リモートでのエンジニア発掘、採用、管理を支援するTuringが約98億円調達、転勤望まぬエンジニアからの需要急増

コーンフェリーの調査によると、テクノロジー業界のエンジニア人材を巡っては需要が供給を上回る深刻な状況が続き、2030年までに乖離は広がり、8500万件のポジションが埋まらない見通しだ。より包括的かつグローバルなアプローチで人材を発掘、採用、管理することでこの流れを食い止めることができると考えるスタートアップが、自社のプラットフォームの構築を継続するため、大規模な資金調達を米国時間12月20日に発表した。

AIを使ってエンジニアの発掘、評価、採用、入社、リモートでの管理(人事やコンプライアンスの面も含む)を「タレントクラウド」という大きなプラットフォームで行うTuring(チューリング)が、シリーズDラウンドで8700万ドル(約98億円)を調達した。このラウンドで11億ドル(約1250億円)のバリュエーションがついた。WestBridge Capitalがこのラウンドをリードし、前回の出資者であるFoundation Capital、新規投資家のStepStone Group、AltaIR Capital、戦略的投資家のHR Tech Investments LLC(Indeedの関連会社)、Brainstorm Ventures, Frontier Ventures, Modern Venture Partners, Plug and Play Scale Fundも参加した。このラウンドは応募超過となったため、同社はバリュエーション40億ドル(4520億円)でSAFEノートも募集した。こちらも応募超過となった。

今回の資金調達の背景には、Turingの力強い成長がある。世界各地にいる、転勤ができない、あるいは転勤を望まないエンジニアからの需要が急増したのだ。創業者でCEOのJonathan Siddharth(ジョナサン・シッダールト)氏はインタビューで、候補者総数が2020年1年間で9倍に増え、140カ国、100万人のエンジニアや開発者が、プロジェクトを探しているか、すでにプロジェクトに携わっていると話した。(2020年、同社が3200万ドル[約36億円]の資金調達を発表したとき、このプラットフォームには18万人の開発者がいるとのことだった)。現在、約100のテクノロジーと15の職種をカバーしており、エントリーレベルからエンジニアリング・ディレクター、CTO候補まで、幅広い職種をカバーしているとシッダールト氏はいう。

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人気の職種は、フルスタックエンジニア、フロントエンドやバックエンドの言語を専門とするエンジニア、そしてサイトの信頼性を高めるエンジニアだ。近い将来、Turingはプロジェクト管理などの隣接分野にも進出し、新製品への道を開く予定だ。企業がTuringを使って個々人をチームとして管理するのではなく、チーム全体を管理できるような製品だ。

このプラットフォームに対する需要も拡大している。顧客はテクノロジー企業から、ビジネスのさまざまな側面の運営や構築を支援するエンジニアを必要とする非テクノロジー企業まで、多岐にわたっており、Johnson & Johnson、Coinbase、Rivian、Dell、Disney、Plume、VillageMDなどが含まれる。

「私たちは今、リモートファーストの世界に生きており、誰もがその価値を享受しようと競っています」とシッダールト氏は話す。

Turingは、採用とリモートワークに関するいくつかの基本的な前提に基づいて設立された。その前提は現在の市場環境で受け入れられ、新型コロナウイルス感染症がおそらく恒久的に位置づけを変え、姿を変えた。パンデミック以前も、リモートワークが受け入れられることもあったが、多くの場合、企業は実際にインフラを整え、人々がオフィス環境で一緒に働けるようにするだけでなく、できるだけ多くの時間を過ごすよう奨励した。そのために、無料でおいしい食事、ビリヤード台やその他の娯楽、一眠りしたいときの仮眠室さえ用意した。

こうしたことは、オフィスカルチャーに関する凝り固まった考え方の中で広がっただけでなく、募集や採用にも影響を与えた。仕事のためには引っ越すものであったし、会社と従業員は大がかりなビザの手続きを経なければならなかった。しかも、ベイエリアのような特定のハイテク拠点への転居を求められることが多かった。これは、地域のインフラや家賃、市や町の大きな社会構成に大きな負担をかけることを意味した。

新型コロナがゲームを完全に変えた今、私たちはみな、仕事をするために、しかも仕事を首尾よく進めるために、そうしたことが本当に必要だったのかどうかを自問している。

Turingは、そのような問いかけに事実上、響き渡る声で「ノー」と答えるプラットフォームだ。

「Twitter、LinkedIn、Siemensはリモート化を進めており、その理由は明白です」とシッダールト氏は話す(いずれもTuringの顧客ではなく、リモート化を進める企業の例だ)。「今やエンジニアのプールを利用することができます。賢い人々は他の人がいないところに目を向けています。また、分散型チームの成功も証明されています」。

しかし、リモートマネジメントが簡単だというわけではない。エンジニアのパイプラインを構築し、彼らを評価する方法を考え、彼らと連絡を取り続ける必要がある。そのため、Turingが構築されたのは、発掘のためだけではなく、その他のハードスキルやソフトスキル支援のためでもある。シッダールト氏によると、ほとんどの人は有期のプロジェクトで登録するが、中には組織内のもっと長期的な、さらには正社員のポジションで働く人もいる。このような人材不足の問題に取り組んでいるのは、Turingだけではない。

Fiverr、Upwork、LinkedIn、その他多数のプラットフォームで、エンジニアがどこにいても簡単に探し出すことができる。Turingが構築したプラットフォームは、エンジニアと関わる際に生じる、より特殊なエンド・ツー・エンドのニーズに対応する(この点では、先にデザイナーやクリエイターの採用・管理プラットフォームで資金調達を行ったSupersideと少し似ている)。

StepStone GroupのパートナーJohn Avirett(ジョン・アビレット)氏は「世界中の開発者にすばらしい機会を提供するというTuringの野心的なビジョンは刺激的です」と声明で述べた。「『インテリジェント・タレント・クラウド』は、アクセスを民主化し、契約を結ぶ以上の永続的なつながりを作る驚くべき方法です。彼らは、そのプロセスを、個人と採用する企業のための長期的なキャリアプランにまで洗練させました」。

「Turingは、巨大な業界のあらゆる『脚』を製品化しており、その顔と認識を将来にわたって恒久的に変えました」とFoundation CapitalのAshu Garg(アシュ・ガルグ)氏は付け加えた。

画像クレジット:Busakorn Pongparnit / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

AIを利用して神経疾患の治療薬開発を行うNeuraLight、神経学的評価とケアのデジタル化を目指す

NeuraLight(ニューラライト)は、AIを利用して神経疾患の治療薬の開発を進めるため、550万ドル(約6億3000万円)のシード資金を調達し、ステルスから脱してローンチを果たした。同社はCorus.ai(コーラス・ドット・エーアイ)の共同創業者で元社長のMicha Breakstone(ミカ・ブレイクストーン)氏によって共同設立された。Chorus.aiは2021年初め、5億7500万ドル(約656億円)でZoomInfo(ズームインフォ)に売却されている。ブレークストーン氏は現在、NeuraLightのCEOとして、共同創業者でCTOのEdmund Benami(エドモンド・ベナミ)氏とともに同社を率いている。

このシードラウンドには、MSAD、Kli、Tuesday(チューズデー)、Operator Partners(オペレーター・パートナー)、VSC Ventures(VSCベンチャーズ)が参加した。エンジェル投資家としては、Instacart(インスタカート)のCEOであるFidji Simo(フィジー・シモ)氏、Clover Health(クローバー・ヘルス)のCEOであるVivek Garipalli(ヴィヴェック・ガリパリ)氏、Immunai(イムナイ)のCEOであるNoam Solomon(ノーム・ソロモン)氏などが名を連ねている。

オースティンとテルアビブに本社を置くNeuraLightは、神経学的評価とケアをデジタル化することで、神経疾患に苦しむ人々を支援することを目指している。ブレイクストーン氏とベナミ氏は、Google(グーグル)、Chorus.ai、Viz.ai(ヴィズ・エーアイ)出身の同窓生の他、研究・医薬品業界から人材を採用してきた。

同社のチームは、顕微鏡での眼球運動の測定値を自動的に抽出するプラットフォームを構築した。この測定値は、神経疾患の信頼できるデジタルエンドポイントとして機能する。同社のプラットフォームでは、AIと機械学習を利用して動画から光と動きを取り除き、より正確な動画を得ることができる。

「この高度に拡張された高精度動画から眼の計測値を抽出することで、顕微鏡的な動きから神経疾患の進行を予測することを可能にしました。そして、神経学のためのより良い方法で薬を開発する手段として、製薬会社への販売が実現したのです」とインタビューでブレイクストーン氏は語っている。

このプラットフォームは、最終的には臨床試験を加速し、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、その他の神経変性疾患の将来的な治療の成功確率を高めることを目的としている。

同社のプラットフォームは専用のデバイスを必要としないため、製薬会社はNeuraLightを臨床試験やリモート環境に統合できる、とブレイクストーン氏は説明する。何千人もの患者から匿名化されたデータを収集することで、最大規模かつ独自の匿名化された眼球測定データベースを構築し、AIを適用してデータから洞察を得る。それがNeuraLightの見据える展望である。

画像クレジット:NeuraLight

ブレイクストーン氏の話では、この分野に競合する企業は多くなく、既存企業が提供するものにはカメラのアイトラッカーや瞳孔計などの専用デバイスが必要になるという。これらの企業とNeuraLightの違いについて同氏は言及し、NeuraLightのプラットフォームは、標準的なスマートフォンやウェブカメラの動画さえあれば機能する点を強調した。同社は開発中の技術を保護するための仮特許を申請中である。

NeuraLightは次のように指摘している。世界中で10億人を超える人々が神経疾患に苦しんでいるが、現在の神経学的評価は非常に主観的であり、症状の手動検査に依存するものとなっている。そのため、製薬会社は的確な治療法を開発するための有効なツールを持ち合わせていないのが現状だという。

「過去20年間製薬業界で働いてきましたが、デジタルエンドポイントは神経学の未来であると自信を持っていえます」と語るのは、NeuraLightでチーフイノベーションオフィサーを務めるRivka Kretman(リヴカ・クレティマン)氏だ。「この技術は、製薬会社が神経疾患の薬剤開発を効果的に、そして最終的にはより成功させるために必要としながらも、欠落していた要素でした。これらの会社の薬剤開発パイプラインのための新しい測定基準の確立に、この技術は大きな役割を果たすことになるでしょう」。

550万ドルのシード資金に関してNeuraLightは、製薬会社と提携して新薬開発の成功率を高め、開発コストを削減することを視野に入れている。同社はまた、製薬会社が医薬品を市場に投入するまでの時間を短縮できるよう支援することも目標に据えている。ブレイクストーン氏によると、NeuraLightはイスラエルでパーキンソン病の独自の測定を開始し、現在3つの製薬会社と協働しているという。製薬会社の名前は今のところ明らかにされていない。

