CRISPR遺伝子編集の発見者ダウドナ教授のスタートアップが新Casタンパク質の特許ライセンスを得た

遺伝子編集のスタートアップ、Mammoth BiosciencesがCRISPRテクノロジーを利用した新しいタンパク質に関する独占的ライセンスをカリフォルニア大学バークレー校から得た。

このライセンスは研究開発から商用化まで極めて幅広い分野をカバーしておりMammothにとって知的所有権のポートフォリオの極めて大きな拡大となる。ライセンスを取得したCasɸタンパク質はCas9と似た働きでサイズはほぼ半分にすぎない。Cas9はDNAのCRISPR座位付近にあり、CRISPRと共同して遺伝子切断タンパク質として機能する。CAS9の発見はバークレー校のCRISPR研究の本格化の出発点となった業績だった。

CRISPRではサイズは非常に大きな要素となる。サイズが小さいほど合成も容易で標的遺伝子への付着位置も正確になる。Casɸファミリーのタンパク質が優れていると考えられるのはそういう理由だ。遺伝子編集における切断位置の正確性、生体細胞への伝達効率、またmultiplex処理と組合わせて複数の標的配列を同時に切断する性能の向上などが期待されている。

7月にScienceに査読を経て掲載された論文がCasɸの発見とCRISPR遺伝子編集において期待される優秀性を述べている。 Casɸはバクテリオファージ中に発見されたタンパク質だが、バクテリオファージは細菌に感染して自らの複製を大量に作り出すある種のウィルスだ。「バクテリオファージ」というのはラテン語由来で「バクテリアを食べるもの」という意味だ。

CRISPRを利用した遺伝子編集テクノロジーにおいて正確性の向上は現在もっとも熱心に追求されている分野だ。Cas9をベースにした遺伝子編集では「失中」つまり意図しない遺伝子編集が起こる可能性があり、これを減少させるために様々なアイディアが提出され研究が続けられている

Mammoth Biosciencesの共同ファウンダーの一人はバークレー校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)教授だ。ダウドナ教授はCRISPRの共同発見者だ。MammothのIPポートフォリオにCasɸが追加されたことは将来の商用化を踏まえて同社のビジネスに非常に大きな意味を持つはずだ。

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滑川海彦@Facebook

WHOがようやく乗り出すヒト遺伝子編集に関するルール作り

米国時間3月19日、WHO(世界保健機関)は新しい諮問委員会の最初の会議を閉会した。人間の遺伝子編集に対する世界的な統制と監督基準を作成するために設立されたものだ。

その委員会は、昨年12月に急遽招集された。昨年、中国の科学者が、CRISPR技術を使って2つの胚の遺伝子を組み換えたことを明らかにしたことを受けたものだ。その研究の目的は、さまざまな形状のHIV(AIDSを発症させる)ウイルスが細胞に感染する際に重大な役割を果たすCCR5遺伝子を除去することだった。

深圳に本拠を置く遺伝学者He Jiankui氏が、結果を公表するやいなや、その研究は中国の内外を問わず、世界中から非難された。

同氏は今、その研究を行った大学敷地内の複合施設内に軟禁されているという。中国政府は、彼の研究が違法であると宣言するために、遅ればせながら行動に出た形だ。

(関連記事:中国当局、世界初の遺伝子操作ベビーを違法と認定

そしてWHOも、ようやくその技術の使用を規制するための最初の一歩を踏み出した。

「遺伝子編集は、著しい治療効果を示すものですが、倫理的にも医学的にも、いくつかのリスクを抱えています」と、WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus博士は、その声明の中で述べている。

WHOの専門家委員会は、ヒトの遺伝子編集に関する研究を統制するために取るべき最初のステップについて、2日間に渡って徹底的に討議した。そこには、臨床応用に取り組むのは無責任である、という基本合意が含まれている。

また委員会では、ヒトゲノムの編集に関して行われているすべての研究を一元的に登録する仕組みを作ることを、WHOに提言している。進行中のすべての研究を1つのデータベースで管理するというものだ。

「この委員会は、この新しい技術に取り組むすべての人々にとって不可欠なツールとガイダンスを策定し、人間の健康に対する最大の利益と最小のリスクを確実なものとします」と、WHOのチーフサイエンティストであるSoumya Swaminathan博士は、声明の中で述べた。

画像クレジット:VICTOR DE SCHWANBERG

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

中国当局、世界初の遺伝子操作ベビーを違法と認定

中国政府は、世界初の遺伝子操作ベビーの誕生に成功したと主張して科学界を震撼させたHe Jiankui(賀建奎)の研究を、「個人的名声と利益」を求めた違法行為であると宣言した。捜査当局はHeの発表後の11月から開始した調査の予備段階を完了し、同研究者の法律違反を「厳重に」罰する方針であると発表した。月曜日(米国時間1/21)に中国の公式報道機関、Xinhua(新華社通信)が報じた

Heは深圳の南方科技大学で、遺伝子操作技術CRISPRを研究するチームを率いて、2016年中頃からガンなどの病気治療を試みてきた。本件をきっかけに地元および海外の投資家らが支援する同教授自身のバイオ技術スタートアップも大きく注目された。

捜査の結果Heは、倫理承認を捏造し、2017年3月から2018年11月の期間に臨床試験に協力するカップル8組を募集したことが明らかになった。実験の結果妊娠が2例、うち1例では双子が誕生し、もう1例の胎児はまだ生まれていない。5組のカップルは受精に至らず、1組は実験から離脱した。

Heのプロジェクトは世界中の科学者の間で激しく非難された。CRISPRは現在でも危険なほど非倫理的であり、重大な遺伝子損傷を起こす可能性がある。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

CRISPRは次のステージへ?科学者たちはRNA編集に一歩近づいた

有名なSalk研究所の研究者たちが、細胞内の機能をより正確に操作できるようにするCRISPR酵素の分子構造を、決定できたと報告している。

過去数年間にわたって、CRISPR-Cas9が、個人の細胞の中にある欠陥を修正するために、遺伝子編集能力を提供してくれるのでは、という大衆の期待を担い続けてきた ―― 突然変異を治療し、多くの病気の出現を防いでくれるかもしれないものとして。

具体的には、Cas9酵素群は、はさみのような振る舞いをして、遺伝子コードの一部を切り取り、それらを代替片と置き換える働きをする。しかし、これらの酵素は生体の発達の基本を司るDNAを標的としているために、酵素を使ってDNAを再プログラムする行為が、有益さを上回る有害な結果を生み出すのではないかという懸念も高まっているのだ。

Scientific Americanのレポートには次のように説明されている:

月曜日に発表された研究は、それはタイタニック号サイズの氷山の一角に過ぎないと示唆する:専門家が考えていたものよりも遥かに厳しい遺伝的大混乱を、CRISPR-Cas9が引き起こす可能性があるのだ。研究は、将来CRISPRベースの治療を受ける患者の健康を、脅かしかねないと結論付けている。

この結論は、関連する問題を特定した2つの研究の直後に出されたものだ:CRISPR処理を受けた細胞の中には、おそらく主要抗ガンメカニズムを欠いてしまうものがあり、そのため腫瘍を誘発してしまう可能性がある。

化膿連鎖球菌由来のCRISPR-CAS9遺伝子編集複合体。Cas9ヌクレアーゼタンパク質は、相補的部位でDNAを切断するためにガイドRNAシーケンスを使用する。Cas9タンパク質:白い表面のモデル。DNA断片:青いはしご状のもの。RNA:赤いはしご状のもの。写真提供:Getty Images

ジャーナル誌Cellに掲載されたSalk Instituteによる新しい発見には、DNAの代わりにRNAを標的とすることができる酵素であるCRISPR-Cas13dの、詳細な分子構造が示されている。

かつては、単にDNAにエンコードされた命令の伝送機構に過ぎないと考えられていたRNAは、今や酵素のような生化学反応を行い、細胞の中でそれ自身が調節機能を果たすことが知られている。細胞機能の全体計画ではなく、細胞が機能するための機構を標的とすることができる酵素を同定することにより、科学者はより少ないリスクでより高度に洗練された治療法を考え出すことができる筈だ。

より簡単に言えば、科学者たちに、遺伝子に対する恒久的な(そして潜在的に危険な)変更を加えることなしに、遺伝子の活動を変えることができるような編集ツールを与えることは、探究に値するオプションであるということだ。

「DNAは一定ですが、常に変化しているのはDNAからコピーされるRNAメッセージなのです」と語るのはSalk研究所AssociateのSilvana Konermann(ハワード・ヒューズ医学研究所のハンナグレーフェローであり、研究の筆頭著者の一人)である。「RNAを直接制御することによってそれらのメッセージを調節できるということは、細胞の運命に対して重要な影響をもたらすということです」。

Salkの研究者たちは、今年のはじめに彼らがCRISPR-Cas13dと呼ぶ酵素ファミリーをまず同定し、この代替システムがRNAを認識して切断できることを示唆した。彼らの最初の研究は認知症治療を巡るもので、ツールを使って認知症患者の細胞の中でのタンパク質バランスの不均衡を修正できる可能性があることを示した。

「以前の論文では、ヒト細胞の内部でRNAを直接操作するために使用できる新しいCRISPRファミリーを発見しています」と語るのは新しい研究の共著者である、Helmsley-SalkフェローのPatrick Hsuである。「Cas13dの構造を可視化することができたので、これからは酵素がどのようにRNAに導かれ、どのようにRNAを切断することができるかを、より詳細に見ることができます。これらの知見によって、私たちはシステムを改善し、プロセスをより効率的にして、RNAに起因する疾患を治療する新しい戦略の道を切り開くことができるのです」。

この論文の他の著者は、SalkのNicholas J. BrideauとPeter Lotfy、ホワイトヘッド研究所バイオメディカルリサーチのXuebing Wu、スクリプス研究所のScott J. Novick、Timothy Strutzenberg、そしてPatrick R. Griffinである。

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(翻訳:sako)

画像提供: Sashkin / Shutterstock

HP、薬品を「プリント」して抗生物質試験をスピードアップ

米国では毎年少なくとも200万人が「スーパーバグ」と呼ばれる耐性菌に感染し、2万3000人以上がこの感染が直接原因で死亡していると疾病対策センター(CDC)は伝えている。そこでHPのバイオハッカー技術チームはCDCと協力して、抗生物質を「プリント」するバイロットプログラムに取り組み、抗菌薬耐性をもつ菌の蔓延を防ごうとしている。

HP D300eデジタルディスペンサーは、通常のインクジェットプリンターと同様の仕組みを利用するが、インクの代わりにさまざまな組み合わせた容積ピコリットルからマイクロリットルにわたる薬品を研究目的に調剤する。

こうした菌が急速に拡散する理由の一つは、抗生物質が誤って利用されたためである場合が多く、その結果バクテリアは既存の薬品に対する耐性を獲得する。CDCは全米の医療従事者がこの技術を利用して問題を解決できるようにすることを願っている。

「ひとたび薬品の使用が認可されると、耐性が生まれるまでのカウントダウンが始まる」とCDCの抗生物質耐性調整戦略部門の科学チーム責任者、Jean Patel医学博士が声明で言った。「人々の命を救い、守るためには全国の病院でこの技術を利用可能にすることが不可欠だ。このパイロットプログラムによって、われわれの最新の薬品が継続的に利用され、基準となる研究成果が医療従事者の手にわたることを期待している」。

3Dバイオプリンティング分野は、過去数年に急成長しており、今後10年はこのペースが続くだろう。その主な理由は研究開発のおかげであると市場調査関係者は言っている。

さらに、潜在的価値の高い抗生物質耐性の研究によって、現在治癒可能な疾病の治療手段がなくなり寿命が縮まるという恐ろしい未来の到来を阻止できる可能性がある。

現在HPのバイオプリンターは研究所や医薬品メーカーで使われており、たとえばGileadではエボラウィルスに用いられる薬品の試験に利用されている。プリンターはさまざまなCRISPR(クリスパー)応用研究にも利用されている。CDCは、これらのプリンターを抗生物質耐性(AR)検査所ネットワークを通じて全米に広がる4つの地域で使用し、新たな薬品の抗生物質耐性感受性テストの開発を行っていく計画だとHPは語った。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

CRISPRがDNA鎖を切るとき何が起きているのか…分子レベルの3Dアニメーションが完成

CRISPR-Cas9遺伝子編集テクニックは、今日のバイオテクの進歩について知るべき重要な概念だが、それを正しく視覚化することは難しい。それは、分子の鋏(はさみ)のようなものか? DNAはどこにあるのか? それは大きな分子かそれとも小さな分子か? 今回、幸いにもあるグループが、そのプロセスを分子のレベルで見せる3Dアニメーションを作った。

ご覧いただくアニメーションを作ったのは、ロシアのSkoltech Instituteの生物学者たちとVisual Science社だ。ビデオは後者のWebサイトにある:

これは、どれだけ正確なのか? なんと、ほかならぬJennifer Doudnaがこのアニメを賞賛している。彼女は、CRISPRのテクニックを発見して磨き上げた人びとの一人だ:

分子レベルのアニメーションは、複雑な生物学的システムの謎を解き、説明するための必要不可欠な方法だ。驚異的な画像技術と細部への注視により、Visual ScienceとSkoltechはCRISPR-Casプロテインの動的メカニズムを捉え、その研究用ツールとしての用途を示した。

これらのアニメーションは“非営利的教育プロジェクト”の一環として作られているので、ライセンスも、変様も、そしてそのほかの教育的利用も自由である。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

CRISPR技術による発見が流産率を下げてくれるかもしれない

遺伝子編集技術CRISPRは、ヒト胚がどのように発達し始めるかの手掛かりを明らかにした、このことで、妊娠初期の極めて重大な数週間における、流産リスクが軽減されるかもしれない。

CRISPR Cas9は、流産に寄与していると考えられる遺伝的欠陥を変更したり、取り除いたりすることができるが、これまでは、なぜ一部の胚は胎児になるのに、他のものはそうならないかという理由は明らかではなかった。しかし、水曜日にNature誌に発表された研究が、その遺伝的手掛かりを伝えている。

この研究を行っている英国の科学者たちは、OTC4と呼ばれる特定の蛋白質が、胚発生の初期段階における形成および発達に対して重要な役割を果たすことを見出した。科学者たちは、CRISPR Cas9を用いて、発生数日後の人間の胚からOTC4生産に関わる重要な遺伝子を取り除き、それによって胚の成長が損なわれることを発見した。

この調査結果は、なぜ他の女性よりも流産に苦しみやすい女性がいるのかに関する、私たちの理解を助けてくれるだけではなく、人工受精(IVF:in vitro fertilization)の成功率を大きく上げてくれる可能性がある。

IVFは、ある夫婦にとっては、自分たちの遺伝子を使って赤ちゃんを作る唯一の方法だが、何年にもわたる技術改良が行われてきたにも関わらず、その成功率はまだ低いままだ。疾病予防管理センターによれば、IVFサイクルのうち、約36%のみが継続可能な妊娠へとつながり、最終的には全体の24%だけが、赤ちゃんを産むことができるという。

もちろん、これは科学者たちがヒト胚に対して行った最初のテストではない。この技術は激しい国際討論を呼び起こしたが、今年の初めには米国の科学者たちが、CRISPR技術を用いて発生3日目のヒト胚から心臓疾患の原因となる遺伝子を取り除いている。

その研究や、今回の研究で使われた胚は、いずれも人間へと成長させることを意図したものではなく、研究の終了とともに廃棄されている。しかし、2つの研究は、将来的にはCRISPRが、人類の生命誕生に関わるかもしれない可能性を示唆している。

このブレークスルーを、数日以上の期間を超えて生育する胚に実際に適用するためには、まだ何年もかかるだろう。まだまだ沢山の研究も必要だ。しかしこの技術は流産に苦しむ人びとや、健康な赤ちゃんをいつか欲しいと思っている人びとに希望を与えてくれる。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: JAMIE GRILL/GETTY IMAGES

ブタ胚の遺伝子編集は、移植臓器の不足を解決?!

ブタの内臓は人間のものと同じ大きさで、機能的にも同様になっている。そこで、ブタの臓器を人間に移植できないかという発想が出てくるわけだが、これにはなかなか難しい問題があった。移植した際に、豚の細胞内に潜むウィルス性疾患が顕在化することがあったからだ。

しかし、どうやら対処する可能性が見えてきたようだ。遺伝子編集(CRISPR-Cas9)を施した豚についての記事がScienceに掲載されている。研究を行った科学者によれば、遺伝子編集の技術を用いて、すべてのブタに認められるブタ内在性レトロウイルス(PERV)を不活性化(inactivation)することに成功したのだそうだ。

これにより動物の組織を人体で利用するという、異種移植への道が開かれることとなる。現在、アメリカには117,000人の移植待機者がいて、ドナー不足から22名の人が毎日亡くなっている。ブタの心臓や肺などが人間に移植可能となれば、多くの命を救うことができるようになる。

PERVを不活性化して異種間コンタミネーション(汚染)を防いで、移植を実現する具体的な方法が示されたのは、これが初めてのこととなる。

研究成果の発表を行ったのは、ハーバードにおけるゲノム研究の第一人者であるGeorge ChurchおよびLuhan Yangが設立したeGenesisだ。このeGenesisによれば、ブタの胚細胞に対して遺伝子編集を行いつつ、62個のレトロウィルスの非活性化を行いながら細胞を生かし続ける技術を開発したのだとのこと。処理後の肺を胎内に移植することで、PERVフリーなブタに成長する。

遺伝子編集の技術は、人間および動物のさまざまな病気を治療できる可能性を持つものだ。食糧問題にも応用可能だし、誰も想像もしていないような可能性も含んでいるに違いない。先日も、米国の科学者がヒトの胚細胞に対する遺伝子編集を行なって心臓疾患治療を行う研究についての発表がなされたところだ。もちろん、遺伝子編集を人間に適用していくには、まだまだ多くの研究および議論が必要なのは言うまでもない。

eGenesisは、遺伝子編集を行ったブタの様子を注意深く観察し、「PERVフリーのブタから、安全で効果的な異種間臓器移植を実現できるように」していく予定なのだとのことだ。

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(翻訳:Maeda, H

米国の科学者たちがCRISPRを使い、人間の胚から遺伝性心臓疾患の要因を取り除いた

先週、米国の科学者グループが、初めてヒト胚に対してCRISPRを行なったという報告が出てから、様々な憶測が渦巻いた。その最初の研究成果が公表されたが、その発見は極めて驚くべきものだ。

