ソフトバンクグループが中南米で投資を拡大、約3290億円のファンド第2弾を発表

ソフトバンクグループは中南米への投資を拡大する。

日本の投資コングロマリットであるソフトバンクグループは9月14日、中南米のテック企業に照準を当てた2つめのプライベート投資ファンドSoftBank Latin America Fund II(ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドII)を発表した。さしあたり30億ドル(約3290億円)のファンドを新たに立ち上げる。

「ファンドIIは追加の資金調達も検討します」と同社は声明で述べている。

新たなファンドは、2019年3月に発表された50億ドル(約5480億円)のラテンアメリカ・ファンドに続くものだ。この第1号ファンドの初期規模は20億ドル(約2190億円)で、当初はInnovation Fund(イノベーション・ファンド)と呼ばれていた。

ソフトバンクによると、第1号ファンドでは6月30日時点で69億ドル(約7565億円)の価値がある計48の企業に35億ドル(約3840億円)を投資し、正味IRR(内部収益率)は85%となった。同社はこのファンドからユニコーン企業15社に投資した。ここには不動産テックスタートアップのQuintoAndarRappiMercado BitcoinGympassMadeiraMadeiraなどが含まれる。直近ではアルゼンチンの個人ファイナンス管理アプリUaláの3億5000万ドル(約380億円)のシリーズDを共同でリードした。

関連記事
パンデミックを追い風にブラジル版IKEAのMadeiraMadeiraが197億円調達、評価額1039億円超に
新興市場の問題を解決するメキシコの中古車販売ユニコーンKavakが531.7億円を調達、評価額は4385億円

ソフトバンクはまた、ポートフォリオ企業の「かなりの価値の上昇」に接したとも語る。例えばKavakとVTEXの価値は4.4倍に、QuintoAndarは2.6倍に、Banco Interは3.5倍になった(いずれも6月30日時点)。

ソフトバンクはブラジル、メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチン、エクアドルなど中南米全域の企業に投資してきた。

ソフトバンクグループの副社長執行役員でCOOのMarcelo Claure(マルセロ・クラウレ)氏がソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドを率い、マネージングパートナーのShu Nyatta(シュー・ニアッタ)氏とPaulo Passoni(パウロ・パッソーニ)氏が同地域の投資チームをまとめている。オペレーティング・パートナーでソフトバンク・ブラジルのトップ、Alex Szapiro(アレックス・シャピロ)氏がファンドの運用チームを率いる。

投資と運用のチームは計60人を超え、マイアミ、サンパウロ、メキシコシティに散らばっている。

ファンドIIはテクノロジーを活用している同地域のあらゆる産業の企業に投資する。シードから公開までさまざまなステージの企業を対象とし、中でもeコマース、デジタル金融サービス、ヘルスケア、教育、ブロックチェーン、法人ソフトウェアなどの分野にフォーカスする。

声明文の中でソフトバンクの代表取締役会長兼CEOの孫正義氏は、中南米を「世界で最も重要な経済地域の1つ」と表現した。

「ソフトバンクは、中南米の何億もの人々の益となるテクノロジーの浸透を引き続き推進します」と孫氏は述べた。「中南米ではかなりのイノベーションとディスラプションが起こっており、中南米におけるビジネスの機運はこれまでになく高まっていると確信しています。中南米は当社の戦略で重要な部分を占めます。だからこそプレゼンスを広げ、マルセロの指揮のもとに投資規模を拡大します」。

クラウレ氏は、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドの成功とリターンが同社の予想を「はるかに超えた」と述べた。今後の展望として、2022年は中南米の歴史の中で「最大のIPOイヤー」になる、と同氏は予想している。

TechCrunchは2021年初め、なぜグローバルの投資家が中南米に押し寄せているのかについて取り上げた。当時、ニアッタ氏は中南米のテクノロジーはどちらかというとディスラプションではなくインクルージョンだと筆者に語った。

「人口の大多数は消費のほぼ全部門で十分なサービスを受けられていません。同様に、ほとんどの企業が現代のソフトウェアソリューションのサービスを十分に提供されていません」とニアッタ氏は説明した。「多くの人、企業のために構築する余地がかなりあります。サンフランシスコではベンチャーエコシステムはすでに未来に住んでいる個人や企業のためにほんの少し暮らしを良いものにします。中南米では、テック起業家はあらゆる人の未来を構築しているのです」。

画像クレジット:abzee / Getty Images

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

iPhoneイベント中、アップルの株価は下がる

現在、TechCrunchの仲間たちが、Apple(アップル)のiPhone(アイフォン)、iPad(アイパッド)、AppleWatch(アップル)に関するイベントの最新情報を書くのに一所懸命取り組んでいる。巨大企業のハードウェアアップデートについての良いメモが得られている。しかし、同じ一連の製品について、市場は何と言っているのだろうか?

画面のニト値よりも、実質的なS&P配当利回りに関心のある私たちにとって、Appleの楽しいイベントは、特定のスマートフォンモデルのGPUの数よりも、主催する会社の価値にとって何を意味するのかという点が興味深い。そして、Appleの株はイベント中に少しおもしろい動きをしたかもしれない。

下のグラフを見て欲しい。

画像クレジット:TechCrunch/Y Charts

これは1日分のチャートなので、示されているのは日中の変化だ。ズームインして見ている。そして、Appleは米国東部標準時午後1時(米国太平洋標準時午前10時)に開始されたイベント中に、上記チャートの中で少し落ち込みをみせた。

通常Appleの株式は、プレゼンテーション中に大した動きは見せない。そのため率直に言って、これは奇妙に感じられる。Appleのイベントでは、数千億ドル(数十兆円)の収益を生み出す製品構成が詳しく説明されている最中なのだ。いつものようなゼロよりも大きな影響があると考えても不思議ではない。

しかしイベントが米国東部標準時午後2時頃に終了したとき、実際の株価に変動が見られた。おそらく投資家はもっと高価なデバイスを望んでいたのだろうか?それとも、Appleがもっと隠し玉を持っていることを期待していたのだろうか?Apple製品ラインナップをどのように評価するかは個人的な好みの問題だが、投資家はわずかにマイナス側に傾いたようだ。

約2兆5000億ドル(約274兆円)の価値があるAppleの株価は、1%変動するごとに100億ドル(約1兆1000億円)規模の価値が動く。Appleの1.5%ほどの損失(これを書いている間にも取引は続くが)、最近買収されたMailchimp(メールチンプ)よりも時価総額が大きい。それは莫大な金額だ。

Appleイベントの残りの記事は、こちらから。どうぞお楽しみを!

画像クレジット:Apple

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

クラウド市場の成長を脅かす中国によるテック巨人への弾圧、BATHの中での位置づけは

中国のテック企業が国内の規制当局の監視下に置かれる中、投資家や中国の4大クラウド企業であるBATH(Baidu AI、Alibaba Cloud[アリババクラウド、阿里雲]、Tencent Cloud[テンセントクラウド]、Huawei Cloud[ファーウェイ・クラウド])を含む国内のハイテク企業の間で、懸念やプレッシャーが高まっているとアナリストが報告している。

一連の独占禁止法やインターネット関連規制の取り締まりにもかかわらず、大手クラウド企業4社は着実に成長している。現在の精査は特にクラウド分野に集中しているわけではなく、デジタルトランスフォーメーション、人工知能、スマートインダストリーへの需要が堅調に推移していることから、中国のクラウドインフラ市場規模は、2021年第2四半期に前年比54%増の66億ドル(約7261億円)となった。

それでもなお、Baidu(バイドゥ、百度)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)の3社の株価はこの半年間で18%から30%下落しており、投資家は中国のテック企業に賭けることに慎重になる可能性がある。

「中国のテック企業は、有利な欧米市場へのアクセスが妨げられていたときには特に、常に国内市場に頼ることができました。しかし、過去9カ月間に国内の規制圧力が高まったことで、過去数年間にクラウド事業を大きく成長させてきた企業にとっては、苛立たしい逆風となっています」とCanalysのバイスプレジデント、Alex Smith(アレックス・スミス)氏は語る。

関連記事:中国TencentのWeChatが「法律・規制違反」で新規ユーザー受け付けを一時停止

中国のクラウド市場では、4大クラウド企業がクラウド支出総額の80%を占め、圧倒的な強さを誇っている。Alibaba Cloudは、2021年の第2四半期に33.8%の市場シェアを獲得し、トップランナーの地位を維持している。同じ第2四半期に中国の市場規模の19.3%を占めていたHuaweiは、これまで規制措置を回避してきた存在だ。

CanalysのチーフアナリストであるMatthew Ball(マシュー・ボール)氏はこう語る。「Huaweiはたまたま強力なクラウドビジネスも展開している、インフラとデバイスの会社です。クラウドインフラに関しては、BATだけでなく、BATH企業に注目しています。Huaweiは、特に同社が政府との良好で長期的な関係を持つ公共セクターにおいて、成長を促進するのに強い立場にあります」。

中国の規制当局が自国のテック企業への監視を強化する一方で、弾圧は中国の市場や同国に拠点を置く企業の株式に大打撃を与えている。

中国では、国家安全保障に関わる重要データの保護を目的としたデータセキュリティ法が6月に成立し、9月上旬から施行されている。また、8月下旬には、ByteDance(バイトダンス)、Alibaba Group(アリババグループ)、Tencent、DiDi(ディディ、滴滴出行)などを対象としたアルゴリズム企業の規制に関するガイドライン案が発表された。

関連記事
中国政府が推奨アルゴリズムの厳格な管理を提案、アリババとテンセントの株価わずかに下落
【中国】Tencentが年齢制限を回避するサイトに対抗策

画像クレジット:Alex Tai / SOPA Images / LightRocket / Getty Images

原文へ

(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

【中国】Tencentが年齢制限を回避するサイトに対抗策

TechCrunchチャイナ・ラウンドアップへようこそ&おかえりなさい。今週も中国テック業界の近況と世界の人々に与える影響ついてお送りする。

中国政府による新たなゲーム規制の執行はイタチごっこの様相を見せている。同国のインターネット巨人と若きプレイヤーたちは常に相手を出し抜こうと伺っている。Didi(ディディ、滴滴出行)アプリが禁止された後、中小ライドシェアリング・アプリ各社は市場の真空地帯を狙っている。

Tencentと若きゲーマーたち

中国のことわざ「ポリシーのあるところに対抗策あり」は、この国のビデオゲーム環境の規制強化で今起きていることをうまく言い表している。2021年9月、中国は低年齢ユーザーのゲーム時間に関して過去に類を見ない最も厳格なルールを制定した。18歳未満のプレイヤーたちは騒然となり、週3時間の割当てを打開する方法を必死に探し始めた。

関連記事:中国政府が子どものオンラインゲームを週末3時間のみに制限、健康懸念で

数日のうちに、ゲーミングの巨人、Tencent(テンセント、騰訊)は、一連の回避策を一掃する行動を起こした。同社は未成年プレイヤーへの成人アカウントの販売あるいは取引を行う20以上のオンライン・サービスに対して訴訟あるいは声明を発行したことを、今週同社のゲーミング部門がWeibo(微博)に関する発表の中で語った

子どもたちはそのアカウントを2時間当たり数ドルで借りることで通常の年齢確認を行わずにゲームをプレイできる。この手のサービスは「実名ゲーミング・システムと未成年保護の仕組みにとって深刻な脅威」であるとTencentは語り、一連の慣行を中止するよう要請した。

教育的ゲーム

中国政府は中毒を誘発するゲームや、未成年者にとって「身体的および精神的に有害」と考えられるゲームを主な標的としている。しかし「子どもたちにとって良い」ゲームはどうなのか?

TencentとRoblox(ロブロックス)が2019年に中国でジョイントベンチャーを設立した時世間は、クリエイターに焦点を絞ったゲーミングプラットフォームがTencentが教育ゲームを制作して創造性をかきたてたり、テクノロジーをもっと社会を良くするために使うように、という政府の要請との整合性を高める後押しになるだろうと推測した。TechCrunchは以下のように報じている。

Robloxの「創造性」の奨励に焦点を当てたマーケティングは、テック企業は「良いことを行うべし」というTencentが応じた中国政府の要請と調和していると考えられる。Robloxの中国語ウェブサイトは、同社のビジネスには学習とSTEMツールがあり、地域の学校と教育者との協調も計画していると謳っている。

もしRobloxが、若き中国人たちに世界的な人気ゲームをデザインするよう喚起することができるなら、中国当局は同社を中国文化とソフトパワーの輸出ルートとみなすようになるかもしれない。ゲーミング業界は、政府の関心と一致することが国の支援を受けるために必要であることを十分認識している。実際、ゲーム業界を始めとする非政治的団体による政治的、社会的な重要問題に関する提案を支援をするための組織である中国人民政治協商会議のあるメンバーは、ビデオゲームは中国文化輸出の有効な手段であると6月に語った。

Robloxのこの事例は、ゲームの教育および輸出目的利用に対する中国政府の姿勢の変化を見る興味深い題材だ。

Didiへの挑戦

Didiには数年来多くのライバルがいるが、中国ライドシェアリング業界における同社の支配を脅かすものは現れていない。しかし最近、一部のライバルたちは、当局がサイバーセキュリティの懸念からDidiアプリの新規ダウンロードを禁止した後、新たなチャンスを見出そうとしている。Cao Cao Mobility(曹操出行)はその1つだ。

Cao Caoは中国の自動車メーカー、Geely(吉利汽車)傘下の高級ライドシェアリングサービスで、今週5億8900万ドル(約647億6000万円)のシリーズB調達ラウンドを発表した。このラウンドは、Cao Caoがドライバーと乗客の支持を得るための武器を与えるはずだ。しかし、政府による反競争取締りが強化される中、昨今のインターネットプラットフォームは、2015年頃のDidiほど資本注入による成長フェーズに熱心ではないかもしれない。

アプリの禁止がDidiに与えた影響は今のところ限定的だ。むしろアプリによる注文は7月に13%増加したことを運輸局のデータが示している。新たにスマートフォンを手に入れた人はDidiをダウンロードできないが、それでもWeChatで動くミニアプリを使うことができる。WeChatは中国で広く普及しておりサードパーティーアプリのエコシステムを広げている。Didiがアクティブユーザーを何人失ったのかはわかっていないが、同社のライバルが巨人のドライバーと乗客を誘う多額のインセンティブを払うわなくてはならないことは間違いない。

DTCファストファッション

ベンチャーキャピタリストたちは中国のDTC(消費者直接販売)ブランドに資金を注入しており、この国のサプライチェーンの優位性と抜け目ないマーケター集団が欧米消費者を取り込むことに期待している。7月に、ベビー服ブランドのPatPat(パットパット)は5億1000万ドル(約560億7000万円)の大型調達を完了した。2021年9月、Z世代ファストファッションを中国で生産して米国で販売している新進気鋭のDTCブランド、Cider(サイダー)が、シリーズBラウンドで1億3000万ドル(約142億9000万円)を調達し、企業価値は10億ドル(約1099億5000万円)以上だったというニュースがやってきた。中国のテックニュースサイトである36Krが最初に報じ、TechCrunchも独自に確認した。

DST GlobalがCiderの最新ラウンドをリードし、既存の出資者であるA16Z(アンドリーセン・ホロウィッツ)とGreenoaks Capital(グリーンオークス・キャピタル)も参加した。投資家たちはShein(シェイン)の世界中での勢いにはっきり勇気づけられている。同社の新規ダウンロード数は数十の国々でAmazonを超え、業界の巨人Zara(ザラ)と比較されることも多い。純粋なインターネット企業と異なり、輸出志向のEコマースには、デザインから、製造、マーケティング、出荷からアフターサービスまで長くて複雑なバリューチェーン(価値連鎖)があることで知られている。Sheinの物語は多くのフォロワーを元気づけるだろうが、簡単には真似できない。

関連記事:ファストファッション「SHEIN」がアマゾンを抜き米国で最もインストールされたショッピングアプリに

画像クレジット:Visual China Group / Getty Images

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】すばやく行動し破壊することは、プライバシーとセキュリティを犠牲にする

私は長年、テクノロジーの未来の最前線に立ってきた。

Y Combinatorで採用担当ディレクターを務めていたとき、何百ものスタートアップのピッチを見た。その多くは特定の属性を共有していた。急速に拡大するユーザーの経路をたどり、ユーザーから抽出したデータを収益化するというものだ。

時間が経つにつれて、テクノロジーが作り出しているものの全体像を認識し始めた。すべての動きが追跡され、収益化される「マイノリティレポート」の世界。Facebookのように「Move fast and break things」(すばやく行動し破壊せよ)という信念を掲げる企業もあった。彼らは概念や常識を壊すことにととまらず、最終的には一部の人々の人生を犠牲にするような偽情報やプロパガンダを広め、私たちを失望させた。

それはどのような犠牲を払ってでも成長を遂げる「growth-at-all-cost」というマインドセットに起因するものだ。21世紀のシリコンバレーの消費者向け企業大手の中には、データを利用して、ユーザーのプライバシーやセキュリティをほとんど、あるいはまったく考慮せずに広告を販売することで繁栄した企業もある。私たちは、テクノロジーにおける最も聡明なマインドを持ち合わせている。真に望んだなら、最低限、人々がプライバシーや情報のセキュリティについて心配する必要がないように、状況を変えることができたであろう。

人々が自分のデータをよりコントロールできるような、そしてシリコンバレーがプライバシーとデータセキュリティのイノベーションを探求するようなモデルへと、私たちは移行することができるはずだ。複数の長期的なアプローチと、検討すべき新しいビジネスモデルのポテンシャルがある一方で、短期的にプライバシー重視のマインドセットにアプローチする方法もある。ここで、個人による自身のデータのコントロールが可能な未来に向かって進み始めるための、いくつかの方法に目を向けてみよう。

ワークプレイスは、より安全なアイデンティティテクノロジーの実現を先導すべき場所である

私たちは、テクノロジーが人間、ビジネス、社会に対して安全かつ倫理的に機能する未来を意識的に設計することを通じて、テクノロジーにアプローチする必要がある。

結果を理解せず、あるいは考慮せずにテクノロジーの成長にアプローチすることで、シリコンバレーへの信頼は損なわれてしまった。私たちはもっと適切に対処する必要がある。まずはワークプレイスにおいて、自己主権型アイデンティティを通じて、つまりデジタルアイデンティティのコントロールとオーナーシップを人々に与えるアプローチにより、個人データの保護を強化することから始めるべきだろう。

個人のデジタルアイデンティティのプライバシーとセキュリティを向上させるための出発点をワークプレイスに置くのは、理に適っている。パーソナルコンピューター、インターネット、携帯電話、電子メールなど、これまで広く採用されてきた多くのテクノロジーが、家庭のテクノロジーになる前に使われ始めた場所がワークプレイスであり、その基本原則が継承されている。オフィス生活への復帰の兆しが見えてきた今こそ、ワークプレイスで新しいプラクティスを取り入れる方法を再検討する好機と言えるだろう。

では雇用者はどのようにこれを行うのか。まず、オフィスへの復帰は、非接触型アクセスとデジタルIDの推進力として利用できる。これらは、物理的データおよびデジタルデータの侵害(後者の方が一般的になりつつある)に対する保護手段である。

従業員は、オフィスへの入館時にデジタルIDまたはトークン化されたIDを使用し、これらのIDは携帯電話に安全に格納される。偽造や複製が容易な、個人情報や写真が印刷されたプラスチックカードを使用する必要がなくなり、雇用者と従業員の両方のセキュリティ向上につながる。

非接触型アクセスも最近では大きな飛躍とはいえなくなっている。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、デジタル識別に向けた機運が整ったと言えよう。新型コロナの影響で非接触型決済の利用が加速したため、非接触型IDへの移行は多くの人にとってシームレスなものになるだろう。

クリティカルなプライバシー重視のインフラストラクチャに投資する

トークン化された識別は、ユーザーの手に力をもたらす。これはワークプレイスでのアクセスやアイデンティティのためだけでなく、他の多くの、さらに重要な理由からも不可欠なものだ。トークン化されたデジタルIDは暗号化されており、1回しか使用できないため、システムが侵害された場合でも、デジタルIDに含まれるデータを閲覧することはほぼ不可能である。Signalと似ているが、個人のデジタルIDに対応する。

さらに高度なテクノロジーが普及するにつれて、より多くの個人データが生成されるようになることが考えられ、一層多くのデータが脆弱となることが懸念される。私たちが憂慮すべきは、運転免許証、クレジットカード、社会保障番号だけではない。生体認証や医療記録などの個人の健康関連データが、ますますオンライン化され、検証目的でのアクセスの対象となっている。ハッキングやID窃盗が横行している中、暗号化されたデジタルIDの重要性は極めて高い。トークン化されたデジタルIDがなければ、私たちは皆脆弱な状態に置かれてしまう。

私たちは最近、Colonial Pipelineが受けたランサムウェア攻撃で何が起きたかを目の当たりにした。米国のパイプラインシステムの大部分が数週間にわたって機能不全に陥っており、インフラストラクチャのクリティカルな要素が侵害に対して極めて脆弱であることが示された。

究極的には、私たちは人類に役立つテクノロジーを作ることを考える必要があるのであって、その逆ではない。また、私たちが生み出したテクノロジーが、ユーザーだけでなく社会全体にとって有益なものであるかを自問する必要があるだろう。人類により良いサービスを提供するテクノロジーを構築する1つの方法は、ユーザーとその価値を確実に保護することである。さらなるテクノロジーの発展とともに、自己主権型アイデンティティが今後の鍵となるだろう。特に、デジタルウォレットは単なるクレジットカード以上のものになり、安全なデジタルIDの必要性がより重視されるようになると考えられる。最も重要な要素は、個人や企業が自分のデータを管理する必要があるということに他ならない。

近年、プライバシーとセキュリティに対する全般的な意識がより高まっていることを考えると、雇用者側は個人データの脆弱性の脅威を真剣に受け止め、自己主権型アイデンティティの実現に向けて主導的な役割を果たさなければならない。ワークプレイスにおける非接触アクセスとデジタルIDの最初のステップを通して、私たちは、少なくとも私たち自身のデータとアイデンティティという観点から、より安全な未来に向けて少しずつ歩を進めていくことができるであろう。

編集部注:本稿の執筆者Denis Mars(デニス・マーズ)氏は、プライバシーファーストで人間主導のアイデンティティ技術を設計・構築するProxyのCEO兼共同設立者。

