多くの大学4年生にとって学校とは、選択肢を考慮しながらゆっくりと未来を熟考するための自己探求の期間である。
しかし、世界で最も優れた大学に通っていたり、またはクラスの上位に君臨したりしているコンピューターエンジニアリングの学生にとっては別の話だ。学校が始まり、最初の週にコースを選択すると直ぐに彼らは大学のキャリアフェアに参加し、GoogleやFacebookなどとの面接の可能性について考え始める。そしてそれが実現すると、48時間の返答期限を伴うサインオンボーナス付きのオファーを受け取ることになるのだ。
その内定を断るということは、その企業のブラックリストに永遠に載ることを意味すると言うのが通常の認識だ。しかし、複数の企業を設立したのちに投資家に転向し、双子の兄弟であるHadi Partovi(ハイディ・パルトヴィ)氏とAli Partovi(アリ・パルトヴィ)氏は、それはまったくのでたらめだと言う。「卒業したばかりの優秀な学生はそれほどおらず、CS(コンピューターサイエンス)の卒業生の数よりも、よっぽど多くの仕事が働き手を必要としています。むしろ、卒業生のほうが企業に対して返答期限を言い渡すべきです」。
学生には選択肢があり、大手テクノロジー企業に急かされる必要がないというメッセージを広めるため、パルトヴィ氏は何か新しいことを企画している。同氏は4年目となるネットワーキング組織、Neoとそれに関連するベンチャーファンドを通じて、これまでとまったく異なる種類の機会を学生に紹介する一種の仮想マッチメイキングとも言える企画を8月8日に実施する予定だ。
Neo Startup Connectと呼ばれるこのアイデアは、5月初旬に5000万ドル(約54億円)の資金調達を発表した設計ソフトウェア「Figma」のような、急成長していながらも安定している企業に学生を紹介するというものだ。
パルトヴィ氏は、従業員何万人規模の企業よりも100人程度の規模の企業の方が、より多くのことを学べる機会を与えてくれると考えている。彼はまた、こういった企業が学生を特定さえできれば、学生の興味とより調和するであろうスタートアップが数多くあると信じている。
「例えばプリンストン大学のトップにいる学生と話した際、彼女は医療と機械学習に興味があり、ゴールドマンサックスから仕事のオファーをもらったと言う。こういった話を毎日のように私は聞きます。私にはなんでそんな銀行やヘッジファンドに行きたいのかまったく分かりません」とパルトヴィ氏。
もちろん、こういったつながりの醸成はパルトヴィ氏の利益にもつながる。実際、Neo Startup Connectは近年のNeoの取り組みから派生した自然な流れである。卒業間際の才能あるエンジニアリングの学生を特定し、必ず成功するという確信のもとその学生が後に開発する予定の企画に投資することを約束すると言うものだ。このアプローチはシリコンバレー全体に広がっているが、通常これは長期戦を意味する。Neo Startup Connectでパルトヴィ氏は、誰かの将来に即時に影響を与えるだけでなく、Neoが過去に支援した、または将来支援したい企業との関係を強化することができるというわけだ。
同イベントに参加する企業にはFigmaに加え、TechCrunch Battlefieldの優勝者であり、カスタマーサポートの生産性を高めるAIシステムを開発するForethoughtや、5月初めに5000万ドル(約54億円)の資金調達を発表し、著名なエンジェル投資家であるRam Shriram(ラム・シュリラム)氏を早期支援者として持つ話題のコラボレーションソフトウェアメーカー、Notionなどが含まれる。Neoはこれらの企業に資金支援をしていない。
Neoから資金提供を受けた他の参加者には、2019年後半にシリーズDラウンドで4億ドル(430億円)を調達したオンデマンドのトラッキングプラットフォームConvoyのほか、これまでに625万ドル(約6億7000万円)のシード資金を調達しており、コーディング不要のポイントアンドクリック式のプログラミングツールを開発するBubbleや、2019年にMicrosoftの共同創設者であるBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、Uberの共同創設者であるTravis Kalanick(トラビス・カラニック)氏、Uberの現CEOでパルトヴィ氏の従兄弟でもあるDara Khosrowshahi(ダラ・コスロシャヒ)氏などからのシード資金で900万ドル(約9億7000万円)を調達したAIチップ企業、Luminousなども含まれる。
