SyncThink、スポーツ現場などでの脳震盪判定にOculus Riftを活用

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ここ十年ほど、激しいコンタクトスポーツの最中に発生する脳震盪に対して注目が集まっている。脳に繰り返し衝撃を受けることにより、長期に及ぶ影響が発生することが明らかになってきたからだ。

そうした中、スポーツの現場で役立つソリューションを生み出したいと誕生したのがSyncThinkだ。設立したのはStanford Concussion and Brain Performance CenterのDr. Jamshid Ghajarだ。VRを使って脳震盪の診断をスピーディーかつ正確に行うソリューションを提供する。

開発したシステムはEYE-SYNCと呼ばれるもので、非常にコンパクトでどこにでも持ち運べるようにもなっている。現在の脳震盪チェックでは、プレイヤーが試合にとどまることができるように、周りの選手たちが「助ける」ような行動をすることもある。SyncThinkではヘッドセットを使って外部環境から切り離したテストを行うことで、プレイヤーの状態をより正確に判定できるようになっているのだ。

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システムで利用したのはDK2 Oculus Riftで、これにアイトラッキング・センサーを加えて、脳に受けた衝撃が脳震盪を引き起こしているかどうかを素早く判定できるようになっているのだ。

このシステムは既にスタンフォード大学のスポーツ授業の現場などで利用されている。試合が行われるフィールド上での利用をまず第一に考えているわけだが、コンパクトさゆえに軍隊などでの活用可能性もあるはずだと考えているそうだ。

そしてこのたび、ボストンに拠点をおいているSyncThinkは、インディアナ大学が脳震盪の研究にEYE-SYNCを用いることになったと発表した。

「脳震盪はさまざまな兆候から経験的な判断も加えて判定していました。ここに科学分析的なシステムを加えることで、より正確な判定ができるようになると思うのです」と、インディアナ大学で運動生理学のAssistant Professorを務めるKawata Keisuke氏は述べている。「脳に受けた障害の程度を迅速に判定する仕組みを確立し、兵士やアスリートたちが最高のパフォーマンスを安全に発揮できるようにしていくのが私の務めなのです」とのことだ。

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(翻訳:Maeda, H

One Dropのスマート(電脳)グルコースモニタリングハードウェアをFDAが承認、ついに発売へ

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この夏One Dropは、その糖尿病管理アプリのために、シリーズAで800万ドルを調達した。そのときの同社によれば、資金の一部は同社のモバイル健康ソフトウェア専用のハードウェアの開発に充てられる、ということだった。

そしてできたChromeは、グルコースモニタリングシステムで、しかしそれにしてはシンプルですっきりしたデザインだ。4つのもので構成され、それらは、標準的な試薬紙片とランシング・デバイス、ランセット、そしてBluetoothで接続されるメーターだ。アメリカではすでにFDAが承認済み、そしてヨーロッパではCEマークをもらっている(本稿執筆時点、同社による)。

そこで今月中には、One Dropのサイトで発売される。アメリカではApple Storeでも。Appleはここ数年、健康づいているから、お似合いの独占代理店だ。

Chromeの月額制会員サービスの会員になると、試薬紙片はいくらでも無料、そして公認の糖尿病教育者が24/7でモバイルアプリからの相談を聞いてくれる。無料バージョンでは、グルコースや医療関係のデータにアクセスしたり、他のアプリからのフィットネス情報を取り入れたりする。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

BenevolentBioの人工知能はALSのもっと良い治療法を見つけるかもしれない、新薬開発よりもデータの発掘で

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あの、バケツ一杯の氷水を頭から浴びるキャンペーンで大きく知名度を上げた麻痺性の神経症状、 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, ALS)の治療に有効な薬が、すでに存在しているとしたら、どうだろう?

それが、BenevolentBioのCEO Jackie Hunterが直面している疑問だ。Hunterは人工知能企業BenevolentAIの生物医学部門を任され、医学研究の膨大なデータベースに機械学習を適用して、データを高速にスキャンし組織化しようとしている。過去の科学研究を掘り返して新たな発見にたどり着くことなど、ありえないように思えるが、しかし生命科学の分野では新しい研究が30秒に一本の割合で公開されており、そのあまりにもの多さのゆえに、価値ある研究が見過ごされることも少なくない。

Hunterは今日(米国時間12/6)の本誌TechCrunch主催Disrupt Londonのステージで、BenevolentBioのAIがすでに成功している、と語った。BenevolentBioのAIは、ALS治療に関する未知の情報があるかもしれない研究を探しだす。“最終的に5種類の化合物をテスト対象として選定した”、とHunterは説明した。BenevolentBioはその5種類の化合物を、ALSの患者の細胞からクローンした細胞に対してテストした。

“ある化合物は、だめだった。二つは効果があり、それらはALS治療の基準としては最高の水準だった。そして他の二つはさらに良好で、これまでの研究の中では最良だった。5つの化合物のうち4つは、これまでの研究者たちがまったく見ようとしなかった化合物だった”、とHunterは語る。

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BenevolentBioがテストした薬はすでに開発が始まっているので、実際に患者に対して使えるようになるのは一般の新薬より相当早いと期待される。

“私も前は製薬業界にいたが、そのR&Dのやり方は数十年前からまったく変わっていない。ひとつの新薬の開発に、20億ドルの費用を要している”、とHunterは述べる。薬の開発者たちがAIを利用すると、既存の薬の別の用途を見つけることができるので、新薬に膨大な投資をするよりも効率的である。またAIは、研究者たちにより早く、もっとも有望な発見の方向性を示すことができる。

しかしながらAIは、それ自身で新しい科学的突破口に到達することはできない。Hunterは、そう主張する。データをチェックするためには依然として、経験豊富な人間科学者が必要である。“しかしAIは科学者たちの〔発想の方向性の〕健康診断ができる。AIは科学者を補助しその能力を拡張するが、科学者をリプレースすることはない”、と彼女は語る。

BenevolentBioはそのAIをさらに拡張して、親会社を介して他の分野にも応用したい、と期待している。Hunterによると同社の技術は、コンピューティングのパワーとデータ分析と、インサイトと、そして需要の理想的な組み合わせであり、“イノベーションのパーフェクトな波を作り出して、本当にこの業界を変えてしまう、と私は思っている”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

糖尿病患者の健康状態を常時チェックして警報をスマホに送るSiren Careの“スマートソックス”

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糖尿病の健康チェックサービスSiren Careが、糖尿病患者が温度センサーで炎症や傷害を、リアルタイムで検出する、スマートソックス(靴下)を作った。

協同ファウンダーのRan Maは、ノースウェスタン大学にいるときに傷めた背中の皮膚を回復するため、バイオマスを育てていたとき、糖尿病患者の足の処置について勉強を始め、怪我を調べたり防ぐためにウェアラブルを作ることを思いついた。

糖尿病患者はタイプ1の人も2の人も足に問題を抱えることが多く、とくに、足がむくみがちである。それは放置すると、感染症や足の切断手術など深刻な事態になることもある。重大な合併症を防ぐためには早期発見がきわめて重要であり、そこでMaと彼女に協力する協同ファウンダーVeronica Tranは、衣服などへのセンサーの内蔵が鍵だ、と考えた。

しかし糖尿病患者の足の傷害を見つけるウェアラブルは、Sirenのソックスが初めてではない。SurroSense Rxは糖尿病患者のための靴の中敷きで、Tillges TechnologiesのPressureGuardianは、問題を検出するよう設計されたブーツだ。

