トランプ氏が強引に進めたFoxconnのウィスコンシン工場計画が大幅縮小

「世界8つめの不思議」だった、とDonald Trump(ドナルド・トランプ)氏は金色のシャベルを地面にさし込みながら言った。時の大統領はFoxconn(フォックスコン)が計画しているウィスコンシンの工場を自身の経済目標にとって大きな勝利とうたっていた。

1年半後、この取引の将来は極めて不確実になった。今週初めにウィスコンシン州は、かつて望んでいた計画の大幅な縮小が労働者にとって厳しい州へ戻ることに帰結すると発表した。台湾の大手製造メーカーであるFoxconnは投資を100億ドル(約1兆800億円)から6億7200万ドル(約726億円)に縮小する。

新しい計画には予定雇用数の大幅削減も盛り込まれ、1万3000人から1454人とする。ウィスコンシン州知事のTony Evers(トニー・エバーズ)氏は今週発表したプレスリリースで節税のための削減だと述べた。

「知事になったとき、私はウィスコンシン州にとってより良い取引を結ぶためにFoxconnと協業することを約束しました。最後の取引はウィスコンシン州のためにならず、私にとっても意味を成しません」とエバーズ氏は述べた。「今日、この取引に関し、Foxconnを他の企業と同じように扱うという合意を発表します。これにより税金27億7000万ドル(約2993億円)を節約でき、州や地元のコミュニティがすでに投じてきた数億ドルのインフラ投資を守り、約束された雇用創出の責任があることを保証します」。

エバーズ氏は、トランプ氏のもとでの取引交渉で主要な役割を果たしたScott Walker(スコット・ウォーカー)氏の後任として2019年に知事に就任した。取引には40億ドル(約4323億円)近いFoxconnへのインセンティブが含まれていて、これは同社にとって破格の取引だった。

テレビ工場の計画は発表された4年前からかなりシフトし、明らかにトランプ氏からの電話で計画が元に戻る前の2019年初めにはFoxconnはすべて中止したようだった。

ロイターが指摘しているように、ウィスコンシン州はすでに2億ドル(約216億円)超をインフラ、トレーニング、計画された工場の開所に先駆けた他の諸々に費やした。

関連記事:Foxconn、トランプ大統領との会話を受けウィスコンシン工場計画を復活

カテゴリー:その他
タグ:ドナルド・トランプFoxconnアメリカウィスコンシン工場投資

画像クレジット:Andy Manis / Getty Image

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

建設3DプリンターのPolyuseが資金調達、普及を阻む壁とそれを超えるための戦略とは

人材不足、高齢化など、建設業界では課題が山積している。この状況を打破すべく、3Dプリンターの活用が注目されている。そんな中、建設用3Dプリンターを開発するPolyuse(ポリウス)が、Coral Capital、STRIVE、池森ベンチャーサポート、吉村建設工業から約8000万円を調達した。代表取締役の岩本卓也氏は「建設用3Dプリンターの活用は始まったばかり。本格的普及には段階的なアプローチが不可欠です」と語る。建設用3Dプリンターは今後どう活用されていくのか。岩本氏と、同じく代表取締役の大岡航氏に聞いた。

3Dプリンターが建設業界を救うか

建設業界には、すぐに解決できない課題が多い。根強い3K(きつい、汚い、危険)のイメージ、慢性的な人材不足、高齢化、進まない施工期間の短縮、販売管理等コストの膨張など、枚挙にいとまがない。

「現在、建設業界を中心的に支えているのは50代、60代の人材です。この中で10年以内に働けなくなる人もいるでしょう。10年後の建設業界の人材は、今の3分の2になると言われています。建設業界全体のデジタル・トランスフォメーションを進めることで、効率化を進め、人材不足を補うことは喫緊の課題です」(岩本氏)

さらに、これまで建設業界が猶予されてきた長時間労働の上限規制が2024年に始まる。3Dプリンターのようなマシンを積極的に導入することで、職人の負担や労働時間を減らすことも必要になる。

しかし、建設用3Dプリンターの活用は実際にはそれほど簡単ではない。なぜなら、そのためには、建設、ハードウェア、ソフトウェア、マテリアル、事業開発を理解する人材が必要だからだ。

「建設において3Dプリンターを活用するということは、3Dプリンターというハードウェアを理解し、それを制御するソフトウェアを開発し、ソフトウェアを使って樹脂やセメントなどのマテリアルを立体的に作り上げ、作ったマテリアルを建設現場のオペレーションに載せ、一連のプロセスを事業として成り立たせるということです。現状、これらのいくつかを持ち合わせるプレイヤーはいますが、すべてを揃えているところは見かけません。そこで、その要素をすべて持つ当社の存在意義が出てきます」(岩本氏)

ポリウスの3Dプリンターは、マテリアルの調整により従来では難しかった曲線造形も可能になった(画像クレジット:ポリウス)

3Dプリンター活用が進まないワケ

3Dプリンターには建設業界の課題を解決する可能性がある。しかし、岩本氏は「3Dプリンターの活用と普及拡大には、主に3つの壁があります」と語る。

1つめが建築基準法の壁だ。これは、建築基準法が直接的に3Dプリンター活用を禁じているということではない。建築基準法を遵守した形で3Dプリンターを活用した建物を建てようとすると、実績を積みづらいのだ。

「建設業界は3Dプリンターを試し始めたばかりで、実績が多くありません。『3Dプリンターで建てた橋は理論上〇〇年保ちます』とは言えるものの、『3Dプリンターで建てた橋が実際に〇〇年保ちました』とは言えないのです。建築基準法を所管する国土交通省は実績重視です。理論的に安全だとしても、実際にどれだけ安全に使えるのか実績のない3Dプリンターで橋を作らせるわけにはいかないのです」(岩本氏)

2つめの壁は3Dプリンターそのものにかかるコストだ。建設用3Dプリンターには、アーム型とガントリー型がある。アーム型は本体の構成要素が少ないので、開発がしやすい。本体を移動させないで印刷できる範囲は狭いが、本体を移動させればでいくらでも印刷範囲を広げられ、汎用性が高い。だが、開発コストが2000万円ほどで高い。一方ガントリー型は印刷範囲であるフレームから開発する必要がある。印刷範囲がフレームにより限定的になるが、広く取ることができる。開発コストをアーム型より安く抑えやすい点が特徴だが、移動や設置が難しい。使い勝手で言えば高価なアーム型が有利だが、コストの面では現状、ガントリー型が現実的だ。ポリウスは主にコスト面での優位性や、協業先との話し合いからガントリー型の3Dプリンターを採用している。

3つめの壁は人件費と工数だ。実は、現段階でポリウス製ではない3Dプリンターを活用した施工を行うと、3Dプリンターなしの既存の施工よりも多くの作業者と工数がかかる。他社製品の場合「マテリアルの粉を入れる人」「ミキサーを管理する人」「ポンプを制御する人」「造形時の状態を見る人」「データを監視する人」など、最低4~5人は必要になる。一方、ポリウス製の3Dプリンターでは、一連の作業に必要なのは1人だ。

「従来では、『建設用3Dプリンター』という一般的な観点でいうと、既存工法より3Dプリンター活用工法の方が人件費と工数がかかる、という壁があります」(岩本氏)

建設業界全体を巻き込む

上記の3つの壁があることで普及が遅れる建設用3Dプリンターだが、それを打開するためには3Dプリンターの活用事例をとにかく増やすことが必要だと岩本氏は話す。建築基準法の壁を超えるため、同社は「法律に触れない範囲での3Dプリンター活用を進めている」(岩本氏)という。具体的には、側溝、土手、テトラポッドなどの土木構造物や、住宅の門扉や置物、公園の遊具といった外構(エクステリア)だ。建築物全体を3Dプリンターだけで仕上げるのではなく、建築物の一部を仕上げ、既存の施工方法と組み合わせることで、3Dプリンターの活用事例を全国規模で増やそうとしている。

大岡氏は「私たちは建築基準法を常に意識しないといけないので、行政とのコミュニケーションが重要です。建設業界の人材不足、効率改善は、行政も重要性を理解しているので、行政と戦うような構図にはなりません。むしろ、行政との関係性が強いゼネコンなどと協力して、業界ごと改善する方法を模索する必要があります。私たちは既存のプレイヤーと戦いたいのではなく、一緒に業界をよくしていきたいのです」と業界全体の協力の重要性も指摘する。

この「業界全体」というのは、ポリウスのキーワードでもある。

「3Dプリンターを活用するには、建設、ハードウェア、ソフトウェア、マテリアル、事業開発のノウハウが必要です。ただ、それらを全部まとめて一気通貫でやる企業や組織はこれまでありませんでした。私たちの活動の幅を広げるには、大学などの研究機関に当社の事業や、テクノロジー連携のあるべき姿をお伝えし、業界のあらゆるプレイヤーと研究機関のコラボレーションの可能性を掘り下げていかなければなりません。業界全体のステークホルダーのみなさんと一緒にコンソーシアム型開発を進めていくことが重要です」(岩本氏)

日本で建設用3Dプリンターを制すれば、世界を制す

ポリウスの調べでは、世界には建設用3Dプリンター企業が70社ほどあるという。しかし、日本ではまだまだ珍しい。大岡氏によると、日本は海外と比べて建築に関わる基準が厳しく、ポリウスのようなスタートアップが生まれにくいのだそうだ。

「逆にいうと、海外の建設用3Dプリンター企業は日本に参入しにくいのです。そこで、私たちはそこを逆手にとって建築基準の厳しい日本にまず対応し、その後比較的に基準の緩い海外に進出してこうと考えています」(岩本氏)

とはいえ、日本での3Dプリンター活用はまだまだ始まったばかり。まずはテクノロジーがあまり浸透していない建設業界とのコミュニケーションを重ね、3Dプリンターの信頼を醸成することが必要になる。ポリウスは今回の資金調達により、3Dプリンターを扱うハードウェアエンジニア、ソフトウェアエンジニア、マテリアルエンジニアなどの各種エンジニアを募集し、研究開発を進めていくという。

ポリウスのメンバー。写真中央が代表取締役の岩本氏、その左が同じく代表取締役の大岡氏。

関連記事:一般的な樹脂ペレット材対応の超大型3Dプリンター・独自新型3Dプリントヘッドを開発するExtraBoldが約3.6億円を調達

カテゴリー:その他
タグ:建設3Dプリンター資金調達Polyuse日本

【コラム】2021年、テック見本市は復活するのか?

この1年はカンファレンス業界にとって壊滅的な1年だった。これはTechCrunchでも取り組んできた問題であり、我々はすでにプログラムをバーチャル環境に移行している。地理的条件、出席率、その他のさまざまな要因に応じて、個々のケースごとに個別の解決策が必要であることは明らかである。

IFAは対面の要素について強気であることを実証している。ベルリンで開催されたテクノロジーショーは、ヨーロッパにおける数少ないイベントの1つとなった。IFAは2020年9月に、大幅に縮小されたもののリアルイベントを開催した。

「少し詩的な表現をすると、例年の夏の終わりには、ベルリンには特別な空気があり、朝外に出るとこの空気を感じることができます」とディレクターのJens Heithecker(イェンス・ハイテッカー)氏は2020年のイベントについて筆者に語った。同イベントの出展企業は2300社から約170社に規模が縮小されている。

新型コロナウイルスとその変異株に対する懸念が長期化しているにもかかわらず、案の定、同組織は2021年大規模な復活を計画している。このショーの秋の復活を発表するプレスリリースは、まさにお祝いモードである。

関連記事:IFAのエグゼクティブディレクターがコロナ禍でもリアルなテックイベントを続ける理由を語る

「新型コロナウイルスのパンデミックから世界が回復に向けて前進する中、IFAベルリンは2021年9月3日から7日にかけて、フルスケールのリアルイベントを開催します」と同社は記している。「あらゆる業界のブランド、メーカー、小売業者がベルリンで出展し、ネットワークを構築し、ともにイノベーションを推進することに大きな関心を寄せています」。

同組織は、2020年のイベントから引き続き行われる安全衛生対策を強調し、まだ規模について語る準備は十分に整っていないものの、カンファレンスの新しい内容や方向性をいくつか紹介している。

同社は声明で次のように述べている。「これまで同様、訪問者や出展者の安全を守ることが最優先事項です。ご来場のみなさまの健康を確保するために入念な感染予防対策を講じますので、IFAベルリン2021が出展企業数や来場者数で過去最高記録を更新することは難しいかもしれませんが、業界を再びリードするべく、IFAは本格的な復活を目指します」。

一方スペインでは大手企業数社が「バーチャル」でのみショーに参加する意向を示しているため、GSMAは現在も方向性を検討している。

主催者はTechCrunchに以下の声明を提供した。

MWCバルセロナ2021では、すべての企業の参加は難しい状況ですが、Verizon※、Orange、Kasperksyなどの出展企業に参加していただくことをうれしく思います。誰もが独自のMWC体験を楽しめるように、業界をリードするバーチャルイベントプラットフォームを開発しました。MWCバルセロナに集う方々全員が最適なかたちで参加できるよう、リアルとバーチャルのオプションが用意されています。一部の出展企業の決定を尊重し、それぞれの企業と協働しながらバーチャルプラットフォームへの参加を推進しています。

(※情報開示:Verizonは本誌TechCrunchを所有)

Google、IBM、Nokia、Sony、Oracle、Ericssonはすでにリアル参加しないことを表明している。その他の大手企業はまだ未定のようだ。すべては、最終的に中止が決まった2020年のイベントを思い起こさせる。

こうした大規模なイベントの必要性は、パンデミックが発生する前から疑問視されていたが、バーチャルイベントへの移行にともなって真に浮き彫りになった。実際のところ、ハードウェア関連のリアルイベントには依然として価値があるが、多くはバーチャル環境に適応してきている。先日開催されたCESで学ぶところがあったとしても、このシステムにはまだ解決すべき問題がたくさんある。特にコンテンツの優先順位づけに関連する問題として、すべてが同じファネルを通して効果的に配信されていることが挙げられる。

さまざまな要因が、こういったイベントへの参加意欲を左右する。最も基本的なレベルでは、個人が安心できるか否かだろう(過去のイベントの混雑した写真を見るたびに本能的な反応を示すのは筆者だけではないだろう)。多くの人にとって、大規模な室内カンファレンスにいきなり参加することは、システムに対するストレスのようなものを多少なりとも感じるものではないだろうか。ワクチン接種や特定の地域におけるパンデミックへの対策に関連する要因も存在している(いずれも数カ月のうちに大きく変動する可能性がある)。

米国時間4月15日、ドイツの連邦保健大臣が緊急警報を発し、規制を強化するよう各州に求めた。「2020年の秋以降、迅速な行動の必要性が顕著になっている」とJens Spahn(イェンス・シュパーン)保健大臣はメディアを通じて警鐘を鳴らした。

この他にも、参加を検討している人の居住地や職場が出張を承認するかどうかなど、さまざまな要素がある。多くの企業は不要不急の出張を制限しているが、仕事が何かによって「不要不急」の定義は異なってくるかもしれない。しかし、その間にどれだけの変化が起こり得るかを考えると、多くの人にとって最も健全な戦略は、リモートで物事に取り組むことだ。

4月第3週の初め、GSMAはこれまでの参加者に向けて「MWCバルセロナ2021が開催される理由について」というタイトルの電子メールを配信した。このメッセージは、バーチャル出展を選択する出展者に対して直接話しかけているように受けとれる。

「これを読まれる時期によって異なりますが、バルセロナで開催されるMWC21の開幕まで残り約12週間となりました」とCEOのJohn Hoffman(ジョン・ホフマン)氏は記している。「2020年は混乱をもたらしたというだけでは不十分な表現であり、新型コロナウイルスの影響を受けたすべての方々に心よりお見舞い申し上げます。私は将来に希望を持っており、またMWC21で私たちのエコシステムを招集できるということをとても楽しみにしています。誰もがリアル参加できるわけではないことを認識しており、MWCバーチャルプログラムでショーのコンテンツをお届けすることで物理的なイベントを補強しますので、その点は問題ありません」。

