オープンバンキングを利用して信用度の低い消費者にローンを提供するKoyo

オープンバンキングを利用して、信用度の低い人にもローンを提供するフィンテックスタートアップのKoyo(コーヨー)は、Force Over Mass(フォース・オーバー・マス)が主導したデット(借入)とエクイティ(増資)の両方によるシリーズA資金調達ラウンドを5000万ドル(約55億円)でクローズした。このラウンドには既存投資家のForward Partners(フォワード・パートナーズ)、Frontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)、Seedcamp(シードキャンプ)の他、新規投資家としてForce Over Massをはじめ、GoCardless(ゴーカードレス)の創業者でNested(ネステッド)の共同創業者であるMatt Robinson(マット・ロビンソン)氏や、銀行や金融業界のエンジェル投資家たちが参加した。同社は2019年に行われた前回の資金調達で、490万ドル(約5億4000万円)を調達している。新型コロナウイルス感染流行期間中に、多くの分野の人々が借金を重ねているが、通常は主要なローン会社に断られるような、この下層の消費者から、Koyoは利益を得ているようだ。

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このスタートアップ企業は、消費者向け融資のリスクを査定する際に、信用機関のスコアではなく、オープンバンキングのデータ(銀行取引データ)を使用しているという。言い換えれば、信用機関の評価ではなく、顧客が日々どのようにお金を使っているかを調べるということだ。このアイデアは、通常のサービスが十分に受けられない市場、つまり「シンファイル(thin file)」(クレジットヒストリーが短い、またはまったくない)とか「ニアプライム(near prime)」と呼ばれる顧客に、魅力的な金利と安価な借り入れを提供する。ニアプライムの市場は、英国では1300万人から1500万人に相当する。

Koyoの創業者であり、ロンドンのFrontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)やベルリンのCavalry Ventures(カバルリー・ベンチャーズ)でVCを務めた経験をもつThomas Olszewski(トーマス・オルショウスキ)氏は、声明で次のように述べている。

新型コロナウイルスの世界的な感染流行が起こった頃に事業を開始したKoyoは、オープンバンキングのデータを革新的に活用することで、より良いリスク判断ができることを証明し、最終的には英国が直面した最も厳しい経済状況の中で事業を成長させることができました。伝統的な金融機関の多くが急速に融資を縮小した時期に、英国の多くの人々に競争力のある金利でクレジットの利用を提供し続けてきたことを、私は誇りに思います。

Force Over MassのパートナーであるFilip Coen(フィリップ・コペン)氏は、次のように述べている。「私たちは、変革をもたらす技術と強力なビジネスモデルを兼ね備えた企業に投資していますが、Koyoはその両方の部門で強くインデックスされました。Koyoは創業から1年半の間に一級品の基盤を築き上げており、私たちはその将来に関われることに興奮しています」。

画像クレジット:Koyo Loans team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】オープンバンキングが普及し、フィンテックと中小企業の蜜月が始まる

本稿の著者Lee Li(リー・リー)氏はプロジェクトマネージャー兼B2Bコピーライター。TaoBao、MeitTuan、DouYin(現TikTok)のPMとして、中国のフィンテックスタートアップ界隈で10年の経験がある。

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これまで10年間で大きな成長を遂げたフィンテック業界。パンデミックに際してさらに大きな成功を収めた業界だが、多くの関係者が、この成功談はまだ始まったばかりで、フィンテックの次の10年はこれまでとは根本的に異なるものになると信じている、と聞けば驚くだろうか。

銀行の規制方法はパンデミックのはるか前から変化してきた。銀行業界の競争を促進する方法として、オープンバンキングや新しい決済サービス指令(PSD2)などの取り組みが提案され、大手金融機関が長い間支配してきた市場に、小規模で意欲的な金融サービス企業が参入できるようになった。

これらの取り組みが実施された今、その効果は、小規模金融サービス企業に活躍できる余地を与えるだけではないことがわかってきた。オープンバンキングでは、データをAPI経由で利用できるようにする必要があるので、中小企業の資金調達方法に革命が起こりつつある。金融資本ではなくデータが、フィンテックが成功するための最も重要な要素になったのだ。

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オープンバンキングとデータの自由

フィンテックが台頭し、中小企業との連携方法を再構築している現状を理解するには、オープンバンキングの理解が重要である。オープンバンキングは、過去10年間に政府や超国家の銀行規制当局の間で定着した概念で、現在、バンキングセクター全体にその影響が現れ始めている。

基本的に、オープンバンキングとは、APIを使用して消費者の金融データを第三者に公開するプロセスを指し、これにより、第三者が独自の金融商品を設計、構築、販売できるようになる。これらの商品の有用性(つまり、収益性)は、莫大な資本を保有していることによるのではなく、収集・保管しているデータに起因する。

オープンバンキングモデルにはいくつかの課題がある。1つ目の課題は、このような形でデータを共有することに対して常に利用者の同意を得るために、より厳密なシステムを開発する必要があるということである。フィンテックの黎明期には、利用者がデータを提供することに対してかなり寛容で、米国のユーザーの約60%がプライバシーよりもフィンテックを選ぶという調査結果もあった。しかし現在、オープンバンキングのシステムで共有されるデータの種類と量は、これまでの金融商品よりもはるかに多くなっている。