オレゴン健康科学大学のShoukhrat Mitalipovと彼の同僚は、CRISPR Cas9遺伝子編集技術を用いて、胚の中の遺伝性の心臓変異の要因を取り除いたのだ。

これまで、CRISPRを人間に使用した研究の報告はいずれも国外からのものであり、その結果はいずれも良好なものではなかった。中国はこの技術を人間に使用することについて特に大胆だった。中国の科学者たちは、2015年に人間の胚にCRISPRを用いた同様の実験を行ったが、これらの胚への適用は、DNAへの変更が一部の細胞だけに適用された際に見られる「モザイク現象」という標的外遺伝子変異(off-target genetic mutations)の結果に終わったと言われている。この問題は、この技術の人間に対する使用に関する、国際的な倫理的議論を呼び起こした。

そして、畏れを知らない四川大学の科学者たちは、今度は完全に成長した成人を対象にして、悪性の癌の治療に対するCRISPRの使用を試みている。

しかし、オレゴンの実験における胚の結果は、遥かに優れているようだ。

「この結果は、アプローチが効果的であり、CRISPR-Cas9の対象選択が非常に正確であることを示していて、安全上の懸念に関するいくつかの裏付けを提供するものである。さらには、標的外変異(off-target mutations)の形跡もなかった。これらの知見が示すものは、このアプローチは、着床前遺伝子診断(PGD)と組み合わせることにより、胚の中の遺伝性変異の修正への応用の可能性があるということである」。本日(米国時間8月2日)出版されたNatureの中では、科学的発見がこのように述べられている。

Mitalipovと彼の同僚たちは、Cas9酵素(DNA断片に対してハサミのように働く酵素)を精子と卵子に同時に注入することで、中国の科学者たちが既に犯していたミスを回避することができた。どの位の数の胚を上手く扱うことができたのかは不明だが(問い合わせ中)、この手法は上手く行ったようだ。

このリリースによれば「標的外変異はなかった」ということだ。

しかし、CRISPRを用いた生殖細胞系編集の実践は、依然として激しい論争の的だ。昨年、米国議会は、臨床試験で胚を編集するために、CRISPRを使用することを禁じた。オレゴンのチームは、議会による禁止にもかかわらず、胚を数日間成長させただけで、この発見をすることができた。彼らは、胚を子宮内に移植することや、人間の赤ちゃんに成長させることは決して意図していなかった。

しかし、多くの科学者たちは、モザイク現象への懸念を超えて、生殖細胞系編集そのものを非倫理的とみなし、デザイナーベイビーの誕生につながる可能性があると主張している。

そしてその対極には、赤ん坊が最初の呼吸をする前に、致命的な疾患を消し去ることができる可能性がある。Mitalipovの研究室で取り除かれた心臓疾患である、肥大性心筋症(HCM)は500人に1人の割合で影響を及ぼしている。

これらの初期結果に続く、CRISPRを用いた実験を、米国内でさらに見ることができるだろうか?それは分からない。しかし、この研究が有望であり、ハクスリーの「すばらしい新世界」(Brave New World)にさらに近付くものであることは間違いない。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: CHRISTIAN DARKIN/GETTY IMAGES

CRISPRで改変された人間の胚が実験室で作られた、だがデザイナーベイビーへの道はまだ遠い

今週の初め、科学者たちが、ヒトの胚を米国内で初めてCRISPR技術を使って改変したという発表で私たちを驚かせた。だが、デザイナーベイビーの誕生まであと1歩というところまで来ていると考えるのは早計だ。

もちろん私たちはそれを行なうことはできる。しかし科学界の大部分はそうした仕事には反対の立場だ。オレゴン健康科学大学のShoukhrat Mitalipovが率いるチームは、CRISPRを施された人間の胚をほんの数日の間だけ成長させたが、それを完全な人間の胎児にまで育てる意図は全く持っていなかった。

もちろんそれは、そうした実践を人間に対して許すことに対して、議論の余地がとても大きいからだ。中国の科学者たちは、2015年に胚に対して同様の実験を行ったが、世界中の科学コミュニティの怒りを買い、その結果CRISPR技術の人間の胚への適用が、国際的に中止されることになった。

しかしその中止の合意をを無視して、中国の研究者たちはさらに2回実験を進めた。とは言え、これらの実験の結果ははかばかしいものではなく、この技術を人間に使用するのは、こうしたやり方ではないという議論に、一層油を注ぐ結果となった。

米政府関係者らは、CRISPR技術を国家安全に対する脅威だと呼んでいる。なぜなら、その簡便さと技術の急速な進歩によって、科学者たちがハサミのように振る舞う酵素をプログラミングした上で、DNAの任意の区画を切り取ることができるようになるからだ。

このプロセスは、生殖細胞系編集や、個体の遺伝的構成の変更に利用され、個体の子孫たちに病的遺伝子が受け渡されないようにすることができる。

批評家たちは、CRISPRはデザイナーベイビーを作ることに利用できると警告を発している。そこで描き出される暗い未来は、富裕層は着床まえに胚の遺伝的欠陥を全て取り除くことができる一方、貧困層は遺伝的に不利な立場に置かれ続けるというものだ。

多くの科学者は、生殖細胞系編集は非倫理的であると考えている。なぜなら永続的な変更の決定は、1人の個人の遺伝子構成に関わるわけではなく、その人間に連なる全ての子孫たちの遺伝子構成にも、許可なく影響を与えてしまうからだ。

しかし私たちが映画「ガタカ」の世界に近付く道のりはまだ遠い。1つには、上で述べたように科学界は人間に対する(特に胚に対する)CRISPRの適用には慎重だからだ。また別の理由として、仮に私たちがその適用を人間に許すとしても、おそらく致死的な病気の治療と根絶に対して用いられることになるからだ。

この技術はまた、数日程度の限られた日数を越えて、胚の移植と育成も行なう必要がある。私たちが知る限り、中国人もしくはアメリカ人を問わず、これを成し遂げられた科学者はいない。

もう一つの考慮すべき点は、人間に対するCRISPRに関する特許を誰が所有しているのかということだ。現段階では、特許を所有しているのはブロード研究所(MITとハーバード大学)だが、今週バークレー大が、ブロード研究所に対して有利に下された裁判所の判決に異議を申し立てた。バークレーが当初取得していた特許はこのテクノロジーの幅広い適用を許すものであり、ブロード研究所は人間への適用のための独立した特許を所有してはいないという主張だ。

こうした法的および倫理的なハードルを考えれば、将来誰かがアインシュタインの頭脳を持つスーパーモデルベイビーを作ることを考える前に、解決しなければならないことが山ほどあることは明らかだ。

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(翻訳:Sako)

FEATURED IMAGE: VICTOR DE SCHWANBERG/GETTY IMAGES UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

科学者たちが馬のGIFを生きている細菌に書き込んだーーえっ、何の話をしているの?

Natureに掲載された新しい研究によれば、ハーバード大のある科学者グループが、生きている細菌(正確には大腸菌)に、GIFを保存することに成功したということだ。そうあの動画のGIFだ。

それは、とても奇妙なアイデアだが、科学者たちはこれまでも時折、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)という名で知られる、驚異の遺伝学ツールを用いてデータ保存トリックをやって見せて来ていた。

CRISPR(やや詳しい解説はここ)は、様々な野心的なものを可能にし、人びとを興奮させてきた。そうした発見は、しばしば遺伝学者や医学研究者たちによって行われてきたが、このハーバード大の実験のように、広大な未開拓な医学の世界をさらに超えたところでCRISPRの有用性を示してきた者たちもいる。

非常に簡単に述べるなら、CRISPR関連タンパク質(この例では、Cas1およびCas2として知られるタンパク質)が、コンピューターのCtrl-X(カット機能)ツールのDNA版として働き、科学者たちが特定のDNAの部分を特定して切り取ったり、変更したり、置き換えたりすることが可能になる。

簡単ではあるものの、その動的な性質により、この歴史的な馬をエンコードすることは、単に静的な画像を生きている最近に貼り付けることよりも、更に独特な課題を突きつけた(研究チームは静的な画像の貼り付けも行っている)。Cas1とCas2のシーケンシング能力を利用することで、研究者はGIFをフレーム毎に時間順にエンコードし、そのあとデータを抽出し90%の正確さで再現することができている。

論文では次のように述べられている:

「このシステムを利用することで、任意の情報をゲノムに書き込める可能性がある。ここでは、CRISPR-Casシステムを使用して、白黒画像のピクセル値と短いムービーを、生きた細菌集団のゲノムにエンコードする。それを行なうことで、我々はこの情報ストレージシステムの技術的限界に挑戦し、その限界を最小限に抑えるための戦略を最適化する」

注目すべきことに、この細菌集団は、その書き込まれたデータには全く影響されることなく増殖を続け、遺伝物質を介してデータを未来の世代に引き渡し続けた。

これは分子規模のものだが、そのアイディアは巨大だ。主眼は私たちの休暇の写真を保存するコンピューターのハードドライブのスケールアップではない(そうすることも可能だが)。

インタビューでは、第1著者であるSeth Shipmanが、これは細胞が細胞自身の生存記録などを残すことができるような未来を描き出すための、コンセプトの実証であることを示唆している。その記録は、その細胞が時間の経過とともに、どのように行動してきたか、またはその環境内でどのように相互作用しているかを知りたい者なら、誰でもアクセスして再生することができるかもしれない。

もしその細胞がニューロンである場合、人間の脳に記録することのできる洞察の可能性は、研究者たちが215ペタバイトのデータを1グラムのDNAに詰め込んだもののように膨大なものになるだろう。もしそれでも感心しないなら、科学者たちは同じテクニックを使って、これまで人類が生成したすべてのデータを1つの部屋に理論上は保存することもできる。

「DNAはデータを保存するためのとても優れた媒体である」と研究者らは書いている。冗談抜きだ。

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(翻訳:Sako)

CRISPR-Cas9ゲノム編集でマウスのHIVウィルス除去に成功

AIDS撲滅の重要な突破口が開かれた。CRISPR-Cas9という技術を用いてマウスの細胞からHIVウィルスを除去する方法を研究チームが発見した。

現在この致死性ウィルスに侵された患者は、毒性のある抗レトロウィルス混合薬を服用してウィルスの複製を抑制しなくてはならない。しかしCRISPR-Cas9は、体内のあらゆる遺伝子コードを切り離すようにプログラムすることが可能で、その精度は極めて高い。例えば、体内のHIV-1 DNAをすべて除去できる可能性を持っている。そして、もしこのDNAを切り離すことができれば、ウィルスが自身の複製を作ることを抑止できる。


論文誌,Molecular Therapyで初めて発表したこの研究チームは、CRISPRを用いることでHIVを完全に消滅させられることを示した。しかもその効果は目覚ましい。わずか1回の治療によって、マウスの臓器及び組織から感染の痕跡をすべて取り除くことに成功した技法を紹介した。

ただしこれは永久的解決方法ではなく、研究チームにとって研究は初期段階にある ーー この研究は昨年実施した概念実証研究に基づいて行われたものに過ぎず、その技法はマウスでしか使用されたことがない。しかし、もし研究チームがこの発見を再現することができれば、将来の臨床実験につながる可能性がある。

「次の段階は、この研究を霊長類で再現することだ。潜伏感染しているT細胞や、脳細胞などのHIV-1聖域からHIV-1 DNAが除去されることをさらに示す上で、HIV感染によって疾患が誘発される霊長類はモデル動物として適している」と論文の共著者であるDr. Khaliliが声明で言った。「われわれの最終目標は人間の患者による臨床試験だ」。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

CRISPR-Cas9の特許権を巡る口頭弁論、いよいよ来月開始

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驚異の遺伝子編集技術であるCRISPR-Cas9の特許権の所在を巡る、口頭弁論の始まる日程が決定した。

バークレーのJennifer Doudnaと彼女の同僚でマックス・プランク研究所のEmmanuelle Charpentierは12月6日に裁判所へ出廷、MITのFeng Zhangと対峙する。彼女たちは米国特許商標庁の3人の審査員の前で、なぜZhangではなく自分たちが特許権を持つにふさわしいか、その論拠を提示する予定だ。その特許は、すべての遺伝性疾患を根こそぎ根絶できる可能性を秘めている。

CRISPRに関しては幾つかの特許が存在しており、MITはそれらにおける最大のシェアを誇っている。しかし、DoudnaとCharpentierはそのうちの特定の特許に対してのクレジットを主張しており、それは彼女の示した、CRISPR Cas9システムを使えばバクテリアのDNAを編集できるという成果に基づいたものだ。