でもブーツは扱いが面倒だが、Sirenのソックスは靴の中敷きよりも皮膚によく密着する。センサーはソックスの生地に織り込まれていて、炎症があるとそれを検出する。その情報はユーザーのスマートフォンにアップロードされ、問題を警報する。

ソックスが異常な高熱を検出すると、そのデータはソックスとアプリとクラウドに保存される。それは足に傷害があるというサインなので、足を調べろという警報がユーザーに送られる。

“靴紐と同じぐらい、単純でふだんは気にならない存在だけど、傷害があればそれを知らせてくれる”、とMaは語る。

ウェアラブルだけど、ソックスを充電する必要はない。最初から電池内蔵で、それは6か月もつ。またその電気が消費されるのは、実際にそれを履いているときだけだ。寝るときなどに脱げば、ソックスも寝てしまう。洗濯機で洗えるし、丈夫だから少なくとも6か月は使える。

Maは曰く、“わが社のSmart Textile(電脳織物)技術は、さまざまなセンサーや電子回路を織り込める。湿度センサー、圧力センサー、光センサー、LED、RFID、MCU、BLEなどなど、何でもシームレスに布地と一体化する”。糖尿病患者のための炎症検出ソックスは、同社のこんな大きな技術の、ひとつの利用例だ。夢はもっと大きい。

炎症や傷害の検出だけでも、ほかにさまざまな体の部位があるから、製品開発の幅は広い。

Sirenは500 startupsのバッチ18から巣立ち、ソックスは来春発売する。予約は、ここで受け付けている。週の各曜日用、という考え方で、7足がワンセットだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

30分以内でHIVのレベルを検査できるUSBスティックが登場、自宅検査も十分に可能

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ロンドンのインペリアル・カレッジの科学者たちとイギリスのバイオテク企業DNA Electronicsのチームが、標準的な検査の数分の一の時間でHIVの高精度な検査ができるUSBスティックを開発した

この、コンピューターにプラグインして使うデバイスは、試料としてわずか一滴の血液があれば、HIV-1のレベル、すなわち酸性度の変化を測定して、結果を電気信号でコンピューターやモバイルデバイスに送る。検査は30分以下で終わり(これまでの平均は21分)、専門検査機関と数日の時間を要するそのほかの検査よりも、ずっと短い。

初めてのHIV検査のためには市販のキットがすでにいろいろあるので、現在の形のこの検査は、自分がウィルス保有者であることを知っている患者にとって、いちばん便利と思われる。この検査は血液中のウィルスのレベルを検出し、抗体の存在には依存しないので、レトロウイルス薬を使っている患者に有益であり、薬によってHIVのレベルが下がっているか、あるいはウィルスが薬への耐性を持つに至っているかを検出できる。

このような技術があれば患者はHIVのレベルを自宅でモニタでき、しかも糖尿病患者が血糖値を測るときのように、使い捨てのデバイスを使える。また専門医療機関が近くにない僻地の人びとにとっても、貴重な技術だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

同じ処方箋なのに高価なレンズ交換を強いられていたアメリカのコンタクトレンズユーザーをネットが救う

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Simple Contactsは、元Techstarsの社員起業家で3DプリントサービスのSolsを創ったJoel Wishが始めたスタートアップで、コンタクトレンズのリフィルを安上がりにすることが目的だ。

Wishはコンタクトレンズの常用者なので、同じ処方箋なのにリフィルに1万ドルも取られるのが、我慢ならなかった。

そこでWishは、Techstarsにもいたことのあるベテラン起業家としての意地をかけて、Simple Contactsを創業した。コンタクトレンズ常用者の約80%は、同じ処方箋をもらうだけのために、眼科医を訪れる。

その無用な通院にかかる時間や費用は、かなりのものだ。しかもそんなの、今ではモバイルアプリで十分ではないか。そう考えたWishは、ネット上のコンタクトレンズコンサルタントサービスSimple Contactsを立ち上げた。コンタクトレンズ常用者の負担を取り除くとともに、有料サービスとして売上も期待できるだろう。

ユーザーはモバイルデバイス上で標準の眼科検査を受け、本物の眼科医がそれを証明して新しい処方箋を出す。それからすぐに、新しいコンタクトを注文できる。

そしてそれが、ユーザーの玄関に到着する。

このアプリは、ニューヨーク、カリフォルニアなど20の州で使える。同社はこのほど、200万ドルのシード資金を獲得した。

同社のシードラウンドはAutonomous Venturesがリード(そのファンドはTikhon Bernstraumから)し、Justin Kan(TwitchとJustin.tvのファウンダー)らが参加した。しかもそれだけでなく、救急ネットワークCityMDを創ったRichard Parkなど、多くの医師が出資した。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Amazon CEO Jeff Bezosがまたバイオテク企業に投資、今度は新しいアンチエージング療法のスタートアップだ

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シリコンバレーでは必ず何年かに一度、不老不死や長寿を喧伝する者が現れる。その前に、そんなに長生きをして一体何をするのかを、考えておいた方がよい、と私は思うのだけど。今度登場したUnity Biotechnologyは、加齢に関連した症状の進行を遅くすることによって長寿を実現する、と主張するスタートアップだ。同社は今日(米国時間10/27)、シリーズBで1億1600万ドルという巨額を調達したことを発表した。投資家の中には、AmazonのJeff Bezosもいる。

体(からだ)が、細胞の老化を遅らせることがある。何かのストレスで、細胞が分裂を停止することがあり、それは、がん細胞の分裂と成長を停止することもあるから、抗癌治療にも利用できる、と考えられている。でもそんな細胞が多すぎると、加齢とともに別の問題が生じる。Unityが追究しているのは、炎症や、加齢と結びついているその他の疾病を起こす古い細胞を、体が積極的に捨てるようにするための方法だ。

Unityの技術には、体の老化を遅らせる可能性があり、科学や医療分野の上位投資家たちの関心を招(よ)んでいる。またバイオテクノロジー分野の非上場企業としては、相当巨額な資金を獲得した少数企業の、仲間入りをしている。

Bezosは、前にもバイオテクに投資している。それは2014年のJuno Therapeuticsだが、そのときは彼のVC Bezos Expeditionsからの投資だった。Junoはがんの免疫療法で画期的な発見をして、バイオテク企業としては数少ないIPO成功企業の一つになった。

バイオテク企業への投資案件の多いスコットランドのミューチュアルファンドBaillie Giffordのほか、Venrock, ARCH Venture Capital, Mayo Clinic, WuXi Pharmaceuticalsなどがこの投資ラウンドに参加した。

同社の発表によると、元KYTHERA BiopharmaceuticalsのCEO Keith Leonardが新たにCEOになり、これまでのCEOで協同ファウンダーのNathaniel “Ned” DavidはUnityの社長になる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

23andMe、次世代シークエンシング路線からは撤退

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23andMeは次世代シークエンンシングのサービスを継続せず、報道によればそのプロジェクト担当の人員を解雇したということだ。

約6人の社員が同社のユタ州ソルトレークに拠点を置く研究所から解雇されたとBuzzFeedが最初に報じている。LinkedInで我々独自に数えたところによると研究所の少なくとも5人のメンバーが解雇され、その中には2014年にプロジェクト・リーダーとして雇用され、同社の医務部長を務めていたJill Hagenkord博士が含まれる。

 

同社はその主力商品である、199ドルの遺伝マーカー・テストキットの販売は続ける予定だ。同キットを使えば健康状態と系統解析の情報が得られ、同社は世界中のより多様な人種の遺伝情報を積極的に収集、その質、量ともに拡充させる方針だと、同社の創業者であるAnne Wojcicki9月にTechCrunchに対し述べた。

しかしながら、DNA配列のより現代的な決定法で、一般に次世代シークエンンシングと呼ばれる技術に対しては、同社の主眼からは外れるようだ。

次世代シークエンンシングというのは、遺伝コードの細部に至るまでの詳細を調べるいくつもの方法に対して使われる、いわゆる総称だ。この新しいテクノロジーはこの数年間で価格が劇的に低下し、研究者は病気と思しき対象に対してより詳細な情報を得ることが出来るようになっている。結果として、Helix、Color Genomics、Genosといった企業がこの領域に参入し、この遺伝情報を詳細に調べるアプローチを使って、あなたをあなたたらしめているものは何かといった問いや、また自分の遺伝子関連で知りたいことに関しての答えを提供してくれる。

23andMeは2012年にそのテクノロジーに着目し、エクソーム・シークエンシングの予備的な研究を始めた。同社は当時、研究の成功とともに、「全ゲノム配列決定のコストが低下し、それが皆の手の届く選択肢となった時に備える」と述べた。<

TechCrunchは23andMeに対し、なぜその方向性を取りやめることにしたかについて問い合わせたが、それについての回答は今の所、得られていない。しかしながら、同社創業者のAnne WojcickiはBuzzFeedに対して、今回の件はサービスに対する需要の低下、金銭的要因や規制といったこととは一切関係ないと語った。代わりに、彼女によれば、「我々は現在手一杯」であり、それは恐らく現在扱うには少し複雑すぎるだけ、ということのようだ。

「シークエンシングに関しては多くの時間を費やしましたが、それに関しての理解が進めば進むほど私たちはその複雑さも理解したため、取り敢えず今は中心となる事業に集中すると判断するに至ったのです」と、彼女はBuzzFeedに語った。

この件に関して何か進展があれば続報をお届けする。

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(翻訳:Tsubouchi)

スマート義肢の‘スマート’機能を靴下状のウェアラブルにして超低コストを実現

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義肢の未来が足早にやってくる。3Dプリント、新しい素材、そしてセンサーの内蔵が、古き日のそっけない木とプラスチックに代わりつつある。でも未来はどれも、平等には行き渡らない。そこで、高価な新しい義肢に手が届かない人たちのために、オーストリアの研究者たちが、センサーを取り付けた衣料品で無脳な義肢をスマート化(有脳化)する方法を提案している。

リンツの応用科学大学が開発したそのproCoverと呼ばれる製品は、ACMのUIST(User Interface Software and Technology)カンファレンスで紹介され、最優秀論文の一つに選ばれた。

その論文の序文には、こうある: “感覚をエミュレートできる義肢の開発は、昨今ますます多くの研究者たちが、関心を持ちつつある。しかしながら、この分野における優れたイノベーションの多くが、多くの人びとにとって手の届かないままでありがちである。われわれのビジョンは、既存の義肢に後付けできる、センサーを装備した安価なウェアラブルにより、この落差を填めることである”。

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彼らのソリューションは、義肢のユーザーの多くが、ふつうの手足のようにソックスやグラブを着用することから発想されている。だったら、そのソックスをスマートな素材で作ればよいではないか。そこから、彼らのproCoverは誕生した。伝導性素材の層が圧電抵抗の層をサンドイッチすれば、脚や足首全体をカバーする感圧性のグリッドが作られる。

それを、ユーザーが必要とするときに振動モーターのリングに接続する。脚のある部分が圧力を受けると、その部分のモーターが、それぞれ異なる周波数で振動する。別のバージョンとして、義肢の膝(ひざ)を曲げたときの角度を伝えるものもある。

それは多方向的な柔軟性があり、圧力や位置をローコストで感知できる。フィードバックの機構も非侵襲性(体内に入らない)なので、手術は不要だ。

プロトタイプの初期の実ユーザー実装テストでは、デバイスは構想どおりに機能し、有用性に富むフィードバックが得られたが、ユーザーの実態に応じてのカスタマイズの必要性が明らかとなった。センサーなどの配置位置や、フィードバックの強度などは、カスタマイズが容易だ。またフィードバックを、振動ではなく圧力の増加で表す方法も考えられる。

チームの次の課題は、ソックスの構造をもっと単純化することだ。そして義手のユーザーのためのグラブも、作らなければならない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Cardiogramが200万ドルを調達、ウェアラブルデバイスを使って心血管疾患を予測

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ヘルステックスタートアップのCardiogramは、a16z Bio Fundがリードインベスターとなったシードラウンドで200万ドルを調達した。同社は、心血管疾患のスクリーニングや、心血管に関連した健康状態の改善・維持に関するアドバイスを発信するアプリを開発している。

Cardiogramのアプリは当初、Apple Watch用としてスタートした。しかし、同社は当アプリを最終的に”デバイスに依存しない”ビジネスへ発展させようと計画しており、Android Wearを搭載したスマートウォッチや、Fitbit、Garminなどのフィットネスバンド兼アクティビティトラッカーへも今後対応させていきたいと考えている。

シードラウンドでの資金調達に加えて、Cardiogramは”生活習慣用アプリストア”についても本日発表を行った。このアプリストアでは、ガイド付きの瞑想や、肉体・心理的なエクササイズのアプリをダウンロードすることができ、ユーザーの心血管の状態を維持もしくは向上させるのに役立つと同社は考えている。

共同ファウンダーのBrandon BallingerとJohnson Hsiehによれば、これまでにCardiogramは、約10万人のApple Watchユーザーから100億もの計測結果を集めている。

「この量のデータがあれば、C統計量(正誤判別をするときに用いられる指標)を算出することができ、不整脈の典型例である心房細動を90%以上の確率で発見することができます」とBallingerは言う。「私たちは、設立間もないデジタルヘルス企業であっても査読を申請するのが重要だと考えています。その証拠に、これから数年の間に私たちは、医療雑誌やAIカンファレンスで研究結果を発表していく予定です」

Cardiogram's founding team.Cardiogramの創業チーム

これまでにCardiogramは、高齢者だけではなく、その逆と言えるフィットネス好きの若者にも人気を博している。ファウンダーのふたりによれば、ユーザーの年齢層は18〜94歳とのこと。

シードラウンドには、Homebrewや、Color Genomicsの共同ファウンダーであるElad GilやOthman Laraki、Rock HealthファウンダーのHalle Teccoといったエンジェル投資家らも参加していた。

a16zで2億ドルのヘルスケア業界に特化したファンドを立ち上げた、同社ジェネラル・パートナーのVijay Pandeは、Cardiogramへ投資した理由のひとつは、収集したデータをアクションに直結した情報に変換し、人の命を救うことができる同社のサービスの力だと話す。

「Cardiogramは、ウェアラブルというチャンネルを通して、新しい情報源から大量のデータを収集し、最新の機械学習技術を利用することで、ユーザーが自分たちでアクションを取れるようなサービスを提供しています。これは私が個人的にとても興味をもっているサービスの種類でもあります」と彼は言う。

Pandeは、Cardiogramが今後も情報共有や自社の研究結果を精査するために、研究者のコミュニティと密接に協力し、今回の調達資金を人員の増強や製品開発にあてることを期待している。

現在Cardiogramのアプリは、心血管疾患の代表例である心房細動の発見・予測に向けて改良が進められているが、その他の心血管疾患や血圧と関係のある肥満などの病気を予測するのにも役立つ可能性がある。

