メタバースの内と外で生まれるビジネスは「インターネット」の進化をなぞる?

今、国内ではメタバースが熱い。「Oculus」(現在は、ブランド名が「Meta」に変更されている)が2018年から販売しているスタンドアロンVRゴーグルのおかげで、高価なPCや接続に関する複雑な知識なしに、メタバースの世界に入れるようになったからだ。また、マスメディアで報道されるようになったことも要因だろう。

早くからメタバース(当初はVRと呼ばれていたが)に着目し、今やメタバースに住んでいると言っても過言ではないShiftallのCEO岩佐琢磨氏は、自社でメタバース関連のアイテムを開発している。

そんなメタバース界の当事者である岩佐氏には、メタバースの楽しさや、他国との温度感の差、メタバース内での生活を快適にするアイテムなどについて聞いてきた。3回目となる今回は、メタバースとそれにまつわる今後のビジネスなどについて話を伺った。

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メタバースでの滞在時間が長くなることで生まれる新ビジネス

人は実生活において、住まいの居心地を良くしたり、人に会うときには好印象を持ってもらうためきれいな身なりをするように心がけるものだ。そのために、より快適な家を求めたり、家具を買ったりするし、美容院に行く、流行の服を買うといった消費が発生する。

同様に、メタバース内で生活する人が増えれば、その空間(ワールド)や自分(アバター)をより良いものにしたいというニーズが生まれ、そこにビジネスも生まれる発生する。

「すでに、経済活動が行われています」と岩佐氏はいう。「例えばアバター作家といった職業も誕生しています。しかもそのビジネスは国境を超えたものです。現在、日本のメタバースシーンで人気を博しているアバターは、日本だけでなく韓国のクリエイターによるものも多いです。現在のところ、まだメタバースに足を踏み入れている人の数は決して多くはありませんが、今後、その人数は増えていくでしょう。自分を表現するアバターはとても大切なものです。そこで1つ5000円のアバターでも購入されることは十分に考えられます。それを全世界規模で、例えば100万人が買うようになったらかなりの経済規模になります」。

また、ワールドにはもっとビジネスチャンスがありそうだ。

「今後、ホームページを持つように企業はそれぞれワールドを持つようになるかもしれません。またイベントを開催するときなどに特設ページを用意するように、企業がメタバースでイベントを行う際、そのイベントごとにコンセプトや雰囲気が違うワールドが必要になると思います」と岩佐氏はいう。

それはたとえば人気コミックを販売している出版社が、昔の日本を舞台にした作品と海を舞台にした作品でそれぞれイベントを行いたいと考えた場合、それぞれのイメージに合った会場を用意するのと似ている。

「今後、ホームページ以上に多様なワールドが必要とされ、作られていくのではないかと思います。そのため、ワールドを作ることができる人へのニーズが高まり、経済が回っていく日は遠くないでしょう」と岩佐氏は語る。

このようにメタバース内でのビジネスで暮らして人たちが登場する時期はまったくわからないというが、すでにアバタービジネスをグループで行っている人たちが出始めていることから「数万人から数十万人規模の人が、メタバースの世界の中で作ったもので生活できるようになるのには、そう長い時間がかからないのではないか」と岩佐氏は予測している。

NFTがメタバース内のビジネスとして成り立たない理由

また「メタバース」と同じく新しい技術としてNFTも注目を集めている。ブロックチェーン技術を使ったNFTなどのサービスは、デジタルで作られたもう1つの世界であるメタバースと親和性が高いのではないかと漠然と考えていた。

しかし、岩佐氏は「NFT×メタバースは現時点ではあまり相性が良くない」とバッサリ否定する。それぞれのユーザーと事業者がお互いに異質な存在になっているというのがその理由だ。

「NFTで売買したデータ、それ自体はいくらでもコピーできます。ただ、NFTであればその正当な所有権が誰にあるのか、というトランザクションの履歴をチェーンの上に保存でき、それを改ざんできないという特性があるだけです」という。

つまり、NFTアートを購入した場合、買った本人は権利を持っているということで自尊心が満たされ、さらにその権利を売って儲けることもできるだけだともいえる。

「メタバースの中で大切なことは、絵の所有権ではなく絵そのもの。ワールドにそれを飾ることに価値があるのです。すばらしい絵が飾られているすばらしい空間があることに意味があります」と岩佐氏は語る。飾る絵を選び、用意することが重要なのだ。NFTアートである必要はないのだ。

また、現在のところVRChatを提供しているプラットフォームSteamは、暗号資産やNFTを全面的に禁止している。これは余計なトラブルを避けるためのルールでもあるのだろうが、暗号資産、NFTがメタバースで現状、その成長に必要なものではない、ユーザーに強く求められているものではないということでもあるだろう。

求められるであろうガジェット

メタバースを巡るビジネスは、その中だけのものにとどまらない。

例えば前回の記事で紹介した、メタバース内での生活をより快適にするためのガジェットとしてShiftallはヘッドマウントディスプレイ「MeganeX」や、自分の動きを自在にトラッキングしてくれる「HaritoraX」、また仮想空間の温度をリアルに感じられるようにするウェアラブルデバイス「Pebble Feel」を開発、提供する。

メタバースを楽しむために開発されたアイテム。左上から時計回りに「MeganeX」、音漏れを防ぐBluetoothマイク「mutalk」「Pebble Feel』

「ヘッドマウントディスプレイ、コントローラー、トラッキングデバイスが、現時点でのハードウェア3大デバイスでしょう」と岩佐氏。「ただ、今後はもっとさまざまな分野のものが増えてくると考えている」と語る。

「CES 2022 では、メタバース内で触れられたときに、その触覚を感じるスーツのようなものが発表されていました。そうしたハプティクススーツとHaritraXのようなトラッキングデバイスがセットになったようなものが出てくるかもしれません。

現時点では、ヘッドセットの下に表情をセンシングするフェイシャルトラッカーデバイスを装着して現実の表情とアバターの表情を同期させている人もいます。デバイスの形状や種類は、どんどん変化していくのではないでしょうか」(岩佐氏)

そのような中で、VRChatがOpenSound Control(以下、OSC)という新しいプロトコルに対応したことが発表された。OSCは、オーディオ機器と音楽パフォーマンス向けのコントローラーを接続するためのプロトコルだが、その他の機器との接続にも利用可能でアイデア次第でこれまでなかった機器をメタバースの世界につなげることができる。

「例えば、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったら、アバターの顔を赤くする、現実世界の室温が25℃を超えたらアバターが上着を脱ぐ。逆に、アバターが靴を脱ぐ操作をしたら、エアコンの温度を2℃下げるなど現実世界側を操作することも可能になります」と岩佐氏。

VRChatがOSCに対応したことで、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったらアバターの顔を赤くするといったことも可能になる

また、コミニケーションをとる上で壁となる言語についても、OSCを使ってText to Speachで話す、外部ツールに話す内容をいったん投げて翻訳させるといったこともすでにできるようになる。とはいえ「まだまだ翻訳ツールには改善の余地があるため、言語ごとに人が集まっているのが現状。時間の経過とともに解決されるのではと期待している」とのこと。

電子工作が得意な人たちが、すでにさまざま操作を個人的にテストしているが、今後、それらのアイデアが製品化することも十分考えられる。

Metaをはじめとするテック企業が新しいビジネスのフィールドとして新サービスをスタートさせることも多いが、まだまだ始まったばかりの「メタバース」。今後、その体験を現実のものに近づける(もしくは現実では不可能なことを可能にする)新たなガジェットや新サービスが発表されていくだろう。

現在、私たちの周りに当たり前のように存在するインターネットと同様に、メタバースももっと身近なものになり生活の一部になる可能性は大きい。特にコロナ禍で人と人との距離感が変わった今、遠く離れていても目の前にいるかのように他人とコミュニケーションがとれるメタバースは加速度的に進化していくかもしれない。

そしてそれにともなって、そこで生きる、生活の糧を得る人も生まれてくる。インターネット黎明期、まずそこにアクセスしホームページで情報を公開したり得たりすることだけで興奮していたが、現在そこは、eコマースをはじめとしたビジネスの舞台にもなっている。メタバースでもまた同様のことが起こることが予想される。新しい世界は、また新しい可能性に満ちている。

JR秋葉原駅を再現した世界初のメタバース・ステーション「Virtual AKIBA World」が3月25日11時頃オープン

世界初のメタバース・ステーションとなる「Virtual AKIBA World」が3月25日にオープン、スマホから体験可能

「Virtual AKIBA World」外観(画像は開発中のもの)

VRイベント「バーチャルマーケット」など、VRサービスの開発ソリューションを提供するHIKKYは3月8日、業務提携を結んでいる東日本旅客鉄道(JR東日本)、ジェイアール東日本企画(jeki)とともにオリジナルのバーチャル空間「Virtual AKIBA World」(VAW。バーチャルアキバワールド)を発表した。開業日時は3月25日11時頃(メンテナンスは隔週木曜10時~15時)。利用料は無料。PC・スマートフォンで体験可能。

VAW(バウ)は、世界的なコンテンツ集積地である秋葉原駅とその周辺をバーチャル上に再現した、オリジナルの空間。改札を通過したり電車に乗ったり秋葉原駅周辺を歩いたりなどを体験できる。来訪者同士のコミュニケーションも楽しめるという。

またVAWは、HIKKYが独自開発した技術「Vket Cloud」により、アプリなどのダウンロードを行うことなく、URLリンクをクリックするだけでスマホから手軽にアクセスできる。JR東日本の強みである駅や車両というリアルの場から、QRコードなどを介してバーチャル空間にシームレスに遷移でき、リアルとバーチャルが融合したかのような感覚が得られるとしている。

JR秋葉原駅を再現した世界初のメタバース・ステーション「Virtual AKIBA World」が3月25日開業

バーチャル空間でのホーム、車両と広告イメージ。「共創」の第一歩として、NTTドコモとVAW内での連携を開始する。さらに、今後のXR領域の発展に向けた取り組みを推進

JR東日本との連携により、リアルの駅空間でXRの世界観を体験できるスペースを造成することも予定している。リアルとバーチャルの融合を加速させ、両方のユーザーの往来を活性化しクライアントにバーチャル上での広告展開と販売機会の提供を行っていく。例えば、リアル空間に出稿した駅広告がバーチャル空間ではよりダイナミックに表現されたり、バーチャル空間で購入した商品がリアル空間でシームレスに受け取れたりと、JR東日本だからこそ実現できる新しい日常の創造を目指す。

VAW開業時には、ほかにも以下のような様々な展開を予定している。

山手線31番目の駅「シン・秋葉原駅」

日本を代表する「ヒーロー」4作品によって構成された企画「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」(SJHU)とコラボレーションし、コラボ期間中はバーチャル秋葉原を「シン・秋葉原駅」と呼称。バーチャル空間上にVAWオリジナルデザインのグラフィックと各キャラクターが登場し、来場者を出迎える。

秋葉原駅(リアル)に、バーチャル空間への「ゲートウェイ」設置

秋葉原駅改札内の1F改札内イベントスペースに、「VAWゲートウェイ」を期間限定で設置。中央のLEDパネルにはVAWの期待感を高める動画が流れ、横に設置されたQRコードからVAWへアクセス可能となる。設置期間は3月25~31日。

利用者同士のコミュニケーションスペース 「オフ会ルーム」

VAWの機能として、入場者同士がコミュニケーションを取れる空間「オフ会ルーム」を実装する。仲間とルームを作成したり、オンラインの飲み会の代わりとしてVAWで集合したりと、リアルで集まっているかのような感覚が味わえる。

VAW内の機能拡充とともに、限定入場券をNFTで配布する計画も

VAWは、機能を拡充し、限定入場券をNFTで配布するほか、来訪者同士の交流の深度化やイベントの活性化を図るという。将来的にはバーチャル空間内でのお買い物体験や、購入した商品を駅で受け取れるなど、リアルのサービスとの連動によるこれまでにない体験の実現を目指すとしている。

画像クレジット:
©TTITk「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」コラボ VAWオリジナルキービジュアル

【コラム】メタバースで優先されるべき課題は「責任あるAI」

最近のBloomberg Intelligence(ブルームバーグ・インテリジェンス)の調査によると、メタバースには8000億ドル(約92兆円)の市場規模があるそうだ。実際にメタバースとは何なのか、ということについては、多くの人が議論しているところではあるが、これだけの金と好奇心に取り巻かれているものだから、誰もが話題にしたがるのも当然だろう。

メタバースではAIが、特に私たちが他者とコミュニケーションを取る際に、重要な役割を果たすことは間違いない。私たちはこれまで以上に他者とつながりを持つようになるだろうが、政府や規範、倫理規定に縛られないAIは、邪悪な影響をもたらす可能性がある。元Google(グーグル)CEOのEric Schmidt(エリック・シュミット)氏が最近問いかけたように「誰がルールを決めるのか?」ということだ。

AIの影響を理解する

AIアルゴリズムは、偏向のある人間によって作られるため、作成者の思考パターンや偏見に従うように作られることがあり、しかも、それが増殖していくことがある。AIが性差別を生み出す、例えば、女性よりも男性に大きなクレジットカードの限度額が与えられたり特定の民族がより不当な差別を受ける傾向にあることは、我々がこれまで見てきたとおりだ。より公平な、繁栄するメタバースを作るためには、偏向を生み出し、それを永続させるダークなAIのパターンに対処する必要がある。しかし、誰がそれを決定するのだろう? そして、人間はどうやって偏向を回避できるのだろうか?

