インド通信大手AirtelがAxis Bankと提携クレジットカードの提供開始

Airtel(エアテル)はインド時間3月7日、クレジットカードの発行を開始すると発表した。これは、Google(グーグル)が投資するインドのテレコム事業者である同社が、世界2位のインターネット市場で提供するサービスを拡大するために、金融サービスへの進出を試みる最新の試みだ。

ビリオネアのSunil Mittal(スニル・ミタル)氏が経営する同ネットワークは、国内3位の民間銀行であるAxis Bank(アクシス銀行)と戦略的パートナーシップを結び、両社が「これまでに例のない試み」と謳うクレジットカードを共同発行すると発表した。

Airtel Axis Bankクレジットカードは、事前承認済みの即日融資やBNPL後払いサービスを顧客に提供し、Airtelサービスの請求書の支払いや、Airtelアプリでの取引に対してリワードを与えると両社は述べている。

このカードはAirtelの加入者のみに提供され、インドの小規模な市町村の顧客にリーチすることを目指しているとのこと。Airtelは、インドで3億4千万人以上の加入者を集めている。

このパートナーシップの一環として、Axis BankはAirtelのC-PaaSプラットフォーム(ストリーミング、通話マスキング、コンタクトセンターソリューションなどのサービスを含む製品スイート)、さらに「さまざまな」サイバーセキュリティサービスを利用開始する予定だという。また、両社はクラウドやデータセンターサービスでの協業も検討するとのこと。

Airtelが金融サービスへの参入を試みるのは今回が初めてではない。この急成長分野にはライバルの大富豪Mukesh Ambani(ムケシュ・アンバニ)氏のJio Platformsも注目し、同レベルの成功を収めたことがある。

Airtelはデジタル決済銀行を運営しているが、なかなか市場に浸透していない。同社は近年、ARPU(ユーザー1人当たりの平均売上高)を改善するためにプレミアムサービスの拡大も推し進めており、この件に詳しい3人の関係者によると、2年前にPaytm(ペイティーエム)に決済事業の売却を持ちかけたという。

インドのクレジットカード市場は、深刻なレベルでサービスが行き届いていない。同国には10億近い銀行口座が存在するにもかかわらず、クレジットカードを持つインド人は3000万人にも満たない。

Tiger Global(タイガー・グローバル)が支援するSlice(スライス)やSequoia Capital India(セコイアキャピタル・インド)が支援するOneCard(ワンカード)など数多くのスタートアップが、インドでより多くの人にクレジットカード機能を提供しようと試みている。Flipkart(フリップカート)やAmazon(アマゾン)、そしてライドヘイリングのスタートアップOlaなど多くの大企業も、それぞれの顧客向けに提携クレジットカードを立ち上げている。ちなみに2022年2月にTechCrunchが報じたように、OneCardは、シンガポールのTemasekから、プネに本社を置く同スタートアップの評価額が10億ドル(約1153億円)以上になると思われるラウンドで資金調達の交渉中であるとされる。

フィンテックのベテラン経営者であるHimanshu Gupta(ヒマンシュ・グプタ)氏はこう述べている。「このようなクレジットカードでの提携は、基本的にパートナーの流通を活用するもので、この場合、Airtelがそれにあたります。Airtelは大規模なプレミアムユーザーベースを抱えており、Viのシェア低下により、その力はさらに強まっています」。

「ユーザーがカードを取得した後、他の場所での買い物のほとんどをこの方法で支払うようになれば、インターチェンジや延滞料からも収益を上げる機会があります。ですから、これは成功する提携カードになると期待できます」。

しかし、その成功のためには、いくつかの課題に対処する必要があると彼はいう。

「Airtel-Axisのような銀行提携クレジットカードの課題は、銀行のクレジットカードスタックが比較的古く、若い世代のニーズにはあまり柔軟でないことです。また、Airtelは大きなユーザーベースを持っていますが、ほとんどのユーザーは3カ月に一度、プリペイドチャージをするためにAirtel Thanksアプリを利用していると思われるので、ユーザーの生活における表面積は非常に限られています」。

「そのため、現実には、Airtelがそのような商品をクロスセルする機会は限られています。最近の新しいフィンテックカードのスタートアップは、より消費者のニーズに合った製品を作ることができ、一般的に銀行やテレコム事業者が得意でないユーザー獲得のために、よりスマートなマーケティングを使うことができます」。

7日の発表は、Googleが2022年初めに、Airtelに10億ドル(約1153億円)もの投資を行い、キャリアである後者と協力して「革新的なアフォーダビリティプログラム」を開発し、スマートフォンメーカーとの提携を模索し、安価な携帯電話を生産するとした発表に続くものだ。

Bharti Airtel(インド・南アジア)の社長兼CEOであるGopal Vittal(ゴパール・ヴィッタル)氏は声明の中でこう述べた。「Airtelは、ワールドクラスのデジタルサービスを顧客に提供する努力の一環として、強力な金融サービスポートフォリオを構築しています」。

このエキサイティングな旅でAxis Bankと力を合わせることができ、大変うれしく思っています。このウィンウィンのテレコム事業者と銀行の提携により、Airtelのお客様はAxis Bankのワールドクラスの金融サービスポートフォリオと限定特典を利用でき、Axis BankはAirtelの強力なデジタル機能と深い販売網から利益を得ることができます」。

画像クレジット:Debarchan Chatterjee / NurPhoto / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Den Nakano)

フィリピンの決済ゲートウェイPayMongoが約35.6億円のシリーズB調達、東南アジア地域での拡大狙う

PayMongoの創業者たち。CTOのJaime Hing III(ハイメ・ヒンIII)氏、CEOのFrancis Plaza(フランシス・プラザ)氏、CCOのLuis Sia(ルイス・シア)氏

マニラに拠点を置くフィンテック企業で、加盟店のデジタル決済を可能にするオンライン決済プラットフォームのPayMongo(ペイモンゴ)は、周辺地域での事業拡大を視野に入れ、シリーズBラウンドで3100万ドル(約35億5800万円)を調達したと発表した。参加した投資家には、Justin Mateen(ジャスティン・マティーン)氏のJAM Fund、ICCP-SBI Venture Partners、Lisa Gokongwei(リサ・ゴコンウェイ)氏のKaya Foundersに加え、既存投資家のGlobal Founders CapitalとSOMA Capitalが名を連ねている。今回のラウンドには、Qonto、Viva Wallet、Billie、Scalableといった欧州のフィンテック創業者らも参加したとのこと。

これでPayMongoの累計調達額は4600万ドル(約52億7900万円)弱に達した。前回の資金調達は2020年に発表された1200万ドル(約13億7700万円)のシリーズAで、米国の決済サービス大手であるStripe(ストライプ)がリードした

同社はあらゆる規模の企業を対象としているが、特に零細企業、中小企業をターゲットとしており、銀行カード、デジタルウォレット、店頭取引など、さまざまな形態の支払いを受け付けることを可能にする。同社の製品には、PayMongo決済APIやeコマースプラグインなどがある。今回調達した資金は、PayMongoの現在の決済インフラをさらに発展させ、払い出し、資金貸し出し、BNPL(後払い)、サブスクリプションや定期支払いなどの金融サービスの追加に充てられる。

PayMongoの製品ロードマップの一部には、より多様な金融サービスの運営を可能にする新しいライセンスの取得が含まれている。同時に、地域的な拡大も模索しているという。

共同創業者兼CEOのFrancis Plaza(フランシス・プラザ)氏は、TechCrunchにメールでこう語った。「まだまだフィリピンで、やるべきことがたくさんあります。現在の需要の増加に対応し、積極的な製品ロードマップを実現するために、チームの規模を2倍以上にすることを見込んでいます。それと並行して、2021年に取りかかり始めた、東南アジア地域での事業拡大に向けた初期調査と足固めを開始しました」。

フィリピンには他にも、DragonPay、PesoPay、PayMaya、Paynamicsといったデジタル決済ゲートウェイがある。プラザ氏はTechCrunchへのメールで、PayMongoは2019年に設立されて以来、SMBや高成長のスタートアップ・企業にフォーカスすることで差別化を図っていると語った。

それ以上に、当社のプラットフォームを利用している何千もの企業と協力しながら、マーチャントが簡単に支払いを受けられるだけでなく、他の金融サービスにアクセスして成長できるような、より多くの製品やサービスを構築することを目指しています」と同氏。「送金機能から、残高の保存、クレジットへのアクセスまで、そして顧客にとっての支払い方法の選択肢を広げることができます」。プラザ氏はさらに、いくつかの新しい製品やサービスを、すでに加盟店とともにベータ版としてテストしていると付け加えた。

Tinder(ティンダー)やJAM Fundの創業者であるJustin Mateen(ジャスティン・マティーン)氏は声明で次のように述べた。「PayMongoの最初の投資家の一人として、私は彼らがひと握りの企業の決済を簡素化したところから、今では何千もの加盟店が日々の業務で頼りにしている会社になるまでの道のりを見てきました。彼らの成長にワクワクするとともに、デジタル経済を通じてより大きな経済機会を生み出すチームを再びサポートできることを嬉しく思っています」。

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(文:Catherine Shu、翻訳:Den Nakano)

「組み込み型バンキング」の新たなフィンテックスタートアップとして登場したIntergiro

「Embedded commerce(組み込み型商取引)」は、PayPal(ペイパル)のようなものから始まり、長年を経てStripe(ストライプ)のような製品に進化した。しかし「Embedded Finance(組み込み型金融)」はフィンテックの新しい波として登場し、Contis(コンティス)、Solaris(ソラリス)、Swan(スワン)、Stripe Treasury(ストライプ・トレジャリー)などがこの分野に参入している。確かに、a16zのAngela Strange(アンジェラ・ストレンジ)氏が、2019年に「すべての企業がフィンテック企業になる」と宣言したことを思い出すかもしれない。また、組み込み型金融の市場は2030年までに約7兆2000億ドル(約827兆円)もの価値になるという予測もある。

Intergiro(インタージロ)は過去5年間、個人出資によるブートストラップのスタートアップ企業として、ステルスモードで運営を行ってきたが、現在の組み込み型バンキングの波に乗って事業を公開した。同社はほぼすべての種類の企業が銀行サービスを提供できる「金融クラウド」を自称している。

共同設立者でCEOを務めるNick Root(ニック・ルート)氏は、大学でコンピュータサイエンスを専攻し、ロンドンの銀行で12年間勤務しながら、CTO、COO、CFO、CEOを歴任した後、Intergiroを設立した。

筆者による独占インタビューの中で、ルート氏は次のように語った。「私たちのツールを使っているエンジニアは、金融商品を構築するために、あちこちのプロバイダを飛び回ってつなぎ合わせる必要がありません。チェックアウトから、複数通貨のウォレット、SWIFT(国際銀行間通信協会)や地方銀行との電信、Visa(ビザ)やMastercard(マスターカード)のネットワークまで、金融のバリューチェーン全体にアクセスできます。このオールインワンのアプローチは、製品開発者にとってより便利であるだけでなく、まったく新しい製品体験を可能にします」。

それは数年前、ルート氏が新しい種類の銀行サービスを構築したいと考えたことが始まりだった。そこで同氏は、伝統的な手法でそれを実現するために、Intergiroのチームを結成したが、最終的には暗号資産市場も視野に入れていた。Intergiroは2014年頃に(別の名前で)設立され、2017年に形を変えて、2019年にクローズドベータの展開を開始した。しかし、一般公開されたのは2021年になってからだった。TechCrunchのような大手メディアに詳細を語ったのは今回が初めてだ。

