アフリカのベンチャーキャピタル業界は着実に成長を遂げており、近年、国内外の投資家からの資金流入がかつてないレベルに達している。その成長度を示す具体的な数字を挙げると、アフリカのスタートアップが2015年に調達した資金はわずか4億ドル(約420億円)だったが、2019年にアフリカ大陸に流入した資金は20億ドル(約2100億円)に達する(アフリカに傾注するファンドPartech Africa(パーテックアフリカ)の調べによる)。
ただし、この数字だけが唯一の尺度というわけではない。 WeeTracker(ウィートラッカー)やDisrupt Africa(ディスラプトアフリカ)などのメディア刊行物は、アフリカのベンチャーキャピタル市場について異なる数字を公開している。TechCrunchでは、昨年の各社の数字を比較対照してみた。その調査の結果、集計手法の相違と類似性の詳細が明らかになった。
アフリカのスタートアップの2019年における資金調達額については、パーテックは20億ドル(約2100億円)、ウィートラッカーは13億ドル(約1400億円)、ディスラプトアフリカは4億9600万ドル(約525億円)と推定している。
この数字は2020年に増加すると予想されていた。ところが、パンデミックで投資環境は完全に混乱とパニックに陥った。投資家が戦略を練り直す中、企業は規模縮小を図り、2020年の最初の数か月はデューデリジェンスも低調だった。それでも、5月には予測が上向き、AfricArena(アフリックアリーナ)は、予想された通りの取引で、年末までに12億ドル(1300億円)~18億ドル(1900億円)の資金調達ラウンドを成功させた。
投資も上向き、7月になるとアフリカ大陸でのVCファンドは活況を呈し、それが12月まで続いた。2020年は、2019年のように大型投資が続くことはなく、投資総額が20億ドル(約2100億円)に達することもなかったが、買収にとっては良い年になった。主な例を挙げると、WorldRemit(ワールドレミット)がSendwave(センドウェーブ)を5億ドル(約530億円)で、Network International(ネットワークインターナショナル)がDPO Group(DPOグループ)を2億8800万ドル(約305億円)で、Stripe(ストライプ)がPaystack (ペイスタック)を2億ドル(約210億円)以上で買収した。
2020年のアフリカにおけるVCの投資状況を把握するため、パーテックアフリカ、ブリターブリッジ、ディスラプトアフリカの3社のデータを調べてみよう。
数字が表すもの
パーテックアフリカによると、2019年におけるアフリカのスタートアップへの投資総額は20億ドル(約2100億円)だったが、2020年には14億3000万ドル(約1510億円)まで低下したという。ブリターブリッジによると、アフリカのスタートアップへの投資総額は、2019年の12億7000万ドル(約1340億円)から2020年には(公開および未公開の両方を含め)13億1000万ドル(約1390億円)まで増加した。ディスラプトアフリカによると、この投資総額は2019年の4億9600万ドル(約525億円)から2020年には7億ドル(約740億円)まで増加したという。
昨年同様、評価対象の取引タイプからアフリカのスタートアップの定義まで、集計手法が対照的であることが数字の違いにつながっている。
パーテックのジェネラルパートナーであるCyril Collon(シリル・コロン)氏によると、同社の数字は20万ドル(約2100万円)を超える株式資本取引をベースにしているという。また、同社によるアフリカのスタートアップの定義は「運営または収益という観点で主要市場がアフリカにある企業を指し、本社や組織の場所に基づいて考えているわけではない」という。また、「こうした企業が成長してグローバルな事業展開を始めても、やはりアフリカの企業としてカウントする」。
ブリターブリッジも同様の集計方法を採用している。同社のディレクターであるDario Giuliani(ダリオ・ジュリアーニ)氏によると、同社の研究組織は、税金、顧客、知的財産、管理チームなどが企業アイデンティティーに寄与する要因であるとの認識に基づき、アフリカのスタートアップを定義する際に地理的な要素を考慮しないという。
ディスラプトアフリカの場合、報告書で取り上げるスタートアップは、創業7年以下で、まだ成長中であり、収益性を高める潜在性を備えている企業である。「大きな企業や組織からスピンオフされた企業や、当社の定義に照らしてスタートアップ段階を過ぎている企業」は除外しているという。
フィンテックとビッグ4の優位は変わらない
パーテックによると、アフリカのスタートアップの2020年における資金調達総額は前年と比べて低下しているものの、成功した調達ラウンドの数はむしろ増えている。同社によると、2019年に完了した調達ラウンドの数は250件であったが、2020年には347社のスタートアップが359件の調達ラウンドを成功させた。これには、シードラウンドが増加したこと(2019年と比較して88%増加)、およびパンデミックによるロックダウンの中、キャッシュが不足してブリッジラウンドが増加したことが関係すると考えられる。
3社の報告書ではどれも上位5業種にフィンテック、ヘルスケアテクノロジー、クリーンテクノロジーが入っている。ただし、予想どおり、アフリカのVC資本調達額においてフィンテックの割合が圧倒的に大きい。
パーテックによると、フィンテックは昨年のアフリカにおける資金調達総額の25%を占めているという。その後に続くのは、アグリテック、ロジスティクスおよびモビリティ、オフグリッドテクノロジー、ヘルステクノロジーといった業種だ。
ブリターブリッジによると、昨年のVC資金調達総額のうちフィンテック企業が占める割合は31%で、その後に、クリーンテクノロジー、ヘルステクノロジー、アグリテック、データ分析が続く。
ディスラプトアフリカの集計では、フィンテック分野のスタートアップがアフリカのVC資金調達総額の24.9%を占めており、その後に、Eコマース、ヘルステクノロジー、ロジスティクス、エネルギーといったスタートアップが続く。
3つの報告書のうち少なくとも2つによると、ビッグ4と呼ばれる国が2020年の投資先の圧倒的多数を占めている。
パーテックが報告した上位5か国もやはり同様である。ナイジェリアがVCの投資先としてトップで、スタートアップの資金調達額は3億700万ドル(約325億円)だった。僅差の第2位はケニアで3億400万ドル(約322億円)だ。第3位はエジプトで2億6900万ドル(約285億円)、第4位は南アフリカで2億5900万ドル(約274億円)となった。パーテックによる2019年の集計で5位だったルワンダに代わってガーナが第5位になり、資金調達額は1億1100万ドル(約118億円)だった。
ディスラプトアフリカの集計では、上位5か国が2019年と変わらなかった。1位はケニアで、スタートアップの資金調達額は1億9140万ドル(約202億6000万円)だった。これに、1億5040万ドル(約159億2000万円)のナイジェリア、1億4250万ドル(約150億9000万円)の南アフリカが続く。僅差の4位はエジプトで、資金調達額は1億4140万ドル(約149億7000万円)だった。これに対し、ガーナのスタートアップによる資金調達額は1990万ドル(約21億1000万円)となっている。
ブリターブリッジは異なるアプローチを採用している。パーテックとディスラプトアフリカは企業の創業国および運営国ごとの資金調達活動に焦点を当てていたが、ブリターブリッジは資金調達額をスタートアップの組織または本社の所在地ごとに集計した。この前提によって、ビッグ4の顔ぶれが若干変わってくる。ブリターブリッジによると、1位は米国に本社を置くスタートアップで、資金調達総額は4億7180万ドル(約499億5000万円)だった。2位は南アフリカに本社を置くスタートアップで1億1970万ドル(約126億7000万円)、3位はモーリシャスに本拠地を置く企業で1億1000万ドル(約116億5000万円)となった。次いで英国およびケニアに本社を置くアフリカのスタートアップが続き、資金調達額はそれぞれ1億760万ドル(約113億9000万円)、7710万ドル(約81億6000万円)となっている。
ジュリアーニ氏は、ブリターブリッジがこの集計方法を採用した理由について、さらなる論議を展開する際の公平な起点として自社のデータを利用したいと考えているためだと説明している。そのようなデータがあれば、より良い政策、規制、ファイナンスの可用性といったより複雑なダイナミクスを調査していくことができるためだ。
この観点から見ると、会社の主たる所在地にナイジェリアが含まれていないのも納得できる。規制、ビジネス環境、納税条件などが企業にとって不都合であるという理由で、ナイジェリアのスタートアップはセイシェルやモーリシャスといったアフリカの国やアフリカ大陸外に本拠地を置くことが多くなってきている。外国のVCのほとんどは、アフリカのスタートアップがビジネスに好都合な投資法を完備した国に本拠地を置いてほしいと思っているため、こうした傾向は続くと考えられる。
地域と性別の多様性
アフリカのフランス語圏でのスタートアップの企業活動が増えているため、同地域におけるVC資金調達額も増えるという予想もあったが、そうはなっていない。セネガルはフランス語圏トップのVC出資先だが、2019年に1600万ドル(約17億円)だった資金調達額は、2020年に880万ドル(約9億3000万円)に低下している(パーテックの調査による)。アフリカ全体で9位のセネガルと10位のコートジボワールを合わせても、資金調達額はわずか650万ドル(約6億9000万円)に過ぎない。
ただし、良いニュースもある。パーテックのデータによると、2020年には、ビッグ4以外で22か国が資金を調達できたという。この傾向は続くのだろうか。もし続くのであれば、次に資金調達額が1億ドルを超えるのはどの国になるのだろうか。
パーテックアフリカのジェネラルパートナーTidjane Deme(ティージャン・デーム)氏は、次に1億ドルを超える国がガーナになると考えている。かつてはケニア、ナイジェリア、南アフリカがビッグ3として君臨していたが、そこにエジプトが支配的な勢力として登場した。同氏は、同じことが西アフリカの国でも起こると述べている。
「投資家がより多くの市場に進出するにつれ、明らかな分散化が発生している。たとえば、ガーナは、すでに1億ドル(約110億円)を超える投資を誘致している。もちろんこの調達ができるだけ早く実現することを願っているが、同時に、これが新しい市場に参入する投資家と資金調達の仕組みを学習する創業者の双方の学習プロセスであることも分かっている」。
ガーナはジュリアーニ氏の予測にも登場していた。同氏は、エコシステムを進化させつつあり、近いうちにグローバルな投資家たちが注目すると思われる準大国として、チュニジア、モロッコ、ルワンダといった国も挙げている。
ディスラプトアフリカの共同創業者Tom Jackson(トム・ジャクソン)氏が具体的な国名を挙げることはなかった。ただ、ビッグ4以外の市場にも積極的な要素がいくつかあるものの、ビッグ4が優勢な状況は続くと考えている。
「資金は他の市場にも少しずつ移行していくだろう。その点ではすでに良い兆候が見られる。しかし、アフリカのスタートアップ業界はどちらかというとまだ初期段階であり、ビッグ4の市場は圧倒的に有利なスタートを切っているため、今後数年間はそのリードを保ち続けるだろう」と同氏は言う。
看過できないもう1つの多様性として性別が挙げられる。インクルージョンについてあらゆる議論がされているが、ブリターブリッジによると、2020年に資金を調達したスタートアップのうち、創設者、共同創設者、経営幹部に女性がいるのは15%だったという。一方パーテックは、この割合を14%としている。この割合を上げるためにはまだ多くの努力が必要だが、より多くのアーリーステージ企業がこのギャップを埋めようとしてくるだろう。
関連記事:アフリカや東欧で交通ネットワーク拡大に取り組むBoltが国際金融公社から約25.8億円調達
[原文へ]
(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)