この「野放しのAI」を緩和するための解決策は、すべての組織で倫理基準を策定することだ。私たちの見解では、ダークAIのパターンは侵略的になる可能性が高い。ほとんどのAIは倫理的な監視なしに開発されているが、メタバースではこれを変えなければならない。

AIをメタバースにおけるメッセージの翻訳に活用する

私は、1人の熱心な語学学習者として、また、AIと人間を使って人々をグローバルにつなぐ会社の創設者として、誰もが複数の言語を話すスーパーポリグロットになれるという可能性に胸を踊らせている。だが、さらに興味があるのは、そのAIがどのように機能するかを理解することだ。

メタバースでは、多くのユーザーが各々の言語でコミュニケーションすることになるだろうが、AIによる言語翻訳が利用できる可能性もある。しかし、AIを使った言語テクノロジーは、我々が注意しなければ、偏向を永続させてしまうおそれがある。その言語AIが、倫理的であるようにきちんと訓練されていることも、確認する必要がある。

例えば、ジョーのアバターがミゲルのアバターと話したがっているが、ジョーとミゲルは同じ言語を話さないという状況を想像してみよう。AIは彼らのメッセージをどのように翻訳するのだろうか? そのまま言葉を直訳するのだろうか? それとも、文字通りに訳すのではなく、メッセージを受け取った人が理解できるように、その人の意図に沿った翻訳をするのだろうか?

人間と機械の境界線を曖昧にする

メタバースでは、いかに私たちが「人間的」かということが重要になるだろう。企業は言語テクノロジーを使って、会話を異なる言語にすばやく翻訳することで、オンラインコミュニティ、信頼、インクルージョンの創出に役立つことができる。

しかし、私たちが選ぶ言葉に気をつけなければ、テクノロジーは偏見を生み、不作法な行動を許すことにもなりかねない。どのようにかって?あなたは3歳児がAlexa(アレクサ)に話しかけているのを聞いたことがあるだろうか?それはとても「感じが良い」とは言えない。人は、自分がやり取りしている相手が本物の人間ではなくテクノロジーであるとわかると、礼儀正しくする必要を感じなくなる。だから顧客は、チャットボットやAmazon(アマゾン)のAlexa、電話の自動応答などに対して失礼な態度を取るのだ。それはさらにエスカレートしてしまう可能性がある。理想とする世界は、言語のためのAIが、人間を正確に表現するために必要なニュアンスや共感を捉えるようになり、それによってメタバースが人間とテクノロジーがともに栄える場所となることだ。

メタバースの非人間的なAIは、ネガティブにもなりかねない。適切な言語は、リアルで感情的なつながりと理解を生み出すことができる。AIを活用した言語運用によって、適切なメッセージはブランドを人間的に感じさせるために役立つ。ブランドが瞬時に多言語でコミュニケーションできるようにするための技術は、極めて重要なものになるだろう。顧客の信頼は母国語によって築かれると、私たちは考えている。しかし、ボーダーレスでバーチャルな社会は、どうやって母国語を持つことができるだろうか? そして、そんな環境は、どうやって信頼を生み出すことができるのだろうか?

先述したとおり、メタバースは企業にとって、バーチャルな世界で露出を増やすことができる大きな可能性を秘めている。人々はすでにバーチャル・ファッションにかなりの大金を投じるようになっており、この傾向は間違いなく続くだろう。ブランドは、実際に会って交流するよりも本物らしい、あるいはそれ以上に魅力を感じられるような、オンライン体験を作り出す方法を見つける必要がある。これは越えるのが大変な高いハードルだ。スマートな言語コミュニケーションは、そのために欠かせないものとなるだろう。

メタバースが最終的にどのようなものになるかは、誰にもわからない。しかし、AIがある集団に他より過度な影響を与えたり、AIが自社製品の人間性を失わせた、なんてことで記憶される企業には誰もなりたくないはずだ。AIは良い意味でパターンを予測する能力がどんどん向上するだろう。しかし、野放しにしておくと、AIはメタバースにおける私たちの「生き方」に深刻な影響を与える可能性がある。だからこそ、責任あるAI、倫理的なAIのための倫理が必要なのだ。

AIが、言語やチャットボット、あるいはブランドの仮想現実に多用されていくと、それによって顧客が信頼や人間らしさの感情を失う機会も増えるのだ。私たちがメタバースで平和に「生きる」ことができるように、AIの研究者や専門家が企業と協力して、責任あるAIの枠組みに解決を見出すことが求められている。

編集部注:本稿を執筆者Vasco Pedro(ヴァスコ・ペドロ)氏はAIを利用して人間が編集を行う翻訳プラットフォーム「Unbabel(アンバベル)」のCEO。

画像クレジット:japatino / Getty Images

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(文:Vasco Pedro、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Meta、ハラスメント対策としてVR空間Horizon Worldsなどに「境界線」機能を追加

Metaは、バーチャルリアリティ空間「Horizon Worlds」と「Horizon Venues」でのハラスメント対策として「パーソナルバウンダリー(境界線)」という機能を展開する。各アバターには半径2フィート(約61cm)のバブルがあり、互いに4フィート(約122cm)前後まで近づくことができなくなる。

画像クレジット:Meta

もし誰かがあなたのパーソナルスペースに入ろうとしたら、近づきすぎた時点でその人の前進は止まる。しかし、MetaはThe Vergeに対して、アバターが互いの間を行き来することは可能であり、ユーザーが隅や出入り口に閉じ込められることはないだろうと語っっている。

このパーソナルバウンダリー機能は、ユーザーが無効にすることはできないもので、Metaがハラスメント対策として以前追加した、他の人のパーソナルペースに入るとアバターの手が消えるという機能をベースにしている。Metaが12月にHorizon Worldsを米国とカナダの18歳以上の全員に公開する直前、ベータテスターが自分のアバターが見知らぬ人に体を触られたと述べていた

いずれは、パーソナルバウンダリーの半径を変更できるようになるかもしれない。ユーザーは他のアバターとハイタッチや拳を突き合わせることはできますが、そのためには腕を伸ばす必要がある。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Meta

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(文:Kris Holt、翻訳:Katsuyuki Yasui)

【コラム】快適なメタバースの実現に欠かせないバーチャルライフの基本的構成要素

Meta(メタ)のミッションは、仕事、ソーシャルメディア、ゲームなどの異なる環境をシームレスに接続し、人々が仮想空間で実質的に生活して働くことができるようにすることだ。

これは明らかに、私たちのネットワークに重大かつ持続的な影響を与えるだろう。単に不具合なく絶えず接続されている必要があるというだけではなく、完全に没入型のコンテンツを4Kや8Kでシームレスに、低遅延かつ最小のラグでストリーミングすることが求められているのだ。

再起動、OSやアプリケーションのロード時間、ネットワークの混雑など、我々がシームレスな仮想環境にいると感じられなくなるような、あらゆる要素に気を散らされることなく、ある体験から別の体験へと移ることができなければならない。

これらを実現することを考えると、バーチャルライフとは火星に移住するのと同じくらい難しいことのように思える。

しかし、新しいバーチャルワールドへの旅を、摩擦のないものにすることは可能だ。そのためには、バーチャルライフに必要な基本的な構成要素を、確実に積み上げる必要がある。

今の私たちには、メタバースを快適に住める場所にして、バーチャルな自分たちが単に生存できるだけでなく繁栄できる場所にするチャンスがあるのだ。

帯域幅が重要

メタバースを大規模に展開するには、多くの帯域幅が必要だ。水が生命体の構成要素であるように、帯域幅なしに我々がメタバースで機能することはできない。メタバースでは、膨大な帯域幅をむさぼるアプリケーションのさまざまな要求に応えることができる高性能な接続性が必要だ。

そのような帯域幅が広く普及し、かつ手頃な価格で利用できなければならない。今のところ十分なサービスを受けていない、あるいは接続されていないコミュニティをサポートするためには、そのことが必要だ。仮想世界のビジョンは、誰もが平等に創造と探求の機会を得られることが中核として語られることが多い。しかし、メタバースでそれを実現するためには、まず現実の世界での接続性を確保する必要がある。

低遅延は空気のように必須

帯域幅は1つの重要な要件だが、相手のアバターが反応するまで数秒、あるいはそれ以上の時間がかかるようでは、メタライフは一気に苛立たしい不快な場所になってしまう。我々はすでに、スポーツのライブストリーミングやオンラインゲームで遅延にイライラすることがあるが、仮想世界に完全に没入しようとすると、この問題はさらに悪化する。

リアルタイムな反応が求められるネットワークでは、通信の遅延を減らし、信頼性を向上させるエッジコンピューティングのような技術がますます重要になってくるだろう。

仮想ハードウェア:メタバースのインフラストラクチャ

誰もが経験したことがあるはずだ。ハードウェアが壊れ、それを修理しなければならない。その間、我々はそのハードウェアによる機能がなくても、生き延びられるようになる必要がある。しかし、メタバースではこのようなことは起こり得ない。あるいは少なくとも、起こるべきではない。なぜなら、メタバースで必要とされる機能の多くは、仮想化された機能を利用するようになるべきだからだ。

インフラストラクチャ機能は、仮想マシンやコンテナコンセプトで展開し、アプリと同様、ネットワーク上で大規模かつリアルタイムに展開できるようにすることが鍵となるだろう。ルーティングやスイッチングといった従来のネットワーク機能は、完全に仮想化する必要がある。これらの機能は、簡単にアップデート、アップグレード、パッチ適用、デプロイできることが求められる。

ソフトウェア・インテリジェンス:メタバースの首長

私たちがメタバースで迅速かつシームレスに活動できるようにするためには、メタバースがソフトウェアで定義されていなければならない。それは、地方の自治体や議会が、道路の補修やゴミの撤去、交通の流れの制御をリアルタイムで行えるようにすることと同じだ。これらは一般的に、我々が知らないうちに現実の生活の中で行われていることで、それが機能しなくなってはじめて、何が起こったのかと思うような事々だ。

プログラム可能なソフトウェアの能力によって機能する自動化とAIは、ネットワークの展開を高速化し、よりアクセスしやすく、適応性の高いものにするための鍵を握る。

適応性の高い仮想プログラマブルネットワークは、物理的なトラックロールを必要とせず、障害を特定して自己回復することができる。また、計算能力、ストレージ、帯域幅などのリソースを、メタバース内の十分に活用されていないエリアから引き出して、一時的に他の部分の活動を活発化させたり、必要に応じて自動的に元に戻すこともできる。

今後数年間、私たちはメタバースについての話をたくさん耳にすることになるだろう。しかし、いかなるユースケースの革新も、必要なネットワークの革新なしには実現しない。ソフトウェアで制御された、大容量かつ低遅延の接続性を提供する適応型ネットワークは、将来のメタバースにとって、現在のクラウドアプリケーション以上に重要な基盤となるだろう。

かつてFacebookとして知られていたアーティストが、人を温かく迎えるメタバースを構築するための構成要素はすでに存在している。そして、メタバースの出現を利用しようとする技術開発者たちの中で期待される技術革新の高まりにより、このようなテクノロジーが進化し続けることで、Metaはますます多くの世界構築ツールを手に入れることになる。

つまり、 バーチャルユニバースを構築することは簡単ではないが、適切なネットワークインフラへの投資と技術革新によって、現実に近づけることは確かに可能なのだ。

編集部注:本稿を執筆者Steve Alexander(スティーブ・アレクサンダー)は、ネットワークシステムとソフトウェアを提供するCiena(シエナ)のSVP兼CTO。同社は世界中のオペレーターやコンテンツプロバイダーと提携している。

画像クレジット:NJankovic / Getty Images

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(文:Steve Alexander、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NVIDIAのバーチャルワールド構築プラットフォーム「Omniverse」がベータから正式版へ

Omniverseはクリエイターやデザイナー、エンジニアが共同作業でバーチャルワールドを作るためのNVIDIAのプラットフォームだ。NVIDIAや他社アプリのデザインツールやアセットを、ハードウェアとソフトウェアの1つのエコシステムにまとめる。これまでOmniverseとこれに対応するNVIDIAのさまざまなツールはベータ版だったが、米国時間1月4日のCESで同社はベータのラベルを外し、Omniverseはクリエイターに広く公開された。

NVIDIAによれば、すでに約10万人のクリエイターがOmniverseをダウンロードし、同日のアップデートでは新機能がこのプラットフォームに多数追加された。新機能の1つに大規模なOmniverseの3Dシーンを共有するサービスのOmniverse Nucleus Cloudがある。このサービスを利用すると、クラウドで共有されているドキュメントを扱うのと同じように、クリエイターとクライアントがシーン上で共同作業ができるようになる。わずかな変更のたびに大容量のデータを移動させる必要もない。

画像クレジット:NVIDIA

Omniverseの核心はUniversal Scene Descriptionフォーマットで、これによりさまざまな既存ツールからアセットを簡単に読み込める。しかし基本的な3Dのアセットを有料で利用したい場合もあるだろう。そのためNVIDIAは3Dのマーケットプレイスやライブラリにも新たに対応し、Omniverse LauncherにTurboSquid by Shutterstock、CGTrader、Sketchfab、Twinbruなどが表示される。今後、ReallusionのActorCore、Daz3D、e-on softwareのPlantCatalogもOmniverseで利用できるアセットを公開する。

