2018年、ライブチケットの「完売」は過去のものになった

[著者:Jesse Lawrence]
メディアと技術分野に20年間携わる。TicketIQ設立以前は、MediaMathとIACに務めていた。作家としての活動も開始した。

2018年に囁かれた都市伝説のなかでも、ライブイベントに群がるファンたちを最高に喜ばせたのは、「完売」は嘘だという話だろう。実際、チケット業界は新しいテクノロジーへの移行を果たし、これまで見えていなかったものが見えるようになって、大きな犠牲者が現れた。「完売」だ。

2018年、スポーツ界で完売の嘘が明らかになった例として、ワシントンD.C.の事件がもっとも人々の目を引いた。

これを最初に伝えたのはワシントンポスト紙だ。NFLのプロフットボールチーム、ワシントン・レッドスキンズは、10年分にもおよぶシーズンチケットのキャンセル待ちリストを、昨年の6月に正式に廃止した。一時は20万人分にものぼったこのリストだが、レッドスキンズの今のチケットの需要は、リギンズとサイズマンがいたころの黄金時代とは違い、バラ色ではなくなっていた。そこで2018年、レッドスキンズは、これまでにない方法でチケットを1枚1枚売ることにした。条件によっては、二次流通市場も利用した。

もうひとつ目立ったのが、NBAのプロバスケットボールチーム、ゴールデンステート・ウォリアーズの変化だ。レギュラーシーズンのチケットを100パーセント販売していたはずなのに、NBAファイナル第1戦のチケットが、試合直前に数百枚余っていたというのだ。

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直前情報:NBAファイナル第1戦は完売していない。ウォリアーズでは数百席が売れ残っている。上階でほぼ300席、下階で100席が、試合開始15分前に正規チケット販売所で売られている。

レッドスキンズとウォリアーズがスポーツ界での完売時代に別れを告げたのと同時に、テイラー・スウィフトの「レピュテーション」ツアーでも、同じことが音楽業界で引き起こされた。12月の初旬に終了し、アメリカ国内では史上最高の売り上げを記録したレピュテーション・ツアーだったが、チケットが売れ残っていた公演も数多くあったと酷評する記事が出回った。皮肉なことに、それはまさに、彼女の記録的成功のもっとも重要な点を示している。つまり、まだ余裕があったということだ。

チケット需要が落ちたというよりは、このような大人気のイベントのチケットが売れ残るのは、最近のチケット業界の傾向が招いた結果だと言える。それは、ファンが欲しがっているときに、チケットを確実に押さえておくという考え方だ。インターネットでチケットを買ったことのある人なら、チケットの購買がいちばん活発になるのは、本番の数日前や数時間前であることを知っているだろう。

インターネット以前にも、この土壇場のチケット販売はあったが、それは地域のブローカーが仕切る街角の販売店がもっぱら行っていた。20世紀のほぼ全般にわたり、この流通市場の運営は、チケットの仲買人が安心して外部委託できる仕事だった。ところが、地域的な制限がなく、リアルタイムで行われるインターネット販売では、サプライチェーンから解放された仲介業者は莫大な利益を得られるようになり、彼らの安心度は劇的に変化した。そしてそれは、最悪とまではいかなくとも、最悪に準ずる製品カテゴリーを生み出してしまった。

ライブイベントに普遍的な人気があったからこそ、製品としてのチケット販売は、ペット用品のドットコム企業Pets.comと共倒れにならずに済んだ。その代わり、スポーツチームやアーティストやプロモーターは、インターネットの破壊力を知らしめる宣伝役となった。この状況でもチケット仲介業者は、イベントの数週間前、数日前、または数時間前、販売窓口に「完売」の札を出すだけでよかった。しかし、そうした窓口は減り始めている。

写真:Getty Images

なぜそうなったのかを知るには、インターネットが普及し始めた時期を理解することが重要だ。スポーツチームはシーズンチケットで商売をしていた。アーティストやプロモーターはレコードの売り上げで稼いでいた。土壇場の「オンデマンド」のチケット販売は、あまり重要ではなかったのだ。ところがインターネットは、チケットの流通というニッチな市場を、ピーク時で100億から150億ドル規模の製品カテゴリーに化けさせた。これは、その主体である正規のチケット販売市場の2倍から3倍の額に相当する。

この常時接続の市場で戦うために、チケット販売テクノロジーは過去10年で、数十億ドル規模の投資を受けている。その目標は、もっとウェブとの親和性を持たせることだ。この2年の間に、Ticketmaster、SeatGeek、Eventbriteは、StubHubのようにFacebookやYouTubeなどの場所でのチケット販売を容易にする「オープン・プラットフォーム」を発表している。

昨年1月には、TicketmasterとNFLは、初めてのプラットフォーム契約を新規に結んだと発表した。これにより、チームとリーグは、独自のチケット配布エコシステムを構築できるようになった。インターネットでチケットを販売する最大の目的は、StubHubや私の会社TichetIQのように、新しいチケット市場でファンに直接販売できるチャンネルになることだ。