その仕組みは以下の通りだ。企業はデジタルフォームでIntergiroに参加する。KYCが承認されると、B2BおよびB2B2CのAPIスイートにアクセスできるようになり、構築を開始できる。企業は独自のフロー(給与計算、照合、請求書の支払いなど)を自動化したり、金融商品を自社のアプリに組み込むことができる(チェックアウト、ウォレット、カードなど)。また、この2つのプラットフォームをさまざまな方法で組み合わせることも可能だ。例えば「クローズループ」のカード決済システムを構築したり、暗号資産取引アプリを開発したりすることもできるだろう。アクワイアラ(加盟店契約会社)であり、アカウントプロバイダーであり、カード発行者である同社は、独自のカードスキームを持っているため、マーケットプレイスや暗号資産取引所(例えば)は即時決済の恩恵を受けることができる。収益は、カード決済による入金、FX取引、カード決済による出金(インターチェンジ)から得る。

Intergiroは自らを、市場でカードアクワイアラ(カード加盟店契約会社)、カードイシュア(カード発行会社)、FX、銀行口座を提供し、B2BとB2B2Cの両方のプラットフォームで市場に参入する数少ない、もしかしたら唯一のプロバイダーであると主張する。「当社は、単なる最上位の技術レイヤーではなく、規制や技術のスタックをすべて所有しています」とルート氏はいう。

「テクノロジーがどのようにして誕生したかを考えてみてください。どのようにしてIntel(インテル)がチップを概念化したか、Google(グーグル)がインターネットのリンクを概念化したか、Facebook(フェイスブック)がソーシャルグラフを概念化したか。同じようなことが今、金融の世界でも起きています。そしてそれは、あらゆる消費者との相互作用に浸透していくでしょう。つまり、予想もしなかったような製品でお金が動くようになるのです」と、ルート氏は筆者に語った。

現在、Intergiroの顧客数は約2000件で、毎月約200件のペースで増加しているという。サービス開始以来、そこでは約25億ユーロ(約3270億円)の取引が行われたことになる。ストックホルムを拠点とするこのスタートアップは、現在140人のリモートスタッフを雇用している。

画像クレジット:Nick Root, Intergiro

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】暗号資産とDeFiを救うのは「内部告発者」だ! 

規制のない暗号資産の世界というのは今や昔の話。蔓延する暗号詐欺と規制を回避する分散型金融(DeFi)の驚異的な成長を受けて、米国の規制当局は暗号資産業界に対して前例のない措置を講じることとした。

このような規制の変化は米国の金融規制における歴史的なパターンを踏襲している。金融の不安定性への懸念よりも自由への欲求の方が強いか、あるいはその逆かによって、規制の強化と緩和の間を行き来するものなのである。

自由市場の暗号愛好家は失望するかもしれないが、協力を惜しまない者には大きなメリットがあるかもしれない。内部の人間が目にした違法行為や不正使用について声を上げれば、規制当局が他の悪質行為者を対象とするため、その間に自分の会社が成功すれば良いのである。

また、例えば内部告発者が勤める会社が改革を拒み、規制当局が行動を起こさざるを得ない場合、内部告発者は多額の報奨金を得られる可能性がある。また、内部告発をしたことによる報復から保護を受けることも可能なのである。

繰り返される歴史

米国の金融規制には、比較的金融規制の少ない時期と、金融不安を是正するために規制を強化する時期という、おなじみのパターンがある。

米国の建国者たちは当初から、金融システムに対する連邦政府の規制の必要性について国立銀行の設立を中心とした議論を繰り広げていた。アンドリュー・ジャクソン(第7代米国大統領)は最終的に国立銀行を廃止し、分散型の銀行システムを採用。その後、自由銀行時代として知られるようになり「ワイルドキャット」と呼ばれる銀行や数十年にわたる金融不安が続いたが、エイブラハム・リンカーンの暗号詐欺で幕を閉じている。

最近では1980年頃から規制緩和の波が押し寄せ、金融革命や金融統合を引き起こしたが、1980年代後半から1990年代前半にかけての緩やかな貯蓄貸付危機という形で金融の不安定性が起きている。この規制緩和の流れは2007年から2008年にかけての大不況で頂点に達し、その後ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の成立により、規制強化へと振り子が戻ってきたわけだ。

この規制パターンは今後、最近までほとんど規制がなかった暗号資産業界でも同様に展開されるようになる。麻薬の売人や脱税者、テロリストの資金源になっているといわれている暗号業界で、アンチマネーロンダリングや本人確認(AML/KYC)の慢性的な失敗を懸念した議員たちが、Bank Secrecy Act(銀行秘密法)を改正し、暗号資産を明確にカバーするようにしたのである。

SEC(米国証券取引委員会)のGary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)委員長は、暗号革命をワイルドキャット銀行の新時代と比較しており、またRipple(リップル)に対する訴訟で有名なように、多くの暗号資産や暗号資産に関連する商品は証券であるとの立場をとっている。元CFTC(商品先物取引委員会)委員のDan Berkowitz(ダン・バーコウィッツ)氏(現SEC顧問弁護士)は、DeFiは完全に違法である可能性があると考えており、財務省は議会に対し、安定した価格を提供するために準備資産に裏付けされたステーブルコインを非銀行が発行することを禁止するよう勧告している

州もその一味となっており、NEXO(ネクソ)Celsius(セルシアス)、BlockFi(ブロックファイ)などの企業が証券や商品を販売する前に州への登録を怠ったとして、州の検事総長が処分を下している。明らかに、暗号資産が規制の監視を受けない時代は終わったのである。

内部告発者が規制やコンプライアンスを導く

暗号業界がこのような反革命に頭を悩ませている一方で、不正や違法行為を政府に報告した内部関係者は大きな利益を得る可能性がある。SEC、CFTC、FinCEN(金融犯罪捜査網)、IRS(米内国歳入庁)などの規制当局は、企業や業界セグメントの運営状況を内部から把握し、不正行為者が投資家や顧客、一般市民に回復不能な損害を与える前に不正行為や違法行為を発見できるようにするための内部告発者を必要としている。

また、内部関係者からの情報により、規制当局は悪質な行為者に的を当てた強制措置やルール作りを実施することができ、暗号資産業界の革新的で価値のある側面を不必要に潰してしまうのを防ぐことができるだろう。

こういった情報と引き換えに、内部告発者は連邦政府のさまざまな内部告発者報奨プログラムから報奨金を得ることができる。ただしこれは、強制措置の執行に役立つ情報を、適切に提出した場合に限られる。

SECCFTCのプログラム、そして今回新たに強化されたAML内部告発プログラムの場合、内部告発者は100万ドル(約1億1500万円)以上の強制措置において最大30%の報奨金を受け取ることができる。これらのプログラムでは、弁護士を介して匿名で情報を提供することで、自分の身元を隠すことも可能だ。

IRSの内部告発プログラムの場合、内部告発者は200万ドル(約2億3000万円)以上の政府回収金のうち最大30%を受け取ることができる。SECとCFTCの内部告発者はこれまでに、なんと1億ドル(約115億円)以上の賞金など、合計10億ドル(約1151億円)以上を受け取っており、またIRSの内部告発者プログラムでも、2007年以来10億ドル(約1151億円)以上の賞金が支払われているという。

しかし、内部告発者が助けているのは政府だけではない。内部告発者たちは、規制の動向や将来の強制措置を予測することで、企業が規制の標的にならないよう導くことができるのである。多くの従業員が警告を発して意思決定者に変更の必要性を知らせることができる立場にいる。内部告発者は、企業が規制当局にノーアクションレター(特定の製品や行動方針を規制当局に承認してもらうもの、または規制に抵触する可能性が低い方法で取引や製品を再構築することを提案するもの)を求めるべきであることを指摘して、潜在的な問題を回避することもできるのである。

すでに違法行為を行っている可能性のある企業であっても、会社の方向性を修正する方法や、会社の行為を是正するために規制当局に働きかける方法について、内部告発者は最も適切な判断を下すことができるのである。

内部告発者の保護

報復行為も十分に起き得るため、内部告発者になるのが恐ろしいと考えるのは当然である。報復行為とは、敵対的な職場環境から解雇まで、さまざまな形で行われるものだ。

そこで、内部告発者を報復から保護するのがサーベンス・オクスリー法ドッド・フランク法2020年マネーロンダリング防止法などの連邦法や州法だ。内部告発者法に基づく救済措置はさまざまだが、報復を受けた従業員が、報復がなかった場合と同じ状況になれるように設計されている。

しかしこういった保護を受けるためには、それが可能な方法で内部告発を行う必要がある。内部告発者は、実際に法律違反があったことを証明する必要はなく、また不正や違法行為があったという事実が正確である必要もない。従業員が懸念を表明することを奨励するために、これらの法律は一般的に、内部告発者が「合理的な信念」を持っている場合、つまり「同じ訓練を受けた同じ事実関係にある合理的な人間なら、この場合雇用者が法律に違反していると考えるだろう」ということを示すことができる場合、報復から保護してくれるのである。

過去10年間に、大規模な内部告発の多くの陪審評決が証明したように、報復を行った雇用者は相当な額の責任を負うことになる。しかし、内部告発報復法の複雑さを考えると、内部告発を考えている従業員は、まず法的アドバイスを求めるのが正解だろう。

内部告発者が救う

暗号資産業界はこれから多くのことを学んでいくのだろう。従来の金融機関は何十年という月日かけて規制に対応してきたが、暗号資産はこれまでコンプライアンスをほとんど気にすることなく運営されてきたのである。

暗号業界の内部告発者が早期に警告を発することで、競争の公平性が確保されるだろう。内部告発者の懸念を真剣に受け止めることで、暗号業界の企業は間もなく直面することになる不可避の強制措置の嵐を回避し、時間、お金、そして心痛を節約できるのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alexis Ronickher(アレクシス・ロニッカー)氏は、ワシントンD.C.にある内部告発者と公民権に関する法律事務所Katz, Marshall & Banks LLPのパートナー。内部告発者の弁護を専門としている。Nicolas O’Connor(ニコラス・オコナー)氏はKatz, Marshall & Banks LLPのアソシエイト。

画像クレジット:danijelala / Getty Images

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(文:Alexis Ronickher、Nicolas O’Connor、翻訳:Dragonfly)

農業助成金の申請支援を起点に金融サービスの巨人を目指すFarmRaise

左からFarmRaise共同ファウンダーでCEOのジェイス・ハフナー氏、プロダクト責任者のアルバート・アベディ氏、COOのサミ・テラティン氏(COO)

何かから始めなくてはならない。Jayse Hafner(ジェイス・ハフナー)氏とSami Tellatin(サミ・テラティン)氏がスタンフォード大学のMBAで出会い、米国の農業をもっと効率的にすれば国のためになりすごいビジネスにもなるという信念を共有したとき、2人は助成金から始めようと決めた。

バージニア州の牛牧場で育ったハフナー氏は、助成金の申請が、たとえ家族の牧場の持続可能な作業慣習を改善するためであってさえ、複雑で時間のかかる手続きであることを身を持って知っていた。一方、テラティン氏は、大学で生物工学を学び、USDA(米国農務省)で3年間農業経済を研究した。彼女もまた、助成金がもっと簡単に手に入れば農業従事者はもっと良い選択ができるはずだと感じていた。

FarmRaise(ファーム・レイズ)は、現在社員12名のカリフォルニア州サンディエゴを拠点とする設立2年の会社だ。2人がパロアルト拠点のPear VCのアクセラレーター・プログラムで知り合ったもう1人の共同ファウンダーであるAlbert Abedi(アルバート・アベディ)氏と力を合わせて以来、会社は目覚ましい進展を遂げてきた。

