スマートドライブとソラコムが国内外でプラットフォーム連携、モビリティ領域のIoT利活用を促進

スマートドライブとソラコムが国内外でプラットフォーム連携、モビリティ領域のIoT利活用を促進

モビリティデータ活用サービス「Mobility Data Platform」を提供するスマートドライブと、IoTプラットフォーム「SORACOM」提供のソラコムは10月30日、プラットフォーム間連携と協業ソリューションの開発を開始したと発表した。

今回の連携により、ソラコムのSORACOMから、スマートドライブのMobility Data Platformとのデータ連携が可能となった。ソラコム提供のIoT通信とSORACOM認定デバイスSORACOMリファレンスデバイスから得られたIoTセンサーのデータと、スマートドライブが収集・解析する移動データをかけ合わせることで、車両管理による業務効率化、移動データを利用した新サービス、さらには地域の移動をつなぐMaaSまで、幅広い分野における「IoT×移動」のアイデア実現をサポートする。

スマートドライブとソラコムが国内外でプラットフォーム連携、モビリティ領域のIoT利活用を促進

スマートドライブは、2013年の創業以来、「移動の進化を後押しする」をコーポレートビジョンに掲げ、移動にまつわるモビリティサービスを提供。Mobility Data Platformは、スマートドライブ独自のデバイスに限らず、様々なデバイスから収集したモビリティデータを蓄積・解析するサービスで、データを利活用して課題解決に役立てられる。これまで幅広い業種・業態の顧客と多くの実証実験を行ってきており、新しいサービスの創出などにも活用されている。

スマートドライブとソラコムが国内外でプラットフォーム連携、モビリティ領域のIoT利活用を促進

ソラコムは、SORACOMを通じてIoT通信とインターネットに「つなぐ」システム構築に必要なサービスを提供。SORACOMの利用で、少ない初期費用でIoT活用のアイデアをスピーディに実現でき、2020年6月時点で1万5000超の様々な業界・規模の顧客がビジネスの進化に利活用している。

スマートドライブとソラコムが国内外でプラットフォーム連携、モビリティ領域のIoT利活用を促進

スマートドライブとソラコムは、移動データ活用拡大をともに目指し、各専門分野技術をより使いやすく提供するとともに、MaaS分野での新たな協業ソリューションの開発・提供を目指し、連携を進めていく。

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カテゴリー: IoT
タグ: スマートドライブsmartdriveソラコムSORACOM日本

ソラコム玉川氏が語る起業、KDDIによる大型M&AとIoT通信の未来

11月16日・17日に渋谷・ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2017。2日目の17日最初のセッションには、IoT向けの通信プラットフォームを提供するソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏が登壇し、KDDIによる大型M&Aの背景とIoT関連サービスの展望、今後のサービス展開について語った。聞き手はTechCrunch Japan編集長の西村賢が務めた。

ソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏(右)と聞き手のTechCrunch Japan編集長西村賢(左)

ソラコム誕生のきっかけは「仮想のプレスリリース」

まずはソラコム起業の経緯について。起業前の玉川氏は、Amazon Web Services(AWS)の日本のエバンジェリストとして知られていた。Amazonを辞めて起業をするのは自分でも「クレイジーだと思った」と玉川氏は明かす。

「新卒で日本IBMへ入社したときのキャリアゴールは、CTOになることだったが、それはかなわなかった。AWSでは、技術全体のリーダーと近いポジションだったので満足していた。しかし、ソラコムのアイデアを思いついてからは、それをやりたくて仕方がなくなってしまって」(玉川氏)

玉川氏はAWSを心から好きだった、と言う。「AWSの登場で、スタートアップがサービスを最初に始める時に,サーバーに6000万円とかかける必要がなくなった。パッションがあればスモールサービスで取りあえずやって、うまくいけばスケールする。インターネット上でサービスをやりたいスタートアップにとっては、そういうことができるというのは、劇的な変化だった。コンピューティングのような、みんなにとって必要なリソースを既得権益だけでなく、オープンにフェアに提供するというAWSの考え方が、僕は非常に好きだった」(玉川氏)

というわけで、日本でAWSのエバンジェリストを務めていた玉川氏だが、日本ではAWSを使って世界へ打って出るようなスタートアップは、なかなか生まれてこなかったという。そんな中、現ソラコムCTOの安川健太氏と出張先のシアトルでビールを飲んで話をする機会があった。「パブリッククラウドを使えば今、何でも作れる」という話で盛り上がった玉川氏は、ホテルに戻り、時差ぼけで寝付けない中で、Amazonの文化に則ってサービスのアイデアを仮想のプレスリリースに書き起こしてみた。翌朝起きて「リリース文を見たら、行けると思った」と玉川氏。クラウドスタートアップが出てくれないのなら、自分でやってみよう、と考えるようになったそうだ。2014年春のことだ。

「初めは起業しよう、と思っていたわけではなかった。(プロダクトを)作ってみたら面白いんじゃないか、ということでプロトタイプを試作していた」と話す玉川氏。Amazonの中でサービス化するという選択肢もあったというが、「ソラコムは通信の仕組みをクラウド上で作るという、AmazonにとってはAWSを利用するお客さん側にあたるので、自分たちで(起業して)やった方がいいんだろうなと思った」と起業に踏み切った理由を語った。

こうして2014年11月に、IoT通信プラットフォームを提供すべく起業したソラコムは、2017年8月、KDDIによる大型買収を決め、わずか2年半でイグジットを果たした。買収額は200億円程度と言われている(公表はされていない)。

買収先としては、Amazonもあり得たのでは?との西村の質問に、玉川氏は「クラウド上の通信サービスを提供するということから、買収先には2つの選択肢があった。ひとつは通信キャリア、もうひとつは(AWSのような)クラウドベンダーだ」と答える。「買収先は単に金銭的な条件だけが重要ではなく、パートナーでもある。お金も大事だが、M&A後のシナジーや、我々自身がモチベーションを保ったまま続けられる環境か、といったことも大切な条件だった」(玉川氏)

KDDIが買収先となった決め手のひとつは、KDDIが世界でもいち早く、ソラコムのクラウドベースの通信機関システムを採用し、ソラコムと共同開発したサービス「KDDI IoTコネクト Air」を提供開始したことだと玉川氏は話している。

「それにIoT向けの通信はまだ始まったばかり。乾電池で10年動くような通信など、モノに通信を入れるための規格は、これから本格化してどんどん出てくる。それをどこよりもいち早く取り入れて提供していこうとしたときに、やはり通信キャリアと組むのがいいだろうと考えた。もうひとつ、“日本発”でグローバルを目指したいというときに、一番やりやすいのはKDDIではないかと思った」(玉川氏)

スマホにおけるTwitterのようなキラーアプリがIoTにもいずれ来る

IoTとIoT向け通信の今後の行方について、もう少し詳しく玉川氏に聞いてみた。玉川氏によれば、携帯通信全体ではどんどん高速化・大容量の方向へ進んでおり、この方向性は変わらず進化を続けるが、IoT向け通信に限って見れば、それほど速度は必要なく、通信モジュールが小さく安く、どこででも電波が入って、低消費電力で動くことが求められるという。

「ちょうど昨日(11月16日)、KDDIがセルラーLPWA(Low Power Wide Area)通信サービスの提供開始を発表したところ。我々も今後ソラコムとどう組み合わせていくかを検討している」(玉川氏)

最近スタートアップでIoTサービスを提供する企業は、軒並みソラコムの通信サービスを利用している印象もあり、まさにIoT通信界のAWSのような状況と言える。現ユーザーはどういった傾向にあるのだろうか。「現在は8000件以上の顧客に利用されている。企業規模も大企業からスタートアップまで幅広く使ってもらっている」(玉川氏)

スタートアップでのソラコム活用例として挙げられたのは、TechCrunch Japanでも以前紹介したことがあるファームノート。農家へ牛の状態の管理をするアプリを提供する企業だ。「酪農家にとっては、子牛が生まれるときというのが非常に重要なタイミング。牛の胎盤の温度などを測ってモニターするのにソラコムが利用されている」(玉川氏)

またこちらもTechCrunch Japanで紹介済みのスタートアップだが、まごチャンネルもソラコムの顧客だ。スマホが操作できないシニア世代でも、テレビで遠くの家族の写真や動画を共有できるIoTデバイスを提供している。「テレビにくっつくセットトップボックスに(ソラコムの)SIMを入れてもらっている」(玉川氏)ということで、Wi-Fiの設定などインフラの心配なく、ユーザー体験を作り出すことができたという。

最近発表されて話題となった製品では、ソースネクストが12月14日に発売する通訳デバイス「POCKETALK(ポケトーク)」にも、ソラコムのグローバルSIMが採用されている。「世界61カ国で使えて、50言語以上に対応している。翻訳エンジンは、中国語ならバイドゥ、といった感じでクラウド上の最適なものを選んでいる。スマホはSIMの入れ替えや設定など、海外ですぐに使えないことも多いが、これはすぐ使える。また通訳目的に限定されているので、スマホと違って現地の人に渡すことにも躊躇しなくて済む」(玉川氏)

