英国拠点のHumanForestが顧客の事故でロンドンでの電動自転車シェアを停止、レイオフを実施

英国を拠点とするスタートアップのHumanForest(ヒューマンフォレスト)は、ハードウェアの問題に起因する利用者の事故のあと、ロンドンで展開していた「無料」のEバイク(電動自転車)サービスを停止した。このサービス停止により、同社は現在多数のレイオフを進めている。なお同社は来春、別のEバイクを使用して再スタートする計画だ。

サービスの停止は、同社がノースロンドンでトライアルを開始してからわずか数カ月後のことで、Cabifyの創業者らによる230万ドル(約2億4200万円)のシードラウンドの資金調達を発表してからわずか数週間後のことだった。

TechCrunchは匿名の情報源から、このスタートアップに雇用されているという人物の情報を得た。その人物によると、同社の電動自転車に欠陥が発見され、利用者の事故が発生し、サービスを停止したとのことだ。さらに、スタッフの一部を急遽解雇したという情報も入手した。

HumanForestはこれらの情報について、9月20日の日曜日の「小さな事故」の後、ロンドンでのサービスを停止したことを認めた。事故が発生する可能性がある問題を事前に把握してはいたが、それを「改ざんや軽微な機械的問題」に分類していたことも明らかにした。同社のその声明文は以下のとおりだ。

「私たちはその自転車に欠陥があることを知りませんでした。これと似たような性質の問題があり、それは改ざんされているか、または小さな機械的問題であると疑っていました。問題が解決したと思われる追加の機械的チェックを行い、サプライヤーに連絡しました。日曜日の軽微な事故を受けて、直ちに操業を停止しました。その供給業者は現在、電動自転車にもっと深刻な問題があるかどうか調査しています」。

以前の声明で同社は「先週事故が発生しましたが、幸いなことに顧客にケガはありませんでした。我々は直ちに路上からすべてのEバイクを撤退させ、調査中のサプライヤーにも伝えました。お客様の安全を第一に考えています。そのため、2021年春に新しいEバイクで再発売することを決定しました」とコメントしていた。

HumanForestはサービス停止の原因となった不具合の詳細については明らかにしなかったが、広報担当者はすべての電動自転車が事故当日にロンドンの路上から撤去されたことを認め、なぜそれより早く撤去しなかったのかという疑問を提起した。つまり、問題を自ら認めるかたちとなっている。

広報担当者はまた、サービス停止を受けてHumanForestが多くの人員削減を行ったことも明らかにした。「このような困難な時期に人員を解雇せざるを得なかったことを大変残念に思いますが、業務が停止したため大幅に縮小されたチームでしか業務を継続できませんでした」とコメントした。「私たちは、雇用を維持するために一生懸命に努力し、代わりの契約の取り決めや継続雇用の可能性を検討しましたが、残念ながらいつ再出発できるかの保証はありません」と続けた。

「会社に3カ月未満しか在籍していない従業員は試用期間中であり、契約書に記載されているように1週間前に通知が出されています。私たちは月末まで彼らの給料を支払います」と同社。そして「スタートアップにとって今は難しい時期です」と繰り返した。

HumanForestがサービスに使用していたEバイクは、中国のHongjiが製造しているが、実際に同社に提供しているのはB2CとB2Bの両方のモビリティサービスを手掛けるWunder Mobilityと呼ばれるドイツのスタートアップだ。

TechCrunchでは、HumanForestが報告したEバイクの不具合についてHongjiとWunder Mobilityの両社に問い合わせた。本稿執筆時点ではWunder Mobilityのみが回答しており、同社はHumanForestの「仲介者」としての役割を果たしていることを確認しているが、技術的な問題の本質についての詳細は明らかにしていない。

その代わりに、Wunder MobilitのCCOであるLukas Loers(ルーカス・ロアーズ)氏が「HumanForestは、信頼できる品質を目指してサービスの改善に継続的に取り組んでいます。その顧客にシェアリングビジネスで可能な限り最高のサービスの範囲を提供するために、冬休みを使用して春に我々Wunder Mobilityと一緒にその顧客のための最良かつ最も持続可能なソリューションを提供するために、パイロットプロジェクトからの知見を評価する予定です」という声明を送ってきた。

「残念ながら、Wunder Mobilitは仲介者としての役割しか果たしていないため、車両の具体的な欠陥についての情報を提供することはできません。唯一のメーカーまたはオペレータであるHumanForestは、これについてコメントすることができます」と付け加えた。

誕生したばかりのマイクロモビリティ市場の競争の激しさとダイナミックさを示す例としては、同様のEバイクシェアリング事業を展開しているBoltの件にも触れておくべきだろう。業界筋が指摘するところによると、本体のカラーリングは異なるがBoltはHumanForestと同じモデルのEバイクを使用しており、フランスの首都パリでサービスを開始したが、数カ月後にサービスを終了した。

TechCrunchはそれが技術的な問題のために任意のEバイクを撤回したかどうかをBoltに質問したところ、真っ向から否定した。パリでのサービス停止はビジネス上の決定であり、Eバイクハードウェアの問題ではなかったそうだ。

「他のいくつかの会社がプロバイダーとの間で問題を抱えていることは理解しています。Boltは欠陥が原因で電動自転車をサプライヤーから引き揚げていません」と広報担当者は語り、今後の事業拡大に関するさらなる発表として、バルセロナでローンチしたことを付け加えた。

その後のメールでこの広報担当者は、同社がテストした電動自転車の欠陥を特定しておらず、供給元から自転車を回収していないことを確認した。

Boltの英国カントリーマネージャであるMatt Barrie(マットバリー)氏は、Twitterでのさまざまなマイクロモビリティ市場の動きについて「Boltのハードウェアは問題なく、HumanForestが抱えていた問題は特注のコンポーネントに関するものだった」とツイートしている。

そして「パリ〜プラハの移動は、プラハでの我々のより広いビジネスをサポートするための商業的な決定です。パリは良い市場であり、我々はすぐに戻ってくることを願っています」とバリー氏は付け加えた。

TechCrunchは、ハードウェアの技術的な問題が「特注部品」に関連しているというバリー氏の主張についてHumanForestに質問を投げたが、同社の広報担当者はコメントを拒否した。

EバイクシェアリングモデルでのHumanForestの特徴は、アプリ内広告を流すことによって乗り物の無料乗車を提供するアイデアだ。同社のマーケティング施策は「より環境に優しい通勤」というメッセージを押し出すことに向けられており、Eバイクのバッテリーとサービス車両は認証された再生可能エネルギーで充電されていることをアピールしている。

画像クレジット:HumanForest

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(翻訳:TechCrunch Japan)

英国のエンジェル投資家はロックダウン中の今もアクティブだが、スタートアップたちよ急げ

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中での、英国のエンジェル投資家たちの投資戦略に関する調査によれば、エンジェル投資家の65%以上が、ロックダウン中でもスタートアップへの投資を続けていることがわかった、ただしその内容は新規取引が中心となっている。多くの投資家が取引数を増やし、投資額も18%ほど増加しているのだ。

しかし、パンデミックはエンジェル投資家たちが2020年に投資する総資金を61%減らし、投資家の60%弱は、COVID-19が2020年の残りの期間に投資する能力に悪影響を与えると考えている。 TechCrunchがその調査開始を独占的に記事にした後、2週間のうちに250人を超えるエンジェルがサーベイに答えた。

これらは、新しい英国組織であるActivate our Angels(AoA)によって行われた調査だ。この組織は、今週中に開始される予定であるスタートアップのための英国政府の「フューチャーファンド」(未来基金)と同時に立ち上がった(なおフューチャーファンドは、エンジェルやシードステージのスタートアップのニーズには不十分だと批判されてきた)。

AoAは、昨年買収されたGiveMeSportの元CEOで共同創業者のNick Thain(ニック・タイン)氏が立ち上げた組織で、さらに7percent Ventures、Forward Partners、Portfolio Ventures、ICE、Foundrs、Punk Money、Humanity、Culture Gene、Barndance、Bindi Karia、そしてStakeholderzの代表者たちが参加している。

AoAは、創業者たちが、ロックダウンの最中そしてロックダウン後に資金調達の意思決定を行う際に役立つ実用的なデータを提供することを目的に、2週間弱前にキャンペーンを開始した。

調査によれば、エンジェルたちは現在投資を継続しているものの、出資希望の創業者たちはこうした資金を素早く確保する必要があることが示された。なぜなら調査対象となったエンジェル投資家の59%が、ロックダウンが長引くことによって将来の投資が影響を受けると答えているからだ。

これは、スタートアップの調達額が25万ポンド(約3300万円)より少ない場合には、より重要になる。

さらに同調査は、エンジェルが1取引あたりこれまでより18%多く投資しており、取引の頻度も2019年の1か月の0.27取引から、ロックダウン中の過去3か月には1か月あたり0.6取引と122%以上に増えていると結論付けている。

エンジェルたちは、より長いランウェイ(長期資金余力)と収益力のあるビジネスを求めているが、目にしているのはバリュエーションの減少とより小規模なラウンドだ。

さらに、調査によればエンジェルたちが2020年に投資する資金額は2019年と比較して61%にとどまると伝えられている。これは、エンジェルたちが「ロックダウンもとで太陽がまだ輝いている間に、干し草を作ろうとしている」ことを示唆していると、調査は結んでいる。

その結果、エンジェルたちが2020年の残りの期間に投じる資金は大幅に少なくなる。

まだ調達を済ませていないスタートアップの場合には、最初のラウンドをできるだけ早く行うべきであることを調査結果は示唆している。

すでに資金を調達しているスタートアップにとっては、この差し迫ったエンジェル資金不足は、今後立ち上がる政府支援のフューチャーファンドなどの組織を、これまで以上に重要なものにするだろうと調査は述べている。

「ロックダウンの中で投資を行っていないエンジェルは、彼らは現金を握ったまま、COVID-19が終わったことを確信できるタイミングを待っている。彼らに接触するための最良の手段は、ソーシャルメディアではなく、紹介や推薦、電子メールもしくはLinkedIn経由だ」と調査は付け加えている。

調査の結果を以下に要約する。

● エンジェル投資家の66.7%はロックダウン中でもまだ投資している
○ そのうちの77%が新しい取引に投資している
○ 既存のポートフォリオへの投資は23%にとどまる

● エンジェルの33.3%はロックダウン中に投資を行っていない
○ 71%が取引のレビューを行っている
○ 29%まはったく投資していない

● ロックダウン中は各取引ごとに17.6%以上多く投資している
○ ロックダウン中の1取引あたりの投資金額は2万3071ポンド(約300万円)
○ 2019年は1取引あたりの投資金額は1万9620ポンド(約260万円)

● エンジェルはロックダウン中に平均1.81回の取引を完了したが、2019年全体では平均3.24回の取引を行っている
○ 2020年3月23日のロックダウン以降、おおよそ3〜4週間ごとに1取引
○ 過去1〜3か月間は約7〜8週間ごとごとに1取引
○ 過去4〜12か月間は3〜4か月ごとに1取引
○ 2019年は約3〜4か月ごとに1取引

● エンジェルのうち、Covid-19が2020年における自身投資能力にマイナスの影響を与えると考えているのは58.1%、変化なしは27.2%、そして14.7%はプラスの影響を与えると述べている

● 調査したエンジェルのうち、51.4%は2020年の投資額は少なくなるだろうと回答
○ その人たちは、2019年と比較した2020年の投資額は61%少なくなると回答

● エンジェルの33.3%はロックダウンの中で投資をしていない
○ そのうちの47.6%はCovid-19の危機が終わったと確信できるまで投資はしない
○ また28.6%は投資再開を計画していない

● エンジェルの64.9%は、対象とするビジネスセクターを変えている。対象となるのはヘルスケア、フィンテック、ゲームなどだ

● エンジェルの54.1%が投資要件を変更した。その中では、より長いランウェイ、収益力、定期的収益が最も重視されている
○ エンジェルの46.9%は投資要件を変更していない

● エンジェルの68%はCovid-19の結果、取引条件における評価額の減少を見ており、35%はより少額の投資ラウンドを見ている。

● エンジェルとの連絡に関しては、72%のエンジェルが推薦や紹介を通じて連絡を取りたいと考えている。
○ 54%が電子メールも受け入れ
○ 32.6%がLinkedIn
○ 30.9%がエンジェルネットワークも可としている
FacebookとTwitterはエンジェルに連絡する手段としては最も効果が薄く、この手段を受け入れるのは3%以下だった

● エンジェルの70%は、SEIS/EIS(英国のエンジェル投資向け優遇税制)が投資決定にとって重要、または非常に重要、もしくは決定的であると答え、そのうち58%は、SEISの上限額が現在の10万ポンド(約1300万円)から20万ポンド(約2600万円)に引き上げられても、これ以上投資しないと答えている。

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(翻訳:sako)

英政府が新型コロナで苦戦するスタートアップ向けの330億円ファンド新設を発表

英国のテックスタートアップエコシステムからのプレッシャーが高まり、英政府は4月19日に多くの議論を経て「Future Fund(未来ファンド)」を新設する計画を発表した。英国の高成長企業、つまりスタートアップが十分な額の投資を受け、新型コロナウイルス危機の間も存続できるようにする。

まず、政府が税金を財源として合計2億5000万ポンド(約330億円)をBritish Business Bankを通じて新ファンドに拠出する。企業が投資として引き出すには、英国に登記された民間企業であること、民間の投資家から同額かそれ以上のマッチング資金を確保していること、過去5年間に少なくとも25万ポンド(約3300万円)を民間から調達していることが条件だ。「投資」の形式はコンバーチブルローンノート(株式に転換可能だが事前に転換価格が決まっていない貸付金)のようだ。

Future Fundは5月に設立される予定で、要件を満たすスタートアップに政府が12万5000ポンド(約1700万円)から500万ポンド(約6億7000万円)を投資する。ファンドの規模は引き続き「検討中」。つまり、将来もっと多くの税金が投入される可能性があるということだ。申請はまずは9月末まで可能だ。

一方、Future Fundのコンバーチブルローンが実際にどう機能するかについては混乱がある。英財務省の初期計画には「ローンが返済されない場合は株式に転換される」と記載されていたため、次の資金調達ラウンドで強制的に株式に転換されるのではなく企業に借入返済の選択権があると考える人もいる。

しかし批判する向きは、返済オプションがあるなら、英国の納税者はアップサイドはほとんどまたはまったく取れずに、ダウンサイドリスクに全面的にさらされると指摘している。理論的には、すばらしい業績を上げた企業は借入返済を選択する可能性が高く、すばらしくない業績の企業(または何とか破綻を免れている企業)は株式への転換を選択することになる。

簡単にいえばコンバーチブルローンノートは強制転換される方が有利だ。政府は、破綻しないスタートアップの株式を割安で取得し、破綻するスタートアップの株式と価値を相殺できる。

当初の議論がお粗末だったり、政府内で多くの人が返済オプションを主張したりしたにも関わらず、財務省の計画を知る情報筋によると、ありがたいことに、おそらく企業側がかなりのプレミアムを払うような特定の場合を除いて、株式への転換が強制されることになりそうだ。そのプレミアムは「100%返済プレミアム」で、借入が転換されずに返済される場合、納税者は利息も含めると2倍以上のリターンを得ることになる。

筆者は英財務省広報局に正式な説明を求めた。返信があり次第この投稿を更新する。なお、財務省が公表したタームシートで骨子の詳細がわかる。

約1000億円の研究開発支援資金

英政府はFuture Fundとは別に「研究開発を重点的に行う中小企業」を対象とする7億5000万ポンド(約1000億円)の支援も約束した。資金は、Innovate UK(イノベートUK)の助成金と融資に関する既存の制度を通じて提供される。

「国の研究開発助成機関であるInnovate UKは、英国の2500の既存支援先の要望に応じて最大2億ポンド(約270億円)の助成金と融資をすみやかに提供する」と英財務省は述べた。

「既存支援先へのサポートを厚くするため追加で5億5000万ポンド(約730億円)を用意した。また現在Innovate UKの資金を受けていない約1200の企業に対し17万5000ポンド(約2300万円)を提供する」

Innovate UKによる最初の支払いは「5月中旬」までに行われるとのことだ。

画像クレジット:Carlos Delgado / Wikimedia Commons under a CC BY-SA 3.0 license.

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(翻訳:Mizoguchi

英国でドローン登録の受付開始、フライヤーIDの取得も

英国のドローン登録の受付が始まった。登録締め切りは今月末だ。英国政府は2年前にドローン登録制度の導入を発表していた。この登録ルールは重量250g〜20kgのドローンやモデル航空機に適用される。

所有するドローンを自分で飛ばしたい所有者は、フライヤーIDを取得するために11月30日までに学科試験を受けて合格する必要もある。誰かが所有するドローンを飛ばしたい人もまた学科試験に合格してフライヤーIDを取得しなければならない。

昨年12月に英国で最も離発着の多い空港でドローンが目撃され、これにより何千人という旅行客が影響を受けた事件以来、英国の大臣は近年ドローン規制の導入が遅いとかなり批判されてきた。今年1月には、ヒースロー空港で未確認ドローンが目撃され、フライトの運航が一時取りやめられた。

ドローンによるガトウィック空港の閉鎖について、警察の調べでは少なくともドローン2機が関わっていたことがこの秋、明らかになった。9月に警察は、捜査対象から96人を除外し、いまだに容疑者を特定できていないと話した。

ガトウィック空港での混乱を受け、政府は空港周辺でのドローン飛行に関するそれまでの法律を厳しくし、禁止飛行区域を1kmから5kmに拡大した。しかし今年導入されるはずだったドローン法案はまだ施行されていない。ドローン所有者に11月30日まで民間航空当局のウェブサイトで機体登録を義務付ける法的措置の導入と同じく、新たなつなぎのルールではドローンを使用する組織にオペレーターIDの登録を求めている。こちらの費用は年間9ポンド(約1300円)だ。