ハフナー氏によると、同社のプラットフォームにはすでに1万カ所の農場が登録している。それは口コミとちょっとした検索エンジンのマジック、そしてなによりも、Cargill(カーギル)やCorteva(コーテバ、2018年にDuPont[デュポン]をスピンアウト)などの炭素排出量削減目標をもつ農業の巨人と提携して、低炭素排出農業に関連する助成金申請でFarmRaiseの支援を受けるよう農業従事者に薦めてきたおかげだ。

FarmRaiseのプラットフォームでは、農場の詳細な実態を尋ね、FarmRaiseが彼らに代わってさまざまな助成金プログラムに手早く申請できるようにデータを構成する。そこに投資家が加わったことで、さらに勢いが増している。同社はつい最近、720万ドル(約8億2000円)のシードラウンドをSusa Venturesのリードで完了した。

しかし、多くのスタートアップと同じく、非常に広範囲に渡る金融サービス企業を目指しているFarmRaiseにとって、助成金(国も民間も)は出発点に過ぎない、とハフナー氏はいう。農場が十分なデータを渡せば、FarmRaiseは融資、器具の割引購入、さらには節税対策の支援も行うことができる、と同氏は話した。

これらのサービスの多くは第三者を経由して提供され、FarmRaiseは仲介手数料を受け取る仕組みだと彼女はいう。FarmRaiseは車輪の再発明をするつもりはない。しかし、農場が頼りにできる「フルスタック(複数業務に精通した)」のリソースが存在しない理由などない、と彼女は付け加えた。また、多様なサービスを提供することによって、助成金の申請結果を待つ間(6~12カ月かかるものもある)も利用者を満足させることができる。

自分たちにとって助成金は「くさび」だとハフナー氏はいう。「物語の終わりではありません」。

現在FarmRaiseは、人員を追加し、対象となる助成金を増やして、月額料金と獲得した助成金の10%を請求している現行サービスに顧客が確実に満足することに注力している。

正しく手続きを進めることが重要だ。助成金は大きなチャンスだとハフナー氏は言い、理由の1つとして農務省の助成金が「爆発的に増えている」ことを挙げた。

彼女は、新型コロナウイルスの蔓延によるサプライチェーン崩壊に苦しむ農家を支援するために「数百億ドル(数兆円)」規模の資金を配布したトランプ政権の政策を示した。

バイデン政権もFarmRaiseを勇気づけていると感じるとハフナー氏は付け加えた。「重点的な保護基金拡大が見られ、今後倍増する可能性が高いと見ています」。「持続可能な農業は、農家の利益性を高めるだけでなく、炭素排出量を抑制して気候変動対策に寄与します。そこには本当に限りなくたくさんの恩恵があるのです」。

同社のシードラウンドには、他にCendana Capital、Ulu Ventures、Pear、Better Tomorrow Ventures、Incite Ventures、およびFinancial Ventures Studioが参加した。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】暗号資産の規制が米国でスーパーアプリが生まれるきっかけになるかもしれない

今や、中国社会の大部分が「スーパーアプリ」と呼ばれるものに依存するようになった。診察の予約からタクシーの配車、ローンの申し込みに至るまで、さまざまなタスクを1つのプラットフォームでこなすWeChat(ウィーチャット)などのアプリのことだ。

米国ではこのようなワンストップショップが勢いに乗ることはなかったが、ついに米国でもそのときが来たのかもしれない。フィンテック業界、とりわけ暗号資産を専門とするプラットフォームからスーパーアプリが誕生する可能性が高いのだ。

株価の高騰と金利の記録的な低下、近い将来に起きるインフレへの不安などが重なり、暗号資産は急速に人気を集めている。米国政府が暗号資産を全面的に規制することを決定した場合(現在、米国議会はこの議題を検討している)、暗号資産の正当性はさらに高まるかもしれない。

今後、暗号資産の発行体が規制当局と連携し、消費者を保護しながら金融および投資に関する新たなオポチュニティを生み出すための妥協案を見いだせた場合、Coinbase(コインベース)などの暗号資産専用プラットフォームの他、PayPal(ペイパル)、Venmo(ヴェンモ)、Stripe(ストライプ)など、最近になって暗号資産による決済機能を追加したサービスが米国版のスーパーアプリに進化する可能性がある。消費者が暗号資産を安全かつ正当なもの、そして使いやすいものとして見ることができれば、これがスーパーアプリの基盤となり得るだろう。

関連記事:オンライン決済の巨人「Stripe」が暗号資産市場に再参入

これらの暗号資産アプリや決済アプリを拡大し、他のアプリやサービスと統合すれば、さまざまなタスクが便利になるはずだ。結局のところ、人は銀行に行くときにだけ資金管理のことを考えているわけではない。そもそも銀行口座を持っていない人も存在する。人は、買い物や旅行をするとき、診察料を払うときにも資金管理について考えており、こうしたアプリはそれぞれの人に必要な金融サービスを各個人に合わせて提供する助けとなるだろう。

暗号資産による決済を他のタスクと統合することは、金融業界を一般に広く行き渡るものに変えるという面でも大きなカギとなるだろう。暗号資産を普及させることで、十分なサービスを受けていないコミュニティの他、信用履歴がなくクレジットカードやローンの申し込みが困難な人に対し、より幅広い金融サービスを提供できるようになるからだ。

スーパーアプリの台頭

WeChatは2011年に中国国内のメッセージングアプリとしてサービスを開始したが、2013年には決済プラットフォームとしての機能を果たし、その後まもなく買い物や食料配達、タクシーの配車といったさまざまなサービスを展開するようになった。

今や、WeChatは何百万もの種類のサービスを提供しており、その大部分は、各企業がWeChat内で動作するミニアプリを開発し、そのミニアプリを通してサービスを提供する形となっている。10億人以上のユーザー数を誇るAliPay(アリペイ)の仕組みも同様だ。これら2つのアプリは、過去10年間で中国を現金主義経済からデジタル決済に大いに依存する経済へと変換したとして評価されている。デビットカードやクレジットカードが普及する中間段階を飛び越えた形での進化だ。

この仕組みはインドネシアをはじめ、同地域の他の国でも普及が進んでいる。ここでカギとなるのは、スーパーアプリのサービスの多くに、決済手段を含む金融サービスが搭載されているという点だ。

米国と欧州でも、こうしたアプリの使用は急増している。Apple(アップル)やFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)などの大手テック企業が決済サービスを追加し、VenmoやSquare(スクエア)といった複数の決済アプリがさらに普及するようになった一方で、スーパーアプリの出現はいまだに見られていない

その理由の1つは、データプライバシーに関する規制だ。米国、そして特に欧州におけるプライバシー規制によってアプリ間のデータ共有が制限されているため、アリペイなどのスーパーアプリにミニアプリを自動統合するようなエコシステムの構築が困難となっている。

また、以前から米国に充実したインターネットエコシステムがあることも理由の1つだ。フェイスブックなどの人気ソーシャルメディアやペイパルなどの決済サイトがスマートフォンの誕生以前から存在したため、1つのアプリが複数のサービスを提供する代わりに、これらのプラットフォームがそれぞれ別のアプリを展開する結果となっている。一方中国では、インターネットの大半がモバイルファーストで、スマートフォンの出現以降に進化している。米国市場は長きにわたり、各タスクについて別個のプラットフォームを使用する形態に慣れていたというわけだ。

しかし、アナリストの多くは、さまざまなアプリやテック企業がサービスの種類を拡大している点(例えばTikTok(ティックトック)はショッピング機能を追加し、Snapchat(スナップチャット)はゲーム用のミニアプリを統合し、Appleは決済業界に参入)を指摘し、米国でもいずれスーパーアプリが台頭するか、たとえそうでなくても今より多機能の大型アプリが出現するだろうと述べている。1つのアプリにサービスを追加し、ユーザーのリテンションを維持する方法を見いだすことができれば、あるアプリでのユーザーの挙動を別のアプリと共有せずに済むため、プライバシー規制を回避することにもなる。

米国では、アジア市場のように1つまたは2つのアプリが群を抜いて市場を支配することは考えにくいものの、アプリの巨大化、そして包括的なものへの変化が進んでいることは明らかだ。

DeFiの進化

一方、過去10年間で暗号資産が生み出したものは決済アプリとスーパーアプリだけではない。ビットコインという1つの製品から誕生した暗号資産は、今や総合的なピア・ツー・ピアの金融システム、いわゆるDeFi(ディーファイ、分散型金融)へと進化した。これには、Ethereum(イーサリアム)やDogecoin(ドージコイン)など複数の通貨が含まれ、システム上でユーザーによるお金の投資、売買、消費、貸し出しが可能となっている。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって経済の先行きが不透明になり、また従来の金融機関のなかにも暗号資産関連のサービスを一部提供する機関が増えたことで暗号資産の人気がさらに上昇している反面、暗号資産はいまだに主要の金融システムや金融セクターから除外されており、高い危険性があることを多くの専門家から指摘されている。暗号資産の発行体もまた、分散型の金融製品を生み出すという目標から外れるとして、規制に長らく抵抗してきた。

しかし、この状況には変化が生じ始めており、一部の暗号資産プラットフォームが規制の遵守に関心を示すようになっている。

例えば、Coinbaseはユーザーがコインを他人に預け入れた場合に利子を獲得できるという製品の提供を計画していた。ところが、米国証券取引委員会によるガイダンスの提供がなかったにもかかわらず、同委員会から「Coinbaseが製品をリリースした場合は同社を提訴する」との警告が発せられ、この計画を断念するに至った。事実、暗号資産の発行体は、一部の規制に従うことで自社の製品の正当性が高まり、より多くの人に幅広い目的で使用してもらうことができると認め始めているのだ。この流れには、最近、Stablecoin(ステーブルコイン)をはじめとする新たな暗号資産製品が市場に現れたことで、従来の通貨の価値が議論されていることも関係している。

暗号資産の規制については、米国証券取引委員会の委員長Gary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏をはじめ、一部の議員や暗号資産業界の人物が賛成の立場を表明しており、規制の実現は近づいていると考えられる。

暗号資産が米国初のスーパーアプリを後押しする存在に

暗号資産の発行体が政府関係者と連携し、イノベーションを制限することなく消費者を保護するような規制を定めることができた場合、暗号資産は長年動きのなかった米国のスーパーアプリの開発を促す要素となる可能性が高い。

Coinbaseが米国証券取引委員会と連携し、互いに調整しながら質の高い規制を定めることができたならどうだろうか。法令をもとにCoinbaseが、ユーザーが暗号資産として信頼できる、存続可能かつ認定された金融手段であることを立証し、魅力的な収益創出のオポチュニティとなる新規の金融製品のみならず、日常シーンでも使用できるツールとして成長させることができる。規制によって通貨に安定性が生まれれば、隠れた価値を持つ資産としてだけでなく、買い物に便利なツールとして変化させることができるだろう。現時点では日常生活で暗号資産を使おうとした場合、トランザクション時間の長さや手数料の高さ通貨価値の変動の大きさなどがユーザーエクスペリエンスに摩擦を生むことになるが、こうした規制により、面倒な一部の手順を排除することも可能だ。

規制のフレームワークを作成することで暗号資産の需要は圧倒的に増加し、飲食業から小売業に至るまで、暗号資産を使った決済処理への対応を希望する企業が突如として増えるだろう。そうなれば、既存の暗号資産決済アプリへの統合が加速し、それらがスーパーアプリに進化していくと考えられる。従来の通貨を銀行に預金する代わりに、これらのアプリで暗号資産の預金をする人も増え、経済、そして金融のエコシステム全体が根元から覆るだろう。

銀行はいつでも大衆が望む製品を生み出してきたが、暗号資産および分散型金融の業界はまぎれもなく、人が必要とする製品とサービスを提供してきた。現に、規制や法的な環境がはっきりしない今でさえ、何百万もの人が暗号資産を使用しているのだ。