「私たちは神経学の完全な変革を実現し、新世代の薬の開発につなげたいと考えています。世界の変革を担うことを実際に意識し、今日の神経学的ケア評価の方法を変える象徴的な会社の構築を支援したいと志す人々の雇用と招致を確実に進めました」とブレイクストーン氏は語っている。

NeuraLightの科学諮問理事会は、イスラエルのRabin Medical Center(ラビン・メディカル・センター)にある運動障害センターの責任者、Ruth Djaldetti(ルース・ジャルデッティ)氏が率いる。さらに、ノーベル賞受賞者のAlvin Roth(アルヴィン・ロス)氏、Flatiron Health(フラットアイアン・ヘルス)の元CTOのGil Shklarski(ジル・シュカルスキー)氏、Pomelo Care(ポメロ・ケア)のCEOであるMarta Bralic Kerns(マルタ・ブラリック・カーンズ)氏が理事会のメンバーとして、同社の科学的ビジョンに関する助言を行う。

画像クレジット:NeuraLight

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(文:Aisha Malik、翻訳:Dragonfly)

【コラム】非営利団体にはソーシャルメディアを改善する答えがあり、ビッグテックにはそれを実現するリソースがある

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響についての議論は目新しいものとはいえないが、この秋、Facebook(フェイスブック)が自社プラットフォームの10代向けのメンタルヘルスに対する悪影響を十分に認識していたことを示唆していた報告が出されたことで、議論は再び世界の注目を取り戻した。

このデータ(およびFacebookがこれらの懸念を無視したという事実)は厄介な話だが、ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響を理解することはそれほど簡単ではない。実際、ソーシャルメディアは若者が自分自身や自分のアイデンティティを発見するための安全で肯定的な空間やつながりを提供できるとする強い主張も存在している。

ソーシャルメディアへの怒りがもたらす暗い結論の一方で、こうした利点はあまりにもしばしば片隅へと押しやられてしまう。事実、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、Facebookといった現在の人気ソーシャルネットワーキングプラットフォームは、収益化を最優先事項としてデザインされている。これらのアプリは、アプリのユーザー時間が増えることで広告収入も増えるため、基本的に過度の使用を促すものなのだ。

最近の反発に応えて、Instagramのような場所は厳格に大人用とすべきだと主張する人もいるが、筆者は10代の若者にとって有益なソーシャルメディア環境を構築することは可能だと強く信じている。それは彼らが自己発見をできる場所であり、アイデンティティを自由に探求できる場所であり、暗闇の中で彼らを慰め、彼らが1人ではないことを知る手助けをする場所なのだ。

この未来が反応的な機能だけで育成できるかどうかはわからないが、ソーシャルメディアの巨人には、他の組織や非営利団体と協力して、ソーシャルメディアをすべての人々にとってより安全な場所にできる可能性がある。

広告型かつ非営利型のソーシャルメディアのためのスペースの創出

営利目的のソーシャルメディアが独占しない世界を想像するのは難しいが、独占は必然ではない。広告収入型のソーシャルメディアアプリを完全に排除するのは現実的ではないかもしれないが、テック業界には広告収入に依存しないプラットフォームのためのスペースを作る機会と責任がある。

もし閲覧数、クリック数、広告数が人々の欲求やニーズに対する二次的なものであれば、ソーシャルメディアプラットフォームの仕組みに革命を起こすことができるだろう。他のアプリからのプレッシャーから逃れたり、仲間と交流したり、自分自身が受け入れられる場所を見つけたり、目的はどうであれ私たちはユーザーが自由に参加できるコミュニティを構築することができる。

Ello(エロ)や、LGBTQ+の若者向けのTrevor Project(トレバーブレロジェクト)のソーシャルネットワーキングサイトであるTrevorSpace(トレバースペース)など、広告なしのソーシャルメディアスペースはすでにいくつか存在しているが、それらの規模は小さく機能も少ないため、 Instagramなどのソーシャルメディアアプリに備わる機能に慣れているユーザーを大量に引き付けることはできていない。

また、若者が匿名で自分のアイデンティティを探求できるオンラインスペースも必要だが、ソーシャルメディア企業がユーザーの精神的健康や健康よりも広告支援を優先する場合には、それはほぼ不可能だ。広告主は年齢、性別、行動、アイデンティティに基づいてユーザーをターゲットできるように、ソーシャルメディアに時間を費やしているのは誰かを正確に知りたいと考えているからだ。これは、ソーシャルメディアを自分が何者なのかを知るための手段として使いたいが、あまり慎重には行動できない若いユーザーにとって特に問題となる。

これを克服するためには、業界全体として利益を目的としないソーシャルメディアスペースへの投資を増やす必要がある。ここ数年、テック大手はプロダクトのイノベーションで驚異的な進歩を遂げており、これを、ユーザーが安心して自分を表現したり、協力的なコミュニティを見つけたりできるサイトにも応用できる可能性がある。

Facebook、Instagram、TikTok(ティックトック)、その他の広告付きアプリにはふさわしいタイミングと場所があるが、収益に左右されないオンラインスペースに対する明確なニーズと要望も存在している。どちらか一方である必要はなく、両方のためのスペースを確保するために私たちは協力することができる。

たとえばTrevorSpaceに対しては、私たちは特定の収益目標を達成するというプレッシャーを与えることなく、ユーザーの要望やニーズをよりよく理解するための研究に投資してきた。この調査を通じて、私たちはユーザーが自分のアイデンティティを探求し、自分を表現できる安全な空間を持つことに価値を見出そうとインターネットを利用していることを学んだ。

AIをずっと使用したらどうなるだろう?

より多くの非営利のソーシャルメディアプラットフォームに投資することに加えて、テック企業たちには、その最先端のAI開発を応用することで、ソーシャルメディア上のユーザー体験を改善し、オンラインに時間をかけすぎたことによる精神衛生上のストレスを軽減できる機会もある。

ソーシャルメディアサイトは現在、機械学習を使用して、人々がオンラインでより多くの時間を過ごすことを促すアルゴリズム生み出しているが、機械学習の可能性はそこに留まるものではない。テクノロジーには、人びとのメンタル不調を悪化させるのではなく、メンタルヘルスをサポートする力があることを私たちは知っている。ではAIを使用して、ユーザーにソーシャルメディアを制御できる新しい力を与えたらどうなるだろうか。

AIが、特定の瞬間に本当に必要としているものを見つけるのに役立てたらどうなるのかを想像してみて欲しい。例えばユーザーが笑いたいときには笑えるコンテンツへ、泣きたいときには泣けるコンテンツへとガイドしてくれたり、志を同じくするユーザー間の前向きな関係を築く手伝いをしてくれたり、または、彼らの生活にプラスの影響を与えるスキルや知識を彼らに与えてくれるリソースを提案したりということだ。

今日のソーシャルメディアアプリの大多数は、AIを使用して、私たち向けのフィード「あなたのための」ページ、そして私たちのためのタイムラインを決定している。しかし、もし私たちがAIを使って、ソーシャルメディア上での自分自身の旅をガイドできるようにすれば、根本的に異なる感情体験を育むことができる。それは、単に時間と注意を独占するのではなく、自分自身の欲求やニーズを支えるものなのだ。

これは簡単なことのように聞こえるし、すでに起きていることだと考える人さえいるかもしれない。しかし、最近Facebookの元プロダクトマネージャーFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏の証言によって裏付けられたように、現在私たちが大手ソーシャルメディアで見ているコンテンツは、そのようにはキュレーションされていない。その状況は変わる必要がある。

ソーシャルメディアにおける前例のない革新と研究のおかげで、私たちは私たちの幸福に貢献するサイトを作成するために必要な技術は持っている、あとはその開発に時間とリソースを投資して、非営利アプリが主要な広告利用アプリと共存できるスペースを作ればいいだけなのだ。

将来的には、ユーザーが自身の見るコンテンツやそのコンテンツとのやり取りを制御できるようなAIを、ソーシャルメディア企業が非営利企業と提携して開発する可能性があるが、そのためには両者からの多大な時間投下、投資、協力が必要になるだろう。また、ソーシャルメディア大手は、この分野で切望されている代替アプリが入り込む余地を十分に確保する必要がある。

ソーシャルメディアをすべての人にとってより安全で健康的なものにすることは、The Trevor Projectを含む多くの非営利団体が実現に向けて取り組んでいる目標であり、ソーシャルメディア企業の支援によって私たちはその実現に大いなる助けを得ることになるだろう。

編集部注:著者のJohn Callery(ジョン・カレリー)氏はThe Trevor Project(トレバー・プロジェクト)の技術担当上級副社長。

画像クレジット:mikroman6 / Getty Images

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(文:John Callery、翻訳:sako)

企業がデータから得る各種予測をAIの力で洗練強化するContinual

今日のデータウェアハウス中心型のデータスタックに運用レベルのAIを導入しようとするContinualが米国時間12月16日、Amplify Partnersがリードするシードラウンドで400万ドル(約4億5000万円)を調達したことを発表した。このラウンドには、Illuminate VenturesとEssence、Wayfinder、およびData Community Fundが参加した。この発表にともないContinualは、そのサービスを公開ベータで提供を開始した。その前の数カ月は、一定数の選ばれた顧客とともにテストを行っていた。

データウェアハウジング業界は売上ベースでは大きいが、実際にはSnowflakeやAmazon、Redshift、BigQuery、そしてDatabricksなど少数の企業が支配している。そのためこの市場は、それらのデータに対して独自のイノベーションを構築しようとするスタートアップにとって、取り組みやすい舞台だ。Continualの場合それは、企業に、予測モデルを構築するためのアクセスしやすいツールを提供することだ。

画像クレジット:Continual

ContinualのCEOで共同創業者のTristan Zajonc(トリスタン・ザイコン)氏は「Continualを利用すると今日的なデータチームがデータウェアハウスに対して、直接、しかも継続的にモデルの構築とメンテナンスと改良ができるようになります。実際、最も多いユースケースは、顧客チャーン(の動態把握 / 予測)やリードスコアリング(見込み客ランキング)、プロダクトレコメンデーション、在庫予測、予測的メンテナンス、サービス、オートメーションなどです。基本的にContinuallyは予測モデルと予測の両方をメンテナンスし、そのためにデータウェアハウスのデータを利用して、予測をそこへ書き戻す」という。

画像クレジット:Continual

ザイコン氏の以前のスタートアップであるSenseは、初期のエンタープライズプラットフォームで2016年にClouderaが買収した。また彼の共同創業者であるTyler Kohn(タイラー・コーン)氏はパーソナライゼーションサービスのRichRelevanceをつくり、2019年にManthan Systemに買収された。これらのスタートアップを創業しているとき2人の共同創業者は、エンタープライズにおけるAIプロジェクトの失敗率が高いことに気づいた。多くの場合、そんなプロジェクトは大きなチームを要し、プロジェクトの実行に大量のリソースを消費した。そしてその間、必要なAIのインフラストラクチャは果てしなく複雑になっていった。

