「SmartHR」が「WOVN.io」と連携、外国人従業員増視野に5カ国語対応へ

クラウド人事ソフトのSmartHRおよびウェブ・アプリの多言語化サービスを提供するWovn Technologies(ウォーブンテクノロジーズ)は7月17日、「SmartHR」と「WOVN.io」を連携し、10月中旬から5カ国語でSmartHRの従業員画面が利用できる翻訳機能を公開すると発表した。

SmartHRは入社手続きや雇用契約、年末調整などの労務手続きのペーパーレス化を可能にするクラウド人事労務ソフト。入社手続きに必要な情報や年末調整などの入力を従業員のアカウントで行い、労務に関する作業を効率化することができる。

日本で働く外国人労働者は2018年10月末に146万人を数え、外国人を雇用する事業所は約21万6000カ所に上る。4月1日に施行された改正出入国管理法により、その数はさらに増加が見込まれている。今回の連携では、既存の1言語のサイト・アプリがあれば多言語化が可能なWOVN.ioの機能を利用し、SmartHRの従業員入力画面を多言語化。外国人従業員が日本語や労務手続きの専門用語に戸惑うことなく、母国語で年末調整や入社手続きをスムーズに行えるよう、支援する。

多言語化対応が適用されるSmartHRの画面は、雇用契約、入社手続き、年末調整の従業員用入力画面で、書類として出力する場合は日本語になる。翻訳機能はSmartHRのスタンダードプラン以上のユーザー企業が利用できる。対応言語は英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)、韓国語、ベトナム語の各言語だ。

翻訳ファイルが“魔法のように”自動生成されるクラウドストレージ「WOVN Workbox」発表

Wovn Technologies代表取締役社長 林鷹治氏

ウェブサイト、アプリの多言語化サービスを提供するWovn Technologies(ウォーブンテクノロジーズ)は6月19日に開催されたイベント「Globalized 2019」のオープニングセッションで、ドキュメントファイルの多言語化を実現する新サービス「WOVN Workbox」を発表した。同サービスは現在開発が進められているところで、8月ごろのリリースに向けて本日予約を開始している。

Wovn Technologiesではこれまで、既存の1言語のサイト・アプリがあれば、簡単に多言語化できるというソリューション「WOVN.io(ウォーブンドットアイオー)」、「WOVN.app(ウォーブンドットアップ)」を提供している。最大で40カ国語に翻訳が可能で、現在は大手企業を中心に約400社・1万5000サイトへと導入が進んでいるという。

新サービスのWOVN Workboxは、同社の「世界中の人が全てのデータに母国語でアクセスできる世界を目指す」というミッションを実現すべく開発されているものだ。サイトやアプリではなく「ファイル」の多言語化を、クラウドストレージ上で実現する。WOVN Workboxに保存すれば、自動的にWordやExcel、PowerPointなどの文書が翻訳され、ストレージにアクセスできるユーザーにファイルを別の言語で共有できる。

WOVN Workboxを利用することで、同じフォルダ内でも多言語で共同作業ができるため、外国人社員とのやり取りや、海外の顧客との取引、海外に拠点を持つ企業などでのファイルのやり取りに役立てることができる。

ファイル操作はDropboxやOneDriveなど、既存のクラウドストレージと同様、フォルダへのドラッグ&ドロップで行える。つまり「日本語ファイルをフォルダに入れる」と少し待つだけで「英語ファイルができる」、あるいは「英語ファイルを入れる」「待つ」「日本語ファイルができる」ということが相互にできる。フォルダ作成やファイル移動も反映され、ファイル内容を編集した場合も同期することで、自動的に変更部分が翻訳される。

WOVN Workboxを使ってWord文書を翻訳・共有するデモの様子

Wovn Technologies代表取締役社長の林鷹治氏は「保存するだけで多言語化される、魔法のようなクラウドストレージ」とその機能について表現していた。

利用者から見たファイルの翻訳は“自動的”だが、実際にはAIによる自動翻訳が施された後で、ネイティブの翻訳者が最終チェックを行うという。完全自動ではないが、しくみそのものは現在、同社のウェブ・アプリの多言語化サービスで採用されている翻訳フローと同じだ。

Wovn Technologiesでは、アルバイトも含め同社に所属する従業員のうち約半数が外国人で、国籍も17カ国にわたるという。営業資料、雇用契約など、言語別にファイルを用意することが「翻訳だけでなく、管理なども含め面倒なコストになっていた」と林氏は述べ、「全員が同じドキュメントを母国語で管理・編集できるようになればいいのに、と創業間もなくからずっと言っていた」と話している。

林氏はGAMEBOY開発者の横井軍平氏の言葉「枯れた技術の水平思考」を引用し、新サービスについて「クラウドストレージの技術に注目し、ファイル多言語化へと応用したもの」と説明していた。

WOVN Workboxの対応言語は、当初は日本語・英語間のみだが、近いうちに中国語にも対応していく予定だ。また利用できるファイルフォーマットは、Word文書(.docx)、PowerPointプレゼンテーション(.pptx)、Excelブック(.xlsx)、テキストファイル(.txt)の4種で、中国語対応と同じ頃にPDF対応も予定しているという。

Wovn Technologiesは2014年3月の設立。6月5日には総額14億円の資金調達を発表したばかりだ。

サイト・アプリ多言語化サービス「WOVN.io」が総額14億円を資金調達

ウェブサイトやアプリの多言語化サービスを提供するWovn Technologies(ウォーブンテクノロジーズ)は6月5日、第三者割当増資と銀行などからの融資をあわせ、総額約14億円の資金調達を実施したと発表した。

Wovn Technologiesが提供するのはウェブサイトの多言語化サービス「WOVN.io(ウォーブンドットアイオー)」と、アプリの多言語化に対応した「WOVN.app(ウォーブンドットアップ)」だ。

WOVN.ioは既存の1言語のサイト・アプリがあれば、簡単に多言語化できるというソリューション。詳しい仕組みについては過去の記事を見てもらえればと思うが、言語ごとに別サーバーやページを用意することなく、最大で40カ国語に翻訳が可能で、システム開発やサイト運用、翻訳にかかるコストを削減することができる。

 

今回の第三者割当増資の引受先は、Eight Roads Ventures Japan、NTTファイナンス、オプトベンチャーズ、近鉄ベンチャーパートナーズ、マイナビ、OKBキャピタルの各社だ。

Wovn Technologiesは資金調達により、サイトやアプリを通じた顧客企業の海外戦略をサポートする専任チームを強化する予定だ。同社代表取締役社長の林鷹治氏によれば「一口に多言語化といっても各社、目的はいろいろ」とのこと。「越境ECの商品説明、インバウンド向け旅行会社のツアー紹介、交通機関の安全への取り組みなど、それぞれの企業が目指す外国人戦略について、コンサルティングというよりは併走して支援していく体制を強化したい」(林氏)

また1万5000サイトへと導入が進む中で、大規模サイトや大手企業による利用も増えているというWOVN.io。Wovn Technologiesでは、大規模サイトのための機能開発や、AIによる翻訳業務効率化のための研究なども進めるという。

「我々は、『インターネットをローカライズする世界的な黒子企業』を目指す」という林氏。近日中に、多言語化に関わる新しいサービスの発表も予定しているということだったので、引き続き注目したい。

写真左から、Wovn Technologies取締役製品担当 サンドフォド ジェフリー氏、代表取締役社長 林鷹治氏、取締役副社長 上森久之氏

Wovn Technologiesは2014年3月の設立。これまでに、インキュベイトファンドからの総額約3000万円のシード投資をはじめとして、2015年9月にオプトベンチャーズ、ニッセイ・キャピタルから1.3億円2016年12月にはSBIインベストメントや凸版印刷などから3億円を資金調達している。今回の調達を含め、創業以来の累計調達額は約20億円となる。

「WOVN.io」がスマホアプリ対応版の多言語化ツール「WOVN.app」提供開始

ウェブサイトの多言語化をたった1行のコード追加で実現するツール、それが「WOVN.io(ウォーブンドットアイオー)」だ。サービスを運営するWovn Technologies(旧ミニマル・テクノロジーズ)は7月30日、スマホアプリに対応した多言語化ツール「WOVN.app(ウォーブンドットアップ)」のベータ版提供を開始した。