中国では、クレジットカードのサービスを十分に受けられない市場で現金の代替手段が必要となり、そのニーズを満たすべく、ユビキタスかつ統合型のデジタル決済が急速に進化した。同じように、暗号資産ベースのスーパーアプリは従来の決済手段に代わって、あるいはそれに加えて、暗号資産を安全かつ効率的に使用することを望む消費者や企業のニーズを満たすものとなるだろう。

暗号資産が無規制のグレーゾーンにとどまる限り、そのプラットフォームもスーパーアプリに進化することなく、業界外の経済や日常生活から除外されたままとなってしまう。そうなれば、米国はモバイルファーストかつデジタルファーストな、革新的で新しい金融エコシステムを構築するチャンスを逃すことになるのである。

編集部注:本稿の執筆者David Donovan(デビッド・ドノヴァン)氏は、デジタルコンサルタント会社Publicis Sapientの米大陸におけるグローバル金融サービスプラクティスを率いており、元Fidelity Investmentsの幹部。

画像クレジット:loveshiba / Getty Images

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(文:David Donovan、翻訳:Dragonfly)

株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

東芝は1月14日、株式取引業務をユースケースとする量子暗号技術の有効性と実用性に関する検証実験を、野村ホールディングス野村證券情報通信研究機構(NICT)、日本電気(NEC)と共同で実施したことを発表した。これは、実際の株式取引で標準的に使われている伝送フォーマット「FIX」に準拠し、金融取引の模擬環境において、データの高秘匿性、低遅延性、大量伝送の耐性を検証した国内で初めての試みだ。結果として、量子暗号化を適用しても従来のシステムと遜色のない通信速度が維持できること、大量の株式発注でも暗号鍵が枯渇しないことがわかった。

コンピューターによる株式のアルゴリズム取引が普及したことで、国内の証券取引所における1日の取引高は3兆円を超えるほどに拡大した。取引処理の遅延が機械損失につながるため、注文応答時間がミリ秒未満の通信ネットワーク基盤も提供されている。今後、5G・Beyond 5Gからさらに高速な通信技術が普及すると、さらなる高速化、大容量化、低遅延化が求められる。加えてサイバー攻撃の増加にともない、金融機関におけるセキュリティー対策の一層の強化が求められる。そのため、「理論上いかなる計算能力を持つ第三者でも解読できないことが保証されている唯一の暗号通信方式」である量子暗号通信の金融分野への適用が欠かせない。

共同検証にあたり、NICTが量子鍵配送(QKD。Quantum Key Distribution)装置を導入して構築した試験用通信ネットワーク環境「Tokyo QKD Network」上に投資家と証券会社を模した金融取引の模擬環境を整備。野村ホールディングスと野村證券が、FIXプロトコルに準拠した模擬データを生成するアプリケーションを開発した。

使用した暗号化方式は、ワンタイムパッド(OTP)方式と高度暗号化標準(AES)方式の弱点に対する対応を施した「高速OTP」と「SW-AES」、そしてNECが開発した回線暗号装置「COMCIPHER-Q」の3つ。それぞれの方式の違いによる影響について検証が行われた。株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

その結果、量子暗号通信を適用しても従来のシステムと比較して遜色のない通信速度が維持できること、大量の株式取引が発生しても暗号鍵を枯渇させることなく高秘匿と高速暗号通信が実現できることが確認された。もし、鍵の枯渇が懸念される場合には、鍵消費量の少ない方式に切り替えることで、ビジネスの継続性を維持できる。暗号化レベルや暗号通信速度などで顧客ニーズに対応できる柔軟な提案が可能になるという。

今後は、1週間程度の連続稼働と、システム障害時にシステムの切り替えが遅延なくできるかを、2021年度末までにテストするとのことだ。株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

住宅ローン貸付のRocket CompaniesがTruebillを約1450億円で買収、なぜこの取引は高くなかったのだろうか?

Rocket Companies(ロケット・カンパニーズ)は米国時間12月20日朝、Truebill(トゥルービル)を現金12億7500万ドル(約1450億円)で買収すると発表した。

Rocket CompaniesはRocket Mortgageという製品でよく知られている。一方のTruebillは消費者向けのアプリで、消費者のサブスクリプションの管理、貯蓄の自動化、予算編成をサポートする。今回の買収額は、Truebillの株主にとって有利なものになる。PitchBookのデータによると、Truebillの最終的な非公開評価額は、前回のラウンド後に5億3000万ドル(約600億円)だった。同ラウンドの4500万ドル(約50億円)の投資は2021年初めに行われた

関連記事:サブスクリプション管理や自動貯金に加え資産・負債の一元管理も目指す「Truebill」

つまり、Truebillの最終投資家にとっては2倍以上、初期の支援者にとってはさらに大きなリターンとなるわけだ。悪い話ではない。

さあ、倍率を推測してみよう!

Truebillが13億ドル弱で販売されるということで、このスタートアップの年間経常収益(ARR)の見積もりを出すために必要な情報を持っていることになる。大雑把に、年間売上高はどの程度になるだろう?

もしあなたが5000万ドル(約57億円)前後と予想したなら、私たちの予想と同じだ。テック会社のバリュエーションは、最近の下降傾向にもかかわらず高く、フィンテックの会社もホットだ。なので、20ドル台半ばの倍率は妥当な推測に思える。

しかし、そうではない。Rocketは次のように述べている。

この新事業は、Rocket Companiesの毎月の売上も安定させることになります。現在、住宅ローン貸付事業に顧客から支払われる毎月の支払いは、年率換算で13億ドル(約1480億円)のサービス収入を生み出しています。Rocket Companiesは、250万人の顧客を抱え、業界最高の91%の顧客維持率を誇っています。Truebillは、年間1億ドル(約114億円)の経常収益を上げる勢いです。この数字は一貫して増加しており、2021年の売上は2020年の2倍以上となる見込みです。

熱い。驚きだ。

Truebillは、我々が予想した約2倍のARRで2021年を締めくくることになる。そしてさらに、同社は毎年2倍の規模に成長している。大きな収益と速い成長。これは、まさしく企業が株式公開前に打ち出したいプロフィールだ。にもかかわらず、Truebillは株式公開する代わりに、現在のARRの13倍以下で売却している。この数字は、時間が経つにつれて圧縮され、2022年には一桁になる。ただし、新年度にTruebillが成長を維持することができればの話だが。

正直言って、かなり割安感がある。

この取引がすべて現金であることは、Rocketが一種の割引を得たかもしれないことを意味する。株式は現金よりも安く、Truebillはおそらく取引が、例えば50%の株式であれば、もう1億ドルをなんとか獲得できたかもしれない。ただし、我々が話している数字は非常におおまかなものだ。

それでも、この取引はある種の朗報であり、また前兆でもある。100%成長、ARR9桁近いフィンテック企業が、なぜかろうじてユニコーン並みの金額で売れたのか?前述の通り、この価格はTruebillの出資者にとってはかなり甘い年末の流動性を意味するが、他のフィンテック企業にとっては、年末に歓迎されない無料招待券を受けただけで、この数字は強気とは言い難い。正直なところ、少しソフトな印象を受ける。

おそらく、Nubankのやや低調なIPOの影響があるのだろう。あるいは、ここ数四半期で見られた、ソフトウェア業界の倍率の全般的な下降傾向の影響かもしれない。または、Truebillの内部に何かまずいものがあるのかもしれない。おそらく、同社は我々が予想するよりもはるかに大きな販売およびマーケティング費用を持っており、Rocketと融合することで顧客獲得コストを下げ、同社の経済状態を改善することができるのかもしれない。

いずれにせよ、RocketがTruebillを含む最初の四半期を報告する際に、より多くのデータを得ることができるはずだ。この買収は2021年中に完了する見込みだ。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nariko Mizoguchi

マネーツリーがオルタナティブデータ活用促進の新事業「データリサーチ部門」、匿名化した消費者の金融行動データ提供

個人向け資産管理サービス「Moneytree」(Android版iOS版)運営のマネーツリーは11月10日、グローバル金融業界から注目の高まるオルタナティブデータの活用を事業化する「データリサーチ部門」の新設を発表。統計データ化された消費者の金融行動データの一部をオルタナティブデータとして外部へ提供することで、金融市場、経済活動における金融データの新たな活用方法の普及を推進する。

多様なデータ収集の基盤整備が進む中、新たなデータ活用・分析の糸口となるオルタナティブデータが注目を集めていることを背景に、マネーツリーは非個人情報として扱える統計データをオルタナティブデータとして提供。資産管理サービス「Moneytree」「Moneytree ID」に紐づくデータを、個人が特定されないよう匿名化処理を施し照合性をなくし、データプライバシーを守った状態で提供する。

マネーツリーは、オルタナティブデータと公的データの掛け合わせにより消費者行動をデータ分析することで、市場調査、事業会社などにおける新規事業の立案、投資調査、学術研究、公共政策の策定に貢献したいという。また、国内でのオルタナティブデータに対する責任ある活用の推進に向け、11月10日をもって「一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会」に正式加盟したことも発表した。

データリサーチ部門の新設にあたって、今後はオルタナティブデータの活用推進と事業との相乗効果に注目し、ユーザーのプライバシー保護を重視しつつ金融データエコシステムのさらなる拡張、顧客体験(UX)向上への貢献と高度化、将来的な新規ビジネス創出の活性化を目指したいという。

現在、オルタナティブデータは投資判断をより適切に実行するためのデータセットの1つと認識されており、今後はより広範囲での活用の可能性が期待されているという。すでに、POSデータや購買データ、人工衛星で取得した画像データの解析において、既存の公的な統計データを越えた新たなデータの利活用も進行している。

CO2排出量算出・可視化クラウドのゼロボードが三菱UFJ銀行と協業、金融機関向けCO2データインフラ機能拡充など目指す

CO2排出量算出・可視化クラウドサービス「zeroboard」を開発・提供するゼロボードは11月5日、カーボンニュートラルの実現に向け、三菱UFJ銀行との協業について基本合意したことを発表した。三菱UFJ銀行の持つネットワークや総合金融グループとしての知見と、ゼロボードのクラウドサービスや辰炭素経営に関するノウハウをかけ合わせ、企業の脱炭素経営を後押しするソリューションを提供する。

具体的には、以下のような取り組みを進める。

  • 三菱UFJ銀行の顧客企業へzeroboardの提供
  • zeroboardのCO2排出量データ・サプライチェーンデータに基づく三菱UFJ銀行による金融ソリューションの開発・検討
  • 金融機関含めその他事業者までも含めたオープンかつインクルーシブ(包括的)なパートナシップの発展およびソリューションプラットフォームの共同開発・提供
  • アジアを中心としたグローバル製造業サプライチェーンのCO2排出量可視化・削減支援
  • CO2排出量以外の社会インパクト評価手法・可視化手段、ソリューション提供分野での初期検討

zeroboardは、企業活動により排出されたCO2量を算出したうえで、温室効果ガス(GreenHouse Gas)の排出量の算定と報告に関する国際基準「GHGプロトコル」における対象範囲区分(Scope1~3)を可視化できるクラウドサービス。Scope1は「自社の事業活動における直接的なCO2排出」、Scope2が「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により発生する間接的なCO2排出」。またScope3は「上記以外の事業活動に関わるサプライチェーンのCO2排出」を示す。

zeroboardでは、「サプライチェーンでの排出量や商品ごとのCO2排出量の算出」「CO2排出量の削減管理やコスト対効果のシミュレーション機能」「TCFDなどの国際的な開示形式に加え、国内既存環境法令にも対応するアウトプット」「専門的な知識を必要としないユーザーフレンドリーな操作性」などの機能を備えているという。