「ビッグデータ(big data)の時代がビッグ複雑性(big complexity)の時代に変わろうとしていました。この問題を解決するために私たちはContinualを創業し、エンタープライズの運用AIを抜本的に単純化しようとしています。私たちは、クラウドデータウェアハウスの登場で、エンタープライズAIの構想を一新し、抜本的に単純化すべき機会が訪れていることを理解していました。データのインフラストラクチャには標準化が必要であり、今日的なデータスタックが勃興し広く普及し始めていました」とザイコン氏はいう。

Continualを使うとデータチームは、彼らの既存のSQLやdbt(data build tool)のスキルを再利用できる。そのために必要なのは、データウェアハウスにContinualを接続して、予測したい機能とモデルを宣言的に定義することだ。その際、ちょっと便利な機能は、予測をデータウェアハウスに保存してデベロッパーやアナリストが必要に応じてすぐにアクセスできることだ。

現在、このプラットフォームはSnowflake、Redshift、BigQuery、Databricksをサポートしており、チームの計画としては今後はdbtとこれらのデータプラットフォームとのパートナーシップを徐々に拡張していきたいという。ザイコン氏によれば、同社はデータ統合プラットフォームになる気はないとのことだ。

Amplify PartnersのDavid Beyer(デビッド・ベイヤー)氏は次のように述べている。「データから得られる予測的洞察を間断なく改善し続けることは、企業が効率的に稼働し、顧客への奉仕をより充実していくために欠かせません。しかしながらAIの運用化はごく一部の高度な企業を除いては永遠の課題であり続けています。Continualはデータチームの仕事の現場、すなわちクラウドデータウェアハウスに入り込み、これまでのやり方が要求する時間の数十分の一の時間で、彼らによる予測モデルの構築とデプロイと継続的改善ができるようにします。私たちが彼らに投資したのは、彼らのアプローチが抜本的に新しくて、AIをエンタープライズで活用するための正しいやり方と信じているからです」。

今回の投資で同社は、次の2年間でチームの人員を倍増し、またそのプラットフォームを自然言語処理のサポート、パーソナライゼーション、リアルタイムのユースケースなどで拡張する計画だ。

画像クレジット:Continual

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

純粋数学もタンパク質生成も、人工知能におまかせを

人工知能(AI)が興味深い分野である理由の1つに、AIは何が得意なのかを誰も知らない、ということがある。12月2日号の「Nature」に掲載された最先端の研究所による2つの論文では、機械学習(ML)は、タンパク質生成のような技術的に難しい作業、純粋数学のような抽象的な作業のどちらにも対応し得ることが示されている。

最近話題になった、Google(グーグル)が買収したDeepMind(ディープマインド)やワシントン大学David Baker(デビッド・ベイカー)研究室による、タンパク質の物理的構造(フォールディング)の予測に対するAIの利用の実証結果を見れば、タンパク質の話はさほど驚くことではないかもしれない。偶然ではないが、この記事で紹介する論文を発表したのは、そのDeepMindとベイカー研究室である。

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ベイカー研究室の研究によると、タンパク質配列がどのようにフォールディングされるかを調べるために作成したモデルは、本質的に反対(逆)のことをさせることができるという。つまり、特定のパラメータを満たす新しいタンパク質配列を生成し、in vitro(試験管内)のテストで想定通りに機能させることができるというのだ。

タンパク質の構造を予測するために作成されたAIが、逆に新しいタンパク質を作ることもできるという発見は重要である。なぜなら、絵の中のボートを検出するAIがボートを描けないとか、ポーランド語を英語に翻訳するAIが英語をポーランド語に翻訳することができないという例はあっても、逆のことができるかどうかは必ずしも明らかではなかったからだ。

逆方向の可能性の研究は、SalesForce Research(セールスフォースリサーチ)のProGen(プロジェン)など、すでにさまざまなラボで行われている。しかし、ベイカー研究室のRoseTTAFoldとDeepMindのAlphaFoldは、プロテオームの予測の精度という点では圧倒的に優れており、これらのシステムのテクノロジーを創造的な活動に活かせるというのは喜ばしいことだ。

AIの抽象化

一方、Natureの表紙を飾ったDeepMindの論文は、AIが数学者の複雑で抽象的な作業を支援できることを示している。これは数学の世界を覆すものではないが、機械学習モデルが数学をサポートできるということを示す、実に斬新で、これまでになかった成果だ。

この研究は、数学とは主に関係性とパターンの研究である、という事実に基づいている。例えば、あるものが増えれば別のものが減り、多面体の面が増えればその頂点の数も増える。これらの事象はシステマチックなので、数学者はこれらの正確な関係性を推測することができる。

中学校で習う三角関数は、そのシンプルな例だ。三角形の内角の和が180度になることや、直角三角形の斜辺以外の辺の二乗の和が斜辺の二乗になるというのは三角形の基本的な性質である。しかし、8次元空間にある900辺の多面体ではどうだろう。a2 + b2 = c2のような公式を見つけることができるだろうか?

結び目の幾何学的表現と代数的表現という2つの複雑な性質の関係を示す例(画像クレジット:DeepMind)

観察された事象が偶然のものではなく普遍的なものであることを確信するためには、多くの例を調べる必要があるが、数学者による作業には限界がある。DeepMindはここにAIモデルを導入し、省力化を図ることにした。

オックスフォード大学のMarcus du Sautoy(マーカス・デュ・ソートイ)教授(数学)は、DeepMindのニュースリリースの中で「コンピューターは人間が追随できない規模のデータを出力することに長けているが、(今回の場合)異なるのは、人間だけでは検出できなかったであろうデータのパターンを拾い出すAIの能力である」と説明している。

このAIシステムにサポートされて得られた実際の成果は筆者が理解できる範囲をはるかに超えているが、読者の中に数学者がいれば、DeepMindから引用された以下の内容を理解してもらえると思う。

ある有向グラフと多項式の間には関係があるはずだという「組み合わせ不変性予想」は、40年近く進歩を拒んできました。MLの技術を用いて、そのような関係が実際に存在するという確信を得ること、そしてその関係が、破れた二面体の間隔や極値反射などの構造に関連しているのではないか、という仮説を立てることができました。この知識をもとに、Geordie Williamson(ジョーディー・ウィリアムソン)教授は、組み合わせ不変性予想を解決する、驚くべき美しいアルゴリズムを予想することができました。

代数学、幾何学、量子論には(結び目について)独自の理論があります。これらの異なる理論がどのように関係しているかというのは長年の謎でした。例えば、結び目の幾何学は代数学について何を教えてくれるのでしょうか?私たちは、そのようなパターンを発見するためにMLモデルをトレーニングしました。驚くべきことに、これにより、ある特定の代数的な量(表現)が結び目の幾何学と直接関係していることがわかりました。これまで明らかではなく、既存の理論でも示唆されていなかったことです。私たちはMarc Lackenby(マーク・ラッケンビー)教授と協力し、MLの帰属手法を使って、これまで見過ごされていた構造の重要な側面を示唆する、自然な傾きと呼ぶ新しい量を発見しました。

この予想は、何百万、何千万もの例で裏づけられているが、自分の仮説を厳密に検証するよう指示するのにピザやコーヒーをおごる必要がない、というのもコンピューターの利点である。

上述の例は、DeepMindの研究者たちと教授たちが緊密に協力して(MLの)具体的な利用方法を考え出したものなので「(AIは)普遍的に純粋数学のアシスタントである」といえるものではない。しかし、ルール大学ボーフムのChristian Stump(クリスチャン・スタンプ)教授がNatureのSummaryで述べているように、これが機能するということは、そのようなアイデアに向けた重要な一歩である。

スタンプ教授は次のように記す。「どちらの結果も、その分野の研究者にとって必ずしも手の届かなかったものではありませんが、どちらも、これまで研究者が見つけられなかった真の洞察を提供しています。従って、今回の成果は、抽象的な枠組みの概要以上のものです」「このようなアプローチが広く適用できるかどうかはまだわかりませんが、Alex Davies(アレックス・デイビス)等(ら)の論文は、数学研究における創造的プロセスをMLツールにサポートさせる手法の有望性を示しています」。

画像クレジット:DeepMind

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

気候変動に強い作物づくりの技術を開発するPhytoformが6.5億円調達、人工知能を使ってゲノム編集

気候変動は農家の作物栽培に影響を及ぼしており、英国の厳しい栽培条件を知り尽くしたPhytoform(ファイトフォーム)は、作物をより気候変動に強いものにすることを目指している。

ロンドンとボストンに本社を置くこのバイオテクノロジー企業は、作物の改良を目的とした人工知能ゲノム編集技術の拡張のために、Enik Venturesがリードするラウンドで570万ドル(約6億5000万円)を調達したと発表した。

Phytoformは、William Pelton(ウィリアム・ペロトン)氏とNicolas Kral(ニコラス・クラール)氏が博士号を取得する過程で2017年に興した会社だ。CTOのクラール氏は植物発生生物学を研究し、CEOのペロトン氏は作物科学者だ。祖父が農家で、英国の天候などで作物が失敗する話を聞いて育った、とペロトン氏はTechCrunchに語った。

Phytoformの共同創業者ウィリアム・ペロトン氏とニコラス・クラール氏(画像クレジット:Phytoform)

「私たちは、遺伝学の分野で幸運に恵まれています」とペロトン氏は話す。「数百ドル(数万円)で植物全体のゲノムができ、ゲノムの合成もできるのですから。ニックと私は博士課程の学生だったのですが、技術を取り入れ、私たちが目にするいくつかの問題に適用してみることにしました」。

現在の作物改良のための育種法は、通常、開発に数十年かかり、遺伝子組み換え生物の技術も限られている、と同氏はいう。

気候変動に強い新しい作物を開発するPhytoformのアプローチでは、機械学習とゲノム編集技術で植物のDNA配列の組み合わせの可能性数を決定し、新しい特性を特定しつつ、農業の気候変動への影響を軽減している。そして、それらの特性は、フットプリントフリーのCRISPRゲノム編集を用いて作物品種に直接実装される。

農業におけるCRISPR技術の成功は、植物ゲノムを操作して害虫や気候への耐性を高め、より安定した製品を栽培する方法として、長年にわたってよく知られている。

国連食糧農業機関は毎年世界の食糧の14%が失われていると推定しており、今後数年間は干ばつや酷暑、害虫が増加する中で気候変動が悪化する一方のため、この技術を植物に活用することが急がれるとペロトン氏とクラール氏は話す。

今回のラウンドに参加したのは、Wireframe Ventures、Fine Structure Ventures、FTW Ventures、既存投資家のPale Blue Dot、Refactor Capital、Backed VC、そしてJeff Dean(ジェフ・ディーン)氏、Ian Hogarth(イアン・ホガース)氏、Rick Bernstein(リック・バーンスタイン)氏を含むエンジェル投資家のグループだ。

「Eniacは、これまでVenceやIron Oxなどに投資しており、持続可能な農業の未来を大いに信じています。気候危機が深刻化する中、我々は、計算ゲノム学を活用することで食料廃棄を減らし、より質の高い多様な農産物を市場に送り出すことができることを目の当たりにしてきました。我々は、Phytoformの創業者であるウィルとニックの、植物の遺伝学に関する深い機械学習とゲノム編集を組み合わせて消費者に最適な農産物のポートフォリオを提供するというアプローチにすぐに惹かれました」とEniac Venturesのゼネラルパートナー、Vic Singh(ヴィック・シン)氏は述べた。

今回の資金調達により、Phytoformはチームを拡大し、トマトやジャガイモに特性を導入し、食品サプライチェーンに沿ってより大きな収穫量と作物の損失を少なくするための取り組みを強化することができるようになる。

2人の創業者は、トマトとジャガイモのプログラムを市場に投入する準備をしており、2022年は同社にとって「すばらしい年になる」と話す。また、他の3つのプログラムにも取り組んでいて、地域も米国だけでなくオーストラリアと英国にも広げている。

加えて、種苗業者や生産者といったサプライチェーンの初めに位置する個人や企業とのパートナーシップに力を入れており、将来的にはそれを食品製造業者にも広げていく計画だ。

一方、初期ビジネスモデルは種子の販売によるロイヤルティ収入となるが、顧客基盤が消費者まで進化するにつれてビジネスモデルが変化することを期待していると、ペロトン氏は述べた。

Phytoformは2021年、従業員6人でスタートしたが、現在その数は倍増していると、クラール氏は話す。さらに、ソフトウェアとウェブラボの機能の両方でAIプロセスのコンセプトを実証し、技術的にも良い成長を遂げた。

「トマトプログラムの開発後期にたどり着くには、まだかなり大きなプロセスが控えていますが、今後もさらに試行錯誤を続けます。現在の技術では新品種の生成に10年かかっていますが、我々はそれを短縮できることを証明しています」と同氏は付け加えた。

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

AIを活用したVFXスタートアップ「Wonder Dynamics」がシリーズAで11.4億円を調達

Wonder Dynamics(ワンダー・ダイナミクス)は、AI(人工知能)とクラウドサービスを使って「リビングルームレベル」のクリエイターが「ブロックバスターレベル」のビジュルエフェクトを作れるようにすることを目標にしているが、その内容はベールに包まれている。豪華なアドバイザーを誇る秘密主義の同社は、2022年の製品公開を前に1000万ドル(約11億4000万円)のシリーズAラウンドを完了した。

同社を創業したのは、Nikola Todorovic(ニコラ・トドロビッチ)氏と俳優のTye Sheridan(タイ・シェリダン)氏だ。2人は数年前、映画で一緒に仕事をした際に映画製作ツールの民主化が必要だという信念を共有したことから力を合わせることになった。もちろん、高解像度カメラとコンピューティングパワーによる編集や色調整など、すでに多くのツールは価格も難易度も下がっている。

しかし、本格的VFX(ビデオエフェクト)は別物であり、昨今のカメラとディスプレイの高解像度化とCG(コンピュータグラフィックス)の質向上によって、費用と参入障壁は高いままだ。

Wonder Dyanamicsは、AIとクラウドサービスを利用して、この状況を改善するVFXプラットフォームだが、その正確な内容は未だ秘密裏に隠されている。

「私たちのプラットフォームはまったく新しいプロセスを利用していて、CGやVFXコンテンツを作るのに必要な技術知識をもたないコンテンツクリエイターのための完全なソリューションです」とトドロビッチ氏は説明した。「プロフェッショナルなアーティストのために、制作物は既存のワークフローやソフトウェア(Unreal、Blender、Mayaなど)にエクスポートすることができる。機能はポストプロダクション(撮影後の編集作業)に特化していますが、ハードウェア要件や制作に必要な追加作業を劇的に減らします」。

関連記事:インディーズ映画制作者にAIを活用したVFXを提供するWonder Dynamicsが2.7億円を調達

2022年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で実物を見れば詳細がわかるだろうが、心配な人はそれまでの間、アドバイザーとしてSteven Spielberg(スティーブン・スピルバーグ)氏とJoe Russo(ジョー・ルッソ)氏の名前があることに慰められるかもしれない。もちろん、2人ともベテラン監督であり、作品の見栄えにはうるさい。特にルッソ氏(および兄のAnthony Russo[アンソニー・ルッソ]氏)は、絶対必要な場面以外、CGよりも操演(特撮の一種)を好むことで知られている。

「開発を進めるにつれ、これはビジュアルエフェクトだけのソフトウェア以上のものになるとわかりました」とシェリダン氏がプレスリリースで語った。「当社のプラットフォームは映画、テレビだけでなくビデオゲームやソーシャルメディア・コンテンツ、さらにはメタバースでも利用できる可能性があります」。

後半の用途は、新たな出資者であるEpic Games(エピックゲームズ)とSamsung Next(サムスン・ネクスト)にとってさらなる正当化材料になるだろう。今回1000万ドルのラウンドをリードしたのはHorison Ventures(ホライゾン・ベンチャーズ)で、シードラウンドで出資したFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)とMaC Venture Capital(マック・ベンチャー・キャピタル)も参加した。

画像クレジット:Hiretual

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

公開されたコンテンツからAIでインサイトを抽出し企業の意思決定を支援するSignal AIが約57億円調達

インターネットなどで公開されている膨大なデータの海を探索し、より良いビジネス上の意思決定を行うためのセンチメントインサイトなどを組織に提供する人工知能スタートアップのSignal AI(シグナルエーアイ)が5000万ドル(約57億円)を調達した。同社はこの資金でAIプラットフォームの構築を進め、より多様なデータソースを取り込むことで、人が尋ねる可能性のある、より幅広いビジネス上の質問に対するインサイトを引き出す。

「組織はまだ、脅威や機会を先取りし、困難をチャンスに変えるための効果的なレーダーを持っていません」と同社のCEOであるDavid Benigson(デイビッド・ベニグソン)氏はインタビューで語った。同社は、ソーシャルメディアやニュースメディアから2万5000のポッドキャスト、規制当局への提出書類、その他の公的記録まで、何百ものデータソースを単一のプラットフォームに集約している。

そして、機械学習やその他のAI技術を適用し、Signal AIの顧客が投げかけた自然言語の質問に基づいて、そのすべてからインサイトを抽出する。「当社はプラットフォームに注入するデータを多様化しています」とベニグソン氏は付け加えた。Signal AIは現在、約100の言語で動作する。

今回の資金調達はシリーズDの形で行われ、Highland Europeがリードし、新規投資家のabrdnに加え、既存投資家のRedline(Signal AIの2019年のシリーズCをリード)、MMC、戦略的投資家のHearstとGuardian Media Group Venturesも参加している。ロンドンに拠点を置くSignal AIは、これで累計1億ドル(約114億円)を調達したことになる。評価額は公表していないが、ベニグソン氏(同社のチーフデータサイエンティストであるMiguel Martinez[ミゲル・マルティネス]氏と共同で創業)は、前回のラウンドより100%成長したと述べた。

PItchBookは同社の評価額が2019年時点で1億ドル程度だったと推定しており、この数字が正確であれば、現在は2億ドル(約228億円)ということになる。いずれにせよ、Signal AI自体が成長したことは間違いない。ベニグソン氏によれば、同社は現在、フォーチュン500に選ばれている企業の40%と取引しており、その顧客層にはDeloitte(デロイト)、Bank of America(バンクオブアメリカ)、Google(グーグル)などが含まれるという。

Signalが特定し、解決しようとしている課題は誰もが日々遭遇するものだが、道を間違えれば数十億ドル(数千億円)の投資が危ぶまれる可能性のある厄介な問題を企業が対処する際には、特に深刻に感じられるだろう。

インターネットは私たちに膨大な情報の宝庫を提供してくれるが、それを解き明かし、回避するための最適な鍵や地図があるとは限らない。特に、センチメント分析に関するよりふわふわした質問や、実際には多くのソースからの情報の照合である「答え」の場合のように、探している答えが単純ではない場合はなおさらそうだ。

Dataminr(2021年、41億ドル[約4670億円]の評価額で膨大な資金を調達)、Meltwater(株式公開企業で、技術力を高めるために企業買収も実施)、Cision(現在は非上場で、成長のために大規模買収も実施)など、このギャップを特定し、解決に向けて構築を進めている企業も多数存在する。

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これらの企業が重視し、推進したのはメディアモニタリングの分野であり、他のメディアソースだけでなく、企業自体も利用する巨大なビジネスだ。実際、Signal AIも以前はSignal Mediaと呼ばれ、この分野を中心に活動していた。

従来のやり方は、メディアの切り抜きを集めてクライアントに提供するものだったが、新しいやり方は単に言及を集めるだけでなく、そこから得られたより要約された情報やインサイトを提供するものだ。インターネットが発達すればするほど、クリップの数は増え、実際、最も熱心なコミュニケーション専門家のチームでさえ、クリップの山に対応するのは不可能になっている。

しかし、よりインテリジェントなメディアモニタリングのために構築されたこのモデルは、同じフォーマットとアルゴリズムをより幅広いユースケースに適用する道を開くものであり、Signal AIはその前提のもとに構築されている。

このように、Signal AIはコミュニケーション戦略に携わる人々へのインサイト提供に重点を置いているが、AIQプラットフォーム(Signalはそう呼んでいる)を通じて、クライアントに提供できる情報の種類をさらに増やしている。

例えば、潜在的なビジネスパートナーに関する情報や「インサイト」の提供、多様性と包括性でのスピードアップやそれらに他社がいかにアプローチしているか、環境戦略に関する決定事項、税金やデータ保護などの規制遵守についての企業の戦略に関するデータなどだ、とベニグソン氏は話す。

同氏によれば、Signal AIをDataminrのような企業と比較するのは妥当だが、ユーザーが求めるクエリの種類や回答において、より多くのコンテキストを提供する点でSignal AIは異なるという。ビジネスの成長とともに、このような豊かな体験ができることも、同社がいかに成長するか投資家が関心を寄せる理由だ。

Highland EuropeのパートナーであるTony Zappalà(トニー・ザッパラ)氏は「Signal AIは、傑出したカテゴリー定義会社です」と話す。「同社の革新的な成長の次の章に関与することに興奮しています。デイビッドと経営陣は、彼らが定義するのに役立っている意思決定拡張カテゴリに対して明確なビジョンを持っており、Gartnerの調査が示すように、その機会は膨大なものです」と述べた。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

