著名人と話せるアプリ「755」がCM効果で250万ダウンロードに――最大のライバルは「Ameba」

年末年始は普段よりテレビを見る機会が増えたのだけれども、やたら見かけるIT関連のテレビCMがあった。サイバーエージェントグループの7gogoが手掛けるトークアプリ「755(ナナゴーゴー)」だ。同社の発表によると、アプリの累計ダウンロード数がこの2週間で約200万件も増加。1月3日時点でiOS、Androidアプリの累計で250万ダウンロードを突破したという。CMにはAKB48とE-girlsを起用。2014年12月26日からAKB48バージョンを、2015年1月1日からE-girlsバージョンを全国で放映。20代を中心にユーザー数を増やした。

755がスタートしたのは2014年2月。サイバーエージェントと堀江貴文氏がファウンダーを務めるSNSが共同で立ち上げた。755という名称の由来は堀江氏の囚人番号だ。著名人をはじめとしたユーザーの「トーク(チャットルーム)」を閲覧したり、その内容に対して「やじうまコメント(コメント)」をしたりできるほか、気になった投稿をリトーク(リツイートのように投稿を自分のトーク上にシェアする)したりできる。このトークは著名人(オフィシャルユーザー)でも一般ユーザーでも作成可能だ。テレビCMでは「AKB48やE-girlsと話せる」とうたっているが、厳密にはトークを開設したユーザーが、気になったやじうまコメントを拾い、それに対して返事をして会話が成り立つという仕組みだ。

ちなみに少し前まで「芸能人・有名人の返信率 92%以上!」とアプリの紹介などでうたっていたが、これは755を利用する著名人の92%がやじうまコメントに返信を行っているという意味であり、決して92%のユーザーが自分宛の返信をもらえるわけではない。AKB48メンバーなどのやじうまコメントを見れば、コメントが多すぎてそりゃ92%にレスできないだろうなとも思うのだけど、利用していないユーザーに対して誤解を与えかねない。これについては7gogo代表取締役社長の森正樹氏も「誤解を招く表現になっていたと思い、アプリの説明文などからは削除した。App Srore上のiOSのスクリーンショットに関しても削除に向けて対応作業中(筆者注:App Storeはスクリーンショットの差し替えにも承認が必要なため時間がかかる)」と語っている。

森氏いわく、サービス開始から数カ月はチューニングの時期だったという。細かな機能もさることながら、もともとのコンセプトであった「複数人の著名人の会話に対してユーザーがやじうまコメントを入れ、それを著名人が拾う」というスタイルでは、コメントをどこまで拾うかが難しく、話が盛り上がらなかったそうだ。そこで著名人同士ではなく、著名人1人がつぶやき、それに対してユーザーがコメントし、さらに著名人がそれにレスをするという今のスタイルに落ち着いたのだそうだ。

755では6月以降に本格的に著名人のオフィシャルアカウントを拡大。現在は800人以上の著名人が参加している。ちなみに著名人に対して金銭の支払いはしていないとのことで、「自分のファンが一極集中していることもあってコミュニティが形成されやすく、モチベーションが高い」(森氏)のだそう。将来的にはメルマガのように、著名人に対する興味関心が高い人に対する課金なども検討しているそうだが、「とりあえず(マネタイズは)気にせず行けるところまで行ってみようと考えている」(森氏)。いわゆるファンクラブの置き換え、オンラインサロンのようなビジネスが展開されるのかもしれない。ちなみに今回のプロモーション費用についても聞いたのだが、「Amebaが渋谷の広告をジャックした(2012年に1カ月で30億円の広告を展開した)程ではないが、それなりに大きい額」(森氏)としか回答を得られなかった。

最大のライバルは「Ameba」

ところでこの発表と前後して、あるサイバーエージェントの幹部と話す機会があったのだけれども、その際に「755のライバルは何なのか」という質問をした。

例えばユナイテッド子会社のフォッグが12月にリリースしたアイドル応援アプリ「CHEERZ」。これはアイドルが自ら写真とコメントを投稿するというサービス。ユーザーは「いいね!」にあたる「CHEER」をするのだが、このCHEERの数がサービスリリースから1カ月たった現在、なんと1280万回を超えているのだ。ユーザーがCHEERできる回数は、ソーシャルゲームの体力のように一定時間で回復するようになっている。そして回復を待てない場合はポイントを購入する必要があるのだが、このCHEER数を見ているとそれ相応の課金がなされているようにも見える。ほかにもDeNAの「SHOWROOM」など、著名人やアイドルとユーザーがコミュニケーションをとれるサービスがある。だがその幹部は社外のサービス名を挙げることなく、「本当のライバルはAmebaかもしれない」と語った。サイバーエージェントグループはこれまでもグループ内で競合関係になるようなサービスを作ることもあったが、PC、ガラケー時代Amebaのように、755をスマホ時代の新しいプラットフォームに育てたいのだという。

森氏にも同じ質問をしてみたのだけれど、「Amebaを批判するわけではないが、ブログは書く、コメントする、くらいしかできない。755はもう少しスマホに特化した機能があるし、Amebaではできなかったようなコミュニケーションを軸にしたスペースを作れる。そこは狙っていきたい」とだけ語った。また7gogo取締役の水野信之助氏は、755はAmebaがあったからこそできたサービスだと語る。「タレント事務所とのネットワーク、コメント監視などAmebaのノウハウが生きている」(水野氏)

大々的なキャンペーンでユーザーを獲得した(といってもどれだけアクティブになるかはこれから気になるところ)755だが今後の展開はどうなるのか。両氏によると、今後は引き続き著名人のアカウントを拡大しつつ、一般ユーザー向けの機能を強化していくという。「サービスのフェーズがあると思っている。今はまずは著名人アカウントで遊び方を理解してもらおうとしている」(水野氏)「一般ユーザーの手でコンテンツが生成される場所にしたい。使い方も含めてユーザーが考えてくれれば」(森氏)。

7gogo取締役の水野信之助氏(左)と代表取締役社長の森正樹氏(右)


インキュベイトファンドが110億円の新ファンド――IoTに注力、FoFも

2014年にも様々なスタートアップと出会うことができたが、その中で2015年により注目が集まることが確信できたテーマの1つが「IoT」だ。そういえば11月に開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2014」のスタートアップバトルで優勝したのもインクジェットプリンターや専用のペンで回路製作を実現するAgICだった。そして今回インキュベイトファンドが組成した新ファンドでも、IoT関連の投資積極的に進めていくという。

新ファンドは総額110億円、IoTに特化

インキュベイトファンドが1月5日に組成完了を発表した「インキュベイトファンド3号投資事業有限責任組合」は、総額110億円のベンチャーキャピタルファンドとなる。出資するのは産業革新機構、ヤフー、三井住友銀行、Tencent Holdings、セガサミーホールディングス、Mistletoe、東京放送ホールディングス、ミクシィ、日本政策
投資銀行のほか、個人投資家など。聞いたところによると、ヤフーや三井住友銀行が独立系VCに出資するのは今回が初になるそうだ。

インキュベイトファンドのゼネラルパートナーである村田祐介氏に聞いたところ、今回のファンドでは「Global Scale」「Legacy Market」「Enabling」をキーワードに、IoTを軸としたイノベーションを創出するスタートアップへの投資を進めるという。具体的には、次世代メディア、エンターテイメント、ゲーム、コマース、物流、 医療、金融、不動産、自動車、住宅などの領域に注力していくとのことだ。すでに米国で車載用アプリの開発を進めるDrivemodeに出資をしている。

1社あたりの投資金額は、3億〜5億円を想定しているという。ただ村田氏は「大きな金額をコミットするが、この金額でシード投資をやっていく」と強調する。これまでインキュベイトファンドは、起業家育成プログラムの「Incubate Camp」を開催するなどしてシード期の投資に注力してきたところがある。同プログラムの参加者はもともと3000万円のバリュエーションで300万円を出資というスキームだったし、プログラム以外の出資では数千万円前半の出資というケースが多かったが、同じステージに対して桁1つ大きな金額を出資する計画だという。

村田氏は2012年以降に新設されたファンドを取りまとめた金額が約2700億円と説明する(中でも金融系VCなどに比較すると、独立系VCがファンドの担い手として活躍しているそうだ)。しかし、増えたファンドはシリーズAを対象としたものばかりで、シリーズAの手前のシードファイナンスを手掛けるファンドは増えていないと語る。もちろん山田進太郎氏率いるメルカリのように、シリアルアントレプレナーがシードで大型調達をして勝負をするというケースはあるが、「結局大きな勝負をできるスタートアップはほとんどいなかった」(村田氏)と語る。

ではそんな大型調達した資金を使ってきっちり成長できる起業家をどうやって見つけるのか? 村田氏はその1つの取組みとして、インキュベイトファンドが手掛ける「Fellow Program」について教えてくれた。このプログラムはインキュベイトキャンプ ゼネラルパートナーの和田圭佑氏が中心となって立ち上げたもので、大企業の成績優秀者や外資系金融マン、何かしらのプロフェッショナルなど、本業を持ちつつスタートアップについて調査・研究し、毎月1回発表を行うというもの。これによって商社やメーカーから士業、官公庁まで、広く優秀な人材を集めているのだそうだ。「特にこの半年はIT・ネット業界以外でも人と会うようにしてきた。プログラムでも他業界の中堅、エースと出会えたと思っている。IoTはインターネットの人たちだけでは作れない。既存産業側のプレーヤーと一緒になって立ち上げていきたい」(村田氏)。

ファンドオブファンズでシード投資を更に活性化

村田氏は「シードファイナンスを増やす」という観点からインキュベイトファンドが取り組んでいる活動についてさらに教えてくれた。インキュベイトファンドでは、若手キャピタリストのファンドに対して出資(ファンドオブファンズ:FoF)も行っているという。

実はサムライインキュベートについては1号ファンドから出資をしているし、前述のIncubate Campで優勝したサムライト代表取締役の柴田泰成氏の「ソラシード・スタートアップス」、インキュベイトファンドのアソシエイトでもある佐々木浩史氏の「Primal Capital」のほか、スタートアップ支援を行うインクルージョンジャパンが立ち上げるファンドにも出資している。さらに海外でもFoFでファンドの立ち上げを準備中だそうだ。

「赤浦(インキュベイトファンドのゼネラルパートナーである赤浦徹氏)がいつも言っているが、日本でスタートアップが増えない理由の1つはキャピタリストが増えないことにある。そしてそれはサラリーマンVCではなく、腹をくくっているキャピタリストでないといけないと思っている」(村田氏)


モンストの躍進でネイティブアプリ元年に――プランナーによる2014年ゲーム総括

編集部注:この原稿は丸山貴史氏(ペンネーム)による寄稿である。丸山氏はソーシャルゲーム開発会社での勤務を経て、現在はフリーランスでゲームプランナーとして活躍している。また、ブログ「SociApp -Social Appの分析ブログ-」を運営。ツイッターアカウントは@sociapp。今回は同氏の視点で2014年のソーシャルゲーム、ネイティブアプリゲームの市場について振り返ってもらった。

2014年はまさしく「ネイティブアプリ元年」と言われる1年になったのではないかと思う。

2013年にはガンホーの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」が大躍進し、「パズドラ狂騒曲」と言っても過言ではない状況であったが、ゲームプロデューサーとしてはどこか他人事に思えるところがあった。その理由としてはパズドラがあまりにも強大で異質な存在だったので、「規模、売上ともにこんなレベルのアプリはそう簡単には出てこない」と半ばあきらめ、同時に畏怖の念を抱いていたせいもあるだろう。そんなパズドラ人気からスタートした2014年だったが、1年を象徴するタイトルの1つとなったのは、かつて一世を風靡したSNS「mixi」を運営する会社から出たネイティブアプリだった。

「モンスト」効果でミクシィの時価総額は約20倍に

2013年9月に公開となったミクシィの「モンスターストライク(モンスト)」。リリース当初は、正直あまり注目している人はいなかったと思う。とは言っても僕の周りの業界関係者はひと通りプレイをしており、実際にお酒を飲みながらマルチプレイをしたのを覚えている。そのときはリアルで会ってのマルチプレイという点にこそ多少の目新しさを覚えたものの、「今までにもこういうゲームあったよね」という程度の感想しかなかった。

そんなモンストだが、リリースから約1年経った2014年12月現在ではダウンロード数が世界で2000万件を超え、リリース時点では約200億円前後だったミクシィの時価総額を約4500億円と20倍以上に押し上げた。2013年にあれほどの強さを誇ったパズドラと売上でも1位を争っている状況だ。これらの数字以外にも街中やTVCMなどでモンストを見る機会が増えたことを考えると、どれだけ2014年という年に「モンスト」の勢いがすごかったのか、ふだんゲーム業界をウォッチしていない人でもお分かりいただけるかと思う。1年前に「パズドラほどのアプリはそう簡単に出てこない」と思っていた僕らの予想をあっさりと裏切ってくれた。

SNSゲームからネイティブへのシフト

モンストの急成長の背景にはネイティブゲームマーケットの成熟したことがある。パズドラのほかにも、マーケットが成熟するずっと前からネイティブゲームに投資を続けてきたコロプラが「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」などで2013年に大成功を収め、大躍進している。そういった背景から「ネイティブマーケットがきちんとペイする(ビジネスになる)」との認識が広まった。そこから仕込み始めたタイトルが約1年近くの開発期間を経て2014年に続々とリリースされ、ネイティブマーケットがさらに賑わった格好だ。

マーケットへのゲーム投下に合わせてTVCMや広告などへ大量にお金が流れ込み、これがマーケット自体に多くの人を呼び寄せた。これは数字では見えにくいかもしれないが、個人的にはかなり大きなインパクトになっていると思う。「パズドラ(の広告)をきっかけにしてスマホでゲームをするようになった」という人は思っている以上に多いはずだ。さらに外的な要因も加えておくと、NTTドコモのiPhone販売や廉価で高性能なAndroid端末の普及がネイティブマーケットの活況に寄与した形だろう。

一方で、今までソーシャルゲームの主流だったSNS上でのブラウザゲーム(SNSゲーム)にとっては厳しい1年になった。具体的にはGREEやMobageといった、これまで日本のソーシャルゲーム業界を引っ張ってきたSNSゲームの凋落が著しかった1年とも言えよう。

個人的にはSNSゲームがネイティブアプリに押しやられていくということは遅かれ早かれ来るだろうと思っていたし、2012年の後半頃からは予想されていたことだった。しかし、2社の決算を見てもらえばわかると思うが2014年になってその傾向は顕著であり、彼ら自身も危機感を持った上で「消滅都市」(グリー)や「ファイナルファンタジー レコードキーパー」(DeNA)といった大型タイトルをネイティブマーケットへ投入し、この局面を乗り切っていく覚悟だ。かつては「オワコン」とまで囁かれていたミクシィがモンスト1本でここまで大復活を遂げたことを考えると、2015年はもしかしたら彼らの年になっているかもしれない。

開発費の高騰に拍車を掛けたTVCM

昨今のネイティブアプリ界隈では開発費の高騰についてはよく言われることではあるが、それはプレイする端末のスペックも上がってきているので致し方のないことだと思っている。自身の経験としてもファミコンからプレイステーションなどと端末のスペックが上がるごとにユーザー体験も上がってきたし、それに伴ってユーザーが求める表現や体験の質が上がっていくので、それらを満たすためにはお金が掛かってしまうのだ。2Dでゲームを作るより3Dでゲームを作るほうが遥かにお金が掛かるということは自明だろう。

そんな中で昨今の開発費高騰にある隠れた要因として「広告の重要さが増してきている」ということがあると思っている。

2013年はネイティブアプリでTVCMを打つタイトルは少なかったが、2014年は顕著に増えた。パズドラやモンストといったマスに訴求できる可能性が高いタイトルのみではなく、少し言い方は悪いが「スクールガールストライカーズ(スクスト)」や「ドラゴンポーカー」といった、ゲームモチーフやゲーム性からかなりユーザーを選びそうなタイトルまでが大量のTVCMを投下していたのが印象的である。

もちろん彼らもむやみやたらにTVCMを打っているのではない。安価で大量にユーザーを獲得できる最も効率の良い手段がTVCMであり、それらを選ばざるを得ないのだ。さらに踏み込んでおくとTVCMを実施した暁にはユーザーの流入が見込めるが、ユーザーが見つけやすいようにApple StoreやGoogle Playの目のつきやすい位置にいる必要がある。そのためにどうするかと言えばユーザーをリワードで獲得してきて順位を上げるブーストしかないのだ。アプリストアでユーザーが検索してくれると思ったら大間違い。ひょっとしたら検索した際に表示される他のゲームに流れてしまうかもしれない。

そんなこともあってか2014年はさらに一段必要となる開発費が上がってように思える。この傾向は来年以降も続くだろうし、特に来年以降は各社の勝負タイトルにおいてはリリースした直後からTVCMを行ってくるタイトルも増えてくると予想している。

2015年はIP元年と本格的な海外展開の年に

2014年にも大型IP(版権モノ)のリリースはあったが、2015年はそれ以上の大型IPラッシュになっているだろう。

その理由は簡単で、2013年にガンホーやコロプラの躍進を見て多くの会社がネイティブに舵を切って1年後の2014年マーケットが賑わったように、2014年の大型IPのリリースを見て多くのIPホルダーがこちらに舵を切っているからだ。すでに前述のファイナルファンタジーのほか、ドラゴンクエスト、ワンピースなどのIPを使ったゲームが登場している。また、すでにSNSゲームとしてリリースされているIPなどもネイティブ化したものがリリースされる予定もあると聞いている。

おおよそ参入を決めてから開発、リリースまでの工程を考えると1年後の2015年にはより多くのIPを使ったゲームが登場するはずだ。

この大型IPが参入してくる流れはSNSゲーム時代にもあったことなので、業界の人からすると当たり前のことのようにも感じるだろう。ただ僕としては、SNSゲームの時代より大きな流れが起きると思っている。なぜなら、ネイティブマーケットになったおかげでデベロッパーの狙える売上の規模が1桁大きくなっており、より魅力的になっているからだ。大型IPにとって数十億円の売上ではインパクトが少なかったが、数百億円の売上になれば話は変わってくる。さらにはネイティブアプリになったことで技術も変わり、できることが格段と広がったことも大きい。今までのSNSゲームではどうしても「ガチャ」という仕組みに頼りがちだったが、ネイティブアプリになってその状況も変わってきているようだ。

また、注目したいのは海外展開だ。MobageやGREEといったSNSゲーム時代から言われ続けているが、多くのデベロッパー、プラットフォーマーが未だにきちんと成し遂げられていないことの1つである。業界では毎年のように「今年こそは海外展開」と言われるので少し食傷気味になっている方も多いかもしれないが、現場の最前線で働く身としてはいよいよその土壌が整ったと思っている。前述の通り日本のネイティブマーケットはようやく成熟し、安定的な収益を生み出すことができるようになったと言える。一方で競争が激しくなり、勝つことの難易度が徐々に上がってきているのも紛れもない事実だ。

さらにそんな状況に追い打ちを掛けるかのように、日本のネイティブマーケットはすでに頭打ちの様相を呈しており、遅かれ早かれ次の成長を求めるには海外展開は避けて通れない道だと思っている。特に上場企業にとって成長は至上命題であり、その流れには逆らうことは出来ないのではないだろうか。

こうやって「内需が滞ったので外需に」と聞くと安直に思えてしまうかもしれないが、今のApp StoreやGoogle Playの仕組みではボタン1つで海外でも簡単にゲームを配信することができるというメリットがある。(もちろん言語などの問題はあるが) これがウェブサービスの最大のメリットであり、AppleやGoogleが築いてきた巨大プラットフォームの恩恵を最も享受出来る場所でもあると思っている。個人的にはそんな魔法のような道具を使わない手はないと思っている。また、僕自身も勉強中なのでここで明言は出来ないが世界最大の人口を誇る中国マーケットも急速に立ち上がってきており、次の大きな金脈になるのではないかとまことしやかに囁かれている。

2014年はモンストの大ヒットで話題は持ち切りだったが、2015年は一体どんな年になるのだろうか。僕としては「メディア展開」と「海外展開」がキーワードになると考えている。


オンエア前に完売も、テレビで見た芸能人の衣装を即買いできる「アイマニ」

「あの芸能人が着ていた衣装が欲しい」というニーズに答える女性向けファッションメディア「imanee(アイマニ)」が12月25日に正式リリースした。芸能人や番組名、ブランド名、アイテム名で気になるアイテムを検索し、提携先のECサイトで購入できる。アパレル企業からオンエア前にアイテム情報を入手し、オンエア後にいち早く情報を配信するのが特徴だ。サービス名称には、何かの時間の「合間に」使ってもらうという意味を込めている。スマホはテレビを見ながらいじる「セカンドスクリーン」としても使われはじめているが、テレビで気になったアイテムをその場で買えるアイマニは、「ながら見」するサービスとしても利用されそうだ。

アパレルからの事前情報提供が8割、残りは人力で探す

いかにもありそうなサービスだけれども、「探すのに手間と時間がものすごくかかるので、実は競合が少ないんです」と、運営元であるニューワールドの井手康博社長は話す。同社は2013年11月、アイマニの前身となる「Guider.(ガイダー)」を公開。当初は番組のエンドロールにほんの一瞬だけ流れる衣装協力をチェックし、ネットで探しながらアイテムを掲載していたのだという。

ちょっと気が遠くなりそうな話だけれども、地道な作業を繰り返していくと、「このドラマの主人公はどういった服を着やすいとか、この芸能人はどんなブランドを好んでいるか、といったことが蓄積されてくる」と井手氏。こうした「ノウハウ」をデータベース化し、エンドロールに衣装協力として出てくる40〜50ブランドの中からアイテムを検索。該当する商品を見つけては自社サイトに掲載し、提携のECサイトへ誘導していた。

そんなことを繰り返すうちにアパレル企業から認知され、徐々に番組のオンエア前に衣装情報を提供してもらえるようになる。ガイダーでは約4000アイテムを掲載していたが、このうち8割はアパレル企業から事前提供を受けたもの。開始から1年で月間40万PV、7万ユーザーを集めている。

じゃあ残りの2割はどうしているのかというと、サービス開始当初と変わらず、人力で探しているそうだ。「リアルタイムに番組を見ながら人気が出そうなアイテムをチェックします。ノウハウがあるため、ほとんどのアイテムは放送中に見つけて、オンエア終了後すぐに掲載することができます」。

次回予告で見つけたアイテムがオンエア前に完売

実際にガイダー経由でどのくらい売れているのか? この点について井手氏に聞いてみたところ、ドラマ「失恋ショコラティエ」で石原さとみが着ていたコートを紹介した結果、1000枚近くあった在庫が1週間でなくなってしまったこともあるという。「次回予告でかわいいコートを見つけたので、すぐにブランドに確認をしました。早速紹介したところ、オンエア前には完売。次回予告からオンエアまでの1週間、その情報を出していたのはガイダーだけです。衣装に注目して次回予告を見続けていた甲斐がありました」。

さらに聞いてみて驚いたのはCTR(クリック率)の高さだ。ガイダーではアイテムの画像リンクや購入ボタンを、提携するECサイトに送客する「広告」として位置づけているのだが、井手氏によれば、ガイダーでは訪問したユーザーの3〜4割が「広告」をクリック。こうした送客に伴うクリック課金が同社の主な収益源だ。月間流通額(ガイダー経由で購入に至った金額)は300〜400万円を推移している。テレビで芸能人が身に付けているアイテムを検索しようという人は購入意欲が高く、今後は商品数を増やすことで流通額の増加が見込めそうだ。

ガイダーではテレビ以外に、雑誌やInstagramで芸能人が身に付けているアイテムを紹介していたが、アイマニでは情報源をテレビに限定した。雑誌やInstagramだとブランド名や商品名がわかりやすく、ガイダーを使う必要がなかったためだ。「テレビに出てくるアイテムを知る手がかりは番組のエンドロールぐらい。わざわざ調べる人は少なく、そこにニーズがある」。

現時点ではアパレル企業22社、93ブランドと提携し、番組のオンエア前に情報提供を受けている。大手のオンワード樫山と提携しているほか、「アパレルのトップ10のうち半数とは話が進んでいる」(井手氏)。今後は大手を皮切りに、中小規模のアパレル企業との提携も進めていくそうだ。

テレビで芸能人が着ているアイテムを探せるサービスとしては、国内では「コレカウ.jp」がある。利用者が探したいアイテムを質問し、運営側が回答するサービスだ。井手氏は「情報の即時性と網羅性でアイマニが優位」と話す。将来的には日本のドラマ好きの女性が多い台湾や東南アジアへの進出も視野に入れているという。


日本のLineがMicrosoftからMixRadioを買収―世界で音楽ストリーミングに乗り出す

先月、われわれはMicrosoftがMixRadioをスピンオフさせようと考えていると報じた。結局、この音楽サービスは日本のメッセージ・サービス、Lineが買収することが発表された。契約の内容は明らかにされていない。

5億人の登録ユーザー、1億7000万人の月間アクティブ・ユーザーを抱えるLineは、先週、音楽ストリーミング分野へ進出する計画だと発表した。Musicallyの記事によれば、LineはAvex DigitalとSony Music Entertainmentと提携して新しいサービスを開始する。このサービスとMixRadioは別個の事業として推進されるようだ。前者は日本をターゲットとし、後者はそれ以外の海外市場をターゲットすることになるらしい。

MixRadioは「31カ国で数百万のWindows Phoneユーザー」がいると主張しているが、まだiOS版、Android版のサービスは提供していない。Lineにとってはこの既存のサービスを買収することによって、各国市場で音楽配信のための著作権交渉を省け、時間と資金を大幅に節約できるメリットがある。

今回の動きはLineが単なるチャット・アプリを超えて、総合的なモバイル・エンタテインメント・サービスになろうとしていることを示すもうひとつの証拠だ。Lineはすでにゲームやセレブ、ブランドのフォロー、チケットのオンライン購入などのサービスを提供しており、2日前には独自の支払いサービスもスタートさせている。また日本では、タクシーの予約や料理の宅配も計画している。

Lineの最大の市場は日本、台湾、タイで、これら3国がアクティブ・ユーザーの半分以上を占めている。しかしLineはさらに国際展開の加速を図っており、スペイン、メキシコなどラテンアメリカの一部で勢いを得ているとしている。これにMixRadioのユーザー・ベースが加わればそうした市場で注目を集め、知名度を上げるのに役立つだろう。

逆に、Lineによる買収はMixRadioにとっても朗報だ。正確な数字は公表されていながMixRadioがユーザー数でSpotify、Beats、Pandora、Rdioに遅れを取っているのは間違いない。Microsoftを離れてLineのような巨大サービスの傘下に入ることはリーチの拡大と同時にAndroid版、iOS版の出だしを大きく助けることだろう。

またこの買収はアジアのトップ・テクノロジー企業が世界進出に賭ける意気込みを改めて実感させるものとなった。以前にもLineは買収を行っているが、アジア圏以外での大型買収としては最初のものだ。中国のWeChatや韓国のKakao Talkもマルチメディア化してアジア以外の市場への進出狙っている。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


DeNAがキュレーション事業加速、MERYとiemoのノウハウ注入で「食」分野に進出

10月1日に女性向けファッションまとめサイト「MERY」と住まいに特化したまとめサイト「iemo」を運営する2社を約50億円で買収し、キュレーション事業に参入したディー・エヌ・エー(DeNA)。次なる展開は「食」をテーマとしたキュレーションサイトだ。

12月19日に正式公開した「CAFY(カフィー)」は自宅で手軽に作れるレシピなど、食に関するテーマの情報を紹介するサイト。レシピに加えて、「クリスマスの厳選スイーツ9選」や「ホームパーティーを華やかに演出するテーブルウェア7選」など、食卓に関するリスト記事が多い印象だ。

すでに掲載されているコンテンツの一部は、外部のライターが有償で執筆したもの。今後はMERYやiemoと同様に、一般ユーザーに無償で投稿してもらう。隙間時間にスマホで雑誌をめくるような感覚で見てもらうコンテンツを充実させていく方針だ。

「50億円効果」で買収から2カ月でローンチ

コンテンツ以外で特筆すべきは、サイト立ち上げの早さだろう。CAFYはMERYを運営するPeroli、iemo、DeNAの3社連携によるサービス。10月の買収直後からDeNAのメンバーを中心にチームを発足し、それからわずか2カ月あまりでサービス開始に至っている。

具体的な連携効果としては、CAFYのターゲットでもある主婦層向けの記事を手がけるiemoが、主婦に受けがいいコンテンツの編集方法を助言するとともに、人材面でもディレクターを派遣。Peroriはサイトの見せ方をアドバイスするなど、開発面で協力している。実際にCAFYはMERYのサイト構造を移植したかのようにも見える。

「iemoとMERYが1年かけて踏み固めてきたことを端的に注入している。iemoは1年で150万MAU(月間アクティブユーザー、9月時点)、MERYは1年半で1200万MAU(同)と急成長カーブを描いているが、両社のノウハウがあればさらに短期間で成長するのでは」(iemo代表取締役CEOの村田マリ)。ノウハウについては「企業秘密」とのことだが、これを獲得するためにDeNAは約50億円で両社を買収したと言えそうだ。

激戦区のグルメ分野キュレーション、勝算は?

DeNAはCAFYによって、読者層が大きい衣食住すべてのジャンルを網羅することになる。ただ、iemoとMERYの成長の背景には、圧倒的競合が不在たったことがあるのも事実だ。グルメ分野では食べログが「食べログまとめ」、ぐるなびが「メシこれ」、クックパッドが「クックパッドニュース」を展開するなど、すでにネット大手が参入済み。ほかにも堀江貴文プロデュースの「テリヤキ」「マカロニ」といったサービスもある。

食ジャンルのキュレーションは激戦区と言えそうだが、村田マリは勝算をこう語る。「食べログやぐるなび、クックパッドは自社サイトの集客のために事業をやっている。それに対してCAFYは、iemoとMERYが成長してきたように、メディアとして読者が求めるコンテンツを作る意識が強い。ユーザーの隙間時間を獲得できるメディアを目指している。」

左からPeroli中川綾太郎氏、DeNA牛尾正人氏、iemo村田マリ氏

外部コンテンツとの提携で著作権対策

ところで、キュレーションメディアで問題になりがちなのが著作権(パクリ)だ。実際、MERYは一部のコンテンツでは、外部サイトの画像や文章を無断転載した事例もあったりする。著作権的にグレーだとしても、上場企業であるDeNA傘下となると、これまで以上にコンプライアンスの風当たりが強くなってきそうだ。

この点について、DeNAでキュレーション事業を率いる牛尾正人は、「新しいサービスなので想定外のことが起きるかもしれないが、社会のコンセンサスを得ながら進めるしかない」と説明する。その一環として外部サービスと提携し、各社のコンテンツをMERYやiemo、CAFYの記事に「お墨付き」で利用できるようにする。第一弾としては「レシピブログ」「Snap dish」「ミイル」と提携する。

キュレーションサイトで国内最大級のアクセスを誇るNAVERまとめでも、サービスの成長に伴い、著作権侵害が指摘されるようになった。NAVERまとめは人的なチェックだけでなく、ゲッティイメージズやAmazon.co.jp、食べログなどと提携し、無許諾で各社が指定するコンテンツを記事に利用できるようにしてきたが、DeNAも同様にキュレーションの著作権対策を強化する動きを見せている。

「めちゃくちゃ美しいM&A」

DeNAが2社を買収した10月以降、各社の間では活発な交流が続いているという。買収当時、社員数が8人だったiemoは、DeNAからの出向で20人に拡大。Peroriも買収当時12人だった社員が倍増している。さらに、専属ではないが、広告営業や採用、マーケティング業務もDeNAが担当していることから、「一気に組織がスケールした」と村田マリは振り返る。

組織がスケールしたことで、iemoは「マネタイズの本丸」(村田マリ)でもある、建築家やリフォーム、インテリアメーカーなどの事業者とユーザーのマッチングを前倒しできると、DeNAとの相乗効果を語る。同様に、MERYも記事で紹介した商品を購入できるECによる収益化を早期に実現できるようになりそうだ。

「DeNAの出向社員は、配属の初日からスペシャリストとして働いてくれた。数億円を調達したスタートアップでも、こんな短期間でDeNAクオリティの人材はそうそう獲得できない。その恩返しとして、iemoとMERYのようなスタートアップからDeNAにノウハウを提供できたのは、めちゃくちゃ美しいこと。一般的に『M&Aはうまくいかない』と、うがった見方をされやすいが、うまくやってやろうって思う。」(村田マリ)


1000円ですごいVRを体験できるハコスコ――ANRIが出資、博報堂と提携

 

FacebookのOculus VR買収以降、VR(仮想現実)を取り扱うプロダクトに今まで以上の注目が集まるようになった。同社のOculus Riftもそうだし、Oculusと同じく南カリフォルニア大学の混成現実研究所から生まれたSurviosもそう。サムスンはGalaxy Note 4をセットして使う「Samsung Gear VR」を発表しているし、日本でもFOVEのような製品が登場している。Kickstarterなんかを見るとまだまだ新しいプロダクトは登場しそうだ。

これらの製品の幾つかは僕も体験したことがあって、そのリアルさには驚かされた。Oculusをセットし、イヤフォンをつけてジェットコースターの映像を流すと、急降下のタイミングで思わず叫び声が出そうになってしまった。

ただこれらの製品、まだまだ日本では買えなかったり、買えてもそれなりのお値段だったりと、普及という点では難しい。VRをマーケティングに使いたいなんて声は聞くが、実際に端末を配るわけにも行かず、展示会などでは複数の端末を並べるも、「30分待ちのアトラクション」のようにみんなが順番を待って利用しなければならない。

そんな経験をスマートフォンとたった1000円のキットで実現してくれるのがハコスコの手掛ける「ハコスコ」だ。

プロダクトの素材はダンボール

ハコスコの素材はなんとダンボール。それにレンズが1枚付いているだけというシンプルなもの。折りたたまれた状態で販売されているので、利用するにはダンボールを組み立て、レンズをはめればOK。5分とかからずに完成する。完成したハコスコのスリットに対応アプリ(パノラマ写真、動画、CGなど)を立ち上げたスマートフォンを挿入すれば、VRコンテンツを体験できる。

単眼と二眼(視差を利用した立体視に対応)、スマートフォンのサイズに合わせて複数のバージョンが用意されている。それに加えてダンボール製ということで、ユーザーがいろいろとカスタマイズして使っているそうだ。なお、現在はより簡単なしくみで、かつ視野角の確保できる単眼モデルに注力している。

ほかのVR関連プロダクトを幾つか体験してきた僕なので、正直「ダンボールとスマホだけではたしてどんな体験ができるのか?」と思っていたのだけれど、いざ使ってみるとこれが驚くほどのクオリティだった。視野が覆われ、頭の動きとほぼリアルタイムに画像が追随する。もちろん単眼なので立体映像ではないし、音声まで連動するわけではない。そのあたりの是非はあるかも知れないが、そもそもOculusなんかと比較する意味のあるプロダクトではないと思う。単眼ならスマホで広い角度の画像を見れるし、あまり「VR酔い」をしにくそうなので僕としてはこれで十分だと思う。

ハコスコ代表取締役の藤井直敬氏は、MITの研究員を経て独立行政法人理化学研究所(理研)に務める人物。脳科学総合研究センター適応知性研究チームPIとして、SR(Substitutional Reality:代替現実技術)システムの開発に携わってきた。そんな藤井氏は「工学の人はスペックに向かってしまう。だがSRの研究で分かったのは、スペックではなくて、(脳科学的な観点で)利用者が『本物だ』と信じれるかどうか。Oculusと同じ文脈で考えても仕方ない」と語る。ダンボールというとGoogleも同様のプロダクトを作っていたが、こちらは藤井氏曰く、Oculusをどれだけ安価に再現するかという方向性を持っており「我々とはまた違う」とのことだった。

理研発のベンチャー

藤井氏がもともと手がけていたSRシステムも、これはこれですごい体験ができるそうだが、実際に体験するには最低でも数十万円の機材が必要になる。部屋ごとシステムに対応しようものなら数百万円と普及するような価格ではない。この研究の成果を最大限に簡素化して作ったのが、ハコスコなのだという。

実は理研には「理研ベンチャー認定・支援制度」と呼ぶ制度がある。研究の中で生み出した技術のライセンスを使って起業することを許可しているそうで、藤井氏もこの制度を使ってハコスコを創業した(余談だが、わかめスープで有名な理研ビタミンやコピー機、光学機器メーカーのリコーなど、僕らに身近な製品を出しているメーカーも理研にルーツがあったりする)。

同社の創業は2014年7月。メンバーは藤井氏とその妻でCOOを務める太田良恵子氏の2人で、外部に複数の協力者がいる。ビジネスモデルは(1)ハコスコの販売、(2)配信チャンネルの販売、(3)コンテンツ製作――の3点。すでに企業やブランドとのタイアップが進んでおり、「2人でやっているとは言え、初月から黒字の状況」なのだそう。出荷数もすでに4万台(個?)を超えた。今後は専用アプリの配信チャンネルを拡大するほか、コンテンツの拡大を進める。

ANRIが出資。博報堂との提携も

同社は11月にANRIから3000万円の資金を調達しており、今後はエンジニアをはじめとした人員拡大を進める。「今までも外部に協力者がいたが、一緒に考えてくれる、一緒に作れるという人が欲しい」(藤井氏)。

また12月19日には、博報堂および博報堂プロダクツとマーケティング向けソリューションの共同開発についても発表した。すでに企業のマーケティングなどでマネタイズしているハコスコだが、今回の提携によってその動きを強化する。スマホと1000円のキットでVRを体験できるのだ。前述のとおり展示会で「30分待ちのアトラクション」になっていた体験を、ハコスコを配布して一斉に体験するなんてことができたりするというわけだ。


マネーフォワードが15億円調達、事業パートナー出資で着々と足場拡大へ

家計簿アプリとクラウド会計ソフトを手がけるマネーフォワードは19日、総額約15億円の資金調達を実施することを明らかにした。引受先は既存株主のジャフコに加えて、クレディセゾンやソースネクスト、三井住友海上キャピタル、電通デジタル・ホールディングスといった事業会社。マネーフォワードの辻庸介社長は、「各ジャンルのナンバーワンプレイヤーに出資してもらえたことで事業拡大を加速できる」とシナジー効果を期待している。

マネーフォワードは、約180万人が利用する個人向け家計簿アプリ「マネーフォワード」と、法人向けクラウド会計サービス「MFクラウド会計」を提供するスタートアップ。個人向けでは9月、家計・資産データの活用を可能にするAPI連携を開始。これまでにヤフーやグノシーと業務提携し、各サービス経由でユーザーを獲得している。法人向けの利用者数は明かしていないが、ウェブ経由では中小企業や個人事業主、全国各地で開催するセミナーを通じて大手の税理士法人を取り込んでいる。機能面では確定申告や請求書サービスも投入した。

引受先のクレディセゾンとは、個人および法人の顧客を相互送客してユーザー拡大を図る。両社は5月に業務提携しており、クレディセゾンが発行するセゾン・UCカードの利用明細データをマネーフォワード上に自動保存するサービスを提供している。今後はMFクラウド請求書とクレディセゾンのカード決済の連携や、MFクラウド会計利用者向けの金融商品も開発していく。

ソースネクストとの資本提携では販路の拡大を見込んでいる。両社は3月に業務提携し、ソースネクストを通して、NTTドコモが提供する「スゴ得コンテンツ」、KDDIが手がける「auスマートパス」、ソースネクストの「アプリ超放題」といった月額定額のアプリ使い放題サービスにマネーフォワードのコンテンツを提供している。ソースネクストの量販店チャネルも活用し、確定シーズンに向けてパッケージ版の販売も強化する。

三井住友海上キャピタルとは顧客や提携先の紹介、電通デジタル・ホールディングスとは広告事業の拡大やPR戦略の策定のサポートをしてもらう。同じく引受先であるGMO VenturePartnersは中小企業へのネットワークを持つベンチャーキャピタルで、マネーフォワードの事業拡大に向けて連携する。辻社長は「個人と中小向けサービスで国内ナンバーワンを取り、決済が盛り上がっている東南アジアに進出したい」と青写真を描いている。

今回調達した15億円では、プロダクト強化やサポート体制の充実に向けた人材を採用するほか、マーケティングも加速する。3月下旬には、給与計算業務を効率化する「MFクラウド給与」をリリースする。MFクラウド給与では、基本的な給与計算やウェブ給与明細の機能を搭載。その後は、経費精算を行う「MFクラウド経費」も投入する予定だ。

ところで、スマートニュースやグノシー、メルカリ、sansan、ラクスルなど、10億円以上調達したスタートアップの多くがテレビCMを展開しているが、マネーフォワードはどうなのか? 辻社長は「検討はしたが、当面はやらない結論に至った。現状でやっても砂に水を撒く感じになりそう」と否定し、事業会社と提携して着々とチャネルを拡大する考えを示した。

マネーフォワードは、2013年10月に調達した5億円を含めると、これまでに合計20億円以上を調達したことになる。ちなみに、クラウド会計分野で競合となるfreeeは、これまでに合計17億5000万円を調達している。


ウェアラブルデバイス「Telepathy Jumper」発表、だがそれは想像とちょっと違った

SXSW 2013にて「Telepathy One」が発表されてから1年半、2014年6月には創業者であり代表を務めていた井口尊仁氏の退任騒動も起こった(現在井口氏は同社のフェローという肩書で活動している)が、Telepathyがその製品の詳細を発表した。Telepathyの日本法人であるテレパシージャパンは12月18日、ウェアラブルデバイス「Telepathy Jumper」を発表した。同日よりデベロッパー向けの申し込みも受け付ける

Telepathy Jumperはこれまでのデモ機やモックアップにあったように、メガネ状(厳密には耳から後頭部、反対側の耳までをぐるっと回りこむデザインになっている)のウェアブルデバイスではない。カメラやディスプレイ、マイクを備える「ディスプレイユニット」と、バッテリーや操作ボタンを備えた「パワーユニット」をケーブルでつなげた形状で、ケーブル部を首にかけて使うのだという。医者が首からかけている聴診器をイメージすると分かりやすいかもしれない。

ちなみにモニタ部を目の前に固定する場合、専用のアタッチメントが必要となる。アタッチメントのデータはオープンソースとして公開。自身の頭部のサイズに合わせてデータを加工した上で、3Dプリンターで打ち出して利用する。

アタッチメントをつけてTelepathy Jumperを耳にかけたところ

ディスプレイユニットには、qHD(960×540)のディスプレイ、500万画素・オートフォーカスのカメラ、2つのノイズキャンセリング機能付きマイクなどを備える。パワーユニットには操作用のボタンのほか、1000mAhのバッテリー、8GBのメモリなどを備える。OSはAndroid 4.2で、ネットワークはBluetoothとWiFiを利用できる。実際にデモ機を使用させてもらったところ、ディスプレイは非常に明瞭。周辺の光が強い環境でもはっきり見ることができた。ただ、デモ機はモニターに映像を流しているだけだったので、聴診器型(便宜上こう呼んでおく)であるメリットがイマイチ分からなかった。2015年3月に法人向けに販売を開始し、来夏をめどに一般向けの販売を進める。なお価格は未定。

一般向けの販売に合わせて提供予定のアプリケーションも2つ紹介した。1つは、他のユーザーが見ている(カメラで撮影している)景色をあたかも目の前の景色のように閲覧できる「Eye Connect」、もう1つはユーザーが持っている特技などを、Telepathyを使って他のユーザーに教えたり共有したりできる「Talent Buzz」だ。Telepathy Jumperは「共創」をテーマにしているとのことで、そのテーマに沿ったアプリとなる。また仕様の詳細などは明らかにされなかったが、サードパーティーによるアプリケーション開発も検討する。

「以前から開発していた」という聴診器型デバイス

これまでのデモ機でメガネをイメージしていたこともあって、その形状には驚いたのだけれど、テレパシージャパン代表取締役の鈴木健一氏によると、「ユーザーテストで分かったのは、常にディスプレイが目の前に必要ではないこと」なのだそう。このような気付きから、これまでもメガネ型のデバイスと並行して聴診器型のデバイスも研究・開発していたそうだ。

実はTelepathy Jumperのバッテリーの容量は現在主流となっているスマートフォンの半分程度。そう考えると素人目にもメガネに仕込むにはちょっと大きいように感じる。実際以前にも複数の関係者から「メガネサイズでバッテリーの容量を確保するのは難しいのではないか」という話を聞いていた(が、今回の形は想像していなかったのでびっくりした)。なので、バッテリーの容量確保のためにメガネの形状を諦めたのではないかとも鈴木氏に聞いたが、あくまでメガネという形状での不便を解決するために現状の形になったという説明だった。たしかに普段使うメガネの上に、さらにメガネ型デバイスはつけていられない。

テレパシージャパン代表取締役の鈴木健一氏

すでに日立ソリューションズなど複数社での試験利用も始まっている。両手が自由に使えるウェアラブルデバイスは、工事や建築から製造、病院など、さまざまなビジネス現場でニーズがあるのではないかという話は各所で聞く。「聴診器型」である必要性はさておき、Telepathy Jumperのニーズもそこにあるはずだ。

また、鈴木氏は同日の会見でのプレゼンの中で「利用シーン」として東京ディズニーランドの写真を使用しており、質疑では同施設との関係について記者から質問が飛んだのだけれども、「数社とどのようにビジネスが構築できるか話をしている。ディズニーランドはまた後日ということでお願いしたい。(対応は)広報に任せます」(鈴木氏)とだけ回答していた。

ともかく、かつて代表だった井口氏が語った「2014年に届けたい」というスケジュールにはギリギリ間に合わなかったが、少なくとも2014年中にその姿が明らかにされた。この発表について井口氏がどう思っているかも鈴木氏に聞いたが、「海外にいて、ここ(会見)に来る前には話をしていないので心境は分からない」とのことだった(ただし、Telepathyのミーティングなどには参加しており、西海岸の情報などを共有してくれているそうだ)。


エージェントとのチャットで転職先のオファーを受けられる「ジョブクル」

自分の持っている物を売りたくなったらフリマアプリで、駅から遠い場所から移動したければタクシー配車アプリで、といったように、これまでリアルで行っていた行動はスマホアプリで日々簡単になっているように感じる。今度はエージェントを通じた転職活動もスマホアプリで実現できるようになったという。人材スタートアップのスマイループスは12月7日、転職相談アプリ「JOBKUL(ジョブクル)」の提供を開始した。利用は無料。現在はiOS版のみで、Android版は来春にも提供される予定。

JOBKULでは、ユーザーがアプリ上で性別や生年月日、直近の年収や職種などを登録すれば、その条件に合わせてスマイループスと提携する転職エージェントがマッチングされる。マッチングされたエージェントとはアプリ上のチャットで転職相談が可能で、条件が合えば転職先のオファーを受けることができる。コンシェルジュサービスのような感覚でエージェントとのやりとりができるわけだ。そのほか、自己アピールの動画もアップロード可能。スマイループスでは現在約20社のエージェントと提携している。

サービスを手掛けるスマイループスは2012年12月の設立。これまでには動画による採用選考ツールの「EntryMovie.com」を提供してきた。2013年にはインキュベイトファンドが主催するインキュベーションプログラム「Incubate Camp 6th」に出場。その後ANRI、インキュベイトファンドから資金調達を実施している。金額は非公開だが、数千万円規模だという。

代表取締役の仲子拓也氏が語ったところによると、実は一般的な転職支援サービスでは、エージェントがユーザーに対してスカウトメールを送信した際の返信率はわずか1〜2%だという。またサービスの多くは、登録時の大量の項目に情報を入力する必要があって、そこでの離脱率も決して低くない。PCで登録するのですら大変なのに、それをスマホアプリやスマホ向けサイトにしてしまうと、「そんなに多くの項目を入力をしてられるか!」となりそうだ。

そんな既存サービスの課題もあって、JOBKULではメールではなくチャットによる気軽なやりとりとスマートフォンのプッシュ通知によって返信率を向上させるとしている(目標は返信率10%だそうだ)ほか、登録時の入力項目についても最低限にとどめた。そしてチャットを通じてエージェントがユーザーの情報を聞き、最適なオファーを提示するという仕組みをとったそうだ。「既存サービスをそのままアプリに持ってきても離脱する。僕らは出会う接点を作るだけ。浅いコンバージョンをモバイルに限定して作っていく」(仲子氏)

こう聞くと、多くの情報を入力して転職サイトに登録したユーザーに取ってはありがたい話に聞こえるかもしれないが、課題もある。それは、プッシュ通知自体が増えすぎてスパム化したりするのではないかということだ。仲子氏はその対策として、成果報酬(採用が決まればエージェントから採用人材の年収の数〜数十パーセントを報酬としてもらう)以外のビジネスモデルも検討しているという。同社では初年度1000人の転職を目標にしている。


その場でFacebook友達申請の「気まずい時間」をなくす連絡帳交換アプリ「ぴっ」

初対面の人とその場でFacebookの連絡先を交換するのって、意外と面倒じゃないですか? Facecbookに名前を入力して、検索結果一覧からアカウントを探すアレだ。実はFacebookの公式アプリには、QRコードを使って友達申請できる日本独自の機能「マイQRコード」がある。でも、実際に使おうとするとスマホのカメラを立ち上げるのに時間がかかったりして、結局は気まずい時間が流れることになる。Wantedlyが12月17日にリリースした連絡帳交換アプリ「ぴっ」は、こうした「誰のためにもならない時間」を軽減するものだ。

アプリをインストールしたユーザーはまず、プロフィールを送信したい相手に自分のスマホを渡して、電話番号を入力してもらう。(もしくは自分で電話番号を聞いて入力する)。その上で、相手に送りたい連絡先(氏名と電話番号、メールアドレス)またはFacebookアカウントを選び、SMS経由で送信できる。Facebookアカウントを送りたい場合は、Wantedlyに登録する必要がある。

メッセージはクラウド電話APIサービス「Twilio」を介して届くため、Facebookアカウントのみを送信する場合は、自分の電話番号が相手に伝わることはない。アプリに入力した相手の電話番号も保存されない仕組みになっている。

スマホで電話番号やSNSのアカウントを交換するアプリとしては、「iam(アイアム)」やリクルートが手がける「Profee(プロフィー)」などがある。これらのアプリはFacebook以外にもTwitterやLINEなどのSNSのアカウントを交換できるが、お互いが同じアプリをインストールすることが前提だった。これに対して「ぴっ」は、Wantedlyに登録する必要はあるものの、自分がアプリをインストールしていれば、誰とでも相手の端末を問わずに連絡先を送れるのが特徴だ。

実際に自分も、イベントや懇親会で会った人とその場でFacebookの連絡先を交換する時があるんだけど、名前を入力するのが面倒だし、意外と似た名前の人がいたりして、探すのに一苦労することがある。「あ、増田の『ます』は利益の『えき』じゃなくて増える方です」「出てこない? すみません、ローマ字で探してみてもらえますか……」みたいな感じだ。アプリで相手に電話番号を入力してもらうのは嫌がられそうだけど、それは自分が信頼してもらえるかどうかの問題なのかもしれない。

津田塾大初の未踏クリエーター、Wantedly新卒1年目が開発


アプリを手がけたのは、Wantedly新卒1年目の平田淳さん。彼女は幼少期から、父親の仕事の影響でMacが自宅にある環境で育ち、インターネットに興味を持ったことから津田塾大学の情報科学科へ進学。そこでプログラムを学び、中高生向けにIT教育を行う「Life is Tech」でメンターを務めるようになり、だんだんとプロダクトづくりに没頭していった。

在学中には、同大で初めて情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択。企業から就職活動中の学生にオファーをする「逆求人就職支援システム」を開発した。大学生は就活中に興味のある会社説明会に参加するが、もしも企業の方からスカウトが来れば、自分を客観的に見たり、選択肢になかった業界に興味を持つきっかけになると考えたからだ。

彼女自身、リクルートから内定を得ていたが、Life is Techで講演したWantedly創業者の仲暁子さんと出会い、「大企業よりもスタートアップで何でも経験するほうが学べることが多い」と決意。リクルート内定を辞退し、未踏プロジェクトが終わる6月にWantedlyに入社した。

「ぴっ」には昨年まで就活生だった彼女ならではの思いが盛り込まれていると話す。「就活を始める大学生は、企業の人事から見られるという理由で、Facebookアカウントを作り始めたり、昔からやっている人は金髪時代の投稿を消したりします。そのうち、会社説明会で会った就活生同士がFacebookでつながるんですが、ほとんどの人は共通の友だちがいないので、なかなか相手を探せないんです。そんな場面で使ってもらえれば」。


LINE Payで「LINEカツアゲ」が横行する?

12月16日、ついにモバイル決済サービス「LINE Pay」がスタートした。詳しい機能や気になるセキュリティに関する話は紹介済みだが、一部では「LINEカツアゲ」が懸念されている。気軽に個人間決済ができるようになったことで、「お前飛べよ」「いや、持ってないですよ」「おい、小銭の音したぞ」みたいなやりとりをせずに、「スマート」にカツアゲが行われるんじゃないかっていう心配だ。

この点についてLINE執行役員の舛田淳氏に聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。「カツアゲ自体は犯罪行為なので、警察に届けていただくべき。LINE Payを使ったカツアゲが起きたとしてもLINEにログが残っているので、リアルなカツアゲよりも足が付く。警察に一網打尽にされるでしょう」。

LINEカツアゲの被害にあった場合は警察に届け出よう。


モバイル決済サービス「LINE Pay」が始動–手数料0円で個人間送金や割り勘可能に

LINEの決済サービス「LINE Pay」が12月16日、スタートした。キャリアやOSを問わず、iPhone、Android版のLINEアプリを通じて友だちへの個人間送金や割り勘ができるほか、提携サイトでの決済が可能。ECサイトの決済はまず、LINEの有料コンテンツが買える「LINE ウェブストア」に対応する。決済の手数料は月額100万円未満まで無料(100万円以上は3.45%)、トランザクションフィーも無料。「業界最安値」の手数料を打ち出し、近く外部のECサイト(加盟店)を開拓していく。

相手の口座情報不要で送金できる

利用するにはまず、LINE上でLINE Pay専用のアカウントを登録する。その後、銀行口座振替やコンビニ店頭、Pay-easy(ペイジー)経由で最大10万円まで事前チャージ(手数料無料)したり、クレジットカード登録することで、送金や決済が利用できる。銀行口座振替は、みずほ銀行と三井住友銀行のネット口座振替と連携。送金・決済やチャージ、口座振替の際には、子会社のLINE Payと各機関の間で処理が行う。

主な機能は「送金」と「決済」の2つだ。

送金はLINEでつながっていれば、相手の銀行口座を知らなくても、メッセージやスタンプを添えてお金を送金できる。LINE Pay上から、送金する相手を選択し、支払金額やメッセージを入力すれば、相手のLINE Pay口座に支払金額が入金される。

特定の相手に対してLINEのトークを通じて支払い要請をする「送金依頼」機能、合計の支払額とLINEの友達の中から参加メンバーを選ぶだけで、均等な金額を各メンバーに請求できる「割り勘」機能も搭載する。

送金、送金依頼、割り勘の各機能は、LINE Pay未登録の友だちにも送信できるが、7日以内に登録・送金処理が行われない場合、送金は発信者への返金、送金依頼と割り勘はメッセージが再送信される。送金手数料は無料となっている。

出金手数料は216円

LINE Payでチャージ・送金されたお金は、日本全国の金融機関の口座から引き出せる。LINE Payでは送金自体の手数料は無料だが、出金するには200円(税別)の手数料がかかる。出金機能は、運転免許証や健康保険証を撮影してアップロードして本人確認を済ませたユーザーだけが利用できる。

LINE執行役員の舛田淳氏によれば、LINE Payはソフトローンチという位置付け。まずは、気軽に個人間送金を実現するツールとして提示したと語る。

「グローバルではモバイル送金サービスが進んでいるが、日本で個人間送金というと現金書留か振込みくらい。現金書留は使い方がわからない人もいるし、現金振込みは煩雑な手続きが必要で手数料も発生する。LINE PayはLINEのトークを通じて、24時間いつでも使える個人間送金を提案したかった。友だちの割り勘もLINEらしい機能。」

国内最安値の手数料で「LINE経済圏」拡大か

決済は、提携するECサイトやWebサービス、アプリの支払いを、LINEアプリ上から行える機能。まずはLINE ウェブストアでの決済に対応し、近く公開を予定しているデリバリーサービス「LINE WOW」やタクシー配車サービス「LINE TAXI」といったLINE周辺サービスにも導入する。今後は、LINEのIDとパスワードで商品の支払いができる加盟店を開拓する。

加盟店は、購入者に対して個人情報やクレジットカード情報の登録を求める必要がなくなり、買い物途中の離脱防止や成約率の向上が見込めるのがメリットだ。「顧客の決済情報」をLINEに押さえられることになるが、セキュリティなどのシステム投資に予算をかけずに、LINEの国内5400万ユーザーを潜在顧客にできるのは魅力かもしれない。

加盟店開拓の武器となるのは、「業界最安値」の手数料。決済手数料は月額100万円未満であれば無料、100万円を超えた分は物販であれば3.45%、デジタルコンテンツであれば5.5%、トランザクションフィーは無料となっている。手数料は2年間無料とし、その後も国内主要決済サービスより割安の3.45%に設定する予定だ。

加盟店の獲得は「LINE経済圏」を拡大することにもつながりそうだが、舛田氏は否定する。「LINE経済圏というより、もっと緩いイメージ。決済システムを提供することで、加盟店はLINEの周辺で簡単にビジネスできるようになる」。とはいえ、外部のECサイトからの手数料収入が、LINEの大きな収益源の一つとなることは間違いなさそうだ。

LINE執行役員の舛田淳氏

ところでセキュリティは大丈夫?

LINEはIDが乗っ取られ、プリペイドカードの購入を促す詐欺が相次いでいたことから、10月のLINE Pay発表時にはセキュリティを懸念する声が多かったのは事実。「LINE乗っ取り詐欺の効率が向上するのでは」と不安視する向きもあるが、実際のところはどうなのか?

LINEの乗っ取りについて舛田氏は、「9月22日にPINコードの設定を義務化したことで、10月12日以降は警察庁やLINEへの被害報告はない」と説明する。LINE Pay自体のセキュリティ確保や不正利用防止については、以下の対策をしているという。

・LINEと異なる、7桁のLINE Pay専用パスワードを登録する
・PCサイトでの決済時に、LINEアカウントを登録している手元のスマートフォンと連携して認証する
・金銭が移動する機能の利用時や、別端末でのLINE Pay初回ログイン時に、登録した専用パスワードを入力する
・Apple Touch IDによる指紋認証でパスワード照会(iPhoneのみ)する
・送金依頼の回数や金額などの諸条件で、不正な動きをするアカウントをモニタリングする
・ユーザーの本人認証の有無で利用できる機能を制限する(下図参照)

上記にあるように、金銭が移動する機能の利用時や、別端末でのLINE Pay初回ログイン時には、登録済みの専用パスワード入力が必須となるため、万が一、LINEのアカウントが乗っ取られた場合でも、LINE Payのほとんどの機能は利用できないと、舛田氏は語る。「不正利用で考えられるケースとしては、スマホを盗まれて、LINEとLINE Payのパスワードも知っている場合くらい」。

圧倒的な勝者不在のID連携決済

自社IDを使って外部のECサイトで支払いができるサービスとしては、国内では楽天の「楽天ID決済」やヤフーの「Yahoo!ウォレット」、リクルートの「かんたん支払い」、PayPal、携帯キャリアなどがある。米国ではAmazonが「Login and Pay with Amazon」を提供しているが、日本ではまだサービスインしていない。国内では圧倒的な勝者が不在のID連携決済だが、LINEはOSや携帯キャリアを問わずに使える利便性、国内屈指のユーザー基盤、手数料の安さによって、一気に加盟店を獲得する可能性もありそうだ。

米国では9月、実店舗での支払いに使える「Apple Pay」がスタートして注目が集まっている。詳細は明かされなかったが、LINE Payでも同様に、将来的にはオンラインとオフラインの垣根を超えて利用できるようにしたいという。


3パラグラフの”ざっくり時事ニュース”で英語を学べる「StudyNow」

スマートフォンでニュースを見るとき、冗長な記事にはちょっと疲れてしまうことがある。もちろん「(仕事や趣味で)●●について知っておきたいからニュースをじっくり読む」という時は少しでも長くて詳細な記事を探して読むのだけれど、「移動中などに世の中の大きな流れをざっくり知りたい」という時は、短い記事で概要が分かればそれでよかったりする。

そんなスマートフォン時代のコンテンツ消費を意識して生まれた英語学習者向けのニュースアプリが、イオテックインターナショナルが12月15日に公開した「StudyNow」だ。

このStudyNowは、3パラグラフに集約した短かい英語ニュースを中心に、その対訳、解説(単語や熟語、常用の英語表現、さらには3パラグラフにおさまらないニュースの背景などの解説)をセットにして掲載している。なお、英語初心者向けに対訳が先に表示される「リバースモード」も用意する。

さらに課金アイテムの「魔法の鍵」を使用することで、ネイティブスピーカーによるニュースの読み上げ音声を聴くことができる。鍵は20個で200円、66個で600円、140個で1200円で購入できる。今後は「連続ログイン報酬」「記事の既読数による報酬」「ランキング」など、ゲームアプリのように利用度合いに合わせて鍵をユーザーに配布することも検討している。

掲載される記事は1日1本〜3本程度。現在は速報性より英語学習アプリとしての機能充実に重点を置いているということで、ちょっと古いニュースが届くこともあるのだそうだ。確かに音声の録音までするとなると、それなりの時間も手間もかかる気はする。ニュースのカテゴリはビジネスや政治といったカタいものもあるが、エンタメやゲーム、漫画・アニメといったユルいものの割合が多いようだ。英語記事はStudyNowの編集部で作成する独自コンテンツとなる。

アプリ誕生のきっかけは「英語教材がつまらないから」

イオテックインターナショナルの代表を務める増山雅実氏は、学生時代に麻雀の個人サイトを立ち上げて以来、オンライン麻雀に関する記事執筆や、サービス開発、英会話学校の運営などを手がけてきたそうだ。同氏のサイトである「初心者のための麻雀講座」は現在も月間200万PVほどあるという。

そんな増山氏だが、アプリ開発のきっかけについて、「昨今のブームである『ニュースアプリ』の文脈ではなく、『英語学習や英会話の教材がつまらない』という昔からの不満」があったからだと語る。「(これまでの英語)教材ではホテルや空港での他愛のないやり取りといった定番の会話から、時事ニュースといっても海の向こうで起こった政治経済など堅い話が中心。世の中では日本の漫画やアニメといったポップカルチャーが持ち上げられてはいるが、(教材として)教育の現場に持ち込まれることはまだまだ少ない」(増山氏)ということで、時事ニュースよりも取っ付き易いポップカルチャーなどの身近な話題で、継続して楽しめる学習題材を提供していくのだという。

鍵の課金による収益化のほか、今後は広告の導入も検討する。「いわゆるバナー広告的なものは排除している」(増山氏)とのことで、通常の記事と同様の英文、和訳、解説がつき、さらには音声も提供することで「クライアントの商品説明が英語学習コンテンツになる」というネイティブアドを導入したいとしている。さらには、ユーザーに魔法の鍵を提供する機能も準備しているそうだ。「勉強している人に『差し入れ』をするイメージ。告知によって露出が増え、記事が読まれやすくなる。また全体的なイメージアップを期待できる」(増山氏)。

確かにこれがうまくいけば、英語学習したいユーザーにも、広告クライアントにも幸せな仕組みができるのかも知れない。まずは広告を展開するためにもユーザー数の拡大が必須となる。


「出すのは早すぎた」鳴り物入りで登場したニコキャスが6日で終了

いくらなんでも早すぎませんか? 「ニコニコ生放送以来の大型新サービス」と鳴り物入りで登場したライブ動画配信サービス「ニコキャス」が、早くも12月17日に幕を閉じることとなった。12月12日のサービス開始からわずか6日。記事では「ついにベールを脱ぐ」と書いが、即効でベールをかぶってしまうようだ。

サービス終了は15日に告知ページで発表された。その理由が技術的な問題なのか、法律的な問題が生じたのかは一切明かされていない。告知ページには「出すのは早すぎたという結論に」と理由が書かれているのみ。ドワンゴ広報に確認したが、告知ページ以外の内容はコメントできないとのことだ。

告知ページには「出直してまいりますので、次回のリリースをお楽しみにお待ちください」と書かれているが、そもそも告知ページのタイトルは「サービス終了のお知らせ」。本当に再開するのか、それとも終わるのかわからないが、続報が出たらお伝えしたいと思う。


日経BPのA3コンテスト大賞受賞のDrivemodeが200万ドルを調達―見ないでAndroidアプリを操作するアプリ

本来、運転中にスマートフォンを使うべきではない。しかし実際には多くのドライバーが運転中にスマートフォンを操作しようとして自分や他人を危険にさらしている。これまでステルスモードで活動してきたスタートアップ、 Drivemodeは、200万ドルのシード資金の調達に成功した。Drivemodeは「画面を見ずに既存のアプリを操作できるAndroidアプリ」だ。

Drivemodeアプリはよく使われる機能、通話、メッセージ、カーナビ、音楽などのアプリを画期的なUIによって画面を見ずに操作できるようにする。このUIはメニューのどの位置にいるかを合成音声で伝える上に、それぞれのアプリに原色のオーバーレイを表示するため周辺視野だけで確認できる。

「われわれはユーザーインタフェースが車載に適するよう自動車メーカーと協力して開発をおこなって3いる」とDrivemodeの共同ファウンダー、古賀洋吉CEOは言う。ただし、まだ具体的な契約について明かせる段階ではないという。

「政府の車載ITシステムに関する安全ガイドラインによれば、1回の操作のための画面の注視が2秒以内ですむことが求められている。しかしわれわれはUIを根本的にシンプル化することにより、注視時間をゼロにしようとしている」と古賀CEOは付け加えた。

古賀氏は日本生まれ、日本育ちで、ハーバードビジネススクールでMBAを取得した後、ボストンでベンチャーキャピタリストとして活躍していた。彼はまたZipcarの国際展開の責任者を務めた。しかしあるスタートアップで働くためにカリフォルニアに引っ越してから、長時間の自動車運転に悩まされるようになった。

「スマートフォンのUIはデバイスを手に持って操作するようにデザインされている。そのため数多くの小さいボタンを探し、正確にタッチしなければ ならない。これは自動車を運転中に使うには向いていないインターフェイスだ」と古賀CEOは言う。

もちろん、Googleには“Car Home”がある。これは大きなボタンを利用しているので運転中でもタッチしやすい。またこれに似たアプリはいろいろ出回っている。また自動車メーカーもMyFordタッチやSyncなど運転中に操作しやすい車載デバイスを開発している。しかし、こうしたデバイスはブラインドタッチで操作できる域には達しておらず、インターフェイスの問題を完全に解決していないという点では古賀氏に同意せざるを得ない。

これにたいしてDrivemodeは「見ないで操作」できることを目標としている(下のデモビデオはその点を強調している)。

単にボタンやメニューなどの要素を大きくしたり、起動後はもっぱら音声で操作したりするのではなく、Drivemodeのユーザーは非常にシンプル化されたメニューを操作してアプリを選択、起動する。アプリやオプションが選択されると、それを合成音声が伝えてくれる。原色のカラーオーバーレイとアニメーションが用いられてるので、画面を注視しなくても周辺視野におくだけで操作が確認できる。またこのアプリはユーザーの日常の行動を学習し、それに応じてショートカットを提供する(たとえば、ホームと命じると自宅へのナビが表示される)。また通話の場合は、家族や同僚などよく連絡する相手を覚えて、簡単に呼び出せる。

ユーザーは音楽などのスマートフォン・アプリをDrivemode内から操作できる。またメッセージ・アプリの場合は、着信メッセージの読み上げ、自動返信なども可能だ。

200万ドルのシード資金、1万ドルはK From Blog Readers

Drivemodeチームは現在6人で、サンノゼと東京にオフィスがある。共同ファウンダーは、古賀CEOに加えて、上田北斗(フルタイムの本業はTesla)、 Jeff Standard(プロダクト責任者)、メカニカル・エンジニア)、中河宏文(メカニカル・エンジニア、Androidデベロッパー)の4氏だ。これに最近Joao Orui氏 (日本在住のブラジル人エンジニア)、横幕圭真氏 (エンジニア)の2人が加わった。

Drivemodeは東京のIncubate Fund が全面的に支援している。このベンチャーキャピタルは通常は日本のスタートアップを対象としているが、今回はグローバルな将来性を買ってシリコンバレーに本拠を置くDrivemodeに出資した。

「車載専用ナビシステムの代わりにスマートフォンを利用することはグローバルなトレンドだ。DrivemodeはAndroidスマートフォンが普及している多くの国で広く利用されるようになる可能性がある」とIncubate 赤浦徹ゼネラルパートナーは書いている。

Incubate Fundからのシード資金に加えて、古賀CEOは人気ブロガーでもあり、Globespan Capital Partnersを離れてDrivemodeをスタートさせると発表すると、その影響力で読者から1万ドルの寄付を集めることに成功したという。

限定ベータテスト中

Drivemodeは今日(米国時間12/11)、アメリカで限定ベータテストを開始した。参加希望社はDrivemodeのサイトを訪問してアプリをダウンロードする(Google Playではない)。インストールしてアプリを起動すると招待コードの入力を求められるのでTCMODEと入力する。外国のユーザーはメールアドレスを入力して招待希望のボタンを押す。Drivemodeで準備ができるとメールで招待コードが送られてくるはずだ。

〔日本版〕Drivemodeアプリは日本からもインストールできるが、TCMODEという招待コードではアクティベートできないようだ。やはりDrivemodeからの招待コードを待たねばならないらしい。なお、Drivemodeは2014年10月に開催されたAndroid Application Awardコンテスト(日経BP ITPro主催)で大賞を受賞している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


WiLとソニーがIoTの新会社「Qrio」設立へ――第1弾プロダクトはスマートロック

ベンチャーキャピタルのWiLが、彼らのファンドに出資するソニーと組んで新会社「Qrio」を12月中旬にも設立する。新会社の資本金は3億3350万円で、出資比率はWiLが60%、ソニーが40%。代表取締役には、WiL General Partnerの西條晋一氏が就任する。

WiLは設立当初から、スタートアップへの投資に加えて、大企業とスタートアップの架け橋になったり、大企業の保有する技術を世に出したりするといったことをうたっていた。今回の新会社は、そんな取り組みの1つの形だ。西條氏に聞いたところ、新会社設立はWiL側からの提案だったそう。「ソニーは構造改革をしつつ、新しいことに挑戦している最中。カーブアウトについても検討しているが、まずは僕らから提案した」とのこと。

Qrioが提供するのはスマートロック「Qrio Smart Lock」だ。すでにクラウドファンディングサービス「makuake」を通じて購入が可能だ。価格は2つセットで2万2500円からとなっている。12月12日にプロジェクトは発表されたが、すでに現在(17時40分)時点で目標金額150万円中、約122万円が集まっている。

西條氏はQrioの設立に向けて、海外製品を中心に、実際に複数のスマートロックを取り寄せ、ソニーの技術者とともに分解したり、使用してみたりしたのだそう。だが中には品質に満足いかないものも少なくなかったようで、「Airbnbが登場し、人の働き方も変わってきた。ベビーシッターやシェアハウスなどのニーズがある中で、ちゃんとした製品ををちゃんとしたメーカーが作ることは大事」と語る。僕も建築業界の関係者から「セキュリティ面が担保されないと、ウィークリーマンションやAirbnbで貸すような部屋など導入は限定的になるかもしれない」という話を聞いたことがある。

ちなみにWiLでは日本版Airbnbとも言える「TOMARERU」を手掛ける百戦錬磨にも出資している。同社のサービスとスマートロックの連携は「可能性はあるし、比較的容易だと思う」(西條氏)とした。

スマートロックはQrioの第1弾のプロダクトということで、今後もIoT関連の製品を提供することを検討中だそうだ。また、ソニー以外の出資者と組んで別領域での新事業を展開するという可能性もあるとしている。

海外では、「August」や「Kevo」、「Goji」などのスマートロックがあるようだが、最近では国内でもスマートロックを手掛けるプレーヤーが増えてきている。TechCrunch Tokyoのスタートアップバトルに登壇してくれたフォトシンスの「akerun」や、電通子会社の電通ブルーの「246(ニーヨンロック)」などもそれぞれ発売を控えている。


創業者の苦労から生まれた語学留学の口コミサイト「School With」、East Venturesから資金調達

ここ数年、「語学留学のためにフィリピンに3カ月行ってくる」なんてソーシャルメディアで投稿する友人を見かけることが増えた。実際その数は急増しているそうで、フィリピン政府観光省の発表によると、2010年時点での日本人の留学渡航者は4000人だったが、2013年には2万6000人まで拡大したそうだ。

その理由は日本との距離もさることながら、1日6時間の学習に三食寝室付きで月額15万円程度といった低価格であること。ちなみに日本での人気が高まる以前からフィリピンへの留学渡航者が多かったのは韓国なのだが、現在その数は年間10万人になっているそうだ。

だが留学渡航者が多くなっていく中で、問題も出てきた。いくらウェブサイトで講師や設備の質をうたっていても、いざお金を払って現地に行くとぜんぜん違う環境だった…ということが起こるようになったそうだ。僕が聞いた最悪のトラブルは、語学学校が運営の資格を持っておらずに閉鎖してしまい、渡航者は自身の授業を終える前に帰国せざるを得なくなるというものだった。

School With」は自身も語学留学で苦い経験をしたという起業家が立ち上げた語学留学の口コミサイトだ。運営会社のSchool Withは12月11日、East Venturesからの資金調達を発表した。金額は非公開だが、数千万円規模とみられる。

School Withの代表取締役社長である太田英基氏は、無料コピーサービス「タダコピ」を運営するオーシャナイズの創業メンバー。同社の取締役を退任したのち、フィリピンへの語学留学(ここで自身もネットワーク環境が説明と違ったり、「入学前に聞いていない」というようなトラブルに遭ったそうだ)の後に世界一周して帰国。2013年にSchool Withを立ち上げた。

School Withでは、日本人を受け入れる語学学校の情報、金額や英語使用のポリシー(中には日本語を使うと罰金というようなスパルタな学校もある)といった学校側から提供される情報が掲載され、それぞれの学校に紐付くかたちで実際に留学したユーザーの実名による口コミが投稿されている。「留学エージェントは数多いが、強みになるのは実名での口コミ。これがキラーコンテンツになっている」。同社では学校と提携し、資料請求や申し込みの代行などで収益を上げている。

その口コミの数は現在1000件。正直多いと言える数ではないが、「例えば食べログのように食事を投稿するなら、外食の機会によっては1日数回投稿するチャンスがある。でも留学は一生に一度あるかないかという人がほとんど。数より質を重視している」(太田氏)。また口コミの他に、留学体験のあるユーザーからのコラムも掲載する。現在はフィリピン留学に特化しているが、今後は欧米などカバーする地域を拡大する予定。

同社は今回の調達を元に人材獲得を進めるほか、サービスを展開する地域をフィリピン以外に拡大していく。また留学のエージェントだけでなく、留学後の学生を対象にした人材ビジネスを展開するそうだ。


議事録から離婚まで、TechCrunchハッカソンで生まれた「○○の再開発」

「り・こ・ん! り・こ・ん!」会場に鳴り響く、大・離婚コール。11月15日、16日に東京・台場のコワーキングスペース「MONO」で開催した「TechCrunch Hackathon Tokyo 2014」での一コマだ。ハッカソンのテーマは「○○の再開発」。24時間の耐久ハックを終えてできたのは、議事録やクラウドファンディングを再定義する実用的なプロダクトから、暗くて面倒な離婚をカジュアル化するというサービスまで。ちょっと長めのレポートになるが、参加を希望していて来られなかった人や、今後ハッカソンに参加したい人のためにも、異様な盛り上がりを見せたイベントの模様をお伝えしたい。

ドラえもんの「ひみつ道具」でアイスブレイク

当日は週末にもかかわらず、140人近くが参加。中には小学5年生の女子もいたが、参加者のほとんどは社会人。チームではなく個人での参加が大半だったせいか、会場には若干の緊張感も見られた。

そんな空気をほぐすアイスブレイクでは、スケッチブックに一筆書きで、自分が最も好きなドラえもんの「ひみつ道具」を描けという指令が。ぐるっと会場を見回してみると、どこでもドアが多い印象。

そのほかにも、もしもボックスやスモールライトがあったり、

特別ゲストとして参加してくれたmasuidriveこと、トレタの増井雄一郎さんは「こえかたまりん」を描いていたり、

もはや一筆書きでもなく「???」といったものまでが描かれていた。

APIを1つ使えばルールは自由

アイスブレイクの頭の体操で空気が和んだ後は、ハッカソンで利用するAPIの説明だ。今回のハッカソンでは下記のAPIのいずれかひとつを使ってサービスを開発することがルール。それ以外は、使用言語や開発プラットフォームは自由。こっそりランサーズに発注するのもアリだ。

・デンソー:NaviCon(スマホで探した場所をカーナビへ送るアプリ)のURL発行など
・エクシング:言語解析API(係り受け・形態素・ポジネガ・感情・感覚の解析)
・HOYAサービス:VoiceText Web API
・セイコーエプソン:MOVERIO BT-200
・朝日新聞社:朝日新聞記事検索API
・楽天:楽天API(楽天市場や楽天ブックス、楽天レシピなどの情報を取得できる)
・構造計画研究所:クラウドメール配信サービス SendGrid
・Gracenote:音楽ソリューションAPI
・KDDIウェブコミュニケーションズ:クラウド電話&SMS API Twillio
・ぐるなび:ぐるなびレストラン検索APIなど
・インテル:Edisonボード、Galileo開発ボード
・シャープ:ネットワークプリント
・ソフトバンクロボティクス:Pepper
・NTTドコモ:ドコモAPI(画像・文字・音声認識、音声合成、トレンド記事抽出など)

アイデア発想のコツは「他家受粉」

各社15分ずつの熱のこもった説明を終えると、次はアイデアブレストの時間。ハッカソンの進行役を務めたリクルートの伴野智樹さんは、そのコツは「他家受粉」にあると話す。

他家受粉とは、他の個体の花粉によって受粉されることを指す言葉。遺伝子の組み合わせが増えることで、種としての適応度が高まる。ハッカソンにおいては、異なるアイデアやコンセプトが専門領域を超えて「受粉」しあうことで、社会環境でのアイデアやコンセプトの適応度も高まるのだとか。

伴野さんが「他家受粉」を促すために採用しているのが、アイデア吐き出しツールとして知られる「はちのすボード」だ。

参加者は、いくつものマスで構成される「はちのす」の中央に、自分が興味のあるAPIを書き、その周辺の「はちのす」にAPIに関連するキーワードを書いていく。例えばTwillioであれば、「メール」「電話」「SNS発信」といった感じだ。

さらに、周りの「はちのす」に、自分が作りたいプロダクトのテーマ、例えば「エンタメ」や「目覚まし」といったキーワードを記入し、そこからそのキーワードを細分化していく。

こうすることで、自分では考えも付かなかったアイデアとAPIの組み合わせが生まれるのと、伴野さん。「イノベーションは意外と、偶然の組み合わせの先にあるんです」。

ぼっち飯、自己紹介、離婚……再発明が続々

はちのすボードを書き終えると、次は「アイデアシート」に記入する。アイデアシートは、今回のテーマである「○○の再開発」を設定し、3行のサービス概要と絵を入れることがルール。利用を検討するAPIも書き込む。

全参加者がアイデアシートを記入した後は、お互いのアイデアを確認するための「アイデアウォーク」。あまり聞き慣れない言葉だが、ざっくり言うと、参加者がお互いのアイデアシートを見て、良いと思ったアイデアに星マークを付けたり、付箋でアドバイスを貼り付けたりするもの。

チームビルディングが後に控えるだけあって参加者が熱心なのはもちろんだが、APIパートナーも外部の知恵を取り入れようと、熱心にアイデアシートを覗きこんでいたのが印象に残った。

ちなみに、最も多くの星を集めたアイデアの1つは「離婚の再発明」というアイデアだった。

お互いのアイデアを確認した後は、いよいよチームビルディングだが、その前に多くの星を集めた「モテアイデア」の持ち主が参加者の前でプレゼンを実施した。

そこでは、特別ゲストとして参加した堤修一さんも登場。iOS方面で著名なエンジニアの堤さんは、500 Startupsに参加するグロース・プラットフォーム「AppSocially」の元開発者でもある。アイデアは、エプソンのスマートグラス「MOVERIO」で相手を見ると、その人がどんな特技や技術を持っているかがわかるというもの。「ハッカソンで初めて会う人同士が神経をすり減らさなくて済む」とアピールしていた。

チームビルディングは、伴野さんの「ナンパしまくってください」という掛け声とともにスタート。

参加者の7割が徹夜でハック

チームビルディングで作られたのは合計32チーム。その後はひたすらハッキング。エンジニア、ディレクター、デザイナーがひたすら手を動かす時間だ。

ハッキング開始から約4時間後には各チームが中間発表。それぞれが独自の「再開発」のアイデアを披露した。

その後はひたすら、ハッキング。

夕食の弁当がふるまわれたあとは、

ハッカソンでよく見るレッドブルの差し入れも。250本のレッドブルタワーは一瞬にしてなくなった。

多くの参加者が近くの「大江戸温泉物語」などで泊まり込んだり、会場の机につっぷしたり、

地べたで寝るなど、ハッカソンならではの光景も見られた。参加者の約7割は自宅に帰らずに開発を続けていたようだ。

朝型、明らかに前日と比べて疲労の表情を色濃く見せる参加者だが、最後の追い込みにむけて作業を続ける。Pepperくんもグッタリしていた。

そしていよいよ、成果発表のときだ。審査基準は「イノベーション」「完成度」「デザイン」の3点。中でも最も重視するのがイノベーション。つまり、革新性と新規性というわけだが、ここでは入賞した5作品を紹介しよう。ちなみに5チームは、11月19日に東京・渋谷で開催した「TechCrunch Tokyo」でライトニングトークをしてくれた。

CFTraq(クラウドファンディング・トラック)

クラウドファンディングサイトをクローリングして情報を取得するサービス。複数のサイトの情報を一元化できるのが特徴で、各サイトで募集中のプロジェクトを一覧したり、過去の調達額や支援者数の多い順にプロジェクトを表示することができる。プロダクトを開発したsawayamaさんは、「クラウドファンディングのプロジェクトは基本的に公開されているが、情報が整理されていない。個人的にも欲しかった」と話していた。

どこでもドアノブ

世界各国の観光地に行った気分になれるドアノブ風のガジェット。ドアノブを回すと世界各国の映像を表示したり、現地の人とTwillioを通じて音声通話できるというもの。音声通話は観光地のパブリックスペースに電話を設置する。例えばエジプトのピラミッド近くに設置した電話に発信した場合、「おい電話なってるぞ」と気づいた人が出るのだとか。審査員を務めたコイニーの久下玄さんは「誰が世界各国に電話を設置するの? 電源やネットワークは?」と戸惑いながらもアイデアをたたえていた。

loltube

15秒間のニュース動画を作成して共有するサービス。ユーザーはYouTubeから動画のハイライトをピックアップして15秒にまとめる。ゲームのプレイ動画などテキストでは伝わりにくいネタが適しているのだという。投稿された動画を組み合わせてストーリーを作ることもできる。

ギジロク ジョーズ

周囲360度を撮影できるカメラ「RICOH THETA」を使って議事録を作成するアプリ。音声認識で発言を文字起こしし、LINE風のUIで議事録がまとまる。THETAで撮影した画像は顔認識技術を用いることで、誰が何を話したかを特定することが可能。特定の会話の動画を再生できるので、会議の雰囲気も伝わるのだとか。みやこキャピタルの藤原健真さんは、「シンガポールに文字起こしのスタートアップがあるが、日本にはプレーヤーがいない。音声認識できない部分はクラウドソーシングで文字起こしすれば良いサービスになる」と高く評価していた。

密告者

電車内の痴漢を監視するアプリ。痴漢被害にあった女性はアプリを開いてHelpボタンを押すことで、電車内に設置されたGalileo端末からドコモの音声合成APIを用いて「痴漢です」というアラートを流せる。Bluetooth通信で同じ電車に乗っているアプリの利用者全員にメッセージを送ることもできる。通信面ではメッシュネットワークを採用。Bluetoothだけでチャットができるため、インターネットに接続できない地下鉄でも利用できる。蓄積したデータをもとに、どこの路線の何番車両に痴漢が多いか、といったこともわかる。

アグレッシブ離婚
最後に、惜しくも入賞は逃したものの、会場で熱狂的な支持を集めたプロダクトをお伝えしたい。「日本は離婚がタブー視されすぎている」ことを問題視したチームが手がけた「アグレッシブ離婚」だ。ウェブ上で相手の電話番号とコメントを入力するだけで離婚を申し込めるという、まさに「離婚の再開発」といっていいプロダクトだ。

離婚申込み後は、Twillioが承諾を求める電話を代行。人間味のない自動音声で「離婚に承諾する場合は1を、しない場合は2を…」という声が流れるデモでは、会場が大爆笑の渦に包まれた。プロダクトとしてはちゃんと設計されていて、離婚の承諾が得られた場合には、承諾の意思と離婚届を印刷できるネットワークプリントサービスのコードをメールにて通知。近くのコンビニのコピー機で離婚届を印刷、提出して離婚が完了となる。

審査員を務めたリクルートホールディングスの石山洸さんは、「リクルートはゼクシィをやっているが、離婚が増えるともう1回結婚することになる。トランザクションが増えるので、ぜひ流行らせてほしい」と大絶賛(?)していた。

Some photos are shot by joohoun(twilio)


ブランド委託販売「RECLO」が2.4億円調達、グノシーと提携効果は限定的かも

高価格帯のブランド品を委託販売できる「RECLO(リクロ)」は、「フリマするほど暇じゃない人」をターゲットにしたアプリだ。フリマアプリはスマホで撮影した商品を気軽に出品できる気軽さが受けているが、リクロは宅配キットを取り寄せて商品を送るだけで、あとは勝手にブランド品の真贋判定や値付け、撮影、出品までを肩代わりしてくれる。リリースから約半年で17万ダウンロードに達したリクロだが、12月10日に第三者割当増資を実施して2億4500万円を調達した。引受先はB Dash Venturesやフューチャーインベストメントなど。

リクロは在庫を持たないオンライン委託販売であるため、出店コストがかさみがちな既存の買取業者と比べて、2~3倍の出品者への高額還元が可能なのだという。平均落札金額は3万円台で、ユーザーは落札金額の50〜70%を受け取れる。サービス開始当初、出品アイテムの多くは業者から仕入れていたが、現在は半数以上が個人のクローゼットに眠るリユース品。7月には、これまで出品しなかったユーザーを獲得するために、アプリで商品を撮影するだけで無料で査定してもらえる機能を追加した。現在は1日あたり約50件を査定しているという。

1カ月あたりの出品数は約2000〜3000アイテム。個人の出品数を押し上げているのは「セレブ」の存在だと、アクティブソナーの青木康時社長は語る。「セレブが参加するパーティーに紹介づてで足を運んで、交流かたがたリクロのことを知ってもらっている。セレブの方が出品するアイテムは総じて状態が良いものばかり。一度出品していただくと『また半年後に来て』と言われることも少なくない」。さらに、セレブからは高級インテリアや家電の出品を依頼されることも多く、今後は商品の横展開も視野に入れたいという。

グノシー経由でブランド品は売れるか

12月10日からは、ニュースアプリ「Gunosy(グノシー)」が手がける新サービス「Gunosy Platform」と提携。グノシー上でブランド品を最大90%で販売する「RECLO チャンネル」を12月中旬に、48時間限定のタイムセールで食品や雑貨を販売する「FLIP チャンネル」を10日に新設する。各チャンネルはグノシーの画面右下に追加されるチャンネルボタンや、グノシーのタイムライン上に掲載されるネイティブ広告を通じて誘導され、グノシー内でそのまま購入できる。

グノシーは11月、ユーザー目標数にちなんだ「5000万人都市構想」を発表。5000万人都市の舞台となるのがGunosy Platformで、リクロのほかに、家計簿サービス「マネーフォワード」やIPサイマルラジオ「radiko.jp」、宅配クリーニング「Lenet(リネット)」など11社14サービスと提携し、それぞれグノシーから利用できるようになっている。

Gunosy Platformは、あたかも1つの都市に各種店舗があるような状態にして利便性を高めようとするもの。とはいえ、タダでニュースを読みに来たユーザーが、どれだけブランド品に興味を持つかは未知数だ。その反面、ユーザーがファッションコーディネートを投稿できる「iQON(アイコン)」では、アプリ経由の売上が月間10億円近くに上るという。「もともと財布を持ってきていない」ユーザーが相手でも、アプローチの仕方次第ではECが成立する事例もあるわけだ。Gunosy Platformについて青木氏は「少なくとも、リクロがグノシーのアクティブユーザーの目にとまる機会が得られるのは大きい」と話している。