さらに現在Cardiogramは、サンフランシスコにあるUniversity of CaliforniaのHealth eHeart研究の一環として、同大学の研究者や心臓専門医と協業を進めている。

彼らは、主要なウェアラブルデバイスやスマートフォンから収集したデータを基に、アルゴリズムを使って心房細動を正確に予測・発見すると共に、正常な心臓とはどのような状態のものなのかを定義づけることを目標にしている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

人体とよくなじむ柔軟で伸縮性のある光ファイバーが各種疾病の早期発見を助ける

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MITとHarvard Medical Schoolが開発した新種の光ファイバーによって、疾病の早期発見や、治癒過程〜治療効果の追跡がより容易になる、と期待されている。この、ゴムのように伸縮性のある光ファイバーは、伸ばしたり曲げたりできるだけでなく、ほどんど水だけのゲル状物質なので、人体へのなじみが良く、自分の周辺を傷つけない。

光ファイバーはすでに、細胞の活性化や脳の神経細胞の励起に利用されているが、しかしこれまでの素材は柔軟性がほとんどないために、患者に害を与える可能性もある。対してこの新素材は、丈夫でしかも柔軟性がある。そのため、脳などの生体物質で使っても、周囲に害を及ぼすことがない。しかも、まさしく光ファイバーなので、光信号を低いロス率で送ることができ、さまざまな医学目的を支援する。

物理的柔軟性と低損失の伝送特性があるため、たとえば手術後の手足などにインプラントしておくと、光信号の状態によって治癒過程をチェックできる可能性がある。同じく光信号の状態によって、患部の炎症の有無の検出や、がんの早期発見にも役立つ、と期待されている。

光ファイバーを人体に埋め込めるようになると、われわれしろうとは、サイバーネーションへの応用などが思い浮かぶが、研究者たちは、そこまでは述べていない。しかし、より効果的な治癒過程を実現するという中庸な目標だけでも、十分に注目に値する医療技術の進歩だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

脊髄損傷患者が脳に直接接続されたロボットハンドの指を「感じ」た

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「人差し指…薬指…小指…人差し指…中指… 」

Nathan Copelandは、研究者に向かって、今自分のどの指が触られているかを答えている。しかし研究者が触れているのはロボットの手で、Copelandの手ではない。彼の手は10年以上に渡って何も感じて来なかったのだ。

この「原理証明」実験では、脊髄損傷によって四肢の感覚を失った男性が、彼の脳に直接接続されたロボットの指に与えられる圧力を「感じる」ことができた。サイバネティックハンドへの道のりは遠いが、必要とする更に多くの人々がそれを利用できる可能性を開くものだ。

さて、注意点が2つある:まず最初に、これはロボットハンドがユーザーの脳に感覚を送った最初の例ではない;これは継続的に行われていて、どのようにそれを定義するかに依存している。第2に、とても凄いことの様に思えるものの、これはまだ神経システムの精妙さ複雑さに比べると信じられないほど粗いものだということを理解しておくべきということだ ‐ 私たちはそれを制御するどころか、理解するレベルにもほど遠い位置にいる。

とはいうものの、他の多くの義手/義足が依存している末梢神経系というステップを飛び越えているという意味で、これは重要な研究なのである。もし置換された手から信号を送ろうとするなら、結局信号が通過する、より腕の上方にプラグインすることが可能だ。しかし脊髄損傷の場合には、そうした信号は決して脳に到達しない。よってこのアプローチは上手くいかない。

ピッツバーグ大学のRobert Gauntと彼のチームが行ったことは、本質的には、ロボットアームを直接脳にプラグインして、中間の神経系や脊髄を共にバイパスすることだった。

Copelandは12年前に事故に遭い、四肢麻痺が残された。しかし事故に遭うまでの16年間に手足を動かしていた経験が意味することは、手に触れられたときにどのように感じるかを覚えているということで ‐ それはすなわち、彼の脳も覚えているということを意味するのだ。

そこで研究者らは、Copelandを異なる指に触れたときの感覚に集中させ、その感覚に関連した脳のアクティビティをトラックした。その後彼らは、指先サイズの微小電極アレイの4組を、それらの感覚がトラックされたCopelandの感覚皮質の中心に、外科的に移植した。

微小電極

使用した微小電極アレイのイメージ

その後数ヶ月にわたり、チームは繰り返しその領域に刺激を与え、人差し指、薬指、などの、どの指に触れられているのかの感覚を生み出すパターンと場所を発見した。
ついには、Copelandは、それぞれの指が脳の回路に対応したロボットハンドと接続された。

最初は85パーセントの正答率だったが、やがて100パーセント近いものになった。これはとても有効な証拠だが、関係者は皆、これはまだ初期段階に過ぎないと言う。

「究極の目標は、ただ自然の腕を動かし、感じているようなシステムを作成することです」とGauntは、UPニュースリリースで述べている。「そこに行くまでは長い道のりですが、素晴らしいスタートを切りました」。

1つの課題は、感覚を均一化する必要があるということだ ‐ 「電気刺激に感じることもあれば、圧力に感じることもあります。しかし多くの場合に、どの指かということは正確に伝えることができます」と、Copelandは言った。タッチの程度と種類に関してはまだまだ遠い。

また、これは一方通行だ:脳から腕へは何のデータも送られていない。制御方法は、運動皮質にある完全に異なる神経回路に依存している;それは、全く異なる研究フィールドである。しかし、義手から直接脳に送られるこの種のフィードバックは、ユーザーがものを自然な形で握ったり操作するための直感的な制御のために重要なものである。

チームの仕事は、Science Translational Medicineジャーナルに掲載されている 。この研究は、DARPA、アメリカ合衆国退役軍人省、その他の助成金を受けている。

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(翻訳:Sako)

ヘッジファンドが医療スタートアップのTheranosを訴える―「虚偽、重大な説明の誤り」と主張

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サンフランシスコに本拠を置くヘッジファンドのPartner Fund Management (PFM)は、 2014年に9600万ドルを血液検査スタートアップのTheranosに出資したと報じられているが、昨日(米国時間9/10)、同社はTheranosとそのファウンダー、エリザベス・ホームズを訴えたことが明らかになった。

PFMは契約締結にあたってTheranosが「一連の虚偽の説明をし、重要事項について誤った説明をし、また説明を省いたこと」によって不当に投資に誘い込まれたとしている。同時にPFMは「Theranosは証券詐欺その他の法律違反を含むこれら不法行為によってPFMに投資を決定させ、継続させた」と主張している。

PFMが名を連ねている 1億9800万ドルのシリーズC-2ラウンドの資金調達の結果Theranosは90億ドルの企業価値と評価されことになった。Fortuneは2014年6月にこのラウンドに関連してエリザベス・ホームズに好意的論調の記事を書いている。Forbesは後にこの記事に長文の訂正を追加した。

Wall Street Journalによれば、月曜にPFMが投資家に送った書簡で同社がデラウェア州の裁判所に訴を起こしことが明らかになった。PFMは「ホームズと他の経営幹部はPFMNに対して『Theranosが独自に所有権を有し、有効に稼働するテクノロジーを開発した』という明白極まる虚偽を告げた」としている。またTheranosはこのとき「行政の承認は間もなく得られる」と語ったという。

Theranos側では「この訴には根拠がなく、Theranosは断固として争う」と述べた。

先週、Theranosはラボ業務を閉鎖し、 340人(全社員の40%)を解雇した。同社は血液検査ではなく小型の医療検査機械の開発に集中していくとしている。

しかしこのミニチュア・ラボは8月にフィラデルフィアで開催されたカンファレンスで発表されたものの、科学者や医師その他の医療関係者からの評価は低かったTechCrunch記事)。