地域金融機関や中小企業の補助金・助成金申請業務のDXを支援する「補助金クラウド」クローズドβ版が11月公開

Stayway(ステイウェイ)は10月28日、地域金融機関や信用金庫における補助金・助成金対応業務のDX(補助金テック)を支援する「補助金クラウド」のクローズドβ版について、11月1日にリリースすると発表した。同クローズドβ版は、地域金融機関・信用金庫に限定提供を開始する。2021年度の正式版リリースを前提に、サービスの改良と開発を推進する。

今回のクローズドβ版では、補助金・助成金情報の提供の自動化に特化した機能を搭載しており、地域金融機関等とともにPoCを進め、今後機能の強化を図る。オンライン中心の取引が広がる中で、従来アナログに管理・分散している補助金等情報や、融資手法をデジタル化することで、より短い時間で補助金の情報収集・申請支援・融資を達成するという。

補助金クラウドは、国や自治体ごとに公開され、情報が散在している補助金などの複雑な情報収集の一元化や、外部の専門家に外注しブラックボックス化しがちな申請支援業務、煩雑化した融資業務を一貫して支えるプラットフォーム。

地域金融機関などで属人的になっている補助金・助成金案内業務の自動化や、外注により不透明になっている補助金など申請支援業務の可視化、さらにはつなぎ融資のスピード感を向上させるなど、補助金・助成金対応業務のDXにより、地域金融機関などの戦略的・効率的な業務プロセスの構築が可能となるという。

クラウド上で稼働するいわゆるSaaS型となっており、地域金融機関などの利用企業は自社ロゴをオンラインでアップロードすることで、自社名義のサービス(OEM型)として、法人顧客に対して補助金などの情報の自動提供、架電・メール・Zoomによる補助金・助成金支援業務のプロセス管理、補助金採択後のスムーズな融資が統合的に可能になる。

業務のデジタル化による工数軽減や法人顧客の採択率の向上に加えて、補助金などを利用する法人顧客の満足度を高める仕組みも強く意識して設計しており、「何を利用してよいかわからない」「申請するのが難しい」といった多くの事業者が抱える補助金関連の課題を解決するGovTech(ガブテック)の側面も有している。

また補助金クラウドでは、導入を希望する地域金融機関・信用金庫に伴走し、補助金等情報提供業務の効率化や業務コストの抑制・新たな収益源の獲得支援など、当該企業の提供する補助金・助成金サービスの課題に沿った最適なプラットフォームを設計するという。導入後もStaywayメンバーが運用を支援することで、業務フローの定着と、補助金・助成金サービスの継続的な付加価値向上に必要な改善案を提案するとしている。

地域金融機関や中小企業の補助金・助成金申請業務DXを支援する「補助金クラウド」クローズドβ版が11月公開

【コラム】組込型金融ですべての企業がフィンテック企業になるわけではない

ソフトウェアが世界を席巻し始めてから10年に満たない頃、エンベデッドファイナンス(組込型金融)のビジネスモデルの革新と成長によりあらゆる企業がフィンテック企業になりつつある、という見出しが現れた。

このナラティブは、金融サービスセクターで起きている進化を単純化しすぎている。規制された環境での資金の保管・移動や信用供与は難しい。また、自社のオファリングを既存の金融機関と差別化するには、表面的な調整だけでは不十分だ。

フィンテック企業の本質は、ユーザーインターフェイスの強化や、金融サービスをエンドカスタマーに提供することを超えたところにある。それは「水面下にある重要な要素」、つまりフィンテック企業が顧客のために真に革新することを可能にするフルスタックのアプローチにある。

組込型金融は、中核的な金融セクター以外の企業やブランドによる金融サービスの提供を支援するものだ。これには多様なレベルの労力が企業に求められる。例えばStarbucksはアプリ内で統合されたウォレットと支払い機能を提供し、Lyftはドライバーにデビットカードを提供しているが、そうした取り組みに付随するものだ。しかし、それはStarbucksやLyftのフィンテック企業を作るものではない。

誇張の背後にある誤った解釈

「あらゆる企業がフィンテック企業になる」というスタンスの投資家たちは、ホワイトラベルの金融サービス(数十年前から存在する)の復活と、増え続けるバンキング、ペイメント、LaaS(Lending-as-a-Service)のプレイヤーを組み合わせた複数のアプローチを融合させることに強気の姿勢を示している。後者のアプローチでは、企業は多くの中核的な金融サービス業務をアウトソーシングしながら、金融プロダクトのエクスペリエンスをカスタマイズできる。前者は、埋め込み型デリバリーによるシンプルな流通だ。

金融サービスプロバイダーとして完全に機能する上での中核的な原則として、顧客向けプロダクト、取引インフラストラクチャ、リスク管理とコンプライアンス、顧客サービスの4つの要素が挙げられる。融資の場合は第5の原則がある。企業も資本を管理できる必要がある、というものだ。組込型金融は、企業がフィンテックであることの本質の大部分を回避することに役立つ。

ホワイトラベリング対「フィンテックになること」

組込型金融サービスは最近注目を集めているものだが、ホワイトラベルの金融サービスは何十年も前から存在している。例えば、ブランド付きクレジットカードは、ホワイトラベリングの一般的なパラダイムである。それはすぐに消費者の忠誠心を刺激する永続的な方法となったが、金融サービスにおける真の取り組みやノウハウを示すものではなかった。UnitedとAlaskaは、カード所有者である顧客に対して、信用調査、請求の設定、紛争処理を行うことはなく、また、カードにロゴを刻印することによってリスクを負うこともない。パートナーシップは航空会社にとって主要な収益源だが、リスクは金融機関側(Chase、Bank of America、Visa)にある。American Expressによると、クレジットカードローン未払い額の21%は、数年前にDeltaのクレジットカードを所有していた人々によって占められているという。

このホワイトラベルによるアプローチは、他のサービスでも一般的になりつつあり、携帯電話会社のバンキングオファリングのような形式で提供されるようになってきている。金融サービスは複雑で、規制が厳しいため、ブランドはほとんどの業務を専門家に委ねることを選択する。そのため、United、Delta、T-Mobileはそれぞれのブランドで金融サービスを提供しているが、フィンテック企業になりつつあることは決してない。

これとは対照的に、金融サービスをゼロから構築する機会を見出している企業もある。WalmartがGoldman Sachsの人材を獲得し、金融分野(Ribbitがトップ)への進出をリードするという動きは、真のフィンテック企業へのスピンアウトを約束するものだ。

コンプライアンスとリスク管理の専門知識への投資により、導入当初から詳細で関連性の高いインフラストラクチャを構築できるポテンシャルが高まる。これは小売業者の既存の多くのホワイトラベル付き金融パートナーシップの先を行く、重要なステップである。

サービスとしてのプラットフォームの制限

非金融企業が金融アプリケーションを構築するのを支援するツールやターンキーソリューションは、最近になって登場したものである。VCは、APIやバックエンドツールを介して、支払いや融資、そして最近ではバンキングプラットフォームサービス(BaaSとも呼ばれる)を構築する新しいプレイヤーに積極的だ。

支払いサービスや台帳サービスを手がけるスポンサー銀行や処理業者が直接提供する金融インフラストラクチャサービスとは対照的に、これらのプラットフォームは基盤となるインフラストラクチャを抽象化し、使いやすいAPIでラップし、リスク管理、コンプライアンス、サービスなどの中核的な金融要素をバンドルする。こうしたプラットフォームは、企業が金融サービスを提供する際にある程度の自己効力感を提供するが、その主な制限として、設計上汎用であるという点がある。

フィンテックは、従来の金融サービスでは見過ごされ、十分なサービスを受けられなかった顧客に、専門化を通じてサービスを提供する機会を見出した。伝統的な金融機関は、数百のSKUを保有し、すべてのセグメントにサービスを提供するゼネラリストモデルを長い間適用してきた。この戦略は必然的に、銀行が最も収益性の高い顧客のためのサービスにより多くの投資をし、そうした顧客のニーズに向けて最適化すること帰結した。収益性の低いセグメントには、古くて画一的なオファリングが残された。

こうした十分なサービスを受けていないセグメントにおけるフィンテックの成功は、コア顧客の固有のニーズに対応し、顧客のために設計されたプロダクトとサービスの構築に、飽くなき追求と集中力を注ぐことに基づくものだ。この約束を実現するために、フィンテックは、プロダクトのエクスペリエンスや機能セットから、インフラストラクチャやリスク管理、サービスに至るまで、スタックのすべてのレイヤーを革新する必要がある。

UIは差別化には不十分であり、全体的なユニット経済性を考慮しながら顧客のニーズに対応することが重要である。これらの問題に対するあるフィンテックの選択は、異なるセグメントを対象としている場合、他のフィンテックとはまったく異なる可能性がある。例えば、大規模な中小企業ではなくフリーランサー向けに最適化すると、どのデータソースを使用するかを決定したり、オンボーディングとトランザクションのリスクのバランスを調整したりすることに違いが生じてくる。

対照的に、サードパーティのプラットフォームプロバイダーは、幅広い企業に動力を供給し、複数のユースケースを可能にする汎用性を備えている必要がある。これらのサービスと提携している企業は、プロダクトの機能レベルでは構築とカスタマイズを行うことが可能だが、インフラストラクチャと中核的な金融サービスについてはプラットフォームパートナーに大きく依存しているため、パートナーの構成と機能に制限される。

そのため、組み込み型プラットフォームサービスは、クレジットカード処理のようなコモディティ化された単純なタスクには適しているが、エンド・ツー・エンドの最適化を必要とするバンキングのような、より複雑なオファリングで差別化する能力には限界がある。

より一般的にいうと、顧客の視点から考えると、特定のユーザーフロー内に限定された金融サービスを提供して全体的なユーザーエクスペリエンスを向上させる場合は、組み込み型フィンテックパートナーシップが最も効果的と言える。

例えば、企業は販売時点で、第三者プロバイダーを通じてクレジットを提供して購入を可能にすることができる。しかしながら、汎用的な金融サービスや独立型の金融サービスを考えると、組み込み型フィンテックのメリットははるかに小さい。

選ばれるプロダクトの構築

組込型金融の最大の支持者が主張するのは、大企業やブランドは、そのブランド認知度とインストールベースの故に、自社のプラットフォーム上の金融アドオンで成功することができるということである。

しかし、それは市場における選択の現実を見落としている。顧客が会社とのビジネスの一面に携わっているからといって、必ずしもその会社をあらゆるもののプロバイダーにしたいと思うとは限らない。特に、そのサービスが他の場所で手に入るものより劣る場合はそうだろう。

フィンテック市場が活況を呈し、レガシーブランドがこの機会に乗り続ける一方で、垂直化されたフルスタックのフィンテックは、ジェネリックプロダクトに繰り返し勝利するだろう。組込型金融やホワイトラベリングのいくつかの側面は、支払い処理や「Buy Now, Pay Later(今買って後で支払う)」サービスのように、今後も新たなものが現れたり普及したりしていくと思われる。しかし、顧客は「すべての企業はフィンテックである」という誤った見方を退けながら、顧客のために、そして顧客独自のニーズに基づいて構築された銀行やネオバンク、貸し手やツールを引き続き選定していくだろう。

画像クレジット:Busakorn Pongparnit / Getty Images

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(文:Eyal Lifshitz、翻訳:Dragonfly)

巧妙化する金融犯罪と戦うAIベースのビッグデータ分析ツール開発Quantexaが約168億円を調達

金融犯罪の巧妙化が進むにつれて、それと戦うために使用されるツールも高度化している。Quantexaは、マネーロンダリングや詐欺などの違法行為を検知して阻止するAIベースのソリューションを開発してきた興味深いスタートアップだが、このほど1億5300万ドル(約168億円)の成長ラウンドを獲得した。この資金調達は、金融分野での事業拡大の継続と、同社のツールをより広範なコンテキストに展開すること、つまりすべての顧客データとその他のデータを取り巻く点を結びつけていくことに充てられる。