関連記事
【コラム】データを重視する企業はAIと同じくらい人にも価値を置くべきである
【コラム】データサイエンティストは恐れずに新しい分野に挑戦せよ
【コラム】アダルト系SNS「OnlyFans」の性的コンテンツ禁止でクリエイターは「権利章典」について語り出す
画像クレジット:John Lund / Getty Images

原文へ

(文:Denis Mars、翻訳:Dragonfly)

LinkedIn共同創業者リード・ホフマン氏の新著は起業家精神を見直す10の方法を教えてくれる

激励の言葉が欲しい気分のとき、いつも味方でいてくれる人脈の広い楽観的なメンターほど適切な人物はいない。頼りがいのあるその肩こそ書籍「Masters of Scale(スケールの達人)」が演じようとしている役どころだ。

LinkedIn(リンクトイン)の共同ファウンダーにしてGreylock(グレイロック)のパートナー、Reid Hoffman(リード・ホフマン)氏の人気ポッドキャストから生まれ、ホフマン氏が彼のポッドキャストの総括責任者であるJune Cohen(ジュン・コーエン)氏、Deron Triff(デロン・トリフ)氏の2人と共同執筆した新著が今週出版された。さまざまなエピソードとすぐに使えるヒントが散りばめられた本書の強みは、登場する起業家たちが実に多様であることだ。テック界のリーダーにとどまらず、本書はSpanx(スパンクス)のファウンダー、Sara Blakely(サラ・ブレイクリー)氏、Starbucks(スターバックス)のファンダー、Howard Schultz(ハワード・シュルツ)氏、およびUnion Square Hospital Group(ユニオンスクエア病院グループ)のCEO、Daniel Meyer(ダニエル・マイヤー)氏からも教訓を学ぶ。どのすぐれたメンターとも同じく、本書は現実的だ。著者はあなたがまだ、Bumble(バンブル)のWhitney Wolfe(ホイットニー・ウルフ)やAirbnb(エアビーアンドビー)のBrian Chesky(ブライアン・チェスキー)でないとわかっている。それでも、リーダーたちから広く適用できる教訓を引き出し、読者が共感を得られるようにすることができる。

メディアはこの本の主題ではないが、「Master of Scale」は、私がファンダーをインタビューする際の視点をすでに変えている。Tristan Walker(トリスタン・ウォーカー)氏は、私がファウンダーに質問する時、新しいラウンドで調達した資金の使い道よりも、彼ら自身のことや、彼らの最も物議を醸す信念について聞きたくなるように仕向けた。地理学者のAndrés Ruzo(アンドレス・ルゾ)氏の言葉からは、理に適ったスタートアップには読みやすい話にはなるかもしれないが、世界を破壊する大ヒットにはならないかもしれないことを気づかせてくれる。つまり、一見ばかばかしい野望ばかりのスタートアップを追いかけろ、ということだ。なぜなら最高の一歩や物語はそこで起きるから。そして私は、ファウンダーを見分ける最高のリトマス試験紙は、目の前にある苦難について彼らが誠実かつ謙虚に話そうとするかどうかである、という信念を本書で確認した。

心地よい物語を読むたびに、私はパンデミックへの言及を待った。パンデミックがスターアップに与える影響についてのアドバイスは、ピボットの技法に関する一章にほぼまとめられている。パンデミックへの対処方法のアドバイスを、ベンチャーキャピタル、資金調達、市場などさまざまな分野にちりばめる代わりに、本書はこの激変への言及を最小限に絞った。この選択によって、アドバイスの新鮮さは維持されるだろう。とはいえ、スタートアップ世界の醜い部分についてあまり語らない本書の選択には、一種のアンバランスさを感じた。もっと対立問題、たとえばWeWork(ウィワーク)のAdam Neumann(アダム・ニューマン)氏がビジョナリー・ファウンダーに対する我々の見方をどう変えたのか、あるいはBrian Armstrong(ブライアン・アームストロング)氏のCoinbase(コインベース)メモとスタートアップカルチャーに与える影響、さらには現在のテック出版の役割などについて直接的に書いてくれていれば、さらに得るものがあっただろう。ただしこの本は、自らジャーナリズム性を謳ったことはなく、演じようとしたのはチアリーディングするメンターであって皮肉なメンターではないということもしれない。

人気ポッドキャストに基づいて本を書くことは、簡単であるとは限らない。オーディオは文字とはまったく異なるメディアであり、音声による会話の強い個性や謙虚さを文字に変換するにはそれなりの手腕が必要だ。実際ホフマン氏と共著者の輝き具合は話によってまちまちで、繰り返し、しかし効果的に使われている物語のアーク(横糸)に強く依存している。問題を紹介し、なるほど!の瞬間を見せ、ソリューションを示して普遍的教訓を伝える、というやり方だ。

私はこの本を週末に読んだ。1冊手に取ろうとしている起業家志願者、技術者、ジャーナリストにも同じやり方をお勧めする。ホフマン氏と共著者が70人以上の起業家の話を見事にまとめた仕事はすばらしい。共鳴したファウンダーを検索するのか、自分のインタビュー・スタイルを変えるのか、はたまた、いつの日かブリッツスケーリングできるアイデアを実現し始めるのか。真のマジックは、読者が物語の合間にひと息ついたときに起きる。

関連記事
気候変動で米国は安全保障のあり方が再定義される、書評「All Hell Breaking Loose」
解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」
映画「メッセージ」の原作者テッド・チャンが問いかける自由意志の意味
画像クレジット:Kelly Sullivan/Getty Images for LinkedIn

原文へ

(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Amazonのレジなしサービス「Just Walk Out」がWhole Foods2店舗でも採用

Amazon(アマゾン)はGoストアで立ち上げ、大規模なFreshスーパーマーケットにも導入したキャッシャーレスの「Just Walk Out」テックを、間もなくWhole Foods(ホールフーズ)2店舗にも持ってくる。棚から商品を手にとってそのまま立ち去れるこのサービスがワシントンD.C.とカリフォルニア州のシャーマン・オークスの新店舗に2022年導入されると発表した

「Amazonと協業してJust Walk OutをこれらのWhole Foods Market2店舗に導入することで、顧客はレジ待ちをスキップして時間を節約することができます」とWhole Foodsの共同創業者John Mackey(ジョン・マッキー)氏は述べた。

以前、詳細を報じたように、客が入店してアプリにサインインし、買い物かごに商品を入れ、レジ待ちの列に並ぶことなく店を立ち去れるようにするために、Just Walk Outはコンピュータビジョン、センサー、AIを使っている。Amazonは自前のGoとFreshの店舗でこのテックを使うのに加えて、サードパーティの小売業者にライセンス貸しするための契約を2020年結んだ。

このテックは、Amazonが所有するWhole Foodsでも同様に機能する。買い物客はアプリをスキャンし、自身のAmazonのアカウントに紐づいているデビットカードを挿入することで、あるいは手のひらスキャンシステムのAmazon Oneに手のひらをかざすことで入店時にこのテックの使用を選択できる。

労働組合は、Amazonのキャッシャーレステックが労働者の就業機会を犠牲にすると主張してきたが、新しいWhole Foods店舗は「同等規模の既存のWhole Foods店舗と同じ数のスタッフを雇用する」とAmazonは述べた。むしろ従業員は「顧客対応やすばらしい買い物体験の提供にこれまでよりも多くの時間を割く」ことができる、とAmazonはプレスリリースで述べた。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のSteve DentはEngadgetの共同編集者。

関連記事
空港内小売のOTGが来週からAmazonのレジなし技術を導入
Amazonがレジなし店舗技術をほかの小売業者に販売開始
Amazonが初のレジなし食品スーパーをシアトルに出店
アマゾンの手のひら認証システム「Amazon One」がマンハッタンの無人コンビニ「Amazon Go」で運用開始

原文へ

(文:Steve Dent、翻訳:Nariko Mizoguchi

月額料金で新品または再生品のSIMフリー端末をリースするスマホサブスサービスの英Raylo

英国を拠点とし、スマホサブスクリプションサービスを展開するスタートアップ企業Raylo(レイロ―)は、Octopus Ventures(オクトパスベンチャーズ)が主導するシリーズAラウンドで1150万ドル(約12億7000万円)を調達した。

今回の資金調達は、2020年の債務による資金調達に続くもので、2019年の創業以来、Rayloが調達した金額は株式発行と債務による調達を合計して4000万ドル(約44億円)になる。同社には、Macquarie Group(マッコーリーグループ)、Carphone Warehouse(カーフォンウェアハウス)のGuy Johnson(ガイ・ジョンソン)氏、Funding Circle(ファンディングサークル)の共同設立者なども投資を行っている。

調達した資金は「消費者がスマートフォンを所有するのではなく、月額料金を支払って新品または再生品のSIMフリーデバイスをリースする」サブスクリプションサービスの強化のために使用される。

Rayloによると、顧客数と売上高は前年同期比で10倍の伸びを示しており、今回の調達で、従業員の倍増やさらなる技術開発など、英国における成長の加速を計画しているという。将来的にはグローバルに展開することも示唆しているが、現時点では英国を軸に着実に成長したいという考えだ。

Rayloを通じた最新スマートフォンの購入では、契約終了時のハードウェアの所有権移転をともなわないので、ユーザーは希望小売価格よりも安い価格でスマートフォンを利用することができる。

環境への配慮はさることながら、数年前から10万円を超えているiPhoneの最上位機種のようなプレミアムスマホの価格を考えると、希望小売価格よりも安い価格というのはますます重要なポイントになるかもしれない。

さらに、スマートフォンに大金を支払える消費者はそれほど多くはないという事実もある。リースや返却という手段は、そのようなユーザーに高額なハイエンドモデルを利用する方法を提供する。

関連記事:スマートフォンに10万円超を払うのは米国消費者の10%以下

一般的なRayloのサービスでは、ユーザーは12カ月または24カ月の契約期間終了後にデバイスを返却し、返却されたデバイスは2~3回リサイクルされて他のユーザーに利用される。

Rayloによれば、返却されたデバイスは同社のパートナーによってリサイクルされる。通信事業者による販売では、消費者は使用しなくなった古いデバイスを引き出しにしまい、デバイスが持つ潜在的な有用性を無駄にしてしまうのに対し、Rayloのサービスでは、デバイスを長く使うことで持続可能性を促進する循環型モデルを構築できるとしている。

使わなくなったデバイスを家族に譲ったり、売却や下取りに出したりする人も少なくないが、Rayloによれば、英国では約1億2500万台のスマートフォンが使われずに「冬眠」しているという。スマホユーザーの多くが、スマートフォンの第二の人生を気にしていないということだ。

Rayloは、1台の定額制リースを6~7年間で3人のユーザーに利用してもらえると考えている。これが実現すれば、英国でのスマートフォンの平均寿命(2.31年)は約2倍になる。

できるだけ長期間利用できるように、Rayloのすべてのスマートフォンにはケースと液晶保護フィルムが無料で提供される。

ユーザーは、リースされたスマートフォンを傷つけたり、高額な修理代や返却できなくなったりした際の料金をカバーできるように、保険に加入するかどうかを検討する必要がある。Rayloは、独自のデバイス保険をオプションとして販売しており、保険に加入すると月額料金は少し高くなる。