フラッグシップショーを1年間中断していたら、壊滅的だったかもしれない。こうした主催者、そして観光費に頼る地方自治体の多くにとって、2年間という期間は考えられないだろう。新型コロナウイルスのパンデミックが発生した年のMWCのバーチャル戦略は、当然のことながら未熟なものだった。

しかし1年以上が経過した今、GSMAをはじめとする各組織はより強固な戦略を確立しているはずだ。実際のところ、バーチャルへの移行は1回や2回限りのものではない。パンデミックの影響を強く受けている多くの企業や人々にとって、これは未来の姿を象徴しているのだ。

関連記事:MWCの開催中止が決定、主催者のGSMAが新型コロナウィルスを懸念

カテゴリー:その他
タグ:イベント新型コロナウイルスコラムバーチャルイベントIFAベルリンGSMAドイツMWC

画像クレジット:VCG / Getty Images

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

従業員2人の企業から2万人の企業まで柔軟な福利厚生の実現を支援するLevelが約29億円調達

従業員への福利厚生に関するより柔軟な方法を企業に提供することを目指しているスタートアップLevel(レベル)は、Khosla VenturesとLightspeed Venture PartnersがリードしたシリーズAラウンドで2700万ドル(約29億円)を調達した。

既存投資家のFirst Round Capital、HomebrewとともにOperator Collectiveと一流のエンジェル投資家も参加した。本ラウンドでLevelのバリュエーションは「9桁」となったと報じられたが、同社は具体的に明らかにしなかった。

2018年に創業され、ニューヨークに拠点を置くLevelは、雇用者と被雇用者が福利厚生を最大限に活用するのをサポートすべく、フレキシブルなネットワークとリアルタイムの請求を通じて「ゼロから保険を再構築」していると話す。

雇用者は、あらゆる治療の費用を100%カバーするオファーなどのように保険プランをカスタマイズできる。同社はまた、保険請求を4時間で処理することができるとうたう。

「従来の保険会社が請求を処理するのにかかる30〜60日に比べると、かなりのスピードです」と創業者でCEOのPaul Aaron(ポール・アーロン)氏は話した。同氏はSquareの最初の従業員の1人であり、Oscar Healthでネットワークチームを率いた経験がある。そして決済業界におけるいくつかの特許を持つ発案者でもある。

Levelはまず雇用者が保障する歯科治療のプランを2019年夏に立ち上げ、その年の秋にベータ版の顧客に提供を開始した。そして現在は眼科のプランも提供している。同社はIntercom、Udemy、KeepTruckin、Thistleなどを含む企業1万社超を顧客に抱え、顧客企業はLevelのプラットフォームを通じて治療の費用を払ってきた。

「保険はわかりにくく、不平等だと感じることが多いものです。ネットワークによって利用できる医療機関が限定され、請求には数週間かかり、思う以上に手間がかかります」とアーロン氏は話した。「保険での支払いは他の商品の購入と同じくらい簡単であるべきだと思います」。

Levelはフルスタックアプローチを取っていて、自動化された査定からリアルタイムの福利厚生分析までエンド・ツー・エンドのツールを構築している、と同社は話す。

「中小企業が充実した福利厚生を提供するのをサポートする」ことを目的に、同社は新しい保険プロダクトを立ち上げる計画だ。充実した福利厚生は通常、大企業だけが提供できる。Levelはまた、雇用者が毎月決まった額を払った後、使っていない福利厚生のお金を取り戻すのをサポートすることも目指している。究極的には、従業員2人という企業から2万人という企業まで、あらゆるサイズの企業がより良い福利厚生を自社の従業員に提供できるようにする一連のプロダクトを展開できるようになるのが最終目標だ。

Levelは、歯科と眼科の自家保険プロダクトでは企業が従業員により広範なカバーを提供できる一方で、企業は福利厚生予算を20%減らせる、と主張する。

「雇用者は福利厚生にかなりの金を使い、雇用者も被雇用者も十分に恩恵を受けていません」とLightspeed Venture PartnersのJana Messerschmidt(ヤナ・メッサーシュミット)氏は声明で述べた。「あらゆる規模の事業者は、人々が給料をその他のことに使えるようにする革新的な福利厚生で人材を獲得する必要があります。Levelははるかに優れた雇用体験を提供し、払うだけの価値があります」。

一方、 KhoslaのSamir Kaul(サミル・カウル)氏は「Square Cashが個人間の決済のためにしていること」をLevelは保険と福利厚生でできると確信している、と述べた。

投資家のFirst Round Capitalは完全保険からLevelに切り替えることで47%節約できたと主張する。そしてThistleはLevelへの切り替えで41%節約できたと話している

カテゴリー:その他
タグ:Level資金調達福利厚生保険

画像クレジット:Level early team:Vikas Unnava, founder & CEO Paul Aaron, Ashley Koh / Level

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

個人向けニュースレターサービスのSubstackが地元ジャーナリストに約1億1000万円の資金提供を発表

Substackをめぐる果てしない議論は、全国的に有名なライターに集中しているように見えるが、このニュースレターのプラットフォームは新しいプログラムを通して、地元の(おそらく有名でない)ジャーナリストを支援すると発表した。

Substack Localは100万ドル(約1億1000万円)規模のプログラムで、地元のニュース出版物を作成する独立系ライターに資金を提供すると説明している。Substack Proプログラムと同様に、同社は最大10万ドル(約1100万円)の前払い金を提供するほか、メンターシップ、健康保険やデザインサービスへの「補助的なアクセス」も提供する。その代わり、Substackは年間サブスクリプション売上の85%を受け取る(その後は通常の10%に戻る)。

応募は4月29日までに締め切られ、審査員団によって選ばれた参加者たちはSubstackの出版物を持つ審査員であるInsightのZeynep Tufekci(ザイネップ・トゥフェクチ)氏、Culture StudyのAnne Helen Petersen(アン・ヘレン・ピーターセン)氏、Second Rough DraftのDick Tofel(ディック・トーフル)氏、The DispatchのマネージングエディターであるRachel Larimore(レイチェル・ラリモア)氏たちによって選出される。

Substackによると、このイニシアチブを通じてニュージーランドのStuffと提携し、国内サービスが行き届いていない地域をカバーする2つの新しい出版物をローンチするという。

Substackに懐疑的な人は、このようなプログラムはポジティブな宣伝をするための簡単な方法だというかもしれない(FacebookGoogleもローカルニュースをサポートするプログラムを発表した)。Substackの場合、プラットフォームがトランスジェンダーの作家たちに大きな進歩をもたらしていると批判された後のことだ。ほんの数日前、同社はDaniel Lavery(ダニエル・レイブリー)氏を含むトランスジェンダーの作家たちと、有利な契約を結んだことを明らかにした。

動機が何であれ、多くの地方紙の閉鎖と苦境によってニュースの砂漠が作られ、より多くの地方ジャーナリズムが必要とされているのは事実だ。希望があるとすれば、それはデジタルに特化した新しい出版物や独立系ジャーナリストからもたらされる可能性が高いと思われる。

「これは助成金プログラムでもなければ、慈善事業を意図したものでもありません」と、Substackはブログ記事で述べている。「私たちの目標は、成長の余地を十分に与える独立したローカルニュースのための、効果的なビジネスモデルを育成することです」

関連記事:Googleがローカルニュースを支援する助成金制度を発足

カテゴリー:その他
タグ:Substackメディア

画像クレジット:SuperStock / Getty Images

原文へ

(文:Anthony Ha、翻訳:塚本直樹 / Twitter

DellがVMwareを分離する計画が明らかに、これにより同社は9000億円以上を得る

米国時間4月14日の午後、Dell以前からの噂どおりに、VMwareを切り離すと発表した。Dellが2015年に、発表時の670億ドル(約7兆2950億円)に対して580億ドル(約6兆3150億円)という巨額でEMCを買収したとき、VMwareはその一部だった。

今回のスピンアウトのやり方は、まずDellがVMwareの株主に11.5ドルから12ドルの特別配当を払う。株式の約81%はDellが持っているため、2021年後半に取引が終了したときにはDellの金庫に93億ドル(約1兆130億円)もしくは97億ドル(約1兆560億円)が入る。

DellのCEOであるMichael Dell(マイケル・デル)氏は声明で「VMwareを分離することによって、Dell TechnologiesとVMwareの両方に新たな成長の機会が得られ、株主には大きな企業価値が解き放たれる。両社は重要なパートナーであり続けるが、顧客が取得するソリューションの提供の仕方には、両社の違いがもたらすアドバンテージが加わる」と述べている。

声明の中でCEOは多くのことを述べているが、スピンオフが公式になっても両社の密接な協働は続くため、分離はあくまでも経営管理のための措置だ。デル氏が両社の会長であり続けることは変わらない。

投資家へのプレゼンでは、両社の協働関係が口先だけではないことが示された。5年の商契約協定があり、各年に調整をする。また、Dellの営業がVMwareのプロダクトを販売し、VMwareはDell Financial Servicesとの協働を継続する。そしてガバナンスのプロセスは、協定に基づく商的目標の達成を目指して形式化されている。そのため少なくとも向こう5年間、両社の密接な協働の関係が続くことは確かだ。

VMwareとしては、別の発表声明で、分離により「戦略執行の自由度が増し、よりシンプルな資本構造と統治モデルおよび戦略と運用と財務における柔軟性が得られ、また同時に2つの企業の戦略的パートナーシップの強さを維持できる」としている。

発表でDellの株価は8%ほど上がった。同社には手取金の一部を使ってレバレッジを減らしたい意向があり、声明では「正味手取金を使って債務を減らし、会社の投資対象格付けを上げる」と述べている。つまりそれは、Dellが正味の借り入れポジションを下げて、より高い信用格付けを獲得して将来の借り入れコストを抑えたい、ということだ。

EMCの一部だったときもVMwareは特別待遇で、別会社として操業し、独自の役員チームと取締役会があり、株も単独で売られていた。

今回の取引は2021年末頃に完了すると予想されるが、数多い規制のハードルをクリアするのが先だ。まず国税庁のご機嫌をうかがって、非課税のスピンオフと認めてもらうこと。このような取引では、それが大きなハードルになりうる。

この取引は意外ではない。同社は企業の全面的な構造改革をしたいと以前から大っぴらに語っていたし、Dellの膨らんだ債務と、おそらくは製品計画の射程から見てもVMwareの切り離しは賢明な方策だった。Dellの投資家はこの取引を、VMwareの株主よりも喜んでいる。後者の株価は、控えめに1.4%上がっただけだ。

先のVMwareの決算報告では「現金と現金等価物と短期投資」の合計が47億1500万ドル(約5130億円)とされていた。おそらく同社の株主たちは、DellがVMwareのバランスシートを利用して逆のこと(より身軽になること)をする見通しを喜んではいないだろう」。

カテゴリー:その他
タグ:DellVMware

画像クレジット:Ron Miller/TechCrunch

原文へ

(文:Ron Miller, Alex Wilhelm、翻訳:Hiroshi Iwatani)

移住者が急増するテキサス州オースティンの住宅問題を解決するスタートアップ「Homebound」

莫大な数の人々が米国全土からテキサス州オースティンに移住している。中でもサンフランシスコ・ベイエリアからの移住が最近見出しを賑わしている。

続いている移住の結果、起きていることの1つが住宅費の急騰であり、需要の増加と2021年になってほぼゼロに近くなっている空き物件の少なさが原因だ。そこへやってきたのが、カリフォルニア州サンタローザ拠点のテック系住宅建設のスタートアップHomebound(ホームバウンド)だ。既存住宅購入の代替手段を提供して、この街の悩みを解決すべくオースティン市場に参入した。

Homeboundはここ数年に約7300万ドル(約79億5000万円)の資金を、Google Ventures、Fifth Wall、Khosla、Sound Ventures、Atomic、Thrive Capitalなどから調達している。2020年4月に3500万ドル(約38億1000万円)のシリーズBを完了し、2020年末には2000万ドル(約21億8000万円)の転換社債を発行した。CEOのNikki Pechet(ニッキ・ペシェ)氏とAtomicのマネージングパートナーであるJack Abraham(ジャック・アブラハム)氏が2017年に同社を設立した。アブラハム氏が山火事で自宅を失った後のことだった。

Homeboundは、実質的に仮想ゼネコンの役割を果たし、IT技術と「厳選された」資格のある建築「専門家」のネットワークを組み合わせて、新しいかたちの住宅建築を設計から完成まで管理する。同スタートアップは住宅建築に関わる数百にわたる作業項目を追跡・管理するツールを開発した。

これまでHomeboundは、カリフォルニアの山火事の後にホームオーナーが住宅を立て直す際の課題や複雑さを支援することに焦点を当ててきた。しかし2021年4月、Homeboundは自身初の非災害地市場であるオースティンに進出した。住宅再建で培ったカスタム住宅建築のための「テクノロジーを駆使した合理的なプロセス」を、選択肢の1つとして地域のホームオーナーに提供することを狙いとしている。

HomeboundのCEO・共同ファウンダーであるニッキ・ペシェ氏に詳しく話を聞いた。

Homeboundは「次世代」の住宅建築業者として「誰もがどこにでも家を建てられる」ようになるための会社だと、彼女はいう。

オースティンの住宅市場は間違いなく過熱しており、住宅価格は10~30%値上がりしている例もある(私にはわかる、ここに住んでいるから)。

「ホームオーナーは全米から私たちに連絡をしてきて、自分たちの地域に来てくれと頼みます」とペシェ氏は言った。「すでにオースティンは、かつての当社の市場よりも早く成長しています。当社にとって巨大な市場になりつつあります」。

これは、ペシェ氏がマイアミ、タンパ、レイリー、シャーロットなど同じような住宅供給問題を抱える他の都市でも再現しようと考えているモデルだ。

「これは始まりにすぎません」とペシェ氏は言った。「私たちはこのプラットフォームを全米の市場に広げて、この同じ問題を解決するお手伝いをします」。

同社はまず、住宅希望者が自分で家を建てる土地を選ぶのを助けたり、Homeboundがすでに準備した在庫から探すのを手伝う。そこから、建築計画から設計、実際の工事にいたるまですべてを同社のプラットフォームが支援する。Homeboundは、いくつかの用意したプランから客に選ばせ、さまざまなレベルのカスタマイズを行う。

オースティンの典型的一家族用住宅の建築費用は30万ドル(約3270万円)程度からで、大きさ、家の複雑さ、ロットサイズ、地域によって異なる。土地の価格は含まれていない。既存の持ち家の土地に2軒目を建てる人もいる。

「現状多くの場合、既存の住宅を買うよりも安く新しい家を建てることができます」とペシェ氏はいう。

カテゴリー:その他
タグ:Homebound住宅不動産テキサスオースティン

画像クレジット:Homebound

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nob Takahashi / facebook

テクノロジー大手の買収をすべて禁止する共和党の独占禁止法案

テクノロジー大手を狙った独占禁止法がたくさん登場しそうな状況だが、さらにもう1つある。上院議員のJosh Hawley(ジョシュ・ホーリー)氏(共和党、ミズリー州)が今週提出した新法案は、テクノロジー大手の力を抑制するための厳しい措置を盛り込んでおり、特に合併や買収を公然と押さえ込もうとしている。

その「Trust-Busting for the Twenty-First Century Act(21世紀の企業合同の打破)」と題された法案は、時価総額が1億ドル(約110億円)以上の企業の、垂直合併を含むいかなる買収をも禁じる。法案はさらに、反競争的な活動に従事していて捕まった企業の財務的苦痛を大幅に強めるために、独占禁止で敗訴したいかなる企業も、そのような事業実践で得た利益を没収される。

ホーリー氏の法案の中心にあるのは、独占を違法とするSherman Act(シャーマン法)と、反競争的行為の範囲を広げたClayton Act(クレイトン法)をめぐる官僚主義を廃することだ。そしてFTCなどの規制当局がもっと容易に、企業の行為を反競争的と見なせるようにする。現在の時代遅れの独占禁止規則は、テクノロジー産業の現実に即していない、という重要な批判が前からあった。

この法案が民主党上院でさらに強化されることはなさそうだが、それでも重要性は高い。上院の独占禁止小委員会の議長であるAmy Klobuchar(エイミー・クロブシャー)氏(民主党、ミネソタ州)は2021年初めに、買収によって競合他社を掬い上げる支配的な企業に対するバリアを作る法案を提出した。ビッグテックの力を削ごうとするクロブシャー氏自身のアイデアも、1世紀以上にわたって合衆国のビジネスをかたち作ってきた独占禁止法の改革にフォーカスしている。

共和党のこの法案は民主党の提案と一部重複しているかもしれないが、それでもトランプ時代の党派臭の強いビッグテック批判の面影はある。ホーリー氏は、シリコンバレーのこれまで眠っていた巨大企業が目を醒まし、米国人が消費する情報とプロダクトにあまりにも多くの力を行使するようになった、と批判している。民主党議員は当然こんな批判には与しないが、ホーリー氏の法案は、ビッグテックを狙った独占禁止の改革が、結論の部分では両党の考えが一致している政策分野であることを、明らかに示している。ただしその根拠については、意見が一致していない。

ホーリー氏の法案は最新だが、最後ではない。下院で独占禁止の取り組みを率いているDavid Cicilline(デイビッド・シシリーニ)氏(民主党、ロードアイランド州)は前に、1つの包括的な法案ではなく、複数の独占禁止改革法の連射を提案した。それらの法案集は、ターゲットが細かく分かれており、テクノロジー業界のロビイストたちが廃案に追い込むことが難しい。法案の提出は、2021年5月の予定だ。

関連記事:巨大テック企業を規制する米国の新たな独占禁止法案の方針

カテゴリー:その他
タグ:アメリカ独占禁止法米共和党

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

アップルとグーグルがアプリストアの競争に関する米上院公聴会に出席

姿を見せない思われていたApple(アップル)が、2021年4月末に行われる同社アプリストアの独占禁止をめぐる上院の聴聞会に代理人を送ることを約束した。

先に上院議員のAmy Klobuchar(エイミー・クロブシャー)氏(民主党・ミネソタ州)とMike Lee(マイク・リー)氏(共和党・ユタ州)はAppleに圧力をかけた。クロブシャー氏はこの小委員会の議長を務めており、テクノロジー業界で最も支配的な企業に対する独占禁止法上の懸念に焦点を当てている。

Google(グーグル)も出席するその聴聞会では、AppleとGoogleによる「消費者とアプリの開発者と競争に及ぼす、モバイルアプリケーションのコストと配布と可用性に関するコントロール」を徹底的に掘り下げられる。

アプリストアはテクノロジー業界において、二社による複占の嫌疑を最もかけられている部分だ。その疑いは、FortniteのメーカーであるEpic Gamesに対するAppleの高飛車な法定闘争で一層深まった。しかし一方ではテクノロジー大手に対する州レベルの規制もいくつか芽生えており、アリゾナでは、AppleとGoogleによるアプリストアの利益の簒奪から開発者を護る方策が模索されている

関連記事:フォートナイトをApp Storeに戻すように求めるEpicの要求をカリフォルニア州判事が却下

先週の書簡で、クロブシャー氏と小委員会の有料メンバーであるリー氏は、Appleが4月21日に行われる公聴会に証人を送らないと決めたことを「唐突」に非難した。

「Appleが突然方針を変えて、4月に行われるアプリストアの競争の問題に関する小委員会で、証人の提供を拒否したことは、同社が他の公共の場では明らかにそれらの問題を議論する意思を示しているだけに、容認できない」と議員たちは述べている。

4月12日には、この圧力が効果を表したようで、Appleは公聴会への出席に合意した。この件に関して、Appleはコメントの求めに応じなかった。

議員たちはAppleの応諾を勝利に数えたが、同社CEOが出席するとは限らない。テクノロジー大手のCEOたちが議会に呼ばれる機会はここ数年増えているが、そこから得られる成果はむしろ減っているかもしれない。

テクノロジー企業のCEOたちは、AppleのTim Cook(ティム・クック)氏も含めて、議員から圧力を受けたときには実のあることを何も言わない術を学習している。CEOを引っ張り出すことは権力の誇示にはなるかもしれないが、テクノロジー業界の役員たちは一般的に、その長い証言の過程でほとんど何も明かさない。ヒアリングに本格的な取り調べが並行していない場合には、特にそうだ。

関連記事:アップルがApp Storeの反トラスト訴訟でEpicの秘密プロジェクトを告発、Epicは独占を批判

カテゴリー:その他
タグ:AppleApp StoreGoogle独占禁止法アプリGoogle Play

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

創業5カ月でユニコーン企業に、別荘の共同所有をサポートするPacasoが83億円調達

創業からまだ1年にも満たないPacasoが、10億ドル(約1100億円)の評価額で7500万ドル(約83億円)の成長資金を調達したことを発表した。

GreycroftとGlobal Founders Capitalが共同で主導したこの7500万ドルのエクイティファイナンスには、注目に値する要素がいくつかある。

1つはそのチームだ。CEO兼共同創業者のSpencer Rascoff(スペンサー・ラスコフ)氏は、Zillowの元幹部であるAustin Allison(オースティン・アリソン)氏とともに約18カ月前にZillow(時価総額は329億ドル、約3兆6300億円)を去った後、Pacasoのコンセプトを打ち立てた。同社は、人々がセカンドハウスを共同所有を支援するサービスを展開している。

「セカンドハウスを持つことは、私たち双方の生活に非常に大きな影響を与える贅沢であったことに気づきました。私たちは2人とも幸運にもセカンドハウスを手に入れ、それは自分たちや友人、家族に大きな変革をもたらしたのです」とラスコフ氏は述べている。「私たちが目指したのは、セカンドハウスへのアクセスを一般に普及させることでした。そうすることで、1%の人々だけが享受できる贅沢にとどまらず、願わくば世界中の何千万人もの人々がセカンドハウスを利用できるようになるのです」。

Crunchbaseのデータを使った本誌の社内分析によると、2020年10月にローンチしたばかりのPacasoがユニコーンになったのは、他のどの企業よりも早い。

「Pacasoは驚異的な速さで成長しており、これは私が経験したことのないものです」とラスコフ氏はTechCrunchに語った。「これほど急速に成長している理由は、消費者がこのコンセプトに魅せられ、はるかに安価な価格でセカンドハウスを所有できるというアイデアを喜んでいるからでしょう」 。

サンフランシスコに拠点を置くPacasoは、米国時間3月24日に発表した株式発行による資金調達に加えて10億ドル(約1100億円)の負債調達も行った。2020年秋のローンチ時点で、同スタートアップはMaveron率いるシリーズAで1700万(約19億円)ドルを調達し、同時に2億5000万ドル(約276億円)の融資も受けている。

Acrew Diversify Capital FundのSukhinder Singh Cassidy(スキンダー・シン・キャシディ)氏とTheresia Gouw(テレジア・グー)氏、First American Financial、Shea Ventures、Amazon Worldwide Consumerの元CEOであるJeff Wilke(ジェフ・ウィルケ)氏など、著名なエンジェル投資家たちも今回の資金調達に参加した。

不動産に特化したLLC(有限責任会社)を設立し、独自の共同所有モデルを可能にすることで、同社はセカンドハウスのコストと手間を削減することを目指している。また、セカンドハウス所有者は不動産を貸し出すという選択肢も得る事ができる。

Pacasoのモデルは、コンドミニアムやホテルで一定の期間使う権利を販売するタイムシェアの古いコンセプトとは一線を画している。Pacasoでは、小規模の共同所有者グループを集めて一戸建て住宅のシェアを購入し「年間を通して継続的なアクセスを楽しむ」事ができるのだ。

仕組みとしては、まずPacasoが家のシェア、またはすべてを購入する。その後同社は不動産を販売するために地元の不動産業者と提携する。そして同社が持ち家の8分の1程度、あるいはそれ以上の割合で持ち家のシェアを売却する。

Pacasoは、ナパ、レイクタホ、パームスプリングス、マリブ、パークシティなどの複数の人気セカンドハウス市場で仲介ライセンスを保有している。購入者は同スタートアップのウェブサイトで厳選されたリスティングを見ることができ、有効な物件や、購入希望を基に購入を検討する住宅のプレビューを見ることができる。

このリスティングのキュレーションに加えて、Pacasoは統合ファイナンス「高級路線の」インテリアデザイン、専門性の高い不動産管理、独自のスケジューリング技術も提供している。

画像クレジット:Pacaso

ローンチ以来50万人以上がサイトを訪れ、これまでに6万人もの「購入希望者」がセカンドハウスの共有について詳しく知るためPacasoに問い合わせてきたと同社は伝えている。これまでのところ同社は、約100世帯に向けてセカンドハウスの共同所有者になる支援を行ってきた。

アリソン氏の推定によると、世界には約1億戸のセカンドハウスが存在し、その大半は1年のうち10カ月から11カ月ほど空室になっているという。

「月ごとにその数は急増しています」と同氏は続けた。

同社は今回調達した資金の一部を、西海岸から東海岸への新規市場開拓に充てる計画だ。最終的にはヨーロッパ、さらにはメキシコやカリブ海にも進出する展望を持っている。同社の負債は、さらに多くの住宅の持ち分を取得する方向に向かっていくだろう。

「裁量所得があるほど十分な収入を得ている世帯は何千万もあり、そのうちの約75%はセカンドハウスを持つことを夢見ています」 と同氏はいう。「しかし、コストの問題、あるいはそのような購入を正当化できないといった理由で、彼らの行動は妨げられています。この大きな問題に直面して私たちが考え出したのは、真に革新的なソリューション、つまり共同所有でした」。

アリソン氏によると、同社は今後、低価格の住宅を含め、より幅広い価格帯の住宅を提供したいと考えているという。

Greycroftの共同創業者でパートナーのDana Settle(ダナ・セトル)氏は、Pacasoのビジネスの活力を「極めて意義深いもの」と表現している。

「Pacasoは、人々がセカンドハウスを購入し、所有する方法を劇的に変える新しいカテゴリーを作り出しています」と同氏は付け加えた。

多くのベンチャー企業がそうであるように、GreycroftもPacasoの創業チームの力量に魅力を感じている。

「このチームは市場を熟知しており、かつてともに働いた経験を有しています」とセトル氏はTechCrunchに語った。「彼らがいかに迅速に稼働し始めたかを見れば、まさにそのことが証明されています」。

同氏はまた、PacasoをUberやAirbnbになぞらえた。これらの企業もまた、十分に活用されていなかった資産を事業化している。

「テクノロジーを活用して市場でのアクセス性を向上させる、新たな機会です」とセトル氏はいう。

事業拡大を進めるにあたり、Pacasoは最高財務責任者としてNina Tran(ニナ・トラン)氏を迎え入れた。トラン氏は、Waypoint HomesをStarwood Waypointと合併して株式公開し、同社をInvitation Homesに売却してCFOを務めた人物だ。

ラスコフ氏は最近、多忙を極めている。同氏はSupernova Partners Acquisition Companyの責任者でもあり、同社は最近Offerpadと合併して上場することを発表した。ラスコフ氏はDoma(以前のStates Title)の投資家でもある。SPACの合併によって上場された別の専門技術企業だ。同氏はまた、多くのスタートアップを支援しており、その中には最近ローンチした、アジア系米国人コミュニティを主な対象とするデジタルバンキングプラットフォームCheeseも含まれている。

関連記事:不動産テックスタートアップのOfferpadがSPACとの合併により公開へ

カテゴリー:その他
タグ:Pacasoセカンドハウス資金調達ユニコーン企業不動産

画像クレジット:Cory Sherwood Photography / Pacaso

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

仏ケータリングサービス大手Eliorが単一メニューデリバリーで成長中の仏Nestorを買収

企業・教育機関向け契約ケータリングサービスを提供するフランス発の多国籍企業Elior(エリオール)は、フランスのスタートアップNestorを買収したと発表した。買収額は非公開。Nestorは元々、DeliverooやUber Eats(ウーバーイーツ)などのフードデリバリー大手との差別化を図るため、シンプルなアイデアからスタートした企業だ。

当初このスタートアップは毎日、ランチに単一メニューを提供していた。その日のメニューが気に入れば、注文すると10分から20分後に配達されるというもの。単一のメニューを提供することで、配達員は1回の配車で複数の顧客に届けることができる。また、Nestorは自社のキッチンを運営することで、サードパーティーのレストランに支払う必要がなく、利益率を向上させることができた。

2016年に初めてNestorを取材して以来、同社は高い資本効率で、このユニークなサービスの提供に主眼を置いてきた。Eliorによると、Nestorは週1万食を達成したという。

ここ数カ月の間、Nestorはいくつか新しいサービスを展開しようとしてきた。例えば、企業は社員食堂をNestorに切り替えることができる。同社は、調理された食事を冷蔵庫に直接届ける。これは、食堂のようなサービスに焦点を当てたもう1つのフランスのスタートアップであるFoodlesを思い起こさせる。

Nestorはまた、クライアントとの大きな会議がある日のために、個別に包装されたランチボックスを届けることもできる。最近、Popchefもこの分野に注力するためにピボットした。

今回の買収により、NestorはB2B市場にますます注力することになる。Eliorはガラス張りのタワーに入居しているような大企業の数々と提携しているが、中小企業に対してオフィスに食堂を開設するよう説得するのは、かなり難しいことだった。

セールストークは、2文に集約することができる。Nestorのクライアントは、すべてが事前に調製されているので、自分のキッチンを持っている必要はない。そして従業員は、ランチタイムにDeliverooを見てハンバーガーやピザではないものを探さなくてすむ。

カテゴリー:その他
タグ:Eliorフランス買収フードデリバリー

画像クレジット:Markus Spiske / Unsplash

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

家計や引っ越し、給料交渉など大学を卒業したばかりZ世代のための大人の手引書を提供するRealworldが3.7億円調達

Realworld(リアルワールド)は大きなビジョンを持っている。目標は「大人であることをシンプルにすること」だと創業者でCEOのGenevieve Ryan Bellaire(ジェネビーブ・ライアン・ベルエアー)氏は筆者に語った。そしてニューヨーク拠点の同社は目標を達成するためにシードファンディングで340万ドル(約3億7000万円)を調達した。

どうやらそれはベルエアー氏自身が20代前半に苦労したことだったようだ。MBAを持つ弁護士であるにもかかわらず、自分自身が「こうした実世界のことにまったく準備できていなかった」ことに気づいた。住宅や医療保険のことなどだ。これらに関しては筆者(弁護士でもなく、MBAも持っていない)もまったく同感だ。

「クレジットカードを申し込むのに、このフォームを記入してくださいと教示するコンテンツはそこら中に山ほどあります。しかしあなたは自分自身が何を知らないかをわかっていないのです」とベルエアー氏は話した。「大人であることを1カ所で定義する場所はありません」。

と同時に、大人であることの側面を簡単にするオンラインサービスがある。保険であればLemonade、投資であればBetterment、診察の予約であればZocdocなどだ。しかし繰り返しになるが、こうしたサービスを探すこと、そしてそれらのサービスを使うべきだと知っていることはハードルとなる。だからこそ、Realworldは「1つのエントリーポイント」として機能することを意図している、とベルエアー氏は述べた。

そのために、Realworldは家計や引っ越し、給料の交渉などをカバーする90以上のステップ・バイ・ステップの計画を作成した。大学を卒業し、就職したばかりのZ世代のためのものだとベルエアー氏は語る。

RealworldのCEO、ジェネビーブ・ライアン・ベルエアー氏(画像クレジット:Realworld)

