アプリ開発のNagisaがiOS事業を終了、生々しいその経緯を明らかに

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10月にアップルが開発者アカウントを停止し、App Store上から自社アプリが一斉に削除されたNagisa。業界には様々なウワサが錯綜し、それに対してのアナウンスもしていた同社だが、12月11日には自社で提供するiOSアプリ事業のサービスを終了すると正式に発表。今後は受託制作、事業提携・協業等でiOSアプリを提供するほか、事業譲渡でのサービス提供の道を模索するとした。加えて、開発者アカウントの復旧に向けてアップルとは協議を継続するとしている。

この11日の発表だけでは、結局のところNagisaはなぜアカウントの停止措置を受けたのかという詳細は分からないままだった。そのため、これまでに同社が否定していた話も含めて「マンガアプリ上に性的描写があったのではないか」「SNSの運用監視を怠ったのではないか」といったウワサが流れた。だが14日、Nagisaはその経緯について生々しい内容を含めた発表を行っている。

性的描写や広告SDK、審査時のコンテンツ表示が原因

同社の発表によるとアカウント停止の理由は、(1)一般漫画作品の一部にある性的描写での規約違反、(2)既存アプリのアップデート未対応による広告SDKでの規約違反、(3)コンテンツの開発環境と本番環境の出し分け——の3点だ。

まずマンガの性描写について。アップルは以前から表現規制に厳しいという評判があったが(以前だと、マンガ内に描かれたMacbookのアップルマークが問題になったなんて話もある)、規約こそ開示しないものの、性描写についても日本の商業誌以上の規制を行っている。

Nagisaいわく「米アップル社からのご指摘を受け、作品の掲載取り下げ、及び性的描写の該当箇所の白塗り修正を順次進めておりました(中略)米アップル社へ複数回に渡る確認を行っておりましたが、十分な見解を得られることができず(中略)修正作業人員の不足から、迅速な対応が行えていたとは申し上げられない状況でした」という状況だったのだという。同社はアダルト作品については掲載していないとアナウンスしているが、アップルの(明確にしていない)規約上はたとえ一般誌のマンガであってもアウトだったということだろう。

また同社は過去3年間で100個以上のアプリを提供しているが、その広告実装に問題があったというのが2つめの話だ。同社も「具体的なアプリ名について米アップルからのご指摘はなく、いくつかのアプリで規約違反があるという報告をいただいておりました。」としている。僕も数社のアプリ開発者に話を聞いたところ、アップルでは具体的に問題箇所を指摘したり、修正の確認をしたりということはないそうだ。そのため、開発者側で「修正したつもり」であっても、アップル側から見ればペナルティが重なっていったということがあるということだろう。

また3つめに挙げた「コンテンツの開発環境と本番環境の出し分け」だが、Nagisaの説明によると「これまでマンガアプリの審査に3ヶ月以上を要したことがあり、800作以上にのぼる作品のチェックによる審査の遅延を考慮に入れた」ため、審査中のアプリの対応は、一部コンテンツのみが公開されている開発環境を利用していたということだ。つまり、審査をスムーズにするためだというのが言い分だが、それをアップル側が問題視したというわけだ。

これに関連しては「開発者あるある」とでも言うべき話を聞いた。例えばカードゲームアプリなんかであれば、規約上アウトもしくはグレーなコンテンツ(例えば性的描写そのものでなくても、きわどいイラストなど)はアプリ審査中には表示しないようにしておき、審査後に改めて表示するといったことは、アプリ開発者の間では時々聞くような話なのだそう。Nagisaがどんなコンテンツを表示しなかったのかは明らかにされなかったが、「すべてを開示していない」ということ自体が指摘すべきポイントになったことは間違いない。

ユーザーに対して謝罪

僕は経緯を説明したリリースが公開されるのと前後してNagisaに問い合わせを行っているが、リリースにも「これまで長くご愛用してくださったユーザーの皆様にはご迷惑をおかけいたしまして大変申し訳ございませんが、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。」とあるように、同社からはユーザーに対する謝罪のコメントを得た。

アップルはアプリビジネスの個別具体例に関しては関して一切アナウンスを行っていないし、アプリやアカウントが停止措置を受けた際、アプリ開発サイドがここまで詳細な説明をするのは異例のケースだ。詳細を公開したのは、アプリのアップデートができないユーザーなどへの謝罪という観点が大きいのではないだろうか。

ただしそもそも論で言えば、アップルという企業のプラットフォームに乗ってビジネスをする以上、彼らが正しかろうが、そうでなかろうが、ルールはルールだということだ。プラットフォーマーの意向に沿わなければ、いつでも、誰でも、こういった事態が起こりうるということなのだろう。

健康ITのFiNC、今度はゴールドマン・サックスから資金を調達

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先週ANAホールディングスやクレディセゾンなど大手企業を中心とした資金調達を実施したヘルスケアITのFiNCだが、今度はThe Goldman Sachs Group(ゴールドマン・サックス) の本社経営委員会メンバーからの資金調達(先週発表のシリーズBの追加出資)を実施したことを明らかにした。金額や出資比率は非公開。

元みずほ銀行常務の乗松文夫氏を代表取締役副社長CAO兼CWOに、元ゴールドマン・サックス証券幹部の小泉泰郎氏を代表取締役副社長CFO兼CSOにそれぞれ招聘。元ミクシィ代表取締役の朝倉祐介氏や元LINE株式会社代表取締役社長の森川亮氏らを戦略顧問に据えるなど経営陣の強化に努めてきたFiNCだが、このステージの国内スタートアップにゴールドマン・サックスが出資するというのは珍しいケースだ。

FiNCでは今回の調達を契機にグローバル事業の本格展開を進めるとしている。

クラウドキャストがセゾンとIMJ-IPから資金調達、経費精算サービスにクレカ連携機能

lg_staple_intro-3121e45fa784275f1d3ab97e3cd8c23f経費精算サービス「Staple(ステイプル)」を提供するクラウドキャストは12月11日、クレディセゾン(6月に設立した100%子会社のセゾン・ベンチャーズからの出資だ)およびIMJ Investment Partners(IMJ-IP)を引受先とした第三者割当増資を実施することを明らかにした。調達額や出資比率は非公開だが、関係者によれば数億円前半程度の規模になる模様。

Stapleは2014年9月のリリース。アプリへの入力で手軽に経費精算ができるほか、交通系ICカードの読み取り、会計システムとの連携にも対応している。金額は個人向けが無料、承認フローなどを備えた法人向けが1ユーザー月額600円となっている。これまで広告や人材、不動産、全国展開の小売業などの業種の中小・ベンチャー向けにサービスを提供しており、無償・トライアルを含めて150以上の企業・組織で利用されている。

同社ではクレディセゾンとの資本提携を機に、クレディセゾンの3500万人の顧客基盤や永久不滅ポイントなどと連携。Staple の機能拡張および顧客基盤拡大していくとしている。具体的には、クレジットカードの利用履歴をもとに、自動で経費を登録する機能を提供していく。

開発基盤も強化する。クラウドキャスト代表取締役の星川高志氏によると、直近2カ月弱で有償ユーザーの数が2倍になるという状況なのだそうだ。今後は領収書の読み取り機能なども提供する予定だとしている。

協業のイメージ

協業のイメージ

職人が適切な所得を得られるように——縫製マッチングプラットフォーム「nutte」の挑戦

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「10年縫製をやっていたが貧乏で嫁にも逃げられて…でも何かこのビジネスを変えるいい方法がないかと考えていた」——招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2015 Fall Kyoto」のプレゼンバトル「LaunchPad」で第2位となった縫製特化のクラウドソーシングサービス「nutte」。サービスを提供するステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏との会話は、こんな話から始まった。

縫製職人の厳しい環境

大学生の頃からファッションブランドを立ち上げることを目標にしていた伊藤氏。大学卒業後にまず広告デザインの会社で働き、資金を貯めて縫製の専門学校に入学。専門学校の卒業後に晴れて縫製職人となるが、同氏を待っていたのは厳しいビジネス環境だった。

伊藤氏に聞いたところだと、一般的に縫製職人は個人が自宅で、もしくは少人数が小さなアトリエで作業するのだという。そして取引先から発注される仕事を受けることで生計を立てている。だが職人側から積極的に取引先たるメーカーなどに直接取引の提案を行うことはあまりないのだそう。

ステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏

ステイト・オブ・マインド代表取締役社長の伊藤悠平氏

さまざまなケースがあるのであくまでざっくりとした話になるのだが、「振り屋」と呼ばれるエージェント的な業者(これはOEMメーカーだったり、商社だったり、エージェント専業だったりと状況によって異なる)がメーカーからの生産依頼を受けて縫製職人に仕事をアサインすることが多い。

これはメーカー側、工場や職人側の手間を減らす構造とも言えるが、一方で中間業者ありきの構造とも言える。職人が新規の取引先を自力で開拓することは難しいし、安価な海外への発注が増えるなどして価格競争に陥り、職人に支払われる金額は下がる一方なのだそう。

その結果、著名ブランドのサンプルを作っているような技術を持った職人であっても、1枚2000円のシャツまでを縫製しないと生活が難しいという状況もある。振り屋側もビジネス。注文量や注文額大きくないと自分たちの事業が成り立たないため、サンプル縫製など小ロットの注文を受けることは難しいという。

クラウドソーシングの仕組みで職人を支援

伊藤氏はこの小ロットの注文と縫製職人を直接繋ぐことで、縫製業者の収入を確保する道を模索していたのだそう。そんなときランサーズのサイトを知る。そこからクラウドソーシングの仕組みを使うことで、この課題を解決できないかと考えるようになった。

そこからの動きは速かった。東京都が2014年に開催したビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」に参加。それと並行してエンジニアを口説き、開発体制を整えた。そしてビジコンで出会ったメンバーも巻き込むかたちでチームを組成。2015年2月にnutteを公開した。

nutteは縫製を依頼したいユーザーと、登録した縫製職人をマッチングするサービス。ユーザーが制作物の詳細や金額、納期などを設定して案件を登録すると、興味を持った縫製職人がユーザーに連絡、条件が折り合えば案件成立となる。職人は期限内に縫製を終えて納品(一度nutteに送付し、検品した後ユーザーに送付することになる)。ユーザーが支払いを行う。料金の20%が手数料としてnutteに支払われる。商品は1点から発注可能。作り手を検索してメッセージを送ることもできる。近いサービスとしては、縫製工場のクラウドソーシングサービスである「シタテル」がある。

当初は100人程度の職人をネットワークし、ノンプロモーションでサービスをスタート。展示会用のサンプルなど、小ロットの発注を積み重ねていった。現在は1800ユーザー(発注者)、登録する職人は数百人にまで拡大した。3000万円のシードマネーを調達した11月以降、広告の配信も始めた。10月比で売上数は4倍に伸びた。

法人向けの発注を中心にしつつも、CtoCコマースのような個人発注も拡大中だ。例えばコスプレ衣装の縫製などはニーズの高い案件となっている。案件は発注者側が登録するが、その成約率は約90%。「よほど安い、納期が短いという案件でない限りは成約している」(伊藤氏)。最近ではセミプロクラスの職人の登録にも積極的だ。ドレスやジャケットのような本格的な縫製ニーズだけでなく、ぞうきんや巾着袋といったちょっとした縫製のニーズも高いためだという。

今後は一級和裁技能士の登録も促し、本格的な着物の縫製までに対応できる仕組みを作るほか、技術力の高い職人がほかの職人の品質テストをするような組みも導入する予定だ。「これまで誰も儲からないで幸せにならない状況。縫製職人が適切な所得を得られるのが最大の目的。それを実現できる状態をつくるのがまず最初の目標」(伊藤氏)

11月に3000万円の資金を調達

ステイト・オブ・マインドは11月にみずほキャピタル、ガイアックスグループのほか、元クックパッドCFOでミューゼオ代表取締役の成松淳氏、ピクスタ代表取締役社長の古俣大介氏、公認会計士で元みんなのウェディング社外監査役、エルテス社外監査役の本橋広行氏などから合計約3000万円の資本調達を実施。このほかにも著名なスタートアップ企業家複数人がエンジェルとして同社を支援している。

中でも古俣氏はビジコン時代に出会って以来のメンター的な起業家だという。「1年前まではガラケーを使って、デットとエクイティの違いも分からなかったが、ITや起業に強い人たちが支援をしてくれている」(伊藤氏)。同社では、2016年12月までにユーザー数3万人、累計取引件数5000件、流通額2億円を目指す。

トイレを使って全自動のヘルスモニタリング——健康IoTのサイマックスが資金調達

ヘルスケアIoT製品を開発するスタートアップのサイマックスは12月9日、Draper Nexus Venture Partners II,LLC、iGSインベストメントワークス(アイスタイル傘下のCVCだ。詳細はこちら)および個人投資家から資金調達を実施したことを明らかにした。調達額は非公開で、今回がシリーズAの調達となる(IoTスタートアップを支援するインキュベーターのABBA Labからシードマネーを得ている)。払い込みは11月で、リードインベスターはDraperとなっている。

サイマックスは2014年6月の設立。代表取締役の鶴岡マリア氏は以前、インキュベーターのサムライインキュベートで投資家の支援から新規事業までを担当していた人物だ。同社のオフィス兼コワーキングスペース「Samurai Startup Island(SSI)」の立ち上げにも関わっており、こちらのスペースで同氏を見たことがあるというスタートアップ関係者も少なくないのではないだろうか。

残念ながら同氏が手がけたサービスは終了してしまったのだが、その後サムライインキュベートを退社、起業の準備を進めてきた。

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タンク左側に見えるのがサイマックスの製品だ

サイマックスが開発するのは、世界初となる小型・低価格のトイレ後付け型の分析装置とヘルスモニタリングサービス——もう少し具体的に説明すると、自宅や施設のトイレに後付けで設置し、自動で排泄物の分析を行うというもの。

こちらの写真を見て欲しいのだが、便器内にセンサーを設置、タンク左に付いている装置でデータを取得、クラウド上にデータをアップして解析、その結果をスマホアプリで閲覧できるというものになる。

その精度は非常に高いそう。またクラウド上で解析を行うため、逐次その検査方法もアップデートできるのも強み。すでにヘルスケアメーカーなどが競合製品を提供しているが、鶴岡氏いわく強みとなるのは検査項目の多さと価格。

サイマックスの製品で検査できる項目は早期の糖尿病(完全に治せるフェーズ)、痛風、高血圧・心疾患リスク、感染症などのスクリーニングやモニタリング。「発見できる疾患数は桁違い」(鶴岡氏)。また価格は競合製品では200万円程度のものから数千万円のモノ(病院や検査機関にある装置)まであるそうで、手軽に導入するのは難しそうだ。サイマックスの製品価格は非公開ながらそれよりも安価に導入できるとしており、さらに「施設のトイレに導入して使用する場合、1回980円でサービスを提供できる予定」(鶴岡氏)とのことだ。

同社は2014年以降製品を開発を進めてきた。最近ではメドピア主催イベント「Health 2.0-Japan」内で行われたヘルステックのピッチコンテスト「Afternoon Pitch Competition」に出場して優勝するなど徐々に露出を始めている。

サイマックスでは以前、血液1滴で疾患の検査ができるというプロダクトを開発していた。そこからトイレを使った全自動なシステムにピボットしたようだ。「病院に行かず、この場で腫瘍マーカー検査ができるとしてユーザーテストを行ったが、針を使って血を抜くこと自体をやったことないので抵抗があるという人が多かった。予防領域だと『血を抜く』という行為はハードルが高かった」(鶴岡氏)。そこでより簡単に疾患をチェックできるものを…と思い、現在のプロダクトにピボットした。今後はテスト導入を進めていき、来夏にも正式にリリースする予定。

メルカリはすでに黒字化、数億円の利益を生んでいる

メルカリの山田進太郎氏

僕は現在、12月8〜9日に京都で開催されている招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2015 Fall Kyoto」(IVS)に参加中だ。セッションの内容をはじめとして気になる話はあると思うが、注目集まるCtoCコマースサービスのメルカリについて新しい数字を聞いたのでここで紹介しておこう。

先日開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2015」にも登壇してくれたメルカリ代表取締役の山田進太郎氏。登壇の際にも、日米で2500万ダウンロード(米国は500万DL以上)という数字や、世界展開について語ってくれた。今日山田氏に聞いた話によると、メルカリはこの数カ月で数億円規模の単月黒字体制になっているのだという。

ちなみにメルカリは11月24日に第3期の決算公告を出している。それによると売上高は42億3779万円、営業損失11億432万円、経常損失10億9996万円、当期純損失11億460万円。

ただし同社はこの数字以上の成長をしているのだそう。どういう意味かというと、同社の第3期というのは、2014年7月から2015年6月末まで。一方で同社がサービス手数料を取得するようになった、つまり売上が出るようになったのは2014年10月から。それまでに出品されていたアイテムに関しては手数料をかけていないのだという。メルカリの手数料は10%のため、同社の売上高が42億円であれば、プラットフォーム上での取引額はその10倍の420億円と単純計算できそうだが、手数料無料の商品も売れているわけで、その取引額は420億円以上(山田氏いわく、420億円の百数十パーセント程度)になるのだそうだ。

また海外(米国)事業だけを見ると目下グロース中で、赤字を掘り続けている状況。業界関係者から「海外事業がなければすぐにでも上場できる業績ではないか」なんていう話も聞いたのだが、山田氏もそれを否定することはなく、「海外戦略も含めた『エクイティストーリー』をどう描くかが課題」だと語っていた。米国では競合サービスである「Poshmark」が事業規模としては大きいそうだが、これも「来年にはゲームチェンジできるのではないか」(山田氏)としている。

CTO・オブ・ザ・イヤー2015は「疎結合で非同期なチーム」を率いるソラコム安川健太CTOに

TechCrunch Tokyo 2015の1日目である2015年11月17日、今年で2回目となる「TechCrunch Tokyo CTO Night powered by AWS―技術によるビジネスへの貢献:CTO・オブ・ザ・イヤー選出LT」が催された。スタートアップのビジネスに技術で貢献するCTO(最高技術責任者)を称えようという趣旨の場である。

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まず結果をお伝えする。今年の優勝者はIoT向けモバイル通信サービスをクラウド上に構築して提供するスタートアップであるソラコムの安川健太CTOである。司会からは「非常に接戦でした」のコメントがあった。ソラコムは抜群の事業アイデアと鮮やかな事業立ち上げが強い印象を残した。とはいうものの「接戦」との表現は、他社のCTOも高水準のトークを繰り広げたことを示している。以下、その内容を紹介していこう。

このCTO Nightの審査員は次の面々だ。グリー 藤本真樹CTO、DeNA 川崎修平取締役、クックパッド 舘野祐一CTO、はてな 田中慎司CTO、サイバーエージェント 白井英 SGE統括室CTO、アマゾン データ サービス ジャパン 松尾康博氏(ソリューションアーキテクト)。以下、LT(ライトニングトーク)の登壇順に内容を紹介する。

「書いたことがなかった」Pythonベースの決済サービスを立ち上げ―BASEの藤川真一CTO

オンラインショップ開設サービスのBASEの藤川真一CTOは「Pythonを書いたことないCTOがPythonベースの決済サービスを始めるまで」と題して発表した。

同社はオンライン決済サービスPAY.JPをこの2015年9月に立ち上げた。PAY.JPは、RESTful Web APIでカード決済をしてくれる。「米国の決済サービスStripeやWebPayと互換性があるのでスイッチングコストがほぼゼロで移行できる」。スタートアップに対して手軽な決済サービスとして提供するだけでなく、将来的には「日本のエスタブリッシュ金融パートナーとの連携」も視野に入れる。単に同社のオンラインショップで活用するだけでなく、いわゆるFinTechの文脈で野心的な展開を考えているのだ。「新しいインターネットの経済を創りたい」。

同社は2014年12月にオンライン決済サービスのピュレカを買収し、そのチームとソフトウェア資産を継承してPAY.JPを立ち上げた。CTOの藤川氏によれば「CEOからメッセージが来てピュレカを知り、7分で買収の決定をした」そうだ。

この買収により直面した課題は、プログラミング言語と開発者文化が異なるチームとソフトウェア資産の評価とマネジメントだ。BASEの構築には言語としてPHP、フレームワークとしてCakePHPを使っていたのに対して、ピュレカの決済サービスはPythonで構築されていた。「CTOとして、それまで知らなかった技術、プロダクトをどうするか」という課題を乗り越えるためのチャレンジについて藤川氏は語った。

異なる開発者文化で作られたピュレカのソフトウェア資産を評価するため、「ピュレカ創業者と仲良くなったり、(Pythonに詳しい)柴田淳さん、寺田学さんにコードレビューをお願いしたり」と藤川氏は言う。日本のソフトウェア開発者コミュニティの人脈を活用して技術のデューデリジェンスを行った格好だ。

次に藤川氏は、「Pythonという技術を好きになる」ための行動を始めた。日本国内のPythonコミュニティで最大のカンファレンスであるPyCon JP 2014にBASEとして出展した。ただし、この時点では自社のPython活用プロダクトはまだできていなかったため、「脆弱性診断ということで、CakePHPのプロダクトを好きにクラックしていいよ」という出展内容とした。ここでPythonコミュニティと「仲良くなった」ことで、藤川氏は翌年のPyCon JP 2015ではある企画のモデレータ役を担当している。

このLTで、藤川氏は「買収する技術への包容力」として次の3点を挙げる。(1) チームメンバーを信頼する。(2) 開発技術を好きになる。(3) 最後はケツを持つ覚悟。企業をプロダクトごと買収するということは、相手のチームと、そのバックグラウンドにある技術文化を受け入れることだ。文化が異なる企業を買収し、無事サービス開始までこぎつけた藤川氏のトークは「やり遂げた」自信を感じさせる内容だった。

「Qiitaを良くする」ことに注力―Incrementsの高橋侑久CTO

エンジニア向け情報共有サービスのQiitaのIncrementsは、2013年4月に高橋CTOが参加した時点で、エンジニアはCEOとCTOの2名だけという会社だった。「1人CTO」から始めた高橋氏は、少人数組織でのCTOの役割は「まずプロダクトを作ること。次にチームを作ること」と語る。また「同じことをずっとやっているのはつらいので、何かを自動化することを意識的にやっていた」とも語る。チーム作りは「大事にしたい価値観を共有できて、それを求める能力を持っている人を、なんとかして連れてくる」ことを続けた。そのために「どういう人と一緒に働きたいか」をリストにした。自律的に行動でき、オープンソースに積極的、といった基準だ。そして求める能力は、「学習能力と意欲があって既存のメンバーにない能力を持っている人だと考えた」。

最近、元Googleの及川卓也氏がIncrementsにジョインしたことが話題になった。「やったな! という感じです」。このようにプロダクトへの思い、チームへの思いをストレートに語り、最後に「俺達のチームビルディングは始まったばかりだ!」と高橋氏は締めくくった。審査員からの「(チームが大きくなって)CTOの仕事を他のメンバーに委譲していくとして、最後に残るものは?」との質問に対しては「Qiitaを良くしたいという気持ちです」と返した。

Webの力でものづくりを加速―フォトシンス (Akerun) 本間和弘CTO

スマートフォンでドアを解錠でき、デジタルな「合鍵」を共有できるサービスAkerunを提供するフォトシンスの本間和弘CTOは、「プレゼンボタン」と呼ぶガジェットを手にして登壇した。ボタンを叩くと、その情報がBLE Notificationによりスマートデバイスに飛び、MQTT経由でAWS IoTが中継してパソコンに渡りWebSocket経由でプッシュ、プレゼンスライドのページ送りを実行する──この一連の動作説明で審査員の笑いを取ることに成功した。いかにもテックな人たち向けの掴みだ。