Rayloのサービスは通信事業者のサブスクリプションプランと競合するが、同社はリース方式の方が安いと主張する。契約終了の際、消費者はデバイスの所有権を持たない(すなわち、他の場所で売ったり下取りしてもらったりできる権利が付与されない)ので、当然といえば当然である。

契約終了時にデバイスを返却したくない(あるいは返却できない)場合、ユーザーはノンリターン(返却不可)料金を支払うが、この料金はスマートフォンの種類やリース期間によって異なる。例えばSmsungの「Galaxy S21 Ultra 5G」や「iPhone 12 Pro Max」(いずれも512GBモデル)を12カ月間使用した場合など、プレミアムモデルのノンリターン料金は600ポンド(約9万円)以上になることもある。

一方、契約終了後もアップグレードせずに同じデバイスを使い続けたい場合は、通常の月額料金を最長36カ月まで継続して支払うことが可能で、ノンリターン料金は1ポンド(約150円)になる。

Rayloのリースデバイスにはすべて24カ月間の保証が付いており、ユーザーによる破損や事故に起因しない故障については無償で修理を行い、修理ができない場合は代替機を提供するとしている。

今回のシリーズAラウンドについて、Octopus Venturesのアーリーステージフィンテック投資家であるTosin Agbabiaka(トーシン・アグバビアカ)氏は、声明の中で次のように述べる。「サブスクリプションエコノミーによって、商品やサービスへのアクセスは急速に変化しています。しかし、個人にとって最も価値のあるデバイスであるスマートフォンに関しては、消費者は所有権一体型のサービスの利用を余儀なくされています。ほとんどの人が買っては捨て、買っては捨てのサイクルに陥っていて、経済的にも環境的にも大きな負担となっています」。

「Rayloは、多くの消費者にプレミアムスマホを低価格のサブスクリプション料金で提供し、最新技術を利用できるようにすることでこの問題を解決します。一度使用された機器を再利用する同社のサービスは、この市場において消費者に支持される持続可能な選択肢となります。この市場には大きなチャンスがあります。私たちは、(Rayloの共同設立者の)Karl Gilbert(カール・ギルバート)氏、Richard Fulton(リチャード・フルトン)氏、Jinden Badesha(ジンデン・バデシャ)氏の3人には、スマートフォンの提供方法を進化させるビジョンと深い専門知識があると信じています」。

近年、ヨーロッパでは、多くの再生電子機器ビジネスが投資家の注目を集めており、欧州委員会でも「修理する権利」法の制定が検討されている。

この分野で最近行われた資金調達には、フランスの再生品市場スタートアップ「Back Market(バックマーケット)」の3億3500万ドル(約369億円)、ベルリンを拠点とする「Grover(グローバー)」の電子機器サブスクリプション事業に対する7,100万ドル(約79億円)、フィンランドを拠点とし、中古iPhoneの再生・販売を行う「Swappie(スワッピー)」の4,060万ドル(約45億円)などが挙げられる。

関連記事
欧州の法律家が携帯電話やノートパソコンを「修理する権利」を提案
パソコンやスマホ、スクーターなどの電子機器サブスク事業成長に向けて独Groverが約79億円調達
本体を買わなくても新モデルが手に入るモジュール式スマホFairphone+3

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

【インタビュー】デロイトトーマツのテクニカル・ディレクターが語る「データは客観的」の嘘

DXを語る上で無視できないデータ活用。業界を超えて先進企業が取り組んでいるが、Deloitte Tohmatsu(デロイト トーマツ)でテクニカル・ディレクターを務めるIvana Bartoletti(イヴァナ・バートレッティ)氏は「盲目的なデータ活用は課題解決につながりません」と警鐘を鳴らす。データはどう使われるべきなのか。現在のデータ活用方法にどのような問題があるのか。同氏が詳しく語った。

本記事はB’AIグローバル・フォーラム主催「Power, Politics, & AI:Building a Better Future
の講演をもとに編集・再構成したものである。

「データは客観的」なのか?

近年、DXの必要性が叫ばれ、データとAIの活用を進めようとする機運が高まるばかりだ。AIの機械学習により病気の症状が表出する以前に病気を発見するなど、前向きなデータ活用が拡大している。しかしバートレッティ氏は危機感を覚える。

「多くの人が『データは客観的なものだ』と思っています。だからこそ、意思決定や法整備にデータを活用すべきだという声が上がります。しかし、それではうまくいかないのです」と同氏は話す。

データを読み込んだAIが意思決定に活用されることで、結果として差別が再生産されることがあるからだ。

例えば、銀行などの金融機関が既存のデータをAIに学習させ、顧客の信用を予測させるとしよう。すると、男性の方が女性よりも高い信用があると結論され、その金融機関は男性に有利な方針を採用することがあり得る。なぜなら、これまでビジネス活動の重要ポジションの多くは男性により占有され、それにより女性の収入は男性の収入よりも一般的に少なかったからだ。同様の問題は人種の異なる者の間でも起きるだろう。

バートレッティ氏は「データの問題は、実は政治的な問題なのです」と指摘する。

差別をするのはアルゴリズムか、人間か

こうした議論を聞くと「差別的な結果が出てしまうのはアルゴリズムの問題だから、アルゴリズムを改善すれば良い」と考える人もいるかもしれない。

しかし、バートレッティ氏は「アルゴリズムは差別をしません。差別をもたらすのはシステムを作る人間です」と断言する。

ここで同氏は1つの例を挙げた。大きな都市の中心に1つの会社がある。この会社のCEOが自分の側近を社員の中から選ぼうと考えた。CEOはソフトウェアを使って自分の条件に合う社員を検索した。CEOは自分が午前7時に出勤するので、同じ時間に出勤する社員に絞り込んだ。

これだけでは「午前7時に出勤する社員」というのが検索の条件であるように見える。しかし、実際にはそうではない。

「朝早くに都市の中心の会社に出社できるのはどんな人でしょう?街中にアパートを借りる財力がある若い男性社員でしょうか?あるいは2人の子どもがいる郊外在住の女性社員でしょうか?この場合は若い男性社員でしょう」と同氏はCEOが気づいていない隠れた条件を説明する。その上で「重要なのは、差別やステレオタイプ、バイアスを自動化してしまうシステムに注意を払うことです」と話す。

データで未来は予測できるのか?

「AIは『客観的な』データを摂取することで答えを導き出すと思われています。しかし、客観的なデータ、中立的なデータなどというものは存在しません」とバートレッティ氏はいう。

なぜなら、データというものは「現在」という瞬間の写真でしかないからだ。つまり、データはこれまで積み重ねられてきたあらゆる差別や不平等が「今」どうなっているかということを見せるだけだ。こうした「今」や「今まで」をAIに取り込ませ、未来を予測しようとすれば、今現在起きている問題や差別を自動化し、継続させることしかできない。

「既存のデータで未来を予測することは、今、弱い立場にいる人々を抑圧することにつながります。AIの機械学習は今までのデータをもとにパターンを見つけ出し、方針を決定します。これは未来のあるべき姿を創造することとは異なります」とバートレッティ氏。

同氏はまた「システムは選択されるもので、自然とでき上がるものではありません。先程の金融機関の男女の信用の例で言えば、『データを活用する金融機関が女性に大きな信用を置く』というような状況は自然ともたらされることはないのです」という。

ダイバーシティを取り入れたデータ活用、AI活用に向けて

では、どうすれば前向きに、既存の差別構造を持ち込まずにデータやAIを活用できるのだろうか。

バートレッティ氏は「今、データ活用に関わる決定の場にいる女性の数は多くありません。女性などのマイノリティが意思決定の場にいなければ『これは問題ですよ』という人がいないということです。組織はデータ活用やアルゴリズムに関して公平・公正でなければなりません」と答える。

しかし、これには大きな課題が立ちはだかる。男性が多数派の意思決定の場に女性などのマイノリティを増やすということは、意思決定の場に今いる人々からすれば、自分の特権を手放すことを意味するからだ。既存の意思決定者たちが得るものもなく特権を手放すことは考えにくい。彼らがマイノリティの意思決定の参加を加速させることで得る利益はあるのだろうか。

バートレッティ氏は「彼らには2つの利益があります」という。

1つは自社の評判確保による利益の確保だ。データ活用の場、意思決定の場にマイノリティが参加していなければ、その事実が自社の評判を下げる。評判が下がれば、顧客が自社の商品やサービスを利用しなくなり、経済的な損失になるというのだ。そのため、自身の特権を手放してでも、意思決定の場にマイノリティを呼ぶことで、評判と利益を守る必要がある。

もう1つは人材確保だ。同氏は「IT企業に勤める人々は、テクノロジーを使って社会的に正しいことをしようと思っています。最近では、自社の方針が倫理的でない場合に、デモなどの行動に出る人たちもいます。つまり、優秀な人材に自社に居続けてもらうために、企業は倫理的でなければならないのです」と話す。

IT企業だけではない。例えば建設業界のエンジニア採用にAIを使う場合、これまでのデータをもとに良い人材を探すことになる。エンジニアには男性が多いため、AIは「良い人材=男性」という図式を踏襲してしまう。実際の能力ではなく、性別によって人材が選別されてしまうのだ。意思決定の場に女性が居れば、どのデータをどのように使うのか、良い人材の定義は何かなどを設定し、より適切なデータ活用をできるようになり、より良い人材を確保できる。

最後にバートレッティ氏は「データは万能、テクノロジーは万能と思わないでください。『適切なデータセットとは何か』という問いは政治的なものです。AIを有意義に使うためには、哲学者、歴史家など、多様なバックグラウンドの人材が必要です。『データ活用はすばらしい』かもしれませんが、誰にとって都合が良いのか考えてください。知らないうちに『自分にとって都合が良い』『男性にとって都合が良い』になっているかもしれませんよ」と語った。

欧州でAmazon流のフルフィルメントと物流をeコマース企業に提供するByrdが約21億円調達

新型コロナウイルスをきっかけに始まったオンラインショッピングの盛り上がりは衰える気配がなく、ヨーロッパのeコマースは2021年30%の成長が見込まれている。このような需要に対応するため、欧州でインフラを構築して販売業者の受注や配送をサポートし、Amazonに代わるフルフィルメントサービスを提供しているスタートアップ企業が、事業拡大のための資金調達を発表した。

倉庫や物流業務を管理するソフトウェアを構築したり、オンラインストアの商品の保管、集配作業をサポートするサービスを行ったりしているByrdは、シリーズBとして1600万ユーロ(約20億9200万円)を調達した。すでに活動している5カ国に加え、東欧、北欧、南欧の5つの市場に拡大するために使用する予定だ。2016年にオーストリアのウィーンで設立されたByrdは英国、ドイツ、オランダ、フランスにも進出し、合わせて約15のフルフィルメントセンターと200の顧客を抱えており、その中にはDurex、Freeletics、Scholl、Your Superfoodsなど、ヘルス&ウェルネス、消費財、化粧品、ファッションなどのD2Cブランドが含まれている。

銀行大手のSantanderから2020年スピンアウトしたフィンテック / eコマース関連の戦略的ベンチャーキャピタルであるMouro Capitalが今回のラウンドをリードし、Speedinvest、Verve Ventures、Rider Global、VentureFriendsも参加した。Byrdは評価額を公表していないが、現在までで約2,600万ユーロ(約33億9900万円)を調達している。