画期的とされる新テクノロジーの内容がどの専門誌の記事、論文によっても裏付けられていないことに気付いた専門家がTheranosに疑問を呈し始めたのは1年以上前になる。その後、Wall Street JournalはTheranosのテクノロジーは現実に使われているのかというさらに深刻な疑問を抱いた。連邦政府の機関がTheranosを精査した結果、この7月にホームズは、すくなくとも向こう2年間、医療検査業務に携われることを禁止された

Wall Street Journalを含む多数の記事によれば、2003年に公式に設立されて以來、Theranosは7億5000万ドルの資金を調達している。CrunchBaseには初期の投資者として、DFJ、ATA Ventures、Continental Ventures、Tako Venturesなどの名前が上がっている。2015年10月のFortuneの記事によると、レイト・ステージの投資家には、BlueCross BlueShield Venture Partners、Continental Properties Co.、Esoom Enterprise(台湾)、Jupiter Partners、Palmieri Trust、Dixon Doll、Ray Bingham、B.J. Cassinらが含まれる。

Wall Street Journalがインタビューした情報源によればPFMは投資の返還と損害賠償を求めている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

子どもの言語障害の早期発見を機械学習が支援、家庭でスマホで検診ができる

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言語障害の検診は早めに、しかも複数回やれ、と言われる。でも、すべての子どもをタイミングよく検査できる設備と要員が完備している地域は、そう多くない。しかし、ここでご紹介するMITの研究結果が正しければ、少なくとも基本的な検査は、自動化され、家庭でもできるようになるだろう。

サンフランシスコで行われたInterspeech カンファレンスで、同校のコンピューター科学者たちが、その新しいテクニックを説明した。まだ開発の初期的な段階だが、かなり期待を持てそうだ。

神経の障害のために、会話(発話と相手の言葉の理解)がうまくできない子どもたちは、ある種のテストで一定のパターンを示す。それは、複数の画像を見せ、それらについてお話をさせるテストだ。休止や、特定の時制や代名詞でのつまづき、そういった小さなことが、深刻な問題の指標であることもある。

院生のJen GongとJohn Guttag教授が作ったそのシステムは、まず、子どもたちのそんなお話の録音を多数、機械学習システムに聞かせる。そのデータ集合を細かく分析することによって、システムはいくつかのパターンを学習する。それらは、健常者のパターン、発達障害に顕著なパターン、初期の言語障害を示すパターン、などだ。それらは、これまでの研究で確証されているパターンなので、問題はない。

専門教育を受け、訓練を積んだ専門家に代わるものではないが、でも専門家をアプリに詰め込むことはできない。システムは、現状で精度も実用レベルに達しており、どんなスマートフォンからでもできる検診なので、障害の早期発見早期治療に貢献するだろう。

でも、まだまだやるべきことはある。

“大量の良質なデータにより、今後ともシステムを訓練していく必要がある”、とGongは述べている。“子どもたちの発達過程はきわめて多様だから、健常と障害の両方について、いろんな子どもたちのデータを集めることが、システムのより良質な判断力を育てる”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

MITと清华大学共同でグラフェンインプラントの実用化に一歩近づく発見、それは「水」だった

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おー、グラフェンよ、汝すばらしき奇跡の物質よ。厚さ1原子の炭素原子の、格子状の素材は、アップロードの速度からスポーツ用品に至るまで、あらゆるものに革命をもたらす方法として提案されている。そしてもしも、それをインプラントする方法を見つけたら、明らかにわれわれ全員が無敵のロボコップになる。いや、控えめに言っても、人体の内部を完全にモニタできるようになり、薬を正しい場所に運ぶことができる。

グラフェンのもっとも革新的な用途としては長年、バイオニクス(bionics, 生体工学)が挙げられている。しかし、この物質と、敏感で傷つきやすい人体の組織との親和性を良くする、という別の課題もある。最大の問題が熱だ。固体素材に電気を通せば、それは当然熱くなる。そして周辺の人体組織を焼き肉にするだろう。

しかし最近MITと北京の清华大学が共同で行ったシミュレーションにより、科学者たちは問題の解を見つけたと信じている。それは、水だ。グラフェンと人体組織の間に薄い水の壁があれば、周辺の細胞が唐揚げになることを防げる。

彼らはそれを、“サンドイッチ”モデル、と呼んでいる。グラフェンと人体細胞がパンで、水が具材だ。おばあちゃんは、水サンドだけは作らなかったが。

MITの科学者Zhao Qinは語る: “水は、体のあらゆるところにある。細胞膜の表面は水を必要とするので、水を完全になくすことはできない。そこでわれわれは、グラフェン、水、細胞膜というサンドイッチ構造を考えついた。それは、二つの物質のあいだに熱伝導があるための、ほどんど自明のシステムだ”。

熱の放散速度をコントロールするためには、水の厚さを変えればよい。場合によっては、…たとえばがん細胞なら…、細胞の唐揚げ化はむしろ良いことだ。水の厚さを変えるコントロール構造は、グラフェン自身の構造物で可能だ。その構成を変えることによって、水の分子を引きつける能力を変えられる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

ザッカーバーグ夫妻、疾病撲滅に30億ドルを投ずると発表―世界的研究者をリーダーにバイオハブを建設

2016-09-22-czs-zuckerberg

今日(米国時間9/21)、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)はチャン・ザッカーバーグ・サイエンス(CZS)と呼ばれる新しいプロジェクトを発表した。人類の疾病を予防し治療するため、向こう10年間に30億ドル(約3000億円)が投ぜられる。カリフォルニア大学サンフランシスコ校で開催されたカンファレンスに登壇したプリシラ・チャンは「世界のトップクラスの科学者を結集したサイエンス・コミュニティーを築き、疾病対策の根本的な進化をもたらすためにこの資金が利用される」と述べた。

イベントの中継はこちらから見ることができる

30億ドルのうち、6億ドルはバイオハブ(Biohub)に投資される。この新施設ではスタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、サンフランシスコ校のトップクラスの研究者のチームにより疾病に対処する新しいテクノロジーが開発される。

「私たちは、病気の治療を目標として基礎科学に投資する。私自身、小児科医として何度も家族にとってもっとも辛い瞬間を経験してきた」とチャンは述べた。子供たちの病気がガンであることを告げられたときの家族の反応を語りながらチャンはステージ上で涙を浮かべた。チャン・ザッカーバーグ・サイエンスの目的はこうした悲しい体験を追放することだという。

マーク・ザッカーバーグもステージに登場し、世界が直面する健康上のもっとも核心となる問題を指摘し、新プロジェクトがこれにどのように取り組むかを説明したた。

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死因の大半は心臓疾患、感染症、神経系疾患、ガンだという。新プロジェクトはこうした主要な疾病に努力を集中する。

プロジェクトのロードマップの主要な部分は次の3分野だ。

  1. 科学者、技術者のチームを結成する
  2. 疾病を治療する新しいテクノロジーとツールを開発する
  3. 資金集めを加速させる

ザッカーバーグは「アメリカでは病気にかかった人々を治療するための支出に比べて、そもそも人々が病気にならないように研究するための支出はわずか50分の1しかない」と述べた。「われわれはもっとうまくできる!」とザッカーバーグは断言した。ザッカーバーグによれば、こうした現状を変えるためには根本的に考え方を改める必要がある。疾病撲滅に役立つツールの開発には莫大なりソースを必要とするため、大学や研究機関における現在の予算配分方式とは異なった長期的な思考が必要だという。ザッカーバーグは450億ドルといわれる資産の一部をこのプロジェクトで世界の人々に還元しようと考えている。

