噂されてから一年あまり。YouTubeはエンターテイメント業界にさらなる攻勢をかける新サービスの全貌をついに明らかにした ― ライブのTV視聴サービスだ。
プラヤビスタにあるYouTubeのオフィス。100人あまりのジャーナリストたちはハンガーのような形をしたYouTubeのオフィスに集まった。私たちはそこに並べられたイスに座り、会場に流れる「Video Killed the Radio Star」と「Coffee and TV」を聴きながらこの発表を待っていた(ほんとに、YouTubeの音楽センスは素晴らしいよ)。
今回発表された新サービスのYouTube TVは、Googleのインターネットビデオ部門が数年の期間をかけて開発したものだ。YouTube Redとは違い、今回は開発を進める裏側でメディアと契約を結び、彼らのTVコンテンツを配信する権利を取得している。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)やBloomberg Newsによる報道からも分かるように、度重なる情報のリークによって新サービスの概要はすでに広く知られていた。
Bloombergが報じたところによれば、YouTubeはすべての主要なTVメディアと提携の話を進めてきたようだ。主要メディアのなかで、YouTube TVと最初に提携したのはCBSだった。その後、21世紀FOX、ComcastのNBC Universal、そしてABCやESPNなどのメディアを傘下にもつDisneyも加わることとなった。
そして今日(現地時間28日)、YouTubeは詳しいチャンネルの内容と料金プランを発表した。
このサービスは比較的低価格だ。家族で6アカウントまで持てるプランは月額35ドル。契約期間による縛りはない。ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルによる初期の報道では、サービスの料金は25〜40ドル程度になるだろうとされていた。
しかし、放映権の関係上、現段階でYouTube TVが利用可能な地域はロサンゼルス、ニューヨーク、フィラデルフィアに限られている。
YouTubeのチーフビジネスオフィサーであるRobert Kyncl氏は、「ユーザーに『見逃せない生の瞬間』を提供できるサービスを創ることにしたのです」とYouTube TVについて話す。
彼によれば、これまでにYouTubeはすべての主要メディアとのパートナーシップを締結し、「ABC、NBC、CBS、Foxなどを含む、全国的なカバレッジ」を実現したという。
上記のメディアだけではなく、CW、USA、FX、FXX、Syfy、FreeFrom、MSNBC、CNBC、Fox News、Fox Business、Disney、Disney Jr.、NatGeo、Sprout、E!などのチャンネルも視聴可能だ。追加料金を支払うことで、ShowTimeも観れる。
しかし、Scripp、Viacom、そしてHBOなどのTime Warner傘下のチャンネルはYouTube TVでは視聴不可能だ。
これについてKyncl氏は、YouTubeは「継続的にメディアとの話し合いを続けており」、今後それらのチャンネルも加わる可能性もあるとしている。
スポーツファンの読者へ。YouTube TVでは、ESPN/ESPN2/ESPN3/ESPNU、FoxSports、FS1、FS2、そしてNBC Sports Netも視聴可能だ。Fox、Comcast、SEC network、Big Ten、ESPNUなどから配信されるローカルのスポーツニュースも観れる。追加料金でFox Soccer Plusも追加することができる。
加えて、YouTube TVではYouTube Redのオリジナルシリーズ(28作品)を観ることができる。これによって、YouTube Redの定額プランで視聴可能なコンテンツよりも多くを求める若い世代にアピールできそうだ ― 最近、YouTube Redは人気作品の1つだったPewDiePieを失っている。
「YouTubeが大小さまざまなパートナーたちと手を組めば、現在提供しているようなラインナップを揃えることができます。この新サービスはそれを証明しているのです」とYouTubeのチーフプロダクトオフィサーであるNeal Mohan氏は語る。「YouTubeは、TVのあり方を再発明するためには素晴らしいポジションにいると思っています。私たちはこれまでに、ハイクオリティなビデオのインターネット配信、高画質のストリーミング、クラッシュすることなくモバイルとWebをシームレスに統合するアプリを提供してきました。その私たちと同等の経験を持ち合わせる企業は他に存在しません」。
YouTube TVの機能:検索、クラウドDVR、そしてリコメンデーションとソーシャル機能
