【再演】新人SEO担当者に伝えたい、都市伝説に惑わされない正しいSEO

 

 概要

(去年の12月に行った本セミナーが、好評につき再演することになりました。)

ネット上には今も昔もSEOの都市伝説が溢れています。

例えば下記のようなものです。

「アクセスが少ないページは低品質コンテンツなので削除した方がいい」

「Google広告を出していれば、上位表示しやすくしてもらえる」

「有名な会社はGoogleが優遇しているから順位が下がることはない」

中には逆効果の内容もあるため、SEO担当者は都市伝説が嘘か本当か見極める力が必要です。

しかし、新人SEO担当者には見極めが難しく迷うこともあると思います。

そこで、今回のセミナーでは新人SEO担当者向けに、どうすれば都市伝説が嘘か本当か見極めることができるかをお伝えいたします。

  • SEO担当者になったけれど、何からはじめたらいいかわからない
  • SEOを勉強し始めて、半年以内の方
  • 新人が入社したので、初心者向けのSEOセミナーを受けさせたい

上記に当てはまる方はぜひご参加下さい。

「初心者向けの内容」になるため、中級者以上の方には物足りない内容になりますので予めご了承ください。

目次

  • そもそもSEOって何?
  • 検索に対する Google の方針
  • 本当か?嘘か? SEOの都市伝説

※当日までに内容が変更になる可能性がございます。

登壇者

谷藤 剛
go tanifuji

インハウスSEO担当を経て、アイオイクスに入社。

SEO歴は11年。

SEOコンサルを行う傍ら、SEOの研究や実験を行う。

最短で上位表示をさせる実験を行った結果、たった2日間で上位表示に成功する。

このような実験内容や最新のSEO情報をオウンドメディア(SEO Japan社員ブログ)を通じて情報発信を行っている。

【保有資格・認定】

・中小企業診断士

・米国semrush社 テクニカルSEO試験合格

・米国CXL社 テクニカルSEO試験合格

Twitter:@go_tanifuji

セミナー詳細

日時

2022年1月21日(金)13:00~ 14:00

タイムテーブル

  • 13:00~13:40:セミナー
  • 13:40~13:45:休憩
  • 13:45~14:00:質疑応答

※ご質問がなくなり次第、終了となります。

参加人数

80名まで
(応募者多数の場合は、抽選を行います。)

対象となる方

  • 企業の新人SEO担当者
  • 今後SEOへの取り組みを検討されている企業の方

※恐れ入りますが、同業他社の方・個人の方・広告代理店の方の応募はご遠慮ください。

参加費

無料

会場

Zoomによるオンライン配信となります。
当選された方には、視聴可能なリンクをお送りいたします。

募集期間

1月20日(木)17:00まで

申し込みフォーム

お申し込みは、以下のフォームよりお願いいたします。
当選された方には、後日視聴用のURLおよびアンケートをお送りいたします。

プライバシーポリシーをご覧の上、ご応募ください。

 

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インドネシアの魚やエビの養殖業者向けサービスeFisheryが約104億円調達、アグリテックとして世界最大規模

インドネシアのeFishery(イーフィッシャリー)は現地時間1月10日、アグリテックのスタートアップとしては世界最大規模の資金を調達したと発表した。魚やエビの養殖業者向けに給餌機器やソフトウェア、融資を提供する同社は、Temasek、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2、Sequoia Capital Indiaが共同でリードしたシリーズCラウンドで9000万ドル(約104億円)を調達している。復帰投資家のNorthstar Group、Go-Ventures、Aqua-Spark、Wavemaker Partnersも同ラウンドに参加した。

調達した資金は、プラットフォームの拡大、そして中国やインドなど養殖業における上位10カ国に進出するのに使用される予定だ。

eFisheryの製品には、エビ養殖業者がオペレーションを監視できるeFarmや、魚養殖業者向けに同様の機能を提供するeFisheryKuといったソフトウェアがある。融資商品にはeFundがあり、これは資材や原材料といったものを購入するための後払いサービスなどのために養殖業者と金融機関をつなげる。これまでに7000人以上の養殖業者がeFundを利用し、承認された融資総額は2800万ドル(約32億円)超だという。

その他の製品にはスマートフィーダーなどがあり、現在インドネシアで3万人以上の業者が利用している。

ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズの投資ディレクターであるAnna Lo(アンナ・ロー)氏は「インドネシアは世界最大の水産物生産国の1つであり、養殖業界は世界の増大する人口に食料を提供するという大事な役割を果たすと信じています」と声明で述べた。

最近、多額の資金を調達した他のインドネシアのアグテックスタートアップには、マーケットプレイスのTaniHubEden Farm「海から食卓へ」企業のAruna、ソーシャルコマーススタートアップのChilibeliなどがある。

画像クレジット:Wokephoto17 / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi

筑波大学と神戸大学、世界で初めて1万個以上の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションを「富岳」とOSSで実現

筑波大学と神戸大学、世界で初めて1万個以上の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションを「富岳」とOSSで実現

光と物質の相互作用のイメージ。多数の原子からなる物質(SiO2)の表面に、パルス光が入射し、光のエネルギーが表面の電子やイオンに移行する様子を表している

筑波大学と神戸大学は、スーパーコンピューター「富岳」とオープンソースソフトウェア(OSS)「SALMON」(サーモン)を用い、1万3632個の原子を含むナノ物質の光応答、つまり光と物質の相互作用の第1原理計算に成功したと発表した。1万個を超える原子を含む物質では、世界で初めてとなる。

これは、筑波大学計算科学研究センター神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻からなる研究グループによる、物質に光を照射したときの光科学現象を解明するための研究だ。物質に光をあてると、振動する光の電磁場により、物質中の電子とイオンが揺すぶられる。この電子とイオンの運動が光の伝搬に影響し、光の屈折や反射を生む。このときの、光の電磁場、電子、イオンの運動は、物質科学の第1原理計算法という、物質に含まれる原子の数や種類から量子力学に基づいて電子の状態や物質の構造を調べる方法によって正確に知ることができるのだが、それにはスーパーコンピューターの力が必要となる。

また光と物質の相互作用では、様々な物理法則が関わっているため、光の伝搬、電子とイオンの運動は、それぞれ異なる方程式を用いて計算しなければならない。そこで研究グループは、同グループが開発した、これらの方程式を同時に解き進めることができるSALMONを使用した。富岳では全体の1/6にあたる2万7648ノードを使用したが、この計算のために高度なチューニングを施した。

このシミュレーションでは、厚さ6nm(ナノメートル)のアモルファス状のガラス(SiO2)に、非常に強くて短いパルス光を垂直に照射した。すると、ガラスは不透明になり、光の吸収が起きたことが認められた。また反射波や透過波では、入射光の振動数の数倍から数十倍の振動数を持つ高次高調波の発生も確認された。このことから、パルス光で起きる超高速、非線形現象を計算科学によって「実験の状況そのままにシミュレーション可能」であることが確かめられたという。

ここで使われたSALMONは、光科学実験を「丸ごと計算機の中でシミュレーションする数値実験室の役割」を果たすという。実際の実験では測定が難しいミクロな空間での電子やイオンの運動がもたらす現象の解明に役立つとのことだ。今後は、SALMONが世界標準のソフトウェアとして広く利用されることを目指すと研究グループは話している。

 

Y Combinatorが投資規模を拡大、育成対象スタートアップ1社につき約5760万円提供へ

スタートアップアクセラレーターのY Combinator(YC、Yコンビネータ)は米国時間1月10日朝、プログラム条件を更新し、参加企業により多くの現金総額を提供することを発表した。同グループはこれから、バッチに参加するスタートアップに50万ドル(約5760万円)を投資していく。

この資金は、2つの異なる形態で提供される。1つ目は、よく知られているY Combinatorの株式取引で、YCはスタートアップに12万5000ドル(約1440万円)を出資し、スタートアップ企業は7%のエクイティをYCへ付与する。これに加えて「最恵国待遇(MFN、Most Favored Nation)」の条項が付いた上限なしのSAFEで37万5000ドル(約4320万円)を提供する予定だ。

「上限なし」とは、37万5000ドルのSAFEが株式に転換される際の上限価格が設定されていないことを意味し「最恵国待遇」という文言は、後に株式に転換された際に、Y Combinatorが他の投資家と同様に有利な条件を得られることを保証するものだ。

Y Combinatorがスタートアップ企業により多くの資金を提供していくという発表は驚くべきことではない。むしろ、同グループがその条件を更新するのにこれほど時間がかかったことの方が大きな驚きだ。それでも、50万ドル(約5760万円)という金額は、プレシードやシードステージの投資市場が近年向かってきた方向、即ちより大きな金額をより高い価格で投資する傾向に沿ったものだといえる。

この条件変更によって、アクセラレーター自体が投資先企業のアップサイドを維持することが少なくなるわけではない。それどころか、Y Combinatorの条件が更新されたことで、Y Combinatorの門をくぐった企業への伝統的な出資の代わりにというわけではなく、それに加えてより多くの資本を提供することになり、防御的な意味合いが強くなったといえるだろう。これでYCは、初期の株式投資を歴史的に有利な価格帯で実施しながらも、より大きな小切手で優秀なアーリーステージのスタートアップを集めることができるかもしれない。

Y Combinatorは、スタートアップ市場の進化に合わせて組織としてのあり方を変えてきた。対面式の仕事を重視していたY Combinatorは、パンデミックの際にはリモートになった。その結果、TechCrunchの計算によると、他の国や市場から参加するスタートアップが増えた。また、リモートでのデモデイを行うようになった。サンフランシスコからクルマで移動して、イスの数が足りない大きな部屋に行く必要がなくなったことをTechCrunchでも感謝している。

Y Combinatorの更新された条件に、ライバルのアクセラレーターがどのように反応するのか、もし変化があるとすれば興味深いところだ。

画像クレジット:

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】パンデミックで再び変化したCESを振り返る、テックの進化に合わせて家電ショーの進化も必要だ

CES開催までの数週間、私たちは難しい決断を迫られた。年末年始の旅行シーズンに向けて、オミクロンの感染者が全米で急増したため、飛行機をキャンセルして戦略を練り直したのだ。そのため、年末の数週間は混乱した。しかし、CESが毎年第1週に開催され続ける限り、ハードウェアに関する記事を生業とする私たちは、今後どちらにしても年末年始にあまり休みを取ることはできないだろう。

確かに、数字を見てこの決断に至ったのは我々だけではない。Engadget、The Verge、PCMag、CNETなど、2022年はリスクに見合うリターンが得られないと判断した企業が続々と登場した。決して簡単な選択ではなかった。CESの仕事は大変で、ストレスが多く、時には悲惨なこともあるため、私たちもよく不満を漏らす。しかし、CESは長い間、その年のトレンドを直接見て、触ることができる貴重な機会なのだ。

それは、近い将来やってくるコンシューマー向けテクノロジーと空想的なSFが混在する魅力的なイベントで、エウレカパークのスクラムの中で業界のリーダーと会ったり、スタートアップと交流したりする機会でもある。風邪やインフルエンザにかかるかもしれないし、スーツケースいっぱいに洗濯物や業界グッズ(コミック業界の友人たちは、愛情を込めて「the con crud(コン・クラッド)」と呼んでいる)を詰め込んで持ち帰ることになるだろうが、それは真冬のコンベンションセンターに大勢の人が詰め込まれた結果だ。

もちろん、パンデミック時には、費用対効果の分析が大きく変わる。現在までに、米国内だけで5700万人の感染者が報告され、83万1000人が死亡している。そしてもちろん、後者の数字だけを見ていると、新型コロナウイルスが人体に与える永続的な影響などは考慮されていない。また、休暇を利用した旅行が感染者の総数に与える影響も、まだ十分に見えていないようだ。結局のところ、私たちにとって意味のある決断はただ1つ、CESをリモートで取材し、再び取材することだったのだ。

CESに参加することを選んだ人たちを恨むつもりはない(確かに、比較的参加者の少ない展示会について記録することが、どれほど魅力的なのかを考えていた)。 パンデミックも3年目になり、このウイルスが何であるか、どのように広がるかについて、前回CESが直接開催された2020年1月よりもはるかによくわかるようになった。今はワクチンやブースターもある。ショーの運営団体であるCTAは、義務づけやマスクのルールなどを規定した。しかし、私たちだけで決断したわけではなかった。

参加を見送ったメディアに加え、多くの大手企業が訴訟に参加した。その不完全なリストには、GM(ゼネラルモーターズ)、Google(グーグル)、Lenovo(レノボ)、Intel(インテル)、T-Mobile(Tモバイル)、AT&T、Meta(メタ)、Twitter(ツイッター)、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Peloton(ペロトン)、TikTok(ティックトック)、Mercedes(メルセデス)、BMW、Velodyne(ベロダイン)、IBM、Proctor & Gamble(プロクター・アンド・ギャンブル)、OnePlus(ワンプラス)、Pinterest(ピンタレスト)などが含まれている。数週間にわたり、CESから発信される主要なニュースは、有名企業の辞退についてだった。テクノロジーカンファレンスの凱旋となるはずだったCTAが、このような報道を期待していたわけではないことは、ほぼ明らかだろう。

CTAの会長であるGary Shapiro(ゲーリー・シャピロ)氏は、クリスマスの日にLas Vegas Review-Journal紙に「CESはラスベガスで継続されるだろうし、継続しなければならない」という見出しで、激しい論説を寄稿した。もちろん、シャピロ氏のいう「go on(継続)」とは、直接会うという意味である。イノベーションは我々の未来に必要であり、そのイノベーションを促進するために対面式のCESが必要である、という一線を引いたのである。シャピロ氏は、CESの辞退者を「事件や有名企業のレンズを通してしか語れないマスコミや評論家の太鼓持ち」と一蹴し、直接参加しないことを選んだ人たちに同情を示した後、対面式のイベントを中止する考えを「恐怖の中で生きること」と同等だと表現した。

CTAのような組織はコンシューマー向けテクノロジーにとって重要であり、CESのようなショーはその存続のために必要である、という現実的な議論も可能だったはずだ。しかし、この論説は、CESのようなイベントに対して、ありえないほど高いハードルを設定した。バーチャルカンファレンス全盛の時代にCESは必要なのか、という疑問はすでにあっただろうし、このような論説で語られるような、人生を変えるような期待を抱かせることができなかったことは、その疑問をさらに深めるにすぎない。

実は、テクノロジーというものは、ほとんどが反復的なものだ。CESのようなイベントでは、少なくとも理論上、市場に出ることを前提とした製品に焦点が当てられるので、なおさらそうだ。つまり、毎年目にする製品のほとんどは、少し速くなったプロセッサーや、少し解像度が高くなったスクリーンなのだ。私は長い間この業界を取材してきたが、毎年革命に期待していると、失望する人生を送ることになると断言できる。

これは、私たち全員が本質的に認識していることだが、多くの流行語(「メタバース」という言葉を目にするたびに、会場のホール1から出られるかどうか試してみて欲しい)やHyundai(現代自動車)のような空想的なSFのプレゼンテーションによって見えなくなってしまっているのだ。最終日に向けて、私は午前中、このショーで「人生を変える」と思えるような何かを最後に見たのはいつだっただろうと考えていた。しかし、今のところ、そのようなものは見つかっていない。

結局のところ、CESが始まると同時に、出展を見合わせた企業の話題が実際のCESのニュースより多くなるのではという懸念は払拭された。CESを取材するメディアは、多くの場合、遠隔地からではあるが、CESを取材した。これまで多くのCESに直接参加してきた身としては不思議な体験だったが、2021年のオールバーチャルショーで予習していたことでもある。

しかし、その結果はやはり賛否両論なものだった。ありがたいことに、オンライン版のショーは、2021年よりも混乱が少なかった。プレスカンファレンスは、プラットフォーム上でより見やすくなった。しかし「真の発見」という点ではまだ問題があり、それがオンラインに移行したときに結局不足している点だ。突然、エウレカパークでおもしろいスタートアップに出くわす機会が、底なしの受信トレイに投げ込まれるただのメールへと姿を変えてしまうのだ。

これは、私がCTAに同意する点だ。私たちが対面式のイベントから完全に離れた場合、プラットフォームを持たないスタートアップ企業が最終的に最も多くを失うことになってしまうのだ。そのため、私も、直接会って話をする必要性を感じている人たちに確実に共感することができる。それに、デポジット代やホテル代、飛行機代は、GMやGoogleよりも、新しいスタートアップ企業の収益に大きな影響を与えるという事実もある。

