CoralやDNX、グロービスなどVC数社が追加投資用ファンドを組成し投資先の成長後押しへ

VCが有望な投資先に対して手厚いサポートをするべく、追加投資専用のファンドを組成する動きが国内でも増え始めている。

先日グロービス・キャピタル・パートナーズが大手機関投資家を中心に37.3億円で新ファンドの一次募集を完了したことをアナウンスしたのに続き、本日4月13日にも2つのVCが新たな追加投資用ファンドを組成したことが明らかになった。

1社はシードVCのCoral Capital、もう1社がB2Bスタートアップを中心に日米で投資をしているDNX Venturesだ。前者は約27億円で新ファンドの一次募集を完了したことを、後者は約40億円の新ファンドの組成を完了したことを発表している。

シードから入って手厚いサポートを

Coral Capitalの基本スタイルはシードからシリーズAの段階で投資をして、その後積極的にフォローオン投資をするというもの。これまで1号ファンド(約38億円)だけでも43社に投資を実行していて、4億円までを上限に追加投資も行ってきた。

代表案件となっているのがSmartHRだ。Coral Capitalではシード期以降もSmartHRを手厚くサポートするための1つの取り組みとして専用のファンド(SPV)を組成。そうすることで同社のシリーズBCラウンドでも追加投資を実施し、合計で20億円以上を投資している。

「(SmartHRへの投資を通じて)シードから入って、投資先のその後の成長に合わせて継続的に支援するという挑戦のPMFができた。実際に1回やってみて、専用ファンドを作ればレイターステージに近づいても支援し続けられることがわかった」(Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Riney氏)

James氏によると1号ファンドの中からSmartHRに続くような有望案件が徐々に出始めているそう。「それらの会社のために毎回SVPを作るよりは、あらかじめある程度まとまった金額を用意しておく方がよりスムーズに支援ができる」との考えから、今回追加投資用のグロースファンドを設立するに至ったという。

グロースファンドの設立によって1社あたりの投資額の上限を拡張し「イメージとしては1社あたり5億円〜15億円を投資していく」計画。同ファンドでは1号ファンドの投資先のみを対象に追加投資を行い、新規の投資や2号ファンドの投資先への追加投資は引き続き現在運用している2号ファンド(約60億円)から実施する。

なお今回のファンドでは国内大手機関投資家や事業会社など既存LPのみから資金を集めているとのこと。同ファンドと1号・2号ファンド、そしてSmartHRのSPVなどを含めるとCoral Capitalの運用総額は約150億円となった。

国内SaaS中心に既存投資先の大型調達を支援

専用ファンドによって有望な既存投資先の成長を後押ししようという考えはDNX Venturesも同様だ。特に同社が積極的に投資をしているSaaS領域は近年数十億〜100億円規模の資金調達が目立ち、大型化が進んでいる。

「マネーフォワードやSansan、freeeなど大型調達をしながらARRが積み上がるまでは上場せず、プライベートカンパニーとして成長し続けるやり方が国内でも定着し始めている。自分たちの投資先でも同じような動きが今後予想される中で、(ステージが進んでも)しっかりとフォローオンできるように追加投資専用のファンドが必要だと考えた」(DNX Venturesマネージングディレクターの倉林陽氏)

新ファンドの対象となるのは2号ファンドから投資をした日本企業だ。倉林氏の話ではかなり厳選した上で1社あたり数億円〜十数億円の投資を行っていく計画とのことで、100億円を調達したフロムスクラッチのシリーズDラウンドなど、新ファンドからすでに数件投資を実行しているという。

フロムスクラッチのほかオクト、カケハシ、toBeマーケティング、UPWARDに新ファンドから投資済みとのこと

「(レイターステージにもなると)もともと想定していた1社あたりの投資額をはるかに超えてくるようになるが、それでもいい投資先であればできる限りその要求に応じたい。既存投資先が継続して投資をするということは、新規の投資先にとってもいいメッセージになる」(倉林氏)

新ファンドには国内大手機関投資家2社のほか、アドウェイズ、HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND、フジ・メディア・ホールディングス、みずほ銀行、三井不動産、三菱UFJ銀行、米子信用金庫などがLPとして出資。同ファンドを合わせるとDNX Venturesの合計運用総額は約580億円となる。

新型コロナウイルスの影響は?

タイミング的にも気になるので新型コロナウイルスとの関連についても両社に聞いてみたが、前提として「(新ファンドは)それ以前から構想していたもので、コロナウイルスの影響を受けて組成したわけではない」という。

ただし結果的にコロナの影響で大型調達が難しくなったり、調達が円滑に進まなくなったりする既存投資先を支援できるのではないかという話もあった。

「今後大型の調達が難しくなる可能性は高い。実際に足元を見ていても、当初二桁億円を調達する予定だったが数億円しか集まりそうにないといった話はある。(既存の投資先であれば)今までの上限枠以上の金額を投資できるようになったので、今回のファンドを通じて大型調達も積極的にサポートしていきたい」(Coral Capital創業パートナーの澤山陽平氏)

「調達環境が大きく変わってきていることは間違いない。自分たちの投資先でも上半期に調達が必要な会社もあるが、スタートアップはバリュエーションを強気で設定しづらくなるほか、多くの投資家がまず既存投資先の支援に時間を使うようになるため新規の案件はかなりセレクティブになる。全ての案件を支援できる訳ではないが、(1社あたりの上限金額が上がったことで)投資先の調達力を担保し、大型のラウンドを支えることができるようになった」(倉林氏)

両社が言及していたのが、今後特に事業会社が積極的に投資をするのが難しくなるのではないかということ。近年は国内でも新規のCVCの設立などが目立ち、調達関連の取材をしていても事業会社の名前を聞くことが増えていたので、事業会社の状況が変わってくるとバリュエーションや調達額、スタートアップと投資家とのパワーバランスなどにも影響が出てくるかもしれない。

「資金調達環境への影響はステージによっても異なる。シードやプレシリーズAは長いスパンで見ている案件が多いので、そこまで景気に左右されにくい。実際に自分たち自身も新規投資のペースは変わっていないし、シリコンバレーの状況を聞いていても状況は近い。レイターステージに関しては交渉がシビアになる可能性はあるが、日本でもミドルレイターのVCが増えてきているので、投資自体は引き続き実行されると考えている。ただしそのような状況下では二極化が加速し、有望なスタートアップに資金が集中していくのではないか」(澤山氏)

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TechCrunch Japan

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