未開拓のペットテック市場に挑むシロップが資金調達、次なる構想はペットライフ・プラットフォーム

ペット関連のサービスを複数展開するシロップは12月27日、福岡銀行系のベンチャーキャピタルであるFFGベンチャービジネスパートナーズ、獣医師の佐藤貴紀氏など複数の個人投資家を割当先とする第三者割当増資を実施。融資と合わせて総額3800万円を調達したことを明らかにした。

シロップのメンバー。写真中央が代表取締役の大久保泰介氏

今回の資金調達は2016年12月に続くもの。前回はサイバーエージェント・ベンチャーズやiSGSインベストメントワークス、エウレカ共同創業者の西川順氏を含む個人投資家から数千万円規模と見られる金額を調達している。

今後は運営体制を強化しながら、飼い主とペットのデータを活用して最適な情報や商品を提供する「ペットライフ・プラットフォーム」を目指していく。

専門メディアとマッチングサービスを展開、単月黒字化も

現在シロップが展開しているのは、ペットの飼い主向けメディア「ペトこと」と保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI(おむすび)」の2つ。

2016年5月リリースのペトことは、ペットの健康管理やしつけなどを中心に飼い主に必要な情報に特化したメディアだ。既存のペットメディアではかわいい動物のコンテンツなどライトな記事も多いが、ペトことの場合は獣医師やトレーナーなど専門家が病気やしつけに関する記事を執筆。

シロップ代表取締役の大久保泰介氏いわく「マニアックだけど、飼い主にとっては絶対に必要な知識」を届けることで差別化を図っている。

もうひとつのOMUSUBIは犬猫の殺処分問題を解決する目的で2016年12月にベータ版をリリース。保護犬猫の飼い主を募集する団体と、飼いたい人をマッチングする。2017年9月からは提供範囲を拡大し登録団体が28団体、累計の会員数が1300名。累計の応募数も200を超えた。

大久保氏の話では2017年12月には黒字化も達成の見通し。「記事や動画制作、リアルイベントやソーシャルグッドのプロモーションなどタイアップ案件に加えアフィリエイトも好調。たとえばペットと泊まれる宿を紹介した記事からは月間総額で1600万円の予約が発生している」(大久保氏)という。

ペット関連事業者だけではなく自動車や住宅メーカーからの関心も高まってきていて、今後はこのような間接企業とのタイアップも拡大していく方針だ。合わせて今後は広告収入以外のマネタイズ手段の開発に向けた取り組むも強化する。それがペトことを軸としたメディアコマースだ。

メディアを軸にコマース事業を開始、サプリなど自社ブランドも

ペトことでは2018年の3月に大幅なリニューアルを実施する予定。スポット検索やQ&Aなどコミュニティとしての機能を搭載するとともに、自社ブランドや外部の商品を購入できるコマース機能を追加。コンテンツを読んで終わりではなく、ユーザーの行動や商品購入までつなげる狙いだ。

すでにペット向けのサプリメント「SUPPY」の開発に着手していて、2017年11月にはクラウドファンディングを通じて約140万円を集めた。2018年1月から国内と東南アジアで一般販売を開始する予定で、今後はサプリに加えてフードやおもちゃなどの開発も検討していくという。

OMUSUBIでもレコメンド機能の開発や団体管理ツールの開発に加えて、保護犬猫だけでなく優良なブリーダーと飼い主をマッチングすることにも取り組む。ブリーダーとのマッチングについては仲介手数料をとることも検討する。

同サービスについてはエウレカ共同創業者の西川氏の存在も大きいそう。エウレカはマッチングサービスの「Pairs」を提供しているが、そこで培った知見も生かしていくことで成長を見込む。

シロップが掲げるペットライフ・プラットフォーム構想

シロップが今後見据えているのは、既存サービスを通じて蓄積されたデータをもとに、個々の犬猫に最適な情報や商品を提供するペットライフ・プラットフォーム「PETOKOTO」の展開だ。OMUSUBIでペットを迎え、ペトことを通じて飼育するといったように、飼い主がペットを迎えてから飼い終わるまでをサポートするプラットフォームを目指していく。

その上でカギを握るのが「オーダーメイドに近い情報や商品を提供すること」であり、そのための基盤となるデータの蓄積だ。

「この業界で起業してから約3年かかって、飼い主にとって必要な情報は属性によって異なることがわかってきた。たとえばトイプードルがかかりやすい病気があるように、犬種などによっても欲しい情報は変わる。年齢やペットの状況、飼い主の生活環境なども加味すると、オーダーメイドに近いレコメンドサービスが必要になる」(大久保氏)

今後の展望としてはまずペトことやOMUSUBIを通じて会員のデータを蓄積していく。ある程度データが溜まった段階で、そのデータを活用して個々に最適化された情報や商品を提供するというのが次のステップだ。コマース事業を本格化するのもこのタイミングになるという。そしてその先には獣医療の改革などペットヘルスケア領域でも事業を展開する。

写真右は株主でもある獣医師の佐藤貴紀氏

大久保氏の話では、獣医療の需要が増えている一方で供給が不足しているのが現状。ひとりの獣医師が幅広い専門領域のニーズに応えるのは難しいことに加え、動物病院の7割が獣医師ひとりで経営しているそう。たとえばAIを活用した画像解析やIoTプラットフォームなど、獣医の負担を減らすサービスにも取り組む方針だ。

海外ではBARKのようにメディアやマッチングプラットフォームで集客をしてコマースで売り上げを作っているペットテックスタートアップもあるが、日本ではまだまだ開拓の余地が残されている領域。ペットヘルスケアとなるとなおさらだ。

「この業界は課題も山積み。事業をきちんと伸ばしながらも発生する売り上げの一部をOMUSUBIの登録団体に寄付するなど、まずは保護犬猫というところからペット産業全体を健全化し、業界を盛り上げるチャレンジをしていきたい」(大久保氏)

「チケットキャンプ」来春にもサービス閉鎖へ

本日、ミクシィは子会社のフンザが運営するチケット二次流通マーケットプレイス「チケットキャンプ」を来春にも閉鎖する方針を固めた。最初に朝日新聞デジタルが伝えている。

フンザは12月7日、チケットキャンプ内での表示について商標法違反および不正競争防止法違反の容疑で捜査当局による捜査を受けていることを発表していた。同日よりサービスを一時停止し、新規会員登録、新規出品・リクエスト、新規落札などが行えなくなっていた。

朝日新聞デジタルによると、フンザの創業社長らも辞任の意向を伝えているという。本日の取締役会で正式決定する予定ということだ。

情報が入り次第、追記したい。

人の手のように器用でパワーのあるロボットハンド、サイボーグの実現に向けメルティンが総額2.1億円調達

手がふさがって猫の手も借りたい時、そのうち「ロボットの手」なら増やせるようになるかもしれない。

サイボーグ技術の開発に取り組むメルティン MMI(メルティン)は本日、第三者割当増資と助成金によりシリーズAとして総額2.1億円の資金調達を実施した。引受先はリアルテックファンド、スパークス・グループの運営する未来創世ファンド、日本医療機器開発機構(JOMDD)だ。助成金は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)および、東京都の医療機器産業参入促進助成事業から得ている。また、資金調達と同時に内科・循環器科の専門医で元FDA医療機器審査官である内田毅彦氏が同社の取締役に就任したことを発表している。

直感的なロボット操作のための生体信号処理技術

大学発のスタートアップであるメルティンは、生体信号処理技術とロボットハンドの開発を行なっている。まず、生体信号処理については、筋電の正確な読み取りと処理を可能にする技術を開発している。これは腕に貼ったセンサーから生体信号を読み取り、機械学習で分析することで、グー、パー、チョキといった手のアクションを判別できるというものだ。

メルティンでは3つのセンサーを使うだけで正確な読み取りができ、設定の時間も1秒程度しかかからない。生体信号処理の正確性に合わせ、優れたユーザービリティもメルティンの特徴とメルティンの代表取締役を務める粕谷昌宏氏は説明する。将来的には筋電のみならず、神経信号や脳波でもこの生体信号処理技術を応用していく予定だ。

直近では、この生体信号処理技術を医療の現場で役立てていくという。具体的には、医師が患者の診察の際に、診断補助に使えるデバイスを想定している。すでに医療機関と協力して、デバイスの検証を進めている段階と粕谷氏は話す。今回、調達した資金は主にこのデバイスの検証と実用化に充てる予定だという。

ジッパーを開けられるロボットハンド

もう1つ、メルティンでは小型軽量でパワーがあり、高速に動くロボットハンドを開発している。現在、多くの遠隔操作ロボットが開発されているが、実際にロボットで作業を行うとなると、ロボットの手の性能が課題となる。今あるロボットハンドの多くは握力が弱かったり、指の太さから細かい作業がしづらかったりする。例えば、ジッパーを開けたり、パソコンのUSBを引き抜いたりする作業を行うのが難しいと粕谷氏は説明する。メルティンは、ワイヤー駆動のロボットハンドを開発することで、人の手のように卵を掴む柔らかい動きができると同時に、10kgくらいの物なら持ち上げて落とさない力を与えることに成功した。今後半年以内には女性と同程度の握力を実現できるという。

メルティンはこのロボットハンド技術で、例えば宇宙や深海、放射線・化学汚染環境など、人が入るには危険な場所に代わりに入って、修理やメンテナンスまでできるロボットを実現したい考えだ。

生体信号処理とロボットハンド技術を発展させ、彼らが最終的に目指しているのは、義体やサイボーグ技術の実現だ。そして、サイボーグの技術で「人の身体的な不自由をすべて取り払いたい」と粕谷氏は説明する。例えば、筋電や脳波の処理技術とロボットハンドで身体障害者が直感的に義手を扱えたり、健常者でも2本の腕に加えてロボットの腕を操作することで作業を分担できたりするような使い方ができる。さらには、アメリカにある義体に日本からログインして、現地のミーティング参加や作業ができるようになる。ゆくゆくはコミュニケーションに関しても、自分の考えを言語に変換して、声で伝えるのではなく、脳波から全ての情報を読み出して、相手の脳に認識として送信することまでできるようにしたい考えだ。