「当社は金融サービスに止まらない多様化を進めており、政府機関や、ヘルスケア、電気通信、保険業界と協働しています」と創業者兼CEOのVishal Marria(ヴィシャール・マルリア)氏はインタビューで語った。「そのことは非常に大きな意義を醸成しています。より大規模なデジタル変革の一環として、市場がコンテキストに基づく意思決定インテリジェンスに取り組んできたことを考えると、その流れは必然的なものでした」。

このシリーズDでは、ロンドンに拠点を置く同スタートアップの価値は8億〜9億ドル(約880億~990億円)と評価されている。これはQuantexaが2020年、サブスクリプション収入を108%成長させたことに続くものだ。

Warburg Pincusがこのラウンドを主導し、既存の支援者であるDawn Capital、AlbionVC、Evolution Equity Partners(サイバーセキュリティ専門のVC)、HSBC、ABN AMRO Ventures、British Patient Capitalも参加した。2020年7月のシリーズCでのQuantexaの評価額は、2億〜3億ドル(約220億~330億円)の間だった。これまでの調達総額は2億4000万ドル(約264億円)になる。

マルリア氏はErnst & Youngでディレクターを務め、マネーロンダリングなどの不正行為への対策についてクライアントを支援する役割を担っていた。Quantexaは、マルリア氏がそのときに特定した市場のギャップを出発点としている。同氏が認識したのは、潜在的な詐欺、マネーロンダリングなどの違法行為に関する有意義なインサイトを迅速かつ正確に得ることができる、真に有用なシステムが市場に存在しないということだった。企業の内部情報と外部公開データの照合・解析を通じて、利用可能なデータの世界を効率的に活用する、インサイトの導出に必要なツールが整備されていなかった。

Quantexaの機械学習システムは、この課題に対して典型的なビッグデータの問題としてアプローチしている。人間が自分で解析するにはデータが多すぎるが、特定の目的のために大量のデータを処理できるAIアルゴリズムにとっては小さな仕事だ。

Quantexaのいわゆる「Contextual Decision Intelligence(コンテキストに基づく意思決定インテリジェンス)」モデル(Quantexaという名前は「quantum」と「context」を想起することを意図している)は当初、金融サービス向けに特化して開発された。リスクとコンプライアンスの評価と金融犯罪行為の特定を行うAIツールを用いて、Quantexaが有するAccenture、Deloitte、Microsoft、Googleといったパートナーとのリレーションシップを活用し、より多くのデータギャップを埋めていくものだ。

同社のソフトウェア(データではなくこのソフトウェアが企業に販売され、企業独自のデータセットに使用される)は、単一のエンゲージメントで最大600億件のレコードを処理した実績があるという。処理を経た後、ユーザーが異なるエンティティ間の関係などをよりよく理解できるように、わかりやすいグラフやその他の形式でインサイトが提示される。

マルリア氏によると、現在、同社の事業の約60%を金融サービス企業が占めており、顧客には英国とオーストラリアの銀行上位10行のうち7行、北米の金融機関上位14行のうち6行が含まれているという。(このリストには、戦略的な支援を行うHSBCの他、Standard Chartered BankとDanske Bankも名を連ねている)。

しかし同時に、Quantexaの他のセクターへの進出は一層顕著な伸びを見せている。より広範なデータセットに大きく依存するようになった市場の大幅なシフト、近年における各企業のシステム更新、そして過去1年間でオンラインアクティビティが「唯一の」活動になることが多くなったという事実がそれを加速させている。

「(2007年の)金融危機は、金融サービス企業がよりプロアクティブになるための転換点でした。そして、パンデミックは、ヘルスケアなどの他のセクターがよりプロアクティブになる方法を模索する転換点となっています」とマルリア氏はいう。「その実現には、より多くのデータとインサイトが必要です」。

そのため、Quantexaは特にこの1年で、ヘルスケア、保険、政府機関(例えば税務コンプライアンス)、電気通信 / 通信手段など、金融犯罪に直面している他のバーティカルへの拡張を進めてきた。加えて、KYC(顧客確認)コンプライアンスに向けたより完全な顧客プロファイルの構築、カスタマイズされた製品の提供など、さらに多くのユースケースをカバーするための多様化を続けている。政府機関と協働し、人身売買の追跡や特定のような、違法行為の他の分野にも同社のソフトウェアが適用される見通しだ。

Quantexaは、70にわたる市場に「数千」もの顧客を抱えている。金融犯罪とより全般的なKYCの両方を含むこの種のサービスの市場規模は、年間約1140億ドル(約12兆6000億円)に上るとのIDCの予測を、Quantexaは引き合いに出している。

「Quantexaが独自に開発した技術により、クライアントは個人や組織の単一のビューを生成して、グラフネットワーク解析で可視化し、最先端のAI技術でスケールすることができます」とWarburg Pincusのヨーロッパ共同責任者であるAdarsh Sarma(アダーシュ・サルマ)医学博士は声明で述べている。「このケイパビリティはすでに、世界最大の金融機関や政府機関によるKYC、AML(マネーロンダリング対策)、不正行為プロセスの運営方法に革命的な変化をもたらしており、業界における重要性を増しつつある大きなギャップに対処しています。これまでの同社の目覚ましい成長は、利用可能な市場全体における計り知れない価値の提案と、新規セクターや地域への継続的な拡大を反映しています」。

興味深いことに、同社は大手テック企業などから買収のターゲットとしてアプローチを受けていることを、マルリア氏は筆者に認めた。それほど驚くことではない。しかし、長期的には、マルリア氏の視野の先には自立した未来があり、Quantexaが独自の成長を続けることを念頭に置いているという。

「確かに、大手テック企業などに買収されることは十分あり得ますが、私はIPOに向けて準備を進めています」とマルリア氏は語った。

画像クレジット:piranka / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

オープンバンキングを利用して信用度の低い消費者にローンを提供するKoyo

オープンバンキングを利用して、信用度の低い人にもローンを提供するフィンテックスタートアップのKoyo(コーヨー)は、Force Over Mass(フォース・オーバー・マス)が主導したデット(借入)とエクイティ(増資)の両方によるシリーズA資金調達ラウンドを5000万ドル(約55億円)でクローズした。このラウンドには既存投資家のForward Partners(フォワード・パートナーズ)、Frontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)、Seedcamp(シードキャンプ)の他、新規投資家としてForce Over Massをはじめ、GoCardless(ゴーカードレス)の創業者でNested(ネステッド)の共同創業者であるMatt Robinson(マット・ロビンソン)氏や、銀行や金融業界のエンジェル投資家たちが参加した。同社は2019年に行われた前回の資金調達で、490万ドル(約5億4000万円)を調達している。新型コロナウイルス感染流行期間中に、多くの分野の人々が借金を重ねているが、通常は主要なローン会社に断られるような、この下層の消費者から、Koyoは利益を得ているようだ。

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このスタートアップ企業は、消費者向け融資のリスクを査定する際に、信用機関のスコアではなく、オープンバンキングのデータ(銀行取引データ)を使用しているという。言い換えれば、信用機関の評価ではなく、顧客が日々どのようにお金を使っているかを調べるということだ。このアイデアは、通常のサービスが十分に受けられない市場、つまり「シンファイル(thin file)」(クレジットヒストリーが短い、またはまったくない)とか「ニアプライム(near prime)」と呼ばれる顧客に、魅力的な金利と安価な借り入れを提供する。ニアプライムの市場は、英国では1300万人から1500万人に相当する。

Koyoの創業者であり、ロンドンのFrontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)やベルリンのCavalry Ventures(カバルリー・ベンチャーズ)でVCを務めた経験をもつThomas Olszewski(トーマス・オルショウスキ)氏は、声明で次のように述べている。

新型コロナウイルスの世界的な感染流行が起こった頃に事業を開始したKoyoは、オープンバンキングのデータを革新的に活用することで、より良いリスク判断ができることを証明し、最終的には英国が直面した最も厳しい経済状況の中で事業を成長させることができました。伝統的な金融機関の多くが急速に融資を縮小した時期に、英国の多くの人々に競争力のある金利でクレジットの利用を提供し続けてきたことを、私は誇りに思います。

Force Over MassのパートナーであるFilip Coen(フィリップ・コペン)氏は、次のように述べている。「私たちは、変革をもたらす技術と強力なビジネスモデルを兼ね備えた企業に投資していますが、Koyoはその両方の部門で強くインデックスされました。Koyoは創業から1年半の間に一級品の基盤を築き上げており、私たちはその将来に関われることに興奮しています」。

画像クレジット:Koyo Loans team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

家賃支払いを代行、借り手に支払いの柔軟性をもたらすJettyが約25億円調達

家賃を支払う際に賃借人に柔軟性を与えることを目的としたフィンテック企業であるJetty(ジェッティー)は、Citi(シティ)とFlourish Ventures(フローリッシュ・ベンチャーズ)が共同で行う資金調達ラウンドで2300万ドル(約25億3700万円)を調達した。

今回の資金調達により、Jettyの2016年の創業以来の調達額は7800万ドル(約86億500万円)となった。今回の成長ラウンドに参加した他の投資家には、Credit Ease(クレジット・イーズ)とK5が含まれる。これまでの支援者には、Farmers Insurance Group(ファーマーズ・インシュアランス・グループ)、Khosla(コスラ)、Ribbit Capital(リビット・キャピタル)などがいる。

ニューヨークを拠点とする従業員100名のこのスタートアップは、消費者がオンラインや店頭で利用する機会が増えている「今買って、後で払う」(BNPL)モデルに似たサービスを提供することで、賃借人が家賃を滞納しないようにする方法を考え出した。

簡単にいうと、借り手は家賃の支払い期限が来たら家賃を支払うことができ、その月の24日までに、一括または分割でJettyに借りたお金を返すことができるというものだ。その際、金利や遅延金は発生せず、借り手のリスクプロファイルに応じて15〜25ドル(約1650〜2750円)の月額利用料を支払うことになる。借り手が決められた期間内に返済できなかった場合、翌月の借り増しはできない仕組みになっている。

この月額料金は、家賃が期限内に支払われなかった場合に発生する可能性のある遅延金よりも「はるかに低い」と、共同創業者兼CEOのMike Rudoy(マイク・ルドイ)氏は語っている。

「平均的な賃借人の給料の約50%は家賃に充てられています。つまり、家賃は賃借人にとって最大の支出なのです。だからこそ、ペナルティを受けないように、期日までにお金を用意できるような柔軟性を提供する、何らかの金融サービス商品があると期待されているのです」と彼はいう。

この商品は、実際のBNPLというよりも、従来のBNPLの従兄弟のようなものだと彼は語っている。

ルドイ氏は「当社が賃借人に代わって月初に家賃を全額支払うことで、不動産管理者は必要なときに必要な資金を得ることができます。賃借人は24日間、自分のニーズに合ったスケジュールで返済することができます」と説明してくれた。

Jetty Rentを立ち上げるために、同社は大手不動産投資・開発・管理会社であるCortland(コートランド)と提携し、複数の物件の居住者を対象にベータ版を提供してきた。

そして今回、一般向けに提供を開始したということだ。Jetty Rentは、同社のプラットフォームの中で最も新しい製品で「低コスト」の賃借人保険や敷金返還サービスも提供している。

「この会社のミッションは、賃貸住宅をより手頃で柔軟なものにすることです。また、当社は金融サービスのプラットフォームであり、当社が提供するすべての製品は、不動産管理者と賃借人の両方に価値を提供することを目的としています」とルドイ氏はいう。

Jettyは、今回の動きにより、Insurtech(インシュアテック)から金賃業者へと進化しているとルドイ氏はいう。同社は、Cross River Bank(クロス・リバー銀行)を通じてローンを提供している。

ルドイ氏はTechCrunchに対し「Jettyはこれまでインシュアテック企業と考えられてきましたが、私たちはこのビジネスにさらなる信用力と融資力をもたらすために取り組んでいます」と述べている。

ルドイ氏によると、同社が3つの商品すべてを不動産管理会社に提供していることが、同社の競争力の源泉になっているという。

「これは、同じ空間や問題をターゲットにしている他の金融サービス企業とは異なるものです。敷金の代替商品とフレキシブルな家賃商品の両方を同じ屋根の下に持っているのは、当社だけです。そのため、不動産管理者にとっては、統合や導入の観点からも当社を選択することが非常に容易になります。またそれは、賃借人にとっては、複数の異なるサービスを目にしなくてすむということでもあります」と彼はTechCrunchに語っている。

賃借人はすべての製品の代金を支払い、物件管理者は製品の展開におけるパートナーとなる。

現在、同社は全国で220万戸以上の賃貸住宅を運営する不動産オーナーや管理者と契約している。同社のマーケティング担当副社長のAlex Vlasto(アレックス・ブラスト)氏によると、2017年に不動産パートナーネットワークの構築を開始して以来、Jettyは契約戸数が前年比で平均193%の伸びを示しているという。Cortlandの他にも、AMLI Residential(AMLIレジデンシャル)などとも提携している。

Flourish VenturesのマネージングパートナーであるEmmalyn Shaw(エマリン・ショウ)氏は、米国人の70%以上がその日暮らしな生活をしていると指摘している。

「安定した住宅は、彼らが経済的な安定を得るための重要な要素です」と彼女はいう。

ショー氏は「単一のソリューションに留まらず、賃貸保険や敷金の代替、さらには家賃の柔軟性など、豊富で差別化された金融サービスを提供しているのはJettyだけです」と付け加えた。

「独自の消費者インサイト、差別化された価格設定、消費者のロイヤルティ向上により、Jettyは大きな競争優位性を獲得しています。さらに、Cortlandのような一流の不動産管理会社を通じた消費者へのアプローチは、他に類を見ないものです」とショー氏はメールで述べている。

最近になって、賃借人の生活を楽にするための新しい技術を考え出した他のスタートアップも資金を調達している。アパートを「インタラクティブなコミュニティ」に変えることを目指しているスタートアップSugar(シュガー)は、最近250万ドル(約2億7500万円)のシード資金を調達した。また、自動物件検査プラットフォームを構築しているスタートアップのRentCheck(レントチェック)も、先日260万ドル(約2億8600万円)のシードマネーを調達した。

画像クレジット:Indysystem / Getty Images

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

金融業界が機械学習を簡単に利用できるようにする「Taktile」

金融サービス企業のための機械学習プラットフォームに取り組む新しいスタートアップのTaktileを紹介しよう。機械学習を金融商品に生かそうとする企業は同社が初めてではない。しかし同社はAIモデルを簡単に使い始め、移行できるようにすることで競合との差別化を狙う。

数年前、どのピッチのプレゼンにも「機械学習」と「AI」のフレーズがあったころ、金融業界に的を絞ったスタートアップもあった。銀行や保険会社は山ほどデータを集めているし顧客の情報もたくさん知っているのだから当然だ。銀行や保険会社はこうしたデータを使って新しいモデルをトレーニングし、機械学習アプリケーションを展開できるだろう。

新しいフィンテック企業は社内にデータサイエンスチームを作って自社プロダクトのための機械学習に取り組み始めた。Younited CreditOctoberといった企業はリスク予測ツールを融資の判断に役立てている。これらの企業は独自にモデルを開発し、過去のデータに基づいてそのモデルを動かすと有効であることを把握している。

しかし金融業界に古くからある企業はどうだろうか。既存の銀行のインフラと統合できるプロダクトの開発に取り組んでいるスタートアップはいくつかある。AIを使って疑わしい取引を見つけたり返済能力を予測したり保険請求の不正を検知したりすることができる。

保険に特化したShift Technologyのように成長しているスタートアップもある。しかし概念実証をしてそこで終わってしまうスタートアップが多い。その先に、長期にわたる有意義なビジネスの契約はない。

Taktileは取り入れやすい機械学習プロダクトを開発することでこうした問題を克服したいと考えている。同社はIndex Venturesが主導するシードラウンドで470万ドル(約5億1700万円)を調達した。このラウンドにはY Combinator、firstminute Capital、Plug and Play Ventures、数人のビジネスエンジェルも参加した。

同社のプロダクトはそのまま使えるモデルでもカスタマイズモデルでも動作する。顧客は自社のニーズに応じてモデルをカスタマイズできる。モデルはTaktileのエンジン上でデプロイされメンテナンスされる。顧客のクラウド環境でもSaaSアプリケーションとしても動作する。

導入後はAPIコールを使ってTaktileのインサイトを活用できる。プロダクトに他社のサービスを統合するのと同様の動作だ。Taktileは自動で下された決定に関する説明や詳細なログを提供して、できるだけ透明性を高めようとしている。データソースとしては、データウェアハウスやデータレイクのほかERPやCRMシステムにも対応している。

まだ初期段階のスタートアップであり、Taktileのビジョンが成功するかどうか気になるところだ。同社はすでに経験豊富な支援者たちを説得している。今後に注目しよう。

画像クレジット:Taktile

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(文:Romain Dillet、翻訳:Kaori Koyama)

「オルタナティブデータ」とは何か?KDDIらデータ分析のキーパーソンが語る金融業界における位置情報活用

金融業界ではこれまで、財務情報や経済統計といったデータを元に経済分析を行ってきた。そして現在、位置情報やクレジットカード情報といったオルタナティブデータを活用する動きも出てきている。オルタナティブデータの可能性はどこにあるだろうか。クロスロケーションズ代表取締役小尾一介氏、ナウキャスト代表取締役CEO辻中仁士氏、KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部データマネジメント部データ戦略Gグループリーダー杉本将之氏、KDDIパーソナル事業本部サービス統括本部データマネジメント部データ戦略G課長補佐瀧本祐介氏が、データ活用場面の効果と課題、国内のオルタナティブデータの市場と今後の展開についてディスカッションを行った。モデレーターは技研商事インターナショナル執行役員マーケティング部部長市川史祥氏。

本記事は位置情報DXカンファレンス 2021July中のセッションを編集・再構成したものとなる。

オルタナティブデータとは?

オルタナティブデータとは、位置情報、決済情報、POSデータ、クレジットカードデータ、ニューステキスト、衛生画像など、多様なデータを指す。

ビッグデータを活用したデータ分析サービスを提供するナウキャストの辻中氏は「オルタナティブデータは多様です。だからこそ、お客様からの要望は『この種類のデータが欲しい』という形ではなく、『こういうことを知りたい』という形で出てきます。その要望に合わせて提供するデータを特定することが、現状のオルタナティブデータ活用の1つの形です」と話す。

オルタナティブデータの活用例として、辻中氏は「高齢者のコロナワクチン接種によって消費が回復したのか?」という問いを提示した。

辻中氏が使用したクレジットカードの決済データによると、高齢者を中心に百貨店、アパレルの消費が回復している。しかし、これには注意点がある。コロナワクチン接種の状況、進捗には地域差があり「高齢者を中心に百貨店、アパレルの消費が回復している」と決済データから読み取ることができても、それだけではコロナワクチンの接種が回復に影響しているのかどうか結論を出すことができないのだ。この場合、位置情報を組み合わせることで、より精度の高い結論を出すことができる。

ナウキャストでは、KDDIが提供する位置情報データを分析した。そこからわかったのは、東京駅、銀座駅、梅田駅を比較すると、60代以上の人の外出がその他世代よりも多く、特に梅田駅でその傾向が強いことだった。

辻中氏は「これはおそらく5月後半まで大阪エリアでコロナウイルスの感染者が多かったものの、6月以降感染が落ち着き、『外に出よう』という動きが他のエリアより大きく出たと考えることができます。こうした分析はクレジットカードの決済情報や、他のオルタナティブデータではなかなかできません。この場合は位置情報が重要だったわけです」と語った。

オルタナティブデータの具体的な使い方

ここモデレーターの市川氏は「オルタナティブデータ活用のその他の具体的ユースケースはありますでしょうか?」と質問した。

小尾氏は、自身が所属するクロスロケーションズがニッセイ基礎研究所と共同で開発した「オフィス出社率指数」を例に挙げた。これは、位置情報のAI解析データを使って開発したもので、東京のオフィスエリアをいくつかに分け、それぞれのエリアの出社率を分析するものだ。オフィスワーカーの出社状況を把握することで、オフィスの賃貸やオフィス建設に関わる業種の企業に有用なデータを得ることができる。また、オフィスワーカーをターゲットにした飲食業やコンビニ業界も活用できる可能性がある。

小尾氏はもう1例挙げた。あるヘッジファンドがクロスロケーションズが提供するLocation AI Platformを導入して2万拠点以上の上場企業の店舗や工場、オフィスなどを登録し、稼働や売り上げの状況を推測したのだ。

「今後は天気や決済情報などと掛け合わせて検証することで有益な情報が得られるだろうと考えております」と小尾氏は語った。

KDDIの杉本氏は「オルタナティブデータの活用と言っても、クライアントのニーズはさまざまです。クライアントに依頼された種類のデータを提供し、クライアント自身がデータのメンテナンスを行う場合もありますが、それもそれでクライアントにとっては負担になることもあります。また、データを扱う知見がクライアントにない場合もあります。『分析の結果だけ知りたい』というニーズもあります。クライアントに合わせて情報を提供することが重要ですね」という。

同じくKDDIの瀧本氏も「海外のヘッジファンドなどで『自社でデータ加工できるので、生データをください』と言われることもありますし、オルタナティブデータ活用というと、このイメージが強いと思います。ですが、そうでないお客様もいらっしゃいます。実はマーケットのボリュームゾーンにいらっしゃるお客様は加工済みのデータを必要としています。『どう加工するのか』は非常に重要なことです。この加工プロセスには匿名処理も含まれます。市場の予測精度を落とさず統計化することが肝要ですね」と話した。

大切なのは「データの組み合わせ」

市川氏は次に「オルタナティブデータにおける位置情報の課題は何でしょうか?」と質問した。

辻中氏は「やはりデータの組み合わせですね。例えば、百貨店に人が集まっていても、それが売り上げに繋がっているとは限りません。ウィンドウショッピングをしにきた人がたくさんいるだけかもしれません。これはクレジットカードの決済データを見れば答えがわかるでしょう。また、POSデータを見ると、来場者がアパレルを買ったのか、口紅を買ったのかが見えてきます。1つのデータで答を出そうとすることには無理があります。同じ事象でも、データによって見えてくるものが異なるので、組み合わせが重要ですね」と回答。

杉本氏は「私も同感です。例えば、位置情報をみて、ある工場の人流が増加したことがわかったとします。景気が良くて稼働が増え、人が増えたのかもしれませんが、機械化が遅れているから人を増やしている可能性もあります。逆に人流が減っている場合、稼働率が下がって人が減っているのか、機械化が進んで人手が減っているのかまではわかりません。同じ結果でも、意味や原因がまったく異なることがあり得ます。なので、データを活用する人自身のデータを組み合わせて読み解く力が重要です」という。

小尾氏は「データの組み合わせは重要ですが、それはつまりデータを持っている他の企業との協業も重要だということです。例えば、位置データを使ってある商圏を分析した時、西からは人が来るけど東からは来ないことがわかった。ですが、『それはなぜか』を分析するには、位置情報だけでは十分ではありません。自分が持っていないデータを持っている企業との連携も重要です」と語った。

辻中氏は「次の問いはデータをどう組み合わせれば良い分析ができるのか」だという。その鍵は2つあるという。

1つは対象の経済活動に関するドメイン知識だ。例えば自動車の生産は労働集約型であり、自動車の生産を増やす場合には人員の1日の交代回数を増やすことになる。そのため、自動車工場の人流が増えている場合は自動車の生産が増えているとみなせる。しかし、化学産業や鉄鋼、コンビナートのようなところでは機械化・装置化が進んでいるため、生産量の増減と人員の増減の関連性が薄い。

「こうなってくると、位置情報をどう使うのか、どんなデータを組み合わせるのかというコンテクストが大きく変わってきます。なので、ドメイン知識が重要になります」と辻中氏。

2つ目に同氏は「データの癖の理解の重要性」を挙げた。例えば携帯電話の基地局ベースデータは粒度が荒いがデータそのものの数が多い。一方GPSベースデータは粒度が細かいがデータそのものの数があまり多く取れない。さらに、GoogleやAppleのプライバシーポリシーの変更の影響も受けやすい。さらに、デパートの中での人の位置を考えた場合、3Dのデータがなければその人が地上にいるのか、地下にいるのか、高い階層にいるのかもわからない。

「こうしたデータ間のインタラクションを考えた時、当社のようなユーザーとデータプロバイダーの間にいる存在が果たす役割が重要になってくるのではないかと思います」と辻中氏今後の位置情報関連企業の重要性を語った。

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カテゴリー:その他
タグ:オルタナティブデータ位置情報金融

お金の悩みを抱える個人とファイナンシャルプランナー・金融仲介業者とのマッチング「お金の健康診断」が1.6億円を調達

お金の悩みを抱える個人とファイナンシャルプランナー・金融仲介業者とのマッチングサービス「お金の健康診断」が1.6億円を調達

お金の悩みを抱える個人とファイナンシャルプランナー・金融仲介業者とのマッチングサービス「お金の健康診断」を展開する400F(フォーハンドレッド・エフ)は7月13日、SPV(特定企業やプロジェクトへの投資の目的で専用ファンドを立ち上げて資金供給を行う手法)などを用いた第三者割当増資を実施、1億6000万円の資金調達を発表した。引受先は、シードスタートアップ投資を中心に行うSkyland Ventures。

お金の健康診断は、居住地域、年齢、年収、家族構成などの質問に答えると、同地域、同年代の人との比較による家計状況が判断され、それをもとにファイナンシャルプランナーや金融仲介業者からのお金に関するアドバイスがもらえるというサービス。資産運用、老後資金の準備、住宅の購入などに役立てることができる。ユーザーは、チャットを通じて専門家に気軽に相談できる。質問に答えることでお金の悩みを明確化し、自分にぴったりの「お金の相談相手」が見つかると400Fは話している。

400Fは、2017年11月に、おかねのデザインの100%子会社として設立されたが、2018年11月に「お金の健康診断」を正式リリースし事業モデルが確立し売上げが急成長したのを受けて、2020年7月にMBO(マネジメント・バイアウト:事業部門が自ら部門を買収し独立する手法)による独立を果たした。この1年で「お金の健康診断」の月間ユーザー獲得数は10倍に、獲得単位は1/10になるなど大きく成長している。今回の資金は、製品の開発とマーケティングの強化、人材採用、サービス価値向上にあてられる。

400Fは、何かと気が重くなるお金の話をプロの専門家にチャットで相談できるウェブマガジン「オカネコ」も提供している。400Fという社名は、ゴッホが生前に唯一売れた作品「赤い葡萄畑」が400フランだった逸話に由来している。後に名画として価値が急上昇したことから、無限の可能性を持ち続ける企業を目指すという意味があるという。

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カテゴリー:ネットサービス
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アフリカ、ラテンアメリカ、インドなどの新興市場では決済、融資、ネオバンクがフィンテック業界を掌握

ここ数年、新興市場ではテック関連の投資が活発に行われており、エコシステムの成長につながっている。

アフリカ、ラテンアメリカ、インドなど、これらの市場の一部では、それぞれの地域の傾向や投資に関する包括的な報告が出版社や企業により提供されている。しかし、地域間の傾向や投資を比較対照した報告はほとんどみられない。それも当然だろう。このような作業は骨の折れる仕事である。

そうした中、データ調査機関Briter BridgesとインクルーシブテックのグローバルアクセラレーターCatalyst Fundが発表した報告書は、この3市場の最重要セクターであるフィンテックに対して全体像の提示を試みるものだ。

本報告書「新興市場におけるフィンテックの状況レポート」は、新興市場全体にわたって投資、プロダクト、包括性という3つの指標で評価を行っている。

調査はアフリカ、ラテンアメリカ、インドの177のスタートアップと33の投資家を対象に行われた。ここで使用されているサンプルの規模はごく小さなものであるが、鍵となる所見は非常に印象的である。

それでは中身を見ていこう。

フィンテックは2017年以降、地域全体で230億ドル(約2兆5038億円)を資金調達している

新興市場に向けられた投資意欲はとどまるところを知らない。本セクターは過去5年間、前年比で最大の投資を受け続けている。

3億人を超えるアフリカの成人が、銀行口座を持たない世界人口の17%を占めている。2019年にアフリカ大陸でBranch、Tala、World Remit、Interswitch、OPayによる合計7億7500万ドル(約845億円)超に達する5つの大型取引が行われたことは理解に難くない。2020年は3億6200万ドル(約394億円)に低下したものの、Flutterwave、TymeBank、Kudaなどの企業がこの期間にかなりの額を調達している。

画像クレジット:Briter Bridges & Catalyst Fund

ラテンアメリカでは、デジタルユーザーの基盤が拡大し、規制と改革が促進され、中小企業が活況を呈している。アフリカ同様、銀行口座を持たない人の割合は70%と高い。この地域のフィンテック企業はその事業機会をとらえ、NuBank、Neon、Konfio、Clipといった企業が享受するメガラウンドを獲得した。これまでの5年間で、フィンテック系スタートアップは合計100億ドル(約1兆886億円)を調達している。

インドのフィンテック系スタートアップは、2019年だけで48億ドル(約5225億円)という記録的な額を調達したことが報告書に記されている。そして2020年、同セクターは30億ドル(約3266億円)を調達し、CRED、Razorpay、Groww、BharatPeなどの著名な大手企業を含む過去5年間の合計額は116億ドル(約1兆2627億円)に達した。

アフリカの平均シードラウンドは100万ドル(約1億885万円)、インドとラテンアメリカの平均は400万ドル(約4億3540万円)

報告書によると、アフリカでの初期段階の取引は過去5年間で累計16億ドル(約1742億円)以上増加している。特にシードラウンドの平均規模は、2017年の75万ドル(約8250万円)から2020年には100万ドル(約1億885万円)に拡大した。

ラテンアメリカにおける過去5年間の平均シード取引額は約570万ドル(約6億2040万円)であったのに対し、インドでは約460万ドル(約5億円)であった。報告書では、後者のデータはCREDの3000万ドル(約33億円)のシードラウンドにより偏りが生じているとしている。

画像クレジット:Briter Bridges & Catalyst Fund

ラテンアメリカはIPOに意欲的で、インドはユニコーンを産み、アフリカはM&Aへ向かっている

2020年StripeがPaystackを買収したことは、その規模とナイジェリアのフィンテック系スタートアップの地元出身というステータスにより、アフリカのM&Aのハイライトとなった。その他に大きな話題となったラウンドには、WorldRemitによるWaveの5億ドル(約544億円)の買収(これは大陸で最大のものである)とNetwork InternationalによるDPO Groupの2億8800万ドル(約313億円)の買収がある。

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アフリカのフィンテック市場ではメガ買収や7桁規模の未公開取引の数々に注目が集まっているが、ラテンアメリカのフィンテック市場ではIPOへの関心が高い。報告書によると、同地域のフィンテック企業は数回にわたり1億ドル(約109億円)のラウンドを行っており(Nubank、PagSeguro、Creditas、BancoInter、Neon)、M&A活動は希薄だ。しかし、Arco Educacao、Stone Pagamentos、Pagseguroなど、その多くが最近上場を果たしている。

一方、インドには25社を超える10億ドル(約1088億円)企業が存在し、毎年増え続けている。先月には8件新たに誕生した。こうしたユニコーン企業は、Paytmのような既存の企業からCREDのような新しい企業まで多岐にわたっている。

決済、クレジット、ネオバンクがフィンテック活動をリード

報告書によると、この3地域では決済企業がフィンテックへの投資の中心となっている。そのサブセット内では、B2B決済が支配的な位置を占めている。次に資金を得たフィンテックのカテゴリーは、クレジットとデジタルバンキングだ。

アフリカでは、決済スタートアップへの投資がクレジットやネオバンクを上回っている。Flutterwave、Chipper Cash、Wave、Paystack、DPOなどが挙げられるだろう。

画像クレジット:Briter Bridges & Catalyst Fund

ラテンアメリカで最も資金を得ているフィンテック企業はネオバンクである。また、3つのプロダクトカテゴリーすべてに20億ドル(約2176億円)から30億ドル(約3266億円)の資金が集まっている唯一の地域でもある。そうした企業には、NuBank、Creditas、dLocalなどが名を連ねている。

インドではトップクラスの資金力を持つフィンテック系スタートアップは決済カテゴリーに属している。しかし、Niyo、Lendingkart、InCredのような9桁のラウンドを調達する企業が、クレジットやネオバンクで注目すべき存在となっている。

投資家は保険、決済、デジタル銀行の将来に期待を寄せている

5年後のフィンテックプロダクトの将来動向については、調査対象となった少数の投資家のほとんどが、保険、決済、デジタルバンキングモデルを選択肢としている。

投資プラットフォームや組み込み型モデルにも関心が集まっている。彼らの関心は農業や送金に向けられておらず、ウェルステックプラットフォームやネオバンクも優先順位が低かった。デジタルバンキングとネオバンキングが投資家の選択範囲の両極にあるのはなぜだろうか?確かなことはわからない。

画像クレジット:Briter Bridges & Catalyst Fund

報告書の一部では、これらの地域で十分なサービスが行き届いていない消費者のことや、フィンテックスタートアップが彼らにどのようにサービスを提供しているかについて述べられている。また、これらのフィンテックスタートアップがファイナンシャルインクルージョンを促進しているかどうか、どのような機能やプロダクトがそれを可能にするかについても論じている。

そのすべてにおいて、アフリカがラテンアメリカとインドに何年も後れをとっているという明白な事実は、目新しい情報ではない。Briter BridgesのディレクターDario Giuliani(ダリオ・ジュリアーニ)氏に話を聞いたところ、アフリカ大陸がラテンアメリカとインドが現在位置しているところに到達するには5年かかるだろうと語っている。同氏はまた、現段階でインドをより良い市場にしているのは、他の市場のように大陸ではなく、オペレーションが一律的であるからだと付け加えた。

「アフリカの54カ国やラテンアメリカの20カ国よりも、1つの国を管理する方が容易です」と同氏はTechCrunchに語った。「アフリカでは、私たちは『アフリカ』というラベルを使いながら、4~6カ国にわたって言及します。ラテンアメリカでは基本的にブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビアの4カ国で大手企業が台頭しています。一方、インドは1カ国です」。

同報告書によると、新興市場のほとんどのフィンテック企業は、作物保険、流通業者やベンダー向けのクレジットライン、KYC、電子商取引決済ゲートウェイ、医療金融、保険といったさまざまな分野に進出しているという。ジュリアーニ氏は、この状況が今後も続くと予想している。

カテゴリー:フィンテック
タグ:アフリカラテンアメリカインド投資決済クレジットカード保険銀行金融

画像クレジット:Getty Images

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)