業務用フィットネス「OxeFit」が約68万円の筋力トレシステムで好景気に沸く家庭用市場に参入

OxeFit(オックスフィット)は2021年、堅調な1250万ドル(約14億2000万円)のシリーズAラウンドと「筋力トレーニングに高度なロボティクスと人工知能を持ち込む」という漠然とした計画とともにデビューした。4月、それはXP1の登場とともに具現化している。43インチタッチスクリーンを備え、最大500ポンド(約226.8kg)の筋力トレーニングが可能な業務用ジム / リハビリ / スポーツシステムだ。

さらに同社は、好景気に沸くホームフィットネスの世界に、XS1をひっさげて乗り込んだ。業務用を縮小した家庭用バージョンで、人気のホーム筋力トレーニングシステムであるTonal(トーナル)やTempo(テンポ)などに対抗するシステムだ。

XS1システムは32インチのタッチスクリーンを備え、250ポンド(約113.4 kg)までの広範囲な筋力トレーニング・エクササイズを行える。さまざまなアドオンアクセサリーを付加することで、標準筋力トレーニング、ローイング、ピラティスなど数多くのワークアウトが利用できる他、同社のAI / ロボティクスへの取り組みは、数多くのホームフィットネスプラットフォームと一線を画しているとOxeFitは強調した。

画像クレジット:OxeFit

「XS1は専門トレーニング施設で提供されているものと同じレベルのオールボディクロスファンクショナルワークアウトを提供する唯一のホームフィットネスシステムです。ロボティクスと人工知能を利用したパーソナルな計画とコーチングによって、あなただけの筋力強化プログラムを実施します」と共同ファウンダーでCEOのMohammed Shnableh(ムハンマド・シュナブレー)氏はリリースで語った。

過去数年間で激化した競争に加えて、同社は多くの地区でジムが再開したことによる業界全体の売上低下とも戦わなくてはならない。ちなみに、Peloton(ペロトン)Tempo(テンポ)が最近、500ドル(約5万7000円)以下のエントリー製品を発表しているのに対して、OxeFitのシステムは5999ドル(約68万2000円)からで、これに月額40ドル(約4500円)のソフトウェアサブスクリプションが加わる。これは他のタッチスクリーンベースのホームフィットネスブランドより2000~3000ドル(約22万7000〜34万1000円)高い価格だ。

関連記事:Pelotonがコネクテッド筋力トレーニングシステム「Peloton Guide」を発表、約5万6000円

同社は、プロアスリートを中心としたマーケティングに力を入れており、NFLのDak Prescott(ダック・プレスコット)やMLBのMatt Kemp(マット・ケンプ)の名前を挙げてシステムを宣伝している。

画像クレジット:Oxefit

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

中国のAI・顔認識大手SenseTimeが米国のブラックリスト入りでIPOを延期

中国で最も価値のあるAIソリューションプロバイダーの1つであるSenseTime(商湯科技、センスタイム)は、7億6700万ドル(約872億円)の株式上場を保留すると香港時間12月13日に発表した。

この発表は、香港証券取引所がSenseTimeのIPOにゴーサインを出してから3週間後のことだ。12月10日、米財務省は同社を「中国軍産複合体企業」のリストに加え、同社が「対象者の民族性を判断できる顔認識プログラムを開発し、特にウイグル族を識別することに重点を置いている」と述べた。

前政権時には国防総省と財務省が共同管轄し、財務省のみの管轄へと変更されたこのブラックリストは、米国の投資家がSenseTimeの有価証券を購入または売却することを禁止している。

米国政府の決定を受けて、SenseTimeはIPOを延期し、潜在的な投資家の「利益を守る」ために、新たな上場スケジュールを記載した補足目論見書を発行するとのこと。

SenseTimeは声明の中で、次にように述べた。「当社は、今回の指定およびそれに関連して行われた非難に強く反対します。これらの非難は根拠がなく、当社に対する根本的な誤解を反映しています。地政学的な緊張の渦中に巻き込まれたことを遺憾に思います」。

2019年、SenseTimeは、米国企業との取引を制限する「エンティティリスト」に登録された。

SenseTimeのビジネスの概要については、以前の記事でご覧いただける。

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(文:Rita Liao、Catherine Shu、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】私たちが自律型ロボットを設計できなくても、ロボットが自らを設計できるかもしれない

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が先に発表した、人間型で「人間レベルの手」と特徴的に楽観的な納期を備えたTesla Bot(テスラ・ボット)は、当然のことながらそれなりの批判を集めている。

関連記事:テスラはロボット「Tesla Bot」を開発中、2022年完成予定

このロボットは最終的に、単独で食料品店に行くなどの用事をこなすことができるようになるとマスク氏は述べている。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は、これまでで最も高度なヒューマノイドロボットを開発中だが、Atlas(アトラス)プラットフォームへの取り組みに10年以上を費やしてきた。Atlasは、何千万人ものYouTube視聴者の前で走ったり、ジャンプしたり、踊ったりするなど、目覚ましい進歩を遂げているものの、同社はこのロボットが複雑なタスクを自律的に実行するにはまだ長い道のりがあることを即座に認めている。

ロボットの進化のポテンシャル、そして果されていない約束に関する最も良い例の1つが、2010年にPLOS Biology(プロス・バイオロジー)誌に発表された研究である。この研究の執筆者たちは、モーターとセンサーを搭載した物理的なロボットを使って(単なるシミュレーションではなく)、衝突のないナビゲーション、ホーミング、捕食者と被食者間の共進化など、いくつかの進化モデルとフィットネス目標を実行した。

彼らは結論の中で「これらのロボットによる実験的進化の例は突然変異、組み換え、自然選択による進化の力を証明している。すべての場合において、ロボットはそのゲノムにランダムな値があるために、最初は完全に非協調的な行動を示した」と記している。

要約すると、この研究は「広範囲の環境条件下で効率的な行動の進化を促進するには、数百世代にわたるランダムな突然変異と選択的複製が必要にして十分である」と結論づけている。

この非常に多くの世代にわたる進化の必要性は、Alphabet(アルファベット)が最近リリースした、Google(グーグル)のオフィスの清掃作業を行う100台を超えるEveryday Robot(エブリデイ・ロボット)のプロトタイプに示されている。そのぎこちなく、たどたどしい動きは、依然として進歩途上の域を出ない

「進歩」対「完全」

マスク氏がロボティクスのフィールドで競争に勝つことは実際にあり得るかもしれないが、ロボット自身の助けが必要になるだろう。進化的コンピューター分野の多くの専門家によれば、一定のフィードバックや学習ループを必要とする複雑なタスクを実行できるロボットは、人間が自ら直接設計するには複雑すぎるという。それよりむしろ、ロボットによる開発と設計の未来は、特定の結果に最も役立つ機能をロボットが選定する「進化」の産物になる可能性を秘めている。

進化的ロボティクスはSFのように聞こえるが、新しいコンセプトではない。1950年代初頭でさえ、Alan Turing(アラン・チューリング)氏が、インテリジェントな機械の創造は人間の設計者には複雑すぎるだろうと考え、より良い方法はそのプロセスに「突然変異」と選択的複製を導入することかもしれないと仮定していた。もちろん、進化的ロボティクスの背景にあるアイデアはかなり前から形になっていたが、そのコンセプトを実行に移すために必要なツールが利用できるようになったのは最近のことにすぎない。

現代史上初めて、私たちは進化的ロボティクスを促進する上で必要なあらゆるビルディングブロックを手にしている。3Dプリンティングを使った迅速なプロトタイピングと物理的な複製、学習と訓練のためのニューラルネットワーク、改善されたバッテリー寿命と安価な材料などだ。

例えば、NASAはすでに人工進化技術を使って衛星用アンテナを開発している。それ以上にエキサイティングなのは、バーモント大学とタフツ大学のクリエイターが2020年に「xenobot(ゼノボット)」を発表したことだ。これは「進化的ロボティクスの技術を使ったコンピューターシミュレーションで初めて設計された小さな生物機械」である。

この自己修復型の生物機械はカエルの幹細胞を使って作られたもので、ペイロードを動かしたり押したりする能力を示している。この「ナノロボット」は、いつの日か血流に注入されて薬を運ぶことに使えるようになると考えられている。

しかし、これらすべてのブレークスルーが存在するとしても、物理的ロボットの進化的反復は依然として時間を要するものであり、その理由の一部は、それにともなうリスクに起因している。食料品を買いに行くような作業でさえ、信じられないほど複雑で、クルマが往来する道路を横断してしまうようなロボットのさまざまなミスが人間を危険にさらしかねない。

多くの可能性

マスク氏が既存のTesla(テスラ)車を単なる車輪付きロボットだとするのは間違ってはいないが、あまりにも単純化しすぎている。Teslaは1つのタスクに特化しており、直接的な監督なしでは複雑な世界をナビゲートする自己学習はできない。同氏はスーパーコンピューターを自由に使えるようにし、すでに高度なロボットと驚異的なAI専門家チームを手に入れているかもしれないが、独立して人前に出ることのできるヒューマノイドロボットの実現はまだ遠い先のことだろう。

自力で動けるロボットを作るためには、ロボットが突然変異を起こし、2つの異なる親の最も望ましい特性を組み合わせていく、数百「世代」の進化が必要となるであろう。

有用な現実世界のアプリケーションを空想するなら、セキュリティと偵察のラインに沿って想定してみよう。安全検査やコードコンプライアンスの構築、消防支援、さらには捜索救助支援なども考えらえる。

2021年6月、フロリダ州サーフサイドのビーチフロントにあるコンドミニアムの塔が崩壊し、100人近い命が奪われた。ドローンの大群が有用であることを示す好例は、建物の建築とコード検査かもしれない。老朽化したマンションの最上階から最下部、内部、外部まで、センサーやカメラを使って防水性の問題、コンクリートのはく離やひび割れ、沈下などの問題をチェックする、より定期的で頻度の高い検査を行うことができる。これは、人間のエンジニアチームの何分の1かのコストで実現可能である。

他にも、警備や医療支援など、イベントに役立つアプリケーションがある。ヒューストンのアストロワールドの悲劇を思い出して欲しい。10万人規模のイベントでは、人間の警備員が広大で混雑した地帯をカバーするのは難しいことが多い。ドローンやロボットの群れは、セキュリティ上の問題や闘争、発作を起こしている人あるいはその他の医療上の緊急事態を監視したり、自動体外式除細動器のような医療機器を人間のスタッフよりもはるかに迅速に運んだりするといった点で、極めて有用である。

なぜドローンは群れを成し、1機ではないのか。多くの理由があるが、主としてレジリエンスと冗長性が挙げられる。1機のドローンが故障しても、オペレーションは途切れることなく継続する。これは「ミッション」を中断できない高リスクの状況で特に有用である。

より良いロボットの創造

「進化的ロボティクス」という用語は、有機的な進化から学んだプロセスを非有機的なデバイスに複製することを意味しているため、少し誤解を招きやすい。より良い記述子は「人為的進化」あるいは「具現化進化」かもしれない。ロボットが進化しているというよりも、プロセスそのものが進化を生み出しているのである。

同じアプローチは、2つ以上の親由来の突然変異とそれに続く組み換えの両方を介して「子孫」を生成するニューラルネットワークと進化アルゴリズムを装備可能な、任意のエンティティに適用することができる。実際、進化には物理的な形さえ必要ない。これらと同様のプロセスをスーパーコンピューターの内部に配置して、大規模な問題を解決することもできる。進化のより良い理解は、私たちが何を成し遂げるのに役立つだろうか?

