リモートワークに副業もOK、時間と場所に縛られないIT求人サイト「パラフト」

優秀な人材を獲得するためにオフィス環境を充実させるネット大手が増えている。ランチ無料のカフェテリアは当たり前、最近では美容室マンガ喫茶図書館マッサージルーム、そしてなぜかバスケットコート付きのオフィスまである。とはいえ、こうした手厚い福利厚生で勝負できる企業はごくわずか。特に資金力がないスタートアップにとって、どうすれば優秀な人材を獲得できるかというのは大きな課題だ。

その1つの解となり得るかもしれないのが、多様なワークスタイルを許容する企業の求人情報を扱う転職・求人メディア「Paraft(パラフト)」だ。パラフトでは、副業やリモートワーク、早期帰社など柔軟な働き方が可能な正社員の求人情報のみを掲載する。高額な給与を支払うのが難しい企業でも、働く「時間」と「場所」を譲歩することで、優秀な人材を獲得できる可能性もありそうだ。

現在、ウェブページ上で求人掲載企業、求職者の事前エントリーを受け付けており、来年1月末にβ版として20社前後の掲載でスタートする。現状では家計簿アプリ「Dr.Wallet」のBearTailオンライン学習塾「アオイゼミ」の葵、クラウド型マニュアル作成ツール「Teachme」のスタディストといったITベンチャー企業がエンジニアやマーケター、セールスの人材を募集する予定だ。

パラフトを運営するリライドは、得意なプログラミング言語やスキル、希望報酬をサイト上に登録したエンジニアと企業をマッチングする「PROsheet(プロシート)」を手がけるシェアゼロの子会社。プロシートでは業務委託契約としてエンジニアを企業に紹介していたが、パラフトではあくまで正社員雇用が前提となっている。サービス名はパラダイムワークシフトの略称。従来の求人掲載情報に「働き方の選択」という角度から求職活動を支援したいという。

場所や時間を問わない働き方としてはクラウドソーシングに注目が集まっているが、リライドの中川亮社長は「高報酬な案件は少なく、プロフェッショナルな人は動かない」と指摘する。優秀な人材の中には「家庭の事情で残業ができない」や「副業もしたい」といった理由で転職できない人もいるが、実際にサイボウズでは多様なワークスタイルを認めることで離職率が28%から4%に下がった事例もある。中川氏は「一部の企業では柔軟な働き方が浸透しているが、こうした求人情報を集めることで優秀な人材の流動化を加速させたい」と意気込んでいる。


安倍首相、Appleが大規模R&D拠点を日本にオープン予定であると言及

Appleが、新たに大規模な研究開発拠点を日本に設けることになたようだ。日本の首相である安倍晋三のが地元メディアに向けて語ったものだ。それを報じるロイターの記事によると、日曜日に選挙を控えていることもあり、詳細については後日改めて明らかにすると述べているとのことだ。

それもあって、現時点では詳細についてはほとんど何もわかっていない。研究開発拠点の規模などについて、安倍首相は全く触れていない。ただ、カリフォルニアの研究開発拠点にも比肩する、アジア最大の研究開発拠点となるとのみ述べている。

ちなみにAppleは先月、イギリスのケンブリッジにも新たな研究開発施設を開設すると発表している。このケンブリッジの拠点ではまず20名程度を採用することになっているようだ。但し、Appleはこのケンブリッジの施設についてもコメントしていない。それと同様に日本の施設についても、TechCrunchからの問い合わせに対して何の説明も得られていない状況だ。

なお、上海市当局からの情報によれば、2013年の夏より、上海市でもAppleの研究開発施設が稼働しているのだとのこと。クパチーノ以外で最初に稼働した研究開発施設はイスラエルに拠点をおくものだった。自らのホームグラウンド以外からの情報を吸い上げ、またエキスパートやスペシャリストを獲得するための機能も果たしている。さらに決算面からいっても、オペレーションコストの削減や、税金対策などで役に立っているという側面もある。そうして生み出された利益が、新製品開発に役立つという意味もあるわけだ。

Update:Appleから以下のステートメントを入手することができた。

横浜に新たな開発センターを設け、日本での活動範囲を広げることとなりました。多くの人を現地で採用することにもなるでしょう。8つの既存Apple Storeに加え、さらにApple社員の活動の場が広がっていくわけです。Appleは以前から日本では積極的な活動を展開してきています。多くの方の支援もあって30年間にわたってビジネスを展開できたことを感謝するとともに、さらなる飛躍を目指しているところです。

原文へ

(翻訳:Maeda, H


海外チケットを手軽に購入可能に、二次流通のチケットストリートがStubHubとサービス開始

音楽ライブやスポーツ観戦など、興行チケットの二次流通サービス「チケットストリート」を運営するチケットストリート。2014年8月にeBay子会社のStubHubとグリーベンチャーズから合計約3億円の資金調達を実施していたが、その際に発表されたStubHubとのサービス連携が始まる。同社は12月10日より、チケットストリート内で海外興行チケットを購入できる二次流通サービス「チケットストリート・海外チケット powered by StubHub!(チケットストリート・海外チケット)」を開始する。

チケットストリート・海外チケットでは、StubHubが取り扱う二次流通チケットのうち、日本から購入可能な全米およびイギリスの5万イベント・10万枚以上のチケットが対象。対応するのは電子チケットのみで、購入後数分でダウンロード可能になるという。一方で紙チケットには対応していない(そもそも国際郵便ではチケットを送れないそうだ)。価格は日本円で本国で購入するのと同価格、決済はクレジットカードに対応する。「日本のチケットを購入するのと同じように簡単に購入できる」(チケットストリート代表取締役会長の西山圭氏)

チケット購入の際は、その座席からの眺望やチケット価格をサイト上で比較できるStubHubの機能「3Dシートマップ」も導入する。こちらは現在海外チケットにのみ提供されている機能だが、今後は国内のスタジアムなどでも利用できるようになる予定だ。

では実際に米国の興行チケットを欲しがる日本人なんてそれほど多いのだろうか? 西山氏に聞いたところ「英語版のStubHubでチケットを購入している日本のユーザーも実はかなり多い。2013年には約1万枚のチケットが売れている」とのことだった。またクロスボーダーで購入されるチケットは、平均価格が他のチケットと比較して大幅に高いのも特徴だ。例えばワールドシリーズで1枚1000ドル、スーパーボウルで1枚3000ドル程度になるという。そんなプレミアチケットこそ、ファンは国をまたいででも手に入れて、現地に見に行きたいのだ。

興行チケットの売上拡大施策は「北風と太陽」

チケットストリートにはもともと別の運営者がいたが、2011年10月にアサップネットワークが買収。アサップネットワークの創業者である西山氏と、同社のスタッフだった現・チケットストリート代表取締役社長の山本翔氏がチケットストリート株式会社を立ち上げてサービスを運営してきた。

西山氏に聞いたところ、チケットストリート社としての初月売上は176万円。これが現在数十倍の売上に成長しているそうだ。「もともと(興行チケットの)マーケットプレイス自体には伸びしろがあると思っていて興味を持っていた。一方でアサップネットワークスでは山本とともにコンテンツ屋をやっていて、『ゲーム以外の日本型コンテンツビジネスはこれ以上伸びない』という共通認識があった。それでコマース、マーケットプレイスをやろうとなった。この市場は大手企業であるほど既存ビジネスとコンフリクトするので、ベンチャー以外は参入できない」(西山氏)

西山氏は成長の背景に「興行市場全体の成長」があると説明する。2013年で約5000億円とも言われる興行市場は現在年率20%程度で拡大中。それにともなってチケットストリートのような二次流通の市場も伸びているのだそうだ。

例えば音楽興行だけを見てみると、2011年に1600億円だった市場は2013年には2300億円にまで成長。かつては6000億円もあった音楽ソフト市場(2013年で2900億円)をまもなく逆転するとも言われている。

この流れを受けて、興行主側もこれまでの「二次流通を制限することで売上を守る」という考えから、「二次流通を認めることで売上を伸ばす」という考えに変わってきているのだそうだ。

西山氏は「まさに北風と太陽」と語るが、日本の興行主はこれまで、本人確認や転売をさせないような仕組みを導入するなど、チケットを購入者にとって不便になるような施策をとってきた。その結果、一般の人々はチケットを買いづらくなり、売上でも苦戦するという悪循環が起こっていた。これに対して、米国など海外では、二次流通を公認のものとし、チケットの抽選についても公平にすることで、チケットの拡販につとめた。二次流通を公認にすることでそのコミッションなども取れるようになるし、チケット獲得のチャンスが公平になることで、結果的に市場も拡大すると判断したのだ。実はすでにワン・ダイレクションなど複数の海外アーティストがチケットの二次流通を公式に認めるという動きもある。

アウトバウンド、インバウンドの需要を取り込み拡大へ

チケットストリートでは今後、海外チケットの国内販売にとどまらず旅行や保険など、各種のアウトバウンド需要を取り込んでサービスを検討していくという。またインバウンド需要の取り込みも狙い、多言語サービスの提供も予定している。

ちなみに西山氏に同社のイグジット戦略を聞いてみたのだけれど、「決めていない」とのことだった。「大事なのは二次流通市場の社会的確立。オークションと同じように扱われるのであればニッチだ。社会的な地位と信頼性の確立を目指したい。同時に二次流通が興行ビジネスのエコシステムに組み込まれる必要がある」(西山氏)。社会的な信頼を考えればIPOも視野に入れるべきだが、エコシステムに組み込まれるということを考えれば、買収も選択肢の1つになるとのことだった。

ではチケットストリートに出資するeBayが買収するということはありえるのだろうか? 西山氏は「あくまで個人的な考え」と前置きした上で、「30億ドルの買収資金があると言っている会社が本気でやるつもりなら、(8月の)ファイナンスのタイミングで買収してもおかしくはない。だが(eBayが)自ら進出するよりも、ローカルのナレッジを尊重したほうが勝算があると考えたのではないか」と語った。確かにeBayはこれまで日本進出に挑戦したが撤退しているし、日本以外の地域でも参入に苦戦したとも聞く。イグジットについては今後の話ではあるが、同社ではまず2年以内をめどに年間流通総額50億円を目指すとしている。


楽天、日本のサッカーチーム、ヴィッセル神戸を買収。Alibabaに続く


アジアのEコマース巨人が新たな買収によってサッカーに参入する。

どこかで聞いた話だって?

Alibabaは、中国のサッカー* フットボールチーム、Guangzhou Evergrandeをこの夏に買収し、今度は楽天ヴィッセル神戸の買収に合意して日本のスポーツ界に乗り込む。神戸は1995年に創立されたJリーグの主要チームだ。

実は楽天をAlibabaと比較するの少々フェアではない。なぜなら同社はすでにプロ野球チームの東北楽天ゴールデンイーグルスというスポーツ事業を持っているからだ。しかし、フットボールはスポーツ以上の存在だ(人生そのものという人もいる)。

AlibabaがEvergrandeの過半数株を取得したのとは異なり、楽天はヴィッセル神戸を完全買収した。契約は年内に締結予定だが金額は明らかにされていない。

両者には以前からつながりがあった。日本のEコマース会社は2004年以来ヴィッセル神戸のユニフォームスポンサーだった。今回の買収は、オンラインショッピングに留まらず銀行、スマートフォン等同社の無数のサービスを推進すると楽天は言っている。

さらに同社は、スポーツの「経験」と資源を、ヴィッセル神戸チームの「強化と発展」に役立てることを約束した。

楽天は、世界規模のEコマース市場で最もよく知られているが、今年は数々の異業種へと企業展開している。9月には米国で小売業のeBatesを10億ドルで買収する大きな動きに出た。それ以前に9億ドルでViberを買い、モバイルメッセージング分野に足を踏み入れたのは、FacebookがWhatsAppを買う直前だった。

楽天はそのブランドがほぼ浸透している日本が主な市場であり、MVNO通信方式によるスマートフォン事業を提供しているほか、今夏には格安航空会社のエアアジアにも投資して日本におけるサービスを開始した。

* 英国人である私は、フットボールをサッカーと呼ぶことに気が進まないが、多くの読者がフットボールと言えばアメリカンフットボールを連想することから、記事タイトルにはサッカーを使う方が良いと判断した

Second image by Flickr user Masashi Hara Hara reproduced under a Creative Commons 2.0 license

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ヤフー、ミクシィ、グリーはどうやって構造改革を実現? 当事者が振り返る

PC時代の王者からスマホに舵を切ったヤフー、老舗SNSからゲームで再生を果たしたミクシィ、約1割の従業員を削減してネイティブゲームに注力するグリー――。こうしたネット企業はどのように構造変革を実現したのか。12月3日に京都で開催された「IVS Fall Kyoto 2014」でヤフー執行役員の小澤隆生氏、グリー取締役の山岸広太郎氏、ミクシィ前社長で現在はジョッキンゼー代表取締役の朝倉祐介氏らが「当事者」としての体験談を語った。

構造改革の「助っ人」には賞味期限がある

楽天からヤフーへと渡り歩いた小澤氏は、構造改革を成功させるには「トップダウン」が欠かせないと語る。「例えば孫さん。ソフトバンクはもともとソフトウェアの卸売や出版業の会社。ピボットどころかトラベリングですよ」と言い、強烈なトップダウンで変革を進めていくべきと話した。