本間氏は、同社のスタイルについて「ハードウェアの開発期間を、通常2年かかるところを半年に短縮したかった」と表現する。その解決方法として、次の各種を説明した。1番目は、後から変更可能なファームウェアを採用したことだ。スマートデバイスと同様に、アップデートによりファームウェアを進化できるようにした。これにより、製品出荷前に仕様や評価工数が膨らむことを抑制した。「その機能は今は必要ないよね、と言えるようにした」。また機能の一部、例えば電池の電圧をパーセント表示に変換する機能をデバイスではなくクラウドに置き、ファームウェアの仕様を増やさないようにした。

2番目は、ハードウェアの耐久試験を自動化してスピードアップしたことだ。10万回のテストを実施している。iOSでテストスクリプトを書き、Akerunの情報をBLEで取得してWeb APIでサーバーに送りグラフ化、リアルタイムで各種情報を可視化・確認できるようにした。

3番目は、ハードウェアの製造工程を「Web化」したことだ。例えば、ファームウェア書き込みの工程ではChromeブラウザで動くアプリ「ファーム書き込みくん」を活用する。エラーが発生すればSlackへ通知する。こうした工夫により、2014年9月に創業した同社は、翌年の2015年3月に記者会見で量産品のデモを見せ、同4月には出荷開始に至っている。「Webのちからをものづくり自体に組み込む」ことによりハードウェア製品の製造をスピードアップすることが同社のやり方だ。

2人CTO体制のメリットを説明したトランスリミット 松下雅和CTO

トランスリミットの松下雅和CTOは「2人CTO」についてプレゼンテーションを行った。同社はエンジニアが8割を占め、主要事業は、2本のゲームアプリ──対戦型脳トレのBrain Warsと物理演算パズルのBrain Dotsだ。累計ダウンロード数は3000万ダウンロードの実績を持つ。松下氏は2人目のCTOだ。もう一人の工藤琢磨CTOと、それにエンジニア出身の高場大樹代表取締役社長の3人による技術経営の体制を取っている。

同社は、最重要課題として「技術力を向上したい」と考え、2人CTO体制を導入した。工藤氏はクライアント側、新規事業の創出を担当する。「工藤は0から1を作るタイプ。Brain Warsをほとんど1人で作り上げたスーパーエンジニア」と紹介する。一方の松下氏は、「1をスケールするタイプ」でサーバー側と開発体制の強化を担当する。「攻めの工藤、守りの松下です」。ダブルCTO体制のメリットとして、得意分野を分担して注力できること、多様な視点で技術選択ができること、技術軸と事業軸で経営判断できることを挙げる。「分業ではなく、分担です」と、いわゆる縦割りとは違うことを強調した。

松下氏が個人として大事にしていることは、「自走できるチーム、スケールできるチーム」と説明。そのための「会社で一番の球拾い」を自認している。審査員からは「2人CTOでケンカはしないんですか?」と質問が飛んだが、「一緒にテニスをしたり仲良くやっています」とのことだった。

技術的チャレンジが会社の強み―Vasily (iQON) 今村雅幸CTO

「女の子のためのファッションアプリ」iQONを展開するVasilyの今村雅幸CTOは、同社にとって「技術的チャレンジが、ビジネスの源泉、会社の強みになっている」と語る。

今村氏は、同社の事業を支える3本柱と、それぞれの技術的チャレンジについて説明した。(1) iOS/Androidアプリはすべて内製し、特にUIにはこだわった。iOSアプリはApp Store BEST OF 2012を、Android版はGoogle Playストア2014ベストアプリに選出された。(2) ECサイトクローラーも内製し、AWS上で動かしている。カテゴリ分けの自動化も徹底し、精度97%を実現。700万アイテムと「日本一のファッションデータベースを構築できた」。OEM販売で数千万円の売上げに結びつけている。(3) ネイティブアド配信では、開発期間3週間でiOS/AndroidのSDK、配信ツール、入稿ツールなどをすべてAWS上で内製した。「iQONが持つビッグデータと統合することで効率的に売上げを上げることができた」。このように、技術的チャレンジが同社の活力の元になっているというわけだ。

今村氏は技術を活性化するため、「技術でユーザーの課題を解決する」「技術的チャレンジをし続ける」ほか全5項目の「VASILYエンジニアリングマニフェスト」を作った。「毎日マニフェストを口にする。目が合ったら言う」。「CTOの仕事は技術的チャレンジが生み出されやすい環境を生み出すこと」と表現する。

チームもアーキテクチャも疎結合で非同期―ソラコム安川健太CTO

IoTプラットフォームを提供するソラコムの安川健太CTOは、以前は大手通信機器メーカーの研究機関であるEricsson ResearchでIoT関連の研究開発に従事していた。「クラウドのことをもっと知りたい」とAmazonにジョイン、AWSのソリューションアーキテクトとして活動、その後米シアトルのAWS開発現場も目にした。その過程で「テレコムのコアネットワークをクラウド上で実現できるはずだ」と思った。ある晩、ある人(ソラコムCEOの玉川憲氏のこと)と飲みながら思いをつぶやいたことがきっかけとなり(関連記事)、「世界中の人とモノをつなげよう」という思いを持つに至った。こうして立ち上げたのがソラコムである。

2015年9月30日に、2サービスをローンチした。SORACOM Airは、「一言でいうとプログラマブルなセルラー通信サービス」だ。特徴として、コアネットワークをソフトウェアで独自に構築、AWS上で運用している。帯域制御や回線の開け閉めもAPIでコントロールする。APIは公開しているので、自動化も容易だ。「例えば監視カメラで静止画を低速で送っているが、アラートが上がったときに通信帯域を広げて動画を送るシステム」も作ることができる。

DSC00015SORACOM BeamはIoTデバイス向けのデータ転送支援サービスだが、インターネットを経由する通信を、デバイスではなくクラウドのリソースを使い暗号化する。APIによる操作も可能なので、データの送り先を、APIで切り替えることもデバイスの設定を変えることなく実現可能だ。

クラウドサービスとしてプログラマブルなこと、すなわちAPIにより操作可能なことが同社サービスの大きな特徴だ。そこで開発者支援は同社にとって重要となる。先日開催されたデベロッパーカンファレンスも大盛況のうちに終了した。プラットフォームなのでエコシステム形成も重要だ。そこでSORACOMパートナースペース(SPS)と呼ぶプログラムを立ち上げ、すでに100社近くの企業が参加している。

安川氏は「ソラコムの裏側」として同社のチームを紹介した。同じチームが開発し、運用し、サポートも手掛ける。「これはAWSの開発チームと同じ運用で、フィードバックを生かした素早い改善ができる」。チームは1日1回30分の全体進行のシェアをするが、それ以外はSlackで連携しつつ非同期で動くチームとなっている。サービスローンチ後も、次々と新しい機能の追加、改善を続けている。システムはマイクロサービス群として作られており、独立して開発、運用できる。「チームもアーキテクチャもふだんは疎結合で非同期、でもインテグレートすると大きな力を発揮する」と締めくくった。

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2015年、CTOオブ・ザ・イヤーに選ばれたソラコムCTOの安川健太氏

「技術的に大変だったところは?」との質問には「ユーザーのネットワーク通信をソフトウェアでターミネートしている。これは世の中には出回っていない、技術者が多くない技術。本来はアプライアンスでやることが多い。そこを一から設計してクラウドネイティブにしたところが、我々の一番の成果」と説明した。

「ゴール駆動開発」を提唱―airClosetの 辻亮佑CTO

女性向けファッションレンタルのairClosetの辻亮佑CTOは、「DevOpsとゴール駆動開発」について語った。

「ゴール駆動開発は私が作った言葉。DevOpsという言葉にはよく分からない部分がある。本質は、開発者と運用者による自動化および効率化。それを実現する手段がゴール駆動開発だ」と辻氏は話す。

同社のサービスは「服を扱う」という固有の事情からヒューマンエラーが必ず発生する。そこでエラーの発生を監視するシステムを作った。またデータベース分析のためのツールを導入、非エンジニアでも分析できるようにした。アパレル業界では「シーズン」の概念があり、服に対して「どのシーズンで着るのか」という情報が必ずある。ここで1つの服に複数のシーズンを設定できるようにし、服のライフサイクルの長期化、検索の最適化を実現できた。

辻氏によれば、同社では「エンジニアがハブになってビジネスを動かしている」。「エンジニアは効率化が得意。最適な解を見つける上でゴール駆動開発はわかりやすい」。

紙という強敵と戦う―トレタ増井雄一郎CTO

レストランの予約管理、顧客管理サービスを提供するトレタの増井雄一郎CTOは、同社のサービスについて「競合は、紙です」と表現する。飲食店の受付、予約管理は「紙」を使う場合が多い。「紙は直感的で誰でも使えて応答速度が速く安価。でも処理ができないので、入力内容をコピー&ペーストもできなければ、バックアップを取ることも難しい」。コンピュータ操作に慣れていない人も多い飲食店の分野でいかに使ってもらうかが同社にとって最大の課題だ。「紙という強敵と戦っています」。

同社のサービスはリリースして2年で約4000店舗に導入されている。初めて使う人でも紙と同様に使えることを目指した。端末はiPadだ。紙がライバルなので課題の解決も独特のために方法を採る場合がある。例えばレストランにはたいていファクスが置いてある。そこで、iPadにトラブルが発生したときのバックアップや、印刷が必要な時に備えてファクスに情報を出力できるようにした。バックアップの一環としてマルチクラウド対応も予定している。

「顧客目線を持ったエンジニアであること」が同社のチームのスタイルだ。ユーザーニーズをエンジニア主導で吸い上げて開発を進めている。「エンジニアはお客さんのことを知りたいと考えている。エンジニア自らが現場に行って使い方を見る。こうした主導性を持っていることがチームの特徴」。例えばiPadアプリがクラッシュしたときには、実際に店舗に行ってどのような状況でクラッシュしたかをヒアリングすることもする。ちなみに、同社は24時間サポートを実施しており、夜間のエスカレーションは増井氏のところに電話がかかってくる。これからのトレタについて「(レストラン向け情報サービス)ハブとして使われるようになりたい」と話す。

以上、8人のCTOによる熱いトークを紹介した。審査員らのコメントを見ても、新しいスタートアップ企業のCTO、エンジニアのチームがそれぞれの工夫を追求している姿は刺激になっていたようだ。「僕らがあの規模の会社だったときより、ずっと凄い」とグリー 藤本真樹CTOはコメントした。

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審査員を代表して総評したグリーの藤本真樹CTO

FiNCがANAほか東証一部上場企業などから第三者割当増資を実施、今後は事業提携も

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スマートフォンを活用したダイエット指導サービスなどを手がけるFiNCは12月7日、ANAホールディングス、全日空商事、クレディセゾン、第一生命保険、三菱地所、吉野家ホールディングス、ロート製薬、キユーピー、 ゴルフダイジェスト・オンライン、ネオキャリア、Fenox Venture Capital、グッドパッチおよび、既存株主から第三者割当増資を実施したことを明らかにした。調達額や出資比率は非公開。

FiNCでは今回の資金調達をもとに、人工知能による新サービスおよびプロダクト開発を行うとしている。今後はプロダクト開発に向けての人材を採用するほか、ウェルネスプラットフォームを強化するためM&Aや事業出資、マーケティングやプロモーションなどを進める。

ソフトバンクが10月に開催した新製品発表会の中で、IBMの人工知能「IBM Watson」を活用したヘルスケアサービス「パーソナルカラダサポート」(2016年3月以降提供予定)をFiNCとソフトバンクの共同開発で提供することが発表されていた。今後はこの製品や新プロダクトの開発を進めるということだろう。

またFiNCは10月にソフトバンクやANA、ネスレ日本、みずほ証券など発起人20社による「ウェルネス経営協議会」を設立すると発表している。今回の出資企業の一部はその発起人企業でもある。

予約台帳サービスのトレタがセールスフォースと資本業務提携、CRM機能を強化

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11月に累計登録店舗数4000店舗、登録社数2000社を超えたと発表している飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」。サービスを提供するトレタは12月3日、米セールスフォース・ドットコムと資本業務提携を実施したことを明らかにした。

資本提携ではセールスフォース・ドットコムの投資部門であるセールスフォース ベンチャーズを引受先とする第三者割当増資を実施しているが、調達額やバリュエーション等は非公開。ただしトレタが公表している2015年7月時点での資本金が1億7995万円、今回の増資後の資本金は2億3991万円であることから、資本準備金に組み入れる金額を考慮しても最大でも1億数千万円程度の調達である可能性が高そうだ。

トレタは今回の資本により、営業体制や開発力の強化を図る。また具体的なスケジュールに関しては現時点では公開していないものの、セールスフォース・ドットコムが提供するクラウドCRMサービス「Salesforce Sales Cloud」とトレタの連携を進めて行くという。これにより、トレタに蓄積された顧客属性や予約行動などのデータを活用した顧客サービスを提供していく。

トレタと言えば、ITリテラシーの低い飲食店ユーザーでも利用できるシンプルさをウリにしてきた印象が強かったので、正直なところどこまでユーザーからCRMに対するニーズが高いのかはかりかねるところがあった。だが同社代表取締役の中村仁氏いわく、この1年でそのニーズは急激に高まっているのだという。

「たとえ今まで新規集客に重きを置いていた店舗でも、トレタを使ってどんどん顧客情報が貯まっていくのを見たら、それは『宝の山』だと直感的に理解してくれる。顧客情報をもっと活用したいという声は、日に日に高まっている。 ただ、CRMといっても単に『DMを送りたい』というレベルの要望にとどまっているのも事実。今回の提携を機に、より簡単で高度なCRMソリューション(による常連作り)を提案していきたい」(中村氏)

ユーザーと配送業者をアプリでマッチング——ネット印刷のラクスルがシェアリング型の新サービス「ハコベル」

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印刷サービスの価格比較や見積もりからスタートし、印刷所の遊休資産を活用したネット印刷、そしてチラシを使った集客サービスを展開するラクスル。同社が新たに配送事業に参画する。同社は12月1日、新サービス「ハコベル」を公開した。

ラクスル代表取締役の松本恭攝氏

ラクスル代表取締役の松本恭攝氏

ハコベルはウェブサイトおよびスマートフォンアプリを使って、配送の予約が可能なサービス。ユーザーと、その周辺にいる配送業者のドライバーを直接マッチングする。集荷は最短1時間で、24時間365日予約申し込みが可能。GPSをもとに配送車両の位置情報を確認できるほか、5段階のドライバー評価制度といった機能を備える。

またラクスルが印刷会社の空き時間を利用して安価な印刷を実現しているように、配送会社の空き時間に配送をすることで安価な価格設定を実現した。一般的な運送サービスであれば最低価格で5000円程度だが、ハコベルは4500円からとなっている。また、GPS情報を利用して、明瞭な価格設定を実現しているのが特徴だ。サービスには冷蔵・冷凍便などのオプションも用意。当初のサービス提供エリアは東京、神奈川、埼玉、千葉、福岡。大手業者では集荷センターに荷物を集めて効率的な配送を行うため、段ボールのサイズや重さなどに規定があるが、ハコベルはいわばチャーター便。荷物のサイズ等はかなり融通がきくそうだ。

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配送を担当する車両は、一般貨物自動車運送事業の貨物自動車利用運送のためのもの——というとややこしいが、ようは認可を得た業者が保有する、黒字に黄色文字が入ったナンバープレートをつけた軽自動車だ。日本の運送業者は5万7440社。ただしトラック物流市場14兆円の50%は上位10社で占められている。ハコベルでは大手ではなく、中小・個人運営の業者とパートナーを組んでサービスを展開する。ちなみにこの仕組みは弁護士および国土交通省にサービスの適法性を確認しているという。

運転手には専用のアプリを提供。配送の依頼があるとアプリに通知が届き、内容を検討した上で仕事を引き受けることができる。逆にいうと、通知がきてもほかの配送をしている最中だったりして引き受けない場合は、依頼を断ることができる。なお、運転手に断られた依頼は、周辺にいるほかの運転手に通知される仕組みになっている。料率は今後調整していくが、ほかのシェアリングエコノミー系サービスと同様になる見込みだ(大体20〜30%程度と考えればいいのではないだろうか)。

同社では8月21日〜11月30日にかけて試験的にラクスルの既存顧客などに向けてサービスを提供していた。配送件数は433件、ドライバー173人で、もっとも多く運んだのは企業の「チラシ」。ラクスルの顧客は中小企業を中心とした20万社。このネットワークがすでにできあがっていることは、ハコベルを展開する上でも大きな力になる。もちろん個人利用も可能。これまでにソファーや自転車を配送するといったケースがあったそうだ。

海外にはGoGoVanなどの先行事例も

「○○版Uber」という表現は僕自身食傷気味なのだけれども、いわゆるシェアリングエコノミーの文脈のサービスという意味では「配送版Uber」なサービスだ。ただしそのUberもすでに香港では自動車をつかった「Uber Cargo」、ニューヨーク市では自転車を使った「Uber Rush」なる配送サービスをスタートさせている。

実はこの「配送×シェアリング」という領域、アジアでは「lalamove」「GoGoVan」といった先行者がいる状況だ。CrunchBaseにもあるが、2013年12月にローンチしたlalamoveは、これまでに2000万ドルを調達。香港のほか、中国やシンガポール、台湾(台北)、タイ(バンコク)でサービスを展開している。一方のGoGoVanは2013年6月のローンチ。これまでに2654万ドルを調達し、香港、台湾、シンガポール、中国、オーストラリア、韓国でサービスを展開している。

なお同社は本日発表会を開催している。TechCrunchではその様子とラクスル代表取締役の松本恭攝氏への個別取材もお届けする予定だ。

日米2500万DL突破のメルカリ、スケールの理由は「ピュアなC2Cサービス」

11月17、18日に、渋谷のヒカリエで開催したTechCrunch Tokyo 2015。初日のファイアサイド・チャットの1つでは、フリマアプリ「メルカリ」の創業者でCEOの山田進太郎氏とTechCrunch Japan編集長西村賢がセッションを行った。

2013年にリリースされ、翌年には北米に進出、2015年11月には日米通算2500万ダウンロードを突破したメルカリ。これまでTechCrunch Japanでは何度か山田氏に取材を行ってきていた。今回のセッションでは山田氏に改めて、C2Cサービスを始めた理由、メルカリ成長の秘訣、そしてC2Cサービスの本質とは何かを語ってもらった。

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メルカリ創業者でCEOの山田進太郎氏

スタートアップ当時の楽天で学んだ起業の原点

山田氏が大学4年生の時に就職活動をして入ったのは、現在の楽天。当時はまだ社員数が20人程度だった。山田氏がいた1990年代後半の頃の楽天といえば、楽天オークションを立ち上げる前の時期で、現在起業家やエンジェルとして活躍する人物が集まっていた。今となってはコードを書くようにもなった山田氏だが、当時はWord、Excel、PowerPointの扱い方も分からなかった。しかし、何かウェブサービスを作りたい、という思いはあった。本人いわく、「丁稚みたい」だったそうだが、楽天が上場したのは2000年。それまで毎週スタッフが1人か2人増え続けていたという状況の中で、ウェブサービスの作り方を学んでいった。今でも当時の楽天の盛り上がっていた雰囲気は原体験としてあるという。

大学卒業後に起業、そして連続起業家に

大学卒業後の2001年に創業したWebサービス企業のウノウでは、いくつもヒットサービスを生み出した。映画のレビューサイト「映画生活」は、後に「ぴあ映画生活」になるのだが、これが山田氏最初のバイアウト。その額は数千万円規模だったという。「映画生活」だけでなく、「フォト蔵」「まちつく!」などの成功もあり、ウノウはZyngaに数十億円で買収された。買収提案を受けずに会社としての独立性を維持するという選択肢もあったが、「世界で通用するインターネットサービスを作る」こと、というウノウで掲げたミッションのためには、Zyngaとやったほうが良いと考えたのだそう。Facebook上で圧倒的に強かったZyngaなら世界で通用するものが作れる。Zyngaだからこそ、ウノウの売却を決めたのだそうだ。「より多くの人に、より楽しく使ってもらえるサービスをやりたかった」(山田氏)

Zyngaへのウノウの売却はスタートアップとしては成功した「エグジット」ではあったものの、結局日本での事業は終了せざるをえなかった。GREE、mixi、モバゲーという三つどもえの中で、日本からFacebook上で何かパブリッシュすることは難しかったからだ。エグジットから2年、山田氏はZynga Japanを退職することになる。しかしこの時すでに、何か新しいことやろうと決めていたという。ネタは全く決めていなかった。ただ、せっかくウェブサービスをやるのだったら、より多くの人に、便利に、楽しく使ってもらうサービスをやりたい、と思っていた。

その思いを持ちつつ、1年間の充電期間を経てできたのが、メルカリだった。

ピュアなC2Cがスケールにつながる

メルカリでは、基本的に、企業がアカウントを持つことはできない。完全に一個人のユーザー同士がやりとりをするフリマアプリだ。その理由について聞かれると山田氏は、

「僕個人としては、いかにスケールするかを重要視しています。Bが入ってしまうと、在庫とか、物理的に限界があるような気がしています。Airbnbとか、Uberとか、一見Bっぽいですけど、あれだけスケールしているのはピュアなC2Cだからじゃないのかと思っています」(山田氏)photo02

面倒なやりとりは仕組み化してあげること

セッションの中で、テキストを打ったり、誰かとやりとりしたりすることをしたくない人も増えているのではないか、という質問が出た。ソーシャルネットワークやシェアリングエコノミーとは言うものの、実際には人とのコミュニケーションが面倒だということもある。

これに対して山田氏は次のように話した。

「住所や振込先などのやりとりは確かに面倒。でも、そういうのを仕組み化してあげて、オートマチックになっていったら、需要と供給が爆発的に増えるんじゃないか、それがメルカリで今起こっていることなんじゃないかと思っています。オートマチックなやりとりの後に、ご購入ありがとうございます、ってくるわけなんですけど、そういう心のやりとりというか、そういう人間的なやりとりにほっこりする、みたいな構造があるんじゃないかな、と」

北米進出から1年半、これまでの成果が見えつつある

アメリカと日本とでプラットフォームとしてのメルカリのスケールの仕方に、実はそんなに差はないという。メルカリは、リテラシーの高くない地方ユーザーから立ち上がってきているが、これは北米でも同様という。

現在アメリカでのダウンロード数は500万を超えているという。アメリカ単体では、まだまだ赤字だが、アメリカを攻略すれば、その次は世界が見えてくる。現在40人いるプロダクト製作チームは、ほとんどがアメリカ市場に専念しているという。今後、北米市場で存在感を出して世界市場へと広げていけるかどうか注目だ。photo03

IoTの世界観実現のためモバイル回線をクラウドでディスラプト、ソラコム創業者大いに語る

2015年に登場した日本国内スタートアップの中で、ソラコムは初期段階から注目されていた企業だった。AWS(Amazon Web Services)エバンジェリストとして知名度が高い玉川憲氏が創業し、その直後に7億円の資金を調達した。9月には、それまでステルスモードで開発を進めていたサービス内容を明らかにした。IoT向けのSIMを提供するSORACOM Airと、暗号化サービスのSORACOM Beamである。しかも発表と同時にサービスを開始し、さらに多数のパートナー企業の名前も公表した。まさに「垂直立ち上げ」と呼ぶにふさわしい鮮やかな手際を見せてくれた。

そのソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏に、TechCrunch Japanの西村編集長がざっくりと切り込んでいくセッションがTechCrunch Tokyo 2015の2日目、2015年11月18日に行われたファイア・サイド・チャット「創業者に聞く、SORACOMが開くクラウド型モバイル通信とIoTの世界」である。

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どのような問題を解こうとしているのか

ソラコムは、会社名でもあり、IoT向けプラットフォームの名前でもある。

同社は何の問題を解こうとしているのか。「IoTの世界観はすばらしい」と玉川氏は言う。実は玉川氏は約15年前、IBM東京基礎研究所の所員だった時代に「WatchPad」と呼ぶLinux搭載の腕時計型コンピュータを開発していた。「今でいうスマートウォッチですよね」と西村編集長。WatchPadのプロジェクトは途中で解散してしまい、これは玉川氏のキャリアの初期に遭遇した挫折となった。

だが、ここにきて、いよいよコンピューティング能力を持った小さなデバイスが世界を変え始めている。クラウドの普及、そしてRaspberry Piのようにプロトタイピングに活用できる安価で小型なコンピューティングデバイスの登場で、今ではモノとクラウドの組み合わせをごく手軽に試せるようになった。

「その一方で、通信回線がボトルネックになっている」と玉川氏。そこに目を付けたのがソラコムだ。IoT向け通信回線にモバイル通信を使うアイデアは有望だが、多数のデバイスにそれぞれSIMカードを挿すことになる。多数のSIMカードの調達や管理は、現状では非常に人手もかかるし高コストになる。「この問題を解くのがソラコムのサービス」と玉川氏は説明する。

携帯電話事業者は、基地局やパケット交換機などの設備に1兆円規模の巨額の投資が必要だ。基地局を借りてビジネスをするMVNO(最近は「格安SIM」といった呼び名の方が通りがいいかもしれない)の場合は基地局への投資の負担はないが、それでも携帯電話事業者とレイヤー2で相互接続する「L2卸し」のMVNOを立ち上げるにはパケット交換機などに数十億円規模の投資が必要だった。通信事業者には巨額投資が必要との常識をクラウドでディスラプト(破壊的革新)してしまったのが、ソラコムだ。

ソラコムは、NTTドコモの基地局を借り、さらにパケット交換設備に替えてパブリッククラウドを活用することで、設備投資の費用がかからずスケーラビリティがあるサービスを構築した。玉川氏は「NTTドコモの基地局とAWSのクラウド、両巨人の肩に上に乗ってバーチャルキャリア(仮想通信事業者)を作っている形です」と表現する。

クラウドで低レイヤーの通信設備を実現するというアイデアは、世界的に見ておそらく初めてだ。「パケット交換機能まですべてパブリッククラウドで実装した例は、他には聞いたことがない」と玉川氏は言う。顧客管理システム、課金システム、APIをパブリッククラウドで実現している例はいくつかあるが、低レイヤーのパケット交換システムまで含めてクラウドで実現した例は見たことがないそうだ。

さらに、ソラコムのサービスを使うさいの流儀も、いかにもクラウド的だ。Webブラウザから管理コンソールを操作でき、SIMごとに契約内容の変更、速度の変更、さらには解約まで手軽に行える。AWSのクラウドを使う場合と同等の手軽さで、多数のSIMとモバイル回線の管理ができてしまう。

Amazon流に「事業アイデアのリリースを書いた」

ソラコムの事業アイデアが誕生した瞬間のことが話題に上った。玉川氏と、現ソラコムCTOの安川健太氏が飲んでいたときのことだ。「パブリッククラウドはサーバーを使いやすくする。何でも動かせるよね」という話をしていくうちに、通信設備のようなレイヤーもクラウドで作れるのでは、という話が出た。

Amazonには、製品開発を始める時点で、完成イメージを発表文(プレスリリース)の形式にまとめる「Working Backward」と呼ぶ文化がある。玉川氏は当時勤めていたAmazonの流儀に従って、アイデアをリリース文に書き起こしてみた。翌朝になって、前の晩に書いたリリース文を見ると「なかなかいいじゃない」と思った──これがソラコムの事業アイデア誕生の瞬間だ。

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ソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏

AWSは、初期の設備投資なしにサービスを開始して、巨大サービスまでスケールできるメリットがある。DropboxやInstagramのようにAWS上でサービスを構築して成功したスタートアップも数多い。「AWSのエバンジェリストだった時代に、『AWSを使ったら日本のみんなもすごいスタートアップを作れる』と1万回以上は言った。そのうち、自分でもやってみたくなっちゃったというか」。

資金調達で良い待遇、そしてスケールできるビジネスを目指す

ソラコムのメンバーは13人。そのうち8人がエンジニア。ほとんどが15年以上の経験を持っている。

2015年春の時点で7億円の資金調達を行った理由の1つは一流のメンバーに「ちゃんとした給料を出したかった」ことがある、と玉川氏は打ち明ける。同社のエンジニアは低レイヤーのプロトコルの実装からプラットフォームサービスとしての実装、運用に至る高度な仕事をしている。その上、スタートアップ企業としてのリスクも背負っている。「給料を下げて、リスクも取ってやってもらうのは、アンフェアなゲームだ」と玉川氏は話す。

「シリコンバレーのスタートアップのように、うまくいけばスケールするビジネスモデルで、きちっとお金を集めて、きちっとした待遇でやっていきたい」。

ところで、ソラコムのサービスは、SORACOM Airが”A”、SORACOM Beamが”B”とアルファベット順に並んでいる。「次のサービスは”C”始まり。大分先までサービスができている」そうだ。西村編集長はここで「Androidみたいですね」と突っ込む。Androidのバージョンには、1.5の”Cupcake”から6.0の”Marshmallow”までアルファベット順に並ぶ愛称が付いているからだ。

今後出していくソラコムのサービスも、バーティカルな特定用途向けというよりも、プラットフォーム的に広めていく性格のものを考えている。「皆さんにとって共通に大変で重たいところはどこか。そこをサービス化していきたい」。

ソラコムのパートナー企業に関する説明もあった。フォトシンスのAkerunは、スマートフォンを「鍵」として使えるようにするサービスでソラコムのオフィスでも便利に活用しているとのことだ。キヤノンは複合機など事務機器と組み合わせる実証実験を進めている。車載機器の分野では動態管理のフレームワークスやカーシェアサービス向け応用を狙うGlobal Mobility Service(GMS)がいる。

小売業分野での活用例も要注目だ。リクルートライフスタイルのスマートフォン/タブレット向け無料POSレジアプリ「Airレジ」もソラコムと組む。AWSユーザーとして著名な東急ハンズも、店舗システムのバックアップ回線にソラコムのサービスを導入する。利用料金が格安で従量制のソラコムのサービスは、バックアップ回線としても合理性があるといえるだろう。

ソラコムは、その事業アイデアに基づく人材獲得、資金調達、サービス構築、パートナー獲得を、ごく短期間にやってのけた。利用者コミュニティの形成、エコシステム形成にも成功しつつあるように見える。TechCrunch Tokyoのセッションからは、ソラコムの活躍が日本のスタートアップ界隈への良い刺激になってほしいという願いが伝わってきたように思えた。

スタートアップ初期は海外進出を控えて開発に注力しよう、99designs CEOがアドバイス

フリーランサーたち、特にデザイナーたちに仕事の門戸を開き、コンペ型クラウドソーシングサービスを提供しているスタートアップ企業がある。「99designs」だ。

1999年、Sitepoint.comで、デザイナーたちが学んだり、アイデアを出し合ったりし、楽しみながら競い合うフォーラムコミュニティーとして始まった99designsは、そのコンセプトのまま2008年にビジネスを開始。デザイナー、クライアントともに“世界”を舞台としたコンペ型クラウドソーシングの先駆け的存在として発展していった。

2015年4月にはリクルートからの出資を受けて、日本市場への展開を開始。早い時期から北米やヨーロッパに進出していった99deisigns。11月17、18日に開催されたTechCrunch Tokyo 2015で登壇した同社CEOのPatrick Llewellyn(パトリック・ルウェリン)氏は、99designsの特徴や、これからスタートアップを始めたいと考えている人へのアドバイスを語った。

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99deisigns CEOのPatrick Llewellyn(パトリック・ルウェリン)氏

フリーランスという働き方を選ぶ人たちに開かれている扉

今回、TechCrunch Tokyo 2015の来場者が記念として受け取ったオリジナルトートバッグは3種類あったが、このバッグの中には99designsとコラボしたデザインバッグが含まれていた。

Design for TechCrunch Tokyo conference bag contest by 99designs Other clothing or merchandise contestそのデザインも、もちろんコンペで選出。「スタートアップを想起するものを」というオーダーに対し、さまざまな国から82人のデザイナーによる231点ものエントリーがあり、ドイツ ハンブルグのデザイナーが優勝者となった。

このように、フリーランスのデザイナーであったとしても、99designsに登録していれば、どこに住んでいてもコンペに参加し、ビジネスチャンスを得ることができる。しかも、手がけられるデザインはWebに関連したものだけでなく、クルマ、看板、家具、ステーショナリーなど多岐にわたる。

日本のデザイン業界といえば、とかく“閉じられた”世界になりがちだが、99designsではフリーランスとして働くデザイナーたちへ、平等に機会が開かれている。

「フリーランスにとって大変なのは、多くの機会があるにも関わらず、仕事を見つけられないこと。また、きちんとした報酬をもらうことです。99designsでは、そのどちらも得られるというメリットがあります」とLlewelllyn氏。

コンペで落選してしまったデザイナーたちにとっても「同じ課題に対しどのようなデザインが出されたかを見ることができるのでお互いに学び合うことができる」と説明。「楽しみのためにコンペに参加する人さえいます」と語った。

「1.5秒ごとに」新しいデザインがアップされているという99designsには、192カ国に100万人以上のデザイナーが登録。これまでに約43万回のコンテストを開催、支払われた報酬は1億2000万ドル近くになるという。これだけ大きな市場規模のため、1デザイナーであっても世界を舞台にした活躍ができる、というわけだ。

Llewellyn氏はその成功事例として、インドネシア在住のデザイナー Ricky AsamManisさんを紹介。Rickyはコンテナ型仮想化技術をオープンソースで提供しているスタートアップ企業「Docker」のロゴデザインコンペにエントリーし、全84もの作品の中から優勝を勝ち取った。

また、カナダ オンタリオ州の小さな町に住むデザイナー Stacey Hillはワーキングマザーとして、子どもたちの世話をしながら収入を得ているという。「世界中から請けた仕事を、子どもたちと過ごしながら行なっている。素晴らしい仕事の仕方です」とLlewellyn氏は紹介した。

発注側には、世界中のデザイナーから寄せられた優れたデザインの中から選べるというメリットがあり、しかも満足の行くものがなかった場合はデザインコンテストをしたとしても、支払い不要でリスクゼロ。このような仕組みのおかげで、顧客との継続的な関係を築け、さらに大きなマーケットプレイスにつながっているようだ。

成長するために必要な国際的展開と課題

99designs発祥の地は豪メルボルン。しかし、北米をターゲットとしたマーケット展開をしていたこともあり、早い段階で米国に進出。その後もヨーロッパや南米にも事業展開を果たしている。国内だけで頭打ちになりがちな成長も、「海外には大きな市場やチャンスが待っており、海外進出は欠かせない」とLlewellyn氏。

ただし、注意点もあるという。

まず、開発の初期段階では海外進出を控えたほうが良い、という点。「充分に準備を整え、自力で成長してから」だという。「インフルエンサーと早い段階からやり取りをし、学びましょう。最初のうちは外部からの資金調達を考えず、自分たちでまかない、3年間はマーケティングにお金を使わず、開発のために使いましょう。このサービスが顧客のためになっているか、またプロダクトのスケールアップについてもよくテストしましょう」とアドバイス。

それらが整った後、展開先での準備も怠ってはならない。「現地にどのような競合他社があるか。それらが成功しているのであれば、何が要因か」を調査。「できるのであれば、現地の事業を買収したほうが、市場をすばやく獲得し、注目してもらえるというメリットがある」とLlewellyn氏。

