1日70円の傘シェア「アイカサ」がJR東日本系などから資金調達、駅周辺への設置加速へ

1日70円で傘を使用できる“傘のシェアリング”サービス「アイカサ」を展開するNature Innovation Groupは6月12日、JR東日本スタートアップと三井住友海上キャピタルを引受先とする第三者割当増資により、総額で約3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

JR東日本スタートアップとは業務提携も締結し、駅や駅ビルなどへのアイカサ導入を加速させる方針。まずは本日よりJR上野駅・御徒町駅にアイカサが設置される。

これまでも何度か紹介しているアイカサは傘のシェアリングエコノミーサービスだ。ユーザーはLINEアプリから専用の傘が設置されている「アイカサスポット」を探し、QRコードを読み取り傘のロックを解除する。

借りた傘はどのアイカサスポットで返却しても良く、1日に何回借りても料金は70円。1ヶ月の上限金額は420円のため、6日以上使った場合もそれ以上追加で課金されることはない。決済はクレジットカードまたはLINE Payを通じて行う。

遊休スペースをアイカサスポットとして提供する事業者などはアイカサ利用料の一部をレベニューシェアとして受け取れるほか、顧客との新たな接点を作るためのチャネルとしても活用できる仕組みだ。

2018年12月の正式リリースから約半年、当初は渋谷の50箇所からスタートしたアイカサスポットは上野エリアを含めると200箇所を突破。設置している傘の本数も3000本〜4000本ほどに増え、登録ユーザー数も2万人を超えた。

利用するには決済情報とLINEのIDが必要なこともあり、今の所は返却率に関してもほぼ100%だという(一部で買取りたいというユーザーや、間違って持って行ってしまうユーザーはいるとのこと)。

Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司氏いわく「リリース前には1箇所ずつ飛び込み営業をして何とかスポットを開拓していた」状態だったが、シェアリングエコノミーやSDGsの認知が広がっていること、少しずつ提携の事例が積み上がってきたことで、直近では当初思い描いていた以上にスポットの開拓が進んでいるようだ。

「インバウンドで問い合わせを頂いたり、こちらから話をするとすでに知ってくださっていたり。(タッグを組む)企業からの反応が半年で大きく変わり、お金を払ってでもアイカサを置きたいと言ってくれる事業者も出てきている。単に数が増えているだけでなく、自分たちにとって重要な場所に設置できるようになってきた」(丸川氏)

ローソン TOC大崎店に開設されているアイカサスポット

2月には都内にあるローソン5店舗にアイカサを設置した。以前丸川氏に取材した際に「日本では年間で約8000万本のビニール傘が消費されていて、それをリプレイスしていきたい」という話をしていただけに、実証実験段階ではあるものの正式にコンビニとタッグを組めたことは大きな変化と言えるだろう。

この実証実験を通じて成果が見込めるようであれば、今後はより多くの店舗へアイカサを設置する計画だという。そのほか多店舗展開する事業者としてはメガネスーパーとも提携オフィスに無料でアイカサを導入できる法人向けのプランも始めている。

加えて直近では自治体や街の交通インフラを担う鉄道会社、不動産デベロッパーとも提携に向けて動いているそうだ。5月には福岡市やLINE Fukuokaと協力して福岡に上陸。福岡市営地下鉄天神駅や西鉄福岡駅、キャナルシティ博多など約50箇所のスポットに1000本の傘を設置した。

本日6月12日からは冒頭でも触れた通り上野での本格展開もスタート。JR上野駅・御徒町駅に加え京成上野駅や東京国立博物館、東京都美術館、アトレ上野店、松坂屋など約50箇所が追加されることになる。

福岡ではすでに先行して駅への設置が始まっていたけれど、都内では今回の上野エリアが初めて。これが広がれば毎日のように電車移動するビジネスパーソンや学生などにとっては、より使い勝手がよくなりそうだ。乗車駅と降車駅双方にアイカサスポットがあれば、電車内に濡れた傘を持ち込まずにも済むだろう。

「JRでは全グループを合わせると推定で数千万本の傘を毎年処分しているという。忘れた傘をわざわざ取りに行く人もいないので、一定の処分コストもかかる。シェア傘の場合は処分することなく、同じ傘がぐるぐる回って行くので『移動を便利にすることで都市を快適にする』という考え方にもフィットして、今回の業務提携に至った」(丸川氏)

Nature Innovation Groupは京浜急行電鉄のアクセラレータープログラムにも採択されていて、今後は京急品川駅などへの設置も予定しているそう。アイカサをプラットフォームとして浸透させていくためには「各鉄道会社や事業者が(別のサービスではなく)共通してアイカサを導入していることが必要」(丸川氏)であり、今年はそのための提携に力を入れていく方針だ。

西鉄福岡駅

「半年間運営する中で、いい場所に傘を置ければしっかりと使われることはわかってきた。まずは駅周辺を中心にスポットを増やし、商業施設やオフィスビル、レジデンスまで広げていきたい。外出中に雨が降ってもすぐに傘を貸し借りできるような環境を作ることができれば、雨の日でも手ぶらで移動できるようになる。アイカサを雨の日のインフラにしていきたい」(丸川氏)

今後は新しい取り組みとして、サブスクリプションモデルのプランも計画しているとのこと。まずは今回調達した資金も活用して傘の製造とエリアおよびアイカサスポットの拡大を進める予定で「東京五輪が開催される2020年に3万本の設置を目指す」という。

上野エリアでは「パンダ柄」のオリジナル傘も設置する

外国人労働者のビザ取得をサポートするone visaが4.5億円の資金調達

日本で働く外国人労働者のビザ取得をサポートする「one visa(ワンビザ)」提供のone visaは6月11日、全保連、セブン銀行、大垣共立銀行、キャナルベンチャーズ、サイバーエージェント(藤田ファンド)、ANRIを引受先とする第三者割当増資、ならびに日本政策金融公庫の資本制ローンに基づく融資により、総額で約4.5億円の資金を調達を実施したと発表。累計調達額は約5.5億円となった。

代表取締役CEOの岡村アルベルト氏が2015年に設立したone visaは、2017年よりビザ申請・管理の法人向けウェブサービス「one visa」を提供している。

one visaは「ワンクリック申請書類作成」「メンバー管理」「代理申請」の3つの機能により、外国籍社員のビザ申請、更新タイミングの管理、従業員からの問い合わせ対応までワンストップで対応。同社いわく、外国籍社員のビザ申請にかかる工数を大幅に削減できるほか、コストを業界平均の半額以下に抑えることを可能とする。2017年6月にリリースされ、現在、約470社が導入済みだ。

one visaでは他にも、海外人材に対して来日前・来日支援、定住支援を行う「海外人材来日・定住支援サービス」も2018年12月より提供。4月施行の改正入管法により、特定技能という新しい在留資格が制定され、外国籍人材の就業に関する制約が緩和された。そのような在留資格の外国籍人材に必要なサポートを一気通貫で提供していくのが同サービスの狙いだ。

同サービスでは、セブン銀行との提携により「来日とほぼ同時の銀行口座開設」、ならびに、クレディセゾンとの提携により「来日直後のクレジットカード発行」を可能にするべく動いている。加えて、富士ゼロックスシステムサービスとの提携により、外国籍人材がスムーズに役所への各種届出が行える環境を構築する。

また、one visaは関⻄大学の監修のもと、カンボジアのプノンペンに教育機関の「one visa Education Center」を2018年9月に設立している。同校の学生は特定技能を取得するために必要な日本語能力検定試験4級を習得できるレベルの日本語能力の習得を目指す。学生からは一切授業料等の費用を徴収しない「経済的に持続可能な仕組み」の構築を目指している。代表の岡村氏は、「海外での試験はまだ開催されていない」が、「試験の早期開催を目指し、業界団体、関係省庁へのアプローチを続けている」と話した。

調達した資金をもとに、one visaは「利用企業の増加ペースを加速させる」ことを目指すほか、岡村氏いわく、「全保連とは、外国籍の方の『住居の審査が通らない』という課題を無くすべく、動いている」。

健康管理業務をクラウドで効率化する「Carely」運営のiCareが5.2億円の資金調達

人事の健康管理業務をクラウドで効率化する「Carely」運営のiCareは6月10日、グローバル・ブレイン(SFV・GB投資事業有限責任組合)、インキュベイトファンド、Beyond Next Ventures、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三井住友海上キャピタルからの総額5億2000万円の資金調達を実施したと発表。累計調達額は8億6000万円となった。

2011年設立のiCareのミッションは「カンパニーケアの常識を変える」。同社は健康管理業務をクラウドで効率化するCarelyを2016年3月より提供している。

Carelyを使えば、従業員の健康情報を一元管理できるほか、プランによりサービス内容は異なるが、健康診断の予約、ストレスチェックの実施、残業時間の管理などをCarelyに任せることが可能だ。従業員の健康情報を一元管理すると、不調者の状況が一目でわかり、Carelyの保健師がチャット相談することで健康改善を促進する。iCareいわく、Carelyは「人事が抱える煩雑で複雑な業務を4分の1に効率化する」。

iCareのSales/Marketing部長の中野雄介氏いわく、今年4月に施行された改正労働基準法の影響もあり、2018年度、同社のMRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)は前年度対比で2倍に成長。獲得アカウント数も2018年度当初から2.5倍へと増加した。

調達した資金をもとに、iCareは開発やマーケティング活動を加速させ、カスタマーサクセス体制を強化。「Carelyを基盤とした新規事業の研究・開発」にも踏み込む。

不動産テックのEQONが3000万円を調達、査定+エージェント検索で「仲介2.0」に備え

不動産取引をエージェント探しから始められるサービス「EGENT(イージェント)」を提供する、不動産テックのスタートアップEQONは6月10日、サイバーエージェント・キャピタルが運用する2号ファンド(CA Startups Internet Fund2号投資事業有限責任組合)を引受先として、J-KISS方式で3000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

不動産エージェントを厳選する「EGENT」

EGENTは、不動産エージェントとユーザーをつなぐプラットフォームだ。ユーザーは物件やエリアを入力することで、その地域の相場に詳しく、売買実績や専門知識が豊富な担当者に不動産取引について相談することができる。売買・賃貸の取引形態やマンション・戸建てなど物件の形態は問わない。

2019年1月にベータ版を正式公開したEGENTは、その後フルリニューアルを実施。ユーザーがエージェントの選別をするステップを省き、フォーム入力後、EGENTのカスタマーサクセスチームから連絡する方式に変更された。

加盟する不動産会社は東京23区で約150社、登録エージェントは170名ほどになっている。EQON代表取締役の三井將義氏によると、リニューアル前と同様「担当者はかなり厳選している」とのこと。「実務経験で平均15年、年間の売買件数は担当者全体で延べ4000件ほどと、実績のあるエージェントがそろっている。担当者のハズレはない、という水準が維持できている」(三井氏)

EGENTのカスタマーサクセスでは、ユーザーの“相場理解”をサポートする取り組みとして、EGENTが収集するエリアの売買事例や売出事例をExcelシートにまとめて提供している。23区内であれば各地域(町丁目の周辺単位)ごとに平均100〜200件の事例をファイルで渡し、利用者が自分でExcelを操作しながら売出価格や購入価格を決められるようにしている。

賃貸物件と異なり、中古住宅やマンションの売買では地域の相場が分かりにくい。「不動産屋では、購入するときには相場より高い物件を紹介され、販売するときには早く取引を完了させたいと安い売出価格を付けられがち」と三井氏。Excelシートは「すでに不動産屋から査定書を入手している場合には、それが適正価格かどうかの判断材料としても活用してもらっている」という。

カスタマーサクセスでは、ユーザーが紹介したエージェントとスタンスが合わないと感じれば、変更にも随時応じているという。EGENTに要望に合うエージェントが登録されていない場合でも「どの不動産業者がどのエリアで優秀か把握している」(三井氏)ということで、登録されていない他社の担当者を推薦することもあるそうだ。

「ググれば家の価格が分かる」仲介2.0時代

今回の調達資金について三井氏は、「EGENTのサイトフルリニューアルも完了し、本格的にマーケティングを行う段階に入った。ユーザー向けのマーケティングと、カスタマーサクセスの強化に投資していく」と話している。また新プロダクトとして、AIによる不動産の査定サービス「HomeEstimate(ホームエスティメート)」のリリースも予定しているそうだ。

三井氏によれば、AI査定サービスは2015年以降、日本で20弱ほど存在しているとのこと。最近では5月に、GA technologiesが運営する「RENOSY」でAI価格査定などを提供する中古マンション売却サービス「RENOSY SELL」がリリースされたばかりだ。そのAI査定精度は、MER(誤差率中央値)3.32%と発表されている。

「東京23区での売出価格と成約価格の差は約7%であることを考えると、街の不動産屋の値付けよりはAI査定の方が正確と言ってよいレベルまで来ている」(三井氏)

三井氏は「遅かれ早かれ、ここ数年で『ググれば家の価格が分かる』世界が来る」と予測。「EQONとしてもAI査定サービスは参入したい領域」として開発を進めている。「この領域のブレイクスルーには、エンドユーザーの納得感が必要だと思っている。UI/UXに向き合ったプロダクトを作りたい」(三井氏)

不動産屋へ通い、エージェントに会わなくても相場が分かる時代になれば「生き残るのは相場より、より高く売れる、より安く買える担当者だ」と三井氏はいう。「そうした腕利きのエージェントを見つけるためのサービスがEGENT。査定サービスとの相乗効果も期待できると考えている」(三井氏)