Byrdが狙っている市場機会は成長しつつあり、規模だけでなく、小売業者の需要やフルフィルメントパートナーに求めるものも大きくなってきている。

eコマースは見かけによらず複雑なビジネスである。見かけによらずというのは、私たちが消費者として実際に目にするのは、欲しい商品を適切な価格で見つけることができ、クリックしてあまり面倒な手続きなしに購入し、理想的にはすぐに手元に届くという機能だけだからだ。

しかし、これらのことを可能にするためには裏方で多くのステップが必要で、そのほとんどが複雑であり、通常、一般的な小規模小売業者のコアコンピタンスではない。そのような業者はたとえ人々が欲しがっていると思われる製品を知っていても、それをどうやって届けるかがわからないのだ。そのようなステップには、マーケティング、決済、ユーザーインターフェースのデザイン、パーソナライゼーション、製造、その他のサプライチェーン、そして注文商品を顧客に届けるための物流やフルフィルメントなどがある。eコマースがより大きなチャネルへと成長していく中、これらのサプライチェーンに含まれるすべての部門がかつてないほど大きな可能性を秘めている。

一般的に、小売企業はこれらのサービスを提供するために第三者のテクノロジー企業を利用するが、ここでByrdが、企業の物流とフルフィルメントを扱う外注パートナーとして登場する。Byrdは、小売企業がフルフィルメント業務全体をByrdに委ねることができるよう、一連のAPIを構築している。

これには商品の受け取り、保管、集荷を行うByrdの倉庫との連携や、企業の販売ネットワークとの連携が含まれる。販売ネットワークには、企業のオンラインストアだけでなく、Amazonやその他のマーケットプレイスで商品が販売されている場合も含まれる。注文が入り商品を集荷して発送する際には、Byrdが自社の技術を駆使して、UPS、DHL、Amazon、postNLなどのさまざまな運送会社のネットワークを活用し、商品を購入者に届けるための最も安くて簡単な方法を見つけ出す。

このような事業を行っているのはByrdだけではない。Byrdと競合する他の独立系企業(最大手の1つであるShipBobは、先に10億ドル(約1101億2800万円)の評価額で2億ドル(約220億2520万円)の大型ラウンドを実施した)と並んで君臨しているのがAmazonだ。巨大eコマース企業であるAmazonは、(FBAによる)フルフィルメントだけでなく、オンラインストアでの視認性やマーケティングなど、さまざまなサービスを提供しており、売り手にとってのワンストップショップのような存在となっている。

Byrdの共同設立者兼CCOであるPetra Dobrocka(ペトラ・ドボロッカ)は、インタビューで次のように述べている。「Amazonは一般的に大きな市場シェアを占めているため、多くの販売店は、たとえ主に顧客獲得のためのチャネルとして使用するのであっても、Amazonを使わないというわけにはいきません」。

しかし問題は、Amazonのオプションや他の第三者プロバイダーの中には、パーソナライゼーションにそれほど対応していないものもあるということだ。実際、eコマースが成熟し、厳しい競争にさらされるようになると、eコマース事業者は自分たちが優位に立ち、他社と差をつけるための方法を模索するようになる。この問題についてもByrdが登場し、パッケージをカスタマイズすることで、実際にはByrdが提供するサービスであっても、顧客が直接サービスを体験できるようにしたり、持続可能な配送方法などのオプションも提供している。

これによりスタートアップ企業のスケールアップの速度が遅くなる可能性もあるが、サービスは品質の高いオプションとして提供されている。このことは、品質管理がまったく不十分であったり、市場の中で明確なアイデンティティが欠如していたりする場合には重要な意味を持つ。とりわけスケールアップを続けている場合はそうである。

「私たちはAmazonの代替サービスともいえますが、まったく違うものでもあります。当社の販売者は、ブランドを重視し、お客様にトータルな体験を提供したいと考えています。また、この点を評価してくださる小規模のお客様もいらっしゃいます」とドボロッカは語る。確かに、中小企業は大企業に比べるとサービスレベルを下げられてしまうことがよくあり、小規模な小売業者でも大企業のように扱ってくれるフルフィルメントサービスがあることはプラスだ。

これは、小売業者がよりはっきりとしたオンライン販売での存在感を出し、パーソナライゼーションを構築するのをサポートするテクノロジー企業が次々と登場しているという大きなトレンドの一環でもある。(2021年6月に資金調達を発表したオンラインストア・デザイン・プラットフォームのShogunも、このトレンドに乗ったスタートアップ企業の一例だ)。

これらすべての結果として、Byrdは非常に大きな成長を遂げ、収益は1年前に比べて300%増加し、月に数十万個の小包を取り扱うようになったという。

ByrdはB2Cを中心としたビジネスを展開しているが、それに近い領域であるB2BでもByrdは活躍できると考えており、ドボロッカによれば、今後数カ月のうちにB2Bビジネスもオンラインで登場する予定だ。また、次にどの国でフルフィルメントを構築するかは明らかにしていないが、Mouroの関与を考えると、スペインが次の国の1つになるのではないかと思われる。

Mouro CapitalのゼネラルパートナーであるManuel Silva Martínez(マニュエル・シルバ・マルティネス)は以下のように声明で述べている。「特に新型コロナウイルスの影響で、柔軟なデジタルeコマースフルフィルメントソリューションの必要性が高まっている中、ByrdのシリーズBの資金調達を主導できたことをうれしく思います。Byrdのエンド・ツー・エンドの能力、持続可能性への注力、そして有名ブランドの顧客は、競合他社とは一線を画しており、今回の投資による地理的拡大がもたらす成功を期待しています」。

画像クレジット:chain45154 / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

【中国】政府はテック巨人にもっと社会的責任を負わせたい

TechCrunchチャイナ・ラウンドアップへようこそ&おかえりなさい。中国テック業界の近況と、それが世界の人々に与える影響ついてまとめてみた。

先週、中国ゲーム業界は再び政府の標的となり、未成年プレイヤーに対する世界で最も厳格と思われるルールが施行された。また、中国のテック巨人たちは、社会的責任を取り、束縛のない拡大にブレーキをかけるようにという政府の要請に急いで答えている。

ゲーム制限令

中国政府はこの国の若きゲーマーたちに爆弾を落とした。現地時間9月1日以降、18歳未満のユーザーはゲーム時間が1日当たりのわずか1時間、金曜、土曜、日曜日の午後8時~9時のみに制限される。

この厳格なルールは、未成年に対するすでに締め付けの強いゲームポリシーに輪をかけるもので、政府はビデオゲームが近視の原因であり、精神と肉体両方の健康を害していると信じている。中国が最近、一連の校外学習の制限を発表したことを思い出して欲しい。働く親たちは子どもたちを忙しくさせるのがますます難しくなるというジョークが出回っている。

関連記事
中国政府が子どものオンラインゲームを週末3時間のみに制限、健康懸念で
中国がゲーム認可を再開、業界に今年最後の大きな朗報

新たな規制のいくつかは分析する価値がある。まず、新しいルールを策定したのは国家新聞出版署(NPPA)。同署は中国国内のゲームを承認する規制機関であり、2019年には9カ月間認可を凍結してTencent(テンセント、騰訊)などでゲームの在庫が底をつくことにつながった。

プレイタイムの指針が、ゲームコンテンツの審査と出版ライセンスを発行しているNPPAから出てきたことは興味深い。中国の他の業界と同じく、ビデオゲームは複数の規制機関による承認の対象となっている。NPPAの他、国の最高のインターネット監視機関であるサイバースペース管理局(CAC)、業界標準と通信インフラを司る中華人民共和国工業情報化部がある。

アナリストらは、習近平主席が長を務める中央サイバースペース管理局配下で強大な力を持つCACが、権利を手放したくない他の省庁との官僚的闘争に直面しているところを長年見てきた。これは、裕福なゲーム業界の規制にも当てはまる可能性が高い。

Tencentをはじめとする主要ゲーム会社にとって、新ルールが会社のバランスシートに与える影響は取るに足らない。ニュースが報じられた直後、NetEase(ネットイース)や 37 Games(サーティーセブン・ゲームズ)をはじめとする中国上場ゲーム会社は、未成年プレイヤーは会社売上の1%以下しか寄与していないことをすかさず発表した。

Tencentはこの変更を見越して「中国におけるゲーム売上において16歳未満の占める割合はわずか2.6%、12歳未満はわずか0.3%」であると第2四半期決算で公表している。

こうした数字が現実を反映しているかどうかはわからない。なぜなら子どもたちは、ユーザー登録に大人のIDを使うなどしてゲーム制限を回避する方法を以前から知っているからだ(前の世代が成人の友人からIDを借りてインターネットカフェに潜り込んだのと同様だ)。Tencentや他のゲーム会社は、これらの回避方法を遮断することを約束して、子どもたちにVPNを使って海外版のゲームタイトルを利用するなど高度な技の追求を強いようとしている。いたちごっこは終わらない。

ともに繁栄を

中国はテック巨人の力を削ぎ落とすだけでなく、社会的責任を果たすよう圧力をかけている。ギグワーカーの権利尊重もその1つだ。

先週、中国最高人民法院は「996」と呼ばれる午前9時から午後9時まで週6日働く長時間労働を違法と判断した。この決定は、テック業界のバーンアウト・カルチャーに対する労働者の数年にわたる抗議活動を受けたもので、「996」を実行している企業を列挙するGitHub(ギットハブ)プロジェクトなどが行われてきた。

関連記事:中国の長時間労働にスタートアップが反撃

一方、勤勉で従順な従業員は、中国テック業界の競争優位性であると言われることも多い。それは、シリコンバレー企業、特に中国をよく知る人々が経営する企業が、この国に支社を設置してテック人材を活用している理由の一部だ。

残業が称賛、許容されていた日々は終わろうとしている。ByteDance(バイトダンス、字節跳動)と同社のショートビデオのライバルであるKuaishou(クアイショウ、快手)は、最近それぞれの週末残業ポリシーを廃止した

同様に、Meituan(メイトゥアン、美団)はフードデリバリー配達員のために強制休憩時間を導入することを発表した。オンデマンドサービスの巨人は、ライダーに過酷な労働時間や危険運転を強要する「非人間的」アルゴリズムで非難を浴びていた。

画期的な試みとして、ライドシェアリングの巨人、Didi(ディディ、滴滴出行)とAlibaba(阿里巴巴集団)のeコマースのライバル、JD.com(ジェイディードットコム、京東集団)は、社員のために労働組合を設置した。ただし、新たな組織が従業員の権利を守るために意味のある影響を持つかどうかは不明だ。

TencentとAlibabaも動いた。8月17日、習近平主席は「共同繁栄」を求める演説を行い、この国の大富豪たちから大きな注目を集めた。

「中国が2度目の100年目標に向かって進むにあたり、人民の幸福は、共同繁栄を促進して党の長期支配の基盤を強化することによって実現すべきです」。

今週TencentとAlibabaの両社は「共同繁栄」を支援するために1000億人民元(155億ドル)を拠出することを宣言した。資金の目的は、地方経済の成長から医療システムの改善まで、中国政府の国家開発目標とよく似ていてうまく連携している。

画像クレジット:Photo by Lintao Zhang/Getty Images

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Nob Takahashi / facebook

建設保険市場でデジタル体験と契約決定の簡易化を図るShepherdが約6.8億円調達

建設市場に特化したインシュアテックのスタートアップであるShepherd(シェパード)は、Spark Capital(スパーク・キャピタル)が主導する615万ドル(約6億7500万円)のシードラウンドを獲得した。この資金調達イベントは、2月にSusa Ventures(スサ・ベンチャーズ)が主導してプレシードラウンドを実施した後に行われたもので、Susa VenturesはShepherdの最新の資金調達イベントにも参加している。

広い意味では、Shepherdは、消費者よりも他の企業に販売するネオ・インシュランス・プロバイダー(次世代保険会社)に該当する。消費者にサービスを提供するインシュアテックのスタートアップ企業は、株式公開のために何年にもわたってベンチャーキャピタルの支援を受けてきたが、初期の楽観的な見方に続き、公開後すぐに株価が下落してしまっていた。

しかし、Shepherdや9月初めに発表されたBlueprint Title(ブループリント・タイトル)のような企業は、保険業界の他の場所にもアプローチする余地があることに賭けている。Shepherdは、建設市場をターゲットにしており、過剰賠償責任保険から始めて、この業界を切り開こうとしている。

同社の共同設立者兼CEOであるJustin Levine(ジャスティン・レヴィン)氏は、TechCrunchの取材に対し、建設業界の契約者は、一般賠償責任や商用自動車保険など、多くの保険を必要としていると述べている。しかし、大掛かりな建設プロジェクトでは、さらに多くの賠償責任保険が必要となることが多く、それらは超過保険やアンブレラ保険として販売される。

Shepherdは、建設業界のミドルマーケット ─ 年間2500万ドル(約27億4600万円)から2億5000万ドル(約274億6400万円)規模のプロジェクトを行う企業─ をターゲットにしており、顧客との契約を支援する方法として、テクノロジーを活用したいと考えている。

レヴィン氏によると、同社が提供するサービスには2つの核となる部分があるという。1つ目は、お客様が期待しているもの、つまり、お客様のための完全なデジタル体験だ。CEOは、そのデジタルサービスを、インシュアテックの世界においてあって当たり前のものだととらえている。私たちも同じ考えだ。しかし、別の建設テックプロバイダーと提携して、保険契約決定を手助けするという、もう一方の部分を考慮すると、同社はさらに興味深いものになる。

例えば、このShepherdは、同社の事業に投資したProcore(プロコア)と提携している。

契約決定の判断を手助けするのを第三者のソフトウェア会社に委ねるというコンセプトは、ある意味では理に適っている。新しい技術や手法を採用するという点でテクノロジーに前向きな企業は、そうでない企業と比べて契約決定のプロファイルが同じではない。一般的に、データが多ければ多いほど契約決定の判断がしやすくなる。建設会社が機能するよう支援するソフトウェアにつなげることは、その観点からも理に適っていると言えるだろう。

初期の顧客が同社の製品のことを「建設管理ソフトウェアを装ったリスク管理ソリューション」と呼んでいたことに納得しているとProcoreのCEOは、TechCrunchの取材で語っている。リスクが効果的に管理されればされるほど、Shepherdの損失率は時間の経過とともに低下し、価格競争力が高まると考えられる。

価格に関して、現在建設保険市場は苦戦しているとレヴィン氏は考えている。決済コストの上昇により、この分野の手つかずの古い保険(レガシー保険)の中には、予想以上の損失を抱えているものもあり、一部の保険会社は価格の引き上げを余儀なくされている。レヴィン氏は、Shepherdがこのレガシー保険を持たずにこの市場に参入したことで、競争力のある価格を提供できるようになったと考えている。

過剰賠償責任保険は、Shepherdが建設保険市場に参入するための「くさび」であり、いずれ他の商品も販売する予定だという。同社のCEOによれば、超過賠償責任保険を最初に取り組むのは、このエリアが同市場において現在最も痛みを伴っている場所だからだという。

率直にいうと、TechCrunchはB2Bネオインシュアランスのスタートアップ市場に魅力を感じている。消費者に保険を販売するには、保険の種類によって異なる特定の売上原価(COGS)が必要であり、しばしば市場投入コストがかさむ。さらに、莫大な予算を持つナショナルブランドに対抗するには、顧客獲得コスト(CAC)が厄介なことになる。新興のテック企業にとっては、事業保険市場のほうが有利かもしれない。ベンチャー投資家は、きっとそのような賭けをすることを望んでいる。

Sparkの案件を担当したNatalie Sandman(ナタリー・サンドマン)氏は、最初にShepherdに出会ったときは別のプロジェクトに取り組んでいたのだが、注意を向けてみると、心に刺さったとTechCrunchに語った。この投資家は、建設保険の契約プロセスに新しいデータを導入するというアイデアが、同社がよりスマートな意思決定をするのに役立つ可能性があると述べている。保険の世界では、契約の選択肢が増えれば、より収益性の高い保険になる。つまり、将来のキャッシュフローが大きくなるということだ。そして、それが価値創造につながることは誰もが知っていることだ。

関連記事
ルンバのように動いて建築現場にレイアウトをプリントするRugged Roboticsのロボット
建築業界向け建材・家具検索の「TECTURE」が1.2億円調達、建築基準法対応建材の検索を可能とするアップデートも実施
建設・土木の生産支援クラウド「Photoruction」の開発・運営を手がけるフォトラクションが7.6億円調達
画像クレジット:Dibyangshu SARKAR / AFP / Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:Akihito Mizukoshi)

アップルが日本の公正取引委員会と和解、アプリ内の外部リンクを承認

Apple(アップル)は、日本の規制当局と和解し、「リーダー」アプリの開発者がユーザーアカウントを管理するための独自のウェブサイトにリンクできるようにすることを決定した。この変更は2022年初頭に有効になる。

これまで、日本の公正取引委員会はAppleに対して、「リーダー」アプリに対する同社のポリシーを変えるよう迫っていた。リーダーアプリとは、NetflixやSpotify、Audible、Dropboxなどのように、ユーザーが購入したコンテンツやコンテンツのサブスクリプションを提供するアプリで、そのコンテンツはデジタル雑誌や新聞、本、オーディオ、音楽、ビデオなどさまざまだ。

AppleでApp Storeを統轄しているPhill Schiller(フィル・シラー)氏は、「私たちは日本の公正取引委員会をとても尊敬しており、これまでともに成し遂げたことも高く評価しています。今後、『リーダー』アプリの開発者は、ユーザーのために自分のアプリやサービスをセットアップし管理することが、より容易になり、また同時に、ユーザーのプライバシーの保護と信頼の維持が可能になるでしょう」と述べている。

声明によると、この変更が有効になる2022年まで、Appleは「リーダー」アプリのユーザーのためにガイドラインとレビュープロセスのアップデートを続け、ユーザーと開発者の両方にとってより良いマーケットプレイスでありたいという。

Apple Storesは先週、いくつかのアップデートを発表を行い、開発者が顧客にもっと柔軟に接することができるようにし、また地元のジャーナリストをサポートするためのNew Partner Programをローンチしている。

なお、「リーダー」アプリに関するこの変更はグローバルに適用される。

Appleやその他のテクノロジー巨大企業に対しては、世界中の政府や議会がその市場支配をますます厳しく監視しようとしている。オーストラリアの競走・消費者委員会も、AppleとGoogle、WeChatのデジタル決済システムに対する規制を検討しており、また韓国ではAppleとGoogleがアプリ内での購入に独自の決済システムを課すことを制限する最初の国となった

Appleの登録開発者は3000万人を超えている。

関連記事
アプリ開発者は今後、アップルに手数料を支払わなくてすむ直接購入をユーザーへ提案可能に
世界初、韓国がグーグルとアップルのアプリ内課金手数料を抑制する「反グーグル法」可決
画像クレジット:Kiichiro Sato/AP

原文へ

(文:Kate Park、翻訳:Hiroshi Iwatani)

テスラがテキサス州での電力販売を計画

8月中旬にテキサス州の電気規制当局に提出された申込書によると、Elon Musk(イーロン・マスク)氏のTesla(テスラ)は電気自動車、ソーラーパネル、蓄電バッテリー以外にも目を向けていて、いま顧客に直接給電したいと考えているようだ。この申し込みについてはEnergy Choice Mattersが最初に報じた。

2021年8月16日テキサス州の公共事業委員会に提出された申込書は、Teslaの子会社Tesla Energy Venturesのもとに、いわゆる「電力小売事業者」(REP)になるためのものだ。規制緩和されたテキサス州独自の電力マーケットでは、REPは通常、発電事業者から卸電力を購入し、顧客に販売する。現在、REP10社以上が公開市場で競合している。

Teslaはまた、同州でいくつかの実用規模バッテリーの申し込みも提出した。オースティン周辺に立地するギガファクトリー近くにある250メガワットバッテリーとヒューストン近くの100MWのプロジェクトだ。これらのプロジェクトは電力供給会社になるという取り組みとは関連がないが、全体として同社のエネルギー事業の野心的なロードマップを露わにしている。

関連記事
テスラが大規模なエネルギー貯蔵プロジェクト施設をテキサスに建設と報道
テスラはすべての家庭を分散型発電所にしようとしている

想像して欲しい。Teslaが顧客に電気を販売するだけではなく、ブローカー顧客がTeslaのPowerwallやソーラーパネル製品からの余剰エネルギーを電力網に販売できるかもしれないのだ。明らかに、あらゆる家庭を分散型発電所に変えるというマスク氏のビジョンを実現する1つの方法だ。

公共事業委員会へのこの最新の申し込みの6カ月前、前代未聞の大雪によってテキサス州の送電網の大半が何日間も停止し、何百万人という人が氷点下の数日間を電力なしで過ごすことを余儀なくされた。このウィンターストーム後にREP数社が事業をたたんだ。こうした企業は卸電力の価格をメガワットアワーあたり9000ドル(約99万円)にしていた(季節平均価格は約50ドル、約5500円だ)。

ボカチカにあるSpaceXの広大な施設を含め、多くの事業をカリフォルニアからテキサスに移したマスク氏は当時、Twitterでテキサス州の送電事業者を批判していた。

マスク氏は、テキサス電気信頼性評議会は「Rを獲得していない」と述べ、頭字語でR(Reliability、信頼性)に言及していた。

Tesla Energy Venturesは公共事業委員会に、同社のモバイルアプリやウェブサイトの活用を含め、販売促進するのにTeslaの既存のエネルギー部門を使うと伝えた。「具体的には、(Tesla Energy Venturesは)Tesla製品を所有している既存顧客をターゲットとし、モバイルアプリとTeslaウェブサイトを通じて顧客に小売を販促します」と申込書には書かれている。「TeslaモバイルアプリとTeslaウェブサイトに加えて、申込者の既存の『Tesla Energy Customer Support』組織は顧客獲得の取り組みにおいて顧客サポートとガイダンスを提供するよう訓練されます」。

Ana Stewart(アナ・スチュアート)氏がTesla Energy Venturesの社長となっている。スチュアート氏は2017年からTeslaで規制クレジット取引担当ディレクターを務めている。その前は同氏はTeslaが買収したSolarCity(ソーラーシティ)で働いていた。