コンシューマーとインフラ系やセンサーネットワーク(かつてM2Mと言われた領域)とでは、どちらがIoT市場として大きくなるのだろうか? 玉川氏は「私自身も全く読めない」とこの問いに答えている。「“IoTのポテンシャルは無限大”みたいなところがある。日本だと2000年前後に“eビジネス”を切り口に企業がこぞってウェブサイトを作っていたが、それと似たような感じで各産業がIoTに取り組んでいる。今はクラウドがあって、IoT向け通信もある。そしてデバイスがメーカーのムーブメントで、どんどん安く小さくなっている。そうすると、そこら辺中のモノが通信でつながるかもしれないですよね」(玉川氏)

IoTにとってのキラーアプリは、どういったものになるのだろうか。玉川氏は「僕も分からない。ただ振り返ってみると、スマホが出てきたときにTwitterが出てきて『うわあ、これはキラーアプリだ』みたいな感覚があったでしょう。あれは誰も予測ができなかった。それと同じようなことがたぶん、IoTでも起こるんじゃないかと思う」と予想する。

ソラコムが「ブラック企業にしない」「ストックオプションを出す」理由

さて、ここからはスタートアップとしてのソラコムについて、玉川氏に聞いていく。まずはチームビルディングについてだ。スタートアップというと、若手のイメージがあるかもしれないが、ソラコムは比較的年齢層が高めだという。「平均年齢は36〜7歳。エンジニアが半分以上だ。日本だと『エンジニア35歳定年説』などと言われているが、うちは35歳以上のエンジニアが活躍している」と自身も起業当時39歳だった玉川氏が話す。

スタートアップあるあるとして、立ち上げ期の起業家や創業メンバーが配偶者に起業やスタートアップへのジョインを反対される、いわゆる“嫁ブロック”問題というのがある。ソラコムではどうだったのだろう。玉川氏は「我が家は大丈夫だったが、初期メンバーを集めるときに、ほとんどのメンバーがジョインを即決できなくて、家族に説明するために会いに行った」と明かす。

「給料などがちゃんとしていますよ、という話もそうだが、どちらかというと『こういうことがやりたいんです』というビジョンを説明した。また『ブラックな会社にするつもりはありません』といったこともお話しした」(玉川氏)

現在社員数45人のソラコムでは、子だくさんの社員が多いと玉川氏は言う。「自分も3人の子どもがいて、多い社員では5人の子どもがいる家庭も。最近、スタートアップ界隈では“憧れ”の関東ITソフトウェア健康保険組合(IT系企業が多く加入しており、寿司屋など保養・関連施設が充実していることで有名)に、ソラコムでも加入の申し込みをしたところ、子どもの数が多すぎて断られてしまった。でも『スタートアップで子どもが増えているのはいいことだ。日本(の少子化対策)に貢献しているし、メンバーが未来があると感じているから、子どもが増えているのであって、そのことを誇ろう』と思うことにした」(玉川氏)

会社の労働環境については、ブラックでないように心がけている、という玉川氏。「ソフトウェアテクノロジーで価値を作るスタートアップは、優秀なソフトウェアエンジニアがゼロからイチ(のサービス)を作れるか作れないかにかかっている。人数や時間をかければ作れるというものではなく、生産性で言えば今までの従業員と比べると、100倍にも1000倍にもなるエンジニアには希少価値があり、大切にしなければいけない」とその理由を説明する。

フルフレックスで、リモートワークもOK、基本的に社員を満員電車には乗せない、というソラコム。優秀な人材にジョインしてもらうために、玉川氏が待遇面で気を配ったのがストックオプションの付与だ。「テクノロジープラットフォームを作る会社でグローバルに展開したい。一気に投資をして一気に成長させる、いわゆるスタートアップをやりたかった」と話す玉川氏は、全員にストックオプションを付与したそうだ。「優秀なエンジニアはコアメンバーだ。給料を(前職の)半分しか出さないとか、ストックオプションを出さないとかいうことは僕にはできなかった」(玉川氏)

「我々の場合、少人数で価値の高いプラットフォームを作ろうとしていて、それは経験の浅いエンジニアだけではできないことだ。15年以上の経験・実績があって、サーバ側もアプリ側も分かるような、いわゆるフルスタックと呼ばれるようなエンジニアに入ってもらってやってきた。そうすると、きちっとした待遇でストックオプションも出してやりたいな、と。結果的にはそれがよかったと思う」(玉川氏)

大手企業で経験を積んできたエンジニアを採用する場合にも、基本的な給与についてはできるだけ前職と同じかそれ以上の条件を用意し、ただしインセンティブやボーナスに関しては「ストックオプション以上の可能性は(他には)ないので、がんばろう」と話しているそうだ。

また、ワールドワイドに事業展開を図るソラコムにとって、海外での採用にはストックオプションの提示が不可欠だったという側面もあったようだ。玉川氏はこう話す。「日本だと、ストックオプションの相場が分からない人も多いが、シリコンバレーでは会社のステージ(投資ラウンドのどの時点か)と、どのポジションでの採用になるか、というのがマトリックスになっていて、業界標準値のようなものがある。アメリカで入ってくるメンバーはそれをベースに交渉するのが普通となっているので、我々もその標準に合わせようと考えた」(玉川氏)

シリーズA段階でのストックオプションの付与は、保有する株の希薄化を避けたい投資家から見ると嫌がられることも多いはずだが、ソラコムではそのあたりはどのようにクリアしたのだろうか。玉川氏は「我々の場合はオプションプールを10%作った。投資家からは確かに嫌がられるのだが、『成長するために優秀な人材を確保するには必要なことだ』と説得すれば理解してもらえるので、オプションプールは作っておいた方がいい。特に海外ではストックオプションがなければ採用はできなかった」と話している。

ストックオプションの価値や相場について理解度が低い日本の場合でも、ストックオプションの付与は有効だったと玉川氏は言う。「ストックオプションはある意味、(会社の成長の仕方によっては)どういう価値が出るのか分からないものなので、細かい値(付与のパーセンテージ)にこだわっても仕方ない。それよりは、会社としてどこまで一気に成長させられるかという観点のほうが大事だ。そういう意味では、ソラコムの日本のチームも(ストックオプションの付与を)前向きに『これでがんばっていこう』ととらえてくれたかな、と思っている」(玉川氏)

ストックオプション付与の利点について、玉川氏は「説明コストが省けること」もあると説明している。「例えば、我々は2年ぐらいで買収ということになったので(イグジットまでの)時間はかからなかったが、通常スタートアップでは3年とか5年がんばっていかなければならず、疲弊してくる。そうすると、分かりやすいインセンティブやボーナス(が欲しい)という話になってくるのだが、それよりは、ストックオプションのほうが可能性としてはずっと高い。しかも全員ががんばればがんばった分だけ、プールは大きくなる。みんながひとつのビジョンに向かって突き進むには、非常にいい仕組みだなと思う」(玉川氏)

創業2年半、ソラコムの今後と起業を目指す中堅へのメッセージ

創業2年半の若い企業とはいえ、既にさまざまなサービスを展開するようになったソラコム。ゼロからイチを立ち上げる初期とは違い、ある程度ソフトウェアができてくるとメンテナンスタスクなども増え、新しいことがだんだんできなくなってきて、モチベーションが続かないこともあるのではないか。

「確かに最初は通信サービスのSORACOM Airとデータ転送サービスのSORACOM Beamの2つしかサービスがなかったが、今は10個以上ある。次に新たにサービスを出していく、となったときに、10個のサービスのメンテナンスもやっていかなければならないし、(新サービスとの)整合性、依存関係も考えていかなければいけないので、もちろん一番最初に比べると身重になっている、というのは正しい。またよく言われる“技術的負債”というのもあって、作ったときにはきちんと解決してきれいにしておかなかったところが、後々重荷になる、ということもある」と言う玉川氏。ただしソラコムの場合は「元々エンジニアを“作る”メンバーと“運用する”メンバーに分けていなかった」ことが功を奏しているとのこと。「(サービスを)作ったメンバーがサポートも受けているので、汚いコードをそのままにしておく、という人は誰もいない。汚いコードを書くと障害も出やすくなり、サポートもいっぱい受けることになって、自分に返ってきちゃうことになるので、きれいに作ろうという意識は高い」(玉川氏)

それでもサービス群が大きくなってくると、取り回しが大変になる部分もある。そこでソラコムでは、定期的に“お掃除の期間”を設けているそうだ。「この期間はディフェンシブに、技術的負債をクリアにしたり、運用を自動化したりするための開発期間に当てよう、ということで何度か期間を取ってきた。それにより、新しいものを作るときに技術的負債が重くのしかからないようにしている」(玉川氏)

