メタバースの内と外で生まれるビジネスは「インターネット」の進化をなぞる?

今、国内ではメタバースが熱い。「Oculus」(現在は、ブランド名が「Meta」に変更されている)が2018年から販売しているスタンドアロンVRゴーグルのおかげで、高価なPCや接続に関する複雑な知識なしに、メタバースの世界に入れるようになったからだ。また、マスメディアで報道されるようになったことも要因だろう。

早くからメタバース(当初はVRと呼ばれていたが)に着目し、今やメタバースに住んでいると言っても過言ではないShiftallのCEO岩佐琢磨氏は、自社でメタバース関連のアイテムを開発している。

そんなメタバース界の当事者である岩佐氏には、メタバースの楽しさや、他国との温度感の差、メタバース内での生活を快適にするアイテムなどについて聞いてきた。3回目となる今回は、メタバースとそれにまつわる今後のビジネスなどについて話を伺った。

関連記事
自らもメタバースの住人で専用デバイスも開発、Shiftall岩佐氏に聞く「メタバース周りの現状」
ヘビーユーザーだからこそ生まれたメタバースでの時間をリッチにするShiftallの新製品

メタバースでの滞在時間が長くなることで生まれる新ビジネス

人は実生活において、住まいの居心地を良くしたり、人に会うときには好印象を持ってもらうためきれいな身なりをするように心がけるものだ。そのために、より快適な家を求めたり、家具を買ったりするし、美容院に行く、流行の服を買うといった消費が発生する。

同様に、メタバース内で生活する人が増えれば、その空間(ワールド)や自分(アバター)をより良いものにしたいというニーズが生まれ、そこにビジネスも生まれる発生する。

「すでに、経済活動が行われています」と岩佐氏はいう。「例えばアバター作家といった職業も誕生しています。しかもそのビジネスは国境を超えたものです。現在、日本のメタバースシーンで人気を博しているアバターは、日本だけでなく韓国のクリエイターによるものも多いです。現在のところ、まだメタバースに足を踏み入れている人の数は決して多くはありませんが、今後、その人数は増えていくでしょう。自分を表現するアバターはとても大切なものです。そこで1つ5000円のアバターでも購入されることは十分に考えられます。それを全世界規模で、例えば100万人が買うようになったらかなりの経済規模になります」。

また、ワールドにはもっとビジネスチャンスがありそうだ。

「今後、ホームページを持つように企業はそれぞれワールドを持つようになるかもしれません。またイベントを開催するときなどに特設ページを用意するように、企業がメタバースでイベントを行う際、そのイベントごとにコンセプトや雰囲気が違うワールドが必要になると思います」と岩佐氏はいう。

それはたとえば人気コミックを販売している出版社が、昔の日本を舞台にした作品と海を舞台にした作品でそれぞれイベントを行いたいと考えた場合、それぞれのイメージに合った会場を用意するのと似ている。

「今後、ホームページ以上に多様なワールドが必要とされ、作られていくのではないかと思います。そのため、ワールドを作ることができる人へのニーズが高まり、経済が回っていく日は遠くないでしょう」と岩佐氏は語る。

このようにメタバース内でのビジネスで暮らして人たちが登場する時期はまったくわからないというが、すでにアバタービジネスをグループで行っている人たちが出始めていることから「数万人から数十万人規模の人が、メタバースの世界の中で作ったもので生活できるようになるのには、そう長い時間がかからないのではないか」と岩佐氏は予測している。

NFTがメタバース内のビジネスとして成り立たない理由

また「メタバース」と同じく新しい技術としてNFTも注目を集めている。ブロックチェーン技術を使ったNFTなどのサービスは、デジタルで作られたもう1つの世界であるメタバースと親和性が高いのではないかと漠然と考えていた。

しかし、岩佐氏は「NFT×メタバースは現時点ではあまり相性が良くない」とバッサリ否定する。それぞれのユーザーと事業者がお互いに異質な存在になっているというのがその理由だ。

「NFTで売買したデータ、それ自体はいくらでもコピーできます。ただ、NFTであればその正当な所有権が誰にあるのか、というトランザクションの履歴をチェーンの上に保存でき、それを改ざんできないという特性があるだけです」という。

つまり、NFTアートを購入した場合、買った本人は権利を持っているということで自尊心が満たされ、さらにその権利を売って儲けることもできるだけだともいえる。

「メタバースの中で大切なことは、絵の所有権ではなく絵そのもの。ワールドにそれを飾ることに価値があるのです。すばらしい絵が飾られているすばらしい空間があることに意味があります」と岩佐氏は語る。飾る絵を選び、用意することが重要なのだ。NFTアートである必要はないのだ。

また、現在のところVRChatを提供しているプラットフォームSteamは、暗号資産やNFTを全面的に禁止している。これは余計なトラブルを避けるためのルールでもあるのだろうが、暗号資産、NFTがメタバースで現状、その成長に必要なものではない、ユーザーに強く求められているものではないということでもあるだろう。

求められるであろうガジェット

メタバースを巡るビジネスは、その中だけのものにとどまらない。

例えば前回の記事で紹介した、メタバース内での生活をより快適にするためのガジェットとしてShiftallはヘッドマウントディスプレイ「MeganeX」や、自分の動きを自在にトラッキングしてくれる「HaritoraX」、また仮想空間の温度をリアルに感じられるようにするウェアラブルデバイス「Pebble Feel」を開発、提供する。

メタバースを楽しむために開発されたアイテム。左上から時計回りに「MeganeX」、音漏れを防ぐBluetoothマイク「mutalk」「Pebble Feel』

「ヘッドマウントディスプレイ、コントローラー、トラッキングデバイスが、現時点でのハードウェア3大デバイスでしょう」と岩佐氏。「ただ、今後はもっとさまざまな分野のものが増えてくると考えている」と語る。

「CES 2022 では、メタバース内で触れられたときに、その触覚を感じるスーツのようなものが発表されていました。そうしたハプティクススーツとHaritraXのようなトラッキングデバイスがセットになったようなものが出てくるかもしれません。

現時点では、ヘッドセットの下に表情をセンシングするフェイシャルトラッカーデバイスを装着して現実の表情とアバターの表情を同期させている人もいます。デバイスの形状や種類は、どんどん変化していくのではないでしょうか」(岩佐氏)

そのような中で、VRChatがOpenSound Control(以下、OSC)という新しいプロトコルに対応したことが発表された。OSCは、オーディオ機器と音楽パフォーマンス向けのコントローラーを接続するためのプロトコルだが、その他の機器との接続にも利用可能でアイデア次第でこれまでなかった機器をメタバースの世界につなげることができる。

「例えば、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったら、アバターの顔を赤くする、現実世界の室温が25℃を超えたらアバターが上着を脱ぐ。逆に、アバターが靴を脱ぐ操作をしたら、エアコンの温度を2℃下げるなど現実世界側を操作することも可能になります」と岩佐氏。

VRChatがOSCに対応したことで、脈波センサーを付けて、脈拍が上がったらアバターの顔を赤くするといったことも可能になる

また、コミニケーションをとる上で壁となる言語についても、OSCを使ってText to Speachで話す、外部ツールに話す内容をいったん投げて翻訳させるといったこともすでにできるようになる。とはいえ「まだまだ翻訳ツールには改善の余地があるため、言語ごとに人が集まっているのが現状。時間の経過とともに解決されるのではと期待している」とのこと。

電子工作が得意な人たちが、すでにさまざま操作を個人的にテストしているが、今後、それらのアイデアが製品化することも十分考えられる。

Metaをはじめとするテック企業が新しいビジネスのフィールドとして新サービスをスタートさせることも多いが、まだまだ始まったばかりの「メタバース」。今後、その体験を現実のものに近づける(もしくは現実では不可能なことを可能にする)新たなガジェットや新サービスが発表されていくだろう。

現在、私たちの周りに当たり前のように存在するインターネットと同様に、メタバースももっと身近なものになり生活の一部になる可能性は大きい。特にコロナ禍で人と人との距離感が変わった今、遠く離れていても目の前にいるかのように他人とコミュニケーションがとれるメタバースは加速度的に進化していくかもしれない。

そしてそれにともなって、そこで生きる、生活の糧を得る人も生まれてくる。インターネット黎明期、まずそこにアクセスしホームページで情報を公開したり得たりすることだけで興奮していたが、現在そこは、eコマースをはじめとしたビジネスの舞台にもなっている。メタバースでもまた同様のことが起こることが予想される。新しい世界は、また新しい可能性に満ちている。

アップルがiTunesストアの「購入」について集団訴訟に直面、「購入」と「レンタル」の区別が欺瞞的との主張

アップルがiTunesストアの「購入」について集団訴訟に直面、「購入」と「レンタル」の区別が欺瞞的との主張

電子書籍や音楽などDRM(デジタル著作権管理)がかかったものは、一般にあくまで「アクセス権」を購入しているにすぎず、ストアがサービスが終了したりアクセス権を停止すれば読んだり視聴できなくなるリスクがあります。

そうした文脈のもと、アップルがiTunesストアで映画やテレビ番組につき「購入」が詐欺的だとして集団訴訟に直面していると報じられています。

米メディアHollywood Reporterによると、本訴訟はカリフォルニア州の連邦地裁に提起されたものです。主席原告のデビッド・アンディーノ氏は、「購入」と「レンタル」の区別が欺瞞的だと言い、なぜならアップルが「購入した」コンテンツへのアクセスを停止する権利を持っており、実際に何度も行ってきた(だから「買う」と「借りる」の違いはない)と主張しているとのことです。

この裁判を担当するジョン・メンデス判事いわく、アップル側は「購入したコンテンツがiTunesプラットフォーム上に無期限に残ると信じている合理的消費者はいない(つまり永遠にアクセス権を取り消されないと信じてはいない)」と主張して訴訟を却下させようとしたとのことです。

しかし判事は「一般的な言い回しでは、『購入する』という言葉は何かの所有権を獲得することを意味しています」「合理的な消費者は自分のアクセスが取り消されないことを期待すると考えるのが妥当だと思われます」として、訴訟を却下せずに継続を認めています。

ほか、アンディーノ氏の主張に対してアップルは、原告が「デジタルコンテンツを買うのをやめたとも言ってないし、デジタルコンテンツが改善されたと思えるようなiTunes Storeの変更も申し立てていないので、有効な将来の脅迫侵害を主張していない」と反論したとのこと。これを判事は、原告が購入したコンテンツがいつか消える可能性があるという損害は具体性を欠き、むしろ憶測にすぎないと主張しているとまとめています。

アップルの主張につき判事は「原告が主張する損害は、アップルが言うような『購入したコンテンツへのアクセスをいつか失うかもしれない』というものではない。むしろ購入時に高額な金額を支払ったこと、または不当表示がなければ使わなかったであろうお金を払ったことが損害です。この経済的損害は、アップルが主張するような憶測ではなく、具体的かつ現実的なもの」だとコメントしています。

メンデス判事は、原告の主張のうち不当利得返還請求を棄却したものの、アップルにコンテンツ販売方法の変更を迫ることができる差止命令の余地は残したとのこと。つまりアンディーノ氏ら原告は払ったお金を返してもらうことはできないが、iTunesストアの「購入する」など表記の修正命令を勝ち取れる可能性はあるわけです。

こうしたデジタルコンテンツにまつわる問題は、アップルのみならずAmazonなどにも深く関係があり、実際に米Amazonプライムビデオは不公正な競争と虚偽の広告があるとして訴訟を起こされています。今回の訴訟もゆくえによっては、デジタルコンテンツ業界に広く影響を及ぼすのかもしれません。

(Source:Hollywood ReporterEngadget日本版より転載)

カテゴリー:ネットサービス
タグ:iTunes(製品・サービス)Apple / アップル(企業)訴訟 / 裁判(用語)DRM(用語)ネットショッピング / eコマース(用語)