1つは、自律的な現実世界のインタラクションである。進化的ロボティクスは、複雑かつ自律的な現実世界でのインタラクションを可能にする唯一の方法だ。そのようなロボットの利点は列挙するには長すぎるが、ユースケースは、ロボット消防士、捜索救助ロボットから、核廃棄物浄化ロボットや在宅介護ロボットなどにまで及ぶ可能性がある。

私たちはまた、有機的進化についてもさらに理解を深めることができる。進化についてのより微細な知識は、推し量るのが難しいほど幅広いアプリケーションを生み出す可能性がある。病気の治療や免疫の確立、寿命の延長、生態系へのインパクトの軽減など、地球上の未来をより正確に把握するための最善の方法について、信じられないほどの洞察を得られるかもしれない。

生命の起源を知る手がかりを得る可能性も秘めている。人工的な進化を研究し、習得することにより、他の惑星で生命が形成され進化し得るあらゆる方法について理解を深めることができるだろう。科学の専門家の多くは、宇宙の他の場所に生命が存在する可能性は低いとしているが、進化に関するより深い理解と、ミクロスケールで大進化を再現する能力は、地球外生命の探索の指針となることは間違いない。

もろ刃の剣

最後に太陽系の探査について考えてみよう。完全に自動化され、自己複製し、進化するロボットがあれば、これまでの想定をはるかに超える距離で、宇宙の奥深くまで無人ミッションを送ることが可能になる。これらのロボットは、着地した惑星に適応し、コンポーネントを再利用し、環境に応じて進化し、最終的にはデータや子孫を地球に送り返すことができるかもしれない。

ロボットが街を歩き回るというアイデアが「ターミネーター」のようなロボットの蜂起のイメージを想起させるのであれば学習、再生、環境観察、進化が可能なロボットが現実からまだ遠いという事実に慰めを得ることができる。

むしろ、複雑な現実世界のインタラクションが可能で真に自律的なロボットを習得する上での最大の難点は、人間のワークフォースが必然的に移動することだ。マスク氏は、この問題の解決策はベーシックインカムの普及であり、将来の仕事は完全に任意だと考えている。

同意できそうにない。人間は仕事と創造から自尊心と価値を得ており、それを取り除くことは、潜在的な経済的影響に加えて、広範囲にわたる心理的インパクトが生じる可能性がある。これは複雑な問題だが、進化的ロボティクスは、最大の成果の1つとなり得るとともに、人類が直面しなければならない最大の課題にもなり得るだろう。

編集部注:本稿の執筆者Gideon Kimbrell(ギデオン・キンブレル)氏は、InListの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:NanoStockk / Getty Images

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(文:Gideon Kimbrell、翻訳:Dragonfly)

AIを活用したセールスチーム向けビデオ通話プラットフォームのUniqueが約6.8億円を調達

Uniqueの創業者2人(画像クレジット:Unique)

AIを活用してセールスチームの商談を改善するビデオ通話プラットフォームのUniqueが、シードラウンドで多くのエンジェル投資家から600万ドル(約6億8000万円)を調達した。このラウンドには米Fyrfly Venture Partnersの創業者でゼネラルパートナーのPhilipp Stauffer(フィリップ・スタウファー)氏、Daniel Gutenberg(ダニエル・グーテンバーグ)氏などが参加した。

Uniqueは顧客との会話をAIで分析する。会話を録画したビデオは、セールス担当者が最適な商談をするために役立てられる。

Uniqueは12種類の言語で動作し、その中には難しいスイスドイツ語も含まれる。同社によれば、このサービスの利点はセールス担当者のトレーニング時間を短縮し、パフォーマンスを向上できることだという。また、セールスのビデオ通話の中から重要な瞬間を見つけて「Deal Room」という場所で安全に共有することで、買い手側がそれを後から参照したり自分のチームに共有したりすることもできる。

Uniqueを起業したのはシリアルアントレプレナーのManuel Grenacher(マヌエル・グリナハー)氏とAndreas Hauri(アンドレアス・ハウリ)氏で、両氏はB2BのSaaSスタートアップであるCoresystemsでセールスチームを編成して率いた経験がある。CoresystemsはSAPに買収された。

グリナハー氏は次のように述べた。「リモートワークやハイブリッドワークが続き、セールスチームは顧客や見込み客、同僚や上司と離れることが多くなっています。そのため、顧客とつながりを持つことができず、チームから学んだりフィードバックをもらって準備を整えたりするのが難しい状況です。我々はセールスのプロセスを刷新するためにUniqueを作っています。AIを活用して会話を分析することで洞察や関係性の上で重要な瞬間を見つけ出し、セールスチームと顧客がより深く生産的な関係を構築できるように支援します」。

投資家のフィリップ・スタウファー氏は次のように述べた。「セールスチームのオートメーションと会話型インテリジェンスが交わる分野は、Fortune 500企業が導入する優先順位と成長率の両面で急成長していくでしょう。セールスの成果を伸ばす価値創造のチャンスは極めて大きいものです」。

Uniqueの競合にはGong.ioやPeople.AIがある(どちらもユニコーンだ)。Uniqueに優位性があるとすれば「Deal Room」のアプローチと、ヨーロッパで構築されたためGDPRの厳しいプライバシー規則に準拠していることだ。セールスチームがUniqueを使い始めたら、Zoomの市場にも食い込んでいくかもしれない。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

英独禁監視当局がマイクロソフトのNuance買収を調査中

2021年初めに発表された、Microsoft(マイクロソフト)による197億ドル(約2兆2380億円)での音声テキスト化企業Nuance Communicationsの買収は、英国の活発な反トラスト監視当局の注意を引いてきた。そして当局は12月13日、提案されている取引に懸念すべき理由があるかどうかを評価するために第1段階の調査を行っていると発表した

関連記事:マイクロソフトが過去2番目規模で文字起こし大手Nuance Communications買収、ヘルスケア分野のクラウドを強化

競争市場局(CMA)が第1段階の調査を開始するかどうかの決定は追って行われる予定だ。

現在のところ、規制当局がこの決定を下すまでの期間は示されていないが、CMAが利害関係者にコメントを求める協議期間は2022年1月10日までとなっている。

買収案に対する独占禁止法上の監視は何カ月にもわたることがあり、少なくとも取引完了に大きな遅れをきたす可能性がある。

CMAはこの件に関する声明の中で「取引が実行された場合、2002年企業法の合併規定に基づく関連する合併状況の創出につながるかどうか、またその可能性があるかどうかを検討しており、もしそうであれば、その状況の創出が英国の商品またはサービスの市場における競争の実質的な低下につながることが予想されるかどうかを検討している」と述べている。

Microsoftは、4月にNuance買収を発表した際に、ヘルスケア分野でのプレゼンスを強化するために音声テキスト化企業を買収すると述べていた。ヘルスケア分野では、Nuanceが多くの臨床医支援製品を開発している(遠隔診療の記録のためのテック、臨床文書作成のための音声認識ツール、AIを活用した放射線診断レポートなど)。

反トラスト規制当局は、今回の買収計画をさらに精査する必要があると判断した場合、第1段階の調査を開始する。その後、まだ懸念すべき理由があると判断した場合、より詳細な第2段階の調査を開始する可能性がある。

また、いずれかの段階で、懸念される競争上の問題がないと判断し、買収を許可することもあり得る。

逆に、懸念がある場合には、買収を実行する前に救済措置が必要と判断したり、買収停止を命じたりする可能性もある。

Nuance買収計画に対するCMAの予備調査について、Microsoftにコメントを求めている。

Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Google(グーグル)、Microsoft、さらにはFacebook(フェイスブック)などのテック大手は何年もの間、健康状態の追跡やモニタリングなどを行うツールの開発に関心を示してきたが、デリケートな分野への進出は、重要分野のデジタル化が進む中で、企業の支配力や市場力をさらに強めることになるのではないかという懸念がある。

一方、英国では、プラットフォームの力を考慮して国内の競争法を再編成しているところで、「競争促進」の体制を導入し、大企業の市場支配力から中小のイノベーターを保護したいとしている。

競争監視委員会は、CMA内部に設置される新しい部署Digital Markets Unitにハイテク企業を監督する権限を与える法案に先立ち、M&A活動やその他の主要な動き(Googleの戦略的な「プライバシーサンドボックス」計画など)を引き続き監視している。

関連記事:英国でテック大企業を監視する新部署「DMU」発足、デジタル分野の競争を促進

最近では、CMAはMeta(元Facebook)に対し、アニメーションGIFプラットフォームGiphyの買収を取り消すよう命令した。これは、これまでハイテク大手のM&Aに異議が唱えられることがほとんどなかったことを考えると、競争監視において注目すべき出来事だ。CMAは、プラットフォームの力と野心に挑戦する最前線にいることを強調している(命令によって面倒な取引破棄が必要な場合もある)。

画像クレジット:Jeenah Moon/Bloomberg via Getty Images / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

三菱総研DCSと創業100年の鋳造メーカー中島合金、純銅鋳造製造工程における熟練技能者の暗黙知をAIに代替させる実証実験

三菱総研DCSと創業100年の鋳造メーカー中島合金、純銅鋳造製造工程における熟練技能者の暗黙知をAIに代替させる実証実験

三菱総研DCSは12月13日、純銅鋳物を得意とする鋳造メーカー中島合金とともに、純銅鋳造製造工程における、熟練者の暗黙知を学習させたAIの実業務への適用可否を検証する実証実験を開始すると発表した。

純銅鋳物はCAC100番台のJIS規格が定められており、品質を一定水準に揃える必要がある。一方、その製造工程には原材料の状態や環境条件など制御しきれない要素が存在しており、これら製造条件のばらつきが純銅鋳造の難しさの一因となっている。

中島合金は、製造工程の途中段階でばらつき具合を測定し、その値に応じて調整用添加剤を適切量投入することで製品の最終品質を均一化する熟練の技能を持つものの、同技能を若手が継承するには長い時間がかかるという課題があるという。

そこで、中島合金と三菱総研DCSがこの課題解決に着手したところ、AI技術を活用して「製造時のばらつき状態」と「添加剤の投入量」の関係を学習することで、熟練者の判断を再現できることが確認できたという。同実証実験では、このAIの判定精度向上に加えて、予測時間が実用に足るか、また製造の現場技術者が利用するシステムとして操作性に問題はないかなど、システム全体としての業務適用可否を検証する。

三菱総研DCSと創業100年の鋳造メーカー中島合金、純銅鋳造製造工程における熟練技能者の暗黙知をAIに代替させる実証実験

また三菱総研DCSは、「難しいAI操作を難しく感じさせない」を製品コンセプトに開発しているという。多くのデータ分析ソフトウェアが統計学や機械学習の深い知識を前提としており、製造の現場技術者が使うには操作の習得に時間がかかるなど導入のハードルが高いのが実情となっている。そこで、AIのオートチューニングアルゴリズムとUXデザインを駆使し、データサイエンスの知識がない現場技術者でも高いハードルを感じずに利用可能なデータ分析ツールとして開発しているそうだ。

期待される効果

  • 熟練技能継承の実現:若手へ継承させることが難しい「調整具合の判断」を熟練者の頭脳から抽出し、若手でも活用可能なノウハウ資産へと昇華させる
  • 熟練者活躍の場の拡大:熟練者が調整作業から解放されることで、別の製造作業の標準化などより難度の高い業務に集中することが可能になる
  • 製造業の事業継続への貢献:熟練者が持つ技能は、中小製造企業が他社との差別化を生む重要なノウハウであり、競争力の源泉となっている。このノウハウを絶やすことなく次世代に引き継いでいくことは、製造企業にとって事業継続性の観点からも重要な課題といえる

中島合金は、2020年に創業100年を迎えた鋳造メーカー。合金鋳物・アルミニウム合金鋳物に加え、鋳造に高度な技術が必要とされる純銅鋳物を得意としている。同社100年の技術・知見と、大学・研究所との連携による最善の提案を特徴とするという。

三菱総研DCSは、銀行・クレジットカードなど金融関連業務で豊富な実績を有するほか、千葉情報センターを核としたトータルITソリューションを展開。「すべての製造企業にデータ分析のチカラを!」をビジョンに掲げ、近年はAI、RPA、データ分析、ロボティクスなどの新技術も取り入れ、顧客の業務革新やデジタル化を支援している。

画像クレジット:Francisco Fernandes on Unsplash

AIモデルのストレステストを行うRobust IntelligenceがシリーズBで約34億円調達

企業のAIモデルのストレステストを支援し、失敗を未然に防ぐAIスタートアップのRobust Intelligence(ロバスト・インテリジェンス)は、米国時間12月9日、Tiger Global(タイガー・グローバル)が主導する3000万ドル(約34億円)のシリーズB資金調達ラウンドを実施したことを発表した。このオーバーサブスクライブされたラウンドには、同社のシリーズAラウンドを主導した前回の投資家であるSequoia(セコイア)の他、Harpoon Venture Capital(ハープーン・ベンチャー・キャピタル)およびEngineering Capital(エンジニアリング・キャピタル)も参加している。

同社は、ハーバード大学のコンピュータサイエンスおよび応用数学の終身教授であるYaron Singer(ヤロン・シンガー)と、彼の元学生である大柴行人氏が共同で設立した。

Robust IntelligenceのCEOのYaron Singer氏(画像クレジット:Robust Intelligence)

シンガー氏は「AIはこれまで学術的な試みでした。私が大学院に通っていた頃は、AIは学術的な学問であり、ビジョンでした。その後、インターネット、データ、Google、データ処理が登場し、7、8年の間にその可能性に気づくこととなりました。今、私たちは、AI開発をソフトウェア開発と同じくらい厳密に行おうとしています。ソフトウェア開発は人類が60年前からやっていることですよね。それに私たちはAIを追いつかせようとしていますが、AIはまったく別の生き物です」と述べている。

シンガー氏が指摘するように、統計的な性質を持つAIは、予想外の行動を示すことがある。同社の使命は、このようなAIのミスをなくすことにある。

これを可能にするために「ロバスト・インテリジェンス・モデル・エンジン(RIME)」と呼ばれる、AIファイアウォールを核としたシステムをユーザーに提供している。このファイアウォールは、企業のAIモデルを包み込み、これらのモデルを常にストレステストすることで、ミスの発生を防ぐことができる。

「AIモデルとデータがあれば、ボタンをクリックするだけでストレステストを実行します。モデルが本番段階に入る前も、本番中も、データとAIモデルを自動的にテストします」とシンガー氏はいう。ここでのアイデアは、任意のモデルの故障モードを自動的に見つけるだけでなく、データドリフトなどの問題や関連する問題をキャッチすることだ。

画像クレジット:Robust Intelligence

ここで興味深いのは、AIファイアウォール自体が、あるデータポイントが間違った予測につながるかどうかを予測するAIモデルだということだ。「これは、AIや機械学習において、解決しようとしている最も難しい問題の1つです」。とシンガー氏は説明する。

Tiger GlobalのパートナーであるJohn Curtius(ジョン・カーティウス)氏は「私がRobust Intelligenceの能力に初めて触れたのは、同社の初期開発段階でした。過去1年間に同社とその製品が成長するのを見て、同社の提供する製品がAIの信頼性のあり方を変えていることが明らかになり、我々Tiger Globalが重要なリソースを提供できると確信しました」。と語っている。

同社は、今回の資金調達を営業活動の拡大に充てる予定だが、大半は製品とエンジニアリングに充てられる。

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Akihito Mizukoshi)

レブコムの音声解析AI電話MiiTelがノーコードのワークフロー自動化ツールZapierと連携開始

レブコムの音声解析AI電話MiiTelがノーコードのワークフロー自動化ツールZapierと連携開始

RevComm(レブコム)は12月10日、同社音声解析AI電話「MiiTel」(ミーテル)と、Zapierのワークフロー自動化ツール「Zapier」との連携を開始したと発表した。従来のSalesforce、Slack、Kintoneなどとの連携に加えて新たにZapierとも連携可能となったことで、より様々なアプリケーションやサービスと組み合わせる形で業務を自動化しやすくなった。

Zapierは、複数のウェブアプリやサービスを連携させることで、日々の業務で発生する定型的な作業をプログラミング不要で自動化できるツール。「Googleスプレッドシート」「Chatwork」「Microsoft Teams」など、3000以上のアプリケーションやサービスをサポートしている。RevCommは、MiiTelが生成する様々なデータを各種サービスと連携させることで、業務効率のアップ、また新たなインサイトの発見に役立てられるとしている。

Zapier連携機能では、現在4つの「Trigger」(トリガー。処理開始のきっかけとなるイベント)を利用できる。

Zapier連携機能で利用できるTrigger

  • Incoming unanswered:不在着信。利用例は、「不在着信があった場合に、Gmailへメッセージを送信」など
  • Phone analysis completed:音声解析完了。利用例は、「MiiTelの音声解析完了時に、応対履歴を利用中のSFAやCRMへ連携」など
  • Video analysis completed:動画解析完了。「MiiTel Live」「MiiTel for Zoom」(ベータ版)利用ユーザー向けの機能。利用例は「ミーティング動画の解析完了時に、音声認識結果をGoogle ドキュメントとして保存」など
  • Answering Machine recorded:留守電録音。利用例は、「留守番電話があった場合に、Chatworkへ留守番電話の通知メッセージを送付」など

実在しているような合成アバターがしゃべるプレゼン動画を簡単に作れるSynthesiaの技術

AIを利用して合成ビデオを作成するスタートアップ企業のSynthesia(シンセシア)は、不気味さとすばらしさの微妙な境界線をうまく渡り歩いている。

同社は米国時間12月8日、Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)が主導するシリーズBラウンドを5000万ドル(約56億8000万円)でクローズしたと発表した。このラウンドには、GVおよび既存投資家のFirstmark Capital(ファーストマーク・キャピタル)、LDV Capital(LDVキャピタル)、Seedcamp(シードキャンプ)、MMC Ventures(MMCベンチャーズ)も参加した。

Synthesiaは、単なるテキストやスライドを使ったプレゼンテーションを、しゃべるアバター付きのビデオに変えることができる。ユーザーは俳優の演技から作られたすでに用意されているアバターを利用することもできるし、動画をアップロードして数分で自分自身のアバターを作ることもできる。また、ユーザーは録音した自分の声をアップロードすることもでき、その声を使って何でも言えるように変換させることができる。

このスタートアップ企業は、インターネット上の強力なツールのほとんどが悪用可能であるという事実を認識しているので、誰でもこのプラットフォームを利用できるようにするのではなく、企業顧客のみに限定している。同社の顧客は、主にトレーニング用ビデオにこのツールを使用しているというが、その他にもチームへの月例報告や、通常は電子メールで送られてくる情報の配信などにSynthesiaを使っているという。

おもしろいことに、創業者のVictor Riparbelli(ビクター・リパルベリ)氏は、ユーザーの行動は必ずしも当初の予想とは一致しなかったと述べている。ビデオ制作部門で多く利用されるというよりも、むしろ組織内の他の部門の人々がこのツールのパワーユーザーになっているのだ。

「Synthesiaを導入する以前は、PowerPoint(パワーポイント)でスライドデッキを作成したり、Word(ワード)で文書を書いたりしていた人が、今では実際に、動画コンテンツを制作することができるようになっています」と、リパルベリ氏はいう。「これこそが、AIの観点から私たちを急速に成長させている重要な点ではないかと思います」。

4月に1250万ドル(約14億2000万円)のシリーズA資金調達を実施して以来、Synthesiaはユーザーが独自のアニメーション話者の作成をさらに容易にする機能を追加しており、現在は1000種類のカスタムアバターがこのプラットフォーム上で使われている。リパルベリ氏は、顧客の一例としてErnst & Young(アーンスト・アンド・ヤング)を挙げた。この企業では、35人のパートナーがそれぞれのアバターを持ち、社内コミュニケーションと顧客とのコミュニケーションの両方に向けてビデオを作成しているという。

この「誰でもビデオを作ることができる」というコンセプトは、Canva(キャンバ)に似た雰囲気を強く感じさせる。評価額が400億ドル(約4兆5000億円)を超えたオーストラリアのスタートアップ企業であるCanvaは、デザイン部門以外の組織に、何でもデザインできる能力を解放した後、ロケットのように急成長した。Canvaは最近、独自のビデオ製品も発表しており、既存のデザインやスライドデッキをアニメーション化し、生き生きとしたビデオに変えることに力を入れている。

Synthesiaはさらに一歩進んで、無名の俳優や自分の会社のCEOなど、まるで実在の人物のように見えるアバターを使ったビデオを作成することができる。

このような難問に取り組んでいる企業はSynthesiaだけではない。イスラエルのD-IDという会社は、Disrupt 2021(ディスラプト2021)で実際にデモを行い、人物の静止画を動画コンテンツに変換する方法を披露した。