YouTube TVでは、容量無制限で、かつ同時録画も可能なDVR(デジタルビデオレコーダー)を利用できる。これは従来のケーブルTV業界にとって脅威となる機能だ。ライブTV市場では、クラウドベースのDVRは最低限そなえるべき機能として定着しつつある。YouTube TVの競合となるSling、Vue、DirecTVなどの企業も同様の機能を提供している。もしくは、その実装を計画している。
しかし、YouTube TVではアカウントごとに個別のDVRが提供される点で異なる。また、アプリがポートレート・モードになっているときにはレコメンデーション機能もアカウントごとに違う結果を表示する。過去に視聴した、または録画した番組からユーザーごとの好みを理解する仕組みだ。
アプリを起動すると、チャンネルの内容を確認するテレビガイド画面が表示される。そして親指をフリックしていくことで観たい番組を探すことができる。
YouTube TVには3つのセクションが用意されている ― ライブ、ライブラリ、ホームだ。ライブ・セクションは生放送中の番組を視聴するセクション;番組をタップして視聴開始、または「+」ボタンをタップして録画を開始することが可能だ。Chromecastと同じように、アプリで視聴中の番組をテレビに映し出すこともできる。
番組の検索も可能だ。「タイムトラベル」というようにテーマで検索することも可能で、番組の内容にタイムトラベル要素がある番組が一覧で表示される。
Googleのスマートスピーカー「Google Home」と連携すれば、YouTube TVを声で操作することも可能だ(同社はこの機能のデモンストレーションを試みたが、失敗した)。
アプリにバグが見つかれば、 ― この手のアプリが新しくローンチされる時にはよくある話だ ― アプリに用意されたテキスト/ボイスチャットでカスタマーサービスと直接話すことができる。
YouTube TVにはソーシャル要素もある。以前からトップクリエイターたち向けのコミュニティとして存在していた「community」タブがYouTube TVにも追加されているのだ。
Googleによれば、同社とメディアの双方がYouTube TV上で広告を販売するという。YouTube Redの会員制コンテンツ、およびYouTubeにアップロードされているものを除くすべてのコンテンツには広告が挿入される。
強豪ひしめくこの市場は、どこまで拡大するのか?
YouTube TVはこれから、多くのインターネットTVサービスがひしめき合う市場に参入する。
Netflix、Amazon、Hulu、HBO Nowなどのトッププレイヤーたちの他にも、DishのSling TV、ソニーのPlayStation Vue、AT&TのDirecTV Nowなどのサービスもある。Huluも独自のライブTVサービスを近日中にローンチする予定だ。
もちろん、競合とは違ってYouTubeにはすでに一定の顧客ベースがある:同社が今週発表したところによれば、YouTube上の動画再生時間は1日あたりの合計で10億時間にもなるという。
しかし、インターネットTVサービスという枠組みで考えると、この業界はこれまでとは違ったタイプの競争にもさらされていることが分かる。昨年秋にリリースされたアナリストによる調査によれば、初期のパイオニアであるSling TVはすでに100万人の会員を獲得している。しかも、初期のころの「つまづき」にもかかわらず、その数字は伸び続けている。YouTube TVと同じく、Slingにはベースとなるパッケージが用意されていて、個人の趣向に合わせたアドオンを追加できるようになっている。また、最近Slingはこのアドオンの料金を引き下げたばかりだ。おそらく、顧客がYouTubeに流出するのを防ぐことが目的だろう。
その一方、ローンチ当時のDirecTV Nowはバグが多すぎて、顧客がFCC(連邦通信委員会)に対して料金の返却を訴えるなんてこともあった。しかし、それでも彼らは初月で20万人の会員を獲得することができた。ただ、Sling TV CEOのRoger Lynch氏によれば、それがSlingの成長を阻害するようなことにはならなかったようだ。また彼は、この市場への新規参入によって市場全体が拡大しているとも語っている。
今日のYouTube TVの発表により、ストリーミングTV業界にさらなる注目が集まっている。そして、これから注目すべきなのは、この新規参入によって、市場に存在する数多くのサービスの成長速度が、市場全体の成長速度を上回ることになるのかという点だ。
本日以降、YouTube TVはアメリカ国内の一部の地域で利用可能になる。数カ月後にはWeb、Android、iOSのそれぞれのバージョンが出揃う予定だ。会員登録はこのWebページからできる。
(追加の情報が入り次第、記事をアップデートする)。
[原文]
(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter)