今週Googleは、年次会議であるCloud Nextをサンフランシスコで開催した(米国時間7月24日〜26日)。2万5000人の開発者が参加するCloud Nextは、Google I/Oに比べるとクラウド特化型の会議となっている。Diane GreeneがGoogleのクラウドビジネスのCEOに就任したのは、数年前まだ参加者が2000人程度に過ぎず、Googleがまだこの会議をさびれた埠頭で行っており、Googleがこの領域でやや遅れをとっていたときのことだ。そのころAmazonとMicrosoftは元気に進撃を続けていた。その就任以来Googleは、ビジネスユーザーをクラウド(クラウドコンピューティングならびにG Suiteの両方)に取り込むための、真剣な努力を重ねてきた。
今年のCloud Nextに先行して、私はDiane Greene から、Google Cloudの現状と近い将来に期待できることについて話を聞く機会を得ることができた。Greeneが指摘したように、多くの企業が初めはクラウドコンピューティングをインフラストラクチャーのための道具として扱った。コストを低減しリソースに対する柔軟なアクセスを得るためだ。「それがいまや、それ以上のものになり始めています。誰もが、それがより安全な場所であることに気が付いていますが、私がさらに感じているのは、企業をより成功させるためには、情報密度を上げることが大切だということです」。結局のところ、企業がCloud Spannerのような世界的に分散したデータベースや、AutoMLのような機械学習ツール(および他のベンダーの同等のツール)にアクセスするのは、クラウド上なのだ。
GreeneがGoogle Cloudにやってきたときに気が付いたことは、Googleが大企業が必要とする多くの機能を持っていないことだった、と彼女は語った。「私たちは総合監査ログを持っていませんでしたし、きめ細かなセキュリティ制御の手段も持っていませんでした。そしてピアツーピアネットワークを持たず、コンプライアンスと認証の手段も持っていなかったのです」と彼女は私に語った。
周囲は彼女に、Googleが企業顧客の役に立つことができるようになるには、10年かかるだろうと言っていた。「これはMicrosoftの場合に必要だった期間を参考にしての意見です。でも私は10年だなんてとんでもないと思っていました」。チームはそれを挑戦として受け止めた。そして2年後のいまGreeneは、Google Cloudを企業に提供できる準備が整ったと主張している(彼女は世間がGoogleをAWSとAzureに「大きく水を開けられた」3番手だと呼ぶのに飽き飽きしていたのだ)。
現在彼女は、自身の組織のミッションについて考えるとき際には、それをGoogle自身のモットーの一種とみなしている。「Googleのミッションは、全世界の情報を整理することです」と彼女は語る。「なのでGoogle Cloudのミッションは、顧客の情報密度を高めることなのです」。
しかし、大企業に特定のベンダーに賭けることを納得させるためには、もちろん技術も大切だが、数年前のGoogleは、そうした企業に売り込むためのセールス部隊も持っていなかったのだ。それもまた変えなければならなかったことだ、Greeneは同社の新しいアプローチも上手く行っていると語る。そしてGoogleは適切なパートナーも必要としていた、いまではそのインメモリデータベースHana用としてGoogle Cloudを認定したSAPのような企業や、Ciacoのような企業が協力関係にある。
数ヶ月前、GreeneはCNBCに対して、世間はGoogleのクラウドビジネスの規模を過小評価していると思うと語った。そしてそれは今でも続いていると彼女は考えている。「間違いなく世間は私たちを過小評価しています。それがある程度私たちの足を引っ張っているかもしれません。しかし私たちは、自分たちのパイプラインと、私たちが進めている計画の全てを気に入っています」と彼女は私に語った。
大企業に使ってもらうことは大切だが、Greeneはまた、現在はおそらくエンタープライズ開発者にとって最も素晴らしい時だとも主張した。「企業がこんなにも積極的に最新技術を追求し、この破壊的な技術を採用しようとしているのは、これまで見たことがありませんでした。彼らはそれがもたらす利点を認識していて、もし争う相手が先にそれを採用してしまったら競争に遅れをとるということを理解しているからなのです」とGreeneは私に語った。「このため私は、企業内のイノベーションこそが現在起こっていると考えています。これは消費者の世界よりも速く、少し逆転してさえいるかもしれません」。
現在Google Cloudを選択している企業には、3つの異なるカテゴリがあるとGreeneは考えている。まずクラウドの中で生まれた企業群がある。Twitter 、Spotify、Snapのことを考えて欲しい。これらは皆Google Cloudに大きく賭けている。Greeneは、Googleの卓越した技術力を競合他社と比べることにためらいは見せない。「そうした企業がGoogle Cloudを選ぶのは、技術的な観点からみて私たちが最高だということを知っているからです」と彼女は言う。
