている。ただし〔90年代後半生まれの〕Z世代のユーザーの購入に影響を与えているのはテレビではなくYouTube、Instagram、Snapchatといったオンラインのソーシャルビデオだ。同社によれば、ある美容系インフルエンサーはShopWithプラットフォームを利用することで5時間で1万ドルの利益を得たという。共同ファウンダーはFacebook、Amazonでソーシャル通販ビジネスの運営の」経験がある。

注目の理由:Z世代向けQVC というキャッチフレーズもさることながら、これは着実に売上を伸ばせる方向だ。モバイル・ファーストでインフルエンサーをベースにしたショッピング・サービスは有望。

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滑川海彦@Facebook Google+

Cytera CellWorksは細胞培養を自動化してあなたの食卓に細胞から育てた肉を届けたい

Cytera CellWorksは、細胞培養の自動化によって、いわゆる“クリーンミート”産業を革命したいと願っている。そしてそれは、すべてが計画通りに行ったら、同社の製品がアメリカのすべての食料品店で買えるようになることを意味している。

でも、その日はまだまだ遠い。2017年にイギリスの二人の大学生Ignacio WillatsとAli Afsharが創ったCyteraは、ロボットを使用するオートメーションで細胞培養を構成し、 ペトリ皿でターキーの肉を育てたり、幹細胞を検査したりするようなときの培養過程を本格的な生産工程に乗せるつもりだ。

二人のファウンダー、イベントやスタートアップをやってきたWillatsと科学者のAfsharは、従来とは違うやり方でラボの構成を改良しようとしている。たとえば、GoProのカメラを全員が着用する、とか。二人はロンドンのインペリアル・カレッジで、ラボ(〜研究室)の自動化のためのイベントをやるつもりだったが、そこから友情が育ち、会社を作ることになった。

Afsharはこう言う: “当時、ラボの自動化はやや次善のアイデアだった。本当は、もっと強烈なインパクトのあるものを、やりたかったんだ”。

細胞レベルの農業(“細胞農業”)は、動物の細胞をラボで育てる技術で、すでにY Combinatorのこの夏のクラスに二社が入学している。つまりそれは、スタートアップの本格的な起業テーマになりつつある。もはや、人が眉に唾を塗るきわものではない。

ラボ製の食肉産業は、急激に拡大してきた。それは動物の細胞の生検を取って、それらをラボで育て、生きてて呼吸をしている動物ではないものから、肉を作ろうとする。過去2年間で、Memphis Meatsのようなスタートアップが雨後の筍し、ラボミートをレストランに提供してきた。完全植物性のマヨネーズで名を上げたHampton Creek(今はJust)でさえ、今はラボ育ちのフォアグラを作っている。

最初Cyteraは、ラボの一般的な自動化に関心があったが、世間の関心と今後の事業化の可能性から細胞培養の自動化に集中するようになり、名前も今のCyteraに変えた。すでに、著名な遺伝子治療企業など、将来性ありそうな見込み客も数社ある(まだ名前は公表できない)。

ラボの自動化は新しいテーマではなく、すでにいろんな業界が取り組んでいる。たとえば大手製薬企業は、投資額数十億ドルという大規模な機械化と電算化により、新薬発見過程を大規模に自動化している。そんな大企業が将来、食肉企業と組んで大規模なラボ製食肉生産を始めるかもしれない。現在まだそんな動きはないが、WillatsとAfshaは、大企業は小さなスタートアップと組んだ方が仕事が早いだろう、と見ている。

小にも大にも、それなりのトレードオフはあるが、でもCyteraが成功したら、そのころのあなたは、Cyteraのラボで作られた細胞を買った企業が培養した、鶏の胸肉を食べているかもしれない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Disrupt SF(9/5-9/7)でバイオテク投資家の話を聞こう――ローラ・デミングらが登場する

9月5日から7日にかけてTechCrunch Disrupt SFがサンフランシスコで開催される。すでにカレンダーにチェックはお済みだろうか? 今年のDisrupt SFは過去の例にくらべてスペースも予想来場者数もセッションの数も2倍以上の規模だ。われわれはあらゆるエマージング・テクノロジーをカバーする予定だ。これにはスーパー・ホットなバイオテク分野も含まれる。

Startup Alleyにはバイオテク分野のスタートアップのためのセクションが設けられ(バイオテクのファウンダーも無料のTC Top Picks に選ばれる資格がある。また参加パッケージを購入すれば、3名分のファウンダー・パスが得られDisrupt SFのすべてのセッションに参加できる。申し込みはこちら)。

Disrupt SFではバイオテク分野のトップ投資家の講演が予定されており、重要なトレンドやこの分野のビジネスの見通しについて貴重な意見が聞ける。ベンチャー投資家がどのようなバイオテク・スタートアップへの投資を狙っているのか知るために絶好のチャンスだ。

Laura Deming:総額2600万ドルのLongevity Fundのファウンダー、パートナー。このベンチャー・キャピタルは老化防止のためのバイオテクに特化している。Demingは14歳でMIT(マサチューセッツ工科大学)に入学を許された。その後ピーター・ティールからの10万ドルのベンチャー資金、Thiel Fellowshipを受けてMITをドロップアウトし、ベンチャー・キャピタルをスタートした。 Demingは「近い将来、老化という現象はなくなる」と信じている。これまでのところ、DemingはUnity BiotechnologyPrecision BiosciencesMetacrineNavitorAlexo Therapeuticsなどに投資している。

Nina Kjellson:Canaan Partnersのジェネラル・パートナー。 Kjellsonは主として新分野の開拓を目指すバイオファーマとデジタルヘルス企業に投資している。またBlueprint Health、Springboard Life Sciencesのメンターを務め、Essential Access HealthとOliver Wyman Health Innovation Centerの理事でもある。 スタンフォード大学でヒト生物学を専攻して修士号を取得している。最近の投資先にはAnnum HealthDauntlessPACT Pharma Tizona TherapeuticsVineti.などが含まれる。

Arvind Gupta:総額1500万ドルのアーリーステージ・ベンチャーキャピタル、SOSVのジェネラル・パートナー。 これまでにサンフランシスコに本拠を置くバイオテク・インキュベーター、IndieBioを創立している。IndieBioは「10億人に影響を与えるか企業価値が10億ドルになる会社」の育成を目指している。Arvindはカリフォルニア大学バークレー校で遺伝子工学を専攻し修士号を得ている。投資先にはMemphis Meats、Synthex、Medel.AI、Catalogなどがある。

これ以外にもバイオテクとヘルス分野には多数のプログラムが用意される。23andMeのファウンダー、アン・ウォジスキーが講演することはすでに発表したとおりだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