新サービスのローンチは9月末ごろを予定しているという三井氏。「これまで物件価格を知るためには不動産屋に足を運ぶ必要があったが、検索で価格が分かるようになれば、エージェントの価値が『価格を知っている』というところから別の価値へ移っていく。情報の非対称性だけで仕事をしていた不動産屋は淘汰される可能性もあるだろう」と述べている。

「いよいよ『仲介2.0』が始まろうとしている時代。『価格が知りたい』と査定サービスを入口として利用したユーザーが、自然に『次はよいエージェントが知りたい』と流れてくるような、一気通貫のサービスを展開したい。また、反響(ユーザーの問い合わせ)の数が増えてくれば、自社買取も実施できるのではないかと検討している」(三井氏)

Web接客で“おもてなしをデジタル化”するSprocketが2.8億円の資金調達

右から2番目がSprocket代表取締役の深田浩嗣氏

おもてなしをデジタル化

「デジタルマーケティングの領域はどんどん広がっている。もともと、マーケティングはどれだけ沢山の人に企業が伝えたいことを届けるかといった活動だったと思うが、今はウェブやアプリで物が買え、そのあとフォローができたりする。単純にメッセージを届けるだけではなく、お店の役割やその後の関係構築の役割がある」

そう話すのは、Web接客プラットフォーム「Sprocket(スプロケット)」の開発・提供・運用を行うSprocket代表取締役の深田浩嗣氏。

「だが、実際にマーケティングのコミュニケーションとして届けられている情報や内容の質的な部分はそこまで大きく変わってきていないな、と思っている。割引のクーポンやポイントといった情報、もしくはオススメ商品を届けるか、この2パターンくらいしかコミュニケーションの幅がない」(深田氏)

お店に行くと、店員は顧客に割引情報の話しばかりをするわけではない。だが、デジタルだと「やりがち」だと深田氏は指摘。ECなどにおいて、顧客の求めている情報の提供や不安の解消が適切に行えていない。そこの部分におけるコミュニケーション幅を広げ「おもてなしをデジタル化」するべくSprocketは開発された。

Web接客プラットフォームSprocket

Sprocketはページ閲覧、スクロール、クリックなど、ユーザーのサイト上での行動の情報を活用し、カスタマージャーニーに合わせて最適なタイミングでポップアップを表示する。最近では、「ユーザーに話しかけていいタイミングをAIに最適化させる」といった試みも開始。「チューニングの1つの手法」として取り入れられている。

サイト上には様々な導入事例が用意されている。2018年9月にSprocketを導入したキユーピーが開発したサプリ・化粧品の直販会社、トウ・キユーピーの事例では、カート内でポップアップを表示することで「顧客に定期購入へのアップセルを提案する施策」を実施し、顧客単価を120%向上させることができたという。

すかいらーくレストランツは2018年1月にSprocketを導入し、新規会員獲得率が120%になったと説明している。

深田氏は「今後、コミュニケーションの幅を更に広げていきたい」と話した。

リアル店舗で行われている、「商品の選び方のサジェスト」や「不安の解消」はツールを作り行ってきたが、「デジタルでできるコミュニケーションの幅は本当はもっと広い」(深田氏)

そのため、お店の接客的なものじゃない形でも、ちょっとしたゲーミフィケーション要素など、リアル接客とは違ったデジタル特有のものも検討していると同氏は加えた。

競合はプレイドの「KARTE」NTTドコモの「ec コンシェル」など。競合とSprocketはどう違うのか。深田氏は、「我々の特徴は改善の成果を提供するまで手厚くサポートすること」だと述べた。

「契約時にROIを設定し、そのROIの到達に向けて、SprocketチームがPDCAを回す」「豊富な経験から貴社にあったシナリオの組み合わせを迅速に提案」といった具合に、カスタマーサクセスにコミットしている。

2.8億円の資金調達、Sprocketの今後

Sprocketは6月4日、リード投資家のXTech Ventures、Salesforce Ventures、キャナルベンチャーズから総額2億8000万円の資金調達を実施したと発表した。

同社は2015年に1億2000万円の資金調達を行い、2017年1月にもシリーズAとして1億6000万円の資金調達をD4V、アコード・ベンチャーズなどから行っている。累計調達額は5億6000万円。

同社は今回の資金調達により「プラットフォームの開発スピード」ならびに「市場拡大に向けた販売促進策」を加速させる。

Salesforce Ventures日本代表の浅田慎二氏は「今後、Salesforceと連携、協業することで、日本市場だけでなくグローバル展開も可能であり、期待している」とコメントしている。

企業が独自の“社内仮想通貨”を発行できる「コミュニティオ」が1億円を調達

企業が独自の名称で社内仮想通貨を発行できるサービス「コミュニティオ」を展開するコミュニティオは6月6日、XTech Venturesとセレスを引受先とする第三者割当増資により総額1億円を調達したことを明らかにした。

ユーザーとなる企業はコミュニティオを通じて社内で使えるオリジナルの仮想通貨(ポイントに近いもの)を発行。推奨されるような行動をとった社員に対するインセンティブや、社員同士で感謝の気持ちを表す手段として付与・送付する。

受け取った通貨はアプリを介して社員食堂やオフィス内コンビニなどの決済に用いることが可能なため、給料や賞与とは違った“ちょっとしたボーナス”のような役割を果たすツールと捉えることもできるだろう。

ピアボーナスや業務最適化の目的などで活用

コミュニティオ代表取締役の嶋⽥健作氏によると、昨年の10月にサービスを開始して以降、大企業を中心に約10社が利用しているとのこと。たとえばコミュニケーション活性化を目的として同僚間で少額の通貨を送り合う文化を形成しているケースもあれば、実業務と連動して特定のアクションをすれば通貨が付与される形で運用している企業もあるという。

前者のように各社員が誰に対してでも気軽に“成果給”を送れる「ピアボーナス」としての使い方は、「Unipos」を始めそこにフォーカスしたプロダクトや事例も出てきているのでイメージしやすいだろう。新たなコミュニケーションが生まれるきっかけになるほか、今まで可視化されていなかった各社員の“良い行い”が社内にも見えるようになる。

「顧客と話していると『日々のちょっとした良い行動をきちんと褒める仕組みがない』という話を聞く。社内通貨やポイントと紐づくことで、会社でコツコツやったことが半年に1回の査定時などではなく、すぐに評価される仕組みを作れる点に興味を持ってもらえるケースは多い」(嶋田氏)

もう一方の実業務との連動については「定時に勤怠システムを打刻すれば通貨が付与される」など、普段の業務を最適化するための仕掛けとして社内通貨を活用する。

勤怠においては1月にチームスピリットが開発する「TeamSpirit」の勤怠管理システムと連携。同サービスから出退勤打刻を行うと、出退勤の時刻に合わせてコミュニティオ上で自動的に社内仮想通貨が付与される仕組みを作った。

要はコミュニティオが打刻漏れや遅刻を防ぎ、勤怠を習慣化させるためのツールにもなり得るということだ。

今のところ他社ツールとの連携で発表されているのは勤怠管理システムのみだが、今後は他の作業や健康に関するアクションまで、自動で集計して通貨(ポイント)が付与される仕組みを広げていくという。

また少し別の切り口では、社内で業務を受発注する際に独自通貨を用いる事例もある。これは社内の誰かに業務を依頼する場合、その業務自体に値付けをしてコンペやオークションのように発注する形だ。

嶋⽥氏いわく「社内でクラウドソーシング的に業務を依頼するようなイメージ」だが、特に大企業の場合は各メンバーが持つスキルが集合知的に共有されていないことも多いため、そこで機会損失や無駄が発生してしまっている恐れもある。

これまでパートナー企業に外注していた業務をもっと上手くやれるメンバーが社内の違う部署にいたり、ある業務に対してものすごく熱量を持った社員がいたり。社内通貨が1つのきっかけとなって、隠れた才能の発見や業務の質の向上などに繋がることも考えられるだろう。

「社内通貨」という表現をしているかはさておき、近しい使い方ができるプロダクトやその事例は今までもあった。社内専用のポイントを発行できるサービスや上述したUniposがまさにそうだし、以前紹介した「KOU」のようなコミュニティコインも登場している。

コミュニティオの場合は他社ツールとの連携も進めながら、かなり汎用的に作られているのが1つの特徴。関連するプロダクトが増えることで、今後より多くの企業に社内通貨が広がっていく可能性もありそうだ。

集めた社内通貨はオフィスコンビニや社員食堂などで実際に活用できる

オルトプラスからスピンアウト、外部調達で開発加速へ

コミュニティオ代表の嶋田氏はライブドアにおいてデータセンター事業の技術担当執行役員や事業部長を務めた後、データホテルの代表取締役社長、テコラス(現NHNテコラス)代表取締役社長などを経てオルトプラスにCTOとして参画した人物だ。

オルトプラスではブロックチェーン技術「Hyperledger iroha」を用いたR&Dプロジェクトを進めていて、ユースケースの1つとして取り組んだ社内仮想通貨の実証実験が現在のコミュニティオにも繋がっている。

投資家であるXTech Ventures、セレスとコミュニティオのメンバー。中央が代表取締役の嶋⽥健作氏

「(社内の取り組みを)発表してみたところ、特に大企業を中心に『HR領域で困っていることを解決したい』という目的での問い合わせが各方面からあった。独立したプロダクトとしても成立しうるという判断から昨年10月にサービスをスタートし、現在は各社のニーズやテーマに合わせていろいろなツール群を開発している状況だ」(嶋田氏)

2019年3月にオルトプラスの100%子会社としてコミュニティオを設立。さらなる事業拡大を目指し、5月には嶋田氏が大半の株を譲り受け、同社からスピンアウトする形で再スタートを切った

今回の資金調達を通じてコミュニティオでは開発体制を強化し、プロダクトのブラッシュアップを進めていく計画。まずは企業内での利用にフォーカスして社内通貨サービスを充実させるとともに、ゆくゆくは地域内通貨などの利用も視野に入れ、価値発⾏プラットフォームとして運⽤領域の拡充を図っていきたいという。

GitHubをAIで解析して“スキル偏差値”算出、エンジニアのキャリア選びを支援するFindyが2億円調達

「Ruby67、Java63、トータル67」——これはエンジニア転職サービスなどを開発するファインディが算出した独自の“スキル偏差値”の一例だ。

同社ではエンジニアユーザーのGitHubをAIを用いて解析し、開発言語別の偏差値を算出している。公開リポジトリが解析の対象で、書いたコードの量や、他のプロジェクトへの貢献度、他者からのコードの支持などがベースだ。

ファインディ代表取締役CEOの山田裕一朗氏は「1番重要視しているのは、エンジニアのキャリアアップに繋がる指標になること。転職活動時などに自分のスキル偏差値を1つの武器として使ってもらえるようにしたい」と開発にかける意気込みを語る。

このスキル偏差値を活用して、エンジニアの転職や案件探しをサポートする事業を2017年より展開。現在はコアとなるアルゴリズムに磨きをかけ、さらなる事業拡大を目指している最中だ。

そのファインディは6月5日、グローバル・ブレインを引受先とした第三者割当増資により約2億円を調達したことを明らかにした。

同社は昨年PKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏、レアジョブ代表取締役社長の中村岳氏、クロス・マーケティング代表取締役社長の五十嵐幹氏を含む複数の投資家から資金調達を実施。今回はそれに続くシリーズAラウンドの資金調達となり、サービスやアルゴリズムの開発スピードを加速させるべく、セールス・エンジニアの採用を強化していく計画だ。

「売れなかった」求人票採点サービスからのスタート

現在ファインディではAIを活用したエンジニアのスキル評価と、それを活用したエンジニアのキャリア支援を核として事業を展開している。

主要なプロダクトは転職サービスの「Findy 転職」とフリーランスや副業の案件をマッチングする「Findy Freelance」の2つ。エンジニアとITベンチャーやデジタルトランスフォーメーションを進める大企業などを繋ぐのがファインディの役割だ。

同社は2016年7月の創業。CEOの山田氏は三菱重工業、ボストンコンサルティンググループを経て2010年に前職となるレアジョブに入社し、執行役員も務めた。

取締役CTOの佐藤将高氏は学生時代にレアジョブでアルバイトをしていたことがあり、山田氏とはその時からの付き合い。東京大学の大学院で自然言語処理やデータマイニングの技術を学んだ後、新卒で入社したグリーでのエンジニア職を経て山田氏と共にFindyを立ち上げた。

現在は2人を中心に約16名の社員・アルバイトの他、30人ほどのフリーランス・副業メンバーでプロダクトの開発を進めている。

最初のプロダクトはAIによる求人票の採点サービスだった

ファインディはもともと「Findy Score」というAIによる求人票の採点サービスからスタートしている。ただ、山田氏いわく「ある程度興味はもってもらえたけれど、一切売れなかった」そうだ。

当時は特にやることもなかったので「無料で求人票を書きます」と募集してみたところ、応募のあった10社の内9社がエンジニアの求人票に関するものだった。これが現在の主力事業にも繋がったという。

「エンジニアにヒアリングをしてみると『人事のエンジニア職種や開発言語に対する理解が不足していること』や『エンジニア自身が技術力や経験値を上手く伝えきれていないこと』などの悩みがあり、これがミスマッチの原因にもなっているとわかった」(山田氏)

この現場のペインを解消するプロダクトとして、2017年5月にスキル偏差値を軸にエンジニアと企業をマッチングするFindy 転職をリリース。2018年2月にはエンジニアのフリーランスや副業ニーズに対応したプロダクトとして、Findy Freelanceの運営も始めた。

Findy 転職は現在約1万人のエンジニア、約100社の企業が利用するサービスに成長。Findy Freelanceについても大手IT企業出身者や在職中のエンジニアを中心に約2000名が登録しているという。