申し込みの整理番号は52431だ。

画像クレジット:Darrell Etherington

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

温暖化でリスクが高まる山火事に備える家屋強化のマーケットプレイス「Firemaps」にa16zが出資

世界中の国々を山火事が襲っている。カリフォルニア州は史上最悪(この比較級を毎年のように使っている気がする)の山火事に対処中であり、州北部ではCaldor fire(カルドア・ファイアー)などの火災が起きている。一方、ギリシアをはじめとする地中海の国々は数週間に渡る消火活動の結果巨大な火災を鎮圧した

気候温暖化が進む中、米国だけでも数百万世帯が山火事の高リスク地域に位置している。保険会社と政府は家屋所有者に対し、いわゆる「hardening」(ハードニング、耐火性強化)を実施するよう緊急な圧力をかけている。火災に遭った際に家屋が損害を免れる可能性を最大限に高め、それ以上災害を広げないための対策だ。

サンフランシスコ拠点のFiremaps(ファイアマップス)は、事業規模を急速に拡大し、複雑で時間のかかる手続きをできる限り簡易化することで、家屋ハードニングの問題を解決する、という壮大なビジョンを持っている。

会社は数カ月前(2021年3月)に創業したばかりで、ドローンを装備した作業員を山火事の高リスク地域にある家屋に派遣する。作業チームは20分以内に、センチメートル単位で物件の高解像度3Dモデルを作成する。そこからハードニングのプランを構成し、同社のマーケットプレイスに参加している業者に入札依頼が送られる。

ドローンで家をスキャンした後、Firemapsは建築物と近隣物件の高精細CADモデルを作成する(画像クレジット:Firemaps)

始まったばかりだがサービスはすでに好調だ。同社ウェブサイトに登録した数百人のホームオーナーに加えて、数十人がドローンによるスキャンを終えており、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)のAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏は同社の550万ドル(約6億円)のシードラウンドをリードした(Form D申請書によるとラウンドは4月ごろ実施された)。ラウンドにはUber(ウーバー)CEOのDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏、Addition(アディション)のLee Fixel(リー・フィクセル)氏も参加している。

Firemapsを率いるJahan Khanna(ジャハン・カンナ)氏は都市工学の長い経験を持つ弟とRob Moran(ロブ・モラン)氏の3人で会社を共同設立した。カンナ氏は初期のライドシェアリングスタートアップ、Sidecar(サイドカー)の共同ファウンダー兼CTOで、モラン氏は同社の初期従業員の1人だった。3人は気候問題にどう取り組むかを繰り返し研究しながら、今ここににいる人たちを助けることに焦点を当て続けてきた。「人類が(気候に関する)一定のしきい値を超えてしまった今、私たちはこの問題を制御する必要があります」とカンナ氏は言った。「当社はそのソリューションの一部です」。

過去数年間、カンナ氏兄弟はカリフォルニアにソーラー施設かソーラー利用の家屋を作ろうとしていた。「誰と話した時にも驚いたのは、カリフォルニアには何も建てられない、なぜなら燃えてしまうから、と言われたことでした」とカンナ氏は言った。「それが転機でした」。2人は火災ハードニングについて調べるうちに、何百万というホームオーナーが、手軽で安い選択肢を必要としていることを知った。それもできるだけ早く。

家を火災に強くする方法は何十とある。家から1〜2メートル以内に耐火ゾーンを作るのはその1つで、花崗岩の砂利を置くことが多い。天井裏の換気口や排水溝、家の羽目板などを耐火性で高温に耐えられるようにすることもそうだ。これらの方法の価格はさまざまだが、一部の自治体や州政府は、助成金プログラムを設けて、ホームオーナーがこうした改善にかけた費用の一部でも取り戻せるようにしている。

Firemapsの3Dモデルで描かれた家にハードニングの代表例と価格が表示されている(画像クレジット:Firemaps)

同社のビジネスモデルはシンプルだ。選別された契約業者は、Firemapsのプラットフォームに掲載料を支払う。カンナ氏は、同社がドローンを使った家屋の総合的モデルを提供するので、契約業者は自分で現地視察をすることなく入札に参加できる、と考えている。「業者はすぐに取りかかれるプロジェクトが手に入るので、取得コストは事実上ゼロです」とカンナ氏は言った。

長期的に「当社の事業上の仮説は、プラットフォームを作り、このような家屋のモデルを作ることには本質的な価値がある、というものです」とカンナ氏は言った。現在同社はカリフォルニア州でサービスを開始し、2022年の目標は「このモデルを反復、スケール可能にして週に何百もの家屋をスキャンすることです」と彼は言った。

関連記事:国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ
画像クレジット:Firemaps

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Nob Takahashi / facebook

神戸市がオーダーメイド型起業家支援「グローバル・メンターシップ・プログラム」を開始

起業家育成エコシステムの構築、推進が活発な神戸市。先日も彼らの取り組みをご紹介したが、今度は、世界で活躍する起業家による新規ビジネス育成の試みとして、オーダーメイド型起業家支援の「グローバル・メンターシップ・プログラム」とスタートアップのためのウェブプラットフォーム「KOBE STARTUP HUB」を8月26日に開始した。

グローバル視点を持つ起業家育成、5年で1000人支援を目標

「グローバル・メンターシップ・プログラム」では、参加する起業希望家や起業家に対し、ニーズやステージ、事業分野に合わせて、コミュニティ・マネジャーが、個別支援やメンターとのマッチングを行なう。国としても「世界に伍するスタートアップ・エコシステム 拠点形成戦略」を掲げており、神戸も大阪、京都と共に「スタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」に選定されている。

コミュニティ・マネジャーには、日本とオーストラリアの人材をマッチングし起業エコシステム構築を支援するシドニーの企業、Innovation Dojo Pty Ltd(イノベーション道場)のCEOであるJoshua Flannery(ジョシュア・フラネリー)氏が就任する。同氏は起業家支援を行なう Rainmaking Innovation Japan の アドバイザー。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のスタートアッププログラムの立ち上げに携わり、運営責任者として約 700 社を支援。南半球最大のスタートアップ・ハブ 「Sydney Startup Hub」の責任者を務めた。

kobe
メンターにはグローバルに強い人材を揃える。マネックスグループ取締役会長兼代表執行役社長の松本大氏のほか、米国ベンチャーキャピタルSkyline Venturesパートナーを務める金子恭規氏、Headline Asiaの岡本彰彦氏など、約50名が参加する。

プログラムは公開セミナーとグループメンタリングの両建てで行なわれる。2021年から2025年までの5年間で1年200社、合計1000社の支援を目標とする。対象者は副業起業を目指す30代以上、学生起業を目指す10〜20代、子供の起業マインドを支援したい家族など多岐にわたる。

参加者とメンターのマッチングや、神戸市内外の人脈、場所、プログラム、金融機関等との双方向交流は、ウェブプラットフォーム「KOBE STARTUP HUB」を利用する。起業家のダイバーシティやグローバリゼーション育成の観点からも英語版、日本語版の両方で提供される。グローバル・メンターシップ・プログラムの応募はこちらから。

 

ウォールマートが他社小売業者向けのラストマイル配達サービスGoLocalを発表

本日、ウォールマートはWalmart GoLocalという名の新たなデリバリーサービス事業を発表した。本サービスは、ほかの販売業者(大規模/小規模問わず)が、ウォールマートがもつデリバリープラットフォームを使って顧客から商品のオーダーを受けられるようにするものだ。販売業者は、配送時間指定や時間指定なしの配送、当日配送を含むさまざまな配送タイプを選んでサービスを利用することができ、配送容量とカバーエリアを顧客のニーズに応じて拡大することが可能になる。

GoLocalは、ウォールマートが当初同社のデリバリーニーズに応えるために開発したサービスによって支えられている。過去3年間ウォールマートは、2時間以内の配達を保証してくれる自社開発のExpress Deliveryサービスの拡大に力を注いできた。同社によると、本サービスは3000件の小売店から16万個以上の製品を取り扱っており、アメリカ人口の70%近くをカバーしているそうだ。そこでこの度、これらの機能をGoLocalを通してアメリカ全土のほかの販売業者にも提供していける準備が整ったとのことだ。

この新しいB2Bサービスのおかげで、販売業者がウォールマートのラストマイルネットワークとロジスティクスを活用することができるようになるものの、必ずしもウォールマート社員が配送するというわけではない。少なくともまず現段階では。

代わりに、GoLocalのラストマイル部分は、ウォールマートのSpark Driverプログラムに加入するギグワーカーによってまかなわれることとなる。また、同ドライバーが、ウォールマートの当日食材配送もサポートする。しかし、当日配送サービスが、付加的にRoadie、DoorDash、Uber傘下のPostmatesといった他社配送サービスにも頼らなくてはいけない一方、GoLocalではそれら他社配送サービスが関与することはないとウォールマートは語っている。

代わりにウォールマートは、自前ベースの配送をより増やせるようGoLocalを時間をかけて拡大させていく予定だ。例えばすでに、ウォールマートはノースウェスト・アーカンソー(アーカンソー州北西部)において、電気自動バンでの自前配送をテスト中だ。これらのバンを用いることで、ウォールマートはSpark Driverの個人用乗用車やトラックには収まらない大きな製品を取り扱う、より多種多様な販売業者のために配送を強化することができるようになる。またウォールマートは、ドローンや、すでに同社がExpress Deliveryサービスで実験している自律自動車のような、最新鋭の技術革新を通してGoLocalデリバリーを進化させていく予定だ。

「我々の顧客のため、安定したラストマイルデリバリープログラムを作るのにかなり努力をしてきた」と、米ウォールマートLast Mile部門役員(SVP)のTom Ward氏は声明で語っている。「これらの機能を活かし、地元の販売業者などさらに別の顧客にサービスを提供することができるようになり喜んでいる。地元のパン屋からだけでなく、全国規模の小売業者からの自動車用品の配送まで、Walmart GoLocalは、販売業者のあらゆる規模と業界に合わせてカスタマイズできるように設計されている。それにより顧客が配達スピードと効率を我々に任せ、彼らが最も得意とする分野に集中することができる。」と彼は加えている。

GoLocalに参加する際、ビジネスの大小規模は問わない。小さな個人経営のお店から全国規模の販売店まで誰でも本サービスの利用を選択することができる。さらにWalmart.comのマーケットプレイスで販売する必要もない。これは、ウォールマートが保管と配送両方を請け負うフルフィルメントサービスではないからだ。これはあくまでラストマイルの配送部分のみだ。商品の在庫管理は各自の販売店となる。

どんな小売店でもGoLocalを利用できるものの、始めるには小売店側で技術的な統合を必要とする。ウォールマートは、顧客が商品を発注した際にGoLocalに通知をしてくれる、自社の既存商用プラットフォームに繋がるためのAPIを提供している。これがGoLocalにドライバーを配備するよう促し、同時にウォールマートが配送の顧客フィードバックを取得するとのことだ。もしこれが広く普及すれば、ウォールマートはローカル配送データを獲得して分析ができるようになり、それにより自社配達事業の改善やフルフィルメントセンターの配置に関する意思決定に役立たせることができるようになる。これは競争上かなりの利点となる可能性を秘めている。