すべてのドローンはまた、オペレーターIDの記載が求められる。この記載は機体のメインボディにはっきりと見えるものでなければならず、地上で読みやすいよう、3mm以上の黒の大文字で書く必要がある。

オペレーターIDを取得する登録者は18才以上が対象で、フライヤーIDを持つ個人のドローンだけを扱う責務がある。フライヤーIDを取得できる個人は13才以上が対象となる。そして、フライヤーIDを取得するオンラインテストは択一式の20問で、16問以上の正解で合格となる。テストを受けられる回数に制限はない。

民間航空当局は、テストに合格するために必要な情報はThe Drone and Model Aircraft Codeにあるとしている。テストを受けたりフライヤーIDを取得したりするのに費用はかからない。

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(翻訳:Mizoguchi)

英国政府が量子コンピューティングの商用化に210億円を投資

英国政府は米国時間6月13日、量子コンピューティングの商用化に向けた取り組みに、1億5300万ポンド(約210億円)を投資することを発表した。これは約1億9300万ドルに相当するが、業界からの多数の追加コミットメントにより、その総額は4億4000万ドル(約476億円)を超える。これにより、英国のNational Quantum Technologies Programme(国家量子技術プログラム)は、2014年の開始時以来、10億ポンド(約12.7億ドル、約1374億円)以上の投資を受けることになる。

米国では、昨年トランプ大統領が、量子コンピューティングへの12億ドル(約1300億円)の投資を行う法案にサインし、英国が離脱を試みている欧州連合(EU)も同様の規模の計画を開始した。確かに、この発表をBrexit(英国のEU離脱)の文脈で見ないようにすることは難しい。この離脱は英国を欧州の動きから切り離してしまうからだ。もちろん英国は基礎的なコンピューター科学研究に長い歴史を誇っており、それがこうした動きを行わせていることは間違いない。

「このマイルストーンは、『量子』が英国では、もはや実験段階ではないことを示しています」と本日の発表で語ったのは、英国の科学大臣クリス・スキッドモア(Chris Skidmore)氏だ。「私たちが、量子科学と技術で世界の先進国の1つになるにつれて、政府や企業による投資は成果をあげることになるでしょう。今産業界は、かつては未来的で非現実的な夢だったものを、人生を変える製品へと変えつつあるのです」。

この英国のプログラムは特に、地元の量子産業を育成することができる研究に注目している。これを行うために「Industrial Strategy Challenge Fund」(産業戦略チャレンジファンド)が1億5300万ポンド(約210億円)の資金を、研究開発コンペティションを通じて新製品やイノベーションに投資するだけでなく、業界が主導するプロジェクトにも投資する。それはまた投資アクセラレーターとしても機能し、ベンチャーキャピタルたちに、量子関連企業のアーリーステージやスピンアウト、そしてスタートアップに対する投資を促したいと期待している。

「単に量子技術が繁栄するための環境を作ることだけが目的ではありません。私たちは、コンピューティング、センシング、イメージング、コミュニケーションといった幅広い技術に投資しています。そしてこのプログラムの期間中に、革新的な商品やサービスが、実験室での思索から現実の商品へと変わっていくことを期待しているのです」と私に語ったのは、UK Research and Innovationの量子技術担当チャレンジディレクターであるロジャー・マッキンレー(Roger McKinlay)氏だ。

「この技術は新しいものですが、アプローチは試行されテストされています。資金の多くは、業界主導のコンソーシアムで競争的に選抜された共同研究開発プロジェクトに投じられます。また、フィージビリティスタディ(実現可能性検証)にも資金を投入し、投資アクセラレーターを運営して、新しいテクノロジと革新的なアイデアのパイプラインを確保します。定評のある企業も見逃されていません。野心的な投資とスケールアップ計画を持つ会社資金が割り当てられるように考えられています」。

政府にとって、量子コンピューティングは明らかに多くの経済的機会を切り開くが、その一方で、国家安全保障上の関心も登場する。例えば、長いコヒーレンス時間(*)をもつ汎用の量子コンピューターが現実のものになれば、現在の暗号化方式は容易に打ち破られてしまう。それは本日の発表が意図していることではないが、もちろん世界中の政府が考慮していることである。

(*)量子重ね合わせ状態が持続する時間:量子コンピューターの計算能力に関係する

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:sako)