ファインディのプロダクトを導入する企業

年収アップに結びつくスキル偏差値の開発へ

2つのプロダクトに共通する特徴は冒頭でも紹介したスキル偏差値だ。GitHub上で日本国内のユーザーと判定できるエンジニアの公開リポジトリ約15万件を解析し、個々のスキルを偏差値として数値化する。

コントリビューション数閲覧画面

「(技術に対する)人事とエンジニアの理解度の壁が大きかったので、その共通言語を作ることに加えて、算出した偏差値が年収とも相関してくるのが重要だと考えている。英国数理社の偏差値をあげたところで必ずしも収入に繋がるわけではないので、エンジニアのキャリアアップを支援する観点で『このスコアなら、これくらいの年収は目指せる』という目安を作りたい」(山田氏)

山田氏によると、このスキル偏差値を新卒採用などのシーンで使いたい企業もいるようだ。書類選考時など多くの候補者を判断する場合には、採用担当者が学歴(大学の偏差値など)を基準に技術力の高い学生を不採用としてしまい、有能な人材を逃してしまうケースもある。

実際、偏差値自体はそこまで高くない大学に通う学生が中退して就職するべくFindy 転職を使ったところ、数社から中途採用枠で内定が出たそう。スキル偏差値が65を超えるようなエンジニアは「学生だったとしても中途枠で内定が出るし、フリーランスとして時間単価で5000〜6000円稼ぐような人もいる」(山田氏)という。

「Findy 転職」ユーザーにアンケートを取ったところ、スキル偏差値が高いエンジニアは年収も高い傾向となった

エンジニア側のユーザーは腕試しも兼ねて登録しているケースも多く、大手IT企業からスタートアップに務めるエンジニアまで幅広い。特に副業については現職でテックリードを勤めているような人材や、マネジメント業務が多く現場でもっと手を動かしたいというベテランも多く、結果として優秀なエンジニアにアプローチできているそうだ。

スキル偏差値以外に関しては比較的シンプルなプロダクトだが、1企業あたりが1週間に押せる「いいね」の上限数に制限があったり、企業側だけでなくエンジニア側も興味を示していないとスカウトメールが送れなかったりと各機能はエンジニア目線での開発にこだわった。

「エンジニアが、エンジニアユーザー向けに機能を企画して作っているのが1番の特徴と言えるかもしれない」と山田氏が話すように、転職だけではなく普段のOSS(オープンソースソフトウェア)活動を応援する仕組みも実装している。

コントリビューションオブザイヤーの取り組み

スキル偏差値もフックとなって「そこまで積極的に転職活動をしていないエンジニア」も多数登録しているのは1つの特徴だ。ファインディのサービス上で自分が気になる企業が見つかり、転職顕在層になることなく転職するユーザーもいるという。

特にFindy 転職の場合は求人票のアドバイスなど企業側のサポートも徹底的に実施することでマッチングを後押ししている。この辺りは求人票採点サービスで培ったナレッジや経験なども活かされているようだ。

テクノロジーとビジネスを繋ぐ“接着剤”目指す

ファインディのメンバー。前列1番左が代表取締役CEOの山田裕一朗氏、1番右が共同創業者で取締役CTOの佐藤将高氏

ファインディでは今回調達した資金を活用して人材とアルゴリズムへの投資を強化する方針。「コアとなるスキル偏差値の算出やマッチングに関わるアルゴリズムの精度向上に一層力を入れていく」(佐藤氏)ほか、特に大企業の顧客獲得に向けたマーケティング活動にも資金を使っていく。

「かつて日本は技術立国としてハードウェアの領域で優れたプロダクトを生み出し、世界を驚かせてきた。今後はソフトウェアやアルゴリズムの領域でどれだけ戦えるかが重要。テクノロジーが組織に紐づいてきたハードとは異なり、ソフトやアルゴリズムでは個人の力の影響度が大きい。事業を通じて新たなテクノロジーの担い手となる個をエンパワーしていきたい」(山田氏)

現在はアルゴリズムを用いてエンジニア個人のスキルを見える化することに挑んでいるが、ゆくゆくは企業の技術力やカルチャーを評価する指標も開発していく予定。「テクノロジーとビジネスを繋ぐ接着剤になること」を1つの目標に、プロダクトの改善と拡張に取り組んでいくという。

サイト・アプリ多言語化サービス「WOVN.io」が総額14億円を資金調達

ウェブサイトやアプリの多言語化サービスを提供するWovn Technologies(ウォーブンテクノロジーズ)は6月5日、第三者割当増資と銀行などからの融資をあわせ、総額約14億円の資金調達を実施したと発表した。

Wovn Technologiesが提供するのはウェブサイトの多言語化サービス「WOVN.io(ウォーブンドットアイオー)」と、アプリの多言語化に対応した「WOVN.app(ウォーブンドットアップ)」だ。

WOVN.ioは既存の1言語のサイト・アプリがあれば、簡単に多言語化できるというソリューション。詳しい仕組みについては過去の記事を見てもらえればと思うが、言語ごとに別サーバーやページを用意することなく、最大で40カ国語に翻訳が可能で、システム開発やサイト運用、翻訳にかかるコストを削減することができる。

 

今回の第三者割当増資の引受先は、Eight Roads Ventures Japan、NTTファイナンス、オプトベンチャーズ、近鉄ベンチャーパートナーズ、マイナビ、OKBキャピタルの各社だ。

Wovn Technologiesは資金調達により、サイトやアプリを通じた顧客企業の海外戦略をサポートする専任チームを強化する予定だ。同社代表取締役社長の林鷹治氏によれば「一口に多言語化といっても各社、目的はいろいろ」とのこと。「越境ECの商品説明、インバウンド向け旅行会社のツアー紹介、交通機関の安全への取り組みなど、それぞれの企業が目指す外国人戦略について、コンサルティングというよりは併走して支援していく体制を強化したい」(林氏)

また1万5000サイトへと導入が進む中で、大規模サイトや大手企業による利用も増えているというWOVN.io。Wovn Technologiesでは、大規模サイトのための機能開発や、AIによる翻訳業務効率化のための研究なども進めるという。

「我々は、『インターネットをローカライズする世界的な黒子企業』を目指す」という林氏。近日中に、多言語化に関わる新しいサービスの発表も予定しているということだったので、引き続き注目したい。

写真左から、Wovn Technologies取締役製品担当 サンドフォド ジェフリー氏、代表取締役社長 林鷹治氏、取締役副社長 上森久之氏

Wovn Technologiesは2014年3月の設立。これまでに、インキュベイトファンドからの総額約3000万円のシード投資をはじめとして、2015年9月にオプトベンチャーズ、ニッセイ・キャピタルから1.3億円2016年12月にはSBIインベストメントや凸版印刷などから3億円を資金調達している。今回の調達を含め、創業以来の累計調達額は約20億円となる。

人間の食品並のこだわりドッグフードが届く「CoCo Gourmet」、運営は1800万円の調達も

ペット領域で事業を展開するバイオフィリアは6月3日、獣医師・動物栄養学博士が監修するドッグフードの定期購入サービス「CoCo Gourmet(ココ グルメ)」の事前予約受付をスタートした。

同社で代表取締役CEOを務める岩橋洸太氏の言葉を借りれば、CoCo Gourmetは「手作り食のようなドッグフード」のD2Cブランドだ。愛犬を家族のような存在として捉え、少しでも長生きして欲しいと考える飼い主に対して、素材や製法からこだわった健康的なドッグフードを定期的に届ける。

大きなコンセプトは(1)新鮮な食材をそのままに(2)手作りよりも健康的 (3)ヒューマングレードの3点だ。

一般的なドライフードやウエットフードとは異なり、新鮮な肉や野菜を必要最低限の加熱処理のみで調理して冷凍保存するため、食材の栄養価を大きく損なうことなく摂取できるのが特徴。食材そのものが含む水分を保持していることから犬にとっても食べやすいという。

「(ドライ加工やレトルト加工された従来のドッグフードの場合)常温保存ができるようにするため、水分量を10%以下まで落とす加熱発泡処理や、高温高圧による殺菌処理がされている。結果的に栄養価が低下してしまい、足りない分を後からサプリメントで補給するという声もよく耳にする」(岩橋氏)

また飼い主の中には「良いものを食べさせたい」と考えフードを手作りする人も少なくないそうだが、必要な栄養素を網羅した食事を作るのは簡単ではない。

CoCo Gourmetでは動物栄養学の専門家による監修のもと、栄養バランスの良いレシピを作成。総合栄養食の取得も申請中で「手作り食のような質と愛犬が健康的に生きるために必要な栄養素を両立した食事」(岩橋氏)を展開していくのが目標だ。

初期のタイミングでは「チキングルメ」と「ポークグルメ」の2種類を提供する計画で、価格は1箱あたり4480円(1.4kg / 3kgのトイプードルで28食分)。6月18日までの事前予約分については1箱980円で購入できる。

ヒューマングレードを謳っているように、これらのフードは人間が口にするものと同じ品質の食材を利用し、加工や配送、保管など全てのフェーズで食品と同等の基準で管理しているそう。ドッグフード専用の工場で作られることの多い従来の製品とは違い、人間用の食品を手がける工場が製造を担う。

アメリカで先行するペットフード×D2C

CoCo Gourmetを開発するバイオフィリアは2017年8月の設立。これまではペット領域でメディアやアプリなどの事業を展開してきたが、今回新たにフードのD2C事業を始める。

1つのきっかけは岩橋氏が愛犬2頭を立て続けに病気で亡くしてしまったこと。「もっと何かできることがあったのではないかと考えた時に、人間同様に動物にも大きな影響を与える『食』の領域でチャレンジしたいと思った」(岩橋氏)ところから、新しいフードを開発するプロジェクトがスタートした。

事業として継続するからにはビジネスとしてきちんと成り立つようなモデルを作る必要があるが、バイオフィリアCOOの矢作裕之氏によると「生鮮食品のような形でペットフードをD2Cモデルで展開するサービスは、アメリカでは数年前から出てきていて各社グロースしている」そう。

今年1月に3900万ドル(約42億円)を調達した「The Farmer’s Dog」を筆頭に1000万ドルを超える資金調達を実施済みの「NomNomNow」や「ollie」のようなプレイヤーが出てきていて、日本でも同じようなビジネスを展開できるチャンスがあると考えているようだ。

「日本において犬の飼育頭数は900万頭弱で減少傾向にあるものの、ドッグフードを含めペットフードの市場自体は拡大が見込まれている領域だ。飼い主がより良いフードを買おうとする文脈が広がってきているのではないかと考えている」(矢作氏)

左からバイオフィリア代表取締役CEOの岩橋洸太氏、同COOの矢作裕之氏

コアなユーザー層は子育てが一段落した夫婦や子どもがいない夫婦など、ペットを家族の一員として考え、ある程度のお金をかけたいとの気持ちが強い飼い主たちを想定。「『良いものを選んであげたいけれど、どれを選べばいいのかわからない』という課題に対して、圧倒的に良いソリューションを提供する」(岩橋氏)ことを目指している。

バイオフィリアでは今回CoCo Gourmetの事前予約受付の開始とともに、アプリコットベンチャーズとバルクオムCEOの野口卓也氏を引受先とする第三者割当増資により1800万円を調達したことも発表した。

調達した資金はCoCo Gourmetのマーケティングやサポート体制の確立に用いる計画。まずはフードの領域からスタートするが、ゆくゆくはペット領域でD2Cモデルの事業を横展開することも視野に入れているという。

不動産中心に2000社以上が活用、VRクラウド「スペースリー」が4億円を調達

360度VRコンテンツを制作できるSaaS型のクラウドサービス「スペースリー」を運営するスペースリーは6月3日、DNX Ventures、Archetype Ventures、DBJキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額4億円を調達したことを明らかにした。

スペースリーにとって今回の資金調達は2018年3月に実施した約1億円のシードラウンドに続くシリーズAという位置付け。VC3社はすべて前回からのフォローオン出資となる。

同社では調達した資金を活用して人材採用やマーケティング活動を強化していく計画。現在軸となっている不動産領域に加えて人材研修領域での事業展開に力を入れつつ、蓄積されたデータを活用した研究開発にも取り組むという。

なおスペースリーでは資金調達と合わせて清田陽司氏が技術顧問に就任したことを発表した。同氏は人工知能学会編集委員会 副委員長であり、大手不動産メディアを運営するLIFULLのAI戦略室 主席研究員を務める人物だ。

月額4980円から使えるVRクラウドサービス

スペースリーは事業者のVRコンテンツの制作・活用を後押しするクラウドサービスだ。

市販の360度カメラで撮影した写真に、管理画面上で簡単な編集を加えればVRコンテンツとして接客や営業活動に利用することが可能。簡単な操作でコンテンツ内にテキストやリンク、カスタマイズした問い合わせボタンを組み込めるなど使い勝手の良い編集機能や、高画質な画像処理機能を備える。

またブラウザベースに特化していて、作るのも見るのもデバイスを問わない。PCやタブレット、スマホから同じように制作・閲覧でき、店頭営業に用いるだけでなくサイトに埋め込んだりメールなどでURLを共有したりと、幅広い用途で使えるのもウリだ。

料金は月額4980円からの定額制で、保存できる画像の上限数や機能などに応じた3つのプランを展開。顧客を支援するオプションとして対面接客時に便利な小型のVRグラス「カセット」や、撮影・コンテンツ制作代行サポートなども提供している。

現在の利用企業数は2000社を突破。中でも全体の8割ほどを占める不動産分野が好調で、継続率は98.5%(昨年1年間の月次チャーンレートの平均が1.5%)ほどだという。

たとえば導入企業の1社である宅都ホールディングスでは、大学受験シーズンにスペースリーを上手く活用したことで、大学近隣の賃貸仲介店舗の接客数が前年より50%アップ。物件予約の7割が現地での内覧無しで決まったそうだ。

今回の事例ではVRデバイス「Oculus Go」を店頭に備え、スペースリーに昨年追加されたオプション機能「瞬間接客VR」をフル活用した。

この接客システムはVR遠隔同期技術を活用し、アプリ不要、クリックひとつで簡単に市販のVRデバイスを使用して物件を紹介できるというもの。担当者の画面と顧客がVRデバイス越しに見ている映像が同期するため、顧客は実際に現地で内見をしているような感覚で、担当者の説明を受けながら室内の様子をチェックできるのが特徴だ。

受験シーズンは特に込み合う時期なので、短時間で多くの物件を効率良く確認できるのは担当者・顧客双方にとってメリットが大きい。そもそも学生用賃貸マンションの場合、内覧時にはまだ部屋が使われている状態が多いため、中の様子を見れないケースも少なくないそうだ。

宅都ホールディングスにおいてはスペースリーの活用によって、内覧なしでも予約に至るケースが増加。現地での内覧件数が大幅に減ることで顧客1組あたりの接客時間が短縮され、より多くの顧客に物件を紹介できることにも繋がったという。

VR研修領域の展開やデータを活用したR&Dも強化

ビジネス用途でVRを活用するという観点では、不動産は他の領域と比べても比較的導入が進んでいる領域と言えるだろう。リコーのような大企業から、スペースリーやナーブなどスタートアップまで、国内でも関連するプレイヤーの数が増えてきた。

スペースリー代表取締役社長の森田博和氏によると、直近1年だけでも業界の反応が大きく変わってきたそう。「『そもそもVRって何に使えるの?』という反応は少なく、導入を考えているという企業からの問い合わせや他社ツールと比較される機会が増えている。(顧客経由の)紹介も多くなってきた」という。

競争も激しくなりつつはあるが、上述した瞬間接客VRや編集機能を始めとするプロダクトの使い勝手、アカウントの数に応じて柔軟に設計できる料金プランなどを理由に顧客を獲得できているとのこと。成功事例も積み上がってきた中で、ある程度“勝ちパターン”が見えてきているようだ。

直近ではこれまで磨いてきたプロダクトや蓄積してきたナレッジを活用し、不動産領域に続く新たな柱としてVR研修領域の本格展開も始めている。

今回の資金調達はまさにこれらの取り組みを加速させるためのもの。マーケットフィットした不動産領域で事業拡大を目指すほか、すかいらーくホールディングス(飲食)や大同メタル工業(工場)と実証を行ってきたVR研修領域にも力を入れる計画だ。

また昨年開設したラボを通じて、データ分析や画像解析などVR分野におけるAIの実用化にも継続的に取り組むという。

「機械学習を用いてコンテンツの角度を最適な形に補正する機能や、写真に変なものが写り込んでしまった際に補完する機能などは今後実装されていく予定。(コンテンツを)見てる人の関心に合わせて、インターフェースが切り替わったり、加わったりするような機能なども含めて、蓄積してきたデータを反映した仕組みの開発も進める」(森田氏)

今後は「蓄積したデータを使ってどれだけ新しい価値を提供できるか」が1つの差別化ポイントになると話す森田氏。調達した資金を活用しながら行動データや360度VRデータを用いた研究開発を強化し、より便利なプロダクトへと進化させていきたいという。

スタートアップ向け法人クレカ発行のBrexがローンチ後1年未満で評価額2200億円に

TechCrunchが入手した情報によれば、フィンテックビジネスのBrexが、このたびローンチ後1年未満で、シリーズDラウンドを行い、数百万ドルを調達することがわかった。同社は起業家のために誂えられた人気絶大のコーポレートカードを発行し、スタートアップ業界に旋風を巻き起こした企業だ。

ブルームバーグの記事によれば、Brexは評価額20億ドル(約2200億円)で調達を行おうとしているらしい。ただし、複数の情報源からTechCrunchに寄せられたタレコミによれば、同社はまだ新旧の投資家たちと交渉を行っている最中だという。TechCrunchがコメントを求めたところ、Brexの共同創業者兼CEOであるヘンリケ・ダブグラス(Henrique Dubugras)氏からは、現時点ではなにも発表できるものはないという回答が返された。

ラウンドを主導しているのは有名VCのKleiner Perkinsだが、仲介したのは元ジェネラルパートナーのムード・ロウアニ(Mood Rowghani)氏である。ロウアニ氏は昨年同VCを去った後、メアリー・ミーカー(Mary Meeker)氏ならびにノア・ナウフ(Noah Knauf)氏らとともに、Bondを設立した人物だ。以前に報告したように、Bondのスタッフは今でもKleinerの10億ドル規模のDigital Growth Fund III(彼らがKleinerを退職する前に担当していた資金のプール)からの資金の展開を進めている最中だ。

最近12億5000万ドルのデビューラウンドを完了し、最初の投資を行ったBond自身は、Brexのラウンドには参加していないことが複数の情報源によって確認されている。なおBondからのコメントは得られなかった。

Y Combinatorの2017年冬クラスの卒業生であるBrexは、2018年10月に11億ドル(約1200億円)の評価額の下に、1億8200万ドル(約200億円)のVC調達を行った。これはスタートアップのためのコーポレートカードをローンチしてから3カ月後のことであり、YCのアクセラレータープログラムを完了してからも1年未満のことだった。

ごく最近Brexは、Greenoaks Capital、DST Global、そしてIVPが主導する、1億2500万ドルのシリーズCラウンドを行った。またPitchBookによれば、PayPalの創業者ピーター・ティール(Peter Thiel)氏とマックス・レブチン(Max Levchin)氏や、Ribbit Capital、Oneway Ventures、そしてMindset VenturesなどのVCファームも投資を行っている。

同社の成長ペースは、過大評価と特大ラウンドが一般的であるシリコンバレーでさえ、前例のないものだ。何故だろう?その理由は、技術革新を迫られているレガシープレーヤーによって支配されている市場にBrexが関わってきたこと。そしてもちろん、スタートアップの創業者たちは常にクレジットを必要としているからだ。そのことが、YCの数百のスタートアップ創業者たち(すなわちBrexの顧客たち)のネットワークに上手く乗るかたちで、数十億ドルの評価額への道筋を加速したのだ。

Brexは、その顧客から、いかなる種類の個人保証または保証金も要求せず、創業者がほぼ即時にクレジットにアクセスできるようにする。さらに重要なことに、起業家たちは他の場所で得られるよりも、最大10倍高い信用限度額を与えられるのだ。

投資家たちはまた、同社がサードパーティのレガシー技術を使っておらず、ゼロから作り上げられたソフトウェアプラットフォームを誇っている点にも魅了されているのだろう。それに加えて、Brexは企業に対して統合された経費支出情報を提供することによって、フラストレーションのかかる企業の経費処理の多くを単純化する。

「私たちは、起業間もない企業に対して、Stripeと非常によく似た効果を提供することができますが、その効果はより早く得ることができます。なぜならシリコンバレーの企業は収益を上げることよりも、経費を使うことの方が得意だからです」とダブグラス氏は昨年末に私に語っている。

比較のために述べておくならば、Stripeは2010年に創業されている。2014年までに、同社はユニコーンラウンド行い、17億5000万ドル(約1920億円)の評価額で8000万ドル(約88億円)の資金調達を行っている。現在Stripeは、200億ドル(約2兆2000億円)強の評価額の下に、合計でおよそ10億ドル(約1100億円)の資金調達を行っている。

ダブグラス氏と、同じくBrexの共同創業者である23歳のペドロ・フランチェス(Pedro Franceschi)氏は、2016年の秋にブラジルからスタンフォード大に入学するために移住してきた。彼らは、当初Beyondという名の仮想現実のスタートアップで、YCへの参加を望んでいたが、それは受け入れられなかった。BeyondはほどなくBrexとなった。最近ダブグラス氏がTechCrunchに語ったところによれば、この名前が選ばれたのは、ドメイン名として利用可能な数少ない4文字単語の1つだったからだという。

Brexの資金調達の歴史

2017年3月:BrexがY Combinatorを卒業
2017年4月:シリーズA(650万ドル)評価額2500万ドル
2018年4月:シリーズB(5000万ドル)評価額2億2000万ドル
2018年10月:シリーズC(1億2500万ドル)評価額11億ドル
2019年5月:シリーズD(未公開)20億ドル程度の評価額

4月には、BrexはBarclays Investment Bankから1億ドル(約110億円)のデットファイナンス(借入金融)を受けている。そのときダブグラス氏はTechCrunchに対して、近い将来のベンチャー投資は考えていないと語っていたが、Brexが本当に資金調達を行うことを決定した際には、この借入資本が重要なプレミアムとなるだろうとコメントしていた。

2019年に、Brexは成熟に向けていくつかのステップを踏み出した。最近、顧客向けの報酬プログラムを開始し、Elphと呼ばれるブロックチェーンのスタートアップに対して、注目される初の買収を行った。その後まもなく、Brexは2番目の製品として、特にeコマース企業向けに作られたクレジットカードをリリースしている。

この先調達される資本は、おそらくフォーチュン500ビジネス向けに調整されたペイメントサービスの開発に使われることになるだろう。これは、ダブグラス氏の言葉によれば、ファイナンシャル技術全体をディスラプトしたいBrexの長期計画の一部である。

[原文へ]

(翻訳:sako)

月額400円からの家具・家電サブスク「CLAS」が3.7億円を調達

家具や家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を展開するクラスは5月29日、ANRIやキャナルベンチャーズを含む複数の投資家を引受先とした第三者割当増資等により、総額3.7億円を調達したことを明らかにした。

クラスは2018年4月の創業。同年7月にANRI、佐藤裕介氏、光本勇介氏、中川綾太郎氏からシード資金を調達していて、今回はそれに続くシリーズAラウンドとなる。

今後はサブスクリプションに最適化した家具の設計・開発・調達に向けて家具のデザイン体制を強化するほか、オリジナル家具以外の商品ラインナップの増強にも取り組む計画だ。

またユーザーの家具選びをサポートするべく、AIやVRなどのテクノロジーを活用したCRM機能の開発も進めていくという。

長期間使うほど月額料金が安くなる家具サブスク

CLASはテーブルやベッド、ソファといった様々な家具を毎月定額で利用できるサブスクリプションサービスだ。

2018年8月のサービスローンチから約9ヶ月が経過し、オリジナル家具の種類は約50種まで増加。並行して商品のジャンル自体も拡大中で、家電やベビーカーなどもラインナップに加わった。

サービス上で表示されている料金は基本的に送料や保険料も含んだもので、購入する場合と比べて初期コストを抑えられるのが特徴。1年目以降は利用期間が長くなるほど月額料金が安くなる仕組みを取り入れていて、3年目には初回の75%オフの価格で利用できる。

1年目以降は無料で返品することも可能。生活環境に合わせて気軽に家具を組み替えられるのは、サブスク型のウリと言えるだろう(交換自体はいつでもできるが、1年未満の場合は利用期間に応じて返品手数料がかかる)。

またローンチ時にも紹介した通り、CLASでは同じ家具をリペア(修理)し、数年間に渡って使用してもらうことを前提にプロダクトを設計している。家具の製造は中国の自社工場にて、リペアは都内の拠点で実施。通常使用の範囲内であれば、汚れや傷がついたアイテムでも修理費用はかからない。

「短期のレンタルというより、1年以上使ってもらえるケースをメインで考えている。ライフステージの変化に合わせて軽やかに家具を変えられる仕組みを作ることが1つのテーマ。その人たちが1番嬉しいプライシングやサービス設計を意識している」(クラス代表取締役社長の久保裕丈氏)

現在は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県が対象エリア。1000世帯近くがすでに有料でサービスを利用しているという。

初期は家具のみだったが、大手小売店とタッグを組み家電の提供も始めている

ホテルやマンスリーマンションなど法人向け事業が好調

久保氏にローンチ時からのアップデートを尋ねると「商品面でラインナップが広がると共にオリジナル家具についても厚みが出てきたことに加え、法人向けビジネスがかなりのスピードで成長している」という答えが返ってきた。

ここ1〜2年ほどで日本でも“サブスクリプション”と言うキーワードの認知度が拡大。各業界でサブスク型のプロダクトが登場し、メディアで取り上げられる機会も増えた。その波は“住”の領域にも訪れている。

久保氏によると今年日本に上陸したOYOを始め不動産×サブスクが盛り上がってきたことで、CLASにも追い風が吹いているという。具体的にはマンスリーマンションやホテルなど法人向けの事業が想定以上に伸びているようだ。

CLASでは「OYO LIFE」などと連携を進めているほか、レジデンストーキョーとは共同で「サブスクリプション型の賃貸住宅」事業にも取り組む。

サブスク型住宅の特徴は、オフィスのフリーアドレスのようにその時のライフスタイルに合わせて最適な場所へと自由に住み替えられること。敷金・礼金や仲介手数料、保証料、家具家電の購入料、引っ越し料などのコストを抑えられるのが利点だ。

またマンスリーマンションと同じく好調なのがホテルへのサービス提供だという。ホテル側としてはサブスク家具を導入することで初期費用を大幅に削減できるほか、メンテナンス費用や発送・組み立て・設置・廃棄などの費用もカットできる。

クラスは自社製造の家具を直接提供するモデルのため、代理店の手数料も不要。ホテルが自社で仕入れる場合と比べて「2〜4割のコスト削減を見込める」(久保氏)だけでなく、調達担当者の家具選びから組み立てまでの業務負担を減らせるため、引き合いが増えているそうだ。

すでにホテルで300部屋、マンスリーマンションでも150部屋ほどにクラスの家具が導入済み。オフィスやモデルルームでの利用なども含めると、クライアントの数は約50社に上る。

「最終的にはCLASを通じてユーザーの生活を変えたい。また家具の寿命を伸ばすことで『家具を捨てない社会』の実現を目指したいという気持ちが強いので、法人向けに特化することはなく、あくまでも両輪でやっていく。(双方をやっていることで)個人が利用した家具を次に法人に展開できるなど、ビジネス上でも良い影響がある」(久保氏)

家の中のサブスク化テーマに商品ラインナップ拡充へ

冒頭でも触れた通り、今回の資金調達を踏まえてクラスでは商品の拡充やオペレーション体制の整備、サポートシステムの開発により力を入れていく計画だ。

商品に関してはサブスクに適した家具の開発・設計を強化。その上で2020年中にオリジナル家具を300種類まで拡大することを目標にする。また家電やベビーカーに続き、クッションやファブリック製品などのインテリア用品、観葉植物などの取り扱いも進めていく。

「耐久性やリペア効率、組み立て効率、ライフステージに沿ったサイズ可変性など、サブスクに適した家具は通常の家具とは少し異なるので、とにかく量産するというよりは(開発・設計には)時間をかけて取り組みたい」(久保氏)

商品以外では物流やリペアの体制強化のほか、ユーザーの家具選びをサポートするシステム(CRMツール)開発にも力を入れる。

「家具は服などに比べて購入する頻度が少ないこともあり『自分にあった家具を選ぶのが難しい』というペインを自分自身でも抱えていた。たとえばコンテンツマーケティングの強化やAIを組み込んだカスタマーサポートシステムの開発、VRを活用した家具のコーディネートを表現・確認できるシステムの開発などを進める」(久保氏)

直近ではこれらの展開が中心になりつつも、中長期的には「家の中にあるものをどこまでサブスクにできるか、持たない生活という選択肢をどこまで広げられるか」をテーマに事業を広げていく構想。その際にはモノだけでなく、コト消費も対象に考えているという。

「Amazonが本からスタートして今では様々な商品を扱うマーケットプレイスになっているように、自分たちもサブスクにフィットしているモノを考えた結果、最初に扱ったのが家具だった。暮らし方が軽やかになるものであればどんな物でも対象になりうると思っているので、最終的には『何かを持たずに保有したいならCLAS』というポジションを目指していきたい」(久保氏)

自分好みのおやつが届くサブスクサービス「snaq.me」が2億円調達

おやつのサブスクリプションサービス「snaq.me(スナックミー)」を運営するスナックミーは5月28日、総額約2億円の資金調達実施を発表した。

スナックミーは2015年9月の設立。2016年2月には、おやつのサブスクサービスsnaq.meをスタートしている。このサービスでは、4週間または2週間に1度、8種類のおやつを詰め合わせた、おやつBOXがユーザーに届く。おやつのジャンルはクッキーやマドレーヌといった焼き菓子や、ドライフルーツ、ナッツ、チップス、あられなどの米菓、豆菓子などで、人工添加物や白砂糖、ショートニングが使われていないのが特徴だ。それぞれ20〜40グラムの食べきりサイズに梱包されており、詰め合わせ1BOXあたりの価格は1980円(税込・送料無料)だ。

ユーザーは、はじめに約1分間のアンケートによる“おやつ診断”で好きなおやつの傾向を送信し、定期便を申し込む。届いたおやつの評価をマイページからフィードバックすることで、次のBOXの中身を自分好みに変えていくことができる。おやつの種類は現在100種類以上で、そのうちの10〜20%を毎月入れ替えており、組み合わせは約1000億通りにもなる。

直近では、ユーザー数が月に約10%ずつ増えているというsnaq.me。ユーザーから集めた評価データは累計100万件に上っており、それを生かした商品開発も進められている。例えば、snaq.meの会員の95%は女性だそうだが「食べたいと思えるプロテインバーがない」との声が多かったという。このことから、植物由来の原材料のみで素材の数も絞った「CLR BAR(クリアバー)」を商品化。新ブランドとして展開している。

「サブスクリプションのプラットフォームとして集めたデータを生かして、メーカーとしても商品を開発しています。普通、メーカーがアンケートを取ろうとすると、なかなかアクティブな反応がもらえないことが多いが、snaq.meでは『次のBOXの中身がどんどん自分好みになっていく』というモチベーションから、フィードバック率も高いです」と説明するのは、スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏だ。

「試作品を改良して時間をかけて開発するというより、Webサービスのようにできたものは製品として出してしまいます。そこからフィードバックをもらい、2〜3週間ぐらいで変えていき、ダメならやめてしまう。評価が高い商品は別のフレーバーを出すなどして、展開していきます」(服部氏)

商品開発については、自社での開発のほか、現在50社ほどと協力して行っているというスナックミー。「道の駅に商品を卸している地方のメーカーなどで、販売先がなかなか見つけられないが、いいものをつくりたい、というところが全国にある。そうしたメーカーへ顧客の評価を直接伝え、一緒に製品をつくっています」と服部氏は言う。

スナックミーでは、これまでサブスク会員に限定して販売していたもののうち、評判のよいものを会員外にもオンラインで販売している。5月21日からは「国立ドイツ菓子協会」が認める材料・製法による“ホンモノ”のバウムクーヘンの販売を開始しており、今後も月に何度かこうした販売を行っていく予定だ。

服部氏は「ユーザーは『おかし』というより『自分への定期的なごほうび』として使ってくれている。だからInstagramやTwitterといったSNSで、届いたBOXを撮影して投稿してくれ、SNS経由で友人へ紹介してもらうことが多い。そこで、定期便型では敷居が高いと感じている人にも、カジュアルに手に取って欲しいと考えています」と述べている。

資金調達により、スナックミーではユーザーの嗜好データ収集から分析、新商品開発に至る仕組みを強化していく構えだ。また倉庫などのオペレーションのボリュームも大きくなっていることから、設備投資を行い内製化を図るとしている。

スナックミーでは、これまでにも何度か、VCなどからの資金調達を実施している。今回の第三者割当増資の引受先はW VenturesSpiral Ventures JapanSMBCベンチャーキャピタルLINE Ventures朝日メディアラボベンチャーズの各社。このうちW VenturesとSpiral Ventures Japanが新たに投資家として加わっている。

写真中央:スナックミー代表取締役 服部慎太郎氏

ITで“面接の近代化”へ、約1100社が使うウェブ面接ツール開発のスタジアムが5.6億円を調達

スタジアムの経営陣とジャフコのメンバー。前列右からスタジアム取締役の間渕紀彦氏、代表取締役の太田靖宏氏、取締役の石川兼氏。後列右からジャフコ取締役パートナーの三好啓介氏、プリンシパルの吉田淳也氏

「いろいろな業界がテクノロジーの力で変わってきているが、“面接”は未だに進化していない。応募者と企業それぞれにストレスや課題があって、みんな『これでいいのか』と疑問を持っている。僕たちが目指すのは面接とテクノロジーを掛け合わせることで、最高の面接の場を提供すること」

そう話すのはSaaS型のウェブ面接ツール「インタビューメーカー」を展開するスタジアム取締役の間渕紀彦氏だ。

同社が取り組むのはまさにテクノロジーによる「面接のアップデート」。まずは場所や時間の制約を取っ払うウェブ面接ツールからスタートし、面接を進化させる取り組みを実施していく計画だ。

そのスタジアムは5月28日、ジャフコを引受先とした第三者割当増資により5億6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今後同社では面接映像データのAI解析や新機能の開発を進める方針。調達した資金を基にエンジニアやセールスメンバーを中心とした人材採用やマーケティング活動を強化するほか、シンガポール拠点を軸としたグローバル展開にも力を入れるという。

時間や場所の制約なし、スマホやPCから面接ができるツール

インタビューメーカーはスマホやPCを使って、場所や時間の制約を受けることなくオンライン上で面接ができるサービスだ。

コアとなる機能はオンライン上で面接ができる「ウェブ面接」、応募者が投稿した動画を基に選考する「録画面接」、選考状況や採用目標などを管理できる「採用管理」の3つ。付随する機能も合わせて、企業が応募者を獲得するところから人材の選定、面接、内定後のフォローに至るまでの各課題を解決する。

中でもウェブ面接の効果はわかりやすいだろう。オフラインの会場で面接を実施する場合と比べて応募者と面接官双方の移動コストを削減できるほか、ウェブ面接の選択肢を用意することでより多くの人材と接点を持てる可能性もある。

特に今は一部の人気企業はさておき、多くの企業が人材難で困っている状況だ。遠方に住む人材がエントリーしやすい環境を作るという観点でも、一次面接などにウェブ面接を取り入れている企業も少しずつ増えてきているようだ。

面接官面接可能な日程を登録しておけば、あとは応募者が日程を予約するだけで日程調整が完了する機能も搭載。Googleカレンダーなど外部のカレンダーツールとも連携が可能

僕自身も学生時代は関西に住んでいたため、面接や会社説明会のために頻繁に東京に訪れていた経験がある。当時は時間や体力的なもの以上に金銭的なコストが負担になっていたので、一次面接だけでもオンライン対応が可能になれば、特に地方に住む学生は助かるだろう。

そういう点では、そもそも面接に至る前の段階(人材を絞る段階)でお互いの認識をすり合わせる用途でもインタビューメーカーは活用できる。そこで活躍するのが録画面接だ。

「録画面接はどちらかと言うと多くの応募が集まる人気企業が面接に進む候補者を絞り込む際に使いたいという需要が多い。動画を通じて書類だけでは伝わらない雰囲気を確認でき、時間調整なども不要。優秀な人材や熱量の高い志望者に気づくこともできる」(スタジアム代表取締役の太田靖宏氏)

もちろん新卒採用に限らず、アルバイトの採用や中途採用でも使える。たとえば働きながら転職活動をしている求職者だと平日の日中は面接が難しい場合もあるだろう。そんな際にウェブ面接や録画面接を有効活用すれば、お互いの負担を最小限に留めてスピーディーに選考フローを進めることもできる。

面接用の動画を撮影して録画データでエントリーする「録画面接」は24時間エントリーが可能。事前に用意された質問に対して、回答となる動画を送る仕組みだ

面接の「録画データ」が重要な資産に

インタビューメーカーには面接を自動で録画する機能が搭載されているのだけど、実はこの録画データが「面接の質を高める」際に重要な役割を果たすそうだ。

「面接の様子は面接官と応募者以外にはわからず、いわばブラックボックスとなっていた領域。録画が残ることで面接官がきちんと応募者の話を引き出せているのか、内定辞退率が高い面接官はどのようなコミュニケーションをとっているのかなどが全て可視化される。企業全体として面接の質を高めるための教育ツールにもなりうる」(太田氏)

実際にスタジアム社内でも日常的にインタビューメーカーを活用しているが「面接の様子を見ると、一方的に面接官が話してしまっていたり、本質的な質問ができていないことが原因で面接官によって評価にズレが生じてしまっていることもわかるようになった」(間渕氏)という。

面接の模様を他の担当者と共有できる自動録画面接機能を搭載

たとえば一次面接で担当者が評価に迷った場合、役員などに動画を見せて判断を仰ぐこともできるので、ポテンシャルの高い人材を途中で不採用にしてしまうリスクも減らせる。面接の録画データを有効活用できる点は企業から好評なのだそうだ。

興味深いのが、まだ一部の企業には限られるものの「対面の面接時にもインタビューメーカーを開いてその様子を録画する事例もある」(太田氏)こと。太田氏や間渕氏は面接のブラックボックス化が課題と話すが、同じような課題感を持っている企業は少なくないという。

自分たちが感じた「面接の大変さ」を解決するツールとして開発

スタジアムはもともとライフノートという社名で2012年にスタートした会社だ。

創業者の太田氏はリクルートで「HOT PEPPER」の創成、成熟に主要メンバーとして携わっていた人物。同社を退職後ライフノートを立ち上げ、営業アウトソーシングを軸に事業を展開してきた。

ある時クライアントから約2ヶ月で70名規模の営業部隊を立ち上げて欲しいというオーダーが入り、期間内で800名ほどの面接を実施。そのプロジェクトを通じて「採用や面接の大変さを痛感した。それを解決できるようなシステムがないのであれば、自分たちで作ろうと思った」(太田氏)ことをきっかけに生まれたのが、インタビューメーカーの前身とも言える「即ジョブ」だった。

機能改善を進める中で「面接」に機能を絞り込み、2016年5月に無料のβ版を公開。翌年5月に正式版をリリースし、現在はADKホールディングス、コーセー、積水ハウス、キユーピー、ダイドードリンコを始めとする1100社以上に導入されている。

料金体系は月額3万9800円(ベーシックプラン)からの定額課金モデル。業界や規模はさまざまだが、初期からエンタープライズの顧客が多いことも特徴だ。

IT業界やスタートアップ界隈にいるとウェブ面接やオンライン会議も決して珍しくないような気もするが、太田氏や間渕氏によると「特に大企業を中心とする非IT系の企業や求職者にとってはまだなじみが薄く、過渡期」だという。

「それでも採用マーケットが厳しくなってきた中で、何かを変えなきゃいけない、特に『地方の学生や遠方の人材にもアプローチできる仕組みが必要』という声はよく耳にする。昨年ごろから『ウェブ面接を考えているので資料を欲しい』という問い合わせも一気に増え、他社ツールも含めて具体的に検討しているお客さんが多くなってきた」(太田氏)

グローバルで見ると日本企業も複数社が導入する「HireVue」が特に有名。そのほか国産のサービスでもウェブ面接を軸にしたものがいくつか立ち上がっている状況だ。

もちろん機能面やプロダクトの使い勝手も差別化要因にはなるが、ツールに慣れるまでにある程度の期間や教育コストがかかること、蓄積される録画データを活用したい企業が多いこともあり、一度入ってしまった後はスイッチングコストが高い。

それだけに「いかに早く多くの企業に使ってもらえるか、スピードも非常に重要」(太田氏)で、今回の資金調達はそのための体制強化が1つの目的だ。

合わせて、これまでインタビューメーカーは子会社のブルーエージェンシーを通じて提供していたが、事業を加速させるこのタイミングでライフノートと統合。5月からスタジアムとして再スタートを切った。

面接テックの追求へ、7万件の面接データの活用も

今後スタジアムではインタビューメーカーの新機能開発に取り組むほか、7万件を超える面接データの解析を進める。

「たとえば表情や声のトーンを解析することで応募者が言っていることの真偽を判定したり、感情を分析した結果あまり楽しそうでなければ『こういう質問をしたらどうですか』と面接官をアシストしたり。面接が終わった時に『楽しかったね』と思える状況を作りたい」(間淵氏)

面接の場を盛り上げるための仕掛けだけでなく、録画されたデータと社内で実績のあるメンバーのデータを照らし合わせることで、自社で活躍しそうな人材を抽出することもできるかもしれない。実際HireVueには人工知能が選考を支援する機能があるが、そのような展開も可能性としてはありえるという。

スタジアムはもともと営業アウトソーシング事業から始まっているため当初はセールスに強みを持つメンバーが中心となっていたが、近年はテクノロジーサイドの人材採

用も進めてきた。

取締役の間淵氏と石川兼氏はそれぞれクックパッド在籍時に執行役員広告事業部長、人事部長を務めた人物。その他クックパッドやお金のデザインを経て加わったCTOを始め、IT業界で経験を積んだ人材も増えてきているそうだ。

今回ジャフコの三好啓介氏、吉田淳也氏にも少し話を聞けたのだけど「人材と雇用は企業の最重要課題になっているものの、『採用』という部分については変革が進んでいないこと」「面接を科学していくことが、最適な人材や雇用の在り方にも繋がっていくと考えていること」に加えて、「営業だけでなくエンジニアを中心とした開発チームも良い人材が集まってきていること」が出資の決め手になったという。

スタジアムでは調達した資金を活用して、営業やエンジニアを中心とした人材採用にはさらに力を入れる計画だ。

「『面接の場』にだけ絞って、追求している会社はほとんどないと思っている。そこを誰よりも深く考え、面接×テクノロジーで大きな変革を起こすチャレンジをしていきたい」(間淵氏)

最適なホテル料金設定を支援する“PriceTech”の空がUB Venturesから資金調達

写真左からUB Ventures代表取締役 岩澤脩氏、空 代表取締役 松村大貴氏

ホテルの客室料金設定サービス「MagicPrice」を提供するは5月28日、ユーザベースグループのUB Venturesから第三者割当増資による資金調達を実施したことを明らかにした。

調達金額は非公開とのこと。2018年7月に発表された1.7億円のシリーズAラウンドに「UB Venturesがさらに強力な株主として加わる」形となる。

空は、TechCrunch Tokyo 2017の「スタートアップバトル」で最優秀賞を獲得した企業だ。同社が提供するMagic Priceは、ホテルが客室料金を検討する際に必要な予約状況などのデータを自動収集・分析し、AIが適切な販売料金を提案するプライシングサービス。簡単な操作で客室料金設定ができ、旅行予約サイトへの料金反映も自動で行える。

2018年12月に市場分析サービス「ホテル番付」と名称を統合し、デザインやAIを改善するリニューアルを実施したMagicPrice。ワシントンホテルやベストウェスタンホテル、三交イン、フェリーチェなど、提供先ホテルも順調に拡大している。

MagicPriceの操作画面イメージ

今回の資金調達により、空ではプロダクト開発、サービス向上による、ホテル業界へのより手厚い支援を図る。また、UB Venturesがサブスクリプションビジネスに特化したファンド(UBV Fund-I 投資事業有限責任組合)を運営していることから、「SaaS事業成長ノウハウを学び、さらなるビジネス拡大を目指す」としている。

一方、UB Venturesは、空が「プライシングの会社」として、データ分析による価格最適化サービスを営み、ホテル業界以外への展開も視野に入れている点を評価しているようだ。

UB Ventures代表取締役の岩澤脩氏は出資にあたり、「空の長期にわたるチャレンジは、レベニューマネジメントの効率化に留まらず、PriceTechやパーソナルプライシングという新しい概念を創造することにある。 強みであるカスタマーサクセスやデータの集合知を活かし、あらゆるモノ、サービスの最適な値決めが、空のプロダクトの上で行われる。その未来の実現に貢献をしていきたいと思っている」とコメントしている。

“完全食”の麺・パンをD2Cで提供するベースフードが4億円を資金調達

“完全栄養食”のパスタやパンを開発し、サブスク型で販売する食品スタートアップのベースフードは5月27日、総額約4億円の資金調達実施を発表した。

主食なのに糖質・カロリーオフの“完全食”

ベースフードは2016年4月の創業。「主食をイノベーションして、健康をあたりまえに」をミッションに掲げ、手軽においしく、体にいい主食の開発・販売を手がける、フードテック領域のスタートアップだ。現在提供しているのは、1食で1日に必要な栄養素の3分の1が摂れる“完全食”の主食2種類を中心とした商品である。

2017年2月に販売開始した「BASE PASTA(ベースパスタ)」は、全粒粉の小麦やチアシードなど10種類以上の栄養豊富な食材が練り込まれた生麺だ。ゆでて、パスタソースをあえるだけで、糖質や脂質、ナトリウムは抑えつつ、簡単にバランスよく栄養が摂れる。2018年12月には改良版へリニューアル。めんつゆで和風のそばとして、もしくはソースで焼きそば風にして食べるなど、ユーザーによってアレンジもいろいろ考えられているようだ。

また2019年3月に登場した新商品「BASE BREAD(ベースブレッド)」は冷凍パンだ。電子レンジで加熱するだけ、あるいは自然解凍だけでも食べられ、手軽に栄養バランスを補える。こちらも一般的なロールパンと比べると、糖質は50%オフ、脂質は30%オフ、カロリーは20%オフだ。調理の必要がなく簡単に食べられることや、ほかの食べ物に合わせやすいことから、パスタにも増して売れ行き好調とのこと。発売から2週間で2万食を販売したという。

ベースフード代表取締役の橋本舜氏は、「新しくできた商品の方がよりおいしくなっている」と自信を見せる。「栄養バランスのよい主食づくりという点では、製品はできあがっているので、さらにおいしいものを開発することに力を入れている。パスタのバージョンアップもそうだし、ブレッドについてはパン屋さんの味を実現できていると思う」(橋本氏)

BASE PASTA、BASE BREADはいずれも1食あたりの価格は390円(税込)。基本的にはサブスクリプションモデルを前提としているため、定期購入にすると10%オフ、送料割引(BASE PASTAでは送料無料)で購入可能だ。

フードテック×D2C企業として独自製品で世界目指す

資金調達について橋本氏は、「食品メーカーとして売上も立ち、利益も上がっているが、『かんたん、おいしい、からだにいい』をかなえる食品を1000万人といったオーダーで、世界中に広げるために、スピードアップするため」と語る。調達資金は商品やサービスの改善に投資するほか、日本発の完全栄養食をより多くの人に届けるため、海外展開についても推進していく考えだ。

写真中央:ベースフード代表取締役 橋本舜氏

橋本氏は「フードテックは今、投資家にも注目されている」と話す。「米国のフードテック事情を見渡すと、例えばBeyond Meat(植物由来の人工肉メーカー)は、今年5月のIPO後に株価が160%に値上がりしている。景気低迷の中で、プラットフォームビジネスが限界を迎えつつある今、ものづくりに回帰する動きがあるのではないか。そうした中で、付加価値やサステナビリティをうたった食品をつくって売る事業は強いと、VCにも見られている」(橋本氏)

さらに「日本はもともとフードテックの国」と橋本氏は続ける。「味の素、カップラーメン、カロリーメイトなど、いずれも戦後、日本発で出てきた商品で、メーカーはいずれも今、大手企業だ。健康でおいしいものをつくる力が日本には世界のどこよりもある。情報技術と違って、フードテックでは日本はすぐ世界一になれる可能性を持っている」(橋本氏)

その上で橋本氏は「現状では、日本でフードテックのスタートアップとして、独自に飲料などではない食べ物を作っているところは、我々のほかにはない。けれども後続で現れるフードテック企業のためにも、今回ベースフードが4億円という資金を調達したことには意味があると考える」と話す。

また、橋本氏は、ベースフードが自社開発商品を消費者へ直販するD2Cモデルで事業を行っている点も、投資家に評価された部分だと感じている。

「米国ではD2Cモデルのユニコーン企業が5社ぐらいあり、日本でも、これから資金調達を行っていくD2Cスタートアップは増えるだろう。傾向としては店舗で販売していたところへITを導入するという流れの事業が多い中、ベースフードでは、単品でオリジナルの、今までになかったコンセプトの商品を開発してD2Cで販売しているというところがポイントだと考えている」(橋本氏)

今回の資金調達はベースフードにとって、シリーズAラウンドにあたる。第三者割当増資の引受先は楽天(楽天ベンチャーズ)XTech Venturesグローバル・ブレインと個人投資家だ。同社は、2017年10月にもグローバル・ブレインを引受先として1億円を調達している。

新たに株主に加わった楽天について、橋本氏は「当初からECサイトを運営し、グローバルで事業も行う彼らがベースフードについて、かなり早い段階で『絶対に世界的なブランドになる』と言ってくれていた」と明かす。

またXTech Venturesについては、特にテクノロジー系のスタートアップに強いVCということもあり、かつ「共同創業者でジェネラルーパートナーの手嶋浩己氏が、(海外にも進出して上場も果たした)メルカリをユナイテッド時代に見出した人であり、彼が現在D2Cビジネスに注目していることが大きかった」と橋本氏は述べている。

橋本氏は「麺とパンという世界中で食べられている食品を、おいしく、かんたんで体にいい完全食として、どんどん掘り下げて開発し、よりよいものとして広げていく。グローバルでは100兆円規模とも換算される市場で勝負していきたい」と語っていた。

筑波大発の水中ドローンスタートアップFullDepthがDrone Fundなどから3.4億円を調達

地球上の表面積の7割を占める海は、生命の起源や地震活動のメカニズムといった多くの謎の手がかりを秘め、水産物や鉱物、エネルギーなど資源の宝庫でもある。だが海中の実態については、ほとんどが明らかになっていない。

「陸上に比べて海の理解は遅れている。マイクロプラスチックによる汚染や地球温暖化などの問題にも関与する海のことを、もっと分かるようにしたい」そう語るのは、水中ドローンを自社開発し、サービスを提供するFullDepth(フルデプス)代表取締役の伊藤昌平氏だ。

筑波大学発のスタートアップである同社は5月27日、約3.4億円の資金調達を明らかにした。第三者割当増資は4月、Drone Fundをリードインベスターとし、Beyond Next Ventures三井住友海上キャピタルおよび筑波総研の運営する各ファンドを引受先となって実施済みだ。

FullDepth(旧社名:空間知能化研究所)は2014年6月の創業。2016年3月にエンジェルラウンドで資金調達を行い、深海探査機の開発に着手した。試作機による実証実験を進め、2017年6月にはシリーズAラウンドで1.9億円を調達。2018年6月には、自社開発の水中ドローン「DiveUnit 300」の製品化を実現し、同機の保守・運用、保険、取得データの蓄積・活用までをパッケージにしたサービスを提供開始した。

サービス開始から2019年4月末までに約50カ所、延べ約65日にわたり、ダムや防波堤といったインフラの点検や、水産設備の保守管理などで活用されているという。

DiveUnit 300は水深300メートルまで潜航可能な小型の水中ドローン(ROV)。バッテリーで駆動する本体は船上のPCとテザーケーブルで接続され、内蔵カメラによる映像をリアルタイムで確認することができる。

DiveUnit 300は人の手で水中に投入できる

同社が開発したクラウドサービスを使って、遠隔地でも映像や各種センサーによる取得データの確認が可能。機体の操作指示もリモートで行えば、現場へ足を運ぶ人数を減らすことができ、コスト削減にもつながる。

モニタリングの様子

また、今まで潜水士が潜るには危険で調査ができなかったような場所での調査も可能にした。潜水士が一度に潜れる時間の限界(水深20メートルで1人30分、1日2回までなど)もあるため、かさみがちだった点検工期も、いったんドローンが広域をチェックして、必要があれば人が詳細に調べる、といった切り分けもできるようになり、大きく削減できるようになった、と伊藤氏はいう。

前回の資金調達では製品化実現に向けて投資を行ったFullDepth。今回は「顧客の課題解決のため、製品の量産を図るとともに、組織を強化する」と伊藤氏は調達資金の使途について説明している。

また、海に囲まれた日本は「水中のインフラや養殖いけす、定置網などの水産設備については進んでいる」と伊藤氏。これらの調査・点検に関するノウハウを持って、海外展開も始めたいと述べている。

同社は、水深1000メートルまで使用できる実証実験機「Tripod Finder」も保有している。今後、深度を深める開発に取り組まないのか尋ねたところ、伊藤氏は「まずは1プロダクト(DiveUnit 300)の量産に集中して、これでできることを増やす。クラウドを使ってデータを蓄積することでできるサービスも検討している」と回答。

具体的には、Google ストリートビューやスマートフォンのGPSによる行動解析データと同様に、海中の深度や温度といったデータを、水中ドローンを潜航させて取得・蓄積することで、何らかのサービスにつなげたい、ということだった。

伊藤氏は「顧客の課題に合わせて深度を追求することもあり得るが、浅いところでも分からなくて困っているということはまだまだ多いので、それをまずは分かるようにする。顧客自身が『何が分からないのかが分からない』ということもある段階なので、一つ一つ身近なところから精査しながら、事業に取り組んでいく」と話していた。

元マッキンゼーの医師起業家が“次世代クリニック”で医療現場の変革へ、Linc’wellが3.5億円を調達

Linc’well(リンクウェル)のメンバー。中央が代表取締役の金子和真氏

多くの課題を抱える“レガシーな業界”は、スタートアップにとって大きなビジネスチャンスだ。

金融、人材、不動産、建設、法務などあげればキリがないけれど、従来はアナログの要素が多かった大きな市場が近年テクノロジーの台頭によってどんどんアップデートされ始めている。

今回取り上げる「医療」もまさに大きな可能性を秘めた領域。遠隔医療や電子カルテを始め様々なプレイヤーが業界の課題解決に取り組むが、未だに紙の診察券やカルテ、電話での予約などが主流で、テクノロジーの活用が十分には進んでいない。

そんな業界の現状に対して「非効率な医療現場をテクノロジーで効率化し、患者さんの利便性や医療の質自体の向上を目指したい」と自ら会社を興した“医師起業家”がいる。

2018年創業の医療スタートアップLinc’well(リンクウェル)の代表取締役、金子和真氏だ。

金子氏は臨床医として東京大学医学部附属病院を中心に医療現場で8年間働いた後、マッキンゼーに7年間勤めていたという経歴の持ち主。医療現場の課題解決に向けて、マッキンゼー時代にヘルスケア領域で共に働いていた山本遼佑氏とリンクウェルを立ち上げた。

現在はITをフル活用した“次世代クリニック”ブランドの「クリニックフォア」を展開。昨年10月に自社プロデュースの第一号店舗として田町にオープンしたクリニックには、半年間で2万人を超える患者が受診に訪れたという。

そのリンクウェルは5月27日、さらなる事業拡大に向けて第三者割当増資により総額約3.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはDCM Ventures、Sony Innovation Fund、インキュベイトファンドの3社。昨年4月にもシードラウンドでインキュベイトファンドとヤフー常務執行役員の小澤隆生氏から約7000万円を調達済みで、累計の調達額は約4.2億円となる。

リンクウェルでは調達した資金を活用してクリニックの複数店舗展開を進めるほか、クリニック内で活用するシステムの開発や、今後予定しているオンラインヘルスサポート事業への投資を強化していく計画だ。

スマホ1台で十分な次世代クリニックを社会インフラへ

「オンラインで予約ができず、実際に病院に行けば長時間待たされることも珍しくない。そもそも普段忙しいビジネスパーソンは平日の日中に行くことすら難しい。特に若い世代、働いている世代が診察を気軽に受けられない現状に大きな課題を感じていた」

金子氏がこの状況を改善するべく着手したのが、ITを徹底活用したクリニックの展開だ。

リンクウェルがプロデュースするクリニックフォアでは、オンライン予約システムやAIを取り入れた問診システムの活用、院内のオペレーションを効率化する電子カルテの導入などを通じて、患者の体験向上とクリニックの経営効率化にコミットする。

同社ではパートナーとなる医師に対して、上述したようなオペレーションシステムとともに、経営やマーケティング、スタッフの採用・教育などクリニックの運営に必要なサポートを提供。こうして立ち上がったクリニックを複数店舗展開し、社会インフラとして根付かせることが目標だ。

では実際にクリニックフォアで診断を受けるユーザーはどのようなフローをたどるのだろうか。

まず診断日程の予約は公式サイトからスマホやPCを通じてオンラインで行う。希望する診断内容を選択した後、カレンダーから空いている時間帯をチェックして希望の日時を選べば良い。

画面を見てもらうとわかるが新幹線などの予約画面にも近い感覚だ。予約時に簡単なオンライン問診も実施することで、当日の診察をよりスムーズにする。

クリニックに訪れた際は、受付で来院の声かけをした後、細かい問診票を記入する。この工程については現在自社でシステムを開発していて、今後オンライン化が進んでいくそうだ。

診察時間は15分単位で事前にスケジューリングしているため、具合の悪い人がいる場合などに多少のズレはあったとしても、長時間待たされることはほとんどない。

診察後の会計はキャッシュレス対応。クレジットカードや交通系ICカードのほか、QRコード決済サービスも使える。薬についても「全てではないものの出来るだけ院内で渡せるようにしていて、なるべく薬局に行く手間がかからないような設計をしている」(金子氏)という。

オフラインの診察券も用意しているが、受付時にスマホから予約IDを確認して伝えればいいそうなので“スマホ1台あれば”予約から当日の会計までスムーズに済ませられるのが特徴だ。

海外に目を向けると、米国ではOne Medical GroupがITを活用したクリニックチェーンを展開していたり、中国では平安好医生が医療におけるオンラインとオフラインの融合を進めている。一方で日本の場合はクリニックの95%以上が個人経営であることなども影響してか、テクノロジーがそこまで浸透していない状況だ。

クリニックフォアでは様々なITツールが絡んでくるが、リンクウェルがその全てを自社で開発しているわけではなく、他社ツールを組み合わせているのもポイント。予約システムや問診システムは自社で作りつつ、すでに複数社が取り組んでいる電子カルテなどは他社のプロダクトを活用している。

「自分たちがやっているのは検査やカルテ、処方など膨大なパッケージを用意して現場で使いやすいように最適化すること。(電子カルテシステムを)箱だけ提供しても、誰もがすぐに使えるわけではない。ExcelやWordの作業を便利にするテンプレートのように、電子カルテを使いやすくする大量のテンプレートを組み込んで提供している」(金子氏)

現場のニーズや実態に基づいてプロダクト開発ができるのは同社の強みだ。金子氏が医師として現場経験が豊富なことに加え、10月にオープンしたクリニックフォア田町はオフィスのすぐ下にあるため、すぐに現場を確認できる。

時には糖尿病の専門医である金子氏が直接現場で患者や医師とコミュニケーションを取ることもあるそうで、そこから得られたフィードバックをクリニックの運営やシステム開発に活かせるという。

週7日開院、働く世代を中心に患者の約85%が50歳以下

そのクリニックフォア田町では忙しいビジネスパーソンでも利用しやすいように、平日は9時30分から21時まで、土日祝日も9時から18時まで診療を行う。

そういった“使い勝手の良さ”が受け、設立後から半年で延べ2万人の患者が来院。そのうち8割がオンライン予約を活用する。直近ではゴールデンウィークの最終日に1日で200人以上が訪れるなど、金子氏も「(既存のクリニックではカバーできない)明確なニーズがあることが証明されてきている」と話す。

クリニックフォアの特徴は「患者の年齢層」にも現れている。平均的なクリニックでは年配の患者が大半を占め、実に75%が50歳以上なのだそう。一方クリニックフォア田町の場合、約85%が50歳以下の患者だ。

特に10代〜30代の患者が60%以上を占める(平均のクリニックは22%ほど)ことからも、来院する層に大きな違いがあることがわかるだろう。

「テクノロジーの導入については規制の問題もあるが、(高齢の患者が多いようなクリニックでは)現場に変えるメリットがないことが大きい。特に若い世代のペインを解消するには、システムを提供するのみではなく、現場一体となって変えていくしかないと思った。実際に口コミやアンケートを見ても、オンライン予約や待ち時間の少なさ、夜や土日の対応などに価値を感じてもらえている」(金子氏)

医師にとっても新しい選択肢に

クリニックフォアの仕組みは患者にだけでなく、医師にとっても新しい選択肢を提供する。

これまで医師の職業については人命に関わるという特性上、残業時間が多くなりがちで、かつそこに対する規制が一般的な労働者に比べて進んでこなかった。近年は「医師の働き方改革に関する検討会」を中心に残業時間の上限規制を始めとした議論がされているが、クリニックや病院の仕組み自体をアップデートすることも重要だ。

クリニックフォアの場合は週7日、平日に関しては朝から夜まで開院しているため、最初から複数の医師によるワークシェアを前提としている。結果的に通常の病院で働くよりも個々の状況に応じて、柔軟な働き方ができるという。

田町のクリニックにも、家庭の事情で時短勤務を選択したい医師や週3日だけ現場で働きたいという医師、大学院で研究をしながら土日や夜だけ現場に出たいという医師などがいるそうだ。

また医師のキャリアパスにおいて「開業医」という選択肢のハードルを下げる効果もある。

「今まで患者さんを診断することしか経験していない人がほとんど。経営や組織づくり、採用などのプロではなく、そこで苦戦する人は多い」と金子氏も話すように、自分でクリニックを立ち上げるには膨大なイニシャルコストのほか、診断以外の経営業務にも対応しなければならない。

クリニックフォアはシステムの提供だけでなく、経営のナレッジ共有やスタッフの採用・育成サポートを通じて「医師が患者さんを診ることに集中できる環境を整える」(金子氏)ことで、開業の後押しをするとともに、その後の経営の支援もする。

田町の店舗でも細かい月商などは非公開だが「支援の結果、半年にして平均的なクリニックの2〜3倍程度の収益を達成している」そうだ。

オンラインとオフラインの融合による次世代ヘルスケア基盤構築へ

リンクウェルは今後もクリニックフォアブランドのクリニックを各地に広げていく計画。すでに都内数カ所で新店舗を予定しているほか、将来的には都市部を中心に数百規模のクリニックのプロデュースしていく構想だという。

このオフラインの取り組みと並行して、今後はオンラインヘルスサポート事業の開発にも取り組む。軸となるのは「メディカルサプリのEC」と「オンライン診断」だ。

ECに関してはサプリやヘアケア、スキンケアといった商品をサブスクリプションモデルで提供する予定で、キーワードは「パーソナライズ」と「エビデンス」。ユーザーのデータと専門医のエビデンスに基づきパーソナライズされた商品を届けるECを目指していて、長期的にはD2Cのように製造工程から関わる可能性もある。

またクリニックでのオンライン診療や法人向けのオンライン健康診断なども準備するそう。オンラインとオフラインを融合しながら、患者のニーズや状態に合わせて「バーティカルに、エンド to エンドで最適なサポートを提供したい」という。

「最終的に目指すのは『1つの社会インフラ』。自分自身も医者をやっていて、医療は社会に不可欠なインフラだと思っているし、医者もそのために必死で働いている。ただこれから先、高齢化が進み患者さんの数が増えてくる中で、テクノロジーの活用を進めていかない限り持続的なインフラを作るのは難しい。日本の医療が破綻する前に、少しでも医療の現場を効率化しながら、質の高い医療を提供できるための仕組みを作って業界に貢献していきたい」(金子氏)

落合陽一氏ら創業のPDTが約38.5億円を調達、大学発技術の“連続的な社会実装”加速へ

ピクシーダストテクノロジーズのボードメンバー。左から取締役CRO星貴之氏、代表取締役COO村上泰一郎氏、代表取締役CEO落合陽一氏、取締役CFO関根喜之氏

「日本のアカデミックの技術が世の中に出ていっていない現状を何とかしたい」

ピクシーダストテクノロジーズ(以下PDT)で代表取締役COOを務める村上泰一郎氏に同社が取り組む課題に対して聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

PDTは筑波大学の准教授やメディアアーティストとしても活動する落合陽一氏(共同創業者で代表取締役CEO)や、東京大学の大学院でバイオマテリアルを専攻した後アクセンチュアで活躍した村上氏を筆頭に、研究畑・ビジネス畑で実績を積んできた人材が集まる“少し異色の大学発ベンチャー”だ。

同社が取り組むのは大学から生み出された様々な研究を、社会に存在する課題の解決手段として「連続的に社会実装する」こと。そのため1つの要素技術をベースに研究開発から製品化までを行うのではなく、音や光、電磁波といった波動制御技術をコアに、複数の技術を並行して扱う。

村上氏の言葉を借りれば「大学で生まれた技術が社会課題の解決に繋がることで、その対価として大学にもしっかりとリターンが入る仕組みを作る」べく、大学発の技術と顧客をブリッジする役割を担っているのがPDTだ。

そんな同社は5月23日、VCや事業会社を含む10社を引受先とした第三者割当増資により、シリーズBラウンドで総額約38.46億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

PDTでは3月29日にも商工組合中央金庫上野支店から総額10億円の期限一括償還型の融資契約を締結したことを発表済み。同融資が全額実行された場合には総額で約48.46億円の資金調達となる。

なおシリーズBラウンドの投資家陣は以下の通りだ。

  • INCJ (旧 産業革新機構)
  • SBI AI&Blockchain投資事業有限責任組合
  • 凸版印刷
  • SMBCベンチャーキャピタル4号投資事業有限責任組合
  • 価値共創ベンチャー2号有限責任事業組合
  • みずほ成長支援第3号投資事業有限責任組合
  • KDDI新規事業育成3号投資事業有限責任組合
  • K4Ventures
  • 第一生命保険
  • 電通

PDTでは2017年10月のシリーズAラウンドで6.45億円、2018年3月にブリッジファイナンスで1億円を調達。今回はそれに続く資金調達となり、人材採用とR&Dにより多くの資金を投じることで、大学発技術の社会実装に向けた取り組みを加速させるという。

大学発の技術を連続的に社会実装する

冒頭でも触れた通り、PDTは波動制御技術をコアとした複数の要素技術を磨き上げ、社会に実装するスタートアップだ。扱っている技術はもちろんのこと、それを顧客の課題解決に繋げるまでの仕組みが同社の大きな特徴になるので、まずはその全体像を簡単に紹介したい。

PDTではアイデアを生み出し(リサーチ機能)、育て(技術開発機能)、社会に実装するまでの(事業開発機能)一連の機能を持っている。ただし自社単体で全てを賄っているわけではないということがポイントだ。

同社が特に注力するのは、大学から生み出された技術をしっかりと育てあげ、顧客の課題と繋いでいくこと。一方でアイデアのタネとなる「基礎研究や新技術のリサーチ」は大学が、開発したソフトウェアや試作機の「販売・量産化」は顧客企業が担う。

このようなやり方を選んでいるのは、同社が複数の技術ポートフォリオを抱えているからだ。

複数の技術を扱えば、世の中の課題に対してどの技術が1番フィットしそうかをある程度選ぶこともできる。そうすれば課題にも真摯に向き合いやすく、社会との間に溝ができづらいという。

「大学で技術が生まれて、そのまますぐにどこかの企業で製品化されるということは少ない。大学で研究されている技術は新しい発見や新しい体験といったスタート地点のものが多い。社会実装するにはチャンピオンデータの世界ではなく10回やれば10回上手くいくことを目指して精度を上げる必要があるし、コストの問題や現場とのすり合わせの問題もある」

「現場でやっていて感じるのが、技術開発のレベルを上げていくのはもちろんだけど、どのようなユースケースに対してどんな提供価値をはめていくのかが重要だということ。『このテクノロジーを売る』という発想だと上手くいかないケースも多い」(村上氏)

このように大学発の技術を上手く社会に実装するには、様々なハードルを乗り越えていく必要がある。TLO(技術移転機関)のような機関がその橋渡しをしている事例もあるが、専門部隊を抱えていないような大学が単体で乗り越えていくのは簡単ではない。

本来はもっと世の中を良くできるポテンシャルを持つ技術が、埋もれてしまっていたりもするそうだ。

そこに課題と危機感を感じているからこそ、PDTでは大学の技術を世の中に出して、人々の課題解決に繋げる仕組みにこだわった。「当初から特定のプロダクトの会社ではなく『仕組みの会社にする』ということはメンバーで合意していた」(村上氏)という。

PDTの事業を支える新たな産学連携スキーム

このサイクルをより効果的に回す仕掛けとして、昨年PDTでは筑波大学との間で新しい産学連携スキームを構築した。

同大学内にある落合氏の研究室「デジタルネイチャー研究室」で生まれた知財の100%がPDTに譲渡され、その対価として筑波大学側にはPDTから新株予約権を付与するというものだ。

事前に新株予約権を付与しておくことで、新たな発明が出る度に権利配分の決定やライセンス契約の調整をする必要がなくなり、一連のプロセスを短縮できるようになる。

特に通常の産学連携フローと比べた場合のメリットとして(1)時間や金銭といったリーガルコストを削減できること(2)バリュエーション算出時にプラスに働く可能性があることが挙げられるという。

まずはリーガルコストに関してだ。デジタルネイチャー研究室では年に平均で20前後の新しいネタが生まれてくるため、時間的なコストが重くのしかかってくる。

1個ずつの交渉に早くても1〜2ヶ月、場合によっては数ヶ月かかることもあるそう。初期のスタートアップにとって、数ヶ月のロスは命取りにもなりうる。

もともとPDTと筑波大学では通常の産学連携フローでプロジェクトを進めていたが、この新しい連携スキームに切り替えてから1番変わったのはスピード感だったそうだ。

またPDTのような研究開発型のスタートアップの場合、「知的財産権が自社に単独で帰属していること」がVCなど外部投資家によるバリュエーション算出時にも良い影響を与える可能性があるという。

埋もれてしまう可能性のあった知財の有効活用も

新株予約権を活用した大学との連携は以前から社内でも検討していたそう。2017年8月には文部科学省が「国立大学が大学発ベンチャーを含む企業の株式や新株予約権を“一定期間”保有できるようにする」旨の通知を出したことで、実現に向けてより進めやすい状況になった。

PDT側のメリットは上述した通りだが、大学としても新株予約権を持つスタートアップ(今回の場合はPDT)が成長して時価総額が上がるほど、保有する資産も増えることになる。「スタンフォードなど、海外の大学では前例のあること」(落合氏)であり、国内でも実現できそうなイメージがあったという。

2017年12月にPDTは筑波大学と特別共同研究事業を開始し、同大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設置することを発表。落合氏は筑波大助教を退職して同基盤に准教授として改めて着任した。

そのような経緯で筑波大学との間で現在の産学連携スキームを構築したPDTだが、現在は他の大学ともアカデミア発の研究を社会実装までもっていく取り組みができないか話を進めているそう。この仕組みが広がればスタートアップのR&Dのやり方や、大学が保有する技術の活かし方にも新しい可能性が生まれるという。

「大学としては死蔵してしまう可能性のあった知財を有効活用することができる」(落合氏)一方で、スタートアップ側もリソースが限られる中で自前でR&Dを行うのではなく、豊富なリソースを持つ“研究の専門機関”である大学の知財を包括的に利用できる。

結果的にスタートアップの時価総額が上がれば、大学にもリターンが入り研究の予算を増やすことにも繋がる。

「自社がこのスキームを使って事業を成長させていくことは大事だが、それによってこのスキームを活用するベンチャーが出てくれば、日本の大学の技術がもっと世の中に実装されることになるので、この波がもっと広がってほしい。もちろんその中で『アカデミック発の技術を社会実装していく企業と言えばPDTだよね』というポジションはしっかり確立していきたい」(村上氏)

波動制御技術をコアに聴覚・視覚・触覚にアプローチ

さて、このようにしてデジタルネイチャー研究室からPDTに連続的に入ってくる技術のタネにはどのようなものがあるのだろうか。

たとえば社名にもなっている「Pixie Dust(ピクシーダスト)」は超音波の空間分布を制御することで、直接触れることなく物体を空中に浮かせて3次元的に動かせる技術だ。

動画にあるビーズのようなものだけでなく液体や部品のようなものも対象になるため、たとえばバイオやケミカルの実験、電子部品や金属部品の搬送などに活用できる余地があるという。

聴覚へアプローチするものとしては「Holographic Whisper」という名の、超⾳波の焦点をつくることで何もない空中から⾳を発⽣させる⾳響技術がおもしろい。

これは特定の位置にだけ強く音を届けられる技術で、たとえば看板の前にいる人にだけ商品の情報を音声で提供したり、美術館や博物館で展示品の前にいる人にだけ解説を紹介したりといったことが可能。従来の超指向性スピーカーのように直線上に⽴っている⼈間すべてに聞こえてしまうのではなく、距離まで調整できる。

タクシーの業務無線をドライバーにだけ聞こえるようにする、カーナビのガイドを運転席にだけ聞こえるようにするといった使い方もありえるそうだ。

プラズマ発光を利⽤して、スクリーンを用いることなく空中に映像を描画できる「Fairy Lights」なんて技術もある。空中に映し出された映像は見て楽しむだけでなく、実際に手で触れることも可能。その際にはしっかりと触覚のフィードバックがあるそうだ。

空中がディスプレイとなってそこに色々な情報が映し出され、コミュニケーションが行われる未来もそう遠くないのかもしれない。

こうして大学から生み出された要素技術がPDTの元へ次々と届き、社内でブラッシュアップされた後に顧客とのコラボレーションによって社会へと実装されていく。その形式は「プロダクトディプロイ型事業」と「空間開発型事業」という2パターンにわかれる。

前者はPDTのコア技術を使って企業と新しいプロダクトやサービスを共同開発し、それが製品として実装された際には収益の一部をライセンス料金として受け取るモデル。PDTの技術が入った製品が売れた場合、その都度一定の対価がPDTに支払われる仕組みだ。

後者の空間開発型事業は共同でソリューションを開発するタイプのもの。現場の課題抽出から取り組み、自社の波動制御技術を用いながら現場の体験向上を実現していく。

また同社とは別のビークルとして立ち上げられたクロスダイバーシティで立ち上げている自動運転車椅子も、PDTの技術を用いて開発したもの。これについてはかなり課題ドリブンの色が強く、介護施設に出向いて対話を重ねながら製品化を進めていっているという。

リサーチ機能の拡充へ人材採用とR&Dインフラに投資

前回のシリーズAラウンドから約1年半。落合氏によると事業面と組織体制の双方で大きな変化があったと言う。

現時点ではまだ世に出ている製品はないが、要素技術の数やパイプラインの数は増加(パイプラインは現在30〜40社とのこと)。最初に社会実装されるテーマの目処も立っているそうで、どうやら超音波に関する技術からのスタートになりそうだ。

また会社としても前回は数名だった社員数が30名近くにまで増えた。研究サイドでは落合氏や、波動制御技術の専門家で東京大学助教を経てPDTの創業に携わった星貴之氏(取締役CRO / 共同創業者)を中心に、若い人材から60代のベテラン研究者まで多様な人材が集う。

一方のビジネスサイドにも村上氏を始め、東大発バイオベンチャーのペプチドリームで取締役経営管理部長を勤めていた関根喜之氏(取締役CFO)など経験豊富なメンバーが加わった。

今回のシリーズBは第三者割当増資だけで40億円近く、融資も含めると50億円近くの資金調達になるが、その主な目的は人材採用とR&D基盤の強化だ。

「自分たちはお客さんにResearch as a Serviceを提供しているので、リサーチ能力を上げること、研究開発基盤を拡充させることが会社のパワーを上げることにも直に効いてくる。本気で人材とR&Dインフラに投資をしていく。個人としても研究により多くの時間を使い、新しいタネ出しに力を入れていきたい」(落合氏)

オーダースーツをオンラインで作れる「FABRIC TOKYO」が丸井グループから資金調達

採寸データを一度保存すれば、オーダースーツやシャツをオンラインで簡単につくることができる、D2Cブランド「FABRIC TOKYO」。サービスを運営するFABRIC TOKYO(旧社名ライフスタイルデザイン)は5月23日、丸井グループから資金調達を実施したことを明らかにした。調達金額は非公開だが、10億円規模と見られる。今回の資金調達により、FABRIC TOKYOの設立以来の累計資金調達金額は20億円超となる。

FABRIC TOKYOでは、2014年に現在のサービスの前身となる「LaFabric」をローンチした。当初はオンライン上でいくつかの質問に答えると、適切なサイズが提案され、そのまま購入できるサービスとしてスタート。その後、首都圏と大阪に展開する全10店舗でいったん採寸してデータを登録し、必要になったときにマイページから欲しいスーツやシャツを注文するスタイルに変わっている。ユーザーが改めてサイズに迷うことなく、オンラインでも簡単に体に合う洋服が手に入るというのが、FABRIC TOKYOのウリだ。

FABRIC TOKYOでは、自社企画商品を自社のみで販売するD2C(Direct to Consumer)モデルを採用。オーダー情報は提携する国内の縫製工場へ即時に送信される。中間流通を通さず、受注生産型で工場と直接取引することで、高品質かつ適正価格を実現しているという。

5月21日には新機能「自動サイズマッチングテクノロジー」をリリースした。この機能を使った商品の第1弾として、採寸データをもとに自動的に“いい感じ”のサイズのポロシャツが提案される「POLO SHIRT 2019」を販売開始している。

製品は、クールビズの浸透によりポロシャツ着用ができるオフィスが増えていることから、「ビジネスシーンでもきちんと感があること」「洗濯に強くタフに着回せること」を条件にポロシャツを選びたいというユーザーの声に応えてできたものだ。

XS〜3XLと全7種類のサイズの中から、ユーザーのデータにぴったり合うサイズが自動で提案され、2種類の着丈、2種類のフィット感が選択可能。合計28のサイズラインアップ、4色から自分に合ったポロシャツをオンラインで買うことができる。

今回株主となった丸井グループは「デジタル・ネイティブ・ストア」戦略を掲げており、FABRIC TOKYOが運営するD2Cブランドの成長戦略の方向性が一致したことで出資につながった、とFABRIC TOKYO代表取締役の森雄一郎氏は述べている。

これまでにもFABRIC TOKYOの全10店舗のうち3店舗(新宿、渋谷、池袋)が、丸井グループが運営するビルに出店しており、「いずれも業績は好調で全店舗黒字化し、初期出店コストも回収済みとなっている」(森氏)とのこと。「業績は成長基調にあり、昨期(2018年12月期)の売上は前年対比約300%で着地し、今期の目標も同等としている」(森氏)

森氏は「デジタル前提社会において小売を再定義する必要があるとの思いで活動している中で、先進的な取り組みを多数行ってきた丸井グループとは相性の良さを感じている。今後はリアル店舗の出店を強化していくとともに、マーケティングや生産面・組織面での連携を行いながらD2Cブランドの運営ノウハウを双方で蓄積し、FABRIC TOKYOを国内でも有数のアパレルブランドへと成長させていく」と資本業務提携にのぞみ、コメントしている。

FABRIC TOKYOでは、首都圏中心に展開してきた店舗について、2019年4月の大阪進出を皮切りに、今年は全国網羅的に展開していく計画だという。

FABRIC TOKYOは2012年4月の設立。2018年3月に社名をライフスタイルデザインからFABRIC TOKYOへ変更している。同社はこれまでに、2015年5月にニッセイ・キャピタルから1億円を調達、2017年1月にニッセイ・キャピタルほか複数のVCと個人投資家らから4億円を調達2017年10月にはグロービス・キャピタル・パートナーズ、ニッセイ・キャピタル、Spiral Ventures Japanから7.4億円を資金調達している。