B Dash Campのプレゼンバトル「ピッチアリーナ」優勝はSmartHR運営のKUFUに

福岡で3月3〜4日にかけて開催された招待制イベント「B Dash Camp 2016 Spring Fukuoka」。2日目にはスタートアップのプレゼンバトル「ピッチアリーナ」が開催された。午前中に開催された全18社による予選を勝ち抜いた4社が決勝ステージに進出。見事優勝を果たしたのは「SmartHR」を手がけるKUFUだった。また準優勝には「Gozal」を手がけるBECが、PayPal賞にはこちらもKUFUが、さくらインターネット賞には「nine」を手がけるLipがそれぞれ選ばれた。各社のプロダクトは以下のとおり。

Lip「nine

Instagramを利用したマッチングアプリ。「nine」ではユーザーのプロフィールを9枚の写真でプロフィール画像を生成し、個性でのマッチングを行うという。マッチングアプリで最も有名なのはTinderだが、マッチングの大きな決め手となるのは顔写真であり、一部のモテる人の間でしかマッチングが起きていないとLipの共同創業者で代表取締役社長の松村有祐は説明する。

nineでは、ユーザーのInstagramから他のユーザーからの評価高いものを中心にプロフィールを生成するそうだ。そのユーザーが好きなものや個性を表す写真を独自のアルゴリズムで選出するという。世界ですでに世界の231カ国で13万件の事前登録があり、アメリカ大統領選挙に出馬しているドナルド・トランプ氏や米国大統領夫人オバマ夫人などもnineのプロフィール生成していると言う。

Outland「HelloWings

台湾発のLCC(ローコストキャリア)価格比較・予約サイト。LCCでも安価な席数は限られているが、HELLOWINGSでは、出発地と行き先を指定して検索するだけで最低価格で購入できるチケットを表示してくれる。そのままそこからチケットを購入することができる。96社の航空会社・40万のルートをカバーしており、サイトのMAU(月間アクティブユーザー)は7万人。

KUFU「SmartHR

KUFUは労務手続を簡略化するSmartHRを提供している。社会保障制度の労務手続きは入力するのが分かりづらく、書類が作成できても役所に行って提出しなければならない。SmartHRはそのような手続きを自動化するSaaSだ。社員が入社した場合は、SmartHRに必要情報を入力していく。SmartHRは政府が公開しているAPIとも連携しているため、1クリックで手続きの書類を提出することができる。Smart HRは980円から利用可能ですでに登録企業は650社だそうだ。

また、無料トライアルから15%くらいの転換率で有料会員になっていると話す。登壇したKUFUの代表取締役の宮田昇始氏は、良く社労士との仕事と被るのではないかと聞かれることが多いが、実際は社労士をSmartHRを仕事に活用していると話す。SmartHRは日本の中小企業419万社をターゲットとしいて、そこにリーチするのに今後は士業の専門家と販売パートナーに迎え、協力関係を築いていきたいと話す。

BEC「Gozal

会社の登記を始めとして、労務や法務などのバックオフィス機能を自動化するクラウドサービス。弁護士や税理士と共同開発し、現在特許申請中の人工知能が、業務にあわせてやるべき手続きを自動で確認して通知。サイト上の指示に沿って作業をすれば、役所への電子申請が可能。現在無料。4月後半からは月額980円からの課金を行う予定。

労務管理サービス「SmartHR」に年金事務所やハローワークへのオンライン申請機能

SmartHR_電子申請

KUFUは3月3日、労務管理担当者向けのクラウドサービス「SmartHR」上でオンライン申請機能を追加した。

この機能は総務省が提供する電子政府の外部連携API(eGov API)を利用して、SmartHRユーザーが年金事務所やハローワークでの社会保険・雇用保険に関するウェブ申請を実現するというものだ。

eGov自体は2008年から提供されているもの。2010年には一括申請機能、2014年には外部連携APIの仕様公開、2015年にはAPIの運用が開始されたが、現状の利用率はわずか4.2%。他の領域での電子申請では、例えば国税申告(確定申告など)が52.7%、登記が57.8%まで拡大しているのにも関わらず、だ。

KUFU代表取締役の宮田昇始氏はこの理由について、「電子証明書」の存在があると説明する。電子証明書とは、eGovを利用する際の本人を識別・証明するためのデータ。この証明書の取得には、認証局との契約や証明書の取り込みといった作業と、2年で約1万5000円ほどのコストがかかる。しかもこれは1社ごとに取得が必要なのだという。「150社ヒアリングしても、証明書を取得しているのは1、2社だった」(宮田氏)

これに対して SmartHRでは、同社の外部アドバイザーである社会保険労務士法人スマートエイチアールによる代行申請を行うことで、企業各社の負担を下げていると説明する。申請はSmartHRのサービス上で、3ステップで実行可能だ。

新機能はSmartHRの有料ユーザーであれば無料(追加料金なし)で利用できる。「実際に年金事務所やハローワークに行くと、待ち時間も含めて半日、1日仕事だった。それがオンラインで実現できる」(宮田氏)

航空画像サービスのTerrAvion、定量データも提供開始

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精密農業にドローンを使用する話が誇大に語られているようだが、現時点では専用カメラを塔載した通常の飛行機の方が、広い範囲の土地をカバーするには依然として費用効率が良い。Y Combinator出身のTerrAvionは、精密農業のための航空写真で早い賭けに出た。何回かの収穫期を経て、このたび同社はサービスを拡大し、画像に加えて定量分析レイヤーを提供する。

現在TerrAvionは、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州、およびグレートプレーンズ地帯を含む主要な農業地域をいくつかカバーしている。CEO・共同ファウンダーのRobert Morrisは、現在スペインのワイン用ブドウ裁培地域にも照準を合わせている、と私に話した。

Morris曰く、TerrAvion単独でドローン業界全体の100倍以上の範囲をカバーしており、ほぼ同じ解像度を同等(あるいは安い)価格で提供しているという。

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これまでTerrAvionは、裁培者に数多くの画像を提供してきたが、今回は同社自身の画像解析に基づく統計値レイヤーを追加する。「現在われわれは、殆どの裁培者が欲しがる統計データを大量に処理している」とMorrisは語り、通常であれば、処理するために社内の地理情報システム専門家を必要とするデータだが、現在TerrAvionは、Digestという名前のこの新サービスを無料で提供している、と説明した。

「基本的に、DigestはTerrAvionが最も得意とすること ― 裁培者に自分の農地で起きていることを示す包括的な最新画像を提供し、即座に行動を起こせるようにする ― に基づき、これを定量的世界に持ち込もうとしている」とMorrisは私に言った。

農家はこのデータを他の様々なサービスに再利用できる。「裁培者はIT技術者並みに洗練されている。このため、データの再利用やIT業者の選択肢については非常に敏感だ」とMorrisは言った。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

国内9000社、Fintech、Healthtechなど32のジャンル別「ベンチャーマップ」をJVRが公開

ベンチャー情報のentrepediaなどを提供するジャパンベンチャーリサーチ(JVR)が日本のスタートアップ企業9000社をFintech、Healthtechなど32の領域に分類して視覚化する「ベンチャーマップ」を公開した。「Healthtech→医療情報→医師検索」などとドリルダウンしていけるクラスターツリーとして表示できるほか、企業数や従業員数、調達金額などに応じて面積で視覚化する、いわゆるツリーマップとしても表示できる。

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© 2016 Japan Venture Research Co., LTD.

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© 2016 Japan Venture Research Co., LTD.

ベンチャーマップは経産省からの委託によってJVRが作成したもの。JVR代表取締役の北村彰氏によれば、これは事業会社のCVCやR&D部門がスタートアップ企業発掘のための「地図」として提供するもので、経産省では施策の欠落部分を探ろうという意図もあるのだという。

マップ作成にあたっては、ネット上にあるテキストを分析して動的にマップやツリーを生成するシステムを新たに開発した。検索エンジンのBingや、Wikipedia、当該企業のWebサイトなどからテキストを収集し、これをJVRがメンテナンスしてきた約9000社のスタートアップ企業データベースと組み合わせたそうだ。

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まったく人手を不要とするほどの自動化はさすがにできていないものの、クラスターツリーのトップレベルに入るべきキーワードを指定して「種まき」をすると、それ以後のツリーはシステムを3日ほど回すだけで自動生成するという。マニュアルによる重複やノイズ除去の必要性があるものの、「スタートアップらしさ」などをシステムが学習していくことで、今後も常に情報を最新の状態を保っていけるという。

スタートアップ情報の可視化だと、この業界では「カオスマップ」というフォーマットが使われることが多い。領域ごとにロゴをグルーピングするもので、ロゴが数多くひしめいていること自体がホットな領域であるという情報を示しているとはいえ、なかなかアップデートが追いつかないとか、実際の規模感を捨象しているというマイナス面があるのも事実。動的に更新される今回のようなベンチャーマップは便利かもしれない。今回の可視化では、キーワードのクラスタリングによって企業ごとに5個程度のキーワードを付けて分類するということをしている。このキーワードを動的に変えながら企業を探す「連想検索」も実装されている。