生物学を3Dで視覚化する強力なツールAllen Integrated Cellで感動しよう

細胞ってどんな形をしているのだろう? 絵を描(か)けと言われたらたぶん誰もが、中央に卵黄のある目玉焼きのようなものを描き、リボゾームを二本ぐらい添えるだろう。凝り性の人なら、さらに小胞体をざっと描くかもしれない。でも本物の細胞はそれよりもずっと複雑で、しかももちろん立体だ。そして細胞を実際に体(からだ)にあるとおりに、誰もが視覚化できるツールが、ここでご紹介するAllen Integrated Cellだ。

このツールを作ったAllen Institute for Cell Science(アレン細胞科学研究所)は、Microsoftの協同ファウンダーPaul Allenがシアトルに作った研究施設だ。この研究所は長年、主に細胞の視覚化を研究してきたが、今日(米国時間5/9)やっとそれをAllen Integrated Cellと名付けた企画として一般公開し、Web上でも見られるようにした。

このアプリケーションは、もっぱら幹細胞が対象だ。その3Dモデルは一般的な理論だけでなく、彼らが研究所内部で行った記録や観察にも基づいている。細胞のタイプは数十種類あり、プロテイン(タンパク質)をはじめ、細胞を構成しているさまざまな物質を像を切り替えながら見ることができる。

オルガネラやプロテインの位置を観察できただけでなく、このシステムはそのほかの類似の細胞を調べることによって、それらの位置を予測できるようになった。そこで、特定の物質を探索しなかった細胞についても、その存在を確率モデルから推測できる。

それが重要なのは、特定の物質やオルガネラを選んで蛍光染色し、顕微鏡で直接見るやり方が細胞にとって良くないからだ。そうやっていろんなものをタグ付けしていると、細胞が死ぬこともある。しかしモデルによって、細胞膜Bの存在と形からオルガネラAの所在を導けるのなら、タグ付けは不要だ。

研究所の常勤取締役Rick Horwitzがプレスリリースで述べている: “これは、人間の生きている細胞の内部を見る新しい方法だ。将来的にこの方法は、新薬の発見や疾病の研究など、人間の細胞の研究を必要とする研究開発の、あり方を変えるだろう”。

微生物学者でない人が見ると、これらは岩を描いたヘタな絵か、モダンアートに見えるだろう。しかし、ある種のプロテインの生体内の働きや、特定の医薬やホルモンへの反応、その分布を支配している体内的過程、などを研究している者にとっては、強力なツールになりえる。

関心を持たれた方は、研究所にある、人間の細胞のヴィジュアルガイドをご覧になるとよいだろう。それも今日公開され、見る人に高校時代の生物学を思い出させるだけでなく、撮影された動画等ではなくWebそのものの技術で描かれる、3Dのすばらしいビューアーを体験できる。

画像クレジット: Allen Institute for Cell Science

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

バイオ専門のアクセラレーターIndieBioが初めてのデモデー、14社が勢揃い

[筆者: Neesha A. Tambe]
【抄訳】
今日(米国時間4/17)の午後2時から、本誌TechCrunchはIndieBioのデモデーをお届けする。

IndieBioは、バイオテク企業にフォーカスする生後4か月のアクセラレーターだ。初期段階の企業にメンター(mentor, 指導者, 個人指導)がつき、バイオセーフティーlevel 1と2のラボを利用でき、業界のエキスパートからのアドバイスと25万ドルの資金が得られる。

2018年度の14社は、ノンオピオイド鎮痛投薬管理や、合成木材の生成、そしてAIを利用する抗生物質耐性の抑止など、さまざまだ。

彼らのデモを、ご覧いただこう:

Antibiotic Adjuvant: AIを利用して抗生物質耐性をモニタし減衰する意思決定支援ソフトウェア。

BeeFlow: 農作物の受粉用の利口で強い蜂を開発中。収穫量を最大90%上げ、蜂の人口減を抑える。

Dahlia Biosciences: 研究や診断用の多重化イン・シトゥー単細胞RNA分析ツールの次世代型を作る。

Jointech Labs: 高品質な脂肪移植、脂肪由来の幹細胞、および細胞治療を安全低価格で提供。

Lingrove: 自然界にある繊維や樹脂から、外観や性質は高級木材のようでカーボンネガティブな合成木材を作る。

MezoMax: 骨折治癒の高速化、骨粗鬆症の治療の改善、高齢者の骨の強化を、新しいグルコン酸カルシウム立体異性体により実現する。

Neurocarrus: 慢性の痛みに対する、効果が長時間なノンオピオイド鎮痛剤。オピオイドのような習慣性や副作用がない。

Nivien Therapeutics: 化学治療と免疫治療の両方を強化する初めての低分子医薬。15例のがんで効果を実証。

Nuro: 手術やICU、介護、リハビリなどのあとで無力化している患者にコミュニケーション能力を持たせる。

Onconetics Pharmaceuticals: 腫瘍の細胞に対する遺伝子治療。遺伝子スイッチがアポプトーシスを誘起してがん細胞を殺す。

sRNAlytics: 新しいバイオインフォマティクスにより小さなRNAバイオマーカーをエラーフリーで見つける。ハンチントン病で概念実証を行った。

Sun Genomics: 各個人に合わせたプロバイオティクスにより腸内細菌の健全な状態を取り戻す。そのために消化管の細密なプロファイルを作成する。

Terramino Foods: シーフードの中でも、菌類や藻類の健康効果を強調した食品を作る。

Vetherapy: 猫、犬、馬などの新しい幹細胞治療を開発。傷の早期治癒や、自己免疫の治療、炎症の治療などで効果を実証。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

批判を浴びていたMITが脳を保存するスタートアップNectomeとの関係を断つ

MITが、Nectomeとの関係を断つことになった。この、Y Combinatorが支援するスタートアップは、将来のデジタルアップロードの可能性のために顧客の脳を保存すると称してきた。

協同ファウンダーのRobert McIntyreはその処置を、“100%致死的である”と述べている。それは、末期の患者をマシンに接続して動脈に防腐液を注入する、などの過程を含んでいる。

同社は申込者から10000ドル(返金可)を集めたが、今同社のWebサイトには“最近の報道への応答”と題する注記があり、処置の実行は今後のさらなる研究の後になることが示唆されている:

人間の脳の臨床的保存には人類にとって大きな利点の可能性があるとわれわれは信じているが、しかしそれは、医学と神経科学の専門家からの入力をもとにオープンに研究開発された場合に限る。現時点で生体保存を急ぐことはきわめて無責任であり、今後の正しい方式の採用を妨げるものになる、とわれわれは信ずる。

MITのTechnology Reviewにも書かれているが、MITとの関係が同社に信ぴょう性を与えている、と批判されてきた。MIT Media LabのEdward Boyden教授はNectome社への国の補助金の形で、金を受け取っていた。McIntyreと彼の協同ファウンダーMichael McCannaは、ともにMITの卒業生だ。

今回Media Labは声明を発表し、“同社のビジネスプランの科学的前提と、同社が発表している一部の声明を”検討した結果、“両者の合意に基づき、MITとNectomeの協同関係を終結する”、と述べた。

Media Labによると政府の助成対象になっていた研究プロジェクトは、“Nectomeの化学的側面と、Boydenグループの発明になる拡張顕微鏡技術を組み合わせて、基礎的科学と研究目的のためにマウスの脳のより良質な視覚化を得る”ことだった。Boyden教授とNectome社の間に、金銭や契約などをめぐって個人的な関係はなかったようだ。

その声明は最後に、Nectomeの背後にある科学に言及している。Media Labは、脳の保存と未来におけるアップロードの可能性を全面的に否定するものではないが、科学的確証はまだない、と示唆している:

神経科学はまだ十分に進歩していないので、記憶と心に関連するさまざまな生体分子をすべて保存できるほど強力な脳の保存方法がありうるか否かを、知っていない。また、人間の意識を再生することが可能かどうかについても、知っていない。

McIntyreはMIT Technology Reviewでこう述べている: “MITが私たちに与えた助力に感謝し、彼らの選択を理解し、そして彼らに最良を願う”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

SEC、Theranosを「巧妙大規模な詐欺」として告発――エリザベス・ホームズは制裁受諾

SEC〔証券取引委員会〕は一時シリコンバレーの期待の星だったバイオテックのスタートアップTheranosにおける不正を長期間捜査していたが、このほどファウンダーのエリザベス・ホームズ、元プレジデントのラメシュ・サニー・バルワ二を大規模な詐欺を実行したとして正式に告発した。

SECの告発内容は、この2人が7億ドルを投資家から騙し取ったというのものだ。SECは2人が「数年にわたって同社のテクノロジー、ビジネス、財務実績に関して誇張ないし虚偽の発表を行うという巧妙な手口により」詐欺行為を働いたとしている。

SECによればTheranos とホームズは訴追事実について認否を明らかにしないものの、SECの課す制裁に同意して和解したという。

ホームズは50万ドルの制裁金の支払、上場企業の取締役ないし幹部への就任の10年間禁止、詐欺によって得た1890万株のTheranosへの返還、また同社のクラスB普通株をクラスA普通株に転換することにより同社の支配権を解消することに同意した。

SECはBalwaniについては連邦地方裁判所で訴追するという。

Theranosに最初に疑惑が浮上したのは2015年10月に、ウォールストリート・ジャーナルの記者でピューリッツァー賞を2回受賞しているJohn Carreyrouが驚くべき調査報道記事を発表したのがきっかけだった。当時Theraonosは90億ドルという途方もない会社評価額を得ていたが、WSJの記事は、数滴の血液で広汎な検査ができる画期的テクノロジーを開発したという同社の主張は著しく誇張されていると指摘していた。

元社員がCarreyrou記者に述べたところによれば、 Theranosが実際にラボで顧客の血液検査に利用していたのは、自社開発のものではなく、Siemensのような会社から購入した通常の医療検査用機材だったという。当時Theranosの代理人を務めていた著名な弁護士のDavid BoiesはWSJの取材に対して自社開発の検査機械を全面的に利用してはいないことを認め、移行は(時間がかかる)「旅路」だと述べた。

Theranosの社員は自社開発の検査機材の正確性について「強い疑い」を抱いていたと記事は指摘している。

しかし検査結果は何がなんでも正しくなければならなかった。最初期のTheranosの取締役だったタイラー・シュルツ(元アメリカ国務長官のジョージ・シュルツの孫)によれば、Theranos開発の機器はたびたび不正確な結果を出し、同社の社内の品質管理基準さえ満たしていなかったにもかかわらず、当時の社長、バルワニは顧客の血液検査を続けるよう社員に圧力をかけたという。

懸念を抱いたシュルツはニューヨーク州公衆医療組織に接触し、Theranosは有効性テストの過程で不正な操作を行っていると通報した。

Theranoに対する内部告発はシュルツに不利益をもたらした。シュルツが後にWSJに述べたところによれば、私立探偵に尾行されただけでなく、祖父のジョージ・シュルツとの関係もこじれ、弁護士を介してしか連絡ができないような状態になったという。しかしタイラー・シュルツの主張は連邦保健社会福祉省のメディケア・メディケイド・サービス・センターによって事実であると立証された。この結果、ホームズは昨年、血液検査業務に就くことを2年間禁じられた。Theranosの血液検査ラボは調査の結果、所定の基準を満たしていないことが判明し、すべて閉鎖された。

今回の決定はこうした一連の出来事を原因としている。SECはTheranos、ホームズ、バルワニは「投資家に対するプレゼンテーション、プロダクトのデモ、メディアに対する発表において無数の虚偽ないし誤解を招く主張を行い」、投資家を欺いたとしている。

Theranosのプレス窓口は今朝は取材を受け入れていないが、先ほど発表を行った。同社はこれまでいわゆるminiLabの販売に力を入れてきた。このデバイスは一滴の血液で多数の検査ができるというもので、昨年12月にFortress Investment Group(SoftBankの子会社)から1億ドルの借り入れを行っている。

SECと和解したとするTheranosの声明は控えめに行っても大胆なもので、「この問題に関して決着を付けられたことを欣快とする。今後はわれわれのテクノロジーのさらなる進歩を期待している」と述べている。

一方、元プレジデント、バルワニの弁護士は、別途メディア向け声明を発表し、TheranosにおけるBalwaniの役割を擁護し、SECの捜査は「不当なものだ」とした。

この声明で、バルワニのTheranosへの関与は「顕著な財政的リスク」の下になされたものであり、「同社から財政的利益を得たことは全くない」、逆に「個人的資産から数百万ドルを投資している」とした。これは「幹部として会社への異例の貢献だ」という。

〔日本版〕 SECの発表でサンフランシスコ支局長Jina Choiは「Theranos問題はシリコンバレーにとって重要な教訓だ。あるビジネスにおける革命とディスラプトを求めるイノベーターは、自分のテクノロジーが、将来こうなるだろうという希望ではなく、現在何ができるのかについて投資家に真実を告げねばならない」と述べている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

古代の絶滅種マストドンのグミ菓子を作ったGeltorは屠殺に依存しない動物性蛋白質を目指す

[筆者: Paul Shapiro](”Clean Meat: How Growing Meat Without Animals Will Revolutionize Dinner and the World“の著者)

古代食といえば、われわれ人類の農業以前の遠い祖先たちが食べていた、と考えられる食物による、一種の食養生や食餌療法を指すことが多い。しかしながら、祖先たちが本当に何を食べていたのか、に関する議論や研究は未だに乏しい。でもシリコンバレーのVCたちが支援するサンリアンドロのスタートアップGeltorにとっては、合成生物学(synthethic biology)が、そのような古代食の、その文字通りの理解〔==本物の古代の食べ物〕を作り出すための手段になった。

人類が初めて北アメリカへ来たとき、われわれが目にしたのは巨大な動物たちがたくさんいる大陸だった。マストトドンが最大の動物だったと思われるが、しかしこれらの、アジア象の牙の長い親戚たちは、ホモ・サピエンスが登場するころまで進化を続けることができず、したがってわれわれの獲物になることもなかった。きわめて急速に、彼らやそのほかのいわゆる大型動物相(megafauna)は絶滅危惧種となり、そして完全に絶滅した。しかし、その消滅した四足獣たちの一部は、氷の墓地に閉じ込められ、その肉体は数千年を経た今でも腐敗変質せずに保存されている。

そして、古代の有機体がみなそうであるように、彼らの肉体にタンパク質がまだあれば、それらはおそらくコラーゲンの形で残っている。それはわれわれの肉体にも豊富にある分子だ。いや、それどころか、人類は今や、遠い昔の動物たちのタンパク質をシークエンシングすることにより、われわれの祖先たちが満喫した巨大生物の、少なくとも分子レベルでの採掘に向かう第一歩を踏み出したばかりなのだ。インターネットに接続できる人なら誰でも、ほんの数秒で、マストドンのタンパク質のシークエンス(アミノ酸配列)に無料でアクセスできる。

そこでGeltorだが、同社は基本的には、発酵を利用してバクテリアのような微生物からコラーゲンを逆行分析(reverse engineer)し、またその副産物としてゼラチンを得ている。パン屋さんのイースト菌がCO2を作ってパンを膨らまし、醸造所のイースト菌がアルコールを作るように、Geltorは微生物を使って本物のコラーゲンのストランドを作り出している。協同ファウンダーのAlex LorestaniとNick Ouzounovが遺伝子コードをプログラミングしてそれを微生物中に植えることにより、目的とするタンパク質を大量に作り始める。

LorestaniとOuzounovは、地球上に現存する動物のDNAシークエンスでこの能力をマスターしたあと、2015年の終わりごろ、彼らの実験を先史時代に適用する決心をした。Geltor はDNAをプリントしてくれる企業に注文して、マストドンのコラーゲンをエンコードしているDNAのバイアルを入手した。それらを確保した二人の科学者は、マストドンのゼラチンの現物を作り出す(微生物利用の)プロセスを開始した。

画像提供: PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty Images

LorestaniとOuzounovはグミベアを作ることもできたかもしれないが、しかし二人の協同ファウンダーはEtsyで象の抜き型を買った方がクールだ、と考えた。さすがにマストドンの抜き型は見つからなかったが、ふつうの象さんでも同じだ、と彼らは考えた。グミエレファントで十分じゃないか。すぐさま、彼らのゼラチンに砂糖とペクチンを混ぜ、世界初のマストドンのゼラチン・キャンデー〔いわゆるグミ菓子〕が完成した。その小さなグミエレファントをOuzounovが自分の口に運ぶのを見たLorestaniは思った: “おいおい、人類がマストドンのタンパク質を食べるのは、ものすごく年月が経って、今がやっと初めてだな”。

別の言葉で言えば、それが今日の世界では唯一の、本物の古代食だ。

その後同社は数百万ドルの資金を調達して、化粧品などにも使われている今のふつうの動物のDNAから本物のコラーゲンを作り出す研究開発を開始した。そのコラーゲンを、本物の革に成長させることもできた…もちろん、牛を一頭も使わずに。そして、世界で初めての、実験室で育てた皮革を使った革表紙の本まで作った。

Geltorは、クリーン・アニマル・プロダクトの分野を開拓しているスタートアップたちのグループに属する。それは、本物の動物性食品を、動物を繁殖したり殺したりせずに入手する技術だ。この用語は“クリーン・エナジー”をもじっているが、動物性食品を今の畜産のように資源浪費型で作るのではなく、ずっと少ない資源消費量で得ることに加え、クリーン・ミートやクリーン・ゼラチンは、食べ物の安全性という見地からもずっとクリーンだ。

今日の食肉産業は、つねに病原性大腸菌のリスクにさらされているが、食肉(やゼラチンなどの)の生産を家畜の肥育に依存しないようにすることができれば、真に安全な食品が現実のものになる。また動物から動物性タンパク質を得ることに比べて、それにはありえない、ずっと多様な機能性食品が得られる。

写真提供: Flickr/Mike Licht

“食べ物のコミュニティとしてのわれわれ人間は今、安易に稼働できるタンパク質製造プラットホームに甘んじている”、とLorestaniは彼の見解を述べる。同社は仲間のスタートアップMemphis Meatsとオフィスを共有しているが、こちらは、屠殺からではなく細胞の培養から本物の食肉を育てようとしている。Lorestaniは、彼のトレードマークであるグレーのフーディーで頭と顔を覆ったまま、話を続ける: “多くの場合それは動物の搾取であるだけでなく、豊富な植物にも危機を及ぼしている。人間は大量の動物を作り出す名人だが、しばらくは、それでもよかった。しかし今日では、動物を作物とする農業はわれわれの文明に大きなストレスをもたらしている。しかも、それよりも良いやり方があるのにね。われわれは、そのことを世の中に示したい”。

絶滅した動物のタンパク質を食べることは、古代食愛好家である/ないを問わず、必ずしも万人にとって魅力的ではないだろう。しかし今日の、動物製品の作り方は、われわれの惑星に現在住んでいる種にとってまったく持続可能性がない。もちろん、人間も含めてだ。食肉や、そのほかの動物製品への高い需要が、今日の野生種絶滅の主な要因であることは、今や周知の事実だ。

Geltorのようなフードテック企業の活躍によりわれわれはもうすぐ、もっと安全でエコフレンドリーで人間的な方法で動物製品を食卓に運ぶことが、できるようになるかもしれない。そしてそれはまた、多くの種がかつてのマストドンの道をたどることを、防ぐ方法でもある。

トップ画像: James St. John/Flickr CC BY 2.0のライセンスによる

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

「若き研究者よ、今こそ立ち上がれ」社員1人のバイオベンチャーJiksak、ALSなくす挑戦へ1.9億円を調達

「患者さんの本や研究をきっかけに、ALSという病気が想像以上に辛い病気だと知った。発症原因についていくつか仮説はあるものの、正しいものがつかめていない状況で治療方法も見つかっていない。自分の研究をこの病気の解決に繋げられないかと考えた」—— Jiksak Bioengineering代表取締役CEOの川田治良氏は、ALSをなくすチャレンジを始めたきっかけをそのように話す。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は進行とともに随意筋のコントロールを失っていく病気。意識がはっきりしているのに、手足を動かしたり声を出したりできなくなってしまう。数年前にソーシャルメディアで大きな話題を集めた「アイス・バケツ・チャレンジ」で、ALSを知った人も多いのではないだろうか。