その数週間の間に、私は、スタートアップ企業から、彼らもまた出席しないことを選択したというメールを何通も受け取った。また、参加する企業からも発表を延期するというメッセージが届いた。製品が発表されても、それをカバーする人がいなければ、それは本当に発表と言えるのだろうか?1年で最も忙しい週に製品を発表することに疑問を持つ人は多く、その疑問は、それをカバーする人がいないとなると、さらに顕著になる。このようなことから、従来はCES後の数週間が不作であったのが、2022年はそうでもなくなりそうな気がしている。

CESの真実は、常に進化しているということだ。間近で見るのは難しいが、一歩下がって見ると、そのマクロなトレンドがはっきりと浮かび上がってくる。CES 2012の最大のニュースを振り返ることは、そうしたトレンドを追う上で興味深い訓練となった。中でも、モバイル中心の展示会から脱却し、自動車関連の展示が大きな比重を占めるようになったことが大きな特徴だ。今やショーのかなりの部分を占めている。

CTAの細則には「世界的なテクノロジーイベントの正式名称は『CES』です。このイベントを指すのに、『Consumer Electronics Show』や『International CES』は使わないでください」と記されている。このように、Consumer Electronics AssociationからConsumer Technology Associationへの変更も、このショーがそれまでの枠を超えて成長しようとしていることを明確に示している。そして、正直なところ、その試みは成功していたと言っていい。

13年前、私は「CES 2009、来場者数22%減」という記事を書いた(この記事は長くなってしまったが)。その2012年の回顧録で述べたように、その年のショーは最高の参加者数だった。この成長はその後数年間続き、2019年にピークを迎えることになる。

以前にもCESは死んだと宣言した人がいる。実際、彼らは何度もそう言ってきた。しかし、CESを成長させ続けるということは、進化し続けるということであり、ショーのあり方に関する期待の変化に対応することでもあるのだ。2022年、私は友人や同僚に会うことができなかった。エウレカパークのホールを歩いたり、コンベンションセンターの向かいにある、金曜と土曜に女優のPia Zadora(ピア・ザドラ)がショーを行う暗い小さなイタリアンレストランで食事をしたり(ラスベガスは実に不思議なところだ)することもできなかった。

しかし、今週は毎晩10時(東部標準時)には家でベッドに入れているのも嫌じゃなかった。また、2022年のショーに直接参加しなかったことで、私たちや他のサイトの取材が必ずしもうまくいかなかったと言えるかどうかもわからない。これまで述べてきたように、私のCESの楽しみ方は他の参加者とは違う。もし、このパンデミックが終息したら、またいつか行ってみたいと思っている。しかし、1月初旬の寒い冬の日に、ミラージュでiPhoneケースを見ている自分がいないとしても、それについてもそれほど怒ることはきっとないだろう。

画像クレジット:Alex Wong / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Akihito Mizukoshi)

Mozilla、強い反発を受けて暗号資産による寄付の受付を一時停止

Mozilla Foundationは、多くの人たちからの反発により、暗号資産で寄付を受け取ることを休止する。反対派の中には、Mozilla Projectの創始者もいる。

Firefoxブラウザーの開発を統括している同財団は米国時間1月6日に、暗号資産の環境への影響を議論し、暗号資産による寄付に対するこれまでの方針が「気候に関する同団体の目標に合致しているか」を検討していることを認めた。

財団はツイートのスレッドで「ウェブ技術の分散化は私達が探求すべき重要な分野であり続けるが、暗号資産による寄付に関しては、私たちがその受け入れを始めてから以降、多くのことが変化しました」と述べ、今後その検討過程のアップデートを提供すると約束している。

財団が反発にあい始めたのは、Bitcoin(ビットコイン)といったさまざまな暗号トークンでこの非営利団体に寄付をしようとする人びとを、彼らが歓迎するようになってからだ。

そのツイートに応じてMozillaの創始者であるJamie Zawinski(ジェイミー・ザウィンスキー)氏が、財団の態度に失望感を表明した。彼は「プロジェクトに関わる誰もが、この惑星を灰燼に帰すネズミ講詐欺と提携するこの決定を、心底恥じ入るべきである」と激しい言葉で言った。

このブラウザーのエンジンであるGeckoを創ったPeter Linss(ピーター・リンス)氏も会話に加わり、Mozillaに対し「前の方が良かった」と語った。

メジャーな企業や組織が、環境への懸念でビットコインに反発したり、距離を置いたりすることは、これが初めてではない。2021年5月にはTesla(テスラ)が、車両の代金をビットコインで受け取ることを保留にしたが、それは受け入れを表明してからわずか数カ月後だった。

Elon Musk(イーロン・マスク)氏によると同社は「ビットコインの採掘や取引で化石燃料、特に石炭の使用量が急増していることを心配している」そうだ。数週間後に同氏は、暗号資産の採掘に使われるエネルギーの50%が再生可能エネルギーになったら再びビットコインを受け入れるだろうと述べた。

ビットコインの環境負荷をめぐる疑問は、さまざまなトークンの作られ方と関連がある。ビットコインとイーサリアムは、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)と呼ばれる仕組みを利用して自分たちのネットワークを動かし、各通貨の新しいブロックを作り出している。その計算方法は、数年にわたって、ネットワークの成長とともに複雑化する設計であり、そのパズルを解くことに何千ものGPUを昼夜不休で動かす企業の業界を生んでいる。

Cambridge Centre for Alternative Financeの推計によると、ビットコインの採掘は毎年、約148テラワット時のエネルギーを消費している。多くの暗号資産支持者はしかし、そんな所見に反論したり、暗号資産の存在意義を主張したりしている。

数カ月前には、この業界に大きな分裂が出現してきた。批判者たちは、Web3の基本的な価値命題に異議を唱えている。しかしビットコインを支持しているTwitterの創業者Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏は、VCたちがWeb3のプロジェクトからほとんど利益を得ていないという説を却下した

このような議論が続く中、多くの企業がWeb3の野心を小さくしている。Discordは11月、暗号資産とNFTの探求に反対する多くの人々の反発を受け、一時停止した。ゲーム会社GSC Game Worldは、複数のゲーマーから強いフィードバックがあったため、発売予定のタイトル「STALKER 2:Heart of Chernobyl」にNFTを搭載する計画を中止している。

画像クレジット:David Tran/Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米雇用統計の不振を受け、ハイテク株は小幅な上昇を続ける

更新:この記事を掲載してから、ハイテク株は上昇を止め、NASDAQと我々が追跡しているソフトウェア銘柄はともに下落した。少し遅れて、完全雇用への懸念とそれによる金利上昇が市場でのセンチメントバトルに勝利したようだ。

ここ数カ月、経済ニュースとテクノロジー銘柄の価値の関係は、楽しいパズルだった。

例えば、雇用統計が好調であれば、一般的に経済が楽観的になり、その結果、テクノロジー株も上昇すると考えるかもしれない。また、経済指標が悪いと、一般的な景気悲観論につながり、その結果、テクノロジー株は下落すると思うかもしれない。なぜなら、テクノロジーは現在の経済の大きな部分を占めているからだ。

ハハ、違う。まあ、部分的にはそうだが、そうでもない。

米国時間1月7日の雇用統計に向けて、市場にはある恐ろしい空気が漂っていた。つまり、米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年に、おそらく債券買い入れプログラムの終了、バランスシートの圧縮、金利引き上げなどを通じて金融引き締めに乗り出すというものだ。FRBが金利を引き下げる結果、債券やその他の低リスク資産の魅力が増すことになる。同時に、リスク調整後のリターンで考えると、金利上昇により、高価なハイテク株の魅力が薄れると予想される。

このような力学からして、力強い雇用統計ではハイテク株は下がり、雇用統計が冴えなければハイテク株は上がると予想できるかもしれない。それはほとんど現実のもとなった。1月7日に発表された2021年12月雇用統計は予想を下回り(19万9000人の新規雇用、予想の約半分)、ハイテク株は当初売られた。しかし、取引が始まると、NASDAQは0.34%上昇し、ダウ平均はわずかに下落したが、ソフトウェア株は約0.8%上昇した。

なぜハイテク株の価値が下がり、そして跳ね返ったのか。

事実上、完全雇用に達したという懸念がある。つまり、12月の雇用者数が伸び悩んだのは、雇用側の需要不足だけでなく、労働者不足も一因だったということだろう(もちろん、世界的なパンデミックが続いていることも、この動きの一因だ)。

そして、雇用統計の悪化は、経済が予想以上に好調(完全雇用に近い)であることを示すという奇妙な状況に陥っていて、賃金と物価が上昇し続け、FRBが利上げに踏み切ることを示唆している。そうなると、前述のように、高リスクの資産が売られ、低リスクの資産がより魅力的になることを意味する。にもかかわらずテック株が少し上がっているのは、ここ数週間で急激に売られたハイテク株にとって、この低調な統計がプラスに働くと市場が判断しているからだろう。あるいは、冴えない雇用統計は、強い雇用統計よりもFRBを刺激しない、と判断しているのかもしれない。

というわけで、今日のハイテク株は高く、この業界で働く人はみんな、ちょっとした富を手に入れたことになる。

画像クレジット:Jorg Greuel

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

ニューヨーク・タイムズがスポーツメディアThe Athleticを約637億円で買収

The New York Times Company(ザ・ニューヨーク・タイムズ・カンパニー)が、スポーツメディアのThe Athletic(ザ・アスレティック)を5億5千万ドル(約637億円)で買収することで合意したとThe Informationが報じている

数カ月間、憶測が飛び交っていたこの買収では、一時はThe AthleticのCEO、Alex Mather(アレックス・マザー)氏がAxios(アクシオス)に合併を持ちかけたが、実現には至らなかった。今回の買収で、The New York Timesは購読ビジネスを強化しようとしている。同社の購読者数は2021年に800万人を突破し、2025年までに購読者数を1000万人に増やすという目標を上回る勢いだ。

2016年に設立されたThe Athleticは、2021年11月時点の購読者が120万人で、購読費は年間約72ドル(約8300円)だ。しかし、The Athletic単体ではまだ黒字ではなく、2023年まで黒字を見込めていなかった。同社は600人のスタッフを抱え、2019年から2020年にかけて1億ドル(約115億円)近くを費やしたが、同時期の収益は約7300万ドル(約84億円)にとどまった。

The New York TimesによるThe Athleticの買収は、多くの媒体が統合を経験している最近のメディア業界の傾向と一致している。直近では、BuzzFeed(バズフィード)が上場前にComplex(コンプレックス)とHuffPost(ハフポスト)を買収した。しかし、メディア関係者はこうした潮流の変化に懐疑的だ。例えばBuzzFeedがHuffPostを買収した後、190人のHuffPost社員のうち47人を解雇し、HuffPostカナダ部門をすべて閉鎖してさらに23人が職を失った。パンデミック発生時、多くのメディア企業同様に、The New York TimesThe Athleticも従業員を解雇した。

パンデミックの前から、この業界では常に脅威となっていた突然の解雇や給与カットから身を守るために、組合契約を求めるメディア労働者が増えている。さらに過激なアプローチをとるジャーナリストもいる。2019年末に、Deadspin(デッドスピン)のスタッフ全員が経営陣への不満から同サイトを辞め、労働者が所有するメディア企業Defector(ディフェクター)を立ち上げた。Defectorは初年度に320万ドル(約3億7000万円)の収益を上げ、運営コストは300万ドル(約3億4000万円)だった。

The Athletic買収に比べるとはるかに小規模な取引だが、The New York Timesは2016年に製品レビューサイトのWirecutter(ワイヤーカッター)を3000万ドル(約34億円)で買収している。しかし、ここ数カ月、Wirecutterと親会社の間には大きな緊張があった。2年間にわたるスローペースの組合契約交渉の末、経営陣が感謝祭前に合意しなかったため、Wirecutterのスタッフはブラックフライデーとサイバーマンデーを含む5日間連続のストライキを実施した。その後、The New York Timesがストライキ中の給与を差し止めたことを受けて、Wirecutter組合は全米労働関係委員会に不当労働慣行の苦情を申し立てた。12月14日までに、The NewsGuild of New Yorkが代表を務める組合はThe New York Timesと合意に達し、賃上げと労働条件の改善を確保した。しかし、The New York Timesは、反組合的な行動に対する監視の目を今も向けられている。

買収のニュースが流れた後「やあ、@TheAthletic、私たちの友人@nyguildに会って欲しい」とWirecutter組合はツイートしている。

The Athleticの購読がどう変わるのか、買収によってスタッフがどのような影響を受けるのかについては、まだ言及がない。

画像クレジット:samchills / Flickr under a CC BY 2.0license.

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

Tencentは投資を続けつつも緊密な提携企業の株式を売却、中国政府のご機嫌とりか

Tencent Holdings Ltd.のマーティン・ラウ社長と、ポニー・マー会長兼CEO(画像クレジット:Brent Lewin/Bloomberg via Getty Images)

中国のインターネット界の巨人Tencent(テンセント)は、その膨大なポートフォリオを売却している。現地時間1月4日、同社はシンガポールのインターネット複合企業であるSeaの30億ドル(約3480億円)以上の株式を売却する計画を発表し、Seaの株式を21.3%から18.7%に切り下げ、議決権を10%以下にすることを発表した。

この動きは、TencentがJD.comの株式1600万ドル(約18億6000万円)を株主に渡すことを決定してから1カ月も経たないうちに行われた。この移行により、JD.comにおけるTencentのポジションは2.3%程度に低下することになる。この取引の一環として、Tencentの社長兼CEOであるPony Ma(馬化騰、ポニー・マー)氏の最側近Martin Lau(マーティン・ラウ)氏はJD.comの取締役を退任することになる。

中国のeコマース事業者JD.comとシンガポールのエンターテインメントとeコマースグループのSeaは、Tencentの最も重要な戦略の一部だ。同じくTencentが支援するPinduoduoが台頭する以前、JD.comは拡大するAlibabaのeコマース帝国に対するTencentの主要な防衛策だった。Seaのゲーム運営会社Garenaを通じて、Tencentが所有するタイトルは東南アジア全域で展開されている。

関連記事:中国eコマースのPinduoduoが利益のすべてを農業に投資する理由

Tencentは、中国の独占禁止法違反の取り締まりと「共同富裕」キャンペーンを背景にこれらの売却を行った。そのため、Tencentは政府のご機嫌を取るために、自ら強固な同盟関係を解消したのではないかという憶測が飛び交っている。この主張は、Tencentが株主へのクリスマスプレゼントとして、JD.comの株式分配を行ったことの説明にもなりそうだ。ビッグテックの影響力を抑制しようとする中国政府の取り組みに対する同様の回答として、AlibabaはTwitterに似たWeiboの株式の約30%を国営コングロマリットに売却することを検討していると、Bloombergは2021年12月に報じている。

TencentによるSea株売却の根拠は、あまり明確ではないようだ。一部の投資家は、中国からの投資に対するインドの厳しい姿勢と関連している可能性を指摘している。Seaのeコマース部門Shopeeは、インド市場に参入するための準備を進めてきた

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Tencentは、他のハイテク大手に対する影響力を減らそうとしているにもかかわらず、Tencentは全体的な投資ペースは落としていない。中国のスタートアップデータアグリゲータであるIT Juziによると、創業23年となる同社はこれまでに1200社以上に投資している。2021年だけでも278社に1300億元(約2兆3732億円)以上を投入し、過去最高を記録している。フードデリバリープラットフォームのMeituan、動画共有サイトのBilibili、Pinduoduoなど、他の主要な盟友に対するTencentの影響力を削いでいくのかはわかっていない。

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(文:Rita Liao、翻訳:Katsuyuki Yasui)

時価総額3兆ドル(約348兆円)に達したアップルにひとまずの拍手を

過去数年間におよぶApple(アップル)の評価額の急騰が米国時間1月3日、そのピークを迎えた。クパチーノに本社を構えるこのソフトウェアとハードウェアの企業の時価総額は、Google Financeのデータで3兆ドル(約347兆5000億円)の節目に達した。

データの出処によってやや違いはあるが、コンセンサスとしては、同社は日中取引で3兆ドルの時価総額に到達している。一部、2兆9900億ドル(約346兆3000億円)とするデータもある。

注目すべきは、3兆ドルと2.99兆ドルの違いは100億ドル(約1兆2000億円)だから微差にすぎないことだ。いずれにしてもAppleは、現代の企業の時価総額の、新しい最高水準値を定めた。めでたい。

注目すべきは、3兆円と2兆9900億ドルの差は100億ドル(約1兆2000億円)だが、その差ははした金はいえないことだ。ともあれ、Appleは現代における企業価値の新たな高水準を打ち立てた。めでたい。

それがどうした?

1つのテクノロジー企業、ないし一般に1社が、3兆ドルの時価総額になっても、見出しに財務の大きな数字が踊る記事を見慣れている人なら驚かないだろう。しかし実際にそれは、大きな成果だ。

状況説明をすると、2017年5月に私は、テクノロジー大手5社の時価総額が、5社合わせて2兆9700億ドル(約343兆9000億円)になり、3兆ドルに近づくと書いた。実際に同年後半の7月にはその額に到達している。翌年の2018年には同じ5社合計の価値が4兆ドル(約463兆2000億円)になり、前年から大きく飛躍した。

その後のことは、誰もがご存知だろう。パンデミックがテクノロジー企業の価値を変え収益1ドルあたりの額は前例のない額になった。テクノロジー企業に対する新型コロナウイルスのインパクトは、純粋なソフトウェア企業とって最も厳しいものだったが、Appleが自力で3兆ドルを達成したことからもわかるとおり、、米国の最大手テクノロジー企業は好調だった。3兆ドルといえば、5年前のAppleとAmazonとMeta(元Facebook)とMicrosoftとAlphabetを合わせたのと同じ価値だ。

別の理由でも、3兆ドルは注目に値する。Crunchbaseのニュースによると、3兆ドルは2021年半ば時点でのユニコーンの価値の合計となる。CB Insightsによれば、その合計額は現在、3兆1000億ドル(約359兆1000億円)だという。つまり、Appleの価値はすべてのユニコーンの価値を合わせたものと同じというということだ。途方もない!

私たちは、テクノロジー大手はなにしろ大きい、ということを忘れてしまいがちだ。その規模を具体的に理解するのは難しい。率直にいって彼らの富の中には、事実上、不可算なものもある。

多くのSF小説が、企業が暗黙的または明示的に国家のようなものになってしまう未来を描いている。私が想像しても、そのように感じる。Appleが単独で3兆ドルに達した現在、SF作家たちは預言者だったといえる。

画像クレジット:JOSH EDELSON/Stringer/Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】AI時代の「データの産業革命」:創始者たちが間違っていたこと

2010年2月、The Economist(エコノミスト)は「Data, data everywhere」というレポートを公開した。当時は、そのデータのランドスケープが実際にはどれだけ単純なものであったか、ほとんどわかっていなかった。つまり、相対的に見て、2022年に目を向けるときに直面するデータの現実を考えた場合である。

このEconomistのレポートの中で筆者は、ビッグデータをめぐる興奮から始まり、現在のデータ駆動型AIの時代に続いている「データの産業革命」に社会が突入しつつあることについて語った。この分野の多くの向きが、この革命によってより多くのシグナルを持つノイズを抑えた標準化がもたらされると期待していた。だがその代わりに、ノイズは増え、一方でシグナルはより強力になっている。つまり私たちは、ビジネス上の成果が大きくなるポテンシャルを有しながら、より困難なデータの問題を抱えているのである。

また、人工知能にも大きな進歩が見られている。それは現在のデータ世界にとって何を意味するのだろうか。私たちがいた場所を振り返ってみよう。

Economistの記事が掲載された当時、筆者はカリフォルニア大学バークレー校を離れ、同大学と共同でIntel Research(インテル・リサーチ)の研究所を運営していた。私たちは当時、今でいう「モノのインターネット(IoT)」に全面的にフォーカスしていた。

当時私たちが話していたのは、建物や自然、壁の塗料など、あらゆるものに埋め込まれた、相互に接続された小さなセンサーのネットワークについてであった。物理的な世界を計測しその現実をデータとして捉えることができるというビジョンがあり、そのビジョンに向けて理論を探求し、装置やシステムを構築していた。

私たちは将来に目を向けていた。しかし当時、データに関する一般的な熱狂のほとんどは、ウェブと検索エンジンの台頭を中心に展開していた。誰もが「ドキュメント」という形で大量のデジタル情報にアクセスできることを話題にしていた。ドキュメントとは、人間が生成し、人間が消費するコンテンツのことを意味する。

水平線の向こうに見えたのは、さらに大きな機械生成データの波だった。これは、筆者が「データの産業化」と呼んだものの1つの側面であり、データは機械駆動でスタンプアウト(型に合わせて生成)されるため、ボリュームが大幅に増加していくだろうと考えていた。そして、それは確かに起こった。

筆者が想定していた「データの産業革命」の第2の側面は、標準化の出現である。簡単に言えば、機械が生成しているものは毎回同じ形式で生成されるため、無数のソースからのデータを理解して結合することで、よりゆるやかな増幅過程を実現でるはずだ。

標準化の先例は古典的な産業革命であり、すべての関係者が交通機関や船舶のような共有リソースやプロダクト仕様を標準化するインセンティブが存在した。それはこの新しいデータ産業革命にも当てはまるように思われ、経済やその他の影響力がデータの標準化を推進するだろうと考えられた。

そのようなことはまったく起こらなかった。

実際、逆のことが起こった。「データの浪費」が大幅に増加した。これはログファイルの形式で計算量が指数関数的に増大した結果であり、標準化されたデータはわずかな増加に留まった。

そのため、統一された機械指向のデータではなく、さまざまなデータやデータ型が膨大な量となり、データガバナンスが低下した。

データの浪費や機械生成データに加えて、データを敵対的に利用するようになり始めた。これはデータに関与する人々が、その利用に対して多くの異なるインセンティブを持っていたためである。

ソーシャルメディアのデータと「フェイクニュース」に関する最近の話題を考えてみよう。21世紀初頭においては、個人だけでなく、大衆にリーチしようとしているブランドや政治的利益のために、デジタル情報をバイラルにすることの巨大な実験がなされた。

今日では、そのコンテンツの多くは実際には機械で生成されているものの、人間の消費と行動パターンに合わせたものだ。何年も前の純真な「人による、人のための」情報通信ネットワークとは対照的である。

要するに、今日のデータ生産産業は途方もなく大規模であるが、標準的なデータ表現に合わせて調整されておらず、10年余り前に筆者がこうした予測を立てたときに期待していたものではない。

イノベーションの状況:AI対人間のインプット

この10年ほどで明らかに大きく進歩したのが人工知能だ。私たちがアクセスし、処理し、モデルに取り込むことができるこの莫大なデータは、数年のうちにAIをSFから現実に変えた。

しかしAIは、ビジネスデータ処理の領域では期待していたほど有用ではない。少なくとも今のところはそうだ。自然言語処理のようなAI技術と構造化データの間には、驚くほどのずれが依然として存在する。いくらかの進展があったとしても、ほとんどの場合、データと通信して多くの成果が返ってくることは期待できない。Google(グーグル)で定量的な質問をして、テーブルやチャートが返ってくることもあるが、それは適切な質問をする場合に限られる。

AIの進歩は、スプレッドシートやログファイルなどの定量的で構造化されたデータ(IoTデータを含めて)とは、まだ大きく分離されている。結局のところ、私たちが普段データベースに入れているような従来型のデータは、画像検索や単純な自然言語による質問応答のような消費者向けアプリケーションよりも、AIで解読するのがはるかに困難であるということだ。

例えば、Alexa(アレクサ)やSiri(シリ)にデータのクリーニングを頼んでみよう。おもしろいが、あまり役に立たない。

AIの一般的なアプリケーションは、まだ従来のデータ産業には投影されていないが、努力不足のためではない。大学や企業の優秀な人材の多くは、従来の記録指向のデータ統合問題の難解な部分を打破できていない。

しかし、完全自動化はこの業界を巧妙に回避している。その理由の1つは、人間がデータから何を得たいのかを前もって特定するのが難しいことにある。もし「これが、この700個のテーブルを使って私があなたにしてもらいたいことです」と伝え、明確な目標を達成することができれば、アルゴリズムがそのタスクを代行してくれるかもしれない。しかし実際にはそうはならない。代わりに、人々は700個のテーブルを見て、そこに何があるのだろうと思い、探り始める。何度も探し回って初めて、これらのテーブルに何が起こって欲しいのかのてがかりを得ることになるだろう。

データを利用する方法のスペースは非常に大きく、成功の度合いを示す指標は実に多様であるため、探し回ることは創造的な仕事の域を出ない。最適化アルゴリズムにデータを渡して、最適な結果を見つけることはできないのだ。

AIによる完全自動化を待つのではなく、人間はAIからできる限り多くの助力を得るべきである。だが実際的には、ある程度の作用を保持し、何が有用か、あるいは有用でないかを特定した上で、次のステップを特定の方向に向けるべきであろう。それには視覚化と、AIからのフィードバックの束が必要だ。

データのインパクトを把握し、データの分散を制御する

もっとも、AIが本当に力を発揮している分野の1つは、コンテンツの推薦である。結果的にコンピューターは、コンテンツをターゲットにして広めるのに恐ろしいほど効果的なのだ。いやはや、私たちはデータとAIの側面に関するインセンティブとインパクトを過小評価していたのだろうか。

当時、データとそのAIへの利用に関する倫理的な懸念は、主にプライバシーに関するものだった。人々が予約した本のデジタル記録を公共図書館が持つべきかどうかについての大きな議論を覚えている。同様に、食料品のポイントカードプログラムについても論議があった。買い物客は、食料品チェーンがいつどんな食べ物を買ったかを把握して、それに付随するアイテムについて自分たちをターゲットにすることを望まなかった。

その考え方は大きく変わった。現在、10代の若者たちは、購入した食品のブランド以上に、ソーシャルメディア上ではるかに多くの個人情報を共有している。

デジタルプライバシーが良い状態にあるとは言い難いが、今日のデータ問題の中で最悪なものではないことは間違いない。例えば、政府の資金援助を受けた俳優たちが、データを使って私たちの社会的議論に混乱を加えようとしているという問題がある。20年前はこういったものが現れるのを目にすることはほとんどなかった。何が間違った方向に向かっているのかという倫理的な問いについて、大きな意識があったようには思えない。

この要素は、私たちのデータ利用の進化における次の、そして現在進行中のものにつながる。政府と善意の立法の役割はどういったものになるだろうか。ツールがどのように使われるかを予測しなければ、賢明に管理し制限する方法を知ることは難しい。今日の私たちは、データに関するコントロールやインセンティブ、そしてデータがどのように公表されるのかを理解する必要があるように思われるが、テクノロジーは社会がリスクや保護を理解するよりも早く変化している。控えめに言っても、それは不安を感じさせる。

さて、予想は的を得ていたのだろうか?

教授としては合格点を与えたいと思うが、Aにはしたくない。私たちが想像していたよりもはるかに多くのデータが利用可能になっている。その結果、AIと機械学習、そしてアナリティクスが驚くほど進歩したが、多くのタスクではまだ表面的なものにすぎず、他のタスクにおいては旋風を巻き起こしている。次の10年、20年がこのような問題に何をもたらすのか、そして何を振り返るのか、興味深いところである。

編集部注:執筆者のJoe Hellerstein(ジョー・ヘラースタイン)はTrifactaの共同設立者兼最高戦略責任者で、カリフォルニア大学バークレー校コンピューターサイエンスのJim Gray Chair。

画像クレジット:MR Cole Photographer / Getty Images

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(文:Joe Hellerstein、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ファクトチェックのスタートアップをの構築で学んだこと

2016年の米大統領選の余波を受けて、筆者はオンライン上のフェイクニュースの惨害に対処できるプロダクトの開発に着手した。最初の仮説は単純だった。偽の主張や疑わしい主張を自動的にハイライトし、それに対して最高品質のコンテクストに基づく事実を提案する半自動のファクトチェックアルゴリズムを構築する。私たちの論旨は、おそらくユートピア的であるとしても、明確であった。テクノロジーの推進力により、人々が真実、事実、統計、データを求めて意思決定を行うようになれば、誇張ではなく、理性と合理性を備えたオンラインの議論を構築することができるはずだ。

5年にわたる努力の末、Factmata(ファクトマタ)は一定の成功を収めた。しかし、この分野が真に成長するためには、経済面から技術面に至るまで、まだ克服しなければならない多くの障壁がある。

鍵となる課題

私たちはすぐに、自動化されたファクトチェックが極めて難しい研究課題であることを認識した。最初の課題は、チェックする事実そのものを定義することであった。次に、特定の主張の正確性を評価するために、最新の事実データベースをどのように構築し、維持するかについて検討した。例えば、よく使われているWikidata(ウィキデータ)の知識ベースは明らかな選択肢であったが、急速に変化する出来事に関する主張をチェックするには更新が遅すぎる側面がある。

また、営利目的のファクトチェック企業であることが障害になっていることも判明した。ほとんどのジャーナリズムやファクトチェックのネットワークは非営利であり、ソーシャルメディアプラットフォームはバイアスの告発を避けるために非営利団体との連携を好む。

これらの要因の枠を超えたところに、何が「良い」かを評価できるビジネスを構築すること自体が本質的に複雑で微妙であるという問題がある。定義については議論が絶えない。例を挙げると、人々が「フェイクニュース」と呼ぶものがしばしば極端な党派間対立であることが判明し、人々が「偽情報」と称するものが実際には反対意見による見解であったりする。

したがって、ビジネスの観点からは、何を「悪い」(有害、不道徳、脅威的または憎悪的)と判断するかということの方がはるかに容易であると私たちは結論づけた。具体的には「グレーエリア」の有害なテキストを検出することにした。これは、プラットフォームから削除すべきかどうかわからないが、追加のコンテクストが必要なコンテンツだ。これを達成するために、コメント、投稿、ニュース記事の有害性を、党派間対立性、論争性、客観性、憎悪性など15のシグナルのレベルで評価するAPIを構築した。

そして、関連する企業の問題についてオンラインで展開されるすべての主張を追跡することに価値があることを認識した。そのため当社のAPIを超えて、ブランドのプロダクト、政府の方針、新型コロナウイルス感染症のワクチンなど、あらゆるトピックで展開する噂や「ナラティブ」を追跡するSaaSプラットフォームを構築した。

複雑に聞こえるかもしれない。実際にそうだからだ。私たちが学んだ最大の教訓の1つは、この領域において100万ドル(約1億1400万円)のシード資金がいかに少ないかということだった。有効性が確認されたヘイトスピーチや虚偽の主張に関するデータを訓練することは通常のラベリング作業とは異なる。それには、主題に関する専門知識と正確な検討が必要であり、いずれも安価なものではない。

実際、複数のブラウザ拡張機能、ウェブサイトのデモ、データラベリングプラットフォーム、ソーシャルニュースコメントプラットフォーム、AI出力のリアルタイムダッシュボードなど、必要としていたツールを構築することは、複数の新しいスタートアップを同時に構築するようなものだった。

さらに事態を複雑にしていたのは、プロダクトと市場の適合性を見つけるのが非常に困難な道のりだったことだ。長年の構築の後、Factmataはブランドの安全性とブランドの評判にシフトした。当社のテクノロジーは、広告インベントリのクリーンアップに目を向けているオンライン広告プラットフォーム、評判管理と最適化を求めているブランド、コンテンツモデレーションを必要としている小規模プラットフォームに提供されている。このビジネスモデルに到達するまでには長い時間がかかったが、2020年ようやく複数の顧客からトライアルや契約の申し込みが毎月寄せられるようになった。2022年半ばまでに経常収益100万ドルを達成するという目標に向かって前進している。

やるべきこと

私たちが辿った道のりは、メディア領域で社会的にインパクトのあるビジネスを構築する上で、多くの障壁があることを示している。バイラル性と注目度がオンライン広告、検索エンジン、ニュースフィードの指標である限り、変化は難しいだろう。また、小規模な企業では、それを単独で行うことは難しい。規制面と財政面の両方の支援が必要になる。

規制当局は、強力な法律の制定に踏み切る必要がある。Facebook(フェイスブック)とTwitter(ツイッター)は大きな前進を遂げたが、オンライン広告システムは大幅に後れを取っており、新興プラットフォームには異なる形での進化を促すインセンティブがない。今のところ、企業が違法ではない発言をプラットフォームから排除するようなインセンティブはない。評判上のダメージやユーザーの離脱を恐れるだけでは十分ではないのだ。言論の自由を最も熱心に支持する向きでさえ、筆者も同様であるが、金銭的なインセンティブや禁止を設ける必要性を認識している。そうすることで、プラットフォームは実際に行動を起こし、有害なコンテンツを減らし、エコシステムの健全性を促進するためにお金を使い始めるようになるだろう。