ヤフーが新体制で宮坂学氏を社長に据えたように、人事制度を変えることも秘訣だという。「気持ちをいくら伝えてもそうそう変わらない。明日から変えるという時に人事を変えるのはロジカル。『自分じゃできない』という時は後継者を自分で指名して変わるのは有効」。

2006年にオリコンのデジタル化を進めるために招へいされた、ボストンコンサルティンググループの平井陽一朗氏は、「助っ人」には賞味期限があると語る。「私のように途中から入った人間は、3カ月くらいで期待された結果が出ないと『おつかれさん』となってしまう。すばやく勝つことが求められている」。

「当時のオリコンでうまくいったのは、着メロに数十人くらい貼り付けていたのを切った。最初に思い切ったことをやると、いなくなってほしくない社員も辞めたりするが、雨降って地が固まる。結果が出るとドライブがかかり、みんなゴキゲンになって連鎖反応が起きてくる。」

ボストンコンサルティンググループの平井陽一朗氏

社内外のアナウンスの難しさ

構造改革はポジティブな面で語られることが多いが、当然ながら「痛み」が伴う局面もある。ヤフーで構造改革に立ち会った小澤氏が頭を悩ませたのは、「PC時代の王者であっても今後は安泰ではない」という意識を、社内外をどのように話すべきかということだった。

「上場企業なので、真正面から『危ない』と話をすると『おいヤフー大丈夫か?』と心配されてしまう。その一方で、従業員には危機感を持ってもらいたい。なぜ構造改革をしなければならないのか。このまま行っても失敗しないかもしれないけれど、今の立ち位置はまずいと。」

ヤフーの小澤隆生氏

この発言には、事業再生の請負人としてミクシィ社長に就任した朝倉氏も強く同意する。「社内には厳しいことを言うが、あんまり外で『再生』と言ったりすると『ミクシィは死んでるのか』と思われてしまう。成長する目線があることを示しつつ、社内にはがんばってやろうと呼びかけるのが大事」。

ミクシィの事業再生が実際どうだったかと聞かれた朝倉氏は、「SNSで大成功してしまったがゆえに方針転換が極めて厳しかった」と振り返った。「戦略はシンプルで、既存事業の採算性をいかに改善するか。新しい事業をどう生み出すか。そのための施策を考え、社名変更すらも考えた」。

ジョッキンゼーの朝倉祐介氏

「古参」からの反発はどうする?

構造改革は、売上や利益が下がってから行うのでは遅すぎる。それでは経営陣はいつ決断すべきなのか。先回りして構造改革のタイミングを図ることが求められるが、これが難しいと小澤氏は語る。「自分たちの事業はうまくいってると思いたいもの。でも、一寸先は闇ですからね」。

実際に構造改革に踏み切ると、時として社内で反発が起こる。それが「古参」の社員だったりすることもあるが、こういったケースではどのように対応すべきか。VOYAGE GROUP社長の宇佐美進典氏は、マクロな動きが見えない人とは、いかに危機感を共有するかが重要だと話す。

「自分が感じるマクロな変化を言語化して共有するべき。現状の前提条件が伝われば、反対者も『じゃあしょうがない』となる。社内で説明する前には、ネガティブなオーラを出す社内のキーマンを先に押さえることも大事。『ネガティブなオーラを出さないでね』と握った上で、全社集会で発表した。」

VOYAGE GROUPの宇佐美進典氏

メディアで叩かれても耐える強さ

ここまでは各社の「成功体験」が語られたが、「あの時こうしていれば」という後悔はなかったのか?

2005年12月にサイバーエージェント(CA)の取締役に就任した経験を持つ宇佐美氏は、同社の組織作りを参考にすべきだったと振り返る。「僕らは事業戦略ばかり考えていたが、CAが力を入れていたのは、いかに良い人材を採用して事業を任せるかということ。熱い組織を作るのはもっと最初からやっていればよかった」。

グリーは事業急成長を背景に2011年以降、グローバルプラットフォームとネイティブアプリシフトに取り組むも失敗。同時にコンプガチャ問題が同時にコンプガチャ問題が起こって業績が悪化した。2013年には従業員の約1割を削減するなど事業再編し、現在は再びネイティブゲームに注力している。山岸氏は当時を振り返って「組織のストレス耐性を作るのが大事」と話す。

「まず、外から言われることに強くなること。メディアで叩かれると社員が傷ついてダメだと思ったりするが、自分たちがやっていることに誇りを持つ強さが必要。もう1つは、人の出入りに強くなること。ほとんどの人が辞めない会社から、多くの人が辞める会社になって僕らも傷ついたが、志やその時にやることに合わなければ、去る人を前向きに送り出せる風土を作らなければ、変革には耐えられない。」

グリーの山岸広太郎氏


ヤフーがIoT領域に参入――2015年春に”IoT向けのBaaS”を提供

ヤフーがIoT領域の新サービスを提供する。京都で開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2014 fall Kyoto」の中で、ヤフー イノベーションサービスユニット ユニットマネージャーの松本龍祐氏が明らかにした。

Yahoo! IoTプロジェクト(仮)」と呼ぶ新サービスは2015年春にリリースの予定。IoTのハードウェアそのものではなく、SDKやデータベース、解析、IDといったバックグラウンド環境をサービスとして提供するというものだ。

発表後、松本氏は「例えばイケてる時計型のプロダクトを作ったとして、(機能面では)単体での価値は1〜2割だったりする。でも本当に重要なのはバックエンド。しかしユーザーから見てみれば時計というプロダクトそのものに大きな価値を感じることが多い。そうであれば、IoTのバックエンドをBaaS(Backend as a Service:ユーザーの登録や管理、データ保管といったバックエンド環境をサービスとして提供すること)のように提供できればプロダクトの開発に集中できると思う。クラウドが出てネットサービスの開発が手軽になったのと同じような環境を提供したい」とサービスについて語ってくれた。

松本氏はまた、IFTTT(さまざまなウェブサービスを連携して利用できるようにするサービス)を例に挙げ、バックグラウンドで複数のサービスが連携できる仕組みも提供していくとも語った。「パーツとしてヤフーのサービスを使ってもらってもいいし、他社のサービスと連携してもいい。全くコードを書けないと簡単な事しかできないが、ライブラリも用意して手軽に利用できるようにしたい」(松本氏)。イベントでは、ネットに連携する目覚まし時計とYahoo!天気、Pepperを連携させて、「Yahoo!天気でその日の天気をチェックして、雨ならば予定より30分早く目覚ましを鳴らす。目覚ましで起きなければPepperが起きるように呼びかける」というデモを披露した。

このサービスは当面無料で提供していく予定。ではどうやってマネタイズするのかと尋ねたところ「ヤフーはビッグデータカンパニー。そのデータを生かせればいい。例えばYahoo! IDを使っているユーザーが増えることはメリットになる。ウェラブルデバイスのデータを取れれば広告の制度を高めることだってできる」(松本氏)とのこと。

また、このサービスを利用する開発者に対しては、ヤフーグループとして販売やマーケティング面でも支援をしたいと語る。「例えばY! Mobileの店頭での販売、Yahoo! ショッピングでの販売なども検討できる」(松本氏)。松本氏は現在ヤフーグループのコーポレートベンチャーキャピタルであるYJキャピタルのパートナーも務めているため、YJキャピタルでIoT分野のスタートアップに投資し、このサービスを導入したいと語っていた。「ヤフーはPCの戦いで勝ったが、スマホでは圧倒的なナンバーワンではない状況。IoTでまた圧倒的なナンバーワンを取っていく」(松本氏)

余談だが、ヤフー執行役員の田中祐介氏もこのタイミングでYJキャピタルのパートナーに就任している。田中氏いわく、同氏や松本氏など起業経験を持つヤフーの役職者がYJキャピタルのパートナーとして活動していくことになったそうだ。またヤフー執行役員でYJキャピタル代表取締役小澤隆生氏によると、YJキャピタルは現在200億円規模のファンドを準備しているそうだ。


Infinity Ventures Summitのプレゼンバトル、登壇13社を紹介

京都にて12月3日から4日にかけて開催中の招待制イベント「インフィニティ・ベンチャーズ・サミット 2014 Fall Kyoto(IVS)。同イベント2日目の朝8時45分からは、毎回恒例となっているプレゼンバトル「Launch Pad」が開催中だ。

これまでクラウドワークス、スマートエデュケーション、freee、WHILLなどが優勝してきたLaunch Padだが、今回登壇するのは以下の13社。なお、Ustreamおよびスクーでもその様子は生中継される予定だ。

baton「マッチ

「高校生向け対戦型問題集」をうたうこのサービスは、大学入試問題集に出てくるような問題を対戦型のクイズとして楽しむことができる。

ザワット「スマオク

スマホアプリで利用できるオークションサービス。これまで24時間以内の入札に対応していたが、アプリをアップデートし、入札時間5分限定の「フラッシュオークション」にリニューアルしている。

ギャラクシーエージェンシー「akippa(あきっぱ)

駐車場などの空きスペース、空き時間がある人と駐車したい人をマッチングするパーキングシェアサービス。プレゼンでは、人に車を貸して、空きスペースを探してもらう「akippa+」も発表された。

落し物ドットコム「MAMORIO

Bluetooth LEを使った追跡用タグ。スマホと一定の距離が開くとアラートが鳴って置き忘れを未然に防ぐ。バッテリー交換なしで1年利用が可能。自転車が盗難にあった場合などに利用できる機能として、ユーザーが相互にタグをトラッキングする「クラウドトラッキング」を備える。

ビズグラウンド「Bizer(バイザー)

弁護士や会計士などさまざまな士業への相談サービスを提供していたBizer。今後はバックオフィス業務をサポートするクラウドサービスを提供していく。

Socket「flipdesk

スマートフォンECサイト向けの販促・接客ツール。ユーザー属性をリアルタイムに解析して、ダイレクトメッセージの送信やクーポンの発行ができる。年商100億円規模の起業でCVR5.6bai ,客単価15%アップという実績がある。

プレイド「KARTE

こちらもECサイト向け(flipdeskとは異なりPCにも対応する)の販促・接客ツールだ。ECサイトへの来客をリアルタイムに解析。ユーザーに合わせて商品のレコメンドやクーポン発行などができる。現在はクローズドベータ版として25社に限定して提供中。

オープンロジ「オープンロジ

CtoCコマースや小中規模ECサイトなどをターゲットにした物流アウトソーシングサービス。通常大規模ECサイトでないと利用しにくい物流サービスだが、同社があらかじめ物流業者と契約することで、少ない商品でも定額(サイズによる)、かつすぐに利用できるようになる。

フクロウラボ「Circuit(サーキット)

スマートフォンウェブからアプリにスムーズに遷移するための「ディープリンク」。その設定を容易できるグロースツール。シームレスなアプリ間移動を実現する。

ミニマル・テクノロジーズ「WOVN.io(ウォーブン・ドット・アイオー)

ウェブサイトに1行のスクリプトを足すだけで、ウェブサイトの多言語化を実現するサービス。翻訳は機械翻訳、人力翻訳に対応。リリース4ヶ月で登録ドメイン数は3000件、6万ページ。海外ユーザーが6割となっている。

セカイラボ・ピーティイー・リミテッド「セカイラボ

世界中のエンジニアチームに仕事を発注できるサービス。中国やベトナムなどのエンジニアチームに対して、日本語で大規模な開発を依頼できる。

YOYO Holdings Pte. Ltd.「PopSlide

新興国向けモバイルインターネット無料化サービス。スマホのロック画面に広告を表示し、それにスライドしてアクセスしたり、動画を閲覧したりすることでポイントを提供する。ポイントはロード(プリペイドの通信料金)と交換できる。

ファームノート「Farmnote(ファームノート)

酪農・肉牛向けのスマートフォンアプリ。タブレットやスマホを使って、リアルタイムに個体管理が可能。

以上が登壇する13社となる。11月に開催したTechCrunch Tokyo 2014の「スタートアップバトル」でも登壇してくれた企業がいくつかあるが、Launch Padは来場者、審査員とも経営者が中心のイベント。またプレゼンの内容も変わってくるかもしれない。個人的に応援しているスタートアップもあるのだけれど、ひとまずは各社のプレゼンを楽しみにしたい。


LINEの本質はプラットフォーム on プラットフォーム on プラットフォーム

Google、Apple、Facebook……ネット業界の巨人はプラットフォームになろうとしのぎを削っているが、メッセンジャーアプリのLINEもその1社。12月3日に京都で開催された会員制イベント「IVS 2014 Fall Kyoto」で、LINE執行役員の舛田淳さんが同社のプラットフォーム構築術を語った。

LINE流プラットフォームの鍵はヒト・モノ・カネ

なぜ人はプラットフォームを目指すのか。私なりの考えで言うと、ヒト・モノ・カネだと考えている。

まずヒトについては、大勢いるだけでなく、継続的にヒトが流れているか。それがなければ、プラットフォームとしてパートナーやユーザーの期待に答えられない。単純にオープン化することがプラットフォームではない。

モノで言うと、どうやってパートナーに提供してもらうかという拡張性。これは技術が関係する。

もう一つ需要なのはカネ。ビジネスモデルがきちっとしているか。ユーザーがいても、プラットフォームでいろんなモノを展開したとしても、ビジネスにならなければプラットフォームとしては成り立たない。

LINEはこの3点を大事にしながらプラットフォームを設計している。

プラットフォーム on プラットフォーム on プラットフォーム

今までのプラットフォームの歴史を振り返ると、検索であったり、ニュースでトラフィックを集めるサービスが成立している。その次はFacebook。ユーザーが情報をシェアして拡散することで人を流してきた。今のプラットフォームは何かというと、コミュニケーションアプリ。メッセンジャーが存在感を出している。

これはあまり言ったことがないが、LINEのプラットフォームの本質は、「プラットフォーム on プラットフォーム on プラットフォーム」という考え方。スマートフォンではiOSやAndroid、携帯キャリアのプラットフォームがあるが、その上にLINEというプラットフォームを建てて、その上にさらにゲームや音楽などのプラットフォームを作っている。

オーバー・ザ・トップ(OTT)サービスと言われるが、既存のプラットフォームとは共存共栄の関係を築いている。あと、意識しているのは「アプリ to アプリ」と言って、LINEは頑なにこだわっている。「アプリ to ブラウザ」ではなく、LINEというアプリから、ツムツムという別のアプリに動線を引いている。

実はLINE NEWSのMAUは500万人

さかのぼって考えると、LINEの始まりは、コミュニケーション。それからプラットフォーム宣言をして、デジタルコンテンツを配信し始めた。ゲームでは世界トップクラスのタイトルを届けていて、漫画、占い、アバターサービスもやっている。デジタルコンテンツのプラットフォームは、カテゴリを用意してパートナーに(モノを)落としこんでもらっている。

(最近ではニュースアプリに注目が集まるが)ヤフーやLINEのニュースはアプリだけで完結するとは考えていないと思う。アプリだけでなく、ブラウザも含めてニュースを見ている。LINE NEWSもアプリ単体ではなく、基本的にはLINEアプリの中でニュースを見てもらっている。

これは言っちゃっていいのかな。いまいまだと、LINEアプリ経由の利用を含めたLINE NEWSの月間アクティブユーザーは500万人。とはいえ、プラットフォームとしては1000万人くらいでなければプラットフォーム化しないと思っているので、NEWSチームには足りないと叱咤激励している。

MAUだけで言えば、某ニュースアプリよりも多いが、LINE NEWSはマスっぽいニュースのアプローチをするので、ヤフーと同じカテゴリ。Yahoo!ニュースはすごい。みんな見ている。「目指せYahoo!ニュース」というとヤフーに怒られそうだが、そこにどうチャレンジするかが、LINE NEWSのポイント。


「日本でうまく行ったことは、ぜんぶ外れた」、ネット企業海外進出の成功と挫折

12月3日〜4日に京都にて開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2014 Fall Kyoto(IVS)」。1つ目のセッションは「グローバルで活躍するプロフェッショナルの条件」がテーマ。インフィニティ・ベンチャーズ共同代表パートナーの小林雅氏がモデレーターを務める中、indeed,Inc. CEO&Presidentの出木場久征氏、グリー取締役 執行役員常務 事業統括本部長 青柳直樹氏、PARTY Creative Director/Founder 川村真司氏がそれぞれの海外進出の状況について語った。

日本でうまく行ったことはことごとく外れた

グリー取締役 執行役員常務 事業統括本部長 青柳直樹氏

小林氏がまず3人に尋ねたのは海外進出での苦労話。青柳氏は「まず、日本でうまくいったから米国でもワークすると思ったことは、ことごとく外れた」と振り返る。ソーシャルゲームが好調だったグリー。だが同社が日本で手がけてきたゲームやそのマーケティングノウハウといった成功の体験やパターンというのがほとんど通用しなかったという。同社が米国進出した2011年といえばグリーが強かったブラウザゲームからスマートフォンにプラットフォームが変わる過渡期。さらにはビザの取得や人材採用などのさまざまな課題があり、ビジネスの違いを学ぶまで1、2年かかったそうだ。

indeed,Inc. CEO&Presidentの出木場久征氏

出木場氏はリクルートの出身で現在は同社が買収したindeedのCEOを務めている。当初indeedのファウンダー2人に出会ったのが「まるで恋だった」と、振り返る。そこで、本来(買収元である)リクルートという会社を紹介するというよりも、自身がどんなことをやってきたか、またどんなことをやりたいか。さらにファウンダーらが何をやりたいのかを話したのだそうだ。

そういった会話からはじめた結果、(ロックアップの外れる)買収後2年でファウンダーも従業員もやめることなく共に働いている状況なのだという。「『お前はどんなマジックを使ったんだ』なんて周囲に聞かれる」(出木場氏)

事業面だけでなく、そんな人材面での成功もあった一方で苦労したのは英語。出木場氏は、本人曰く「『オマエコレタベルカ』というレベル」の英語だったのだそうだ。そこで英語のレベルを上げるための勉強をするのではなく、現状の英語でどう経営できるかを考えるようになったそうだ。「『お前とはこの数字でこれをやって』と任せた(コミットメントを求めた)」(出木場氏)。

出木場氏は米国は日本以上にレポートラインを重視するとも語ったが、青柳氏もこれに同意し、さらに「部下とのワンオンワンでの会話や、『握り』が重要」と語る。ただ一方で青柳氏は、日本的なマネジメントにもチャレンジしたそうだ。買収先の会社では、約200人の社員全員との個別面談をしたこともあるという。「半年かかった。最初は非効率だとも言われたが、それによって徐々に見方が増えて、『いろいろ教えてやるよ』という人が出てきた」(青柳氏)。そして何より、成果が出ることで会社の状況が変わったそうだ。「成果が出ると(社員は)ついてくる。逆に出ないということ聞いてくれない。成果が出てからの2年は比較的楽だった」(青柳)

PARTY Creative Director/Founder 川村真司氏

川村氏のPARTYはニューヨークと日本に少数精鋭のチームを置いているが、「みんなで決めていく」ということを重視しているそうだ。特にニューヨークの拠点は設立して1年未満。マネージングパートナーといった立場でなくとも、ある程度の判断に参加してもらい「オーナーシップを作り、DNAを育てているところ」(川村氏)だそうだ。ただ川村氏本人はデザイナーであり、マネジメントに向いていないのでビジネスディレクターが必要だという意識があるとした。

リーガル、HR、バックオフィスの重要性

ここで小林氏が「仁義やリーガルといった点で何か問題があったのか」と尋ねる。

出木場氏と青柳氏は、パテントトロール(特許やライセンスを持ち、権利を侵害する企業から賠償金やライセンス料を得ようとする企業の蔑称)について触れた。出木場氏曰く「ハイパーリンクをクリックすればウェブサイトが遷移する」というレベルのパテントを持った会社を法律事務所が買収し、訴訟を起こすというようなケースが有るという。

実際に両氏も裁判を経験し、ほぼ勝ってきたという状況だそうだが、この経験を踏まえて、「うまく行ったのはHR(人材)とリーガル、バックオフィスを雇えるようになってから。それらのバイスプレジデントが揃って、やっと組織と数字に集中できるようになった」(青柳氏)そうだ。indeedについても、「7月にHRのヘッドを雇えた。CxOを採用するには、CEOが口説かないといけない。そうなるとカタコトのCEOだとめちゃくちゃ不安になるじゃないですか。それがやっとちゃんと出来るようになってきた」(出木場氏)と語る。

ピカピカ人材を獲得するコツは?

ここで会場とのQ&Aとなったが、その一部を紹介する。会場からの質問は「ピカピカの人材を採用するコツは」というもの。これに関して青柳氏は、進出した地域にコミットしていると伝えることだという。

社員数人でサンフランシスコに拠点を立ち上げたグリー。青柳氏は採用の際に「今サンフランシスコに住んでいる。成功するまで帰らないし、失敗したらクビだろう」と語って、自身が現地で「ハシゴをはずさない」ということをアピールしたそうだ。また後任となった現地のマネージャーについても出会ってから1年半かけて関係を構築したこと、周囲から「グリーに行くことがいいオポチュニティになる」と思ってもらうようにするということも重要と語った。出木場氏もローカルへのコミット、またミッションの共有なども重要だと語る。

川村氏も創業者が現地にコミットしていることは大事だとしながら、PARTYはクリエイティブエージェンシーという特殊性もあって「面白いものを作れているかどうかしか評価されない」と語った。クリエイティブ系の人材は自らが作ったものを見てPARTYに来るので、何よりもアウトプットが大事だとした。

青柳氏の折り返し地点は「2年前のサンクスギビング」

最後に小林氏は3人に世界に出る人たちへのメッセージを求めた。川村氏は「とりあえず出てから考えよう」と語る。目的があって、ノウハウも持っているからなんでやらないのかとなる。失敗したら失敗したで日本があるのだから、何よりまず飛び込んでみるべきだという。

青柳氏は、ちょうど2年前に米国で事業をいくつかやめて、社員にも辞めてもらうことになった時期を振り返る。その時期はサンクスギビングということもあり、街で先週まで社員だった人間が家族と歩いていた時に表現できない気持ちになったという。「そこが折り返し地点。そこから絶対成功してやろうとなった。最初は『まず行ってみる』ということで良かったが、買収では300億円くらい使って、社員を雇っている。そんな責任をもって今がある」。そう青柳氏は語った。

そして新ためて世界に出る意味について「マーケットは凄く大きい。こんな僕でも出来ましたというのがメッセージだ。日本の調達環境は良い、バブルとも言われるがこれをどう使うか。ここで出たアドバンテージ、キャピタルを是非グローバルに使ってもらいたい。いちボランティアとしてアドバイス、サポートしたい」(青柳氏)

出木場氏は「心意気というのは世界共通言語。『これがしたいんだ!』というのは分かり合える。『日本の良い物を世界に出す』という考え方もあるが、やっぱりネットビジネスやってるなら世界で勝負することはこの先10年考えると避けて通れない。だからやるなら早くやった方がいい」と語った。


スマニューのMAUは400万人、DAUは200万人–10媒体以上に1000万PVを誘導

ニュースアプリ「スマートニュース(SmartNews)」を毎月1回以上起動する月間アクティブユーザー(MAU)は400万人、毎日起動するデイリーアクティブユーザー(DAU)は200万人――。ダウンロード数では600万を超えるスマートニュースだが、12月1日に開催された自社イベント「SmartNews Compass 2014」で初めてアクティブユーザー数が明らかにされた。

ニュースアプリは各社、テレビCMをはじめとするキャンペーンでユーザー数が拡大しているが、アクティブユーザー数を公表するのは異例。代表取締役の鈴木健さんは、「ダウンロード数は急速に伸びているが、実際に使われなければ意味がない」と話す。さらに、ニールセンの調査を引き合いに出し、「スマートニュースはニュースアプリのMAUでナンバーワンなだけでなく、月間利用時間でも2〜4位のアプリを合計した時間を超えている」とアピールした。

鈴木さんはこのほか、特定の媒体の記事を表示する「チャンネルプラス」には60以上のメディアが参加していて、このうち10以上の媒体に月間1000万PVを誘導していることも明かした。


ペアプロの有無まで紹介するITエンジニア特化の人材サービス「Forkwell Jobs」運営のgroovesが2.2億円調達

TechCrunchで2年半前に紹介したエンジニア向けのソーシャルサービス「Forkwell」を手がけるgrooves(当時はforkwell事業のために新会社garbsを設立していたが、合併)が総額2億2000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。既存株主の日本ベンチャーキャピタルと三井住友海上キャピタルからの第三者割当増資に加え、一部は日本政策金融公庫の資本性ローンでの調達となっている。

最近では10億円前後をエクイティで調達するスタートアップも多いが、grooves代表取締役の池見幸浩氏は、「株式を希薄化しても問題ないという起業家もいるが、僕はデット(融資などの他人資本)で資金を獲得できるならそれがいいと思っている」と語っている。実際今回の調達は日本政策金融公庫の本店(3000万円超、3億円以内の案件を担当)が担当しているとのことで、億単位でデットファイナンスを実施していると見て間違いなさそうだ。

さて前述のforkwellは登録ユーザー1万人で、109万人いると言われている日本のエンジニアの1%も取れていないのでまだまだこれからというところだが、これと連携するエンジニア採用支援サービスの「Forkwell Jobs」、中小規模の人材エージェントをクラウド化(同社は「クラウド化」と呼んでいるが、「ネットワーク化」のほうが分かりやすいかもしれない)して、最適な人材の採用を効率化する中途採用支援サービスの「クラウドエージェント」が好調だそうだ。今回の調達では、各種サービス開発に向けた人材確保などを進める。

前者のForkwell Jobsは、例えばペアプログラミングをするしないといった「コード品質への取り組み」や「使用するバージョン管理ツール」「使用するプロジェクト管理ツール」などなど、その会社の開発環境をこと細かに紹介するエンジニア特化の採用支援サービス。採用する側にもエンジニアとしての高いレベルが求められることもあって、「人材募集案件の4割はお断りしている状況」(池見氏)なのだそうだ。後者は特にエンジニアに特化しているわけではないが、複数のエージェントから最適な人材を一括で探すことができるため、ユーザーのニーズは高い。金額に関しては非公開ということだったのだけれども、すでにかなりの売上を達成して事業の黒字化を達成しているそうだ。


カップル動画の投稿が人気! 動画アプリ「MixChannel」は10代女子の新しい自己表現ツール

夏休みにユーザー急増、「10代女子」に人気

YouTubeやニコニコ動画、Vine、ツイキャスなど、動画関連サービス・アプリのなかには、コンテンツに紐づくコミュニケーションから独自のコミュニティや文化を生み出すものがある。最近、筆者が注目しているのが、10秒動画コミュニティアプリ「MixChannel(以下、ミックスチャンネル)」だ。CGM型のサービスで、手持ちの写真・画像・動画・音声などを組み合わせた動画を投稿できる。2013年12月のリリース後、10代を中心に利用されている。

10月には月間2億3000万回再生を記録。ウェブとアプリを含めた月間訪問者は300万人、ダウンロード数は130万を超えるまでに成長した。動画コミュニティアプリの規模としては日本最大級だ。ユーザーの約7割が10代、女性が7割近くを占める。「10代女子」に人気のサービスであり、1回起動したユーザーの平均滞在時間が15分というのも、その人気や依存度を裏付ける。

動画再生回数は、8月から10月にかけて4倍に増加。要因は「夏休み」なのだが、この期間にTwitter上で口コミが生まれ、多数の動画がシェアされたことで、若いTwitterユーザーが利用するようになった。10代が多く利用するサービスならではの伸び方も興味深い。

ミックスチャンネルの月間動画再生回数の急伸を表したグラフ

今回、ミックスチャンネルの立ち位置や文化について、株式会社Donutsにて同サービスのプロデューサー兼エンジニアを務める福山誠氏に話を聞いた。福山氏は、グーグルを経て、ソーシャルランチを起業、同サービスをDonuts社に売却し、新事業開発にあたっている。

「全国の中・高校生が文化祭をひたすらやっている感じ」

サービスづくりのきっかけは、昨夏あたりから、アメリカで6秒動画アプリ「Vine(ヴァイン)」が流行していたことにある。福山氏はソーシャルランチの売却後(現在も運営している)、Donuts社の主軸であるモバイルゲーム以外での新規サービスづくりに向けて調べていたところ、「短い動画」というコンテンツフォーマットに可能性を感じたという。

そこで2013年8月、親しい相手と共有するクローズドな6秒動画アプリ「ともらっち!」をリリース。しかし、LINE社が短い動画にBGMを付けて送信できる「Snap Movie(スナップムービー)」機能をリリースしたことを受け、閉じたという背景がある(スナップムービーは現在、30秒以内で自由に映像を加工できる動画撮影・編集アプリとしてリリースされている)。その後、オープンな動画コミュニティアプリとして、画像や写真なども使うことができるミックスチャンネルが誕生した。

「ニコニコ動画やYouTubeのような動画サービスは独自の文化をつくってきたと思います。ミックスチャンネルの場合は、インスタントに観ることができ、画像と動画の中間のような立ち位置です。個人的には画像の拡張であり、アニメーションGIFのようなものとして捉えています」

海外の短い動画サービスは、ソーシャル志向のものが多い一方、ミックスチャンネルは、友達ではなく全国のユーザーに向けて発信する。「全国の高校で文化祭をやっている感じで、そのなかでネット的な自己表現ができることが大きな特徴です」と福山氏は語る。

MixChannelのプロデューサー兼エンジニア・福山誠氏

 

「撮影」より「コラージュ」に重点がある

ミックスチャンネルは、操作が直感的でシンプルなことが支持されている。画面の長押しで撮影、シーンの切り替えも簡単、そしてアルバムにある写真や動画を活用できる。BGMの追加やマイクを使ってのアフレコも可能なため、表現に幅が生まれる。

「ミックスチャンネルは、撮影に特化しておらず、『デコる』『コラージュする』といったことに重点があります。映像で特技を見せたり、歌うこともでき、プリクラ写真を動画にしたりと、自己表現の幅がかなり広いです。この点が、撮影することに力が入るほかの動画アプリとの大きな違いとなっています」

加えて、「ファン機能」と「リンク機能」も特徴的だ。ファン機能では、ユーザーのファンになることで、新規動画が投稿されるたびに通知が届く。これによって定期的な視聴が可能になり、リピートの促進となる。また、ファン限定の動画投稿もできるなどファンやコミュニティづくりにつながる仕組みがある。

リンク機能は、自分が投稿する動画にほかのユーザーの動画をリンクすることができるというもの。誰かの動画に影響を受けてのリメイクや誰かの動画の一部を活用したコラボレーション、そしてアフレコなどでみられる1話、2話といったシリーズものをつくる際などにリンクされる。誰の動画に影響を受けたのか、誰の動画とコラボレーションしたのか分かるため、投稿者同士のコミュニケーションも活発になる。

「アフレコ動画ではコメント欄でシナリオをつくることもあります。機能がどのように使われるのかという想定はしながらも、遊び方のルールはユーザーさんが発明し、自己表現の幅を広げてくれています」。ミックスチャンネルではわかりやすいコンセプトとして「10秒」とくくっているものの、それ以上の長い動画も投稿できるなど、いい意味で幅をもたせている。

一番人気は「カップル動画」

これらの特徴が若いユーザーにハマったことで、今年6月には「ユーザーの9割が10代」という段階もあり、いまでは月間2億回再生という数字を記録している。しかし、なぜ、ここまで10代を惹きつけているのだろうか。

もちろん、10代のユーザー獲得のために一定量のプロモーションをおこなっているが、サービス初期に新規ユーザーを引き連れてきたのは、人気の読者モデルたちだった。「女子高生に人気の大倉士門くんやこんどうようぢくんにサービスを使ってもらっていたことが、最初のうねりをつくることになりました」。

また、若いユーザーに向けたカテゴリーも理由のひとつとなっている。おもしろ、LOVE、顔出し、歌、メイク・ファッション、こえ、イラスト・こえ素材、スポーツ、before→afterメイクといったカテゴリーがあり、おもしろとカップルが2大人気カテゴリーだという。メイクカテゴリーは、女性ユーザーが多く、要望もあったため、後から追加した。非日常ではなく、隣の学校のおもしろい日常を見るエンタメ感が受けている。

上の世代にとって、LOVEカテゴリーは特に衝撃なのだが、これが嬉しい想定外だったようだ。「カップル動画がここまで流行るとは想定していませんでした。いまでは投稿数がいちばん多いカテゴリーとなっています」と語るように、カップル動画がアプリの人気に一役買っている。リリース初期の1月頃に、帰国子女のユーザーが彼氏とのイチャイチャ動画を投稿しはじめたことがきっかけだそう。

「当初はおもしろいことをやる人がちらほらいるくらいの状態だったので、最初のカップル動画の登場は衝撃的でした。それから同じようなフォーマットでのカップル動画が増えていきました」。コミュニティにカップル動画を投稿して、前向きなリアクションやそれに影響を受けた動画が投稿されるようなことは、ミックスチャンネル発の新しい若者文化とも言えるだろう。

ミックスチャンネルからテレビ出演を果たした「スマホの歌姫」

「当初は、彼氏といっしょの動画を投稿するだけでしたが、いまでは紙芝居のような質も高く、面白い動画が投稿されるほどに進化しています。動画制作などやったこともなかった女子高生がいまではiMovieを駆使してカップル動画を作る、ミックスチャンネルにアップするということもあるほどです。ファン機能やリンク機能、そしてコミュニティがあることで、いい動画をつくって公開したいという欲求がサービス内で生まれていると思います。10代の自己表現の背景にある、人気になりたい、認められたいといった欲求を受け止めることができればと思います」

ミックスチャンネルでは、タレントの活躍をはじめ、一般人でもファンが1万人以上つくことも珍しくない。人気ユーザーのMiracle Vell Magicさんは2万人以上のフォロワーがいる。「スマホの歌姫」と呼ばれ、テレビ出演も果たしているほど。女子高生の2人組の「まこみな」も10代女子に人気なユーザーだ。リリースから1年経っていないものの、アプリから生まれた才能が活躍しはじめており、全体的な傾向では、読者モデルを中心に女性が人気になっているという。

若い世代のクリエイティビティが集まるコミュニティであるため、「カップル動画コンテスト」など動画コンテストもおこなっている。また、企業の才能を発掘したいというニーズが合致する場合は、企業ともコラボレーションも実施。現在はユーザーを伸ばしている段階で、マネタイズには着手していないとのこと。今後はビジネス開発を強化するとともに、広告を中心にさまざまなマネタイズの可能性を考えているという。

年内に月間4億回再生、200万ダウンロードを目指す

ユーザー数や再生回数などが急速に伸びているミックスチャンネルだが、実は、福山氏にエンジニアとディレクターを加えた3名で運営している。Donuts社のコーポレート・スローガンには「歴史を変えたサービスのほとんどは、小さなチームから生まれている」という言葉もあるように、少数精鋭チームで大きなプロダクトを羽ばたかせようという思想がみえる。

少数チームながら、今年4月にiOS版で英語対応し、海外ユーザー獲得に向けて動き出した。しかし、実際のところは注力できておらず、まだ日本のユーザーしかいないとのこと。6月にリリースしたAndroid版も今月から英語対応する予定で、「アジア最大のスマートフォン動画投稿プラットフォーム」に向けてようやく海外展開を進めていく段階だ。アジアに焦点を当てているのは、インターネット人口が急増し、動画の広がりがまだまだ浸透しておらず、大きな市場があるからである。しかし、まだまだ中心は国内だ。

年内に月間4億回再生、200万ダウンロードを目指し、海外展開については「年内にどこかの国で流行り始めているという状態にしたい」と福山氏は語る。PC時代には動画サービスから新しいコミュニティや文化が誕生したが、スマートフォン時代にはどのようになるのだろうか楽しみだ。ミックスチャンネルから発信される若者の自己表現。その周りにはたしかに10代の求心力をもった、独特の文化圏が根づきはじめている。


オープンイノベーションの祭典「Mashup Awards10」決勝で発表された気になる6作品!

リクルートホールディングが主催する日本最大級のWebアプリ開発コンテスト「Mashup Awards」が今年も開催された。2006年からはじまったこのコンテストは今年で10回目。8月29日から10月26日までの約2カ月の応募期間中に359作品もの応募があり、その最優秀賞を決定するイベント「MashupBattle Final Stage」が11月19日に「TechCrunch Tokyo 2014」で開催された。ここでは決勝で発表された気になる6作品を紹介する。

MashupBattle FinalStage(決勝)で発表された作品

・作品名:「無人IoTラジオ Requestone (リクエストーン)」 ※最優秀賞
カフェやイベント会場でラジオのようにリクエストを受け付けながらBGMを流せるサービス

メールやTwitterなどからBGMのリクエストを受け付け、タイトルを読み上げ、YoutubeAPIから取得してきた音楽を流す無人ラジオサービス。曲のリクエストだけでなく、例えばイベントの感想などをRequestone宛に送ると、メール文面の雰囲気を言語解析し、VoiceTextAPIを活用して雰囲気に合わせた口調で読み上げ(音声垂れ流し)、雰囲気に合わせた曲をGracenoteAPIのムード情報より選曲し曲をかけることもできる。別の利用方法としては、Edisonの入っているガジェッドのセンサーが外部の環境を検知すると、それをトリガーにして緊急放送などを流すこともできる。(例:地震です。)

 

・作品名:「うまいドライブ
安全運転のためのクルマアクセサリーガジェット「ちゃぶ台デバイス」と「豆腐ちゃんモバイル」

車内に設置された「ちゃぶ台型デバイス」に豆腐をのせ運転。荒っぽい運転をするとちゃぶ台が揺れ、荒すぎると豆腐がひっくり返る。ひっくり返った場所は危険個所としてマッピングされ、メールには豆腐レシピ届く。 ただ、やはり豆腐をのせて運転するは危険なので、豆腐ちゃんモバイル(ガジェッド)を作成。 豆腐ちゃんモバイルは危険な運転をすると顔が光ったり(感情表現LED)、アロマが出たり(超音波噴霧器)する。

 

・作品名:「T☆L Perc!!
人を触って音を出すデバイス(人間楽器)

スマホとウェアラブルデバイスを使い人間パーカッションを実現した作品。Arduinoで作られている。デバイスのホスト部分を持った人が、デバイスの輪を持った人にさわると、人間に電流がとおり音が出る。輪は複数あり、それぞれで鳴る音域が変わる。鳴らす音の種類も、太鼓、ピアノなどスマホ側で変更できる。デモVTRでは女子大生がホストとなり、周りの人を触りながらドレミの歌を演奏していた。

 

・作品名:「Intempo
流れる音楽のリズムに乗って歩けば、乗りたい電車の時刻にちょうどよく到着できるアプリ
出発駅と目的駅を入力し、自動的に表示される候補から乗りたい電車を選択すると、アプリが一定距離内での歩幅や歩数を自動計算して曲を選出する。流れる音楽のテンポ通りに歩けば、出発時刻ちょうどにホームに到着する。GracenoteAPIを活用してBPMデータを取得。歩幅あたりの移動距離などのデータとBPMを照合し、曲を選出している。この作品は、「ホームでの待ち時間をなくす」「駅までの単調な道を楽しくする」という課題解決もしているのだという。

 

・作品名:「ごはんですよ!
ボタンを押すと、登録したスマホを一時的に強制ロックするガジェット

ガジェットのスイッチを押すとBLEが発信され、「ごはんですよ」という画面をスマホ側に強制的に表示し、スマホを使えなくする。電話もできないし、電源も切れないので、あきらめて食事に集中するしかないのだとか。ごはんが終わって、もう一度スイッチを押せば「ごはんですよ」状態が解除される。ガジェットにはBLEが2つ入っており、ONにするものとOFFにする使い分けをしている。NFCを使えばガジェットからスマホに簡単に設定でき、スマホがロックされている間はボタンが赤く光る。

 

・作品名:Tetris 3D Modeller
三次元テトリスをプレイするだけで3Dモデリングができるブラウザアプリ
ゲーミフィケーションではなく、ゲームをツールにした作品。 なので、3Dテトリスを楽しむだけで、5分でペン立て、2分でコースター、2秒でフォトスタンド、1秒で箸置きが作れる。テトリスなので1列揃うと消える(なのでコップは作れない)。時間制約があり、かつ取り消しはできない。微妙な隙間が作品に独特な「ワビサビ」をもたらす。GitHubでソースコードも公開中とのこと。3Dモデルをもっと身近にしたいという想いが込められた作品。

決勝では合計15作品が発表されたが、そのうちの6作品を紹介した。他の作品も気になる方はMashup Awards公式ブログを参照いただければと思う。
【決勝レポート】Mashup Battle Final Stage~全作品紹介~

 

オープンイノベーションの場としてのMashup Awards

最優秀賞を獲得した「Requestone」は、Mashup Awardsらしい特徴を2つ持っているのでその特徴をご紹介したい。

1つ目の特徴はハッカソンで作られた作品ということ。

Mashup Awards10では9つの都市で計11回のハッカソンを行ってきた。「Requestone」はインテルと共催した「インテル Edisonボード ハッカソン」で作られた作品。ハッカソンは、Mashup Awardsの原点である、「Mashupして作ってみた」を楽しんでもらう場であり、参加者が新しい仲間・API・企業と出会う場だ。しかし何よりも重要なことは、偶発的イノベーションが起こる場ということ。日頃から漠然と考えていたアイデアの種が、APIの説明や、参加者との会話などと混ざり合い、偶発的にサービスアイデアという形でアウトプットされる。人に説明するうちになんだか作りたいという欲求が湧き出て、業界調査や、競合調査もせず、ビジネスモデルや、ターゲットすら決めず、自分が面白いと思ったから作る。そんな原始的な欲求から物事をアウトプットする機会であり、作ってみたらまた違う何かを感じることのできるイノベーションの場といえる。

2つ目の特徴は、様々なAPIをMashupして作られていることだ。利用APIは、VoiceTextAPI(HOYA)、言語解析WebAPI(エクシング)、音楽メタデータAPI(グレースノート)、YouTubeAPIなど9種類に上り、それらのAPIとインテル Edisonの連携によって作られている。多くのAPIを利用する作品は少なくはないが、Requestoneは各APIを有機的に機能して組み合わされて作られていることが高く評価され、最優秀賞となった。

最近のビジネス界の旬なキーワードの1つに「オープンイノベーション」というものがある。企業内部と外部のアイデアを組み合わせることで革新的で新しい価値を創り出す、という企業活動を指す言葉だ。Mashup Awardsはオープンイノベーションと言える。自社のビジネスや技術を第三者に利用可能な状態(オープンな状態)にする、「API」を公開している企業が複数参加することで成り立っているからだ。企業は自社APIを、いろいろなエンジニアに「第三者の視点」で利用してもらう場としてMashup Awardsを活用している。

Mashup Awardsでは、企業とエンジニアが対等な立場で接する雰囲気なのも特徴だ。例えば、夜を徹して行われるハッカソン。深夜から早朝まで、参加者に寄り添い、無理難題のような質問にもできるだけ答えようとする企業担当者の姿がある。そして、参加者が受賞をすると企業の担当者も一緒に喜ぶ。参加者が作りたいものを二人三脚で取り組む。そんな共創がオープンイノベーションには必要なのではないか。Mashup Awardsでどのようなオープンイノベーションが行われているのかを知ってもらうために、今年の作品の中でMashup Awardsらしいと思う作品をいくか紹介したが、来年は、ぜひ自ら参加してみてください。


利用者は18歳未満が7割――音楽コラボアプリ「nana」がユーザー参加型動画などリアル施策を強化

先週開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2014」では、「10代がハマるサービス」をテーマにしたセッションがあった。そのセッションに登壇してくれたモイ、uuum、葵といったスタートアップのほかにも、10代の“濃い”コミュニティが形成されているサービスは存在する。

そんなサービスの1つが、nana musicの提供する音楽コミュニティアプリ「nana」だ。同社は11月26日よりユーザー参加型の音楽番組「nanaキャス」の配信を開始した。

nanaはユーザーがスマホで録音した音声や演奏に、他のユーザーが更に音声や演奏を重ねて音楽コラボレーションを実現するスマートフォンアプリだ。例えば1人のユーザーがある楽曲のギター演奏を録音してアップすれば、それを聞いた他のユーザーがピアノ、ドラムといった演奏や、歌声と重ねてコラボレーションした音楽をアップロードしていくことができる。

ユーザーの7割が18歳以下

2012年11月にサービスを正式リリースしたが、現在の累計ダウンロード数は60万件以上。これまでの累計楽曲投稿数は300万曲、現在では毎日1万曲以上の楽曲が投稿されているという。年齢別にユーザーの割合を見ると18歳以下が約70%で、1人あたりの月間平均滞在時間は5時間、しかも上位5%のユーザーに限定すると64時間という数字になるのだそうだ。

MAUなどは公開されていないため、実際の規模についてはなんとも言えないところがあるが(歌や演奏ということで投稿のハードルも高そうだし)、10代を中心とした密なコミュニティが形成されていることは間違いない。nana music代表取締役社長の文原明臣氏いわく、「(アニメやゲームソング、ボーカロイド楽曲などのカバーを指す)『歌ってみた』をやりたくても、実はPCを持っていないという10代は少なくない。そんな人たちでもスマートフォンがあれば投稿できることもあって利用されているようだ」とのこと。

サービス内でのコミュニケーションも活発で、1つの投稿に対して200件以上のコメントが付くような投稿者もいるという。

ちなみにユーザーの海外比率も決して小さくない。日本のユーザーは全体の65%となっており、米国、タイがそれぞれ全体の6%、さらにベトナムやロシア、トルコなどにユーザーがいる。世界各国、数十人でコラボレーションした「We are the world」なども投稿されている。

番組配信たリアルイベントでユーザーの目標を作る

nanaキャスではそんなnanaのユーザーが登場し、カバー曲の演奏や、オリジナル楽曲の製作といったコラボレーションをリアルな場で行う。配信は月1〜2回、モイの「ツイキャス」、YouTubeの「YouTube Live」で視聴できる。11月26日に第0回となる試験配信を実施。第1回の配信は12月21日午後5時からを予定している。

また、これまで2回開催したオフラインミーティング「nanaフェス」を2015年夏に開催する。第1回は100人、第2回は200人規模での開催となったが、第3回は2000人規模のイベントを目指すそうだ(すでに会場も決まっているらしい)。さらに2016年夏には武道館を貸し切り、1万人規模のイベントを開催したいと語る。

なぜnanaはリアルイベントにこだわるのか? 文原氏はこのサービスで「音楽仲間に出会えて居心地いいコミュニティ」を実現したいとする一方、現状はユーザーのゴール、目標となるステージが存在していないと考えているそうだ。そこで、ユーザー同士がリアルな場所でセッションできる――しかもほかのユーザーも見る番組や、武道館のような大きな舞台で――という「目標」を作ってあげたいのだと説明する。

冒頭にあったTechCrunch Tokyoのセッションに登壇してくれたモイのツイキャス、uuumがマネジメントするYouTuberなどはすでにネットサービスの枠を超えて活躍する人々を排出しているが(もっと遡るとニコニコ動画からだってそうだ)、nanaからもネット発のアーティストが生まれるのかもしれない。

マネタイズは2015年以降に

このサービスが10代を中心にした濃いコミュニティを作っているという話は分かったのだけれど、気になるのはマネタイズだ。nanaはこれまで企業とのコラボレーション企画なども実施しているが、文原氏は黒字化を達成していないと説明する。今後同社ではプレミアム会員向けの課金、ギフトサービス、タイアップ広告を展開するという。

まずスマホアプリを12月4日にリニューアルする予定だが、ここにプレミアム会員向けの機能を導入する。これと並行してタイアップ広告を2015年から展開するという。例えば音楽アーティストの公式提供楽曲を使ってのコンテストなどを行うといったことを検討しているそうだ。ギフトサービスについては詳細や提供時期は明らかにされなかった。


ドローン市場の先駆者Parrot、ブレイクのきっかけは音声処理だった


スタートアップ業界に関する日本最大のイベント「TechCrunch Tokyo 2014」では、多数のプログラムが開催された。テックトレンドのセッションの中で注目されたのが、無人飛行デバイス、いわゆるドローンについての講演。

現在注目の市場であるドローンは本誌でも連日記事が登場しているが、今回は開催前の予告記事でも紹介されたように、ドローン市場の先駆者であり、代表的メーカーであるParrotから、JPAC地域担当バイス・プレジデント兼マネージング・ディレクターのクリス・ロバーツ(Chris Roberts)氏が登壇。これまで日本ではあまり知られていなかった、同社がドローンに参入した意外なきっかけやドローンの可能性に関して語った。

音声処理から出発し、Bluetooth機器、そしてドローンへ

Chris氏はまず、同社の沿革とともに、なぜドローンを手がけたのかを紹介。パリに本社を構えるParrotは、もともと音声を中心としたデジタル信号処理を手がけるメーカーとして出発。90年代前半にBluetooth製品を手がけたことで、音声処理とも関わりが深いオーディオやマルチメディア系の製品、そして自動車関連機器に手を広げる。

とくに自動車関連機器では、同社が得意とする音声処理とBluetoothを活かしたハンズフリー技術を使った機器で支持を得て、多くのOEM先を獲得した。

現在Parrotの事業は大きく分けて3ライン(上図参照)となっており、1つがこの自動車関連機器という。残りの2ラインは、コンシューマー用のBluetooth接続オーディオ機器や、スマートフォン用ヘッドセットが1つ。これを同社は「Connected Objects」と表現している。

ここでChris氏は、Connected Objects分野での最新製品として、ノイズキャンセリング搭載Bluetoothヘッドフォン「Zik 2.0」と、Wireless Plant Monitorとジャンル名の付いた新製品「Flower Power」を紹介。後者は植物の脇に刺し、太陽光量や外気温、肥料濃度、土の湿度をモニターできる。つまり園芸に関連した機器となるわけだが、これは同社にとっても新ジャンルであり、大きく期待していると紹介した。

「ドローンはBluetoothで何が繋がるか、という発想から生まれた」

そして最後の1ラインがドローンとなる。ここでまずは「なぜドローンをビジネスとして手がけようと思ったか?」という点から紹介。「弊社のビジネスにおいて、ドローンは他のジャンルとの繋がりがないのでは? と言われるが、実はテクノロジーでは繋がっている」とChris氏は語る。とくに大きなトピックはBluetoothレシーバーの小型化。つまり同社にとってドローンはBluetoothで繋がる機器としての位置づけがあったという。「Bluetoothでどんなものが繋がるか、インスピレーションした結果だ」。

続けてそうした取り組みを証明するかのように、2005年に社内で開発していたというBluetooth接続のカメラ搭載ラジコンカー、プロジェクト名「BTT」(Bluetooth Toyの略)の試作機を紹介。Chris氏は当時、Parrot創業者のHenri Seydoux氏に「これは車だが、いつか飛ばしてみせる」と紹介されたという。つまり、当時からドローンの構想はできており、テクノロジーが整うのを待っていたということだ。

本格的な開発は2006年に決定したが、当時は社内でも、非常にクレイジーな計画と思われたとChris氏。実は当時の視点では、本体よりもむしろ手頃なコントロールデバイスがないほうが問題だったという。Bluetooth接続機器はヘッドセットやフィーチャーフォンが主流だったためだ。「しかし、2007年にiPhoneが登場し、続いてiOSアプリの開発が可能になった。突然イネーブラーとなりうる技術が登場した」。

ここから3年間の紆余曲折があったが、同社は2010年に初代「AR.Drone」を発売。開発にあたっては、安定した飛行で有利なクアッドコプター形状としながらも、さらに安定性を重視。「14歳の女性でも安定して飛ばせることを目標に、私たちのDSP技術をドローンの姿勢制御に応用した。OSにはLinuxを用いており、ファームウェアと合わせた機体制御には我々ならではのノウハウが多数盛り込まれている」と紹介した。

ここで実際に壇上で、現行製品であるAR.Drone 2.0をデモ飛行。機体自体を垂直方向に数回転させるアクロバット飛行テクニック「Flip」を含めて所狭しと壇上を飛行させ、実際の安定性を印象づけた。

プロ用ドローンの市場は順調に拡大

続けて、AR.Droneより小型となるクアッドコプタータイプの新製品「Rolling Spider」と、ジャンプ可能な走行型ドローン「Jumping Sumo」、さらに年末発売予定となるAR.Droneの第3世代「BEBOP Drone」を紹介。

前者2モデルはすでに発売しているが、BEBOPは未発売の製品。180度という超広角撮影が可能で、かつ3軸の角度制御が可能、さらにブレ補正も強力になったカメラをはじめ、Wi-Fiによる接続とオプションの専用コントローラーやVRヘッドセットへの対応などを「従来機に比べても大きく進化している。私たち自身も楽しみにしている製品」とアピールした。

続いて、プロ用ドローンの市場について紹介。農業分野や鉱山調査をはじめとする広大な土地状態の目視検査や、3Dマッピングによる地図データ製作といった精密測量用途での需要が増している点を強調した。

同社が買収したプロ用ドローンメーカー、Senseflyの次世代製品「eXom」についても紹介。eXomは高度な超音波センサーを備えたことで精密な障害物測定が可能となり、狭い箇所や複雑な地形下での飛行安定性が向上。さらにカメラの画質も向上しているという。

最後にChris氏は「時間が数分ありますので、BEBOP Droneのデモ飛行をお見せしましょう。日本では初めてです」と発言し、試作機のフライトを披露して観客を再び沸かせ、セッションはクローズ。「ハイテクとは楽しめるものでなければならない」(Chris氏)というParrotの姿勢が強く打ち出されたセッションとなった。


「資金はすべて米国にぶっこむ。日本には残さない」–メルカリとスマニュー、海外でどう戦うか

これまで多くのスタートアップが海外展開に挑戦してきたものの、そのほとんどは失敗に終わっている。しかし今年はスマートニュース米App Storeで1位を獲得するなど明るいニュースもあった。

先日のイベント「TechCrunch Tokyo 2014」では、そのスマートニュースに加え、日本で600万ダウンロードを超えたフリマアプリ「メルカリ」、すでに海外ユーザーを多く抱える対戦脳トレアプリ「BrainWars」からキーパーソンを集め、「世界で勝負できるプロダクトの作り方とは?」と題しディスカッションした。

モデレーターを務めたのはTechCrunch Japan編集部の増田覚。冒頭で、「そろそろメジャーリーグで日本人選手の先駆けとなった野茂英雄のような存在が、日本のスタートアップ業界にも必要なのではないか?」と問いかけた。果たして、この3社が野茂となるだろうか。まずはそれぞれの海外展開の現状について整理しよう。

米国で10月リリース、いきなり1位になったスマニュー

スマートニュースについて紹介したのは、共同創業者で代表取締役を務める鈴木健氏。同アプリは2年前にリリースされた。機械学習と人工知能でネット上の情報を集めてきて、快適に読んでもらおうというアプリだ。

リリースから25カ月で500万ダウンロードを突破した。UIに多少の変更を加えて10月に米国でリリース。米国のAppStoreのニュース部門では見事1位を獲得した。多くのメディアに取り上げられ、レビューも好評とのことだ。

メルカリ、来年は欧州市場も

メルカリはスマホから簡単に出品・購入ができるフリマアプリで、去年の7月にリリース。取締役の小泉文明氏によれば、ダウンロード数は600万を突破し、月間数十億の売買が発生しているという。出品数は1日10万品目に上る。テレビCMも効果が出ているそうだ。

今年3月に14.5億円を調達してサンフランシスコにオフィスを開設した。米国では今年9月にアプリをローンチ。カテゴリでひと桁台の順位につけているという。「来年はヨーロッパにも進出したい」と小泉氏は語る。

BrainWarsは驚異の海外比率95%!

トランスリミットは1月に設立したばかり。1つ目の製品が「BrainWars」という対戦型脳トレゲームアプリだ。友達と対戦しながら頭を使うゲーム遊ぶと、自分の得意・不得意分野が分析される。現在、16種類のゲームが用意されており、アップデートごとに2〜3のゲームが追加される。米App Storeのゲーム部門で1位を獲得し、アプリは700万ダウンロードを突破している。友人間のクチコミで伸びており、ここまで広告費を一切払ったことがないそうだ。

もう1つの特徴は海外比率の大きさだ。国内のユーザーはわずか4.6%にすぎない。残りの95.4%が海外からのアクセスで、米国と中国が多いものの、「その他」が22.7%とかなり細分化されている。合計150カ国以上で使われているという。代表取締役の高場大樹氏は「ゲームをしていると普通に外国人とあたる。言葉の壁がなく遊べる。同じ脳トレをやっているので頭脳のオリンピックみたいになる」と語った。

海外展開に向けてUIは変更「日本向けはごちゃっとしている」

リリース時から海外を意識し、すでに海外ユーザーが多いBrainWarsは別として、スマートニュースとメルカリは米国に進出する際に、何らかのUIを調整した模様だ。「グローバルに通用するのはどんなUIなのか」というお題に対して、それぞれ興味深い答えが帰ってきた。

スマートニュースの鈴木氏は、「もともと海外を意識しており、普遍性のあるアプリに仕立てていた」と言う。ただし、言語やUIは日本向けに作っていた。例えば日本人向けに少々ごちゃっとしたデザインにしていたが、米国でユーザビリティテストした結果、変更する必要性に気づいたそうだ。「米Flipboardのデザイナーがアドバイザーになってくれて、どういうデザインにしたらいいか議論してリリースした。まずまずUSのユーザーにとっても使いやすいと評判のものに仕上がった」と振り返った。

メルカリの小泉氏もほぼ同じようなことを語った。「UIについては初期のメルカリはすごくごてごてしていて、日本ぽく、東アジアっぽかった。それが日本にウケていたけど、9月に米国でローンチするにあたって、ちょっとださいと感じた。かなり大胆に米国に適応させ、日本を無視したデザインにした」という。すでに日本版も米国版と同じUIになっている。日本人ユーザーが離れていかないか心配だが、「普段、TwitterとかFacebookとかInstagramとか米国製アプリが日本で使われているので付いてこれると思っている」とのことだ。

小泉氏はさらに、「実はGoogleやAppleがアドバイスしてくれる。ここは直した方がいいよって。それを参考にした」とも打ち明けた。意外と細やかなサポートがあるようだ。

米国は世界への近道、初めに押さえないと勝てない

そもそも、なんで最初に米国なのだろうか。アジアという選択肢はないのか? それに対する小泉氏の答えは以下のようなものだ。

「メルカリはC to Cのプラットフォームなので、1社しか独占できない。必ず“Winner takes all”になる。英語圏で他社にシェアを取られたら、そこで終わり。もう勝てない。だから米国に行った。SonyやHONDAも米国で認識されてグローバル企業になった。ヤフオクとeBayを見ても、米国の方が数倍規模が大きい。日本を捨ててでも米国を取るべき。英語圏をとったら世界で勝てる、逆にそこを取れないと厳しい」。

一方で鈴木氏は個人的に米国に行きたかったそうだ。「向こうに行くとテンションが上がる(笑)」と嬉しそうに話す。「十何年か前に行ったときは感激した。いつか米国市場に挑戦したいと思っていた。でも気持ちだけでは会社を動かせない。グローバルに進出するときに米国を通るのは、難しいけど近道。ニュース分野では基本的に世界中の人が米国のニュースを見ている。米国のパブリッシャーとユーザーに愛されるものを作ろうと、会社で説明して、幸運にもうまくいった」。

それぞれ根本の動機は違うものの、世界で勝つには米国市場を押さえなければいけない、という意見は一致している。

ゲームの最高ランクを「神」にしたら大問題に

日米でユーザーの反応に違いはあるのか。BrainWarsの場合は興味深い差異が見られたという。2人で対戦する前と後にスタンプでコミュニケーションをとれるようになっているが、その使い方に違いがある。

「日本人は負けた時、涙マークとかのスタンプだけど、欧米人はグッジョブ!みたいなスタンプを送る。日本は対戦前に笑顔マークを使うが、米国の人はハートマークとか」と高場氏は説明した。

また同氏が、海外展開を試みて初めて直面した意外な問題点もあった。「ゲームの中に『グレード』という称号がある。ヒヨコ、うさぎ、亀とランクが上がっていく。そして最後は神。日本人はAKBに神セブンと名づけたり、神技という言葉があったり、『すごい』っという意味で使う。そうしたらヨーロッパのユーザーから『神への冒涜だ!』と叱られて即刻、取り下げた(笑) 世界の事情をちゃんと知らないといけない。何もかも準備するのは難しいので、問題が起きたらすぐ対処できるようにしている」(高場氏)

米国でオフラインモードはいる? いらない?

小泉氏は基本的に、初期の日本人ユーザーの動きと違いはないと分析した。ただし、ひとつ変わっていたのが「招待インセンティブ」への態度だという。友だちを招待したら◯◯ポイントをプレゼントするというものだが、米国人はこれが思いのほか好きなのだとか。「普通にTwitterとかFacebookとかで紹介してくれる。ユーザー獲得のところは良い意味で驚きが多かった」と振り返る。

鈴木氏も「思ったより反応が良かった」とポジティブな感想を持っている。「米国は車社会だからオフラインモードとかいらないのでは? それよりラジオみたいな音声読み上げじゃないの? とかいろいろ言われていた。でもやっぱり米国はネット回線の環境が悪いのでオフラインモードは受け入れられた」と語る。

ニュースをめぐる環境に違いがあるとすれば、米国の方が「ニュースソースに対するブランド感が強い」ということだそうだ。「だから米国はニュースアグリゲーションよりもCNNなどのパブリッシャーの方が強い。しかしパブリッシャーは日本よりも寛容。米国ではFlipBoardがすでに切り拓いていた。僕らはパブリッシャーフレンドリーなサービスで、スマートモードで発生する収益はすべてメディアに渡す。『まじで?すごいな!』となった」(鈴木氏)

「でも日本ではリリース当初、怒られていましたよね」と増田記者が突っ込むと、鈴木氏も認めた。「2年前にアプリを出した時、僕と浜本だけで、まともにパブリッシャーと話ができていなかった。そこで元アイティメディアの会長・藤村さんに入ってもらって、スマートニュースについて説明してもらって、どんどんいい関係を作っていけた」

海外展開の際は「最初の1人をどう選ぶか」が大事

組織の話になってきた。海外展開に向けて、各社とも組織づくりで意識したことはあったのだろうか。

小泉氏は「最初の1人をどう選ぶか」にかなりこだわったという。「時間はかかるが、最初の数人を間違わないで選ぶこと。いきなり100人とかとるわけじゃない。1人目が重要。それによって次の人も決まる。メルカリは米国でかなり知名度がある人にアドバイザーになってもらった。人づてで会ってもらい、プロダクトを見せると、『クールだ。ぜひ一緒にやりたい』と言ってもらった。いま20人以上にまでなった」

ちなみに現在メルカリの米国オフィスを率いるのは取締役の石塚亮氏。中学時代から米国に留学し、大学卒業後そのままRockYouというソーシャルアプリ会社をシリコンバレーで創業した経験を持つ。創業者の山田進太郎氏が、米国進出を見据えて誘った人物だ。その彼が半ば片道切符で米国を開拓しているという。

「銀河系軍団」を目指すスマニュー、空中分解しないための工夫

スマートニュースはチーム作りのロールモデルが2つあると、鈴木氏は言う。1つはGoogle。そこはなんとなく想像できるが、もう1つはスペインリーグのサッカーチーム「FCバルセロナ」だそうだ。どういうことだろうか?

「僕らのチームつくりのテーマは“日本代表から世界選抜へ”。世界で戦うにあたっては世界選抜が必要で、世界トップの人材を集めたい。あらゆる分野でそういう人材を入れたい。米国は現在サンフランシスコが4人、ニューヨークが2人だが、もっと拡張してグローバルのヘッドクオーターを米国に作る」(鈴木氏)。

“米国における藤村氏”も見つかったという。要はパブリッシャーとの交渉役である。「春に出張したときにRich Jaroslovskyさんと会った。彼はもともとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)で政治記者だった。レーガン大統領とともに来日して昭和天皇に会ったこともある。WSJのマルチメディアの立ち上げにも関わった。そんな彼が米スマートニュースでパブリッシャー担当となっている」と胸を張った。

「でも、銀河系軍団は失敗しがちじゃないですか?」という問いに対して、鈴木氏は自信を持って答えた。「採用を決めたら、日本に2週間くらい滞在してもらう。すごく仲良くなる。あと面接のフローも僕らは相当長い。しっかりとコミュニケーションを取っているので、離職率はいまのところゼロ%です」

スマートニュースの知名度は米国ではまだ低い。なぜ採れるのか? と不思議に思えてくるが、鈴木氏によれば、「米国人は知名度だけで選ばない。プロダクトとビジョンとチームにどれだけ惹かれるか」だそうだ。プロダクトに惚れさせれば、意外な大物を一本釣りできる可能性もあるらしい。

一方でトランスリミットは他の2社とは違い、海外拠点を作らない方針だ。高場氏は「アプリデベロッパーとして世界展開するので、日本1カ国を拠点として多国籍のチームを作りたい。米国で拠点を作らないのかと聞かれるが、まだ日本に7人のチーム。いま米国に作って、管理工数を取られ、マネージメントとかでスピードが落ちるより、日本で地盤を作って海外にはマーケティング機能を置く方がいい」と語る。

アングリーバードなどは1つの国で作ったものをマーケティングで世界に広げた好例だという。「不可能ではないと思ってやっている」と高場氏。

米国は大きなチャンス、「すべてをぶっこむ」

最後の質問は「ぶっちゃけ海外にどれだけ使いました?」というもの。

小泉氏の答えはとても明確だ。「(10月に)調達した24億円は基本的に米国版を立ち上げるための資金。日本でもCMとかでお金は使っていますけど、基本的にはすべて米国にぶっこもうと思っています。日本に残す必要はない。米国を制することができなければメルカリはもう無理だという気持ちで、全部使う」と話した。

12月以降にようやく収益が上がりはじめるスマートニュースも、それらの投下先はグローバル市場だという。鈴木氏は「世界人口の半分がスマホを使う。新聞読む人は減っていき、『初めてニュースを読むのはスマホ』という人が数十億人規模で生まれる。そこに全力で挑戦して、世界中の人たちに使ってもらえるサービスを作りたい」と展望を語った。


予算ゼロでNewsPicksを開発! TC Tokyo 2014で「CTOオブ・ザ・イヤー」が決定

「予算ゼロで新プロダクトを開発」「エンジニアのハイブリッド化で売上倍増」「本番環境をフルスクラッチで整備」――。こんな無理難題とも思えるようなミッションを解決したスタートアップのCTOたちが、11月18日に開催したTechCrunch Tokyo 2014の「TechCrunch Tokyo CTO Night powered by AWS」で、最もイケてるCTOを決める「CTOオブ・ザ・イヤー」の称号を競い合った。審査基準は「技術によるビジネスへの貢献度」。全9社(9人)のCTOが登壇してピッチを行い、「CTOオブ・ザ・イヤー」に選ばれたのは、株式会社ユーザーベース(SPEEDA/NewsPicks)の竹内秀行さんだった。

 

スタートアップ9社のCTOが登壇

登壇したCTOは、来年さらに飛躍が期待される9社9名で、以下の通りだ。

  • Beatrobo, Inc.(PlugAir) 竹井英行CTO
  • freee株式会社(freee) 横路隆CTO
  • Tokyo Otaku Mode Inc.(Tokyo Otaku Mode) 関根雅史CTO
  • ヴァズ株式会社(SnapDish) 清田史和CTO
  • 株式会社オモロキ(ボケて) 和田裕介CTO
  • 株式会社Moff(Moff Band) 米坂元宏CTO
  • 株式会社ユーザベース(SPEEDANewsPicks) 竹内秀行CTO
  • 株式会社エウレカ(pairs) 石橋準也CTO
  • 株式会社DoBoken(ZenClerk) 磯部有司CTO

登壇した9名のCTOを審査するのは、豊富な知見を持つ6名の審査員でありCTO。真剣に、時に笑いながら登壇者のプレゼンに耳を傾けていた。

  • グリー 藤本真樹CTO
  • クックパッド 舘野祐一CTO
  • ビズリーチ 竹内真CTO
  • はてな 田中慎司CTO
  • サイバーエージェント 佐藤真人CTO
  • アマゾンデータサービスジャパン 技術本部長 玉川憲氏

 

多様性のない組織は進化が止まる。CTOの仕事におけるテーマは「多様性の創出」

ユーザーベースの竹内秀行CTOは「とあるCTOのスタートアップ切り込み隊長日誌」と題したプレゼンを披露。

同社は、2009年1月にローンチした企業・業界分析プラットフォーム「SPEEDA」と、2013年7月にローンチした経済ニュース「NewsPicks」の2サービスを展開している。特にSPEEDAは全世界100万社超、550業界のデータを管理・提供しており、CTOが解決しなければならない技術的課題は大きい。

もちろん、サービスの技術的改善、エンジニアのスキル向上、健全な組織を作るための施策も検討・実行しなければならない。竹内CTOはそれを「ビジネスにおける多様性、技術における多様性、チームにおける多様性」の3つの多様性で表現した。

「多様性」を生み出すためにどのようなアプローチをしたのか。

技術面ではSPEEDAのシステムを再構築してMySQLベースからElasticsearchに乗り換えた。その結果パフォーマンスが大幅に向上、フィールド数10万を超えるデータベースにおいて複雑な条件でも100ms以下で検索完了、集計は1〜2秒で完了する変化を実現した。企業・M&A情報を複雑な条件でも素早く抽出できるようになったことで情報の提供先企業が増え、会社がビジネスとして取れる「選択肢」も広がった。新サービスに向ける余力が生まれたのである。

新サービスに向ける余力が生まれた同社。ある日、竹内CTOは代表取締役梅田優祐氏に呼ばれて「気軽に専門家の意見が聞けるサービスを作りたい」というオーダーを与えられた。「予算はゼロ」と言われて竹内CTOは絶句したそうだ。それが最近キュレーション系メディアとして存在感をましているNewsPicksの始まりだったと当時を振り返る。

開発に着手したのは2013年2月からローンチした7月までの5カ月間、彼は一人でAPI設計構築・バックエンド設計構築などサーバサイド全般を担当。その半年後に別のエンジニアが入社して業務を引き継ぎ、同時にチームにおける多様性も達成した。

スタートアップは時にシングルサービス・シングルプロダクトからなる多様性のなさで競合との戦いに疲弊することもある。逆に自分たちのキャパを超えてサービスやビジネスの拡張・複数化を進めて多様性で失敗することもある。そのどちらにも属さない多様性を追求できる可能性を感じるプレゼンとなった。

 

ハイブリットエンジニアで月間売上倍増

以降は特に印象に残ったCTO達を紹介していこう。

まずは株式会社エウレカの石橋準也CTOだ。マッチングサービス「pairs」やアプリ探しサービス「Pickie」などを運営する同社だが、大きく分けて3つの問題を抱えていたと語る。急激な成長を遂げたスタートアップの成長痛とも言える「社内のリソース不足」、担当業務に専属意識を持ちすぎるため、社内連携不足となるがゆえの「バグの頻発」、そして「責任感の欠如」だ。

それを解決したのが「全エンジニアのハイブリッド化」だった。

石橋CTOが定義するハイブリッドエンジニアとは、サーバサイド、ウェブ・フロントエンド、ネイティブ・フロントエンドの3側面を全て担当できるエンジニアのこと。通常のインターネットサービスは、データベースやネットワーク回りなどのサーバサイド、ウェブUIを含むユーザーの目に見える部分のウェブ・フロントエンドなどそれぞれでエンジニアが専属担当する。

同社の場合、従来はサーバサイド、iOS、Androidの3分野で専属エンジニアが業務を行っていたが、それを一貫して担当できるエンジニアを育てるという取り組みである。

石橋CTOは自身が「非ハイブリッドエンジニアだった」と語る。iOSとAndroidに関する知識がなかったため、ゴールデンウィークの時間を使って1カ月ほどで知識を習得した。その後、ノウハウを得た石橋CTOはエンジニア合宿を実施。エンジニアに普段担当していない分野をアサインし、分からないことを教えあう形式を採用した。現在では所属エンジニアの半数がハイブリッド化している。

ハイブリッド化の成果リソース不足の解消、生産性の向上、バグチケットの起票率2分の1、問い合わせの数2分の1、新規施策の実行3.5倍など明確に現れた。

また、生産性も向上した。1つの機能をリリースしようとすると分業担当制の場合、その担当者が多忙で対応できないとその段階で開発が止まってしまう。だが、分業せずハイブリッドエンジニアが一貫して担当すれば他者に影響を受けることがない。もちろん全てを担当するエンジニアには業務効率の向上が必須だが、その姿を見た他の社員は自然と刺激も受け、今後も良い業務環境が続くだろう。

 

本番環境をフルスクラッチで整備。急激なトラフィック増に対応して成長した「全員ダブルワーク」体制の力

「事故からはじまるスケールチャンス」と興味深いタイトルのプレゼンを披露したのは、株式会社オモロキの和田祐介CTO。今やバズるネタ元には高確率でbokete(ボケて)の存在が見えるまでに成長した、ユーザー投稿型サイトである。お題となる1枚画にユーザーが好きなコメントを付けていくスタイルを採用したシンプルなサービスだ。

順風満帆に見える同社だが、サービス開始当初の2008年9月から4年間ヒットに恵まれずに細々と運営されていた。しかし、2012年5月突然サーバからのアラートが発生。蓋をあけると事故ではなく、平穏運営の間に蓄積されていた投稿コンテンツがまとめられ、そのまとめが人気を呼んだことによる急激なトラフィック増だった。

対応に追われる和田CTO。4年前にリリースしたサービスは細かなメンテナンスを施してはいたが、2012年段階の最新技術は取り入れておらず、同時に提供しているアプリが本番環境でしか動かないという致命的な問題も抱えていた。

そこで、システムをフルスクラッチで再構築することを決意した。これは本番稼働しているサービスの仕組みをイチから作り直すわけだから、大きな決断である。失敗したり作業が遅れれば、サービスは停止・遅延するなどの問題が発生する可能性がある。だが、無事にシステムへの移行を成功させ、順調にアクセス数は増加していった。

すると次はマネタイズ必要性が出てきた。オモロキは創立当初、和田CTOと代表の鎌田武俊氏の2名体制であり、お互い本業を抱えたいわゆるダブルワークのプロジェクトだった。そこで仲間探しをするのと同時に、不得手なことを外部のパートナーに委ねるという戦略を採用したのである。

現在も同社代表の鎌田氏は熱海在住だし、和田CTOは父の和田正則さんと2人と立ち上げた株式会社ワディットの代表取締役でもある。集まったメンバーは社員ではなく役員で、全員が本業を持つダブルワーカーだ。定期的に熱海の同社オフィスに集合して外の経験を活かし、オモロキの仕事をする形式を取っている。

質疑応答で「CTOとしてオモロキでしたいことは何か?」と聞かれた和田CTO。「メンバー全員でビジョンを共有している、アフリカのタンザニアでbokete(ボケて)を展開するというような世界展開を実現したい」と語り、まとめとした。

CTOオブ・ザ・イヤーの意味とスタートアップにおけるCTOの存在

CTO Nightは日頃の成果をたたえ合うことが目的であり、優劣を付ける場ではない。自社のため、仲間のため、そしてユーザーのために考え実行してきた業務を共有し、先輩CTOからのコメントを受けて、新しいヒントが得られる場となったようだ。


頭脳を得たロボット、もたらすのは「産業の革新」か「脅威」か

編集部注:この原稿は経営共創基盤(IGPI) パートナー・マネージングディレクターでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏による寄稿だ。塩野氏はこれまで、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア、自身での起業を通じて、国内外の事業開発やM&Aアドバイザリー、資金調達、ベンチャー企業投資に従事。テクノロジーセクターを中心に企業への戦略アドバイスを実施してきた。そんな塩野氏に、遺伝子人工知能、ロボットをテーマにした近未来予測をしてもらった。第2回目の本稿では、国内でも様々な分野で話題の人工知能について解説してもらう。なお塩野氏は東京大学の松尾豊准教授と共著で「東大准教授に教わる『人工知能って、そんなことまでできるんですか?』」を出版している。

街路樹も色づき木の葉を落とす季節になってきた。人間なら落ち葉に何かを感じるかも知れないが、ロボットはそれをどう感じているのだろう?

80年代のロボット映画「ショートサーキット」では、ロボットがスープをこぼしたシミを見て、最初は「水、塩、グルタミン酸ナトリウム」とその成分について言うが、そのうちにシミが「植物のカエデの形に見える」と言いだした。ロボットが人間のように「気づき」を獲得したシーンだ。前回、人工知能は人間の「気づき」を模倣出来るかと書いたが、今回は「人工知能が物理的な出力を持った状態」ともいえるロボットについての話をしたい。

そもそロボットとは何か? ロボットの定義は難しく、人型から猫型、クモ型まで幅広いが、ここでは「人間の代替として自律的に動作を行う機械」と定義してみよう。最近ではソフトバンクのPepperが「会いに行けるロボット」として登場したことも記憶に新しい。

Pepperは人型ロボットだが、ロボットの形はヒューマノイド(人型)と決まっているわけではない、東京工業大学広瀬・福島研究室の開発した四足歩行ロボット「TITAN」は「ザトウグモ」を模して作られているし、米国で内視鏡手術の為につくられた「Da Vinci(ダ・ヴィンチ)」はまさに人間の手の代わりとなるロボットアームである。ダ・ヴィンチは動作倍率を縮小することが可能であり、操作する人間側は患部を拡大して確認しながら、ロボットアーム側では動作を縮小して作業を行うことが出来る。YouTubeではダ・ヴィンチを使って折り紙の鶴を折る様子を見ることができる。

ロボットアームは人間の手の延長だが、自律的な動作をするロボットの仕組みは、簡単に言えばセンサーで周辺環境を認識し、コンピュータでセンサーの情報を処理し、制御によって目的となる動作を出力するということになる。このコンピュータの部分は人間が動作を予め設計しておくプログラムと、人工知能によってアルゴリズムが自律的にフィードバックを行い、学習していく2つがある。Pepperには人工知能が搭載されているし、前回の記事でもあったように人工知能はディープラーニングの進展等によって新しい段階を迎えている。つまりロボットの頭脳に革新が起こっているのだ。

ロボットの頭脳の開発を進めている企業、つまりソフトウェア陣営からロボットにアプローチをしているのがシリコンバレーのいつもの顔、Googleだ。Googleは東大発のベンチャーでヒューマノイドロボットを開発したSCHAFTを買収し、MITとも関係の深い米国のロボット企業Redwood Robotics、DARPA(米国国防高等研究計画局)との協力による「BigDog」という4足歩行ロボットで有名なBoston Dynamics、ドローン(無人飛行機)開発のTitan Aerospaceも買収している。Titanは過去にFacebookが買収交渉しているとも報じられた企業だ。グーグルが約3200億円で買収したNest Labはサーモスタット(室内温度調節器)の会社だが、センサーで情報を集め、アルゴリズムで処理し、空調を制御しているという意味ではロボットと言えるだろう。

家庭に入ってくるロボットは人型とは限らない。マーケットでは高値買いの声も聞かれるが、約6兆円の現金を持つグーグルであればこの領域にベットしておくことは高くはないのかも知れない。

グーグルは人工知能の研究開発を行っているDeepMind Technologiesを買収
しているが、こうした動きに関わらず、人工知能とロボットの融合は進むだろう。人工知能の行く末は「人間らしさの追求」というよりは、「人間には理由が理解できないが、その人工知能が下す予測がいつも正しい」といった姿だ。

一方、人間と同じ形をしていなくても旧来からのFA(ファクトリーオートメーション)の現場で溶接や塗装などをしていた産業用ロボットが活躍している。こうしたロボットはプログラムされた単純作業だけでなく、複数の作業に対応したものへと進化している。この分野では日本は非常に進んでおり、ソフトウェアやアルゴリズムで完結する世界から、熱と摩擦の発生する物理的なロボットの世界になれば日本に一日の長がある。日本は産業用ロボットの稼働率において世界一であり、自動車・電機といった産業向け開発で磨かれてきた技術はセンサーやサーボモータといった周辺技術の充実もあり、未だに競争力のある分野である。人工知能の研究者達がシリコンバレー企業にAcqui-hiring(人材獲得のための買収)されているが、人工知能とロボットの融合の過程で日本の産業界にも事業機会が起こり得るだろう。

日本の産業界の動きを期待する一方で、前出のベンチャー企業SHAFTはDARPAと共同開発を行い資金支援も受けていた。そして日系企業から資金提供の無いままグーグルに買収された。DARPAは米国国防総省の機関であり、最先端技術の軍事転用の為の研究開発に積極的に投資を行っている。ロボット開発に対し短期的な収益目的ではなく、長期的な研究開発環境を提供するのは企業にとって株主への説明責任等のハードルもあり、なかなか経営判断も難しい。

また、日本のハイテク企業の経営者達が人工知能搭載のロボットに積極的でない理由に、政府も数百億円規模で支援した1980年代の人工知能ブームの後に産業化しなかったという記憶があるためだ。そして事業計画上、人工知能ロボット開発が短期的に収益化するという説明も難しい。グーグルであれば、人工知能開発への積極投資は「広告の最適化」で説明可能なのだ。日系企業が手をこまねいている間に人工知能、ロボットの技術が米国に買われていく、そうであれば日本は公的な資金提供者が産業政策に鑑みて投資機会を精査していくべきだ。ゲノム、ソフトウェア、金融テクノロジーで日本が経験した競争環境のデジャブが現在のロボットビジネスだ。

またロボット開発においては国際的なルール作りを巡る議論が活発化するだろう。Amazonがドローン(無人飛行機)での配送サービスを計画して話題となっていたが、軍用ドローンではすでに自動的に標的を選ぶという機能が搭載されている。軍用、特に戦闘用ドローンの実戦配備は今後も進んでいくと考えられるが、現在はハーグ陸戦条約におけるマルテンス条項(編集部注:ざっくりした説明になるが、ハーグ陸戦条約では、おもに戦争や戦闘の定義やその規制を定めている。その中でも人道や公共の良心といった観点で新兵器の使用を制限しているのがマルテンス条項だ)に自律型ロボット兵器は抵触しているとされながら、ロボット兵器の国家間での具体的な規制が未整備だ。日本政府もロボットに関するルールメイカーとしての主導的なポジショニングを視野に入れるべきだ。

これまでに取り上げたバイオインフォマティクス、人工知能、そして今回のロボットに関する先端技術はインパクトの大きい領域であるだけに、それらがネガティブな利用をされた時のインパクトも計り知れない。そしてこれらの技術は相互に関係する。人工知能搭載の自律型ロボット兵器やバイオインフォマティクスでつくられた新しいウイルスに人類が脅かされるべきではない。今は人間の理性と倫理観が試されている。読者の皆様がそんなことを少しでも考えていただければ幸いである。

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テックエリートなんて眼中にない、新ポータル構想「Syn.」仕掛け人が大いに語る

2014年10月16日にKDDI主導で立ち上げたサービス「Syn.(シンドット)」。「中心のないポータル」を目指すとして話題となった。本誌でもローンチの際に取り上げたが、ネットユーザーたちの反響はあまり芳しいものではなかったのが正直な印象だ。11月19日に行われたTechCrunch Tokyo 2014で、編集長の西村賢がストレートに質問をぶつけてみた。

「今どき、ポータルなんて必要?」

「正直言って、必要ないと思いますよ」と森岡氏。「でもそれは、われわれや西村さん、またTechCrunchの読者のようなテックエリートの人たち、わずか一握りの人たちにだけ必要ないんです」。

今やスマートフォンの普及率は53.5%(平成26年年版情報通信白書より)。半数以上が所有していることになる。そしてスマートフォンで提供されているはアプリは250万以上と言われている。しかし、ユーザー1人がダウンロードする平均アプリ数は38。そのうち日常的に利用しているアプリはわずか8つ。さらにカメラやメールアプリなどを除けばわずか4つを普段使っているに過ぎない、と森岡氏。つまり、多くのユーザーは、スマートフォンで利用できるサービスを使いこなせていないのだ。

森岡氏はFacebook日本の元副代表を務めた人物。国内ユーザーが80万人の時代、2010年に入社している。その時も「mixiとTwitterがあるのになぜFacebook?」「実名重視のFacebookは日本のインターネット文化には受け入れられない」という声が多かったと振り返る。

ところが、現在ではその25倍に相当する2000万人以上の国内ユーザーをFacebookは擁し、mixiの月間アクティブユーザー数を上回るようになった。一部の人たちの「匿名性の高い日本のインターネット文化で広まるはずがない」という主張はもろくも崩れ去った形だ。

インターネットの一部のユーザーの憶測が外れたように、今回も「着実にやっていくことによって広がっていくはず」と森岡氏は強調する。

アプリを探してインストールする行為はハードルが高い

「自分たちで新しいサービスを取り入れられる人たちはいいですよ。でも、これだけ多くの人がスマートフォンを使うようになれば、ITに疎い人たちにも広まっていくはずなんです。例えば、大手スーパーが売り出している格安スマートフォンを店員に勧められるままに購入したような人たちとか。少し前はポータルサイトがあって、知りたいことや問題があったらそこにアクセスしたら解決できました。スマートフォン時代の現在ではアプリが解決してくれますよね。でも、一般ユーザーにとっては、問題を解決したくてもそれをしてくれるアプリに何があるかを調べることもできない。それにApp StoreやGoogle Playでアプリを探してダウンロードしてインストールする、という一連の動作は一般ユーザーにはハードルが高いんです。そんな人たちにSyn.という形でサービスの存在を知ってもらい、使ってもらえれば、スマートフォンのパフォーマンスそのものを発揮でき、その楽しさを知ってもらえ、その価値が倍増すると思うんですよ」(森岡氏)

Syn.では、カテゴリだけではなく、アプリとWebの垣根も越え、シームレスにサービスを行き来できるよう設計されている。それにより、ユーザーが複数のサービスを使いこなすための負担を軽減している。テックエリートには不要かもしれないが、どんな人でもスマートフォンを使いこなすために「ポータル的な存在は必要」だと森岡氏は言う。

スマートフォンを使いこなせなかった人たちも年月とともに経験値が上がり、インターネットの歩き方を知るようになる。そうなれば「Syn.そのものも、彼らに合わせてどんどん進化させていく」(森岡氏)ことになる。ただ、現状は「いいサービスをユーザーに届けることを最優先したい」。

「驚くようなビッグネーム」も参入に名乗り

スタート時点でアライアンスパートナーが11社だったSyn.。現在13社に増えたが、まだまだ点在するサービスを線でつなげた、いわば「山手線のようなもの」と森岡氏は語る。

「それらの点(駅)を行き来するのにタクシーを使ってもバスを使ってもいい。ただ、最寄り駅をもっと便利にしようという考えなんですよ。今のサービスの数が最終地点ではなく、あくまでも通過点。あまりにも大きなサービス事業者や有名どころは、志や目的地に共感するだけでなく経済的なものも含めたメリットがないと動けないでしょう。わたしたちの今のフェイズはSyn.の有用性などのファクトを積み上げて彼らの目の前に提出できるようにすることだと思うんです。すでに驚くようなビッグネームが参入への名乗りを上げてくれているので、このやり方は間違っていなかった、と確信しています。」

そのように話が進むことは「計画の一部」だったのだろうか。森岡氏は「計画的だったわけではないですよ」と否定する。しかし「そうなったら嬉しい、と思っていたことが実現した感じではありますよね。実名か匿名かの流れの時もそうですが、以前Facebookに在籍していたときに、リクルートと『コネクションサーチ』という企業内のOBを訪問しようというサービスを立ち上げたことがあったんですが、それで実名制とはどういうものかを示せました。何も考えず現状のインターネット文化に浸かっているのではなく、ユーザーの脳を覚醒する、そんな機会も提供できているのではないかと考えています」と語る。

最近よくあるサービスのように、ユーザーの嗜好を反映したカスタマイズされたサジェストなどは「気持ち悪い」ので取り入れるつもりはないという。しかしサービス参入者を増やし、カテゴリの中からユーザーが好みのコンテンツを表示できるようオープン化したいとのこと。

また、このアライアンス全体で集積したデータをサイドメニューや各社のコンテンツにフィードバックするDMP(Data Management Platform)も年明けに発表したいという。しかしどのように反映させるのかや、どんなデータを集めるのか、などについては言及を避け「もやっとしててください」と語るにとどまった。

ポータル最大手のヤフーは「ライバル視していない」

ポータルサイトといえばYahoo!が最大手だが、「ライバル視していません。むしろ仲間に入ってほしいくらい。僕らが目指しているのはポータルサイトではありませんから」と森岡氏。また、APIを解放し、海外で一般化しているように、「サイドメニューを共有化しその中で回遊できるようにしていきたい。そのツールが日本でも近い将来一般化するのを期待したい」と語った。

現在のところSyn.はKDDIという携帯通信キャリア主導で展開しているが、それはあくまでも「信頼を持って見てもらうためのもの。このサービス自体はキャリアのものではなく、インターネットのサービス」と強調。Syn.の目指すものが一部のユーザーだけではなく、全インターネットユーザーがやがてスマートフォンを使うようになり、それを使いこなし、スマートフォンのパフォーマンスを最大限に発揮することである、そんな未来像を描きながら、森岡氏は話を締めくくった。


マイノリティ・リポートの世界が来る―パナソニックとPhotonがスマート・デジタルサイネージの実験開始

大企業向けモバイルUI、UXデザインとブランディングの有力企業、Photon Interactiveは日本のパナソニックと提携して、「高度にパーソナル化されたデジタル・サイネージ」を店頭に提供していくという。

プロダクトはPhotonのソフトウェアとパナソニックのディスプレイを組合せたものになる。このスマート・ディスプレイはその前に立つ顧客に関する情報を取得でき、それに基づいてターゲット広告を表示したり、チェックインを行ったり、ショッピングの支払いを処理したりできる。

Photonによれば、実店鋪の店内で、顧客に個人別の割引きセールを表示したり、探している商品がどこにあるか案内したり、ディスプレイに表示あれたバーコードを顧客のモバイル・アプリでスキャンすることによって商品の購入処理をしたりできるようになるという。ファーストフード店やレストランの場合であれば、顧客はこのディスプレイに表示されたメニューのアイテムをカウンターから、または自分のスマートフォンから注文できる。またアイテムに対する感想、意見をフィードバックできる。

このテクノロジーはホテルのチェックインや病院での受付、予約確認、担当医師への案内、処方箋発行などの処理にも応用できるという。

Photonの共同ファウンダー、CTOのMukund Balasubramanianは「Photonは顧客の典型的な行動をテンプレート化することによって企業を助けている」のだという。Photonはさまざまな顧客にデジタル的に接触できる「タッチポイント」をすでに1日あたり6000万箇所持っているという。

つまり簡単にいえば、店頭のデジタルサイネージに個人宛のメッセージが表示されるという、映画マイノリティ・リポートの世界が実現するわけだ。Balasubramanianは「これを実現しようとしているライバルは多い。AppleやGoogleもこのようなビジョンを持っている。しかし実現のカギとなるのはソフトウェアとハードウェアの適切な連携だ。その点でPhotonとパナソニックは理想の結婚だ」と述べた。

パナソニックのグローバル・ソリューションとエンジニアリング担当副社長、Richard Hsuも私の取材に対して「最高のハードウェアと最高のソフトウェアの組み合わせだ」と述べた。

このプロダクトが実際にリリースされる時期について、Balasubramanianは私に「テクノロジーの観点からはすべて準備ができている。いつでもビジネスを開始できる」と語った。

Photonとパナソニックは、少数の初期パートナー(名前を明かすことは避けた)と実際の店頭でテストを行っているところだという。それではPhotongが目指しているとするような広汎な普及までにはしばらく時間がかかりそうだが、ともかくスタートしていることは間違いないようだ。

画像:20th Century Fox/Dreamworks

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+