写真:AP Photo/Jeff Chiu

しかし、完売というものをなくすための技術を単独で信頼する前に、完売をなくせば、チケット代は法外な値段になり、ファンの関心を集めるための競争が激化する危険性についても考えておくべきだ。特別ではないイベントで人々を家から連れ出すことはますます困難になるのは確実だが、それとは逆の傾向を示すように、経験経済は堅調に成長している。

2017年12月のMcKinseyの記事によれば、ミレニアル世代は、X世代に比べて60パーセントも多くライブイベントに出費しているという。すべては本物の人間関係を求めてのことだが、ソーシャルメディアの目新しいコンテンツを求めてもいる。とくに、レピュテーション・ツアーでは、チケット流通市場での公演直前のチケット価格は、1989年のツアーに比べて35パーセントも安くなっている。つまり、当日券がこれまでになく安価になったているのだ。

レッドスキンズの場合は、2018年のシーズンは、チケットの売り上げという面では期待どおりにはならなかったが、今後数年間は成功させる算段でいる。新しくなったスタジアムのおかげで、または優勝のチャンスが見えてきたおかげで需要は跳ね上がり、彼らは直接の利益を、しかもかなりの利益をあげられるはずだ。ちなみに、彼らが儲かると見込んだ理由については、Financial Timesの記事にこう書かれていた。テイラー・スウィフトのレピュテーション・ツアーの1回の公演ごとの売り上げが14億ドル(約1520億円)増加したが、これにはレッドスキンズのホームであるFedEx Fieldで7月に開催された2回の公演も含まれていたと。

アルバム「レピュテーション」の6曲目『ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて』では、テイラー・スウィフトは過去の「ゲーム」や「傾いたステージ」や「不公平」への報復について歌っている。それを、彼女のアーティストとして、また商売人としての宣言と捉えると、もう好い人ではいたくないと言っていることだとわかる。また、仲の悪いことで知られるアーティスト、カニエ・ウェストに軽く一撃をお見舞いした上で、ほぼ20年間も顧客に不満を与えてきた旧体質のチケット市場に別れを告げているようにも聞こえる。

レピュテーション・ツアーの記録を達成するために彼女はファンを売り渡したという批判はあるものの、この販売モデルは、今後数年間にもっともっと売れるようになることを示している。彼女がファンに「購入」や「いいね」や「見る」を強制してチケット購入の列に並ばせたことをどう感じるかは別として、チケット市場全体にとっては、これはよいニュースだ。それは、彼女が決定権を握ったということだからだ。

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(翻訳:金井哲夫)

オークションのEBay、ビジネスモデルがAmazonのような定価物販に近づく

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EBayは、水曜日(米国時間10/19)の市場終了後に第三四半期の決算報告を発表した。売上22億2000万ドルは21億9千万ドルという予測をわずかに上回り、前年同期比で6%の増となった。調整後のEPSは45セントで、アナリストたちが予測した44セントよりも、やや上だった。

同社の財務状況は良くても、株価は低迷、その日の時間外の早期では7%落ち込んだ。一部の投資家は、取引総額が予想の203億ドルに届かず、201億ドルだったことに幻滅している。調整後の純利益も、前年同期よりダウンし、営業やマーケティングなどの経費増を反映した。

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同社は昨年PayPalをスピンオフして以来、マーケットプレースビジネスに力を入れている。とくに、Monness Crespi HardtのアナリストJames Cakmakによると、同社はますます“Amazon化してきた”。つまりオークションの縮小を補うべく、商品の定価販売を拡大してきた。

EBayの最近の成長は、その一部を同社の“構造化データ”(structured data)計画に負っている。それは、アイテムにキーワードのタグを付けることによって検索の効果を上げ(いわゆるSEO)、同社のWebサイト上でいろんなものを見つけやすくする工夫だ。

“eBayのショッピング体験を継続的に変えてきた。個人化機能を強化し、eBayブランドが顧客に伝えるものを絶えず活発に更新してきた”、とCEOのDevin Wenigが声明している。

スポーツやコンサートのチケットを扱うStubHubも、拡張してきた。取扱高は11億ドルとなり、前年同期比で23%増加した。“StubHubは同社の最大の成長エンジンだ”、とCakmakは述べている。

EBayの株価は水曜日(米国時間10/19)に32ドル52セントで。時価総額は366億ドルになる。過去6か月で株価は約34%上がり、アナリストたちの期待を上回り続けた

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同社はこの四半期に、5億ドルの株の買い戻しを行った。同社による年商の予想は、89.5億から90億ドルのあいだである。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

海外チケットを手軽に購入可能に、二次流通のチケットストリートがStubHubとサービス開始

音楽ライブやスポーツ観戦など、興行チケットの二次流通サービス「チケットストリート」を運営するチケットストリート。2014年8月にeBay子会社のStubHubとグリーベンチャーズから合計約3億円の資金調達を実施していたが、その際に発表されたStubHubとのサービス連携が始まる。同社は12月10日より、チケットストリート内で海外興行チケットを購入できる二次流通サービス「チケットストリート・海外チケット powered by StubHub!(チケットストリート・海外チケット)」を開始する。

チケットストリート・海外チケットでは、StubHubが取り扱う二次流通チケットのうち、日本から購入可能な全米およびイギリスの5万イベント・10万枚以上のチケットが対象。対応するのは電子チケットのみで、購入後数分でダウンロード可能になるという。一方で紙チケットには対応していない(そもそも国際郵便ではチケットを送れないそうだ)。価格は日本円で本国で購入するのと同価格、決済はクレジットカードに対応する。「日本のチケットを購入するのと同じように簡単に購入できる」(チケットストリート代表取締役会長の西山圭氏)

チケット購入の際は、その座席からの眺望やチケット価格をサイト上で比較できるStubHubの機能「3Dシートマップ」も導入する。こちらは現在海外チケットにのみ提供されている機能だが、今後は国内のスタジアムなどでも利用できるようになる予定だ。

では実際に米国の興行チケットを欲しがる日本人なんてそれほど多いのだろうか? 西山氏に聞いたところ「英語版のStubHubでチケットを購入している日本のユーザーも実はかなり多い。2013年には約1万枚のチケットが売れている」とのことだった。またクロスボーダーで購入されるチケットは、平均価格が他のチケットと比較して大幅に高いのも特徴だ。例えばワールドシリーズで1枚1000ドル、スーパーボウルで1枚3000ドル程度になるという。そんなプレミアチケットこそ、ファンは国をまたいででも手に入れて、現地に見に行きたいのだ。

興行チケットの売上拡大施策は「北風と太陽」

チケットストリートにはもともと別の運営者がいたが、2011年10月にアサップネットワークが買収。アサップネットワークの創業者である西山氏と、同社のスタッフだった現・チケットストリート代表取締役社長の山本翔氏がチケットストリート株式会社を立ち上げてサービスを運営してきた。

西山氏に聞いたところ、チケットストリート社としての初月売上は176万円。これが現在数十倍の売上に成長しているそうだ。「もともと(興行チケットの)マーケットプレイス自体には伸びしろがあると思っていて興味を持っていた。一方でアサップネットワークスでは山本とともにコンテンツ屋をやっていて、『ゲーム以外の日本型コンテンツビジネスはこれ以上伸びない』という共通認識があった。それでコマース、マーケットプレイスをやろうとなった。この市場は大手企業であるほど既存ビジネスとコンフリクトするので、ベンチャー以外は参入できない」(西山氏)

西山氏は成長の背景に「興行市場全体の成長」があると説明する。2013年で約5000億円とも言われる興行市場は現在年率20%程度で拡大中。それにともなってチケットストリートのような二次流通の市場も伸びているのだそうだ。

例えば音楽興行だけを見てみると、2011年に1600億円だった市場は2013年には2300億円にまで成長。かつては6000億円もあった音楽ソフト市場(2013年で2900億円)をまもなく逆転するとも言われている。

この流れを受けて、興行主側もこれまでの「二次流通を制限することで売上を守る」という考えから、「二次流通を認めることで売上を伸ばす」という考えに変わってきているのだそうだ。

西山氏は「まさに北風と太陽」と語るが、日本の興行主はこれまで、本人確認や転売をさせないような仕組みを導入するなど、チケットを購入者にとって不便になるような施策をとってきた。その結果、一般の人々はチケットを買いづらくなり、売上でも苦戦するという悪循環が起こっていた。これに対して、米国など海外では、二次流通を公認のものとし、チケットの抽選についても公平にすることで、チケットの拡販につとめた。二次流通を公認にすることでそのコミッションなども取れるようになるし、チケット獲得のチャンスが公平になることで、結果的に市場も拡大すると判断したのだ。実はすでにワン・ダイレクションなど複数の海外アーティストがチケットの二次流通を公式に認めるという動きもある。

アウトバウンド、インバウンドの需要を取り込み拡大へ

チケットストリートでは今後、海外チケットの国内販売にとどまらず旅行や保険など、各種のアウトバウンド需要を取り込んでサービスを検討していくという。またインバウンド需要の取り込みも狙い、多言語サービスの提供も予定している。

ちなみに西山氏に同社のイグジット戦略を聞いてみたのだけれど、「決めていない」とのことだった。「大事なのは二次流通市場の社会的確立。オークションと同じように扱われるのであればニッチだ。社会的な地位と信頼性の確立を目指したい。同時に二次流通が興行ビジネスのエコシステムに組み込まれる必要がある」(西山氏)。社会的な信頼を考えればIPOも視野に入れるべきだが、エコシステムに組み込まれるということを考えれば、買収も選択肢の1つになるとのことだった。

ではチケットストリートに出資するeBayが買収するということはありえるのだろうか? 西山氏は「あくまで個人的な考え」と前置きした上で、「30億ドルの買収資金があると言っている会社が本気でやるつもりなら、(8月の)ファイナンスのタイミングで買収してもおかしくはない。だが(eBayが)自ら進出するよりも、ローカルのナレッジを尊重したほうが勝算があると考えたのではないか」と語った。確かにeBayはこれまで日本進出に挑戦したが撤退しているし、日本以外の地域でも参入に苦戦したとも聞く。イグジットについては今後の話ではあるが、同社ではまず2年以内をめどに年間流通総額50億円を目指すとしている。