すでに全国規模の小売業者との契約を含め、いくつかの商用パートナーがすでにGoLocalに登録してくれているとのことだが、まだ彼らの名を公開する許可がおりていないとウォールマートは語っている。サービスの価格は、さまざまな機能を備えたホワイトラベルオプションとして各小売業者の個々のニーズに合わせてカスタマイズされていると説明しており、サービスの価格については詳しくは公開しないだろう。

本サービスは、ウォルマートが他の小売業者のニーズに応えることで収益を生み出すために現在進行中のいくつかの取り組みの1つだ。例えば最近では、ウォールマートは自社のeコマース技術へのアクセスを小売業者へ販売すると発表した。これはウォールマートの大きな戦略の一部であり、これまで自社の事業にのみ使用していた技術やサービスへのアクセスを提供することで利益を上げることに期待を向けている。

[原文へ]

サムスンが2023年までに半導体、バイオ医薬品、通信機器事業に約22兆5900円の投資を発表

韓国の巨大テック企業ことサムスン・グループは、次世代通信とロボティクスなどの新規産業における国際的な存在感と優勢を高めるために、同社の半導体、バイオ医薬品、通信機器事業に今後3年をかけて2050億ドル(240兆ウォン/約22兆5900億円)を投資することを火曜日に発表した。

本出資はサムスン電子やサムスンバイオロジックスなどのサムスン関連企業によって進められる。また、同社の技術力と市場での優勢を強化するためのM&A計画も明らかにした。

これにより、サムスンは1543億ドル(180兆ウォン/約16兆9400億円)を用いて、2023年までに韓国において4万人の新たな雇用を創出することを期待している。

本発表は、サムスン電子の副会長Jay Y. Lee氏が、韓国開放日(光復節)前の8月13日に仮釈放になった数日後に出されることとなった。韓国ローカルメディアによると、同氏が釈放されれば、サムスンは大型投資を進めることができるようになるだろうと推測していた。

同社の声明によると、本資金は半導体、バイオ医薬品、次世代通信機器に使われることになるとのことだ。

サムスン電子は、引き続き同社メモリ事業のためのEUVベースの14サブナノメートルDRAMと200層超のV-NAND製品といった最新技術に注力すると同時に、高度なプロセス技術を開発し、同社のシステム半導体向けに人工知能(AI)とデータセンターを駆使して事業をさらに拡大させていく計画だ。

声明によると、サムスンバイオロジックスとサムスンバイオエピスは、CDMO(医薬品製造受託機関)事業をさらに拡大させるため、現在建設中の4拠点目の工場に加え新たに2拠点の工場を建設するとのことだ。

なお、韓国一の巨大コングロマリットことサムスンは、次世代OLED、量子ドットディスプレイ、高密度エネルギーバッテリーの開発と合わせて、進行中の新技術の研究&開発と、それらのAIやロボティクスといった領域での応用も引き続きサポートしていくこととなる。

[原文へ]

中国TencentがインドのPocket FMの投資ラウンドをリードへ、最大27億円規模か

Tencent(テンセント)が、インド・グルグラムに本社を置くPocket FM(ポケットエフエム)の投資ラウンドをリードする交渉が進んでいる。中国の大企業がインドマーケットで消費者インターネットのポートフォリオを拡大する最新の動きだ。

この件を把握している情報筋3人によると、すでにPocket FMに出資しているTencentはPocket FMの2000万〜2500万ドル(約22億〜27億円)のラウンドをリードすることで協議を進めている。提案された創業3年になるPocket FMの評価額は7500万〜1億ドル(約82億〜110億円)だと情報筋2人は述べた。既存投資家であるTimes InternetのBrand CapitalとLightspeedもラウンドに加わる。

ラウンドはまだクローズしていないため、条件は変わり得る。TencentとPocket FMはコメントを却下した。

Pocket FMは、ユーザーにポッドキャストとオーディオブックを英語やいくつかのインドの言語で提供する社名を冠したアプリを展開している。カタログは1万時間超にのぼると同社のウェブサイトにはある。オーディオブックを制作するのに同社は数人のクリエイターと協業している。

アプリはフリーミアムモデルで利用でき、有料のサブスクと広告が入る無料バージョンが用意されている。

今回の投資協議は、幅広いインドのスタートアップがオーディオ部門で事業を開始したり拡大したりしている中でのものだ。たとえばインドのソーシャルネットワークShareChatは2021年初めにClubhouseのような機能を立ち上げた。

Pocket FMはTencentがインドの消費者インターネット分野に賭ける最新の案件だ。Tencentはまた、音楽ストリーミングサービスのGaana、オンデマンドビデオストリーミングプレイヤーMX Playerの主要投資家でもある。

インド政府が中国企業によるインド企業への投資を許可制にする規則を導入したことを受け、Tencentは2020年にインドでの投資のペースを抑制した。ここ数四半期は活発になり、コンバーチブルノート付きの株式の代わりに社債を通じて投資している。

関連記事:インドが中国からの投資に政府承認を義務付け、新型コロナ渦中での敵対的買収を予防
画像クレジット:Arijit Sen / Hindustan Times / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

【中国の近況】政府がByteDanceに出資、Amazonの中国販売業者取り締まりは続く

TechCrunchチャイナ・ラウンドアップへようこそ&おかえりなさい。中国テック業界の近況と、それが世界の人々にどんな意味をもつかについてまとめてみた。

先週、中国政府がByteDance(バイトダンス)に資本参加したことで投資家たちの不安は増大した。TikTok(ティックトック)の親会社にして世界最大級の非上場インターネット企業だ。一方でAmazon(アマゾン)による中国販売者の取り締りは続き、中国南部の多くの業者を廃業に追いやり、政府は包括的データ保護法を可決しせ11月に施行される予定だ。

国の資本参加

中国政府による国のインターネット巨人の制御を強める大計画は続いている。今週、The Informationは、ByteDanceの国内事業体が4月に株式の1%を政府関係機関に売却したことを報じた。この取引は企業情報の公開データベースであるTianyancha公式企業登録簿にも記載されている。

この動きは突然起きたのではない。中国政府は非上場テック企業の少数株取得を2017年から考慮していた。当時The Wall Street Journalは、インターネット規制当局が、WeChat(ウィーチャット)運営者であるTencent(テンセント)、Twitter(ツイッター)類似サービスのWeibo(ウェイボ)、YouTube類似サービスのYouku(ヨーク)などの企業の1%株を取得する検討をしていると報じた

2020年4月、China Internet Investment Fund(中国インターネット投資ファンド)の子会社、WangTouTongDaはWeibo株の1%を1000万中国元(1億6900万円)で購入した。Weiboの米国証券規制当局への提出書類による。Weiboはこの書類で、WangTouTongDaの国との関係について言及しなかった。

同様に、ByteDanceは株式の1%を、主要規制機関が指定した3つの団体、China Internet Investment Fund、共産党中央宣伝部が制御するChina Media Group、および北京市政府の投資部門に売却した。

ByteDanceに対する中国政府の動きを受け、米共和党のMarco Rubio(マルコ・ルビオ)上院議員は今週、米国でTikTokをブロックするようジョー・バイデン大統領に緊急要請した。

ByteDanceの少数株を取得することで中国政府がどれほどの力を得るのか正確にはわからないが、Weiboによる投資家への情報開示がいくつかヒントを与えている。

同政府がWeiboとByteDance両方の国内事業体の株を取得していることは注目すべきだ。中国のインターネット企業は、中国本土の事業が契約上の合意を通じて金銭的利益を得られる資格をもつ海外事業体を設立することがよくある。この枠組は変動持ち分事業体(VIE)と呼ばれる。この構造によって中国企業は海外での資金調達が可能になるが、海外投資を制限する中国政府による監視が強まっている。

Weiboは提出書類の中で、出資者である国有企業のWangTouTongdaが、Weiboの国内事業体の3名からなる取締役会の役員1名を指名できるようになり、コンテンツや将来の資金調達に関する特定の要件に対する拒否権を得ると書いている。

ByteDanceも同様の契約を同社の国有出資者と結んでいる可能性が高い。中国政府はケイマン諸島法人の独立海外事業体の子会社であるTikTokの株式は取得していない、とThe Informationは指摘している。これは米国規制当局に多少の安心化を与えるものだが、中国政府による海外中国企業の支配に対する懸念が消えることはないだろう。

実際バイデン政権は2021年6月、ByteDanceとWeChatを禁止したトランプ時代の命令をより精査されたポリシーで置き換え、安全保障上のリスクを生む可能性のある「外国の敵対者」とのつながりについて、商務省によるアプリの審査を必須とした。

TikTokは中国政府へのユーザーデータ引き渡しに関する告発と戦ってきた。ByteDanceは米国で2021年4番目のロビー活動費使用者であり、Amazon、Facebook、およびAlphabetに続いている。中国政府による投資によって、さらに多くの活動費が必要になるだろう。

関連記事:バイデン大統領がトランプ氏時代のTikTok、WeChat禁止令を廃止

窮地のAmazon販売業者

5月に私はAmazonが中国最大級の販売業者数社を、同プラットフォームの規約に違反したとして利用禁止にしたことを報じた。偽レビューやユーザーに肯定的レビューを書かせるために報酬を支払うなどの行為による。厳しい取り締りは中国のオンライン輸出業者をパニックに陥らせ、それはAmazonによる1回限りの不意打ち攻撃ではなく、長引く戦争になった。影響を受けた中国業者の正確な数は明らかにされていないが、業界ウォッチャーのMarkeplace Pulseなどは、7月初め時点で「数百社の」中国販売業者が停止されたと言っていた

関連記事:米Amazonから中国の大手販売業者が消える、不正レビューが原因か

罰せられたアカウントは利用禁止となりされ、Amazonによって商品は差し止められ入金は凍結されている。世界のAmazon販売業者の大半が拠点を置く深圳では、最近だけで数千人が解雇された。深圳のある大規模販売業者のオーナーは、大損害を理由に最近自殺したと知人が伝えた。

取り締りを生き延びた販売業者は、Amazonによる襲撃は「遅かれ早かれ起きたこと」だと語った。私が話した業者のほとんどが同じ意見だった。シアトルの巨人Amazonは現在、価格とランキング操作だけで競争するジェネリック製品ではなく、品質とデザインを求めている。

中国政府もこの事象に注目した。商務部の高官は7月の記者会見で、相次ぐアカウント閉鎖について中国輸出業者を「水から出た魚」になぞらえた。

「世界の法律、文化、ビジネス慣行の違いのために、[中国]企業は海外進出においてリスクと難題に直面しています」と商務省のLi Xingqian(李興乾)対外貿易局長は言った。

「私たちは企業がリスク管理を改善し国際貿易標準を遵守する手助けをします」。一方で同氏は「各プラットフォームにはさまざまな企業による重要な貢献を大切にし、異なる取引相手を十分に尊重する」よう要請した。

データ保護

最後に、中国は先週、包括的なデータ保護法を可決した。同法はテック企業によるユーザーのデータ収集の方法を厳格に制限しているが、国家による監視には影響を与えない可能性が高い。この2020年提起された規制法案は11月1日に発効する。詳しくは以下の記事を参照されたい。

関連記事
中国で個人情報保護法が可決
中国のインターネット規制当局は強制的なユーザーデータの収集を標的に

画像クレジット:Photo by VCG/VCG via Getty Images

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Nob Takahashi / facebook