今後のソラコムの動きはどうなっていくのか、KDDIとの今後のグローバル展開について聞いてみた。「今はアメリカの特にシリコンバレー周辺とヨーロッパ、それからシンガポールにもオフィスがある。アメリカはやっと立ち上がってきた感じがしている。既にソラコムの顧客に、C2Cの不動産売買プラットフォームを提供するOpendoorがいて、スマートロックを使って内見を自動的にできる仕組みに使っている。またカード型SIMではなく、基盤に埋め込めるように作った5mm×6mmのチップ型SIMを出したのだが、それもアメリカが一番採用が早かった。腕時計型デバイスに埋め込んでもらい、12月に発売される予定だ」(玉川氏)

日本のメーカーが海外展開するときに、ソラコムのサービスが採用されるケースも増えている、と玉川氏は言う。「ソースネクストのPOCKETALKもそうだし、IHIのグローバルでのプラントの遠隔監視に利用されていたり、旭硝子では工場で働いている人がどう動いているかログを取って、動きをより最適化するためにソラコムのグローバルSIMを使ってもらっている」(玉川氏)

最後に、これから起業しようという人たちの参考として、会社の立ち上げからこれまでで、苦しかったことは何かを玉川氏に聞いてみた。「スタートアップって、ずっと苦労してるものだと思うけど、それを言うと全部言い訳に聞こえるんじゃないか。だって自分たちでやりたくてやっているわけだから」と言いつつ、玉川氏は苦しかったフェーズは常にある、と話し、特につらかったのは資金調達だ、と打ち明けた。

「最初の資金調達は2015年のことだが、2015年初めのころは心臓が痛くなった。シリーズA調達が終わったら痛みがなくなったので、ストレスやプレッシャーはすごくあったのだと思う。手持ちの資金で始めてはいるものの、調達できなければせっかく“嫁ブロック”をくぐり抜けて参加してくれたメンバーが解散か、となるので責任感はあるし、引き下がれないし……。資金調達はいつでもつらいもの。調達のニュースがあったときに『まだおめでとうは言わないよ、これからだから』なんて言いたくなる気持ちは分かるが、KPIを達成してマイルストーンを超えているから調達できているわけで。『普通におめでとう、って言ってあげて』と思ってしまう(笑)」(玉川氏)

玉川氏のように、経験を積んだ上で中堅として起業する方へのメッセージももらった。「今、こうしてここに偉そうにすわらせてもらっているが、実際、2年半ほど前に起業を明かしたときには、こうなるとは全く思っていなかった。去年サービスインを伝える記事でTechCrunchに出たときにも、こうなると想像していなかったし、M&Aのことも全く考えていなかった。ただ、今ここにこうして座っている、というのはスタートアップの醍醐味だと感じている。チャレンジしたい、やってみたい、ということがあるならぜひ、チャレンジして欲しい」(玉川氏)

起業に際して最初にするべきことは何か。この質問に玉川氏は「私もTechCrunch Tokyoに来たり、起業家向けイベント、経営者向けイベントにAWSのエバンジェリストとして通っていて、顔見知りになっていて。これが結果的にはすごく役に立った。投資家の人に資金調達のお願いに行ったときにも、はじめてではなく、何度か会っていて、向こうにも『ああ、AWSの玉川さんね』と知ってもらっている状態だった。それは役に立っている」と答えてくれた。

ソラコムの玉川憲CEOもTechCrunch Tokyoに登壇、大型M&Aの背景と今後を聞く

ソラコム共同創業者の玉川憲氏(写真はTechCrunch Tokyo 2015登壇時のもの)

 

11月16日、17日の2日間にわたって渋谷・ヒカリエで開催予定のテック・イベント「TechCrunch Tokyo 2017」で、IoT通信プラットフォームを提供するソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏に登壇頂けることとなったのでお知らせしたい。

ソラコムについて本誌TechCrunch Japanでは、2015年3月のステルス状態での大型のシード資金調達からはじまり、大きな話題となった2015年9月のサービスローンチ、その後の関連プロダクトローンチや24億円のシリーズB調達を経ての世界展開などお伝えしてきた。そして2017年8月にはKDDIによる大型M&Aのニュースで業界に衝撃が走り、買収発表直後にはインタビューも行った。

わずか2年と少しのスピードエグジット。もっとも立ち上げ当初から「日本発のグローバルプラットフォームを作りたい」と語っていた玉川氏にしてみれば、現状でのベストな選択としてKDDI傘下に加わるということだからエグジットといっても、これからが本番というところかもしれない。

一方、テクノロジーをコアとするスタートアップ企業で、これほど短期に3桁億円以上(買収総額は非公開だが推定200億円と言われている)の企業価値を作り出してM&Aというエグジットを決めた事例は日本ではめずらしい。約40人の社員は、ほぼ全員がストックオプションを手にしたといい、日本のスタートアップ業界にとっては1つの模範となるような成功事例と言えるだろう。Amazonクラウドのエバンジェリストとして活躍した後の、業界のベテランによる「大人の起業」でもある。

そんな玉川氏には、これまでの歩みや、今後のKDDIグループの一員としてのサービスの展開について対談形式で話をうかがおうと思っている。ソラコムがクラウドで提供する「Soracom」はIoTのためのプラットフォームだ。ちょうどAmazonクラウドによって多様な新世代サービスがたくさん生まれてきたように多くのIoTサービスが花開くのではないかと思う。日本からIoTサービスを作り出したいと思っているエンジニアの皆さんにも、玉川氏のビジョンと今後のIoT関連サービスについて聞きにきてもらえればと思う。

TechCrunch Tokyo 2017は一般価格4万円のところ、9月末まで(来週いっぱい!)は超早割価格1万5000円でチケットを販売しているので、ぜひこの機会に検討いただければと思う。

【チケット購入はこちらから】

 

【続報】主導権をもって世界を獲りに行きたい―、KDDIによる買収をソラコム玉川氏が決めたワケ

日経新聞が第一報を報じたKDDIによるソラコムの買収について、KDDIから午後3時に公式な発表があった。KDDIの発表によれば、2014年11月設立のIoT/通信系スタートアップのソラコムの発行済株式の過半をKDDIが8月内に取得して子会社化する(全株取得は誤報)。取得額は明らかにされていない。ただ、これまでソラコムはシリーズAで約7億円、シリーズBで約30億円を資金調達していることから、企業評価額は200〜300億円程度ではないかと考えられる。

TechCrunch Japan編集部は、今回の買収の背景と狙いをソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏に聞いたのでお伝えいしたい。

現在ソラコムが提供中のサービスについては全て継続する。SORACOMというブランド名も開発チームも変わらない。二子玉川(駅を挟んで楽天の反対側だ)にある開発拠点と赤坂(中央省庁にも近い)にある拠点もそのままとなる。2016年夏頃からソラコムはKDDIと協業を進めてきたが、今後もその関係性でサービスや事業を作っていく。

今回の買収ニュースに対する業界内の反応はさまざまだ。3年弱での大型M&Aはスピード感があるものの、もっと事業規模や企業価値を大きくしてからのエグジットもできたのではないか、IPOという選択肢もあったのではないかという声がある。ユニコーンになれたのではないか、ということだ。また、これまでMVNOとしてNTTドコモ回線を使うなど通信キャリアに対して中立でもあったバランスが変わるという見方もある。

これに対してソラコムの玉川CEOは「当初からIPOもM&Aも含めて選択肢は検討してきて、いろいろ考えた上での結論」として次のように話す。

「当初から日本発のグローバルプラットフォームを作りたいとおもいで創業しています。これまではMVNOというあり意味ではトリッキーなやり方でやってきました。立ち上げタイミングや日本の制度の中でスイートスポットをつかめたからうまくやってこれたと思っています」

「一方、今後IoT通信プラットフォームをやろうと思うと、5GのIoT向けサービスを、いかに早く市場投入できるかというのが勝負。1つのキャリアと組むのがベストだと判断しました」

ソラコムのコアネットワークのアーキテクチャーは最初から5G寄りで設計されていて、そういう意味でも特定の通信キャリアに入って、その中の深い部分から市場を獲りに行くのが理にかなうという。

日本国内で「思った以上にスムーズに立ち上がった」(玉川CEO)一方で、海外は想像以上にスタートアップ企業に荷が重いということもあるようだ。

「日本だとすでに7000以上の顧客、パートナー数もが350社となっていて事業的にも成長しています。海外は昨年アメリカ、今年はヨーロッパで展開していて、こちらもすでに800アカウントとなっています。でも、まだ日本の10分の1。いちばんネックになっているのは安いデータ料金、つまり海外キャリアとの交渉力です。ここに関してもKDDIグループに入ることで、大きな交渉力が得られると考えています」

TechCrunch Japanでもお伝えしているが玉川氏は元々Amazonクラウド、AWSの元エバンジェリストで国内でクラウド普及に尽力したことでも知られている。世界を狙うならAmazon傘下に入る選択肢もあったのではないだろうか?