代替案にはどのようなものがあるだろうか?悪質なコンテンツは常に存在するが、より良質なコンテンツを促進するシステムを作り出すことは可能である。

欠点はあるかもしれないが、大きな役割が期待できるのはアルゴリズムだ。オンラインコンテンツの「善良さ」すなわち品質を自動的に評価するポテンシャルを有している。こうした「品質スコア」は、広告ベースとはまったく異なる、社会に有益なコンテンツのプロモーション(およびその支払い)を行う新しいソーシャルメディアプラットフォームを生み出すための基盤となる可能性を秘めている。

問題のスコープを考えると、これらの新しいスコアリングアルゴリズムを構築するには膨大なリソースが必要だ。最も革新的なスタートアップでさえ、数億ドル(数百億円)とは言わないまでも、数千万ドル(数十億円)の資金調達がなければ厳しいだろう。複数の企業や非営利団体が参加して、ユーザーのニュースフィードに埋め込むことのできる多様なバージョンを提供する必要がある。

政府が支援できる方法はいくつかある。まず「品質」に関するルールを定義する必要があるだろう。この問題を解決しようとしている企業が、独自の方針を打ち出すことは期待できない。

また政府も資金を提供すべきである。政府が資金援助をすることで、これらの企業は達成すべき目標が骨抜きにされるのを回避できる。さらに、企業が自社のテクノロジーを世間の目に触れやすいものにするよう促し、欠陥やバイアスに関する透明性を生み出すことにもつながる。これらのテクノロジーは、無料で利用可能な形で一般向けにリリースされるよう奨励され、最終的には公共の利益のために提供される可能性もある。

最後に、私たちは新興テクノロジーを取り入れていく必要がある。コンテンツモデレーションを効果的かつ持続的に行うために必要な深層テクノロジーに真剣に投資するという点で、プラットフォームは積極的な歩みを見せてきた。広告業界も、4年が経過した頃から、FactmataやGlobal Disinformation Index(グローバル・ディスインフォメーション・インデックス)、Newsguard(ニュースガード)などの新しいブランド安全アルゴリズムの採用を進めている。

当初は懐疑的であったが、筆者は暗号資産とトークンの経済学のポテンシャルについても楽観的に見ている。資金調達の新たな方法を提示し、質の高いファクトチェック型メディアの普及、大規模な配信に貢献することが考えられる。例えば、トークン化されたシステムの「エキスパート」により、ラベリングに多額の先行投資を必要とする企業の手を借りることなく、主張をファクトチェックし、AIコンテンツモデレーションシステムのデータラベリングを効率的に拡張することが可能になるかもしれない。

ファクトベースの世界の技術的な構成要素として、Factmataに掲げた当初のビジョンが実現するかどうかはわからない。しかし、私たちがそれに挑戦したことを誇りに思うとともに、現在進行中の誤報や偽情報との戦いにおいて、他の人々がより健全な方向性を示すことに、私たちの経験が役立つことを期待している。

編集部注:本稿の執筆者Dhruv Ghulati(ドルヴ・グラティ)氏は、オンラインの誤情報に取り組む最初のグローバルスタートアップの1つFactmataの創設者で、自動ファクトチェックを研究する最初の機械学習科学者の1人。London School of EconomicsとUniversity College Londonで経済学とコンピューターサイエンスの学位を取得している。

画像クレジット:sorbetto / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Dhruv Ghulati、翻訳:Dragonfly)

技術系スタートアップが在宅勤務のソフトウェア開発者を大切に扱うための5つのヒント

先に迎えた世界メンタルヘルスデーを目前に控え、私はテック業界がいかに精神的に良好な状態を保つのが難しい場所であるかを考えていた。特に、前例のない状況でのリモートワークは、困難な状況をさらに悪化させる可能性がある。10年以上にわたってテクノロジー業界でリモートワークをしてきた者として、今回はペースの速い技術系スタートアップ企業がソフトウェア開発の人材を大切に扱うためのヒントを紹介したい。

最高の状態でのソフトウェア開発は、創造的な試みとなる。開発者が質の高い仕事をするためには、ある程度の快適さが必要だ。退屈な作業、騒がしいオフィス、あまりに多い会議などは、生産性が最高の状態であっても影響を及ぼす。

しかし、健康はもっと基本的なものであり、ニーズの階層の中でもほぼ最下層に位置するもので、これには精神的な健康も含まれる。ソフトウェア開発者が仕事をするためには、脳の状態が良好でなければならない。物事がうまくいかないとき、本当の問題を知らなくても、同僚のコードを見ればわかることもある。

リモートで働くスタートアップチームの分散により、健康維持はより困難になっている。リモートで働いていると、チームのウェルビーイングをサポートするためのオフィスの機能が欠落してしまう。無料のフルーツやコーヒー、ビーズソファだけでなく、同僚がつらい思いをしていても気づきにくいこともある。同僚と同じ場所にいないと、誰が遅刻や早退するのか、あるいはやや活力がない感じがするのかを見分けるのが難しくなる。

また、井戸端会議がない場合、同僚がうまくやっているかどうかを確認するのが難しくなる。しかし、もし誰かのことが気になっていて、その人に聞くべきかどうか悩んでいるのであれば、私は常に連絡を取るようにアドバイスする。リモートチームにおいては、コミュニケーションを増やす必要がある。メンタルヘルスに関しては、誰かが1人で限界に達してしまうよりも、言葉を発して、その人が元気であること、何も心配する必要はなかったと知るほうがいい。

自主性を重んじる

私は10年以上にわたり、大企業から中小企業でも、さらには自分のフリーランスのコンサルタントでも、自分の意思でリモートワークを行ってきた。私が在宅勤務で最も重視しているのは、柔軟性だ。特に、ソフトウェア開発者としてメーカーのスケジュールに合わせて仕事をする場合には、柔軟性が重要になる。

私は、最高の仕事をより多く実現するために、一連のライフハックを発見した。例えば、早い時間にオフィスで仕事を始めた後、午前11時にジムでトレーニングをしたり、その日の最後のミーティングの前に夕食をオーブンに入れたりするのだ。このように、仕事と並行して「生活」を送ることができるのは、特に苦しいとき、自分自身の幸福感を高めるのに有効だ。

ダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』では、自律、成長、目的がモチベーションの主な原動力であることを取り上げている。ソフトウェア開発の仕事を成功させるには、モチベーション、承認、自信が重要だ。自分のスキルを使ってより大きな目標に向かって貢献する権限を与えられることは、非常にやりがいのあることであり、通常仕事の選択や優先順位の決定において自由度が高いスタートアップ企業の開発者にとっては、非常に満足のいくことだろう。

しかし、Haystackの調査によると、開発者の83%に燃え尽き症候群が報告されている。そのため、ソフトウェア開発者には現実的な期待を設定するよう注意して欲しい。物理的なオフィスがない場合、適切な時間に帰宅させるのは難しいので、そのような期待は慎重に設定する必要がある。特に、勤務時間がフレキシブルで、大きなプロジェクトを任されやすい場合には慎重になるべきだ。

教育は社員を大切にしているということ

開発者は生涯学習者だ。業界の変化が非常に速いため、開発者はそうならざるを得ない。彼らは常に自分自身、知識、スキルに投資している。

雇用者は、開発者を個人としても投資することができる。企業によっては手厚いトレーニング予算や休暇を提供するところもある。私はかつて小さなソフトウェア会社で働いていた。そこでは学習のための予算は提供されていなかったが、月に1日、学習のための日を予約することができ、そこで教科書を読んだり、新しいテーマについて誰かに1時間のチュートリアルを頼んだりすることができた。会社にとっては大したコストではなかったが、私の成功を願ってくれているように感じた。

働く自由

開発者に金銭的な報酬を与えても、モチベーションの向上にはつながらない。しかし時間を与え、開発者を信じて時間を直接的なプロダクトエンジニアリングの仕事以外に使ってもらうことは、大きな効果が得られる可能性がある。

Googleは、社員の時間の20%を「おもしろいと思ったことに使っていい」というアプローチをとったことで有名だ。それによって便利な製品も生まれたが、重要なのは開発者が仕事に関わっていると感じ、信頼されているということだ。Atlassianも同様のことを行っていることで有名だ。全社員が24時間、自分の好きなプロジェクトに取り組み、他の方法では決して出てこなかったかもしれない驚くべき革新や改善を生み出している。

多くの開発者は、自分の時間の多くをオープンソースプロジェクトに費やしている。このことを他の職業の人に説明しようと何度か試みたことがあるが、ハッカー文化は不可解だということが分かった。

しかし、開発者はこの世界に強く共感し、91%の開発者がオープンソースが自分の将来の道だと答えている。開発者にオープンソースへの貢献を許可することで、彼らはより自分たちが大事にされていると感じることができる。このようなオープンソースコミュニティは、開発者の社会的ネットワークやサポートネットワーク、さらにはアイデンティティの重要な一部となり、開発者のより広い意味での幸福のために欠かせないものとなる。

オープンソースの教訓

現代の職場では、他人がプロジェクトに参加できるという点でオープンソースから学ぶことがたくさんある。オープンソースのプロジェクトは真のリモートワークフローが機能している合理的なモデルとなっている。

ソフトウェアの世界の基礎的な構成要素のいくつかは、メーリングリストやIRCチャンネルでしかお互いを知ることができなかった人々によって作られたものだ。ソフトウェアは作られたが、おそらくそれ以上に重要なのは、強力なコネクションが作られたことだ。

今日のリモートソフトウェアチームは、自らの選択によるものであれ、状況によるものであれ、より優れたツールを利用することができる。ソース管理ツールやコラボレーションツールは、今やメーリングリスト以上のものであり、テキストチャット、オーディオコール、ビデオコールで常に連絡を取り合うことができる。画面共有やVSCode Live Shareのようなツールを使って、遠隔地でプログラムを組み合わせることも可能だ。

しかし、このような接続性の高さは、ストレスや通知疲れの原因となりうる。ソフトウェア開発者はそれぞれが異なる存在であり、ある人の作業スタイルが他の人のそれとまったく同じとはならないことを忘れてはならない。オープンソースのプロジェクトでは、全員の時間を尊重し、特定の時間に誰かがいるということをあまり期待せず、むしろ想定した時間枠内で作業を進める。

高度な技術を要する仕事をしているリモートチームでは、思考時間が長くなるようなミーティングをできるだけ少なくしたり、Slackのメッセージに期待される返信の時間を決めておくと、落ち着いた仕事環境の提供につながる。

ワークライフバランス

新型コロナウイルス感染症の影響で毎日の通勤ができなくなったとき、多くの人は作業環境が理想的ではなくなった。ソファやキッチンテーブルに座って、しかも家族が近くにいるという状況は、当然ながら多くの人にとって困難であり、燃え尽き症候群の増加が広く報告されている。

たとえ開発者が以前から自宅で仕事をしていたとしても、モニターのアップグレードや予備の電源、あるいは新しいキーボードが必要かどうかをチェックするのは良いことだ。現在、多くの企業が在宅勤務の予算を提供しているが、開発者が必要とするツールの確保は少しの予算でできる。

職場で一緒に交流する時間を持つ。恥ずかしいチームビルディングは過去のものとなっていることを願うが、簡単なオンラインゲームで場を明るくすることは可能だ。会社にEAP(従業員支援プログラム)がある場合は、従業員全員がプログラムについてと、アクセス方法を知っていることを確認したい。また、マネージャーには、彼らのチームメンバーだけでなく、マネージャーのためのプログラムもあることを伝えておくとよい。

メンタルヘルスに関して言えば、スタートアップは難しい場所かもしれない。スタートアップ企業はペースが速く、頻繁に変化があり、いくつもの仕事をこなさなければならない。私からの最良のアドバイスは、お互いに気を配ることだ。それは、上司が部下を気遣うだけではなく、私たち全員が他人を気遣い、自分自身を大切にすることで、少しでも貢献することができる。

燃え尽きる時は、その前に兆候が出ている。私たちは、仕事を長期的に持続させ、健康的な生活と並行して行う方法を見つけなければならない。「言うは易し行うは難し」ですが、多忙なスタートアップ企業は、従業員が重要な存在であることを再認識してもらうための時間を取らなくてはならない。

あなたやあなたの知り合いが、うつ病に悩まされていたり、自傷行為や自殺を考えたことがある場合、全米自殺防止ライフライン(1-800-273-8255)では、24時間年中無休で無料サポートを提供しています。また、専門家向けのベストプラクティスや、予防や危機的状況に役立つリソースも提供しています。

編集部注:Lorna Mitchell(ローナ・ミッチェル)氏は、最高のオープンソーステクノロジーとクラウドインフラを組み合わせたソフトウェア企業Aivenのデベロッパーリレーションズ担当責任者。

画像クレジット:Carol Yepes / Getty Images

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(文:Lorna Mitchell、翻訳:Dragonfly)

【コラム】クリエイターエコノミーとクリエイターテックが実現する大きなビジネス

クリエイターエコノミーという言葉を聞いたことがある人は少なくないはずだ。もはや新しい概念ではないし、それが何かをよく知っている人もいるだろう。しかし、その名が示す通り、クリエイターエコノミーにはクリエイターが必要だ。

私たちがクリエイターエコノミーと呼んでいるものは、本質として2つのグループを内包している。1つは、主に独立したクリエイターで構成された、大規模で分散化された非定形のグループで、何らかの方法でデジタル空間に接続されているものだ。ミュージシャン、ビジュアルアーティスト、映像クリエイター、グラフィックデザイナー、ブロガー、インフルエンサーなどがこれに含まれる。そしてもう1つは、こうしたクリエイション(創造)を可能にするツールを提供する企業やプラットフォーム(クリエイターテック)で、その延長線上には、配信や収益化も含まれる。

当然のことながら、クリエイターエコノミーのビジネスは基本的にデジタル上で行われ、ハイテクの領域にある。これにより、組織に属さないクリエイターが従前よりも簡単に自分の作品で収益を上げることができるようになった。

これが、長期にわたり栄華を極めてきたスーパースターモデルの崩壊のきっかけにもなっている、というのは驚くべきことだろうか。スーパースターモデルとは、一部の著名なスター集団によるコンテンツをユーザーが視聴するという、昔ながらのエンターテインメントビジネスの手法である。何十年にも及ぶスーパースターモデルのもとで、サブカルチャーが繁栄していなかったわけではない……実際繁栄していたのだが、大きな収益を上げることは難しかった。

クリエイターエコノミーとクリエイターテックは、どちらかというと自然に発生したものだ。当初はバイラリティ(SNSなどであっという間に人気が爆発すること)や新しいソーシャルメディアチャネルを通じたオーディエンスのアクセスで実現したシフト(変化)だったが、今やクリエイターテック自体が独自の世界を構築している。そのため、スーパースターモデルからのシフトを継続できるかどうかが、クリエイターテックの存続の鍵となっている。

スーパースターモデルに風穴を開ける

Netflix(ネットフリックス)は、7月16日の株主総会で「TikTokは『驚異的な』成長を遂げている」として、真のライバルであることを認めた。NetflixがTikTokの競争力を最初に認めたのは、2020年、TikTokに対応すべく「Fast Laughs(ファストラフス、短いおもしろ動画)」を立ち上げたときだったと考える人もいるかもしれない。Fast LaughsはTikTokのコンセプトを借用して、Netflixのコメディーラインナップから抜粋した短いクリップを提供する動画フィードである。

Netflixが長い間スーパースターを利用してきたのは紛うことなき事実である。Zac Efron(ザック・エフロン)は世界中を旅し、Paris Hilton(パリス・ヒルトン)は料理をし、有名なコメディアンは1つ以上のスペシャル番組を持ち、オリジナルの映画やシリーズでは、ほんの数例挙げるだけでもTimothée Chalamet(ティモシー・シャラメ)、Jane Fonda(ジェーン・フォンダ)、Sandra Oh(サンドラ・オー)、Anthony Hopkins(アンソニー・ホプキンス)などが活躍している。古き良き時代の姿だ。

一方、TikTokにおける最大のスターは、いわゆる「スター」ではなく、たまたまおもしろくて、賢くて、痛烈で、アルゴリズムの運と自分の創造性だけで視聴者を集めたごく一般の人々である。たとえ有名でなくても、多くのクリエイターがニッチなフィールドを見つけ、熱心なファンを獲得している。彼らは(オーディエンスの)貴重な注目と視聴率を奪う新しいプレイヤーだ。

クリエイターエコノミーには「テントポール」の作品が存在しない。テントポールとは、そのスタジオ自体の経営を左右するほどの大ヒットを記録する作品を意味する用語である。ほとんどのアルバムは制作費を回収できない(メジャーレーベルでも同様だ)。そこにAdele(アデル)が現れてレコードを発表し、回収できなかったレコードの代金を支払い、多少の収益をもたらす。

これはクリエイターエコノミーには当てはまらない。確かにTikTokでもKhaby Lame(カベンネ・ラメ)のようなタイプのスターが生まれている。彼は、複雑すぎるライフハックに対しておもしろおかしく苛立ちを表現することで世界的に有名となり、今ではMeta(メタ)の宣伝をしている

しかし、カベンネ・ラメのフォロワーが、彼の最新の動画を観るためだけにアプリを開く(そして視聴後はアプリを閉じる)ことはない(そうさせないようにアルゴリズムが設計されているのだが、それはまた別の話だ)。フォロワーたちはこれらの有名人だけでなく、小規模なクリエイターも数多くフォローしており、彼らが鑑賞する動画の大半は、世界的に有名ではないクリエイターが作ったものであることが統計的に明らかになっている。

小規模クリエイターがニッチなフィールドで成功を収め、熱心なファンを獲得し、すべてが変わりつつある現在、クリエイターテックもリアルタイムでそのニーズに応えるために進化している。クリエイターの幸福(ウェルフェア)を重視し、その維持を最優先すべき時が来た。

良い倫理観=良いビジネス

クリエイターの報酬を単に倫理的な問題としてとらえるのは簡単だが、すでに語りつくされた議論である。もちろんアーティストは自分の作品にふさわしい報酬を得るべきだ。では、別の視点から考えてみよう。

クリエイターエコノミーにおけるテックプラットフォームや企業が活動を存続するためには、小規模クリエイターへの公正な報酬をビジネスモデルの中核とすることが重要である。クリエイターをプラットフォームに呼び込み、定着させて、プラットフォームへの需要を喚起するのである。

これは現実的な解法でもある。今は90年代ではないし、大きなイベントも存在しない。クリエイターテックにとってはクリエイターの数こそが重要である。プラットフォームの需要を支えているのは多くの小さなクリエイターたちだ。

クリエイターテックは、小規模クリエイターの支援に全力で取り組むべきである。彼らを支援し、適正な報酬を提供し、クリエイターをスポンサーやパトロンと結びつけるプラットフォームを継続的に改良していかなければ、スーパースターモデルに対する(クリエイターエコノミーの)進化はすべて無駄になってしまい、クリエイターテックは自らの首を絞めてしまうことになる。

クリエイターの利益よりも(プラットフォームを提供する企業の)株主の利益の方が大きいというビジネスモデルは、特に視聴者の需要と支払い意欲が高い状況において、望ましいものではなく、持続可能性も損なっている。コンテンツクリエイターが更新を中断すると罰せられるようなアルゴリズムは馬鹿げており、廃止すべきだ。クリエイターエコノミーモデルとそれを利用する企業は、根底から見直しを行うべき時である。

クリエイターテックは、クリエイターのパトロネージュ(支援者)としての役割を受け入れ、革新し続けなければならない。すでに特定のクリエイターのニーズに対応して、場合によってはブランドとクリエイターを結びつけて収益性の高いパートナーシップを実現する、競争の激しいパトロンサービスの市場を作り出そうとしているクリエイターテックも存在する。

Substack(サブスタック)は、フリーランスライターのためのプラットフォームを進化させようとしている。Patreon(パトレオン)はあらゆるタイプのコンテンツクリエイターに使ってもらえると自称しているが、公式な手段ではない。今後は最も多くの報酬、知名度、チャンス、そして最も使いやすいサービスを提供するプラットフォームが勝利することになるだろう。

ライセンス、配信、ブロックチェーン認証などの面で進化を続けることは、クリエイターのウェルフェアにとっても、これらの進化を実現する企業にとってもメリットがある。アートオークションのプラットフォームが従来型のギャラリーの枠を超えてユーザーに利用してもらうにはどうするべきだろうか。デジタル音楽、映像、画像のライセンシング(ライセンスを供与して利益を得る行為)は加速し、映像コンテンツクリエイター、フォトグラファー、ソングライターなどのクリエイターエコノミーの中で重要な役割を果たしている。

冷静に考えれば、収益を上げる過程で誰かが搾取される必要はないのだ。

小規模クリエイターへの投資は経済的にもメリットがある

個人がクリエイターになる時代、クリエイターテックが負うクリエイターに対する責任は、自己保身のためだけでなく、倫理的にも重要である(繰り返しになるが、クリエイターテックは小規模クリエイターのエコシステムが充実していなければ成立しない)。スーパースターエコノミーは、プラットフォームやメディアに散在する熱心なファンを持つ独立したクリエイターが支えるエコノミーに道を譲ろうとしている。

活発なクリエイターエコノミーには、まずクリエイター自身の健全な成長が必要である。熱心なファンは意外なところからボトムアップで生まれるので、オーディエンスがコンテンツに簡単にアクセスできることが必要だ。クリエイターテックの成功は、クリエイター自身の成功と切り離せない関係にあるのだから、クリエイターテックはクリエイターを搾取してはならない。

テック産業は、自分たちの命運をユーザー(クリエイター)の命運と結びつけて考えない悪い癖がある。純粋なビジネスの観点からも、倫理的な観点からも、クリエイターテックはこの間違いを犯してはならない。

編集部注:Ira Belsky(イラ・ベルスキー)氏は、Artlistの共同設立者兼共同CEO。

画像クレジット:Stephen Zeigler / Getty Images

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(文:Ira Belsky、翻訳:Dragonfly)

2021年の米企業ニューストップ5:ベゾス氏の退任、Salesforceの共同CEO就任など

消費者側と比べると、企業側の取材はなんだか退屈だという間違った印象を持たれがちだが、これまで数十年にわたってこの分野を追いかけてきた筆者からすると、これほど真実から遠く離れたものはないと断言できる。

理由の1つは、金額が大きいということだ。例えば、Oracle(オラクル)はCerner(サーナー)を280億ドル(約3兆2200億円)で買収すると米国時間12月20日に発表してヘルスケア業界を揺るがした。UiPath(ユーアイパス)は無名のスタートアップから、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の絶対的な存在にまで成長した。上場後に少し下落したが、2021年初めには350億ドル(約4兆円)のバリュエーションがついた。

策謀もある。例えば、アクティビスト投資家が、企業が通常なら好まないような動きを強いる試みや、2021年にBox(ボックス)で見られたような取締役会の主導権争いなどだ。

ドラマもある。100億ドル(約1兆1500億円)規模の国防総省のJEDIクラウド契約をめぐる、世界最大の企業向けクラウドインフラ企業同士の3年にわたる戦いがその例だ。この調達プロセスでは、訴訟、度重なる審査、大統領の干渉などあらゆることが起こった。

つまり、企業の話題は多い。が、つまらないだろうか。決してそんなことはないと思う。2021年も例外ではなかった。そこで、2021年の締めくくりに、企業を揺るがした5つのストーリーを紹介する。12カ月にわたるニュースを5大ストーリーに絞り込むのは難しいが、筆者が選んだのは以下の5つだ。

アマゾンのベゾス、ジャシー、セリプスキーのイス取りゲーム

2021年最大のニュースは、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏がCEOから退き、会長職に就くと決意したことだろう。Amazon(アマゾン)はeコマース企業で、必ずしも筆者の担当範囲ではなく、このこと自体は企業に大きな影響を与えるものではなかったが、その後に起こったことがある。

ベゾス氏が発表した2月のその日に、後任にAmazon Web Services(アマゾンウェブサービス)のCEO、Andy Jassy(アンディ・ジャシー)氏を選んだことも明らかになった。ジャシー氏は、Amazonのクラウドインフラ事業を巨大なビジネスに育て上げ、直近の四半期で年換算売上高640億ドル(約7兆3600億円)を突破させた人物だ。

ジャシー氏の後任探しは簡単ではなかったが、旧知の人間に目をつけ、Tableau(タブロー)のCEO、Adam Selipsky(アダム・セリプスキー)氏を後任として雇った。同氏はAWSの創業時から2016年まで在籍していたが、Tableau移籍時に退職した。今は列車を走らせ続けることが仕事だ。同氏には勢いがあるが、競争はますます激しくなっている。セリプスキー氏のリーダーシップの下、2022年どうなるかは注目されるところだ。

Salesforceブレット・テイラー氏、絶好調の1週間

もう1つの話題は、Salesforce(セールスフォース)幹部のBret Taylor(ブレット・テイラー)氏が、11月末の同じ週に2つの大きなポジションを手に入れ同氏にとってかなり甘い1週間となったことだ。まず、Twitter(ツイッター)の取締役会長に就任した。それだけでは物足りなかったようで、Salesforceの共同CEOにも就任した。2016年に自身の会社であるQuip(クイップ)が7億5000万ドル(約860億円)でSalesforceに買収されて以来、同社で急速に出世した。

Twitterでは長年CEOを務めたJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏が退任し、Parag Agrawal(パラグ・アグラワル)氏が就任するという騒ぎがあった。その一方で、テイラー氏がCRM大手の共同CEOに就任したことは、企業という視点からは明らかにより大きなニュースだった。The Informationは、テイラー氏が引き続きSalesforceの共同創業者で会長兼共同CEOのMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏に報告すると報じた。テイラー氏はこの昇進により、もし2021年初めのベゾス氏と同様にベニオフ氏が会長職に退くと決めれば、ベニオフ氏の後継者になる可能性が出てきた。2022年に考慮すべきもう1つのストーリーは、Salesforceが2016年に検討し、その後立ち消えになったTwitter買収を再検討するかどうかだ。

BoxとStarboard Valueの委任状争奪戦

Boxは、アクティビストファンドであるStarboard Value(スターボードバリュー)による取締役会乗っ取りの試みを退けた。この動きは、共同創業者でCEOのAaron Levie(アーロン・レビー)氏の解任、会社の売却、またはその両方をもたらす可能性が高いものだった。数カ月にわたるドラマは最高潮に達し、2021年の主要な企業ニュースとなった。

アクティビストファンドであるStarboard Valueは、2019年にクラウドコンテンツ管理会社であるBoxの株式を7.5%取得し、その後8.8%にまで増やし、同社に対しかなりの影響力をもつことになった。しばらくは静観していたが、2020年、意を決し、取締役会を引き継ぎたいとBoxに通告し、委任状争奪戦が繰り広げられた。

この間、BoxはKKRから5億ドル(約575億円)の出資を受け、Starboardをさらに怒らせた。また、Starboardの役員候補に対抗する文書をSECに提出し、議決権保有者が最新の業績を見ることができるよう決算報告を早めに発表した。幸運にも、同社はStarboardが動いた後、2四半期連続で好成績を収め、委任状争奪戦にあっさり勝利し、今のところ現状を維持している。2022年に何が起こるか。筆者が書いたように、おそらくBoxが大胆な行動を起こす時が来た。KKRの資金の一部を使って隣接する機能を買収するのではないか。

国防総省がJEDIを廃止し、新たなクラウド構想を発表

100億ドル(約1兆1500億円)の10年にわたるJEDIクラウド契約は、2018年に発表されたその日から、ドラマに満ちていた。その間、筆者は関連する記事を30本以上書いていたので、2021年ついに国防総省がそれを潰すと決めたときは、大きなニュースだった。

当初から、これまでの常識では、Amazonが勝つための契約だと言われてきた。RFP(事業者公募書類)がAmazonを意識して書かれているという不満もあったが、最終的に契約を獲得したのはMicrosoft(マイクロソフト)だった。だがAmazonは、前大統領がWashington Post(ワシントンポスト)紙のオーナーでもあるAmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏を個人的に嫌っていたため、調達プロセスに直接介入してきたとして、裁判に訴えた。また、Amazonは、実力では自社が勝つとも主張した。

Amazonは2020年2月、このプロジェクトを保留にするよう判事を説得することに成功した。プロジェクトが再開されることはなく、国防総省は7月に新しいプロジェクトに移行することを決めた。また、2018年から技術が変わったとし(これは事実)、新しい構想ではJEDIで追求した勝者総取り方式ではなく、マルチベンダー方式で進めることを賢明にも決定した。

DellがVMwareをスピンアウト

2015年にDell(デル)がEMCを670億ドル(約7兆7000億円、後に580億ドル[約6兆6700億円]に修正)で買収したとき、それはテック史上最大の取引であり、長年にわたって追いかけて書くべき、もう1つの凄い話だった。VMware(ヴィエムウェア)はこの取引で最も価値ある資産であったため、筆者のような企業記者たちは、Dellがそれをどうするつもりなのか、目を光らせていた。しかし、2021年の初め、Dellが90億ドル(約1兆350億円)規模のスピンアウトを発表し、大きな話題となった。

EMC買収による多額の影響がまだ帳簿に残っていることを考えると、少し小さい金額のような気もした。来年はどうなるのだろうか。Dellから解放されたVMwareをどこかが買収する可能性はあるのだろうか。Dellは依然として大株主であり、EMC買収にともなう負債残高もまだ多額にのぼるため、2022年には間違いなく注目される存在になるはずだ。

5つだけ選ぶのは難しい。どうしても価値あるストーリーを外してしまう。あなたなら何を選ぶだろうか。コメントで教えて欲しい。

画像クレジット:EschCollection / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

2021年に倒産した米国スタートアップを振り返る

2020年、この特集記事の導入部分を書いたときは、2021年のその頃になっても、まだ私たちがいろいろな意味でその健康問題に強く影響を受けているとはまったく思っていなかった。2021年もまたホリデーシーズンもまた新種のウイルスに襲われ、さらにいろいろなことが変化しそうだ。そう、今はそんな状況だ。

しかし意外なことに、現在もまだグローバルなパンデミックのまっただ中であるにも関わらず2021年は、前年ほど多くの、有名なスタートアップの喪失が印象に残るという年ではなかった。

パンデミックの最初の1年は、すでにあっぷあっぷだった多くの企業にとって、まさに最後の藁のようなものだったのかもしれない。あるいは、資本ソースの流入で、水面上に頭を上げているのかもしれない。新型コロナウイルスで世界が一変した結果、ピボットに成功した企業もあれば、誕生した企業もある。

2021年は、QuibiやEssentialのような、2020年にあったような超大型の倒産もほぼなかった。しかし、パンデミックでない年でも、スタートアップを存続させることは非常に難しい課題であり、誰もが無傷で新年を迎えることができたわけではない。

Abundant Robotics(2016-2021)

総調達額:1200万ドル(約13億8000万円)

画像クレジット:Abundant

これは、うまくいけば2021年をロボティクススタートアップの記念すべき年にしたであろうスタートアップの、大失敗だ。ある意味でAbundantは、アグリテックのスタートアップとしてカーブの先頭を走っていた。それはどちらかというと、脱落者の多いカーブだった。最初の商用展開を行ってからわずか2年の、このリンゴの収穫ロボット企業は、静かに店を閉じた。同社はそれまでに1200万ドルを調達し、その中にはGV(元Google Ventures)が2017年にリードした1000万ドル(約11億5000万円)のシリーズAもあった。

農家は労働力不足が続く中で、ロボティクスとオートメーションに真剣に期待している。その中でJohn Deereのような企業は、自家製と買収によるソリューションに多くを投資している。果物農家のための大規模な収穫機ロボットなんて、そんなに難しくはないだろう、と誰もが思いがちだが、問題はどこがそれを作るかだ。

10月に、Waverly Labs hadがAbundantのIPを買収したことが報じられた。同社の技術は、形を変えて生き残るのだ。

Chanje(2015-2021)

画像クレジット:Chanje

2018年の11月にTechCrunchは、FedExがデリバリーバンの車隊を本格的に電動化するために無名のスタートアップと提携している、と報じた。同社はそのとき、2015年に創業されたカリフォルニアの中国が支援するスタートアップChanje Energyから1000台の電動デリバリーバンを導入する、と発表した。それまでの数年間でChanjeは、電動デリバリーバンを中国から輸入してFedExやRyderのような企業や、さらにAmazon(アマゾン)にさえ販売する企業として知られるようになっていた。そしてFedExなどの企業は、米国時間12月15日のThe Vergeの記事によれば、同社が2021年のある時期に「密かに店をたたんだ」ので、前のめりにずっこけてしまった。同社CEOの、一部の社員によれば「カリスマ的」で「自己陶酔型」の、Bryan Hansel(ブライアン・ヘンゼル)氏が提携していた中国企業が倒産した。ヘンゼル氏は投資家たちにChanjeの破片の買上げを訴えたが、無駄だった。The Vergeによると彼は、メモリアルデーの週末の前の金曜日に、Chanjeの最後の社員たちを解雇した。

報道によるとChanjeには元社員従業員たちに対する何カ月分もの給与とボーナスのバックペイ(法的に支払い義務のある未払賃金)があり、少なくとも4人が同社を訴えている。またRyderはChanjeがまだ同社に納車していない多くのバンに関して300万ドル(約3億4000万円)ほどの訴訟を起こしている。一方、FedExは、2018年に契約した1000台の電動バンをChanjeから受け取っていない。この宅配大手は、カリフォルニア州全域のFedExの補給基地に整備する予定だった充電インフラストラクチャの建設プロジェクトも、放棄せざるをえなくなった。その充電インフラにすでに投じた数百万ドル(数億円)の一部を取り戻そうとして、FedExはChanjeを訴えているが、見通しは暗い。

Dark Sky(2012-2021)

画像クレジット:Dark Sky

2020年3月にApple(アップル)は、天気予報アプリDark Skyを買収した。それは、地方重視の天気予報として人気があった。Appleも当然その機能に目を付け、それらの多くをiPhoneの天気予報アプリに導入した。最初からAppleは、Androidアプリは7月に閉鎖と契約していた。しかしそのiOSアプリとAPIサービスの命運は不確かだった。そのAPIサービスは他の開発者も利用し、Dark Skyの天気予報と天候データの履歴にアクセスできた。

2021年6月に、iOSアプリとAPIサービスは公式の期限を迎え、共同創業者のAdam Grossman(アダム・グロスマン)氏は「既存の顧客に対するDark SkyのAPIサービスのサポートは2022年末まで続ける。iOSアプリとDark Skyのウェブサイトも2022年末まで可利用である」と書いた。これはアプリとAPIの明示的な閉鎖発表ではないが、実質的には閉鎖だった。

Katerra(2015-2021)

総調達額:20億ドル(約2299億1000万円)

画像クレジット:Katerra

かつてKaterraは、建設テックの世界でアイドルだった。同社はプレハブ建築を主流にし、しかもクールにしたと言われる。成長とともにKaterraは意欲的になり、建設プロジェクトを軸とするテクノロジースタックを自分で持とうとした。オフィスビルでも、あるいはアパートでも。しかし2020年の終わりごろには、深刻な問題が起こった。同社は第11条倒産の瀬戸際といわれ、そのとき日本の投資コングロマリットであるソフトバンクが2億ドル(約230億円)で救済に乗り出したが、それは少なすぎ、遅すぎた。建設工程を上から下まで垂直統合するKaterraのやり方は、労賃と建築費用の高騰に追随できず、随所で納期遅れや費用超過に見舞われた。パンデミックも、遅れに貢献した。また、経理の不正が見つかり、頭痛に輪をかけた、とThe Wall Street Journalは述べている。

そのため、2021年6月1日にKatteraが20億ドルの投資を使い尽くした挙げ句、公式に閉鎖したと報じられても、大きなショックではなかった(最初にThe Informationがそのニュースを報じた)。2015年に創業したKaterraは、一時期40億ドル(約4598億6000蔓延)と評価され、8000人ほどの従業員を抱えた。閉鎖したときの従業員数は約2400名だったといわれる。この失敗は、最近の数年間で苦境を抱えたソフトバンク系大物プロプテックとして2番目にあたる。最初はWeWorkだった。Katerraの内部崩壊が全体としての建設テック産業への不信を招くかと思われたが、2021年、この分野には大きな投資が相次いだ。

Loon(2015-2021)

画像クレジット:Alphabet

9年間高く飛び続けたAlphabet(アルファベット)のLoonは、2021年早く地球に舞い降りたことがその最後の任務だった。2年あまり、Xの卒業生のスピンオフだったが、同社はこの、気球を使って恵まれない地域にインターネットの接続を提供するプロジェクトを地上に戻した。LoonのCEOであるAlastair Westgarth(アラステア・ウェストガース)氏はブログで、このプロジェクトは要するに利益を上げなかったのだと述べている。

「パートナー志願者はいくつも現れたが、長期的でサステナブルなビジネスを十分築けるほどの低コストを実現できなかった。ラジカルな新しいテクノロジーは本質的にリスクを抱えているが、かといってこのニュースを軽卒に伝えることはできない」。

Loonによると、技術そのものは今後も生き続けて、すでにProject Taaraのような装備で生き続けている。これまたAlphabet Xのムーンショットの1つで、光通信で高速インターネットを提供することを狙っている。9月にAlphabetは、さらに200件の特許をSoftBankに渡し、それらを同社のHigh Altitude Platform Stations(HAPS)で使ってもらうことになった。Alphabetのもう1つの空高く飛ぶムーンショットの仲間であるWingは相変わらず元気がいい

Houseparty(2015-2021)

画像クレジット:TechCrunch

日没の前のHousepartyは、空高くそびえた。パンデミックの初期のイニングでは、このソーシャルビデオチャットのアプリは、1カ月の新規ユーザー獲得数が5000万と主張した。隔離を課せられた人類は、バーチャルな接続を求めるからだ。しかし早回しをして今日このごろを見れば、Housepartyのパンデミック景気は同社の長寿に貢献しなかったようだ。9月にEpic Gamesは、Housepartyを10月に閉鎖すると発表した。同社を3500万ドル(約40億2000万円)で買収したと報じられてから、2年ちょっとしか経っていない。

かつて大人気だったこのアプリが閉鎖する理由は、いくつか考えられる。Clubhouseの上昇や、Zoomが必然的にもたらす疲労もあるだろう。閉鎖を発表するスレッドでHousepartyのCEOで共同創業者のSima Sistani(シマ・シスタニ)氏は、戦略の変化にすぎないと暗示している。

「メタバースというビジョンや、私たちがEpic Gamesで取り組んでいたプロダクトも、体験の共有がテーマだ。しかしそれは2Dのビデオよりリッチな形であり、むしろ、次世代のインターネットを形作る形式と位置づけるべきものだろう」とシスタニ氏はいう。

HousepartyはFortniteの音声チャットの中核的技術や、Epic Gamesのメタバースのもっと大きなプロジェクトの中で生き続けるだろう。

Pearl Automation(2014-2021)

自動車のアクセサリーを作っていたPearl Automationは、ステルスを脱してからわずか1年後に閉鎖した。元Apple(アップル)の技術者が作ったPearlは、ワイヤレスのリアビューカメラを披露し、すでに499.99ドル(約5万7500円)で発売していた。

2016年のTechCrunchレビュー記事でDarrell Etheringtonが「完全な魚眼体験、またはディスプレイの隅から隅までクルマの後方スペースで埋め尽くすワープ補正されたビューの間で切り替えることができる。また、必要に応じて、より多くの空や地面を見るために、ビューを上下に回転させることが可能だ」とまとめている。

Etheringtonはこの製品の工業デザインと最小限のソフトウェアを気に入っているが、アップグレードが必要な高級品とも述べている。「それでもこれは、特定のユーザー向けの製品だ。職人技の名機を愛する人、そのためにお金を払える人、最初から後部カメラのある現代のクルマを持っていない人、そして近く買い換える気のない人だ」。2021年は、これらの特殊な客層が同社を支えられなかったようだ。

Axiosによると、閉鎖の原因は売上の不振と、VCから5000万ドル(約57億5000万円)を調達したにもかかわらず高いバーンレート(資本燃焼率)だ。Crunchbaseによると、投資家はAccel、Venrock、Shasta Ventures、そしてWellcome Trustだった。

残念賞

Fry’s Electronics

ダラス2021年2月26日、米国の電子製品チェーンストアFry’s Electronicsは、そのすべての店舗を恒久的に閉鎖すると発表した。同社ウェブサイト上の声明によると「恒久的で全面的な終業という困難な決定をした」理由は消費者の購入習慣の変化と新型コロナウイルスパンデミックの蔓延だ。Fry’s Electronicsは米国の9つの州に31のストアがあった。テキサス州プレイノウの閉店したFry’s Electronicsのストア2021年2月25日撮影(画像クレジット:Xinhua/Dan Tian/Getty Images)

注意:これはスタートアップではないが、ここにないと寂しい。ベイエリアで生まれたこのエレクトロニクスチェーン店の2月の閉鎖は、同店の通路をうろつきながら成長した多くの人びとの心に、ポッカリと大きな穴を開けてしまっただろう。少年の私がうろついたのはフリーモント店で、外装の1893年万博のテーマはどうでもよかったが、店内で見たテスラコイルに魅了された。

現在のようなAmazon(アマゾン)が支配する世界で、Circuit Cityはすでになく、RadioShackも影が薄い。そんな中で、この奇妙で美しい獣が、できうるかぎり長生きしたことは、すごいの一言しかない。ピーク時にはFryの大型店は9つの州に34あった。しかし結局は、物理店だけという不利な環境に対して新型コロナが致命傷になった。これらの大型店は、跡地がものすごく大きいので、都市計画の難題になっている。

LGのスマートフォン

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto/Getty Images(Image has been modified)

過去2年間の他のパンデミックによる損失と違い、LGのモバイル部門の死は長い間待たねばならなかった。韓国の巨大エレクトロニクス企業は、Samsung、Appleそしてますます増えている中国のメーカーが支配する市場についていけなかっただけなのだ。4月に、LGはテレビやその他のスマートホーム製品にもっと時間を費やすために、携帯電話からの撤退を発表した。

Visionrare(2021-2021?)

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

そしてそのビジョンは本当に稀だった。創業者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クレアハウト)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏がVisionrareを立ち上げたとき、彼らは2つのトレンドを結びつけた。投資のゲーム化とNFTへの関心の高まりだ。その最終結果は、ユーザーがさまざまなスタートアップのNFTによる株を売買して人工的なポートフォリを築き、他と競合するプラットフォームだった。それにはY Combinatorのスタートアップの一部すら加わった。

暗号技術という側面は別として、Visionrareのピッチは興味深かった。その偽装的な株式市場は、非公認の投資家がそこからスタートアップへの投資の実績を得る可能性があり、いずれは、「次の採用候補者を探しているVCのためのシグナルになる」だろう。

そんなのバズワードの一種だ、と思っている方もおられると思うが、でも一部の起業家や投資家の言葉は違う。その言葉とは「違法」だ。投資のセキュリティがあればそのプラットフォームは合法だったのか? 本物のスタートアップの株を新しいNFTで売ることにともなう「法的複雑性」を過小評価して、共同創業者たちが有料マーケットプレイスを閉鎖してしまったという反感もある。

暗号資産のマーケットプレイスに難しい議論はないが、新興の業態へのVisionrare流のアプローチは警報ベルを鳴らした。そしてそれは、そんなに頻繁に起きることではない。にもかかわらず創業者たちは、同社をいずれ再ローンチすると約束している。彼らのLinkedInには継続して協働中とあり「新しいプロダクト」を作っているそうだ。

Nuzzel(2012-2021)

10年近く前にFriendsterのJonathan AbramsがNuzzelを立ち上げた。そのソーシャルなニュースリードサービスは、読んでる記事のヘッドラインを高輝度で表示し、友だちとシェアできた。そのシンプルで知的なスタートアップはすぐに熱心なファンができて、特に個人化されたタイムラインを欲しがるTwitterユーザーが多かった。Crunchbaseによると、Nuzzelは投資家から5100万ドル(約58億6000万円)を調達し、その中にはSalesforceのCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏もいた。

2019年にNuzzelはScrollに買収され、当時後者はそのサブスクリプションサービスにアグリゲーションとキュレーションを加えたがっていた。NuzzelのチームからフルタイムでScrollに加わった者はいなかったが、アプリは以前どおりに使えた。ただし、2021年までは。

5月にTwitterがScrollをすくい上げ、同時にNuzzelを閉鎖した。後に削除されたブログ記事でNuzzelのチームは、Twitterとともにスケールするには再構築が必要と説明した。

ScrollのCEOであるTony Haile(トニー・ハイレ)氏は消されたポストでで「Nuzzelを愛し、当面、現在のままのNuzzelを維持できないことに落胆された方に申し上げるが、私もみなさんと同様に落胆している。さまざまな奇跡のような延命策を探したが、どれもだめだった。将来に関しては、Nuzzelの機能性はTwitterの一部として常に感じられるので、そのような結果に導けたことは良かったと思う」。

それから数カ月後に、良いニュースが飛び込んできた。私たちが知っていたNuzzelはもはやないが、そのアプリのもっとも愛された機能をTwitterは復活した。そのTop Stories機能は、Twitter Blueの有料サブスクリプションサービスでデビューする

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Brian Heater、Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

2021年に倒産した米国スタートアップを振り返る

2020年、この特集記事の導入部分を書いたときは、2021年のその頃になっても、まだ私たちがいろいろな意味でその健康問題に強く影響を受けているとはまったく思っていなかった。2021年もまたホリデーシーズンもまた新種のウイルスに襲われ、さらにいろいろなことが変化しそうだ。そう、今はそんな状況だ。

しかし意外なことに、現在もまだグローバルなパンデミックのまっただ中であるにも関わらず2021年は、前年ほど多くの、有名なスタートアップの喪失が印象に残るという年ではなかった。

パンデミックの最初の1年は、すでにあっぷあっぷだった多くの企業にとって、まさに最後の藁のようなものだったのかもしれない。あるいは、資本ソースの流入で、水面上に頭を上げているのかもしれない。新型コロナウイルスで世界が一変した結果、ピボットに成功した企業もあれば、誕生した企業もある。

2021年は、QuibiやEssentialのような、2020年にあったような超大型の倒産もほぼなかった。しかし、パンデミックでない年でも、スタートアップを存続させることは非常に難しい課題であり、誰もが無傷で新年を迎えることができたわけではない。

Abundant Robotics(2016-2021)

総調達額:1200万ドル(約13億8000万円)

画像クレジット:Abundant

これは、うまくいけば2021年をロボティクススタートアップの記念すべき年にしたであろうスタートアップの、大失敗だ。ある意味でAbundantは、アグリテックのスタートアップとしてカーブの先頭を走っていた。それはどちらかというと、脱落者の多いカーブだった。最初の商用展開を行ってからわずか2年の、このリンゴの収穫ロボット企業は、静かに店を閉じた。同社はそれまでに1200万ドルを調達し、その中にはGV(元Google Ventures)が2017年にリードした1000万ドル(約11億5000万円)のシリーズAもあった。

農家は労働力不足が続く中で、ロボティクスとオートメーションに真剣に期待している。その中でJohn Deereのような企業は、自家製と買収によるソリューションに多くを投資している。果物農家のための大規模な収穫機ロボットなんて、そんなに難しくはないだろう、と誰もが思いがちだが、問題はどこがそれを作るかだ。

10月に、Waverly Labs hadがAbundantのIPを買収したことが報じられた。同社の技術は、形を変えて生き残るのだ。

Chanje(2015-2021)

画像クレジット:Chanje

2018年の11月にTechCrunchは、FedExがデリバリーバンの車隊を本格的に電動化するために無名のスタートアップと提携している、と報じた。同社はそのとき、2015年に創業されたカリフォルニアの中国が支援するスタートアップChanje Energyから1000台の電動デリバリーバンを導入する、と発表した。それまでの数年間でChanjeは、電動デリバリーバンを中国から輸入してFedExやRyderのような企業や、さらにAmazon(アマゾン)にさえ販売する企業として知られるようになっていた。そしてFedExなどの企業は、米国時間12月15日のThe Vergeの記事によれば、同社が2021年のある時期に「密かに店をたたんだ」ので、前のめりにずっこけてしまった。同社CEOの、一部の社員によれば「カリスマ的」で「自己陶酔型」の、Bryan Hansel(ブライアン・ヘンゼル)氏が提携していた中国企業が倒産した。ヘンゼル氏は投資家たちにChanjeの破片の買上げを訴えたが、無駄だった。The Vergeによると彼は、メモリアルデーの週末の前の金曜日に、Chanjeの最後の社員たちを解雇した。

報道によるとChanjeには元社員従業員たちに対する何カ月分もの給与とボーナスのバックペイ(法的に支払い義務のある未払賃金)があり、少なくとも4人が同社を訴えている。またRyderはChanjeがまだ同社に納車していない多くのバンに関して300万ドル(約3億4000万円)ほどの訴訟を起こしている。一方、FedExは、2018年に契約した1000台の電動バンをChanjeから受け取っていない。この宅配大手は、カリフォルニア州全域のFedExの補給基地に整備する予定だった充電インフラストラクチャの建設プロジェクトも、放棄せざるをえなくなった。その充電インフラにすでに投じた数百万ドル(数億円)の一部を取り戻そうとして、FedExはChanjeを訴えているが、見通しは暗い。

Dark Sky(2012-2021)

画像クレジット:Dark Sky

2020年3月にApple(アップル)は、天気予報アプリDark Skyを買収した。それは、地方重視の天気予報として人気があった。Appleも当然その機能に目を付け、それらの多くをiPhoneの天気予報アプリに導入した。最初からAppleは、Androidアプリは7月に閉鎖と契約していた。しかしそのiOSアプリとAPIサービスの命運は不確かだった。そのAPIサービスは他の開発者も利用し、Dark Skyの天気予報と天候データの履歴にアクセスできた。

2021年6月に、iOSアプリとAPIサービスは公式の期限を迎え、共同創業者のAdam Grossman(アダム・グロスマン)氏は「既存の顧客に対するDark SkyのAPIサービスのサポートは2022年末まで続ける。iOSアプリとDark Skyのウェブサイトも2022年末まで可利用である」と書いた。これはアプリとAPIの明示的な閉鎖発表ではないが、実質的には閉鎖だった。

Katerra(2015-2021)

総調達額:20億ドル(約2299億1000万円)

画像クレジット:Katerra

かつてKaterraは、建設テックの世界でアイドルだった。同社はプレハブ建築を主流にし、しかもクールにしたと言われる。成長とともにKaterraは意欲的になり、建設プロジェクトを軸とするテクノロジースタックを自分で持とうとした。オフィスビルでも、あるいはアパートでも。しかし2020年の終わりごろには、深刻な問題が起こった。同社は第11条倒産の瀬戸際といわれ、そのとき日本の投資コングロマリットであるソフトバンクが2億ドル(約230億円)で救済に乗り出したが、それは少なすぎ、遅すぎた。建設工程を上から下まで垂直統合するKaterraのやり方は、労賃と建築費用の高騰に追随できず、随所で納期遅れや費用超過に見舞われた。パンデミックも、遅れに貢献した。また、経理の不正が見つかり、頭痛に輪をかけた、とThe Wall Street Journalは述べている。

そのため、2021年6月1日にKatteraが20億ドルの投資を使い尽くした挙げ句、公式に閉鎖したと報じられても、大きなショックではなかった(最初にThe Informationがそのニュースを報じた)。2015年に創業したKaterraは、一時期40億ドル(約4598億6000蔓延)と評価され、8000人ほどの従業員を抱えた。閉鎖したときの従業員数は約2400名だったといわれる。この失敗は、最近の数年間で苦境を抱えたソフトバンク系大物プロプテックとして2番目にあたる。最初はWeWorkだった。Katerraの内部崩壊が全体としての建設テック産業への不信を招くかと思われたが、2021年、この分野には大きな投資が相次いだ。

Loon(2015-2021)

画像クレジット:Alphabet

9年間高く飛び続けたAlphabet(アルファベット)のLoonは、2021年早く地球に舞い降りたことがその最後の任務だった。2年あまり、Xの卒業生のスピンオフだったが、同社はこの、気球を使って恵まれない地域にインターネットの接続を提供するプロジェクトを地上に戻した。LoonのCEOであるAlastair Westgarth(アラステア・ウェストガース)氏はブログで、このプロジェクトは要するに利益を上げなかったのだと述べている。

「パートナー志願者はいくつも現れたが、長期的でサステナブルなビジネスを十分築けるほどの低コストを実現できなかった。ラジカルな新しいテクノロジーは本質的にリスクを抱えているが、かといってこのニュースを軽卒に伝えることはできない」。

Loonによると、技術そのものは今後も生き続けて、すでにProject Taaraのような装備で生き続けている。これまたAlphabet Xのムーンショットの1つで、光通信で高速インターネットを提供することを狙っている。9月にAlphabetは、さらに200件の特許をSoftBankに渡し、それらを同社のHigh Altitude Platform Stations(HAPS)で使ってもらうことになった。Alphabetのもう1つの空高く飛ぶムーンショットの仲間であるWingは相変わらず元気がいい

Houseparty(2015-2021)

画像クレジット:TechCrunch

日没の前のHousepartyは、空高くそびえた。パンデミックの初期のイニングでは、このソーシャルビデオチャットのアプリは、1カ月の新規ユーザー獲得数が5000万と主張した。隔離を課せられた人類は、バーチャルな接続を求めるからだ。しかし早回しをして今日このごろを見れば、Housepartyのパンデミック景気は同社の長寿に貢献しなかったようだ。9月にEpic Gamesは、Housepartyを10月に閉鎖すると発表した。同社を3500万ドル(約40億2000万円)で買収したと報じられてから、2年ちょっとしか経っていない。

かつて大人気だったこのアプリが閉鎖する理由は、いくつか考えられる。Clubhouseの上昇や、Zoomが必然的にもたらす疲労もあるだろう。閉鎖を発表するスレッドでHousepartyのCEOで共同創業者のSima Sistani(シマ・シスタニ)氏は、戦略の変化にすぎないと暗示している。

「メタバースというビジョンや、私たちがEpic Gamesで取り組んでいたプロダクトも、体験の共有がテーマだ。しかしそれは2Dのビデオよりリッチな形であり、むしろ、次世代のインターネットを形作る形式と位置づけるべきものだろう」とシスタニ氏はいう。

HousepartyはFortniteの音声チャットの中核的技術や、Epic Gamesのメタバースのもっと大きなプロジェクトの中で生き続けるだろう。

Pearl Automation(2014-2021)

自動車のアクセサリーを作っていたPearl Automationは、ステルスを脱してからわずか1年後に閉鎖した。元Apple(アップル)の技術者が作ったPearlは、ワイヤレスのリアビューカメラを披露し、すでに499.99ドル(約5万7500円)で発売していた。

2016年のTechCrunchレビュー記事でDarrell Etheringtonが「完全な魚眼体験、またはディスプレイの隅から隅までクルマの後方スペースで埋め尽くすワープ補正されたビューの間で切り替えることができる。また、必要に応じて、より多くの空や地面を見るために、ビューを上下に回転させることが可能だ」とまとめている。

Etheringtonはこの製品の工業デザインと最小限のソフトウェアを気に入っているが、アップグレードが必要な高級品とも述べている。「それでもこれは、特定のユーザー向けの製品だ。職人技の名機を愛する人、そのためにお金を払える人、最初から後部カメラのある現代のクルマを持っていない人、そして近く買い換える気のない人だ」。2021年は、これらの特殊な客層が同社を支えられなかったようだ。

Axiosによると、閉鎖の原因は売上の不振と、VCから5000万ドル(約57億5000万円)を調達したにもかかわらず高いバーンレート(資本燃焼率)だ。Crunchbaseによると、投資家はAccel、Venrock、Shasta Ventures、そしてWellcome Trustだった。

残念賞

Fry’s Electronics

ダラス2021年2月26日、米国の電子製品チェーンストアFry’s Electronicsは、そのすべての店舗を恒久的に閉鎖すると発表した。同社ウェブサイト上の声明によると「恒久的で全面的な終業という困難な決定をした」理由は消費者の購入習慣の変化と新型コロナウイルスパンデミックの蔓延だ。Fry’s Electronicsは米国の9つの州に31のストアがあった。テキサス州プレイノウの閉店したFry’s Electronicsのストア2021年2月25日撮影(画像クレジット:Xinhua/Dan Tian/Getty Images)

注意:これはスタートアップではないが、ここにないと寂しい。ベイエリアで生まれたこのエレクトロニクスチェーン店の2月の閉鎖は、同店の通路をうろつきながら成長した多くの人びとの心に、ポッカリと大きな穴を開けてしまっただろう。少年の私がうろついたのはフリーモント店で、外装の1893年万博のテーマはどうでもよかったが、店内で見たテスラコイルに魅了された。

現在のようなAmazon(アマゾン)が支配する世界で、Circuit Cityはすでになく、RadioShackも影が薄い。そんな中で、この奇妙で美しい獣が、できうるかぎり長生きしたことは、すごいの一言しかない。ピーク時にはFryの大型店は9つの州に34あった。しかし結局は、物理店だけという不利な環境に対して新型コロナが致命傷になった。これらの大型店は、跡地がものすごく大きいので、都市計画の難題になっている。

LGのスマートフォン

画像クレジット:Joan Cros/NurPhoto/Getty Images(Image has been modified)

過去2年間の他のパンデミックによる損失と違い、LGのモバイル部門の死は長い間待たねばならなかった。韓国の巨大エレクトロニクス企業は、Samsung、Appleそしてますます増えている中国のメーカーが支配する市場についていけなかっただけなのだ。4月に、LGはテレビやその他のスマートホーム製品にもっと時間を費やすために、携帯電話からの撤退を発表した。

Visionrare(2021-2021?)

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

そしてそのビジョンは本当に稀だった。創業者のJacob Claerhout(ジェイコブ・クレアハウト)氏とBoris Gordts(ボリス・ゴーツ)氏がVisionrareを立ち上げたとき、彼らは2つのトレンドを結びつけた。投資のゲーム化とNFTへの関心の高まりだ。その最終結果は、ユーザーがさまざまなスタートアップのNFTによる株を売買して人工的なポートフォリを築き、他と競合するプラットフォームだった。それにはY Combinatorのスタートアップの一部すら加わった。

暗号技術という側面は別として、Visionrareのピッチは興味深かった。その偽装的な株式市場は、非公認の投資家がそこからスタートアップへの投資の実績を得る可能性があり、いずれは、「次の採用候補者を探しているVCのためのシグナルになる」だろう。

そんなのバズワードの一種だ、と思っている方もおられると思うが、でも一部の起業家や投資家の言葉は違う。その言葉とは「違法」だ。投資のセキュリティがあればそのプラットフォームは合法だったのか? 本物のスタートアップの株を新しいNFTで売ることにともなう「法的複雑性」を過小評価して、共同創業者たちが有料マーケットプレイスを閉鎖してしまったという反感もある。

暗号資産のマーケットプレイスに難しい議論はないが、新興の業態へのVisionrare流のアプローチは警報ベルを鳴らした。そしてそれは、そんなに頻繁に起きることではない。にもかかわらず創業者たちは、同社をいずれ再ローンチすると約束している。彼らのLinkedInには継続して協働中とあり「新しいプロダクト」を作っているそうだ。

Nuzzel(2012-2021)

10年近く前にFriendsterのJonathan AbramsがNuzzelを立ち上げた。そのソーシャルなニュースリードサービスは、読んでる記事のヘッドラインを高輝度で表示し、友だちとシェアできた。そのシンプルで知的なスタートアップはすぐに熱心なファンができて、特に個人化されたタイムラインを欲しがるTwitterユーザーが多かった。Crunchbaseによると、Nuzzelは投資家から5100万ドル(約58億6000万円)を調達し、その中にはSalesforceのCEOであるMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏もいた。

2019年にNuzzelはScrollに買収され、当時後者はそのサブスクリプションサービスにアグリゲーションとキュレーションを加えたがっていた。NuzzelのチームからフルタイムでScrollに加わった者はいなかったが、アプリは以前どおりに使えた。ただし、2021年までは。

5月にTwitterがScrollをすくい上げ、同時にNuzzelを閉鎖した。後に削除されたブログ記事でNuzzelのチームは、Twitterとともにスケールするには再構築が必要と説明した。

ScrollのCEOであるTony Haile(トニー・ハイレ)氏は消されたポストでで「Nuzzelを愛し、当面、現在のままのNuzzelを維持できないことに落胆された方に申し上げるが、私もみなさんと同様に落胆している。さまざまな奇跡のような延命策を探したが、どれもだめだった。将来に関しては、Nuzzelの機能性はTwitterの一部として常に感じられるので、そのような結果に導けたことは良かったと思う」。

それから数カ月後に、良いニュースが飛び込んできた。私たちが知っていたNuzzelはもはやないが、そのアプリのもっとも愛された機能をTwitterは復活した。そのTop Stories機能は、Twitter Blueの有料サブスクリプションサービスでデビューする

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Brian Heater、Mary Ann Azevedo、Natasha Mascarenhas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

2022年、注目すべき東南アジアのスタートアップ

東南アジアのスタートアップや資金調達の話を取材している私にとって、2021年を表す言葉としては、「whoa!(うわぁ!)」がぴったりだ。2021年は、世界の投資家がこの地域の技術エコシステムに注目し始めただけでなく、実際に資金を投入し始めた年でもあった。

国際的なパートナーに支えられて、Alpha JWCAC VenturesJungle Venturesなどの東南アジアに特化したVCが、過去最大の資金を調達した。

関連記事:インドネシアのVC、Alpha JWCが490億円の第3号ファンドを組成、東南アジア最大のアーリーステージ対象のVCファンドに

The Kenの報道によると、Grab(グラブ)やSea(シー)のIPOのようなエグジットが東南アジアのスタートアップエコシステムへの関心を高める中で、米国のVCであるA16z、Valar Ventures、Hedosophia、Goodwater Capitalなども、地域事務所を設立している(あるいは設立を計画している)。Golden Gate Venturesの包括的なレポートでは、BとCラウンドの増加もあって、記録的な数のエグジットを予測している

「東南アジア」という言葉を使うのは、いつも少し気が引けているのだが、それはこの地域があまりにも大きく複雑だからだ。もちろん簡潔に表現したい場合には一番簡単な選択肢なのだが。東南アジアは11カ国で構成されていて、たとえばシンガポール、ミャンマー、ラオス、ベトナム、フィリピン、インドネシアの間には当然ながら大きな違いがある。

グローバルな金融センターとして知られるシンガポールのスタートアップエコシステムは、近隣諸国と比べると独自のカテゴリーに属していると言えるだろう。特にインドネシアは、世界第4位の経済大国であり、人口2億7350万人に達する東南アジアで最も人口の多い国であるため、特別な注意が必要だ。両国とも2021年にはかなりの数のユニコーンを輩出している。たとえばシンガポールでは、Ninja Van(ニンジャバン)、Carousell(カルーセル)、Carro(キャロ)、Nium(ニウム)などがユニコーンのステータスを獲得したスタートアップだ。

シンガポールのスタートアップは他の東南アジア諸国(Niumの場合は米国とラテンアメリカ)に焦点を当てる傾向があるが、一方インドネシアを拠点とする創業者たちは、中長期的な国際展開計画を持っていたのかもしれないが、私が話をした創業者の多くは、少なくとも来年は国内展開に焦点を当てる計画のようだ。インドネシアは広大なだけでなく、地理的にも複雑で、1万7000以上の島があり、そのうち約6000の島に人が住んでいる。通常スタートアップ企業は、グレーター・ジャカルタ地域で事業を開始した後、バンドンやスラバヤなどの主要都市に進出する傾向があったが、特にフィンテックやeコマースのスタートアップ企業を中心に、いまや多くの企業が小規模な都市に注目している。

以下にご紹介するのは、2021年に飛躍し2022年に注目すべきいくつかの分野だ。

投資用アプリ

ミレニアル世代や初めての個人投資家を対象とした多くの投資アプリが、2021年初めに小規模なアーリーステージのラウンドで調達を行ったが、数カ月後にはそれよりはるかに大きな追加調達が行われた。例えばインドネシアを拠点とする暗号資産に特化したPintu(ピントゥ)、ロボアドバイザーのBibit(ビビット)、Ajaib(アジャイブ)、Pluang(プルアン)、シンガポールを拠点とするSyfe(セイフ)などがある。

インドネシアでは、個人投資の割合はまだ比較的低いが、その数はパンデミック期間中のファイナンシャル・プランニングへの関心の高まりと、株式インフルエンサーの人気によって、一部の人たちからの懸念にもかかわらず、増加している

インドネシアの中小企業に特化したスタートアップがフィンテックを深化させる

政府の発表によると、インドネシアには6200万社の中小企業(SME)があるとされているが、複数の創業者から聞いたところによると、特に家族経営の企業や個人事業主は計上されていない可能性があるため、この数字は実際よりも低くなっている可能性があるという。その正確な数はともかく、中小企業の多くはエクセルや紙の台帳で会計処理をしているため、技術系のスタートアップにとっては絶好の機会が広がっている。

最も注目すべきは、競合する2つの簿記アプリのBukuWarung(ブクワルン)とBukuKas(ブクカス)が、2021年多額の資金を調達したことだ。両社とも、当初は中小企業のデジタル化を支援することに注力していたが、最終的には、ユーザーがソフトウェアに入力したデータを利用して信用力を判断し、運転資金の融資などの金融サービスに製品を拡大する予定であるという点で互いに似通っている。

中小企業を対象とした他のスタートアップには、賃金前払いや給与管理のプラットフォームのGajiGesa(ガジゲサ)やWagely(ウェイジリー)などがある。

ソーシャルコマース

インドネシアの大都市に住んでいる人には、eコマースのプラットフォームの選択肢が多いのだが、地方では選択肢が少なくなる。これは、物流インフラが細分化されていることが一因で、商品の受け取りにコストと時間がかかることが問題なのだ(ただし、SiCepat[サイセパット]、Advoctics[アドボクティクス]、Kargo[カーゴ]、Waresix[ウェアシックス]などのスタートアップ企業もこの問題に取り組んでいる)。

そこで、中国のPinduoduo(拼多多、ピンドゥオドゥオ)やインドのMeesho(ミーショ)の成功をこの地で再現しようと、Super(スーパー)、Evermos(エバーモス)、KitaBeli(キタベリ)といったソーシャルコマースのスタートアップが登場している。いずれも、日用雑貨や食品などの生活必需品を対象としていて、同じ地域に住む人たちがまとめて注文を行うことで、サプライチェーンをより効率的かつ安価にするソーシャルコマースモデルを利用している。その意味では、少なくとも部分的には物流のスタートアップと呼ぶことも可能だ。

eコマースアグリゲーター

Thrasio(スラシオ)のように、小規模なeコマースブランドを買収するスタートアップ企業は、数年前から欧米で多くの資金を集めてきた。しかし、このようなeコマースアグリゲーターが東南アジアに進出するには、ある程度の時間が必要だった。

2021年、2つのeコマースアグリゲーターがベンチャーキャピタルからの資金提供を受けて正式に発足し、数ヵ月後にはどちらも追加の資金調達ラウンドを実施した。多くのeコマースアグリゲーターがAmazon(アマゾン)の販売者を中心に活動しているのに対して、Una Brands(ウナ・ブランズ)は「セクターは問わない」としている。アジアパシフィックを横断する有力なマーケットプレイスが存在しないため、同社はTokopedia(トコペディア)、Lazada(ラザダ)、Shopee(ショッピー)、Rakuten(楽天)、eBay(イーベイ)などのプラットフォームからブランドを探すシステムを開発した。一方、Rainforest(レインフォレスト)は、アジアのAmazon販売者に焦点を当てているが、消費財のコングロマリットであるNewell Brands(ニューウェル・ブランド)のオンライン版を目指すことで、他のアグリゲーターとの差別化を図っている。アジアを拠点とするeコマースの販売者が多いことから、Una BrandsとRainforestの両方が成長し、他のアグリゲーターが登場することも期待される。

画像クレジット:Abdul Azis/ Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:sako)

【コラム】屋上レンタル、米国の不動産所有者は5Gキャリアと手を結ぶべきだ

5Gインフラを敷設する動きが活発になり各社の競争が激しくなるに連れ、レストラン、ホテル、住居用建物、さらには病院や教会の屋上までもがインフラ敷設場所として注目されている。5Gテクノロジーを人口密度の高い地域に確立したいと考えるテレコミュニケーション会社にとって、こうした屋上は急速に重要な不動産ターゲットとなりつつある。

事実、次世代のワイヤレス展開から得られるリース収入は、今後5年間で、米国内のリース収入の大きな部分を占めると考えられており、不動産所有者や事業主にとって大きなチャンスとなる。

バイデン政権は、5Gインフラの拡大を国の主要課題として位置付けている。1.2兆ドル(約137兆円)のインフラ投資法では、農村部やサービスが十分行き届いていない地域でも高速回線を利用できるようにするための財源として650億ドル(約7兆4000億円) が確保されている。5Gは他のワイヤレステクノロジーと比べて高速で大容量のデータを処理できるが、カバーできる範囲は最大で 約1500フィート(約457メートル)と、ぐっと狭い。

5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短いため、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。

大手ワイヤレス通信プロバイダーに加え、5Gの展開競争には新たにケーブル会社やビックテック企業も含まれている。これらの企業は、5Gマクロおよびスモールセルサイトを配備するために、合わせて2750億ドル(約31兆円)を投資すると予測されている。必要な量の配備を効果的かつ効率的に行う唯一の方法は、既存の建物を利用することである。言い換えれば、5G競争を乗り切るには、屋上配備戦略の採用が鍵になるのだ。

歴史的に言って、ワイヤレス通信市場は不動産所有者やその他の事業主にとっては厳しい市場だった。ワイヤレスキャリアとタワー企業が長期契約を結んでおり、不動産所有者にとって有利とはいえない状況になっていたのだ。

多くの地域では、新しいタワーを立てることに強い反対の声があり、さらに建設、ゾーニング、許可プロセスには時間がかかる。しかし、5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短く、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。現在5Gキャリアにとって、ワイヤレスに関する不動産要件を満たすには、タワー企業より大手不動産業者のほうが、迅速に効率よくソリューションを提供してくれる相手となっている。

屋上配備戦略は、5Gキャリアにとっても不動産所有者にとっても互いにメリットがある。キャリアは使用量の多い地域でできる限り迅速にインフラを配備するという目的を達成することが可能であり、一方不動産所有者は、屋上からリース料を得、すでに所有する不動産を新たな方法で収益化するという経済的利益を得ることができる。

不動産所有者の経常利益に与える影響と、30年リースで生み出されるであろう利益は相当なものであり、不動産所有者は資本へアクセスしやすくなる。さらに不動産所有者は、5Gキャリアに屋上を貸すことで使用料を得ることができるだけでなく、高速回線への接続という意味で、テナントにより質の高いサービスを提供することもできる。

5G展開競争で問題になっている事柄

米国にとって、競争に遅れを取らず国際的な競争力を保つためにも5Gインフラの展開は非常に重要である。5Gは高速での接続、キャパシティの増加、ゼロ遅延をもたらすが、5Gにより期待されるのは、自動運転車や遠隔医療の拡大、製造や農業の効率化、サプライチェーン管理の改善まで、さまざまな事業サービスを可能にするイノベーションの推進である。

これらのイノベーションから生み出される利益すべてを考慮すると、5Gは2025年までに米国のGDPのうち、1兆5000億ドル(約170兆円)以上をもたらすと予測される。

またバイデン政権は、5Gテクノロジーとユニバーサルブロードバンドを、地方に暮らす人々に経済的な平等もたらす手段と考えている。政策声明によると、農村部では都市部と比較して信頼のおけるインターネットの利用が10分の1に限られているとのことである。

最近バイデン大統領が署名したインフラ投資法においては、大統領も国会も農村部におけるブロードバンドインフラへの投資を優先し、十分サービスが提供されていない地域でのインターネットへのアクセスを拡大し、デジタル上の分断を是正したい考えだ。このため、農村部の不動産所有者は5Gインフラの展開からより多くの利益を得ることができるだろう。

強力な5Gネットワークを米国内に確立するには時間がかかるだろう。5Gプロバイダーやワイヤレスキャリアと手を結ぶ不動産所有者は、5Gテクノロジーのサイバーセキュリティにまつわる考慮事項について、しっかり情報提供を受け、それを理解しなければならない(これらの考慮事項が、提携の足かせになると考える必要はない)。というのも不動産所有者は5Gインフラを自身の不動産に配備し、そこからのワイヤレスネットワークを入居者に提供することになるからである。

最近2,300人以上のリスク管理者および他の責任者を対象にAonが行った調査では、サイバーリスクは現在のそして将来予想される世界的リスクの第一位として位置付けられた。5Gが普及し接続性が高まることは確実である。つまり、サイバーセキュリティ業界は機械学習や人工知能を改善しそれを広く活用し防御を強化する必要があるのである。

また最近では、不動産業界におけるサイバーセキュリティ強化を促進するためのガイダンスやフレームワークを提供する Building Cyber Securityといった組織も立ち上げられている。

不動産所有者が効率よく屋上を収益化し5G競争に参画するには、政府や民間企業が5G敷設要件の審査をタイムリーに行うことも含め、引き続き迅速な5Gインフラの配備に向け協力して作業を進めていく必要がある。

これに加えて、州や地域レベルでも、5Gアンテナの敷設に関するゾーニングや認可プロセスを改善する作業をもっと進める必要がある。多くの州議会がすでに州民の利益になる5G戦略を策定するための法案を検討中であり、これにより、不動産所有者にも新たな機会が提供されることが見込まれる。

5Gの競争を促進するためは、より多くの政策や技術的な作業が必要だが、不動産所有者が利益を手にする機会は、目の前に手に取れる形で存在している。新型コロナウイルス感染症によって経済的打撃を受けたレストラン経営者やホテル業者が立ち直ろうとする中、屋上の収益化は、店を閉じるしか選択肢がなかった状態との違いを生み出すことになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者James Trainor(ジェームズ・トレーナー)氏は、FBIのサイバー部門の元アシスタントディレクターで、Aonのシニアバイスプレジデント。Rick Varnell(リック・ヴァーネル)氏とMatt Davis(マット・デイビス)氏は、いずれも5G LLCの創設者であり、プリンシパル・パートナー。

画像クレジット:skaman306 / Getty Images

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(文:James Trainor、Rick Varnell、Matt Davis、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国は対中国競争でも「スプートニク・ショック」が起こせるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治のますます複雑になっている関係を検証する。

1957年10月4日、旧ソビエト連邦がカザフスタンの草原から世界初の人工衛星を宇宙に打ち上げ、宇宙時代の幕が開けた。ビーチボールほどの大きさの、小さなアルミニウムの球体であるスプートニク1号の打ち上げは、米国にとって変革の瞬間となった。それは、米ソの宇宙開発競争の引き金となり、新しい政府機関を生む推進力となり、連邦政府の研究開発費とSTEM(科学・技術・工学・数学)教育に向ける財政的支援を大幅に増やすきっかけとなった

スプートニクが刺激を与える力となった。米国の科学技術基盤の革新に必要だった、衝撃と勢いをもたらしたのだ。近年、政府高官や議員らは、新たな「スプートニク・モーメント」(米国が技術的に他国に追い抜かれる瞬間・衝撃)を求めている。彼らは、経済面と技術面で中国に対抗するにはどうすべきかを考えている。スプートニク・モーメントはまだ訪れていないが、ワシントンでは、米国が中国に遅れをとっている、あるいは遅れをとる危険性があるとの認識が広がっている。

米中間の競争は多くの点で新しいものだが、だからといって米国の対抗手段も斬新でなければならないというわけではない。米国のイノベーションの推進者としての比類なき役割を取り戻すために、米政府はスプートニク後と同じように奮起しなければならない。中国との競争において成功を収めるために、米国の優れた才能、制度、研究開発資源を動員するのだ。

まず、約60年前のことを振り返ることが重要だ。スプートニク打ち上げ後の数カ月の間に、米政府は2つの新しい機関を設立した。1958年7月、議会は国家航空宇宙法を可決し、NASA(米航空宇宙局)を創設するとともに、国の宇宙開発計画にシビリアンコントロール(文民統制)を敷いた。NASAの主な目的は、人類を月に着陸させることだった。そのために多くの資金が注ぎ込まれた。NASAの予算は1961年から1964年の間にほぼ500%増加し、ピーク時には連邦政府支出のほぼ4.5%を占めた。NASAは米国人を月に連れて行き、また、商業的に広く応用されることになった重要技術の開発に貢献した。

さらに連邦政府は、高等研究計画局(現在の国防高等研究計画局、DARPA)を設立した。将来、技術面でのサプライズを防ぐことが使命だった。そこでの研究開発がGPS、音声認識、そして最も重要なインターネットの基礎的要素など、米国の経済競争力にとって不可欠なさまざまな技術に寄与した。

スプートニクの打ち上げは、1958年の国防教育法(NDEA)成立の動機にもなった。NDEAは、STEM教育と外国語教育に連邦政府の財源を充当し、国内初の連邦学生ローン制度を確立した。NDEAは、教育の振興を国防のニーズと明確に結びつけた。教育を米国の国家安全保障に不可欠な要素だと認めたのだ。

スプートニクは、連邦政府の研究開発費の大幅増加に拍車をかけ、今日の強力なテック企業やスタートアップのコミュニティ形成に貢献した。1960年代までに、連邦政府は米国の研究開発費の70%近くを負担するようになった。これは世界の他の国々を合わせた額よりも多い。しかし、それ以降の数十年間、政府の研究開発投資は減少した。冷戦が終結し、民間企業の研究開発支出増加に伴い、連邦政府の研究開発費の対GDP比は1972年の約1.2%から2018年には約0.7%に低下した

政策立案者は、米国が中国に対して技術的、経済的、軍事的にどう対抗すべきかを審議する際、スプートニク・モーメントで学んだ教訓を心に留めるべきだ。

第一に、スプートニクは新しい制度の創設と、研究開発支出・教育支出の増加を促す政治的資本を提供したが、こうした取り組みの多くはすでに土台ができ上がっていた。NASAは、その前身である全米航空諮問委員会の仕事を引き継いだ。NDEAの条項の多くは、以前から準備が進められていた。スプートニクは衝撃をもたらし、急を要したが、仕事の大部分とその勢いは、すでに始まっていた。米政府は今、科学技術基盤への持続的な投資に注力すべきだ。そうした投資により、米国が将来どのような課題に直面したとしても揺るがない、イノベーションの強固な基盤が確保される。

第二に、連邦政府は、技術投資を導く明確な国家目標を設定し、優先事項に貢献するよう国民を動機づけるべきだ。ケネディ大統領による月面着陸の呼びかけは、あいまいさがなく、感動的だった。そして研究開発投資の方向性を示した。政策立案者は、重要性が高いテクノロジーセクターに対し、測定可能な指標をともなう具体的な目標を設定しなければならない。その上で、そうした目標が米国の国家安全保障と経済成長をどう支えるのかを説明する必要がある。

最後に、政府の研究開発投資は目覚しい技術進歩の創出に貢献したが、その支出を配分・監督するアプローチも同様に重要だった。Margaret O’Mara(マーガレット・オマラ)氏が著書「The Code:Silicon Valley and the Remaking of America(コード:シリコンバレーとアメリカの作り直し、邦訳未刊)」で説明しているように、連邦政府の資金は「間接的」かつ「競争的」に流れ、テックコミュニティに「未来の姿を定義する驚くべき自由」を与え「技術的可能性の境界を押し広げた」。米政府は、その投資により技術競争力を強化するよう、再び注意を払わなければならない。投資が、広範で非効率な産業政策だと思われるものに変質させてはならない。

「スプートニク・モーメント」という言葉が、政府の行動や国民の関与を促そうと、しばしば引用される。実際、スプートニク後に取られた対応は、米政府のアプローチを1つにまとめ、明確な目的の下に推進した場合、何が達成できるかを示した。だが、米国のイノベーションの基盤が、その時ほどまでに改善したことはほとんどない。米政府はスプートニク後、人材、インフラ、資源に投資して、科学技術基盤を再活性化させた。それが最終的に米国の技術的覇権を確立した。今日の新しい「スプートニクの精神」は、将来にわたり米国の技術競争力を高める原動力となり得る。事は一刻を争う。

編集部注:寄稿者Megan Lamberth(ミーガン・ランバース)氏はCenter for a New American Security(CNAS)のテクノロジー・ナショナルセキュリティプログラムのアソシエイトフェロー。CNASのレポート「Taking the Helm:A National Technology Strategy to Meet the China Challenge(舵を切る:中国の挑戦に対抗する国家技術戦略)」の共著者

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Megan Lamberth、翻訳:Nariko Mizoguchi