しかし現在は、インターネットで先行してはいるものの、いまでも大量のデータを中心的に扱っている大企業たちの中に、クラウドへの移行を始めているものが沢山ある。そうした企業の例として挙げられるのは、あくまでもGoogle Cloudの顧客でということだが、Schlumberger、HSBC、そしてDisneyなどであるそしてGoogleが今年のCloud Nextで、Cloud Services Platformの開始によって本当に訴求していた相手は、そのようなハイブリッドなクラウド適用プランを欲している或いは必要としているビジネスたちだ。「そうした企業たちは、未来がクラウドの中にあることを知っています。彼らはどこが最高の技術を持つようになるのかを見ています。彼らは、クラウドのテクノロジーを使用することで、ビジネスニーズにもっと集中できるように人を再配置することができることを、よく理解しているのです」とGreeneは説明した。
私たちの会話全体を通して、Greeneは、機械学習ツールとKubernetesを支えるGoogleに、沢山の企業が問い合わせをしてきているのだと、強調し続けた。「そうした企業に対して私たちはクラウドを提供していくのです」と、Greeneはハイブリッドにしたいと考えているこれらの企業たちについて語った。「私たちはKubernetesとIstioを使い、コンテナワークフローの監視と保護を行います。そしてそれを、オンプレミスでも任意のクラウドでも稼働させ、すべてのサポートを手がけます。そうすることで、データセンターの中に留まりながらKubernetes環境を構築することができるようになります。そしてそうなれば、それをロックインの心配なしにクラウドへと展開することができるようになります」。
しかし、上の2つとは違う第3のカテゴリーがある。Home Depotのような旧来のブリックアンドモルタル型ビジネス(実店舗ビジネス)だ。こうした企業はしばしば大規模な中央システムを持たない。しかしいまや競争力を維持するために、自身のデジタルトランスフォーメーションを推進する必要にも迫られている。
Kubernetesやコンテナなどの新しいテクノロジーについて話をするのは面白いが、Greeneは大部分のユーザーたちがGoogle Cloudを使う理由は、今でもBigQueryのような、計算サービスとデータ管理そしてアナリティクスを行うためのツールを求めてのことだと指摘した。もちろん、Google Kubernetes Engineの背後でも、同社の機械学習ツール同様の多くの動きが起きている。しかし企業たちはそうしたツールに関してはまだ考え始めたばかりだ。
しかしGreeneはまた、多くの顧客がGoogle Cloudのクラウドコンピューティングの側面だけでなく、G Suiteツールを選択した際のセキュリティも求めていることを強調した。
「多くの企業がハッキングされている中で、Googleは幸いなことにハッキングされていません」と彼女は語る。「私たちはこれまでどんな会社が想定できたものよりも、ずっと安全なのです。」
もちろんそれは間違いないが、Googleはこれまで行ってきた無料の消費者向けビジネスのために、興味深い挑戦に直面している。Greeneは、Googleが一般ユーザー(無料サービスユーザー)のデータに対してGoogleが行っていることと、Google Cloudの中にあるデータに対して行っていることは大きく異なるということを、顧客に理解して貰うには、それなりの時間がかかることがあるということを指摘した。知られているように、Googleはより多くの関連性の高い広告を表示するために、無料ユーザーのデータを大量にマイニングして来た。
「私たちは何十億人という人々のデータを約20年にわたって、外部に対してはプライベートなままに保っています、もちろんそれは非常に大変な作業でした。しかしクラウドカスタマーのデータは完全に顧客自身のものであり秘密が保たれています。私たちは両者の違いについての教育をしっかりと続けて行かなければなりません。
ということで、Googleはそのクラウドを企業に適用することに関しては少々出遅れたものの、現在は正しい軌道に乗っているとGreeneは信じている。「もう一つ言っておきたいことは、私たちは長期的な活動に取り組んでいるということです」と彼女は語る。「これはまだ始まったばかりなのです。全てのワークロードのわずか10%程度しか大手のパブリッククラウドには置かれていない、と推定する人もいます。現在パブリッククラウドに置かれていないものは、いずれパブリッククラウドに置かれることになるでしょう」。
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(翻訳:sako)
写真: Getty Images