「今回のM&Aを決めるにあたって、KDDI以外のキャリアやクラウドベンダーも検討しました。Amazonのことは良く分かっていますし、ソラコムがAmazonに買収されれば、Amazon Simple Connectivityというような名前になる未来も想像が付きます(笑) でもAmazonはグローバル企業です。おそらくチームは解散となるでしょう」

「ITの世界では日本からプラットフォームと呼べるものはこれまで1つも出てきていません。日本発のグローバルプラットフォームを作り出したいんです。ぼくらが主導権をもって世界を獲りに行きたいんです、そのためにはKDDIと組むのがベストという結論だったのです」

テクノロジーをコアとするスタートアップ企業で、3年弱という短期に3桁億円以上の企業価値を作り出し、大手企業へM&Aというエグジットを決めた事例は日本ではめずらしい。約40人の社員は、ほぼ全員がストックオプションを手にしており、この意味でもスタートアップ業界にとっては模範となるような成功事例と言えるだろう。世界を獲るプラットフォームの創出を目的として考えると、5Gの本格立ち上がりのこれからがソラコムのとって本当のチャレンジとなりそう。プラットフォーム創出という点でも大手企業によるスタートアップの買収というオープンイノベーションという文脈でも、今後も多いに注目だ。

KDDIがソラコムを約200億円で買収―日経新聞が報道

今朝(2017年8月2日)日経新聞が報じたところによれば、KDDIはIoTスタートアップのソラコムを買収する模様。発行済全株式を8月内にも取得し、買収額は約200億円となるという。もし事実であれば、日本のスタートアップ企業の買収額としては「大型ホームラン」といって良いM&Aとなりそうだ。創業3年弱のスピードエグジットでもある。TechCrunch Japanでは現在ソラコム広報部に対して買収の事実を確認中だが、事前に先方から取材の申し入れがあり、もともと本日午後に取材を予定していた。買収に関してではないかと思われる。

SORACOMが提供するSIMカードを手にするソラコム共同創業者でCEOの玉川憲氏(2015年9月、撮影はTechCrunch Japan西村賢)

ソラコムの法人設立は2014年11月。AWSのエバンジェリストだった玉川憲氏が本格始動したのは2015年のことで、WiL、インフィニティー・ベンチャーズLLPなどから7億円のシード資金を調達。2015年9月には革新的なMVNOサービスを発表し、その後はIoTプラットフォーム「SORACOM」として通信モジュールやプログラマブルな通信サービスを次々に開発して提供してきた。2016年5月にはグローバル展開を目指すとして総額24億円のシリーズB資金調達を発表している。現在は東京のほかシンガポール、パロアルト、コペンハーゲンに拠点を持ちグローバルで社員数は約40人となっている。

従来、通信キャリアなどがサービス構築のために利用している通信機器の一部をAmazonのクラウド上にソフトウェアとして実装したのがソラコムだ。価格破壊を起こしながら、ソフトウェアならではの機能や設定、きめこまかな従量課金といった柔軟性を実現しているのが特徴だ。デバイスをネットやクラウドに繋げ、管理する通信サービス部分に特化して、高度なセキュリティーやAPIベースの制御機構、低トラフィック向けの安価なサービスなどを提供している。

2016年10月からはKDDIはソラコムと「KDDI IoTコネクト Air」の共同開発を発表するなど協業を進めていた。

TechCrunch Japanでは午後に玉川CEOへのインタビューを行い、続報を掲載予定だ。

 

牛の個体管理や橋梁センサーにも―、ソラコムが低消費電力IoTに新技術を採用

3G/LTEの通信サービスのクラウド化を推し進めてきた通信系スタートアップのソラコムが今日、新たにLoRaWAN(ローラワン)対応のゲートウェイとモジュール製品の販売を開始すると発表した。これまで実装が難しかったシーンでのIoT利用が広がりそうだ。

  1. lora_gateway

    ゲートウェイ
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    LoRaデバイス

「ローラワン」といっても聞き慣れない人が大半だろう。それもそのはずで、まだまだ新しい通信規格だからだ。LoRaWANはLPWAN(Low Power WAN:省電力WAN)と呼ばれるジャンルの無線規格の1つだ。広域通信としてはすでにケータイ網があって、ソラコムもSIMカードと対応プラットフォームのSORACOM Airを提供しているわけだが、ここに新たに消費電力が小さいLoRaWANが加わる形だ。

通信規格は到達範囲によって、PAN(Personal:近接)、LAN(Local:近距離)、WAN(Wide area:広域)などと区分される。無線でいえば、それぞれBluetooth、WiFi、LTEが代表的だ。Bluetoothの省電力版であるBLEが「低消費電力のPAN」としてIoT領域で活用されているのはご存じのとおり。スマホなどを母艦としてガジェットやセンサーをBLE(Bluetooth Low Energy)でぶら下げて、上流のインターネットへ中継するというやり方だ。これに対してLoRaWANは「低消費電力のWAN」(LPWAN)という、いま注目の領域の無線通信技術の1つだ。

LoRaWANは近接通信のBluetoothはもとより、WiFiなどと比べても伝送距離が圧倒的に長く、障害物がなければ最大10キロメートル程度まで到達するという。LoRaWANはゲートウェイとなる端末に多数のノードがぶら下がる形となるが、1つゲートウェイを置けば半径数キロという面を一気にカバーできるわけだ。

半径数キロといっても、すでにセルラーネットワークなら日本全国ほとんどカバーしてるじゃないかと思う読者もいるだろう。IoT領域で考えたときのセルラーネットワークとLoRaWANを使う違いは、ノードあたりの単価が安くなることや、バッテリー交換の頻度を低く抑えられる点が挙げられる。たとえば、1日に1度だけ少量のセンサーデータをアップロードする程度の話であれば、3G通信はオーバースペックだ。LoRaWANは低速・低消費電力というのが特徴で、乾電池でも数年は稼働するという。

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もう1つのLoRaWANのメリットは、各事業者や個人がネットワークを「自営」できる点。LoRaWANが使用する920MHz帯は「ISMバンド」と呼ばれる免許不要の周波数帯域で、誰でも電波を飛ばすことができる。3G無線が到達しない場所に自分でゲートウェイを設置することで、例えば山の中の橋梁や、ビルの地下にセンサーを設置するといったことがやりやすくなる。

ソラコムではこれまで、LoRaWANの実証実験導入のためのPoCキットを提供してきたが、今日からゲートウェイを月額3万9800円(端末料金は6万9800円)、Arduinoベースのノードモジュールを1台7980円で提供する。この月額3万9800円にはLoRaゲートウェイのセルラー通信利用料、「SORACOM」プラットフォーム利用料(Soracom Beam/Funnle/Harvest)が含まれているという。つまり、LoRaWANゲートウェイとモジュールを必要数導入すれば、センサーから吸い上げたデータをクラウド上で扱えるというわけだ。以下が、ソラコムが公開したユースケース別の月額通信費の目安だ。

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ゲートウェイを「共有」すれば月額料金は4分の1に

LPWANには他にもたくさん規格がある。ソラコム共同創業者の玉川憲CEOがTechCrunch Japanに語ったところによれば、LoRaWAN以外にも「NB-IoTやSIGFOXにも注目しています」という。「それぞれ一長一短がありますが、LoRaWANは協業してやっていけるところが良い」という。

LoRaWANはゲートウェイ機器を各所に設置していく形になるが、このとき「自営ゲートウェイ」の所有者は、他の開発者にもゲートウェイを共有することができる。いわば相乗りだ。特に試しに使ってみたいという開発者や事業者にとって、すでに導入しているゲートウェイを利用させてもらえるメリットは大きいだろう。そこでソラコムでは今回、自営ネットワークを他者と共有する「共有サービスモデル」を開始する。

soracom_lorwan_private_sharedゲートウェイは出荷状態ではプライベート利用のみ可能な「所有モデル」だが、これを他の人と共有して、設置場所を知らせ合う「SORACOM Space」に参加することができる。ゲートウェイを共有し、設置場所を登録することで、ゲートウェイの初期費用は6万9800円が2万4800円に下がり、3万9800円月額利用料も9800円にまで下がる。共有モデルでは月額利用料が4分の1ほどにまで下がる計算だ。

今でこそ「シェアリングエコノミー」という言葉が流行しているが、インターネットはもともと通信ネットワークも中継サーバーもシェアする形で繋がってきた歴史がある。異なるネットワークを結んだ「インター」なネットワークとして発展したのが「インターネット」。同様にLoRaWANも多くの参加者が自営ネットワークをシェアすることで、特定地域をまるっとカバーしてしまうネットワークが出現する可能性もある。「The Things Network」というLoRaWANプロジェクトは、まさにそうしたアプローチで市街地をカバーしようという試みだ。ソラコムの玉川CEOも以下のようにコメントしている。

「LoRaを使うのは位置情報やセンサー情報を送るだけというようなサービスが多く、ゲートウェイ(の帯域)が一杯になることはまずありません。デメリットがほとんどないので、アーリーアダプターやコミュニティーの方は、かなり高い確率で共有モデルを選択していただけると思っています。これは、どちらかというとインターネットを作っている気分です」

農業スタートアップのファームノートは、これまでにもソラコムのSIMカードを使ったシステムを提供してきたが、すでにLoRaWANの導入を始めているという。帯広の酪農家が管理する牛の1頭1頭にセンサーを付けて疾病や発情を管理する、という実証実験だ。これまでBluetoothを使っていたときには牛舎ごとにゲートウェイが必要だったものが、LoRaWANでは集約できて約2キロメートルの農場をカバーできたという。

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日本のSoracomがSIMカードとサービスを世界にローンチ―IoTサービスの展開が簡単になる

One of Soracom's case studies is Farmnote, "a solution that involves attaching a sensor to heads of cattle and polling data on their activity."

Soracomnのケーススタディーの一つ、FarmnoteはIoTセンサーを家畜の頭部に取り付けて活動データを収集する。

来るべきIoT(Internet of Things)時代の課題の一つは、少なくともアメリカでの困難はモバイルデータの量が少なく、収集コストも高くつきがちな点だ。Twilioは今年に入って、これを改良していくと発表している。一方、日本のスタートアップ、SoracomはIoTの採用を簡単にするすべての産業分野で利用できるソリューションをリリースした。

Soracomの課金体系〔 英語版日本語版〕はやや複雑だが、帯域幅を最小に、アプリケーションの効率を最大にすべく最適化されたいくつかのプランが用意されている。同社のSIMカードは1枚5ドル、プラス1.8ドル/月(正確には0.06ドル/日だ)の利用料金となっている。注文ロットは1枚から1000枚だ。またSoracomhがIoTアプリ向けプランも数多く提供している。

SIMカードはグローバルでの使用を前提としているため、地域によって料金はメガバイトあたり0.08ドルから2.0ドルと幅がある。アメリカ、ヨーロッパ、中国の大部分の地域は最安区分だ。

Soracom's global data SIM cards are perfect for roaming Internet of Things applications.

Soracomのグローバル・データSIMカードはIoTアプリのろーミングに最適。

「アメリカでセキュリティーを確保しながらスケーラブルなIoTサービスを実施したい場合、われわれのクラウド・ファーストというアプローチはエンタープライズ、スタートアップのどちらにも適切な体験を提供できする」と
SoracomのCEO、共同ファウンダーの玉川憲氏は言う。

同社がローンチしたプロダクトにはSoracom Air(スタートアップ、エンタープライズ双方のIoTが対象)、Soracom Beam(コンピューティング処理をクラウドに移すことによってIoTデバイスの電力消費を押さえるサービス)、Soracom
Canal(ネットに接続されたデバイスとAWSプライベート・クラウド・サービスの間を接続しセキュリティの高いコミュニケーションを提供するVPNサービス)などがある。

訂正 – この記事の最初のバージョンではSIMカードの価格をもっと高く書いていた。 上の記事内の金額は訂正済み。

〔日本版〕SoracomについてはTechCrunch Japanでこの7月に詳しく紹介している

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ソラコム、シリーズBで24億円を追加資金調達して早くも「同時多発的な」世界展開へ

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2015年9月にIoT向けのMVNOサービス「SORACOM Air」を発表したソラコムが今日、シリーズBとして24億円の追加資金調達したことを発表した。今回の出資ラウンドには既存投資家のWiLIVPに加えて、新たにVCや事業会社などが参加している。出資比率や、新たに加わったVC名、事業会社名、その業種は明かされていない。2015年3月に創業チームの自己資金でスタートしたソラコムは、その3カ月後の6月に約7億3000万円の資金調達をしていたので、創業1年と少しで合計約31億円と、日本のスタートアップとしては大きめの資金調達をしたことになる。

TechCrunch Japanの取材に対してソラコム共同創業者で代表の玉川憲氏は、今回の資金でグローバル展開を加速するという。

半年で2000アカウントと日本では受け入れられた

昨年9月の詳報記事でお伝えしたとおり、ソラコムはNTTドコモ回線を利用して、主にIoT向けのモバイル接続サービスを提供する「SORACOM Air」と名付けたSIMカードを提供している。分類上はMVNO事業者ということになるが、接続サービス提供に必要な各種機能をクラウド上でソフトウェアとして実装している点が新しい。IoTやM2Mで必要となるセキュアな通信サービスや認証サービスなども追加で開発、提供していて、これらをAPI経由で利用して動的な制御が可能にしている。

ちょうどAWSがサーバーやストレージ、ネットワーク機器をソフトウェアで置き換えたり抽象化していったのと同様に、SORACOMは通信キャリアやMVNOが使ってきた専用ハードウェア機器に相当する機能群をクラウド上でソフトウェアで実装したコアプロダクトを持っている。

9月のサービスローンチ以来、半年で約2000アカウント(≒2000社)の開設があり、パートナー社数は約150社となっている。「(無償利用ユーザーが多い)ウェブ系サービスと違って2000アカウントというのは、すべて有料アカウント」(玉川CEO)だそうだ。いったん機器に組み込むと止まらないことから、今のところチャーンレート(ある期間にサービス利用を停止するアカウントの比率)も低いという。

なぜヨーロッパや北米ではなく日本発スタートアップなのか?

まず日本市場から会社(サービス)を立ち上げて、その後にグローバル展開する――、というと、いや、そんなやり方は間違っている、最初からグローバルを目指すべきだという反論が聞こえてきそうだ。それには一理あると思う。

ただ、玉川CEOはソラコムが日本発としてスタートしたのには必然性があったのではないかと指摘する。

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ソラコム共同創業者で代表の玉川憲氏

「日本市場で受け入れられたのには、振り返ってみると2つの要素があったと思います。1つはクラウドのエンジニアコミュニティーがあったこと。もう1つはMVNOのプログラムがオープンになっていたことです。NTTドコモのレイヤ2接続はググッて出て来るぐらいオープンになっています」(玉川CEO)

玉川CEOはソラコム起業前にはAWSのエバンジェリストとして、日本でクラウドコンピューティングの開発者コミュニティーを育ててきた立役者の1人だ。その玉川氏によれば、JAWS-UG(Japan AWSユーザーグループ)のようなコミュニティーが全国にあって活発に情報交換やネットワーキングをしている地域としてはアメリカや日本が先行していて、ヨーロッパはそこまで進んでいないという。

MVNO接続についてはヨーロッパが先行している。シェンゲン協定によって国境を超えたヒトやモノの行き来が活発なヨーロッパでは、国境を超えるモバイル接続サービスが必須だからだ。そうした環境に遅れてはいるものの、日本でも日本通信が風穴を開けたところからMVNO市場が形勢され、多くのプレイヤーを巻き込んで1つの市場を作るまでになっている。その一方でアメリカにはMVNO市場はない。

「クラウド」と「MVNO」、その両方が揃っていたのは日本市場だけだ。アメリカにはMVNOがなく、ヨーロッパではクラウドは弱かった。だから、SORACOM Airのようなサービスが日本市場からスタートしたのは、振り返ってみると必然性があったのではないか、と玉川氏は話す。

しかし、北米市場でMVNOの提携交渉をキャリアと進めていくのに勝算はあるのだろうか?

「日本で下駄を履かせてもらったと感じています。北米市場を最初から攻略するのは大変だったでしょうけど、1年たった今なら通信キャリアとも交渉できると思います」

すでに完成したプロダクトがあるので、AWSのリージョンがある世界14拠点には、そのままSORACOMのコアプロダクトは持っていける。楽天やトヨタ、キヤノン、シャープといった世界的に知られた企業がソラコムのサービスを使い始めて、多くのユースケースが実績として出てきている。さらに、総計30億円強の資金調達をしていることからも「交渉力を得たと思っている」(玉川CEO)という。

同時多発的に世界展開を並行して進める

グローバル展開のターゲット市場については、「同時多発的に並行して進める」という。いま20人になった日本拠点チームは広報、マーケ、セールス、エンジニア、オペレーション、カスタマーサービス、経営チームと一通りそろっていて、「こうした自律的に活動していけるチームを拠点ごとに作っていくことになる」という。これは玉川CEOがAWSで経験したグローバル展開をなぞっている。日本企業がよくやるように現地法人に日本人を送り組むようなやり方ではなく、各地のクラウドやモバイルといった産業で活躍してきた人材を集めていく。

「テクノロジー企業でグローバル展開するとき、人材採用はしんどそうだと思っていました。どのぐらい優秀な人に入ってもらえるか? という不安です。でも最近採用を始めてみて、悲観することはないという感触を得ています。優秀な人たちは、その企業が日本企業かどうかとかなんて気にしていないんですね。テクノロジーが良いかどうかをみんな見ています。これは嬉しい誤算でした」(玉川CEO)

各地でのエバンジェリズムの重要性も玉川CEOは指摘する。

「良いものを作れば勝手に売れるとか、自然と使ってもらえるとは思っていません。放置していると広がらないのです。デベロッパーマーケティングや広報も必要です。地道なエコシステム作りには現地でのチーム作りが大事です」

「これはAWSの経験で分かっていることですが、ちゃんとエンジニアがいることも大切です。手強いお客さんのところに一緒に行って信頼感を得るとか、深いフィードバックを得られますから」

新規に各市場を開拓していくとはいえ、既存M2M市場の置き換えなど見えている需要もある。「クルマや建機管理などM2M市場は日本だけで500〜1000万回線あるのですが、ヨーロッパと北米には、それぞれその10倍くらいずつ回線があります」

グローバルプットフォーム創出を目指す

SORACOMはプラットフォームなので、グローバル展開というときには同じ製品を各市場で売るという以上の意味がある。どの事業者がどの国で契約しても同じSORACOMが使えるというグローバルモバイル通信サービスが実現するからだ。

「契約すれば、どこでも使えます。より多くの国、より広い範囲でやっていきたいので各国のキャリアに声がけしていきます」

「グローバルにビジネスをやってる日本企業の顧客の要望は、グローバルで共通して使えることです。以前だと現地でデーターセンターはどうするの? ボルトの形状も違うよね、ということがあったのが、AWSで展開しやすくなりました。同様に、いま個別で交渉や契約しているモバイル通信でグローバルで使いやすいものを提供します」

2016年中に日本以外に拠点を1つは開設して、グローバルサービスを出すというのが直近の目標だそうだ。

通信サービス込み、マニュアル作成「Teachme Biz」がソラコムSIMで新端末パッケージ

スマホで写真を選んで説明文を追加するだけで業務マニュアルが作成できる、クラウド型マニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz」については本誌TechCrunch Japanでも2015年3月に紹介したが、サービス提供会社のスタディストが今日、総額1億5000万円の資金調達に合わせてモバイル端末と接続サービスを丸ごと、1台あたり月額3980円から提供する新サービス「ワンストップパッケージ」を発表した。

teachme新サービスに含まれるのは、Teachme Bizのライセンスに加えて、モバイル端末、SIMカード(SORACOM提供のもの)、モバイルルーターなど一式。導入時のレクチャーも付属する。モバイル端末はiPod touch、iPad mini、Surface 3から選択できる。端末によって月額料金が異なりiPod touchが3980円でiPad miniが4980円など。初期費用は端末利用代金の1カ月分。契約期間は2年で、10台単位で導入できる。

これまでTeachme Bizを利用するには企業側でモバイル端末を用意する必要があったし、Wi-Fiのない環境であれば、個別に通信契約を結ぶ必要があった。新サービスを利用することで初期費用や面倒な契約が不要となる。かつてであれば、こうした垂直統合の業務ソリューションは専用端末を使うケースもあったが、スタディストのサービスは汎用モバイル端末を利用している。このため、Teachme Biz用に導入した端末は、同時にほかのクラウドサービスで利用することもできる。クラウド利用が進んでいない飲食業や小売り、物流などでのサービス導入を進めていくという。現場レベルだと導入のための端末設定スキルがあると限らないから、パッケージ導入できるメリットはありそうだ。

ソラコムのSIMカードを利用しているため、スタディストからソラコムへ流れる通信は従量課金ということになるが、通信料金を考えると月額3980円は安い。どの程度のトラフィックを見込んだ料金設定なのだろうか? スタディスト広報部によれば、マニュアルで「約2000ステップ/月くらいは利用できる試算」という。一度読み込んだものはキャッシュできるため、通信料金の安い夜にキャッシュする運用を推奨していくのだという。通信量については10台で10GB/月の制限があり、オーバーした場合は1000円/1GBで追加可能。また既存通信回線を使うこともできて、その場合はiPod touchは2980円となる。

スタディストは合わせて、日本ベンチャーキャピタル三菱UFJキャピタルから総額1億5000万円の資金を調達したことを発表している。Teachme Bizは2013年9月にサービスを開始していて、2015年12月現在、有償導入社数は前年同月の約10倍となる約600社になっている。導入先企業は、士業、IT、飲食・宿泊などで、社員数1000人を超える東証一部上場企業も含まれるという。

IoTの世界観実現のためモバイル回線をクラウドでディスラプト、ソラコム創業者大いに語る

2015年に登場した日本国内スタートアップの中で、ソラコムは初期段階から注目されていた企業だった。AWS(Amazon Web Services)エバンジェリストとして知名度が高い玉川憲氏が創業し、その直後に7億円の資金を調達した。9月には、それまでステルスモードで開発を進めていたサービス内容を明らかにした。IoT向けのSIMを提供するSORACOM Airと、暗号化サービスのSORACOM Beamである。しかも発表と同時にサービスを開始し、さらに多数のパートナー企業の名前も公表した。まさに「垂直立ち上げ」と呼ぶにふさわしい鮮やかな手際を見せてくれた。

そのソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏に、TechCrunch Japanの西村編集長がざっくりと切り込んでいくセッションがTechCrunch Tokyo 2015の2日目、2015年11月18日に行われたファイア・サイド・チャット「創業者に聞く、SORACOMが開くクラウド型モバイル通信とIoTの世界」である。

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どのような問題を解こうとしているのか

ソラコムは、会社名でもあり、IoT向けプラットフォームの名前でもある。

同社は何の問題を解こうとしているのか。「IoTの世界観はすばらしい」と玉川氏は言う。実は玉川氏は約15年前、IBM東京基礎研究所の所員だった時代に「WatchPad」と呼ぶLinux搭載の腕時計型コンピュータを開発していた。「今でいうスマートウォッチですよね」と西村編集長。WatchPadのプロジェクトは途中で解散してしまい、これは玉川氏のキャリアの初期に遭遇した挫折となった。

だが、ここにきて、いよいよコンピューティング能力を持った小さなデバイスが世界を変え始めている。クラウドの普及、そしてRaspberry Piのようにプロトタイピングに活用できる安価で小型なコンピューティングデバイスの登場で、今ではモノとクラウドの組み合わせをごく手軽に試せるようになった。

「その一方で、通信回線がボトルネックになっている」と玉川氏。そこに目を付けたのがソラコムだ。IoT向け通信回線にモバイル通信を使うアイデアは有望だが、多数のデバイスにそれぞれSIMカードを挿すことになる。多数のSIMカードの調達や管理は、現状では非常に人手もかかるし高コストになる。「この問題を解くのがソラコムのサービス」と玉川氏は説明する。

携帯電話事業者は、基地局やパケット交換機などの設備に1兆円規模の巨額の投資が必要だ。基地局を借りてビジネスをするMVNO(最近は「格安SIM」といった呼び名の方が通りがいいかもしれない)の場合は基地局への投資の負担はないが、それでも携帯電話事業者とレイヤー2で相互接続する「L2卸し」のMVNOを立ち上げるにはパケット交換機などに数十億円規模の投資が必要だった。通信事業者には巨額投資が必要との常識をクラウドでディスラプト(破壊的革新)してしまったのが、ソラコムだ。

ソラコムは、NTTドコモの基地局を借り、さらにパケット交換設備に替えてパブリッククラウドを活用することで、設備投資の費用がかからずスケーラビリティがあるサービスを構築した。玉川氏は「NTTドコモの基地局とAWSのクラウド、両巨人の肩に上に乗ってバーチャルキャリア(仮想通信事業者)を作っている形です」と表現する。

クラウドで低レイヤーの通信設備を実現するというアイデアは、世界的に見ておそらく初めてだ。「パケット交換機能まですべてパブリッククラウドで実装した例は、他には聞いたことがない」と玉川氏は言う。顧客管理システム、課金システム、APIをパブリッククラウドで実現している例はいくつかあるが、低レイヤーのパケット交換システムまで含めてクラウドで実現した例は見たことがないそうだ。

さらに、ソラコムのサービスを使うさいの流儀も、いかにもクラウド的だ。Webブラウザから管理コンソールを操作でき、SIMごとに契約内容の変更、速度の変更、さらには解約まで手軽に行える。AWSのクラウドを使う場合と同等の手軽さで、多数のSIMとモバイル回線の管理ができてしまう。

Amazon流に「事業アイデアのリリースを書いた」

ソラコムの事業アイデアが誕生した瞬間のことが話題に上った。玉川氏と、現ソラコムCTOの安川健太氏が飲んでいたときのことだ。「パブリッククラウドはサーバーを使いやすくする。何でも動かせるよね」という話をしていくうちに、通信設備のようなレイヤーもクラウドで作れるのでは、という話が出た。

Amazonには、製品開発を始める時点で、完成イメージを発表文(プレスリリース)の形式にまとめる「Working Backward」と呼ぶ文化がある。玉川氏は当時勤めていたAmazonの流儀に従って、アイデアをリリース文に書き起こしてみた。翌朝になって、前の晩に書いたリリース文を見ると「なかなかいいじゃない」と思った──これがソラコムの事業アイデア誕生の瞬間だ。

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ソラコム創業者で代表取締役社長の玉川憲氏

AWSは、初期の設備投資なしにサービスを開始して、巨大サービスまでスケールできるメリットがある。DropboxやInstagramのようにAWS上でサービスを構築して成功したスタートアップも数多い。「AWSのエバンジェリストだった時代に、『AWSを使ったら日本のみんなもすごいスタートアップを作れる』と1万回以上は言った。そのうち、自分でもやってみたくなっちゃったというか」。

資金調達で良い待遇、そしてスケールできるビジネスを目指す

ソラコムのメンバーは13人。そのうち8人がエンジニア。ほとんどが15年以上の経験を持っている。

2015年春の時点で7億円の資金調達を行った理由の1つは一流のメンバーに「ちゃんとした給料を出したかった」ことがある、と玉川氏は打ち明ける。同社のエンジニアは低レイヤーのプロトコルの実装からプラットフォームサービスとしての実装、運用に至る高度な仕事をしている。その上、スタートアップ企業としてのリスクも背負っている。「給料を下げて、リスクも取ってやってもらうのは、アンフェアなゲームだ」と玉川氏は話す。

「シリコンバレーのスタートアップのように、うまくいけばスケールするビジネスモデルで、きちっとお金を集めて、きちっとした待遇でやっていきたい」。

ところで、ソラコムのサービスは、SORACOM Airが”A”、SORACOM Beamが”B”とアルファベット順に並んでいる。「次のサービスは”C”始まり。大分先までサービスができている」そうだ。西村編集長はここで「Androidみたいですね」と突っ込む。Androidのバージョンには、1.5の”Cupcake”から6.0の”Marshmallow”までアルファベット順に並ぶ愛称が付いているからだ。

今後出していくソラコムのサービスも、バーティカルな特定用途向けというよりも、プラットフォーム的に広めていく性格のものを考えている。「皆さんにとって共通に大変で重たいところはどこか。そこをサービス化していきたい」。

ソラコムのパートナー企業に関する説明もあった。フォトシンスのAkerunは、スマートフォンを「鍵」として使えるようにするサービスでソラコムのオフィスでも便利に活用しているとのことだ。キヤノンは複合機など事務機器と組み合わせる実証実験を進めている。車載機器の分野では動態管理のフレームワークスやカーシェアサービス向け応用を狙うGlobal Mobility Service(GMS)がいる。

小売業分野での活用例も要注目だ。リクルートライフスタイルのスマートフォン/タブレット向け無料POSレジアプリ「Airレジ」もソラコムと組む。AWSユーザーとして著名な東急ハンズも、店舗システムのバックアップ回線にソラコムのサービスを導入する。利用料金が格安で従量制のソラコムのサービスは、バックアップ回線としても合理性があるといえるだろう。

ソラコムは、その事業アイデアに基づく人材獲得、資金調達、サービス構築、パートナー獲得を、ごく短期間にやってのけた。利用者コミュニティの形成、エコシステム形成にも成功しつつあるように見える。TechCrunch Tokyoのセッションからは、ソラコムの活躍が日本のスタートアップ界隈への良い刺激になってほしいという願いが伝わってきたように思えた。

話題のIoTスタートアップ、ソラコム創業者の玉川憲氏もTechCrunch Tokyoに来て話すぞ!

IoT関連のスタートアップは増えているが、今年いちばん話題をかっさらったのは9月末にサービスを一般公開したソラコムだろう。ソラコムは、AWSのエバンジェリストだった玉川憲氏が2015年3月にAWSを退職して設立したスタートアップ企業で、創業直後に7億円という大型のシードラウンドで資金調達をしたのも注目を集めた。そのソラコム創業者の玉川憲氏が11月17日、18日に渋谷・ヒカリエで開催予定のTechCrunch Tokyo 2015に登壇していただけることとなったのでお知らせしたい。

ソラコム創業者で代表の玉川憲氏

ソラコムが提供するのはソフトウェア的に制御可能で安価なMVNOサービス「SORACOM Air」だ。

SORACOM Airは、アマゾンがクラウドで果たした役割をモバイルネットワークで果たそうとしているように見える。AWSは、従来専用ハードウェアを用意しなければ実現できなかったサーバー、ネットワーク、ストレージといったものを仮想化して、いつでも好きなときに好きなだけ組み合わせて使えるようにした。API経由で制御できることで、それまでの常識とは異なるシステム構築を可能にして、小さく始めて大きく育てられる高いスケーラビリティや、高い可用性、柔軟性を実現した。

クラウド同様にSORACOM Airは「小さく始められる」サービスだ。従来通信サービスを含んだ「ソリューション」の開発・提供となると、まずSIMカードを数百枚単位で買ってきてというのがスタート地点だった。それがSORACOM Airなら1枚のSIMカードによるプロトタイプからスタートできるようになっている。また、SORACOM AirではAPI経由で制御可能としている。きめ細かに通信サービスを制御することで、従来は採算性が取れなかった新しいビジネスを構築できる可能性も感じられる。詳しくは、9月末に掲載した記事「ソラコムがベールを脱いだ、月額300円からのIoT向けMVNOサービスの狙いとは?」をみてほしいが、ソラコム創業者の玉川氏は、「かつてAWSがでてきて、その結果、InstagramやDropbox、Pinterest、Airbnb、Uberといったサービスが出てきたみたいに、ソラコムのようなプラットフォームによって、きっと面白いIoTが出てくるんじゃないかなと思います」と話している。

ソラコムは、提供する製品自体も注目だが、スタートアップ企業としての立ち上げ方も目を引いた。大型資金調達やメディアを使った大々的なローンチ発表もそうだし、ローンチ時にパートナー制度を開始して多くのハードウェアメーカーやシステムベンダーを巻き込んでいること、そもそも特定業界を中から見ている腕の立つエンジニアでなければ見つけられない起業アイデアをつかんだことや、半年ほどで専用ハードウェア相当の機能をクラウドで実装してしまったことなんかは鮮やかな垂直立ち上げだったというほかない。製品リリース後もリレーブログ開発者イベントの開催などの開発者を巻き込むB2Dも、もともと技術者コミュニティーを盛り立てるエバンジェリストだった玉川氏の面目躍如といった感じで「手慣れたもの」という印象すらある。

まだ大きく成長するのかどうかは分からないが、ソラコムがいまもっとも各方面からの注目が集まっているスタートアップであることは間違いない。TechCrunch Tokyo 2015のステージ上では、大手企業を飛び出して起業することや、チームやプロダクトの作り方、SORACOMの詳細と応用可能性、IoTの未来など、ざっくばらんに語っていただこうと思っている。

玉川氏は東京大学大学院機械情報工学科修士卒で、日本IBMの基礎研究所でキャリアをスタート。Amazon Web Servicesへの移籍前にはカーネギーメロン大学でソフトウェア・エンジニアリングとMBAの2つの修士号を取得している。

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【詳報】ソラコムがベールを脱いだ、月額300円からのIoT向けMVNOサービスの狙いとは?

ソラコムがステルスで取り組んでいた新規プラットフォーム事業の詳細を明らかにした。ソラコムは、元AWSのエバンジェリスト玉川憲氏が2015年3月にAWSを退職して設立したスタートアップ企業で、創業直後に7億円というシードラウンドとしては大型の資金調達が注目を集めた。TechCrunch Japanは発表直前にソラコムに話を聞いてきたので詳しくお伝えしたい。

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提供を開始したSIMカードを手にするソラコム創業者で代表の玉川憲氏

ソラコムが取り組むのは、IoT向けの格安MVNOサービス「SORACOM Air」だ。これだけ書くと、何だまたもう1つ別のSIMカード提供会社か登場したのかと思うかもしれないが、2つの点で注目だ。

1つは、利用用途によっては月額利用料が300円で済むという衝撃的な安さ。これだけでもIoTや業務用スマホ・タブレットの全く新しい市場を切り開く可能性がある。

さらにもう1点、ソラコムの新プラットフォームが注目すべき理由は、基地局だけ既存キャリアのシステムを流用していて、残りをソフトウェアで実装している点だ。通信キャリアはもちろん、従来のMVNO事業者は、パケット交換、帯域制御、顧客管理、課金など、キャリア向けの専用機器を利用していた。ソラコムでは、この部分をAWSのクラウド上に展開したソフトウェアで置き換えてしまった。

これは単に運用コストの削減に繋がるだけでなく、高い柔軟性とスケーラビリティーを確保できるということだ。例えば、SIMカードを搭載したデバイス、もしくはそのデバイスを管理するサービス側からソラコムのAPIを叩いて通信速度をダイナミックに変更できたりする。これは、ちょうどAmazon EC2でインスタンスをソフトウェア的に切り替えるような話だ。暗号化通信もクラウドの豊富なコンピューティングリソースを使うことでソフトウェア的に簡単に実現できてしまう。AWSでサーバーがプログラマブルになったように、ソラコムは通信サービスをプログラマブルにしてしまうということだ。

IoTで未解決だった「通信とセキュリティー」問題を解決する

ソラコムの狙いと、今後のビジネスモデルの話は、創業者である玉川憲氏の経歴に重ねて説明すると分かりやすいかもしれない。

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WatchPad

玉川氏は東京大学大学院機械情報工学科修士卒で、日本IBMの基礎研究所でキャリアをスタートしている。2000年ごろ、IBMで「WatchPad」と名付けられた今で言うスマートウォッチを作っていたそうだ。製品化には至らなかったものの、Linux搭載で腕に巻きつけられる超小型コンピューターとして当事非常に大きな注目を集めた。

