ファッションやコスメの情報はInstagramを参考にする、という若い女性は多いが、写真のアイテムがどこで買えるのかが分からず、ネット上やオフラインのショップを探し回る人もいることだろう。
ファッションコーディネートアプリ「IQON(アイコン)」を運営するVASILY(ヴァシリー)は3月9日、ディープラーニングによる画像解析技術を活用し、人気インスタグラマーのコーディネートに似たアイテムを購入することができる新サービス「SNAP by IQON(スナップ バイ アイコン、以下SNAP)」を正式にリリースした。
先行するIQONは月間アクティブユーザーが200万人以上のファッションアプリ。提携する200以上のECサイトのファッションアイテムを、ユーザーが自由に組み合わせてコーディネートでき、気に入ったアイテムやコーディネートを“like”登録したり、購入することもできる。ファッションアプリとしては唯一、Apple、Googleの両社からベストアプリに選ばれており、Googleからは、2016年のベストイノベーティブ部門大賞も受賞している。
VASILY代表取締役の金山裕樹氏は「これまでのECでは、テキスト検索で商品を探すのが普通だったが、テキスト検索ではファッションとの偶発的な出会いが起こりにくい」と話す。「たとえば『ナイキのエアマックスの24センチが欲しい』というように、買うものが決まっているならテキスト検索でもいいが、ファッションアイテムの場合は必ずしも“指名買い”だけではない。会社帰りにたまたま立ち寄ったショップで見つけたものを、何となく欲しくなって衝動買いする、ということがある。IQONは(コーディネートという)ビジュアルの組み合わせによって、ネットでも“見て欲しくなる”きっかけが作れないかということで開発した」(金山氏)
IQON提供開始から何年かを経て、一定の評価も受け、2017年1月には売上最高値を記録する中で分かってきたことがあると金山氏は言う。「IQONのコーディネート画面は人が着ている感じがなく、モノを並べて置いてあるだけ。ユーザーインタビューでも『人が(ファッションアイテムを)着ているところが見たい』という声があり、このままでは売上にも結びつかなくなるだろうと考えた。そこでおしゃれで影響力のある人気インスタグラマーと提携し、見たらそこから欲しくなるという第2の手法として、IQONに続きSNAPを開発した」(金山氏)
SNAPでは、VASILY自社開発のディープラーニングによる画像解析エンジンをファッションアイテムの判別に活用する。人気インスタグラマーのコーディネート写真から、ファッションアイテムを検出して切り出し、アイテムのカテゴリを予測。それぞれのアイテム画像を解析して、IQONで取引のあるECサイトが取り扱う100万点の中から似ている商品を引き当てる。ユーザーは、インスタグラマーのコーディネート写真に写っているアイテムで気に入ったものがあれば、リンク先からすぐに購入することができる。SNAPリリース時点で参加するインスタグラマーは約60名で、今後も契約を増やしていくそうだ。
金山氏がSNAPの競合サービスとして想定するのは「強いて言えばPinterest」とのこと。経済産業省が2016年6月に発表した市場調査結果によれば、BtoC ECの物販部門ではファッション分野が最も市場規模が大きく、また若年層によるスマートフォン経由での利用比率が高まっている。「IQONもそうだがSNAPでも、手持ちのコーディネートをどう着回すか、というサービスとしては想定していない。あくまで購入につながる、新しいファッションとの出会いのきっかけ作りが目的で、それによってファッションEC市場の伸びを後押ししたい」(金山氏)
SNAPの今後について金山氏は「具体的な数値目標はないが、IQONよりも広がるのではないかと期待している」と話す。「Instagramというプラットフォームで活躍している人たちとパートナーシップが組めているのは強い。定性的な話ではあるが、着ていないアイテムを並べたものよりは、人の着こなしの方がより(購入に結びつくビジュアルとして)パワーがある。時期は未定だが、ビジネスとしての仮説検証の過程を進めていった上で、アプリ化も視野に入れている」(金山氏)
また、IQON、SNAPに続いて、次のプロダクトリリースも5月ごろに予定しているという。「次のプロダクトも機械学習を応用し、ファッション分野で購入のきっかけ作りとなる、ECサイトを横串で利用できるサービスとなる。今後も、ファッション×機械学習×ビジネスのエリアでサービスを提供していく」と言う金山氏は、今後のVASILYのサービスのあり方について「5年前のサービスやアプリなら、“アプリ向けの画面を作れる”、“表示が速い”といったことでよかったけれど、今はアルゴリズムを高度に使いこなす、技術に強い会社でなければならない。正直なところ、人工知能とファッションを組み合わせたとされるサービスの中には、きちんと技術を活用していないものも多い。我々はこの波を逃さないように、アルゴリズムとデータで勝負して、プロダクトとサービスをちゃんと作っていく」と語った。