チャン・ザッカーバーグ・サイエンスの新しい責任者に任命されたロックフェラー大学の神経科学者、コリー・バーグマン(Cori Bargmann)博士が登壇して30億ドルの使いみちを具体的に説明した。

UCSFで開催されたイベントでCZSの概要を説明するコリー・バーグマン博士

バイオハブ(Biohub)

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Biohubはサンフランシスコのミッションベイ地区(AT&Tスタジアムの南)、イリノイ・ストリート499に建設される施設で、 UCSFに近く、他の大学からのアクセスにも便利だ。Biohubの共同責任者としてUCSFのジョー・デリシ(Joe DeRisi)教授、スタンフォードのスティーブン・クウェイク(Stephen Quake)教授が任命された。両教授ともバイオフィジクス、バイオエンジニアリングの分野のリーダーだ。このプロジェクトの成果は広く公開され、世界中のすべての医師、研究者が自由に利用できる。

Biohubには常勤の研究者と先進的設備が置かれ、ジカ・ウィールスのような危険な感染症の突発的流行にも対応できる。新しい疾病が発見された場合、従来のように誰がどのように対応するか、誰がワクチンを製造する、予算をどう配分するかを議論し始めるのではなく、CZS自身が即座に対策をスタートさせるのだとデリシ教授は説明した。

画期的テクノロジー

CZSはまた疾病の治療と予防を変革するような新しいテクノロジーの開発にも力を入れる。ザッカーバーグは望遠鏡や顕微鏡の発明を例として「新しいツールの発明が科学にまったく新しい分野を切り開いた。疾病の場合にも新しいツールが画期的な役割を果たすことを想像するのは簡単だ」と述べた。

ザッカーバーグが開発の目標として例示したテクノロジーには「脳の活動を視覚化するAIソフト…ガンの遺伝子を解析する大規模な機械学習応用データベース…あらゆる感染症に対応する解析能力をもったICチップ、疾病の早期発見を可能にする連続的血流モニター・システム、人体のすべて部分の細胞のマッピングとモニター、個人の疾病と身体特性に合わせて薬品を即座にカスタマイズするシステム」などを挙げた。

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ザッカーバーグとチャン

人体各部の細胞のマッピング、あるいは細胞地図(cell atlas)は医学上の重要なブレークするーになり得るという。クウェイク教授は「人体にどれだけの種類の細胞があるのか、誰も正確なことは知らない」と述べた。すべてのタイプの細胞がシークェンシングされ、遺伝子が編集可能になればガン、糖尿病、感染症その他重大な疾患の治療に革命が起きるという。

研究者のネットワーク構築

CZSは「チャレンジ・ネットワーク」と呼ばれるバーチャル組織にも投資する。これは世界のトップクラスの専門家を結ぶネットワークで、特に緊急性の高い課題の解決を目指す。たとえば、神経を変性させる可能性がある遺伝子が最近発見されたが、それが神経系疾患にどのような影響を与えるのかは未解決のままだ。チャレンジ・ネットワークはこの分野に関連する医師、科学者、技術者が研究成果など各種情報を容易にコミュニケーションできるチャンネルを構築する。これにはテクノロジーを用いた遠隔地間の協力に加えて実際の会議の開催も含まれる。【略】

ビル・ゲイツが登壇してCZSを賞賛

「これは必ず成功するはず」とバーグマンは結論した。また医療問題というザッカーバーグ夫妻にとって未知の部分が大きい分野に巨額を投資を行うことを疑問視する声を予想して、「私たちはプロジェクトを進めるにあたって世界のトップクラスのエキスパートと密接に協力し、意見を聞いていく」と述べた。

マーク・ザッカーバーグは最後に、こうした慈善活動にあたっての師であり、インスピレーションを得た人物としてビル・ゲイツを紹介した。ステージ上でゲイツはこのプロジェクトについて、「大胆かつ野心的だ。われわれはなお一層このような科学の拡大を必要としている」と述べ、他の慈善活動家の参加を求めた。ゲイツは「エボラ出血熱が大流行に至らなかったのは世界にとって幸運だった。しかしわれわれはそのような事態が発生しても即座に対応できるような組織を必要としている」と述べた。【略】

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チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ(CZI)を拡大する

今日発表された新プロジェクトはチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブが資金を負担する。このイニシアティブは昨年12月に、夫妻の長女、マッックスが生まれたことを記念して発表された。LLCとして組織されており、マーク・ザッカーバーグはFacebook株式の99%、総額450億ドルの資産を生涯にわたって拠出することを約束している。CZIもこのような場合に普通の慈善団体ではなくLLCとして設立した理由は、NPO、政治キャンペーン、法制化活動のためのロビイーングに加え営利を目的とする組織にもザッカーバーグ自身が株式を管理して寄付ができるようにしたためとみられる。CZIの目的は人類の持つ潜在的可能性を開花させ、平等性を実現するところにある。

CZIの最初の投資はAndelaへの2400万ドルで、シリーズBの資金調達ラウンドをリードする形で6月に実施された。Andelaはアフリカでテクノロジー企業のためにエンジニアを訓練し、配置することを助けるスタートアップだ。またこれに続いて今月初旬にCZIはインドのビデオ利用学習のスタートアップByjuに5000万ドルの投資を行った。

これまでのCZIの投資は主として教育に向けられたきた。しかし今回の新しいプロジェクトでは、今世紀末までに疾病対策を根本的に改善するという目標のためにザッカーバーグ家の資金が用いられる。「私たちは〔娘の〕マックスの世代の生活が現在より劇的に改善されたものになることを目指している。一人残らずすべての人々が対象だ」とザッカーバーグは述べた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Microsoftが人工知能を使ったがん治療への取り組みを開始

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Microsoftに言わせると、がんはコンピュターウイルスみたいなもので、「コード」を読み解くことで解決できるのだそうだ。このコンピューター・ソフトウェア企業は、人工知能を使った新たなヘルスケアの取り組みを開始する。その目的は、がん細胞をターゲットにがんを消し去る方法を研究することだ。

新たなヘルスケアの取り組みにおけるプロジェクトの1つでは、機械学習と自然言語処理を活用し、現在利用可能な研究データを検索して、それぞれのがん患者に合わせた治療プランの策定を行う。

IBMもWatson Oncologyという名で、似た内容のプログラムを実施している。これも、患者の健康に関する情報と研究データを照らし合わせて分析するものだ。

Microsoftのヘルスケアの取り組みにおける別のプロジェクトでは、放射線治にコンピュータービジョンを活用し、時間の経過とともに変化する腫瘍の様子を捉える。もう1つのプロジェクトはMicrosoftが「ムーンショット」な目標を掲げるプロジェクトと呼ぶもので、これは私たちがコードを書いてコンピューターをプログラミングするように、生物もコードでプログラミングしようとするものだ。人の免疫システムが対応できていない部分に関して、人の細胞がその問題を修復できるように再プログラムを施す方法をこの研究で見つけるのが目的だ。

Microsoftは、クラウド・コンピューティングを活用してこの種のプロジェクトに挑戦することは「自然な成り行き」と説明し、カスタマーにもこういったツールを提供する方法を模索していくと説明する。

「もし未来のコンピューターがシリコンでできているのではなく、生きている物質になるというなら、そういったコンピューターをプログラムする方法を私たちは理解していなければなりません」とMicrosoftの役員であるJeanette M. Wingは言う。

確かに、これだけの研究データがあれば、Microsoftやでもがん治療を始め、健康管理に機械学習を活用する企業が、より素早く人を衰弱させる病の治療法を見つ出すことに期待できるかもしれない。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

糖尿病患者の血糖測定器とスマホをつなぐHealth2Syn、シリーズAで300万ドル獲得

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糖尿病をモニターする際、その作業を行うのは若干の苦痛を伴う。医療系テックのスタートアップであるHealth2Sync2014年のコンシューマー・エレクロニクス・ ショーのハードウェアバトルフィールドコンペティションで立ち上がった会社だ。同社の目標はほとんどの標準の血糖測定器につながる安価なアクセサリーを開発して、血糖値を直接自分のスマホに流し込み、血糖値のモニターを簡便化することだ。

同社は本日シリーズAで300万ドルの資金を確保したと発表した。WI Harper Groupのリードで、Cherubic VenturesiSeed VenturesSparkLabs Global Venturesが参加した。

同社のプレスリリースによれば、Health2Syncはその資金を使って製品開発を継続すると共に、日本、中国、東南アジアなど海外のマーケットの開発に力を入れるとしている。
Health2Syncのテクノロジーの中核を成すのは、スマホと血糖測定器をつなぐケーブルにあり、そのケーブルはヘッドホン差し込み口経由で二つの装置が会話できるようにする。これら二つの装置が一旦つながれば、血糖測定器に保存されたデータがHealth2Syncアプリによりスマホと同期する。
アプリはアンドロイドとiOSの両方で利用可能で、ケーブルには二種類ある。1つ目は古い仕様に対応したもので、もう一方はより新しいモデル用で、このタイプはデータを赤外線で送信できる。
データを数字とグラフィックの両方で表示することに加え、Health2Syncアプリのユーザーは家族メンバーを付け加えることが出来るので、家族みんなで糖尿病のコントロールに向けて協力して取り組むことができる。さらにアプリを使えばデータを自分の医者や糖尿病の指導員に送ることができ、糖尿病専門家からの意見は病気のコントロールに役立つだろう。
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さらに同社によれば、この製品は実際に効果を発揮している。プレスリリースによると、試験に参加し、Health2Syncを120日間使った患者たちのHbA1cの平均値が、当初の8.6パーセントから6.89パーセントにまで低下し、その結果健康に問題の生じるリスクが著しく低下したということだ。

メイヨ・クリニックによれば、糖尿病患者では典型的に言って、HbA1cの値が7〜8パーセント以下であれば病状が上手くコントロールされているとみなされる。

300万ドルを口座に追加することでHealth2Syncはテクノロジーをさらに進化させ糖尿病患者がその病気をコントロールするのをますます容易にしてくれるはずだ。特に日本、中国、東南アジア方面で朗報が期待される。

今後の動きに注目しよう。次の2016年サンフランシスコ・ディスラプト・バトルフィールドにも乞うご期待。ほんの二週間足らずの9月12日から14日まで、サンフランシスコのピア48で開催だ。
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(翻訳:Tsubouchi)

マイクロバイオームが医療と食品に対する概念に革命をもたらす

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【編集部注:本稿の執筆者、Kobi GershoniはSignals Analyticsの共同設立者で主任研究官でAlexandra V. EberhardはSignals Analyticsのサイエンス担当VPでSignals Analytics Europeのゼネラルマネジャー】

ヒトのマイクロバイオームと言う時、それは人体内に住むすべての微生物の遺伝子のことを指す。ヒトのマイクロバイオームが今、オーダーメイド医療と食事療法のあり方を塗り替えようとしている。ヒトゲノムプロジェクトの完成後、テクノロジーの進歩により病気の診断とその治療の精度は極めて高いレベルにまで押し上げられた。

マイクロバイオームのことを「新規に見つかり、ほとんど調査されていない臓器」と呼ぶ科学者もいるくらい、マイクロバイオームは我々が直面しているもっとも深刻な病気の診断と治療の方法を革新する可能性を秘めている。それらの疾患にはクローン病、糖尿病、肥満や様々なガン、急性下痢、精神障害などが含まれる。

あたかも人体だけでは複雑さが足りないかのごとく、我々一人一人は独自の微生物環境を持っている。新薬の発見と栄養摂取という観点において、それぞれの人が独自の微生物環境を持つということは人それぞれがオーダーメイド治療や摂取した食品にどのように反応するのかという点で重要になってくるだろう。かつてオーダーメイド医療は、実際のテクノロジーが追いついていなかったため法外な費用がかかり、SF映画の中でのみ存在するコンセプトに感じられた。マイクロバイオームの夢はオーダーメイド医療と個人に最適化した栄養摂取を全ての人々の手の届くものにすることだ。

それでは、人の健康状態の維持・管理や栄養摂取を専門とする企業はこの新たなテクノロジーの進歩に対して、どのように対応するのだろうか。

人の腸内マイクロバイオームのおかげで我々が若々しく、より健康的な食事をして慢性疾患とはおさらばする日が来るのだろうか?

これからマイクロバイオームが人の健康に利用される機会がどんどん増え、オーダーメイド医療を一般の人々に浸透させるために今後より多くの投資がなされるのは疑う余地がない。製薬産業はマイクロバイオーム関連のプロジェクトの発掘を行ってきたが、その中でもとりわけプロバイオティクスとプレバイオティクスの分野の成長が顕著だ。体重管理の市場はアメリカだけでも600億ドルに近い規模であり、そのうちの半分以上がプロバイオティクス関連である。プロバイオティクス商品はすでに何年もの間市場に出回っているが、FDAは自身が栄養補助食品に関してはモニターしていないことを明言しており、栄養補助食品には十分注意するよう消費者に対し警告を発している。

プロバイオティクスとプレバイオティクスをめぐってはすでに大量の文献、特許及び臨床試験が存在するが、確かな結果を消費者にもたらす食製品を開発することは製薬市場の研究チームが今度解決して行かねばならない課題である。

例えば、ViThera Pharmaceuticalsはプロバイオティクな細菌株(一部は臨床試験済み)を使って慢性疾患の治療に役立てようとしている。しかしヨーグルトなどの食品に利用可能な菌株などはマーケティングがより困難だ。ダノンのActivaやDanActiveラインの製品は歴史的に見て消化を助けプロバイオティクス細菌を摂取するのに適した食品として売り出されている。

マイクロバイオームは我々が摂取するものをどのように変化させるだろうか。

マイクロバイオームの多くはヒトの腸に焦点を絞っている。腸には高密度の微生物が生存しており、多国籍企業はこれについてさらなる知見を得ようとしている。

今年度の初めに、ワイツマン科学研究所の二人の科学者がPersonalized Nutrition Projectの元で行った研究成果を発表した。その研究では、人それぞれが同じ食物に対してもいかに異なった反応を示すかを調べたもので、この反応の違いの一因は個々人のマイクロバイオームの違いに由来するものだ。その研究で明らかになったのは、食物の人に与える影響は人それぞれで、その影響は予想し難く、栄養摂取は個々人に対して最適化されるべきだということだ。

それでは、私にとって健康的なものがあなたにとって健康的でないとすれば、どのようにして我々はどの食物が自分に健康的だと判別すれば良いのだろうか。幅広い消費者層に対応している大企業の多くが既に気づいていることは、大衆の未来はカスタマイゼーションと共にあるということだ。それらの企業は、これまで伝統的に行われてきた人口分布に基づいた分析をやめ、マイクロバイオーム分析の理解を通じた顧客分析を開始した。

ワイツマンの研究結果がもし広く受け入れられるとすれば、その結果は我々の、健康・栄養関連製品およびそれらを製造する企業、に対する考え方に大きな影響を与えることになるだろう。これまで知られていたよりはるかに多くの病気が人とその人の体内にいる微生物との相互作用により引き起こされている可能性が次々と示されている。

マイクロバイオームを使った診断

ガンとの闘いでは早期診断が有効な治療に不可欠だ。医療会社はガンや他の疾患の診断を効率化するためマイクロバイオームを利用した新しい方法を開発している。

 Metabiomicsはマイクロバイオームをガン診断に応用している企業の一つで、分子レベルの初期診断を専門としている。Metabiomicsは特に、非侵襲的な検便をベースとしてヒトの腸内マイクロバイオームを分析することに焦点を絞っており、結腸内のポリープやガンをより早期に、かつ正確に発見することを目指している。Metabiomicsの技術革新の鍵は特許取得済みのMultiTag™ DNAシーケンス技術であり、この技術によりこれまで不可能であったやり方でマイクロバイオームを解析することが可能になった。

マイクロバイオームの研究は病気の予防とコントロールに向けた新しい道を切り開くかもしれない

オーダーメイド医療のもう一つの波として盛り上がりを見せているのが糞便移植(Fecal Microbiota Transplant)である。これは、テストを受けたドナーより糞便を採取しある種の腸疾患を治療しようというものだ。研究者はIBSやクローン病などの胃腸疾患の治療に糞便移植が使えるか、その可能性を模索している。マイクロバイオームをベースにした治療法を商品化するのはなかなか大変だが、バイオテクノロジー系のRebiotixなどの企業は糞便移植の商品化に取り組んでいる。それらのバクテリアや糞便中の微生物関連製品を使い、生きたヒトの微生物を患者の腸に送り込むことで疾患の治癒を目指す。

オーダーメイド医療の開発とヒトのマイクロバイオーム特有の性質の組み合わせにより製薬企業大手にとっては、近傍領域の産業が真似のできないような装置を開発する機会が到来している。

マイクロバイオーム系企業のEnteromeとEvolve Biosystems

微生物は体を病気から守り免疫力を増強するので、マイクロバイオームの技術革新と疾患予防分野はとてもよくマッチしている。疾患予防は医療会社にとっては巨大なマーケットであり、2020年までにプロバイオティクスの市場規模は500億ドルを超えるだろう

しかしながら、消化器系の健康のためのプロバイオティクスだけがマイクロバイオームを使った予防医療のアプリケーションという訳ではない。

マイクロバイオームの研究では治療と診断が鍵となるアプリケーションである。

現時点では商業化可能な製品はないかもしれないが、この領域での技術革新を推し進めている医療会社は依然多い。そう言った企業であるEnteromeEvolve Biosystemsは、マイクロバイオーム関連の疾病・疾患を治療、診断する目的でマイクロバイオームに目を向けている。 

Enteromeはパリを拠点する、ヒトの腸を専門に扱う企業である。同社は炎症性腸疾患や、糖尿病や肥満などの代謝性疾患の治療を目指している。Enteromeの中で最も開発の進んでいる治験薬であるEB 8018は、同社のメタゲノミクスプラットフォームの強みを生かし、腸内マイクロバイオームを標的にする。そのような腸内マイクロバイオームはクローン病の発症に重要な役割を果たしていることがわかっているからだ。

一方でEvolve Biosystemsが扱うのは妊娠である。幼児における呼吸器や胃腸の疾患、s過剰なアレルギー反応の発症と母親の腸内マイクロバイオームには高い相関があることが判ってきたからだ。同社の目標は、向こう半年の間に同社独自のプロバイオティクスに基づいた生物的治療システムを開発して幼児のマイクロバイオームの健康状態を改善することだ。

製薬市場の研究者は特許や臨床試験以外にも学術論文の重要性を認識して、その利用方法や競合他社の技術革新という点においてマイクロバイオーム市場がどこに向かっているのか見極める必要がある。

マイクロバイオームは製薬、医療、健康管理と栄養摂取の領域に渡って何度も登場するトレンドであり続けるだろう。また、この度のワイツマンの研究結果が示しているのは、我々は自分たちが摂取する食品や製品においてマイクロバイオームが果たしている役割について、まさに理解し始めたところだということだ。個人各々が自分の持つ微生物に基づいて個人に最適化した健康管理と栄養摂取プログラムを持つ日が来ることを想像して見て欲しい。我々各人が科学に基づき最適化され、新規薬物療法にどう反応するのか、摂取するものからどのような恩恵を得るのかを理解するようになるのだ。

マイクロバイオームの将来

イクロバイオームの研究は病気の予防とコントロールに向け、新しい道を切り開くかもしれない。健康な人たちや症状の無い患者は病気の予防に向けて行動を起こすことにそれほど乗り気ではなく、特に症状が進んでいない状態では、病気の進行を遅らす取り組みにも消極的である。ジョンソン&ジョンソンやダノンなどの企業はマイクロバイオームにおける市場を牽引しており、将来的にはもっと多くの会社がこの領域のイノベーションに参画してくるはずだ。マイクロバイオームは既に消費者の毎日の行動に影響を与え始めており多様な商品を通じて生活に浸透して来ている。

健康維持から本当の意味での病気の予防とその進行の阻止にその役割を移行してゆくことは簡単には行かないだろう。しかし現実においてはマイクロバイオームは我々の生活のあらゆる局面にインパクトを及ぼす可能性を秘めている。それは病気の診断や健康な体内微生物群の維持、もしくは直接・間接的な微生物関連の疾患を予防するための早期診断であるかもしれないが、マイクロバイオームは結果的に我々の平均寿命に影響を及ぼす可能性を秘めている。実際にはそれがどのように我々の生物学的寿命と進化に影響を及ぼすのかというのが大きな問題である。ヒトの腸内マイクロバイオームのおかげで、我々が単に長く生きるということを超えて、若々しくあり続け、健康的食生活を送り慢性疾患を克服する日が来るのだろうか。その答えはイエスである。
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(翻訳:Tsubouchi)

神経と筋肉の接続をシミュレートするチップをMITが開発…ALSの療法などを展望

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神経と筋肉の関係を正しく理解し、ALSなどの疾病の療法に役立てるために、MITのエンジニアたちは、筋肉の細片と運動神経を収めた小さな硬貨サイズのチップを開発した。それは、神経と筋肉の結合部の‘模型’を作ることが目的で、その結合部には、神経細胞と筋肉繊維を接合する化学的なシナプスがある。

チームが開発した筋肉を反応させる方法は、神経細胞の集まりに光を当てることだ。それにより、筋肉の痙攣や収縮が生じる。このチップは、両者の結合とその部分の疾病をもっとよく理解することが目的だ。

このデバイスには、マウスの細胞が使われた。そこから運動神経と筋肉部位を分離し、チップの部品を構成した。筋肉繊維には支柱を挿入して視覚化を助け、また筋肉の収縮時に働く力を検出する方法を作った。

そしてそれらをゲルで満たしたデバイスに収め、インヴィトロの環境をシミュレートした。それは、従来のペトリ皿などに比べてずっと現実の状態に近く、人間の体の中における神経と筋肉の自然な分離を再現できた。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))