Appleは、近々リリース予定のiOS 10に含まれる、Siri経由の音声制御に対応したアプリの一部を本日(米国時間8月31日)発表した。先日のWWDCで発表された通り 、新たなiOSにおける最大の変更点のひとつこそ、ユーザーが声を使ってアプリとやり取りができる ようになるということだ。近いうちにiOSユーザーは、テキストメッセージの読み書きや写真の検索、Uberといったアプリでの車の手配、ワークアウトアプリの一時停止、友人への支払、サードパーティーのVoIPアプリを使っての電話など、たくさんのことをSiriにお願いできるようになる。
既にSiriは、TwitterやYelpといったサードパーティーアプリの一部機能に対応しているものの、今後Appleは、ユーザーがもっと広範囲にアプリと”会話”できるようにしようとしているのだ。
SiriKit
ユーザーとアプリの”会話”は、SiriKit を使うことで可能になる。これはiOS 10ディベロッパー向けの新たなツールキットで、彼らはSiriKitを利用して、自分たちが開発しているアプリとバーチャルアシスタントのSiriが連携できるようなエクステンションを作成することができる。
つまり、Siriが音声認識や自然言語処理といったユーザーとのやり取りを担当し、エクステンション経由でアプリから必要な情報を受け取ることで、ユーザーのリクエストを処理できるようになるのだ。
6月のWWDC でAppleは、WeChatやWhatsApp、Slack、Uber、Lyft、Didi、EyeEm、Pinterest、Runtastic、RunKeeper、Venmo、Number26、Skype、Viberといった具体的なアプリを例に挙げつつ、Siriとの連携がどのように行われるかについての詳細を説明していた。結果的に、ステージ上で具体的なアプリの名前を挙げることで、新たな音声機能に対応した最初のアプリ群を示唆していたことになる。
上記のリストに含まれるアプリの多くが、iOS 10リリースまでにSiri経由の音声制御に対応予定だ。
そのほかにもAppleは、Skype、LinkedIn、Square Cash、Monzo、Vogue Runway、Looklive、The Roll、PikazoについてSiriとの機能統合が行われると発表した。
さらに本日から、Appleはブログ でシリーズ記事 の公開を開始し、今後登場予定のSiri対応アプリやその機能に関する情報を掲載していく予定だ。
今回の動きは、ディベロッパー向けの情報をWWDCで発表し、秋のiPhone関連イベントに合わせて新たなiOSを公開するというAppleのいつものパターンからは乖離している。
しかし、もしかしたら今回の発表にはエンドユーザーの教育という側面があるのかもしれない。または、Appleが、Amazon Alexaといった人気音声アシスタントプラットフォームの存在を、最近になってちょっとした脅威に感じているのかもしれない。
というのも、Alexaは、Uberドライバーへの電話、ニュースや天気予報の確認、ピザの注文、ワークアウト管理、ゲームといった機能を既に備えているのだ。
しかし、Appleの強みは、Siriが既にデバイス上にインストールされており、ユーザーはアポイントの登録や予定の確認といった、簡単なタスクをSiriにお願いするのに慣れているということだ。それを考慮すると、Uberを使った車の手配や電話をかけるというタスクが次のステップとなるのは当然だ。
Siriを使った車の手配
iOS 10の登場で、UberやLyft、中国のDidi Chuxing(同社はAppleの投資先でもある )、ヨーロッパのmyTaxiといった配車アプリは、新機能を大いに活用することができるだろう。Siri経由でこれらのアプリを利用する際に面白いのが、堅苦しい音声コマンドを事前に学ぶ必要がないということだ。
サンプルコマンドの一部には、「ヘイSiri、空港まで行くのにDidiを呼んで」や、「ヘイSiri、myTaxiにParliament Squareまでのタクシーを呼ぶようにお願いして」などが含まれている。
Uberのように複数のサービスが用意されているアプリに車の手配をお願いする際は、「サンフランシスコ国際空港までのUberを呼んで」といった感じで声をかけた後に、希望のサービスを選択することができる。ユーザーの声を聞いたアプリが、料金見積もりや到着予定時間のほかに、UberPOOL、Uber Xなど利用可能なサービスをディスプレイ上に表示するのだ。
一旦ユーザーとドライバーが接続されれば、車やドライバーの情報に加え、UberがMapKitを採用しているおかげで、Apple Maps上でリアルタイムに車の動きを確認することができる。
「私たちは、パートナー企業と強力して、世界中でユーザーの生活にUberをさらに溶けこませることができるような方法を常に模索しています」とUberでシニアプロダクトマネージャーを務めるRahul Bijorは説明する。
また、彼はUberがSiriKitを実装するのに数ヶ月を要したと語っている。
「私たちにとっての大きな課題は、Appleの新機能を最大限活用するためにどのような変更をアプリに加えるかということ、さらにはユーザーにとって最適なSiriの活用方法をみつけだすことでした」とBijorは言う。
多くのディベロッパーも彼の言う課題にこれから数ヶ月間苦労することになるだろう。Siriとの機能統合はもちろんのこと、アプリのユーザーにとって1番良い形でSiriの機能を活用していくというのは簡単ではない。
Siri経由のVoIPアプリを使った電話の発信
Appleはさらに、CiscoのSparkのような音声制御に対応したアプリをオフィスでどのように利用できるかということにも触れている。新バージョンのSparkでは、Siri経由で連絡先の検索や電話の発信ができるようになる。「ヘイSiri、SparkでLuisaにビデオ通話して」といった具合に。
SiriKitとCallKitが同時に働くことで連絡先情報をSparkに伝達し、電話をかけることができるのだ。Sparkへの機能実装の上手い点が、もしもSpark上に連絡先が登録されていなくても、iOSに登録された連絡先まで検索して電話をかけることができるということだ。
「Sparkは、モバイルユーザー向けに特別に開発されており、あちこち動き回るユーザーがどこにいても連絡がとれることに重点が置かれているため、Siriとの連携はすんなり馴染みました」とSparkのiOSリードディベロッパーであるRiley Marshは説明する。「私たちは、ユーザーが声をかけるだけで通話をはじめることができ、さらには私用・社用を問わず全ての連絡先へ、別スクリーンに移動することなくアクセスできるような形での実装を目指していました」
Vonage Essentialsという、今度発表されるSiriと連携した別のアプリでも、Sparkと同じように電話をかけることができる。さらにVonageによれば、将来的には企業のバックエンドシステムに登録されている情報さえSiri経由でアクセスできるようになるという。
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「例えば、SiriKitをVonageアプリのメッセージ/テキスト機能と連携させることで、ハンズフリーでメッセージの送受信ができるようになります」とVonageモバイル開発部門のヴァイスプレジデントであるSagi Dudaiは話す。「iOS 10とVonageのもっと高度な融合が進めば、Siriのコマンドを使った音声・メッセージ機能を顧客管理ソフトなどのビジネスワークフローと統合できるようになるでしょう」
Dudaiはさらに、Vonageのような音声アプリに関し、これまでのiOSに比べてiOS 10ではユーザーエクスペリエンスが向上すると付け加えた。以前は、受信時にプッシュ通知が利用されており、ユーザーはスクリーンロックを解除しないと通話することが出来なかった。その一方で、ネイティブアプリに電話がかかってくると、VoIPアプリ経由の通話は保留状態になってしまっていた。
「こういった不便はiOS 10のCallKitで全て解消され、VoIP電話もネイティブアプリでの電話と何らかわりなく利用できるようになります」とDudaiは続ける。
「ネイティブ電話アプリと同じ機能やユーザーエクスペリエンスが提供できるようになれば、旧来のキャリアーを利用して音声通話やテキストの送受信を行う必要がなくなってきます。Appleは、VoIPがモバイル通信のスタンダードとなる上での最後の障壁を取り去ったんです」
アプリの新しい使い方
音声対応アプリは、App Storeエコシステムが成長に伴う痛みを感じているところに到来しようとしている。25個のカテゴリーに分類された、200万種以上の膨大な数のアプリのせいで、目的に適うアプリをみつけるのが段々難しくなってきている。ユーザーは、単純に新しいアプリの情報にさらされておらず、新たなアプリをダウンローをしてもすぐにそのサービスが終了してしまうことがよくあるのだ。
同時に、Appleのディベロッパーコミュニティも成長を続けている。今では世界中に1300万人ものディベロッパーが存在し、彼らは2008年から累計で500億ドルもの売上を記録している。しかし、インディディベロッパーにとって、自分たちのアプリの存在をユーザーに知ってもらい、さらには実際に使ってもらうということがこれまでにないほど難しくなってきている。
音声対応アプリはこの状況を変える力を持っているかもしれない。目的のアプリを起動するために、Spotlightで検索したり、デバイス上のスクリーンを何度も手でスワイプする代わりに、話かけるだけで良いとなれば、エンドユーザーがアプリにアクセスしやすくなり、結果的にアプリの利用率が高まる可能性がある。さらに、さまざまな設定や操作ボタンの位置を探し出すことなく、話かけるだけでアプリをコントロールできることで、各アプリの操作方法も簡単になっていくかもしれない。
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(翻訳:Atsushi Yukutake / Twitter )