旅をしながら働く「世界中の」デジタルノマドに医療保険を提供するSafetyWing、約3億7000万円を調達

SafetyWingのCEO、Sondre Rasch氏

場所に縛られずに旅をしながらIT業界で働くデジタルノマド向け医療保険「SafetyWing(セーフティーウイング)」を開発するSafetyWingが350万ドル(約3億7000万円)をシードラウンドで調達した。引受先はリードのbyFounders、そしてCredit Ease Fintech FundやDGインキュベーションを含む。

SafetyWingは2018年冬季のY Combinator出身のスタートアップだ。同社が提供するSafetyWingは月額(4週間、28日)37ドル(米国では68ドル)の保険料で、北朝鮮などの一部の国を除いた約180ヵ国で使える医療保険を提供する。これは年齢が18歳から39歳の場合であり、他の年齢層は値段が変わってくる。東京海上と提携し、プランを運営している。

「デジタルノマド向け」のため、すでに旅の途中でもSafetyWingに登録することができ、サブスクのように、終了日を設定しない限りは28日ごとに更新されていく仕組みだ。90日ごとに、母国でも30日間(米国では15日間)は保険が適応され、生後14日から10歳までの子供も、追加料金なしで、大人1人につき子供1人、家族単位だと子供2人まで、追加コストなしでSafetyWingがカバーする。

TechCrunch Japanでは4月にSafetyWingのCEO、Sondre Rasch氏をサンフランシスコで取材したが、その際に同氏は「5年から7年ほど前からデジタルノマドの数は急速に増えてきた」と話した。SafetyWingが算出した数字によると、この世界には「2500万人ほど」のデジタルノマドが存在し、2035年には10億人ものデジタルノマドが存在するというアナリシスもある。

Rasch氏はビデオチャット、Slack、Dropbox、Google Docsなどのツールの台頭が、デジタルノマドたちのフレキシブルなワークスタイルを可能にしたと述べていた。今後、ホテルを賃貸できる「Anyplace」や、日本でいうところの「ADDress」や「OYO LIFE」のようなサービスの増加に伴い、デジタルノマドというワークおよびライフスタイルという選択肢はより多くの人に選ばれるようになるのではないだろうか。

TechCrunchのSteve O’Hear記者の取材に対しRasch氏は、競合は多くないものの、オーストラリアのWorld Nomadsは「類似した」サービスを提供していると説明した。「最大の違いは、我々のサービスがデジタルノマドやリモートワーカーに特化したものだということだ」(Rasch氏)

Rasch氏は以前、新プロダクトである「グローバルセーフティネットをオンラインで実現する」ためのアドオンを2019年中にリリースする予定だと明かしていた。SafetyWingはフルタイムのリモートワーカーを世界中に抱えており、同社オフィスが存在しない国で働く社員にも福利厚生を充分に与えたいが、Rasch氏いわく「あまり良いオプションがない」。新プロダクトは同様な悩みを抱える企業に向けてのものとなるようだ。

楽天がこんまりに「ときめく」、運営会社の株式を過半数取得、近藤麻理恵氏が楽天のJoy Ambassadorに

楽天は8月2日、片付けコンサルタント「こんまり」こと近藤麻理恵氏のプロデュースを手掛けるKonMari Mediaの株式過半数を取得。パートナーシップ契約を締結したことを発表した。

関連記事:Netflixスターの片づけエキスパート「こんまり」が40億円超の資金調達へ

楽天によると、片付けを通じて自分の内面を見つめ直すという本質を追求する姿勢「こんまりメソッド」に共感(ときめく、Sparkle Joy)し、過半数の株式取得に至ったとのこと。今後近藤氏は、楽天社内の片付け習慣を監修・推進する「Joy Ambassador」に就任する。

近藤氏は、2014年に拠点を米国に移したあと、2018年には「数百万ドル台の低いほう」の調達ラウンドを米名門VCであるSequoia Capitalのリードで完了。今年3月には4000万ドル(約42.8億円)の資金を調達すべく、ベンチャーキャピタルと交渉中であることが明らかになっていた。2019年1月からは、Netflixの番組「KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~」で米国での人気が沸騰。著書「人生がときめく片付けの魔法」シリーズは世界40か国で累計1100万部突破のベストセラーになっている。なお著書は、2011年にサンマーク出版から刊行されたが、2019年2月から河出書房新社に変わり改訂版が販売されている。

audiobook.jpがポッドキャスト配信者のマネタイズを支援、「課金システム」を提供開始

オーディオブックの配信サービス「audiobook.jp」を展開するオトバンクは8月1日、ポッドキャスト配信者に課金システムの提供を開始した。これにより、配信者はaudiobook.jpの「聴き放題プラン」と「単品販売」を通じ、ポッドキャストでロイヤリティ収益を得ることが可能となる。

オトバンクいわく、近年、ポッドキャスト市場は世界的に急成長している。特に市場が大きいというアメリカでは、「2018年のポッドキャストにおける広告収入が前年比53%、史上最高額となる4億7900万ドル(約520億円)に到達した」そうだ。

同社によると、ポッドキャストは日本でも徐々に注目番組や配信者が増えているなど一定の盛り上がりを見せている一方、「ポッドキャストの配信により収益を得られるシステムが少ない」といった課題が残っているという。

オトバンク代表取締役社長の久保田裕也氏は、「近年個人でポッドキャストを配信する例も増えていますが、サーバー費やコンテンツの制作費の負担により番組の継続が難しいという話も耳にします」と話す。そのため、この課金システムにより、オトバンクはポッドキャストの配信者が継続してコンテンツを配信できるように基盤構築を進め、新しいコンテンツ制作などに寄与していく。

また、久保田氏は「2009年ごろから一部ポッドキャストの有料化を行ってきましたが、限られた番組での実施にとどまっていました」と説明。だが、「昨年から聴き放題を開始し、ユーザーの求めるコンテンツニーズが多様化していること、またポッドキャストを提供する媒体としてもより親和性の高いものになったため」(久保田氏)、audiobook.jpでもポッドキャストの取り扱い、そして課金システムの提供を本格的に開始した。

本日より、audiobook.jpでは2種類のポッドキャストの配信方法を提供開始。1つ目は、「聴き放題プラン」の対象コンテンツとしての配信。配信者には再生時間に応じたロイヤリティが支払われる。そして2つ目は各コンテンツの「単品販売」。配信者には販売数に応じたロイヤリティが支払われる。

近年、声のブログ「Voicy」や「Radiotalk」などの音声配信プラットフォームが誕生してきた。noteでも音声コンテンツに対し料金を課することが可能となっている。ポッドキャスト配信者が活躍できる場は増えてきたが、今後、audiobook.jpの課金システムのような取り組みが増え、より多くの配信者が無理なく優良なコンテンツを継続的に配信できるような環境が整うことを期待したい。

オトバンクでは今後、順次ポッドキャスト配信者を増やしていくべく、応募を受け付けている。

施主と解体⼯事会社をマッチングする⼀括⾒積もりサービス「くらそうね」のβ版がリリース、1.5億円の資金調達も発表

写真中央がクラッソーネ代表取締役、川口哲平氏

解体⼯事・外構⼯事の3社⼀括⾒積もりサービスを運営するクラッソーネは8月1日、LINEを使った解体⼯事の⼀括⾒積もりサービス「くらそうね」のβ版を愛知県限定で提供開始した。

くらそうねは、 物件の住所などに関する簡単な質問に答えるだけで、解体工事の⾒積もりを提示してもらえるサービス。最⼤10社の⼯事⾒積もりが、最短1⽇から随時閲覧可能となる。

スマホでLINEアプリを使い、場所、時期、予算などの項目をチャットボットに伝えると、見積もりが送られてくる。ユーザーはその見積もりのリストを「安い順」、「現場に近い順」、「過去の評価が高い順」などに並び替え、1社の工事会社を選ぶ。

くらそうねのUI

クラッソーネ代表取締役の川口哲平氏は、2つの課題が存在したため、くらそうねの開発に至ったと説明する。1つ目は、解体工事を依頼する際、昔ながらの一括見積もりサービスしか選択肢がなかったため、「依頼するとたくさんの電話がかかってくる」、「見積もりが出るまで数週間かかってしまう」、というのUXが当たり前の状態だった、ということ。そして2つ目は、解体を比較する要素はが値段しかなかった、ということだ。

「ユーザーは『トラブルなくちゃんとやってほしい』と考えている。だが、値段以外の『トラブルなくちゃんと』といった要素が見える化されていないため、値段でしか選べない。そうすると、ちゃんとやっていないのに安いところが選ばれてしまうという現状がある」(川口氏)。

上記のような課題を解決するため、くらそうねではユーザーが工事会社を「応対マナー」、「追加費⽤」、「⼯事品質」、「⼯期遵守」、「近隣配慮」といった項目でレーティング。そうすることで、値段以外の部分を「見える化」することを目指している。料金以外の判断基準が増えることは、施主にとっても、「ちゃんとした」⼯事会社にとっても、メリットとなると言えるだろう。

また、解体⼯事をはじめとする建設業界は多重下請構造になっているため、多額の中間マージンが⼯事料⾦に上乗せされるため、施主の負担が重くなるだけでなく、下請けの⼯事会社の利益を圧迫しているという現状もある、と川口氏は話す。そのため、くらそうねでは、施主と⼯事会社を直接繋げることにより、中間マージンの発⽣を抑え、適正な価格での工事の実現も目指している。

川口氏いわく、解体業界は「地味だが大きくて伸びている、プレイヤーがいない業界」。同氏は「年間で約50万棟が解体され、市場規模も1.7兆円。解体は今後も増えていく見込みのため、市場は4兆円規模に伸びるのではないかと考えている」と説明した。

クラッソーネは同日、リード投資家のオプトベンチャーズ、静岡キャピタル、三⽣キャピタルを引受先とした第三者割当増資により、総額1.5億円の資⾦調達を実施したと併せて発表している。川口氏いわく、同社は調達した資金をもとに開発体制を強化していく。

「今回の新しいサービスは、まずβ版を愛知県で、30社限定で運営をスタートする。ブラッシュアップした後に、他地域にも広めていく」(川口氏)。

また、くらそうねでは解体工事の費用のデータが集まるのため、最終的には見積もりが即時に出るサービスを目指していくと川口氏は話していた。「今は24時間で10社出るようにしているが、究極、1分で10社、1分で100社の見積もりが出るサービスとなる」(川口氏)。

メルカリが鹿島アントラーズの経営権を取得へ、メルペイの顧客層拡大を目指す

フリマアプリ「メルカリ」を展開するメルカリは7月30日、日本製鉄とその子会社が保有する鹿島アントラーズ・エフ・シーの発行済株式72.5%のうち61.6%を取得することを決議し、日本製鉄と株式譲渡契約を締結したと明かした。これにより、メルカリは鹿島を子会社化する。Jリーグ理事会は同日、この株式譲渡の承認をした。

メルカリは2017年4月、鹿島アントラーズとクラブオフィシャルスポンサー契約を締結していた。同社はプレスリリースで、「今後は、鹿島アントラーズの独立したクラブ運営を尊重しながら、当社が持つ経営ノウハウを活用し、ファンやサポーターの皆様に愛され、世界に挑む鹿島アントラーズのさらなる発展をアントラーズファミリーとしてサポートしてまいります」とコメント。子会社化の狙いは、鹿島アントラーズのブランド力によるメルカリブランドの価値向上、ならびにメルカリとスマホ決済サービス「メルペイ」のさらなる顧客層拡大だと説明している。

Amazonがオハイオにロボット・フルフィルメントセンターを開設へ

米国時間7月22日の朝、Amazon(アマゾン)はロボットを利用したフルフィルメントセンターをオハイオ州に開設すると発表した。70万平方フィート(約6万5000平方m)以上の面積を誇る2つの倉庫は、州北部のAkron(アクロン)とRossford(ロスフォード)にそれぞれ設置される。

これらのフルフィルメントセンターはAmazonの他の配送センターと同じように、人間の従業員と配送ロボットによるコラボレーションを提供する。その様子は、最近訪れたStaten Island(スタテンアイランド)のロケーションの記事から参照できる。

Amazonはオートメーションが人の仕事を奪うことについての批判にもなれてきており、今回は2つのスペースが2500以上のフルタイムジョブを生み出すと主張している。また昨年のBernie Sanders(バーニー・サンダース)上院議員からの批判に応え、これらの仕事では最低賃金15ドルが支給される。

この新しい拠点は、米国内での1日配送を推奨しているAmazonにとっても役立つはずだ。すでに目標達成のために負担を強いられているとされる従業員が、最終的にどれだけの負荷を負うことになるのかについての懸念は大きい。

今回の2500人の追加雇用により、中西部におけるAmazonの合計従業員業員は8500人となる。なお、2つの倉庫の具体的なスケジュールに関する情報はまだない。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

中国版NASDAQが始動、テック企業25社が上場

中国の新しいNASDAQ型の証券取引所の取引が米国時間7月22日に始まり、上海株式市場が運営する科創板(Science and technology innovation board)に、25社のテック系企業が上場した。「STAR Market」 と呼ばれる同証券市場はガバナンスに関する懸念に対処することで、より多くの中国のテック企業が国内で上場することを奨励する、政府による取り組みだ。

トレーダーたちは、投資家が株式を購入し取引するために、当初の相場が不安定になる可能性を指摘している。そしてこの警告は、大量の買い注文がサーキットブレーカーを発動させ、いくつかの企業が取り引きを停止したことで裏付けられた。

STAR Marketは、中国政府が資本市場の改革に着手し、収益性の要件を緩和して中国本土での上場をハイテク企業によってより魅力的なものにするための取り組みとして、昨年11月に発表された。AlibabaやTencent、Xiaomi、JD.com、Pinduoduoなどの中国企業による大型IPOはニューヨークや香港で行われたものであり、STAR Marketは中国国内での株式上場を促進する可能性がある。また、中国と米国の貿易戦争においても、大きな意味を持つことが期待される。

しかし、CNBCは中国が2つの市場を立ち上げた(2009年のChiNextと2013年のNew Third Board)のにもかかわらず、上海と深圳の主要市場ほどは注目が集められていないことから、STAR市場の成功は決して確実なものではないと指摘している。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Toys “R” Usが技術系スタートアップb8taと共同で未来のオモチャ屋さんをオープンする

GoogleやMacy’sなどとの提携を行ってきたリテール・アズ・ア・サービスのスタートアップ企業b8ta(ベータ)は、子ども向けのオモチャ市場に参入する。Toys “R” Usを所有するTru Kids Brandsとの合弁事業の一環として、b8taは、その体験型小売の専門性を、このオモチャ小売り業界の象徴的存在に投入する。双方の企業は、このベンチャーの50パーセントを所有する予定だ。

およそ8カ月から10カ月間、共同で事業を行ってきたb8taとTru Kids Brandsは、間もなくその成果を公表する。彼らが開発した新店舗では、映画館に、子どもたちが遊べるビデオゲームやツリーハウス、STEAM(科学、技術、工学、アート、数学)教育のワークショップなどが展開される予定だ。11月、ヒューストンとニュージャージーにオープンする最初の2店舗は、およそ180坪。これに約280坪の未来の未来の店舗が併設される。これまで親しまれてきたToys “R” Usの店舗はおよそ840坪の規模であったため、これに比べると、ずいぶん狭い。

b8taのソリューションは、精算、商品目録、POS、在庫管理、従業員のスケジューリングなどのためのソフトウエアとして、体験型小売店に物理的な形で現れる。そのためオモチャメーカーは、Toys “R” Usの店舗にてインタラクティブな形で製品を展示させる有償オプションを選択できるようになる。さらにこれらのメーカーは、店舗内の体験に加え、店舗で製品を購入するかオンラインで直接購入するかの選択肢を客に与えることができる。

「これは、b8taが磨いてきた体験型小売と、手を使った実体験を合体させるものとして、とても興味深く思っています」と、Tru Kids BrandsのCEO、リチャード・バリー(Richard Barry)氏はTechCrunchに語った。「製品の展示方法を決める権利をメーカーに与え、インターネットでの体験も提供します」。

この合弁事業は、昨年、アメリカでのToys “R” Usの営業停止の後、Tru Kids Brandsが2月に復活させると発表した後に始まった。b8taにすれば、経営に苦しむ小売店の中の隙間市場を発見したといったところだろう。昨年6月、Macy’sはb8taの少数株を取得し、その一部を同社の店舗の強化に振り向けた。それは、Macy’sが店舗の大量閉鎖を行っていた最中のことだった。

Toys “R” Usの事業は、子ども分野への事業拡大の機会だとb8taは見ている。

「憶えておいでかも知れませんが、私たちは、私たちのビジネスモデルとアプローチを、他の分野の店舗デザインに活かしたいと表明しました」と、b8taのCEOバイブー・ノービー(Vibhu Norby)氏はTechCrunchに話した。「昨年、私たちは子ども市場に大きな関心を持ちました。ほぼ同時期に、Toys “R” Usに関するニュースを聞き、面白いことになったと感じたのです」。

それからしばらく経ち、ノービーはバリーに紹介され、アメリカでToys “R” Usを運営する合弁事業のアイデアがまとまった。来年、彼らはアメリカ全国の人通りの多い場所にも新店舗を展開する予定だ。今日までにb8taは、Macy’s、Sound Ventures、Khosla Venturesなどから3900万ドル(約42億円)の資金を調達している。

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(翻訳:金井哲夫)

インターネットの迷惑な人たちには思いやりを

朝目覚めてスマホをチェックすると、またしても激しい非難のメッセージが現れる。どこかのメチャクチャな人が、怒り狂って侮辱的なことを言い立てている。冷静に考えるとこれは、有害な悪行だ。人を卑下し、人間性を否定し、人のあらゆる側面の自由や行動を抑え込もうとしている。

その猛烈な怒りの合唱に反論の声を上げる。当然だよね?でも、その人たちは自分たちが間違っているとは決して認めない。彼らはあまりにも無知であり、自らの愚かさに凝り固まっている。だから、彼らが世間から疎まれ、大勢の敵がいることを知らせてやる必要がある。

「そんな人たち」と聞けば、それがどんな人たちを指しているのか、誰でもわかる。あらゆるニュースサイトやテレビのチャンネルに登場する、名前を聞いただけで怒りがこみ上げてくる不愉快な面々に賛同する人たちだ。国境で展開されている許しがたい惨劇の元凶であり、街で起きている暴力事件の元凶だ

「そんな人たち」でも、根っからの悪人はひと握りだと言える。想像でき得る限りの最悪の状況は、5年前よりも悪化している。それでも、悪人はごく一部だ。大多数は、養育歴や無知の囚人であり、自らの困窮の犠牲者であり、ただ猛烈に難癖をつけているだけだ。しかし彼らには、ひとつの共通点がある。思いやりを持てないことだ。

彼らと距離を置くことは簡単だ。むしろ近づくのが難しい。みなさんが実際に関わっている圧倒的大多数の人間は「我々」だからだ。

私たちがすべきは、すべての人に対して行っているのと同じように、「彼ら」にも思いやりを持つことだ。同情ではない。同情はまったくの別物だ。宗教も、精神も、道徳も、あるいは単なる信条すらも、すべての人に思いやりを持てと教えている。しかし、思いやりという考え方を持てない人たちを、どう思いやればいいのだろうか? 他人を非難せず、むしろ励ます人たちは、その境界線に置かれたとき、どうなってしまうのか?

インターネット上の怒りは、そのひとつひとつが思いやりを漉し取ってしまうため、私たちと「彼ら」との間の溝は、さらに広く深くなってゆく。そのウイルスのような怒りは、ボットが生み出していることは理性ではわかっている。それは「あらし」やもっと悪辣な連中プログラムしているもので、「彼ら」全員の意見を代弁しているものではない。

しかし、新たな怒りに接するごとに、理性とは別の感情で、そこには「彼ら」がいるという思いを強めていってしまう。彼らはもはや、分別の範囲内で意見が異なる人たちとは認識されず、そこには「私たち」か「彼ら」しか存在しなくなる。

こう考えればわかるだろう。もし、理論上「我々」に含まれる人たちが、思いやりのない目に余る態度を取ったり、他人の人生全体をその人の最悪の瞬間をとらえて評価したり、実際の成果を無視して手順の純粋性にこだわるようなことがあっても、その言い分を聞くことができるだろう。

「我々」と「彼ら」との間の溝が深まれば、双方の側の結束が高まる。そして、「彼ら」側にはいるが、なんとなく居心地が悪く、さらには境界線上で独自の考えで行動したときに自分の身に起きることに恐怖を感じている人は、反論がしにくくなってしまうことは明白だ。だが反論は重要だ。当然、反論すべきだ。とは言え、人は弱い。楽なほうに流されるのが常だ。

私たちは、インターネット上で起きている分断は、現実世界で引き起こされている悲惨な問題とは違うと、ある程度は理解している。現実の問題は私たちに深く関わってくるが、インターネットの場合はそうでもない。インターネットは、聞こえのいい言葉に身を隠すことを学んだ巨大な組織的不公正が、どちらの側にも気付かれないように、うまい具合に「我々」と「彼ら」の間の怒りがそちらに向かないように、冷静に舵を操作していることも、なんとなくわかっている。

しかし、よく眠れなくて、疲れが溜まっていて、このベッドから出るなり、すでにやることが山積みで、不満だらけの職場で顔を出さなければならない予定が詰まっていて、心配ごとだらけでまったくやる気が起きない状態のとき、すべては巨大な組織的不公正のなせる業なのかも知れないが、膿が溜まった悪性の骨まで届く深い傷は、今すぐ対処しなければいけない。この邪悪な事態の元凶は彼らであり、彼らはそれに立ち向かい、阻止する責務を負っている。

そのため私たちも、その怒りのコーラスに対して声を上げなければならない。境界線で現実に戦っている人たちに、もっと力を貸すべきだ。ベッドから出る前に考えて欲しい。このインターネット上の大きな分断は、どれほど現実を映しているのか、またどれほど現実を先取りしているのか。「彼ら」は本当に正気を失っているのか、道義的なコンパスが完全に壊れてしまっているのか。

そこまで行っていなかったとしても、私たちに何ができるのか。考えないわけにはいかない。

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(翻訳:金井哲夫)

代替タンパク質の次なる大きな波は植物由来や細胞培養のシーフード

国連食糧農業機関(FAO)によると、魚は、世界で消費される動物性タンパク質の16%を占めており、その需要は高まっているという。その原因は、可処分所得の大幅な増加にある。

しかし、乱獲の問題は深刻だ。持続可能性がないため、今ある姿を保てなくなっている。本来の数の4%までに数が減少した太平洋クロマグロをはじめ、魚の個体数は減少している。産業漁業では、大型の機械を使ったトロール漁を行っており、クジラやイルカなど、魚以外の生物も捕獲し殺してしまう。

他の国々と比較して水産物の需要が飛び抜けて高い中国においてすら、需要は急速に伸びている。その原因のひとつに、アフリカ豚コレラが養豚業者を襲ったことがある。豚肉の流通量が減り、人々が他のタンパク源に目を向けたのだ。加えて、拡大を続ける中国の遠洋漁業業界が水産資源を激減させ、紛争を引き起こしていることも関係している。

しかし、私たちが食べる魚は、2030年までには、ほとんどが養殖になる。管理の悪い養魚場では、化学物質による水質汚染を引き起こしたり、バクテリアや病気を拡大させて結果的に自然の生態系に影響を及ぼすことがある。養殖の鮭は、野生の個体と混じったときに貴重な生態系を乱す恐れがあり、環境に深刻な被害をもたらす。

魚は、人口が増加し、食糧不足が深刻化した際に、非常に重要なタンパク源となる。しかし、天然資源を枯渇させず、水域環境を破壊せずに魚を安定的に供給することは、継続的な課題だ。魚は、プラスティック、水銀、抗生物質で汚染されている。しかも魚の養殖は、食糧不足にはあまり貢献していない。本当に必要としている地域には魚が届いていないのだ。

また、以前から続いてきた魚の幸福に関する論議もある。魚には知覚力があるのか。また、捕らえられたときや殺されたときに苦痛を感じるのかという問題だ。だが研究により、この議論には終止符が打たれた。魚の種の多くに長期記憶があり、社会的なつながりや子育ての技能を持ち、道具を使ったり、伝統を学んだり、他の種と協力し合うこともできることがわかっている。ほとんどの研究者は、痛みや恐れを含む感情を抱く能力があることも認めている。

トルコ、イズミルにて – 4月25日。イズミル県カラブルンの養殖場の航空写真。ここではエゲリー(Egeli)と呼ばれる、タイとヨーロッパレンコダイの交配種が育てられている。1年以内の出荷を予定している(写真:Mahmut Serdar Alakus/Anadolu Agency/Getty Images)

一部の国の養魚場では、人道的な食肉処理のガイドラインに従っているところもあるが、野生の魚に対してはそうした基準がない。しかも、そのガイドラインも名ばかりだ。養殖魚の伝統的な処理方法は、空気中や氷の中で仮死状態にするというものだ。これは長時間にわたり苦痛を与える工程で、やがては失神することもある。

魚は狭い場所に押し込められて、劣悪な環境で生活し、餌も与えられないことが多い。過密状態の魚は病気にかかりやすく、ストレスを感じて攻撃的になり、その結果、喧嘩をして傷つけ合うこともある。囲いの中は、フナムシや病気、または寄生虫の温床にもなる。このように、魚に関する問題は数え切れないほど存在する。それでも、養殖魚は毎年1200億尾が処理されていると見積もられている。

Impossible BurgerやBeyond Burgerといった植物由来の牛肉の代替品、またはImposter Burgerのような鶏肉の代替品が増えてきているものの、魚肉は遅れをとっている。魚は、陸上の動物と同じく大切な食材だ。そのため、植物由来のシーフードという選択肢を、従来品の量を減らしたいと考える人たちに提供することで、それは初めて商売として成り立つようになる。

だが、潮目は変わろうとしている。植物由来の魚肉の代替品が大きく注目され始めているのだ。スタートアップのImpossible Foodsは、植物由来の代替魚肉は「優先度が高い」と話している。他の企業も数多くの魚製品を開発しており、その味はどんどん本物に近づいている。Good Catchは植物由来のマグロを販売している。Ocean Hugger Foodsは植物由来の生のマグロを開発した。New Wave Foodsは植物由来のエビを開発した。植物由来の寿司を提供するレストランも出始めている。

細胞培養による魚肉にも技術革新がある。スタートアップのWild Typeは、鮭の幹細胞を使って研究室内の環境で育てられる鮭を開発した。同社は価格を下げて一般販売することを目指している。シンガポールのShiok Meatsは、エビ、カニ、ロブスターなど細胞培養の甲殻類を開発している。Blue Naluは細胞培養シーフード、Finless Foodsは研究室でクロマグロの飼育に焦点を当てている。同社は、2017年に最初の細胞培養の魚を完成させたが、今年中に高級レストランに向けて出荷したいと話している。これには水銀が含まれないという利点もある。