もちろん、特定の年代にフォーカスするとして、同じ20歳代でもそれぞれに異なるバックグラウンドを持ち、収入レベルや抱えている問題も異なる。計画はユーザーの特定の目標や状況に応じてインストラクションをカスタマイズするとベルエアー氏は話したが、Realworldの15の計画から構成される「スターターパック」は予算の作成やアパート探し、所得税の理解などすべての大人が何らかの形で対処する必要があるものをカバーするとも主張した。

Realworldは初のモバイルアプリを2021年5月にリリースする計画で、目標は「プラットフォーム、マーケットプレイス、コミュニティ」になることだ。計画はプラットフォームで重要な役割を果たし、そしてゆくゆくは大人になることの目標を達成するのをサポートするサービスのためのマーケットプレイス、そしてユーザーが知識やアドバイスを共有するコミュニティも含むことになるかもしれない。

Realworldは当初、計画へのアクセスに課金していたが、現在は無料で利用できる。その代わり、追加の機能や「コンシェルジュのようなサポート」にサブスク料金を課すかもしれないとベルエアー氏は話した。

「これは、正しいものを手にすれば、大きな影響を与えることができる問題の1つです。しかし経済的に大きな成功を手にすることができるものでもあります」と付け加えた。

投資家らはこれに同意しそうだ。Realworldは以前110万ドル(約1億2000万円)を調達したが、今回のシードラウンドはFitz Gate Venturesがリードし、Bezos Expeditions(ジェフ・ベゾス氏の個人的な投資会社)、Knightsgate Ventures、The Helm、Great Oaks VC、Copper Wire Ventures、AmplifyHer Ventures、Underdog Labs、Human Ventures、Techstarsが参加した。

AmplifyHerのパートナーであるMeghan Cross Breeden(メーガン・クロス・ブリーデン)氏は、Realworldが現在のZ世代のための「人生のマイルストーン」のマーケットだけでなく、家の購入から親の介護まで長期にわたる「あらゆる未来のマイルストーン」のマーケットを追求することになるかもしれないと指摘した。

カテゴリー:その他
タグ:Realworld資金調達Z世代

画像クレジット:Realworld

原文へ

(文:Anthony Ha、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】頻繁に耳にする「巨大テック解体論」はまちがっている

本稿の著者T. Alexander Puutio(T・アレクサンダー・プーティオ)氏はレナード・N・スターン・スクールの非常勤教授であり、トゥルク大学での研究をAI、技術、国際貿易、開発の相互作用に捧げている。本稿で表現された意見はすべて彼のものだ。

ーーー

Big Tech(ビッグテック、巨大テック企業)との蜜月時代は、表向きは終わったと言ってもよさそうだ。

疑わしいデータ処理手続き、恣意的なコンテンツ管理ポリシー、明白な反競争的慣行が長年にわたり続いてきたのだ。ここで少し立ち止まってビッグテック業界との関係を考え直すのは当然のことだろう。

残念なことに、ビッグテックの解体を求める声をはじめとする、大方の注目を集めている意見のほとんどは、健全な経済学的思考というより、報復的な妄想から生まれている。

我々は、扇動的で成功の見込みが限りなく低い計画やゼロサム的解決策を追いかけるのではなく、スタートアップや競合他社独自のデジタル市場にとって公平な競争の機会を設け、ビッグテックが規模の拡大と同時により優れた企業に成長していくよう取り組むべきだ。

関連記事:EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

大方の注目を集めている意見のほとんどは、健全な経済学的思考というより、報復的な妄想から生まれている。

20世紀の議員たちが、産業の寵児から停滞をまねく破壊的勢力へと変貌した鉄道独占企業をどのように抑制したかを見れば、その取り組みのヒントが得られるだろう。

問題は変わらない

100年以上前、急速に工業化が進む米国は、テクノロジーディスラプション(創造的破壊)がもたらした想定外の事態に直面していた。どこかで聞いたことがあるような話だ。

本格的な蒸気機関車が初めて登場したのは1804年だが、より強力で貨物に適した米国式の蒸気機関車が導入されたのは1868年になってからだ。

効率性が高く貨物に適した機関車は、野火のように急速に広がり、やがて鋼と鉄が山を貫き、ほとばしる川を飛び越えて、全米各地を結び付けた。

すぐに鉄道の走行距離は3倍になり、全都市間交通の実に77%、旅客事業の98%で鉄道が利用されるようになった。これにより、コスト効率のよい大陸横断旅行の時代が到来し、国全体の景気に大きな変化が訪れた。

画期的な技術の黎明期にはよく見られることだが、成功の初期段階には大きな人的損失がともなうものだ。

鉄道業界では当初から虐待や搾取が横行し、例年、労働者の3%近くが負傷したり死亡したりしていた。

やがて鉄道信託の所有者は、世間から広く非難を浴びる実業家グループの大部分を占めるようになり、いわゆる「悪徳資本家」と呼ばれるようになった。そして、そのような企業は行く手にあるものすべてを搾取し、競合他社、特に新規参入者を困窮させた。

鉄道会社の経営者たちは、慎重に構築されたウォールドガーデン(顧客の大規模な囲い込み)を維持することで自らの利益を確保し、強要や排除といったあらゆる手段を使って競合他社を破産に追い込んでいった。

鉄道の所有者から見れば、こうした方法は大成功を収めたが、競争が阻害され、消費者重視の視点が完全に欠落した世間には停滞ムードがただよった。

歴史は繰り返す

人間は過去の経験から学ぶことが苦手なようだ。

実際、ハイテク産業に対して我々が抱く懸念のほとんどは、20世紀の米国人が鉄道信託に対して抱いていた反対感情と同じである。

当時の悪徳資本家と同じように、Alphabet(アルファベット)、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)などは、競合他社やスタートアップが入る余地をほとんど残さず、取引の大動脈を支配するようになった。

ビッグテックは2桁のプラットフォーム料金を導入し、決済プロトコルに厳しい制限を設け、独自のデータやAPIを専有することで、人工的な参入障壁を築き、競合他社がビッグテックの成功を事実上まねできないようにした。

ここ数年、大手テクノロジー企業はAmazonBasics(Aamzonベーシック)のようなプライベートブランドを提供することで、サードパーティーソリューションのカニバリゼーション(共食い)に取り組んできた。その結果、ビッグテックの顧客は、プラットフォーム所有者に競争力を弱められ、完全に先手を打たれていることに気づくことになった。

以上を踏まえると、米国におけるテック系スタートアップの創業ペースが何年も前から低下しているのは当然の流れだ。

実際、Albert Wenger(アルバート・ウェンガー)氏のようなVC界のベテランたちは、ビッグテック周辺にある「キルゾーン」に注意するよう呼びかけており、もし我々が大規模なハイテク複合企業の競争的周辺部を再活性化する方向に向かっているなら、早急に何らかの手を打つが必要がある、と警告している。

ビッグテック解体論を止めるべき理由

20世紀に独占的な鉄道信託を管理するために策定された戦略から、ビッグテックに対処する上で役立つ教訓を読み取ることができる。

戦略の第1段階として、議会は1887年に州際通商委員会(ICC)を設立し、合理的かつ公正な価格で専用鉄道網を利用できるように管理する任務をICCに与えた。

しかし、ICCの活動は政党主導であったため、ICCにはほとんど権限が与えられなかった。1906年に輸送機能と貨物の所有権を分離するヘボン法が議会で可決され、本当の意味での進展がようやく見られるようになった。

議会は、独自のプラットフォームで私的金融取引や二重取りを行うことを禁止し、既存の競合他社と新規参入企業の両方が同じ条件でプラットフォームを利用できるようにした。つまり、複雑に絡み合って抜け出せなかった搾取的な慣行が排除され、現在の米国の繁栄を支える根幹が形成されたのだ。

これは、鉄道信託を細かく解体するだけでは決して実現できなかったことだ。

実際のところ、プラットフォームやネットワークは大きい方が関係者全員にとって有利だ。大きい方がより高いネットワーク効果を得られるし、小規模なプラットフォームを凌駕するその他の要因もいくつかある。

最も重要なことは、アクセスと相互運用性のルールを適切に設定すれば、より大規模なプラットフォームでより幅広いスタートアップやサードパーティを支えられるようになるため、経済のパイの縮小ではなく拡大が可能になるということだ。

デジタル市場をスタートアップの味方につける

パンデミック後の経済活動では、テックプラットフォームを縮小するのではなく、規模の拡大に合わせて優れたプラットフォームに成長させることに注目すべきだ。

第1段階で必要なことは、スタートアップと競合他社が公正な条件と適正価格でこれらのプラットフォームにアクセスできるようにすることだ。

現在、政策立案者が実施できる具体的な措置は他にも多数ある。例えば、データ可搬性に関するルールの書き換え、プラットフォーム間のより広範な標準化と相互運用性の推進、ネットの中立性の再導入は、今日の業界の問題に対処するのに大いに役立つだろう。

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が最近、連邦取引委員会(FTC)の次期委員として、「アマゾンを反トラストだと主張する急先鋒」 Lina Khan(リナ・カーン)氏を指名したことで、こうした変化が実現する可能性は突如として高まった。

最終的には我々全員が、巨人の肩の上に立ち(先人たちの知恵を借りながら)、巨人が作ったプラットフォームの上で力強く成長するさまざまなスタートアップや競合他社から恩恵を享受できるようになるだろう。

カテゴリー:その他
タグ:AlphabetAmazonAppleFacebookTwitterGoogleコラム

画像クレジット:Martin Poole / Getty Images

[原文へ]

(文:T. Alexander Puutio、翻訳:Dragonfly)

英国でテック大企業を監視する新部署「DMU」発足、デジタル分野の競争を促進

競争がオンラインを健全なものにし、そしてデジタルサービスを利用する消費者が自身のデータに関してより多くの選択肢とコントロールを持てるようにするために、デジタル部門で最も力を持つ企業を規制するというタスクを担う新しい英国の公的機関が現地時間4月7日、発足した。

デジタルマーケットパワーの集中に関する懸念についての数多くのマーケットレビュー研究を受け、2020年11月発表されていたDigital Markets Unit(DMU)はまだ法的権限を持っていないが、英政府は新たな「競争促進体制」のデザインを2021年協議し、議会が承認し次第、DMUに法的権限を持たせる法律を制定すると述べていた。

アドテック大企業Facebook(フェイスブック)とGoogle(グーグル)のマーケットパワーに関する懸念が規制整備へと駆り立てている主な要因だ。

最初の取り組みとしてDMUは、デジタルプラットフォームと、広告でそうしたプラットフォームに頼っている中小企業のようなサードパーティーの間の関係を管理するのに行動規範が役立つかどうかを、将来のデジタル立法に組み込むために調べる。

強力なオンライン監視者の役割はまた、EUの議員たちのターゲットにもなっている。EUの議員たちは、プラットフォーム大企業とそうしたプラットフォーム企業の規約の下で事業を展開している中小企業の間での取引を確実に公正なものにする規制フレームワークを作成することを目的とする法制化を2020年末に提案した

英政府は4月7日、DMUがさまざまなデジタルマーケットにわたるプラットフォームの役割を調べるのに、競争を促すという視点でセクター中立のアプローチを取ると述べた。

DMUは、通信監視機関のOfcomと連携するよう求められてきた。2021年制定される予定の法律(現在Online Safety Billと呼ばれている)の下でソーシャルメディアプラットフォームを規制すべく、英政府は2020年Ofcomにその任務を課した。

関連記事:2021年提出予定の英国オンライン危害法案の注意義務違反への罰金は年間売上高10%

間近に迫った法制化は、いじめからヘイトスピーチ、児童の性的虐待、他のスピーチ関連問題(多くの論争、そしてプライバシーとセキュリティに関連する特定の懸念を巻き起こしているもの)に至るまで、消費者に影響を及ぼすかなり広範のオンライン害を規制しようとしている。その一方で、DMUのフォーカスは事業のインパクトと、デジタルマーケットにおける競争に影響を及ぼし得る消費者コントロールだ。

最初に取り組む業務の一環として、法律体系がプラットフォームとメディアのようなコンテンツプロバイダーの間の関係をどのように管理するかを特に調べるために、デジタル国務長官がDMUにOfcomと連携を取るよう求めた、と政府は述べた。「可能な限りプラットフォームとコンテンツプロバイダーの関係が公正で、合理的なものであるようにすることが含まれる」とプレスリリースにはある。

これはDMUがオーストラリアで議会を通過した最近の法案をかなり参考にしていることを示している。この法律では報道機関のコンテンツを再利用するのに料金を支払うための交渉をプラットフォームに義務付けている。

DMUを抱える英国の競争・市場庁(CMA)は2021年初め、テック大企業と報道機関の料金交渉が合意に至らない場合のために強制仲裁という砦を持つというオーストラリアのアプローチは「賢明だ」とBBCに語っている

DMUはまた、現在数多くのテック大企業の調査を行っているCMAの監視部署と緊密に連携を取る。展開されている調査には、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)に対する苦情の検討、そしてFacebook(フェイスブック)のGiphy買収の徹底的な調査が含まれる。

関連記事
英競争当局がアップルのApp Store独禁法調査を開始
英国の独禁監視当局がフェイスブックのGIPHY買収を調査中

DMUが緊密に連携をとると政府がいう他の規制当局には、データ保護監視当局(ICO)と金融行動監視機構(FCA)が含まれる。

また、デジタル競争が本質的に自然とグローバルなものになっていることから、DMUは国際パートナーとの調整も取ると政府は述べた。そして、2国間の取り組みを通じて、そしてG7議長国として英国のアプローチをすでに協議していると付け加えた。

「デジタル国務長官は、より良い情報共有、規制と政策のアプローチの協調に関する調整について合意形成を模索していて、デジタルとテックの大臣のミーティングを4月に開催します」とも述べた。

DMUはWill Hayter(ウィル・ハイター)氏が統括する。同氏は、Brexitトランジッション政策に取り組んでいるCabinet Officeでの任務に続き、2021年5月初めに暫定責任者のポストに就任する。規制政策でさまざまな役割を果たしてきた同氏は以前CMUとOfcomでも数年働いていた。

カテゴリー:その他
タグ:イギリス競争・市場庁OfcomDMU

画像クレジット:Feodora Chiosea / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

ウェブのオープンソースインフラストラクチャの公平化に1.4億円の助成金

オープンソースのソフトウェアは、事実上すべてのオンラインの中核をなしていると言えるだろう。しかし、その大部分は何らかの方法で注意深く維持されている一方で、基礎的な要素が必要とするような精査を受けていないものもある。こうした状況を背景に、米国時間3月3日、130万ドル(約1億4130万円)相当の助成金が発表され、オープンソースのソフトウェアと開発がより公正に、持続可能的に、そして責任を持って行われるようにすることを目指す13のプロジェクトに配分された。

これらの研究プロジェクトでは、オープンソースのデジタルインフラストラクチャーがどのように利用され、維持されているか、あるいはどういった影響を受けているかについて、いくつかの問題を調査する。例えば多くの自治体では、政府のソフトウェアソリューションのニーズの高まりを受けてこの種のインフラに依存しその構築を進めているが、そのプロセスはどうなっているか。どういうアプローチやフレームワークが成功するのか、そしてその根拠は何か、といったことである。

また、大規模なオープンソースプロジェクトに貢献している民間企業が互いに協議することは往々にして少ないものだが、どのように意思疎通して優先順位や依存関係を共有するのか。その状況を改善できる方法はないか、また費用や給付金の面で対処し得ることはあるだろうか。

こうした諸問題は、単一の機関や地方自治体が自発的に取り組むようなものではなく、もちろんその研究にかかる費用はささいなものではない。しかし、専門家チームは2020年、約250のアプリケーションを分類した結果、十分に興味深い(そして新しいアプローチや製品を生み出す可能性が高い)と判断した。

関連記事:誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

この助成事業は、Ford Foundation(フォード財団)、Alfred P.Sloan Foundation(アルフレッド・P・スローン財団)、Open Society Foundations(オープン・ソサエティ財団)、Omidyar Network(オミダイア・ネットワーク)、Mozilla Open Source Support Program(モジラ・オープンソース・サポートプログラム)がOpen Collective Foundationと協力して資金を提供し、組織している。