画像クレジット:NVIDIA

Omniverseは無料のアセットとして、自社のOmniverse Machinimaアセットに、ゲームの「Shadow Warrior 3」と「Mount & Blade II:Bannerlord」のキャラクターやオブジェクトを新たに追加する。

キャラクターをしゃべらせたい場合にはAIを利用して3Dの顔を動かすアプリのOmniverse Audio2Faceがすでにあるが、このアプリが新たにBlend shapesに対応し、EpicのMetaHuman Creatorアプリに直接書き出すこともできるようになった。

画像クレジット:NVIDIA

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Kaori Koyama)

PubNubがメッセージ、プレゼンス、「仮想空間」の他リアルタイム機能のためのデータストリーム構築と実行に向け73億円調達

継続的なリアルタイムの情報更新をともなうデータストリームは、今日のアプリとサイトがどれくらい機能するかという点で重大な要素である。そのようなデータストリームを強化するプラットフォームを構築したPubNub(パブナブ)が、幅広いユースケースにつながる、その事業の強力な成長の裏で伸びる資金調達のラウンドについて発表している。サンフランシスコに拠点を置くこのスタートアップは、アプリや他のデジタル企業にメッセージとデータ更新を強化するAPIを提供している。今回、シリーズEで6500万ドル(約73億円)を調達し、そのプラットフォームにおける機能の継続的拡張と拠点拡大に使用する予定だ。その第1弾として、シンガポールにアジア太平洋オフィスが開設される。

PubNubは、その今日のメッセージ機能、プレゼンス機能、他のデータに基づくAPIが、70を超える国の6億台のデバイスで、月に21ペタバイトのデータを生成する90万件のデベロッパプロジェクトで使用されていると筆者に語った。その「何千もの」顧客にはAdobe(アドビ)、Atlassian(アトラシアン)、DocuSign(ドキュサイン)、RingCentral(リングセントラル)などが含まれる。広くいうと、ゲーミング、仮想イベント、エンタープライズコラボレーション、チャット、スライド共有/配信サービス、遠隔医療アプリケーション、コネクテッドフィットネス、スマートホーム製品などのバーティカルにおいて魅力を増している。この幅広い分野は、データストリームが定期的に更新される「仮想空間」の概念に依存している。配信の進み具合、いくつの手順が必要だったか、どれくらいエネルギーを使ったか、誰がオンライン会議に参加しチャットしているか。それらがユーザーエクスペリエンスの核となる部分である。

「顧客がPubNubを利用して行っていることが爆発的に増えています」。と、PubNubのCEOで共同設立者であるTodd Greene(トッド・グリーン)氏はインタビューで述べた。「PubNub創設時から、『仮想空間を強化するために必要なソフトウェアは何か』をビジョンとしていました。当初それはメッセージ機能でしたが、時間が経つと、コミュニケーションだけでは不十分であることが顧客を見ていて分かりました」。

資金調達はRaine Group(レイングループ)が主導し、Sapphire Ventures(サファイアベンチャーズ)、Scale Ventures(スケールベンチャーズ)、HPE、Bosch(ボッシュ)も参加している。PubNubはその企業価値評価を明らかにしていないが、ある文脈では調達額は1億3000万ドル(約147億円)以上におよび、PitchBook(ピッチブック)によると2019年の最終エクイティラウンドでは2億2000万ドル(約248億円)と推定された。

グリーン氏に、このサンフランシスコを拠点とするスタートアップの企業価値評価が現在それより「はるかに高い」ことを確認したが、PubNubの成長を数値化することは難しい。月間のデータ取扱量を公開しておらず、メッセージ数が2019年に1兆3000億通に上ったことのみを公開したからである。今回はこの数値を更新していない。顧客予約は2021年に前年比で200%増加した。

PubNubは陰でせっせと働いている。同社のAPIを使用中に「powered by PubNub」メッセージを画面で見ることはないだろう。しかしすべてのデジタルサービスが運用されるうえで中心的で重要になった部分でも機能している。

デジタル体験でより多くの日常生活の側面が行われ、あるいは場合によってはそれに依存しているが、だからこそデジタル体験自体が大きく発展してきた。アプリ、サイト、コネクテッドサービスにはこれまでより多くの機能、データ、ユーザーエクスペリエンスが組み込まれているため、私達は結果的にそれをさらに使用(依存)するのである。当然、そのすべてが機能するような基盤は事業成長を遂げ、それに対する投資家の関心が高まっている。

それに加えて「メタバース」は最近の概念として間違いなく誇大宣伝されている。それがPubNubと同様に仮想空間を強化する企業を後押しするかもしれない。しかしより大局的な見地はもう少し落ち着いたもので、これらのサービスがいかに進化し、すでに運用されているかということである。

その文脈で日の目を見たのはPubNubだけではない。Twilio(トゥイリオ)、 SendBird(センドバード)、MessageBird(メッセージバード)、Sinch(シンチ)もサードパーティアプリ、サイト、他のデジタル企業により使用されるAPIに基づくメッセージ機能と他のコミュニケーションサービスを提供している。PubNubともっと直接的に競争しているのは、どのリアルタイムサービスでも推進する、何らかのデータ更新、メッセージ機能その他を構築するAPI基盤のルートを提供する、ロンドンのAbly (エイブリー)、Techstarsが考え出したCometchat(コメットチャット)、Google(グーグル)のFirebase(ファイアーベース)などがある。

より広い意味で、PubNubのセールスポイントは世界中のPOPへのその地理的範囲であり、HIPAA、GDPR、SOC 2 Type 2などのさまざまな地域のデータ保護規則に準拠していること、そしてネイティブに、また他のサービスとの統合により機能を追加しているということであり、そのすべてによりデベロッパが一元化されたダッシュボードを通して制御および監視することができる。それは現在、アプリ内チャット、位置情報取得、仮想イベント、プッシュ通知、IoTサービスなどのサービスに対応している。

現在のデジタル文化において通知を減らすことへの移行は、すべてPubNubのような存在にとって困難な風潮の証明だと思うかもしれない。結局、情報オーバーロードはもはや議論の対象となる話題でも、あなたのデータを垂れ流したり使用中か否かを問わず常時あなたを見張っているアプリの概念でもない。どれほどこれらの問題にうまく対処しても、全体的な効果が悪くても良くても、やはりそうなのかもしれない。しかしグリーン氏は、それは当てはまらないという。

「ただメッセージを送り、プッシュ通知機能しかなかった時も、メッセージの99%がアプリ内で行われていました。クルマを注文し画面上で動くのを見ていると、効果的に多くのメッセージ(データプッシュ)がそれを知らせに来るのです。Apple(アップル)やGoogle(グーグル)などの企業はそれをブロックしていないため、通知をともなう移行は私達にまったく影響しませんでした」。彼は付け加えた。「良い方に影響を与えました。過去のアプリではプッシュ通知で何かが起きたことを知らせていました。現在は、(デフォルトで)それを観察していないため、アプリ内の体験に重点を置くことがより重要になっています」。

主要な投資企業のレイングループは、成長するこのスタートアップの興味深い支持者である。同社は単なる実り多い投資企業ではない。それが助言を行う膨大な顧客リストの中でも、アップル、Tencent(テンセント)、ByteDance(バイトダンス)、Warner Music(ワーナーミュージック)、SoftBank(ソフトバンク)、Uber(ウーバー)他多数のM&A取引に関与してきた。これによりPubNubは事業開発にそのネットワークを活用し、より多くの顧客を獲得するための道を開く。

「PubNubと連携し、デベロッパーの時間とエンジニアリングのリソースの誓約によりソフトウェアソリューションとAPIへの需要が増している世界で、リアルタイムのデジタルおよびソーシャル体験の未来を強化することが楽しみです」。レイングループのマネージングディレクター、Christopher Donini(クリストファー・ドニーニ)氏は声明で述べた。「PubNubの主要なソリューションは、簡単に実装できる信頼性、セキュリティ、低レイテンシーを提供します。私達はこれが、レイングループの技術、メディア、遠隔通信が交差する所に広く蔓延した問題を解決すると信じています」。ドニーニ氏とマネージングパートナーのKevin Linker(ケヴィン・リンカー)氏はこのラウンドでPubNubの取締役会に参加している。

画像クレジット:matejmo / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

NFTとファッションを融合させたRTFKT、人はメタバースで何を大事にするのか

12月2日から3日にかけてオンラインで開催されたスタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2021」。2日目午後2時50分から3時25分にかけて行われた「NFT & メタバース」のセッションでは、RTFKT(アーティファクト)共同創業者Benoit Pagotto(ブノワ・パゴット)氏が登壇し、最近話題のメタバースという世界を生きる中で、NFTという技術をどのようにファッションと融合させることに成功したのかついて解説した。モデレーターはOff Topicを運営する宮武徹郎氏だ。

また、RTFKTはイベント後の米国時間12月14日、Nikeに買収されている。

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デジタルとファッションの融合を実現したRTFKT誕生の経緯

RTFKTの共同創業者であるブノワ氏の経歴は興味深い。起業前は、欧州のeスポーツチーム「Fnatic」のブランディング、およびマーケティングの責任者として働き、それ以外にもDior、パリの高級コレクトショップcoletteなどのブランド戦略をも手がけてきた。好きなものは、アニメとゲーム、日本のサブカルチャーなど。

さまざまな要素が彼の中に混在し、RTFKTは、その発露ともいえるようなスタートアップ企業だといえる。

RTFKTが生まれたのは、ブノワ氏がZaptioことSteven Vasiley(スティーブン・ヴァジリー)氏、Chris Le(クリス・リー)氏とeスポーツ内で出会ったことがきっかけだ。

「学校にいるよりもゲーム内にいることの多いような人にとって、自己表現を行うには、どのようなスキン(ゲーム内で使うアバターの見た目)を持っているかが重要だ」とブノワ氏。「そこで、多くの人気スキンを作っていたクリスに連絡を取り、チームのためにゲーム『CS:GO』用のスキン制作を依頼したのが始まりだった」。

「当時、ストリート文化ではスニーカーが流行しつつあった。クリスはCS:GOのスキンに、実在ブランドのスニーカーを取り入れていた。ファッションとゲーム文化の融合。とても良いと感じた」(ブノワ氏)

その後、「フォートナイト」に登場するレイブンのスキンにアディダスのスニーカーYeezy 700を組み合わせた絵を、チームのInstagramに投稿したところ、かつてないほどの反響を得る。

「実在するブランドとゲームという異なる文化を融合させることで、個性的なものになる、と確信した」(ブノワ氏)

ブノワ氏のチームは、2018年に欧州チームとして数年ぶりに決勝進出を決めた。そして、決勝という晴れ舞台に立つ選手用に、赤いカスタムスニーカーを準備。残念ながら、優勝は逃したが「靴もかなり注目を集めた」とブノワ氏。「そこで、記念エディションとして翌年1月に、スニーカーと限定パーカーを製作。在籍企業がゲームスキン用NFT制作を始めていたので、それも同梱した。その初めての試みを通じ、僕たち3人はどんどん仲良くなっていった」。

やがて、3人の経験を持ち寄れば、誰にも真似できないブランドを作れるのではないかと思ったブノワ氏は、RTFKTの構想を立て、コンテンツを制作。Instagramに投稿したところ、好評だったため、事業化を計画する。

「それまで、ゲームと暗号技術をつなぐ真のブランドは存在していなかった。アニメ、ゲーム、レトロファッション、そしてNFT。情熱を注いだそれらを融合させ、未来のブランド像を示したかった。そして、ゲームに関連したファッションやキャラ、考え方をメタバースの中で広めていきたかった。それも非独占的に。それが創業に際しての理念だ」(ブノワ氏)

そして、それまでの仕事を辞め、2020年1月にRTFKTを立ち上げたのだ。

デジタル所有物は環境負荷を軽減する

そして2年目。ブノワ氏は、この1年を「自分たちほどたくさんの仕事をしたブランドはない」と豪語する。

2021年1月にはPCゲーマー向けにPCパーツやゲーミング周辺機器を開発・販売しているNZNXとバーチャルまたリアルでスニーカーを作るパートナーシップを締結した。それに先がけて紹介したゲームスニーカーの動画が反響を呼んだのはいうまでもない。

また、スニーカー界のレジェンドとも呼ばれ、ストリート系ブランドSTAPLEの生みの親であるジェフ・ステイプル氏とのコラボも実現した。

「個人的に気に入っているのは、PUNKS PROJECTだ」とブノワ氏はいう。「1万足の、それぞれユニークな(他とは異なる)スニーカーをCrypto Punksとともに作った」と振り返る。それぞれを異なるものにしたのは、以前にいた業界で目にしたことが関係している。

「高級ファッション業界で見てきたのは、大金をかけて没個性的になってしまっている人々だった。ヴィトンの鞄は高くても、世界中にゴマンとあるでしょう?」と問いかけた。

「1万足の完成品は、どれもクールで個性的。(Crypto)Punksの感性にマッチしたものだった」とブノワ氏。「送付方法は、TwitterのDMで。1対1ということもあり、毎晩2時まで作業していた」と振り返る。

「彼らと面識はないが、特別な一体感を感じた。これは前例のない功績だろう。とても誇らしく感じる」(ブノワ氏)

すべてのスニーカーは、当然NFTの技術を使っている。そのため、それぞれが一点物であり、デジタルであってもコピーできない。リアルなスニーカーと同じく、ユーザーはそれを「所有」している。

ブノワ氏は「デジタル物の所有はとても大切だ」という。「ゲームでスキンやキャラに大金を注ぎ込んでも、ゲーム機の世代が代わったり、ゲームそのものが終わってしまったり、アカウントが何らかの理由で停止させられてしまったりすれば、すべてが水の泡。ゲームの外に持ち出せなかった」と解説。

「しかし、NFTであれば、自分で所有できるため好きなときに交換できる。NFTに出会ったとき、真っ先にゲームでの活用を考えたのは、デジタル物を所有できる技術だと感じたからだ」(ブノワ氏)

人は、リアル世界でモノを所有することを重視するが「現実よりも仮想空間で長く時を過ごすようになれば、仮想空間でデジタル化されたものを持ちたいと思うようになるでしょう」とブノワ氏。「仮想生活が、現実以上に重要になりえる」という。

そして、仮想空間での生活の重みが増すことにより、フィジカルなモノよりデジタル化された所有物が増え、それは環境負荷を軽減させるものになると考えている。

さらに「メタバースでは人が区別されることのない世界。そこでの生活の創造性をグッと高めたいし、新興ブランドとしてその先鞭をつけるのが重要だと考えている」と語った。

「ファッション企業では、販売ありきで創造を行う。その流れを逆転させたい。たとえ無名でも、たとえ非常に若くても、斬新なものづくりをしている優れたクリエイターを起用していきたい。そして、利益を分かち合っていきたい。創造行為と権力の関係を変えていきたい」(ブノワ氏)

習うより使って学ぼう

11月に予約販売が始まった「Clone X NFT」についての話も行われた。Clone X NFTは、身につけるものではなく、アバターそのものを2万体制作するというプロジェクトだ。

思いついたのは、Crypto Punksとのコラボを発表したときだとブノワ氏はいう。「ファッションブランドには、あれが究極のプロジェクトだったが、キャラクターを作れば世界が変わる。ブランドがキャラクターを作れば、その特定ブランドから継続的に購入するようになり、ブランドの存在感に変化が生じるようになる」という計算だ。

人型の3D制作にはDaz 3Dを、アバターのデザインには「好きな要素を全部詰め込み」アニメの要素を組み込んだ。

ファッションコレクションも同時進行で制作していった。「150点ほど作ったので、コーディネートすることもできる」とブノワ氏。「デジタルで制作したそれらのファッションを、現実世界でも身につけたいと考える人が出ることだろう」。まさに、バーチャルとリアルの融合だ。

ブノワ氏は、これを「ファッションブランドの新時代の始まり。ブランドの礎、エコシステムの始まり」と位置づける。

なお、村上隆氏がClone X NFTにコラボするようになったいきさつについては、そもそも日本が好きで、日本のアニメ、ゲームなど日本文化を「世界一すばらしい」と感じている3人が、ファンである村上氏から、Instagramアカウントをフォローされたことに端を発しているとのこと。

「すぐにDMを送り、コラボを意識して連絡を交わした。そして、このプロジェクトが実現した」(ブノワ氏)

「NFTは新しい技術。使っているとクールに見えるため、『NFTって何?』と尋ねられることも多い。でも、僕は言いたい。知りたいのなら、使ってみようよ、と。それが最大の学びになる。NFTでデジタル物を所有するとはどういうことなのか。利益のこととは関係なく、ぜひとも(Clone X NFTの)アバターを使ってみて欲しい」とブノワ氏はいう。

MetaのVRマルチプレイヤーワールド「Horizon Worlds」が米国・カナダで18歳以上向けに一般配信開始

かつてFacebook(フェイスブック)と呼ばれた企業が、我々をメタバースへと導くという同社の目標に向けて一歩を踏み出した。Second Life(セカンドライフ)またはMinecraft(マインクラフト)のMeta(メタ)VRアプリ版のようなものであるHorizon Worlds(ホライズン・ワールド)が、招待制ベータから拡大し、米国とカナダの18歳以上のすべてのユーザーに開放された。これは、2019年に最初に発表された同アプリにとって大きなマイルストーンだ。

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この無料アプリは、ソーシャル要素のある仮想世界を構築するプレイグラウンドだ。アプリに入ると(初めての場合は短いチュートリアルの後)、プレイ(ゲーム)、アテンド(イベント)、ハングアウトの3つの選択肢が表示される。Meta自身が作ったエクスペリエンスに加えて、誰でも作れるコミュニティ生成スペースを探索することもできる。2021年10月に同社は、これらのVR体験を構築するクリエイターに1000万ドル(約11億3500万円)の資金提供を発表し、ユーザーが新しいゲームやハングアウトを作るインセンティブを与えた。

画像クレジット:Meta

これらの仮想空間に入る前に、同プラットフォームは、あなたが交流する相手は誰もが実在の人物であることを忘れないようにしてください、と通知する。

左手首を見てアクセスするプライマリーメニューには、セーフティボタンがあり、これを押すとすぐに「セーフゾーン」と呼ばれるプライベートルームに移動し、そこで休憩したり、ユーザーをブロックしたり、ミュートしたり、問題人物を報告することなどができる。

ユーザーが最初に遭遇するであろうハングアウト空間のひとつが、Metaが作ったPlaza(プラザ)というスペースだ。我々の足のないアバターは、知らない人と一緒に紙飛行機を投げたり、コミュニティのモデレーターと話したりした。モデレーターは、初めての人とおしゃべりしたり、操作方法を説明したりしてくれる(直感的に操作はできるが、慣れるまでには数分かかる)。近未来的な風景を眺めながら、周りの人たちがアバターの服装についてメタバース的な世間話をしているのを聞くのは、奇妙で楽しい体験だった。

しかし、ユーザー生成スペースでは、何か問題が起きたときに介入できる人間のモデレーターが常に存在するわけではない。Horizon WorldsのすべてのスペースにMetaの担当者がいることを期待するのは現実的ではないし、もし実際にいたら少し不気味に感じるかもしれない。だがメタバースは、人々のオンラインでの安全を守るための新たな課題を引き起こすことになりそうだ。

画像クレジット:Meta

Metaは、Facebookからヘイトスピーチや暴力的な画像を削除するのに苦労しており、同社のアプリであるInstagram(インスタグラム)が、10代の若者にとって精神衛生上危険であることを示す内部文書が流出した影響で動揺している。さらに米国時間12月8日には、Instagramの責任者であるAdam Mosseri(アダム・モセリ)氏が、子どもと10代の若者のオンラインの安全性について議会で証言したばかりだ。しかし、メタバースの世界では、より没入感のあるオーディオビジュアル体験ができるため、さらなる課題がある。Clubhouse(クラブハウス)はライブオーディオルームのモデレートに苦労しており、Twitter(ツイッター)でも最近はSpaces上の有害なコンテンツが問題になっている。Twitchストリーマーも「ヘイトレイド」と呼ばれる荒らし行為に悩まされている。

ユーザーエクスペリエンスの面では、Horizon Worldsは、Metaの没入型イベントプラットフォームであるHorizon Venuesよりも大幅にステップアップしている(Worldsがベータ版からグローバルにアクセスできるようになれば、Venuesは廃止されるかもしれない)。

現在、Venuesを使用すると、映画館の廊下のようなブロック状の入口エリアにドロップされる。いくつかの部屋が用意されていて、ピクセル化されたBillie Eilis(ビリー・アイリッシュ)の録画コンサートをループで見られるなどの機能がある。Worldsはすでに、Venuesよりも魅力的で期待できそうに感じる。しかし、これから何百万人ものユーザーがHorizon Worldsに参加していくにつれ、Metaは、ソーシャルプラットフォームを安全に維持する能力があることを証明する必要がある。

Horizon Worldsを実行するには、Quest 2デバイスに無料アプリをダウンロードする必要がある。2022年1月13日以降、Quest 1ではサポートされなくなる。

画像クレジット:Meta

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】新たなハイブリッド生活、私たちと共存するハードウェアにできること

社会におけるさまざまな場面でハイブリッドモデルが登場しているが、それらは驚くほどの柔軟性がある一方で、仕事とプライベートの境界線はますます曖昧になり、私たちが精神的に疲弊をしていることは明らかだ。

儀式というのは、常に私たちの精神的、感情的な状態を形作る強力な力を持っている。例えば、人の集まり、物理的なトーテム、衣装や空間デザインなどはすべて、その経験を生み出すために機能する。しかし、ハイブリッドで働く人々にとっては、これまで慣れ親しんできた儀式の多くがもはや手の届かないものになっているのだ。彼らの日々の仕事には、人と集まることも、場所の変更も必要なく、服装もほとんど(あったとしても)変える必要がない。

1日に7時間以上も画面を見ている若者は、うつ病や不安症にかかりやすく、仕事をこなすのが難しいという研究結果が出ているにもかかわらず、私たちはハイブリッドなバーチャル体験を増やし続けている。さらに、従業員たちは、複数のタイムゾーンにまたがって行われる会議の連続で、毎日が果てしなく続くような感覚に陥り、疲労や倦怠感を訴えている。

現在、多くの人々が仕事や学校、買い物、銀行、医療など、あらゆる場面でコンピューターデバイスに依存していることを考えると、私たちは、ハイブリッドな仮想世界での新たな儀式に備えて、これらのデバイスをどのように設計・開発しているかを、より注意して見ていかなければならない。

今日「コンピュータデバイス」とは、従来のデスクトップ型ワークステーションから超ポータブルな携帯電話まで、あらゆるシナリオを想定している。しかし、これらのデバイスのデザインが、ユーザーの仕事とプライベートの境界を明確にするのに役立つとしたらどうだろう?

例えば、画面の前にキーボードがあるデバイスは「生産性の高いツール」という印象を与えるが、タッチ式のタブレット端末では、よりカジュアルでエンターテインメントに特化した印象を与える。もし、リモートワーカーがこの2つの様式を切り替えることで「仕事」から「プライベート」への切り替えを知らせることができたらどうだろう。

また、最近注目されているのが、ビデオチャットや会議ツールだ。私たちの多くにとって、人との交流の大半は、ビデオ会議アプリを使ったバーチャルミーティングで行われている。HDウェブカムやリング型ライトの需要は高く、バーチャルな背景やエフェクトの数は日々増加している。

ただ、ハードウェアの設計に大きく依存していることもあり、ビデオ会議の体験にはまだ多くの課題や制限がある。Zoom、Google Hangouts、Teamsなどのツールは、最新のアップグレードに対応しようと競い合っているが、統合された照明源、改良されたオーディオ、さらには触覚フィードバックなどのハードウェア上のハードルに取り組まなければ、ソフトウェアができるのはここまでだ。

しかし、対面からバーチャルへのパラダイムシフトを受け入れることができれば、ユーザーが同僚と直接目を合わせているように見せるために、ディスプレイ内埋め込み型の1ピクセル以下のカメラレンズのようなハードウェアのアップグレードによって、未来の日常に向けたデザインができるようになる。他にも、温度や触覚の技術を応用することで、仮想空間を介してお互いのつながりをより深く感じることもできるだろう。また、没入型の体験が進化していく中で、嗅覚の技術を追求することで、新たな可能性が生まれるかもしれない。

しかし、このようなハードウェアの進化は、実際に生産や消費の面ではどのようなものになるだろう?テクノロジーの便利さには目を見張るものがあるが、その一方で地球への負担も大きい。

消費者は地球を酷使する存在になってしまったのだろうか?

自分が大切にしているものを考えてみると、それらに共通しているのは、どれも古くて希少なものだということだ。もちろん、これは貴重なものに共通することだが、この価値観をハイテク製品にも適用できないだろうか。私はiPhoneを1〜2年ごとに交換しているが、Ducati(ドゥカティ)のバイクはパーツを少しずつアップグレードしていくことに大きな喜びを感じている。新品に交換するために捨てようとは決して思わない。

サステイナブルなソリューションを求める消費者が増えれば、ハードウェアメーカーはサービスを調整しなければならない。Apple(アップル)のような強力なブランドは、環境再生活動の強力なリーダーとなり得るだろう。デスクトップPCを自作することは(特にハードコアゲーマーにとっては)目新しいことではないが、すべてのポータブル機器がアップグレード可能なモジュール式になった未来を想像してみて欲しい。50年後、2025年に購入したスマートフォンが、いまだに機能していて価値の高いビンテージ品になっていたとしたらどうだろう?

私たちの新しい日常の現実は、デバイスの多さが解消されない一方で、ソフトウェアの開発が飛躍的に進んでいることだ。そろそろ私たちは、自分のデバイスを、クルマや家と同じように、最新の進歩に合わせて修理したり、改造したりして、大切にしていく対象として考えていかなければならない。

編集部注:執筆者Francois Nguyen(フランソワ・グエン)氏はfrogのプロダクトデザインのエグゼクティブデザインディレクター。

画像クレジット:Peter Cade / Getty Images

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(文:Francois Nguyen、翻訳:Akihito Mizukoshi)

プレイも開発も、Manticoreのゲーム制作プラットフォームCoreは「メタバースの入り口」

自称「終わりなきアーケード」のCoreは、90年代のサイバーパンク熱の夢が現実のものとなったようだ。プレイ可能なゲームライブラリでもあり、ノーコードのゲームクリエイターでもある。すべてがネオンライト。この新しいプラットフォームは、誰もが最近話題にしていそうなこのメタバースのビジョンを驚くほど巧みに具現化している。

「マルチバースへのポータル」と謳うCoreは、長年の命題をテストする準備が整っている。構築すれば実現に向かう。RobloxやFacebookのような巨大企業は大規模なプラットフォームを確立しているかもしれないが、Coreはクリエイターにとってもプレイヤーにとっても非常に魅力的な基盤を築いている。

ログインすると、プレイヤーはコアの中心的なハブに移動する。そこはテーマパーク、ハイテクモール、カジノがちょうどよく交差した場所で、エンターテインメントやショッピングは重力の影響を受けずにあらゆる方向に広がっている。巨大なネオンサインに誘導され、プレイヤーは多種多様なユーザー生成バーチャルワールドに飛び込んでいく。服やゲーム内のギアを交換したり、友人を誘って自分と一緒に参加させたりするのも、ほんの数回クリックするだけで実行できる。

Coreが「Fortnite」(フォートナイト)によく似ているとしても、それは偶然ではない。Manticore Games(マンティコア・ゲームズ)が作ったCoreは、FortniteのメーカーであるEpic(エピック)のUnreal Engine(アンリアル・エンジン)で動く。Epicは2019年に同社への1500万ドル(約17億円)の投資ラウンドを主導しており、同プラットフォームはPC向けのEpic Games Store(エピック・ゲームズ・ストア)を通じてのみ提供されている。Manticoreは2021年3月、大手投資家からさらに1億ドル(約114億円)を調達し、クリエイタープラットフォームを公開した。

画像クレジット:Manticore Games

Coreはまだ誰もが知っている名前ではないかもしれないが、メタバースを熱望する人なら克服しなければならない課題の1つをすでに解決している。Coreでプレイしていたとき、ある場所から別の場所への移動の体験があまりにもシームレスで、間違った場所に迷い込んでしまったことがよくあった。これはユーザーのミスだろうと思うが、Deadmau5(デッドマウス)のショーや、肥大化したディストピアの荒れ地、アイソメトリックな海賊ゲームなど、さまざまなポータルを経由して瞬時に移動することは、こうしたゲームに10年以上携わってきた中で、最もシームレスなオンラインマルチプレイヤー体験といえるものだった。

Coreはすばらしい。メタバースのビジョン構築で最も成功した企業の1つRoblox(ロブロックス)に対して際立つ攻撃力を示している。Fortniteと同様、Coreのグラフィックは非現実的ながら、あまりにも非現実的というものでもない。Robloxの13歳以下の層は年齢を重ねている。この層はRobloxが意欲的に構想を練っているファクターだ。そしてそれほど若くないプレイヤーたちは遠からず、より成熟した雰囲気のある新しいバーチャルハウスを探すようになるかもしれない。

野心的なedgelord(背伸びをした思春期の若者のような意味のスラング)なら、Coreの豊富なカスタム衣装やアバターのセレクションに自分が真剣になるような要素を見出すだろう。あるいは子猫になるかもしれない。

画像クレジット:Manticore Games

Deadmau5、メタバースの住人

Coreのコンテンツのほとんどは、UGC、つまりユーザー生成コンテンツである。これは時代を定義するオンライン現象を象徴している、やや新しい呼称だ(頭字語から総合格闘技を連想しても自分を責めないで欲しい)。しかしManticoreには、ミュージシャンやブランドと提携し、テーマを絞ったゲーム内体験を提供する余地も十分にある。

DJとEDMのフェスティバルの常連であるDeadmau 5は先に「メタバースの恒久的居住地」として描かれた広大でカラフルな一連の体験をローンチした。Coreはその大部分がユーザー作成のゲームで構成されているが、エンターテインメントや教育にも適している。一部のユーザーはゲーム開発の講座をホストし始めたと同社のチームは指摘する。

RobloxのLil Nas X(リル・ナズ・X)やFortniteのAriana Grande(アリアナ・グランデ)のような他のバーチャルワールドの最近のショーとは異なり、Deadmau 5をテーマにしたコンテンツはデビューした後もライブのままで、探索の可用性を広げている。Manticoreのチームはこれを、コメディグループPenn and Teller(ペン&テラー)のようなパフォーマーがラスベガスで進行中のショーのためにキャンプする様子になぞらえている。しかしラスベガスと違って、パフォーマーは同時に2つの場所に滞在できる。Deadmau 5は2021年10月半ば、Ethereum(イーサリアム)ベースのバーチャルプラットフォームDecentraland(ディセントラランド)で開催される音楽フェスティバルに参加することを発表した。

筆者は早めの内覧として、Deadmau 5ことJoel Zimmerman(ジョエル・ジマーマン)氏と一緒にこのショーを鑑賞した。同氏は自身のトレードマークである巨大な動物のヘルメット(ネコだろうか?)とサイボーグの天使の翼を身にまとい、一方筆者はメタバースの小さな黒いドレスともいえる地味な黒のパーカーを選んだ。

ジマーマン氏は、Deadmau 5マウスが飾られたゲーミングチェアに座って現実世界でくつろぎながら、Coreの中をあちこち飛び回り、筆者にこう語った。「私がこれに惹かれたのは、すべてがモジュール化されていて、クリエイターたちにより多くのツールを提供しているからだと考えています」。

画像クレジット:Manticore Games

バーチャルコンサートに期待されるように、このインタラクティブなパフォーマンスには、溶けるようなサイケデリック感のあるビジュアル、ミニゲーム、ターンテーブルの耳がついた威嚇的なChain Chump(ワンワン)風マウスなどがそろっている。ジマーマン氏、そしてCoreの共同創業者であるFrederic Descamps(フレデリック・デスキャンプス)氏とJordan Maynard(ジョーダン・メイナード)氏も、筆者と一緒にこのショーを少なくとも10回は回ったが、全員が本当に楽しんでいるようだった。

ある時、筆者は溶岩に落ちたか、巨大な金属の拳の一撃を受けてコンベヤーベルトにぶつかってしまったようで、近くにはDeadmau 5をテーマにした悪役がそびえ立っていた。「死ぬことを疑似体験できる唯一のインタラクティブコンサートになると思います」とメイナード氏。このショーは、視覚的にも楽しく、創造的にもインタラクティブで、最終的にはFortniteのコンサートのようなものになっていた。

Oberhasli(オーバーハスリ)と呼ばれるこの精巧なバーチャル体験は、薄気味悪いジャングルの廃墟から、浮遊する宇宙ゴミでいっぱいの不気味な世界まで、ゲーム開発の経験のないファンたちによるユニークな世界も見せてくれる。Core Deadmau 5のパフォーマンスは10月中旬に行われ、現在はオンデマンドで、EDMをバックにたくさんの要素が詰め込まれた世界に浸りたい人たちに向けて配信される。

画像クレジット:Manticore Games

クリエイターのためのCore

後にDiscord(ディスコード)で行われた電話会議の場では、Coreツアーはあらゆる人に寄り添う形で展開されており、破壊可能な壁の裏の秘密の門を走り抜けたり、ゲームのジャンルを超えて世界を飛び回るような体験が、コードやゲーム開発経験を必要としない、驚くほど洗練されたものに仕上がっていた。Wi-Fi接続が悪かったとしても、ゲームの世界から別の世界へと移動するのにほんの数秒しかかからない。World of Warcraft(ワールド・オブ・ウォークラフト)の暗いポータルのようなものを通り抜けて、最後にはアイソメトリックな海賊船で航海に出た。

このWoW(World of Warcraft)に向けた賛同は、おそらく偶然ではないのだろう。デスキャンプス氏は、真剣な長年のプレイヤーにしかできないような、キャプチャされたゲームプレイで構築されている物語風のムービー、WoWマシニマの全盛期への郷愁に満ちていた。デスキャンプス氏とメイナード氏は以前、10年以上にわたって忠実に支持されているファンタジーMMOのRift(リフト)にも関わっていた。(メイナード氏は7人目の従業員だった。)最近では誰もがそのメタバースを称賛しているが、驚くべきことに、この分野において、何年も前から人々を結びつけてきたシームレスなバーチャルゲームの世界にルーツを持つ企業はほとんどない。

画像クレジット:Manticore Games

Coreで何かを作ることがいかに簡単かを強調すべく、メイナード氏は、私たちがプレイできる1人称視点のシューティングゲームを手早く作成した。それはドラッグ・アンド・ドロップのプロセスで、Coreのシステムを使って作られたオリジナルのゲーム内アセットの膨大なライブラリに、おそらく2分ほど入り込むだけだった。いくつかの3Dオブジェクトが用意されており、テンプレート(バトルロワイヤル、レース、ダンジョンクローラーなど)からゲームモードを選ぶと、Coreのモジュール式サンドボックスに組み込まれている洗練されたプレイ可能なゲームにほぼたどり着く。冷たい雪景色や不毛な砂漠の中でのゲーム設定も、ドラッグ・アンド・ドロップと同じくらいシンプルな操作で、環境に広がりを与えてくれる。

ゲームプレイはさておき、Robloxで目にするUGCよりCoreゲームの方が何光年も先を行っているように見えるが、プラットフォームのユーザーはそのことを特に気に留めていないようだ。ビジュアルスタイルやゲームのジャンルの広さも、他のプラットフォーム上の同じようなUGCから抜け出してきた人たちにとっては驚きに値するだろう。

コンテンツを作成するコアユーザーには、Manticoreが「perks」と呼ぶ収益化のオプションがかなり充実している。これには、ゲーム内のコスメティックアイテムの提供だけでなく、プレミアムゲームへの課金、Fortniteのようなバトルパスの販売、サブスクリプションモデルの導入などが含まれている。収益の配分は50対50で、Robloxがクリエイターに渡す25%と比べると寛大だ。また、Coreでは他のモジュール式ゲーム制作プラットフォームと同様に、誰もがクリエイターであり、開発経験は必要ではない

現在のところCoreはPC限定だが、Manticoreは2022年からiOSを含む他のプラットフォームにも展開する予定だ。ゲーム制作はPCに限定されるだろうが、同社は誰もがどこでもCoreのゲームをプレイできるようにしたいと考えている。プラットフォームにとらわれないビジョンは、初期のFortniteや最近のRobloxを確実に後押ししたものだ。

「ゲーム開発はお菓子作りに似ています。非常に正確な手順と技術が必要で、何週間もかけて繰り返し行うものです」とデスキャンプス氏はいう。しかしCoreでは、技術的なことを抜きにして、通常は長引いてしまうプロセスを数分で終わらせることが可能。残りの時間を実験やプレイに充てることができる。

「マリオカートにポータルガンを取り入れたらどうだろう?」というメイナード氏の質問にも、間違いなくその場で答えが出ただろう。

画像クレジット:Manticore Games

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

Robloxに仮想世界が今本当に必要する「ボイスチャット」機能が登場予定

メタバース構築の先駆者であるRoblox(ロブロックス)は、仮想世界が今本当に必要としているものを見据えている。2021年7月時点で4700万人のデイリーアクティブユーザーを抱えるRoblox。これまでの道のりでも十分な成長を遂げてきた同社だが、より深く、より豊かな仮想体験を提供することで、今後も何年にもわたってユーザーを惹きつけていこうと目論んでいるようだ。

同プラットフォームの中核となるエクスペリエンスにボイスチャットを取り入れるべく、同社は慎重かつ確実なステップを踏もうとしている。それを実現するための最初のステップが信頼できる開発者の招集だ。Vansがスポンサーするスケートパークでキックフリップをメイクするようなクールでヴェイパーウェイブ的な雰囲気のゲームなど、同プラットフォームの中核をなす大人気の体験に近接ベースのオーディオをどのように統合できるかを模索しようとしているのだ。

空間オーディオ機能により、ユーザーは近くにいる人とライブボイスチャットで話すことができるようになる。Robloxはこの新しい音声製品を、現在のテキストチャットの自然な延長線上にあるものとして考えている。周囲の誰にでも見えるアバターの頭上のふきだしの代わりに、プレイヤーは出会った人々に自然に話しかけることができるようになる。

例えばRobloxの仮想スケートパークで空間オーディオをオンにして遊んでいるとする。ハーフパイプで一緒に滑っているスケーターの声は、現実の世界と同じようにはっきりと聞こえるが、通りの向こう側の歩道を歩いている人の声は遠すぎて聞こえない。近くの友人と2人きりで話をしたいときは、その場を離れて近所のお店に向かって歩いて行けば良い。

RobloxのチーフプロダクトオフィサーであるManuel Bronstein(マニュエル・ブロンスタイン)氏は、TechCrunchのインタビューに応じてくれた際に次のように話している。「メタバースにおける将来のコミュニケーションのあり方は、とても自然で我々の普段のコミュニケーションと似たような感覚でなければならないと思っています。さらに、物理的なものや空間が生み出す現実の世界の制限を超えることも可能なのです」。

Robloxのメタバースに対する特有のビジョンを実現するためにGoogle(グーグル)を退職し、3月にRobloxに入社したブロンスタイン氏。Robloxに入社する前はZynga(ジンガ)、Xbox(エックスボックス)、YouTube(ユーチューブ)という3社のまったく異なる企業でプロダクトチームに所属していたが、実際は同氏の現在の仕事とも大きな関連性がある。

「買い物やコンサート、学校に行くことができるようになる次なる形態としてメタバースを考えると、社会のすべての人に関連している必要があり、そうした行動のすべてをサポートするコンテンツやルール、機能を構築する必要があると思います。そしてプラットフォームに音声をもたらす理由の1つには、若くないユーザーが自然にコミュニケーションをとれる方法を確保する必要があるということが挙げられます」とブロンスタイン氏は話している。

Robloxがボイスチャットに注力しているからと言って、一夜にしてそれが叶うわけではない。しかしこの長い開発期間は意図的なものである。同社は13歳以上の開発者5000人を対象に、カスタムメイドのRobloxコミュニティスペースで新しい空間ボイスチャット機能を試してもらう予定なのだ。

「おもしろい機能を多数搭載し、彼らがチャットやハングアウトできる場所を用意しました。彼らは私たちがコミュニティスペースのために書いたコードから学ぶことができ、数週間後あるいは1カ月後にはそれを自分のエクスペリエンスに当てはめて、活用することができるのです」とブロンスタイン氏はいう。

ブロンスタイン氏はRobloxがこのプロセスをゆっくりと進め、新しいモデレーションツールと安全ツールを並行して構築していくことを強調する。選ばれた開発者のグループから始め、モデレーションツールで十分に安全な環境を作れると確信したらそこから徐々に広げていくという形で、ボイス展開がゆっくりと進められる予定だ。

「ゆっくりと進め、やりながら学んでいきたいと思っています。先ほども言った通り、まずは開発者から始めることになるでしょう。その後に13歳以上のユーザーを対象にして、すべてがうまく進んでいるかどうかを正確に理解するまでしばらくそこに留まってから、その後若いユーザーに公開するかどうかを決めることになるでしょう」とブロンスタイン氏は話す。

広大な仮想世界を適切に管理するために、Robloxでは自動スキャンと3000人の人間のレビュアーからなる安全性チームを完備。他のソーシャルネットワークと同様に、プレイヤーは他のプレイヤーを報告したり、ブロックしたり、ミュートしたりして自分の体験をより快適なものにすることが可能だ。また、Robloxのプレイヤーの半数は13歳未満であるため、テキストチャットなど年齢に応じた体験を親がコントロールできるような許可機能を用意している。ボイスチャットが低年齢層にも普及するようになれば、親はボイスチャットを完全に無効化することもできる。

Robloxのユーザーは13歳以下が圧倒的に多いものの、ティーネイジャーやそれ以上の若者も意外なほど多く利用しているようだ。同社によるとユーザーの50%は13歳以上であり、特に17歳から24歳のユーザーが爆発的に増加しているという。新しいユーザーも獲得している同社だが、コアユーザーの成長に伴い、同社もともに成長する必要があると考えている。

若いユーザーにボイスチャットが導入されるかどうかは別として、Robloxはボイスチャット機能のある仮想環境を安全かつ友好的に保つことが大変な課題であることをよく理解しているようだ。同社は音声の導入時にはユーザーからの報告システムに頼る予定であり、これを強化できるその他のツールも検討中だ。例えばユーザーが通報される直前の会話を自動的に録音して、レビュアーに悪質な行為を伝えるツールなどもその1つである。また、一定数の違反があったユーザーを自動的に制限するレピュテーションシステムの拡大にも関心があるようだ。

他のソーシャルプラットフォームと同様に、Robloxはユーザーからの報告に大きく依存することになるだろう。ヘイトやハラスメントを受ける側のユーザーに不均衡な負担を強いることになるが、これはソーシャル企業がどこも適切な人的資源を投じて解決策を導いていないということによる不幸な結果である。

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ボイスチャットの今後の行方

Robloxにとって空間オーディオは、自然なコミュニケーションのビジョンにおける「一要素」に過ぎないとブロンスタイン氏は話している。次のステップは、体験を超えた永続的なボイスチャット体験を統合することであり、お互いを知っているユーザー同士が同じことをしていなくても交流できるようにすることである。RobloxがGuildedという会社を2021年8月に密かに買収したニュースに気づいた読者なら、これは驚くことではないだろう。Robloxの音声に関する取り組みは買収以前からのものではあるが、GuildedはRobloxの将来の音声計画の基礎を築くことになるだろう。

Discord(ディスコード)と競合関係にあるGuilded(ギルデッド)。Discordはゲーム以外の分野に視野を広げているが、Guildedは同様にゲーマー向けのチャットプラットフォームを構築して、対戦型ゲームの分野に力を入れている。Guildedはグループボイスチャットに加えて組み込み式のスケジューリングツールやコミュニティ管理ツールをゲーマーに提供しており、World of Warcraftで20人以上のゲーマーを集めて攻撃を行うというような、複雑なオンラインソーシャルイベントを開催する手間を軽減している。

「Guildedはすばらしいロードマップを持っているので、現時点では大規模な統合をせずに、そのロードマップを継続して成長させていきたいと考えています」とブロンスタイン氏は話している。

メタバースの世界へ

モデレーションの問題はさておき、基本的に今Robloxの道を阻むものは何もない。3月に株式を公開した同社は、現在では490億ドル(約5兆4000億円)の価値があると言われており、ゲーム業界で最も価値のある企業の1つとなっている。投資家、コンテンツ制作会社巨大テック企業がこぞってメタバースに参入しているが、これはかなり安全な賭けと言えるだろう。

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メタバースは今、流行語にもなっているが、これは誇大広告というよりは略語のような存在だ。人々がメタバースについて語るとき、一般的には相互に接続された仮想世界の未来像を思い描いているだろう。つまり、移動したり、交流したり、買い物をしたりできるオンライン空間である(良くも悪くも、最後の部分が鍵と言える)。これがすべてバーチャルリアリティになるのか、そうでないのか、またそれがいつになるのかは議論の余地があるが、実際には「相互接続」という部分が大きな課題となる。アプリの時代、ソフトウェアは設計上サイロ化されていた。しかしメタバースを実現するためには、仮想の自分と仮想のモノが、オンラインの世界を流動的に行き来できるようになる必要がある。

この点については数社の企業が先行しているが、カスタムアバター、ゲーム内経済、シームレスなソーシャルレイヤーを備えた、仮想世界で有名なRoblox とEpic(Fortniteの製作会社)の2社がユーザー作成コンテンツのレベルを引き上げているのは単なる偶然ではない。このような体験や、仮想空間で何かをしているときに友人と簡単に一緒にいられるという能力が、結局はメタバースのすべてなのかもしれない。

ほとんどの大人は、子どもたちが夢中になって遊んでいる奇妙な世界の魅力を理解することができずにいるが、Robloxはオンラインライフがどこに向かっているかという基本的なこと、またはむしろRobloxの世界のような、私たちみんなが行き着く先を理解しているのではないだろうか。

画像クレジット:Roblox

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

所有する家具を活用しプロが部屋をバーチャルでデザインしてくれるPancakeが約3800万円調達

すでに家にある家具を活用し、デザイナーの新鮮な目で空間をデザインするホームデザインプラットフォームを開発するPancake(パンケーキ)が、35万ドル(約3800万円)のシードラウンドを獲得した。

コスタリカ出身のMaria Jose Castro(マリア・ホセ・カストロ)氏、Roberto Meza(ロベルト・メザ)氏、Alfred Enciso(アルフレド・エンシソ)の3人は、在宅勤務に移行して部屋の空間を飾る必要に迫られた自分たちの経験をもとに、2020年に会社を立ち上げた。デザインサービスは高額であるため、誰もが利用できるものではなかった。

Pancakeは、部屋をデザインするインテリアデザイナーとユーザーの関わり方を再構築しており、ユーザーは自分の部屋のスペースのレンダリング画像を手に入れることができる。ユーザーは、ウェブサイト上でデザイナーとのオンラインセッションを予約し、部屋の寸法と写真を提供する。

 

次にデザイナーが、空間のレンダリングと、デザインとその方法を説明する資料を用意する。また、持っていない塗料や家具が必要な場合は、Pancakeがユーザーに購入できる場所を教えてくれる。このサイトの将来的な機能として、家具販売業者との連携も予定していると、カストロ氏はTechCrunchに語っている。

メザ氏はこの会社を「ファニチャー・アズ・ア・サービス(サービスとしての家具)」と呼び、すでにあるものを再利用して、そこで働き、住み、楽しむことができるような健康的で持続可能な空間づくりを主眼としている。それは一見難しいことのように思えるかもしれないが、世界的なパンデミックでみんなが突然同じ空間で一緒に過ごすようになると、人間関係というのは、好きな空間にいるときの方がより良くなるものだと彼はいう。

「私は建築におけるウェルネスを仕事にしていますが、Pancakeではそれを実現したかったのです。些細なことが余裕を生み、気分を良くしたり、もしくは悪くしたりすることがあるのです」。と彼は付け加えた。

Pancakeは今回の資金調達により、プラットフォームをさらに発展させ、エコロジカルフットプリント計算機などの新機能を追加して、顧客が自分のデザインがどれだけサスティナブルなのかを確認できるようにする予定だ。また、同社は透明性の高い価格設定を誇りとしている。デザイナーとの平均的な2時間のセッションは199ドル(約2万1800円)で、ペンキや新しい家具などのアイテムが必要な場合は、デザイナーがそこに予算を追加する。

今回のシードラウンドでは、OkCupid(オーケーキューピッド)の共同設立者であるChristian Rudder(クリスチャン・ラダー)氏がリードインベスターを務めている。同氏は、通常、シード段階での投資は行わないが、Pancakeが短期間で成し遂げた進歩に感銘を受けたと述べている。この中には、ソーシャルメディアプラットフォームでのマーケティングテストも含まれており、立派な投資効果が得られたと付け加えた。

一方、Pancakeはこれまでに100回以上のデザイナーセッションを行い、紹介や家の中の別の部屋のデザインも希望するリピーターが増えてきているという。パンデミックで4カ月間中断したにもかかわらず、前月比で平均200%の収益増を達成したとメザ氏はいう。今後は、2022年のシリーズAラウンドに向けて、ブランドと収益モデルの構築を進めていく予定だ。

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画像クレジット:Pancake

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

アフターコロナでもバーチャルオフィス業界で独自の地位を確立しようとするNooks

分散したチームをターゲットにしたバーチャルワークスペースの空間を提供するNooksは、1年間のベータ運用を経て、数千人のユーザーを魅了し、ベンチャーキャピタルから数百万ドル(約数億円)の資金を引き寄せてきた。スタンフォード大学の学生が率いるこの有望なスタートアップがこのたび、シードラウンドでの500万ドル(約5億5000万円)を調達している。ラウンドを主導したのはTola Capitalで、出資者にはFloodgateの他、EventbriteのCEOであるJulia Hartz(ジュリア・ハーツ)氏と同会長のKevin Hartz(ケヴィン・ハーツ)氏、Awesome People Venturesの創業者Julia Lipton(ジュリア・リプトン)氏が名を連ねている。

この資金調達は「バーチャルオフィス」の領域で事業展開する企業に賭ける投資家のさらなる中核グループの兆候を示している。つまり、分散した従業員たちがZoomを卒業し、生産性とゲーミフィケーションを念頭に置いて作られた「メタバース」へと進む準備ができていると考える、スタートアップ数十社を含むコホートだ。ケヴィン・ハーツ氏が仮想HQ事業に投資したのは今回が2度目で、最初はGatherへの投資だった。現時点では、Sequoia Capital、Andreessen Horowitz、Menlo、Battery Ventures、Index Ventures、Y Combinator、Homebrew、Floodgateの各社が、それぞれ別のバーチャルオフィススタートアップに出資している。

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言い換えれば、投資家が資金を投入していてもなお、Nooksは資金調達に対して難しい仕事を抱えているということだ。

Nooksは2020年5月、スタンフォード大学の学生Daniel Lee(ダニエル・リー)氏、Rohan Suri(ローハン・スーリ)氏、Nikhil Cheerla(ニキル・チェルラ)氏、そしてRensselaer Polytechnic Institute(レンセラー工科大学)のAndrew Qu(アンドリュー・クー)氏によって設立された。予期せずにリモートワークの世界に飛び込んできた他の大半の人々と同様に、スタンフォードの学生3人組は学校や授業でZoomがもたらす疲労を体験した。彼らはほどなく、よりパフォーマンスの高いチームや同じ考えを持つコミュニティが一緒に仕事を楽しむことができる空間を作る必要性を感じた。

共同創業者たちは最初に、Nooksをスタンフォード大学内で試験運用し、夏のバーチャル授業の魅力的なレイヤーとして教員支援用に提供した。Nooksの初期のユースケースは、オフィスでの時間や宿題パーティーの様相を呈していた、とリー氏は語っている。学校で試験運用を行っていたNooksはその後、分散したチームの業務支援に注力するようになったが、その精神は一貫している。