Wovn.ioについてはTechCrunch Japanでも何度か紹介してきた。2014年秋に開催したTechCrunch Tokyo 2014 スタートアップバトルでは、PayPal賞、マイクロソフト賞を獲得。既存の1言語のサイトがあれば、簡単に多言語化できる点が特徴だ。言語ごとにページを用意したり別サーバを立てる必要はない。

Wovn.ioでは、翻訳したいページのURLを管理画面に入力すると、翻訳すべきテキストが抽出され、リストアップされる。テキストは機械翻訳で一括して翻訳することが可能。またリストの1つ1つを任意で訳すこともできるので、誤訳を修正することや、固有名詞や意訳など独自の翻訳コンテンツを用意することもできる。サイト内で共通して頻出する用語は用語集に登録することで、同じ言葉に翻訳してくれる。

対応する言語は約30言語。翻訳先の言葉が分からず自分で校正できない場合は、管理画面からプロの翻訳者に直接翻訳を依頼することができる。1語5円、通常24時間から48時間で翻訳が可能だそうだ。

翻訳が完了したら保存・公開を行って、サイトとWOVN.ioを連携させる。サイトとWOVN.ioとの連携は、1行のコードをHTMLに追加するだけ。JavaScriptのコードスニペットのほか、PHPやRubyのライブラリなどにも対応している。

料金体系は、ページ数やPV数を制限し、基本機能を無料で利用できるWOVN.ioと、大規模サイト向けに個別見積りで機能拡張にも対応する、有料版のWOVN.io PRIMEの2通り。エイチ・アイ・エスや東京急行電鉄など大手を含む1万以上の企業で導入されているという。

Wovn Technologies代表取締役の林鷹治氏によれば「一般向けの公開サイトだけでなく、企業内のワークフローシステムなど、日本に在住して働く外国人向けの利用も増えている」とのこと。カスタマイズが可能な有料版は、テーマパークのチケット予約サイトなどでの利用事例もあるそうだ。

小売やチケット販売などで有料での利用が伸び、売上ベースで前年比400%を超える勢いだと林氏は言う。その背景について「多言語化SaaSはニーズが高い。(サイトなどの)プロダクトが大きければ大きいほど、多言語化は困難だ」と林氏は説明する。

「多言語化では翻訳費用だけでなく、システム対応費用も発生する。WOVN.ioを使えば、1つのシステムで言語を切り替えて国際化することができ、開発コストを下げることができる」(林氏)

既存サイトに後付けで多言語ページが用意できるWOVN.ioでは、大規模サイトで従来発生していた数千万円単位の開発コスト、数カ月単位の開発期間を圧縮できる。「大きな組織ほど効果が評価され、大きな予算で利用してもらっている」と林氏は述べる。

「CDNサービスのAkamaiや、DBをベースにソフトウェア製品を出すOracleのように、大手企業の多言語化されたサービスの後ろでは、実はどれもWOVNが動いている、という状況に持っていきたい」(林氏)

そうした構想を強化すべく、今回新たに投入されることになったのが、スマホアプリ向けの多言語化ツールWOVN.appだ。

若年層を中心に、PCよりスマホなどスマートデバイスの存在感が増していること、スマホ内ではブラウザよりスマホアプリのほうが利用時間が長いという調査もあり、WOVN.ioを利用する顧客からもアプリの多言語化についての相談が増えていたという。そこで開発されたのが、WOVN.appだ。

7月30日よりクローズドベータ版として、まずはiPhoneアプリ用SDK(Swift)を提供開始。今秋には正式版としてローンチする予定だ。

「モバイルアプリは言語のローカライズをするだけでも、いちいちApp StoreやGoogle Play ストアに申請が必要だが、SDKをアプリに組み込むことで、WOVN.ioと同様に管理画面から翻訳ができるようになる」(林氏)

対応する言語はWOVN.ioと同じく、約30言語。これから開発する予定のアプリだけでなく、リリース済みのアプリに組み込むことも可能だ。「EC」「予約」「ニュース・メディア」「SaaS」「交通」などあらゆるアプリに組み込むことができるという。

「アプリの多言語運用は本当に大変。翻訳データをエンジニアに渡してビルドしてアップし、ストアへ申請する、ということをアップデートの度にやらなければならない。特にECサイトなど(コンテンツの多いプロダクト)では大変で、独立した部署や別会社を作るぐらいの体制で対応しなければならない。そうした企業でWOVN.appを使えば、運用コストが下がるのではないか」(林氏)

林氏は「WOVN.appは動的アプリの多言語化に強いサービスだ。まずはウェブサイトとアプリの両方があるプロダクトから、利用をお勧めしたい」と話している。

1行でWebサイトを多言語化する「WOVN.io」が1.3億円をオプト、ニッセイから資金調達

すでにTechCrunch Japanで何度か紹介しているが、1行でWebサイトを多言語化する「WOVN.io」を運営するミニマル・テクノロジーズが今日、オプトベンチャーズ、ニッセイ・キャピタルを引受先とした1.3億円の第三者割当増資を実施したたことを明らかにした。同社は2014年3月設立で、これまでインキュベイトファンドから計約3000万円のシード投資を受けて、サービス開発を進めていた。

サービスを提供していく中で、大規模サイトでの利用ニーズが大きかったことから、これまでもエンタープライズ向けサービスを開始しているが、今回の資金調達によりセールス、開発とも加速すると林CEOは話している。

特に中国から日本への流入というインバウンド需要に対応するために、BaiduやNAVERのクローラー対応によるSEO対策など機能拡張を続けていたが、今後はWebサイトをローカライズするだけにとどまらず、海外ユーザーを獲得するためののプラットフォームと位置づけて、機能開発を行っていく予定という。

ちなみに、ミニマル・テクノロジーズはTechCrunch Tokyo 2014のスタートアップバトルのファイナリスト。今年11月のTechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトルについては現在、参加企業を募集中だ。

クローラー対応でインバウンド需要に手応え、サイト多言語化のWOVNが伸びてるらしい

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ちょうど1年ほど前、JavaScriptを1行追加するだけでサイトを多言語化できる「WOVN.io」(ウォーブン)について記事を書いたが、WOVNを提供する日本のスタートアップ、ミニマル・テクノロジーズが売上を伸ばしているようだ。有料プランを開始して2カ月で、すでに年商5000万円程度は見え始めているほか、今日リクルートと包括的業務提携も発表し、リクルートが持つ多くのメディアサイトへ順次WOVNを導入していくことが決まったという。

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伸びているのは月額1000ドル以上の上位プラン

WOVN.ioの何が良いのかというのは、詳しくは以前の記事を見てほしいが、これは簡単に言うと既存サイトを手軽に多言語化するクラウドサービスだ。オリジナルの日本語に加えて、英語や中国語、スペイン語、韓国語などと多言語でサイトを表示するのはコストがかかるし、変換(翻訳)や運用が複雑になりがちだ。

そこで「多言語切り替えボタン」を自サイトの右下などに表示できるようにするというのがWOVN.ioだ。企業はもちろん、自治体やECサイト、学校法人などが利用している。管理画面からボタンを押すことで指定ページを機械翻訳することができるほか、プロの翻訳者に依頼も可能だ。機械翻訳でなく人間を選んだとしても、翻訳に要する時間以外の面では管理画面の使い勝手が変わらないのがポイントだ。ミニマルテクノロジーズ創業者でCEOの林鷹治氏によれば、実際の翻訳者は翻訳プラットホームのGengoの契約者。英語だと1ワードあたり5円程度とか。これは別料金で、WOVNの売上の25パーセント程度が、このプロ翻訳の利用によるものだそうだ。

有料版の提供を開始して2カ月で、現在70クライアント程度の有料顧客がいる。WOVNの全ユーザーが4500クライアントというから、もう少し有料顧客がいて良さそうにも思えるが、これは途中から料金体系を変更したことによる結果。本来有料プランとなるユーザーにも、今のところ無料で提供し続けているそうだ。有料版と無料版の主な違いは、翻訳対象となるページ数の上限、翻訳言語数、それに電話サポートなどだ。