「フリーでオープンソースのインフラストラクチャーのニーズと潜在的なアプリケーションを調査するための資金が不足しています。オープンソースの背景にある公益の問題は見逃されている部分です」とフォード財団で補助金プログラムを率いているMichael Brennan(マイケル・ブレナン)氏はいう。

「財団の理事長であるDarren Walker(ダレン・ウォーカー)氏はかつて『公正な社会は公正なインターネットに依存している』と語っていました。私たちの課題はどうすればそのようなインターネットを構築できるのか、誰もが平等に利用できる公正なインターネットを創造し維持できるのか、ということです。私たちは実際には答えよりも多くの懸案を抱えていますが、そうした懸案事項に対する研究に資金を提供している人はほとんどいません」

適切な懸案事項を見つけることでさえ課題であり、基礎研究においてはこれが期待されている。フィールドでの初期の作業は、実際の行動指針を示唆するべく作業の範囲と一般的な方向性を確立することを目的としており、もどかしいほど汎用的であるか、決定的でないように思われることがある。

「最終的なポートフォリオは、 『客観的に最良』なだけのものではなく、いかにして多様なアプローチやアイデアを模索し、プロジェクトのさまざまな側面に取り組むか、そしてプロジェクトの多岐にわたるグローバルな性質を象徴するかということに帰結しました」とブレナン氏は語った。「2021年は研究と実装の両方の提案を採用しました。この研究が、公平で持続可能なインフラストラクチャの構築につながることを期待しています」

研究概要の全文はこちらから。概略と提案者の名前は以下のとおり。

  • How are COVID data infrastructures created and transformed by builders and maintainers from the open source community?(オープンソースコミュニティのビルダーやメンテナーは、COVIDデータインフラストラクチャをどのように作成し、変革しているか? )– Megan Finn(メーガン・フィン)氏(ワシントン大学、テキサス大学、ノースイースタン大学)
  • How is digital infrastructure a critical response to fight climate change?(気候変動対策において、デジタルインフラストラクチャはどのように重要な役割を果たしているか?) – Narrira Lemos de Souza(ナリラ・レモス・デ・スーザ)氏
  • How do perceptions of unfairness when contributing to an open source project affect the sustainability of critical open source digital infrastructure projects?(オープンソースプロジェクトに貢献する際の不公正の認識は、重要なオープンソースデジタルインフラストラクチャプロジェクトの持続可能性にどのような影響を与えるか?) – Atul Pokharel(アトゥル・ポカレル)氏(ニューヨーク大学)
  • Supporting projects to implement research-informed best practices at the time of need on governance, sustainability, and inclusion.(ガバナンス、持続可能性、包括性に関するニーズが発生した際に研究に基づいたベストプラクティスを実施するプロジェクトの支援。)– Danielle Robinson(ダニエル・ロビンソン)氏(Code for Science & Society)
  • Assessing Partnerships for Municipal Digital Infrastructure.(自治体のデジタルインフラストラクチャのためのパートナーシップの評価。) – Anthony Townsend(アンソニー・タウンゼント)氏(コーネル・テック)
  • Implement recommendations for funders of open source infrastructure with guides, programming, and models.(ガイド、プログラミング、およびモデルを使用した、オープンソースインフラストラクチャの出資者に対する推奨事項の実装。) – Eileen Wagner(アイリーン・ワグナー)氏、Molly Wilson(モリー・ウィルソン)氏、Julia Kloiber(ジュリア・クロイバー)氏、Elisa Lindinger(エリサ・リンディンガー)氏、Georgia Bullen(ジョージア・ブレン)氏(Simply Secure & Superrr)
  • How we can build a “Creative Commons” for API terms of Service, as a contract to automatically read, control and enforce APIs Terms of service between infrastructure and applications?(インフラストラクチャとアプリケーション間のAPI利用規約を自動的に読み込み、制御、施行するための契約として、API利用規約のための「クリエイティブ・コモンズ」をどのように構築するか?) – Mehdi Medjaoui(メフディ・メジャウイ)氏(APIdays、LesMainteneurs、Inno3)
  • Indian case study of governance, implementation, and private sector role of open source infrastructure projects.(オープンソースインフラストラクチャプロジェクトのガバナンス、実装、および民間セクターの役割に関するインドの事例研究。) – Digital Asia Hub
  • Will cross-company visibility into shared free and open source dependencies lead to cross-company collaboration and efforts to sustain shared dependencies?(共有のフリーおよびオープンソースの依存関係を企業間で可視化することは、共有された依存関係を維持するための企業間のコラボレーションと努力につながるだろうか?) – Duane O’Brien(ドウェイン・オブライエン)氏
  • How do open source tools contribute towards creating a multilingual internet?(オープンソースツールは多言語インターネットの構築にどのように貢献するか?) – Anushah Hossain(アヌーシャ・ホセイン )氏(UCバークレー)
  • How digital infrastructure projects could embrace cooperatives as a sustainable model for working.(デジタルインフラストラクチャプロジェクトは協同組合を持続可能な労働モデルとしてどのように取り込むことができるか。) – Jorge Benet(ジョージ・ベネット)氏(Cooperativa Tierra Común)
  • How do technical decision-makers assess the security ramifications of open source software components before adopting them in their projects and where can systemic interventions to the FOSS ecosystem be targeted to collectively improve its security?(技術的な意思決定者は、オープンソースソフトウェアコンポーネントをプロジェクトに導入する前に、そのセキュリティの影響をどのように評価し、FOSSエコシステムへの組織的な介入はそのセキュリティを集合的に改善するためのターゲットとなり得るか?) – Divyank Katira(ディヴィヤンク・カティラ)氏(Centre for Internet & Society in Bangalore)
  • How can African participation in the development, maintenance, and application of the global open source digital infrastructure be enhanced?(グローバルなオープンソースデジタルインフラストラクチャの開発、維持、および適用へのアフリカの参加をどのように強化することができるか?) – Alex Comninos(アレックス・コムニノス)氏(ICTアフリカ、RIAとケープタウン大学の研究)

プロジェクトにはまもなく助成金が支給され、2021年の後半(または準備ができ次第)には主催者が成果を発表できるようなイベントを企画する。ブレナン氏は、資金提供者はプロジェクトに関与せず、研究を自ら保有したり発表したりしないことを言明した。理に合致するところで調整し、サポートを提供するということだ。

また、130万ドルというのも興味深い数字だ。場合によってはそれは微々たるものかもしれない。スタートアップは1、2カ月でその金額を使い果たすこともある。しかし学術的な観点から言えば、10万ドル(約1084万円)というのは、仕事をやり遂げるか、断念するかの違いになり得る。フォード財団をはじめとする支援団体の慈善活動や無償援助活動の一環として、基層への小規模な注入がより良い環境を作り出すことを期待したい。

関連記事:障がい者のための技術発展を目指す企業を支援するマイクロソフトのアクセシビリティー補助金

カテゴリー:その他
タグ:オープンソース助成金

画像クレジット:MicroStockHub / Getty Images

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

【コラム】プロダクトのアクセシビリティが不十分である可能性を示す4つの兆候

本稿の著者Michael Fouquet(マイケル・フーケ)氏は、製品設計と開発チームに統合されたアクセシビリティツールを提供するスタートアップであるStarkのCTO兼共同創業者。

ーーー

あまりにも多くの企業が、アクセシビリティ機能を最初から製品に組み込むことをしていなかった。その結果、企業は今になって既存製品にアクセシビリティ機能を埋め込む方法を考えようとしている。しかし、何十年も使っている従来のコードや設計を未来に向けて利用することは容易ではない(安くもない)。

企業は、アクセシビリティ対応に向けた改良方法、アクセシビリティ対応プロジェクトを立ち上げるための教育不足に対応する方法、本番環境に対する他の作業の維持とこうした作業のイテレーション範囲とのバランスを取る方法について、恐怖や不確実性を乗り越える必要がある。

米国では、成人人口の26%が何かしらの障がいを抱えて生活している。それで、アクセシビリティのニーズを理解していない企業やその対応が遅い企業は、デジタル製品を作り上げても対象ユーザーが限定されている。新しいユーザーは、使用時に大きな認知負荷がかかる製品を使用できない可能性がある。ローカライズされていない製品を使用しているユーザーは、他の国でリフィル処方箋を利用できないかもしれない。

アクセシビリティは、言わば製品というケーキの主要な材料だ。ケーキ用ミックスに最初に追加すると最もおいしくなる。

このことについて、最近「ネコの弁護士」が話題になった。顔が子ネコになるフィルターが有効化された弁護士が笑いを誘った話だ。しかしこれは同時に、最近の基本ツールに苦戦しているユーザーが大勢いることを気づかせる出来事でもあった。使いこなしているユーザーにとっては、このようなツールがプライベートや仕事で混乱を引き起こしていることを理解するのは難しいだろう。

ソフトウェア製品を扱う企業の創業者であれば、問題点に気づかされる方法として、ネコのフィルターの動画がバズることほど重大な警鐘が鳴らされることはないだろう。少なくとも現時点ではない。残念ながら、ソーシャルメディアがサポートに関する問題を拡散する役割を担うようになってきたため、こうした事態は発生するものだ。このような制御不能の最終警報が鳴ることは避けたい。自社製品が思ったほどアクセシビリティに対応できていないことを明確に警告する兆候が他にも4つある。対応方法と併せてそれを示そう。

1. プロジェクトの初期段階でアクセシビリティの原則を定義しなかった

アクセシビリティは、言わば製品というケーキの主要な材料だ。ケーキ用ミックスに最初に追加すると最もおいしくなる。また、最初から追加しておくやり方は時間効率とコスト効率の面でも優れている。製品リリース後にユーザビリティの問題を修正しようとすると、開発プロセスの初期段階で対応した場合に比べ、100倍もコストがかかることがある。

製品ロードマップは、アクセシビリティの4つの原則に沿って進む必要がある。この原則は頭文字を取ってPOURと呼ばれる。

  • 知覚可能(Perceivable):ユーザーが、ユーザーインターフェイスに表示されるすべての情報を知覚できるようにする必要がある。
  • 操作可能(Operable):ユーザーがインターフェイスの要素を操作し、移動できるようにする必要がある。
  • 理解可能(Understandable):ユーザーインターフェイスのコンテンツと機能は、ユーザーが明確に理解できるようにする必要がある。
  • 堅牢性(Robust):ユーザー補助機能などの技術が進歩しても、幅広いユーザーが引き続き利用できる堅牢性が必要である。

これらの原則に一貫して従うことが必要だ。そうしないと、あらゆるユーザーに製品のアクセシビリティを保証することはできない。

ロードマップ上で、設計、開発、品質保証のプロセスにアクセシビリティ対応を組み込み、製品のリリースやアップデートまで対応を継続する必要がある。そこからまたサイクルが開始される。

つまり、チームの全員がアクセシビリティに関する必要な情報を得て、対応に尽力することが極めて重要だ。各チームからアクセシビリティのプロセスを主導するメンバーを1人ずつ選出し、チームのコンプライアンスの責任者になってもらうこともできる。課題を把握するために、アクセシビリティの監査を含む新しいプロジェクトを始動しても良いだろう。また、セールスチームやサポートチームと情報を共有することで、ユーザーが不便に感じている部分を特定することもできる。

アクセシビリティ機能を組み込むためのこうしたプロセスは、コンプライアンス違反の結果として発生する法的問題を未然に回避するのに役立つ。2019年、視覚に障がいのある男性が、スクリーンリーダーソフトウェアを使用したにもかかわらず、Domino’s(ドミノ)のウェブサイトとモバイルアプリから注文ができず、ドミノを訴えて勝訴した。同じ年に、Beyoncé(ビヨンセ)の会社は視覚に障がいのある女性に訴えられた。製品の所有者は、ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドラインの内容を実装していないと、さまざまな方面から訴えられる可能性がある。

IBMのCarbon Design Systemはアクセシビリティ対応に役立つ。これはデジタル製品向けに用意されたオープンソースの設計システムで、アクセシビリティ対応の製品を構築するための無料ガイドラインを提供している(身体的な障がいと認知的な障がいに対応)。また、製品の完成段階ではなく、完成前のアクセシビリティチェックを支援するソフトウェアツールも用意されている。

2. アクセシビリティを「一度設定すれば後は何もしなくて良い」もののように見なしている

テクノロジーの世界では、設計のトレンドが急速に進化している。チームでは最新のソフトウェアやモバイル機能に対応できているかもしれないが、アクセシビリティには注意を払っているだろうか。

アクセシビリティにはメンテナンスが必要だ。ウェブとモバイルのプラットフォームの要件は常に変化する。その変化についていくことが重要(かつ必要)だ。絶えず微調整とアップグレードを行わないと、時間が経つにつれてアクセシビリティの問題が発生していく可能性がある。

定期的な会議を計画し、製品のアクセシビリティと、アクセシビリティのコンプライアンスについて確認し、話し合おう。他の製品に見られるアクセシビリティ対応に向けた動向を確認したり、インクルーシブデザインのコースを受講したりしても良い(TechCrunchのセッションなど)。A11Y Projectなどのプラットフォームもチームが最新の情報を得るための非常に便利なリソースである。そこでは、書籍、チュートリアル、プロフェッショナルサポートやプロフェッショナルテスターが利用可能だ。

3. 自分もチームもアクセシビリティツールを試したことがない

最高のアクセシビリティツールはチーム自体だ。多様なメンバーで構成されるグループで製品を構築すれば、使用する際の問題点をすぐに見つけて、修正できるし、より成果の高いイノベーションを実現できる。世界的なイノベーターの中には障がいのある人もいるのだ。

チームでの対応とは別に、次のことを自問してみよう。スクリーンリーダーを使ったことはあるか。キーボードだけでウェブサイト内を移動しようとしたことはあるか。さまざまな視覚機能のシミュレーションを行って設計を確認しているか。

答えが「いいえ」なら、主要なアクセシビリティ機能が抜け落ちてしまう可能性がある。障がいのある人の立場に身を置いて、これらのツールを使用することでニーズをより適切に理解できる。

このようなツールをチームでできるだけ早く使ってみることだ。チームメンバーにアクセシビリティの重要性を伝えることに苦労している場合は特にそうすべきだ。視野が広がれば、能力の異なる人たちにとっての製品の操作感を理解しないことは考え難い。だからこそ、ユーザーとして再度製品を使ってみて、新しい観点から確認する必要がある。

4. ユーザーの話を聞いていない

最後に、実際にユーザーと話をせずに真のアクセシビリティを備えた製品を構築できることはほとんどない。大衆は多様性に富んだ批評家の集まりであり、背景や能力の異なる人たちへの配慮が欠けた製品があれば警告を発してくれる。製品に対するユーザー体験はそれぞれ異なるため、これまであらゆる努力をしてきたとしても、問題は発生するであろう。

製品のライフサイクルを通じて幅広いユーザーの話に耳を傾けることだ。そのためには、アップデートのたびにユーザーテストを行ったり、アプリ内の体験についてユーザーにアンケートを記入してもらったり、ニーズの異なるユーザーをあらかじめ選んだフォーカスグループを開催したりすることもできる。

アクセシビリティ対応は、設計として優れている。障がいのある人たちのユーザーエクスペリエンスだけが向上するというのは誤解であり、実際にはあらゆるユーザーにとってのエクスペリエンスが向上する。創業者は誰でも、できるだけ多くの人に自社製品を届けたいと考える。最初に努力してそれがうまくいけば、その後の対応はより簡単になる。同じキットに含まれる別のツールのようなものだ。最初から完璧になることはない。しかし、完璧であることよりも前進することが重要なのだ。

関連記事:インクルーシブデザインの制作に役立つツールを提供するStarkが約1.6億円を調達

カテゴリー:その他
タグ:Starkアクセシビリティコラム

画像クレジット:Sean Gladwell / Getty Images

原文へ

(文:Michael Fouquet、翻訳:Dragonfly)