こうした懸念にもかかわらず、オープンバンキングへの取り組みは世界各地で進んでいる。欧州の新しい決済サービス指令(PSD2)は、大手銀行が金融情報を第三者と共有することを要求している。アジアでは、中国のAlipayやWeChat、インドのTezやPayTMなどのサービスによって、すでに金融サービス市場が変化しつつある。そして、これらのサービスが提供する機能により、米国の金融システムにもオープンバンキングを導入することを求める声が高まっている。

中小企業へのサービス提供

米国の銀行業界がオープンバンキングの有用性を受け入れ、あるいは法律によってオープンバンキングを認めざるを得なくなれば、次のように恩恵を受けるグループがある。

  • 利用者は、現在よりもはるかに詳細なデータ分析に基づく、まったく新しいバンキングや投資商品を利用できるようになる。
  • これらの商品を設計・構築するフィンテック企業も、自社商品をもっと利用してもらえるようになり、利益率が向上する。
  • どんなにオープンなモデルであっても、どの第三者が消費者データにアクセスできるか、アクセスするための要件は何かを決定するゲートキーパーの役割を果たすのは銀行なので、銀行が恩恵を受けるのは確実である。

しかし、オープンバンキングで最大の恩恵を受けるのは中小企業である。これは、必ずしもオープンバンキングの枠組みが、中小企業にとって有益な新機能を提供するからということではなく、中小企業は従来型の銀行から十分なサービスを受けてこなかったという事実を反映している、といえるだろう。

中小企業がサービスを受けられない理由はたくさんある。従来型の銀行では、複数の金融機関や金融商品を資本として保有している中小企業の総合的な財務状況を把握する能力が極めて限られているため、資金の提供が非常に難しいのだ。

銀行にデータを送信するために、旧式で時間と手間のかかるインターフェースを利用しなければならないこともよくある。そして(おそらく最悪なのは)、ほとんどの銀行で使用されているB2B決済システムでは、利用する企業へのフィードバックが非常に限られ、情報が少ないことで、企業にとって大きな負担となることだ。

新しい機能

このような欠点を考えると、フィンテック企業が中小企業への融資に熱心であることも、中小企業が新しい銀行商品やサービスを積極的に求めていることも、驚くべきことではない。そしてもちろん、この分野ではすでにいくつかのサクセスストーリーがあり、今日、特に欧州の中小企業が利用できるバンキングシステムの種類は、10年前に利用できたサービスよりもはるかに進んでいる。

オープンバンキングはこの変革を加速させ、一般的な中小企業が利用できる金融サービスを、いくつかの方法でさらに大胆に改善することを約束している。銀行が保有するデータに第三者がアクセスできるようになることで、多くの中小企業が、その財務状況を初めて正しく評価してもらえることになる。

フィンテック企業は、APIを利用してさまざまな種類の口座、保険、カード、リースなどの複数の国にまたがる情報にアクセスし、データをまとめて1つの全体像に統合することができる。

こういったことは、中小企業の信用力の評価に大きな影響を与えるだろう。現在、多くの中小企業が資金不足に陥っているが、これは銀行が「貸借対照表」モデルを使わずに信用リスクを評価することを躊躇しているためだ。中小企業のビジネス活動をリアルタイムで分析できれば、銀行は信用リスクをもっと正確に評価し、より多くの企業に融資することができるようになる。

実際、オープンバンキング先進国では、このような取り組みがすでに行われている。英国では、Lloyds(ロイズ)がビジネスツールボックスを提供していて、口座の取引データに加えて、企業や役員の信用調査を無制限に行うことができる。

オープンバンキングは、これまでよりもはるかに進んだ同業他社比較分析も実現する。APIを利用すれば、該当の市場で中小企業がどのような業績を上げているかをリアルタイムでフィードバックすることができる。英国ではこれもすでに実現していて、Barclays(バークレイズ)は同社のスマートビジネスダッシュボードで、マーケティング費用を最大限に活用するためのツールを提供している。このダッシュボードはカスタマイズも可能だ。

集約したアカウント上に構築されたインテリジェントなデータ分析によるインサイト、レコメンデーション、自動プロンプトなどの主要な機能は中小企業にとって非常に有益なので、これらの機能を提供するフィンテック商品の人気は高まるだろう。

銀行や代替融資機関にとっては、これらのモニタリングツールから得られる情報を活用することで、これまで資金提供が困難だった中小企業に対して、承認済みの融資枠をタイムリーに提供するなど、より積極的な融資を行うことができるようになる。

結論

中小企業は、データ分析に基づく付加価値サービスを受けて成長することができるのであれば、ほぼ間違いなく喜んで手数料を支払うだろう。これはフィンテック業界にとって重要なことだ。この分野のスタートアップ企業の中には、すでに巨額の資金を調達しているところもあり、オープンバンキングが技術と経済の関係の中心にあるのもそれが理由だ。

ここまで見てきたように、すでにフィンテックが成功していたとしても、それは物語の始まりに過ぎないと考えられる。オープンバンキングの取り組みに後押しされたフィンテックは今、バンキング革命の最前線にある。この革命により、各中小企業はそれに相応しいサービスを受けられるようになり、経済全体でそれらの企業の真の可能性を引き出せるようになるだろう。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:コラムオープンバンキングオープンAPI銀行中小企業

画像クレジット:Richard Drury / Getty Images

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(文:Lee Li、翻訳:Dragonfly)