B向けのSaaSを提供しようというスタートアップにとって有用な知見かもしれないと思うのは、有料ユーザーの分布だ。

フリープラン(無料)をのぞく、スタートアッププラン(19ドル)、ビジネスプラン(120ドル)、エンタープライズプラン(1000ドル〜)という3つのプランは、現在だいたい同じくらいの契約数となっている。だからWOVNでは今後、「エンタープライズ」のみにフォーカスしていく方針という。フリーミアムモデルの常で、フリー版利用者の裾野を広げる必要がある。それなりにトラフィックのあるサイトで無料で導入してもらうことでWOVNボタンとデモを広く見せることができる。だから下位の有料プランの機会損失はマーケティング予算と割り切るほうが良いという判断だそうだ。B向けSaaSの価格体系トレンドとして、「Optimizelyの料金体系もFreeとEnterpriseしかなく、そういう流れに来てるのかなという気がしている」(林氏)のだといい、上位プランを使う層は「規模が小さいところよりも、もっと大きい需要があることに気付いた」ということだ。

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もう1つ、リクルート・コミュニケーションズと包括的業務提携を決めたこともWOVNにとって良いニュースだ。リクルート・コミュニケーションズは同グループが発行する媒体の制作会社なので、リクルートが持つ多数のWebサイトの他言語化にはWOVNを使われることになる。リクルートにはインバウンドの旅行客を抑えたいというような需要があり、この場合はデータベースはすでにリクルート側が持ってるものを使うことになる。たとえば、日本の旅館の住所の多言語データベースなんかをリクルートは持っている。

懸案のクローラー対応で中国語の検索エンジンにも対応

JavaScriptを1行書くだけでサイトを多言語化できるというのは手軽だったが、問題は検索エンジンのクローラーから「見えない」こと。つまり、せっかく多言語でページを用意できても、それはあくまで人間のユーザー向け。検索エンジンにインデックスされないという課題があった。

これは原理的に解決できない問題だと想像していたのだけど、意外な方向から解決策がでてきた。HTMLを1行書き換える代わりに、サーバ側のアプリケーションを5行ほど書き換えてしまうのだ。

WOVNでは「WOVN++」と名づけたPHPとRuby(Gem)のライブラリ提供を開始した。サーバ管理者やアプリ開発者がいる組織であれば、特に問題なく5行程度でWOVNを組み込める。つまり手軽さ優先で多言語化する小規模サイトならJavaScriptで、インバウンド需要を取り込むためにECサイトをまるっと多言語化したいというようなニーズならサーバ側を変更するという2つの方法になったのだ。サーバ側のライブラリはテンプレートエンジンの1種になっているので、HTML生成直前(ブラウザへの表示の直前)にWOVNのAPIが間に入るというシンプルな構成だ。

「GemとPHPのライブラリは重要な役割を持っています。実はGoogleだけにインデックスされても意味がないんです。(日本の)WOVNの利用者は中国人向けにサイトを中国語にすることが多い。ところが中国人や韓国人はGoogleを使っていないんです。WOVNではBaiduやNAVERのSEOも大事にしていて、ライブラリではここをサポートしています」

「Baiduはクローリングがすごく遅くて、更新に2、3カ月かかることもある。だから明示的にAPIを叩いてページを拾いに来てもらう必要があります。そういうことを皆さんご存じないのですね。知っていたとしても、中国語なのでインデックスの登録ができない。そこも含めてWOVNでサポートしていきます」

中国人の爆買いで、日本の免税店や量販店が賑わっているが、当面はWOVNでもインバウンド系の需要を取りに行くという。そして最近の気付きは、WOVNのような多言語化の強い需要は、海外への情報発信というよりも、その土地にすでに来ている外国人向けの翻訳にあるのでは、という興味深いもの。

「ウォンツ(wants)じゃなくて、ニーズ(needs)が高いのは飲食とか購買です。すでに、その土地に来ている人たちにモノを売るほうがニーズが高いからです。これは世界各国で同じことが言えます。アメリカ国内なら移民のニーズがある。英語が読めないけどアメリカにいる人たちに対して、アメリカのお店はモノを売りたいわけです。言葉の問題でサービスを提供できず、自分の横を販売チャンスが通りすぎているのを見ている人たちなので、ここの翻訳ニーズはとても強い。だから、今はWOVNにとって日本が一番良い市場じゃないかと感じています」

【追記】Wovn.ioは昨年秋のTechCrunch Tokyo 2014のスタータアップバトルの決勝戦に残り、PayPal賞、マイクロソフト賞を獲得している。今年秋もまたスタートアップバトルを開催するので、これからローンチする、あるいは最近ローンチしたばかりのプロダクトを持つスタートアップ企業には、ぜひご応募いただければと思う。

JavaScript 1行でサイトを多言語化、ボタン一発翻訳の「WOVN.io」が良さそう

先日とあるWebサイトの新規制作のために見積もりを取ったら、日本語・英語の「多言語化対応」のためだけに18万円が計上されていて、卒倒しそうになった。翻訳料じゃなくて、単にCMSを多言語設定にするのに18万円ってナンノコッチャと思ったのだけど、Webサイトの文章やコンテンツを多言語化するのは手間もコストもかかる頭の痛い問題であることは間違いない。言語切り替えメニューは、どこに配置するのか、それは国旗アイコンなのか文字列なのか、言語ごとにURLパスはどう切り分けるのか、サブドメインで対応するのか、コンテンツ更新の同期はどうするのか、翻訳はどこに外注するのかなど、考えなきゃいけないことは多い。そして実は何より、コンテンツの更新となると、HTMLやCMS上で対応箇所を確認しながら訳文をコピペするという面倒な作業も発生する。

大手グローバル企業のWebマスターなら、ありあまる予算をクラウドソーシングにぶち込むなり、Web制作会社に翻訳ごとまるっと投げてしまえばいいのかもしれないけど、それにしたって、結構なグローバル企業のWebサイトで、英語と日本語で異なるコンテンツが表示されているなんていうケースに出くわした経験は誰にでもあるんじゃないだろうか。要するに大変なんである。

この問題を「なるほど!」という感じで、あっけなく解決するのが、創業間もないミニマル・テクノロジーズが提供する「WOVN.io」(ウォーブン)だ。独立系VCのIncubate Fundから450万円のシード投資を受け、ここ数カ月ほとんど1人でWOVNを実装してきたミニマル・テクノロジーズ創業者でCEOの林鷹治氏は、起業した理由を「ふとアイデアを思い付いたから」と語る。

元サイトには手を加えずに多言語化できる

もともと林氏は、Stores.jpを運営するブラケットでグロースハッカーとして活躍していた。グロースハッカーとして、ブラウザ上でA/Bテストが簡単にできるOptimizelyのサービスを使っていて、「あれ? これを多言語化に使えばいいんじゃない?」と同僚との会話の中で気付いたのだという。Optimizelyはブラウザ上で、ボタンやテキストといった要素を移動したり編集したりして、バージョンAとバージョンB……と同一ページで複数の異なるバージョンのページをユーザーに見せることができるツールだ。「A案」「B案」と出し分けることで、どちらがより良い反応が得られるかを見た上でデザインを決めるのがA/Bテストだ。

ポイントは、異なるバージョンを見せるために、元サイトにJavaScriptのスニペットを入れるだけで良いというところ。実際のコンテンツはOptimizelyのサーバから各サイト訪問者に提供される。これと同様の仕組みを多言語化サービスに使ったのがWOVNだ。

JavaScriptを1行、書き足すだけ

使い方は簡単で、WOVNでアカウントを取って、多言語化したいURLを入力。WOVNがHTMLをフェッチして解析した上でボタン類やコンテンツのテキスト要素を一覧して並べてくれる。ここで翻訳ボタンを押すと、マイクロソフトの機械翻訳サービス(Bingのもの)を使って主要10言語の訳文を生成することができる。訳文は手で編集することも可能だ。

次に、元サイトでJavaScriptのスニペットをHTMLに埋め込む。スニペットといえば、1行から5行程度ものが多いけど、WOVNでは実際に1行にすることにこだわったそうだ。

すると、Webサイトの右下に(モバイルでは下部に帯状に)、以下の画面のようなドロップダウンメニューが表示されて、訪問者は言語切替ができるようになる。技術的にいえば、各言語はハッシュタグの付いた個別のURLが割り当てられることになるが、ユーザー体験としても管理側としても、同一ページで複数言語が切り替えられるといって良く、非常にシンプルだ。WOVNのダッシュボードから多言語のリソース(テキスト)を管理、更新することができるという意味で、WOVNは一種のCMSとして機能する。オリジナルのHTMLやサイト構成、サーバ設定などに変更を加える必要がないのがポイントだ。