そのほかの重要な点として、Llewellyn氏はサービスのローカライズを挙げた。URLはその国独自のものを設け(現に、日本の99designsのURLは「.jp」ドメインだ)、サポートもローカルで行う。そのためには翻訳やプロダクトの再構成などさまざまな準備をするが「信頼を構築するために必要」と語る。それらは口コミを生み、さらなる機会拡大へとつながるからだ。

Llewellyn氏はさらに、グローバル展開にまつわる問題とそれを解決する具体的なツールについても言及した。事務所が各国にできれば、当然チームは分散され、仕事をする時間軸も異なってくる。そのような際に便利なのがチャットツールのSlack、ストレージサービスのDropbox、さまざまなアプリを備えるGoogleサービス。特にビデオ会議は「同じビジョンを共有するために欠かせない」と述べた。

フリーランサーはこれからどうなっていくのか

「オーストラリアでは労働者の30%がフリーランスとして働いているが、日本では10%。2020年までにはもっと増えるだろう」とLlewellyn氏は予測する。そして、「今は個人として働く時代だ」ともいう。

その理由として、「今や規模を問わず企業が、自治体が、さらに国の経済までが破綻している」と説明。「自分たちの運命は、自分たちでコントロールしていく時代になった」と述べた。

「ITが発達し、インフラが整った現在、個人が受けられるメリットは大きい。無償ツールは増えつつあり、有償のものも安価になりつつある。学ぼうと思えば自分のペースで場所に縛られることなく、オンライン教育にアクセスすることもできる。そして世界中で開かれている“仕事”の機会にアクセスすることも。それによって、自分たちの作品を作って売れる。自分たちをいくらでも売り込める。地元から離れずに、グローバル市場で勝負できるようになったのです」(Llewellyn氏)

企業にとっても、退職者、主婦など埋もれていたかもしれないグローバルな労働力、才能を見い出すというチャンスが開かれている。

Llewellyn氏は、「今後、クラウドソーシングの場だけでなく、キュレーション、教育分野などにサービス拡大していきたい」としつつも、フリーランサーに向け「働き方は変化しています。ぜひとも目の前に開かれた機会を捉えてください。その実現のためにも、99designsを活用してください」と締めくくった。

Apple、スター・ウォーズで使われた表情キャプチャーソフトのスタートアップ、Faceshiftを買収

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VR(仮想現実)テクノロジーの市場が拡張を続ける中、Appleがこの分野で興味深い動きを見せた。TechCrunchはスイスのチューリッヒを本拠とするモーション・キャプチャーのソフトウェア企業、FaceshiftをAppleが買収したことを確認した。Faceshiftは人間の表情をビデオカメラでキャプチャーし、アニメーションで動作するアバターの顔にリアルタイムで移し替えることを専門とするスタートアップだ。

実は今年初めにもAppleがFaceshiftを買収しようとしているという情報が流れたが、当時はしっかりした証拠を得ることはできなかった。もちろんその間Appleは沈黙していた。

しかしわれわれはその後も調査を続け、信頼できる情報源や決定的なリンクを発見し、この買収が事実であるという確信を得た。結局、今日(米国時間11/25)、Appleは簡単な声明を発表してFaceshiftを買収した事実を認めた。

Faceshiftチームの一部のエンジニアは現在はヨーロッパを離れて、クパチーノApple本社で働いているようだ。

AppleがFaceshiftの表情テクノロジーを具体的にどのように利用するかわれわれはまだつかんでいないが、利用できる局面は多数考えられる。Faceshiftは数多くのデモを公開している。

たとえばゲームでは、プレイヤーが実際に体験する内容によってアバターの表情が変わることは普通だ。Faceshiftテクノロジーを利用すればプレイヤーの表情の反映がリアルタイム化し、もっと精巧にになるだろう。映画製作の過程では登場する俳優の表情をFaceshiftでキャプチャーしキャラクターのアニメーションの高度化に活かせることはもちろんだ。これまでFaceshiftはスタートアップであったために応用分野にも限りがあったが、Appleの一部となればエンタープライズ向けテクノロジーの開発も含めて可能性は大きく拡大する。たとえば高度なセキュリティーをクリアする身元確認のための顔認識などが可能になるかもしれない。

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現在のテクノロジーでは、ゲームや映画製作における表情アニメーションの導入はコストの高い困難なプロセスになっている。Faceshiiftはこの分野に大変革を呼び起こす可能性がある。同社は「Faceshiftは表情アニメーションに革命を起こしており、どんなデスクトップからでも実行可能になる」と公式ブログで述べている。

Faceshiftテクノロジーは後期のスター・ウォーズ・シリーズの人間とはかけ離れたデザインのキャラクターの表情をアニメーションするために用いられた(上の画像とこの動画の0:41あたり)。

Appleはすでに表情のモーション・キャプチャー、キャラクターの表情処理とこれらの拡張現実への応用に関して広汎な特許を取得している。これはPrimeSensePolar RoseMetaioというヨーロッパの3つのスタートアップの買収によるところが大きい。Faceshiftはこの方面のAppleのテクノロジーを大きく強化しそうだ。

Faceshiftはもともとチューリッヒでローザンヌ工科大学(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)の Computer GraphicsとGeometry Laboratoryと提携して研究していた若いエンジニア、Thibaut Weise、Brian
Amberg、Sofien Bouazizがスピンオフして創立したものだ。Faceshiftの表情アニメーションに関する基本特許のうち2つ(これこれ)を大学が所有していたが、今年の8月に権利がFaceshiftに移された。この直後、Faceshiftは知的財産の管理をAppleと関係が深いことで知られている会社に移管している。

Faceshiftは最近オフィスをアメリカ西海岸などに設けた。映画製作とゲームに経験の深いDoug Griffin(現在はFaceshiftを離れている)がロンドンからこの部門の初代の責任者を務めた。現在ロンドン支社の責任者は特殊効果の専門家で多数の有名映画にかかわらったNico Scapelが就任している。 .

Faceshiftの初期のサイトの様子はこちらで見られる( Wayback Machine)。

YouTubeにも何本かFaceshiftのデモビデオがアップされている。IntelがRealSense 3Dカメラをプロモーションするために制作したビデオに Faceshift SDKも登場する。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

50億円を捨ててまで起業した男が語る「今、スタートアップに携わるべき理由」

後ほんのわずかな時間、その立場にとどまっていれば手に入ったであろう大金を顧みず、起業した男がいる。それがマネックスグループ代表執行役社長CEOの松本大さんだ。

11月18日、東京・渋谷が会場となったTechCrunch Tokyo 2015において、当時、史上最年少で外資系金融ゴールドマン・サックス証券のゼネラル・パートナーになり、その後、オンライン証券会社マネックス証券を設立した松本さんが数十億円を「捨てた」その裏側について語った。

TC-0068

評価された社内「スタートアップ」

外資系金融機関を就職先に選んだ理由は「異端児だったから」という松本さん。「普通の会社に就職しても、きっと受け入れてもらえないだろう。それなら多様性を受け入れてくれ、かつ実力主義の会社で働きたい」と判断し、ソロモン・ブラザーズに1987年に入社。その3年後の1990年、ゴールドマン・サックスに移籍した。

ところが、着手したかった仕事(円のデリバティブ)をしようにも、計算技術において遅れており、商品開発ができない。そこで松本さんは「大好きな秋葉原に行って、PCを購入し、ゴールデンウィーク中、マクロを多用したスプレッドシートを書き上げ」ポートフォリオを管理するようにしたという。

「自分のデスクに新卒、中途も含め若い人たちをどんどん集めてモデルを書いて、ビジネスのアイデアも考えて実現して。そうしたらすごい儲かったんですよ。当時、外資系金融の上司たちは日本人がそんなに仕事できると考えていなかったので、あまり重用していませんでした。でも、そんなことはない。結果を出して日本の若い人が優秀だということを明らかにしたところ、社内で評価されるようになったんです」(松本さん)

開発した新商品が成功しただけではなく、そのような取り組みの結果、松本さんはわずか30歳という異例の若さでゼネラル・パートナー(共同経営者)の仲間入りを果たしたのだ。
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「一(いち)場所、二(に)餌、三(さん)仕掛け」タイミングを見逃すな

そんな松本さんに、大金を手にするチャンスが訪れた。1999年5月、パートナーとして働いていたゴールドマン・サックスが上場することになったのだ。上場すれば、プレミアム報酬として松本さんにも数十億円が手に入るはずだった。

しかし、松本さんは大金ではなく、起業の道を選んだ。株式売買委託手数料の完全自由化、インターネットの普及を見越して、個人にとって必要になると考えたオンライン証券会社を設立するというヴィジョンを取ったのだ。

「パートナーになってから4年目でした。50億は手にできたかもしれませんね」と、こともなげに松本さんは語る。「当時35歳。そんな若さで大金を手にしたら、働かなくなるかもしれない、と思ったんです。きっと遊んで暮らす道を選んでしまって、自分の可能性を追求しなくなってしまうんじゃないかと。人間、そんなに強くないですからね」(松本さん)

1999年という年は金融業界において、「クリティカルなタイミング」でもあったという。その年の10月に株式売買委託手数料の完全自由化がなされたからだ。

「下りエスカレーターに乗った状態と、上りエスカレーターに乗った状態で駆け上がっていくのとでは、断然上りエスカレーターに乗っている方がスピードはアップしますよね。完全自由化の波は“上りエスカレーター状態”。そのタイミングで開業していなければマーケティング的に意味がないと考えました。ゴールドマン・サックスの規定上、パートナーだったわたしが辞められるタイミングは1998年11月末。半年後に大金を手にできる、と分かっていても辞めるしかなかったんです」(松本さん)

「それに」と松本さんは言葉を続ける。

「釣りでは『一(いち)場所、二(に)餌、三(さん)仕掛け』といって、一番重要なのは場所だと言われています。どこでやるか、どこを釣り場に決めるか、ですよね。それと同じで、エリアを決めたらどのタイミング、という場所でビジネスをするかが重要になってくるのです。規制が変わる、そのタイミングを逃す手はありません」。

相手を信じてぎりぎりまで攻める

マネックス証券スタートにまつわるストーリーの中で外せない人物がいる。それは元ソニー社長 出井伸之さんだ。

「顧客がいないと始まりません。私がいくら『ゴールドマン・サックスで史上最年少ゼネラル・パートナーをやっていました』と言っても、”Nobody Knows Me”ですよね。でも、『ソニーが出資しています』と言えば信頼してもらえる。それで、100万人を説得するより、出井さんを説得することにしました」(松本さん)

その甲斐あって、全体の49%出資をソニーから勝ち得たが、松本さんの攻めはそれで終わらない。何と、東京・銀座にあるソニー本社のビルの壁を記者会見前夜から6日間借り、“SONY”のサイネージとその下に垂らされているマネックス証券の懸垂幕を1枚の写真に収め、記者会見で配布するプレスキットに入れたというのだ。松本さんは当時を振り返ってこう語った。「これにはソニー側の広報も真っ赤になって怒っていましたね。でも、社長の出井さんは、記者会見の最後にこんなボーナストークをしてくれたんですよ。『今日というこの日は象徴的な日で、まるでソニーがマネックスに乗っ取られたかのように、銀座のソニービルにマネックスの垂れ幕がかけられていた。これからマネックスはソニーというプラットフォームを使って、大きく羽ばたいていってほしい』」。

「ギリギリのところを攻めていくわたしに対して『あっぱれ』という気持ちで受け入れてくれ、ウィットに富んだ返しをしてくれたんだと思います」(松本さん)

そういう経験からも、スタートアップで組むことに選んだ相手がたとえ大企業だったとしても萎縮せず、失礼にならない形で利用するという気概をもってぶつかってほしい、と会場に集まった起業家たちに勧めていた。

