Googleが、調査や研究などの結果を表す統計データの理解の仕方を一般大衆に教えるMOOCを開始する。“Making Sense of Data”(データを理解する)と題されたそのコースは3月18日から4月4日まで行われ、MOOCの定石として一連のビデオ講義と対話プロジェクトから成り、またコミュニティのティーチングアシスタントを支援する。
Googleの目的は、現在の一般教育では一般大衆レベルにデータを正しく理解する能力が身につかないのでそのギャップを填めること、そしてついでに同社のプロダクトを宣伝することだ。同社のブログは曰く、“Making Sense of Dataは、学生や教師、ジャーナリスト、企業の管理職や経営者など、日々の仕事でデータを扱っている人たちに、データを有効に利用する能力を一層高めていただくことを目的とする”。
イギリスではこの問題が、政策課題として大きく浮上してきた。それは同国で、スタートアップの爆発的な増加が見られるようになったからでもある。今年イギリスは、G20の経済的上位国の中で初めて、プログラミングを全国レベルで学校のカリキュラムの中核的な部分に位置づける国になる。タイミングも良い。今年はWebの誕生から25周年を迎え、しかもそれを世界に与えたのはイギリスの科学者Sir Tim Berners-Leeなのだ。
たとえばすでに政府はBritish Computer Societyに200万ポンドを投入して400名の‘指導教師’たちのネットワークを作り、そのほかの学校の教師たちの教育に当たらせるとともに、教室で使用する教材なども提供している。また110万ポンドを投じて行われている’Computing at School’プロジェクトは、オンラインのリソースと学校でのワークショップにより、今すでに教室でプログラミングを教えている小学校教師に対する教育訓練を提供している。このほか、コンピューティングの教師になりたい者への政府奨学金があり、またコンピュータ科学の教師への25000ポンドの奨学金がMicrosoftやGoogle、IBM、Facebookなどの協賛により設けられている。
新しい全国カリキュラムは今年の9月に導入されるが、上記の話はすべて、学校と教師がその教育実践能力を持つための下地作りだ。そのカリキュラムは、Royal Society of Engineering(イギリス工学学会)とGoogle、Microsoftなど指導的企業からの意見や助言を取り入れて設計された。
このYear of Codeキャンペーンの目的は、多くの教師や児童生徒にコンピュータのプログラミングに前向きに取り組んでもらうための、一種の啓蒙活動だ。協賛団体企業はBBC、Codecademy、CoderDojo、Decoded、FreeFormers、ounders4schools、RaspberryPi、Young Rewired Stateなどなど、とても数が多い。
テクノロジ系スタートアップに関するイギリス首相の特別顧問だったRohan Silvaが、Year of Codeキャンペーンの座長を務める。また、Million Jobs CampaignのファウンダLottie Dexterが、キャンペーンの総監督だ。
Index VenturesのパートナーSaul KleinもYear of Codeの熱心な協賛者であり推進者の一人だが、彼はこう言う: “われわれは三つのR(three Rs; reading, ‘riting, and ‘rithmetic — 読み書き算数)で育ったが、今回のきわめて重要なカリキュラム変更により、これからの子どもたちは三つのRと一つのCで育っていくのだ”。
政府関連機関だけでなく、たとえばGoogleは昨年、Code ClubやTeach First、Raspberry Pi Foundationなどに100万ポンドあまりを寄付し、Microsoftは巡回教育事業”Switched On Computing”により、教師たちを教育している。
これら最近のプロジェクトは、前のUK Digital Skills ChampionでGo On UKを主宰するMartha Lane-FoxがFacebookやBarclaysやFreeFormersから立ち上げたデジタル技能教育キャンペーン’Web for Everyone‘を、発想の契機としている。
Year Of Codeは、テクノロジと起業家精神とクリエイティブな思考を励起していくためのすばらしい企画だ。しかしそれは、最近再び政府*がお熱をあげている古めかしい古典の教育や、罰則としての100行筆写などとは、あまりにもコントラストが激しすぎる。〔*: 100行筆写罰則の復活、地域清掃罰則などは、政府がというより、今の‘食わせ者’と評されることもある教育長官Michael Gove**のスタンドプレイとも見なされている(顔を見ただけでどういうタイプの人物か分かりそう!)。**: 着任が2010年5月だから、これまでのコンピュータ教育プログラミング教育推進の流れとは、ほとんど無縁の人。〕.
インターネットの上には、その気になればビジネスに活を入れることのできる貴重なデータがたくさんあるので、今企業は、それらのデータの中からデジタルの金塊を発見できる統計家を熱烈に求めている。ホワイトハウスもデータサイエンティストの増員が必要と言い出した昨今、MOOC(Massively Open Online Course, 大型公開オンライン課程)のプロバイダUdacityが、有料の統計学課程をローンチした。
“探査型データ分析(Exploratory Data Analysis)”と題されたそのコースは、 月額150ドルで3月に始まり、Facebookのエンジニアが授業を担当する。また、今日(米国時間1/22)始まる”データサイエンス入門(Intro to Data Science)”(同じく月150ドル)は、小売業向けの小さなアフィリエイト企業Yubのエンジニアが教鞭をとる。
12月9日、Code.orgはHour of Codeという全国キャンペーンをスタートさせた。Code.orgにあるコーディングコースやチュートリアルを使って、アメリカ中の先生に初歩のコンピューターサイエンスの授業を1時間行ってもらおうとするものだ。Computer Science Education Weekと時を同じくして開催された。キャンペーンの具体的な目的は、現在までのところ10校中9校ではコンピューターサイエンスに関わる講座が設けられていないというアメリカ教育会の現状に変革を迫ろうとするものだ。
こうした全国を巻き込んだキャンペーンやロビー活動が、どうやら実を結びそうな展開となっている様子だ。政策面でもコンピューターサイエンスの重要性が各地で認められつつあるようであるし、またHour of Codeのキャンペーンも大きな注目を集めた。たとえばアラバマ州、メリーランド州、そしてウィスコンシン州は、州内の教育ポリシーの変更をアピールした(ないしアナウンスする予定となっている)。またChicago Public SchoolsおよびNew York City Department of Educationもコンピューターサイエンス授業の採用を予定していることが発表された。
さらに、Partovi達によれば、Computer Science Education Weekの期間に1500万以上の学生がHour of Codeに参加して、トータルで5億行ものプログラムを書いたのだとのこと。Computer Science Education Weekは12月16日に閉幕したわけだが、Hour of Codeの方は続いていて、参加者数は2000万を超え、書かれたコード行数も6億7500万行となっているのだそうだ。
ちなみに、このHour of Code参加者には海外からの参加者も含まれている。参加者の国数を数えると170ヵ国にのぼるそうだ。それでも海外からの参加者と、大人の数を覗いてカウントすると、アメリカ国内のK-12段階の生徒の4人に1人がHour of Codeに参加したのだとのこと。また学校単位でHour of Codeに参加しているところから、この2週間のうちに参加した女子の数が、公立学校生徒に通う女子でコンピューターサイエンス授業を受けた女子の総数(全歴史)を上回ることにもなったのだそうだ。
Hour of Code参加者の数値をもう少し詳細に見ておこう。Code.orgの発表によれば、参加者総数は2000万以上で、83%がアメリカからの参加だった。74%がK-12レベルの生徒たちで、51%が女子だったようだ。アフリカンアメリカンの率は8%で、ヒスパニック率は14%だった。この数字がこれをきっかけに伸びていくのか、また1時間のプログラミング教育の効果のほどがどの程度のものであるのかといったことは、今後検証していくことになる。しかしHour of Codeはかなりの成果をあげたということができるのではなかろうか。
これだけ大きなムーブメントとなるために、キャンペーンで行ったことはなんだっただろうか。
まず、Hour of Codeは数々のビッグネームによる支援されていた。TechCrunchでも記事にしたようにMicrosoftやAppleも、自らの小売店舗にてHour of Codeのクラスを開催した。また、Appleはこの催しについてホームページを通じて広く告知してもいた。さらにGoogleはアメリカのコンピューターサイエンティストでCOBOL言語の開発者であるGrace Hopperを偲ぶGoogle DoogdleにてComputer Science Education Weekの幕を開けた。また、このGoogle Doodleの下にはHour of Codeキャンペーンへのリンクも掲載していた。
生徒たちにプログラミングを指導するのを支援するためにCode.orgは、企業、非営利組織、ないし大学などの協力を仰いでオンラインチュートリアルを用意した。こうしたチュートリアルを求める動きも活発で、たとえばAll Things Dの記事によれば、Khan Academyで用意したビデオを見るトラフィックが増大し、サイトが一時的にダウンしてしまうほどだったとのこと。
キャンペーン自体は大いに注目を集め成功であると評価して良いものと思う。しかし今回の2000万人はあくまでもスタート地点だ。興味をもった人は、自身でもHour of Codeのサイトから面白そうなコースを見つけて参加してみては如何だろうか。また先に示した記事の中にも、オバマ大統領などからのメッセージビデオも掲載している。またComputer Science Education Week期間中の動きについてのインフォグラフィックを下に掲載しておこう。