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今回開発したシステムはベンチャーマップということだが、クラスターツリーを作るシステム自体は汎用性がある。なので、JVRとしては今後は特定領域の研究論文を分類するとか、特定産業領域への適用で、大企業のR&D部門とシステム開発をする可能性も模索していくそうだ。「われわれが全てを作るのではなく、各企業と一緒に作っていってシステムサービサーになるイメージです。化粧品なら化粧品のクラスタツリーができるでしょうし、自動車なら自動車となります」(JVR北村氏)。文献のクラスタリングはずいぶん長く研究されていて、システムがある気もするが、R&Dの現場では案外ググっているそうでイノベーションの発掘に時間がかかっているという課題があるという。

念の為に付け加えておくと、われわれTechCrunchにもCrunchBaseというグローバルなスタートアップデータベースがある。日々取材する中で随時情報を追加していっているが、CrunchBaseは誰でも編集が可能なWikipediaモデルなので、日本のスタートアップ関係者の方々には企業概要や人物、資金調達状況などを英語でどんどん入力していってほしい。

飲食店の「常連作り」支援に向け、予約台帳のトレタがPOSシステム5社と連携へ

トレタ代表取締役の中村仁氏(一番右)とPOSサービスの担当者ら

トレタ代表取締役の中村仁氏(一番右)とPOSサービスの担当者ら

予約・顧客台帳サービス「トレタ」を提供するトレタ。先日資金調達を発表したばかりの同社が今度は台帳サービスと社外のPOS(販売時点情報管理)システムとのデータ連携を実現するAPI「トレタPOSコネクト」の提供を開始する。現在POSシステムを提供する6社と提携(1社は交渉中)を進めており、今春以降順次データの連携を進めていく。

このトレタPOSコネクトを利用してPOSシステムとトレタを連携すれば、飲食店はPOSの会計情報や来店情報などと予約情報や顧客情報、座席情報などを連携できるようになる。これによって、例えば予約で掛かってきた電話に対して過去の来店情報をもとにした対応をしたり、営業時にPOSハンディターミナルで過去の注文行動から顧客の好みを参照してオーダーの提案を行ったりすることができるようになる。

対応を発表したのはインテリジェンス ビジネスソリューションズの「POS+(ポスタス)」、セカンドファクトリーの「QOOpa」、NECの「NEC モバイルPOS」、プラグラムの「スマレジ」、ユビレジの「ユビレジ」の5社のサービス。セイコーソリューションズが現在連携に向けて交渉中だという。

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飲食店に求められるのは「新規顧客獲得」ではなく「常連作り」

先日のトレタの調達記事でも触れたが、今後拡大することはないと考えられる日本の飲食店市場。そこで重要になるのは、「新規顧客獲得」ではなく、「常連作り」だとトレタ代表取締役の中村仁氏は語る。自社で試算したところ、日本の飲食店の販促予算は約7000億円。この金額のほとんどがグルメサイトへの出稿やポスティングに使われているが、それはあくまで新規顧客の獲得が中心。今後は常連作りのニーズに応えるCRMツールが必要になると説く。

現在、飲食店が利用するサービスは、「集客」「予約」「POSレジ」「決済」の4つのレイヤーに分かれている。最近ではPOSと決済の連携は進んでいるが、予約に関しては紙の台帳では連携どころの話ではなかった。予約台帳がクラウド化されることによって、初めてPOSレジとの連携が可能になったと説明する。

ただし、この流れは何もトレタに限った話ではない。予約・顧客台帳サービスの競合環境を見てみると、2015年12月に「TableSolution」を提供するVESPERがPOS連携を発表しているほか、先週2月25日には「ebica」を提供するエビソルもPOS連携を発表している。

予約台帳のトレタがアイスタイル、伊藤忠、DDHから3億円を調達——アジア進出も本格化

トレタ代表取締役の中村仁氏

トレタ代表取締役の中村仁氏

予約・顧客台帳サービス「トレタ」の開発・運営を行うトレタは2月29日、アイスタイル、伊藤忠商事電通デジタル・ホールディングス(電通デジタル投資事業有限責任組合)の3社を引受先とした総額第三者割当増資を実施したことを明らかにした。トレタでは2015年12月にセールスフォース・ドットコムからも資金を調達しているが、同一ラウンドでの調達となる。また、今回の調達にともなってキャンバス取締役の加登住眞氏が非常勤監査役として同社に参画する。

トレタは2016年2月現在で登録店舗数で4900以上、最新の数字はまもなく5000店舗を達成するという。トレタ代表取締役の中村仁氏は「思った以上のペース」と語る。サービス利用継続率は99.5%、MAUは登録店舗の95%。累計の予約件数は665万件・3400万人に上るという。

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今回の調達はCVCであるDDHを除いて事業会社。資金ニーズもさることながら、各社との業務提携により、海外展開なども進めていく。アイスタイルとの展開についてはまだ話をできる段階にはないということだったが、伊藤忠商事については、同社の関連会社であるベルシステム24と組んで、飲食店の予約業務代行での協業を計画しているほか、台湾最大手の電気通信事業者である中華電信股份有限公司との営業提携を検討中だという。

「少子高齢化で日本の人口が減っていくということは、『胃袋』も『食べる量』も減ることになる。国内だけで見れば、外食産業は横ばいで決して成長する産業ではない。ただもちろんそこには変化は起きていて、(台帳)ツールは広がっている」——中村氏は国内の市場についてこう語る。またそんな状況だからこそ、「海外を見ないといけない」と語る。

海外と言っても、米国ではOpenTableが台帳・メディアとしても強いサービスに成長している。だがアジアを見てみれば、外食産業自体がまさに成長中。そこで今後は国内に次いで台湾やASEANを中心にサービスを展開していくという。「外食産業は日本からアジアのタイムマシン経営ができる。日本の外食産業のノウハウは価値があるもの。今まで(米国からタイムマシン経営のメリットを享受すること)とは逆の立場で取り切っていく」(中村氏)

また新たに監査役を加えるということでいよいよIPOの準備か、とも思ったのだが、中村氏は「もともと早く(IPOすることを)考えているわけではない。IPOするとして、大事なのは資金よりも信用だ。信用を持って永遠にサービスを続けていくという意志を保証する意味で重要。営業にもダイレクトに響いてくる。だが上場が目的になることで会社のあり方がゆがむのであれば意味がない。また市況で判断していればきりがない」としている。

日本の若者の「夢の実現」か「やりがい搾取」か、米VC・Fenoxの騒動で見えたシリコンバレーインターンの実情

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IT業界で働きたい若い人にとっては、「シリコンバレーのスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)でインターンシップをした」という経験、そしてその肩書きは喉から手が出るほど欲しいものではないだろうか。僕もこれまで何度か海外取材を経験したが、シリコンバレーやサンフランシスコといった西海岸のスタートアップコミュニティの空気は独特だ。見た目ではなく実利が尊重され、多様性を受け入れ、変化が速い。そして勝負に関して非常にシビアな環境だと思っている。今となっちゃスタートアップのすべてが西海岸にあるわけではないけれども、それでも学生のうちにその空気を感じられることは、今後のチャレンジにとって非常に大事な経験になると思う。昨年数年ぶりにサンフランシスコやシリコンバレーに行った僕でも、いまだにそう感じるんだから。

だが米国でインターンをするということはすなわち「海外で働く」ということ。履歴書を持っていって面接すれば「明日からシフトに入って」なんて言われる町のコンビニでのアルバイトとは全く意味が異なる。たとえインターンであっても、有給であれば労働可能なビザを取得する必要があるし、逆にESTA(米国渡航のビザ免除のプログラム)を申請して訪米しているのであれば、「労働」をしてはいけないのだ。

そんな中で米国メディアが今週(確認できたところではWSJ:Wall Street journalが現地時間の2月22日に最初に報じた)、シリコンバレーのVCであるFenox Venture Capitalの無給インターンシップ問題について報じた。Fenoxは米国や日本を含むアジア、欧州などで投資を行うVCだ。国内ではテラモーターズやメタップス、ZUU、PR TIMESなどへの投資を行っている。投資実績についても話はいろいろと聞くが、今回はそこには触れない。今回はインターンシップの話だ。米国のDoL(労働省)はそんなFenoxに対して、インターンシップに参加する日本人を中心とした若者56人を無給で違法に働かせていたとして、33万1269ドル(約3700万円)の未払い給与を支払うように命じたという。

この件について、昨晩ちょうど日本に訪れていたアニス・ウッザマンCEOに直接話を聞くことができた。また並行して日米のスタートアップ関係者、また同社の元インターンやその環境を知る人物らにも話を聞いた。アニス氏の主張、そして現場の声、それぞれの視点からこの話について伝える。

米・労働省の判断「正しいと思っていない」

2月25日に東京・六本木で出会ったウッザマン氏は、今回の報道について事実を認めた上で、大きく2つの主張をしている。1つは労働省の判断について、無給インターンに関する法的な見解では合意しておらず、「DoLの判断は正しいと思っていない」ということ。そしてもう1つ、今回報じられた話は「命令を受けて支払いをしており、すでに解決済み」だということだ。

まず1つめの話だ。ウッザマン氏は「これまで(労働省の命令以前)は、『シリコンバレーに1週間いたい、2週間いたい、1カ月いたい』と言われることがあれば、そういう人たちには(インターンの)機会を与えてきた。(現地に)来るのは貴重な機会。リサーチャーもしてもらうし、ミーティングにだって参加してもらってきた」と語る。つまり、無給インターンは存在していたということだ。

冒頭のWSJの記事では、Fenoxが無給インターンに業界レポートを作成させ、日本のクライアント(FenoxのLP)に送付していると報じられている。日本のVC界隈ではこれは少し前からウワサとしては流れていた話だ。アニス氏はまず、同社のインターンが「無給の研修プログラム」と説明。レポートについては「あくまでプログラムの一環として作成したもの」であるとした。労働局からの命令はこのレポート作成が労働に当たるというものだと指摘されたことに起因するのだという。「(無給のプログラムで)オブザーブ的なものはOK。だがレポートを作成したならそこにお金を払えという話だった」

インターンが作成したレポートがクライアントに提供されたという報道そのものについても、「フルタイムの社員が書いたレポートがクライアントのもとに届く。まさかインターンのレポートが届くことはない」と否定した。「我々がなぜ労働省に同意しなかったのかというと、 Fenoxは(インターンの)56人、皆さんからきちんと『無料のプログラムである』という契約書をもらっている。契約書の2行目には『free training program』と書いている」(ウッザマン氏)

2つめの話だ。今回労働局から指摘されたのは2011年から2014年までの無給インターンについての話であり、2015年5月には「支払いを行い、落ち着いている話」だという。

実はこの「期間」に触れている報道は僕が確認できたところでは米CNETくらい。最初に報じたWSJも触れていないし、日本のメディアとして初めて報じた日本経済新聞でも触れていない(ちなみに日経はFenoxのLPになっている)。

シリコンバレーに駐在員を置くメディアすら期間について報じないのはちょっと変だも思うんだけれど、あくまで2014年末までのことであり、あたかも昨日今日起こった出来事のように報じられるのはひどいミスリードであるというのが彼らの主張だ。このタイミングでWSJに記事化されたことについての疑問も語る。

少なくとも僕が行った関係者へのヒアリングでも、2014年末以前のケースは確認できたが、それ以降は確認できていない。取材には現役のFenoxスタッフも同席したのだが、その人物は有給のインターンであり、ビザ(J1ビザ:就業体験用の交流訪問者ビザ)の取得に際しても同社の支援を受けたと説明した。企業の口コミサイトである「glassdoor」では、2015年8月5日時点でも「Half the employees were on a unpaid internship(半数の社員は無給のインターンシップだった)」という投稿があった。もちろんこれは投稿日以前の話である可能性はある。

ウッザマン氏はインターンシップについて「今でも、ものすごい数の問い合わせがある。ある意味『ギブ』でやってきたことだと思っている。数週間(米国で)仕事の雰囲気を見たいという人は大勢いる。だが労働省のせいでを受け入れられない」と語る。

Fenoxの主張と食い違うインターン側の証言

Fenoxの主張は伝えたとおりだ。だがインターン側の声はちょっと違う。なお今回は米国の事情に詳しい起業家や投資家のほか、Fenoxの元インターン、その周囲の人物にも話を聞いている。

まず、無給のインターンシップが過去に存在していたのかだが、表現の違いこそあれ、これは同社も「トレーニングプログラム」として認めている紛れもない事実だ。そして学生らが「トレーニングプログラム」としての契約書にサインをしたのも事実だという。

プログラムの期間は、日本人であれば数週間からESTA期間上限の90日まで。もちろん現地採用でESTAの制限を受けない人間もいた。日本からの場合で言えば、90日以上のインターンを希望する場合はJ1ビザの取得も支援していた(取得費用はインターン持ちというケース、またインターン持ちだが給与に上乗せする形で実質的な会社負担というケースがあったことを確認している)。そしてビザ取得後に有給で業務に従事するというかたちだ。だが中には、「米国のNPOで働いていることにして、実態としてFenoxで働く」なんてスキームの提案を受けたような人も過去にはいたという。

ビザ発給、入国管理というのは僕らが考えている以上にシリアスなものだ。2011年にSearchMan創業者の柴田尚樹氏が自身の経験を元に米国のビザ事情についてTechCrunch Japanに寄稿してくれているのだが、あくまでESTAは観光目的のビザ免除が基本。それで何度も入国したり、「インターンをやってました」なんて言おうものなら今後のビザ発給にだって影響が出かねない。2011年前後にはデラウェア州登記をし、シリコンバレー発スタートアップをうたおうとした日本人起業家が複数いた。実はそのほとんどにはビザが発給されず、「本社登記は米国、実務は日本」という非常にお粗末な状況を生んでしまったこともある。

次にレポートについて。ウッザマン氏が否定した「インターンの書いたレポートがクライアントに渡されている」という話だが、関係者からは「学生を中心としたインターンがレポートを作成し、日本のクライアントに提供していた」という証言を複数得た。無給インターンも「アナリスト」という肩書きをもらってリサーチに従事していた。労働局が「給与を払え」と言ったのはそこだ。

またウッザマン氏はいずれも否定したが、「同氏の著書の執筆にも関与した人間もいる(つまり、ゴーストライターということだ)」「(トレーニングでなく)雑務も任された」という声も聞いた。正社員の雇用を削るような無給インターンは認められていないはずで、事実であれば問題だ。ただし前述の通りで、僕が確認できたのは2014年末までの話だ。もし事実と異なっているのであればタレコミ欄から是非コンタクトを取って欲しい。情報提供者の秘密を守って話を聞きたいと思っている。

このあたりの話を聞いている中で、ウッザマン氏からは「インターンは自分の仕事がインポータントなモノだと思っている。(だから自分のレポートが)クライアントに行ってしまっていると思っているのではないか」という発言があった。書き手の業界では著名な媒体に1本記事を書いただけで「○○で執筆経験アリ」とドヤ顔なプロフィールを書くライターなどもいる。そんな人も見てきた僕としては、ウッザマン氏の発言について言ってしまう気持ちは分からなくもない…というかよく分かるのだ。だけど、流暢な日本語で「日本の若者達に夢と希望を与えたい」と語ってくれた同氏の口からそんな発言を聞くと少し悲しくなる。何よりもまず、僕はインターン側からも話を聞いているのだから。

「やりがい搾取」の構造は少なくない

この段落は裏取りした事実でなく、裏取りした内容を元にしたあくまで「想像」だ。僕個人としては実際のところ、Fenoxの言う「トレーニング用のレポート」の少なくとも一部に関しては…クライアントにも提供されていると思う。リサーチは読書感想文ではなくファクトを調べたものだ。社員が精査して内容を追加筆修正しようが、56人、いやそれ以上のインターンが書いたものベースとなるものがあるケースがゼロと言い切れないと思う。

匿名を条件に語ってくれたあるVCは、Fenoxのレポートについて「ボリュームの割に情報が薄かった」なんて辛辣に語っていたし、インターン関係者も「多くは学生が書いてるので、大学の授業のレポートと大きな差はない」と語っていた。前述の僕の想像は、そういったコメントを元にしたものだ。ただ再三お伝えしているとおり、Fenoxの主張は「インターンのレポートはトレーニングであり、ビジネスには使用していない」ということなので、そこはちゃんと両論を書いておく。現在では有給インターンに対して、社内でファンドのストラクチャーを学ぶような勉強会を開催するなど、若者の支援・育成に力を入れていると聞く。

本件に限らず「シリコンバレー体験」を希望する学生を都合良く扱う「やりがい搾取」の構造は少なくないと聞いた。これはあくまで氷山の一角だと。だから米国に憧れる未来の起業家の背中は押したいが、「シリコンバレーのスタートアップから、VCからインターンやらないかと呼ばれたの」というだけで浮かれてすぐに渡米することはやめた方がいいと言いたい。

無給か有給か、ビザはどうするのか。そんな当たり前のことをまず確認すべきだ。在米の起業家や投資家からは、将来のビザをエサに苦しい条件を飲まされる人だっているようだ。またESTAで米国に行って有給インターンだったら、それはそれで不法滞在者扱いだ。米国で働くどころか二度と米国に入国できなくなるのだ。もちろん国内でも無給インターンのやりがい搾取問題というのは存在するらしいが、ビザについてはもっと慎重になるべきと多くの関係者に指摘された。

自身の経験を積むためのチャレンジは大事だ。だがそれがどういう意味を持つか。スタートアップを志す若い人にはそういったことも考えて欲しい。もちろん価値のある体験ができる、有給のインターンだっていくらでもある。ただしそこには高いスキルも求められるだろう。そしてスタートアップコミュニティを支える起業家や投資家も、そんな若い人たちをやりがいだけで使おうなんて考えず、次の世代を育てていって欲しい。ある関係者はこう話した。

「別に右翼でもないけれど、日本人がカモにされているなら腹が立つ話。でも『これだからシリコンバレーに手を出してもロクなことにならないね』というのも違う話だ」

photo by
Christian Rondeau

FiNCが法人向けの新サービス「FiNCプラス」を発表、月額500円で従業員の健康管理支援

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法人向けのウェルネス経営ソリューションやダイエットプログラム「FiNC ダイエット家庭教師」などを手がけるFiNCは2月25日、法人向けの新サービス「FiNCプラス」を4月1日より開始することを明らかにした。本日より受付を開始する。

FiNCプラスは、従業員の健康状態や生活習慣改善の為のソリューションの提供、ウェルネスメニューの割引特典、健康教育および企業の健康経営銘柄の基準への対応などを行う法人向けサービス。料金は従業員1人につき月額500円。

専用アプリはHealthKit(iOS)、Google Fit(Android)と連携して歩数や体重などのライフログを取得。といっても現状は歩数のみ自動取得しており、その他のライフログは手動入力する必要がある。将来的にはウェアラブルデバイスと連携するなどして、ライフログの全自動取得を進める。

FiNCではライフログの内容をもとに、食事や運動に関するタスクを従業員ごとに提案。ユーザーはタスクを実行した分だけポイントを得ることができるほか、アプリを通じて、健康に関わる情報が得られる。ポイントはアプリ内からアクセスできるECサイト「FiNC mall」で使用可能だ。FiNC mallは健康食品や健康グッズを販売。ポイントでの購入だけでなく、カード決済などにも対応する。

FiNCによると、すでに導入予定企業は数十社に上るという。同社は2016年3月をめどに50万IDを目指す。

クラウドファンディングのCAMPFIREが手数料を20%から5%に大幅引き下げ「小さな声も拾い上げられる場所に」

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国内クラウドファンディングサービスの黎明期にスタートした「CAMPFIRE」が1つ大きなサービスの方向性を示したようだ。サービスを運営するCAMPFIREは2月24日、CAMPFIREのサイトリニューアルを実施。あわせてこれまで20%に設定していた手数料を5%に変更。また審査基準も見直し、より多くのプロジェクトを掲載していくという。

CAMPFIREは2011年のローンチ。ツクルバが手がけるコワーキングスペース「co-ba」の立ち上げを始めとして、さまざまな場所作り、作品作りのプロジェクトを支援してきた。

CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏

だが最近は彼らのプロジェクトに関する話もあまり聞かなくなったと感じることが多かったし、最近ではサイバーエージェント・クラウドファンディングの手がける「makuake」をはじめとして、クラウドファンディングを新商品のテストマーケティングの場として使うようなケースが増えてきた。

共同創業者であり、2月から同社の代表取締役を務める家入一真氏は、テストマーケティング的なクラウドファンディングの利用について肯定しつつ、「それだけがクラウドファンディングではない。CAMPFIREはクラウドファンディングの原点に立ち返ってサービスをリニューアルする」と語る。ではCAMPFIREが考えるクラウドファンディングとはどういうものか? 家入氏はこう続ける。

「ネットの本質は『声の小さな個人』が声を上げることができることだと思う。例えば家から出られない人、気が弱い人。そんな小さな声だって拾い上げられるの場所こそがインターネット。そういう声を1つずつ拾い上げ、ファンとお金を集めるプラットフォームにしたい。競合がtoBを狙うのであれば、僕らはtoCを取っていきたい。5万円あればギャラリーで個展を開けるといった、個人の『何かやりたい』のを背中を押してあげる場所にしたい。そうすると手数料も取り過ぎだと思った」

そのため、これまで20%取っていた手数料を大幅に削減(とは言え米国のサービスなどは手数料が1桁パーセントなのが一般的だ)。プロジェクトの審査条件も緩和して、小さな個人であっても、ファンを作り、お金を集めやすい場にするという決断をした。20%と5%、大した差でもないと思う読者もいるかも知れないが、例えば100万円集めるプロジェクトで20万円取られるか5万円取られるかの違い、と考えるとその差が大きいことは理解できるのではないだろうか。

思いとしてはすごく共感するところだけれども、気になるのはマネタイズと掲載されるプロジェクトの品質だ。家入氏は「いくつか案は検討しているが、まずは流通総額を伸ばすのが大事。また品質については、『ごった煮』になると思う。でもそこから本当にいいモノが生まれてくる方が夢がある」と語る。

最近では銀行からの融資を断られた納豆メーカーや方眼ノートを制作するも宣伝費用がないという印刷所がソーシャルメディアを通じて注目を集めるなんて話があった。家入氏はそれらを例に挙げて、「クラウドファンディングは、1人1人の声は小さくても、集まったら何かを動かすというもの」だと語る。

加えて家入氏は「そもそもの話で、プロジェクト単位のビジネスモデルから脱却しないといけない」とも語る。さまざまなクラウドファンディングサービスの関係者とこれまで話して僕も感じでいるのだが、今のクラウドファンディングの大きな課題の1つは「プロジェクト」という切り出し方にあると思っている。期間を設定したプロジェクトでお金を集めることはもちろん大事だ。しかしお金が集まり、商品(やサービス)が支援者に届けば終了。その後のコミュニケーションは途絶えてしまう。

もちろんこれに対して各プラットフォーマーは対応手段を検討している。例えば先日紹介したReLicの「ENjiN」は、プロジェクト終了後も同社が出展するECモールにて商品を継続販売するようなアプローチを取るなどしている。具体的な説明はなかったが、CAMPFIREでも同様に継続的な支援ができる、ある種のコミュニティ的な機能を組み込んでいくことも検討しているという。

Faradayの電動アシスト、Cortlandは完全に普通の自転車に見える―Kickstarterで予約受付中

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Faraday Bicyclesが最初の電動アシスト自転車、Porteurを発表yしてから3年たつ。今回Faradayは2番目のeバイク、Cortlandを発表した。

Cortlandは現在Kickstarterで予約受け付け中だ。Cortlandはバッテリーが改良され、電動モーターや制御ソフトもアップデートされている(バッテリー容量は290Wh、アシスト状態で約40キロ走行)。

新しいバイクにはシートの下に補助バッテリーを取り付けるオプションが用意され、走行距離をさらに32キロほど伸ばすことができる。Cortlandには油圧ディスクブレーキ、ギアハブ式の8段変速機、ビルトインの4WのLEDヘッドライトなどが装備されている。

Cortlandのボディーは少しアップデートされたが、扱いやすい軽い自転車という基本は初代のPorteurと変わらない。新旧モデルともにバッテリーはフレーム内に隠されているため完全に普通の自転車に見える。これはデザインに不満を感じてeバイクに乗り換えることにためらいを感じているユーザーには格好の特長かもしれない。

重量は18kgで、市場に出ているeバイクとしては最軽量のモデルのひとつだ。

Faradayはまた別売オプションとして、新旧両モデルに取り付けられるGPSトラッカーを発表した。GPSガジェットは電動アシストやライトなどの設定を行うFaradayの専用アプリに連動する。

現在予約できるCortlandは2種類で、スタンダードのCortlandは2999ドル、Cortland Sはやや安く1999ドルだ。Sモデルはブレーキが油圧式ではなく普通の機械式になり、動力伝達がカーボンベルトの代わりにチェーンとなる。Kickstarterのキャンペーンは1週間で終了するが、すでに目標の10万ドル以上の金額がプレッジ〔資金提供の約束〕されている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

「インキュベーションからアクセラレーションへ」KDDIが今後の支援プログラムを説明

2月22日に開催されたKDDIのインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」第9期のデモデイ。最優秀賞はIoTスタートアップの「uusia」、オーディエンス賞はIoTけん玉の「電玉」が選ばれた。ここでは次回、第10期に関する内容をお伝えしたい。

第10期の募集は本日2月22日から3月22日まで(エントリーページ)。募集対象は「社会にインパクトを与える、または世の中の課題を解決するITサービス」。条件の詳細はエントリーページを確認頂きたい。第9期に続き、サービスを軸にしたオリジナルプログラムとIoTを軸にしたハードウェアプログラムを用意する。なお採用予定数を超えた場合には早期に募集を締め切る可能性があるという。3月1日以降は東京で相談会も開催。遠方のスタートアップに向けてはSkypeでの面談も予定する。

KDDI代表取締役執行役員専務 バリュー事業本部長の高橋誠氏いわく、∞ Laboはこれから「インキュベーションからアクセラレーション」を目指すのだそう。これまで外部公表前のアイデアに限定して応募者を募っていたが、今後は採択条件を拡大。すでにサービス・プロダクトを公表している企業やチームを含めて幅広く募集を行うという。「これまではサービスリリースがゴールだったがそれを再設定する。今後は事業成長がゴール」(高橋氏)

KDDIの支援範囲

KDDIの支援範囲

第7期以降進めてきた外部企業との連携施策「パートナー連合プログラム」も拡大。これまでのテレビ朝日に加えてNHKメディアテクノロジー、日本テレビ放送網、TBSホールディングス、フジテレビジョンなど在京テレビ局を始め、合計31社(KDDI含む)が参加する。

パートナーの拡大の背景にはスタートアップのニーズの変化があるようだ。KDDIが実施したヒアリング結果を見ると、2014年にはプロダクトや経営に対するアドバイスを求める声が大きかったのに対して、2016年になると事業パートナーや出資者との接触ニーズが高まっているという。

ひと昔前の∞ LaboはBtoCのサービスが中心だった。そうなるとau スマートパスなりKDDIのサービスといかに繋がるかということを期待するスタートアップも多かったという。だが今ではBtoBtoC、BtoBのサービスも増えてきた。直接的な集客以上の連携が求められるわけだ。さらにパートナー企業も、これまであったような「新規事業部門がスタートアップとの連携を目指す」という動きから「既存事業部門もスタートアップとの連携を目指す」と変化してきているのだという。

パートナー連合プログラム

パートナー連合プログラム

KDDI ∞ Labo第9期デモデイ、最優秀賞はアート共有IoT製品を開発するuusiaに

KDDI ∞ Labo 9期メンバー

KDDIが2011年から足かけ5年続けているインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。2月22日には第9期のデモデイが開催され、参加チームがプレゼンテーションを披露した。今回はオリジナルプログラムとしてサービスを提供するスタートアップ4社、新設のハードウェアプログラムとしてIoTスタートアップ2社が登壇。最優秀賞チームには、イラストや写真の売買プラットフォームや連動するIoT製品を提供する「uusia」(CAMELORS)が選ばれた。また会場の投票によるオーディエンス賞には、IoTけん玉を提供する電玉が選ばれた。いずれもハードウェアプログラムの採択企業だった。2社を含む登壇スタートアップは以下の通り(カッコ内は社名、プレゼン順に紹介)。

HRDatabankHRDatabank
新興国の求職者と先進国の求人企業をマッチングするダイレクトリクルーティングプラットフォーム。ハングリーで学生時代から実務経験があり、さらに外国語も話せるという新興国の若者をプラットフォーム上で検索(24種の絞り込みフィルターで1億パターンを検索できるのだそう)、マッチングした人材とテキストチャットやビデオ通話で面接を行うことができる。検索は無料。月額8万円にチャット機能で課金をする。当初はエンジニア人材に限定してサービスを提供する。2016年中に英語版をリリース。2017年からは職種も拡大していく

AppMotor(Revode)
エンジニアの課題をリアルタイムに解決する、プログラミング共有・コミュニケーションプラットフォーム。AppMotor上でコードを書き(サービスはブラウザで動く)、URLを共有すれば、入力した文字などをリアルタイムで同期。音声や動画による通話を通じて、バグに悩むエンジニアと、それを解決できるエンジニアを支援する。本日よりクローズドベータをスタートしている。

VIC(AG
動画に埋め込まれた情報をクリックすることで引き出す技術を提供する。これによって、動画の再生中に表示された商品をタッチするだけで買い物かごに入れたり、詳細なスペック(アパレルであればサイズなど)を表示したりできる。すでにパルコの「MEETCALストア」で導入されているので、具体的なサービスはまずこちらで体験して欲しい。今後は映画やドラマ、料理番組、旅番組など幅広い用途を検討する。

Buildyクロードテック
ショップのスマートフォンアプリを「たった3分」で作成できるサービス。利用は無料で、アプリ作成と同時にスマホサイトも作成できる。作成したアプリでは、ニュース配信やクーポン機能、ショップと顧客のコミュニケーション機能などを提供。現在は美容院、アパレル、飲食店で導入を進めている。本日ベータ版をリリース。今後はポイントのほか、予約や決済機能などを提供していく。

uusia(CAMELORS)
アート作品を手軽に楽しめる、売買できるサービス(プラットフォーム)と、そのプラットフォームと連携するIoT製品「uusia pitcure」を提供する。uusia pitcureは電子ペーパーを使った額縁。スマートフォンで操作して、気分に合わせたアート作品を表示できる。電子ペーパーのため30日以上電池が持ち、電源が切れても表示が消えない。額縁も自由に設定できる。3月末にベータ版サービスを開始。5月にも米国のクラウドファンディングサービスでuusia pitcureをリリースする。

電玉(電玉)
現在国内300万人のユーザーがいるというけん玉。そのけん玉をIoT化したのが電玉だ。電玉は内部にセンシング、通信、アクチュエーターを備えたけん玉で、プレーヤー同士で技を決めて対戦をして遊ぶ。大技を決めると相手に振動が伝わり「攻撃」ができる。もちろん対戦だけでなく、1人でも遊べる。専用アプリで自身のスキルやステータスを見ながら練習を積み重ねることが可能だ。けん玉市場は20億円、これに体感ゲームの127億円市場を狙う。2月29日にクラウドファンディングサービス「makuake」でプロジェクトをローンチ。今後はB2Cに加えて、ダーツバーや遊技機施設など、B2B2C市場も狙っていく。

コーチ・ユナイテッド代表の有安氏が退任、後任は現取締役の福崎氏に

コーチユナイテッド代表取締役を退任する有安伸宏氏(左)と、新代表となる福崎康平氏(右)

コーチユナイテッド代表取締役社長を退任した有安伸宏氏(左)と、新代表の福崎康平氏(右)

今日代々木公園で撮影したばかりだという2人の笑顔の写真。これがとてもポジティブな選択であり、それぞれの「新しい挑戦」になることは間違いないだろう。

プライベートコーチサービス「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッドは、2月16日付けで創業者で代表取締役社長の有安伸宏氏が退任したことを発表した。後任には現在取締役を務める福崎康平氏が就任した。

コーチ・ユナイテッドは2007年の創業。2011年より習い事のプライベートコーチと、受講者をマッチングする「サイタ(当初のサービス名はCyta.jp)」を運営している。現在では全国6000会場・4万5000人以上の受講生がサービスを利用している。2013年9月にはクックパッドが同社を買収(非公開だが買収額は10億円以上と見られる)。その後もクックパッド傘下でサービスを成長させてきた。

また有安氏は個人投資家として、また起業家で作る投資ファンド「Tokyo Founders Fund」のメンバーとしてもスタートアップの支援を行っている。2015年11月には僕たちのイベント「TechCrunch Tokyo 2016」のエンジェル投資家セッションにも登壇してくれた。同氏の今後についてはアナウンスがされていないが、取締役としては同社に残るとのこと。同社のアドバイスを行いつつ、自身はまた新しいチャレンジをするのではないだろうか。

有安氏はFacebook上で「自分よりも福崎の方が、リーダーとしてこの会社を成長させられる。この筋で事業を伸ばすのなら、ベストなリーダーは福崎だ。それを腹の底から納得できたので、今回、社長交代に踏み切りました」「今回のように会社が順調な中で幸せに社長退任する日がくるというのは、少し不思議な気分です。それもこれも、会社のメンバーが持ち場で頑張っていて、事業が良い方向へ進めているからだと思います」とコメントしている。

後任の福崎氏は2014年にコーチ・ユナイテッドに入社。2015年に取締役に就任した。すでに同社の事業開発全てをリーダーとして統括している人物だという。コーチ・ユナイテッドには以前は起業してローカルガイドのマーケットプレイス「Meetrip」を運営していた(現在はDonutsに売却)貴山敬氏も取締役として参画しており、福崎氏ともにサイタの事業拡大を進める。

1日1問の継続こそが価値を生む、lang-8がIT業界特化の英語学習サービス「HiNative Trek」をスタート

 

2014年10月にまずは海外向けにサービスを開始したlang-8の外国語学習サービス「HiNative」。アプリのデザインを担当した制作会社THE CLIPがオープンエイトに買収されたこともあり、その際にチラッとご紹介したのだが、2月からは日本向けにもスマートフォンアプリの提供を開始している。

Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏

Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏

HiNativeは「○○って英語でどういうの?」「○○と△△って英語でどう違うの?」といった外国語に関する疑問を、テンプレートを使って手軽に投稿したり、回答したりできるサービスだ。現在7万ユーザーがおり、質問数は25万7000件。回答数は80万件となっている。2月のアプリ国内ローンチまでは露出を控えていたが、今後は年内100万ユーザーを目指すとしている。

そんなHiNativeの中で有料の英語学習サービスがスタートした。サービス名は「HiNative Trek」。IT・スタートアップ向けに特化した、実践的な学習内容になっているという。

HiNative Trekは、1日1問ずつ(平日のみ)出題される課題を解くことで英語を学習していくサービス。問題の内容は英作文や英語で出題される質問に対する英語での解答、会話など。

教材の内容は「私たちのサービスは競合の2倍のMAUです」というテキストの英作文だったり、「What are the major product milestones?」という質問への英語での回答だったりと、IT業界の人間であれば業務中に使ったり、聞いたりしたことがあるようなフレーズになっているのが特徴。回答の際はテキストに加えて音声を録音して投稿。するとネイティブスピーカーの講師が指導をしてくれる。午後1時までに投稿すれば、当日中に指導が行われる。

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「実践的で『言えそうで言えない』という内容の教材を独自に制作している。ネットにはいい教材があっても継続できないことが課題だった。HiNative Trekは1日1問で継続しやすく、また一方で、たまった課題をまとめて提出しても構わない。音声も使うが、Skype英会話と異なり完全非同期でのやりとりができるので便利」(Lang-8代表取締役CEOの喜洋洋氏)。

教材は1カ月ごとにテーマを設定。内容に関しては、西海岸のテック系企業勤務経験のあるネイティブも複数回チェックしているという。

料金は月額9800円となっており、正直少し高く感じる。喜氏はネイティブによる指導でコストが上がる点もあるが、オリジナル教材や1日1問であっても継続することこそが語学力を高めるという点をアピールする。「語学学習はやろうやろうと言うままで毎年を過ごして機会を損失しているということも多い」(喜氏)。

同社ではまず、有料会員数百人規模を目指す。ユーザーの動向を見て講師陣の拡大なども進めていく。

 

メルカリがCraigslistライクなサービスを準備中——App Storeにて「アッテ」をひっそり公開

screen322x572フリマアプリ「mercari(メルカリ)」を手がけるメルカリがどうやらCraigslistライクなクラシファイドサービス(売ります・買います掲示板のような三行広告が並ぶサービスだ)を準備しているようだ。同社は2月15日付けで新アプリ「メルカリ アッテ」をApp Store上にひっそりと公開している。コーポレートサイトなどでの正式な発表はまだない。

すでに公開中のため僕も早速ダウンロードしてみたのだが、招待制ということでまだサービスを利用できない状況だ(アプリ上から事前登録はできる)。App Store上の説明も「ベータ版のため招待制となっています。アプリインストール後に、事前登録することができます。」と書かれているだけ。

ストア上のアプリ紹介画像には「何でも投稿できる地域コミュニティ」とあり、「あげます・売ります」「メンバー募集・イベント」「下さい 買います」「助けて・貸して・教えて」「助けます・貸します・教えます」「賃貸・ルームシェア」「求人」といった文言が並ぶ。これはそう、まさにクラシファイドサービスだと考えていいだろう。

クラシファイドサービスの元祖とも言えるCraigslistも東京版(英語版のみ)を用意しているが、日本ではジモティーが運営する「ジモティー」がこの領域のプレーヤーとして有名なところだろうか。ほかに画像から分かる範囲では、手数料は0円、副業やおこづかい稼ぎの案件も掲載できるようだ。またアプリ上のチャットにおいて当事者同士でやりとりを行い、あげます・売りますといったケースでは、手渡しでのやりとりを推奨している。

取り急ぎでのご紹介となってしまったが、ともかくアプリは現在App Storeからダウンロードできる状態だ。サービスの詳細については近日中にも追ってメルカリに話を聞いてみたい。

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ウォンテッドリー、社内向けグループチャット「Sync」の法人利用を早くも無料に

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ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリーが1月から提供している社内向けグループチャット「Sync」。サービスローンチから1カ月のSyncだが、法人向けのプランの完全無料化を発表した(当初は無料プラン以外に月額で600円、1200円のプランを用意していた)。あわせて、チーム機能とクラウドサービス連携機能の提供を開始した。

チーム機能を使えば、特定のプロジェクトなどに参加するメンバーに限定したチーム(グループ)でのチャットが可能。またクラウドサービス連携機能では、Google Docs、Dropbox、Evernoteと連携。各サービスの共有用URLをSync上に展開すれば、URLをクリックする前に内容が自動展開され確認できるという。

「ローンチ1カ月で無料化」の意図は?

法人向けサービスをローンチ1カ月で無料化するというのもあまり聞く話ではない。良かれ悪かれ当初の予定とは異なる状況になっているのではないかと想像するのだけれども、ウォンテッドリーCTOの川崎禎紀氏は「無料にすることで、Syncを利用する企業やユーザーを増やし、Wantedlyをよりアクティブに使ってもらうことが、中長期的にみてプラットフォーム全体の価値を高めると判断した」としている。

とはいえこの無料化の背景にはビジネス向けチャットツールの市場の過熱ぶりもあると見ていいんじゃないだろうか。SlackやChatWork、さらにはFacebook MessengerやLINEといった本来コンシュマー向けに提供されているツールまで、ビジネス領域で活躍するチャットツールの競争は激しくなるばかり。最後発のプロダクトとして有料のままサービスの差別化をするのが難しいと判断したとしてもおかしくはない。

川崎氏は「Wantedly Admin(Wantedlyの法人向け採用支援サービス、要はもともとのWantedlyの法人ビジネスだ)を利用している企業にはスタートアップも多い。有料の社内向けチャットサービスを使わずに済むよう支援したいという点もある」とも語っていた。この言葉をそのまま捉えるのであれば、単体でのマネタイズからWantedly全体での満足度向上のためにビジネス的にはピボットしたとも考えられる。補足しておくが、僕はクローズドベータ版のSyncを利用した経験がある。今回グループチャット機能も実装されたことで、ユーザー体験だけで言えば決して先行サービスと大きな差が付くモノではないと思っている。

Syncのユーザー数は非公開(サイト上では「1万5000社が利用する」となっているが、これはあくまでWantedly Adminの利用企業数だ)。「Wantedly全体と比較するとまだ少ない数字だが、チャットサービス特性もあってよりアクティブかつ継続的に使っているユーザーが多い。3分の1はWantedlyを利用しておらず、NPOや、社労士事務所、学生団体、フリーランスの集団など今までリーチ出来ていなかった属性が増えているのを実感している」(川崎氏)。今後はセキュリティ面やアカウント管理機能を強化するなど、大企業も含めた利用を促すという。

ビジネス向けツールの口コミサイトも

またウォンテッドリーでは2月12日に新サービス「Wantedly Tools」をローンチしている。同サービスはコミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールなど、主にビジネス用途のツールやシステムを紹介しあう口コミサイト。Wantedlyにアカウントを持つ企業が利用するツールの情報を投稿している。

投稿は1プロダクトにつき数百件というものもあるようだ。その規模はさておき、ビジネスツールに特化した「Product Hunt」といった様相を呈しており、プロダクトを比較して導入したいユーザーなどには参考になる情報も多いと思う。たとえばコミュニケーションツールのカテゴリでは、「Sync」導入企業の意見も読むことができる。

Wantedly ツール

「Wantedly Tools」

さくらインターネットのIoTプラットフォームの本質は、閉域網に巨大なデータを蓄積することにある

さくらインターネットが以前から発表していたIoT向けのプラットフォームがいよいよ本格稼働する。同社は2月8日、「さくらのIoT Platform」のアルファ版のパートナー申し込み受付を開始した。4月にもアルファ版サービスを開始する予定。また9月にベータ版としてサービスを拡大。2016年度内の正式サービス提供を予定する。

さくらのIoT Platformは、同社オリジナルのモバイル通信モジュールである「さくらのIoT通信モジュール」(設計、開発はCerevoが担当。ソフトバンクおよびソラコム(NTTドコモ)の回線の2種類を提供)を通してL2接続した閉域網を用意。閉域網内ではストレージやデータベースといったバックグラウンド環境を構築、外部のクラウドやアプリケーションなどから呼び出し可能なAPIも提供する。

プラットフォームのコンセプトは「どこでも誰でも手軽に今すぐに」。マイコンやIoT製品にモジュールを組み込むことで、通信経路やサーバとの通信プロトコル(モジュールマイコンのUART、SPI、I2Cといった通信規格に対応)などを意識せず、モノ(ハードウェア)の制御とAPIを使ったデータ処理だけに対応すればいい。

アルファ版のためプラットフォームは無償で提供。通信モジュールや通信費などをベースにした定額料金ではなく、通信モジュールと閉域網で実際にやりとりされるメッセージと、APIを利用したデータの取得に応じて料金が設定される予定だ。「メッセージに関しては2年間期限で100万件(2年間、1分単位での通信に相当)で無償」といったプランも検討されている。3G回線の通信モジュールはこれまで数万円ほどの価格帯が一般的だったが、1万円以下で提供する見込み。なおアルファ版に関しては無償で提供。現在モジュールは1000台生産しており、それ以上のニーズがあれば別途対応を検討する。

閉域網にアップされるデータは、パブリックなものとプライベートなものに分けられる。パブリックなデータに関しては、APIを利用して開発者が自由かつ無償で扱える。一方でプライベートなデータは有料で利用することになる。さくらインターネットでは、プラットフォーム上により多くのデータが集まるよう、API取得時の料金の一部を、データをアップする開発者に還元することを検討している。

開発中の通信モジュール

開発中の通信モジュール

アルファ版の開始にあたり、Amazon Web Services(AWS)やヤフーのIoTプラットフォーム「myThings」などとも連携。さらに「Priority Partner」と呼ぶ先行パートナー企業も集まった。NECパーソナルコンピュータとはホームIoTやパブリックIoTの実現に向けた共創プロジェクトを展開。Cerevo、ソラコムはそれぞれ前述のとおり、また医療IoTスタートアップのサイマックスやM2Mのデータソリューションを提供するアプトポッドなどがすでにプラットフォームの採用を決定している。

と、ここまではすでに各メディアでも報じられている話。ざっくり言えば、IoT機器メーカーにとっては、「とにかく簡単に作れる(組み込みソフトのスキルが低くてもいける)、なのにセキュア」ということだ。会見後Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏にも話を聞いたのだが、閉域網にデータを預けることは、「セキュアな環境なので極論を言えば暗号化せずに通信できる。組み込みのマイコンにおいては、SSL通信などは重くて無駄な処理。そう考えるとマイコンの品質を下げて、原価低減ができるというメリットもある」といった利点もあるのだそうだ。

膨大なデータを閉域網に集めることこそが本質

さくらインターネット創業メンバーであり、現在同社のフェローとしてこの事業に携わる小笠原治氏によれば、さくらインターネットがこのプラットフォームで狙うのは、別に通信料やAPI利用料によるマネタイズではない。IoT機器から送られる膨大なデータのプールを閉域網に作ることだという。

小笠原氏は会見の中でも「(通信モジュールで)格安MVNOをやるわけではない」「デバイスメーカーになるわけでもない」「インターネットに開かれた繋がれたクラウドサービスを提供するわけでもない」と語っていた。もちろん正式サービス時には課金を行うわけだが、とにかく色んなデータを集めて、それを使った新しいビジネスのシードを見つけていくことこそが重要だという。このプラットフォームは「人々が気づけなかった世界の相関性に気づくためのプラットフォーム」を目指すとしている。

岩佐氏は、作り手の立場からこう語る。「IoT機器のメーカーが、誰かのセンサー値を使える世界というのはめちゃくちゃ面白い話になる。もちろんそんな構想があるメーカーは(現状では)ほぼいないが、スタートアップからは出てくるのではないか」

例えば世の自動車がリアルタイムに車速のデータをさくらのプラットフォームにリアルタイムでアップロードしているとしよう。そのデータがオープンなモノであれば、「ある道が混んでる」と瞬時に判断して、リアルタイムに迂回ルートを提案してくれるなんてこともできる。一部の自動車メーカー(ホンダのインターナビなど)では自社製品に閉じてこういった仕組みを提供しているが、これがパブリックなデータで実現できるようになるわけだ。もちろんこれはあくまで一例。正式サービスのローンチはまだ少し先だが、はたしてこのプラットフォームからどんなIoT機器が生まれてくるのだろうか。

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(一番左)、同社フェローの小笠原治氏(左から4人目)ほか、Priority Partner各社の代表ら

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(一番左)、同社フェローの小笠原治氏(左から4人目)ほか、Priority Partner各社の代表ら

ブロックチェーン活用の金融向け事業でテックビューロとシンガポールDragonfly社が合弁

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ブロックチェーン技術NEMを活用した金融機関向け決済プラットフォーム「Automated Clearing and E-Settlement (ACES)」を日本市場に提供するため、テックビューロとシンガポールDragonfly Fintech Pte Ltdは日本に合弁会社を設立することで合意した(プレスリリース)。2016年第3四半期のサービス提供を目指す。合弁会社の設立時期や資本金などの詳細は今後明らかにしていくとのこと。

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決済プラットフォームACESの概要。「従来型の決済手法と比べコンプライアンス上の煩雑さを軽減できる」としている。

決済には法定通貨(例えば円)とペグするデジタルマネーを使う。従来の即時グロス決済(RTGS)に替わる銀行どうしの即時決済の手段として、双方の取引勘定をブロックチェーンに記録する機能を提供する。

テックビューロはNEMをベースとするプライベートブロックチェーン技術mijinの各分野での業務提携を多数発表しているが(関連記事)、現時点で発表された提携先に金融機関は含まれていない。関連する案件として、住信SBIネット銀行は野村総合研究所(NRI)と共に実施する実証実験において NEMとmijinを併用するとしており、実装を担当する一社としてDragonfly社の名前が上がっている(発表資料)。

最近、米Ripple社が日本を含むアジア市場の展開でSBIホールディングスと合弁すると発表している。Rippleの決済システムとACESは、銀行向け決済システムという点で競合する。

「日本のブロックチェーン界隈」の議論を可視化、ブロックチェーンハブの旗揚げイベント

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2016年2月4日に開催された株式会社ブロックチェーンハブの旗揚げのイベント「創業記念講演会」では、果てしなく続く「ブロックチェーン界隈」の議論を目の当たりにした。ここでは私的な印象を切り取って記録しておきたい。

同社は、金融大手を含む“スーツ”族と、ブロックチェーン技術に取り組む“ギーク”族を結ぶ接点(ハブ)となることを目指している。ブロックチェーン技術に関する情報発信、教育(例えば2月12日から始まるブロックチェーン講義)、コンサルティング、人的ネットワーク構築やベンチャー支援を活動内容としてこの1月7日に設立されたばかりだ(プレスリリース)。

ブロックチェーンハブ創業記念講演会から(その1)

斉藤賢爾氏の講演の様子。40人強と限られたメンバーが集まるイベントだったが、金融大手からブロックチェーン界隈のギークまで多様な参加者が集まった。

 

同社の陣容から紹介しよう。代表取締役社長の増田一之氏は、日本興業銀行からキャリアを出発し、インターネット証券取引システムのファイテック社長を経て、現在はベンチャー支援の活動を続けている。取締役CMOの本間善實氏は「日本デジタルマネー協会」の活動を2年続け、ビットコイナー、ブロックチェーン関連の人脈が豊富だ。取締役CTOの志茂博氏は、ブロックチェーン技術Ethereumを活用した実証実験などに引っ張りだこの技術者だ。技術情報の蓄積が進んでいるQiita(関連記事)でブロックチェーン技術に関するポストを調べてみると志茂氏のポストばかり出てくることに驚く(例えばこの記事)。

乾杯の挨拶は日本IBM相談役の北城恪太郎氏だ。1993年から99年まで日本IBM社長を勤めあげ、財界での活動歴も長い。北城氏はブロックチェーンハブのアドバイザーの一人でもある。北城氏は挨拶の中で、朝日新聞が報じた三菱東京UFJが開発中とする仮想通貨の話題を取り上げ、この分野は一般紙が取り上げる話題となったことを強調した。

北城氏による挨拶から想像できるように、日本の有力企業のスーツ姿の紳士と、“ブロックチェーン界隈”のギークを結びつけることがイベントの狙いだ。増田氏は「4大メガバンクはもちろん、多くの有力企業の方々に来ていただいた」と顔をほころばせる。

「株式会社の後を継ぐイノベーションは何か」を問いかける斉藤賢爾氏

最初の講演は慶應義塾大学SFC研究所上席所員の斉藤賢爾氏。斉藤氏は、ブロックチェーン技術Orbと、減価の概念を組み込んだ地域通貨を発行できるシステムSmart Coinを推進するOrb株式会社CTOでもあるが、この日は「慶應の斉藤として話します」と前置きして講演は始まった。

斉藤氏はまず「世界史に名を残す会社を挙げてください」と語りかける。客席から上がった名前は世界初の株式会社である東インド会社である。斉藤氏はもう1社、日本初の株式会社的な組織である海援隊の名を挙げる。株式会社は、事業リスクを複数の株主で分担しながらより大きな経済的リターンを目指す組織であり、人類史上に残るイノベーションだった。では、次の世代のイノベーションは何か。それが現在ブロックチェーン技術の上に構築されつつあるDAO/DAC(Destributed/Decentralized Autonomous Corporation/Organization)ではないか。例えば、ビットコインのエコシステムは、法や契約ではなく分散したノード上で動くアルゴリズムにより組織が機能している例といえる。株式会社とは異なる原理で、分散化/非集権化したコンピュータネットワークの上で動くアルゴリズムにより、人々の集団が事業を営む基盤を作れるのではないか。ここで斉藤氏は、このような考え方はEthereumが目指している世界観そのものだと指摘する。

斉藤氏は、ソフトウェア技術により経済活動そのものを変革するアイデアを持っているのが自分だけではないことを示したかったのだろう。斉藤氏はビットコイン登場以前から仮想通貨を研究し、経済活動の基盤となる「地球規模OS」という概念を提唱している(例えば角川インターネット講座第10巻『第三の産業革命 経済と労働の変化』の第9章「インターネットと金融」を参照)。

斉藤氏は、自分自身は「アンチブロックチェーン派」だと話す。例えばビットコインのブロックチェーンは取引の確定が完全には決定できないファイナリティ(決済完了性)の問題があると指摘する。ビットコインではブロックチェーンの分岐により取引がくつがえる可能性がわずかにある。そこで6回の確認を約60分かけて実施することにより取引を確定しているが、斉藤氏は、これが決済の整合性を証明するとはいえないと指摘する。また、「ドローンで運んできた缶入り飲料を購入して落としてもらう」との例を挙げ、ブロックチェーンの動作には現実世界で求められるリアルタイム性が欠けていることを指摘する。なお、斉藤氏が取り組むOrbでは決済のファイナリティ問題の解決とリアルタイム性の追求を試みているのだが、今回の講演ではそこまでは触れなかった。

ブロックチェーン技術をめぐる百家争鳴状態を可視化

ブロックチェーンハブ創業記念講演会から(その2)

パネルディスカッションから。ビットコインマキシマリストと、アンチビットコイナーの対決。

 

斉藤氏の講演の後は、ビットコインによる支払いシステム「ビットクダイレクト」を提供する「Bi得」の創設者兼CEOのJerry Chan氏が「ブロックチェーンとコンセンサスレジャー」と題して講演。予定されていた演題は「ビットコインなしのブロックチェーンに価値はあるのか」だった。ビットコインと技術投入を含めたそのエコシステムの価値を高く評価するのがJerry氏の立場だ。続いて、Metaco社CTOのNicolas Dorier氏(.NET Frameworkによるビットコイン実装で知られる)、株式会社ソーシャル・マインズ創設者のEdmund Edger氏、Open Assets Protocolにより使用権をブロックチェーンで管理するスマート電源プラグを開発するNayuta代表取締役の栗元憲一氏がショートプレゼンテーションを行った。

Nicolas Dorier氏は、「ビットコイン9つの神話」について話した。ビットコインに対する「スケールできない」「プライベートな取引に使えない」などの批判の多くは、Dorier氏の立場から見れば解決済みだったり見当違いだったりするそうだ。

Edmund Edger氏は、当初はビットコインのブロックチェーンを手掛けていたが、その後Ethereumの方が有望だと鞍替えした。一方、Nayutaの栗元憲一氏は、Ethereumからブロックチェーン技術に入ったが、技術的に安定しているOpen Assetsの方が有望だと感じた。ブロックチェーン技術は複数あり、選択に際しての評価と判断は、おそらくプロジェクトの内容、目的により変わってくる。そうした立場の違いを可視化する講演者の配置だったといえる。

最後の企画は、パネルディスカッションである。斉藤賢爾氏、Jerry Chan氏、新たな合意形成プロトコルPoI(Proof of Importance)を取り入れた暗号通貨NEMの開発者である武宮誠氏が登壇し、本間善實氏が司会に回った。Jerry Chan氏はビットコインの価値を信じるビットコインマキシマリストの立場に立ち、斉藤賢爾氏と武宮誠氏はビットコインの弱点を克服する新技術(斉藤氏はOrb、武宮氏はNEM)を作る立場に立っている。

ビットコインやブロックチェーンに関しては、こうした異なる立場にある人々どうしのディベートが活発に行われていて、この日はその一端に触れることができた。武宮氏は、「ビットコインは面白いが大きな欠点がたくさんある。例えばマイニングは本当に必要なのか」と指摘し、「これが決定的なインフラになるとは思えない」と主張する。データベース製品がたくさんあるように、ブロックチェーン技術も複数あっていい。例えばNEMは最近Mosaic Tileという新機能を取り入れたが、このような新技術を積極的に試していけることは、新しく作った技術ならではの特徴だ。もちろんJerry Chan氏も黙ってはいない。Chan氏は、ビットコインのブロックチェーンにこそ最も大きな価値があると考えている。

ところで、この日に不在だったのにも関わらず存在感があったのは、プライベートブロックチェーン技術mijinに関する業務提携の発表を立て続けに行ってきたテックビューロだ(関連記事)。mijinやそのユースケースに関する情報が不足していることから(これは私たち報道側が、もっとがんばらないといけないところだ)、パネルディスカッションではプライベートブロックチェーンに対する疑問の声も上がった。「一つの組織内で閉じたブロックチェーンに意味があるとすれば、それは会社を畳んだ後にも事後的に監査に使えることではないか」と斉藤氏は意見を述べた。なおmijinのベースとなったNEMの開発者の1人である武宮誠氏は以前はテックビューロでmijinのために働いていたが今は離れている。現在のmijinは、武宮氏以外のNEM開発者を軸に開発を進め、この2月には誰でも参加できる公開ベータテストが始まった。情報不足は今後解消されていくことを期待したい。

議論を続け、しかし決して合意に至らない彼らの姿は、おそらく現実のブロックチェーン界隈の射影だったはずだ。この状況に似ているのはなんだろう……強いていうなら、異なるプログラミング言語の使い手どうしの論戦に似ていることに気がつく(つまり日本で毎年開催されるLL(Lightweight Language)イベントと少しだけ似ていた)。プログラミング言語にも、長年にわたる蓄積を取るか言語設計の新しさを取るか、仕様の安定を取るか新技術の取り入れの早さを取るか、こうした決して相容れない議論がある。

もちろん例え話が当てはまらない部分もある。ソフトウェアの利用者は開発に使われたプログラミング言語のことは気に止めない。だがブロックチェーンは資産価値や信用など重要な「なにか」を刻みつける対象なので、利用者にとっても重大な意味を持つ。資産を蓄積するプラットフォームという点では、OSに近い……いや、ひょっとすると国家にも匹敵する意味を持つかもしれない。

そんな事を考えるうちにも、立ち話の議論はいつまでも続き、イベントの夜は更けていった。ブロックチェーン界隈はあまりにも情報量が多く、あまりにも動きが速い。追いかけるのは大変だが面白い。このイベントの参加者それぞれが異なる印象を持ったことだろうが、「何か重要な事が起こっている」との感触は共有できていたのではないだろうか。

「チケット化」と「継続販売」で需要を喚起するクラウドファンディング「ENjiNE」

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日本でクラウドファンディングといえば、新製品のマーケティングかチャリティー的な支援が中心。2014年に資金決済法が改正されて投資型のクラウドファンディングも始まったが、利用はまだこれからというところだろう。

そんな中でスタートしたReLicのクラウドファンディングサービス「ENjiNE(エンジン)」。彼らは「チケット」という概念を持ち込むことで、より手軽にクラウドファンディングを利用できるようにすることを考えているという。

ENjiNEは、先行する他社のクラウドファンディングサービス同様、サイト上に掲載されているプロジェクトに対して支援を行うというモノだ。支援の対価として製品やサービスを得られる、いわゆる「購入型」と呼ばれるサービスに分類される。

だがENjiNEがこれまでの購入型クラウドファンディングサービスと違うのは、これまでであれば、「お金を払って支援を行う」としていたユーザーのアクションを「電子チケットを購入する」というものに変えたことにある。プロジェクトが終了して、その製品やサービスが提供されるタイミングになれば、電子チケットを使用(ENjiNE上でコードを入力する)することができる。

ReLic代表取締役CEOの北嶋貴朗氏

ReLic代表取締役CEOの北嶋貴朗氏

クラウドファンディングの仕組みを知っている読者は「そこに何の違いがあるのか?」なんて思うかも知れない。だがReLic代表取締役CEOの北嶋貴朗氏は、この「チケット」こそが国内で購入型クラウドファンディングの市場を成長させる鍵になると語る。

「チケット化」でECの市場を取りに行く

「日本のクラウドファンディングの市場は20億円程度と欧米に比べればまだまだ小さい(米国のクラウドファンディング市場規模は2014年度で1億ドル程度だという)。それは投資や寄付という文化が欧米のように根付いていないから。だが見方を変えれば購入型のクラウドファンディングは実態としてはECと同じ仕組み。であればECの市場を取っていける仕組みにしていけばいい」(北嶋氏)

ではクラウドファンディングをECのように使ってもらうにはどうすればいいか? そこで考えたのがチケットという概念だという。「プロジェクトへの支援」と考えるよりも面白い商品を買うという動機を作るだけでなく、購入後に友人などにプレゼントすることもできる(ENjiNEのアカウントが必要になる)。そのための不正防止の仕組みも導入しているという。

それに加えて、ENjiNEで楽天市場やYahoo!ショッピングといったショッピングモールのアカウントを取得。ENjiNEに掲載されたプロジェクトのオーナーは、今後ENjiNEに運用を任せるかたちでショッピングモールで商品を販売できるようになる(モールによっては「チケット」が販売できないケースもあるため、商品の予約販売にする、製造後に販売するなどの対応を行う)。通常のクラウドファンディングであれば、プロジェクトが終了した時点までしか支援できないが、この仕組みを使って継続した商品の販売が可能になる。このあたりはヤフーとソニーが組んだ「First Flight」の発想に近い。

オープン時点ではフォトウエディングサービスを手がけるスタートアップのFamarryによる家族写真撮影のプロジェクトや、スタッズを使った革小物を扱うTheTHIRDによる展示会出展プロジェクトなどが並ぶ。システムの外部提供も決まった。サザビーリーグの主催するビジネスプランコンテスト「Lien PROJECT2016」と連携。3月に開催されるイベントでは、プレゼンの最中にリアルタイムにファンディングを行う「ライブファンディング」の仕組みを提供する。

クラウドファンディングの「前後」も支援

実はReLicが手がけるのはこのENjiNEだけではない。すでにピッチイベントや新規事業制度等の応募資料や合否の管理、メール送信などを行うサービス「Ignition」を提供しているほか、今後はマーケティングオートメーション、CRMといった領域のサービスも開発中だという。

北嶋氏は「会社の理念は『志ある挑戦を創造し、日本から世界へ』。プロジェクトの構想(Ignition)から事業化(ENjiNE)、成長(開発中の新サービス)までをカバーしていきたい」と語る。クラウドファンディングはあくまで1つの事業に過ぎないのだと。

北嶋氏は新卒でワイキューブ、プライマルとコンサル会社を経てディー・エヌ・エーに入り、EC関連の新規事業や事業企画、戦略アライアンスなどの責任者としてキャリアを積んできた。2015年7月にReLicを設立。これまでにベータカタリスト(DeNA元会長の春田真氏らの新会社)や個人投資家からシードマネーを調達している。