つまり、いくつかの意味で競争が始まっているのだ。AIやアバターを使って動画作成を容易にしようとする企業は、リアリティを高めたり、感情表現に順応性を持たせるといったことで競うだけでなく、ユーザーの安全性や自社プラットフォームの信頼性を確保することにも力を入れなければならない。

この種のツールが、多くの人々に誤解を与えたり、危害を加えたりするために使われる可能性があることは明白であり、このようなツールを作成する企業は、それが公正に使用されるということを保証する責任がある。

Synthesiaでは、明確な同意なしに誰かを合成することはないと明言している。また、この技術には同社が完全にコントロールしているオンレール体験を通してのみアクセスできる。

それはともかく、近い将来、あなたの部署の責任者やCEOのように見えるけれど実際は本人が出演していないビデオを見ても驚いてはいけない、ということだ。

画像クレジット:Synthesia

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(文:Jordan Crook、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

花王、深層学習で肌の質感を評価する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させた「Kirei肌AI」を開発

花王、深層学習で肌の質感を評価する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させた「Kirei肌AI」を開発

花王メイクアップ研究所は12月7日、深層学習を用いて多様で繊細なヒトの肌の質感を評価し可視化する「肌評価AI」に、ヒトの感性を学習させ、肌の精緻な解析とヒトの視点や判断を併せ持つ独自AI「Kirei肌AI」の開発を発表した。

花王では、2021年1月に「肌評価AI」を発表している。これは、ヒトの肌の小さな領域「肌パッチ」の画像を学習し、素肌と化粧肌、化粧直後と時間が経った後といった肌の状態のわずかな違いを識別できるというものだが、たとえば肌の美しい「つや」と「テカリ」の違いなど、繊細な違いの判断はできなかった。こうした肌の印象を的確に捉えられるのは、人間の目しかない。

花王、深層学習で肌の質感を評価する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させた「Kirei肌AI」を開発

花王、深層学習で肌の質感を評価する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させた「Kirei肌AI」を開発

マットな肌、化粧くずれでテカリのある肌、なめらかで美しいつや肌を比べた際、過去に開発したAIではテカリのある肌を「光沢が強い」という評価しかできなかった

そこで花王は、目視評価の訓練を積んだ「専門判定者」の目視による判断を「肌評価AI」に学ばせることにした。20歳から39歳の日本人女性83名の肌パッチ画像9306枚と、その画像に対する専門判定者の評価を使い学習を行ったところ、専門判定者の判断とAIの判断の相関係数が0.7と、強い相関が示された。つまり、かなりの程度で一致したということだ。これを受け、「肌評価AI」の評価項目6項目に新たにヒトの感性を反映させた評価項目10項目を加えたKirei肌AIを完成させた。

また同研究所は、Kirei肌AIを用いて、光沢とつやの違いについて解析を行った。「視覚的つや」に対して、「化粧くずれ度」(テカリと強く関係)、「Powderly / Glossy」(パウダーファンデーションとリキッドファンデーションのどちらを塗った感覚に近いか)、「Dry / Wet」(乾燥肌とスキンケア後の濡れた肌のどちらに近いか)という3つの指標を使い、日本人女性266名のメイク塗布前後の顔画像1596枚を使って比較したところ、下の表のようになった(数値がマイナスは関連なし、数値が多いほど関連が強い)。これで、つやとテカリは、まったく異なる質感であることが明確になった。

  1. 花王、深層学習で肌の質感を評価する「肌評価AI」にヒトの感性を学習させた「Kirei肌AI」を開発

    テカリ肌(中央)は「Glossy」「Wet」「化粧くずれ度」が高く、「視覚的つや」は高くないと判断されている。また右端のつや肌は、「視覚的つや」が非常に高く、一方で「Glossy」でありながら「化粧くずれ度」は低いという評価になっている

以上のことから、Kirei肌AIは、つやと光沢のわずかな違いを判断でき、好ましく見えるかという「ヒト特有の視点を含んだ繊細な分析」が可能なAI肌評価技術の開発に成功したと花王は話す。今後はこの技術を、製品開発や缶セリングの充実に積極的に活用するとのことだ。

ユニ・チャームが新たに展開する「大人用おむつカウンセリング」がBodygramのAI身体計測技術を採用

ユニ・チャームが新たに展開する「大人用おむつカウンセリング」がBodygramのAI身体計測技術採用、体に合う紙おむつ選びを支援AI身体計測テクノロジーを提供するBodygram Japan(ボディグラム・ジャパン)は12月7日、ユニ・チャームが新たに展開する「大人用おむつカウンセリング」に同社技術が採用されたことを発表した。これが、Bodygram Japanの初めての介護領域への参入となる。

Bodygram JapanのAI身体計測テクノロジーは、年齢・身長・体重・性別を入力し、服を着たままスマートフォンで体の正面と側面の計2枚の写真を撮ると、その人のボディーラインを自動的に検出し胸囲・肩幅・手足の長さなど全身24カ所の推定計測ができるというシステム。これまでに、アパレル、ライフスタイル、ヘルスケア領域に採用されている。

ユニ・チャームは、大人用おむつの需要が増す一方で、選んだ紙おむつが体に合わないという悩みの声を多く聞いてきた。紙おむつは、少しでも大きすぎると漏れが生じ、小さすぎると皮膚を圧迫してしまうため、慎重にサイズを選ぶ必要がある。そこでユニ・チャームは、2018年にチャットボットを使った「大人用おむつNAVI」を開設し、24時間体制で相談の受け付けを開始した。すると4年間で相談件数は4倍にも増えたという。ユニ・チャームが新たに展開する「大人用おむつカウンセリング」がBodygramのAI身体計測技術採用、体に合う紙おむつ選びを支援

そこでわかったのは、大人用おむつを買いに店に来た人の約9割が着用する本人ではなく介護者であり、使用者に相談せずに、普段の洋服や下着のサイズを参考に紙おむつを選んでいるということだった。その結果、体に合わない紙おむつを着用している要介護者が約4割にも上っている。厚生労働省「令和3年度介護保険事業状況報告 月報(暫定版)」によると、2021年9月末の第1号被保険者数は3587万人、要介護(要支援)認定者数は688万人にもなる。

Bodygram JapanのAI身体計測は、ユニ・チャームLINE公式アカウントのチャットトーク機能内にある「最適サイズ診断」で利用できる。スマートフォンで体の写真を2点撮影し、身長・体重・性別・年齢を入力すると、おむつサイズの診断に必要な太もも・ウエスト・ヒップのサイズが自動計測される。これにより、体にぴったり合った紙おむつ選びを支援するとのことだ。

このサービスに対応する商品は以下のとおり。

チャームナップ 吸水さらフィアクティブショーツ
ライフリー スッキリスタイルパンツ(TM)
チャームナップ 吸水さらフィシリーズ
ライフリー さわやかパッド女性用シリーズ
ライフリー さわやかパッド男性用シリーズ
ライフリー 下着の感覚 超うす型パンツ
ライフリー その瞬間も安心
ライフリー さわやかパッド男性用 一気に出るときも安心用
ライフリー うす型軽快パンツ
ライフリー 長時間あんしん うす型パンツ
ライフリー リハビリパンツ
ライフリー ズレずに安心 紙パンツ用尿とりパッドシリーズ

グーグルを解雇されたティムニット・ゲブル氏、自らAI研究所「DAIR」を設立

ちょうど1年前、Google(グーグル)のAI倫理チームの共同リーダーの1人であり、このテーマの第1人者であるTimnit Gebru(ティムニット・ゲブル)氏は、チームのメンバーに懸念を示すメールを送った後に解雇された。そのゲブル氏が自ら仕事場を構え、Googleで敬遠されていると感じていた論題に焦点を当てたまったく新しい研究機関「DAIR」を設立した。

関連記事:GoogleのAI倫理研究チームの共同リーダーが部下宛てメールが原因で解雇されたと語る

発表されたプレスリリースによると、この「Distributed Artificial Intelligence Research Institute(分散型人工知能研究所)」は「AIの研究、開発、展開における巨大テクノロジー企業の広範な影響力に対抗するための、独立した、コミュニティに根ざした研究所」であるという。

DAIRは、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook / Meta(フェイスブック / メタ)などの企業で使用されているプロセスに疑問を持ち、多様な視点を取り入れ、強調することを目的として設立された機関で、独立資本で運営される。その焦点は、学術的な領域における論文発表に置かれているものの、伝統的な学会の絶え間ないプレッシャーや、グローバル企業のパターナリスティック(父権主義的)な干渉を、研究者に与えることはない。

ゲブル氏はThe Washington Post(ワシントン・ポスト紙)の取材に対し「私は長い間、現在の私たちが置かれているインセンティブ構造に不満を感じていました。そのどれもが私のやりたい仕事には適していないように思えたのです」と語っている。

この研究所は現在までに、Ford Foundation(フォード財団)、MacArthur Foundation(マッカーサー財団)、Kapor Center(ケイパー・センター)、Open Society Foundation(オープンソサエティ財団)などから、370万ドル(約4億2000万円)を調達している。これだけあれば十分に運営を開始できるだけでなく、研究者にも十分な報酬を支払うことで、この種の仕事が、AI研究に頻繁に資金を提供している大企業で働くよりも現実的な選択肢であると保証できる。

TechCrunchでは、これまでさまざまな論題について語ってもらったことがあるゲブル氏に、DAIRの将来的な研究に関する方法や方向性について尋ねてみたので、返事があればこの記事を更新する予定だ。しかし、DAIRに関わる2人の人物から、我々が何を期待できるかを知ることができる。

「Algorithms of Oppression(抑圧のアルゴリズム)」の著者で、Macarthur Genius Grant(マッカーサー天才賞)を受賞したSafiya Noble(サフィヤ・ノーブル)氏は、DAIRの諮問委員会に参加する予定だ。我々は先日、「TC Sessions:Justice」の公開討論で同氏をお迎えした。そこで彼女は、テクノロジーが広く使われるようになって「ありふれたもの」になった時に、それを中立的で価値があると考えることの危険性について語った。実際には、そうなった時にこそ、より厳しい目で見られるべきなのだ。

また、DAIRの最初の研究員であるRaesetje Sefala(ラエセチェ・セファラ)氏は、南アフリカにおける地理的・経済的な分離を、衛星画像を用いて定量化する研究を行っている。

「AIは地に足をつける必要があります。AIは超人的なレベルにまで高められており、それが必然で人間の制御を超えたものであると、私たちは信じ込まされています」と、ゲブル氏は発表の中で述べている。「AIの研究、開発、展開が最初から人やコミュニティに根ざしたものであれば、これらの弊害に先手を打ち、公平性と人間性を尊重した未来を創造することができます」。

画像クレジット:Photo by Kimberly White/Getty Images for TechCrunch / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)