いろいろな意見があるが、しかし個人的には、やはりできるだけ多くの人がコードリテラシーを身につけるべきだと考えている。起きている時間のほとんどの時間を蛇口の前で過ごし、議会が将来的な蛇口の多様性に関する法案を熱心に審議しているような世の中なのであれば、確かに配管の知識を学ぶことが重要になるだろう。車の例で言うのなら、Program or be Programmedの著者であるDouglas Rushkoffの意見に与する。曰くコーディングのことを全く知らないというのは、車を運転できないということを意味するのではなく、目隠し運転をするようなものだとのこと。エンジンの組み立て方を知らなくても運転はできるという人がいるが、しかしエンジンの物理的な仕組みや内燃機関の動き方については、ほぼ全ての人が学ぶようになっている。車の世界とテックの世界を比較して言うのなら、確かに多くの人にとってFacebookを独力で構築するようなコーディングスキルをマスターする必要はないだろう。しかしどのように作られているのかといった知識程度はなるべく多くの人が知っておくべきことであると思う。
もちろん算数/数学や理科といったいわゆる理系関連科目のみが、プログラミング技術との親和性を示すものではない。たとえば音楽理論の習得にSuperColliderやPureDataを使っているところもある。音楽理論自体の学習も楽しくインタラクティブに行うことができ、同時にプログラミングについても学ぶことができるのだ。またNew York UniversityのAdam Parrishはプログラミングを通じた創造的文章講座を開設している。学生にPythonの基礎を教え、Twitter APIを使ってコンピューターに現代詩を生成させるといったことを行っているのだ。
おもちゃを使ってプログラミングを学ぼうというコンセプトは、このPlay-i以外にも昔から存在するものだ。Play-iについての以前の記事でも指摘されているように、この分野にはCargo-Bot、Move the Turtle、あるいはBee-Botなどの先輩プロダクトがある。比較的新しい分野だとはいうことができ、いろいろなプロダクトが今後も参入してくることとなるだろう。こういうプロダクトに対するニーズも、最近になって生まれてきたものだ。教育会全体としてもSTEM教育に関心があつまりつつあり、それもあって若年層に対するテック教育のためのツールが探し求められるようになった背景もある。この分野は、今後ますます発展していくことになるのだろう。
CEOでファウンダのZach Simsによると、このアプリCodecademy for iPhoneは、同サイトのネット上の課程とは別の単独のコースだ。最初のはとてもベーシックで、プログラミングとはどういうもので、何を一体するのか、という話に終始する。でも今週中には、これの次の一口(ひとくち)が出る予定だ。
一方Code.orgも今週、数か月かけて準備したキャンペーン”Hour of Code“(1時間のプログラミング)を立ち上げる。コンピュータ科学教育週間と同じ週にこのキャンペーンは、合衆国の教師たち全員に、児童生徒にコンピュータ科学とプログラミングを教える時間を1時間確保するよう、求める。全員だから、英語や歴史の先生も対象に含まれる。
Hadi Partovi(元Microsoft、MySpace、iLikeなど)によると、Code.orgの最初のミッションは、各州がコンピュータ科学を必須学科にすることだ。官僚主義とのたたかいは容易ではなかったが、彼らの説得に耳を傾ける州も少しずつ増えつつある。“ロビイスト活動の中では、むしろ、それほど苦労しなかった方ではないか”、とHadiは言っている。
そして今度は、州に次いで国が腰をあげる。また、”Hour of Code”キャンペーンに参加するのは合衆国の学校だけでなく、世界167か国の33000のクラスの500万人あまりの児童生徒の参加が期待されている。Hadiの“500万人あまり”とは、1000万のことだ。
Code.orgのその目標達成を助けるために、AppleとMicrosoftは全世界の小売アウトレットで”Hour of Code”のクラスを行う。Appleは、各店で”Hour of Code”のクラスを展開することを、専用のWebサイトで公示している。同社によると、‘きわめて対話的な’状況および雰囲気の中でプログラミングの基礎を教えるそうだ。こうやって、自社の店舗などでこのキャンペーンを助けるという企業は、100社近くある。その中には、テクノロジ系でない企業もある。
Googleの検索ページは、右図のようなGoogle Doodleでコンピュータ科学教育週間を祝っている。この絵に登場する女性は、女性プログラマの元祖でCOBOLプログラミング言語を作ったGrace Hopperだ。絵の下には”Hour of Code”へのリンクもある。このほかCode.orgは、Yahoo、Youtube、Apple、MSN、Bing、Disney、 有力政治家たち、映画などのスターやアスリートたちにも、キャンペーンの宣伝への貢献を求めている。
Code.orgは、”Hour of Code”キャンペーンに協賛してチュートリアルを提供する企業や大学、非営利団体などのリストと、 Mard Zuckerbeg、Chris Bosh、Bill Gatesらが登場するビデオチュートリアルを提供している。この前の”Learn to Code”キャンペーンのビデオは2週間で1200万回見られた。