バッテリーが投資家にとって最新の着地目標だ。
先週だけでも、2社が特別買収目的会社(SPAC)と合併して上場企業になる計画を発表した。欧州のバッテリーメーカーFREYRは米国時間1月29日、14億ドル(約1470億円)のバリュエーションで特別買収目的会社を通じて上場企業になると語った。ヒューストンのスタートアップMicrovastは米国時間2月1日、自身のSPACを30億ドル(約3150億円)のバリュエーションとともに発表した。
2社の売上高が1億ドル(約105億円)強(FREYRはまだバッテリーを製造していない)で、バリュエーションの合計が44億ドル(約4620億円)というのは、将来信じがたいほどのバッテリー需要がなければ、ばかげているように思われる。
GM(ゼネラルモーターズ)やFord(フォード)などのレガシーな自動車メーカーは、ポートフォリオを電気モデルにシフトするために数十億ドル(数千億円)を投じてきた。GMは2020年、電気自動車(EV)と自動化技術の開発に今後5年間で270億ドル(約2兆8350億円)を費やすと述べた。一方、多くの新規参入者は、電気自動車の生産を開始する準備をしているか、スケールアップしている。たとえばRivian(リビアン)は2021年夏に電動ピックアップトラックの販売を開始する。同社にはまた、数千台のEVバン製造でAmazon(アマゾン)が接近した。
米国政府がその需要の一部を後押しする可能性がある。バイデン大統領は先日、米国政府が連邦政府の自動車、トラック、SUVの全車両を米国で製造された64万5047台の電気自動車に置き換えると発表した。つまりGMとFordだけでなく、Fisker(フィスカー)、Canoo(カヌー)、Rivian、Proterra(プロテラ)、Lion Electric(ライオンエレクトリック)、Tesla(テスラ)などの米国を拠点とする企業にも多くの新しいバッテリーを供給する必要がある。
一方、世界最大の都市のいくつかは、独自の電化イニシアチブを計画している。Royal Bank of Canadaの調査によると、上海は2025年までに電気自動車がすべての新車購入の約半分を占めるようにしたいと考えており、すべての公共バス、タクシー、配送トラック、公用車を同じく2025年までにゼロエミッションにする予定だ。
中国の電気自動車市場は世界最大の市場の1つであり、政策が世界の他の地域よりも大幅に進んでいる。
中国のEV市場での追い風がおそらくMicrovastへの多額の投資の理由の1つだ。100年の歴史を持つ産業用自動車メーカーであるOshkosh Corp、8兆6700億ドル(約910兆円)の資金管理会社であるBlackRock、Koch Strategic Platforms、プライベートエクイティファンドマネージャーのInterPrivateなどが投資した。これは、Microvastの既存の投資家に、中国で最もコネクションを持つプライベートエクイティおよび金融サービス会社であるCDH InvestmentsとCITICSecuritiesが含まれていたためだ。
Microvastは、商用車と産業用車両に力を入れている。同社は商用電気自動車の市場が短期間に300億ドル(約3兆1500億円)規模になると考えている。現在、商用EVの売上高は市場のわずか1.5%を占めるにすぎないが、同社によれば、2025年までに9%に上昇すると見込まれている。
「当社は2008年、電気自動車が内燃機関車と競争できるような革新的なバッテリー技術を開発することにより、モビリティ革命の推進に着手しました」とMicrovastの最高経営責任者であるYang Wu(ヤン・ウー)氏は声明で述べた。「それ以来、当社は3世代のバッテリー技術を発表しました。この技術により競合他社よりもはるかに優れたバッテリー性能を顧客に提供してきました。長年の事業運営を通じて商用車オペレーターの厳しい要件を満たすことに成功してきました」。
約3万台の車両でMicrovastのバッテリーが使われている。同社への投資には約8億2200万ドル(約860億円)の現金が含まれている。この現金で2022年までに9ギガワット時に達するよう製造能力を拡張する。同社によると、この資金のおかげで約15億ドル(約1580億円)の契約上の義務を果たすことができるはずだという。
中国の投資家が来たるMicrovastの株式公開で大きな勝利を収めるなら、米国の複数の投資家と巨大な日本企業が1社、FREYRの株式公開を心から待っている。Northbridge Venture Partners、CRV、伊藤忠商事はすべて、欧州の投資家ではないとしても、FREYRのエグジットから利益を得るとみられる。
この3社は、International Finance Corp.と並んで、ボストンを拠点とするスタートアップである24Mの投資家であり、その技術はバッテリーを製造するFREYRにライセンス供与されている。
FREYRの株式公開は、バッテリーおよび材料科学業界で革新を起こしてきた長い歴史を持つシリアルアントレプレナーで教授でもあるYet-Ming Chiang(イエット・ミン・チアン)氏にとっても勝利となると思われる。
MITの教授である同氏は過去20年間、最初に今はもうないバッテリースタートアップのA123 Systemsで、それから次のような多数のスタートアップで持続可能な技術に取り組んだ。3Dプリント会社のDesktop Metal、リチウムイオンバッテリー技術開発の24M、エネルギーストレージシステム設計のForm Energy、別のアーリーステージのエネルギーストレージスタートアップであるBaseload Renewablesだ。
Desktop Metalは特別買収目的会社に買収された後、2020年に公開した。24Mは現在、欧州の製造パートナーの1つであるFREYRへの多額の現金注入によって勢いを得ようとしている。
ノルウェー本社のFREYRは、母国のサイトの周りに5つのモジュール式バッテリー製造施設を建設する計画を立てており、今後4年間で最大43ギガワット時のクリーンバッテリーを開発する予定だ。
FREYRの最高経営責任者であるTom Jensen(トム・ジェンセン)氏にとって、24Mテクノロジーには2つの大きな魅力があった。「それは製造プロセスそのものです」とジェンセン氏は語った。「彼らが行っているのは基本的に電解質を活物質と混合することです。これにより電極を厚くし、バッテリー内の不活性物質を減らすことができます。さらに、実際にそれを行うと、多くの従来の製造ステップは不要になります。従来のリチウムバッテリーの製造と比較して、製造工程は15ステップから5ステップへと削減されます」。
こうしたプロセス効率は、セル内の大量のエネルギー含有材料と組み合わされ、バッテリー製造プロセスの根本的な革新につながる。
ジェンセン氏は、同社の計画を完全に実現するには25億ドル(約2630億円)が必要だが、それには流動性が必要だったと述べた。同社はSPACのAlussa Energy Acquisition Corpと合併した。このSPACにはKoch Strategic Platforms、Glencore、Fidelity Management & Research Company LLC、Franklin Templeton、Sylebra Capital、Van Eck Associatesなどの投資家が名を連ねる。
これらの投資はすべて、世界が決められた時間軸で車両電化の目標を達成するために必要だ。
Royal Bank of Canadaは2020年12月の電気自動車業界に関するレポートで「バッテリー式電気自動車(BEV)は2020年の世界需要の約3%を占めるのに対し、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)は約1.3%を占めると予測する」と指摘した。「しかしこうした低い数値から、力強い成長を見込んでいる。2025年までの成長が依然として規制により主導される場合、BEVの世界全体での普及率は新たな需要により約11%に、CAGR(年平均成長率)は2020年の水準比で約40%になり、PHEVの普及率は約5%に、CAGRは35%になると見込まれる。2025年までに、西ヨーロッパでのBEVの普及率は約20%、中国で約17.5%、米国で7%になる。これに比べ、内燃機関(ICE)車両は、2025年まで2%のCAGRで(周期的に)成長すると予想される。純粋な台数ベースでは、2024年にピークを迎えると見られる」。
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画像クレジット:RONNY HARTMANN/AFP / Getty Images
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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi)