「噛む」ことで音楽プレイヤーを操作する技術をWisearが開発

Wisear(ワイシア)は、イヤフォンにいくつかの電極と電子部品を追加することによって、あなたの音楽体験をこれまでよりもずっとハンズフリーにすることを目指している。自分の歯で2回、噛む動きをすることで曲を一時停止したり、3回噛んで次の曲にスキップしたりすることができるようになるのだ。音を立てることなく、手でジェスチャーをしたり、ボタンを押したり、その他外から見える動きを一切しなくても、この技術を使えば音楽プレイヤーやAR / VRヘッドセットを操作することが可能になる。同社の創業者たちは、両手がふさがっている時や、周囲がうるさすぎて通常の音声コマンドが使えない場合などに、この技術が特に役立つと想定している。

この技術を既存のヘッドセットメーカーやヘッドフォンメーカーにライセンス供与することを目指し、同社は米国時間1月20日、総額200万ユーロ(約2億6000万円)の資金を調達したことを明らかにした。この投資ラウンドはParis Business Angels(パリ・ビジネス・エンジェルス)とKima Ventures(キマ・ベンチャーズ)が主導し、BPI France(BPIフランス)が支援した。

Wisearは、そのニューラルインターフェースを筆者に見せてくれた。前述の電極を使って脳と顔の動きを記録し、特許出願中のAI技術によって、これらの信号をユーザーが行動を取るためのコントロールに変換するという仕組みだ。同社は競合他社に対してかなり懐疑的で、他の「思考によるコントロール」をてがけるスタートアップ企業は、人々を欺こうとしているのではないかと思っているという。

「現在、思考コントロールや精神コントロールを手がけているといっている人は、基本的に真実を捻じ曲げているのです」と、Wisearの共同設立者であるYacine Achiakh(ヤシン・アキアク)氏は説明する「もし彼らが本当にそれを実現させているのであれば、全財産を投資しても大丈夫。なぜなら、それはすべてに革命をもたらすからです。これは私たちにとって本当に苛立たしいことでした。精神コントロールを実現させたと言っている人たちは、周囲に騒音がなく、人が動かず、外は晴れていて、温度もちょうどいいという、非常に特殊な環境下で動作するデモを行っているだけだと、私たちは気づきました」。

「研究室では動作する」症候群を克服するため、同社は初めからやり直し、既製の部品を使って新しい技術を作り出した。そして十分に機能する技術のプロトタイプを作って披露し、その技術をヘッドフォンやAR/VRヘッドセットのメーカーにライセンス供与しようと考えている。

「私たちは、脳ベースで何かをしようとするときに最も難しいのは、実際にそれをユーザーに一般化し、どんな環境でも機能するようにすることだと気づきました。そこで私たちは、一歩下がって、まず筋肉と眼球の活動をベースにしたニューラルインターフェースを開発することにしました。私たちの主なコントロールは、顎の動きに基づくものです」と、アキアク氏は語る。「イヤフォンに搭載したセンサーが、顎の筋肉の動きを捉えて、コントロールに変換します。音を出す必要は一切ありません。そして2022年の目標は、顎を2回または3回、噛む動きをすることで、2つのコントロールができるようにすることです。今後3年間で12種類のコントロールに拡大することを目指しています」。

先週、同社の創業者はビデオ通話で同社の技術を披露してくれたのだが、その内容は一言でいうとすばらしいものだった。アキアク氏が筆者と話している間に発生したあらゆる物音や動きなどに、ヘッドフォンは一切混乱することがなかった。同氏が自分の歯を噛みしめる、つまり顎を食いしばるような動きをすると、音楽プレイヤーは一時停止したり、またそこから音楽を再開したりした。

この技術はまだ実用化の段階には至っていないものの、成功率はかなり高いようだ。

「私たちが作っているのは、本当に誰にでも使える初めての技術です。CESの我々のブースでは、約80%の人がうまくデモを動作させることができましたが、さらに向上させるために努力しています」とアキアク氏は語った。「私たちが作っているのは、今の時代にきちんと動作する唯一のニューラルインターフェースです。筋活動は、2022年に構築できる真の新しいインターフェースです」。

Wisearは、携帯電話の音楽プレイヤーをコントロールできるイヤフォンの実験中の試作機を公開している。同社はこの分野における既存のメーカーに、その技術をライセンスすることを望んでいる(画像クレジット:Wisear)

画像クレジット:Wisear

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

「ノーコード」ブームの継続を感じさせるSoftrのシリーズA資金調達

テクノロジー系市場では数年前、ローコードやノーコードのアプリケーションやサービスの増加について議論があった。世界的に開発者の人材が不足していることもあり、より簡単にソフトウェアを作成できるようにするためのソフトウェアの開発が進んだが、ノーコードやローコードの開発ツールは、新たにエキサイティングな技術的負債を増やすための非常に優れた方法に過ぎないと考える人もいた。

しかし、ここ1年ほどはそんな議論も影を潜め、技術者ではない人々に力を与えるローコードの可能性を十分に備えた製品を開発している企業は、順調に成長していることに気づいた。

Softr(ソフター)はその好例で、同社は先日、シリーズAラウンドで1350万ドル(約15億円)の資金を調達したことを発表した。TechCrunchでは2021年初頭に、Softrが220万ドル(約2億5000万円)の外部資金を集めたシードラウンドを実施したことを報じている

関連記事:ノーコードでAirtableを利用したウェブサイト・アプリの作成を簡単にするSoftrが2.3億円調達

今回のシリーズAラウンドは、FirstMarket Capital(ファーストマーケット・キャピタル)が主導し、テクノロジー業界から多くの個人が参加した。筆者は少し前にこの案件の気配を、Box(ボックス)やGlossier(グロッシアー)に在籍していたAshley Mayer(アシュレイ・メイヤー)氏から聞いていた。前回、Softrに出資したAtlanticLabs(アトランティックラボ)も、同社のシリーズAに参加している。

ベルリンを拠点とするこのスタートアップ企業は、顧客がAirtable(エアテーブル)のデータベース上に簡単にアプリを構築できるようにするプラットフォームを提供している。しかし、同社は現在の任務にとどまらず、かなり大きな野望を持っている。

TechCrunchは、SoftrのMariam Hakobyan(マリアム・ハコビアン)CEOとのインタビューで、同社がそのソフトウェアを使ってアプリを作成するために利用できるデータベースの種類を増やす予定であることを知った。また、同社ではコンポーネント(Softrができることを公式の機能よりも拡張するためのもの)とテンプレート(我々の理解では、箱から出してすぐに使えるアプリ)の両方のマーケットプレイスを開設することも計画しているという。

ハコビアン氏によれば、Softrはやがて1つのエコシステムになることを目指しているという。Googleスプレッドシートやその他のデータソースのサポートを追加することは、その取り組みに役立つだろう。

同社では、ノーコードのサービスが「ただ引き継がれていくだけ」で、同社はその下流に向かって泳いでいると考えていると、ハコビアン氏は語る。

ハコビアン氏は、現在のソフトウェア市場において、なぜノーコードサービスや、さらにいえばより一般的なローコードサービスが好調なのかということに関して、いくつかの傾向を挙げている。1つ目は、需要に見合うだけの開発者が市場にいないということ。これはよく理解されている。彼女のもう1つの主張は、世代論的なものだ。ハコビアン氏によると、Z世代はそれ以前の世代に比べて技術的な知識が豊富で、伝統的な本業を確保することにはあまり興味がなく、自分でツールなどを作る方法を探しているという。

Z世代がノーコードを促進させるというのは、理由をはっきり指摘できなくても、頭では理解できる。次の四半期に向けて注目していきたい。

次に、市場におけるSoftrの実績について見ていこう。この会社は製品を市場に投入してからまだ日が浅いので、前年同期比の成長率を厳しく評価することは難しいが、初期のデータをいくつか紹介すると、同社の登録ユーザー数は現在3万人で、有料会員数は1000人を超えているという。同社の主な顧客は、中小企業であることを明らかにしている。これは、現在の競争が激しい開発者市場に、中小企業ではなかなか手が出せなくなっていることを考えると、理に適っている。

Softrがどれだけ早く自社サービスにより多くのデータソースを追加できるか、そして計画中のマーケットプレイスをどれだけ早く展開できるかに注目したい。Softrがエコシステムになるかどうかは、その時点で市場が決めることだろう。

画像クレジット:Visual Generation / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

オランダ当局がアップルに約6.4億円の罰金、出会い系アプリの独占禁止法違反で

オランダの競争当局は、同国の出会い系アプリがサードパーティの決済技術を利用できるようにするよう求めた命令に従わなかったとして、Apple(アップル)に500万ユーロ(約6億4000万円)の罰金を科した。

来週までに当局が求める要件を満たさなければ、同社はさらに500万ユーロの罰金が科される可能性があり、その後も毎週、数カ月にわたって、この命令に関連して最大5000万ユーロ(約64億円)の罰金が課される可能性がある。

この罰金は、オランダの監視機関である消費者・市場庁(ACM)が2021年に出した命令に関連するものだ。当局はAppleが独占禁止法に違反していると判断し、出会い系アプリプロバイダーに押し付けている条件を見直すよう命じていた。

独占禁止法上の問題となっているのは、デジタルコンテンツの販売にApple独自のアプリ内決済インフラ(別名IAP API)を使用することを義務付けるApp Storeの規約で、AppleはこのAPIを通じて手数料を徴収している。

Appleの規約では、出会い系アプリが代替決済システムを利用することも禁止している。

当局は、出会い系アプリがアプリ内で他の支払い方法に言及することをAppleが禁止していることも問題視した。

ACMは1月24日、Appleが命令に従っておらず、出会い系アプリに関する規則を命令に沿うよう修正しなければならないと発表した。

「出会い系アプリのプロバイダーがApp StoreでApple以外の決済システムも利用できるようにしなければならない。加えて、出会い系アプリのプロバイダーは、アプリ外の決済システムを参照できなければならない」と発表にはある。

現在も続くAppleの違反の全容は、明確に述べられていない。しかし、重要なのは、Appleが求められていることをまだ行っておらず、実際に出会い系アプリのプロバイダーが他の決済システムを利用できるようにしていないことのようだ。

オランダ当局はまた、出会い系アプリのプロバイダーがApple以外の決済インフラを利用することを難しくするためにAppleが構築したと示唆する障壁を批判している。

「Appleはいくつかの点で要件を満たしていない」とACMは書いている。最も重要なのは、Appleが条件を見直さなかったことであり、その結果、出会い系アプリのプロバイダーはいまだに他の決済システムを利用できないでいる。現時点では、出会い系アプリのプロバイダーは、単に「関心」を表明することしかできない。

「加えてAppleは、出会い系アプリのプロバイダーがサードパーティの決済システムを利用することに対して、いくつかの障壁を設けた。これもACMの要求と相反する。例えば、Appleはアプリプロバイダーに対して、アプリ外の決済システムを参照するか、代替の決済システムを参照するかの選択を迫っているようだ。これは許されない。プロバイダーはどちらの選択肢も選ぶことができなければならない」。

ACMは2021年に下した決定で、出会い系アプリに対する条件を修正する必要があるとAppleに伝えた。しかし、TechCrunchが報道したように、Appleは差止命令を求め、命令への対応を遅らせることに成功した(命令の一部はまだ封印されたままだ)。

また、同社はこの命令の適用を1月中旬まで遅らせることもできた。

Apple以外の決済インフラで処理されたデジタルコンテンツの販売について、同社はオランダの出会い系アプリから依然として手数料を徴収する意向があることが先週明らかになった。開発者向けサポートノートには「ACMの命令に従い、リンクアウトまたはサードパーティのアプリ内決済プロバイダーを使用する資格を与えられた出会い系アプリは、取引にかかる手数料をAppleに支払う」と記されている。

本稿執筆時点では、その主張はAppleの「StoreKit External Purchase Entitlement」(ACM命令に言及している)に関する投稿にまだ掲載されている。そして、封印されたままの命令の一部は手数料に関係している可能性がある。しかし、詳細を確認することはできていない。

Apple以外の決済システムを使用するアプリにも手数料を課すことができるというAppleの主張について、TechCrunchは先週ACMに問い合わせたが、当局の広報担当者は回答を却下した。「裁判所が支持し、公表を許可した命令の部分しか言及できない」とのことだ。

一方、Appleのサポートサイトは、Apple以外の決済手段を導入するための明確なプロセスを提供する代わりに、関心のあるデベロッパーに「developer interest form」を紹介するにとどまっている。

説明文も「間もなく」詳細情報が提供される、という曖昧な表現にとどまっている。

オランダの出会い系アプリが代替決済手段を導入するための手続きの実装遅れによってAppleに500万ユーロの罰金が発生した(そして増えている)。

もちろん、数百万ドル(数億円)の罰金、あるいは5000万ユーロ(約64億6000万円)の罰金でも、Appleは騒ぎはしないだろう。

しかしいま、App Storeの規約に対する複数の競争法上の苦情や調査はAppleにとってはるかに大きな懸念となっている。これらはアプリ内課金で徴収する手数料を攻撃していて、EU英国アジア米国ではデベロッパー向けの契約条件について当局が調査し、命令が出されているところもある。

短期的には、そして(または)AppleがApp Storeの競争に関する苦情をなくすような実のあるグローバルな競争改革の提案をしない場合、各市場 / 地域の規制当局がAppleの規約の評価に注意を向けるため、iOSアプリ開発者のための規制のパッチワークが迫っている。

差し当たり、iOSアプリの競争と価格設定に関する消費者と開発者の勝利は、しぶしぶもたらされる可能性が高く、苦労して勝ち取るもののようだ。

しかし、Appleの契約条件の事前規制は現在多くの市場で検討されており、その明確な目的は、行動修正を加速させることにある。つまり、故意に遅らせるという戦略は、将来的にもっと高くつくことになりそうだ。

ACMの罰金についてAppleにコメントを求めている。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

萌芽的トピックは少人数による継続的論文発表によって創出―筑波大学が萌芽的トピック創出のプロセスを数量的に解析

萌芽的トピックとノーベル賞級のインパクトのあるトピック―筑波大学が萌芽的トピック創出のプロセスを数量的に解析

研究テーマには、独創的で意外性のある芽生え期の研究である「萌芽的」と呼ばれるものがある。筑波大学(大庭良介 准教授)では、そうした萌芽的トピックの創出の特徴と、研究者の関わり方について、過去半世紀にわたって数量的に解析を行った。その結果、萌芽的トピックとノーベル賞級のインパクトのあるトピックとでは、創出のプロセスが違うことがわかった

今日、世界では数多くの萌芽的研究が発表されるものの、大きく発展するものはごく一部であり、残りは期待された成果を得られずに消えている。これに関して筑波大学は、「萌芽的トピックを把握し、その萌芽する原理を理解することは、科学技術の発展促進に不可欠」と考えた。そこで、生命科学と医学の分野で最大規模を誇るアメリカの文献検索エンジン「PubMed」で検索可能な、この半世紀間に出版された3000万件の論文を対象に、「萌芽的トピックを同定する独自の方法」を用いて解析を行った。

それにより判明したのは、「既存の萌芽的トピックが新たな萌芽的トピックの創出を促す」のが大半であるのに対して、ノーベル賞級の影響力を持つ萌芽的トピックは「それとは異なるプロセスで創出される割合が高い」ということだった。萌芽的トピックを持つ論文は、比較的少人数のチームによって発表されるが、事前に関連トピックの継続的論文発表が行われており、そこで重要性を増している。それに対して、ノーベル賞級トピックは、さらに少人数のチームが、事前の関連論文の発表などがなく突然発表される傾向が強い。このことから、萌芽的トピック創出には、過去の業績を見ることが研究費投資の評価指標として有効であるが、ノーベル賞級研究成果の創出には有効でないことがわかった。

萌芽的トピック創出後の研究者の関わりについては、1990年代半ばまでは、創出された萌芽的トピックが別の研究者の参入により発展していたのに対して、2000年以降は、それを発表した研究者自身が継続的に研究している傾向が見られた。その理由は、トピック外の研究者が参入しにくい障壁が生じているか、他の研究者には魅力のないものになっていることが考えられるという。近年、1つの研究結果を出すのに必要な人的金銭的な資源は増加を続けているものの、それに見合う成果は得られず、投資に対して期待したリターンが得られていない。この研究は「その原因の一端を表している」とのことだ。

生命科学と医学の分野では、実験設備は人員に多大な資金がかかるため、資金獲得が研究の成否に結びついている。しかし、研究費の大きさが本当に萌芽的トピックやノーベル賞級トピックの創出と発展に貢献しているのか、今後は、その投資のあり方について探索を進めるという。

東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学は1月21日、自動運転AI開発に不可欠な教師データ作成のため開発した3次元アンノテーションツール「Automan」について、オープンソースソフトウェア(OSS)として公開した(GitHub)。ライセンスはApache License 2.0。これは、アンノテーションツールの開発を行うFastLabelAutowareの開発をリードするティアフォーの子会社Human Dataware Lab.との共同研究によるもの。自動運転領域でのAIの研究開発を加速させる。東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平准教授を中心とする研究グループは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「完全自動運転における危険と異常の予測」において、完全自動運転中の危険と異常について、理論と実践の両面から実用的課題に取り組んでおり、そこには、機械学習技術に人間並みの判断を求めるよりも、危険や異常を感知したらすぐに停止することのほうが社会的な価値は高いとの理念があるという。そんな彼らは、限りなく100%に近い精度で危険と異常を予測し、最小限の移動量で安全に停止できる自動運転システムのプロトタイプを完成させた。

この成果を普及させるには、第三者が研究成果を再現できることが重要だが、それには自動運転システムのAI基盤が必要、またそれを構築するには高品質な大量の教師データが欠かせない。ところが現在、そうした教師データの作成はマンパワーに頼った労働集約型で行われているため、教師データ不足や品質の問題が発生し、自動運転AIの研究はなかなか進んでいないのが現状だ。

そこで研究チームは、FastLabelが提供するアンノテーション・プラットフォームFastLabelと連携し、自動運転AIが用いる画像と点群のデータへのアンノテーションの自動化に取り組み、今回AutomanをFastlabelおよびHuman Dataware Lab.と共同で開発。OSSとして公開するに至った。

また同研究では、3次元アノテーションを自動運転システム全体のCI/CD(Continuous Integration / Continuous Delivery)に組み込めるインターフェースを設計したことで、自動運転AIの開発サイクルを改善することを可能としたという。

今後は、外部からの攻撃に備えるため、脆弱性に対する研究を進めつつ、「走れば走るほど賢くなる自動運転システム」を目指して、自動運転の実用化を加速するという。

お部屋探しプラットフォーム「カナリー」が不動産業者間流通サイト「リアプロ」と連携、タイムリーな空室情報提供を実現

不動産仲介業者の業務をデジタル化する業務効率化ソリューションと、お部屋探しプラットフォーム「カナリー」(CANARY。Android版iOS版)を開発・運営するBluAgeは1月24日、リアルネットプロが運営する不動産業者間流通サイト「リアプロ」と2021年11月から連携を開始したと発表した。

今回発表された連携後は、リアプロ管理の会員不動産管理会社は物件の空室情報を直接カナリーへ掲載することが可能になる。これにより仲介会社による入稿プロセスが省かれ、エンドユーザーに最新の空室情報をタイムリーで発信できるようになるという。カナリーにとっては、アプリ上の物件情報の鮮度と正確性を高めることで、ユーザー体験のさらなる向上、アプリダウンロード数の増加とそれに伴う反響数・成約数の上昇が期待できるとしている。

カナリーは、賃貸・売買物件を探すお部屋探しプラットフォーム。全国の賃貸マンション・アパート、新築・中古マンション・アパートの売買両方に対応している賃貸物件検索アプリとして提供しており、新規ダウンロード数は月10万件、累計ダウンロード数は100万件を達成しているという(2021年10月時点)。

また、募集終了物件や重複した情報を大きく削減した透明性と利便性の高さを特徴としており、ユーザーは最新情報を元に部屋探しが行える。不動産仲介・管理業務から部屋探し体験に至るまで、不動産業界における一気通貫したDXを推進し、「デジタルなインフラとして産業の発展に貢献する」というミッションの実現を目指している。

リアプロは、元付け情報のみを取り扱う賃貸物件情報データベースを活用し、管理会社や仲介会社の業務軽減・情報把握を可能にするシステム。賃貸管理業務用サービス「リアプロ管理」と賃貸仲介会社向けの業務用サービス「リアプロ仲介」からなる。リアプロ管理は2613店舗、リアプロ仲介は3万1766店舗(2021年10月現在)の利用があり、登録物件数は約620万戸に上るという。

リアプロ管理は、管理物件をデータベース化し、管理会社やオーナーの日常業務を効率化するというもの。「紙による入退去履歴の管理」「仲介会社との電話・FAX のやり取り」などの業務負担を削減できるほか、社内での共有、全戸登録での各種統計データ(物件情報登録はリアルネットプロが代行)、入居者管理にも利用できる。

またリアプロ仲介では、複数の管理会社やオーナーが持っている物件の空室情報をリアルタイムに把握でき、諸条件の画面上での確認により管理会社への電話・FAXによる問い合わせの手間を激減可能という。

動物性原材料を使用しない「プラントベースフード」ブランド2foodsを展開するTWOがカゴメから5億円調達

プラントベースフードブランド「2foods」(トゥーフーズ)などウェルビーイング事業を展開するTWO(トゥー)は1月21日、第三者割当増資による5億円の資金調達を実施したと発表した。引受先はカゴメ。調達した資金は2foods事業の展開加速にあてる。

また、カゴメとはすでに2021年4月に包括業務提携を締結しており、双方の強みを活かしたプラントベースフードの新しいプロダクト開発を共同で進行中。カゴメとの共同商品の開発など両社の連携強化によりシナジー創出を図り、店舗展開と加工食品展開の2軸のビジネス戦略で事業成長を加速させることで、立体的なブランドビジネスの基盤を構築する。

2foodsは、動物性原材料を使用しない食「プラントベースフード」を提供するブランドとして2021年4月にローンチ。味覚を刺激するおいしさ「Yummy」と、食べることでカラダを整える健やかさ「Healthy」を併せ持つ「ヘルシージャンクフード」をコンセプトとしている。

現在は都内6店舗とオンラインショップを展開し、すべて動物性原材料不使用、植物由来原料のメニューによる食事やデザート、ドリンクなどを合計50種類提供中。2022年は素材開発・加工食品展開と2軸のビジネスモデルで様々な企業とのコラボレーションやプラントベース素材・商品開発に取り組むという。

2015年12月設立のTWOは、「健康と欲求はトレードオフの関係」という常識を覆し、カラダ、ココロ、そして社会的にも満たされる「真の健康」をデザイン、健康と欲求という相反する2つを同時に享受できるプロダクトやサービスを提供するウェルビーイングカンパニー。

GMOインターネットがサイバーセキュリティ事業に本格参入、イエラエセキュリティを子会社化

GMOインターネットがサイバーセキュリティ事業参入、82名のホワイトハッカー組織を有するイエラエセキュリティがグループ参画

GMOインターネットは1月24日、同日開催の取締役会において、サイバーセキュリティ事業を展開するイエラエセキュリティの株式を取得し、子会社化することを決議したと発表した。これにより同グループは、電子認証サービスを中核としたセキュリティ事業に加え、サイバーセキュリティ事業にも本格参入する。

今回のグループジョインに伴い、イエラエセキュリティは2022年3月の定時株主総会における議案承認を前提として、「GMOサイバーセキュリティ byイエラエ株式会社」に商号を変更する予定。

また新拠点「GMOタワー」内に、国内最大規模の「GMOサイバーセキュリティセンター」を設置。グループ内の専門人財の交流・育成を行うことで、次世代を担うトップエンジニアやホワイトハッカーの育成、技術力のさらなる向上に向けた取り組みを加速する。

イエラエセキュリティは、セキュリティ技術を競う国内外のハッキングコンテストで高い実績を誇るホワイトハッカーが中心となり2013年2月に設立。82名(2021年12月時点)のホワイトハッカーが所属する、国内最大規模のホワイトハッカー組織を有している。

また、同社は「誰もが犠牲にならない社会」をミッションに掲げており、ウェブアプリケーションやスマホアプリ、企業の基幹システムなどに対するサイバー攻撃に対する高度なセキュリティ対策を提供し、持続可能な事業継続をサポートしている。

主力のサイバーセキュリティ事業の中でも、高い技術力と「攻撃者の視点」を有するホワイトハッカーが行う「セキュリティ脆弱性診断」は国内外の幅広い業界・業種の企業での実施実績があり、特に技術的に難易度が高いとされる電子決済などの金融システム、コネクテッドカーや5G対応のIoTシステムなどを有する企業においても多数のリピート実績を有しているという。

ヨーロッパは量子システムの開発をめぐる競争で大国に伍することできるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

量子情報科学はテックセクターの研究分野において長いこと低迷を続けてきた。しかし、近年の進歩はこの分野が地政学的に重要な役割を担っていることを示している。現在、数カ国が独自の量子システムの開発を強力に推進しており、量子をめぐる競争は新たな「宇宙開発」といった様相を呈している。

米国と中国が開発競争の先頭を行く中、ヨーロッパの国々はなんとか遅れを取り戻さねば、というプレッシャーを感じており、いくつかの国々、そしてEU自体も大いに力をいれてこの領域への投資を推進している。しかしヨーロッパのこうした努力は、米国と中国という2つの技術大国に太刀打ちするには、遅きに失したということはないだろうか?また断片的でありすぎるということはないだろうか?

米国と中国:量子システムの開発、そしてそれを超えた競争

量子コンピューティングは、もつれや重ね合わせといった量子物理学(つまり、原子と亜原子スケールでの物理学)の直感に反する性質を利用しようとするもので、量子コンピューターはレーザーあるいは電場と磁場を使用して粒子(イオン、電子、光子)の状態を操作する。

量子システムの開発で最も抜きん出ているのは米国と中国で、どちらも量子「超越性」(従来のコンピューターでは何百万年もかかるような数学的問題を解く能力)を達成したと主張している。

中国は2015年以降、量子システムの開発を進めているが、これはEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が米国の諜報活動について暴露し、米国の諜報活動の範囲に関する不安が広がった時期と重なっている。中国では米国の諜報能力に危機感を抱き、量子通信への取り組みを強化した。中国が量子研究にどれだけの研究費を費やしているかについて、さまざまな推測がなされていて定かではないが、同国が量子通信、量子暗号、ハードウェア、ソフトウェアにおける特許を最も多く持つ国であるということははっきりしている。中国が量子コンピューターに対する取り組みを始めたのは比較的最近のことだが、その動きはすばやい。中国科学技術大学(USTC)の研究者らが2020年12月、そして2021年6月にも「量子超越性」を達成したと、信用に足る発表を行っているのだ。

米国では、中国が2016年に衛星による量子通信技術を持つことを実証したことを受け、量子技術で中国にリードを許しかねないということに気がついた。そこで、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領は2018年、12億ドル(約1370億円)を投じてNational Quantum Initiative(国家量子プロジェクト)を開始した。そして、これがおそらく最も重要なことだが、大手テック企業が独自の量子研究に莫大な研究費を注ぎ込み始めた。1990年代に2量子ビットの初代コンピューターを発表したIBMは、現在量子コンピュータ「Quantum System One」を輸出している。Googleは、IBMに比べるとこの分野では新参であるものの、2019年に超伝導体をベースにした53量子ビットの量子プロセッサーで量子超越性を達成したと発表している。

量子技術開発がもたらす地政学的影響

中国、米国、そして他の諸国を開発競争に駆り立てているのは、量子コンピューティングに遅れをとった場合に生じるサイバーセキュリティ、技術、経済的リスクへの恐れである。

まず、完全な機能を発揮できる状態になった量子コンピューターを使えば、悪意を持つ人物が現在使用されている公開暗号キーを破ることが可能だ。従来のコンピューターが2048ビットのRSA暗号化キー(オンラインでの支払いを安全に行うために使用されている)を解読するのに300兆年かかるのに対し、安定した4000量子ビットを備えた量子コンピューターなら理論上、わずか10秒で解読することができる。このようなテクノロジーが10年を待たずして実現する可能性があるのだ。

第2に、ヨーロッ諸政府は、米国と中国の量子システムの開発競争に巻き込まれることで被る被害を恐れている。その最たるものが、量子テクノロジーが輸出規制の対象になることである。これらは同盟諸国間で調整されるだろう。米国は、冷戦時代、ロシアの手にコンピューター技術が渡るのを恐れてフランスへの最新のコンピューター機器の輸出を禁止した。このことを、ヨーロッパ諸国は記憶している。この輸出禁止を受け、フランスでは国内でスーパーコンピューター業界を育成し支援することになった。

今日、米国と提携するヨーロッパ側のパートナーは、テクノロジーにまつわる冷戦の中で、第三の国々を通じた重要なテクノロジーへのアクセスや第三の国々とのテクノロジーの取り引きに苦労するようになるのではないかと懸念している。米国は、規制品目を拡大するだけでなく、ますます多くの中国企業を「企業リスト」に加え(2021年4月の中国スーパーコンピューティングセンターなど)、それらの企業へのテクノロジーの輸出を、米国以外の企業からの輸出も含め阻む構えだ。そして規制がかけられたテクノロジーが増えるなか、ヨーロッパの企業は自社の国際バリューチェーンが被っている財政上の影響を感じている。近い将来、量子コンピューターを作動させるのに必要なテクノロジー(低温保持装置など)が規制下に置かれる可能性もある

しかし中国に対する懸念もある。中国は、知的財産権や学術面での自由の問題など、諸国の技術開発に対し別の種類のリスクをもたらしており、また中国は経済的強制に精通した国である。

第3のリスクは、経済上のリスクである。量子コンピューティングのような世の中を作り変えてしまうような破壊力を持ったテクノロジーは業界に巨大な影響をもたらすだろう。「量子超越性」の実証は、科学ショーを通した一種の力の見せあいだが、ほとんどの政府、研究所、スタートアップが達成しようと取り組んでいるのは実は「量子優位性」(従来のコンピューターを実用面で上回るメリットを提供できるよう、コンピューティング能力を上げること)である。

量子コンピューティングは、複雑なシュミレーション、最適化、ディープラーニングなどでのさまざまな使い道があると考えられ、今後の数十年で大きな利益をもたらすビジネスになる可能性が高い。何社かの量子スタートアップがすでに上場され、これに伴い量子への投資フィーバーが起きつつある。ヨーロッパは21世紀の重要な領域でビジネスを成り立たせることができなくなることを恐れている。

ヨーロッパの準備体制はどうか?

ヨーロッパは、世界的量子競争においては、その他の多くのデジタルテクノロジーとは異なり、好位置に付けている。

英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、スイスは大規模な量子研究能力を持ち、スタートアップのエコシステムも発達している。これらの国々の政府やEUは量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、および量子暗号に多額の投資を行っている。実際に英国では、米国や中国よりずっと早い2013年に、National Quantum Technologies Program(国家量子テクノロジープログラム)を立ち上げている。2021年現在、ドイツとフランスは量子研究および開発への公共投資でそれぞれ約20億ユーロ(約2600億円)と18億ユーロ(約2340億円)を投じるなど、米国に追随する形となっている。Amazonは、フランスのハードウェアスタートアップAlice & Bobが開発した自己修正量子ビットテクノロジーに基づいた量子コンピューターを開発してさえいる。

では、ヨーロッパが米国や中国を本当の意味で脅かす立場になるのを妨げているものはなんだろうか?

ヨーロッパの問題として1つ挙げられるのは、 スタートアップの出現を促すのではなく、それらを保持することである。最も有望なヨーロッパのスタートアップは、ベンチャー資金が不十分なことから、ヨーロッパ大陸では伸びない傾向がある。ヨーロッパのAIの成功話には注意が必要だ。多くの人は、最も有望な英国のスタートアップであるDeepMindをGoogle(Alphabet)がいかに買収したかを覚えているだろう。これと同じことが、資金を求めてカリフォルニアに移った英国の大手スタートアップであるPsiQuantumで繰り返されている。

このリスクを解消するために、ヨーロッパ諸国政府やEUはヨーロッパの「技術的主権」を打ち立てることを目標に新興の破壊的創造性を備えたテクノロジーに関するいくつかのプロジェクトを立ち上げた。しかし、ヨーロッパはヨーロッパが生み出したテクノロジーを導入しているだろうか?ヨーロッパの調達規則は米国の「バイ・アメリカン法」と比較して、ヨーロッパのサプライヤーに必ずしも優位に働くわけではない。現在EU加盟国は、ドイツが最近IBMマシンを導入したように、より高度な、あるいは安価なオプションが存在する場合、ヨーロッパのプロバイダーを利用することに乗り気ではない。こうしたあり方は現在ブリュッセルで交渉が続いている、公的調達市場の開放性に相互主義の原則を導入するための新しい法案、International Procurement Instrument(国際調達法)が可決されれば、変わるかもしれない。

政府だけでなく、民間企業も、どのように投資し、どこと提携し、どのようにテクノロジーの導入を行っていくかの選択を通し、今後の量子業界を形作っていく上で、重要な役割を担うだろう。1960年代、70年代にIBMシステムを選択するという決定をしたことが、その後の世界的コンピューティング市場の形成に長期的な影響を及ぼした。量子コンピューティングにおいて同様の選択をすることは、今後何十年にもわたってその領域を形作ることになる可能性があるのだ。

現在、ヨーロッパは、ヨーロッパに世界的なテックファームがほとんどないことについて不満に思っているが、これは早い段階でテクノロジーをサポートし導入することが重要であることを示している。ヨーロッパが今後量子をめぐって米国や中国に対抗していくためには現在の勢いを維持するだけではなく、増強して行かなければならないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alice Pannier(アリス・パニエ)氏はフランス国際関係研究所(IFRI)の研究員で、Geopolitics of Techプログラムを担当。最新の報告書は、欧州における量子コンピューティングについて考察したもの。また、欧州の防衛・安全保障に関する2冊の本と多数の論文を執筆している。

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(文:Alice Pannier、翻訳:Dragonfly)

インド太平洋に注目が集まる中、欧州-大西洋で急成長する技術同盟が形成される

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年9月29日から30日にかけて、ピッツバーグの製鉄所を改造したシードアクセラレーター施設で、バイデン政権の閣僚3名とEUの高官2名が集まり、米欧貿易・技術協議会(TTC)を設立した。TTCが定着すれば、インド太平洋のQuadに対する欧州・大西洋の応答となるかもしれない。これは発展途上の技術同盟であり、新しい民主的な技術協定の構成要素となるだろう。

政治中心のワシントンで技術と外交の結びつきを見ると、すべての注目がインド太平洋、特に中国に向けられているように見える。しかし、データ、ソフトウェア、ハードウェアの分野では、米欧関係も同様に、あるいはそれ以上に重要な技術回廊であり続けている。ちなみに、欧州・大西洋間のデータ転送量は、米国・アジア間のデータ転送量よりも55%多い。

TTCの設立により、欧州大西洋のパートナーシップは、この巨大な民主的デジタル回廊を活用するための戦略的な場を得た。特に米国、中国、EUの3つが主役となっている世界的な技術の地政学競争を考慮するとなおさらだ。

17ページにわたるピッツバーグTTCの声明には、今後の作業のためのロードマップと、技術基準、安全なサプライチェーン、データガバナンス、海外直接投資(FDI)の審査、グリーンテクノロジー、人権侵害におけるテクノロジーの悪用、開放経済などの重要な問題に取り組む一連のワーキンググループの概要が記されている。中国という言葉は一度も出てこなかったが、共同声明には「非市場経済」「軍民融合」「権威主義の政府」による「社会的スコアリング」の使用など、中国を表す言葉がふんだんに盛り込まれている。

3つの分野が際立っている。第一に、米国とEUは技術標準に対するアプローチを再考中だ。中国では「三流の企業が製品を作り、二流の企業が技術を作り、一流の企業が規格を作る」という言葉が流行っている。中国政府は9月に「標準化戦略」を発表した。これは中国の技術標準の国際化、規格の採用促進、規格開発における民間企業の取り組みの強化に焦点を置くものだ。

米国とEUは、どのようにして標準が地政学的な目的に利用されうるのかに注目している。米国とEUは、中国共産党と親しい企業が国際標準化機構(ISO)や国際電気通信連合(ITU)のような規格設定機関を植民地化してしまったことで、民間企業に標準を設定させるというモデルが地に落ちたという認識を深めている。このような中国の世界における攻撃的な動きを受けて、米国の技術標準担当機関であるNIST(アメリカ国立標準技術研究所)とEU当局との対話が復活した。両者はTTCを利用して、民間企業との連携を含めた標準化戦略を調整したいと考えている。

第二に、新型コロナウイルス感染症による混乱と米中の技術的緊張により、欧州・大西洋の技術サプライチェーンの脆弱性が明らかになった。特に半導体においては、エンティティリストによる制限、チップ王である台湾のTSMCが不安定な状況である影響を受けていた。世界のチップ製造における米国のシェアは、1990年の37%から2020年には12%にまで縮小している。また、EUでは1990年の44%から現在は8%と、さらに劇的に減少している。ワシントンとブリュッセルは、この傾向を変えようと尽力している。米国議会は先に、520億ドル(約5兆9639億円)規模のCHIPS法を可決したが、来るべき欧州半導体法では、930億ユーロ(約1兆2067億円)規模のHorizon Europe基金、EUの7500億ユーロ(約97兆3017億円)規模の新型コロナウイルス感染症復興基金、および各国の半導体産業の協調的な取り組みを活用できる。

関連記事:【コラム】米国によるテックの「中国排除」は利益より害の方が大きい

しかし、これまでは産業政策が競合するのではないかという懸念があったかもしれないが、欧州委員会のマルグレーテ・ベスタガー副委員長と米国商務長官のジーナ・レモンド氏は、ピッツバーグで技術面での「補助金競争を避けたい」点を強調した。実際、TTCが「中長期的」に「半導体に関する専用トラック」を設けていることは、ハイエンド半導体の生産における協力という、より野心的な共同アジェンダのための滑走路となる。すべての状況を勘案すると、両当局は調和するべきであり、ピッツバーグの声明では本件が「バランスのとれた、双方にとって同等の関心事」であることが強調されている。欧州最大の未開発地域のプロジェクトである「メガファブ」プロジェクトを核とした欧米のコンソーシアムの実現を想像するのは難しいことではない。

第三に、Huawei(ファーウェイ)の5G機器に対する規制、リトアニアでのXiaomi(シャオミ)の電話検閲機能に関する新たな事実、Tencent(テンセント)のような欧州各地での企業の買い占めなどを受け、双方は重要な技術の海外流出をどのように管理するかを厳しく検討している。輸出規制、FDIの審査、信頼できるベンダーなど、すべての要素が検討されている。これまでEUと米国は、核、化学、生物などの伝統的な分野に加え、サイバー分野でもデュアルユース品(軍事転用可能品)の輸出規制を実施してきた。

しかし最近の発展により、デジタル空間を管理する上で、特に投資審査や信頼できるベンダーについての新たな課題が生まれている。規制当局は、民主的なデータ空間をどのようにして維持し、AI、半導体、5G、ゲーム、AR/VR技術、そしておそらくはデジタルサービスやスマートフォンなどの分野における研究やIPをいかに保護するかについても悩まされている。産業安全保障局(BIS)や対米外国投資委員会(CFIUS)などの米国の機関にとっては、EU加盟国が審査や市場アクセス制限の機能を拡大していく中で、欧州の機関と情報を共有するチャンネルを作ることがますます重要になってくるだろう。

これが成功すれば、TTCは、米国とEUがテクノロジー企業を管理する世界的なルールブックを作成する装置となる可能性がある。近年、EUはデジタル技術の規制を単独で行わざるを得ないと感じ、データ保護、コンテンツの調整、オンラインプラットフォームの市場力などの分野で主導権を握っている。

ワシントンの一部の人々は、米国が意味のある規制を行わない中での欧州の努力を評価しているが(ワシントンは、トランプ政権下では技術外交政策にまったく関与しておらず、オバマ政権下ではビッグテックに捕われていたと認識されている)、このいわゆる「ブリュッセル効果」は、特にデータフローとデジタル独占禁止法の将来に関して緊張を生んでいる。

2020年の裁判所のGDPRに基づく判決により、欧州の個人情報を米国に持ち込むための主要な「パスポート」であるプライバシーシールドが無効になったため、大西洋間の自由なデータの流れは無視されたままだ。反トラストの面では、Meta(Facebook)、Amazon、Google、Appleなどの大手企業が、オンラインプラットフォームの市場支配を規制するEUの法律を緩和させようと激しく争っている。バイデン政権自体は、まだ明確な立場を決めていない。

さらに広く見れば、欧州の多くの人々は、パートナーとしての米国に懐疑的だ。スノーデン事件(欧州の指導者に対するNSAの広範なハッキングを公表した)、トランプ大統領の2016年の選挙、ケンブリッジ・アナリティカ事件、そして最近ではフェイスブック内部文書が、地政学的なものだけでなく、デジタル的なものも含めて、欧州と大西洋の関係を疎遠なものにしている。最近のドイツ外交問題評議会の調査では、クラウドコンピューティングでは92.7%、AIでは79.8%、ハイパフォーマンスコンピューティングでは54.1%のヨーロッパ人が米国企業に過度に依存していると考えていた。欧州関係者の54%は、米中の技術的対立の中で独立性を保ちたいと考えているのに対し、46%は米国に近づきたいと考えていた。

一方で、欧州の二大勢力であるフランスとドイツがTTCに力を貸すのかという問題がある。近年、フランスとドイツが「技術的主権」という考え方を支持していることから、欧州の大国がTTCの成功にどれだけ尽力するのかが疑問視されている。

欧米の関係は、石炭と鉄鋼の産業時代に築かれたものだが、半導体とAIのデジタル時代になった今、TTCは世界中で台頭する技術権威主義に欧州大西洋同盟が立ち向かえるようにするための橋渡し役だ。両者ともそれをわかっている。それが最も悩ましいことなのかもしれない。

編集部注:本稿の執筆者Tyson Barker(タイソン・バーカー)氏はドイツ外交問題評議会(DGAP)のテクノロジー&グローバル・アフェアーズ・プログラムの責任者。以前はAspen Germanyに勤務し、副所長兼フェローとして、同研究所のデジタルおよび大西洋横断プログラムを担当した。それ以前は、米国務省の欧州・ユーラシア局でシニアアドバイザーを務めるなど、数多くの役職を歴任している。

画像クレジット:metamorworks / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Tyson Barker、翻訳:Dragonfly)

freee会計が楽天銀行とのAPI連携を終了、口座明細の自動取り込みを2月24日17時頃に停止

freee会計が楽天銀行とのAPI連携を終了、口座明細の自動取り込みを2月24日17時頃に停止

freeeは、楽天銀行との間で行っている参照系のAPIを活用した法人口座・個人ビジネス・個人口座の利用明細の自動取り込みを、2月24日17時頃をもって停止すると発表しました。

楽天銀行との口座連携は2020年3月から実施していましたが、2月24日17時頃をもって契約期間が満了することに伴いAPI連携を終了します。

24日以降に楽天銀行の明細をfreeeに反映させるには、楽天銀行のインターネットバンキングから口座明細データのCSVファイルを手動でダウンロードし、freee会計にアップロードする必要があります。

本件で影響を受けるfreee会計ユーザーの方に対してはfreeeより個別連絡を行うといいます。

なお、楽天カード・楽天Edy・楽天市場・楽天Pay(実店舗決済)の自動取り込み機能は従来どおり利用できます。

(Source:freeeEngadget日本版より転載)

コロナ禍での友達同士の出会いを支援するアプリ「Flox」がNYの大学生に人気

新成人の困難に勝るものはないが、ロックダウンの中、人格形成期を過ごした大学生の年齢のZ世代にとって、有意義な友達づくりはさらに難しくなる可能性がある。パンデミック中はコロンビア大学のリモート授業に参加していたJamie Lee(ジェイミー・リー)氏は、この隔離がいかに同級生、特にクラスメイトと一度も顔を合わせることなく通学する2~3年生に影響したかに気づいた。

「ミドルスクールでInstagramをダウンロードしてから、オンラインで常に私自身を個人として表現してきましたが、オンラインでリアルに自己表現するのをとても不安に感じました」と、リー氏はいう。「『それじゃ、どうやってみんなとリアルにつながる方法を探そうか?』という考えを受け入れたかったのです。そして一番リアルな存在である友人と一緒に行うのが最善策だと思いました」。

2020年夏、リー氏はFlox(フロックス)のノーコードのベータ版を立ち上げた。人々が会うのを助けるアプリである。プロフィールを作成してマッチするTinder(ティンダー)、Hinge(ヒンジ) 、Bumble(バンブル)のようなもので、グループとしてサインインしてから他の友人グループとつながるだけでよい。

「利用者からはオンラインで体験したものの中で一番楽しいとのフィードバックをもらいました。私にとってはターニングポイントでした。これはとても本気のものになり得る、これをやるなら今だと思いました」とリー氏はいう。

そうして彼女はアプリに全力を挙げるため、コロンビア大学卒業まであと1年を残して中退した。

画像クレジット:Flox

2021年2月、リー氏と2人のフルタイム勤務のエンジニアは(彼女のチームの範囲では)約250人の利用者を対象にアルファテストを実施し、ニューヨークシティだけで学部生と最近の卒業生にプライベートなベータテストを開発した。これまでに順番待ちの利用者は2万人に達したが、リー氏は2021年11月頃にFloxを順番待ちしている大学生の年齢のニューヨーカーにも公開し始めると述べた。後に他の都市にも拡大する。さらに、FloxはHoneycomb Asset Management (ハニーコムアセットマネジメント)が主導しBBG Ventures(BBGベンチャーズ)とBanana Capital(バナナキャピタル)が参加した120万ドル(約1億3662億円)の資金調達ラウンドを終えた。

「正直なところ、最初のラウンドは驚くほど難しかったです。私はプエルトリコ人であり中国人です。当時21歳で、これに関する経歴もないし、コロンビアも退学しました」とリー氏は述べた。「こういう会話に入る上で、そもそもみなさんから私に関するご意見があるに違いないと思います。ピッチミーティングではもっとZuck(ザック)のようになれと言われました」。

リー氏は彼女自身の年齢層の人々のためにプラットフォームを開発する創設者として、賢いやり方でアプリを市場に出した。利用者にはリアルに感じて欲しいと考えた。そこで、TikTok(ティックトック)利用者でもあるオーディエンスに会い、アプリの販促用の動画を投稿したところ三つの投稿で閲覧数は180万回とバズった。

「トイレにも1人で行けないのに」リー氏はあるTikTokでいう。「なぜ1人で出会いアプリを使っているの?」。

@jamietylerlee

WELCOME TO FLOX. Waitlist early access in bio #startup #entrepreneur #app #friends #dating #fyp #selfimprovement #watchmegrow #tech #foryou

♬ original sound – Jamie Lee

Floxはグループ基準のソーシャルネットワーキングを試みる初のアプリではない。Tinderは友人とグループに参加し、他のグループとマッチする機能を持つTinder Social(ティンダーソーシャル)にこのアイデアを反映していた。しかし2016年の前途多難なスタートのあとたった1年ほどでこの機能は終了した。不注意にも、自身の連絡先からTinderのアカウントを持っている人を特定できたからである。リー氏は、Tinder SocialがうまくいかなかったのはTinderがすでに出会い(ナンパ)アプリとしてのブランドを確立していて、利用者1人がそのプロフィールを持っていると、同じバージョンの自分を友人やデート相手となる可能性がある人に見せることになったからだと考えている。

「個人に焦点を当てることはやめたいと考えています。それはデートを指すからです」とリー氏。「グループのアイデンティティを受け入れたいと思います。そうすればフロックは『アパートメント11』と呼ばれるかもしれません。グループを構成している人々よりも、誰がグループを立ち上げているかを見られます。強調されることを入れ替えているのです」。新たな人に会うことに焦点を置きながら、リー氏はFloxのグループ(フロック)を作る友人同士も近付くことを望んでいる。

Bumbleも出会いアプリとして始まったが、友達を作りビジネスパートナーを見つけるモードもある。リー氏は、Bumble BFF(バンブルBFF)をFloxのインスピレーションとして言及するが、彼女がアプリを使用したとき、ほとんどの人が新しく友達を作るよりもルームメイトを探しているように見えた。

画像クレジット:Flox

「Z世代は最も孤独で、不安で、落ち込んだ世代です。友人が必要な人はとてもたくさんいます」。リー氏は述べた。「しかし、『一対一の友情アプリを使用すること』にともなう社会的スティグマがあります。不運にも、一対一で友達を探すとき、相手や、あなたがBumble BFFを使用していることを知っているかもしれない誰かに、あなたが友人がおらず、希望する立ち位置に自らを置いていないことを示唆することがよくあります。そのため、私達のFloxの目標は、より快適に、安全に、楽しくすること、そして友人探しの裏にある社会的スティグマを取り除くことです」。

このアプリは、人は現在の友人に無視されると、新たな人と会うことを最も心地よく感じるというリー氏の仮説に依存する。しかし集団力学によって安全の層が新たに備わる。Floxは出会いアプリではないが、リー氏は一部の人がその目的でアプリを使用することを知っている。しかし、グループの中の人と出会うことで、他人と一対一で会うことにつきまとうリスクの軽減に役立つ可能性がある。

「2~3年前に住んでいた街で、出会いアプリで散々な目に遭いました。私はその出来事を報告しましたが何も措置が取られず、そのプラットフォームでは守られている感覚を得られませんでした」とリー氏はいう。「2020年、利用者と初めてお話ししたとき、利用者は『出会いアプリで他者に会うのは不安。一対一では安全ではないと感じるから。』と言っていました。そのため、私達はもっと心地よく、安全に人と会えるこの環境を提供したいのです」。

Floxの最近のシードラウンドにより、リー氏はアプリを構築し、利用者をどんどん増やし続けることを願っている。同時に、アプリ体験が既存の利用者にとって肯定的でリアルな物であり続けるよう慎重に進めたいとしている。

画像クレジット:Flox

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

広島大学が発光効率最大80%のシリコン量子ドットの合成に成功し、シリコン量子ドットLEDを開発

(a)は出発素材。(b)はaの粉末体で、(c)はbを焼成した生成物。(d)は赤色発光するシリコン量子ドット(溶液中に分散)。(e)はdの電子顕微鏡像

(a)は出発素材。(b)はaの粉末体で、(c)はbを焼成した生成物。(d)は赤色発光するシリコン量子ドット(溶液中に分散)。(e)はdの電子顕微鏡像

広島大学は、発光効率が最大80%という世界トップレベルの赤色発光シリコン量子ドットの合成に成功し、それを用いたシリコン量子ドットLEDを開発したと発表した

10nm(ナノメートル)以下の発光性の半導体ナノ結晶「量子ドット」は、すでにタブレットや大画面テレビなどの発光体に利用され始めているが、現在はインジウム系(レアメタル)、カドミウム系や鉛系などの重金属で作られており、自然環境保護の観点から、毒性の少ないものが求められている。それに対してシリコン量子ドットは、砂や石から作れるシリコン製であるため、安全・安価であり、シリコン量子ドット溶液と高分子溶液を基板に塗布するという、簡便な製造法で作ることができる。

カドミウム系や鉛系を使った重金属製の量子ドットは、発光量子収率が最大98%と高いものの、そこには環境適合性と効率性との相反関係がある。欧米の研究グループからは、発光量子収率が60%を超えるシリコン量子ドットが報告されているが、その高効率発光のメカニズムは、よくわかっていなかった。

広島大学は、これまで17年間にわたりシリコン量子ドットの研究を続けており、今回、発光量子収率が最大80%という赤色シリコン量子ドットの合成に成功し、しかもその構造を明確化した。表面が水素で覆われた直径3nmのシリコン量子ドットを合成し、これをコアとして、表面に結合する物質(リガンド)で化学的に変化させ、デシル基修飾のシリコン量子ドットを合成した。このときの化学的変化(化学修飾)を、熱反応と常温反応という2つの種類で行ったのだが、そこで得られたシリコン量子ドットの構造と物性を数値化し、高効率発光のメカニズムに紐付けたことが、この研究のポイントだと広島大学では話している。

今回開発された製造手法は、他のリガンドを持つシリコン量子ドットにも拡張できる汎用的なものであり、高効率シリコン量子ドットとそのLEDの製造における有力モデルになるとのことだ。今後は、さらに高強度、高効率のシリコン量子ドットとLED、その他の発光色への展開を目指すとしている。

広島大学が発光効率最大80%のシリコン量子ドットの合成に成功し、シリコン量子ドットLEDを開発

(a)シリコン量子ドットLED作製手順の概略図。(b)LEDの写真。2cm角で発光面は4mm2の大面積。(c)シリコン量子ドットLEDが発光している様子。(d)LEDの発光(EL)スペクトル

切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

切っても茶色くならないリンゴの品種育成を加速、リンゴ果肉の変色に関わる染色体領域を特定

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と青森県産業技術センターは1月20日、リンゴの果肉が茶色くなる(褐変)ことに関連する染色体領域を3カ所特定し、その領域の目印となり、品種改良のための苗の選抜に活用できるDNAマーカーを開発した。これにより、切っても褐変しないリンゴの品種改良が大幅に効率化される。

リンゴは、切ったりすりおろしたりするとすぐに茶色くなり、見た目や商品価値が損なわれてしまう。中食・給食・離乳食・デザートトッピングなどカットフルーツとしての需要はあるものの、流通させようとすると、褐変させない処理や包装などに手間とコストがかかってしまう。そのため、褐変しないリンゴの品種開発が求められている。

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

ほとんどのリンゴ品種は、果実をカットすると短時間のうちに茶褐色に変色(褐変)する

実際に褐変しにくいリンゴの品種はきわめて少なく、世界では「あおり27」と「Eden」の2種類だけが知られている。だが、あおり27は流通期間が短い(普通冷蔵で2カ月程度)という課題があり、Edenは海外品種のため現時点では国内での流通が難しい。また、これらの遺伝情報はわかっていない。

そこで農研機構と青森県産業技術センターは、褐変しにくい品種を効率的に育成するために、ゲノム解析技術を活用した大規模な遺伝解析を行い、褐変に関連する染色体領域の特定を行うことにした。あおり27や「シナノゴールド」といった28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

28品種を親とする24通りの組み合せの交配により育成した468個体のリンゴ樹から果実を収穫し、すりおろして、24時間後の褐変の状態を6段階で評価。褐変指数0:無、1:難、2:低、3:中、4:高、5:甚の6段階に分類した

この468個体の果肉褐変指数と全染色体領域にわたる約1万カ所の情報から遺伝解析を行い、褐変の原因領域が、第5染色体、第16染色体、第17染色にあることを突き止めた。そこから、その染色体領域を特定しやすくするDNAマーカーを開発。これを使うことで、若い苗の段階で褐変しにくい品種の選抜、および褐変しない品種の育成が効率的に行えるようになるという。

これにより、「リンゴ加工品の活用場面が広がり、新たな需要の創出につながることが期待されます」と農研機構では話している。


画像クレジット:Fumiaki Hayashi on Unsplash

三菱電機がCartkenの自律走行ロボットを使った配送サービスの実証実験をイオンモールで開始

Mitsubishi Electric(三菱電機)が、自律走行ロボットの価値を探るための実証実験を日本で開始した。同社の⾃動⾞機器事業部は、2021年3月にステルス状態から脱却したGoogle出身のスタートアップ企業Cartken(カートケン)と協力し、少数のCartken製配送ロボットを愛知県にあるショッピングモールに導入。店舗内や敷地屋外でフードデリバリーサービスを提供する。まずは同モール内のStarbucks(スターバックス)から商品の配達を行う。

関連記事:元Googleのエンジニアによる自動運転ロボットがマイアミで料理配達業務を開始

三菱電機によると、ショッピングモールの来店客はスターバックスのアプリを使ってロボットによる配達を選択でき、Cartkenのロボットがモールの内外に設置された配達ポイントのいずれかで、顧客に注文の品を届けるという。CartkenのCOO(最高執行責任者)兼共同創業者であるAnjali Jindal Naik(アンジャリ・ジンダル・ナイク)氏によると、この実証実験は1月11日から「イオンモール常滑」で行われ、2022年4月まで実施される予定で、今後は他の買い物客のためのカーブサイド・ピックアップに似たポーター・サービスに拡大していく計画だという。

今回のCartkenとの共同試験は、三菱電機にとって初となる配送ロボットの実証実験であり、日本における自律走行ロボット配送の市場を開拓しながら、この技術を使った他のユースケースを模索するのに役立つ。

「三菱電機は、Cartkenのロボットを使って、日本に新しいロボット配送市場を作りたいと考えています」と、三菱電機のモビリティイノベーション推進部を統括する藤田氏は語った。「これは我々にとってまったく新しい試みであり、この過程において、我々の知識、技術、さらには三菱のさまざまな事業部のお客様との関係を活用し、このプログラムの開発を成功させることで、この技術を使用できる新しい市場に拡大していくことができます」。

このパートナーシップの第一段階では、三菱はCartkenの技術の配給業者となるが、将来的には両社が協力して、三菱の将来のパートナーシップを支援するためのさらなる技術を開発していく予定だ。例えば、Cartkenのロボットがエレベーターと連携できるような設備技術の開発を検討していると、藤田氏は語る。

Cartkenは2021年、REEF Technology(リーフ・テクノロジー)と提携し、マイアミのダウンタウンで自動運転ロボットによるフードデリバリーを開始している。同社にとって今回の提携は、三菱の電気機器に関する専門知識を得られるだけでなく、このスタートアップ企業が日本においてプレゼンスを確立するためにも役立つはずだ。

Aeon Mall(イオンモール)で実証実験を始めるということも、その一助となるだろう。イオンはアジア最大級の小売企業で、数百カ所のショッピングモールのみならず、コンビニエンスストアやスーパーマーケットにまで小売ネットワークを広げている。

「イオンモールを選択した理由は、大規模な商業環境でロボットの成功を試すのに最適なエコシステムだからです」と、藤田氏は語った。「また、イオンモールでは、さまざまなユースケースを調査することもできます。より多くの来場者に配達サービスを体験してもらうために迅速にロボットを追加し、2022年中に規模を拡大することを目指しています」。

Cartkenのロボット「モデルC」が三菱電機に採用されたのは、屋内外の両方における安全性と信頼性が高く評価されたからだと、藤田氏は述べている。Cartkenによれば、同社のロボットはショッピングモールの内外を自律的に運行することができるが、すべてのロボットには遠隔監視システムが搭載されており、必要に応じて人間が操作できるようになっているという。

「これまでのところ、緊急の遠隔支援が必要な状況は数えるほどしかありません」と、ナイク氏は語る。「ロボットの代替ルートが必要になる新築工事などは、遠隔オペレーターが関与する例です。同様に、遠隔支援はセットアップの段階でも使用されます。これによってロボットはサービスエリアの地図を学習し、わずか数日で展開することが可能になります」。

最近では、Uber(ウーバー)のスピンアウト企業であるServe Robotics(サーブ・ロボティクス)が、同レベルの自律性を備えたロボットを発表した。同社によると、ジオフェンスで囲まれた特定の運用領域では、同社のロボットは完全な自律性を発揮できるという。Cartkenと同様、Serve Roboticのロボットでも、緊急時に備えて遠隔オペレーターが待機している。

関連記事:Serve Roboticsの新しい自律型歩道配達ロボットは遠隔オペレーターの助けも必要としない

画像クレジット:Cartken

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ケニア政府、デジタル金融機関のデータプライバシー問題で厳重な取り締まり

2021年10月下旬、ケニアの国会で新しい法律が可決された。同法は、顧客の守秘義務に違反した事業者の許可を取り消す権限を金融規制当局に与える条項を追加している。これにともない、デジタル金融機関は、融資不履行者の個人データを第三者と共有することで、同国において免許取り消しのリスクを負うことになる。

典型的に融資アプリは、連絡先を含む借り手の電話データを収集し、メッセージへのアクセスを要求してモバイルマネー取引の履歴をチェックする。クレジットスコアリングやローン支払いの要件として参照されるものだ。悪質な金融機関はその後、借り手が債務不履行に陥った際に、実行された融資を回収する目的で、収集された連絡先情報の一部を使用する。複数の報道によると、デジタル金融機関は、友人や家族に電話をするなどして借り手に借金の返済を強要するような、デット・シェイミング(debt-shaming、債務の状態をさらしあげることによって、はずかしめたり、非難するような行為)手法に訴えているという。

今回の法改正は、高額の無担保ローンを提供する悪質なデジタル金融機関から市民を保護するためにケニアの議員が講じている多数の対策に追加されることになる。これにより、規制当局であるCentral Bank of Kenya(ケニア中央銀行)は、一定の自主規制期間の後、独立したデジタル金融機関(銀行と提携していない)の業務を監督する権限が付与される。今後は、ケニアで事業を行うにはライセンスを取得する必要が出てくる。これまでは登録するだけだったが、それが悪質なアプリの急増を招くことになった。

このケニア中央銀行に関する2021年改正法案では、規制当局に対し、金利に上限を設けたり「データ保護法または消費者保護法の条件」に違反したデジタル金融機関のライセンスを一時停止または取り消す権限も与えている。

ケニアのデータ保護法では、企業はデータを収集する理由を顧客に開示するよう義務付けられている。また、借り手の機密情報が不正な第三者によって侵害されないよう保証する。この動きの背景には、消費者向けロビー活動が、顧客情報をデータやマーケティング企業と共有しているとしてローンアプリを非難していることがある。

デジタル金融機関はまた、プロダクトに関するすべての情報を開示することが求められ、これには価格設定の詳細、債務不履行者に対する罰則、債務回復の手段などが含まれる。これは、プロダクトやサービスの購入に関するすべての条件を消費者に開示することを販売者に義務付けている消費者保護法に沿ったものだ。ほぼすべての融資アプリが、ケニアでの借金を回収するためにデット・シェイミング手法を用いていることが明らかになっている。

ケニアにはおよそ100ものモバイル融資アプリがあり、その中には中国の大手ブラウジング企業Opera(オペラ)が所有するOkashやOpesaも含まれている。両社ともケニアで略奪的な融資戦術を用いているとの主張に直面している。OkashやOpesaをはじめとする数十のローンアプリが、法外な金利と搾取的な条件を設定していたことが判明した。例えば、Google Play Storeのポリシーでは60日ローンと規定されていながら、OkashやOpesaは30日ローンとなっていた。中国の2つのローンアプリの金利は法外で、年間876%に達している。銀行の年間金利にしても20%は滅多に超えない。サンフランシスコに拠点を置くBranch International Ltd.(ブランチ・インターナショナル)やPayPal(ペイパル)が支援するTalaなどの他のアプリでも、年利がそれぞれ156~348%、84~152.4%と、恐喝的なレートが使われていることが判明した。

月額約4000万ドル(約45億円)を支出する25のデジタル金融機関を代表する金融機関ロビー団体がTechCrunchに語ったところによると、メンバーは金利の上限設定について懸念を表明したが、特に彼らのフィードバックが受け入れられたことを受けて、新しい法律には満足しているという。同団体は、最低資本金規制や預金割り当ての撤廃、新技術や新プロダクトの規制権限の委譲を求めてロビー活動を行ってきた。

Digital Lenders Association of Kenya(ケニアデジタル金融業協会)の会長であるKevin Mutiso(ケビン・ムティソ)氏は次のように述べている。「この分野が規制され、中央銀行(規制当局)へのアクセスが可能になり、紛争規制の仕組みも導入されることを喜ばしく思っています。しかし、私たちが懸念しているのは価格統制であり、これにはあまり感心していません。金利の上限を設定した瞬間に融資は行われなくなります。私たちは神経質になっていますが、それは公正なことです」。

しかしムティソ氏によると、規制が整備されれば、金融機関は規制当局をはじめとするパートナーと協力して融資をより強固なものにすることができ、同国の融資市場の拡大に役立つという。

「規制の欠如は市場を予測不能にしていました。今なら私たちに何ができ、何ができないかがわかります。また、私たちはより良い債務回収慣行を持つことになります」とムティソ氏は語る。

「この法律により、ケニアは世界でナンバーワンのフィンテック市場になると私たちは考えています。なぜなら金融機関や借入者から期待されることなど、今はすべてが明らかだからです。私たちはまた、顧客、特にMSME(零細・中小企業)にとってより良いプロダクトを目にすることになるでしょう」と同氏は続けた。

これらのアプリは無担保ローンを提供しているため、当座の現金を求めている借り手や、口座履歴などの前提条件により銀行から締め出されることが多い借り手にとって魅力的なものとなっている。

デジタルクレジットは簡単に利用できるが、保有期間が短いために高額である。また、アクセスが容易なために複数のアプリからの借り入れが発生し、債務の逼迫やクレジットスコアの低下につながり、将来的に銀行からクレジットを取得する借り手の能力に影響を与える。

Kenya Bankers Association(ケニア銀行協会)の調査によると、利便性とアクセスの容易さが、クレジットにアクセスするプラットフォームを決定する際に顧客が考慮する主な理由であることが示されている。

この調査では、自営業者は通常のクレジットよりもデジタルを好むことが明らかになった。これは、彼らが業務を行っている間に経験する流動性の変化に起因するものであり、緊急時にもローンアプリが好まれることが指摘されている。

新しい法律では、規制当局に対し、クレジットコストを設定する際にデジタル金融機関が準拠する価格パラメータを決定する権限が与えられている。

法外な金利はケニアに限ったことではない。インドでは、融資アプリに週当たり60%もの高い金利が設定されていることが判明した。南アジアの国では、融資回収業者による嫌がらせの後に自殺した人々の報告があった。

西アフリカ諸国でも、地域最大の市場の1つであるナイジェリアを含め、融資アプリが急増している。

調査と政策提言を行うConsultative Group to Assist the Poor(CGAP、貧困層支援協議グループ)の報告書でも、タンザニアの2000万人もの借り手のデジタルローンのデフォルト率と延滞率が高いことが明らかになった。ほとんどの借り手は緊急事態や投資のためではなく、日々の必要性のために融資を利用している、と同報告書には記されている。

「これらの数字を減らすために規制当局ができる最も重要なことの1つは、融資条件の透明性を向上させ、顧客が情報に基づいた意思決定をしやすくすることです」とCGAPは述べている

同組織は、融資アプリを管理するためのより厳格な規則について勧告し、金融機関に融資条件の透明性を呼びかけた。

画像クレジット:Tala

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(文:Annie Njanja、翻訳:Dragonfly)

ノーコードでWireGuardフルメッシュVPNを企業ネットワークに提供するSaaS「Wissy」がβ版ユーザー募集開始

ノーコードでWireGuardフルメッシュVPNを企業ネットワークに提供するSaaS「Wissy」がβ版ユーザー募集開始

Notchは1月24日、SaaS型でWireGuardフルメッシュVPNを提供する新サービス「Wissy」のβ版ユーザーの募集を開始したと発表した。β版への登録は、公式サイトから電子メールで行う。

Wissyは、3月初旬をめどに、招待制でのベータ版提供を開始予定。また、4月初旬〜5月にかけてプロダクトのオープンアクセスを目指し開発を進めている。今後数年で一般化するであろう、分散型のチーム・働き方を支えるインフラの基盤となるべく開発を行っているという。

Wissyは、数行のコード、もしくはノーコードでUXの高いプライベートネットワーク(VPN)を構築できるSaaS型クラウドVPNサービス。コンテナでの運用やセルフホスティングにも対応し、透明性が高い通信環境を運用可能としている。通信プロトコルにはWireGuardを採用しており、ユーザーとユーザーが直接つながるメッシュネットワークをゼロコンフィグで構築可能。サービス利用開始にあたりハードウェアの導入や既存インフラの変更を必要としないため、企業やチームの大きさに関わらず簡単に導入できるという。

また、ユーザーや通信の設定を管理するサーバーなどは希望に応じてすべて自社でホスティングすることが可能。サービスのコア技術はオープンソースソフトウェア(OSS)として公開予定のため(2022年4月頃予定)、透明性が高くより柔軟なネットワークの運用・構築を行える。ノーコードでWireGuardフルメッシュVPNを企業ネットワークに提供するSaaS「Wissy」がβ版ユーザー募集開始

ネットワークアクセス権管理については、法人メールアドレスなど既存SSOアカウントでカスタマイズ可能。部署やチーム、リソースごとのアクセス管理を既存の法人メールアドレスと紐付けて行えるほか、ダッシュボードによる統合的なアクセスコントロールが可能で、スタートアップ・エンタープライズの規模に関わらない運用が実現できるとしている。

クラウドへのアクセス制御に加えて、クラウド間のセキュアな通信環境構築にも対応し、マルチクラウドにおけるセキュリティー強化を図れる。また、IoTデバイスにおけるセキュアかつ効率的なバージョンアップデートのユースケースや、デバイス同士のセキュアなP2P通信も行える。ノーコードでWireGuardフルメッシュVPNを企業ネットワークに提供するSaaS「Wissy」がβ版ユーザー募集開始

WireGuardは、Linuxカーネル5.6.x系からサポートされているオープンソースのVPNプロトコル。2016年ごろよりJason A. Donenfeldを含む複数のコントリビューターが開発を進めている。同プロトコルの特徴は、従来のVPNプロトコルとして一般的であったIPSecやOpenVPNなどと比較して、圧倒的なシンプルさと通信速度の速さをセキュリティー耐性高く実現している点にある。

ただWireGuard単体では、個人が細かな設定ファイルを定義し、ネットワークを構築する必要がある。Wissyでは、そうしたWireGuard接続用の煩雑な設定の自動化とP2Pメッシュネットワーク化を独自の規格で行うことで、誰でも簡単にWireGuardが提供する機能の恩恵を受けることを可能としているという。

農業助成金の申請支援を起点に金融サービスの巨人を目指すFarmRaise

左からFarmRaise共同ファウンダーでCEOのジェイス・ハフナー氏、プロダクト責任者のアルバート・アベディ氏、COOのサミ・テラティン氏(COO)

何かから始めなくてはならない。Jayse Hafner(ジェイス・ハフナー)氏とSami Tellatin(サミ・テラティン)氏がスタンフォード大学のMBAで出会い、米国の農業をもっと効率的にすれば国のためになりすごいビジネスにもなるという信念を共有したとき、2人は助成金から始めようと決めた。

バージニア州の牛牧場で育ったハフナー氏は、助成金の申請が、たとえ家族の牧場の持続可能な作業慣習を改善するためであってさえ、複雑で時間のかかる手続きであることを身を持って知っていた。一方、テラティン氏は、大学で生物工学を学び、USDA(米国農務省)で3年間農業経済を研究した。彼女もまた、助成金がもっと簡単に手に入れば農業従事者はもっと良い選択ができるはずだと感じていた。

FarmRaise(ファーム・レイズ)は、現在社員12名のカリフォルニア州サンディエゴを拠点とする設立2年の会社だ。2人がパロアルト拠点のPear VCのアクセラレーター・プログラムで知り合ったもう1人の共同ファウンダーであるAlbert Abedi(アルバート・アベディ)氏と力を合わせて以来、会社は目覚ましい進展を遂げてきた。

ハフナー氏によると、同社のプラットフォームにはすでに1万カ所の農場が登録している。それは口コミとちょっとした検索エンジンのマジック、そしてなによりも、Cargill(カーギル)やCorteva(コーテバ、2018年にDuPont[デュポン]をスピンアウト)などの炭素排出量削減目標をもつ農業の巨人と提携して、低炭素排出農業に関連する助成金申請でFarmRaiseの支援を受けるよう農業従事者に薦めてきたおかげだ。

FarmRaiseのプラットフォームでは、農場の詳細な実態を尋ね、FarmRaiseが彼らに代わってさまざまな助成金プログラムに手早く申請できるようにデータを構成する。そこに投資家が加わったことで、さらに勢いが増している。同社はつい最近、720万ドル(約8億2000円)のシードラウンドをSusa Venturesのリードで完了した。

しかし、多くのスタートアップと同じく、非常に広範囲に渡る金融サービス企業を目指しているFarmRaiseにとって、助成金(国も民間も)は出発点に過ぎない、とハフナー氏はいう。農場が十分なデータを渡せば、FarmRaiseは融資、器具の割引購入、さらには節税対策の支援も行うことができる、と同氏は話した。

これらのサービスの多くは第三者を経由して提供され、FarmRaiseは仲介手数料を受け取る仕組みだと彼女はいう。FarmRaiseは車輪の再発明をするつもりはない。しかし、農場が頼りにできる「フルスタック(複数業務に精通した)」のリソースが存在しない理由などない、と彼女は付け加えた。また、多様なサービスを提供することによって、助成金の申請結果を待つ間(6~12カ月かかるものもある)も利用者を満足させることができる。

自分たちにとって助成金は「くさび」だとハフナー氏はいう。「物語の終わりではありません」。

現在FarmRaiseは、人員を追加し、対象となる助成金を増やして、月額料金と獲得した助成金の10%を請求している現行サービスに顧客が確実に満足することに注力している。

正しく手続きを進めることが重要だ。助成金は大きなチャンスだとハフナー氏は言い、理由の1つとして農務省の助成金が「爆発的に増えている」ことを挙げた。

彼女は、新型コロナウイルスの蔓延によるサプライチェーン崩壊に苦しむ農家を支援するために「数百億ドル(数兆円)」規模の資金を配布したトランプ政権の政策を示した。

バイデン政権もFarmRaiseを勇気づけていると感じるとハフナー氏は付け加えた。「重点的な保護基金拡大が見られ、今後倍増する可能性が高いと見ています」。「持続可能な農業は、農家の利益性を高めるだけでなく、炭素排出量を抑制して気候変動対策に寄与します。そこには本当に限りなくたくさんの恩恵があるのです」。

同社のシードラウンドには、他にCendana Capital、Ulu Ventures、Pear、Better Tomorrow Ventures、Incite Ventures、およびFinancial Ventures Studioが参加した。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nob Takahashi / facebook

農作物の防虫をセンサーと機械学習で実現するFarmSense

かじる、潜る、感染させる。米国農務省農業研究局によると、マメコガネ(上記写真)などの害虫が農業に与える被害は毎年1000億ドル(約11兆6730億円)を超えるという。また、節足動物は植物の病気も媒介するため、世界の農業生産の年間40%が節足動物によって失われているといわれている。

カリフォルニア州リバーサイドに拠点を置くAgTechのスタートアップ企業、FarmSenseは、害虫問題の解決に挑んでいる。同社は、光学センサーと機械学習アルゴリズムに基づく新しい分類システムを構築し、リアルタイムで昆虫を識別・追跡する。ここでポイントとなるのは「リアルタイムの情報」だ。

彼らによると、センサーが提供するリアルタイムの情報は早期発見に役立ち、殺虫剤やバイオコントロールなどの害虫管理ツールをタイムリーに配備することができる。現在、モニタリングに使われている機械式トラップは、虫がやってきてから10〜14日後にしか重要な情報を得られない場合もある。

「このような虫の中には、成虫として5日間しか生きないものもあります。そのため、問題を発見したときには、すでに問題が根付いてしまっており、より大きな問題になっているのです」と、FarmSenseの共同設立者であるEamonn Keogh(イーモン・キーオ)氏はいう。「リアルタイムで知っていれば、介入する場所を1カ所に絞り、農薬の節約、労働力の節約、作物の損傷を防ぐなど、より良い結果を得ることができたはずです」。

より良い結果を得るための重要な情報の提供方法は、少し複雑だ。

ファームセンスの新型光学センサー「FlightSensor」の圃場での様子。このセンサーは、農家にとっての害虫の被害を軽減するために、リアルタイムのデータと管理戦略を提供することを約束する(画像クレジット:FarmSense)

現在、中小企業技術革新研究プログラムの助成を受け、南カリフォルニアのアーモンド園で試験・研究が行われているFlightSensorと呼ばれる同社の最新センサーは、キーオ氏がこのセンサーのアイデアを得た場所について考えると、最もわかりやすい。つまり、ジェームズ・ボンドと冷戦時代のスパイ活動だ。

キーオ氏は、ロシアのスパイがガラス窓にレーザーを当てて、人の声の振動を拾っていたことを説明した。そしてセンサーがその情報を翻訳し、部屋の中で何が起こっているのか、おおまかな情報を提供してくれる。

「同じような仕掛けを考えて、レーザーの前を虫が飛んだらどうなるかを想像してみました。虫の音だけが聞こえて、他の音は聞こえないでしょう」。

しかし、FlightSensorは振動を読み取るのではなく、小さなトンネル内のライトカーテンと影を利用し、誘引物質によって昆虫を引き込む。センサーの片側には光源、もう片側には光学センサーが設置されている。昆虫が飛んできたときに、どれだけ光が遮られたか、あるいはどれだけ光が通り抜けたかをセンサーが測定する。そのデータを音声にし、クラウド上の機械学習アルゴリズムで解析する。

このセンサーは生産者が使いやすいように昔のアナログ機器のようなデザインになっているが、FarmSenseによると、風や雨などの周囲の音は拾わない。

キーオ氏によれば「シグナルの質はとてもクリアで、通常畑で聞こえる周囲の音は聞き取りません。本質的には昆虫の音を聞く異なったモダリティですが、ヘッドフォンをつけてセンサーからの音声クリップを聞くと、まるで蚊や蜂が飛び回っているように聞こえます」。

カリフォルニア大学リバーサイド校のコンピューターサイエンスとエンジニアリングの教授であるキーオは、データマイニングを専門としており、FarmSenseが識別目的で採用した新しい機械学習アルゴリズムに取り組んでいる。共同設立者のLeslie Hickle(レスリー・ヒックル)氏をはじめ、昆虫学者や分野のスペシャリストが開発・配備を支援している。

ハードウェア面では、当社CEOであり、無線・携帯電話ネットワークやセキュリティのシステム開発を手がけるShailendra Singh(シャイレンドラ・シン)氏が担当している。シーズンごとに課金される各センサーの価格は300ドル(約3万4000円)とのことだ。

この技術がもたらすインパクトは明らかだ。大小の畑を管理する農家にとって、昆虫に関するリアルタイムの情報は経済的な安全性にとって重要なだけでなく、土壌の健康状態など重要な資源の保全・保護につながる可能性もある。

しかしFarmSenseは、昆虫による被害で不当に影響を受けているという地方の農家を支援したい考えだ。

だが、センサー1つにつき1シーズン300ドルというのは高額であり、この技術の採用にあたるリスク、ひいては虫害という問題をそもそも解決できるかどうかというリスクもある。

小規模農家にとって最も難しいことの1つはリスク管理だと語るのは、米国農務省が資金提供する「市場、リスク、レジリエンスのための未来のイノベーションラボ(Feed the Future Innovation Lab for Markets, Risk, and Resilience)」の所長で、カリフォルニア大学デービス校農業・資源経済学の著名教授であるMichael Carter(マイケル・カーター)氏だ。

「リスクは人々を貧しいままにしてしまうことがあります。リスクは将来を不透明にするため、平均所得を向上させる技術への投資を抑制します。富の少ない人々は、当然貯蓄が多くありません。しかし彼らは、彼らの収入を向上させるかもしれないし、彼らの家族を餓死させることになるかもしれないものに投資するために貯蓄を危険にさらすことはできません」とカーター氏はいう。

しかし彼は、FlightSensorのような技術が、特に小規模農家をさらに保護する保険のようなものとなる場合、小規模農家の投資の恐怖を軽減することができると考えており、この点に関しては楽観的であった。

シャイレンドラ・シン氏(左)とイーモン・キーオ氏は、カリフォルニア州リバーサイドで昆虫の監視に革命を起こそうとしているアグテックスタートアップ企業、FarmSenseの共同設立者だ(画像クレジット:FarmSense)

この技術について、こんな疑問も浮かぶ。リアルタイムでの識別は、害虫管理にとって本当に最良の選択なのだろうか?米国農務省森林局の昆虫学者Andrew Lieb(アンドリュー・リーブ)氏によれば、そうではないかもしれないとのことだ。リーブ氏は、農業や森林にとって最も破壊的な害虫である侵入昆虫の主な原因は、移動や貿易であると説明した。

彼は、昆虫の定着制御のためのテクノロジーに関しては賛成しているが、究極的には、この問題をより早期に解決することが最適な戦略であると考えている。現在の輸出入に関する法律や、害虫駆除製品の処理方法、さらには渡航の制限の制定などに取り組むべきだろう。

こうした懸念はあるものの、FarmSenseの技術がインパクトを与える態勢にあることは間違いない。農家の経済的な不安やグローバルなフードチェーンへの脅威だけでなく、蚊のような病気を媒介する昆虫の追跡や重要な情報の拡散に役立つかもしれない。

新型コロナウイルス感染症による混乱が続く中、バイオセキュリティの成功や失敗が、私たちの無数のシステムにどのように波及していくのか、それを強く意識しないわけにはいかない。

2050年までに外来種の昆虫の侵入が36%増加すると予測されていることや、人口増加により食糧生産がより一層圧迫されることを考えると、私たちが脅威を理解し思慮深く対応する能力を高めてくれるFlightSensorのような革新的技術は、むしろ歓迎すべきことだ。

カーター氏がアグテックが農業に恩恵をもたらす可能性のあるあらゆる方法について語る通り「私たちはその可能性においてクリエイティブになる必要がある」。

画像クレジット:Chris Sorge / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(文:Matt Marcure、翻訳:Dragonfly)

Bentley Motorsがテクノロジーとコーチビルドを融合させたContinental GT Speed 2022年モデルを発表、贅沢な時間の歪みを味わう

Bentley Motors(ベントレー・モーターズ)は、旧世界と現代を股にかけているようだ。100年以上にわたり、自動車のラグジュアリーとパフォーマンスの最先端を走るこの自動車メーカーは、長年、時代の変化に対応しつつも、クラシックなフィーリングのコーチビルディングには、常にその精神を宿している。

自動車製造におけるこのようなロマンティックな考え方は、現代のテクノロジーの進歩や高級志向の消費者の需要とはほとんど相いれないものかもしれない。

ベントレーが何かを心得ているとすれば、それはクラシカルな魅力にこだわり続けながら、時代にも歩調を合わせていることだろう。その最たる例が、Bentley Continental GT Speed(ベントレー・コンチネンタルGTスピード)2022年モデルだ。このパワフルな2ドアグランドツアラーは、現在、道を走るクルマの中でもひときは異彩を放っている。

基本概要

画像クレジット:Alex Kalogianni

ベントレー・コンチネンタルGTは、4ドアのBentley Continental Flying Spur(ベントレー・コンチネンタル・フライングスパー)セダンの2ドアバージョンにあたる。多くの要素を共有しているものの、GTは大きな車体を小ぶりにしただけではなく、デザインや性能など他の要素で差別化を図っている。

GTの中核となるのは、6.0リッターのツインターボW12エンジンだ。この巨大なパワーユニットは、内燃機関が縮小(あるいは消滅)に向かう時代にあっては、異端の存在といえる。GTスピードを特徴づけるこのシステムからは、標準のContinental GT W12(コンチネンタルGT W12)を24HP(18kW)上回る650HP(485kW)のパワーと、最大664lb・ft(900Nm)のトルクが生み出され、デュアルクラッチ式の8速オートマチックギアボックスを介して出力される。

そして、強化されたシャシーシステムにより、そのパワーは4つのホイールを介して余すところなく伝達される。

「当社のシャシーエンジニアは、ドライバーがドライブダイナミクスコントロールを使ってドライブモードを制御し、真の意味での乗り心地とハンドリングの両立を実現するために、信じられないほど多くのテクノロジーを駆使していた」とベントレー・モーターズのプロダクトコミュニケーション部長であるMike Sayer(マイク・セイヤー)氏は、TechCrunchに対して述べる。そして「シャシー剛性の変化を可能にするために、3チャンバー・エアサスペンションを採用し、3つの異なるサスペンション剛性を実現している。スポーツモードでは、各エアサスペンションの1つのチャンバーを利用して、高いバネ剛性を確保し、コンフォートモードでは、ソレノイドバルブが3つのチャンバーを低圧で作動させ、ソフトなサスペンションを実現する。そしてさらに、48V電動アンチロールコントロールであるBentley Dynamic Ride(ベントレー・ダイナミック・ライド)が加わる」と同氏は説明する。

今回のGTスピードでは、電子制御リアディファレンシャルと後輪操舵をはじめとするいくつかの新しいテクノロジーがGTモデルとして初めて採用された。

電子制御デフは、スポーティな運転をする際、ターンイン時のバランスとコントロールを確保するために、リアアングルにトルクを配分するものだ。後輪操舵は、最初にフルサイズのラグジュアリー4ドアであるフライングスパーに採用され、回転半径を小さくするとともに、高速走行時の安定性を高めている。2ドアのGTスピードでは、セダンよりもはるかに積極的に適用され、シャープな旋回性に寄与している。

そうこういいながら、このGTは、総重量が5000ポンド(2273キログラム)を超えるにもかかわらず、最高時速208マイル(時速335キロメートル)で走行し、わずか3.5秒で時速60マイル(時速約97キロメートル)に到達するロケットスタートを実現している。これは、クルーズ船のような豪華な装備を持たないクルマでも達成するのが難しいことだ。

テクノロジーを散りばめるベントレー

画像クレジット:Alex Kalogianni

コンチネンタルGTスピードの内側には、ベントレーのクルマの特徴である丹念に作り込まれたインテリアが備わっている。

このクルマの組み立ては、自動化された作業もあるが、かなりの部分が手作業で行われており、ほぼすべての要素に熟練した職人の注意が払われている。インテリアには、プレミアムレザーや、バールウォールナットから自然に倒れた希少なレッドウッドまで、さまざまな種類の木製素材が使用されている。

シートやハンドルにはすべて手縫いのステッチが施され、メタルスイッチ類はダイヤモンドパターンのローレット加工が重厚さを醸し出している。

セイヤー氏は「主要なロータリーノブに使用されているローレット加工は、18カ月かけて開発され、ローレットのカット面の角度を正確に表現するためにアルゴリズムを作成した」と語り、細部にまでこだわっていることを強調する。緻密に作りこまれた壮麗なインテリアは、高度な最新テクノロジーの基で生み出され、しかもそれが見事に融合しているのだ。

画像クレジット:Alex Kalogianni

ダッシュボードの中央には12.3インチのタッチスクリーンがあり、最新の高級車を購入する人の期待に違わぬ機能を備えている。タッチスクリーンは、ナビゲーションやエンターテインメントを提供するとともに、いくつかの車両機能のインターフェイスでもある。ドライバーは、スロットルとステアリングの設定を好みに応じてカスタマイズしたり、クリアランスを取るためにサスペンションを上げたり、必要なときには詳細なドライバーズマニュアルにアクセスしたりすることができる。

また、タッチスクリーンに表示される情報の多くを反映するようにカスタマイズできる完全デジタル式のメータークラスターと組み合わせて使用することもできる。さらに、安全な夜間走行のために前方をハイライト表示する熱感知タイプのナイトビジョンのオプションも用意されている。これには歩行者認識機能も組み込まれており、夜間に人を検知した場合には、赤いボックスで強調表示される。

高解像度のスクリーンに配置されている特徴的なグラフィックは、職人技を感じさせる。

セイヤー氏は「メーター類のグラフィックは、物理的な部品と同じように細部にまでこだわってデザインした。それ以上に、複数のタッチスクリーンに頼らず、物理的な手触りのあるボタンやロータリーノブを残すことも、当社の理念に沿ったものだ」という。

それでも先進すぎるデザインが趣味に合わない場合は、スクリーンはパネル内に収納され、代わりに、時計、コンパス、温度計の3つのアナログメーターに置き換えることもできる。ちょっとした車内ガジェットシアターのようかもしれない。しかし、別の見方をすれば、ある意味で車内の将来性を確保しているともいえるだろう。美しさという点では、ディスプレイよりも車内の他の部分の方がはるかに古びるだろうし、それを目立たないように収納する方法は、このラグジュアリーグランドツアラーの持つ包容力ならではのものだ。

ユーザーエクスペリエンス

画像クレジット:Alex Kalogianni

GTスピードのハンドルを握ると、最初はきらびやかなクロームやポリッシュされた化粧板に目を奪われるが、エンジンをかけた瞬間からドライバーが中心に据えられていることがすぐにわかる。

ヘッドアップディスプレイや交通標識認識などのアシスト機能が状況の認識を助け、長距離走行時にはレーンキープアシストやアダプティブクルーズコントロールが負担を軽減してくれる。便利な機能だが、GTスピードが最も魅力を発揮するのはフル稼働したときだ。

W12エンジンは、その力強く堂々としたエキゾーストノートを後ろから鳴り響かせる。アクセルを踏み込むと、まるでGTスピードの系譜に連なる単発の戦闘機で加速しているような感覚と音に包まれる。しかし、古風さを思わせるのはここまでだ。それ以外の部分では古さとは程遠い。パワーの伝達はスムーズかつ力強く、加速の頭打ちを感じるためには制限のない高速道路を走る必要がある。

その点では、GTスピードはフライングスパーと同様に、蒸気機関車のような重厚な接地感がある。そのため、急なカーブを曲がるときには大きな戸惑いが生じる。しかし、信頼と勇気を持って走れば、GTスピードは驚くほどダイナミックな動きを見せる。

風の強い田舎道では、このクルマの良さが最大限に発揮される。クルマの大きさと重さはやはり明白だが、アクティブテクノロジーのおかげで、ベントレーは自信を持ってコーナーを回ることができる。しかし、状況の厳しさが増すと楽しさは萎んでいく。物理法則に逆らうようなエンジニアリングを駆使しても、クルマの重さをごまかすことはできない。そのような時には、もっと小さくて小回りの効くものに乗り換えようと心に決めることになる。

スポーツモードでもコンフォートモードでも、GTのデュアルクラッチ・トランスミッションのギアチェンジの速さはほとんどシームレスであり、アクティブなドライバーには欲しいだけのパワーを、クルージング中のドライバーにはより穏やかな感覚を与えてくれる。高速道路でも、街乗りでも、GTスピードは一切の妥協を感じさせず、27万4000ドル(約3150万円)を超える価格に見合う価値を披露してくれる。少なくとも、そう願いたいものだ。

ライバルたち

スポーティなラグジュアリークーペが不足しているからという訳ではなく、同じミッションをいかにユニークに遂行するかという点で、競合他社から見ると、GTスピードは独特の存在だ。このセグメントの大手であるBMW(ビー・エム・ダブリュー)やMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)は、ベントレーが醸し出す豪華さや高級感には遠く及ばず、同じようにダイナミックさでもやはり劣ってしまう。ハンドリングとパワーの面では、AMG S63 Coupe(メルセデスAMG S63クーペ)が17万3100ドル(約1990万円)からと比較的安い価格で近づいてきているが、同じ重量クラスとしては、コンチネンタルGTスピードの方が明らかに優れている。

本当の意味でのライバルといえば、そう遠くない従兄弟にあたるRolls-Royce Wraith(ロールス・ロイス・レイス)が最も近い存在だろう。レイスは、同じような高級車の血統と独自性に加えて、624HP(465kW)の6.6リッターV12という巨大なパワーユニットを誇る。この2ドアのグランドツアラーは、30万ドル(約3450万円)という同じく目が眩むような価格設定であり、加速や走行の滑らかさの面でGTスピードと同様の神業を成し遂げている。

何事にもいえることだが、ベントレーがこの新旧の融合をどのように続けていくのか、将来は不透明だ。過去の例からわかるように、ベントレーは先を見越した計画を立てている。

「まず、製品群をハイブリッド化する。すでにBentayga(ベンテイガ)とフライングスパーのハイブリッド車を発売しており、コンチネンタル・ファミリーもそれに続く予定だ。その後、2025年に最初のBEV(フルバッテリー電気自動車)を発売し、2030年までにベントレーを電気自動車のみのブランドにすることを目指す」とセイヤー氏は述べる。

今のところ、ベントレー・コンチネンタルGTスピードがある。このほとんど時代錯誤なパワーに溢れた高級車は、12気筒エンジンのビートを響かせて走りながら、このセグメントの標準を確立している。それは、変化の風にも柔軟に対応しながら、自分たちが最も得意とすることを粘り強く貫き通す、ベントレーの集大成だ。

画像クレジット:Alex Kalogianni

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(文:Alex Kalogiannis、翻訳:Dragonfly)