「会議のような束の間の空間ではなく、より自然発生的なつながりを作ることができる場所を提供する、永続的な空間が必要です」とリー氏は語る。

Nooksの求心力の要素

ユーザーがNooksにアクセスすると、Slack風のインターフェイスが表示される。ただし、左側にあるチャンネルのパネルの代わりに、従業員は「スペース」への参加に招待される。各スペースの用途は、デスク周りのモックアップからビーチでのくつろぎ、企画や考案のハドルにいたるまで、さまざまだ。また、コードに現れるバグを取り除くための専用スペースが設けられている。プラットフォームへの最初の参入時点で、NooksのUXは他の競合他社とは一線を画していた。BranchやGatherのような企業は、生産性要素を備えたビデオゲームのような印象だが、Nooksはアバターのような雰囲気をまったく感じさせず、TeamflowTandemに近づいている。同社はビデオAPIを利用して、各ユーザーが小さなスペースを利用できるようにしている他、Googleドキュメント、YouTube、Asana、GitHubなどのプラットフォームとの統合も追加している。

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画像クレジット:Nooks

共同創業者であるスーリ氏によると、同社は会話の促進を図るために、クリック数を増やすことなく、よりシンプルな美意識を追求するようにしたという。

「誰かと話をするにあたって、ビデオゲーマーになる必要があるとは、私たちは考えていません。自分のアバターが周囲に存在し、会話をする相手に歩み寄るようなものです」とスーリ氏はいう。「部屋の中にいる彼らを見つけて、その部屋に入るのと同じくらい簡単であるべきです」。

画像クレジット:Nooks

当然のことながら、同社はそのシンプルさと魅力的な環境のバランスを取ることに力を入れており、スペースやBGMのカスタマイズもその一環だ。プレゼンテーションの最中に仲間同士が会話できる「ささやき機能」や、Nooksがトップセラーのリーダーボードを作成するバーチャルセールスフロア、アイデアの相互交流を促進するコワーキングスペースなどがある。

シンプルさは、自発性を犠牲にしてしまうこともある。他のバーチャルオフィスプラットフォームが空間的広がりのあるオーディオを使って「一過性」の感覚(他の同僚の近くにいるときは主張の声が大きくなり、離れているときは寡黙になる)を作り出しているのに対して、Nooksは、そのシンプルさを常に「ワンクリックで誰とでも話ができる」という目的で創出することで、即興のコラボレーションとカジュアルな会話を促進している、とリー氏はいう。

摩擦のないコミュニケーションは重要な機能だが、Nooksの唯一の求心力要素ではないようだ。SlackやHangouts、さらにはTwitterのDMのようなプラットフォームでは、ユーザーが誰かとコミュニケーションするのに必要なのはワンクリック(最大でも2クリック)だけである。いうまでもなく、Slackは自発性とライブコミュニケーションを中心とした一連のコミュニケーションツールをリリースしている。

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それでもNooksには現在、スタンフォード、Embroker、Workatoなどのチームや組織による、毎週何千人ものアクティブユーザーが存在する。同社によると、Nooksを利用するチームは1日平均6時間をNooksのプラットフォームに費やしているという。

ハイブリッドワークのバーチャル成長の難しさ

世界各地でパンデミックが収束するにつれ、Nooksのようなスタートアップは、リモートワーク中心の長い期間に及ぶ対応を経て、ハイブリッドチームの復帰に適応する方法を見つける必要があるだろう。これらのスタートアップにとっての新たな課題は、新しい仕事の文化にうまく組み込むためにどのように自らを位置づけるかである。

そして、近接性バイアスによってそれが難しくなる可能性もある

近接性バイアスとは、バーチャルで働く従業員よりも、対面で働く従業員の方が高く評価されるという考え方だ。ハイブリッドが大規模に成功するのを難しくしている現実の1つは、従業員のグループがオフィスに出向くことができるという理由だけで、より重要な存在として位置づけられたり、高く評価されたりすると、公平性が損なわれることだ。

バーチャルワークスペースのスタートアップ、特に職場の文化をオンライン化したいスタートアップは、在宅勤務者とオンサイト勤務者を誤って分断してしまう可能性がある。分断化は、少数民族や女性を含む、歴史的に見過ごされてきた個人に不相応な影響を与えてしまう。顕著なことに、現在のバーチャルオフィスのほとんどが男性によって構築、運営、資金提供されている。

近接性バイアスへの対処方法について尋ねると、リー氏は「リモートの従業員とより頻繁に、流動的でカジュアルな会話をすることで、チームの他のメンバーとより強い絆を築くことができます」と説明した。当然のことながら、バーチャルオフィススタートアップの多くは、オフィスにいる全員を同じデジタル世界に連れてくることを通して近接性バイアスの解消に乗り出したものだ、という主張もあるだろう。

最終的には、プレイフィールドを平等にするには積極的な意図が必要になる。スタートアップはどうすれば、会議室Aでの自然発生的な対面でのスタンドアップミーティングにバーチャルオフィスの従業員がアクセスできるようにすることができるだろうか。プラットフォームはどのようにして従業員に、場所に関係なく、意見を出したり、反対意見を述べたり、会議後の冗談を共有したりする機会を与えるだろうか。アバターは、拍手や親指を立てる以外にも、物理的なヒントを与え始めることができるだろうか。

私はこれらの機能が、長期的に見てバーチャルオフィススタートアップのムーンショットであり、サバイバルハックであると確信している。

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)

「あつ森」とClubhouseのハイブリッド仮想空間「Skittish」にZoomに疲れた人が訪れている

Instagram(インスタグラム)の広告が迫ってくるような気がして、近頃、Zoom(ズーム)カメラのスイッチを入れる気になれないのは、あなただけではないだろう。2021年になっても、パンデミックの間に人々をつないでいるソーシャルアプリやバーチャルチャットツールの多くは、実社会の交流をシミュレートする以上に使い尽くされている感がある。

しかし、オンラインで過ごすことが、煩わしいものでないとしたらどうだろうか。

それが、Skittish(スキティシュ)のアイデアだ。このブラウザーベースのオンラインイベントプラットフォームは、XOXO(エックス・オー・エックス・オー)の共同設立者であるAndy Baio(アンディ・ベイオ)氏によって開発されたものだ。スキティシュは、Discord(ディスコード)やClubhouse(クラブハウス)のようなソーシャルオーディオチャットアプリとキュートなビデオゲームをかけ合わせたような遊び心あふれるプラットフォームで、丸っこいカラフルな動物のアバターが数多く用意されている。Zoomミーティングとは異なり、スキティシュには「場所」があり、そこで暮らす動物たちがお互いに出会い、一緒に活動し、セレンディピティ(偶然の幸運)が訪れるのを待つという設定だ。

スキティシュは、ベイオ氏の探究心の延長線上にある。クリエイティブな人々が自分の作品を発表したり、集まったりできる、インディーゲームのような気楽で魅力的な空間だ。「人々が自分らしくいられる場所に惹かれる」と、ベイオ氏はTechCrunchに語る。そして「スキティシュでは、みんなが自分に合ったレベルで参加できることがとても重要だ」と続ける。

ベイオ氏は、独特なソーシャルスペースを企画することで定評があるが、スキティシュまではほとんどがIRL(In Real Life、現実世界)でのものだった。2012年には、ポートランドを拠点とした、個性的なクリエイターのための一風変ったフェスティバルXOXOを共同で立ち上げている。フェスティバルは、新型コロナウイルス感染症の影響でこの1、2年休止しているが、インディーゲーム開発者、型破りなポッドキャスター、デジタルアーティストなどでにぎわうオンラインコミュニティの中で、そのイベントは活動を続けている。XOXOの前には、クラウドファンディングサイトであるKickstarter(キックスターター)の立ち上げに携わり、その後、キックスターターの初代最高技術責任者(CTO)を務めた(実をいうと、筆者はコミュニティの一員である元XOXOの参加者だ)。

スキティシュ(「臆病な」という意味)という名前の通り、人を追い詰めないオンラインのソーシャルスペースを作ることを目的としている。ベイオ氏が思い描くバーチャル世界では、現実の世界と同じように、内向的な人は周辺部を歩き回り、外向的な人は中心部に飛び込んで人目を引くことができる。明確に仕事のために作られた、あるいは仕事を模して作られたバーチャル環境にはない、こういった社会的スタイルの自由さは、逆に多くの人に不安を抱かせる。

ベイオ氏にとって、音声チャットは最適な場所だ。定番のカメラを使わないことで、人々は社会的な不安定さを感じることになるが、それでもなお音声は、テキストにはない社会的な存在感をもたらす。

「多くのバーチャルイベントでは、参加者が見知らぬ人に向けて常にカメラで映しだされていることを前提としているが、それは自分にはなじまない」とベイオ氏はいう。「スキティシュは、音声を使うことを基本とし、空間オーディオを使用しているため周囲の人の声が聞こえ、会話に参加する前に少し様子をうかがってから、参加するかどうかを決めることができる。知らない人との交流は、たとえオンラインであっても、いつも本当に不安になるものだ」。

クラブハウスはソーシャルオーディオの代名詞のようになっているが、そのスタイルはまだ万人受けするものとは言えない。「音声でのカジュアルな会話というアプローチは好きだが、(クラブハウスは)一種のパネル会議のように感じられ、多くの視聴者を惹きつけるには、強力なモデレーターが必要だ」とベイオ氏はいう。

スキティシュの仕組み

スキティシュのユーザーは、75種類以上のとてもキュートな動物の中から自分のアバターを選び、人々(動物だが)が集まるグループに近づくと、実際の生活と同じように会話を聞くことができる。離れていくと、会話の声は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなる。よりプライベートな話をしたい場合は、友人(ワニだったりする)と一緒に、他の人たちのグループからは離れて、バーチャルな散歩をしながら会話を楽しむことができる。

スキティシュの各部屋の中では、イベント参加者は部屋の中を歩き回り、マイクを使って他の人と会話をしたり、バーチャルなオブジェクトを置いたり、ポータルを通って別の部屋に移動したりすることができる。スキティシュにスペースを持っているユーザーは、YouTube(ユーチューブ)やSoundcloud(サウンドクラウド)の動画や音楽を仮想スクリーンに流すことができる。また、イベントの主催者は、近隣の音だけを聞くという通常のルールに優先して、自分や他のユーザーの音声をすべての部屋に放送することもできる。

ベイオ氏は、スキティシュを恒常的なソーシャルスペースとは考えておらず、ポッドキャストのライブリーディングから卓上ゲーム、大規模な企業イベントに至るまで、あらゆるタイプのイベントに対応する柔軟で遊び心に満ちたプラットフォームとして提供したいと考えている。同氏によると、スキティシュの主なターゲットは「Patreon(パトレオン)アカウントを持っている人なら誰でも」とのことで、スキティシュを使って大規模な企業イベントに参加すれば、クリエイターが企業のコミュニティに登録する費用は相殺できるという。スキティシュでイベントを主催する人は、あらかじめ用意されたバーチャルオブジェクト(海賊船や巨大なドーナツなど)をバーチャルスペースに置いたり、自分で環境を一から作り上げたりすることができる。

また同氏は、人々が必要とするときにだけサービスが提供されるように作り上げることで、巨大なソーシャルネットワークにあふれるハラスメントや有害性を排除したいと考えている。スキティシュにも、スペースの作成者がユーザーをミュートしたり、追い出したり、さらには入室禁止にしたりすることができる一連のツールが用意されているが、そういったものを使う必要がないことが理想だ。

「自分自身はダークソーシャルの大ファンだ。みんなが自分らしく居られて、より人間的にモデレートされ管理しやすいからだ」とベイオ氏はいう。

スキティシュの構築と次のステップ

パンデミックは、人々がオンラインのソーシャルスペースに求めるものに対して、新たな視点をもたらした。ズームの目新しさはすぐに薄れていき、2020年後半には、グループビデオチャットは、バーチャルな遊び場ではなく、バーチャルな仕事のツールに定着したようだ。2020年のゲームとして、気軽なマルチプレイヤー機能を持つ穏やかなソーシャルシミュレーターが登場したことは、ある意味当然と言えるだろう。

「月並みだが、『Animal Crossing:New Horizons(あつまれ どうぶつの森)』はパンデミックの間、外に出られない日々の頼れる逃げ場であり、心の拠り所でもあった」とベイオ氏は語る。同氏は、どうぶつの森の有名な癒しのリズムとの最初の出会いで魅了され、このゲームによって、スキティシュのイメージを膨らませた。

「操作や視点の動きのシンプルさ、ゲーム全体のトーン、そして限られたものではあるが、ソーシャル機能からは特にインスピレーションを得た」とベイオ氏は語る。そして「来場者の上限は7人で、人がやってくるのにかなり時間がかかるが、それでもやはり、大勢の人が自分の島に来てくれるのはとても楽しいことだ」と付け加える。

Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)がどこでも売り切れ「どうぶつの森」がゲーム機の歴代販売ランキングで上位にランクインしていることから、何かが共鳴していることは早くから明らかだった。普段は自分のことをゲーマーとは思っていない人でもスイッチを購入し、バーチャルの木を揺らしたり、リスとおしゃべりしたり、インテリアのヒントを求めて友人の島を巡ったりして、何時間も過ごしていた。ベイオ氏は、スキティシュでも同じような魔法を少しでも取り入れたいと考えている。

ソーシャルネットワーク機能を備えたゲームが今ブームとなっているが、それには理由がある。多くの人にとって、「Fortnite(フォートナイト)」でデュオを組んだり、「Valheim(ヴェルヘイム)」でバイキングのロングハウスを造ったり、「Roblox(ロブロックス)」でユーザーが作ったゲームを試してみたりと、何か他のことをしているときに、交流が生まれるのが自然な流れだ。

アバターを使ったオンラインでの交流は、自分自身を表現するのに十分に意味のある方法であり、Epic(エピック)は、スキン(仮想の衣装)とエモート(ダンスの動きやジェスチャー)の販売をビジネスの中心に据え、フォートナイトの収益の大半を占めるまでにした。

スキティシュは、Coil(コイル)、Mozilla(モジラ)、Creative Commons(クリエイティブ・コモンズ)が共同で設立した基金「Grant For The Web(グラント・フォー・ザ・ウェブ)」から与えられた10万ドル(約1090万円)の助成金を受けて開発された。この基金は、マイクロペイメントを導入するオンラインクリエーターのプロジェクトを支援するために設立されたものだ。ベイオ氏は、スキティシュを恒常的なバーチャル世界ではなく、イベント用のポップアップスペースと想定し、2020年7月に試作を開始した。

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スキティシュのスペースは、当初、1つの部屋で最大120人の音声を同時に許容できるようにしていたが、現在はさらに高い音声対応能力を備えている。新しい限界はまだテスト中だが、ベイオ氏の目標であるスキティシュでの1000人規模のイベント開催は近づきつつある。スキティシュの部屋はパスワードで保護され、招待制や公開制にすることができる。ベイオ氏は将来的に3~5人用の特別な「居心地の良い」空間を作ることを思い描いている。

スキティシュでは、高品質な空間オーディオによる音声チャットのために、Second Life(セカンドライフ)のクリエーターであるPhilip Rosedale(フィリップ・ローズデール)氏の最新プロジェクトであるHigh Fidelity(ハイ・フィデリティ)のAPIを使用している。驚くべきことに、セカンドライフがそのオンラインワールドに空間オーディオを採用したのは、今から14年前の2007年のことだ。

スキティシュは、テストとして今月中に最初の有料イベントを開催し、その後、招待制にするという。ベイオ氏は、収益を有料イベントに頼る予定だ。モデレーションの問題や、バーチャルなゾウ、シマウマ、アライグマの間で繰り広げられる何百もの会話を同時にホストするコストのため、無料枠の提供は様子を見ることにしている。

スキティシュでの散歩

筆者は、このプロジェクトについて話を聞くため、スキティシュを介してベイオ氏と会ったのだが、ZoomミーティングやGoogle Hangout(グーグル・ハングアウト)よりもすぐに堅苦しい雰囲気はなくなった気がした。筆者は気高いアライグマとなり、ベイオ氏のフクロウを追って、カラフルなポリゴンで構成されたバーチャルセットの中を、まるで公園でコーヒーでも飲みながら散歩しているかのように回った。

スキティシュはビデオゲームのようで、WASDキーを使って動き回ることもでき、誰でもすぐにコツをつかめるような、わかりやすい作りになっている。シンプルなグラフィックによる世界観は、クールでクリエイティブな雰囲気を醸し出している。アバターはアイドルアニメーションにより絶えず弾んでいて、ゾウ、アライグマ、シマウマたちは生気を放っている。

他の革新的なアバターベースのバーチャル世界(AltspaceVR[オルトスペース・ヴィアールなど)での体験と同じように、本当にその場にいて、ただぶらぶらしているような気分は、新鮮な感覚だった。こういった感覚については、マルチプレイヤーゲームが従来のソーシャルネットワークのはるか先を行く。「フォートナイト」や「Minecraft(マインクラフト)」が、多くの若者たちにとって事実上のソーシャルネットワークとなっているのも当然のことだ。スキティシュでは、高品質の空間オーディオと遊び心に満ちた臨場感も、同様に何かをもたらしてくれる。

バーチャルなフクロウはさておき、スキティシュが成功するのは、人々がバーチャル世界を超えてつながりを築き始めた時だとし、ベイオ氏は次のように語る。「現実の世界で行ってきたイベントと同じように、遊び心のある環境で人々が出会い、新しい友人を作ったという話を聞いた時、スキティシュは成功したと言えるだろう」。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Skittish仮想空間音声ソーシャルネットワークClubhouseどうぶつの森シリーズ

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

3Ⅾのアバター・仮想空間によるクラウドオフィス「RISA」、テレワークで失われた気軽な会話を生む環境を追求

RISAで取材を実施、アバターはイスに座ることもできる

コロナ禍で働き方が見直されている中、テレワークの浸透は大きな課題となっている。内閣府が2020年12月に行った調査によると、全国のテレワーク実施率は21.5%だった。

この中でテレワーク経験者が答えた「テレワークのデメリット」は「社内での気軽な相談・報告が困難」が38.4%で最多となった。「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」は3番目に多く、28.2%に上る。

テレワークでは目的ありきのウェブ会議などが軸となり、ちょっとした雑談を生む機会もなく、働き手の孤独感が増してしまっている。その穴を埋めるのが、クラウドオフィスという新たなワークプレイスだ。

クラウドオフィス「RISA」は、ビジネスシーンで利用可能な3Ⅾのアバター・仮想空間による新たなバーチャルオフィスとなる。大阪に拠点を置くOPSIONが2020年10月からRISAの提供を開始し、現在はコニカミノルタなどの大手企業をはじめ約40社が導入している。この他にも800社ほどからサービス導入へ声がかかっているという。

RISAはインストールする必要はなく、PCからブラウザで起動できる。ブラウザはGoogle Chromeを推奨しているが、Microsoft Edgeにも対応している。また、2022年までにはスマホやタブレットなどのマルチデバイス対応をしていく予定だという。

「3Dならではの臨場感や没入感がRISAの特徴です。社員同士が気軽に集まれる居場所を提供し、テレワークで失われた偶発的なコミュニケーションや、簡単に相談ができる環境を作り上げています」とOPSIONの深野崇代表は語る。今回は実際にRISAでアバターを動かしながら、深野氏に話を聞いた。

RISAでアバターを走らせ、相手に話しかける

さまざまなパーツを組み合わせて自分好みのアバターを作れる

RISAでは自身が立つ四角いタイル内にいるメンバー同士と音声通話で話せるようになっている。遠くにいる誰かに話しかけたいときは、その人が実際にいる部屋などにアバターを走らせ、話しかける。アバターは床をクリックすればその位置に移動できる。キーボードのA、W、S、Dキーや矢印キーでも移動可能だ。

RISAのアバターは髪型や顔、服装など、さまざまなパーツをカスタマイズできる。手足が一部だけしか表現されないアバターは一見すると奇妙だが、実際に動かしてみると違和感はない。深野氏は「細部の動きなど、人は見えていない部分を想像で補うので、想像の範疇でどのような動きをしているのかを最低限わかるところまで削りました。動作を軽くするといった狙いもあります」と説明する。

細かな動きは人の想像力で補う仕組み

テレワークをしていると、相手がいまどのような状況かわからないことも多い。RISAではアバターの頭上に「声かけ可能」「取り込み中」「離籍中」を示すステータスを表示できる。エモート機能もあり、手を振ったり、拍手をしたり、ダンスしたりすることも可能だ。

頭上の白文字が「ひと言メッセージ」。その時や気分や困ったことなどもひと目でわかるようにした

「ただ、これだけではわかりづらいこともあります。そこでいまやっていることなどを『ひと言メッセージ』として、頭上に表示できます。私の場合、今日は『テッククランチさん取材』にしました。相手の状況が分かりづらいリモートワークの欠点を、記号だけでなく文字情報でも補完できるようにしています」と深野氏は語った。

また、ウェブ会議で話し手が一方的に話し続けるといった問題も解決していく。RISAではスタンプ機能を追加し、アバターにクエスチョンマークやハートマークを連続して表示できるようにした。

スタンプ機能でインタラクティブなコミュニケーションを促進

目くばせやうなずきなど、人が何気なく行っていたちょっとしたジェスチャーに寄せた表現ツールだ。「一方通行になりがちなウェブ会議でも、インタラクティブなコミュニケーションができるように工夫しました」と深野氏はいう。

マップ機能も追加して誰がどこにいるかわかるように

RISAによる会議のイメージ

料金体系は1つのRISAの仮想空間上で、1~50人利用で月額税込3万3000円となっている。RISAでは100人ほどが常時接続できるようになっているが、50人以降は10ID毎に月額税込5500円で追加できる。導入企業をみると、部署単位で最大80人が働いている企業もあれば、4人で利用している企業もあるという。

製品版リリースから約6カ月のタイミングとなる2021年4月には、大型アップデートを行った。RISAの部屋配置などを刷新し、これまでよりも音声通話ができる空間を増やしている。

「リアルのオフィスでは、会議前にロビーで少し作戦会議したり、会議終わりに『わからないところがあった』など雑談が生まれたりします。この会議前後の時間はとても大事だと考えています。RISAでも会議を起点にした偶発的なコミュニケーションがより生まれるよう、簡単に空いている部屋へ移動できるレイアウトにしました」と深野氏は語る。

マップ機能で利便性を高めた

また、2Dのマップ機能も追加した。これにより、誰がどこにいるのかカーソルを部屋に合わせればわかるようになった上、誰もいない空間を簡単に探せるようになった。

2Dではなく3D。情報量の多さを重視

エモートの「ヨガ」のポーズ。思わず何をしているのか、尋ねたくなる

クラウドオフィスには2Dのアイコン・空間を用いてサービス展開している企業もいる。OPSIONではなぜ3Dを選んだのか。深野氏はこう語る。

「臨場感や没入感、『ここで働いているんだ』という帰属意識をRISAは重要視しています。2Dのアイコンがあるだけよりも、3Dのアバターは人の形をしているため、直感的に実際に集まって働いているという感覚を高めることができます。また、3Dは情報量が多い分、相手が何をしているといった状況も分かりやすく、声をかけやすいです」。

OPSIONは3Dにこだわり、人に近しい感覚で働ける環境づくりを追及しているのだ。しかしデメリットもある。

「3DではPCの動作が重くなるといったことがあります。ただ、PCそのものの性能が上がっていたり、5Gといった新たなテクノロジーも発展していくはずです。2Dとの差である『動作の重さ』といった不都合は時間とともに無くなるはずです」と深野氏は述べた。

ポイント制度導入で帰属意識をより高める

開発中のポイント制度によって、楽しみながら仕事ができる

OPSIONの業務もRISA上で行われているが、現在は試験的に「ポイントショップ」「ポイントランキング」といったポイント制度を取り入れている。

深野氏は「RISAにおけるユーザーの活用状況に応じて、ポイントを付与する仕組みを実装しようとしています。ポイントを貯めれば、アバターの見た目を変えたり、部屋の椅子などをカスタマイズできるようにします」と構想を語った。

具体的には誰が誰に話したのかといった発話者を特定して、そのコミュニケーション量などに応じてポイントを付与できるようにするという。ポイント制度は早ければ2021年の夏ごろには実装する予定だ。

「ゲーム性を含んだポイント制度には意味があります。楽しんで仕事ができることはもちろん、『最近アバター変わったね』など会話のきっかけ作りにもなります。また、オフィス空間を自分たちで作り上げていけば、より帰属意識も高まっていくはずです」と深野氏は意気込む。

リアルオフィスとテレワークを繋ぐ居場所として発展させていく

深野氏は新型コロナウイルスの影響が収束しても、リアオフィスとテレワークの両方を取り入れたハイブリット的な働き方が主流になるとみる。RISAでもマルチデバイス対応などを行うことで、双方をよりシームレスに行き来できる居場所として、発展させていく考えだ。

「5、10年というスパンでは、リアルオフィスだけでなく、RISAのようなクラウドオフィスを企業が持つことが当たり前になると思っています。我々は家にいても、リアルオフィス以上にコミュニケーションが取れるような世界観を目指していきます」と深野氏は想いを語った。

なお、取材中はCPUがIntel Celeron N4100、メモリが8GB、OSはWindows 10 Home(64bit)のノートPCを使っていたが、アバターは問題なく動き、音声通話も終始クリアに聞こえた。他のタブなどは閉じた状態で、GPUはほぼ100%の使用率となり、CPUは30%前後だった。

実際にRISAを使ってみて、キーボードで動かすPCゲームなどの経験は筆者にはなかったので、アバター移動は多少手間取ってしまった。その点を除けば、取材を1時間ほどしている中で、RISAでアバターを動かしながら話を聞くことに不便さはなかった。回線落ちなど何かしらの不具合はあると思っていたが、杞憂だった。

アバターではあるが、取材中は相手の正面に立とうとするなど、気づけばアバターは「自分化」していた。アバターは多種多様なパーツがあったため、その日の気分によって服装や髪型を変更でき、使い込んでいけばお気に入りの見た目なども出てくるかもしれない。

テレワーク環境で失くした「人と1つの場を共有して働いている」という感覚は、バーチャル空間で実現すると真新しくもあった。RISAが導入されれば、深野氏がいう「偶発的なコミュニケーション」による職場の温かさのようなものが取り戻せるかもしれない。リアルオフィス以上を目指すというOPSIONの動きに、引き続き注目したい。

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