スタートアップを経済の推進役に据えるスペインの10年計画

スペインはスタートアップを支援する法案の成立を目指して準備を進めている。最近ベールを脱いだこの大規模かつ大胆な改革計画は、2030年までに同国を「スペイン起業国家」(若干ぎこちない西和翻訳だが)に作り変えるという、実に壮大な目標を掲げている。

ペドロ・サンチェス首相は2020年12月、ウェブサミットの壇上で、間近に迫ったスタートアップ法の導入を発表し「高等長官」という役職を新たに設置することを発表した。高等長官の任務は、関連するすべての政府省庁と協力して全国規模の企業経済変革を成し遂げることだ。

この戦略は主に、スタートアップ投資を増やし、人材を惹きつけて確保すること、さらに、スケーラビリティを促進し、公共部門のイノベーションを進めてスペインのデジタル開発を支援できるようにすることを目指している。

上記のスタートアップ法は、スタートアップ分野に特化した同国初の法律である。スペインでの起業を簡便化することを目的とし、税の軽減や、海外からの投資に対する奨励金も導入するこの法律は、画期的なものになるだろう。

スペインの創業者と話してみると、行政、税金、資金調達など、彼らが不満を感じている問題が嫌になるほどたくさん出てくる。さらに、より大きな問題には文化が関係している。例えば、スタートアップが大きな視野で考えていない、リスクを冒して投資する貪欲さが投資家に欠けている、さらには、起業家に対する嫌疑心のようなものが投資業界に限らず社会全体に存在している、といった問題だ。一方で、スペインを本拠地とする投資家たちは、行政面での改革およびストックオプションの改正を待ちきれずにウズウズしている。こうした問題すべてを改善することが、スペイン政府が自ら決めた当面の使命だ。

TechCrunchは、スペインの起業国家戦略を監督する高等長官に任命されたFrancisco Polo(フランシスコ・ポロ)氏に、スタートアップエコシステムの成長計画に関する詳細と、起業家が最初に目にすることになる変化について話を聞いた。

「スペイン起業国家機関は首相直下の新設機関だ。つまり、国家使命を果たすという1つの目的のために各省庁間の調整を図ることができる首相権限の機関がスペインで初めて設置されたことになる。今回の国家使命の目標は、スペインを起業国家に作り変え、歴史上最大の社会的インパクトを生み出すことだ」とポロ氏はいう。

「我々の仕事はすべての省庁間の連携を図ることだ。機関として目指す一連の目的がある。第一に社会的インパクト、つまりスペイン起業国家戦略に含まれるさまざまな対策だ。第二に、この国家ミッションを軸として全員を一致団結させ、さまざまな派閥政党間の調整を図るという仕事もある」。

「最後に、『2030年までに、誰も置き去りにすることのない起業国家になる』というスペイン政府の決断を国民に周知することも注力している。以上が我々の仕事だ」。

大手企業の肩に乗ってスケールアップ

南ヨーロッパ諸国は、英国、フランス、ドイツなどの近隣諸国と比較して、スタートアップ投資を惹きつける力が弱い。その中でスペインは、そうした地理的に優位な国々となんとか渡り合っている。バルセロナ、マドリードなどの主要都市は、創業者たちにとって魅力的な場所として常に上位にランクインしている。これには、コストが比較的安いことや、地中海的ライフスタイルの人気が高いことが大きく貢献していると思われる。

スペインは、各都市の密集性、若者の失業率の高さ、オンラインでのコミュニケーションを喜んで受け入れる社交的な文化などが相まって、消費者向けのアプリを利用したビジネスにとって魅力的なテスト市場となっている。実際、スペイン市場は、2008年の金融危機で大打撃を受けた後、十数年にわたり、潜在的なディスラプト(創造的破壊)能力を実証してきた。

この期間に、(少なくとも成長速度と展望の大胆さという点で)世界的に注目を集めたスペインのスタートアップとしては、 Badi(バディ)、Cabify(キャビファイ)、Glovo(グロボ)、Jobandtalent(ジョブアンドタレント)、Red Points(レッド・ポインツ)、Sherpa.ai(シェルパ)、TravelPerk(トラベルパーク)、Typeform(タイプフォーム)、Wallapop(ワラポップ)などが挙げられる。

スペインの中道左派の連立政権は今、スタートアップ分野の指揮に本腰を入れることにより、経済と生産基盤における広範なデジタル化を推進しようとしている。ただし、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を織り込んだ形で、という条件付きだ。このデジタル化は「誰も置き去りにしないという断固とした原則」に基づいたものになる、とサンチェス首相は2020年12月に語った。

このため、サンチェス政権が長期間にわたって民間および公共部門の関係者に相談して絞り込んだ、エコシステムの支援と成長に必要とされる一連の政策措置は、社会的インパクトに細心の注意を払ったものになっている。つまり、デジタルセクターの規模拡大のみを大急ぎで推し進めてしまうと、同時に達成すべき目標であるさまざまなギャップの解消(地域格差、性別格差、社会経済的格差、世代間格差など)が実現されず、これらの格差がかえって開いてしまうのではという懸念を抱いているのだ。

「我々は政権内でも若い世代だ。我々の世代では、新しい革新的なシステムまたは産業経済システムを構築する際に社会的な影響を考慮しないということは考えられない。戦略モデルの根幹にインクルージョン政策も組み込んでいるのはそのためだ。つまり、この戦略全体は、男女間格差、地域格差、社会経済的格差、世代間格差を埋めることも目標にしている。歴史上最大の社会的インパクトを生み出せる起業国家を2030年までに構築することが最終目標だ」とポロ氏は説明する。

財源も確保されている。スペインは、EU全体の財源から受け取った「Next Generation EU」コロナ復興基金の一部をこの「起業国家」戦略に注ぎ込むつもりでいるからだ。

「具体的にいうと、2021年度には、戦略のさまざまな目的に予算が割り当てられる。策定を始めようと考えている主要な対策に15億ユーロ(約1950億円)以上を確保している。その後、2023年までに、45億ユーロ(約5860億円)以上が残りの対策に割り当てられる。つまり、基本的には、2021年から2023年までの期間でスペイン起業国家の基盤が形成されるということだ」とポロ氏はいう。

戦略の実施は関連省庁(必要に応じてプロジェクトの策定、法案の通過などを行う)に委ねられるが、そこでポロ氏の機関が政府のさまざまな部署や部門に「働きかけ」を行う。つまり、スタートアップと同じ立場に身を置いて「戦略が具体的に実施されるように支援する」わけだ。

この国家戦略では、起業家精神とスタートアップのイノベーションを、スペイン経済の既存セクターを形成するピラミッドの頂上で推進力となり「スペインが目指す革新的システムで陣頭指揮を執る」存在として位置づけている。「革新的な起業にのみ注力するつもりはない。スタートアップエコシステムと、実際にスペイン経済の推進力となっているセクターとの間で好循環を生み出す方法についても考えている。スペインのGDPの60%以上に相当する部分を動かしている10のセクターを挙げた理由もそこにある。これは最も重要な点だ」とポロ氏はいう。

リストに挙げられたセクターは、政府が支援を集中させて育てたいと考えているセクターだ。つまり、デジタル改革に熱心に取り組むことでより多くの利益を得られるセクターでもある。具体的には、観光と文化、モビリティ、ヘルス、建設と材料、エネルギーと環境保護、バンキングと金融、デジタル化と通信、農業・食品、バイオテクノロジーの各セクターだ。

「対象とするセクターをどこかの時点で絞り込む必要があると判断し、スペインのGDPの60%に相当するセクターを挙げることで、我々が求めている変化を加速するための明確な方向性を示すことができると考えた。基本的に、このモデルで実現したい変化とは、これまで封じ込められていた革新的な起業家精神が、原動力となるセクターで機能し始め、これらのセクターが互いに助け合うことでさまざまな問題を解決できるようになる状況のことだ」とポロ氏は説明する。

「例えば、投資の場合、大手企業が現在よりも投資を大幅に増やし始めたら、これも革新的スタートアップシステムへの道筋として加速していく。あるいは、スペインのスタートアップ企業とスケールアップ企業が、人材を惹きつけて維持するために海外企業と協力するようになったらどうだろうか。国として、より有利なポジションに立てるようになるだろう」。

「私が考える最高の例はスケールアップだ。大手企業の肩に乗っかってスケールアップするのが一番ではないだろうか。スペインにはさまざまな市場で世界クラスの国際的な企業が多数存在している。すでに市場に存在していて、ノウハウを持っており、短期間でスケールアップとして成熟するのを支援してくれる企業と一緒にスケールアップできるなら、それが一番ではないだろうか。このように、生み出すことができる好循環は多数存在している。推進力となるさまざまなセクターに広くアピールしていきたいと考えているのはそのためだ。これを実現するためにすべての国民の力が必要であることを国全体に知ってもらいたいと考えている」。

マドリードのEl Retiro Park公園の外に置かれたLimeのシェア用電動スクーター(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

デジタルデバイド

もちろん、デジタル化自体も格差を作り出す。これは、世界的なパンデミックではっきりと示されたことだ。このような状況では、学校に行けなくなった子どもたちの成長は、インターネットアクセス環境があるかどうか、コンピュターが使えるかどうかに大きく左右される。

すべての年齢層の働き手にデジタル化という同じ道を進んでもらうためにはある程度の再教育とスキルの向上が必要となるが、そのような大規模な産業転換を成功させるのはもちろん簡単なことではない。だが、たとえそうだとしても、ソーシャルインクルージョンを前提として起業家の育成を進めるという原則は重要なことのように思える。

「スペイン起業国家」を10年計画にしたということは、インクルージョンには時間が必要だという事実を政府も認識しているということなのだろう。

ポロ氏によると、このような長期の計画を策定することには、スペインの政策は短期的なものばかりだというよくある批判に対応する意図もあるという。同氏は「特にスペイン国内では、政策がいつも短期的な視野でしか考えられていないという批判が絶えなかった。この国家戦略は、現政権が短期的視野の問題に対応するだけでなく、スペインの将来にも備えようとしている証拠だ」と指摘し「長期的なビジョンを提示することは良いことだと確信しているし、それが社会の要求に応えることだと思っている」と付け加えた。

スペインには別の側面もある。この10年ほどで、デジタル技術の進歩が明確な社会的影響を与えたという申し立てを欧州の法廷に持ち込んで勝訴した国というイメージが定着したのだ。例えば、2010年には、あるスペイン人が自分に関する古い情報をインデックスから削除するようGoogle(グーグル)に要求したが拒否されたため、訴訟を起こした。その後、2014年に、欧州最高裁判所は俗に「忘れられる権利」と呼ばれる権利を支持し、原告勝訴を言い渡した。

Uber(ウーバー)の規制回避行為に対して訴えを起こし、勝訴したのもスペインのタクシー業界だった。このケースでも、2017年、欧州の最高裁は、ウーバーは同社が主張してきたような単なるテクノロジープラットフォームではなく輸送サービスであり、地元の都市の輸送規則に従う義務があるという判決を下した。

関連記事:ヨーロッパのUberに打撃、EUの最上級審が交通サービスだと裁定

それからしばらくの間、反ウーバー(および反キャビファイ)を主張するストライキが、スペインの路上でたびたび行われるようになった(ときには暴力沙汰になったこともある)。不正な競争を行っているアプリベースの同業者2社に対して法が適正に執行されていないと思われる、というのがタクシー業界の主張だった。

ギグプラットフォームは(欧州発のプラットフォームでさえ)こうした抗議行動を保護主義(または反イノベーション的)であるとして一笑に付す傾向があるが、彼らは自社のビジネスモデルの合法性に異議を申し立てる訴訟で頻繁に敗訴してきた(最近では英国最高裁で、ドライバー / ライダーは自営業者であるとするウーバーの分類を却下する判断が下された。これによりウーバーは多額の福利厚生費を支払う責任を負うことになる)。

これらすべての事例から言えるのは、スペイン社会には不公正に断固として抗議する気持ちが強い部分があり、華々しい最新のテックツールであっても、それが不公平な扱いの源泉になっているなら許すべきではないと感じると、積極的に、ときには本能的にこうした示威行動に出るということだ。つまり、スペイン人は自分にとって本当に重要なものとは何かを正確に把握しているようだ。

スペイン政府がスタートアップにやさしい政策を推進する国家戦略を発表した際に、誰も置き去りにしないこと(ソーシャルインクルージョン)をわざわざ強調した理由も、これで説明がつくかもしれない。

起業国家戦略に含まれる約50の支援政策の中では「スマートな規制」という考え方が言及され、(まずは規制準拠について頭を悩ませずに)製品を公にテストできるサンドボックス環境というアイデアが提案されている。

サンドボックス環境を公開するというアイデアは地元のギグプラットフォームGlovo(グロボ)から高い評価を得ている。グロボの共同創業者であるSacha Michaud(サーシャ・ミショー)氏は次のように述べている。「この考え方はとても重要だと思う。テスト段階で規制の悪夢に悩まされることなく製品やサービスをテストできる革新的なアイデアだ。これにより、イノベーションが大幅に促進される。この方法は金融サービスで効果的に機能するだけでなく、広範なテック領域にも適用できる可能性がある」。

ミショー氏によると、より多くの投資をスペインに惹きつけ、ストックオプションを改正し、地元企業の競争力を高めて人材を惹きつけられるようにすることも重要な優先課題だ。

同氏は、政府の起業国家戦略とスタートアップ法については全面的に支持するが、立法化には時間がかかると予想されるため、すぐに結果が出るとは思っていないという。

一方で、ミショー氏は、ギグプラットフォームを規制するために政府がすでに策定した計画には不満を持っている。そこでは、宅配業務がやり玉に挙げられていて不公平だと同氏はいう。労働省が取り組んできたこの改革は、ギグワーカーを自営業者として分類するギグプラットフォーム側に対して近年起こされた多くの訴訟を考慮に入れて策定されたものだ。それには、2020年スペインの最高裁でグロボが敗訴したケースも含まれる。

「グロボのケースでは、政府はライダーと宅配プラットフォームを規制することにのみ目を向け、その一方で、物流、サービス、搬入といった約50万人の自営労働者については現状維持を許している」とミショー氏は指摘し、このような扱いは「極めて差別的だ。ひと握りのテック企業のみを規制対象とし、IBEX35に含まれる従来のスペイン企業については現状維持を認めている」と語る。

労働法の改革の進捗状況について聞かれたポロ氏は、作業は進行中であるとだけ答えた。「彼らが行っている作業をすべて把握しているわけではない。私が知っているのは、おそらく君たちマスコミが知っているのと同程度のことだ。さまざまな企業に話を聞いているし、ギグプラットフォーム企業ともオープンな対話を続けている」と同氏はいう。

しかし、テック主導による働き方の変化を考慮に入れて規制改革を進めることが、より広範な意味での起業国家戦略における重要な要素ではないのか、と問われると、同氏は、この国家転換計画の「最終目標」は「雇用の量と質を上げることだ」という点も強調した。

「我々は常に、そのような質の高い雇用を継続して創出できる企業を育むよう努めている。スペインのさまざまなギグプラットフォーム企業が、この最終目標を理解していると認識している。彼らは、この目標の実現に向けて進むことで、企業も国も利益を享受することができることも理解している。そして、彼らが積極的に変革を行い、進化すれば、国も進化することになる」とポロ氏は語る。

本記事の執筆中、バルセロナの通りは、ラッパーのPablo Hasél(パブロ・ハーゼル)氏が自身のソーシャルメディアへの投稿(警察による暴行を非難するツイートなど)が原因で収監されたことに抗議するデモで大変な騒ぎになっている。スペインの裁判所は、ハーゼル氏の行為がテロリズムを美化するもので、刑法に違反していると判断した。

スペインの法律は長い間、テロリスト関連の領域において不当に厳しすぎると非難されてきた。例えば、Amnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は、ハーゼル氏の収監を「表現の自由に対する過度かつ不当な制限」であると非難している。近代化を進める起業支援国家に変わろうとする一方で、裁判所がツイートの発言内容を根拠に容疑者を収監するというのは矛盾しているように思えるが、ポロ氏はその点を一蹴する(この法律に違反したアーティストや市民はハーゼル氏だけではない。いずれも、不面目なことに、ソーシャルメディアで発したジョークから始まっている)。

ポロ氏は次のように反論する。「矛盾するところは何もない。スペインは世界でも最も堅牢な民主主義国家の1つだ。これは何も我々自身が言っているのではなく世界的なランキングがそれを示している。さらに、スペインでは法の支配が機能している。このケースの場合、被疑者が法律で定められている一線を越えたことは明らかだ。言論の自由は無制限に認められるわけではない。他の人の権利を侵害しない範囲で、という条件がある。つまり、このケースは言論の自由とは残念ながら何の関係もない。パブロ・ハーゼル氏が収監されたのは、同氏がテロリズムを助長する発言をしたからだ」。

「ツイートでの発言が原因で収監」と聞いて国際社会はどう反応すると思うかと問われると、ポロ氏は、刑法を修正したいと考えているという最近の政府の発言を繰り返し「修正したい条項は確かにある。時代は進んでいるからだ。現在の我が国は1980年当時よりもはるかに成熟している。刑法にも修正すべき条項はある。しかし、そのことと、最近の事例とは何の関係もない」と付け加えた。

ラッパーのパブロ・ハーゼル氏の収監は言論の自由に反するとして抗議する、バルセロナ市内の街角の落書き(画像クレジット:Natasha Lomas/TechCrunch)

マインドセットを変えるための手段

より広範な文化的な課題、つまり、国家的なマインドセットをより起業家精神にあふれたものに変革する方法について、ポロ氏は、同氏に課せられたミッションの実現に自信を見せる。問題の全体像と国が提示している未来のビジョンにおける国民の位置づけの両方を国民自身が理解していること、そして政府が誰も置き去りにしないよう積極的に取り組んでいることを国民に分かってらもうことが重要だと同氏はいう。

ポロ氏は次のように説明する。「この点については自信がある。私が政界に入る前に従事していた職で蓄えた知識を活かせるからだ。マインドセットを変えるのに役立つと思う。私は以前、自分では到底できないと思っていたことが実はできることを理解する、つまり、マインドセットを変える方法を大勢の人に教えることを仕事にしていた。私の理解では、そのような文化的な変化を起こすためにまずやらなければならないことがある。それは、未来のビジョンを描くことだ」。

2030年までにスペインは起業国家になると同時に、歴史上最大の社会的インパクトを与えること、そしてそのための計画があることを我々が強く主張するのは、そのためだ。その計画では、起業に注目し、この新しい革新的モデルを引っ張ってもらう役目を果たしてもらう。経済の原動力となっているあらゆるセクターの力を活用して、世界的な経済国家としての成功を積み上げながらこの計画を実現していく。男女間格差、地域格差、社会経済的格差、世代格差をなくすために、この国家的戦略の基本部分にインクルージョン政策を含める理由もそこにある。

「文化的な側面を変えるには、国民を今の自分たちよりも優れた何かの構築に向けて団結させる必要がある。スペイン起業国家戦略によって、そのための最初の一歩を踏み出したと思っている。スタートアップ法がこの戦略と同じくらい重要だと言っているのは、そのためだ」とポロ氏はいう。

まもなく、スタートアップ法(別称anteproyecto de ley)の草案が提出される。この草案が閣僚会議で承認されると、国会での広範な審議を経て、必要に応じて修正が行われ、起業国家戦略と足並みをそろえて策定される最初の法律となる。これが、同戦略の最初の成果物となりそうだ。

ただし、この新しいスタートアップ法が成立するまでに、あとどのくらい時間がかかるのかは、まだわからない(スペインの政治には長い間、合意が欠如してきた。サンチェス首相の「革新連立政権」も、与党であるスペイン社会労働党による過半数の確保に2回続けて失敗した後にやっと確立された)。

法案可決に要する時間についてポロ氏は「それについてはまだ何とも言えない。承認までに要する期間は法案によって異なるからだ。ここで重要なのは、スタートアップ法にはすべてのプロセスが含まれているという点だ。つまり、承認に至るまでのすべての過程で完全に同意が得られるようにすることで、今後も堅牢な安定した法律になる」と説明する。

ポロ氏によると、エコシステムが「長年」求めてきたこの待望の法律が成立すれば、スタートアップの法的定義(他のタイプの企業との相違点を明確にするもの)から、スタートアップが人材を惹きつけて維持するための手段まで、多くの問題が解決されるという。

「ストックオプションを改正して、世界市場での人材確保競争で勝ち抜くための道具として使えるようにする必要がある」と同氏は言い、要するにスペインが、英国、フランス、ドイツなどの他の欧州諸国にはすでに存在している体制と競争できるようにすることが目標だと付け加えた。

「ビザも改正してそうした人材を再度、惹きつけ維持する必要がある。首相は投資の奨励、ある程度の減税についても話していた。エンジェル投資家にはより大きなインセンティブが必要であることは我々も理解している。プレシードおよびシードステージの投資については、法律で規定されたロジカルなシステムの導入が必要だ。他にもやるべきことはたくさんある。最終的な法案は経済産業省で作成され、その後閣僚会議に回される」と同氏は続ける。

ポロ氏は、スタートアップ法によって、スペインの創業者と投資家が持つあらゆる不満が即座に解消されるわけではないと警告する。当然だが、そこに至るまでには相当な時間がかかる。

「我々が戦略を立てるのもそのためだ」と同氏は強調する。「スタートアップ法への関心が高まっていることはわかっているが、私は常に、スタートアップ法と同じくらい重要なのがスペイン起業国家戦略であると言い続けている。スペインのエコシステムが抱える大きな問題を解決してくれるのは、まさにこの戦略だからだ。この戦略は、スペインが抱える4つの大きな課題に挑むものだ」。

「第一の課題は投資だ。我々はスペインでの投資の成熟速度を加速させる必要がある。投資件数は年々増えているし、状況は悪くない。今必要なことは、投資件数を加速度的に増やして、より早く成長し、近隣国(基本的にはドイツとフランス)との差を埋めることだ。この両国の投資件数はスペインの4~5倍にもなる。10年後には、スペインが欧州本土での革新的な起業家に対する投資をリードする存在になっていたいと思う」。

「第二の課題は人材だ。起業国家を構築するには、持てる人材をすべて注ぎ込む必要がある。そのため、国内の人材を育成することはもちろん、海外の人材も惹きつけて、その人材を維持する必要がある。さまざまなツール(仕組み)をスタートアップ法に含めることを検討してきた理由もそこにある」。

「第三の課題はスケールアップだ。スペインには、成功とはすなわち自社を売却することであると考えている企業がたくさんある。それはそれでまったく問題ない。だが、スペインが国として求めているのは、会社の売却を成功と同じ意味とは考えずに、世界中の他のスタートアップを買収することを考える企業が今後どんどん増えていくことだ。つまり、成長する企業、スケールアップする企業が増えていくことだ。今、大企業の構築を始めれば、2030年までには、スペインで質の高い数千の雇用が創出される。これが起業国家戦略の最終目標であり、最も重要な点だ」。

「第四の課題は、政権を起業家精神を持つ政権に変える、つまり、政権内において敏捷性を向上させ、ポジティブなベンチマークを打ち立てていくということだ。さらには、高リスクを厭わないベンチャーキャピタルファンドでさえできない投資をときには公的部門が行うことも意味する。こうしたビジョンを提示し、そのビジョンを達成するための手段を用意することこそ公的部門の役割だからだ。スペインのエコシステムが抱えるすべての課題のうち、この課題は戦略の中で組み立てる必要がある。スタートアップ法という1つの法律だけでなく、スペイン起業国家戦略に含まれる50の対策すべてを使って対処すべき課題だ」。

より包括的な起業国家戦略では、特定のプロジェクトによって今後2年間で策定すべき9つの優先アクションについて説明されている。ポロ氏は、このプロジェクトは、EUのコロナ復興基金によって近々に加速化されると見ている。

同氏は2つの優先プロジェクトを目玉として挙げている。1つは、起業家と政策立案者を広範なエコシステムに結びつけるネットワークを作ること。もう1つは、インキュベーターとアクセラレーターをつなげて創業者向けの国家支援ネットワークを構築することだ。どちらも、他の欧州諸国で採用されているアプローチから着想を得たものだ。

これらのプロジェクトの中にOficina Nacional de Emprendimientoというプロジェクトがある。これはフランスのLa French Techに強く触発されて立案したもので、起業家、投資家、およびエコシステムの他の構成要因が、中央政府、地域、CP評議会のあらゆるコラボレーション機会に参加するためのワンストップショップを作ることにより、それぞれの領域での起業家精神を向上させることを目的とする。

「また、Renace(Red Nacional de Centros de Emprendimientoの略)のようなプロジェクトもある。これもやはり、とても興味深い取り組みを行っているポルトガルのネットワークから着想を得たものだ。目的は、スペインのさまざまなインキュベーター、アクセラレーター、ベンチャービルダーをつなげることだ。まずはつなげて、そこから価値を付加していくのだが、その際にさまざまな格差に焦点を当てる」。

「Renaceでは、特に、地域間格差の解消に焦点を当てている。例えば、バルセロナに本社を置く企業に所属するカセレス在住のエンジニアと仕事をするとか、マラガで創業した会社に所属するバスク自治州在住のデザイナーのチームと仕事をするといったことができたら非常におもしろい。Renaceでは、国レベルで一体化することを目的としており、単に個々の都市だけでなく、起業国家になることを見据えている。スペインにはこうした仕組みを構築するポテンシャルがある。それと同時に、他にも多くの問題がある」。

フランスだけでもR&Dとデジタル分野の直接支援に年間数十億ドル(数千億円)を費やしている。スペインは、EUからの調達資金を加えても、財政的に豊かな北ヨーロッパ諸国の「エコシステム」の支出レベルにはおよびそうもない。しかし、ポロ氏によると、スペインの計画では、現在の予算と、集めることができるリソースを最大限に活用するという。したがって、Renaceプロジェクトでは既存のインキュベーターとアクセラレーターをつなげること(そして官民パートナーシップの形成などによって「新しい価値」を追加すること)が重要となる。

関連記事:フランスが新型コロナで打撃を受けるスタートアップ救済に約4780億円注入

「スペインの起業国家戦略を読めば気づくと思うが、この計画は、起業国家の構築を開始するために億万長者がテーブルの上に用意した資金で始めるといった安易なものではない。そうではなく、ビジョンを作成し、手持ちのさまざまなピースを組み合わせて堅実に築いていくものだ。スペインという国が持っているさまざまな資産をうまく連携させて、今手元にあるすべてのものを最大限に活用できるようにする、そんな計画だ」。

スペインはすでにスタートアップクラスターの最前線でよく健闘している、とポロ氏は主張する。欧州で「起業に最も適した都市」といった類のリストで同一国内の都市がいくつも上位10位にランクインしているのは、ドイツ以外ではスペインだけだ。「イノベーションを起こす起業家を求める世界的な競争」に参戦するスペインの都市が増えているため、こうしたリストにおけるスペインの順位はさらに上がっている、と同氏はいう。

同氏はまた「スペインのあちこちに、起業家がこの種の経済を形成するのを支援する場所になりたいと渇望している都市や地域が多数存在している。これからもっと増えるだろう」と指摘し、Renaceのソーシャルインクルージョンがもたらす価値に期待を寄せている。

「Renaceを通じて、前述の国家支援ネットワークを形成し、付加価値を生み出したい。ここでいう付加価値とは、サービスを提供し、公共部門と民間部門のパートナーシーップを形成して、国内に存在するさまざまな場所の価値を高めることだ。例えば、バルセロナにある会社が、カセレスなどの都市でたくさんのエンジニアを見つけることができたらどうだろう。カセレスは給与が安いためバルセロナの会社の競争力が高まる。カセレスで最高水準の給与を支払ったとしてもバルセロナで支払う給与の3分の2ほどで済む。こうしてバルセロナの会社は競争力を高めることができるが、効果はそれだけではない。カセレスの都市に住んでいて、ずっとカセレスにいたい、家族と一緒に暮らしたい、カセレスで一生かけてやりたいことがある、と思っているエンジニアはカセレスに残ることができる。これが、地域間格差を解消して、真の意味で統合されたスタートアップ国家として歩み続けていく方法の一例だ」。

「スペイン起業国家戦略の最終目標は、スペインをさまざまな危機の影響を回避できる国家に作り変えることだ。例えば、2008年のリーマンショックでは大半の脆弱な雇用が一夜にして失われた。失業者数が数万人単位で増えたほどだった。若者は特に大きな打撃を受け、失業率は55%を超えた。移民や50歳以上の人たちも同じだった。あのような事態は二度と起こしたくない。そのためにスペインには何が必要か、という点について深い議論が行われ、国の生産基盤を変える必要がある、という結論に達した」と同氏は続ける。

「革新的な起業セクターが先頭に立ってスペインの新しい経済モデルを推進する戦略を組み立てる理由もそこにある。このモデルでは推進役となるさまざまな経済セクターを活用することになる。つまり、この戦略に記載されている10のセクターだ。どのセクターも21世紀の戦略には欠かせないものである。これが、新世代の政治家によって立案された、新世代の野望に応えようとする戦略であることを考えるとなおさらだ。しかし、その戦略ではこの現象の社会的影響が考慮されていない。我々がインクルージョン政策の策定にも注力しているのはそのためだ」。

ポロ氏はスペインを旅して回ったときに出会った特に有望なスタートアップについて、具体名を挙げることはせず、その代わりに、近い将来必ずスペイン国内および(政府が望むように)海外でビジネスをディスラプトすると同氏が信じている「多数の超革新的企業」(バッテリー充電会社から、衣類の新しい製造方法に取り組んでいる小売りディスラプタまで、広範囲に及ぶ)に言及した(同氏は簡潔に「想像が追い付かないほどの多様なイノベーション」と表現した)。

ポロ氏は、自分の最重要使命は「世界中にスペインの存在を知らしめること」だと認め、次のように付け加えた。「我々があらゆる機会をとらえて取り組んでいるのは、これらの企業の認知度を高めることだ。スペインには、国として成功するために、そして、歴史上最大の社会的インパクトを生み出す起業国家になるために必要なものがすべてそろっていることを、スペイン人だけでなく世界中の人たちに知らせることが我々の使命だ」。

関連記事
新型コロナに対抗する投資家たち、ポルトガル投資家にインタビュー(前編)
新型コロナに対抗する投資家たち、ポルトガル投資家にインタビュー(後編)

カテゴリー:その他
タグ:スペインコラム

画像クレジット:Juanedc / Flickr under a CC BY 2.0 license.