生存確率は極めて低いが、社会のステップアップになくてはならない

「来場している起業家、また起業家予備軍にアドバイスを」と求められた松本さんは、最後にこう締めくくった。

「起業というのは大切なプロセス。それは突然変異のようなもの。ほとんどは死に絶えるが、生き残れば一気に社会を変化させます。もしくは社内のスタートアップであれば、会社を次のステージへとステップアップさせていきます。進化の過程での突然変異と違い、ビジネスにおける突然変異種は、たとえうまく行ってもまたすぐ誰かに真似されます。それでもなお誰かがやらないと、社会は退化してしまうのです。社会を次のステージに持っていくんだ、という気概でぜひとも取り組んでいただきたいですね」

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オフィス電力や配送センターの人の流れを最適化、Enlightedのセンサーネットとは

2009年に創業したEnlightedは、オフィスの空調設備や省エネ対策、空間の最適利用など、ビルの管理にまつわるソリューションを提供するスタートアップ企業だ。ハード面ではセンサーデバイスを、ソフト面ではセンサーから得たデータを分析するためのツールを開発している。こうして得たデータにより、オフィス内の照明や空調を最適化するという、IoTを駆使したソリューションを提供しているのだ。

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米Enlighted エグゼクティブバイスプレジデント Christian Rodatus氏

TechCrunch Tokyo 2015に登場したEnlightedエグゼクティブバイスプレジデントのChristian Rodatus氏によると、同社はネットワークエンジニアが中心となって創設した企業で、創業当時にはビル管理や省エネなどの知識はなかったのだという。それが、「さまざまなセンサーをネットワークに埋め込み情報を分析することで、オフィスビルの管理に変革を与えることができる」という思いから、現在のソリューションの開発に至ったという。

「オフィスビルは、企業にとって最も価値のある資産であるはずなのに、その施設内で何が起こっているのかしっかり管理できている企業は少ない。HVAC(冷暖房空調設備)は、ビルのエネルギー消費の約50〜70%を占めているとされる。アナリティクス技術などを活用すれば、エネルギー効率はより改善できるはずだ。Enlightedはこの分野で企業を支援したい」とRodatus氏は言う。

人の流れの分析や最適化も

例えば、小売店舗では1平方メートルあたりの収益をいかにして引き上げるかが重要となるが、「POSデータを分析しても、実際に顧客が商品を購入するまでその顧客のことは分からない。われわれのソリューションでは、顧客が実際にどの空間をどう歩き、どの製品をどう選んでいるかまでを捉えている」とRodatus氏。また、労働力の生産性を向上させるため、1人1日約20キロも歩き回っている大手オンラインリテール会社の配送センターにて、人の動きや流れを分析して最適化した事例もあるという。

こうしたソリューションを実現するためにEnlightedが開発したのが、照明に取りつけることでその場の人の動きや温度・湿度といった環境を感知したり消費電力を把握したりするセンサーだ。また、これらセンサーから安全にデータを収集する無線ネットワークと、収集したデータを分析する管理ソフトも用意した。

TC-1608「照明というものは、どんな建物にもついているものだ。これにセンサーを取り付けることで、人の動きやその場の環境などさまざまな状況が感知できるようになる。センサーが発するデータは5分ごとに収集され、そこから分析をかけている」(Rodatus氏)

また、同センサーは照明に取り付けるタイプのため、センサーの電力を照明から補給できると同時に、照明器具の管理もできることが利点だという。「例えば、センサーがある特定のイベントを検知した場合、照明に何らかの操作をさせるといったことも可能だ。センサーをエネルギー管理の仕組みとして活用することで、照明のエネルギー消費は60〜90%程度削減することが可能となる。そこで削減したコストを、このセンサーネットワークの資金源として使えるのだ」とRodatus氏。また同社では、初期費用の課題を支援するため、Global Energy Optimization(GEO)というファイナンスプログラムも用意している。

Enlightedがこれらのソリューションを販売開始したのは3年前。同社の顧客には、GoogleやIntel、Cisco、AT&Tなど、テクノロジー系企業も数多く名を連ねている。Oracleも早期にEnlightedの製品を導入した1社で、「Oracleは2016年末までに社員1人あたりのエネルギー消費を10%削減するという目標を掲げており、その目標を達成するためにEnlightedのソリューションを採用した」とRodatus氏は述べている。

「Enlightedは、最先端のセンサーテクノロジーを活用した完全なIoTスタックを用意しており、そこから環境や人の行動データなどが取得できるようになっている。われわれは、今後10年で商用不動産におけるインテリジェントセンサーネットワークの市場が100億ドルになると見ている。これは非常に大きなチャンスだ。その後も、アナリティクスアプリケーションの市場はさらに毎年100億ドルずつ成長するだろう。つまり、施設のデータを分析し、それをさまざまな分野に適用していくことによってもたらされる価値は、非常に大きなものになるのだ」(Rodatus氏)

YouTuberと企業をマッチングするルビー・マーケティングが8000万円の資金調達、今後はアジア展開も

ルビー・マーケティングのメンバー。手前中央が代表取締役の平良氏

ルビー・マーケティングのメンバー。手前中央が代表取締役の平良真人氏

 

YouTubeに動画をアップし、その広告収入で生計を立てる「YouTuber」。そんなYouTuberと、彼らに自社のプロダクトを紹介してもらいたい広告主をマッチングするプラットフォームが「iCON CAST」だ。このプラットフォームを提供するルビー・マーケティングが、11月24日、日本ベンチャーキャピタルおよびGenuine Startupsから第三者割当増資を実施。合計8000万円の資金調達を実施したことをあきらかにした。

ルビー・マーケティングは2014年1月の設立。ソーシャルメディアを活用したオンラインマーケティングのコンサルを行いつつ、自社プロダクトの開発を進めてきた。同社の代表取締役である平良真人氏はグーグルで日本の中小企業向けの広告営業部門を立ち上げた人物。社員は十数人だが、グーグル出身者が多い。

同社が提供するiCON CASTは、広告主が動画広告の案件を、YouTuberが自身の実績をそれぞれ公開し、案件への応募をしたりYouTuberの検索をしたりできるプラットフォームだ。日本にもYouTuberは数多くいるが、トップの数人を除いて、広告主から指名で仕事を受けるというのは難しい状況。だがiCON CASTでは、広告主がYouTuberを探すだけでなく、YouTuberの側からも案件を探せる仕組みを採用。そのため、ターゲットとするYouTuberも上位でなく中堅層が中心になっている。

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現在登録するYouTuberは約1000人。案件は当初ゲームやアプリの紹介が中心だったが、現在ではECや旅行、新作映画などその幅を広げている。また1人でなく、複数のYouTuberを起用するケースが増えてきた。人気YouTuberを1人利用すると圧倒的な数のユーザーにリーチすると考えがち。だが平良氏によると、「10万人のファンを持つ1人のYouTuber」よりも、「1万人のファンを持つ10人のYouTuber」で広告を展開する方がROIがよくなる事例もあるのだという。

「前職でGoogle AdWordsをやっていて学んだが、大手企業がビッグワードを購入してCPCを上げてでも戦う一方、中小企業は安価でコアなキーワードを買って効果を出していた。小さいが『原石』のYouTuberがいっぱいいるプラットフォーム」(平良氏)。もちろん紹介するプロダクトの性質にもよるのだろうが、ファンがそこまで多くなくとも自社のプロダクトと親和性の高いファンを持つYouTuberを複数起用すれば、より効果的なマーケティングができるという主張だ。

同社では今回の調達を契機に、YouTuberに加えて、VineやTwitter、Instagramなどで動画や写真を投稿するインフルエンサーの取り込みを進める。また、東南アジアを中心にして、海外展開を進める。実はiCON CASTに登録するYouTuberの2割は、日本以外のアジア圏で活動している人物だそうで、この人数拡大、クオリティの向上に注力する。

TC Tokyo 2015「バトル」勝者はクラウド労務手続き支援のSmart HR

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今年で5年目を迎えたTechCrunch Tokyo。毎年恒例の目玉企画「スタートアップバトル」の決勝が18日に行われ、100社以上の一次審査を勝ち抜いたチームが自社プロダクトをプレゼンで競い合った。

今年も800人規模の会場で立ち見が出るほどの盛り上がりを見せたバトルの頂点に輝いたのは、労務手続きを自動化する「SmartHR」を運営する株式会社KUFUだった。僅差で優勝を逃したスマホ専門のネット証券「One Tap Buy」には審査員特別賞が送られた。以下、優勝チームと次点チーム、その他のチームを登壇順にご紹介する。

SmartHR(株式会社KUFU ):優勝、IBM BlueHub賞、ぐるなび賞

社会保険・雇用保険といった労務手続きを自動化するクラウド型ソフト。提示されるフォームに入力し、「雇用契約書を用意しましょう」といったToDoをこなすだけで、必要書類を自動作成できることをうたう。電子政府のAPIを使うことで、まもなくウェブ経由で役所へ書類を届け出られるようになり、面倒な労務手続きがオンライン上で完結する。フリーミアムプランで月額利用料は980円〜。社労士に労務手続きを依頼する場合と比べて、手続時間も3分の1に抑えられるという。サービス開始から3カ月半ながら、すでに200社以上が導入していて需要の高さを感じさせる。

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One Tap BUY(株式会社One Tap BUY):審査員特別賞、AWS賞

わずか4タップで有名企業の株式を1万円から売買できるアプリ。世界中の株式に24時間、365日アクセスできる。自分が持つ株式のポートフォリオを円グラフで表示し、所有する株式をなぞるだけで株式を売買できるなど、洗練されたUIも特徴的。株式投資のハードルを下げるために、有名企業の創業ストーリーや投資を漫画で無料公開している。すでに有価証券の売買業務を認可する第一種金融商品取引業の申請が受理されていて、日本初のスマホ専門証券会社として2016年初頭にサービスを開始する。

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Popcorn(クービック株式会社)

当日予約できるサロンが見つかるサイト。都内を中心にネイルサロン、マッサージ、美容院などを、当日ならではのお得な価格で予約できる。事前登録したクレジットカードで予約時に決済する。気になる店舗を登録していけば、予約可能なタイミングでプッシュ通知が届く機能もある。店舗オーナーは事前決済のためキャンセルリスクがなく、成果報酬型で固定費がかからないのがメリット。

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キャスタービズ(株式会社キャスター)

人事や経理、リサーチなどの事務作業をオンライン秘書に依頼できるサービス。Facebookメッセンジャーやチャットワークなど、いつも使っているツールでやりとりすることが可能。さまざまなクラウドサービスを使いこなすアシスタントが在籍するため、例えば請求書作成サービス「misoca」と会計ソフト「freee」を使って会計業務がオンライン上で完結する。すでに50社が利用し、平均単価は月額12万円。3カ月目以降の顧客継続率は90%以上とサービス満足度が高いという。18日には、在宅勤務する人材を派遣する、日本初のオンライン限定在宅派遣サービスを開始した。

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シェルフィー(シェルフィー株式会社)

店舗を出店・改装したい人と、デザイン・施工会社をつなぐマッチングプラットフォーム。建築業界には業者の実績や費用といった情報が集まる場所がなかった。このため、悪徳業者の情報が広まることもなく、ぼったくりが常態化したり、反対に良い仕事をしても情報が広まらなかったという。シェルフィーは施工管理会社(建築案件の元請け)や施工専門業者、デザイン業者の情報をヒアリングで集め、建築業界を可視化しようとしている。施工管理会社から月額15万円を徴収するビジネスモデル。売上は非公表だが、シェルフィー経由で発注した10月の流通総額は1億2000万円に上る。

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TANREN(TANREN株式会社)

動画を主体としたクラウド型研修システム。飲食店やカーディーラー、モバイルショップ、旅行代理店など他店舗で接客する事業者がターゲット。導入企業は、マネージャーが研修のテーマを設定し、スタッフは営業のロールプレイを動画で撮影してアップロードする。マネージャーはTANRENのサーバーでロールプレイ動画を見て、「笑顔」「トークスピード」「言葉遣い」といった項目を評価する。時間がなく、属人的になりがちな社内教育を、どこでも可視化・共有化できることが特徴だ。

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WATCHA(株式会社WATCHA)

自分の好きな作品をもとに、オススメの映画、ドラマ、アニメを教えてくれるアプリ。ユーザーは自分が過去に見た作品を5点満点で評価すると、その点数や、好みが似たユーザーの評価をもとに、まだ見たことのない作品の点数を予想してレコメンドする。韓国では2013年にリリースし、160万人のユーザーが2億4000件の評価・レビューを投稿。好みに近い劇場公開映画の予告を配信したり、WATCHAの評価・レビューを動画配信サービスに提供することで収益を得ている。日本でもキネマ旬報から映画・DVD情報を提供してもらい、2015年9月に正式スタートした。

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スマートフォリオ(ウェルスナビ株式会社)

世界中の機関投資家や富裕層が利用する国際分散投資をサポートする資産運用サービス。5つの質問に答えるだけで、リスク許容度にあわせた金融商品のポートフォリオを提示する。「10年前に同じ投資したらどうなっていたか」といった結果を提示し、今後予想されるリターンとリスクを直感的に理解できる。日本には投資信託と株式だけでも9200種類の商品があるので、適切な金融商品を自分で選ぶのは困難。スマートフォリオは金融機関から手数料を受け取らないため、中立の立場でアドバイスできるという。来年1月に正式サービスを開始し、4年間で預かり資産3000億円を目指す。

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BONX(チケイ株式会社):さくらインターネット賞、PR TIMES賞、PayPal賞

スマホと接続したBluetoothイヤフォンを片耳に付けて使うウェアラブルトランシーバー。しゃべり始めたら勝手につながる音声認識システムを採用しているので、アウトドアでの激しい運動中でもコミュニケーションを取れる。会話中のみ通信するプロトコルの通話システムを開発し、切断されにくくバッテリーの節約につながっている。携帯電波を使って通信するため距離の制限がないのも特徴。スキーやスノーボード、自転車、カヌーなどでの利用を想定。10月15日にクラウドファンディングを開始。価格は1万5800円だが割引価格で購入でき、これまでの支援総額は1800万円に上る。

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SHOPCOUNTER(株式会社COUNTERWORKS)

期間限定の物販・イベント用スペースを貸し借りできるマーケットプレイス。最短1日単位でポップアップショップ(期間限定の店舗)を開きたいアーティストやクリエイター、EC事業者と、展示可能な空きスペースを持つオーナーをマッチングする。通常、店舗を開くには初期投資で約500万円かかるが、SHOPCOUNTER経由のポップアップショップだと約20万円に出費を抑えることができ、思い切った商品構成や見せ方が可能になる。予約代金の一部を手数料として徴収し、残りを空きスペースを持つオーナーに支払うビジネスモデル。

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Mijin(テックビューロ株式会社)

Bitcoinなどの暗号通貨で使われる要素技術「ブロックチェーン」を、自社またはパートナー間のみで利用できるプラットフォーム。導入企業が管理するネットワーク上で、指定したノードだけが参加するプライベートなブロックチェーンを構築する。企業のポイントや決済サービス、オンラインゲーム、航空会社マイレージ、金融機関など高度なシステム基盤での導入を想定している。秒間28トランザクション程度の某銀行の中央集権型サーバーでは初期費用数億円、月額数千万円というが、mijinは秒間100トランザクションで月額4万円に抑えられるという。

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VIDEO TAP(株式会社オープンエイト):Microsoft BizSpark Plus賞

延べ4000万UUの女性向けネットメディアを束ねるスマホ向け動画広告プラットフォーム。記事コンテンツの掲載面に沿って、動画を最後まで見るように促す「完全視聴型」、画面上部に表示する「画面占有型」、長時間のコンテンツを配信する「長尺配信型」、記事コンテンツにバナーをタップすると動画が出てくる「ネイティブ型」といった動画広告を配信する。すでに資生堂やP&G、LION、TOYOTAなど、全国規模で広告展開するナショナルクライアントが導入している。

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日本発・非ネット分野の「世界基準ベンチャー」がTechCrunch Tokyoに登壇

ネット系のスタートアップではメルカリやスマートニュースが米国進出したり、海外ユーザー比率が95%の対戦型脳トレ「BrainWars」が国境を超えた感があるが、“非ネット”な分野にも世界を狙えるスタートアップはある。

11月17日、18日に開催するTechCrunch Tokyoでは、そんな非ネット分野の「世界基準ベンチャー」にスポットを当てる。登壇するのは、工場の生産ラインなどに導入される産業用ロボットの制御機器を手掛けるMUJINの滝野一征さんと、電気自動車(EV)を開発するGLMの小間裕康さんの2人だ。

GLM小間裕康さん(左)とMUJIN滝野一征さん

GLM小間裕康さん(左)とMUJIN滝野一征さん

産業用ロボットに“考える力”を与える

MUJINをざっくり言うと、産業用ロボットの“脳みそ”を作る研究開発型ベンチャーだ。ロボットと聞いてガンダムのような人型ロボットを思い浮かべる人にはピンとこないかもしれないが、通常、産業用ロボットを稼働させるには、専門のオペレーターがロボットを手作業で動かし、その動作をプログラミングする「ティーチング」が必要となる。この作業は膨大な時間とコストがかかるうえ、教えた動作以外に応用がきかないのだ。

こうした産業用ロボットに“考える力”を与えるのがMUJINだ。主力製品のひとつ、「ピックワーカー」は、ティーチングせずにバラ積みの部品を取り出せるのが特徴。対象部品を3次元で認識し、その情報をもとに産業用ロボットを制御するコントローラが瞬時に動作プログラムを計算する。ロボットや3次元センサーは汎用品が使用可能で、MUJINはコントローラを開発している。

ばら積みピッキングを可能にする「ピックワーカー」

ばら積みピッキングを可能にする「ピックワーカー」

MUJINの設立は2011年7月。今年5年目のベンチャーだが、すでに自動車工場や物流、食品仕分けなどで導入実績があり、取引先にはキヤノンやデンソー、日産、三菱電機といった大企業が名を連ねる。海外からの問い合わせも多く、世界展開を見据えている。2012年7月には東京大学エッジキャピタル(UTEC)からシリーズA資金として7500万円、2014年8月にはUTECとJAFCOからシリーズB資金として6億円を調達している。

最後にピックワーカーの動画をご紹介する。産業用ロボットが自律的に考えてばら積みの部品をピックアップする様子は、まるでSF映画を見ているような気にもなる。

「日本版テスラ」国内で初めてEVスポーツカーを量産

登壇するもう1社、GLMは2014年4月に設立した京都大学発のベンチャーだ。電気自動車(EV)向けの独自プラットフォームを開発している。プラットフォームというのは、ギアやドライブシャフトで構成されるドライブトレイン、そしてシャーシのこと。GLMはこのEV向けプラットフォームを利用した完成車を販売し、一部では「日本版テスラ」と呼ばれたりしている。

2014年7月には、量産を前提としたEVスポーツカーとしては国内で初めて、国土交通省の安全認証を取得。公道での走行が可能となった。これを受けて同年8月から、国内初の量産EVスポーツカー「トミーカイラ ZZ」の納車をスタートしている。トミーカイラ ZZは静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速性能がウリ。価格は800万円ながらも、限定生産の99台は受付初日で限定数を超える予約が集まった。

静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速がウリの「トミーカイラ ZZ」

静止状態から3.9秒で時速100キロに達する加速がウリの「トミーカイラ ZZ」

GLMはEVスポーツカーだけでなく、資金調達でも話題を呼んだ。2012年10月の増資では元ソニー会長の出井伸之氏や元グリコ栄養食品会長の江崎正道氏らが出資。2013年12月にはグロービス・キャピタル・パートナーズなどVC4社と日本政策金融公庫から約6億円、2015年5月には既存株主や複数国の政府系ファンドから約8億円、8月には総額17億円のシリーズB資金調達を完了するなど、すでに多額の資金を集めている。

産業用ロボットと電気自動車。どちらの業界も、いちベンチャーが参入するには障壁が高そうに思えるが、MUJINもGLMも夢物語ではなく、テクノロジーで世界市場をつかもうとしている。イベントではそんな世界基準の研究開発ベンチャーの魅力をお伝えできればと思う。

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シリコンバレーでダイヤモンドを作る会社

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カリフォルニア州サンタクララ拠点のDiamond Foundryという会社が、過去3年間にわたって作り出したもののベールを剥いだ。ダイアモンドを製造する技術だ。サンタクララで。

同社の説明によると、彼らは従来からの地面を堀り出す方法で抽出されたダイヤモンドの薄片に、炭素原子を付着させることのできるプラズマを発明した。原子は、一つ一つ、ダイヤモンドの結晶構造の上に積み重ねられ、一層一層、「純粋な、培養された宝石グレードのダイヤモンド」へと成長する、と同社は言う。

本誌はCEOのMartin Roscheisenを捕えることができなかったため、「宝石グレードのダイヤモンド」が正確に何を意味するをかを確認できていない。想像するに、もしそれが無色で、宝石鑑定士の言う「完璧な透明度」を持つのであれば、Diamnod Foundryは報道資料にそう書くだろう(書かれていない)。

いずれにせよ、その宝石は著名な投資家たちがそれなりの資金を投入するに値するものらしい。Diamond Foundryの支援者には、起業家のMark and Alison Pincus、連続起業家 Ev Williams、初期のFacebook COO Owen Van Nattaの他、俳優のレオナルド・デカプリオが名を連ねる。デカプリオは2006年の映画『ブラッド・ダイヤモンド」で欲深い宝石密輸業者を演じたが、現在はこの試みに投資できることが「誇り」であると声明に書いている。

デカプリオは、「破壊的な採掘をすることなく継続的にダイヤモンドを培養することで、ダイヤモンド業界の人間および環境の負荷を減らす」というDiamond Foundryの目標に惹かれたと言っている。

実際、伝統的ダイヤモンド採掘産業は長年、人権侵害の報告に悩まされており、ダイヤモンド産地では子供の強制労働も行われてきた。また、ダイヤモンドを求めて大量に堀り起こされたの土砂の山は環境問題も起こしている。

しかし投資家らは、Rosheisenが経験豊富なCEOであり、太陽光発電会社のNanosolorを約8年間率いたことも気に入っているのかもしれない(同社は2013年に閉鎖され、それまでの11年間に約4.5億ドルの資金を集めていた)。

Diamond Foundryは、他にもいくつか興味深い特徴を売り込んでいる。同社は太陽光発電の排出枠を使うことで、二酸化炭素排出量をほぼゼロまで減らした。さらに同社は、200人近くの主に独立系の宝石デザイナーからなるオンラインマーケットプレイスを開設しており、デザイナーは顧客が宝石に支払う金額の「100%」(ダイヤモンド自身の価値を除く)を受け取る。

現在このマーケットプレイスが会社で唯一の収入源だ。

Diamond Foundryには、生まれつつある合成ダイヤモンド分野のライバルが、近隣を含めていくつかいる。設立10年になるサンフランシスコ拠点のBrilliant Earthという会社は、「出所の明らかな」ダイヤモンドと実験室で作られたダイヤモンドの両方を販売している。他には、フロリダ拠点のPure Grown Diamondsも自称、高品質な実験室内製ダイヤモンドの販売を開始し、オレゴン州ポートランド拠点のMia Donnaも同様。

Brilliant EarthとMia Donnaは、かなり以前から存在する高圧高温方式を利用している。

一方、Pure Grown Diamontの工程は、Diamond Foundryに似ている。同社のCEO、Lisa Bissellがここに書いている

Pure Grown Diamondは、ダイヤモンドを従来の発掘されたものより約30%安く販売している。Diamond Foundryは、市場価格と同じかそれ以上で販売する計画だと言っている。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook