近年、特にアジアではまつげエクステが人気だが、顧客層はそれほど広くはない。エクステはまつげスタイリストのところへ行って自分のまつげに繊維を接着してもらうもので、数万円の費用と長い時間がかかることも多い。炎症などのリスクもある。自宅でつけられる低価格のまつげを考慮しても市場規模は20億ドル(約2100億円)程度で、ベンチャーキャピタリストの目を引くほど大きな市場ではない。
カリフォルニア州バークレーに拠点を置くLuumは創業から4年、従業員数15人のロボティクス企業だ。同社は、フランスのスターバックスで社長を務めるなど大規模チェーン事業を指揮してきたCEOのPhilippe Sanchez(フィリップ・サンチェス)氏の言葉を借りれば「飛躍的に」市場を拡大することで、この数字を変えて資金を集めることができると考えている。
そのためにロボティクス、AI、機械学習を活用して最終的にはエクステを20分でつけられるロボットを開発し、計画どおりにいけば美容院で広く利用されるようになるとサンチェス氏は説明する。しかもまつげが抜けるためエクステは2〜4週間でつけ替える必要があり、顧客は何度も繰り返し来店する。
現時点ではちょっと魔法のような話であるとサンチェス氏は認める。現在はエプソンの産業用ロボットにさまざまなアームやセンサーを取りつけているため、歯科医にある何かのようだ。勇気のある25人を対象に100回、エクステをつけるテストが実施された。今のところは手でつけるのと同じぐらい、つまり2〜3時間かかる。
LuumはこれまでにFoundation Capitalなどから1000万ドル(約10億5000万円)を調達し、これからシリーズAについて投資家と話をしようとしている。Luumは、美容の分野でまだサービスが提供されていない大きなチャンスを追い求め成長するための人材がそろっていると確信している。
米国時間2月1日午後、我々はサンチェス氏にLuumとその今後について話を聞いた。チャットは簡潔で明確にするため編集している。
TC:極めて細分化されているような業界で、この人気の施術をターゲットにしているわけですね。
サンチェス:とても人気があるわりにまだあまり知られていませんし、そうですね、細分化されていますね。現在、まつげエクステを提供している店舗は米国だけで3万4000店あります。店舗では技術者が1人つき、エクステを1本選んで接着剤を塗り、自まつ毛につけます。数秒経ってから次のエクステ、また次のエクステとつけていって、2時間後にはとても自然に見える魅力的なまつげになります。
しかしこれは人間の技術者です。我々はこのカテゴリを再発明してすでに人気のあるサービスを提供し、ハイレベルな施術と新しい世界的ブランドでさらに人気を高める大きなチャンスがあると見ています。
TC:ブランドを創出し、顧客が来店してロボットにまつ毛エクステをつけてもらう場所を国内外にチェーン展開するということですね?
サンチェス:そうです。我々の技術を生かしてブランドを構築しスタジオをチェーン展開すると同時に、この技術をすでに美容のサービスや製品を販売している人たちにライセンス提供したいと考えています。技術者がライセンスを受ければさらに良いサービスを提供でき、ヘアサロンや大規模な化粧品店を経営しているなら(まつげエクステをオプションのメニューとして)提供できます。お客様が毎月来店してくれるサービスのアイデアは好まれます。まつげエクステはお客様を店舗にまた連れてきてくれるのです。
TC:人間の指と同等の、あるいはそれ以上の精密さが必要であることは明らかです。目のすぐ近くで使われることを考えると、高い安全性も求められます。現時点で、ロボットの動作はいかがですか?
サンチェス:かなり大きく、かなり心地よく、とても高度なマシンです。飛行機のファーストクラスのようなベッドがあり、その側に人間ほどの大きさのマシンがあります。施術を受ける人はベッドに寝て、マシンが顔の上で動作します。技術者に施術してもらうときと同様に、受ける人はマスクを着けます。小型のロボットアームが人間の技術者と同じように、ただしそれよりもずっと早く正確にエクステをつけます。しかも極めて安全です。アームの先端には小さなプラスチックの突起があり、とても軽いアームはとても軽い磁石で支えられています。まつげを扱うのに必要な力はほんの数グラムだからです。
TC:もしも地震など不測の事態が起きたら……。
サンチェス:……アームが落下します。とても軽い小さな磁石で支えられているからです。マシンを揺すったり誰かがくしゃみをしたりすると、アームが落下します。これによって施術を受ける人を傷つけないようにしています。人を傷つけないことは、このサービスにとって必須です。
TC:他社の技術のライセンスを受けているのですか、それともすべて社内で構築するのですか?
サンチェス:すべて社内で構築します。精密な動作が得意でしかも高速なエプソンの先進的なロボットを利用しています。しかし美容業界の知的財産としては基本的に先行技術がなかったため、我々は米国、韓国、オーストラリアですでに特許を取得し、広範囲にわたって我々が保護されるよう世界中で25件の特許訴訟を抱えています。
TC:ロボットの価格はどの程度になる見込みですか?
サンチェス:12万5000ドル(約1300万円)程度になる見込みですが、この1回限りの初期投資で生産性を4〜6倍に高めることができるので、ベッド1台、技術者1人の処理能力は基本的には6倍になります。マシンの耐用年数は4〜5年です。
TC:その他の費用は?
サンチェス:維持費がかかりますが、これは基本的には純粋なマージンです。接客業ではたいてい、コストの大半は人件費です。このことを私はスターバックスで経験しました。
TC:構想を実現できるところまできていますか?
サンチェス:新型コロナウイルス(の影響による遅れ)はありましたが、(カリフォルニア州で若干制限が緩和されたため)消費者テストを再開しています。人間と同じスピードでシンプルなスタイルの施術がすでにできるようになっているマシンをテストしているところです。最初のスタジオのオープンに向けて開発を今後数カ月間続ける中でマシンのパフォーマンスは上がり、人間より2倍、3倍、4倍速くなるでしょう。
TC:その目標に向かってさらに資金を必要としているのですね。調達金額はいくらを目指していますか?
サンチェス:シリーズAで1500万ドル(約15億7500万円)です。この資金で最初のスタジオをオープンし、ユニットエコノミクスのモデルを検証します。また第3世代のマシンを開発します。世界規模の美容ブランドを構築する準備も始める予定です。
TC:投資家が知っておくべき、この会社のメンバーは?
サンチェス:この会社を創業したのは、(外骨格ロボットのパイオニアである)Ekso Bionicsを創業したNathan Harding(ネイサン・ハーディングス)と、(Ekso Bionicsで10年間ハーディング氏とともに働いていた)Kurt Amundson(カート・アムンドソン)です。この2人には先進的なロボティクスの世界で、またコンピュータビジョンについても、とてつもない経験と専門性があります。
TC:市場があるということを証明できるとして、Dyson(ダイソン)のような企業がこの市場に参入するのを防ぐにはどうしますか?
サンチェス:魅力的な市場で注目する価値があるとこれから気づく人はいるでしょうが、我々はすでに数年間取り組んでいます。
画像クレジット:Luum
[原文へ]
(文:Connie Loizos、翻訳:Kaori Koyama)