学生にとっての利点としては、ビジョンや機会を広げられるだけでなく、Quoraやその他の企業にも使用されているコーディング評価プログラムや対面式の面談を用いて学生の適性審査をあらかじめ実施することで、申請プロセスを簡単に行うことができるという点だ。パルトヴィ氏のよると、面談は「Neoコミュニティからのさまざまな経験豊富なベテラン群」とパルトヴィ氏によって行われる。
この審査プロセスが参加企業を満足させるものか否かは疑問である。たとえば、Figmaのエンジニアリング担当副社長であるKris Rasmussen(クリス・ラスムーセン)氏は、Neoが「コミュニティから優秀な候補者を見つけ出すという点で素晴らしい仕事をしている」一方で、「すべてのFigmaの候補者も同じ技術面接プロセスを通過している」とEメールで語ってくれた。
つまり、近道にはなっていないということだ。
Neoの支援は間違いなく重要であり、パルトヴィ氏は幅広いネットワークを持っている。彼は90年代後半に約2億5000万ドル(約270億円)でMicrosoftに売却したLinkExchangeを含む、多数の企業を共同設立した経歴を持つ。同氏はまた、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やDropboxのDrew Houston(ドリュー・ヒューストン)氏を含む才能ある創設者への投資実績がある。
「アリが目をつけた人は、IQとEQ両方の面で世界トップクラスになると信じるようになりました」とForethoughtのCEOであるDeon Nicholas(ディオン・ニコラス)氏は言う。8月のイベントへの参加は「朝飯前」であり、「難しい点を1点あげるとすれば、参加する生徒たちがGoogleからオファーを受けないようにすることのみ」と付け加えた。
そもそも、大手テクノロジー企業でキャリアをスタートさせることがそれほど悪いことなのか、という疑問が浮上する。
パルトヴィ氏自身もハーバード大学の学生であった時代にMicrosoftでインターンをし、卒業後はOracleとテック系スタートアップの間を行き来した過去を持つ。ニコラス氏もDropboxやPure Storageなど複数の大企業で働いていた。
細かく掘り下げるつもりはないが、ラスムーセン氏もまた卒業直後にMicrosoftで働き1年未満で退社している。スタートアップの世界に飛び込み最終的にはFigmaに到達したわけだが、その前に大企業で時間を費やしたことを後悔しているかどうかをメールで尋ねたところ、その質問には答えてくれなかった。
スタートアップとの関連性なども含み、新しい大学卒業生が大企業の内部で多くを学ぶことは可能ではないのか、また大企業で勤めた経歴が収入の可能性を高め、より多くの選択肢を得ることが可能ではないのか、とパルトヴィ氏に聞いてみた。
彼の回答は、どれも「否定はしない」とのことだ。「大企業への就職も、スタートアップへの参加も、自分で起業することも、どれも個人が自分にとって適切だと思うことが正しい道でしょう」。
「残念な事に、起業家精神を持った成績の良い学生であってもスタートアップ立ち上げの道には組織的な障害が伴います。正解やガイドはなく、威圧的で、構造的な障害があります」と同氏は続ける。Neoがそれらの障害を取り除く手伝いができたら、パルトヴィ氏の試みは成功したと言えるかもしれない。
大企業がほとんどの優秀な才能を吸い上げている世界の中で、現在機能している仕組みに介入することによっても社会は利益を得られるのではないかという考えもある。
いずれにせよ、大手テクノロジー企業の内定を断ることはそれほどリスクの高い問題ではないかもしれない。Googleの元採用担当者によると、内定を辞任するほとんどの学生がその後も候補として残ると言う。
場合によっては、企業は生涯その人物を雇おうと試みる可能性もある。
(注記:Neo Startup Connectへの参加を望む学生に向け、同組織は米国時間5月8日に登録を開始し、候補者の審査は6月末まで行われる。パルトヴィ氏によると、約150名を受け入れる予定とのことだ。)
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Category:VC / エンジェル
Tags:Neo 学生
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(翻訳:Dragonfly)