「あつ森」とClubhouseのハイブリッド仮想空間「Skittish」にZoomに疲れた人が訪れている

Instagram(インスタグラム)の広告が迫ってくるような気がして、近頃、Zoom(ズーム)カメラのスイッチを入れる気になれないのは、あなただけではないだろう。2021年になっても、パンデミックの間に人々をつないでいるソーシャルアプリやバーチャルチャットツールの多くは、実社会の交流をシミュレートする以上に使い尽くされている感がある。

しかし、オンラインで過ごすことが、煩わしいものでないとしたらどうだろうか。

それが、Skittish(スキティシュ)のアイデアだ。このブラウザーベースのオンラインイベントプラットフォームは、XOXO(エックス・オー・エックス・オー)の共同設立者であるAndy Baio(アンディ・ベイオ)氏によって開発されたものだ。スキティシュは、Discord(ディスコード)やClubhouse(クラブハウス)のようなソーシャルオーディオチャットアプリとキュートなビデオゲームをかけ合わせたような遊び心あふれるプラットフォームで、丸っこいカラフルな動物のアバターが数多く用意されている。Zoomミーティングとは異なり、スキティシュには「場所」があり、そこで暮らす動物たちがお互いに出会い、一緒に活動し、セレンディピティ(偶然の幸運)が訪れるのを待つという設定だ。

スキティシュは、ベイオ氏の探究心の延長線上にある。クリエイティブな人々が自分の作品を発表したり、集まったりできる、インディーゲームのような気楽で魅力的な空間だ。「人々が自分らしくいられる場所に惹かれる」と、ベイオ氏はTechCrunchに語る。そして「スキティシュでは、みんなが自分に合ったレベルで参加できることがとても重要だ」と続ける。

ベイオ氏は、独特なソーシャルスペースを企画することで定評があるが、スキティシュまではほとんどがIRL(In Real Life、現実世界)でのものだった。2012年には、ポートランドを拠点とした、個性的なクリエイターのための一風変ったフェスティバルXOXOを共同で立ち上げている。フェスティバルは、新型コロナウイルス感染症の影響でこの1、2年休止しているが、インディーゲーム開発者、型破りなポッドキャスター、デジタルアーティストなどでにぎわうオンラインコミュニティの中で、そのイベントは活動を続けている。XOXOの前には、クラウドファンディングサイトであるKickstarter(キックスターター)の立ち上げに携わり、その後、キックスターターの初代最高技術責任者(CTO)を務めた(実をいうと、筆者はコミュニティの一員である元XOXOの参加者だ)。

スキティシュ(「臆病な」という意味)という名前の通り、人を追い詰めないオンラインのソーシャルスペースを作ることを目的としている。ベイオ氏が思い描くバーチャル世界では、現実の世界と同じように、内向的な人は周辺部を歩き回り、外向的な人は中心部に飛び込んで人目を引くことができる。明確に仕事のために作られた、あるいは仕事を模して作られたバーチャル環境にはない、こういった社会的スタイルの自由さは、逆に多くの人に不安を抱かせる。

ベイオ氏にとって、音声チャットは最適な場所だ。定番のカメラを使わないことで、人々は社会的な不安定さを感じることになるが、それでもなお音声は、テキストにはない社会的な存在感をもたらす。

「多くのバーチャルイベントでは、参加者が見知らぬ人に向けて常にカメラで映しだされていることを前提としているが、それは自分にはなじまない」とベイオ氏はいう。「スキティシュは、音声を使うことを基本とし、空間オーディオを使用しているため周囲の人の声が聞こえ、会話に参加する前に少し様子をうかがってから、参加するかどうかを決めることができる。知らない人との交流は、たとえオンラインであっても、いつも本当に不安になるものだ」。

クラブハウスはソーシャルオーディオの代名詞のようになっているが、そのスタイルはまだ万人受けするものとは言えない。「音声でのカジュアルな会話というアプローチは好きだが、(クラブハウスは)一種のパネル会議のように感じられ、多くの視聴者を惹きつけるには、強力なモデレーターが必要だ」とベイオ氏はいう。

スキティシュの仕組み

スキティシュのユーザーは、75種類以上のとてもキュートな動物の中から自分のアバターを選び、人々(動物だが)が集まるグループに近づくと、実際の生活と同じように会話を聞くことができる。離れていくと、会話の声は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなる。よりプライベートな話をしたい場合は、友人(ワニだったりする)と一緒に、他の人たちのグループからは離れて、バーチャルな散歩をしながら会話を楽しむことができる。

スキティシュの各部屋の中では、イベント参加者は部屋の中を歩き回り、マイクを使って他の人と会話をしたり、バーチャルなオブジェクトを置いたり、ポータルを通って別の部屋に移動したりすることができる。スキティシュにスペースを持っているユーザーは、YouTube(ユーチューブ)やSoundcloud(サウンドクラウド)の動画や音楽を仮想スクリーンに流すことができる。また、イベントの主催者は、近隣の音だけを聞くという通常のルールに優先して、自分や他のユーザーの音声をすべての部屋に放送することもできる。

ベイオ氏は、スキティシュを恒常的なソーシャルスペースとは考えておらず、ポッドキャストのライブリーディングから卓上ゲーム、大規模な企業イベントに至るまで、あらゆるタイプのイベントに対応する柔軟で遊び心に満ちたプラットフォームとして提供したいと考えている。同氏によると、スキティシュの主なターゲットは「Patreon(パトレオン)アカウントを持っている人なら誰でも」とのことで、スキティシュを使って大規模な企業イベントに参加すれば、クリエイターが企業のコミュニティに登録する費用は相殺できるという。スキティシュでイベントを主催する人は、あらかじめ用意されたバーチャルオブジェクト(海賊船や巨大なドーナツなど)をバーチャルスペースに置いたり、自分で環境を一から作り上げたりすることができる。

また同氏は、人々が必要とするときにだけサービスが提供されるように作り上げることで、巨大なソーシャルネットワークにあふれるハラスメントや有害性を排除したいと考えている。スキティシュにも、スペースの作成者がユーザーをミュートしたり、追い出したり、さらには入室禁止にしたりすることができる一連のツールが用意されているが、そういったものを使う必要がないことが理想だ。

「自分自身はダークソーシャルの大ファンだ。みんなが自分らしく居られて、より人間的にモデレートされ管理しやすいからだ」とベイオ氏はいう。

スキティシュの構築と次のステップ

パンデミックは、人々がオンラインのソーシャルスペースに求めるものに対して、新たな視点をもたらした。ズームの目新しさはすぐに薄れていき、2020年後半には、グループビデオチャットは、バーチャルな遊び場ではなく、バーチャルな仕事のツールに定着したようだ。2020年のゲームとして、気軽なマルチプレイヤー機能を持つ穏やかなソーシャルシミュレーターが登場したことは、ある意味当然と言えるだろう。

「月並みだが、『Animal Crossing:New Horizons(あつまれ どうぶつの森)』はパンデミックの間、外に出られない日々の頼れる逃げ場であり、心の拠り所でもあった」とベイオ氏は語る。同氏は、どうぶつの森の有名な癒しのリズムとの最初の出会いで魅了され、このゲームによって、スキティシュのイメージを膨らませた。

「操作や視点の動きのシンプルさ、ゲーム全体のトーン、そして限られたものではあるが、ソーシャル機能からは特にインスピレーションを得た」とベイオ氏は語る。そして「来場者の上限は7人で、人がやってくるのにかなり時間がかかるが、それでもやはり、大勢の人が自分の島に来てくれるのはとても楽しいことだ」と付け加える。

Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)がどこでも売り切れ「どうぶつの森」がゲーム機の歴代販売ランキングで上位にランクインしていることから、何かが共鳴していることは早くから明らかだった。普段は自分のことをゲーマーとは思っていない人でもスイッチを購入し、バーチャルの木を揺らしたり、リスとおしゃべりしたり、インテリアのヒントを求めて友人の島を巡ったりして、何時間も過ごしていた。ベイオ氏は、スキティシュでも同じような魔法を少しでも取り入れたいと考えている。

ソーシャルネットワーク機能を備えたゲームが今ブームとなっているが、それには理由がある。多くの人にとって、「Fortnite(フォートナイト)」でデュオを組んだり、「Valheim(ヴェルヘイム)」でバイキングのロングハウスを造ったり、「Roblox(ロブロックス)」でユーザーが作ったゲームを試してみたりと、何か他のことをしているときに、交流が生まれるのが自然な流れだ。

アバターを使ったオンラインでの交流は、自分自身を表現するのに十分に意味のある方法であり、Epic(エピック)は、スキン(仮想の衣装)とエモート(ダンスの動きやジェスチャー)の販売をビジネスの中心に据え、フォートナイトの収益の大半を占めるまでにした。

スキティシュは、Coil(コイル)、Mozilla(モジラ)、Creative Commons(クリエイティブ・コモンズ)が共同で設立した基金「Grant For The Web(グラント・フォー・ザ・ウェブ)」から与えられた10万ドル(約1090万円)の助成金を受けて開発された。この基金は、マイクロペイメントを導入するオンラインクリエーターのプロジェクトを支援するために設立されたものだ。ベイオ氏は、スキティシュを恒常的なバーチャル世界ではなく、イベント用のポップアップスペースと想定し、2020年7月に試作を開始した。

関連記事:オンライン支払いの活性化を目指す100億円強のGrant for the Web基金が誕生

スキティシュのスペースは、当初、1つの部屋で最大120人の音声を同時に許容できるようにしていたが、現在はさらに高い音声対応能力を備えている。新しい限界はまだテスト中だが、ベイオ氏の目標であるスキティシュでの1000人規模のイベント開催は近づきつつある。スキティシュの部屋はパスワードで保護され、招待制や公開制にすることができる。ベイオ氏は将来的に3~5人用の特別な「居心地の良い」空間を作ることを思い描いている。

スキティシュでは、高品質な空間オーディオによる音声チャットのために、Second Life(セカンドライフ)のクリエーターであるPhilip Rosedale(フィリップ・ローズデール)氏の最新プロジェクトであるHigh Fidelity(ハイ・フィデリティ)のAPIを使用している。驚くべきことに、セカンドライフがそのオンラインワールドに空間オーディオを採用したのは、今から14年前の2007年のことだ。

スキティシュは、テストとして今月中に最初の有料イベントを開催し、その後、招待制にするという。ベイオ氏は、収益を有料イベントに頼る予定だ。モデレーションの問題や、バーチャルなゾウ、シマウマ、アライグマの間で繰り広げられる何百もの会話を同時にホストするコストのため、無料枠の提供は様子を見ることにしている。

スキティシュでの散歩

筆者は、このプロジェクトについて話を聞くため、スキティシュを介してベイオ氏と会ったのだが、ZoomミーティングやGoogle Hangout(グーグル・ハングアウト)よりもすぐに堅苦しい雰囲気はなくなった気がした。筆者は気高いアライグマとなり、ベイオ氏のフクロウを追って、カラフルなポリゴンで構成されたバーチャルセットの中を、まるで公園でコーヒーでも飲みながら散歩しているかのように回った。

スキティシュはビデオゲームのようで、WASDキーを使って動き回ることもでき、誰でもすぐにコツをつかめるような、わかりやすい作りになっている。シンプルなグラフィックによる世界観は、クールでクリエイティブな雰囲気を醸し出している。アバターはアイドルアニメーションにより絶えず弾んでいて、ゾウ、アライグマ、シマウマたちは生気を放っている。

他の革新的なアバターベースのバーチャル世界(AltspaceVR[オルトスペース・ヴィアールなど)での体験と同じように、本当にその場にいて、ただぶらぶらしているような気分は、新鮮な感覚だった。こういった感覚については、マルチプレイヤーゲームが従来のソーシャルネットワークのはるか先を行く。「フォートナイト」や「Minecraft(マインクラフト)」が、多くの若者たちにとって事実上のソーシャルネットワークとなっているのも当然のことだ。スキティシュでは、高品質の空間オーディオと遊び心に満ちた臨場感も、同様に何かをもたらしてくれる。

バーチャルなフクロウはさておき、スキティシュが成功するのは、人々がバーチャル世界を超えてつながりを築き始めた時だとし、ベイオ氏は次のように語る。「現実の世界で行ってきたイベントと同じように、遊び心のある環境で人々が出会い、新しい友人を作ったという話を聞いた時、スキティシュは成功したと言えるだろう」。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Skittish仮想空間音声ソーシャルネットワークClubhouseどうぶつの森シリーズ

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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