「2000年にIBMの基礎研でWatchPadを作っていたのですが、その頃からIoTの課題って変わってないなと思っています。1つはバッテリーが持たないこと。10年かかって2倍にもなっていませんよね。10年で100倍速くなっているコンピューターとは違います。もう1つはネット接続。近距離無線は進化しているものの、まだまだネット接続が難しいのが現状です」

「もう1つ未解決なのはセキュリティーです。デバイスで暗号化をすると小型化や低コスト化ができません」

ソラコムでは、通信とセキュリティーについての回答を用意したという。

近距離通信としてはBluetoothが普及しているし、家庭内のWPANとしてZ-WaveやThread、Weave、ZigBeeなどの規格もある。しかし、これらはスマホやハブといったアップストリームにぶら下がった端末までの接続のためのもので、ネット接続ではない。一方、Wi-Fiは小型デバイスにとっては難しい。玉川氏によれば、これまでモバイル通信は、おもにヒト向け。「IoT向けのモバイル通信を作りたい」と考えて立ち上げたのがソラコムだという。

従来のMVNOと違って専用機材ではなく、クラウド上に各機能を実装

モバイル向け通信に参入するといっても、「全国に設置した基地局だけで1兆円ぐらいのアセット。パケット交換や帯域制御、顧客管理、課金といった部分で数千億円規模の投資。さらにISPも入れて、この3つをやって初めて通信キャリアなわけですが、われわれは、そうはなれません」という。

「一方、MVNOといえば、楽天やイオン、DMMが参入しています。これは(1契約あたり)2000円で仕入れて2500円で売るというビジネスで、ブランドや販売網があればできますが、これもわれわれにはできないし、テクノロジーのビジネスでもありません。われわれがやるのは基地局だけをレイヤー2接続の契約で利用して、残りはクラウドネイティブで提供するというモデルです」

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従来のMVNOの接続では、キャリアが持つ基地局からパケットが飛んでくるゲートウェイに続けて、MVNO事業者が利用者認証や課金管理、利用者ごとのポリシー適用のための機材などをそれぞれ用意する必要があった。ここはエリクソンなど専用ベンダーが提供するハードウェアの世界。ここの機能群をAWSのクラウド上にソフトウェアで実装したのがSORACOM Airで、クラウドの特徴であるスケーラビリティーの高さがメリットだ。玉川氏は「人口の10倍とか100倍のデバイスが繋がってきても対応できるような、IoTに特化したバーチャルキャリア」と、そのポテンシャルを説明する。

スケーラビリティーは上限のほうだけなく、小さい単位から即利用できるという点にも当てはまる。例えばデバイスとサービスを統合したソリューションを展開する企業が通信部分が足りていないようなケース。

「従来のMVNOだとSIMカード2000枚以上、500万円以上からと言われたような話が、SORACOM Airなら1枚から利用できる。誰でも通信キャリアになれるというモデルで、自在に値付けしてビジネスができます」

クラウド上に実装された通信管理機能には、AWSクラウドと同様にWebコンソールからでも、APIからでも操作可能で、複数SIMを一括操作するようなことができる。各端末からでもサービス側からでもAPIを通して、各SIMの通信状態の監視や休止・再開、速度変更といったことができる。

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SORACOM AirのSIMカードは20枚で1万1600円(1枚580円)など。月額基本料金は300円で、32kpbsだと1MBあたり上り0.2円、512kbpsで1MBが0.24円。上り・下りで料金が違ったり、夜間割引も適用されるなど明朗会計だ。料金設定はAmazon EC2のインスタンスサイズを選ぶようなイメージだ。将来的にはニーズに応じて料金を変動させる「スポットインスタンス」のようなことも、アイデアとしては検討しているそうだ。以下がSORACOM Airの価格表。s1.minimumとかs1.fastとか、何だか見慣れた命名規則だ。

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SORACOM Beamで暗号化やルーティングなど高度な処理をクラウドにオフロード

IoTで未解決だった問題として、玉川氏はセキュリティーを挙げていた。これについてはクラウドで潤沢なリソースを使った「SORACOM Beam」というサービスで解決可能だという。SORACOM Beamはデバイスとサービスを繋ぐ通信経路を暗号化したり、ルーティングするサービスだ。

セキュアな通信を行うには暗号化が必要だが、小型デバイスに暗号化処理をやらせるのは重たい。ただ、もともとキャリアのパケット網はゲートウェイ部分まではセキュアなので、ソラコムにパケットが入ってきてインターネット側のシステム(サーバー)へと繋ぐ部分を暗号化すれば良いだけだ。そこで、

・HTTP→HTTPS
・MQTT→MQTTS
・TCP→SSL

という変換をソラコムのクラウド上で行うことで、重たく面倒な処理はデバイスではなくクラウドで済ませることができる。実際、車いす開発のWHILLは、バッテリーをできるだけ使わずにセキュアに見守りシステムを作ることを検討していて、こういうケースだと「TCP→SORACOM Beam→HTTP」とすることで、デバイス側の負荷をオフロードできるのだという。タイムスタンプやSIMのIDもソラコム側で分かるし、カスタムヘッダを付けてHTTPSで送ることもできる。そして、これがまた重要だと思うのだけど、こうした設定はすべて、デバイスの設定に触れることなくAPIで変更ができる。出荷したIoTデバイスに触れることなく、サービス改善や新規サービス開発が可能ということだ。

ソラコムでは今回、デバイスやソリューション、インテグレーションのサービスを提供するパートナープログラム(Soracom Partner Space)を発表している。現時点では、以下のような企業がテストしているそうだ。

・内田洋行:IoT百葉箱
・リクルートライフスタイル:無料POSレジアプリ「Airレジ」にSORACOM Air搭載、イベント会場で1カ月だけ臨時店舗運営
・フォトシンス:スマートロックのAkerunで応用、カギを開けるときには低速、ファームウェアのアップロード時には転送速度をアップ
・フレームワークス:物流システムにおける動態管理システム。トラックにスマホを搭載してGPSデータだけを利用。業務時間のみの小容量の通信
・キヤノン:事務機器でSORACOM Airの実証実験
・東急ハンズ:業務システムのバックアップ回線として利用
・Global Mobility Service:フィリピンでクルマにSORACOM Airを搭載。割賦未払いの利用者のクルマを遠隔地から停止

いろいろな実験的取り組みがベータ期間中にも出てきているが、ソラコムの新サービスは、Amazon S3が出てきたときと似ているかもしれない。S3のリリース初期には開発者だけではなく、個人利用で使ってしまうパワーユーザー層にもアピールしたものだ。SORACOM Airも1枚880円からAmazonで購入できるので、何かのアプリが出てきて個人ユーザーが使うような事例も出てきそうだ。

Amazon同様に継続的な値下げ努力とイノベーションで競合に勝つ

ステルス期間は別として、ローンチしてしまえばアイデアは自明だし、ソフトウェアの話なので誰でも実装できるのではないだろうか。競合が出てきたときに、ソラコムではどうやって戦っていくのだろうか。

「ソラコムは、モバイルとクラウドが融合した初めての形と思っています。単純な通信ではなく、暗号化したり、認証したりという付加価値があます。新機能や新サービスも開発していきます。まだ2つ3つは温めているアイデアがありますし、実際にお客さんと話している中でニーズが見えてくる面もあります」

「これはAWSが出てきたときと似てるなと思っています。AWSはクラウドです。当事は、うちもクラウドですといってプライベートクラウドみたいなのが、たくさん出てきましたよね。でも、その多くはあくまでもサーバー仮想化の話であって、AWSがやっているようなクラウドネイティブではありませんでした。ハードウェアを仮想化して、物理サーバー上に仮想マシンを複数設置しましたという程度にすぎなくて。もちろん仮想化は仮想化で価値はあるんですけど、瞬時に使えて、いつでもやめられて、いくらでもスケールできるというクラウドとは違いますよね」

「もしソラコムが取り組む市場が良い市場だとしたら、今後は競合がたくさん入ってくるはずです。でも正しいアプローチでやれる企業は少ないと思うんです。いつでも始められて、いつでも利用をやめられて、APIが備わっていて、自動化ができてという。そういうことを質実剛健にやっていけるような企業は少ない」

「われわれも運用コストに少しだけ利益をのせて回していくのですが、Amazonみたいな薄利多売モデルで、どんどん価格を下げていきます。Amazonにいた私からすると当たり前のことですけど、ふつうはそうじゃありません。多くの企業は大きな利益を取っていくので、同じアプローチを取る会社が多いとは思っていません」

「かつてAWSがでてきて、その結果、InstagramやDropbox、Pinterest、Airbnb、Uberといったサービスが出てきたみたいに、ソラコムのようなプラットフォームによって、きっと面白いIoTが出てくるんじゃないかなと思います」