ちなみに、ちょっと技術的なことを書くと、WOVNではWebページにおけるテキスト要素をXPathで管理していて、これを動的に差し替えているそうだ。動的差し替えといっても、多言語のテキストは最初にまとめてクライアント側に持ってくるので、UIの応答性は極めて良い。

人間による翻訳も提供

「なるほど便利そうだ、でも機械翻訳じゃ翻訳精度が……」と思う人もいると思う。まず1点は、翻訳後の訳文は自由に編集ができるので、あくまで機械翻訳をスタート地点とすることができるというのがWOVNの良さと思う。もう1点、WOVNでは人間による翻訳の「リクエストボタン」も用意するそうだ。WOVNはMVP(ミニマム・バイアブル・プロダクト)としてローンチしたばかり。今後、たとえばAPI経由でクラウド翻訳が可能なGengoなどのサービスへつなぎ込みを行うとか、背後にプロの翻訳者や、あるいはボランティア翻訳者をプールしておいて、翻訳の納品日数によって料金プランを変えるようなことも考えているという。

まだ、訳文のバージョン管理機能などはなく、たとえば人間が翻訳した高品質の訳文があるページにコンテンツを追加して、誤って全翻訳ボタンを押すと、せっかくの訳文が機械翻訳で上書きされて吹っ飛ぶという「その辺は運用でカバーしてね」という仕様や、「本文」「段落」などと認識してほしいテキストブロックが、全てP要素でバラバラに表示されてしまうといった荒削りなところはある。翻訳についてもURL単位なので、ドメイントップを指定して3階層まで翻訳するなどといったオプションもない。

とはいえ、元サイトに変更をほとんど加えることなくサイトを多言語化できて、何よりもオリジナル言語のコンテンツの更新に合わせて多言語をまとめて管理できるサービスとしてみると、ぼくは潜在市場は大きいと思うし、デモを見る限り、すでに十分な利用価値があるように思う。読者の中には、「Google Chromeの翻訳でいいんじゃね?」と思う人もいるかもしれないけど、提供者側が用意できることとか、肝心のところは人間の翻訳を入れられるというのがポイントだと思う。もっとも、まだ翻訳テキストのGoogleクローラー対策などは、これから考慮に入れないといけないという話なので、検索流入に効果があるのかなど未知数なところもあるけどね。

林氏は「スモールビジネスのオーナーの需要があるのではないかと見ている」という。たとえば、外国人向けサービスを提供する行政書士の事務所が、中国語、韓国語、ロシア語などのページを用意するといったケースがある。あるいは自治体のWebサイトなどでは、現在冒頭に書いたようなWeb制作会社や翻訳事務所への外注コスト、メンテナンスコストがかさんでいるといった状況はありそうだ。WOVNでは、オリジナルのHTMLに変更を加えると、ダッシュボード上で該当URLがピンクになるので、それを確認して翻訳ボタンを押し直すだけで良く、メンテンスコストを大幅に下げられるだろう。

ほかにもWebコンテンツの翻訳ということでは、KickstarterとかAirbnbのようなサービス系のサイトだとか、ブログプラットフォームでの利用ということも想定しているそうだ。ブログだと、Tumblrまで含めて、JavaScriptのスニペットを埋め込めるサービスであれば、ほとんどどんなブログサービスでも利用可能という。個人ブログに入れるのもありだ。

なんで今までWOVNみたいなサービスがなかったのか? というと、実はこれまでにも類似サービスは存在していたそうだ。たとえば、TolqというサービスがWOVNに近いそう。ただ、こうしたサービスは少数派で、多くの「多言語化サービス」はDakwakのようなタイプ。Dakwakでは翻訳コンテンツをDakwak側でホストして翻訳コンテンツについてはページ全体を提供するというモデル。だから、利用者はDNS設定を変更してサブドメインがDakwakのIPアドレスに振り向けられるようにしておく必要がある。つまり、サーバ管理ができるドメイン保持者ではないと利用が難しいということ。

まだWOVNにどの程度市場性があるのか良く分からないけど、ぼくは今すぐTechCrunch Japan主催のイベントページの多言語化に利用してみたいと思ったね。