漁業をより人道的に、より持続可能にするには、まだまだ解決すべき課題が数多くあるが、同時に需要を減らす努力も必要だ。植物由来または細胞培養の肉を製造する企業は、牛肉や鶏肉の摂取量を減らしたい人たちを奨励しサポートを続けているが、同じことを魚でも行おうと視野を広げつつある。ぜひとも代替魚肉を普及させ、魚の需要の高まりによるダメージに気がついた人々を取り込まなければいけない。

【編集部注】著者のBrian Kateman氏は、
Reducetarian財団の共同創設者であり理事長。

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(翻訳:金井哲夫)

ジョニー・アイブのいないアップル、デザインのこれから

言ってみれば、面白い状況だった。およそ30年間をApple(アップル)で過ごしたJony Ive(ジョニー・アイブ)氏は、新会社LoveFrom設立のために会社を去ることになった。友人でよくコラボしていたMarc Newson(マーク・ニューソン)氏も一緒だ。彼もアップルを辞める。このニュースに対するアップルウォッチャーたちの反応は、予想通り大げさなものだった。

彼らの言葉を総合すると、次のように集約される。

  • ジョニーはチェックアウトした。使えなくなったか、やる気をなくしたからだ。
  • アップルはもうおしまいだ。なぜなら彼がいなくなるからだ。

この意見が矛盾していると感じたあなたは、まともな感覚をしている。

もし、こうした衝撃的な(私に言わせれば何かを渇望するような)意見を、ここ数年のジョニーにまつわる山ほどの噂と結びつけてひとまとめにするなら、それは、会社とそのデザインチームの発展に貢献してきた伝説のデザイナー二アップルが見捨てられ、今後の成長に陰りが出るという構図を描きたがっているのと同じだ。同時に、彼のいないアップルはおしまいだと言いたがっているのだ。

まあ、いいだろう。皮肉なことに(必然でもあるが)この話にまつわるツイートですら、扇情的な表現に乗っかっている。ティム・クック氏の電子メール(極めて平穏な内容だが)は、「手厳しい」と褒め称えられている。ウォールストリート・ジャーナルは、こう疑問を呈している。「なぜアップルは、何年間もヒット商品を出せずにいるのか?デザイン主任の退社を取り巻く社内のドラマを見れば、わかってくる」。結論としては、その話からはヒントしか得られないということだ。

私が知るアップルのウォッチャーたちは、ここ数年にわたり同社の社員に話を聞いているが、ほぼ全員が、ジョニーは社内で余生を持てあます状態であったことに気付いている。ショッキングではない。むしろ、いつどのように記者発表を行うかを決める権限が、常にある程度までジョニーに保証されていたことが驚きだ。

2015年当時、ジョニーが退屈な事務仕事を減らしたいと考えていたのは明らかだ。アップルのこの10年間は、経営上の難題が爆発的に増えさえしなければ平穏だった。生産量を大幅に増加させ、製造ラインを分割してきたことが、価格設定と機能、そしてとてつもなくもっと大勢の人たちに守られた余地を減らす努力につながった。

「アップルへの批判の多くは、懐古趣味的なものです」とCreative StrategiesのBen Bajarin(ベン・バジャリン)氏は言う。「一部のデザイナーが、今より大胆で、偶像的で、ひょっとしたら偏向していた時代にアップルに戻ってほしいと願っているのです。しかしあの当時のAppleは、製品の販売台数は数千万台規模でした。数億台規模ではありません。そこが、一般の多くの人たちが見落としている、決定的に重要なポイントなのです」。

企業が成長すれば、ジョニーのような人材は、製図台でペンを走らせる仕事から、より経営側に近い仕事に移されるのが自然の流れだ。アップルの場合は教育だ。

私はウォールストリート・ジャーナルの(ありがたいことに、他のどの刊行物でも)パブリックエディターではない。なので、ジョニーと彼の仕事のやり方に関していろいろ出て来る話を論評しようとは思わない。昔から批評は苦手だし、このごろはまったくその気が失せた。だが、これらの逸話が結びついてひとつの物語になっていくことに関して言いたいことはある。

長年にわたりアップルに密着して取材を重ねてきたおかげで、今回の出来事に関係する人たちを、私は大勢知っている。ジョニーは、デザインの会議をサンフランシスコの自宅で開くようになった。デバイスに関する意見を集めるために、The Battery(企業幹部のためのサンフランシスコのクラブ)でもデザイン会議を開いていたに違いない。彼は、ハワイやロンドンなどの自宅にもデザインスタジオを持っている。この数年間は、アップル本社よりも、外で過ごす時間のほうが圧倒的に多い。デザインチームも、工業デザイン内外の人たちも、彼を見かける機会が絶対的に減っていた。

この数日間、細かい話がいくつも飛び交っているが、私が知る限りでは、それらは不正確であるか、正確な脈絡の中で語られてはいない。しかし重要なのは、私の知人の中には、ジョニーが会社を去ってチームを見捨てると思っている人は一人もいないということだ。

自身も言っているように、ジョニーは単に疲れてしまったのだ。数多くの功績を残したデザイナーで、デザインの仕事を減らして事務をやりたいなんて思う人間が、どこにいるだろうか?

また、ジョニーがあまり出社しないことをアップルが問題視していたという説も、私は完全に否定する。その間も、アップルは大成功を収めた製品をいくつも送り出している。そこには、重要な大ヒットカテゴリーとなったApple Watchも含まれる。私は、誰かが書いたこんな批判も目にした。ジョニーは金時計を欲しがっていたので、無駄に時間をかけてApple Watchをめちゃくちゃ滑稽な姿にしたと。

金の時計には次の2つの目的があったという。

  • ジョニーがそれを作りたがっていた。
  • 昼夜身に着けていたくなる価値ある製品であるという期待感を生む。

まったくもって、あり得る話だ。最初の点がジョニーが権力を持ちすぎたこと、またはコンピューターは平等だとするアップルの理念とは異質に感じる方向に権力を行使したことを示していると考えても、おかしくはない。しかし現実には、どれだけ売れたかは別として、それは大きな話題を呼び、お陰でファッションやウェアラブルの世界でアップルの名前が出るようになった。以前には考えられなかったことだ。

それが足がかりとなり、Apple Watchが実際に何の役に立つのかを考える時間を人々に与えることとなった。そして、大きな成功をアップルにもたらした。同じ時期、同社はiPhone Xを予定を前倒しして出荷し、iMacを含むすべての製品ラインに大幅なアップデートを施した。

出荷する製品が少ないとき、ジョニーはよく時間をかけて、デザイナーと1対1の親密な打ち合わせを行っていたが、それがなくなって残念に思うデザインチームのメンバーがいることは、よく理解できる。今思えばこの数年間、Jonyの影響力が昔のまま生き続けているとは言えない部分がある。その証拠に、MacBookのキーボードはいまだにカスだ。

基本的に、あらゆるデザインは論評に値する。ジョニーのデザインも批評をまぬがれることはできない。何らかの機能に一貫性がない場合、または人間中心に感じられない場合、それが1950年代にディーター・ラムズ自身がデザインしたものかどうかは問題はない。ただのゴミだ。

しかし、ジョニーがアップル製品を脱線させたという議論は、事実を知ればまったくのでたらめだとわかる。この4年間、私が話を聞いたデザインチームの全員がこう言っていた。困難で、大変な努力を要する、思い入れの強い仕事のときこそ、ジョニーは彼らが目指すレベルにまで製品や機能を追い込むため、必要な時間と資源とエネルギーの確保に大きな力を発揮した。中国での材料関連の現地コンサルティングも、世界のアーティストとのコラボレーションも、デザインの効果に関する調査といった資源も、ソリューションを見つけるために「最善を尽くす」という精神の現れだ。それはひとつも失われてはいない。

とはいえ、ジョニーが管理職になりたくないとしたら、もう仕事に精を出すことはないのだろうか?絵本作家のシェル・シルヴァスタイン氏はこう言っている。「お皿を拭こうとして、床に落としてしまったら、もう二度とお皿拭きはさせてもらえない」。

何事にも計算が付きまとうと、どの大手企業の幹部も公言している。しかし、どこへ行っても役に立てる気がするというジョニーの言葉は、信じてもいいと思う。

「私には確かに野心があり、道義的責任感もあるので、役に立てます」とファイナンシャル・タイムズの記事の中で彼は話していた。「この30年以上の間、素晴らしい人たちと仕事ができ、大変に面白いプロジェクトに関わり、非常に難しい問題をいくつも解決できたことは、実に幸運だったと感じています。その経験を生かして、何か大きなことをやれという使命を強く感じているのです」

彼は会社を辞めたがっている。そして実際にそうしようとしている。しかし、全体的な観点からも、内部の観点からも、嫌な辞め方をするわけではない。

もういい加減な噂話からは卒業しよう。私は、ジョニーに関するこんな愚にも付かない話よりも、今後のアップルのデザインの方向性のほうにずっと興味がる。

アップルは、Evans Hankey(エバンス・ハンスキー)氏とAlan Dye(アラン・ダイ)氏をデザインの責任者に据え、Jeff Williams(ジェフ・ウィリアムス)氏の下に置いた。アップルは営業会社になってしまうと嘆くのは自由だが、その前にこの10年間どこを見てきたのかと聞きたい。

たしかに、アップルは変わった。しかし、それは必要なことだ。ジョニーは、この長い間、私たちに素晴らしい仕事(そして「冗談だろ!」みたいな驚きの瞬間)を残してくれた。次のアップルの時代に、新しいリーダーたちがどう取り組むかを見守るのは、とても楽しみだ。

また、この時期に「ジョニーの後継者」を1人立てるという発表をしなかったアップルは賢い。その人が直接彼と比べられることで、チームに良い結果がもたらされることはない。むしろ、新しい中心人物を選ぶ時間がチームに与えられ、これから数年をかけて新たな方向性を探ることができる。いずれ、デザインを引っ張ってゆく人物が頭角を現すだろう。だが、それが誰かは私にはわからない。

エバンス氏は、私が知る限りでは、ジョニーの指名で工業デザインチームをマネージャーとして率いることになった人物だ。これまでも彼女はマネージャーとして活躍してきた。有能なデザインマネージャーであり、自身の名義の特許を何百件も所有している。重要なのは、アップルには人材を単に役職に就かせるのではなく、そこから学び、その人たちに教えるために人を配置するという、歴史的、全社的なポリシーがあることだ。このアップルの方針は制度化され、新しい従業員に伝えられる。

私は、この制度はジョニーが去った後にも存続すると信じている。

最近、数多く語られているなかで、私がもっともショックを受けたのは、デザインチームのメンバーがあたかも無能な操り人形で、ジョニーがいちいち同意しなければ何もできない連中ばかりであるかのような論調だ。それは違う。まったくあり得ない話だ。アップルがスケジュールどおりに製品を出荷できるのは、この数年間、たとえジョニーが会議に遅刻しても支障なく、彼らが仕事をしてきたからに他ならない。

アップルには、頭がよくて才能に溢れる人材が大勢いる。彼ら全員がジョニーという名前ではない。

アラン・ダイ氏が、アップルでいかにうまくやっているかを見るのも興味深い。彼は温和で、控えめな態度の人物だ。元気がないように見えるが、仕事には極めて精力的に取り組む。そのデザインは内側から自己主張するように感じられると、アップルのデザイナーたちから尊敬を集めている。高い技術の持ち主だ。Dyeが在職中に続けてきた仕事のなかに、さまざまなプラットフォーム上でiOSのルック&フィールを統一するというものがあった。San Franciscoフォントもそのひとつだ。

ソフトウェアのデザインチームが遭遇した災難でもっとも大きかったのが、私が思うに、iOS 7だ。それは、自動車や腕時計、さらにその先の新しいプラットフォームのためにiOSを拡張するといった、いくつかの正統な理由により過去と決別する必要があった。しかしジョニーは、インタラクティブなものではなく、デザインを紙に印刷して持ってきた。アップルの他の部署からデザイナーが集められ、それに肉付けをして最終デザインが取りまとれられた。そうして出来たのが、過激に新しく、しかし過激に使い辛いiOSだった。

iOS 7は、いつも私に、どこで聞いたか覚えていない真偽が疑わしい話を思い出させる。運転が難しいことで悪評高いポルシェ911に関する話だ。ポルシェは美しい過ちを犯し、それを修正するのに50年を費やした。

911は、最初からバランスの悪い車としてデザインされた。エンジンを後部に配置して、重量とトラクションで地面に伝わる力を高めようとしたのだ。それでも冗談抜きで、食料品を積むことができる。

しかし残念なことに、それによって極端なオーバーステアとなってしまった。コーナーに勢いよく突っ込むと、いきなり車体が外側に流れる。ポルシェは、モデルチェンジのごとに、トラクション、長いホイールベース、ステアリング、ブレーキ、ギヤなど、あらゆる別の要素を改良して、それを改善しようとしてきた。オリジナルの形状は残したままでだ。しかし、打つ手がなくなれば死ぬだけだ。

アップルも、iOS 7でまったく同じことをしていた。必要と信じていたコンセプトはそのままに、もっと使いやすかった時代に戻そうと努力を続けてきたのだ。

iOS 7が登場したとき、とても気になったのが「ガラスのペイン」というメタファーだ。当時はそこまで明確ではなかったが、私はこれが、Palmからヘッドアップディスプレイまで、あらゆるインターフェイスに対応するための手段だと確信した情報機器の革命だ。

ダイ氏とデザインチーム(そして公正を期するならジョニー)は、最後の数年間を費やして、メカニカルな問題に対処する大幅な修正を行った。だが、今年のWWDCで、ガラスのペインのメタファーがかなり強調されていたことに私は興奮を覚えた。それは単なる深度とテクスチャのあるペインなのだが、願わくば今回は、もっとアクセスしやすいコンテキストを備えてほしい。

ジョニーが「完璧」なデザイナーであったとしても、アップルは常に少人数のチームに意志決定をさせている。一人の人間ではない。アップルは、プロダクトマネージャーに依存することなく実際に現場で作業をする人たちに大きな権限を与える構造になっている。多くのたちは、ジョニーが去れば、みんなはたちまち指示どおりにしか動けないボンクラになってしまうと心配しているようだが、私はそうは思っていない。そんなDNAはアップルにはない。

だからと言って、疑問がないわけでもない。ジョニーはアップルで巨大な力を持っていた。だから彼が去った後、デザインを重視するアップルの人たちは何を愛すればいいのかを気にするのは、そこに興味を抱くのは、そしてもちろん心配するのは、ごく自然なことだ。

ミッドソールがカーボンでプリントされたAdidas Futurecraft

私は、確立されたアップルのデザインパターンと、新進気鋭の考え方とがよいバランスを保ってくれることを願っている。どんな企業も、過去に完全に根を下ろしてしまうべきではない。今現在、デザインにも製造の現場にも、ものすごく面白いことが起きている。プログラマティック・デザインや「AI」デザインでは、デザイナーがアルゴリズムと制限範囲を定義することで、「あり得ない」ような形状を最新の素材から生み出すことができる。それは、従来の方法で絵に描いたり、形にしたりはできないものだ。

上の写真は、アーティストとアルゴリズムがコラボレーションして生まれた靴だ。Daniel Arsham(ダニエル・アルシャム)、アディダス、Carbonというスタートアップが、目標と扱う素材を理解し、ゴールまでの計画を自分で立てるデザインプログラムの助けを借りて作り上げた。これはデザインの新しい流派だ。

デザインと製造の積み重ねをひとつのセグメントに圧縮したもの、それが製品開発の今の時代の典型的な特徴になるのだと私は考える。アップルはその波に飛び乗る必要がある。

クパチーノのアップル旧本社ビルであったInfinite Loop 4の壁に、でかでかと掲げられていたスティーブの言葉がある。「何かを行って、それがとてもいい結果を生んだなら、他に素晴らしいことをすべきだ。長い間そこに居座ってはいけない。次は何かを考えるのだ」。

アップルのデザインチームがそうしてくれることを、私は楽しみにしている。新しい考え方を受け入れ、これまでうまくできてきた確実な方法とを統合する道を探る。この数年間、これほどアップルに魅力を感じ、追いかけたいと思ったことはない。どんな展開になろうが、退屈することはないだろう。

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(翻訳:金井哲夫)

小型商用核融合炉を開発するボストンのスタートアップが約54億円を調達

25年間におよぶ研究の末、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、核融合商用化への扉の鍵を手に入れたようだ。

Commonwealth Fusion Systemsは、その研究の成果だ。消費者にクリーンで安定した電力を届けるために太陽のパワーを制御するという、数十年間にわたる研究開発の上にこのスタートアップは成り立っている。彼らはこのほど、米国で最も資金力のある民間投資家たちから、商用化を推し進めるための5000万ドル(約54億円)の追加投資を受けた。

同社はその技術を発表し、イタリアのエネルギー企業Eni、世界でもっとも裕福な男女によって設立された投資コンソーシアムであるBreakthrough Energy Ventures、そしてMIT自身の未開拓分野の技術を対象とした投資手段The Engineから、最初に6400万ドルの資金を集めている。

今回は、Steve Jurvetsonが創設した投資企業Future Ventures、Khosla Ventures、Chris SaccaのLowercase Capital、Moore Strategic Ventures、Safar Partners、Schooner Capital、 Starlight Venturesが参加している。

Commonwealth Fusion Systemsは2014年、核融合の経費削減を目指す学生の課題として始まった。このクラスは、当時MITのPlasma Science and Fusion Center(プラズマ科学および融合センター)主任だったDennis Whyteが教鞭を執っていたのだが、そこでARC(Affordable、Robust、Compact:手頃な価格で頑丈でコンパクトの略)と彼らが呼ぶ新しい融合炉技術が考案された。それでも数十億ドルという値札が付く、投資家も尻込みしたくなる規模の技術だった。

そこで彼らは製図台に戻り、エネルギー利得を生む(投入したエネルギーより出力されるエネルギーが上回る)必要最低限の核融合炉の検討を始めた。

エネルギー利得は、ほとんどの核融合炉技術において、もっとも難しい課題となっている。核融合を成功させた研究所やプロジェクトはいくつかあるが、それを維持しつつ、投入エネルギーよりも多くのエネルギーを引き出すことは、難題のまま残されている。

欧州のITER核融合炉は、200億ドル(約2兆1500億円)をかけた多国籍プロジェクトだが、2045年に達成予定の発電量の、いまだ60パーセントのあたりに留まっている。北米に目を戻すと、TAE TechnologiesとGeneral Fusionの2社が核融合パワーを安価に生み出す研究を行っている。イギリスでは、First Light FusionとTokamak Energyがそれぞれ独自の方法で核融合発電に取り組んでいる。

Commonwealth Fusion Systems(CFS)の最高責任者であるBob Mumgaard(ボブ・マムガード)氏の目からはかは、すべてが計画通りに進んでいるように見えている。順調だ。「CFSは民間核融合を実現させ、本質的に安全で、世界的にスケーラブルで、カーボンフリーで、無限のエネルギー源を供給するための軌道に乗っています」と彼は声明の中で述べている。

CFSの専門家たちは、可能なかぎり小型の核融合炉を2025年までに完成させることにしてるが、それは核融合反応を閉じ込めておくためのMITが独自に行ってきた磁石技術の研究によるところが大きい。実際、資金の大半は、CFSが核融合反応を閉じ込める完全な磁石技術の構築に向けられている。最終目標は、熱として、または蒸気でタービンを回して発電して、50メガワットを生み出させることだ。

環境に多大なリスクのある原子炉と違い、核融合発電所は、通常の工業施設とほぼ同じ区分になるだろうとMumgaardは言う。「核融合度のハザードプロファイルは、これからも工業施設(のカテゴリー)に留まります。法律はありますが、核融合炉を実際に作った人がまだいないので、前例がないのです」

マムガード氏は、200メガワット級の融合炉も思い描いている。それなら、風力発電ファームや太陽光発電所に置き換えることができる。

「前進と、何を目指すのかの両方を対比させて、常に監視しておく必要があります」と彼はいう。「電力網において二酸化炭素排出量を劇的に減らせる手段をまだ手にしていないというのが、一般の人々のほぼ一致した意見です。再生可能エネルギーも含め、最大の利得を生むものとは、実用規模で最も利得の高いものとは、1カ所につき数百メガワットの電力を生み出せる方式を意味します」。

マムガード氏によれば、再生可能エネルギーだけでは現代の大都市圏の需要を満たすことはできないという。「現代のライフスタイルを支えるための電力として、凝縮されたエネルギー源を求める声が強いのです」。

この問題に対する人々の意見は、次第に分かれつつある。とりわけ、エネルギー政策を考える団体の中で噂されていたグリーン・ニューディール政策を支持するサンライズ・ムーブメントの賛同者で、核エネルギーに反対する人たちの間にも分裂が起きている。しかし、エネルギーの専門家の大半は、混合型のアプローチを提唱し、ゼロエミッションを実現するためには(それが科学コミュニティの最終ゴールでもあるが)、核エネルギーをそこに加える必要があると指摘している。

「私たちは、この20年間、核融合に適切なクリーンエネルギーへの投資機会を探ってきました」と、Future Venturesの最高責任者であるSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏は声明の中で述べている。「核融合をビジネスに転換できる企業を求めいましたが、ついにCommonwealth Fusion Systemsと出会いました。彼らのアプローチを支えるハードサイエンスは、彼ら自身と加えてこの分野の世界中のリーダーたちによって実証されています。高度なエンジニアリングによって、CFSは太陽周期のパワーを制御する力を得ようとしています。それは世界を変え、あらゆる問題が改善されるクリーンなベースロード電力の時代を招くものです」

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(翻訳:金井哲夫)

子ども専用ラズパイ開発の英国スタートアップがマイクロソフトと組んで300ドルPC販売へ

Kano(カノ)は、英国ロンドンに拠点を置き、子ども向けのコンピューティングおよびコーディング教育のためのハードウェアを製造するスタートアップ。米現地時間6月19日、大きな成長への一歩を踏み出した。同社はMicrosoft(マイクロソフト)と提携し、Kano PCを発売する。このマシンは、11.6インチのタッチパネル式ディスプレイ、Intel Atomプロセッサーを搭載し、同社製品として初めてWindows(厳密にはWindows10 S)が走る。今回の提携の一環として、マイクロソフトはKanoに非公開の投資も行う。

Kano PCは、現在、Kano.meおよびMicrosoft Storeで予約受付中。価格は299ドル99セントまたは299ポンド99ペンス。10月に出荷が始まる。2019年10月21日からは、英国、カナダ、英国の特定の小売業者からも販売される。Windows対応デバイスへの移行はKanoにとって非常に意味深い。

このスタートアップは、Raspberry Piを中核にしたデバイスを開発し、Kickstarterキャンペーンで人気を博したことで名を挙げた。これまでの数年間は、同社が標榜するDIY精神により形作られてきた。

Kanoの創設者でCEOのAlex Klein(アレックス・クライン)氏によれば、KanoはRaspberry Piベースのデバイスを今後もサポートしていくが、新たにRaspberry Piベースのハードウェアを開発するかどうか、まだそのロードマップは定まっていないという。

「Raspberry Piデバイスも、低価格帯のポートフォリオで存続しますが、このマシンは、より幅広い年齢層に向けてデザインされました。これは正式なWindows PCなのです」とクライン氏は言う。

Kanoのラインアップは、現在、6歳から13歳の子どもたちの間で広く使われ人気を集めている。クライン氏の説明によればKano PCはK-12(幼稚園年長から高校卒業まで)デバイスだが、現在の対象年齢層の前後に幅を広げるには「ブランディングに時間がかかるかも知れない」とも彼は認めている。
それを実現するために、マイクロソフトとの提携により提供される以下のソフトウェアがある。

Make Art
Coffeescriptで高品質な画像のコーディングを学ぶ。
Kano App
簡単な手順とプログラムを使って魔法の効果から冒険の世界まで、ほぼあらゆるものを作り出す。
Paint 3D
3Dモデルの製作、シェアができ、3Dプリンターに送ることもできる。
Minecraft: Education Edition
いくつもの賞に輝く創造的なゲームをベースにした学習プラットフォーム。
Microsoft Team
新しいプロジェクトやコンテンツの入手や、自分の作品をシェアができる(子ども向けのSlackみたいなものだ)。
Live Tiles
自分だけの創造的なプログラムを自分のダッシュボードに直接表示できる。

これまで中核的ユーザー層(コンピューターやコーディングに興味のある子どもたちと、コンピューターとコーディングへの興味を子どもたちに持たせたいと願う親たち)を惹きつけてきたKanoは、その人気に応えるべく、同社のシンプルなコンピューターと連動して使えるアクセサリーを数多く発売してきた。また、ユーザー層に応じたスマートなテクノロジーおもちゃも作っている。昨年、同社はハリー・ポッターの魔法の杖を販売した。自分で作って、プログラムして、遊べるというものだ。CEOのクライン氏はインタビューのなかで、この種の新製品が、Kanoから間もなく続々と発表されることをほのめかしていた。

マイクロソフトとの提携により、同社は当初の顧客層を超える幅広い人々の間にも、Kanoの高い評価を広めることになるだろう。またこれは、すでにマイクロソフトが大きく力を入れている教育環境に参入するための、新たな入口を開くことにもなりそうだ。

それは、今回の提携のもうひとつの興味深い側面でもある。マイクロソフトは教育環境にソフトウェアとハードウェアを販売してきた長い歴史を誇るが、これは、背後に控えた新たなブランド、つまり子どもに特化したブランドとしてその持ち札に多様性をもたらす。大人向けのブランドの機能を縮小して(でも値段はそのまま)子ども向けとしたようなものとはわけが違う。

「Kanoと提携してKano PCを販売できることで、私たちは大変に興奮しています。私たちはKanoと目標を共にして、教室での体験を、教師も生徒も同じく楽しめるものにして、未来を、想像するだけでなく、実際に作り上げる力を与えたいと思っています」とマイクロソフト教育担当副社長を務めるAnthony Salcito(アンソニー・サルチート)氏は声明の中で述べていた。

これまで、地味ながら大きな成功を遂げてきたKanoは、数多くの支援者から5000万ドル(約54億ドル)ほどの投資を集めてきた。そこには、Marc Benioff、Index Ventures、Breyer Capital、Troyをはじめとする投資家が名を連ねている。クライン氏は、近い将来、新しいエクイティ投資を検討する可能性があると話しているが、それ以上のコメントは聞けなかった。

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(翻訳:金井哲夫)

外国人労働者のビザ取得をサポートするone visaが4.5億円の資金調達

日本で働く外国人労働者のビザ取得をサポートする「one visa(ワンビザ)」提供のone visaは6月11日、全保連、セブン銀行、大垣共立銀行、キャナルベンチャーズ、サイバーエージェント(藤田ファンド)、ANRIを引受先とする第三者割当増資、ならびに日本政策金融公庫の資本制ローンに基づく融資により、総額で約4.5億円の資金を調達を実施したと発表。累計調達額は約5.5億円となった。

代表取締役CEOの岡村アルベルト氏が2015年に設立したone visaは、2017年よりビザ申請・管理の法人向けウェブサービス「one visa」を提供している。

one visaは「ワンクリック申請書類作成」「メンバー管理」「代理申請」の3つの機能により、外国籍社員のビザ申請、更新タイミングの管理、従業員からの問い合わせ対応までワンストップで対応。同社いわく、外国籍社員のビザ申請にかかる工数を大幅に削減できるほか、コストを業界平均の半額以下に抑えることを可能とする。2017年6月にリリースされ、現在、約470社が導入済みだ。

one visaでは他にも、海外人材に対して来日前・来日支援、定住支援を行う「海外人材来日・定住支援サービス」も2018年12月より提供。4月施行の改正入管法により、特定技能という新しい在留資格が制定され、外国籍人材の就業に関する制約が緩和された。そのような在留資格の外国籍人材に必要なサポートを一気通貫で提供していくのが同サービスの狙いだ。

同サービスでは、セブン銀行との提携により「来日とほぼ同時の銀行口座開設」、ならびに、クレディセゾンとの提携により「来日直後のクレジットカード発行」を可能にするべく動いている。加えて、富士ゼロックスシステムサービスとの提携により、外国籍人材がスムーズに役所への各種届出が行える環境を構築する。

また、one visaは関⻄大学の監修のもと、カンボジアのプノンペンに教育機関の「one visa Education Center」を2018年9月に設立している。同校の学生は特定技能を取得するために必要な日本語能力検定試験4級を習得できるレベルの日本語能力の習得を目指す。学生からは一切授業料等の費用を徴収しない「経済的に持続可能な仕組み」の構築を目指している。代表の岡村氏は、「海外での試験はまだ開催されていない」が、「試験の早期開催を目指し、業界団体、関係省庁へのアプローチを続けている」と話した。

調達した資金をもとに、one visaは「利用企業の増加ペースを加速させる」ことを目指すほか、岡村氏いわく、「全保連とは、外国籍の方の『住居の審査が通らない』という課題を無くすべく、動いている」。

Web接客で“おもてなしをデジタル化”するSprocketが2.8億円の資金調達

右から2番目がSprocket代表取締役の深田浩嗣氏

おもてなしをデジタル化

「デジタルマーケティングの領域はどんどん広がっている。もともと、マーケティングはどれだけ沢山の人に企業が伝えたいことを届けるかといった活動だったと思うが、今はウェブやアプリで物が買え、そのあとフォローができたりする。単純にメッセージを届けるだけではなく、お店の役割やその後の関係構築の役割がある」

そう話すのは、Web接客プラットフォーム「Sprocket(スプロケット)」の開発・提供・運用を行うSprocket代表取締役の深田浩嗣氏。

「だが、実際にマーケティングのコミュニケーションとして届けられている情報や内容の質的な部分はそこまで大きく変わってきていないな、と思っている。割引のクーポンやポイントといった情報、もしくはオススメ商品を届けるか、この2パターンくらいしかコミュニケーションの幅がない」(深田氏)

お店に行くと、店員は顧客に割引情報の話しばかりをするわけではない。だが、デジタルだと「やりがち」だと深田氏は指摘。ECなどにおいて、顧客の求めている情報の提供や不安の解消が適切に行えていない。そこの部分におけるコミュニケーション幅を広げ「おもてなしをデジタル化」するべくSprocketは開発された。

Web接客プラットフォームSprocket

Sprocketはページ閲覧、スクロール、クリックなど、ユーザーのサイト上での行動の情報を活用し、カスタマージャーニーに合わせて最適なタイミングでポップアップを表示する。最近では、「ユーザーに話しかけていいタイミングをAIに最適化させる」といった試みも開始。「チューニングの1つの手法」として取り入れられている。

サイト上には様々な導入事例が用意されている。2018年9月にSprocketを導入したキユーピーが開発したサプリ・化粧品の直販会社、トウ・キユーピーの事例では、カート内でポップアップを表示することで「顧客に定期購入へのアップセルを提案する施策」を実施し、顧客単価を120%向上させることができたという。

すかいらーくレストランツは2018年1月にSprocketを導入し、新規会員獲得率が120%になったと説明している。

深田氏は「今後、コミュニケーションの幅を更に広げていきたい」と話した。

リアル店舗で行われている、「商品の選び方のサジェスト」や「不安の解消」はツールを作り行ってきたが、「デジタルでできるコミュニケーションの幅は本当はもっと広い」(深田氏)

そのため、お店の接客的なものじゃない形でも、ちょっとしたゲーミフィケーション要素など、リアル接客とは違ったデジタル特有のものも検討していると同氏は加えた。

競合はプレイドの「KARTE」NTTドコモの「ec コンシェル」など。競合とSprocketはどう違うのか。深田氏は、「我々の特徴は改善の成果を提供するまで手厚くサポートすること」だと述べた。

「契約時にROIを設定し、そのROIの到達に向けて、SprocketチームがPDCAを回す」「豊富な経験から貴社にあったシナリオの組み合わせを迅速に提案」といった具合に、カスタマーサクセスにコミットしている。

2.8億円の資金調達、Sprocketの今後

Sprocketは6月4日、リード投資家のXTech Ventures、Salesforce Ventures、キャナルベンチャーズから総額2億8000万円の資金調達を実施したと発表した。

同社は2015年に1億2000万円の資金調達を行い、2017年1月にもシリーズAとして1億6000万円の資金調達をD4V、アコード・ベンチャーズなどから行っている。累計調達額は5億6000万円。

同社は今回の資金調達により「プラットフォームの開発スピード」ならびに「市場拡大に向けた販売促進策」を加速させる。

Salesforce Ventures日本代表の浅田慎二氏は「今後、Salesforceと連携、協業することで、日本市場だけでなくグローバル展開も可能であり、期待している」とコメントしている。

チェアの月額サブスクをオフィス新設や移転などのお祝いとして贈れる「Kaggギフト」

オフィス家具通販サイト「Kagg.jp」を手がける47インキュベーションは6月6日、ワークチェアの電子ギフトサービス「Kaggギフト」を開始した。

同社はこれまで、Kagg.jpにて、オフィス家具の月額サブスク「Kaggレンタル」、無料で家具のコーディネート・レイアウト提案を受けられるサービス「Kaggコンシェル」などをリリースしてきている。

Kaggギフトでは、アーロンチェアを1ヶ月間レンタルできるプランや、豊富な種類な中から1脚を選びそれを1年間レンタルできるプランなどを選びプレゼントできる。商品は新品で送料は無料。レンタル期間が2年に達すると、利用中のチェアは無償で譲渡される。

なぜ、このギフトサービスをリリースするに至ったのか。47インキュベーションは「未来の社会をつくっていくスタートアップ・ベンチャー企業に、お金の問題で、いい家具を諦めないでほしい。頑張る人と支援する人を繋ぐことで、事業の成長を支えたい。そんな思いを形にするべく、新サービス『Kaggギフト』を開始いたしました」と説明している。

KaggギフトとKaggレンタルの対応エリアは、現段階では東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の1都3県だが、順次拡大予定だ。

ネットフリックスが「マジック:ザ・ギャザリング」をアニメ化、製作総指揮は「アベンジャーズ」のルッソ兄弟

Netflixは米国時間6月2日、トレーディングカードゲーム「Magic:The Gathering(マジック:ザ・ギャザリング)」のアニメシリーズ化を発表した。公開時期やエピソード数は未定だ。

制作総指揮は「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」「アベンジャーズ/エンドゲーム」などで知られる兄弟のジョー・ルッソ氏とアンソニー・ルッソ氏。

制作はOctopie、アニメーションはBardel Entertainmentが担当。脚本のリードライターは「スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ」のHenry Gilroy氏と「エージェント・カーター」のJose Molina氏。

OctopieのCEO、Isaac Krauss氏は、スリラーやホラー、ドラマのジャンルをまたいだアニメーション作品となる、とコメントしている。

DEADLINEの報道によれば、20世紀フォックスは以前、「ゲーム・オブ・スローンズ」の脚本を担当したBryan Cogmanを採用し、マジック:ザ・ギャザリングの映画化を検討していたようだ。

JR東日本の「ASMR」をサンプリングしてトラックを作ろう

オーディオブックを中心に展開するオトバンクQUANTUMと共同で運営しているブランデッドオーディオレーベルの「SOUNDS GOOD」。

企業の「特有の音」、例えば「山手線大塚駅周辺のまちの個性を表す音」や「工業用バーナーの燃焼音」をASMR化し、音声コンテンツにすることでブランディングに活用するという試みだ。

ASMRはAutonomous Sensory Meridian Responseの略で、よく“音フェチ”などとも言われる、脳や感情に働きかける“気持ちいい音”のこと。

そのSOUNDS GOODが、JR東日本、東京ガス、ユカイ工学のASMR音源を楽曲制作のサンプリング素材としてプロアマ問わず全てのトラックメイカーに無料での提供を開始した。営利目的での利用も可能だ。

「企業とリスナー、若手アーティストの間に新たな関係性を構築する」ことを目的としている。

企業ASMR音源使用申請フォームを記入することで素材を入手することが可能だ。

ただ、必須条件として、トラックを配信する際に、タイトルに「Sampling – “企業名(英語) on SOUNDS GOOD”」と記載する必要があったり、細かい注意点も多かったり。例えば、「複数社の音源を同時にサンプリングすることはご遠慮ください」とある。

だが、トラックメイカーにもメリットがあり、SOUNDS GOODが気に入ったトラックに関しては同レーベルのTwitterやInstagram、SoundCloud、YouTubeなどで紹介されたりする。また、SOUNDS GOODの公認アーティストとして、SOUNDS GOODから有料での楽曲制作を依頼されるというチャンスもある。

SOUNDS GOODの公式アーティストたちが制作した楽曲も公開されているので、トラックメイキングする際には参考にしてみては。

国の安全保障問題を監視するジャーナリズムは国家の敵なのか?

6年前、英国情報機関の職員がロンドンの新聞社ガーディアンに押し込み、米国安全保障局(NSA)の内部告発者エドワード・スノーデンが持ち出した高度な機密情報を保存していると彼らが目星を付けたコンピューターを破壊するよう、同紙のスタッフに命じた。

ガーディアンは、漏洩した極秘文書を返すよう米当局から圧力をかけられていた英国政府と「数週間にわたる緊迫した交渉」を重ねた末、編集部員たちが、ガーディアン社の地下でグラインダーやドリルを使ってコンピューターを破壊し、二度とデータが読み出せないようにした。米国と英国は、機密情報を共有し合う密接なパートナー関係にある。米国内を含め、NSAの文書のコピーが複数存在していた事実があるにも関わらず、同紙は拒否すれば懲罰的な法的措置を受けるか起訴される状況に追い込まれた。

「ガーディアンにとって、スタッフを守れる唯一の方法は、自社のコンピューターを破壊することでした」とガーディアンの記者Luke Harding氏は話す。

この数年間、なぜ報道の自由が重要なのかを語るときにこの事件を引き合いに出してきたが、米国人の反応は決まって「まさか、そんなことがあったのか?」というものだ。

ガーディアンのような事態は米国では起こりえない。国の安全保障問題を追う記者が、機密情報を持っていたり、政府関係者から機密情報が提供されるのは珍しいことではない。それは、権力や法の乱用を暴くためのものだからだ。米国の憲法で唯一名指しされている職業である米国の報道記者は、たとえ何が起ころうとも、責任を追及する力を保持する希望の星なのだ。

しかし、一番新しいジュリアン・アサンジの告訴は、そうした報道の自由を脅かすものとなっている。

ジュリアン・アサンジは、嘘つきで、誤報を振りまく人間として知れ渡り、多くの人たちからはとんでもない野郎だと嫌われているが、最新の告訴が公表されてからは、彼の最大の批判者から擁護されるようになった。

アサンジは、スパイ活動法のもとで機密扱いとなっていた情報を公表した容疑で起訴された、初めての人間となった。スパイ活動法は、世界大恐慌の10年も前に成立した法律で、外国のスパイや政府内の内部告発者の起訴を目的としている。

「これはまさに、国の安全保障を監視する記者とそのニュース媒体が政府関係者やその関連企業に頻繁に求めてきたことだ」と、ハーバード・ロー・スクールの教授であり元政府弁護人、Jack Goldsmith氏はLawfareに書いている。

実際、私も同じことをした。2017年、NSAから5年間にわたり5回の情報漏洩があった際に、私は政府のRagtimeプログラムRed Disk情報プラットフォームに関連する機密情報を入手して公表した。記者が、記者としての仕事をしたことで捜査を受けたという話はちらほら聞いてはいたが、100年前にスパイ活動法が成立してから今まで、機密情報を持っていたり公表したことで記者が起訴されたという話は一度も聞いたことがない。

秘密の拷問施設や、匿名の情報源や内部告発者から提供された政府による世界規模の監視活動のような機密情報を公表した報道機関や記者が、自分たちも同様に起訴されるのではないかという不安から、起訴状に慌てふためいたことは驚きに値しない。

ワシントンポスト紙の編集者Marty Baron市は、声明の中でこう話している。「古くはペンタゴン・ペーパーズの事件からさらに遡って、ジャーナリストは、政府が機密と考える情報を受け取り公表してきた。不正行為や権力の乱用が暴露してきた。ジュリアン・アサンジの新たな起訴で、政府は法的根拠を笠に着て、この重要な仕事を危険にさらし、米国憲法修正第1条(言論の自由)の本来の目的を蔑もうとしている」

アサンジは、元陸軍情報分析官Chelsea Manning(チェルシー・マニング)から提供されたロイターのカメラクルーを含む民間人の殺害に関する外交公電や軍の動画といった高度な機密情報をウィキリークスを通して公表した。マニングは、スパイ活動法により起訴され、後に減刑されるまで投獄されていた。アサンジに対する政府の最新の告訴の内容は、「情報提供者の氏名を編集しなかった」ために「米国の安全保証に深刻な危機をもたらした」というものだ。

アサンジを口うるさく批判する人たちは、米政府は「彼が行った最後の善行」で彼を起訴したと言っている。彼が公開した記事で、アサンジは自らの名前と評判に泥を塗った。とりわけひどかったのは、盗み出した恥ずかしい電子メールを公表し、ロシアと手を組んでヒラリー・クリントン氏の大統領選挙戦を台無しにしたことだ。

だがこれは、機密情報の公開という容疑にはまったく関係がない。

米国司法省は、アサンジは「ジャーナリストではない」と言っている。しかし、言論の自由と報道の自由を保障した米国憲法修正第1条は、その人がジャーナリストか否かの区別はしていない。

「憲法修正第1条は、ジャーナリストに特権を与えるものではない」と、国家安全保障弁護人Elizabeth Goitein氏は言う。「言論または報道の自由の剥奪を禁じることで、言論する人、書く人、報道する人、出版する人を公平に保護している」と、彼女はワシントンポスト紙のコラムに書いている。

言い換えれば、アサンジがジャーナリストかどうかは関係ないのだ。

米国の法律の下では、その人が記者であろうとなかろうと、同じ自由が守られてる。ジャーナリストもそうでない人も関係なく、機密情報を受け取り公表すれば、いかなる米国人も起訴しようと走る米政府を、もう誰も止められない。

「これは、ジュリアン・アサンジの問題ではありません」と、著名な政治家であり、いくつもの上院情報委員会のメンバーでもあるロン・ワイデン上院議員は言う。「これは、機密情報を受け取った人とそれを公表した人を起訴するための、スパイ活動法の使い方の問題です」

「アサンジの訴訟は、憲法修正第1条が守ってくれない活動に対して危険な前例、つまり、最も慎重で高い手腕を持つプロのジャーナリストでも、国家安全保障に関連する機密事項の取材を躊躇させてしまう前例になりかねない」と、テキサス大学スクール・オブ・ローのSteve Vladeck教授はコラムに書いている。

ワシントンポスト紙が5月24日に伝えたところによると、オバマ政権も、数年前にアサンジを起訴に持ち込もうと考えていたが、起訴すれば、実績ある報道機関の記者たちも、まったく同じように起訴しなければならなくなることを心配していたという。

しかし、トランプ政権がアサンジを起訴した今、かつてトランプ大統領によって「人民の敵」との烙印を押されたジャーナリストたちは、すぐにでも国家の敵にされてしまう恐れがある。

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(翻訳:金井哲夫)

「AKIRA」のハリウッド実写版、2021年に全米公開

大友克洋によるSF漫画「AKIRA」のハリウッド実写版が全米公開される。THE WRAPなどが報じた。

THE WRAPによると、公開は2021年5月21日の予定だ。

「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」「マイティ・ソー バトルロイヤル」などで知られるタイカ・ワイティティが監督を務め、レオナルド・ディカプリオのAppian Way Productionsが制作を担当し、Warner Bros.によりリリースされる。

ハリウッド実写版の「攻殻機動隊」が全く楽しめなかった僕は、Netflixが手がける「カウボーイビバップ」の実写ドラマシリーズも、ワイティティによるAkiraも全く期待していないし、むしろ不安な気持ちでいっぱいだ。

一番の不安要素は、キャスティング。キャストの詳細はまだ発表されていないが、スカーレット・ヨハンソンが「攻殻機動隊」のハリウッド実写版の主演を務め「ホワイトウォッシング」だと激しい批判を受けたケースもあるため、かなり慎重になる必要があるだろう。

批判を受けキャラクターデザインをやり直した「ソニック・ザ・ムービー」の茶番劇のように、発表後にキャストを変更するような事態にならないことを祈る。