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

Apple Cardプログラムは公正貸付法に違反していないとNY州金融サービス局が報告

米国時間3月23日に、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)は報告書を発表し、Apple Cardプログラムの差別的慣行、特にジェンダーに基づく差別の疑いは、2019年11月のオンライン上の告発を発端とした調査の結果、払拭されたことを明らかにした。

当時、技術系実業家のDavid Heinemeier Hansson(デイヴィッド・ハインマイヤー・ハンソン)氏がApple Cardを申請した際、同氏に設定されたクレジット利用限度額が妻に提示された額の20倍であったことについて、ジェンダーに基づく差別であるとツイートしたことから始まった同調査。同夫婦は共同で確定申告を行い、妻のクレジットスコアは同氏よりも高かったにもかかわらず、こういった利用限度額の判断がくだされていたのだ。Apple Cardプログラムは、AppleとGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)が共同で運営している。

ハンソン氏のツイートをきっかけにこの問題が拡散し、Appleの共同創業者であるSteve Wozniak(スティーブ・ウォズニアック)氏をはじめとする複数の人からも反応があった。同氏もパートナーとApple Cardを申請したときに同じようなことを経験したという。

ハンソン氏の妻であるJamie Heinemeier Hansson(ジェイミー・ハインマイヤー・ハンソン)氏も、自身の体験を詳細に記録したブログ記事を投稿している。

消費者からの数々の訴えはすぐにニューヨーク州金融サービス局の注意を引くこととなり、同局はゴールドマン・サックスのクレジットカード業務について調査を開始し、問題となっているジェンダーに基づく差別が行われているかどうかを検証した。

NYDFSの報告書を他に先駆けて報じたAppleinsiderによると、ゴールドマン・サックスは初めの段階で、配偶者よりも著しく低い信用スコアを提示されていた一部の女性の信用情報ファイルを再調査し、配偶者の信用スコアに合わせて限度額を引き上げることを決定していたという。同行は当時、与信判断に対する異議申し立てのための6カ月の待機期間も廃止している。

これらの行動から、Apple Cardのアルゴリズムが、性別に基づく不当な信用価値評価をしている可能性があることがうかがえるが、同局はそのような事実は存在しなかったとしながらも、信用スコア改革の必要性や、信用アクセスに関する既存の法律の改正について強調している。

NYDFSは、Appleとゴールドマン・サックスからの数千ページに及ぶ記録と書面による回答を調査し、Apple Card利用者への聞き取りや、Appleおよび同銀行の代表者との面談を行い、Apple Cardに申し込みをしたニューヨーク州40万人近くのデータセットを使って同行の引受データを分析したと述べている。さらに、差別を感じたという消費者にもインタビューを行った。

同局は、公正貸付法に基づく申請者に対する「違法な差別」はないと結論づけた。しかし、金融サービス監督官Linda A. Lacewell(リンダ・A・レースウェル)氏の声明では、信用融資制度自体には依然として差別があり、信用スコアが信用への不平等なアクセスにつながる可能性があることが強調された。

「公正貸付違反は認められませんでしたが、今回の調査は、同一信用機会法(ECOA)が制定されてから50年近く経過しても信用へのアクセスにおける格差が存在することを、私たちに思い出させるものでした」とレースウェル氏は述べている。同氏は「報告書はまた、信用へのアクセスを改善するために、信用スコアリングにおける現在の慣習や法律、貸し手に対する差別規制に近代化と強化を施すべきという点についても触れています」としたうえで、アカウント所有者に承認されたユーザーを追加することを許可しないというApple Cardのポリシーは適切ではないと感じる消費者に対して「配偶者の信用へのアクセスに依存し、承認されたユーザーとしてのみアカウントにアクセスする場合、配偶者と同じ信用プロフィールを持っていると誤解してしまう可能性があります」と注意喚起し「これは、公平な信用アクセスに関して私たちが議論しなければならない広範な問題の一部です」と付け加えた。

苦情を寄せた消費者の間で共通する要素の1つは、同一の銀行口座やクレジットカードのような共有資産にアクセスできる配偶者は、たとえそれが認可されたユーザーにすぎないとしても、配偶者と同じ信用条件を受けられると考えていることだった。しかし現在のシステムでは、引受機関は承認されたユーザーをアカウント所有者と同じように考える義務はなく、他の要因も考慮する可能性がある。調査によると、これらの要因が組み合わさって、融資判断の低下につながったという。

同局はゴールドマン・サックスに照会し、消費者からの苦情を受けた融資の決定に関する引受手続きの文書化に至ったという。性別による影響は見られなかったが、配偶者のクレジットスコア、負債額、収入、クレジット利用率、未払い、その他クレジット履歴などの要素が関与していた。確認された要因のいずれについても、与信判断の「違法な根拠」ではなかったと同局は述べている。

もちろん信用スコアシステム自体は、全体的に見ると男性に有利なものだ。(特に白人男性に対しては)。その根拠は単一ではないものの、多くの場合、女性が主に保護者としての役割を果たしていることと、信用スコアリングモデルの仕組みに関係している。これは改革が必要なシステムではあるが、Apple Cardプログラムと差別に対する苦情が見られたケースについては融資決定に際して「合法的に」使用されていた。

しかし同局は、Apple Cardの融資決定には透明性が欠如していることを指摘し、これらの苦情に対する銀行の決定に関するデータを当局は入手できたが、影響を受けた消費者は入手できなかったことを明らかにした。また、Appleが6カ月の待機期間を設けるのではなく、より堅牢な異議申し立てプロセスを提供できたのではないかと指摘している。

Appleはそれ以来いくつかの問題に対応しており、2020年は申請者がApple Cardの承認に必要な手順を踏むのに役立つ「Path to Apple Card」をローンチした。これまでに7万人以上の消費者がこのプログラムに登録し、約5,000人が承認されている。Appleはまた、同社ウェブサイトを更新しApple Cardの承認方法に関する詳細情報を公開した。そして現在、Apple Cardファミリー共有機能のサポートを追加しようとしているところだ。これは少なくとも、配偶者がより高い融資限度額を利用できないという問題に対処することになるだろう。

それでも今回の調査では、Appleが自身の信頼あるブランドと、消費者が好まないような銀行慣行をともなう従来型の貸し手が発行するクレジットカードとを組み合わせることで直面した問題に加えて、透明性の欠如が融資決定に対する信頼をいかに損なったかが浮き彫りになった。

ゴールドマン・サックスは調査結果に関する声明を発表している。

「金融サービス局の徹底した調査に感謝するとともに、融資の公平性に違反がないという結論を好意的に受け止めています。引き続き、信用への公正で平等なアクセスを提供することに専心してまいります」と述べている。

この調査全体が動き出すきっかけとなった最初のツイートを発信したハンソン氏にコメントを求めた。

「これはゴールドマン・サックスのプレスリリースのようなもので、私たちのケースの特定の事実を無視しています。妻は私よりも高いクレジットスコアを持っていましたが、そのクレジットの10分の1の価値であると判断されました。信用評価プロセスには透明性がなく、申請者は拒否された理由を知ることができませんし、ゴールドマン・サックスやAppleの従業員も理解しているようには見えません。アルゴリズムによるブラックボックスの影響は依然として存在しており、監査が行われる可能性はなく、不公正な結果が継続しています。完全な規制の破綻と言えるでしょう」。

【更新(2021年3月23日午後3時)】初版発行後にコメント付きで更新した。

関連記事:アップルがApple Cardの審査に落ちた人のための信用度改善プログラム「Path to Apple Card」をスタート

カテゴリー:その他
タグ:AppleGoldman SachsApple Cardクレジットカードニューヨーク

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

【コラム】WeWorkはサービスをバラ売りすることで立て直しを図っているがその戦略はうまくいくのか

長年にわたり、WeWork(ウィーワーク)はテック企業と不動産企業のどちらに分類されるかという議論があった。WeWorkについて大部分の人々は当初、テック系スタートアップを装った不動産系スタートアップだと考えていた。

WeWorkが多くの不動産を手に入れることで、その分類は曖昧になっていった。そしてご存じのとおり会社の評価額が急落したため、IPO計画が白紙となった。現在、SPAC株式を公開することがうわさされているWeWorkの評価額は100億ドル(約1兆894億円)だが、2019年1月にSoftBank(ソフトバンク)によるシリーズHラウンドで10億ドル(約1089億円)を調達後の470億ドル(約5兆1204億円)という評価額と比べると、評価が大幅に下がっている。

Adam Neumann(アダム・ニューマン)氏は、傲慢でお粗末な経営について批判を受けた共同創業者で当時のCEOだったが、その年の後半に辞任したことで有名だ。それ以来、WeWorkは名誉を挽回し、投資家や一般の人々の印象を良くしようと努力してきたことはよく知られている。

Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)会長は、5年にわたる戦略的再建計画を2020年2月に作成した。窮地に立つ同社は同じ月に、新しいCEOにテック系ではなく不動産を担当する幹部を指名したことで話題になっている。

関連記事
WeWorkのニューマンCEOが辞任、非常勤の会長職に
WeWorkの新CEOは米国最大のモール運営不動産会社の元トップ

WeWorkはその後、評価額の引き上げと投資家の信頼回復を目指した計画の一環として、2022年までにフリーキャッシュフローの黒字化という目標を再設定した。

ライバルのKnotel(ノテル)が経営が悪化したため破産申請し、投資家に資産を売却するのを目の当たりにし、ノテルの失敗から教訓を得るべきだとWeWorkは気づいたようだ。

関連記事:ソフトバンクの好調な決算報告から同社が語らないWeWork回復の内情を探る

ここでふと、WeWorkは本当に危機を脱したのかという疑問がよぎる。

オープンしていないロケーションや採算がとれないロケーションからWeWorkが撤退した件数は、再建計画の策定以降で100件を超えるという(同社のウェブサイトによると、世界中に800件以上のロケーションが残っている)。さらに、WeWorkの純損失は、2019年第3四半期の12億ドル(約1308億円)から2020年第3四半期には5億1700万ドル(約563億円)に減少した。

一方で収益が悪化した原因は、新型コロナウイルス感染症の影響と思われる。2019年第3四半期に9億3400万ドル(約1018億円)だった収益が、2020年第3四半期には8億1100万ドル(約884億円)に減少した。

WeWorkはパンデミックで苦戦を強いられているが、これはチャンスであるという意見もある。

テレワークでの業務により、人との距離を保たなければならないため、ほとんどのオフィススペースは苦戦している。WeWorkもこの状況を乗り切らなければ、評価額や収益に大きな打撃を受ける可能性が高い。

世界中の不動産会社と同じように、WeWorkも頭を抱えている。テレワークが一時的なものではなく、多くの企業が今後も継続していく方向性を検討している状況であるため、物件の所有者も対応しなければならない。

たとえばMcKinsey(マッキンゼー)が最近指摘したように、物件の所有者には柔軟性がさらに求められ、テナントのリース契約を考え直すことを余儀なくされている。つまり、商業不動産スペースの経営者には、WeWorkのような柔軟性が必要であるということだ。

状況に適応しようとすでに動き出しているWeWorkは、同社の会員専用プランがうまくいっていなかったことに気づいた。会員数が減少していることからそれは明らかだ。そのため同社は、On Demand(オンデマンド)オプションとAll Access(オールアクセス)オプションを新設することで、多くのユーザーに建物を開放することにした。例えばテレワークにうんざりしている人に対して週に1回、仕事をする場所を提供することが目的だ。さらにWeWorkは企業や大学と協力し、オールアクセスの特典としてオフィススペースを提供するチャンスや、学生に学習場所を提供するチャンスを見いだした。

たとえばジョージタウン大学は、WeWorkとかなりユニークなパートナーシップを結んだ。WeWorkのロケーションの1つを「ジョージタウン大学の代替図書館および共用スペース」として提供している。Brandwatch(ブランドウォッチ)などの企業も最近、これまで使用してきたWeWorkのスペースの代わりにオールアクセスのパスを従業員に渡して、世界中にあるWeWorkのロケーションを利用するようにしている。

WeWorkは2021年初めに、週末と営業時間外にスペースを使用する予約サービスも新たに始めた。

スペースのバラ売り

筆者はWeWorkの新戦略について、Prabhdeep Singh(プラッブディープ・シン)氏から話を聞いた。同氏はWeWorkのマーケットプレイスグローバル責任者で、新しいサービスを統括し、WeWorkのオンライン化に向けて指揮をとっている。

「私たちが取り組んでいるのは、スペースをバラ売りにすることです。これまで当社のスペースを利用するには、サービスがまとめられたサブスクリプションと、月額制の会員サービスしかありませんでした。新型コロナウイルス感染症によって世界が変わりつつあるため、当社のプラットフォームをより多くの人々に開放し、できる限り柔軟に利用できるようにしました。例えば、部屋を30分だけ予約したり、1日利用券を購入したりできます。いろんなユースケースが可能です」と彼は述べた。

シン氏によると、2020年8月にニューヨーク市でオンデマンドサービスが試験的に開始されて以来、サービスの需要が着実に伸びており、2020年第4四半期と比べて予約数は65%、売上は70%増加している。ただし、これはまだ初期段階で、サービスは小規模に開始されたにすぎない。オンデマンドサービスの予約のほぼ3分の2はリピーターによるものだと、シン氏は付け加えた。

「私たちは1年半をかけて、注力するべきものとそうでないものを真剣に考えてきました。スペースを柔軟に提供する企業として、今後の状況を注視しています。商業オフィススペース業界で当社は小さな存在にすぎませんが、テクノロジーを駆使しつつアプリを改善しながらスペースのデジタル化を進め、柔軟にワークスペースを提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。

今のところ、わずかながら状況はよくなっているようだ。WeWorkによると、2月のアクティブユーザー数は1月の約2倍になった。勤務時間外に利用することを希望するユーザーが多いようで、週末の予約数が予約全体のおよそ14.5%を占める。

WeWorkによると、既存メンバーがパンデミック期間中に、すでに利用しているプライベートオフィススペースに加えて、2020年2月にオールアクセスパスを購入した件数は1月の2倍になった。

新型コロナウイルス感染症の流行が始まった頃、WeWorkの利用を中止する数が多かったのは大企業の会員よりも、中小企業(SMB)会員だった。SMBはその事業の性質上、キャッシュフローを迅速に管理することが必要であるというのが一因だが、2020年第3四半期には、SMB向けの売上高が第2四半期に比べ50%増加した。

WeWorkを使用する大企業の割合は、パンデミックの期間中にSMBの2倍近くになり、現在ではWeWorkの会員数の半分以上を大企業の会員が占めているのは興味深い。

WeWorkは特定の市場で不動産に新たに投資する速度を緩めるのと同時に、物件を売却することで規模の「適正化」に取り組んでいる。

WeWorkの財務状況に関して言えば、3月2日時点で、同社の債権は株式公開に失敗した2019年夏以来の高値で取引されているという。これは、下落率が約28%の52週安値から大幅に上昇している。

「利回り約10%に対して約92%となっており、債権者は明らかに肯定的に反応しています。ワークスペースを提供するWeWorkの柔軟なサービスが、不動産の将来において有望な役割を果たすという市場全体の信念を、債権者の反応が証明しています」とスポークスマンはTechCrunchに語った。

2020年の3月、WeWorkの債権1ドル(約110円)に対して43セント(約50円)で取引されており、S&P Global(S&Pグローバル)はWeWorkの信用格付けを「投資不適格」に引き下げ、さらなる格下げを警戒して同社に目を光らせている、とForbes(フォーブス)誌は報じた。

この状況にWeWorkは適応しきれていない。シン氏がTechCrunchに語ったところによると、WeWorkの価値提案をさらに拡充するために「Business in a Box(ビジネス・イン・ア・ボックス)」の提供に取り組んでいるという。2020年末、WeWorkは複数の企業と提携し、SMBやスタートアップに給与計算、ヘルスケア、ビジネス保険などのサービス提供を開始した。

「WeWorkを利用するユーザーの多くがビジネスを拡大させています。当社はビジネス面での主要サービスを提供し続けています。その一方で、中小企業で管理が煩雑になりやすく、コストがかかる人事などの重要な分野でも、サービスをさらに提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。

さらにWeWorkは、オンデマンドのサービスをグローバルに提供することで、世界中のWeWorkのスペースでユーザーが仕事を進められるように尽力している。

「現在、テレワークの実験が最大規模で進められています。今後、職場に復帰する実験が最大規模で始まるでしょう。当社は非常に有利な位置にいると言えます」とシン氏は述べた。

WeWorkは、一歩先を行く不動産会社になろうとしているようだ。アダム・ニューマン氏が同社を率いていた頃ほどの派手さはないかもしれないが、需要がある安定した会社になりつつある。ただ、多くのことをあまりにも短い期間で進めようとしているのではないか?

今後の展開が楽しみだ。

カテゴリー:その他
タグ:WeWork不動産コワーキングスペースコラム

画像クレジット:KAZUHIRO NOGI/AFP / Getty Images

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)