この難病を「独自の細胞培養技術」を通じてなくそうとしているのが、Jiksak Bioengineeringだ。同社は2月21日、ベンチャーキャピタルのANRI、大原薬品工業、エッセンシャルファーマ、メディフューチャーを引受先とした第三者割当増資と助成金を合わせて、総額1.9億円を調達したことを明らかにした。

今後は組織体制を強化し、これまで研究開発を重ねてきた製品を実際に販売するフェーズに入っていくという。

人体と同じような神経組織を作製し、試験の成功確度をあげる

同社が取り組むのは「人工的に人体と同じような神経組織を作製することで、ALSなどの治療薬を見つけ出す」ということだ。ポイントとなるのは、いかに体内に近い環境を試験官の中につくりだせるか。それが試験の成功確度をあげることにも直接つながる。

同社ではマイクロ流体デバイスの仕組みと、iPS細胞をもとに三次元構造を有する細胞組織(Nerve Organoid / ナーブオルガノイド)を形成。それを数センチ程度のマイクロチップに詰め込んで販売する。これはOrgan on a chip(日本語では人工臓器チップと訳されるそう)とよばれる技術で、アメリカでは非常に注目を集めているそうだ。

では実際のところJiksak Bioengineeringの技術は従来と何が違うのか。最大の特徴は「細胞核と軸索(体の導線のような役割を果たすもの)をわけて培養できる」ことにあるという。

川田氏によると、そもそも体内の運動神経は軸索が伸びて束になっているそう。この状態に近いシチュエーションを作りだすための「軸索を長く伸ばして、束ねる技術」が同社独自のものだ。

これはJiksak Bioengineeringが作る細胞組織の写真で、中央の黒い部分が細胞核、そしてそこからにょろっとでているのが軸索だ。一般的な技術で作られたものではこの2つがここまで明確に区分できず「ミックスされている」状態なのだそう。混ざってしまっている状態では軸索部分だけを切り出して、分析や実験をすることができなかった。

「(軸索だけを切り出すことができれば)軸索の中にだけ存在するものを評価できるようになる。たとえば健常者とALS患者のiPS細胞からオルガノイドを作った際に、軸索を切り出すことで『軸索の中で何か悪いことが起きているのかどうか』を確認できる」(川田氏)

川田氏によると、実はALSやパーキンソン病に関する論文の中には「軸索の中で問題が起きているのではないか」と主張しているものも多いそう。Jiksakの技術ならば、この仮説に対してきちんとアプローチができるようになる。

このように人体に近い環境を作れることで2つのメリットがあるという。1つは試験の成功確度があがること。そしてもう1つは基礎研究の段階から、人体に近い組織で実験ができるようになることだ。

従来の試験方法では、バイオ細胞→動物→治験(人間)という対象順に研究を行う。ただ川田氏によると「人間と動物、人間とバイオ細胞は全然違うもののため、人間とは異なる2つの環境で条件をクリアしたとしても(最終的に)うまくいかないケースも多い」そう。Jiksakのオルガノイドはこのプロセス自体も変えられうるという。

自分みたいなやつでも、スタートアップできる

せっかくなので川田氏のことも少し紹介しておきたい。同氏は東大の生産技術研究所でマイクロ流体デバイスを用いた細胞培養や、iPS細胞の研究に従事。博士課程でハーバード大学に行ったのち、帰国後は再び東大に戻った。

もちろんそのまま大学で研究を続けるという選択肢もあったのだろうが「この技術を確立して少しでも早く産業界に展開したい」という気持ちが強かったそう。研究の傍ら、外部の人と合う中でANRIの鮫島昌弘氏と出会い、出資を受けられる目処が立った。同時期にNEDOSUI採択案件(研究開発型ベンチャー支援事業)にも選出。ある意味「東大のポストを捨てる」ような形で、2017年2月に起業した。

2018年2月に鮫島氏が社外取締役に就任したが、今でも社員は川田氏1人だけ。今回の資金調達も研究開発と並行して「周りからは相当ディスられながらも1人でやった」(川田氏)そうだ。

「大学で研究することももちろん価値があることだけれど(その研究を事業として)社会に生かしていくくことも大切。ポスドク(博士後研究員)の中には、今後自分の研究をどう進めていくか悩んでいる人も多い。今はアカデミアの領域以外にもチャレンジできる場所があり、自分みたいな人間でも起業して資金調達をしながら事業を進めていける環境だ。起業という選択肢があってもいいし、博士号をとったような人材が(ビジネスの現場に)でてくると、日本のバイオベンチャーもさらに盛り上がる」(川田氏)

創業時に川田氏が使っていたラボ。当時はFabcafeの一室でやっていたという。ちなみにこの部屋は鮫島氏が見つけてきたもの。「彼との二人三脚は弊社の根幹だった」(川田氏)

たとえばアメリカでは著名なVCであるAndreessen Horowitzが人工臓器チップの可能性について言及するなど、この分野に注目する投資家も多い。累計で5900万ドルを集めているEmulateのようなスタートアップも生まれている。

一方で日本はバイオベンチャーが少ないため(川田氏は起業家自体がそもそも少ないという)、そこに投資をするVCも限られている。資金調達を進める中で、専門知識がある事業会社の担当者の反応が良い一方、VCの反応がイマイチなどギャップに苦しんだこともあったそうだ。

それでも1人で必要な軍資金を集めた川田氏。これまでは研究開発がメインだったが、今後はいよいよ次のフェーズに入っていくという。

まず開発したチップを製薬企業や大学の研究者などに販売をしていく(チップを単体で売るのではなく、細胞を入れた状態で販売)ほか、製薬企業とは個別に共同研究契約を提携。各企業のニーズに合わせてオーダーメイドのような形で技術・製品を提供していく方針だ。

また現時点で詳細は明かせないということだが、軸索束を使った再生医療製品の開発にも取り組むという。

「これからは人材採用も進めて組織体制を強化しつつ、販売するチップを大量に生産できる『神経工場』のようなものを作る。チップの販売や共同研究、自社での再生医療製品の開発も合わせて、ALSをはじめとする難病をなくすチャレンジを続けていきたい」(川田氏)

RightEyeのポータブル視線追跡検査器は、脳震盪の影響や読書の学習障害などを素早く検査できる

世の中では「目は心の窓」だと言われているが、生理学的に言うならば「目は脳の窓」が正しい表現だ。

RightEyeはその窓を通して、脳震盪やその他の脳の障害からもたらされる、一般的だが微妙な問題を発見する。その高速でポータブルな視線追跡ステーションは、数分のうちに、医者に行くべきか、プロの球技選手になるべきかを判定してくれる。

人間の目がどのように動いているのかを見ることで、多くのことを知ることができることがわかった。人びとは自分自身では気が付いていないかもしれないが、数多くの基本的な動作(目をキョロキョロさせたり、動く目標を目で追ったり)を私たちがどのように(巧みに)行うかは、個々人の間でかなり異なっている。例えば、あなたの目は、直線に沿って視線を移動させようとするときに、過剰なほどきっちり進んだり、まっすぐ移動できなかったり、あるいは上下にふらつくことがある。

健康な人たちなら、これらの変動は安全な範囲内に収まる、それは個体間に普通に見られる違いの一部だ。しかし、ベースラインを外れた特定のパターンは、脳震盪や目の筋肉の問題、さらにはパーキンソン病や自閉症スペクトラム状態などの強い指標となる。

RightEyeは、こうした動きを、オールインワンのデスクトップのように見えるカスタムデバイスで追跡する。このデバイスは、単一目的のコンピュータに組み込まれたTobii視線追跡モジュールを使用する。またデバイスには単純な検査用ライブラリが組み込まれている。基本的なEyeQ(と彼らは呼んでいる)検査の実施に必要なのは5分ほどだ。特殊な検査を追加しても少し増える程度である。そして結果はすぐに得ることができる。

どんなものかという雰囲気を掴んでもらうために説明すると、例えばゲーム仕立ての1つの検査では、あなたは宇宙船を守らなければならないが、そのためには迫ってくる他の宇宙船を見ることによって破壊する必要がある。しかし、特定の色の船は破壊してはならない。つまり、周辺視野でそれらを検知しし、それらを見ることは避けなければならないということだ。また別の検査では、画面の両端に現れる2つのターゲットの間で目を素早く往復させて、正確で機能的な眼球運動(目の筋肉による微調整)を検証する。

それぞれの目は独立して追跡され、ペアとしてのパフォーマンスが即座に評価される。わかりやすい結果シート上には、それらの実際の動きと、ベースラインからどのように逸脱したかが示される。

デバイスはコンパクトでバッテリーで約8時間動作する、そのため病院の外での使用に理想的なものである。たとえば学校の保健室から、NFLの試合場、そして家庭などに至るまで、あらゆる場所で利用可能となる。

私はCESで、デバイスを使って自分をテストしてみた(私の視覚は正常だったが、再検査してみたい)、そしてその後でRIghtEyeの社長であるBarbara Barclayに話を聞いた。この技術の最もエキサイティング(というのは彼女の熱意から判断してのことだが)な2つの応用分野は、子供たちの視覚に関連した認知障害の特定と、スポーツを行う人のための一種の視力検査を作成することだ。

例えばある子どもに、読むことを学ぶことや、注意力に問題があったとしよう。今日では、このような場合にすぐ想起されるのはADDである。しかしそれが視覚の問題である可能性も決して少なくはない。視線の動きの微妙な違い、おそらく1行のテキストを読んでいく時に、水平から外れてしまうことは、ページや黒板を読むことを、困難で苦しいものとしてしまうだろう。3年生の子供がそれを続けることができるだろうか?

読書集中検査では、視線がテキストの行に沿ってどのように動くかを追跡する。

これは画期的な新しいアイデアではないが、個人の眼球運動を信頼性をもって客観的に評価することは、通常はある振舞に対する説明がつけられず、最後に専門家に会いに行った場合のみ可能になることだ。RightEyeの検査は基本的に自動的に実行され、数分のうちに視力障害の可能性を検出または排除することができる。正直なところ、子供もこれを楽しいと思うのではないかと思う。

Barclayはこれに関する個人的な経験をしている。彼女の娘が何度かスポーツでフライングを重ねたあと、その原因がシステムの示唆した単純な視覚上の問題にあるという、健康上の課題が判明したのだ。

RightEyeは2016年に、目の動きのパターンをパーキンソン病やハンチントン病、自閉症スペクトラムの状態に結びつける研究に基づいて、一対の検査実施の権利を取得した。それは魔法の弾丸ではないが、その検査の迅速かつ容易な特性は、日常的なスクリーニングには理想的だ。

自閉症スペクトラム検査は、1歳から3歳の子供のためのもので、人びとの画像と幾何学的形状の画像との間の眼の動きを見るものだ。人びとよりも図形により興味を抱くことは、少なくともその子供が少くともさらなる検査を受けた方が良いことを示す、優れた指標である。

パーキンソン病とハンチントン病の検査では、これらの症状に見られる運動の変性に伴う、より知られたパターンを観察する。それらは、任意の年齢の人びとに適用することが可能であり、(視線追跡設定を用いて)病気同定に大いに寄与する。

全く違う観点ながら、おそらくより直接的な便益となっていることとして、Barclayが私に語ってくれたのは、検査は逆に優れた人物を発見するためにも用いることができるということだ。すなわち優れた視覚の持ち主の発見だ。

ある人物が検査を受けて、その結果、より速く、より正確な眼球運動や、より素早い対象の補足、そして通常よりも優れた対象追跡能力を持つことが判明することがある。もし打撃、守備、ゴールキープなどのタイトなプレーをしているならは、それは本当に貴重な資産となる。

健康な眼球運動の報告例(左)と脳震盪を起こした状態のもの(右)。

もしあなたがスカウトかコーチであれば、それもやはり持つべき貴重な資産となる。もしある選手がフィールドでは左翼側の球をよく捕えることができて、右翼側はそうでもないという場合には、もしかすると彼は自分の左側に飛んできた球を追うことに問題があるのかもしれない、彼の目が右の方を向いているのだ。

それだけではなく、トラブルが発生している場合は、現場で脳震盪やその他の外傷の影響を検査することができる。このような怪我がどれほど広範囲に及ぶか、そして繰り返された脳震盪の危険性が大きいことを考えると、早期の頻繁な検査は文字通り命を救うだろう。

Barclayによれば、現在7つのMLBチームが、RightEyeの技術を使ってプレーヤーの評価を行っていると語った。医療面の用途に関しては、現在同社は200の顧客を抱えていると語った。新しいハードウェアはその数を増やすのに役立つ筈だ。

おそらくもっと重要なのは、米国最大の視力保険会社であるVSPの後援を受けていることだろう(それゆえに影響力も大きい)。それは、とてつもなく大きな信任投票であり主流になるための力となる。既存の保険によってカバーされるということを知ること以上に、人びとがシステムを使うことを動機付けることはないのだから。

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(翻訳:sako)

CRISPRがDNA鎖を切るとき何が起きているのか…分子レベルの3Dアニメーションが完成

CRISPR-Cas9遺伝子編集テクニックは、今日のバイオテクの進歩について知るべき重要な概念だが、それを正しく視覚化することは難しい。それは、分子の鋏(はさみ)のようなものか? DNAはどこにあるのか? それは大きな分子かそれとも小さな分子か? 今回、幸いにもあるグループが、そのプロセスを分子のレベルで見せる3Dアニメーションを作った。

ご覧いただくアニメーションを作ったのは、ロシアのSkoltech Instituteの生物学者たちとVisual Science社だ。ビデオは後者のWebサイトにある:

これは、どれだけ正確なのか? なんと、ほかならぬJennifer Doudnaがこのアニメを賞賛している。彼女は、CRISPRのテクニックを発見して磨き上げた人びとの一人だ:

分子レベルのアニメーションは、複雑な生物学的システムの謎を解き、説明するための必要不可欠な方法だ。驚異的な画像技術と細部への注視により、Visual ScienceとSkoltechはCRISPR-Casプロテインの動的メカニズムを捉え、その研究用ツールとしての用途を示した。

これらのアニメーションは“非営利的教育プロジェクト”の一環として作られているので、ライセンスも、変様も、そしてそのほかの教育的利用も自由である。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Y Combinatorがバイオテク専門の育成コースを立ち上げ、最大$1Mを投資

Y Combinatorが今、YC Bioと名付けた新しい部門を実験している。それは、初期的段階の生命科学企業に資金を供給することが目的で、初期的段階というのは、まだ実験室レベル、という意味だ。YCの社長Sam Altmanが今日(米国時間1/11)の同社のブログに書いているが、いちばん最初にフォーカスする分野は、健康寿命と、加齢関連の疾病だ。

“人びとの健康長寿を助けることには大きな機会がある、と考えている。しかもそれは、今言われている医療危機に対する最良の対策のひとつだ”、とAltmanは書いている。

なお、健康寿命(healthspan)という最新の新語は、病気などにならずに、健康な状態で生きている期間のことだ。

YC AIの場合もそうだったが、YC Bioコースに参加する企業もYCのふつうのプログラムを受講する。しかし、12万ドルを投資してその企業の7%を保有する、という形ではなく、YCはバイオテク企業に50万〜100万ドルを投資して、その企業の10から20%を保有する。

上に‘実験室レベル’と書いたが、YCは実験室スペースの無償提供も行う。具体的にはまだ未定だが、そのために実験室/設備機器レンタル企業とパートナーする予定だ。YC Bioはさらに、バイオテク企業の“さまざまな特殊なニーズにも応じ”、その分野のエキスパートへのアクセスも提供する。

YCが初めてバイオテク企業を支援したのは、2014年のGingko Bioworksだ。当時同社はふつうのスタートアップとしてYCの‘生徒’になった。そのときAltmanは本誌のSarah Buhrの取材に対して、バイオテクの三つの最新トレンドを挙げた: “1)近くハイパーグロウス(超絶的巨大成長)になる、2)起業コストが下がりシリーズA級で間に合う、3)サイクルタイムがスタートアップにも十分耐えられるほどに短くなる”。

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人工蜘蛛の糸のBolt ThreadsがシリーズDで$123Mの巨額を調達、二次製品は他企業とのパートナーシップ次第か

蜘蛛の糸を、微生物を利用して人工的に作ろうとしているBolt Threadsが、シリーズDで1億2300万ドルという巨額を調達した。本誌が11月に報じたように、SECの提出書類によると同社は、Formation 8から1億600万ドルを調達した。

Boltの新たな発表では冒頭の額になり、同社の調達総額は2億1300万ドルになった。

【中略】(投資家詳細)

Bolt Threadsは、2009年のローンチ以降、テフロンより強く雲より柔らかい、そして自然界に豊富にある、という蜘蛛の糸を人工で作ることに向けて、大きく前進してきた。

過去に同じことに挑戦した企業や個人は多いが、誰も成功しなかった。しかしBolt Threadsは不可能から黄金を紡ぐことに成功し、2017年には初めての衣料製品、314ドルのネクタイを作った。

その後同社はPatagoniaやStella McCartneyなどとパートナーし、また職人のための道具などを扱っているBest Made Companyを買収した。

シリーズDの資金は、研究開発の継続と、その微生物から作った素材の商業化努力に充てられる。

協同ファウンダーでCEOのDan Widmaierはこう言う: “昨年のBolt Threadsは大きく前進できた。長年の研究開発の結果、弊社は世界で初めて、人工蜘蛛の糸の市場化に成功した。でもそれは、今後起きるであろう素材革命の上(うわ)っ面(つら)をかすったにすぎない。今回の資金で工程の改良を継続し、また他企業とのパートナーシップも拡大したい”。

ただし、今後の多様なパートナーシップや製品開発についての、具体的な説明はなかった。

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細胞と組織が自然に発達発育していく能力をプログラミングして簡単に生物機械(バイオマシン)を作れそうだ

生物学とテクノロジーの境界は、研究者たちが両者間の相似性を次々と発見していくに伴い、ますます薄れつつある。今日(米国時間12/28)彼らが発見したのは、細胞中にパターンをプログラミングすることによって生きてる組織をハックすることが、比較的容易にできる、ということだ。それらの組織は、成長するに伴い、鉢、コイル、箱など、プログラミングされたとおりの形になっていくのだ。

上図の画像は、結果の一部だ。たとえば右下のオブジェクトは、組み立て式家具のように自分で自分を折りたたんでキューブ(立方体)になる。

生きた細胞から、生体にそのまま移植できるマシンを作ることは、長年の研究テーマだった。でもそれらの形の成形は、型(かた)を使ったり、3Dプリンターを使ったりする方法がもっぱらで、組織自体が目的の形に‘成長’していくことは、不可能だった。

しかしここでご紹介するテクニックでは、細胞はほぼふつうに成長していくが、その過程でDNA-programmed Assembly of Cells (DPAC)(DNAをプログラミングした細胞組み立て)と呼ばれる技法により、成長をガイドする。細胞そのものは正常に発達していき、プログラミングされたDNAは細胞自身の中にはない。しかし、それがある種のテンプレートになることによって、成長する細胞の形を変えていく。

ペーパーの図版は、事前に描いたパターンにより指定した形の折りたたみ構造を作れることを示している。

DNAのパターンに基づいて成長する組織の層が、自然にカーブしたり、折りたたまれたりして、目的の形になっていく(上図)。

この研究のペーパーを書いたZev Gartnerは、こう言っている: “このアイデアがあっさりと有効であることにも驚いたし、細胞の振る舞いがすごく単純なことにも驚いた。細胞の発達が、技術者がそこに絵を描くバイオ工学のキャンバスのようなものになるし、発達という本来は複雑な過程を、シンプルな工学的原理に還元できる。科学者たちは基本的な生物学の理解を深め、最終的にはそれをコントロールできるようになる”。

これもやはり、自然に逆らうよりも自然と協働した方がうまくいく、という例のひとつだろう。細胞が自然にやることをそのまま利用して、やりたいことを自然にやらせる。結果が前もって分かる(predictable)だけでなく、単純に実現する。このテクニックは最終的には生物機械の作成工程に使われるだろうし、医学のためのさまざまな構造物も作れるだろう。

この研究を行ったのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームで、ペーパーは今日(米国時間12/28)、Developmental Cell誌に載った

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

血液検査バイオのTheranos、1億ドルの資金を借り入れ――投資会社はSoftBank傘下

バイオのスタートアップ、Theranosが1億ドルの資金を借り入れることに成功した。画期的新方式の血液検査を提供するという触れ込みで登場したものの、検査結果に深刻な疑問が突きつけられて苦闘している会社に投資者が現れた。

最初に報じたのはBusiness Insiderで、Theranosへの投資家はニューヨークに本拠を置くFortress Investment Groupという未公開株式投資会社だという。同社は今年初めにSoftbankに買収されている

もちろん今回の資金調達は借り入れで増資ではないが、今年、人員の半数以上を解雇し、さらに赤字を拡大しているTheranosは運転資金を切実に必要としていた。

一滴の血液だけで200種もの疾病を検査できると主張して登場したTheranosは一時、シリコンバレーの寵児となり、会社評価額90億ドルを記録した。しかし肝心の検査結果が疑わしいことが報じられて一気に転落し、いくつもの訴訟を起こされ、連邦機関による調査の対象にもなった。共同ファウンダー、CEOのエリザベス・ホームズは自社のラボに関与することを禁じられた。ラボは閉鎖され、会社はいわばピボットを余儀なくされた。Theranosは主力業務を血液検査サービスの提供からジカ熱感染を探知する装置の製造に切り替えた。

同社はこのトラブルのせいで2015年以降資金調達ができないままだった。昨夜(米国時間12/23)、ホームズは投資家に対し、「2018を通して運営を可能にする資金を確保した」と説明したという。

Buisiness Insiderの記事によれば、この借入には、いくつかの条件が付帯しており、Theranosは所定の成果を上げることが求められると同時にFortressはTheranosの持ち分の4%のを得たということだ。

ホームズの投資家への書簡には、品質管理やコンプライアンスなどを含め、Theranosを再び軌道に乗せるためにこの1年実施してきた改革の概要が示されている。Theranosは訴訟のいくつかで和解し、ラボの実態を調査していた連邦機関、CMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)とも和解したという。書簡でホームズは近くラボを再開できることを期待していると述べている。

ホームズはTheranosは1年半から2年以内にジカ熱テスト装置の販売ができるとしている。これは2016年に事業をピボットして以来一環して主張してきたスケジュールだ。

ホームズはまた個人向けにカスタマイズされたセンサー・システムを用いてラボによる検査業務も復活させることも期待している。Theranosはこの分野で多数の特許を保有している。

こうした一連の動きはもちろんTheranosにとってグッドニュースだ。しかし本当の問題はTheranosが公衆の目から見て一度地に落ちたイメージを回復できるかどうかだろう。われわれはTheranosが本当に復活しつつあると信じられるだろうか? ともあれ2018年の運営資金を投じたFortessはそう信じたようだ。

このニュースはクリスマスの週末という時期に飛び込んできた。同社がこれ以上の詳細を発表する意思があるとしても、それはかなり先になりそうだ。 ただしわれわれはTheranosにコメントを求めておいたので、何か判明すればアップデートする。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

バイオプログラミングツール開発のAsimovが、アンドリーセン・ホロウィッツから470万ドルを調達

バイオテックは、今日のテクノロジーの沢山のホットフロンティアの1つだが、他の分野に比べて、従来のコンピューティング技術では扱いにくいことが特徴だ。MITの研究から生まれたAsimovと呼ばれる新しいスタートアップは、デジタルとバイオロジーのギャップを、コンピュータ支援生物デザインツールを作って埋めようとしている。それは、シード資金調達で470万ドルもの資金を集めた先見性のあるアイデアだ。

Asimovが取り組む問題は次のようなものだ。例えば、読者が必要量の薬剤を運び、特定の物質を検知したらその薬剤を放出するような、小さな生体適合性のある機械を作ろうとしている製薬会社だとしよう。

それを実現するためには、膨大な考慮事項の中でも、いわば分子レベルで動作する論理ゲートと信号プロセッサをデザインしなければならない。これは気力が萎える目標である。通常分子機械を作ることは労働集約的なプロセスだからだ。所与の構造の何千ものバリエーションを作成し、繰り返してそれらをテストしてどの分子が使えるかを調べなければならないのだ。

Asimovの革新性は、使いやすいツールと技法を用いて、上で述べたような生物学的回路を作り出すことを可能にすることだ。実際、彼らはあたかもシリコンと銅で同様の回路を作るときに用いるようなツールを使用している。

Asimovの創業者たち ―― MITのAlec Nielsen、Raja Srinivas、Chris Voigt、そしてDoug Densmore ―― が生み出したこの技法は、従来の回路の論理と構造を、生体内に注入され内部で複製されるDNA鎖へと変換する。そして細胞内で通常と似たタイプの計算(例えばXORなど)を実行するのだ。

内蔵された保護機能が、分子レベルでのエラーを防止する。例えばある構造と別の構造が近付き過ぎたことによって引き起こされる構造的問題などだ。このためこの技術の創始者たちは、このプラットフォームは利用者がデザインした回路が動作するかしないかを90%の精度で判定できると主張している。

ある程度の技術的詳細は、昨年出されたこのMITのニュースリリースや、より最近投稿されたNielsenのブログ記事で読むことができる。

別の記事では、アンドリーセン・ホロウィッツのゼネラルパートナーであるVijay Pandeが、投資対象にふさわしい理由として以下のように述べている:

Asimovのアプローチで、高精度シミュレーション、回路構築ブロックを使用することで、生体回路の開発を大幅にスピードアップすることができます ―― コストを削減し、洗練度と複雑さを大幅に向上させることができるのです。

私たちはまだ「トランジスタ段階」にいます。ということで現時点では細胞の中の回路として、現代的なマイクロプロセッサの完全な複雑さを実現できる段階には至っていません。しかしこのテクノロジーに大幅な進歩をもたらす、沢山の初期アプリケーションが存在しています ―― 初期のマイクロプロセッサが、シンプルなものでありながらも、劇的な実現技術となったように。

同社は、今回の資金調達により「迅速に規模を拡大し、さまざまな分野の顧客と連携することが可能になります」とプレスリリースで述べている。

「私たちは、バイオテックが着実に完成したエンジニアリングへと成長する中で、Asimovを生物学的計算のデザインのための、頼れるリソースとするべく奮闘しています」とNielsenは書く。「個人的には、いつかこの技術が、私たちの疾病治療能力を高め、クリーンで持続可能な製造業を助け、増大する”私は個人的には、この技術が病気を治す能力を向上させ、清潔で持続可能な製造を可能にし、増加する世界の人口を養う助けとなることを願っています」。

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(翻訳:sako)