「自分の創造性に比べて、その創造性を実現できる体を持っていません。人間が持っている創造性というものを、何の不自由もなく発揮できる世界を作りたいと考えています」と粕谷氏はビジョンを語る。

メルティンは2013年7月、CEOの粕谷昌宏氏とCTOの關達也氏、他数名のメンバーで創業した会社だ。2016年1月にリアルテックファンド、グローカリンクより最初の資金調達を実施している。

左からリアルテックファンドの小正瑞季氏、メルティンCEO粕谷昌宏氏、同社CTO關達也氏、 同社取締役内田毅彦氏

血液検査バイオのTheranos、1億ドルの資金を借り入れ――投資会社はSoftBank傘下

バイオのスタートアップ、Theranosが1億ドルの資金を借り入れることに成功した。画期的新方式の血液検査を提供するという触れ込みで登場したものの、検査結果に深刻な疑問が突きつけられて苦闘している会社に投資者が現れた。

最初に報じたのはBusiness Insiderで、Theranosへの投資家はニューヨークに本拠を置くFortress Investment Groupという未公開株式投資会社だという。同社は今年初めにSoftbankに買収されている

もちろん今回の資金調達は借り入れで増資ではないが、今年、人員の半数以上を解雇し、さらに赤字を拡大しているTheranosは運転資金を切実に必要としていた。

一滴の血液だけで200種もの疾病を検査できると主張して登場したTheranosは一時、シリコンバレーの寵児となり、会社評価額90億ドルを記録した。しかし肝心の検査結果が疑わしいことが報じられて一気に転落し、いくつもの訴訟を起こされ、連邦機関による調査の対象にもなった。共同ファウンダー、CEOのエリザベス・ホームズは自社のラボに関与することを禁じられた。ラボは閉鎖され、会社はいわばピボットを余儀なくされた。Theranosは主力業務を血液検査サービスの提供からジカ熱感染を探知する装置の製造に切り替えた。

同社はこのトラブルのせいで2015年以降資金調達ができないままだった。昨夜(米国時間12/23)、ホームズは投資家に対し、「2018を通して運営を可能にする資金を確保した」と説明したという。

Buisiness Insiderの記事によれば、この借入には、いくつかの条件が付帯しており、Theranosは所定の成果を上げることが求められると同時にFortressはTheranosの持ち分の4%のを得たということだ。

ホームズの投資家への書簡には、品質管理やコンプライアンスなどを含め、Theranosを再び軌道に乗せるためにこの1年実施してきた改革の概要が示されている。Theranosは訴訟のいくつかで和解し、ラボの実態を調査していた連邦機関、CMS(Centers for Medicare and Medicaid Services)とも和解したという。書簡でホームズは近くラボを再開できることを期待していると述べている。

ホームズはTheranosは1年半から2年以内にジカ熱テスト装置の販売ができるとしている。これは2016年に事業をピボットして以来一環して主張してきたスケジュールだ。

ホームズはまた個人向けにカスタマイズされたセンサー・システムを用いてラボによる検査業務も復活させることも期待している。Theranosはこの分野で多数の特許を保有している。

こうした一連の動きはもちろんTheranosにとってグッドニュースだ。しかし本当の問題はTheranosが公衆の目から見て一度地に落ちたイメージを回復できるかどうかだろう。われわれはTheranosが本当に復活しつつあると信じられるだろうか? ともあれ2018年の運営資金を投じたFortessはそう信じたようだ。

このニュースはクリスマスの週末という時期に飛び込んできた。同社がこれ以上の詳細を発表する意思があるとしても、それはかなり先になりそうだ。 ただしわれわれはTheranosにコメントを求めておいたので、何か判明すればアップデートする。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

植物と暮らしのメディア「LOVEGREEN」のストロボライトが3.5億円調達、新サービスは造園業の“代理店”

植物と暮らしをテーマにしたWebメディア「LOVEGREEN(ラブグリーン)」などを運営するストロボライトは12月25日、ニッセイ・キャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額3億5000万円を調達したと発表した。

写真左より、ストロボライト取締役COOの川上睦夫氏、代表取締役の石塚秀彦氏、執行役員兼MIDORAS事業部長の上野真哉氏

ストロボライトが運営するLOVEGREENは、植物の育成方法や飾り方などの情報を配信するWebメディアだ。現在、同メディアのFacebookページの“いいね!”は約12万、MAUは200万人ほど。1日あたり約10本の記事が毎日掲載されている。

そして、同社が2017年2月に創刊したのが「Botapii(ボタピ)」だ。LOVEGREENと同じく植物をテーマにしたBotapiiは、全国の花屋や園芸店などに設置するフリーペーパーだ。創刊から10ヶ月が経過した現在、発行部数は8万部、設置店は1300店舗を超えた。

このBotapiiがかなりの人気を集めている。同紙の発行日には設置店が店内の商品ディスプレイと最新号を一緒に写した投稿を自主的にアップするなど、Botappiを販促に用いる例が多くあるという。でも、それだけじゃない。なんと、このフリーペーパーはメルカリで転売されていたりもするのだ。

1つだけ注意してほしいのが、これは取材の準備をしているときに僕が偶然に発見したことであり、もちろんストロボライトもこういった転売行為を奨励しているわけではない。それにしても、無料のフリーペーパーが有料で販売されている(しかも売れている)という事実には驚きだ。それだけ人気があるということなのだろう。

造園、園芸業の“代理店”を目指す

ストロボライトはLOVEGREENやBotappiといったメディアの他にも、 個人の庭づくりや植栽、法人のオフィスグリーンなどのプロデュース事業である「MIDOLAS」も展開している。

簡単に言えば、MIDORASは全国に散らばる造園・園芸事業者とユーザーをつなぐサービスだ。とは言っても同サービスはクラウドソーシングのように両者を直接つなぐわけではなく、ユーザーの要望や悩みを聞き取り、それをもとに提携パートナーへと発注するという“代理店”のような役割をもっている。造園業というものは特定の大きなプレイヤーが幅をきかせる業界ではなく、中小事業者や個人事業者が多く存在する業界だ。国土交通省が2017年5月に発表した「建設業許可業者数調査の結果について」によれば、日本全体の造園業者数は2万1000社だが、その約14%にあたる約3000社は個人によって運営されている。また、資本金が1億円以上の事業者は全体のわずか0.7%(159社)だ。

中小事業者はリソースが限られており、専門の営業部隊を持たないことも多い。それによる機会損失も少なくないだろう。MIDORASはそういった中小業者などと提携を結ぶことで、彼らが手を回せない営業やヒアリングといった上流業務を代わりに提供している。

また、MIDORASのような集約された相談窓口があることはユーザーにとっても便利だ。ひとくくりに「造園」といっても、実際には剪定業者や資材業者など様々な専門業者が関わることになる。新築で住宅を建てる場合には住宅施工業者がそれぞれの業者に発注してくれるから良いものの、既存の住宅の庭を手直ししたいと思うと消費者はどこに頼めば良いのか分かりづらかった。一方、MIDORASではストロボライトのスタッフが造園に関するニーズを汲み取り、それに沿って適切な提携パートナーに発注してくれるため、ユーザーは1つの窓口に相談するだけでいい。

2017年6月にサービス開始したMIDORASは現在、関東地区を中心に70の事業者と提携を結んでおり、これまでの受注件数は数十件の規模だという。ストロボライトは、今回調達した資金を利用してMIDORASのサービス強化やそれにともなう人材採用を行う予定だ。

山田氏「技術で差別化するフェーズになってきた」——メルカリが実装までを想定した研究開発組織「mercari R4D」を設立

「mercari R4D」のメンバーら。中央がメルカリ代表取締役会長兼CEOの山田進太郎氏

フリマアプリを軸に、グループ、投資先を含めて広くCtoC領域のサービスを展開するメルカリ。今度は新領域へチャレンジに向けて研究開発を強化していくという。同社は12月22日、社会実装を目的とした研究開発組織「mercari R4D(メルカリ アールフォーディー)」の設立を発表した。

同日開催された発表会の冒頭、メルカリ代表取締役会長兼CEOの山田進太郎氏が登壇。今までのメルカリを振り返り、UI/UXへのこだわり(エンジニア経験のある創業経営陣がおり、ユーザービリティテストを積極的に活用。また早期に分析基盤を構築してきたことなど)や積極的なマーケティング(オンラインマーケティングだけでなく、テレビCMも活用してきたこと)という2つで成長してきたと説明。

さらに直近では、AIを活用し、写真撮影をすれば自動的に商品のブランドやカテゴリ、価格などをサジェストする機能を導入。これによって出品率や出品物の販売率を向上させたほか、偽ブランドや禁止出品物の検知などに取り組んでいる。米国では、従量の自動推定にも取り組んでいるという。

「技術で差別化するフェーズになってきた」——山田氏はこれからのメルカリについてこう語り、3つの方針を打ち出した。1つめはロードマップを作って戦略的に研究・投資を実施するということ。そして2つめは現在100人ほどのエンジニアチームを3年で1000人規模まで拡大。各機能ごとにマイクロサービス化して、スケーラブルな組織を作るということ。3つめは外部パートナーとの共同研究やその実装を進めるということ。今回発表されたmercari R4Dはこの方針に沿ったプロジェクトだ。

今後の方針について

メルカリ取締役CPO(Chief Product Officer)の濱田優貴氏が説明するところによると、R4Dの言葉の意味は「Research for」の「R」と、「 開発(Development)」「設計(Design)」「実装(Deployment)」「破壊(Disruption)」の4つの「D」なのだという。いわゆるR&D(Research & Development)、研究開発との一番の違いはDeployment、つまり実装をすることだ。今回の発表でメルカリは「社会実装を目的とする」とうたっているが、採算度外視でもまず世に出してみて、反応をみていくということに重点を置くという。

なお今回発表されたパートナーと研究テーマは以下の通り。またシニアフェローとして、
アーティストのスプツニ子!氏、京都造形大学教授 クロステックデザイン研究室、ABBALab代表取締役、さくらインターネットフェローの小笠原治氏が就任する。

シャープ 研究開発事業本部
「8Kを活用した多拠点コミュニケーション」

東京大学 川原研究室
「無線給電によるコンセントレス・オフィス」

筑波大学 落合研究室
「類似画像検索のためのDeep Hashing Network」
「出品された商品画像から物体の3D形状を推定」
「商品画像から背景を自動特定」

慶應義塾大学 村井研究室
「ブロックチェーンを用いたトラストフレームワーク」

京都造形芸術大学 クロステック研究室
「Internet of Thingsエコシステム」

東北大学 大関研究室
「量子アニーリング技術のアート分野への応用」

山田氏によると、R4Dの2018年の予算は数億円程度。だが再来年以降は寄り大きくしていくという。さらに今後対象とするテーマについては、「直近1〜2年のものというより、3〜5年かかるような中長期的になるものを基準にしている」(メルカリ R4Dオフィサーの木村俊也氏)とのこと。

今後の実装イメージ

エイチーム、プログラマ向け情報共有サービス「Qiita」提供元のIncrementsを約14億円で買収

ソーシャルゲームを始め複数のWebサービスを展開するエイチーム1222日、プログラマ向けの情報共有サービス「Qiita」などを提供するIncrementsの発行済株式の100%を取得し、連結子会社化することを明らかにした。

取得価格は総額で14億5300万円。内訳は株式が14億4600万円、アドバイザリー費用などが600万円。株式譲渡は2017年の12月25日を予定している。

Incrementsは2012年2月の創業。Qiitaに加えてチーム内情報共有ツール「Qiita:Team」の開発・運営を行っている。直近の財務状況については、以下の通りだ。

  • 平成27年2月期 : 売上3373万円、営業損失1763万円
  • 平成28年2月期 : 売上7363万円、営業損失3341万円
  • 平成28年12月期 : 売上8995万円、営業損失7871万円(平成28年3月~12月)

エイチームによると同社では資本を活用した中長期的成長の実現、企業価値の向上を加速させるために「既存事業の競争力強化につながると想定される企業や事業」や「自社で容易に参入できない、或いは参入に時間のかかる事業を持つ企業」の買収を検討してきたという。

Incrementsは「自社で容易に参入できない、或いは参入に時間のかかる事業を持つ企業」に該当するため、買収を通じて新たな事業展開を加速させることができると判断した。今後はQiitaとQiita:Teamの成長を目指すとともに、エンジニア情報を活用した新規事業も検討する。

“旅を仕事にする”サービス「SAGOJO」が数千万円を調達、企業や自治体とスキルのある旅人をつなぐ

副業やリモートワークなど働き方が多様化している今なら、スキルと熱量さえあれば“旅”を仕事にすることもできるかもしれない。旅人求人サイトの「SAGOJO」はまさにそれを実現しようとしているサービスだ。

同サービスを提供するSAGOJOは12月22日、エイベックス・ベンチャーズ、アプリ、複数の個人投資家を引受先とする第三者割当増資により資金調達を行ったことを明らかにした。関係者によると数千万規模の調達だという。

SAGOJOは課題を持った企業や自治体と、スキルのある旅人をマッチングする求人プラットフォームだ。記事執筆や写真撮影、営業代行やリサーチといった仕事を旅人に依頼することが可能。旅人が現地を実際に訪れるという点が大きな特徴で、熱量の高いユーザーが集まる。

「サービスのリリースから1年半でユーザー数は7500人、シゴト数は200を超えた。全国・世界を舞台に取材を伴うコンテンツ制作(記事、動画、写真)を中心に旅人の特性やスキルを活かして事業開発を行っている」(SAGOJO代表取締役の新拓也氏)

実際に掲載されている仕事を見てみると、高速バスの比較サイトや旅行メディアを運営するLCLが「高速バスに乗りたくなる記事企画をする旅人」を募集していたり、ecbo cloakが「旅をしながら自分の好きなお店の開拓をしてくれる旅人」を募集していたりとバラエティに富んでいる。

通常の報酬に加えて航空券や宿泊券、旅のアイテムがつくケースもあるなど旅人に対するリターンもユニーク。旅人の仕事管理はSAGOJOがおこなうことで、成果物のクオリティを担保する。

同社では今回の資金調達も踏まえて、今後は案件数の拡大、旅人が納品する成果物の管理体制の強化を進めるほか、新サービスにも取りかかる予定だ。「『旅×シゴト』を志す人たちの能力開発を支援する教育プログラムや、ユーザー特性を活かしたB向け新規サービスの提供に向けた準備を進めていく」(新氏)

また調達先のエイベックスとはグループ会社各社と共同で、旅行を含めた各種商品の企画やSAGOJOを活用した新しいアーティスト戦略、エイベックス社員のスキル活用などに取り組む。アプリとは、同社が運営するリゾートバイト求人サイト「はたらくどっとこむ」と連携した案件の拡充を行っていくという。

SAGOJOは代表取締役の新氏がWeb制作会社のLIGにて企業のオウンドメディア運営やコンテンツ制作を担当したのち、2015年12月に創業したスタートアップだ。

競合が多い分野で月間2億ユーザーを突破、高品質Q&Aサイト「Quora」の差別化戦略

インターネットにはQ&Aサイトやフォーラムが数多く存在する。その中で、シリエコンバレー発のQuoraが目指すのは、質の高い知識を共有するためのQ&Aプラットフォームだ。Quoraは2009年創業。2017年4月のシリーズDラウンドで8500万ドルを調達し、その時の評価額は推定18億ドルでユニコーン企業となった。2017年11月には日本語版もリリースした。

QuoraのファウンダーでCEOのAdam D’Angelo氏は、11月16日、17日に渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2017に登壇し、Q&Aサイトとしては後発であるQuoraの他社との違い、グロースについて語った。モデレーターは、米国TechCrunchの元ライターで、現在はKantan GamesのCEO、Serkan Toto氏が務めた。

“質が落ちるのはシステム設計に原因”

D’Angelo氏はエンジニアのバックグランドを持つ起業家だ。中高時代から趣味でプログラミングを始め、大学でコンピューターサイエンスを学んだ。卒業後は、エンジニアとして、当時創業して1年ほどだったFacebookにジョインする。後にFacebookの初代CTOに就任し、1年半ほど同社の開発チームを率いた。

Q&Aサイトを立ち上げたのは、もともと知識を学ぶのが好きで、ユーザーが知識を共有するプラットフォームに関心があったからとD’Angelo氏は言う。ただ、こうしたサービスは規模が大きくなるほど、コンテンツの品質が落ちることに疑問を感じていた。その課題を解決できないかと考えたのが、Quoraを開発するきっかけだった。

「自分でプロダクトを作ったり、Facebookで働いたりした経験から、コンテンツの質が落ちるのはシステム設計に原因があると考えました」とD’Angelo氏。Quoraでは実名制を採用したり、ユーザーが回答を評価するボタンを実装したりするなど、高品質なコンテンツを奨励するシステム開発に焦点を当てていると話す。他にもそれぞれのユーザーの専門分野に合致する質問をフィードに表示したり、重複する質問は定期的に1つにまとめて、優れた回答がより広く読まれるようにするなどの仕組みも導入した。

Quoraの画面

こうした施策の結果、Quoraには多くの優良なコンテンツが集まるようになり、それが他サービスとの差別化につながったとD’Angelor氏は説明する。「良いコンテンツが集まり、それがシェアされ、それを見たユーザーがQuoraにサインアップするという好循環が生まれています」。現在、Quoraの月間ユニークビジターは2億人を超えるまでになっているという。

時間が経つほど、サービスは良くなっていくとD’Angelo氏は話す。「優れた回答は何年も役に立つものです。データベースにナレッジが集まるほど、より多くの人にとって便利なサービスになっていきます」。

プレイヤーからマネージャーへ

D’Angelo氏はエンジニアとしてキャリアをスタートし、FacebookのCTOを経て、現在はQuoraのCEOとしてマネジメントを行なっている。プログラマーはマネジメントよりコードを書き続けるキャリアを望む人も多いかと思うが、自身はどうだったかとモデレーターのToto氏の問いに対し、最初は自分もそう思っていたが、マネージャーの経験を積んで考えが変わったとD’Angelo氏は話す。

「マネージャーになって最初の頃は、自分でコードを書いた方が早いと思うこともありました。ただ、マネジメントを続けるうちに、自分一人より、チームの方が多くをこなせるということが分かります。大事なのは、世界にインパクトを与えられるかどうかです。自分でコードを書くより、会社を運営することの方がそれを達成できると思います」。

Quoraは立ち上げ当初から、スタートアップの起業家や投資家などに多く利用されていたという。「起業家は、日々決断しなければならないことが多くあります。良い判断をするためには、質の高い情報にアクセスすることが大事で、Quoraはその役に立っています」とD’Angelo氏。Quoraは起業家同士が互いの知識を共有する場であると同時に、優秀な投資家や採用候補者とつながる場としても機能しているそうだ。

セッションの最後、D’Angelo氏は日本の起業家に向け「プロダクトの差別化に注力すること」とアドバイスをおくった。「競合がいる中でも、独自の立ち位置のユニークなプロダクトを作ること。Quoraが成長を続けられたのも、これがあったからです」と話している。

AR技術でSFアニメの世界観が現実に、キャラクターに会えるライブ配信アプリ「hololive」がリリース

ここ数年でSHOWROOMLINE LIVEツイキャスなどリアルタイムに視聴者とコミュニケーションがとれるライブ配信サービスは一気に普及した。今年はそこにコマースの要素を掛け合わせてライブコマースサービスも盛り上がりをみせているが、配信を行う演者は基本的に人間だ。

でも人間だけではなく、キャラクターによるライブ配信にもニーズがあるのではないか。本日リリースされた「hololive(ホロライブ)」は、まさにキャラクターが生きているかのような感覚を味わえるライブ配信アプリだ。

hololiveではVRやARの技術を活用して、キャラクターによるライブ配信を実現。キャラクターの3D映像を現実空間にAR投影すれば、まるで自分と同じ空間でライブが行われているかのような体験ができる。ライブを視聴しながらコール&レスポンスを楽しんだり、キャラクターの写真や動画を撮影したりすることも可能だ。

キャラクターの操作にはVRデバイスを使用。装着した人間の顔や体の動きなどがリアルタイムに表示される仕組みになっている。

対応機種はARKitに対応するiPhoneとなるが、その他のデバイスでも非ARモードでライブ配信を視聴できるようにしていく方針。合わせて今後はゲームやアニメのキャラクター、バーチャルアイドルによるライブ配信を随時追加していく予定だ。

hololiveを提供するカバーは2016年の創業。2017年8月にはみずほキャピタル、TLMおよび個人投資家数人から約3000万円を調達しているほか、VR・AR関連のスタートアップを対象にしたHTCのアクセラレータープログラム「VIVE X」に日本企業として唯一採択されている。カバー代表取締役の谷郷元昭氏は、地域情報サイトの「30min.(サンゼロミニッツ)」を手がけた(現在はイードに譲渡)サンゼロミニッツの創業者。また、アエリア元取締役でエンジェル投資・スタートアップ支援を行う須田仁之氏、アジャイルメディア・ネットワーク元CTOの福田一行氏が参画している。

なおカバーでは、ARKit非対応環境のユーザーにもhololiveを体験できるよう、12月21日20時からLINE LIVEでの配信も行うとしている。

セキュリティやクラウドソーシング事業を展開するココン、動作拡大型スーツ開発のスケルトニクスへ出資

サイバーセキュリティ事業や特化型クラウドソーシング事業を展開するココンは12月21日、エンターテイメント領域で動作拡大型スーツを開発するスケルトニクスに出資したことを明らかにした。

スケルトニクス代表取締役の阿嘉倫大氏と開発している動作拡大型スーツ

ココンではスケルトニクスが発行する株式の一部を取得するとともに、CB債(転換社債型新株予約権付社債)の引受けを行う。出資額は非公開だが、CB債転換後のココンの株式保有比率は約51%になるという。

スケルトニクスは高専ロボコン全国優勝を果たした沖縄高専のメンバーが集まったチーム。2010年から動作拡大スーツの開発に取り組み、初期モデルを半年で完成。その後2013年に事業化する形でスケルト二クスを創業した。2015年には4つ目のプロダクトである「スケルトニクス・アライブ」をアラブ首長国連邦ドバイ首相オフィスに売却している。

現在同社では「究極の外骨格を創る」というミッションのもと、動作拡大型スーツのバージョンアップや様々な産業分野への活用の検討、パワードスーツの研究開発を行っている。今後はココンや同社のグループ会社とも連携を強化し事業の拡大を目指す。

ココンは2013年2月、Panda Graphicsという社名で創業。2Dイラストと3Dコンピューターグラフィックスに特化したクラウドソーシングサービス「Panda Graphics」を手がけていた。2014年6月に3DCGモーション制作を展開するモックス、2015年1月にUIデザイン事業を展開するオハコと資本業務提携。2015年5月には音声クラウドソーシングサービス「Voip!」をGroodから譲受するなど、事業の多角化を進めてきた。

2015年6月には社名をココンに変更。その後セキュリティ診断事業を展開するイエラエセキュリティ、セキュリティのコンサルテーションを行うレピダムを完全子会社化し、現在主力事業となっているサイバーセキュリティ領域に進出した。一方でPanda Graphics、Voip!を運営するクラウドソーシング本部を分社化し、Panda Graphicsを新設している。

ココンは2017年1月にSBI FinTechファンドなどから総額5億円を調達するなど、これまでにVCや個人投資家から調達した資金は総額12億円以上だ。

採用とは候補者の人生の時間投資を引き出すこと——TechCrunch School #12:キーノートレポート

写真左から:インキュベイトファンドGeneral Partner 和田圭祐氏、HR Partner 壁谷俊則氏

TechCrunch Japanでは今年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドやスタートアップの人材戦略など、人材領域をテーマにイベントを展開してきた(過去のイベントについてはこちら)。HR Techシリーズ第4弾として12月7日に行われた「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、キーノート講演の模様をレポートする。

登壇者はインキュベイトファンド General Partnerの和田圭祐氏とHR Partnerの壁谷俊則氏。インキュベイトファンドは創業期の投資・育成にフォーカスしたベンチャーキャピタル(VC)だ。キーノートではVCの立場から、スタートアップの採用戦略や支援の手法について紹介してもらった。

最初に和田氏がインキュベイトファンドの投資の取り組みについて説明した。インキュベイトファンドでは、4名の共同パートナーにより、累計300億円、300社のポートフォリオを運用。会社設立前のプレシード期から積極的に事業相談に応じている。最近では金融・医療・エネルギーなど既存の大きなマーケットに切り込む戦い方をするスタートアップや、研究開発を行い難易度の高い技術を活用する企業も投資先に増えているそうだ。

背景には、VCへの資金流入が増えていることがある。既存産業の主要プレーヤーである大企業も、スタートアップに期待をして資金を投入している。「こうした資金の最大の使途は基本的には人材だ」と和田氏は言う。「人材は事業の成長の加速度や成否が大きく左右される、最大のファクターだ。資金流入の加速により、数年前に比べても、CxOになる人たちは明らかにハイスペックな人が増えているという実感がある」(和田氏)

そうした状況下、資金を提供するだけではなく、採用の支援も行おうということで、4月からインキュベイトファンドのHR専任担当に就いたのが壁谷氏だ。壁谷氏はフューチャーベンチャーキャピタルを経て、人材紹介事業を行うクライス&カンパニーでマネジメント領域の転職支援、ランスタッドでキャリアコンサルタントのマネジメントを行った後、インキュベイトファンドに参画。現在は、投資先企業20〜30社の採用ステージを支援しているそうだ。

スタートアップ創業初期の採用は創業者の個人戦

スタートアップにおける採用のやり方は、創業初期の初めの5人を集める段階と、組織全体で数十人規模の採用を行っていく段階とで、かなり変わっていく。「それぞれのフェーズでどう採用を行っていくか、またフェーズによる差異をどう吸収していくか、ということを悩んでいる企業は多い」と和田氏は言う。

VCが投資を行い、採用活動をサポートする場合は、初めの5人の段階で手伝うことが多く、パートナー自身のネットワークの中で一緒に人を口説くこともやる、と和田氏は話す。「このタイミングでは創業者のカリスマ性やリーダーシップ、プロダクトにかける情熱など(を武器に)、アナログな戦い方で一人ひとりタレントをそろえる。プロダクトや会社としての実績、基盤や組織もできていない状況では、社長の魅力で勝負していくことになる」(和田氏)

このフェーズでは、投資は決定しているがファウンダーが一人しかいない。だが、やろうとしていることの規模感から考えると一人ではとても足りない、という状況だ。VCは、事業戦略に合わせてどんなコアメンバーが必要で、それぞれがどういったスキルセットをどれくらいの基準で持っていなければならないのかを創業者と徹底的に話し合い、バイネームで誰が欲しいかまでを記すような、具体的なスカウトリストを一緒に作ると和田氏は言う。

「ファウンダーのネットワークの中で候補となりそうな人を共有しながら、VCのネットワークでも該当しそうな人がいれば紹介していく。候補者の感触が良ければ、継続的にコミュニケーションを取っていく」(和田氏)

候補者を口説くプロセスについては、和田氏はこう話している。「初めからいきなり、『これから立ち上がるスタートアップに参画してくれ』といっても、なかなか踏ん切りが付かないものだ。また優秀な人ほど、今の職場でも非常に評価されていたりする。そこで時間をかけ、事業のアップデートがあれば随時、丁寧に伝え続けて口説くという手法をとる」(和田氏)

採用候補者がスタートアップや経営の経験を持つ人材の場合は、創業者の強みや弱み、癖などを客観的に見てどうかといった意見も、VCに対して求められることがあるという。また、どういうチームプレーやサポート関係になれば理想的になるか、と聞かれることもあり、ナンバー2、ナンバー3としての働き方をサポートしていくこともある、と和田氏は述べる。

採用強化フェーズで大切にしたい3つのポイント

初めの5人を集めた後は、数十人規模へ組織化していくフェーズへと移る。ここからは壁谷氏から、チームづくりと採用について説明してもらった。

このフェーズは、資金調達から人材採用に大きく舵を切り、会社全体の組織戦として採用を強化するとき。引き続き10人に満たない時点では、経営陣はアナログに採用を行いつつも、事業も大きくなり、忙しくなってくるため、それだけでは追いつかなくなってくる。壁谷氏は「この段階からは、採用の入口から出口までプロセス全体を設計し、アプローチからアトラクト(魅力付け)までをしっかり選んでやっていかなければならない」と話す。

また、この段階では最初期とは違い、サービスや事業の実績・評判、プロトタイプなどの先進的な事例は出ているはず。それを表に出して共有しながら「この事業を一緒により拡大していくために、皆さんの力が必要です」ということを伝えていくことになる。「(創業者の)思いだけではなく、事例も合わせて伝えていくことが必要になってくる」と壁谷氏は言う。

そして会社がまだ十数人規模の段階では「会社のメンバー全員が採用担当です」と言い切って採用活動が行える環境をつくることが大事だと壁谷氏は言う。「そういう意味では社長一人の努力でなく、組織文化や各人の業務範囲、権限委譲なども重要なファクターとなってくる」(壁谷氏)

投資先の採用強化フェーズで、壁谷氏がVCとして大切にしている点が3つあるという。1点目は採用計画の共有。事業計画を形にするためには、どういう採用を実現しなければならないかを共有し、採用フローの全体像を把握する。この時点ではメガベンチャーでもない限り「あらゆる手段を使って」採用を行うにはリソースが足りない。どの手段をとるかを決めて、採用をスタートしていく。

2点目は、誰を採るか、採用人材のターゲティングだ。「ややもすると『うちのようなスタートアップに来てくれる、アツい、イケてる人』といった漠然としたターゲットになりがち。『今どの会社で何をしている人が必要で、そうした人が自社のようなスタートアップに来る動機があるとすれば、転職理由はここなのでは?』と仮説を持ってターゲットを設定していくことが必要。仮説をたくさん持つことでターゲットを広げていくことはあり得るが、ぼんやりとしたターゲットにすることは適切ではない」(壁谷氏)

ターゲット設定はなぜ必要なのか。壁谷氏は3点目の「採用広報」と関係があると指摘する。「自社ホームページやWantedlyなどで採用広報をかけていくときに、ターゲットと仮説が曖昧だと、出すメッセージも曖昧になる。この人に読んでほしい、こういう志望動機の人に見てほしい、というのがなければいけない。ターゲットがハッキリしたら採用広報を強化し、事業ビジョンやマーケットの課題、それを解決するための自社のポジショニングなどを発信していく」(壁谷氏)

同時に資金があるなら、リソース不足を補うために人材紹介会社も活用できるが「ここでも、情報やターゲットをしっかりとエージェントに展開しなければいけない。何となくいい人連れてきてください、ということでは良い人材は出てこない」と壁谷氏は話している。

転職者の「企業選定」「面談」には手厚く対策すべし

続いて壁谷氏は、採用で起こりがちな課題を“打ち手”ごとに紹介した。

上図の左側の課題に対して、右側のような状況になることが理想なのだが、どうすれば“意図的に”そうした状況を作っていけるのだろうか。

壁谷氏は「企業側の採用フローと転職者の応募のフローを並べてみたときに、企業側は転職者の『企業選定』と『面談』への手当が抜けていることが多い」と指摘する。「企業側の採用フローの中で、転職者の企業選定と面談への対策は『アプローチ』と『面談』の間ぐらいにあるのだが、ここへの手当が少なくなっている」(壁谷氏)

では具体的に、どのように手を打てばよいのか。まず、採用候補者が企業を選定するフェーズでの対策について、壁谷氏は「この時点では転職者は、自分の興味関心のある分野の企業や共感できるビジョンを探している」と説明する。

転職者が企業情報から何を読み取るかといえば、

  • 事業領域、マーケットの伸び
  • 事業モデルのユニークさ、競争優位性
  • 経営チームの経歴や社長メッセージへの共感度
  • ポジションの魅力、将来的なキャリアの展望

といったポイントだ。壁谷氏は「このあたりのポイントをコンテンツとして出しておかなければ、そもそも次の面談に進まない。採用広報コンテンツには、これらの要素を盛り込んで発信することがとても大事だ」と言う。そこで壁谷氏が勧めるのは「採用PITCH資料」の作成だ。

壁谷氏の言う採用PITCH資料とは、求職者向けに会社のことを知ってもらうために、ファイナンスやプレゼンコンテストとはまた別に用意するピッチ資料のこと。この資料を作ることこそが採用コンテンツを作るためのベース作りになるのだと壁谷氏は言う。「我々はVCとして、いろいろな会社からプレゼンテーションを受ける。経営者は、まだ会社を立ち上げる前からしっかり資料を作り込んでピッチを行うが、それは我々から投資を引き出すため。だが採用も、候補者の人生の時間を直接投資してもらうことだと考える。もう戻らない、かけがえのない時間をその人から引き出すためには、その人が魅力に思い、自分の時間を投資してもいいと思えるような情報を伝えていくことが必要だ」(壁谷氏)

壁谷氏が言う「採用PITCH資料」に盛り込むべき内容は以下の通り。

  1. Vision・事業概要・会社情報
  2. メンバー紹介/ボードメンバーの経歴概要
  3. マーケットの課題(現状)と自社のポジショニング
  4. 今後の成長戦略
  5. サービス導入のケースと顧客の声
  6. チーム体制・組織図(現在→1年後→3年後)
  7. 採用ポジション情報
  8. 今のフェーズで入ることの面白さ、魅力
  9. ニュース、職場風景、イベント記事等の掲載

このうち、1〜5については、資金調達の際に作るようなピッチ資料でカバーされているはずのコンテンツ。6〜9が新たに採用候補者向けに盛り込むべき内容だ。

チーム体制や組織図については、事業戦略をもとに「事業計画通りに行けば、1年後、3年後にはこういう組織になる」というものがあれば、候補者にとって「今入社すれば3年後にどれぐらいの組織体になっていて、このポジションになっているんだろうな」ということがイメージしやすく、自分の時間を投資して良いかどうかを判断しやすいという。

これらの情報がきちんと準備され、四半期に1度ぐらいで更新されていれば、採用広報の場面では情報を「Twitterでどう出そうか」「Facebookでどう展開しようか」という出し方を考えればよい、というわけだ。壁谷氏は要素を盛り込むときには、Wantedlyの「なにをやっているのか、どうやっているのか」といった「問い」が参考になる、とも話している。

次は、採用候補者が企業と面談するフェーズでの対策について。ここで言う「面談」は正式な「採用面接」の前段階に当たる、カジュアルな面談のことだ。壁谷氏は、キャリアコンサルタントとしての経験から「面談・面接・相談はそれぞれ言葉が違う。面談とは何か、ということをきちんと定義しておいた方がいい」と語る。

「私としては、面談とは、候補者が今までどんな思いでどういうことをやってきたかというキャリアの棚卸しをし、次に将来ビジョンやその人の持つ仕事の価値観を引き出した上で、では一緒にこれから、こういうキャリアストーリーを描いていこう、ということを出していく場だと考える。最終的には、企業の人事や採用に関わる人が協力し、自社への強い応募動機につなげることを目的とするものだ」(壁谷氏)

この目的のために面談で実施することは、候補者の仕事力、価値観、状況、意思決定のポイントの“確認”と、自社からの事業ビジョン説明、候補者を理解した上でのやりがいの提案、キャリア価値の提案・共有といった“情報提供”だ。

壁谷氏は、スタートアップの悩みとしてよくある「たくさんの候補者に会っていても、候補者の志望動機が上がらない、次のステージへ進まない」というのは、上で述べられたような意図・目的で面談に臨んでいないからだ、と指摘する。

「企業側の採用フローにおける面談も、人材紹介会社が候補者にやっている面談と同様に、意図を持ってやらなければいけない。目的を見失うと、カジュアル面談の場で自分たちまで“カジュアル”になってしまう。演出上、敷居を低く、接点を多くしてカジュアルに面談を行うのはよいが、目的をイメージして面談に臨んでもらいたい」(壁谷氏)

意図・目的を持ち、面談の実施がうまくいけば、必ず次の正式面接に強い志望動機や高いモチベーションを持って、候補者が進んでくれる、と壁谷氏は話す。「採用情報の提供のときに事前の情報提供をしっかり行い、面談のときにも採用PITCH資料を渡せるといい。そして面談の中で候補者のキャリアの棚卸しにきちんと協力して、『うちで働くとこういうキャリアイメージがあるが、それはあなたにとってどうだろう』という話をし、本当に興味があって仮説が正しいと思ってもらえる人に正式にエントリーしてもらう。これでぐっと採用力は上がってくる」(壁谷氏)

エージェントが紹介する「最初の3社」に選ばれるために

壁谷氏はさらに「人材紹介会社をうまく使うということも、スタートアップ企業にとっては大事なこと」と続ける。採用エージェントとの関係においても「普通に声だけかけると、エージェントの担当者にも企業開拓のノルマがあるのでアポイントはいっぱい入ってくるが、本当に(人材を)出してくれるかどうかは分からない」と壁谷氏は明かす。

その理由は、エージェントビジネスの儲けの構造にある。エージェントは、人材を獲得しやすい案件で、書類選考から内定までの通過率が高く、採用者の年収が高くエージェントフィーの率もよい案件を好む。しかし「スタートアップ企業への人材紹介ビジネスは『市場の失敗』領域じゃないかと思えるぐらい逆」と壁谷氏は言う。

「全然知られていないスタートアップでは応募への反応がない。また、高スペックの人を選びながら採用に至らないことも多いので、エージェントの気持ちも萎える。さらに採用者の年収が低めでフィーも安くしてくれ、と言われるとエージェントとしてはやりたくなくなる」(壁谷氏)

もちろん人材紹介会社の中にも、スタートアップにぜひ人を紹介していきたい、という志ある人はいるが「経済合理性だけでは難しい。気持ちや社会的意義でやってくれるというエージェントは、ぜひ大事にしてほしい」と壁谷氏は言う。

また、壁谷氏は「担当エージェントのマインドシェアを高めることも重視しなければならない」と言う。エージェントの1カ月あたりの候補者との面談数は、キャリアコンサルタントとリクルーティングコンサルタントを兼ねる一気通貫型の担当で20名、分業型の場合で40〜80名。つまり分業型の場合、1営業日あたりで見れば2名以上、多い会社では5〜6名と面談することになる。

「1時間の面談の中で、エージェントは30分は候補者の話を聞く。後半20分で企業案件の提案をし、最後の10分で諸々の手続きなどを行うとすると、案件の説明には1社あたり5〜7分かかるので、提案できるのは平均3社ぐらい。スタートアップはエージェントと候補者の初回面談のときに、対面で提案するこの3社の中に入っていかなければいけない。それ以外の会社は『こういう候補もありますので後で見ておいてください』となってしまう」(壁谷氏)

エージェントがちゃんと熱を持って語った会社なら、スタートアップであっても魅力に感じてもらえるし、志望動機は上がっていく、と壁谷氏は言う。では担当者のマインドシェアを高めるためには、どうすればよいのか。

壁谷氏は「特に分業型エージェントの場合、リクルーティングの担当者だけではなく、候補者と対面するキャリアコンサルタントの手元に自社に関する情報がすぐある状態を作らなければならない」と説明。これは採用PITCH資料があればできる、と話す。

「話題が多ければ、エージェントは候補者に話したがる。またFacebookやYouTube、Twitterなどでの情報発信も、エージェントへの提供材料となり、印象も変わる。こうしたコンテンツ、ネタがあればあるほど最初の3社に入りやすい。誰かに話したくなるような、ユーザー体験をエージェントに持ってもらうことも大切。エージェントと経営陣との接触機会を増やしていくこともよいだろう。そうすることでエージェントのマインドシェアを高めていくことができ、(明確な)志望動機を持ったよい候補者が出てくるようになる」(壁谷氏)

「ダイレクトリクルーティングを行う場合にも同様だが、面接をするまでにどれだけ仕込みができるかに採用成功はかかっている」と言う壁谷氏。「そのためには、最初にも話したとおり、ターゲティングから仮説を考え、最適な情報提供をしっかりしていくことだ。スタートアップはどの企業よりもそれをやらないと、放っておくと情報は勝手に薄くなっていくので、それを意識すべきだ」と語り、キーノート講演を締めくくった。

ローンチ1ヶ月で月間2億PVペースの「Peing – 質問箱」をジラフが買収、世界展開目指す

ここ数ヶ月、匿名質問サービスがちょっとしたブームになっている。その火付け役となったのは以前TechCrunchでも紹介したサウジアラビア発の「Sarahah(サラハ)」。自分に寄せられた質問に対する回答を、Twitterやインスタグラムのストーリーで公開して楽しむ。

ただ最近ではSarahahに似た「Peing – 質問箱(ピング)」が急速に利用者を増やし盛り上がりをみせている。同サービスは1人の日本人がわずか6時間で作り、11月22日にリリースされたばかり。1日当たりのPVが800万を超える日もあるなど、1ヶ月で月間2億PVを目指せる規模のサービスになっている。

そんなハイスピードで成長するPeingだが、売却に至るスピードも非常に速かった。

買取価格比較サイト「ヒカカク!」やスマホ特化型フリマ「スマホのマーケット」などを提供するジラフは12月21日、Peingを買収したことを明らかにした。同社はすでにPeingの開発・運営者せせり氏からPeingを譲受しており、今後はポケラボの創業者でジラフ執行役員の佐々木俊介氏が事業責任者に就任。佐々木氏のもとでサービスの拡大を目指していく。またせせり氏はアドバイザーとして同社に参画するという。

Peingは質問箱に届いた質問に対する回答がTwitter上に投稿され、広がっていく

1人で作ったサービスは1ヶ月で月間2億PVペースに成長

「どんどん増加するユーザーやアクセスに個人レベルで対応するのに限界を感じ、自分で運営するより組織的に運営できる所に託した方がユーザーさんも幸せになると思い売却を決めた」—— せせり氏が1ヶ月前に立ち上げたばかりのPeingを譲渡した理由だ。

現在26歳のせせり氏は19歳の時から7年かけて、1人で30個のWebサービスを開発し売却も経験。これまでの経緯を記したブログ記事はかなり拡散されたため、実際に読んだ人もいるかもしれない。

この記事をきっかけにせせり氏のもとには、「流行るサービスの作り方」に関する質問が増えた。そこで参考になるサービスを実際に作って説明しようと、開発したものがPeingだ。同サービスはSarahahに似ているが、Twitterログインを取り入れ登録時の手間を削減。画像投稿とリンク投稿を選べるようにしてTwitterのメディア欄を圧迫しないなど、使いやすい設計を意識されている。加えて日本語に対応していることもあり、国内でユーザーが急激に増加した。

以下はPeingの開発に着手してから1週間の推移だ(日付は全て2017年11月)。

  • 21日:「Peing – 質問箱」の開発に着手
  • 22日:サービスの公開(1000PV/日)
  • 23日:3000PV/日達成
  • 24日:1万PV/日達成
  • 25日:5万PV/日達成
  • 26日:10万PV/日達成(日本トレンド4〜5位)
  • 27日:40万PV/日達成(日本トレンド1位)
  • 28日:60万PV/日達成(TwitterAPI一時停止)

当初はクリエイターやIT業界界隈のユーザーが中心となっていたが、徐々にユーザー層が拡大。お笑いコンビNON STYLEの井上裕介さんなど著名人も利用し始めている。現時点でアカウント数は80万を超え、リアルタイムで2〜3万人が閲覧し、12月の月間PVも2億に到達するペースだ。せせり氏が個人で運営するには負担が大きく、今後のサービス拡大も見据えて売却に至ったという。

TwitterのDMから始まりほぼ2日でディールが成立

ジラフ代表取締役の麻生氏によると、上述したブログ記事をきっかけにせせり氏と一度話をしたことがあったとのこと。その時はPeingが今ほどの規模になっておらず買収の話は一切なかったが、その後せせり氏がTwitter上でnanapi創業者の古川健介氏に事業譲渡の可能性について打診している現場を発見。「(ジラフで)買収するチャンスもあるのではないかと考えた」という。

「匿名質問サービスというフォーマット自体は真新しいものではないかもしれない。ただフリマアプリを筆頭に個人間をつなぐサービスが注目され、普及している時代だからこそ広がっていく可能性もある。ライトなサービスなので海外展開もスピーディーにできるし、チームで開発・運営することで機能面などもっとよくできる部分も多い」(麻生氏)

写真左が「Peing – 質問箱」開発者のせせり氏、右がジラフ代表取締役の麻生輝明氏

事業譲渡について実際に話し始めたのは12月17日の夜。Twitterのダイレクトメッセージで麻生氏から提案し、2日ほどで大まかな契約が成立したそうだ。買収金額については非公開だが、過去に面識があり一定の信頼感があったことに加え、スピード感も決めてとなって折り合いがついた。現状Peingではマネタイズを強化していないがすでに収益も出ている状態で、このまま伸ばせれば「半年程で回収可能な額での買収」(麻生氏)だという。

後発だがSarahahに比べてユーザー登録の手間が少なく、うまくバイラルの波が作れれば一気に拡大できるチャンスもあるというのが麻生氏の見立てだ。海外からの流入もあるが“質問箱”では意味がわからないのが現状のため、アジア圏や英語圏から他言語対応を始める方針。合わせてバイラルを生み出す仕組みの研究や、Twitter以外のSNSに合わせた横展開の検討も進めていく。

ヒカカク!やスマホのマーケットなどジラフの既存事業とPeingの親和性は決して高いとはいえないだろう。ただその点については「リユース領域しかやらないということはなく、枠にはめすぎずにチャレンジの機会があればやりたい」というのが麻生氏の回答。今回の買収についても既存株主からの異論はなかったそうだ。

「C向けのサービスですぐに世界展開を狙えるサービスはそんなに多くはない。そのようなチャンスを得られたことをポジティブに捉えている。まだまだ施策としてやりきれてない部分も多く可能性はあると考えているので、挑戦していきたい」(麻生氏)

経費精算アプリ「Staple」のクラウドキャスト、「ルナルナ」などを提供するMTIから1億円調達

経費精算サービス「Staple(ステイプル)」を提供するクラウドキャストは12月21日、「music.jp」や「ルナルナ」などを手がけるエムティーアイ(以下、MTI)を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額1億円を調達したと発表した。

クラウドキャストが提供するStapleはクラウド型の経費精算サービスだ。アプリへの手入力で簡単に経費精算できるほか、交通系ICカードをアプリで読み込むことで交通費の精算を自動化することが可能だ(NFC対応のAndroid端末のみ)。また、領収書を撮影した画像データを経費レポートに添付することもできる。

クラウドキャストは2014年9月にSMB向けの「Staple」をリリースし(現在は「Staple 2」として提供)、同サービスのユーザー企業数は現在1万社を超える。この数字は月に300社ほどのペースで増えているという。その後クラウドキャストは2017年6月にSMB向けのStapleをエンタープライズ版に拡大した「Staple 3」をリリース。提供開始から約半年が経過した現在、トライアルに登録した企業数は100社ほどだという。有料版に移行したのはその内の10社ほどだ。

MTIとの資本業務提携

今回の資金調達により、クラウドキャストは今後、Stapleの販売促進と機能開発においてMTIとの協業を進めていく。

まず1つ目に考えられるのが、MTIがもつ営業リソースの活用だ。MTIというと、「music.jp」や「ルナルナ」などのBtoCサービスを提供する企業という印象が強いけれど、実はBtoBサービスも数多く提供しており、全国に法人向けの営業拠点や人的リソースを持っている。

同社が提供するBtoBサービスには、従業員が受けた健康診断の結果をデータ化することで企業が従業員の健康状態を把握するための「CARADA」や、企業が既にもつPC向けやガラケー向けのWEBサイトをスマートフォン向けに自動変換する「モバイルコンバート」などがある。そのため、今後はMTIのBtoBサービスとStapleをセットで提案するなどの営業面での協業が考えられる。

Automagiが開発した「FEEDER」

両社の協業はStapleの機能強化にもつながる。今のところ、Stapleには領収書の画像を経費レポートに添付する機能はあるが、画像から文字を読み取り、それを自動的に経費データに変換する機能はない。

一方、MTIの子会社であるAutomagiは2017年6月、AI利用した領収書読み取りアプリ「FEEDER」を発表している。クラウドキャストは自前で読み取り機能を開発するよりも、Automagiがもつ技術を利用する方法を選んだようだ。

また、その他にも技術的な協業の余地はあると代表取締役CEOの星川高志氏は語る:

MTIは常陽銀行と口座直結型スマートフォン決済の実証実験を開始するなど、Fintech分野への投資を進めている。経費の分野には経費を建て替えた従業員への送金手数料が高いという課題があるが、この送金手数料を下げるような仕組みをMTIと共同で開発していきたい」(星川氏)

クラウドキャストは2011年1月の創業。同社は2015年12月にクレディセゾン、IMJ Investment Partnersから数億円規模の資金調達を実施している。

LINEアプリで自転車レンタルが可能に——自転車シェア「Mobike」とLINEが資本業務提携

北京発の自転車シェアリングサービス「Mobike(モバイク)」が、日本でのサービスを札幌で開始したのは今年の8月のこと。2015年1月創業、2016年4月から上海でサービスを開始したモバイクは現在、世界の200を超える都市でサービスを展開し、登録ユーザー数も2億人以上へと大きく成長。日本のサービスローンチに先駆け、6月には日本法人モバイク・ジャパンも設立されている。

このモバイク・ジャパンと手を組み、自転車シェアリング事業に新たに参入を表明したのがLINEだ。LINEは12月20日、日本国内の自転車シェアリング事業展開に向け、モバイク・ジャパンと資本業務提携契約を締結したことを明らかにした。2018年上半期を目標として「LINE」アプリ内からMobikeの利用を可能にすべく準備を進める、としている。

Mobikeは、近くにあるGPS・スマートロックが搭載された自転車をスマートフォンアプリで確認し、予約。QRコードのスキャンで解錠して利用を始める仕組みだ。目的地に到着後は、最寄りの駐輪スペースに使用した自転車を停めて施錠すれば利用が完了する。

モバイクのライバルは、自転車シェアリングサービスで初のユニコーン企業となったOfoだ。Ofoは既にソフトバンク コマース&サービスとの協業を発表している。OfoとMobikeはいずれも基本的には「ドックレス」、つまり決まった駐輪スペースを必ずしも利用しなくても自転車を使えるサービスを提供している。

このほか、国内企業ではNTTドコモが2014年10月から千代田区など自治体と共同でコミュニティーサイクルの実証実験を開始。2017年9月には、メルカリが「メルチャリ」で、DMMが「DMM sharebike(仮)」で自転車シェアリングサービスへの参入を相次いで表明。2018年初頭のサービス開始を目指すとしていた(ただしDMM sharebikeの方はすでにサイトもなく、サービス自体がなくなっているようだ)。

今回のLINEとモバイクの資本業務提携により、モバイクはサービス運営、自転車提供・メンテナンス、アプリおよび業務システム開発を担当、LINEは自社ユーザーの活用のほか、官公庁・自治体・企業などとのネットワークを活かしたインフラベースの整備サポートなどを行うことで、Mobikeのサービス展開を拡大していくという。また2018年1月5日にLINEからモバイク・ジャパンへの出資を実施し、取締役を1名派遣する予定だ。

SoftBank、Lemonadeの1.2億ドルのラウンドをリード――不動産損保投資にはGV、Sequoiaも参加

SoftBank Groupはやっと不動産事業でテクノロジーに投資する気になったようだ。

44億ドルをWeWorkに投資したSoftBankだが、この会社は本質的にオフィス・スペースの短期賃貸業務だ。4億5000万ドルを投じた Compassは金持ちのためのZillowだろう。しかし日本の巨大投資会社が今回リード1億2000万ドルの投資ラウンドをリードした対象はLemonadeだ。これは家屋の賃貸者と居住者の双方に保険を提供するスタートアップだ。

既存投資家、Alphabetの投資会社GV、有力ベンチャーキャピタリストのGeneral CatalystとSequoia Capitalも今回のラウンドに参加した。

損保業務というのは非常に難しいビジネスで、データサイエンスのための広汎なデータ、業務を成り立たせる顧客数を必要とする。Lemonadeはスマートフォン時代の新しいテクノロジーと市場の状況を利用してゼロから新らたに損保業務に参入する企業のパイオニアの1つだ。

Lemonadeの保険約款策定業務の大部分はチャットボットを利用したコンピューター処理によって自動化が図られている(AI利用かどうかについては明言できない。なるほど複雑な業務であるが、単に効率的なアルゴリズムかもしれない)。

まずこの点で大幅なコストダウンが図られている。しかしLemonadeはまた保険契約者が損害請求を当って正直に申告することを動機づける興味あるビジネスモデルも採用している。ユーザーはアプリから保険契約を行う際、まずお気に入りのチャリティー団体を選定する。保険請求を行わなかったことによって生じた期末の利益の一部はこチャリティー団体に寄付されるという仕組みだ。

つまりユーザーは保険契約から生じた利益が、どこかの顔のない企業役員のボーナスを増やすのに消えるわけではなく、自分の支持するチャリティーを後押しするために使われると知っていれば、苦労して請求額を水増ししようとしなくなるだろう、というわけだ。

Lemonadeによれば、同社は今回調達した資金を「史上初の消費者の方を向いた保険会社として、こうした業務を世界に拡大するために利用する」ということだ。また2018年には新たな保険商品を開発して顧客に提供していくという。ただしLemonadeが進出を予定していない分野の一つは自動車保険だという。CEOのDaniel Schreiberによれば「確かに巨大な興味ある市場だが、条件が厳しすぎる」とのことだ。

「Lemonadeはすでに9万件の保険契約を持っており、保険の対象の物件の総額は数十億ドルに達する」とSchreiberは述べた。

長年無風だった損保市場にTrōvCoverHippoSwyfftなど、最近多数のスタートアップが参入を試みている。

SoftBank Groupの上級投資専門家、David Thevenonは「ビッグデータとAIをシームレスに結合して新たなユーザー体験を創出することによってLemonadeは損保業界に本当の革命を起こそうとしている」と声明に書いている。

ただしSoftBankの広報担当者は、「投資が完了するまで大部分の質問に対する回答を保留する。また当社の投資専門家は出張中のため現在コメントできない」と述べた。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook <A

メルカリがローンチから約4年半で世界1億ダウンロード突破、ネイマールがブランドアンバサダーに就任

ネイマールJr.選手

フリマアプリを提供するメルカリは本日、世界累計ダウンロード数が1億を突破したことを発表した。メルカリがローンチしたのは2013年7月なので、およそ4年半で大台突破を果たした。また、リリースと同時にプロサッカー選手のネイマール選手がメルカリのグローバルブランドアンバサダーに就任したことを発表。ウェブ上でいくつかイメージムービーを公開している。

日本でのダウンロード数6000万超、1日の出品数は1000万品以上だという。海外ではアメリカとイギリスの2カ国でアプリを提供している。アメリカでのアプリローンチは2014年9月で、2017年11月にはダウンロード数が3000万を超えた。イギリスでは今年3月にアプリを提供し始めたばかりだ。正確なダウンロード数は公表していないものの、日本とアメリカのダウンロード数からイギリスでのダウンロード数はまだ1000万に達していないと言えそうだ。ただ、イギリスでもダウンロード数は順調に伸びているようで、Googleが市場別に発表している「2017年 ベストアプリ」のイギリス版で、メルカリは「New App With the Most Downloads(最もダウンロードされたアプリ)」の1つに選ばれている。

メルカリのダウンロード数は順調に推移しているが、新機能や新サービスの展開にも積極的だ。最近では、ライブコマース機能「メルカリチャンネル」即時買取サービス「メルカリNOW」をリリースした。また、来年春には新しくC2Cのスキルシェアサービス「teacha」を展開予定だ。

人型ロボとVRで1万キロ先に瞬間移動――テレプレゼンスの実現へGITAIが約1.4億円を調達

GITAIは人型ロボットとVRヘッドセットを通じて、実際に行かなくても、その場にいるように感じられるテレプレゼンス・ロボットを開発している。GITAIは本日、ANRIと500 Startups Japanより総額125万ドル(およそ1億4000万円)の資金調達を実施した。

アメリカではすでにSuitable TechnologiesDouble Roboticsといった企業がミーティング用のテレプレゼンス・ロボットを販売している。どちらもタブレットに自走する車輪がついたようなプロダクトだ。ユーザーは自宅などから、オフィスにあるこのデバイスにビデオ通話をすることで、会社の人と話したり、ミーティングに参加したりできる。

GITAIはこのようなテレプレゼンスを、より人に近いロボットで実現したい考えだ。GITAIのプロダクトでは、ユーザーはVRヘッドセットを通じて、360度カメラを搭載したロボットの視界を共有する。センサーのついた触覚グローブを装着すれば、ロボットの腕の動きや触覚の一部も共有可能だ。

これが実現すれば通勤時間をなくすことができるだろう。「人は一生のうち約544日、およそ一年半という時間を通勤に使っています」とGITAIの代表取締役を務める中ノ瀬翔氏は話す。こうした移動の無駄を、「人の体の方を増やすことで解決したい」と話す。

GITAIのヒューマノイド・テレプレゼンス・ロボット

通信技術がテレプレゼンスの要

テレプレゼンスの実現に取り組む企業は他にもいくつかあるが、GITAIの強みは、ソフトウェアと通信技術にある。ユーザーが実際にそこにいるかのような感覚を得るには、ロボットの映像とユーザーがVRで見る映像の遅延を限りなく少なくする必要がある。しかし、360動画動画は容量が大きいため、汎用規格のWebRTCでは遅延が1秒ほど発生し、解像度やフレームレートも落ちてしまう。

GITAIではこの通信の課題を解決したいと考え、データ削減技術とより早くデータを送れる通信技術の開発に着手した。データ削減については、360度動画の全てをヘッドセットに送るのではなく、ユーザーの見ている範囲に限定し、なおかつフレームごとの差分がある部分のみを送信するようにした。通信の面では、独自のPSP通信技術を開発(P2P通信は、サーバーを介さずコンピューター同士が直接通信する方式でSkypeなども採用している)。データをベストな状態で送るためのGITAI OSも構築した。

こうした技術により、GITAIではフレームレートと解像度を維持しながら遅延を0.08秒までに抑えることが可能になった。「1万キロ離れた場所でも、リアルタイムで乗り移れることにこそ価値があると思っています」と中ノ瀬氏はGITAIがソフトウェアと通信に力を入れている理由について話す。

テレプレゼンスは“実質的な瞬間移動”

来年の後半には、開発者向けに一部のソフトウェアをベータ版として公開する予定だ。コンシューマー向け以外にも、災害救助や宇宙開発といった法人向けの提供も想定しているという。宇宙開発に関しては、すでに2017年9月、360度カメラ付き小型衛星などのハードウェアを開発するSpaceVRとの提携を発表している。宇宙空間では通信が貧弱になり、船外活動用のロボットや探査機などの遠隔操作が難しくなる。そうしたロボットとの通信と遠隔操作にGITAIの技術を活用する予定だ。

最終的には、人型ロボットでのテレプレゼンスを実現したいと中ノ瀬氏は話す。そう考えるきっかけになったのは、親を亡くした時、駆けつけるのが間に合わずに後悔した経験があるからだと言う。最初は趣味の延長で開発したロボットだったが、プロトタイプを見て、手軽に相手の様子を見たり、駆けつけたりできるデバイスになると感じたそうだ。「実質的に瞬間移動ができる。この価値を世の中に提供したいと思っています」と中ノ瀬氏は話している。

中ノ瀬氏は2013年にインドで起業し、開発したサービスを売却をした経験がある連続起業家だ。GITAIは2016年7月に設立した。同年9月、Skyland Venturesより1500万円を調達。今年の夏には、シリコンバレーのシンギュラリティ大学が提供する起業家向け育成プログラム「Global Solution Program 2017」に参加した。

左からGITAIのCEO中ノ瀬翔氏とエンジニアの宇佐美健一氏

AIによる需要予測で過剰在庫の削減へ、物流スタートアップのニューレボが5000万円を調達

通販事業者向けのクラウド在庫管理システム「ロジクラ」を提供するニューレボ(New Revo.)は12月20日、ジェネシア・ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により総額5000万円を調達したことを明らかにした。

同社はこれまでにも2016年9月にF Venturesから、2017年8月にDGインキュベーションから資金を調達。今回新たに調達した資金をもとに、データ収集や機械学習の精度向上・体制強化を進め、AIを用いた需要予測機能などプロダクトの拡張を進める。

通販事業者の負担となる入出荷作業をシステムで効率化

ロジクラは商品の入荷から在庫管理、出荷までを一気通貫で管理できるシステム。バーコードやラベルの発行、在庫管理、通販サイトの受注取り込み、納品書の作成といった一連の物流業務をクラウド上で完結できることが特徴だ。

ニューレボ代表取締役社長の長浜佑樹氏によると、通販事業者が在庫管理や発送を行う現場では未だに紙やFAXを中心としたやりとりや、目視での検品作業などアナログな部分が多いそう。それが生産を低下させる原因になっているという。

「中小のEC事業者では自社で商品の出荷まで行っているところが多い。他の業務もある中で注文データと目の前の商品があっているかなど逐一目視でチェックするのは負担になる。加えて送り状の記入なども毎回手書きでやっているのが現状。このようなアナログな作業をデジタル化することで生産性を上げたい」(長浜氏)

なんでも通販事業者によっては、全体の60%以上が検品作業など入出荷に関する業務に使われているという。その点は長浜氏自身も学生時代に倉庫業務のアルバイトを経験していて、同じ課題を感じていたそうだ。

ロジクラでは商品のバーコードをスマホで読み取りクラウド上で管理することで、目視で行っていた際に起こり得る検品作業のミスや無駄な時間の削減など、入出荷業務をスムーズにする。目標は「現場の入出荷作業の時間を80%削減する」ことだ。

サービス自体は11月上旬から事前登録ユーザーの募集を始めたところ。すでに約50社から問い合わせがあり、これからテスト版の運用を実際に始めていくフェーズだという。

蓄積したデータをもとにAIで需要予測、過剰在庫の削減へ

ニューレボ代表取締役社長の長浜佑樹氏

現在のロジクラでは上述したようなクラウド在庫管理機能のみを提供しているが、目指しているところはもう一歩先。蓄積された在庫データなどを解析することで、在庫の需要予測までできるシステムだ。

ニューレボが内閣府の資料をもとに計算したところ、国内の中小企業の倉庫には売れずに眠っている「過剰在庫」が54兆円ほど存在しているという。また平成28年には過剰在庫がキャッシュフローを圧迫し1週間に1社のペースで企業が倒産するなど、過剰在庫が大きな問題となってきた。

「過剰在庫が発生する原因のひとつは、発注担当者が自分の経験や勘で発注してしまうこと。欠品を恐れて必要以上に発注してしまった結果、在庫が増えてキャッシュを回収できないという状況に陥ってしまう。1番の問題はデータに基づいた需要予測ができていないことにあると考えた」(長浜氏)

そこでロジクラでは在庫管理システム上に蓄積された在庫・販売データと、景気動向や天気など外部のデータを組み合わせて解析。企業ごとに最適化された需要予測ができる機能を構築する計画だ。

「完全に過剰在庫をなくすことは難しいが、予測と出荷実績のばらつきを抑えることはできる。需要予測機能を使った場合の在庫の削減目標は30%。それだけでも大きなインパクトがある」(長浜氏)

ニューレボでは今回の資金調達を機に、統計解析や機械学習をはじめとしたAI技術を保有する人材の採用を強化する。2019年度までに各企業に最適化された需要予測機能を提供することが直近の目標だ。また長期的には在庫データをもとにした在庫売買のプラットフォームや在庫を担保にしたレンディングなど、「在庫データ」ビジネスの展開も検討していくという。

ニューレボの創業は2016年の8月。代表の長浜氏が学生時代にシリコンバレーでUberに出会ったことが起業のきっかけだ。自身がアルバイトなどで交通や物流領域の仕事をしてきたこともあり、当初は食品や日用品の即日配送アプリ「FASTMRT(ファストマート)」を運営。そこからより物流業界の大きな課題に着目する形で、在庫管理を効率化するロジクラを始めている。

成約率が高い見込み客を自動でリスト化、DBスタートアップのBaseconnectが1億円調達

企業情報データベースの「BaseconnectLIST(以下、LIST)」を開発するBaseconnectは12月20日、ジェネシア・ベンチャーズみずほキャピタル、京都市スタートアップ支援ファンド、ユーザーローカル代表取締役の伊藤将雄氏、YJキャピタルEastVenturesなどから総額1億円を調達したと発表した。この調達金額には地銀からの融資も含まれる。

テレアポや飛び込み営業というのは、今も昔も変わらない営業の現場の姿。営業員たちはいわゆる「見込み客リスト」を片手に営業をかけていくわけだが、そのリストの作成には膨大なコストと手間がかかる。Web上の情報や電話帳から得たデータをもとに人力でリストを作成し、片っ端から営業をかけていくという企業も少なくないだろう。

そのような企業に対し、営業先となる企業に関する各種情報を集めた企業データベースを安価で提供するのがBaseconnectだ。LISTでは、同社が保有する企業データを約20項目の検索条件(従業員数、売上規模など)で絞り込み、それを見込み客リストとして出力することが可能だ。LISTは12月20日よりベータ版を公開。正式リリースは2018年4月を予定している。

SaaS型で低価格、レコメンドも

企業情報をデータベースとして提供する企業は多くある。大企業まで網羅する企業としては帝国データバンクランドスケイプなどがあるし、スタートアップを中心としたデータベースにはCrunchBaseもある。しかし、Baseconnect代表取締役の國重侑輝氏は、それでも「データベース業界は旧態依然とした業界であり、企業情報を安価で入手できるSaaSがない」と話す。

Baseconnect Listの料金は従量課金制で、企業情報1件にかかる料金は25〜30円。最も安いプランでは月額9000円で利用できるという。この値段であれば、スタートアップや中小企業でも手を出しやすい。企業規模が大きくなり、営業活動が本格化すれば見込み客リストを無制限に作成できるプラン(月額50万円)を選ぶこともできる。

Baseconnect Listにはレコメンド機能があることも特徴だ。これは、ユーザーが既存顧客のデータをアップロードすると、その企業に似た企業をデータベースから抽出してリスト化するというもの。既存顧客と見込み客との間の類似点をスコア化し、その点数が高い見込み客が成約率が高いと判断する。“既存顧客と似ている見込み客の成約率は高い”というロジックがアルゴリズム化されているというわけだ。

一方で、データベース企業の勝敗を分ける要因の1つが”情報の網羅性”であることも確かだ。今のところ、LISTに格納された企業データは約10万社。國重氏によれば、本社ベースで数えた企業数は全国で400万社ということだから、カバー率はまだ低い。Baseconnectの当面の目標は、その400万社のうち企業活動が活発な150万社をデータ化することだ。

データはデジタルなものだが、その入力作業は人間の手によるアナログなタスク。今ある10万社分のデータを作成するのには約1年の時間を要している。「今では2ヶ月で10万件のペースでデータ化できるようになった」と國重氏は話すが、Baseconnectは今回の資金調達によって現在200名(アルバイトなど含む)体制のデータ作成チームの増強をさらに進める。また、1社分のデータを作成するコストは今のところ約300円だということだが、このコストもデータ作成の自動化を進めることで圧縮していくという。