今、多くの企業のデータは、複数の、それぞれ孤立したデータベースの上にバラバラに存在している。マサチューセッツ州ケンブリッジのTamrは、そういうバラバラなデータベースを統一して、それらを“人間が理解できる”単一のデータ集合にする。同社は今日(米国時間6/19)、シリーズBで2520万ドルの資金を調達したことを発表した。
その投資家たちは、いつものシリコンバレーのVCではない。CEOで協同ファウンダのAndy Palmerによるとそれは、同社のミッションの真価を理解している戦略的投資家たちのグループだ。その具体的な面子(めんつ)は、Hewlett Packard Ventures、Thomson Reuters、MassMutual Ventures、そしてそのほかの匿名の投資家たちだ。これまでの投資家NEAとGoogle Venturesも参加し、これで同社の調達総額は4240万ドルになった。
Palmerの信念によるとTamrは今後、GoogleがWebにもたらしたような大きなインパクトを、企業世界に与えていく。GoogleがWebページを見つけるアルゴリズムでトップに立ったように、Tamrはデータベースを見つける*アルゴリズムで先頭に立つつもりだ。〔*: 大量&雑多なデータベースを抱える企業が多く、欲しいデータがどこにあるのか分からない場合も多い(後述)。〕
えっ、企業のデータベースがWebページの数ほどもあるのか、と思ってしまうが、しかしPalmerによると、大きな企業ほど、古いデータベースをいっぱい抱えていて、どれに何があるかを知ってた人はとっくの昔に退社している。中には流出するとやばいデータもあるから、この、どこに何があるか分からないという状況はきわめて危険だ。また、今日のビッグデータ分析のトレンドに乗って、データから価値を取り出すこともできない。
“Oracleのインスタンスが数十、データベースの数は数百、という企業がとても多い。テーブルの数は数千〜数万だろう。しかも現状では、それらをカタログ(目録作成)し、それぞれに何があるかを知る方法がない”、とPalmerは語る。
Tamrは、その企業のすべてのデータソースを一望できるカタログ(目録)を作り、今会社には、どこに何のデータがあるか、分かるようにする。そこからさまざまな価値を導けるが、最近とくに重要なのは、データの流出を防止するためのセキュリティだ。万一流出事件があった場合でも、何がいつやられたかは分かる。それまでの状態では、事故が起こったことすら、誰にも分からない。
“データの透明性は、企業の必須要件のひとつだ。いまうちに何があるのか、分かっていなければ、それが消失しても消失したことが永遠に分からない”、とPalmerは説明する。
このカタログ作成作業は、企業の細かい内部事情への理解や配慮を要するので、顧客側との共同作業になる。Tamrとしては、出向社員や出張社員のような形が多くなるので、新たに得られた資金の最大の使途はエンジニアの増員、その次が営業とマーケティングの充実だ。営業も必然的に、痒いところに手が届く、細かいコンサルティングセールスにならざるをえない。営業のサービス的な側面を充実させるためには、顧客と一緒に仕事ができるサードパーティを育てることも重要だ。Palmerは、“パートナーを教育訓練するための明確なプロセスを確立する必要がある”、と語っている。
大企業の顧客でとくに重要なのが、サプライヤーのカタログを作って、どこから、何を、いつからいつまで、いくらで仕入れていたかをはっきり知ることだ。部品、原材料、工具、機械などの‘物’だけでなく、無形の人的サービスもある。これを、過去から現在まで総合的なデータ集合として一望できない大企業が、けっこう多い。データがあちこち分散していて、しかも何がどこにあるか誰も知らないからだ。
サプライヤーと並んで重要なのが、顧客だ。何を、だれ(どこ)に、いつからいつまで、なんぼで売ったか、その取引に関し付随条件や特殊状況はあったか、…。企業は顧客に関するこれら360度のビューを得たいと願っているのだが、これまた、分断化しているデータソースからそんな情報を得るのは難しい。Tamrなら、その問題も解決できるだろう。
今の同社の10数社の顧客の中には、ToyotaやGE、Novartis、それに投資家のThomson Reutersがいる。
現在Tamrは、ケンブリッジとサンフランシスコを合わせて55名の社員がいるが、今後はまず、後者のまだ小さなオフィスに20〜30名を増員し、さらに1年半後の総社員数100名を目指したい、という。
同社のファウンダPalmerとMichael Stonebrakerは、かつてVertica Systemsを立ち上げた人たち。Verticaは2011年にHPが買収した。