しかし、MITによると、Zhangはその一歩先を行き、ヒト細胞においてDNA編集が可能であることを示した。

Doudnaと彼女のチームによると、それは論理的な帰結であり、それ自体が彼女の仕事に基づいたもので、その特許の根拠となる彼女の思いついたアイディアから十分に異なっているとは言えない、と主張している。

これまで血なまぐさい争いが続いており、そこには何千万ドルもの費用がつぎ込まれてきたが、この抗争の決着がつくのには、まだ何年もかかるかもしれない。

しかし、この争いに関しては単に業績のクレジットがかかっているだけではない。 CRISPRは、産業界全体を変革させる可能性を秘めており、CRISPRを使うことで、ガン、糖尿病、パーキンソン病および他の多くの衰弱性疾患を、それが遺伝性疾患である限り、一掃できる可能性があるのだ 。そしてその技術のライセンス権を保有する人にとって、それは数十億ドルの価値があるのだ。

これらの訴訟を行う命令は4ページの手紙として11月5日付けで発表され、それについてはここで読むことができる。訴訟は一般に公開され、バージニア州・アレクサンドリアに拠点を置く審査員たち(訳注、アレクサンドリアは米国特許商標庁の所在地)がそれぞれの当事者を尋問し、主張の整合性を詳しくチェックすることになる。
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(翻訳:Tsubouchi)

未来的遺伝子工学技術CRISPRはノーベル賞をもらえなかったがテレビのホラードラマのテーマにはなった

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CRISPRは、万能の奇跡的革新的技術ともてはやされるところが、グラフェンに似ている。それは、科学オタクたちが異口同音に、あらゆる産業を変えると騒ぎ立てる、エキサイティングな新技術なのだ。しかもこの遺伝子編集ツールは、蚊からマラリアを取り除くとか、HIVの感染状態を非感染状態にするなど、なかなかすごい生命変更の成果を上げつつある。

しかし中には、優秀な科学者たちですら予見できなかった応用もある。それは、Jennifer Lopezがプロデューサーを務めるNBCの未来的バイオ恐怖犯罪ドラマに、アイデアとヒントを提供することだ。

このようなプロジェクトを正当に評価する才能は、ぼくにはなさそうなので、Hollywood Reporter誌の紹介記事から引用しよう。そのNBCの連続ドラマの題が、なんとCRISPRなのだ。世界を変えると言われる技術の名前を、そのディストピアなドラマの題名に、いただいちゃってるのだ。

<引用>

この番組の主役は、国立疾病管理センター(CDC)の科学者と、その相方、FBIの捜査官だ。Castleと同じパターンで、二人がチームを組み、自分が神だと信ずる悪魔的な天才、主人公の科学者の以前のボスをやっつけようと頑張るとき、二人の間に恋が芽生える。

えー、そして、二人はどうやら、“人間のゲノムのコントロールをめぐって悪と戦い、未来における人類の種の保全と、すべての疾病の根絶を目指す”、らしいのだ。

これぞ、科学でございます!

脚本はBates MotelのAnthony Cipriano。前作の舞台がホスピタリティー産業〔とくにモーテル〕だったように、今回は遺伝子科学が、たまたま舞台なのだ。

良い点は、CRISPRがアメリカ人大衆の日常的雑談の話題になり、言葉が大衆化し普及すること。良くない点は、SpringfieldでBurns氏が太陽をブロックしようとしたり、鮫をレーザーでやっつけようとしたのと同じように、遺伝子科学が俗悪なエセ科学のネタになってしまうことだ。

CRISPRは、ノーベル賞をもらいそこねたけど、今度はなんか、別のものをもらったようだね。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

ヒト細胞のDNAに「記憶」を記録することが可能に

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CRISPRがまたやった。この留まるところを知らないゲノム編集システムを使って、MITの科学者たちが作ったのは、過去に起こった事象の強さや長さを記録する機能を付加したヒトの細胞だ。

これまでにも科学者たちは事象の発生を細胞に記録するシステムの構築を行ってきた。例えば細胞がある種の化学物質にさらされた場合など、それに伴ってDNAの一部が反転することで事象の発生を記録するシステムが構築されてきたが、今回のものもこのシステムの延長線上にある。しかし、今回のものはこれまでと異なり、細胞に記録される情報に刺激の長さと強さが加わったことだ。

これまでの多くの研究はバクテリアを使ったものに甘んじていた。MITの電子工学、コンピュータ科学、生物工学の準教授であるTimothy Luによると、今回このテクノロジーをヒト細胞で可能にしたことによって様々な可能性が開かれるが、とりわけ病気に強い影響を与える細胞内の事象、例えば遺伝子制御など、を研究するのに特に有用だろうということだ。

さらに今回の研究はこれまでよりさらに改良が加えられ複数の対象を同時に記録することが可能だ。本研究では、抗生物質であるdoxycyclineとラクトース様分子であるIPTGが使われている。

こういった情報が得られれば、感染がもたらす影響やガンなどの疾患に関したより詳細な研究が可能となる。また、胚が成体に発生する過程で特殊な細胞が分化に果たす役割を追跡するのに有用だろう。

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(翻訳:Tsubouchi)

CRISPRを使ったヒト遺伝子改変治療の臨床試験、アメリカで遂に認可

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2015年の春、中国の科学者のグループがCRISPR/Cas9テクノロジーを使って54ものヒト胚のDNAを改変した 。これらの内、28個では成功したものの、約半数である26個では改変は失敗し、ヒトの遺伝子改変の倫理性に関して科学界で熱い議論が巻き起こった。

現在アメリカではヒトのDNAをCRISPRを使って改変する事は認可されていないが、ペンシルバニア大学の研究者がCRISPRテクノロジーを初めてヒトに使用する研究を提案している。このプロポーザルは、遺伝子編集によりT細胞を改変し遺伝性の3種類のガン細胞を攻撃する能力をT細胞に付与するというものだ。

本日、連邦生物安全倫理委員会はペンシルバニア大学のグループがヒトの患者で研究を行うことを認可した。今後実際に研究を行うには研究が行われる予定のメディカルセンターで計画が承認される必要があり、食品医薬品局からの承認も必要だ。

プロポーザルによると初期のトライアルは15人までの患者を使用し、CRISPRテクノロジーをヒトに適用した際の安全性と実現可能性を見極める予定だ。この研究はテック出身の億万長者ショーン・パーカーの創設したParker Institute of Cancer Immunotherapyから手厚いサポートを受ける。この組織は様々な研究機関と協力してガンを撲滅することを目的に、この春正式に設立された。

科学者の間では、ヒトのDNAを操作することの倫理性に関して意見が割れている。このテクノロジーは遺伝子のヒモを切り取ることで様々な驚くべき芸当を可能にするものだ。例えば、微生物に蜘蛛の糸を作らせたり、致死的な病気を引き起こすDNAを取り除いたり出来る。

CRISPRの是非に関しては、一方の言い分によると、CRISPRを使えばこれから生まれてくる子供たちは自分の親からの遺伝のせいで健康な生活が送れないといったことがなくなり、そのうち遺伝的にガンを引き起こす原因すら単純に切り取って治してしまうことが可能になるという。

反対側の意見としては、CRISPRを使うことは、それが究極的に我々に何を引き起こすか分からないうちに、我々の遺伝的基盤をみだりにいじくりまわすことだという。中国で行われた実験ではゲノム上に意図しない効果がもたらされ使用したヒト胚のほぼ半数が死んだ。

ペンシルバニア大チームのリードサイエンティストであるCarl June博士が本日のウェブキャストで認めている通り、望ましくない遺伝子を切り取ってしまう技術は完璧ではない。ある種のPD-1とTCRの遺伝子は、それらが欠損すると肺腫瘍を抑える効果があることが示されているにもかかわらず、今回の処理後も残ってしまう。しかしながら、データによると後に残ったもののレベルは十分に低く、そのおかげでCAR T細胞と呼ばれる特定のT細胞がガン細胞を攻撃する効果が増す。

しかし、ペンシルバニア大のプロポーザルは、今日皆がこの分野で起こっていると想像していたよりも一段上を行くものだ。遺伝子編集を専門とするEditas(本年度初旬に株式公開)は2017年にCRISPRを使った最初の臨床試験を行うという。

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(翻訳:Tsubouchi)

遺伝子編集技術が人類の健康と生活に革命をもたらす

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この記事はCellectisのchairman、CEOでCrunch NetworkのメンバーAndré Choulikの執筆

遺伝子編集技術は21世紀前半を通して、我々の生活と我々が伝統的に健康というものに抱いている概念を根本的に変えるだろう。

遺伝子編集により病気の治療方法が変わる。これまでの治療が対症療法だったのに対して、遺伝子編集は病気を引き起こす原因を直接治す。遺伝子編集技術は我々が体に取り込むものに対する概念を変える。なぜなら、遺伝子編集を使えば、地球を汚染することなく、より健康的な食物を我々の食卓に供給することが可能になるからだ。こういった食べ物はただ安全なだけでなく、持続的成長や気候変動に関連した環境問題にも対応できるだろう。

結果的に、人々は遺伝子編集の是非について、その倫理性を争点にはしなくなるだろう。問題は、「いつ、遺伝子編集が世界の大部分にとって重要な事実となるか」ではない。実際のところ、これはサイエンスフィクションでも予言でもなく、遺伝子編集は今現在起きていることである。現実に、TALEN®方式で遺伝子編集されたT細胞を使っての最初のガン患者に対する治療が既に行われた。加えて今年の秋には、全米中の畑でTALEN®方式で遺伝子編集された大豆やじゃがいもが収穫される。さらには遺伝子編集を施された豚や乳牛(hornless cow)が実際に牧場を歩き回っている。

遺伝子編集をめぐる状況は明瞭とは言い難いが、近年の新しい遺伝子編集技術の出現と、新興企業の登場により倫理的な議論が不可避な状況になった。

例えば、CRISPRテクノロジーをベースにした、臨床試験の初期段階にあるスタートアップ企業の3社は製薬会社と生命工学会社の大手を主要な提携先としている。それぞれEditas Medicine (Juno Therapeutics)、CRISPR Therapeutics (VertexCelgene) 、Intellia Therapeutics (Novartis)といった具合だ。

これらの提携は重要だが、長期的な成功はこれらの企業が公約を実現できるかどうかにかかっている。CRISPRによる技術革新を、有用な認可薬の開発に結びつけることができるかが最も重要であり、そのような努力がたとえ新薬として結実するにしても、それにはこの先何年ものさらなる懸命な努力が必要だろう。

これらスタートアップ企業に加えて、遺伝子編集の分野ですでに操業しその地位を確立している企業としてSangamo BioSciencesPrecision BioSciencesがある。Precision Bioはこれまで独自のARCUS遺伝子編集技術を用いてパートナーのバイオテクノロジー企業の研究を推進してきたが、現在はその技術を自社の製品開発に使おうとしている。

Sangamoは臨床段階にあるバイオ製薬会社で、Zinc finger nucleasesを商業化する方法を研究している。Zinc fingerヌクレアーゼを使えば細胞内の特定の位置のDNAを改変できるので、狙った遺伝子を修正したり破壊したりできる。同社のリードセラピーであるSB-728はHIV/エイズの機能的治療となる可能性がある。最近公表されたデータは同社のさらなる研究の進展を裏付けており、これはHIVを免疫学的に機能制御することに向けた大きな進歩と称されている。

こういった動きは倫理的論議を引き起こすこととなる、すなわち議論の中心は遺伝子編集の潜在的脅威であり、具体的には遺伝子編集人間への脅威なのだ。

遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

実際、動物を使った遺伝子改変は35年以上前になされ、その方法は直ちにヒトにも適用可能だったが、当時その技術は遺伝子改変人間への動きにはつながらなかったことを思い出して欲しい。同様のことが、ヒトの胚性幹細胞を使って遺伝子破壊をすること、羊のドリーを作成した技術を使ってヒトをクローン化すること、もしくはヒトiPS細胞を使って新規クローンを作り出すことなどに当てはまる。遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

人々はしばしば尋ねる。「遺伝子改変って何だろう?心配すべきことなのだろうか?もし、悪意を持った人たちがこの技術に手を染めたとしたらどうなってしまうのだろう?」

答えは複雑だ。携帯電話やソーシャルメディアなどのテクノロジーはグローバル社会を根本的に変えてしまった。これまで、たとえ悪い人がそれらを悪用したとしても、大多数の場合において、これらのテクノロジーにもたらされた変化は良い方向に働いてきた。

遺伝子編集はそれと似ている。遺伝子編集技術は我々が生命の最も基本的な構成因子を見る目を根本的に変えてしまう。それは我々が病気を治療したり、食物を育てたり、ヒトとしての自分自身について考えたりする上で、これまでの概念全てについて再考を促すほどの力がある。

元来、文明行為の最たるものは植物を育て動物を飼育することにあると考えられた。それ即ち遺伝的選択とクローニングである。クローニング、即ち最高の品種の選択は、もともとは人類の生存率を高める行為として行われた。それ以来、人類はその技術に磨きをかけ続けた。

地球の人口が90億以上に達しようとする時、我々が存続できるかどうかは遺伝子編集の力にかかっているのかもしれない。さらに言えば、今日ある人が体外受精で生まれたとしても誰が気に留めるだろうか。1970年代の体外受精をめぐる議論を覚えているだろうか。この点はもはや議論にすらならない。

2015年は極めて重要な年となった。遺伝子編集は現在我々の生活を真に現実的な意味において一変させている。イギリスのGreat Ormond Street Hospitalにおいて、他の治療法では救うことができなかった白血病の患者に対し、遺伝子編集を施したCAR T細胞の候補産物が初めて使用された。彼女は遺伝子編集により救われた最初の患者となった

European Medicine Agencyの専門家によると、これは彼らが見てきた中でももっとも複雑な生産物ということだ。それはT細胞を非常に洗練された方法で再プログラミングした結果であり、その過程で一部の遺伝子が付け加えられまた他の遺伝子の働きは抑えられ、結果的にそのT細胞は強力なガン撲滅マシーンへと変化したのだ。

この細胞は何千と生産でき、長期の保存に耐え、世界中の病院に供給でき、治療の必要などんな患者に対しても投与することができる。今日、これを製造するのは複雑かもしれないが、患者に投与するのは簡単である。未来の医学においてはこれが標準となる可能性さえある。

2015年は商業的農業においても同じくらい良い年だった。遺伝子編集食物が全米中で豊富に収穫され、遺伝子編集ジャガイモと大豆が2年以内に消費者の手に届くことが現実味を帯びてきた。これまでの50年間、植物の育種の焦点は収穫量を増やすことであり、実際に生産性は向上したもののそれは除草剤と殺虫剤のさらなる使用を伴ったものであった。つい最近まで消費者の健康は重要視されておらず、それが大規模農業の弊害とされ、ひいては有機農業の隆盛を引き起こした。

今日、有機農業は現在のアメリカの農業生産において10%に満たない。それでも、人口の増加と歯止めのかからぬ耕作地の減少(地球温暖化や持続可能性、及び世界の公正成長などの要因は言うに及ばず)といった状況で、より健康的な農産物への強い需要と自然への配慮の両立を満たすには、人類の経済規模を縮小するかテクノロジーで解決するかしかない。来る遺伝子編集食物の収穫はこの利鞘縮小問題に答えを出すための第一歩となり、人類を拡張するための新たな経路の開拓と持続可能な発達の両立への扉を開くものだ。

繰り返しになるが、もし、またはいつ遺伝子編集が現実となるかが問題なのではない。むしろ、我々がそれを最初に実行するかどうかということなのだ。オバマ大統領が最も最近の一般教書演説で言った、「ガンを撲滅しよう、このアメリカの地で」。この演説はCancer MoonShot 2020の立ち上げの次の日になされた。Cancer MoonShot 2020は製薬企業大手とバイオテクノロジー企業の主導で行われる。しかし、我々は2020年までガン細胞を除去するための治療を待つ必要はない。我々は遺伝子編集によりガンの根治に着実に近づいている。

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(翻訳:Tsubouchi)

遺伝子組み換え作物ではない遺伝子“編集”作物は農務省が規制しないので将来性あり

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遺伝子組み換え作物(GMO)は今、遺伝子編集という新しい技術のおかげで、変わろうとしている。

その最新の例は、CRISPR(クリスパー)を利用して遺伝子を編集した白いボタンマシュルームだ。‘編集’とはこの場合、生物のDNAのパーツを切って並べ替えることだ。

合衆国農務省によると、そのマシュルームは、別の、有害かもしれない、バクテリアのDNAを使っているGMO植物のような危険性がないと思われるので、規制の対象としない。

ペンシルヴェニア州立大学の植物病理学者Yinong Yang博士は、マシュルームのDNAを変えて、酸素に触れても褐変しないようにした。そのコード中の二つの文字を入れ替えただけで、キノコは褐変しにくくなった。

しかし昨年10月に初めて組み換え種を作ったときには、その、遺伝子を変えたマシュルームが農務省の認可を必要とするのではないか、とYang博士は危惧した。

農務省の動植物健康検査サービス(Animal and Plant Health Inspection Service, APHIS)は、アメリカの農業環境を問題のある植物から守る機関で、検査の対象には、バクテリアやウィルスからのドナーDNAを使って植物の病虫害耐性を強化した作物も含まれる。

しかしCRISPRには、従来のGMOにない抜け穴がある。Yang博士はマシュルームに他の生物のDNAをいっさい加えていない。むしろその小変化は、マシュルーム自身の遺伝子で起きている。

CRISPRはかなり新しい技術だが、バイオテクノロジーの分野に新しい生命(いのち)を与え、明らかに規制をめぐる疑問を喚起している。USDAは、自分のDNAを改変した作物を問題視するのだろうか?

過去5年間で30件の、何らかの形で遺伝子編集技術が関わった作物が登場したが、マシュルームはその一つにすぎない。しかしこれまでのところ、答はノーである。

APHISはペンシルヴェニア州立大学宛の4月13日付けの書簡で、マシュルームは確実に規制検討の対象外だ、と確認した。

USDAは次のように声明している: “APHISにはCRISPR/Cas9ホワイトボタンマシュルームが有害植物であると信ずべき理由がない。したがって、同様の質問状に対する前回の応答と同じく、APHISはCRISPR/Cas9により編集されたホワイトボタンマシュルームが、2015年10月30日の貴書簡に記述されているように、連邦規則集第340部により規制されるべきとは見なさない”。

Yang博士は今、彼のマシュルームの企業化の可能性を、思いめぐらしている。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))